はじめに 大人を相手に教えるって難しいですよね。大人は子どもと違って、経験があり、自分なりの考えを持っています。プライドも高く、こちらの言うことを素直に聞いてくれない人もいます。納得がいかなければ反論もしてきます。黙って、こちらの話を聞いてくれたとしても、心の中では色々と文句を言っているのかもしれません。大人と言っても、人それぞれ十人十色です。 子どもに教える場合であれば、相手は確実に自分より年下で、経験も自分よりないので、何も考えずに教えられますが、年上の部下に教えるときは、「この人相手に自分が教えるなんて、おこがましい……」と腰が引けてしまうこともあります。逆に、大人とは言え若い人が相手だと、人によっては基本動作ができていない、マナーがなっていないという状態で、「こんなしつけみたいなことまで教えなくちゃいけないのか……」とうんざりする時もあります。男性が女性、女性が男性に教える難しさもあります。「これってセクハラになっちゃうかな」と、気を遣いながら接することもあるでしょう。 雇用形態も多種多様です。皆が皆、正社員ではなく、派遣社員の方、契約社員の方、パートさん、アルバイトさんなど色々な立場の方がいます。職場によっては、外国籍の方に教えることもあります。日本語は何とか分かってくれたとしても、肝心なことがなかなか伝わらないもどかしさもあるでしょう。相手も様々なので、大人相手に教えるって本当に難しいものです。 しかも、教える自分も、教え方をきちんと学んできたわけではありません。なんとなく見よう見まねで教えているけれど、これが正しいやり方なのかわからない。本業で忙しい中、いきなり「教える役」を命じられ、正直嫌々ながら教えている。「自分もちゃんと教わってきてないのに、他人に教えることなんてできない」と心の中で不安に思っている人もいるかもしれません。教えることは自分の仕事ではない、と割り切っている人もいることでしょう。 多様な背景を持つ大人に対して、教えた経験もない、教え方も知らない、言ってみれば「素人」がいきなり教える立場に立つ。これが、大人相手に教える際に感じる難しさの原因です。だとすれば、「大人相手の教え方」を知れば、その難しさが解消されるかもしれません。 筆者は、普段企業研修で大人相手に教える仕事をしています。教えている内容は「現場での仕事の教え方」です。現場で新人や後輩を教える立場になった先輩社員に対して、どのように教えたらよいのかを教える研修をしています。 長いこと講師の仕事を続けていますが、私自身も大人相手の教え方に悩み、苦しんできました。仕事をしながら 3年間、大学院に通い、自分に足りない点を補おうとしてきました。大学院で学んだことは大きく、自分がこれまで経験則でやってきたことを整理し、言語化するきっかけをもらいました。また、研修という仕事を通じて多くの参加者と話す中で、現場での教え方の工夫もたくさん教わってきました。 この本では、それらの現場経験や学術知見を活かし、誰が相手でも、「これさえ押さえておけば大丈夫」といった教え方の本質をお伝えできればと思っています。 それでは、これから一緒に、大人相手の教え方について学んでいきましょう。関根 雅泰 CONTENTSはじめに第 1章 正しい「教え方」って何?「教え方」なんて教わったことがない子どもと大人は教え方が違う
第 2章 教え上手な人の教え方
「教え上手、教え下手」あなたはどっち?教える相手が 100人いたら 100通りの教え方教える前にすべきこと「言葉」「文字」「行動」でレベルを把握する行動目標をレベル分けして目的地をはっきりさせる「イラっ」としたら、4つのタイプで考えよう IBMの調査で分かった文化の「4つの次元」
第 3章 命令するような教え方していませんか?
「教える」とは3つの手助け獲得する手助けをして知識と技術を教える新しい会社になじんでもらう相手が変わってはじめて教えたことになる
第 4章 一方的に説明しても伝わりません
上手な教え方には 3つのポイントがある伝える前にコップの大きさを確認する持っている情報をすべて伝えない
「¥ 1, 000, 000」にすると分かりやすい上手な教え方は伝えて終わりじゃない大人相手の説明に必要な「吐く・吸う・吐く」
第 5章 早く会社になじめるような仕掛けをつくろう
職場の雰囲気作りが会社と新人のためになる「マニュアル読んでおいて」は教えたことにならない辞めさせないために「チヤホヤ」する?会話が続くか不安でも話をする機会を作る
第 6章 プライドのある大人に素直になってもらうには
10年、 20年、当たり前だった行動を変える「良い言動」と「悪い言動」の両方をターゲットにする「変えてほしい言動」は多くても2つまで 1年でも 2年でも変わるまで気長に見守ろう
第 7章 「ウマがあわない」なんて言い訳は通用しません
「この人から教わりたい」という関係いまどきの若い奴にもシャッターは開けておこう部下は上司を選べない教える側は「値踏み」をされています
第 8章 「ひとり」ですべてを教えようとしていませんか?
なぜ、教え方は分かっているのに実践できないのか教えることだけが仕事じゃないから時間が取れない教える内容が専門的で対応できないひとりで全部抱えない職場の見える化「人脈マップ」を作ろう新人を受け入れる体制を整える複数で教えるときは過負荷に気をつけよう道のりはバラバラでも目的地は同じにする周囲を巻き込んでいくとすべてがうまくいく教える側も正解が分からないときがある正解が分からないときの教え方
第 9章 忙しい中で教えることはムダじゃない
教えることで得られる7つのメリット自然に経験の棚卸に上に立つ人の心構えが身につく評価がさらに意欲を向上させる仕事の「タコつぼ化」を防ぐ他人の成功パターンを知ることができる「人を動かす」分かりやすい説明力マネージャーとしての基礎新しい未来をつくるおわりに参考文献
「教え方」なんて教わったことがない 教える立場に立ったとき、誰もが最初につまずくのは、「教え方も教わったことがないのに、教える立場になってしまった」ということでしょう。教える技術も分からなければ、教える姿勢も知らない。指導方法を先輩に聞いても、十人十色で何を参考にすればいいか分からない……なんてこともあるのではないでしょうか。 そもそも、「教える」って何なのでしょうか。分かるまでとことん伝えることでしょうか。それとも、自ら答えを導き出すまで見守ることでしょうか。どの教え方も正しくて、間違っているようには思えません。考えれば考える程、教え方に悩んでしまいます。 確かに、教え方には様々な方法があるかと思いますが、この本では2つの本質を取り上げ、その2つを中心に、教えることについて話していきたいと思います。 その2つとは、 ●「相手の立場に立つ」 ●「学習の手助け」 です。 一見すると、たいしたことないように見えるかもしれませんが、これら「教えることの本質」を押さえておくと、大人相手に教えることが楽になります。これから詳細を見ていきますが、まずはその前に、子ども相手と大人相手に教えることの違いについて確認していきたいと思います。子どもと大人は教え方が違う 子どもに教える大人はたくさんいます。親はもちろん、学校の先生やスポーツクラブの指導者など、子どもに教える大人は多く存在します。ここでは、学校の先生を例として取り上げてみましょう。 学校の先生は子どもへの教え方を学び、教壇に立っています。そして、子どもに教えることを専門職として行っています。当たり前のことですが、先生から見たら、子どもたちは自分より年下です。子どもに教えていることは、国語や算数といった「教科」が中心です。「これらを学んでおかないと将来困るかもしれませんよ」という前提で、子どもたちは教科を学んでいます。子どもたちも、「子どもは学校で学ばなければならない」という義務教育の考えのもと、受動的に、いわば真っ白なキャンバスのように、大人の教えを吸収する段階と言えるでしょう。 しかし、「大人に教える大人」という職業は少ないです。ビジネススクールの先生、カルチャースクールの講師、そして私のような企業研修講師でしょうか。大人が学ぶ場には、年齢も背景もバラバラ、多様な価値観を持つ人たちが集まります。年齢や背景が違えば、知識や経験の差も出てきます。 私の専門である企業研修で考えると、受講生の大人たちは今すぐ役立つ何かを学びたいと思って研修に参加してきます。彼らは職場で何らかのことで困っていて、その問題解決につながればという思いで研修に参加しています。もちろん「上から言われたので、仕方なく研修に参加した」という参加者もいるとは思いますが、教わる側にそれぞれ教わろうとする理由や思いがあり、能動的に動いていると言えます。 そういう意味では、子どもの真っ白なキャンバスというイメージとは違い、積極的で華やかな色から、後ろ向きで少し濁っているような色まで、様々な色があるキャンバスが想像できます。 私自身は、子どもと大人に教える大きな違いは、その「年齢」にあると思っています。子どもが相手の場合は、教える側の方が明らかに年齢も上で、経験も多いので、何かを教えたとき素直に受け取ってくれることが大半です。しかし、大人は年齢を重ねている分、経験や自分なりの考えを持っています。そして相手が自分よりも年上の場合もあります。そういう大人に対して教える際には、子どもたちに教える時とは違った何かが求められるのです。その「何か」とは何なのでしょうか。 この本では、その「何か」を「教えることの本質」という観点で見ていきます。
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