はじめに私たちの身の回りは、さまざまなモノで溢れています。身につけるモノだけでも肌着からワイシャツ、スーツ、ネクタイにはじまり、靴下、シューズなどいくつでも数え上げることができます。いまや世界の人口は 70億に達し、いずれ 90億を超えると言われていますが、人間が使用したり消費するモノの数は、その何百倍にもなるはずです。このような膨大な数になるモノのほとんどは、たいへんな数の工場でつくられています。自動車ができるまでを考えても、組立工場のほかエンジン工場、ガラス工場、塗料工場、歯車やシャフトの部品工場など、数百を超える専門工場が考えられます。自動車以外の製品に思いを馳せれば、製鉄工場、造船工場、繊維工場、合成樹脂工場、パン工場、乳製品工場、カップラーメン工場など、まだまだ典型的な工場が知られています。このような工場に、もし工場を知らない人たちが足を踏み入れたら、どのように感じるでしょうか。大げさに言えば、異次元の世界のように感じるかもしれません。このような異次元の世界である工場でヒト・モノの流れをコントロールしているのが、生産管理です。ここで仮に工場の外にある一般道路について考えてみましょう。一般道路はすべて人間中心に設計されており、人々は交通規則に従って行動しています。もし交通規則がなかったり、あっても守らない際は、頻繁に事故が起きたり大渋滞が発生して、大きな社会的損失をもたらすことが容易に予測できるのではないでしょうか。実は「生産管理」というものは、すなわち工場における交通ルールに該当するものです。これがなければ、工場でのモノづくりは間違いなく大混乱してしまうことでしょう。一般的に、生産管理というノウハウは極めて難解なものと理解されてきました。その理由は、製品の種類、機械、工程など工場によって環境や条件が大きく違うため、汎用的なルールをつくりにくいためです。このような難解な内容をわかりやすく伝えるためにも私は執筆や講演をライフワークにしてきたわけですが、今回、図らずも出版社側から「生産管理をマンガ家と共同で書いてほしい」という依頼がありました。著者としては「生産管理を噛み砕いて伝えるためにはまたとない機会だ」と考え、執筆をお引き受けした次第です。本書では、ストーリーマンガとポイント解説によって生産管理の基礎知識について述べています。これから工場で働くことになった人、生産管理実務に携わるようになった人、工場へ出入りすることになった外部業者の人などに向けた内容です。初学者である皆さんが、本書を通じて生産管理への関心を深めてもらえれば幸いです。 2014年3月
マンガでやさしくわかる生産管理 目次はじめにプロローグ 生産管理とは何か STORY 「本当に、私が生産管理の担当?」 0─1 製品・工程・順序を紐づける「生産管理」第 1章 生産管理と計画 Scheduling STORY 「みんなの声、もっと聞きたいんです!」 1─1 生産計画とは何か 1─2 大日程計画と中日程計画と小日程計画 1─3 購買計画を考える ① 部品展開 1─4 購買計画を考える ② 在庫引き当てと正味所要量 1─5 在庫計画──在庫量に目途をつけるには 1─6 手順計画──生産技術部による指定 1─7 負荷計画──生産余力を考える第 2章 生産管理と手配 Arrangement STORY 「僕らの工場に I Tって、どこまで必要?」 2─1 手配とは何か 2─2 手配の内容はどう決めるか 2─3 工場内への作業手配──実際の作業者へ指示する 2─4 購買手配──材料・部品を購入する 2─5 外注手配──外部工場へ部品・組立品の制作を依頼する 2─6 出庫手配──在庫品を出してもらえるよう倉庫に依頼する 2─7 その他の手配第 3章 生産管理と進度管理 Workflow management STORY 「設備ストップで納期に間に合わない?」 3─1 お国柄によって違う生産管理 3─2 タテ方向に進捗を管理する 3─3 ヨコ方向に進捗を管理する 3─4 進捗管理と情報のやりとり 3─5 進捗管理の決め手 ① 事実を正確に把握する 3─6 進捗管理の決め手 ② 理屈を超えた行動力も必要 3─7 アラーム機能を果たすカムアップ第 4章 生産管理のこれから STORY 「橘さん、次は新工場を担当してもらいます……」 4─1 納期意識は日本オリジナル──グローバル化 4─2 追番管理──徹底した「紐づけ」でムダを排除 4─3 SCM──供給網をどう管理するか 4─4 製品の大型化──計画性の大切さがますます見直される 4─5 3 Dプリンターをどう活用するか
製品・工程・順序を紐づける「生産管理」工場でモノづくりを行うには、まずどのような製品(プロダクト)を作るか決めなければなりません。次にその製品を、どのような工程(プロセス)で作るかを決める必要があります。このプロダクトとプロセスがモノづくりの大前提になります。この2つさえ決めれば、日曜大工や家内工業といわれる小規模な工場でも、モノづくりを始めることができます。しかし多種類のプロダクトを複雑なプロセスによって生産する場合は、プロダクトとプロセスを合理的に結びつける必要があります。この機能こそ、生産管理( Production Control)です。次の図は、この三者の関係を表したものです。
工場が手がける製品は多品種前に述べたプロダクトは単一の製品を意味しますが、実際の工場ではいろいろな製品をつくっています。したがって複数のプロダクト、すなわちプロダクトミックスというべきでしょう。一般には少種生産といわれる工場であっても、数十種類の製品を手がけています。まして多品種生産といわれる工場では、数百から数千種類に及ぶ製品をつくっています。たとえば家電製品をつくる工場はその典型です。言うまでもないことですが、1つの完成品は数多くのプロダクト、すなわち数多くのアセンブリー(組立部品)や部品でできています。たとえば自動車の場合、細かく数えると部品の数は 3万点以上になるでしょう。自動車と同じようにあらゆる組立製品は、まず単体部品のイ、ロ、ハ……を組み立ててアセンブリー aをつくります。次にそれらを組み立てて、上位のアセンブリー bをつくります。しかしそれで終わるわけではありません。その bを基にして cを組み立てます。以下、 c → d、 d → e、 e → fというようにどんどん階層を増やしていきます。そして最後は完成品になるのです。ブルドーザーなどの大型製品の場合、この階層の数は 20に及ぶことがあるほどです。 複数で組み合わされる加工工程プロダクトミックスを構成する部品の1つ1つの部品をつくるには、それぞれに見合った加工工程、すなわちプロセスが必要になります。ただし前にも述べたように、工場が手がけるのは単一の製品ではなく、複数の製品すなわちプロダクトミックスです。したがってそれに対応するプロセスも、当然ながらプロセスミックスになります。しかもそれは、高能率と高品質を実現できるものでなければなりません。工場はその目的を実現するために、いろいろな機械や設備とそれを操作する作業者を組み合わせた、プロセスミックスを構築する必要があります。実際に工場でつくるモノは、先に述べたような多種多様なプロダクトミックスですから、それをつくる工程が複雑になるのは当然でしょう。ちなみに機械部品を加工する工場では、一般に次のようなプロセス(機械装置などの加工工程)が導入されています。 ●機械加工を目的とする機械装置切削タイプ…………旋盤、平削盤、歯切盤、フライス盤、ボール盤など仕上げタイプ………ホーニングマシン、ラッピングマシンなど研削タイプ…………円筒研削機、内面研削機、歯車研削機など特殊加工タイプ……放電加工機、レーザー加工機など ●プレス加工を目的とする機械装置機械式……クランク型、スクリュー型、カム型など油圧式……プレスブレーキ方式、門型方式など ●成型加工を目的とする機械装置鋳造タイプ…………普通鋳造、低圧鋳造、高圧鋳造、ダイキャストなど塑性加工タイプ……鍛造、転造、圧延、押出し、絞り加工など以上は中規模以上の汎用機械工場なら、どこでも見かけることができる、きわめて一般的なプロセスミックスです。ただ実際の工場では、このような汎用機だけではなく、自社の製品に適した特殊な機械や専用の装置も備えています。 やりくりが求められる機械と作業者工場の生産ではプロダクト(プロダクトミックス)の1つずつにプロセス(プロセスミックス)を割り当てる必要があります。その方法を、次に示す図によって説明しましょう。
たとえば製品 Aをつくる場合は、プロセスのイ、ロ、ハ、ニを経由させる必要があります。また製品 Bをつくるときは、プロセスのロ、ハ、ホが必要になります。それだけではありません。もう1つオーダーとの関係づけがあります。同じ図の左端の ①、 ②、 ③……がオーダー番号ですが、実際の生産はこのオーダー別に行われます。したがって同じプロダクトでも別々につくることになります。このオーダー、プロダクト、プロセスという3つの要素を関係づけるのが、生産管理の仕事です。しかしこの仕事が簡単ではありません。他にも多くの制約条件や考慮すべき事項があるからです。まず工場でつくるプロダクトには、オーダーで指定された納期と数量があります。工場が保有するプロセス、すなわち機械や作業者の数には限りがあるため、そのやりくりが必要になります。このやりくりも、生産管理担当者の重要な仕事です。しかも以上で述べたプロダクト、プロセス、オーダーの関係づけはいわば狭義のもので、これだけでは不十分なのです。十分にするには、さらに広義の関係づけが必要になります。具体的には、材料の調達から、外注、仕掛り品、在庫というサプライチェーンの全プロセスとの関係づけと整合化です。それを可能にするのが、サプライチェーンの全段階を日程(納期)でコントロールする生産管理の機能です。
生産計画とは何か 生産計画はなぜ必要か日曜日に本箱をつくろうとしたら、あなたはどのように行動しますか。いきなり材料店に出かけて、でたらめに木材や釘などを買い求めたりはしないでしょう。そんなことをしたら、ある材料は余ったのに別の材料は足りなかったりして、収拾がつかなくなるでしょう。限られた予算と、休日の貴重な時間を有効に使って、手際よく本箱をつくるには、まず計画を立てなければなりません。それにはまず、本箱を置く予定の部屋のスペースとレイアウト、高さと横幅と棚の段数、さらには何色にするか……等々を決める必要があります。また、必要な工具も揃えておかないと、途中で作業を中断せざるを得なくなります。時間の配分も大切です。午前中は材料や工具を買いに行ったりする準備に充てるとして、実際の作業は午後になるでしょう。しかし夕方の 5時に来客の予定があるとすれば、少なくとも 4時半には完成させなければなりません。このように、何かを始める前に、それに関連するすべての事項を、しっかり決めておくことが計画なのです。簡単な本箱1つをつくるのにも計画は必要です。まして複雑な製品を、多数の人間と機械で分業してつくるとなれば、計画なしで生産するなど、とても想像できないことでしょう。生産を組織的に効率よく行うための第 1条件は、何をさておいてもまず計画をしっかり立てることです。 生産形態の 4類型ビジネスとしてのモノづくりは、本箱づくりのように簡単ではありません。なにしろ世の中にある製品の種類はあまりにも多いので、そのすべてを数えることはできないでしょう。しかし現実には、その1つ1つについて生産のための計画が立てられているのです。その方法は各社各様ですが、それでも大きくとらえると基本的な原則と方法があります。まず基本的な原則ですが、それは生産すなわちモノづくりには、パターンがあるということです。具体的には、「プロセスのタイプ」としては集約型生産と展開型生産に分かれ、次に「オーダーのタイプ」として見込み生産と受注生産に分けられます。その相互の関係を図で表すと図 2のようになります。
すなわち生産計画は、この四つの組み合わせに対応して行われることになります。まず集約型生産から説明しましょう。それには自動車生産の例が最も適しているでしょう。図 3は自動車の生産工程をおおまかに表しています。
図で示したように完成品としての自動車は、いくつかのアセンブリー(組立部品)で構成されています。またアセンブリーそれぞれも、いくつかのユニットや部品で構成されています。図では部品 a、 b、 cによってエンジン、部品 d、 e、 fによってボディ、部品 g、 h、 iによってタイヤが組み立てられます。さらにエンジン、ボディ、車輪などの組み付けによって完成品ができ上がります。このように、多数の部品が組立を経て完成品にいたる一連の工程系列を集約型といっています。次に展開型生産のやり方を、石油化学製品の例によって説明しましょう。図 4はその工程をおおまかに示したものです。
たとえば完成品としてのエチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエンなどは、軽質ナフサから精製されます。同じように LP Gと BT Xは重質ナフサから、ガソリン、分解軽油などは軽油から生産されます。つまり自動車とは逆に、原油という単一の原料が複数の中間品であるナフサになり、さらにそのナフサの各々から、多種類の最終製品が派生するのです。このように単一の原油から中間品を経て、多種類の完成品に至る一連の工程を、展開型生産といいます。 集約型製品の生産計画面白いことに生産のパターンと生産計画のパターンは逆になります。理由は明らかです。生産計画は、完成品の販売計画に対応しなければならないからです。そして完成品の生産計画が決まれば、それに対応する構成部品の種類と数量は、自動的に決まります。そのため生産計画の手順は、前に説明した生産工程の手順とは正反対になります。その理由を図 5によって説明しましょう。
仮に自動車 1台の生産を計画するとします。それに伴ってエンジン 1個、ボディ 1個、タイヤ 4個などが必要になります。さらにエンジン 1個については、それを構成する部品 aが 2個、部品 bが 4個、部品 cが 2個必要になります。同様にしてボディやタイヤをつくるための部品と数量も必要です。この計画の手順を見ると、完成品からアセンブリー、次に部品というように順を追って広がっていきます。つまり集約型製品の生産計画は展開型になっています。 展開型製品の生産計画一方、石油化学製品の生産計画は、図 6のようになります。
この場合、生産計画の対象になる最終製品はエチレン、プロピレン、ブタジエンなど 9品目になっています。しかし、中間製品(軽質ナフサ・重質ナフサ・軽油)は 3種類に過ぎず、最初の材料にいたっては、原油だけです。つまり展開型製品の生産計画は集約型になっています。以上のように、集約型という分け方と展開型という分け方は、製造現場におけるモノの流れを考慮する場合と、生産計画を立てる場合とではまったく逆になります。そのため本書では、混乱を避けるためにどの立場で分けるかを明確にしておきましょう。すなわち図 7で示すように、生産計画の立場で分類します。
受注生産と見込み生産生産計画を考える上で、もう1つ大事なことがあります。それは生産計画を立てる根拠は何かということです。具体的には2つあります。その1つは、顧客からの注文に基づいて計画する方法です。そしてもう1つは、注文がなくても見込み(予測)で生産計画を立てる方法です。この場合は、販売部門が仮想の顧客となって工場に製造依頼を行うことになります。一般にテレビや冷蔵庫のように、不特定多数の顧客を想定して製造販売する商品は、見込み生産方式を採用しています。一方、大型船舶や特殊加工用の工作機械などは、実際に注文を受けてから製造を始めることになります。本音を言えば、工場としては見込み生産は行いたくありません。売れ行きを予測してつくるので、必ず過不足が生じるからです。それにもかかわらず見込みで生産するのは、顧客が希望する納期が生産に要する日数より短いからです。これは、テレビや冷蔵庫などの商品では、客が店頭で選んだあと数日中に納品されることを要求することを考えればわかります。条件が見込み生産と逆になる場合は受注生産が適しています。たとえば納期が長いと、受注してから生産を始めても間に合います。また用途が限られる製品の場合は、余分につくるとデッドストックになる危険があります。この場合も見込み生産は控えたほうがよいはずです。
大日程計画と中日程計画と小日程計画見込み生産と受注生産のいずれにも納期があります。それに間に合うように計画するのが日程計画ですが、方法は大きく違います。それぞれについて説明しましょう 見込み生産の計画まず見込み生産の日程計画では、毎月の特定日(たとえば 20日)に基準生産計画を立てます。計画の内容は、図 8に示したような納期別の製品別数量になります。
生産計画というと 1種類だけと思うかもしれませんが、実は何種類ものサブ計画を組み合わせたものです。製品をつくるには複雑な分業が必要ですから、計画の種類も多岐にわたるわけです。もちろんサブ計画全体の要になる計画は、1つでなければなりません。それが基準生産計画といわれるものです。 受注生産の計画受注生産の場合はオーダーが決定してから計画を立てます。計画の方法にはいろいろありますが、最も典型的な個別受注生産のケースによって説明しましょう。個別受注生産の特徴は、製品の設計から始めなければならないことです。そのため生産計画の担当者は、設計を含む全部門の納期計画を立案します。もちろんこの段階の計画はラフなものです。その内容は設計、資材調達、機械加工、組立といったおおまかな部門別(ステージ別)の期間と納期になります。図 9はそのサンプルです。
基本は「粗から密」で計画する大日程計画を立案して、設計部門以外の部署では、まだ具体的なことは何もわかりません。設計図つまり生産対象品が明らかでないからです。それでもこの計画が必要なのは、これによって各部門が仕事の予告を受けるからです。いずれ設計図が完成したらやるべき事項も、ある程度は先行できます。設計部門では、何としても大日程計画どおりに、設計を完成しなければなりません。それが遅れると、後続部門のどこかがしわ寄せを被り、最終的には納期を守れなくなります。工場の各部門が、割り当てられた大日程計画を守ることは、最も基本的な条件です。そのため各部門は、割り当てられた大日程計画をさらに細分化して、部門内の担当別に日程を割り当てます。これを中日程計画といいます。図 10はその例です。
中日程計画はさらに部門ごとに細分化され、それに基づいて小日程計画が作成されます。私たちの日常生活もよく似ています。年頭のカレンダーには、まず年間を通した大まかなテーマ(例えば旅行とか、誕生日、卒業式など)の日付を書き込みます。そのあと月別さらには週別や日別に、予定できる計画項目を付け足していきます。このように日程計画は、粗から密に段階を追って進められます。
購買計画を考える ① 部品展開 部品構成表で必要量を計算完成品の数量や納期の決め方については、 1─2で説明しました。次に必要なことは、その計画どおりつくるために、材料や部品を過不足なく調達することです。それには基準となる生産計画を基点にして、資材計画を立てなければなりません。資材計画には、基準生産計画のほかにも多くの情報が必要ですが、それらは製造用データベースとして蓄積されています。たとえば部品構成表、基準日程、ロットサイズなど数多くあります。購買計画は、これらのデータを使って立案されます。前に本箱の例を説明しましたが、その製作には枠板、棚板、底板、天板などの板材やクギなどの部品が必要です。このように特定の製品をつくるのに必要な、材料や部品の種類と数量を決めることを部品展開といいます。ただし受注生産の場合は、そのつど図面を描いてから部品リストを作成するので、部品展開と言わず、部品表の作成と言っています。一方、見込み生産の場合は標準化された製品をつくるので、その製品名と数量さえわかれば、それに対応する部品や材料の種類と数量は計算できるはずです。この計算つまり部品展開の方法を、簡単な例で説明しましょう。部品展開でまず必要になるのは部品構成表です。たとえば製品 Aというものがあり、これが部品 a 2個と部品 b 1個で成り立っているとします。これを部品構成として表現すれば、図 11のようになります。同じように製品 Bは、ユニット eの 1個と部品 fの 3個でできていますが、そのユニット eには部品イが 1個と部品ロが 2個必要です。製品 Cの説明は省きます。
以上を前提にして簡単な部品展開をやってみましょう。基準生産計画は図 12のとおりです。
まず部品 aの計算ですが、製品 Aの計画は 10個ですから、これに対応する aの数量は、その 2倍なので 20になります。また製品 Cの計画は 15なので、これに対応する aの数はその 1倍で 15です。したがって合計すると、 aの必要数量は 35になります。その他の部品の数量も同じ方法で計算します。図 12を参照してください。図 13は、その計算経過で、図 14は計算結果です。
購買計画を考える ② 在庫引き当てと正味所要量 利用する在庫分を差し引く部品の在庫がゼロの場合は、調達数量は計算したとおりで問題ありません。しかし在庫がある場合は重複を避けるために、在庫数量を差し引く必要があります。たとえば 5個ほしいときに、在庫が 3個あれば、実際の調達は 2個でよいわけです。工場では部品や材料を引き当てると言いますが、その意味は、このように在庫分から割り当てることなのです。 1- 3の図 14は基準生産計画に対応する部品の総数量を表していますが、このような計算(図 13)を総所要量計算と言います。また、その総所要量から在庫分を充当する(引き当てる)処理を、正味所要量の計算と言っています。計算手順を先ほどの事例に即して説明しましょう。なお、図 15は、新たに加えられた在庫情報です。
部品展開では、まず製品 A、 B、 Cのレベルで必要となる正味所要量を計算します。たとえば、製品 Aの計画数量からその在庫数量 5を控除します。答えは 5になりますが、これが求める正味所要量です。次に Aを 5個つくるには、これを構成する部品の必要数を計算しなければなりません。前の図 11によれば A 1個に対して部品 aは 2個必要です。したがって Aが 5個に対して aは 10個です。すなわち製品 Aに対する部品 aの、総所要量を計算したことになります。しかし図 15によれば、部品 aの在庫は 10個ですから、これを引き当て(控除)すると、部品 aの正味所要量は、製品 Aに関する限りはゼロになります。このような計算をすべての構成部品に及ぼして、それぞれの正味所要量を計算します。図 16は、以上で説明した手順を図解したものです。
在庫計画──在庫量に目途をつけるにはここまでは生産計画に従って、必要な資材を調達する計画を説明しました。しかしこのようなオーダーに基づく生産計画のつど、必要資材のすべてを発注するわけではありません。たとえば汎用性があって、しかも発注から納品までの期間の長い原材料は、オーダーとは無関係に事前に買い入れて在庫しておきます。在庫しておくのは原材料だけではありません。部品や汎用ユニットなども対象になります。材料や部品などを在庫するのは、次のようなメリットがあるからです。・短納期オーダーが発生したときも間に合う・まとめ買いになるので、低価格で購入できる・材料や部品の共通化が促進できるもちろん、在庫によるデメリットもあります。たとえば「在庫管理の手間が発生する」「過剰在庫になれば利益を圧迫する」「デッドストックになる」「保管のための倉庫やスペースが必要になる」。このような問題をできるだけ抑制するには、在庫を計画的に管理しなければなりません。そのポイントを説明しましょう。 1在庫計画を立てる在庫計画を立てるには情報が必要です。特に重要なのは、販売部門から提供される製品別の販売計画です。それには製品別の販売予測が必要になります。一口で製品別と言いますが、いまは多品種の時代ですから品目の数は大変なものです。しかしその製品別の販売予測こそ在庫管理の発端になるものですから、等閑にすることはできません。予測の第 1のテーマは予測の期間です。つまりどれだけ先を見通すかということです。結論からいうと、それは製品をつくるために必要な日数になります。たとえば、それが 2ヵ月先だとします。仮に今が 10月 10日とすると、 12月 10日の販売数を予測しなければならないわけです。予測の第 2のテーマは、その予測値がどれほどの誤差を含んでいるかということです。説明を省きますが、予測誤差の平均値(標準偏差)は、統計手法を使えば計算できます。 2在庫水準を決める販売数の予測をしたら、その予測に伴う誤差の、どの程度までを在庫でカバーするか決めなければなりません。その程度も数値化(係数化)できます。したがって、予測誤差をカバーする方針を数値(標準偏差の係数)で表せば、それに応じる在庫の量を具体的に計算できることになります。
手順計画──生産技術部による指定一般に受注生産の場合は、納期を守るために大日程計画を立てます。この計画の目的は、設計、資材調達、機械加工、サブ組立、総組立といった大工程ごとに期限を決めることですが、設計は特に納期遵守は大事です。設計担当者がアウトプットすべきものは例を挙げると、次のようになります。・設計図面(総組立図、部分組立図、部品図)・材料表と部品表・購買仕様書・取扱い説明書・原価見積書・加工手順書一般に設計図面だけのように考えられていますが、そんなに単純なものではありません。以上の中で、手順計画に特に関係が深いのが加工手順書です。今まで説明してきた大日程計画に関与する部門は、説明を簡単にするために設計、資材、機械加工、サブ組立、総組立の5つに限定してきました。したがって、この中から加工手順書の作成部門を選ぶならば、設計部門になるでしょう。しかし実際の工場では、もっと多くの部門に分かれています。その1つが生産技術部(課)です。そして加工手順書を担当するのは、大抵はこの部(課)になります。見込み生産の場合も、基本的には同じです。ただし受注生産のように、受注のつど設計するわけではありません。開発プロジェクトなど、社内で発生するオーダーに基づいて設計することになります。もちろん社外か社内かには関係なく、オーダーには守るべき納期がある点は共通しています。いずれにせよこの節の冒頭で、明確にしておく必要があるのは、モノづくりにおける手順計画とは何かということです。 1手順計画とは何か一般に設計部門が作成する設計図面は、製品や部品の完成した形状を表しています。それは製造部門にとって目的のようなものです。その目的を実現するには、原材料や半製品を加工しなければなりません。しかし設計部門では、その加工の方法やプロセスのすべてを、指示することはできません。これらについては、設計図面を作成するのとは別の、専門知識や経験が必要になるからです。一般にこの専門領域のことを、「生産技術」と称しています。生産技術とは何かということですが、まずこの仕事の特徴については、次のようにいえるでしょう。・設計と製造現場の中間に立って、橋渡しをする仕事・開発された新製品を量産化するために必要な仕事・製造現場で発生する問題を解決する技術・特定の製品(自動車、 IC基板、液晶パネルなど)を製造するための固有技術一般に手順計画は、この生産技術を担当する部門が立案することになっています。前にプロローグにおいて、「プロセス」の意味と重要性を説明しましたが、そのプロセスを計画することを手順計画というのです。 2手順計画の実際手順計画は、誰がどのようにして行うのでしょうか。一般には生産技術部門が、設計部門から送られた組立図面や部品図面などをもとにして行います。たとえば図 17で示した簡単な回転軸 1本をつくるのでも、図 18のように 6工程が必要になります。また、その工程で使用する機械は、鋸盤、旋盤、フライス盤および研削盤の 4種類になります。つまり単一の機械や工程ではなく、複数の機械と工程、すなわちプロセスミックスが必要になるわけです。
負荷計画──生産余力を考える 生産負荷とは何か工場で製品を新規に生産できる数量には限度があります。その限度のことを、生産管理の専門用語で「生産余力(略して余力)」といいます。生産計画を立てるときは、原則としてこの生産余力の範囲内でなければなりません。つまり稼働中の工場では、常に何らかの生産予定を抱えています。したがって実際の生産計画は、本来の生産能力から生産予定済みの分を差し引いた、残りの能力で行われるのです。この予定された仕事のことを「生産負荷(略して負荷)」といいます。実は日程計画と負荷計画は、同一の生産計画について、視点を変えて表現したものなのです。つまり生産計画の内容を月日で表すと日程計画になり、仕事の量で表すと負荷計画になるわけです。生産計画はこの2つが必要です。それには理由があります。まず日程計画は、製品全体の完成日だけでなく、それを構成するアセンブリーや部品別の完成日、さらには工程別の期日に至るまで、前後関係や相互関係に矛盾がないように決めなければなりません。たとえば組立日の後に、その構成部品をつくる日程を計画しても意味がないからです。部品は、常に組立の前に完成していなければなりません。しかし、加工順序の正しさを保証する日程計画だけでは、その生産計画は不十分です。たとえば A部品を加工する旋盤工程の某日に、仕事が集中しているかもしれません。多分それでは納期は守れないでしょう。その影響は次の工程に及び、次々に玉突き事故のように連鎖反応を起こすことになります。このような事態を避けるには、たんに日程計画だけでなく、仕事の量を調整する負荷計画が必要になります。 負荷計画の単位負荷とは仕事の量を意味します。量を表すには単位が必要です。たとえばメートル、キログラム、ヘクタールは、それぞれ長さ・重さ・面積を表す単位です。仕事の量としてよく使われるのは人工です。人工とは人間 1人が 1日働く場合の仕事量ですから、 3人で 2日かかる仕事は 6人工ということになります。したがって 6人で 1日かける仕事と、 1人で 6日かける仕事は、内容は違っていても量としては同じです。建設業や農業の仕事は作業サイクルが長いので、人工のような粗い単位でも十分に管理できます。しかし工場内の仕事を管理するには、もっと細かい単位が必要になります。たとえばカメラや時計を組み立てる大量生産のコンベアラインでは、 1工程あたりが 10秒以下になるでしょう。また新聞印刷輪転機や水力発電機のような大型機械の製造では、のべ作業時間が数百時間から数千時間に及ぶのが普通です。しかしそれでも、工程を細分化したときの作業は、数分から数時間の範囲です。したがって一般の工場では、仕事量の単位を人工ではなく、時間や分にしています。 生産能力の表し方生産能力とは、その工場で消化できる仕事の量を意味します。したがって負荷計画の場合と同じように、能力の量を表す単位が必要になります。また新規受注の可否を判断するには、生産能力から負荷を差し引いて、余力としての仕事量がどれだけあるか、計算しなければなりません。当然のことですが、能力と負荷の単位が違っていたら、この計算はできません。別の言い方をすれば、両者の単位が同じであれば、何でもよいことになります。「負荷計画の単位」では単位の例として時間を取り上げましたが、個数、重量、長さなど最も都合のよいものを選べばよいのです。ただ一般には、汎用性が高い時間が用いられる例が多いようです。生産能力の表し方には、もう1つのポイントがあります。それは何をもって、その工程の能力を代表させるかということです。たとえば、ある工程で作業者 1人が同じ機能の機械を並行して動かしているとします。この場合の生産能力を代表するのは、人間でしょうか、機械でしょうか。人間であれば生産能力は 8時間になるし、機械であれば 24時間になります。答えは、もちろん機械です。作業者 8人で編成されている 1本のコンベアラインの生産能力はどうでしょうか。この場合も、コンベアライン 1本が能力を代表するので 8時間になります。人間が代表するのであれば 64時間ですが、そうではありません。これに対し、作業者 1人が機械 1台を動かす工程ではどうでしょう。この場合は、人間が工程の能力を代表します。仮に機械が 10台あって作業者が 3名のときは、作業者の作業時間の合計である 24時間が能力になります。決して 80時間ではありません。 負荷計画の手順負荷計画の目的は、現在の工場能力(余力)に対して、新たにどれだけの負荷を加えるかを決めることです。余力とは先に触れたように、工場が本来持っている生産能力から、現時点で仕掛かっている負荷を差し引いたものです。余力、能力、および負荷はすべて時間を単位にして表すことにします。以上を前提にして、負荷計画の方法を図 19によって説明しましょう。
この図からは以下の情報が読み取れるはずです。 ⅰ この工場の5月度の生産能力は、稼働日数は 25日、 1日あたり生産能力は 1000時間だから、合計して 25000時間になる。 ⅱ 斜線部分が現在の負荷を示していて、合計すると 21000時間の仕事量。 ⅲ したがって余力は 4000時間である。つまり、この工場では全体としては 4000時間の生産能力が余っているので、これに見合う仕事を探さないと、現場を遊ばせることになります。ただし 26日、 27日、 28日の 3日間は、通常の能力を超える仕事量になるので残業などの対策が必要です。なお、ここまでの説明は月間合計の話でしたが、実際の負荷計画ではこれに先だって個々の製品や機械について計画します。月間計画はその結果と考えればよいでしょう。それでは具体的に、製品 Xについての負荷計画を立ててみましょう。まず、製品 Xに関する具体的なデータは、図 20にまとめてあります。さらにもう1つ、この製品を加工する工程の製造用データベースが必要になります。このデータの主な内容は、工程別の生産能力と基準日程ですが、図 21はその具体例です。
生産管理担当者は以上のデータによって、負荷計画を立てることができます。図 22は、それを例示したものです。たとえば5月下旬の負荷は、工数にして何時間になるでしょうか。この事例では、都合よく余力がありました。しかし、もし能力に不足があれば、どのような対策を講じるべきでしょうか。それには納期の延長、残業、休日出勤、外注、受注のキャンセルなどいくつかの方法があります。それらを選択し決定できるのも、正確な負荷計画がある場合に限られます。
以上で説明した負荷計画は、あくまで確定した生産計画が前提になっています。しかし実際には顧客の変更要求や、販売予測の狂いなどによって、しばしば計画の変更が必要になります。それに連動して負荷計画も変更を余儀なくされることになります。アメリカ型の生産管理では、この変更を歓迎しません。はっきり言えば硬直しています。それに対して日本の工場では、この計画変更をすんなり受け入れます。顧客優先の考え方が浸透しているからでしょう。
手配とは何か コミュニケーション・システムと考えよう工場での生産というと、多くの人はまずコンベアライン、機械の振動音、頭上を走るクレーンといったイメージを抱くのではないでしょうか。もちろん、そのようなハードウェアの側面は大きい部分を占めています。しかしソフトウェアの側面も見落とすことはできません。特に最近の工場では、この分野のウェイトが著しく高まっています。ここでいっているソフトとは、生産関連情報を処理するシステムのことですが、工場における情報の主役は、何といっても生産管理に関するものでしょう。迅速性、整合性、正確性、関連性、網羅性、詳細性、完全性など、生産管理の情報に求められる質の高さは大変なものです。特に生産手配のために処理すべき情報の、膨大さと多様さは特筆されなければなりません。そうなっている理由の1つは、近代的な工場で行われている生産は、徹底的に分業が進んでいるからです。分業となれば、当然ながら相互のコミュニケーションが必要になります。いくら高度な計画を立てても、その内容が生産を分担する担当者別に分解され、タイミングよく正確に伝わらなければ何の役にも立ちません。そのため工場で効率よく生産するには、生産手配という独特のコミュニケーション・システムが不可欠の条件になります。 手配を分類すると……個々の工場でつくられる製品、工程、環境などには必ず何らかの違いがあります。工場内の組織も各社各様で、まったく同じものはありません。しかし、生産するものをごく大掴みに捉えるならば、工場内製作品、外部調達品、外注製作品、倉庫在庫品の4つに分類できるでしょう。生産管理実務の分け方も、大枠としてはこの 4分類に対応しています。したがって生産手配も、おおまかにはこの区分に従って行われています。しかも、生産手配のための情報を 4分類するといっても、それを作成する手順は、かなりの部分で共通しています。手配先、つまり情報を伝える相手先によって違う部分は、ごく一部になるからです。ただし最近の調達先は、以前のように国内には限定されていません。グローバル化が進んだせいで、きわめて広範囲に注文しています。アメリカ、中国、韓国、ユーロ諸国はいうまでもなく、タイやベトナム、インドネシアなど、世界全体に及んでいます。それだけに注文書の形式も多様化しています。幸いにして最近は ITが普及しているので、その作成や送付の手間は比較的容易になりました。もしこれがなかったら、手配がネックになって、モノづくりを阻害したかもしれません。
手配の内容はどう決めるかここからは、生産管理担当者による実際の手配の流れについて説明していきましょう。まず図 23を見てください。
1基準生産計画を作成する手配情報を作成するには、まず手配計画を立てなければなりません。その手配計画が拠りどころにするのは基準生産計画です。基準生産計画についてはすでに説明したので、その作成後のコンピュータ処理については、図 23を参照してください。 2構成部品に展開する基準生産計画が入力されると、生産用のデータベースである部品構成マスターによって、その完成品を構成する部品や材料の、必要数量や納期が計算できます。部品構成マスターの主なデータ項目としては、完成品を構成する部品や材料名、各品目の親子関係、親品目 1個に対する子部品の構成数、品目別の基準日程、各品目のロットサイズ等があります。これらのデータと基準生産計画を突き合わせることによって、完成品をつくるために手配すべき構成品目別の情報に分解できます。この段階で生成しなければならない情報は、完成品を構成するすべての部品・材料別の数量と納期です。ここまでくると手配データは、かなり細かくなります。それを記録しているのが、手配計画ファイルです。しかし実際に手配するには、手配計画ファイルのデータをさらに詳細化する必要があります。具体的にいうと、手配の担当者別に区分しなければなりません。そのための情報処理を、このフローチャートでは〈手配情報の細分化〉としたエリアとは別に、〈手配情報の詳細化〉としたエリアで処理するように表現してあります(図下部)。 3工程別に展開する続いて手配用のワークファイルと、製造用のデータベースである工程マスターを、照合させます。図 24を見てください。工程マスターの主なデータ項目としては、構成品目別の工程とそれの基準日程があります。たとえば部品 Xの第 1工程は旋盤工程、第 2工程はフライス盤工程、第 3工程は仕上げ加工といった具合です。さらに基準日程は、旋盤工程 2日、フライス工程 3日、仕上げ工程 2日になります。
これらのデータと、ワークファイルにある構成品目別の納期を突き合わせて、工程別の着手日と完了日を計算します。たとえば、この部品 Xの納期が3月 9日の場合は、その加工に関わるすべての工程別の、着手日と完了日がわかります(図 24)。なお、ここでは工程という言葉を、広義の意味で使っています。単に工場内だけではなく、購買や外注も含めます。たとえば、商社から鋼材を仕入れるときは、その商社は購買工程とみなされます。次にコンピュータでは、今までのデータ処理によって生成した情報をまとめて、手配計画ファイルを作成します。ファイルの主なデータ項目は、品名、工程(または調達先)、ロット番号、数量、着手日(または発注日)、完了日(または納期)になります。この段階に達して、ようやく手配情報の細分化は完了しました。前にも述べたように、手配情報をこのように細分化しなければならないのは、工場での生産活動そのものが極度に分業化されているからです。たとえば、製品の種類が 100程度の工場を考えてみましょう。製品の各々を構成している部品や材料は、平均して 50程度とします。また各構成品の、加工に要する工程数は平均して 5とします。この場合、 1ヵ月間に発行しなければならない手配情報の件数は、どれほどになるでしょう。なおランニングストックを抑制するために、ロットサイズは平均で 3日分にします。これによって、同一品についての手配頻度は、月あたり 10回になります。以上によって計算は次のようになります。 100 × 50 × 5 × 10 = 250000ここでは製品の種類や構成部品の数を控えめに計算しましたが、それでも生産のために作成しなければならない情報の件数は、このように膨大になります。 4実際の担当者別に仕分ける細分化された手配情報には、さらに詳細な情報を加える必要があります。ここでは、とりあえず前準備をしておきます。前準備とは、図 23の上で細分化された手配計画情報を、実際に手配を行う担当者別に仕分けることです。生産手配のための分担を大きく分けると、工場内の作業手配、外注工場に対する手配、外部調達先への手配、倉庫部門に対する手配の4つになります。したがって作成された手配情報は、少なくともこの4つに仕分けされる必要があります。図 23で示したフローチャートの下の部分は、それを表しています。大きい工場では手配担当者の分担が細かくなっていますから、手配情報の仕分けもそれに対応する必要があります。たとえば外注工場が 100社以上ある工場では、外注部門も多数の担当者に分かれています。つまり手配情報は、最終的には個々の担当者別にまで細分化されなければなりません。今までの説明からもわかるように、手配事務のほとんどはコンピュータで処理することができます。もしそれがなくて人手だけに頼っていたら、どうなっていたか恐ろしいほどです。単に膨大な人手が必要になるだけではありません。ミスが多発するでしょう。宛先記入のミス、品名記入のミス、数量記入のミスなどきりがありません。さらには事務処理のスピードです。注文書 1枚を書くには、多くのチェック項目や基本台帳からの転記項目や参照項目があります。それらの原データを、人手で引き出すのは簡単ではありません。ファイリングシステムまで念頭におく必要があるからです。手配業務をコンピュータに行わせるようになって、これらの問題は一挙に解決できることになりました。
工場内への作業手配──実際の作業者へ指示する今までの手配は外部に対するものでしたが、ここからは、工場内で行わなければならない作業についての、手配のやり方を説明することにしましょう。 作業リーダーに交付する作業票工場内作業の手配とは、各工程で行われる作業別に作業票を作成し、それを作業リーダーに交付することです。この手配を担当するのは工程管理者です。図 25は、作業票のイメージです。
この作業票に記入される主な項目は、品名、数量、納期、加工に要する標準時間ですが、必要に応じて作業手順、検査基準、作業上の注意事項などが加えられます。これらの詳細データは、前に図 23で説明したように、現場にある端末機を使って処理できます。作業リーダーは、この作業票を個々の作業者に配分します。これでやっと作業の手配が終わったことになります。なお、この作業票には作業実績を記入する欄もあります。作業が終了したときに、その日時、作業に要した実績時間、完成数量、不良品数量などを記入するようになっています。このほか、作業者が倉庫から材料や部品を受け取るための出庫票を同時に作成して交付することもあります。これによって部品加工の初工程では、材料倉庫から鋼材や鋳物を受け取ることができます。また、組立工程では、一覧リストになっている部品出庫票によって、組立に必要な部品を正確に受け取ることができます。
購買手配──材料・部品を購入する 変更が多いので小回りを利かせる購買手配とは、材料や部品などを購入するために注文書を発行することです。その件数は工場によっては何百何千にもなります。前に説明した手配計画ファイルからは、すでに品名、数量、納期、購買先などのデータはコピーできています。購買担当者は、それ以外の変更の可能性がある情報を追加します。たとえば購買単価、金額、納品場所、分納の指示等です。一般にこれらの項目は変更や修正が多いので、小回りのきく処理が必要になるわけです。そのため端末機などによって、購買担当者独自の処理ができるシステムになっています。最終的に購買担当者から、購買先に提示する注文書は図 26のようになります。
ここで少し補足しておきましょう。単価、金額、納入場所、納期などの購買項目がすべて標準化すなわち固定していたら、変更処理の必要がありません。そのような場合の手配処理は完全に無人化できるでしょう。しかし日本では、そうはならないでしょう。何しろ顧客のニーズが最優先されるのです。そのための変更は厭うことがありません。この柔軟性こそ日本のモノづくりの強みですが、それを支える秘密の1つが、この購買手配システムにも隠されています。
外注手配──外部工場へ部品・組立品の制作を依頼する 忘れずに材料支給の有無を伝える外注工場への手配とは、部品や組立品をつくってもらうために注文書を発行することです。外注の対象になる品目は多種多様ですが、手配情報は前に述べた手配計画ファイル作成の段階で、データがかなり揃っています。外注先名、品名、数量、納期がそれに該当します。しかし外注の場合も購買と同じように、もっと詳細化しなければならない部分が残っています。それを付け加えるのは外注担当者です。その追加データの主な項目には、材料支給の有無、有償無償の区別、外注単価、金額、納品場所、分納の指示などがあります。一般に外注におけるこれらの項目は、変更や修正が多いので、小回りのきく処理が必要です。そのため端末機による、外注部門独自の手配処理を加える必要があります。最終的に外注担当者から、外注先に提示する手配のための注文書は図 27のようになります。
出庫手配──在庫品を出してもらえるよう倉庫に依頼する 在庫を取り寄せるための出庫票倉庫に対する出庫手配とは、在庫品を必要に応じて出庫してもらうために出庫票を発行することです。倉庫から製造用の原材料を出庫する相手先は、加工の第一工程か外注工程になります。一方で手配情報としては、手配計画ファイル作成の段階で、品名、数量、出庫予定日、在庫場所、出庫先などのデータが整えられています。したがって、これに在庫担当者が付け加える手配用の情報はありません。それでも手配計画ファイルにあるデータは、一旦、倉庫の出庫担当者の端末に送っておく必要があります。理由は、その手配用データに実際に出庫したときの実績を記入するためです。出庫日、出庫相手、出庫数がその内容です。在庫数が足りなくて、一部だけ出庫することもあるからです。出庫票の様式は図 28のとおりです。
在庫数が足りなくて、一部だけ出庫するというような事態が頻発するようでは、その工場の生産管理のレベルは低いというべきでしょう。しかし程度の差はあっても、それをゼロにすることは至難の業です。したがって、それが発生したときの機敏な対応力が問われることになります。そのため生産管理部門は、手配後の進み具合を神経質にチェックする必要がありません。
その他の手配これまでは、手配業務を作業手配、購買手配、外注手配、出庫手配に分けて説明してきました。おおまかにはこれでよいのですが、厳密にいうと工場では、この他にもいくつかの手配を行っています。その例として生産準備手配と内示手配を説明します。 生産準備手配──材料や治工具の入れ替え指示製品が変われば、その加工用に使用する機械も変えなければなりません。特に専用機ラインの場合は、全面的に入れ替えることもあります。汎用機ラインの場合でも、機械本体はそのままですが、治工具やアタッチメントは変える必要があります。このような前準備や段取りのための情報を、タイミングよく詳細に提供するのも、広義には手配になります。ただし生産品目が少ない工場や、類似した製品だけをつくっている小規模な工場では、そのような手配のために、専任の担当者を配置する余裕がありません。生産現場の作業者自身が、自発的に準備してしまいます。多種多様な製品をつくっている工場でも、ベテランの現場作業者が健在なところでは、同じやり方で凌いでいます。 内示手配──今後の生産予定を事前に知らせておく原則として生産手配は、生産計画に準拠しなければなりません。したがって計画の変更があれば、手配もそれに応じなければなりません。しかし厄介なことに、生産計画には変更がつきものです。ということは、計画に準拠している生産手配も、頻繁に変更しなければならないということになります。前に基準生産計画の説明をしましたが、一般にそのデータ内容はそれほど複雑ではありません。製品別納期別数量という程度です。それに比べると、手配のデータは種類や件数が多く、しかも内容が詳細です。したがって計画変更があると、それに繋がっている手配情報の変更はとても面倒なことになります。たとえば購買手配の場合を考えてみましょう。その主な内容は、購買先名のほか数量、購買単価、金額、納品場所、納期、分納の指示になります。これらの項目のうち変わるのは、数量、金額、納期だけですが、変更処理の手間は無視できません。一旦、発行した注文書を回収して、新たに発行し直すなど、実務的に不可能といえるでしょう。このような理由から購買先や外注先に対する発注側の手配は、納期が迫るまで抑えようとする傾向があり、往々にして極端に短い日程で納品させることになります。その一方で、外注先や購買先としては、計画的に生産できることを望んでいます。以上のように相反する両者の要請を、うまく調整するのが内示手配です。一般に内示手配は、様式・内容のいずれも正式の注文書とは違っていて、月刊生産予定とか週別生産予定といったラフな表現になっています。これがいわゆる内示手配です。このようなおおまかなものであっても、外注などの供給側としては、とても貴重な情報になります。ただし内示では、法的な意味での契約条項を厳密に記載したりはしません。本当にラフなものです。たとえば翌月の発注予定数量を、品目別・納期別に知らせるといった程度のことです。それでも注文を受けた相手業者は、この情報によって納品計画を立て、さらにはそれに基づいて生産を開始します。そうしないと納期が短いので間に合わないからです。幸いにして、この内示によって発注者と受注者の間にトラブルが発生したことはほとんどありません。それだけ日本における企業同士の取引には、信義に基づいて培った強い信頼感の裏づけが保たれているということでしょう。
お国柄によって違う生産管理最近の生産管理では、計画に関する理論がかなり実用化されています。手配についてもコンピュータの活用によって、事務処理の自動化が進みました。したがって人間の主観的な判断に依存する余地が少なくなりました。しかし進捗管理に関しては、データ処理の側面は別として、対策機能の側面では今でも担当者の意欲や士気の占めるウェイトが高いのです。その意味では、進捗管理のやり方を見れば、その工場における生産管理の考え方や水準がよくわかります。 ドイツの工場での発想以前にドイツの工場を訪れたことがあります。従業員が 100名程度の中小企業を数社選びました。いずれも古びた建物で、機械類もそれほど斬新なものは見当たりません。いかにもよく使い込まれているという印象でした。作業者の平均年齢はかなり高いようでしたが、いずれも自信に満ちた態度で作業していて、遠来の客に注意をそらされる様子はまったくありません。その点では個別受注型の機械工場の雰囲気は、いずれもよく似ているものだと感じました。しかし工場見学の後、事務所で数人のメンバーと質疑を始めると、たちまち日本とは大きな違いがあることがわかりました。「短納期のオーダーで、困ることはないか」という当方の質問に対し、彼らの回答は「困ったことはない」というのです。不思議に思って質疑を重ねた結果、ようやく意味がわかりました。要するに彼らが納期と考えているのは、受注した製品ができ上がったときなのです。それなら納期遅れはないわけです。 アメリカの工場での発想アメリカで見た自動車の組立工場では、仕掛品やユニット類の在庫が目につきました。極端なところでは、まるで倉庫の中で作業しているように感じました。その理由を訊くと、欠品によるラインストップを防ぐために、ラインでは多めに在庫を持っているということです。日本での綱渡りのような、ジャスト・イン・タイム方式とは、かなり違っていると思いました。計画スタッフとの質疑で進捗の責任を話題にしましたが、論点が噛み合いません。その言い分を要約すると、「生産計画はコンピュータで作成しているので、問題があるはずがない。それにも拘わらず進度上の問題が起きるとすれば、生産現場の責任だから計画側でコメントすることはない」ということでした。このように、アメリカの場合は、生産計画の概念ははっきりしていますが、進捗という概念は曖昧です。事実、アメリカの生産管理に関するテキストを読んでも、進捗に関する記述は一切ありません。あるのは生産計画論と、在庫管理論だけです。在庫管理論の主要部分は、予測と予測誤差の問題に限られています。このことから、進捗についてのアメリカの考え方は推測できます。つまり進度は、計画に対する誤差として、統計的な認識の対象になっているのです。統計の対象ですから、比喩的に言えば、進度は自然現象として扱われているのです。 日本の工場での発想一方で、日本の工場で行われている進捗管理はきわめてシビアです。完成したときが納期だとか、誤差の範囲に収まればよいという考え方はまったくありません。納期は文字どおりデッドライン、すなわち死守すべきものなのです。日本の多くの工場では、進捗管理を独自の手法にまで高めており、計画スタッフと現場ラインが一体化しているのが通例です。両者は進捗会議を頻繁に開いて合議するだけでなく、スタッフ単独でも頻繁に現場に足を運び、実際に目にすることでより正確な進捗管理を心がけていました。つまり、「生産計画は工場の意思として表明されたものだから工場全体で責任を負う」という思想が定着しており、進捗管理をいわば意思を実現するプロセスと考えてきたわけです。ただ、もちろん逆に行き過ぎている事例もあります。かつて「カミナリ」と陰口を言われた工場長を知っていますが、彼はその最たる事例といえるでしょう。彼は暇さえあれば工場の中を歩き回り、仕掛かり中の製品の進度を確かめていたという極端な例です。遅れの場合は、作業票の日付を見ればすぐわかります。ただちに担当者が呼びつけられ、大目玉を食うわけです。このやり方に納得しないメンバーは、「あれでは工場長でなくて、進行員だ」と批判していました。 「古新聞を読む」は意味がない?これは極端すぎるエピソードであり、必ずしもホメられる態度ではありません。全体の進み具合を把握しているとは言えず、単なる精神主義といえるでしょう。実際、工場内の目に見えるモノだけを問題にしていますが、購買手配中のモノや外注品など、工場の外にあるものには目が届いていませんでした。くわえて、工場長が文句を言うのは、遅れが顕在化しているものだけです。しかし遅れてからでは後の祭りであって、本来は遅れを予防することが工場長の仕事のはずです。では、どのようにしたら、合理的でスタッフ全員に納得してもらえる進捗管理をできるのでしょうか。この章で、生産管理の3つめの機能といわれる進捗管理について説明していきましょう。計画や手配では、理論的な説明や手続き面の話が中心でしたが、進捗管理では考え方や行動のあり方が中心になります。
タテ方向に進捗を管理する進捗の管理を思いつきや断片的でなく、総合的にも局部的にも確実に行うには、そのための体制とシステムが必要になります。ここでは、その条件と内容について説明しましょう。 個別受注生産における製番管理工場における生産の進度は、タテとヨコの 2面性を持っていますから、進捗管理の組織もそれに対応する必要があります。生産のタテの側面とは、特定の製品が完成するには複数の工程を経由しなければなりませんが、その一連の経路のことをいいます。またヨコの側面とは、特定の工程に滞留しているモノすなわち仕掛品の状態をいいます。一般に、同じモノを繰り返してつくる見込み生産では、タテの進捗はあまり重要ではありません。しかし個別受注生産では、タテの進捗管理は重要です。この生産方式で進捗管理を担当するのが、製番(製作番号)担当者です。製番とは、受注したオーダーの1つ1つに付けられた受注番号のことです。この生産方式では、注文を受けたら設計から材料調達、製造までの全プロセスを一貫して管理する必要があります。その集約のキーになるのが、この製番になるわけです。設計部門から多数の設計図がリリースされたあと、その図面に基づく製造用の分業の範囲は拡大します。そのため製番担当者としては、特定の製番向けに、材料や作業を集約させる意識と活動を、かたときも怠るわけにはいきません。 製番担当者が全プロセスに関与なにしろこの生産方式では、受注したらまず設計から始めなければなりません。工場側では、図面がないと何をどうつくってよいかまったくわかりませんから、ひたすら出図を待つだけです。しかし実際のところ、設計の出図はよく遅れます。そこで製番担当としては、当初はこの設計の進捗管理に最も力を入れなければなりません。そして出図のあとは、製造のための分業が広範囲に拡がります。しかも分業それぞれの完成度が 99%になっていても、 1%の部品が欠けていたら、その製品は未完成です。そのため製番担当は、それらの分散している作業や部品を、オーダー別に集約させることにも留意しなければなりません。このように個別受注生産をうまく行うには、集中と分散の両面で高度な進捗管理を行う必要があります。製番担当というタテの管理を専門にする職種が必要になる所以です。
ヨコ方向に進捗を管理する セクションごとの納期意識も大切一般的に、進捗管理でいうヨコ管理の範囲は、工場内の工程や外注先や購買先など、一般的な業務組織と一致します。これらのセクションでは、自分のところに割り当てられた品目の、それぞれの計画日程を、自主的に守らなければなりません。ただし各セクションでは、種類の違う加工品がいくつも仕掛かっています。つまり複数のオーダーを抱えているわけです。各セクションとしては、これらの加工品の1つ1つについて直前の工程と、直後の工程がわかるだけで、全体の経路を知ることはできません。また、その必要もありません。やるべきことは、自工程での日程を正確に守るだけです。遅れだけが問題ではありません。早すぎてもまずいのです。このようにして、セクションごとに割り当てられた日程を守れば、自動的に最終納期に間に合うはずです。もともと生産計画の段階で、セクション別の日程が、ジャスト・イン・タイムになるように立案されているからです。ただし、オーダーごとの日程の整合性や一貫性は保証できても、オーダー相互間の調整は必ずしも完璧にはなりません。理由は計画の立て方にもよりますが、ある程度の粗さは止むを得ません。そのため各セクションに持ち込まれる複数オーダーの中には、同じ日付で重複することもあり得ます。その調整のためにもヨコ組織 =セクション別の管理は必要です。ヨコ進度の責任を負うのは、各セクションです。オーダーがたて込んだ場合、製番担当としては、自分が担当するオーダーを優先するように要請するでしょう。事実、工場の現場では声の大きい者が、主張を通すことがあります。しかし、これでは合理的な進捗管理はできません。工程内進度の微調整は各セクションの権限ですが、総合的な調整が必要なときは、工程会議を開くことになります。図 30は、進捗管理をタテとヨコの体制で行うイメージを表したものです。この図にあるように、すぐれた工場の進捗管理は、タテとヨコを組み合わせた網を張ることによって、漏れを防ぐようにしているのです。
進捗管理と情報のやりとり 絶対進度と相対進度情報なしで進度を把握することはできません。その進度の情報には、絶対進度と相対進度の2つがあります。まず絶対進度とは、何が、どこに、いつ、いくつあるかを明確にすることです。ルーズな工場では、品物の保管状態が曖昧で、この質問にはっきり答えることができません。言い換えれば、現品管理がよくできていないのです。一方の相対進度とは、計画と実績を比較したときの差異を意味します。たとえば納期が2月 10日になっているのに、2月 12日に完成したとすれば、計画と実績の差異は 2日になります。つまり相対進度としては 2日の遅れです。絶対進度つまり現品情報の把握は、進度管理にとって不可欠の前提です。しかしこれだけでは、全品の現状がわかるだけで、遅れ進みの評価ができません。進度を管理するには、絶対進度の情報と相対進度の情報という 2本柱が必要になります。それでは、この 2種類の情報をどのようにして集めたらよいのでしょうか。つまり進度情報を処理するシステムは、どのようにデザインすべきかという問題になります。ここではとりあえず次の 2点を指摘しておきましょう。まずその 1は進度データの形、すなわち粗さと単位を決めることです。その 2は収集した進度データをわかりやすく編集することです。 1進度情報の粗さと単位進捗管理は、計画と実績の対比によって行われるものです。したがって実績を報告する単位は、計画の単位と一致させる必要があります。たとえば、第 Ⅲ工程で3月 10日に部品 Aを加工するという計画は、部品別工程別の計画になります。つまり当初から、その単位で進捗管理することが計画されていたのです。したがって第 Ⅲ工程としては、部品 Aをいつ加工したかを報告しなければなりません。これに対して、部品別の完成日だけを計画する場合は、工程別の計画はないわけですから、工程別の実績データを集めても意味がありません。以上のように計画の段階で、すでに進捗管理の粗さは決定づけられます。前に説明した生産手配も、当然この計画の単位に対応しています。 2進度情報を編集する工場の生産現場では、生産手配によって伝達された計画に従って生産し、その実績を報告します。これらのデータを進捗管理に役立たせるには、どのように編集したらよいでしょうか。進捗管理は、基本的にタテとヨコの2つの側面で行う必要があります。したがって進度情報も、それにマッチするように編集されなければなりません。ただし見込み生産と受注生産とでは、かなり違うものになります。 工程別と品目別で考える見込み生産見込み生産で用いられる進度情報のイメージは、図 31のようになります。つまりヨコ進度を表す工程別進度表と、タテ進度を表す品目別進度表です。
工程別進度表はその名のとおり、当該工程に仕掛かり中の加工品が、それぞれ、いかなる進捗状態にあるかを表すものです。図 31〈セクション別進度表〉によると部品 Bは、3月 10日現在において、前工程から累計で 100個受け取らなければならないのに、実績は 95個になっています。つまり引き取りが遅れています。また、完成させて後工程に送り出すべき計画は 90個になっています。しかし実績は 88個ですから、 2個遅れていることがわかります。一方、部品別進度表は、特定の加工品が各工程でどうなっているかを表しています。図 31の部品別総合進度表によると、たとえば3月 10日現在において、部品 Aは資材の手配が 20個遅れていることがわかります。一方、外注と機械加工は進みすぎです。さらに組立工程では、生産の遅れが 15個になっていることも読み取れます。 部品別とオーダー別で考える受注生産また、受注生産で使われる進度情報のイメージは、図 32のような部品別工程進度表やオーダー別総合進度表になります。
たとえばこの図の部品別工程進度表によると、5月 19日現在において部品イは、研削工程で仕掛かり中であることがわかります。今までの経過を見ると、最初の旋盤工程では5月 11日の完成計画どおりになっています。しかし次のミーリング工程では、計画が 14日であるのに対し、実績は 15日です。 3番目の研削工程に至っては、完了計画 17日に対し、 19日現在も未完了です。この時点ですでに 2日遅れていますから、早急に対策を考えなければなりません。 計画と実績の照合をどれだけ迅速にできるか以上のように進度情報の編集とは、計画データと実績データを対比できる情報を作成することです。それにはいくつかの条件があります。たとえば計画データを一定期間保留しておくシステム。そして実績データが上がってきたら、ただちに保留していた計画データと照合させるシステム。さらには実績データをリアルタイムにフィードバックするシステムも必要です。このように大量のデータを、正確で迅速に処理しなければならないので、進度情報システムを構築するには、高度なデータ処理システムが不可欠の要件になります。生産管理では「古新聞は役に立たない」といいます。進捗管理では常にリアルタイム性が求められるのです。
進捗管理の決め手 ① 事実を正確に把握する生産管理の 3本柱の1つとされる進捗管理について、これまでシステムの観点で説明してきましたが、もう1つ付け加えるべき重要なポイントがあります。それは生産管理に携わる人間の役割、さらに加えれば意識の問題です。ここでは、それらについて説明します。進捗管理の基本は、事実を正確に把握することです。しかし実際には、しばしば事実を誤って認識します。特に多いのは現品把握の誤りですが、それが発見されるのは、多くの場合、現品と在庫帳を照らし合わせるときです。なぜ一致しないのでしょうか。最も大きい原因は実績情報の誤りと、現品管理のまずさにあります。まず実績情報の誤りは、モノを移動させるとき、現物の名称や数量などを記録するときに発生します。極端な場合は、記録そのものを省いてしまうことがあります。このようなミスをなくすために、以前は細かいルールを決めていましたが、人手をベースにした対策ではなかなか改善できません。基本的には次に示すように、脱人手のシステムにする必要があります。 1現品表示の工夫現品やケースに、荷札や標識を貼り付けます。現在ではバーコードが普及しています。 2リアルタイム化現品を移動させたら、その移動情報によって即時に在庫情報の更新を行います。現在ではネットワークシステムによって、在庫データのリアルタイム処理が普及しています。 3認識と記録の技術革新いくらデータ処理のリアルタイム化が実現できても、データそのものが違っていては意味がありません。だからと言って正確性の向上が、人間の努力によって可能になると考えるのは間違いです。幸いにして近年は、高度なセンサー技術やバーコードシステムなどが普及しているので、この分野の問題はおおいに改善されつつあります。 4担当者の不在対策人手が少ない工場では、倉庫などの受け払い担当者がしばしば不在になります。現品管理の立場における理想を言う限り、担当者を確保して不在をなくしたいところです。しかし小規模工場ではそうもいきませんので、不在時の最低限のルールを決めるしかありません。いちばん困るのは、不特定多数のメンバーが倉庫に出入りして、勝手に在庫品を持ち出すことです。これを防ぐには、倉庫への出入りが自由にできるメンバーを指定するとよいでしょう。
進捗管理の決め手 ② 理屈を超えた行動力も必要 進捗を評価するスローガンだけでは生産性を高めたり、不良率を下げることはできません。真に成果を上げるには、明確な達成目標を設定して、それに対する実績を継続的に評価することが必要です。事実、能率や品質に関しては、このような評価システムを確立している工場は少なくないにもかかわらず、納期の達成度を評価している工場はほとんどありません。これはとても不思議なことです。実際、工場で一番エネルギーを費やしているのは広義の納期問題です。特に生産管理がうまくない会社では、営業担当者は客先からの納期問い合わせのため、その応答に大わらわになっています。それにもかかわらず納期遅れが顕在化したときだけ、一過性の対策をしてお茶を濁しているわけです。進捗管理を抜本的に改善するには、本書で説明したような本格的な生産管理システムを導入する必要がありますが、それだけでは絵に描いた餅になる可能性があります。定着させるには、コストや品質と同じように、納期に関しても達成度を評価することが必要です。それも従来のような納期に間に合ったかどうかだけでは駄目です。計画に対する進捗の度合いを、工程別に評価するシステムが必要です。 やる気と行動力前に、「進行員だ」と皮肉られたカミナリ工場長の話をしました。進捗管理の情報処理的側面をみればそのとおりで、ナンセンスなことです。しかし進捗管理には、それ以外に対策を取るという、もう1つの重要な機能があります。遅れ進みの情報がいくら的確に与えられても、その解決のために機敏に対処しなければ意味がありません。工場長の行動は、まさにその点をついていたのかもしれません。たとえ断片的であっても、彼は四六時中工場内を巡回して進度の異常を摘発し、カミナリを落とすことによって、現場に強い緊張感をみなぎらせました。それによって、工場全体が進度に関心を持つように仕向けていたのです。ほかの場合と同じように、進捗管理においても最大の敵は無関心です。関心がなければ、人はまず行動しないでしょう。その意味で進捗管理の決め手は、当事者のやる気と行動力にかかっていると言えるでしょう。このような考え方は、クールでなければならないモノづくりの現場において、いかにも精神論的な印象を与えるかもしれません。しかし、そうではないのです。モノづくりといえども、所詮は人間が行う行為です。その意味では、意欲や意思が効力を発揮するのは当然のことです。この気質は、古くから受け継がれた職人さらには匠の心にも通じるものと言えるでしょう。
アラーム機能を果たすカムアップ 早いほどよい実績把握と報告生産管理担当者の間ではよく「死亡診断書はいらない」とか、「古新聞を読むな」という言葉を耳にします。その意味は、進捗管理の目的は納期に遅れないために予防することであって、遅れてしまった結果をとやかく論議しても仕方がないということです。つまり進捗管理は、たんなる実績報告や遅れの原因分析に止まるだけでは不十分で、何らかの形で遅れの挽回に役立つべきだと考えているのです。それには実績把握と報告は早いほどよいというわけで、現在の製造現場では POP( Point Of Production System)のように、生産実績が発生すると同時にデータ処理を行うシステムが普及しています。ただし、いくら進捗情報が即時に伝わっても、実績はやはり結果という過去に過ぎません。この情報によって、いかに迅速な回復措置がとれるとしても、所詮は後始末の行動です。予防対策ではありません。カムアップシステムとは、このような問題意識から生まれた進捗管理の方法です。カムアップの語源は、機械部品のカムの動作に由来しています。すなわち運動のエネルギーを伝える機構で、原動部と従動部から成り立っています。原動部が回転すると、その突出部分によって従動部が押し上げられます。つまりカムがアップするからカムアップです。このメカニズムを進捗管理に応用したのがカムアップシステムです。このシステムでは、注文書や作業票の控えを納期別に仕分けてファイルしておきます。そして期日が到来する N日前( =カムアップ日、たとえば 3日前)になると、該当する注文書ファイルを取り出して、注文先に「納期は N日後です」と警告するわけです。もし相手が忘れていたら、その警告でただちに手配するでしょう。遅れるという回答があれば、何らかの対策を講じなければなりません。図 33は、そのファイルのイメージを表しています。ただし実際にこのファイリングを、人手でやるには手間がかかります。コンピュータ化すれば、人手の負担はまったくないでしょう。
納期意識は日本オリジナル──グローバル化 海外は「できたときが納期」今やモノづくりのグローバル化は、製造業を営むすべての企業にとって、日常的な変化になっています。このような事態を、以前は誰が想像できたでしょうか。ただし原材料や部品・アセンブリーなどの輸出入までを含めると、かなり以前から行っていたことで、いまさら騒ぐほどのことではないという説もあります。その考え方にも一理あるとは思いますが、ここでは、グローバル化とは、生産計画を主体的に立案する立場にある工場の、意識と方針によって決定づけられると考えることにしましょう。そう考えるなら、グローバル化という現象が日本企業にとって現実味を帯びてきたのが、ここ数十年のことであることに気づかされます。まず受注生産について言えば、これこそ日本的モノづくりの典型と言うべきでしょう。客先との打ち合わせによって製品の仕様を決め、価格を決め、さらに納期まで決めてしまうのです。生産管理の用語で言えば、バックワード方式です。この方式が適用されるのは多くの場合、大型発電機や専用工作機、産業ロボット、自動搬送ラインなど高額な資本財になります。もちろん、このような資本財の製造は、日本だけでやっているわけではありません。アメリカを筆頭に、ドイツ、フランス、イギリスなど先進工業国といわれる国では、どこでもやっていることです。ただし決定的に違うところがあります。それは納期を先に決めて、必ず守るという点です。他の国でも、納期を先に決めることは同じですが、日本のように正確に守られることはほとんどありません。契約段階の話し合いは別として、それを引き受ける工場現場の気質としては、「できたときが納期」なのです。 納期の設定が戦略を左右する大型生産財の納期遅れは、財務的には金利などの負担増をもたらします。しかし、それ以上に大きな問題は、その生産財を使って生産する商品の、発売時期を狂わすということです。つまり販売戦略や経営戦略に齟齬を生じさせることになります。日本の個別受注生産に対する顧客の信頼は、今では世界の常識になっています。しかし、このやり方を外国に持ち込むことはできないでしょう。個別受注生産を管理するシステムは、日本的モノづくりの風土や文化に由来するものだと思います。あえてモノづくりのグローバル化に拘泥するならば、そのプロダクトに限定すべきでしょう。プロセスについてのグローバル化はやろうとしてもできないでしょう。これはマニュアル化や、標準化とは違う次元に属することです。約束したことへの責任感や、発注者の意図や期待に応えてあげようという善意と意思が、この次元すなわちベースになっているからです。
追番管理──徹底した「紐づけ」でムダを排除 MRPの代替手段見込み生産方式は、モノづくりのグローバル化に適しています。そのせいもあって、この生産方式向けの生産管理ソフトは、コンサルタント会社やコンピュータ企業などによって数多く開発されてきました。なかでもよく普及しているのは、プロローグのマンガでも紹介した MRPです。しかし、このシステムにも大きな難点があり、そのなかで、「 MRPに代わる生産管理ソフトはないか?」と考えられるようになりました。具体的には追番管理( Sequence Numbering System、 SNS)がそれに該当します。このシステムのコアコンセプトは、ある製品に必要な材料や部品を、完全に「紐つき」にして1つの余分もなしに生産することです。そのためすべての材料や部品に、製品生産計画に関連させた番号を付けます。これがシーケンス・ナンバー( Sequence Number)です。この番号には2つの意味が隠されています。その 1は部品1つ1つを区別する背番号であること。その 2は累計になっていることです。図 34で説明しましょう。
製品 Aは部品 aが 3個、 bが 2個で構成されています。この製品の生産を追番管理で計画すると図 34のようになります。まず Aの6月 1日から 5日までの計画は、 1行目に 5、 1、 2、 3、 2、完成実績の累計は 5、 6、 8、 11、 13です。シーケンス・ナンバーは計画だけでなく、進度の把握にも使われます。たとえば部品 aの完成実績の累計は、6月 5日現在で 30になっているとします。これに対応する計画は、図によって 39であることがわかります。つまり生産数量にして 9個分遅れています。このようにしてすべての材料や部品の、工程別の進みや遅れが迅速かつ正確に把握することができるのです。これは追番管理の特徴になっている計画と実績の二元管理の効果といえるでしょう。追番管理の特徴 ①計画と実績の管理追番管理における二元管理とは、計画データの作成と実績データの収集作成を、まったく別のシステムで行うことをいいます。計画の立て方は図によって簡単に説明しましたが、実績は品目別工程別に、完了のつど累計をとるのです。この段階では、計画とはまったく無関係です。進度の把握は、この計画データを、品目と工程および日程をキーにして、対比することで OKになります。計画と実績の二元管理には、もう1つのメリットがあります。それは計画の変更がきわめて簡単なことです。一般に継続生産型の計画では、繰り越し在庫が計算の出発点になります。繰り越し在庫は一種の実績です。つまり計画と実績が一体化しています。そのため計画を早く立てようとして、繰り越し実績データの収集が急がれるのですが、実際はどうしても遅れがちになります。そのため一般には、計画変更の情報処理が迅速にできないのです。しかし最近のように変化の激しい経営環境では、計画の変更は日常茶飯事でなければなりません。それが容易にできないような生産管理では困ります。追番管理の場合は、先に述べた理由によって計画変更がきわめて容易です。追番管理の特徴 ②「紐づけ」の徹底追番管理の次の特徴として、「紐つき生産」が挙げられます。つまり材料や部品の生産数量は、製品の生産計画に直結したシーケンス・ナンバーで指示されます。これは別の言い方をすると、総所要量計算だけでよいことになります。一般には、在庫数を控除する正味所要量計算が必要ですから、その違いは大きいといえるでしょう。情報処理の側面だけを取り上げても、効率の良さは歴然としています。しかし、真のメリットは別のところにあります。それは、材料や部品の段階で、在庫そのものを持つ必要がないことです。その理由は、すべての材料や部品の生産計画を製品生産計画と直結させる、いわゆる「紐つき」になっているからです。これに対して MRPのように、紐をつけない材料や部品の計画は、対応する製品をあらかじめ特定することができません。つまり不特定なニーズを想定しているので、安全のために在庫が必要になるのです。今日では、在庫の削減は最も重要な経営課題の1つになっていますが、紐つき方式によって、在庫は限りなくゼロに近づくことになるでしょう。 ストック連鎖型生産とフロー型生産追番管理の特徴として、計画・実績の分離と紐つき生産の効果を説明しましたが、なぜ、そのようなことが可能になるのでしょうか。理由は追番管理の生産思想にあります。次の図 35で説明しましょう。
一般に工場で行われる生産は、ストックとフローの組み合わせになります。図で示したストック連鎖型生産はそれを表しています。工程内では仕掛品は流れますが、工程間には加工が終わった部品のストック、つまり在庫があります。その次にはアセンブリーの在庫があります。いかにもムダに見えますが、これらの在庫がなければ市場が求める短納期には対応できません。たとえば納期が 1日しかない場合は、組立の日程しかありません。注文を受けてから材料を調達したり、部品を加工していては間に合わないのです。部品やアセンブリーの在庫があれば、すぐ組立に着手できます。最近では在庫ゼロを掲げる会社が多くなりました。しかし生産に 10日掛かるのを、納期 3日で納品するのは不可能です。その工場になくても、下請け工場などに部品の在庫があるから対応できるのです。一般の生産管理システムも、このようなストック連鎖型生産、すなわち中間工程の在庫を前提にして設計されています。だから総所要量計算のほかに、その在庫数量を控除する正味所要量計算が必要になるのです。 フローとして認識し一貫管理これに対して SNSは、生産全体を工程の連鎖すなわちフローとして認識します。仮に倉庫があっても、それは倉庫という工程にある仕掛品とみなします。つまり生産過程にある材料や部品は、すべて一律にフローとして捉えるのです。その結果、図で見るように全品目にシーケンス・ナンバーを付けることができました。麻雀でいえば一気通貫のようなもので、一貫してコントロールできるのです。仮に受注計画が変わっても、それに合わせて生産計画を変更するのは簡単です。在庫の概念がないので、総所要量計算をするだけで、正味所要量の計算がいりません。総所要量計算の結果を、新しいシーケンス・ナンバーとして付け直せばよいのです。しかし MRPのようなストック連鎖型の場合は、追番管理のように一気通貫方式でコントロールできません。図で見るように、工程の間にある在庫データは、在庫管理のための別システムで処理されなければならないからです。
SCM──供給網をどう管理するか モノと情報の流れを高速に処理 SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)とは、ロジスティクスを強化した「一気通貫」型の物流システムです。そもそもロジスティクスとは何かということですが、本来これは軍事用語で、兵站すなわち輸送を意味しています。戦闘地帯から後方にある軍の、諸活動・機関・諸施設を総称したものです。また戦場においては部隊の移動と支援を計画し、それを実施する活動でもあります。具体的には物資の配給や整備、兵員の展開や衛生、施設の構築や維持などが含まれます。この概念をビジネスに応用したのがビジネス・ロジスティクスですが、 SCMは、それをさらに2つの面で進化させた考え方になります。その1つは、 IT(インフォーメーション・テクノロジー)をフルに活用していることです。材料の調達と工場内の工程、配送センター、輸送、販売店までの一連の流れがジャスト・イン・タイムになるようにシステム化されます。そのためモノの流れと情報の流れを一元化して、販売と生産を直結し、超高速で処理できるようにします。そしてもう1つは、従来型の物流にとどまることなく、新しい機能が加えられたことです。前提となるインフラ、すなわち物流ハードウェアの再整備と、それをコントロールする情報システム、調達から販売までの社内外を含む組織体制も加えます。次の図 36は、その全体のイメージを表しています。
高度な管理システムによる運用このように SCMでは、販売時点の情報によって製品の売れ行きを予測し、月単位、週単位、さらには時間単位の計画を立てて生産や輸送を行います。もちろん予測には誤差がつきものですから、それを見込んだ在庫も必要です。しかし余分な在庫は命取りになるので、在庫水準は最低限に抑えなければなりません。このように相反する要求を充たすには、綱渡りのように高度な在庫管理システムも欠かすことはできません。今や、市場は世界に拡がっています。それに伴って S CMの範囲も、地球規模に拡げなければなりません。販売拠点をどこに置くかは経営戦略として重要な課題ですが、生産拠点や物流拠点の配置もそれに劣らず大きなテーマです。 SCMを最適のものにするには、これらの各拠点を総合的に組み合わせることが必要になります。その結果、 SCMの管理機能としては、販売管理、生産管理、倉庫管理、輸送管理などの他に財務機能や開発機能までカバーする必要が生じます。たとえば通貨や税制の違いなどは、今日ではリアルタイムで調整処理すべき日常的な業務になっています。一方、製品の多様化や開発スピードのアップに伴い、 SCMにも開発機能の一部を加える必要が生じます。特に開発から本番生産に移行する境界領域が問題です。たとえば複雑な構造の製品が内蔵する部品の数は非常に多いので、そのための部品構成表の作成や、新しい調達先の開拓、さらには新しい工程の設定など、その手間は増える一方です。従来はこれらを開発部門に一任していましたが、今後は SCMでも本格的に関与することになるでしょう。実際、新たに SCMの管理を目的にするシステムがいくつか開発されつつあります。その代表例がマンガパートでも紹介した ERPシステム( Enterprise Requirements Planning System)です。このシステムは、企業全体を経営資源の有効活用の観点から統合的に管理し、経営全体の効率化を図ることを目的にしています。
製品の大型化──計画性の大切さがますます見直される 巨大構造物の生産管理は……?モノづくりといえば、つい身近なモノが頭に浮かびます。自動車やテレビ、カメラをはじめとして、文房具、台所用品、顕微鏡、ドレス、スーツ……それこそ枚挙に暇がありません。特に近年に至っては、その範囲は際限のないほど拡大しています。ここでは、その拡大について考えてみましょう。近年において、日本が世界に誇る拡大プロダクトの典型は、宇宙ロケットでしょう。その他にも超高速鉄道システム、全長 3911メートルに及ぶ世界一の明石海峡大橋、トルコのボスポラス海峡の底に敷設した海底トンネル……など、挙げていけば際限なく出てきます。日本は、このような大物づくりのパワーを、いつ培ったのかと不思議に思うほどです。多くの人は、たぶん戦後だろうと考えるかもしれませんが、そうではありません。かの巨大戦艦・大和の建造は 1937年 11月に始まっているのです。しかも進水したのは、 1940年の8月ですから、戦中のわずか 2年 9ヵ月でつくり上げたことになります。本書ではモノづくりを、プロダクトとプロセスおよび生産管理という 3本立てで考えてきましたが、それを戦艦大和の建造に当てはめたらどうでしょうか。プロダクトについては、設計図があるので理解できます。プロセスについても、呉海軍工廠という巨大造船所(工場)で、優秀な技術者や技能工を大動員して、やり遂げたことが想像できます。しかしわからないのは、そのプロダクトとプロセスを結ぶ生産の管理は、どのようにして行われたかということです。これほどの巨大プロジェクトを、短時間でやり遂げた仕組み、すなわち生産管理の内容が公式記録にないのです。そこで推定するのですが、たぶん大日程計画の考え方は当時からあったのでしょう。すなわちまず着手日と最終納期を決め、その範囲の中で設計(詳細設計)、材料調達、加工、サブブロックの組立、大ブロックの組立などの大工程を割り当てたはずです。さらに日本の生産計画には、ラップ方式という考え方があります。俗にサシミ方式とも言われるのですが、図 37の bで示したやり方です。
信頼が下支えするサシミ方式前工程の仕事がある程度進むと、ロット全体が終了しなくても、一部のでき上がった部分だけでも引き渡すのです。たとえばロット 100の場合は、 20個を先渡しするのです。後続の工程は、この部分については作業を始めることができます。しかし正式にはロット 100と決めてあれば、その全部ができるまでは待たなくてはなりません。このやり方は製造現場だけでなく、設計と製造や、資材調達でも見受けられます。日本ではこのようなやり方が、工場内のみならず外注や購買先にまで及んでいます。つまり信頼や親切心といった独特の産業風土が、日本のモノづくりの前提にあるのです。欧米型のモノづくりでは、このようなやり方はあり得ないでしょう。責任の徹底した明確化やセクショナリズムといった組織環境の国では、 a方式しかあり得ないのです。もちろんこのような大型生産は、日本だけのものではありません。とくにアメリカでは、壮大なプロジェクトを数多く手がけてきました。そして納期通りに完成させるために、優れたプランニング手法を開発してきました。 PERTなどは、その好例です。しかしアメリカ型巨大プロジェクトの多くは、能力制限なしで進められてきました。マンパワーや予算が不足すれば追加が可能です。一方、ここで取り上げている日本型の大型プロジェクトは、すべて制限条件の下でやっています。その意味で日本が、大型プロジクトを納期どおりに達成する能力は、世界でも傑出したものといえるでしょう。このように大型プロジェクトを、短期的にやり遂げる日本のモノづくりパワーは、戦艦大和を建造した頃から始まり、戦後の工場に引き継がれました。それには以下に示した2つの特徴があります。 1 納期を先に決め、逆算方式で工程別日程を決める 2 サシミ型の日程計画にする(欧米ではありえない)これらの特徴を考慮に入れると日本の生産管理は、これから予想されるプロダクトの巨大化にも、十分に対応できると考えられます。
3 Dプリンターをどう活用するか 試作以外にも広がる用途ここまで難解と言われてきた生産管理の実務について、計画・手配・進捗管理という視点から解説してきました。皆さん、理解してもらえたでしょうか。本書の最後に、製造業の常識を大きく覆すかもしれないとされる 3 Dプリンターについて触れて終えることにしましょう。 3 Dプリンターの技術はすでに普及の段階にあって、これを使って製造するプロダクトは数多くあります。製造業を中心に建築、医療、教育、先端技術などの幅広い分野で需要があるからです。用途は業界によって様々です。たとえば製造分野では、製品や部品などのデザイン検討や機能検証のために重宝されています。建築分野では、コンペやプレゼンテーションなどで使われます。また医療分野では、患部の手術前検討用モデルの製作などに普及しています。そのほか、教育分野ではモノづくり教育のツールとして、先端技術分野ではテストパーツ製作など、実に幅広い分野で用いられるようになりました。このように 3 Dプリンターの用途とニーズは拡大の一途を辿りつつありますが、それに呼応してプリンター自体の性能アップと価格の低減も加速しています。この動きによって普及の速度はますますアップするでしょう。 生産プロセスを単純化する可能性も 3 Dプリンターが作り出すプロダクトの種類も、今後はさらに増えるでしょう。プリンター自体の種類や性能も、需要に応じて増大していくはずです。しかし従来型モノづくりのプロセスとして考えると実に不思議なことになります。もはやプロセスミックスは必要でなく、 3 Dプリンター単体でよいからです。プロセスミックスが必要ないということは、生産管理もいらないということになります。それどころか、 3 Dプリンターに適したプロダクトを選択することによって、個人でも製造業に参入することができます。 3 Dプリンターの種類は多様化しているし、サイズも大から小まで自由に選択できます。しかも複数台を設置しても、スイッチオンの後はプログラムにしたがって自動的に動きます。まさに個人メーカーの出現です。このようになれば、もはや生産管理は不要になるでしょう。もちろん、世の中にあるプロダクトのすべてを、 3 Dプリンターで生産することはできません。しかし、この夢のプロセスで生産できる範囲は、今後も拡大を続けるでしょう。つまり生産管理を必要とするモノづくりと、それを必要としないモノづくりが混在することになります。そのような時代が到来したとき、生産管理の内容はどのように変化するのか、おおいに考えさせられるところです。
著者田中一成(たなか・かずなり)宮崎県出身。株式会社アルタメディア顧問。日本合成繊維(株)に勤務の後、日本能率協会で経営コンサルタントおよび技術部長職を経て 1977年に独立し、(株)産業スキル研究所を設立。同社代表取締役として数十社の経営管理、物流管理、生産管理、原価管理などのコンサルテーション活動に従事。
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