【新書版】孫社長にたたきこまれた「数値化」仕事術目次はじめに──数字が「最大の味方」に変わる仕事術第1章なぜ「数値化」すると生産性が劇的にアップするのか数値化仕事術のメリットと七つの基本孫社長が「数値化」に徹底的にこだわる理由数値化すると、「どの問題から手をつけるべきか」がわかる声が大きい人の的外れな提案や意見を通さない!「上司が動いてくれない」のは数字で示していないから「数値化仕事術」を実践するための七つのポイントポイント❶数字は、「与えられるもの」ではなく、自分で「取りにいくもの」ポイント❷数値化の目的は、「どうだったか」ではなく「どうするか」ポイント❸数値化のファーストステップは「分ける」。
数える前にまず分けろ!ポイント❹問題のありかが見えてきたら、さらに細かく分けて計測してみるポイント❺数値化のゴールは、現実の問題を「数式で表す」ことポイント❻数値化したら、あとはPDCAを高速で回し続けるポイント❼問題解決後も数字でチェックを続け、環境変化にいち早く気づく現代のビジネスにおいて最も重要な「五つの数字」数字をどう活用するかで、致命的な差がついてしまう時代第2章問題解決に絶対役立つ「データ分析・七つ道具」統計知識も高度なエクセルスキルも一切不要!①プロセス分析──シンプル&簡単な手法なのに効果は抜群!②散布図と単回帰分析──二つの要素の関係性を数字でつかめる③重回帰分析──「精度の高い予測値」を計算でき、次の一手を素早く打てる④パレート図分析──「優先的に解決すべき問題」が一目瞭然⑤T勘定──複雑な業務フローでもボトルネックがつかめる⑥差異分析──計画と実績にギャップが生じた要因を探る⑦LTV分析──「LTVが最大化するコストのかけ方」がわかる超おすすめツール❶「必要な回答者数(サンプルサイズ)」がわかる!──「SurveyMonkey標本サイズカルキュレータ」超おすすめツール❷「ABテスト」を簡単に行える!──「Googleオプティマイズ」超おすすめツール❸「テキストマイニング」が無料で!──「UserLocalテキストマイニングツール」第3章よくある「間違った数値化」と気をつけたい三つのワナ数値化しているのにうまくいかないのはなぜか?「間違った数値化」パターン❶数字の単位、定義、解釈が曖昧「間違った数値化」パターン❷「分け方」が甘い、あるいは不適切「間違った数値化」パターン❸計測している数字がゴールと結びついていない「間違った数値化」パターン❹数字の「マンネリ化」「間違った数値化」パターン❺数字の「内向き化」「間違った数値化」パターン❻PLANばかりでDO(実行)していない「間違った数値化」パターン❼相反する二つの数字を同時に達成しようとしている日本の多くの企業は、〝数値化メタボ〟状態に陥っている
数値化のワナ❶「累積」のマジック数値化のワナ❷「平均値」のマジック数値化のワナ❸「配賦」のマジック第4章「数字に強い人」は知っている理論・法則知るだけで仕事の成果が大きく変わる!①大数の法則と期待値──いかに有利なサイコロに変形させられるか②鮭の卵理論──「数うちゃ当たる」をいかに低コストでやり続けるか③72の法則──「複利のパワー」は絶対に味方につけるべし④限界効用逓減の法則──どんな焼肉もその美味しさは徐々に減っていく⑤ダンバー数──二〇〇人を超えたら集団を分ける⑥マジックナンバー7──一人の上司がみられる部下は七人まで⑦イノベーター理論とキャズム理論──「マニア受け」で終わらないために
第5章究極の数値化仕事術・ソフトバンクの「3次元経営モデル」
どんなビジネスにも応用できて効果抜群!ソフトバンクの経営に数値化仕事術はどう活かされているかまずは「顧客数」を増やすことに集中し、一気にナンバーワンになる「発表経営」で認知度を引き上げ、まずは潜在顧客を増やす「無料化」で心理的ハードルを下げ、試用顧客を増やす付加価値の高い追加サービス・オプションで、「顧客単価」を高めるあらゆる販売手法や販売チャネルを〝一気に、同時に〟試す一人あたりの顧客獲得コストを、販売手法・チャネル別に計算・分析するソフトバンクの事業計画と、普通の企業の事業計画の違いLTVをセグメントごとに算出し、「取りにいくべき顧客」を明確にする新書版特別章「数字を使える組織づくり」三つのポイント数字に使われるな!数字を使いこなせ!数値化メタボがより深刻に。
「バニティメトリクス」も急増リーダーだけでなく、誰もが数字を使えるようになる必要ありポイント❶「DIKW」に分けて考えさせるポイント❷プロセス思考で考えさせるポイント❸スループットとボトルネックを意識させる数字に「使われる組織」から数字を「使いこなす組織」へおわりに──コロナで事業環境が激変した今こそ、数値化仕事術が役立つ!
どんな企業でも、毎日のように現場で問題が発生します。
担当者が考えに考えても、良い解決策が思い浮かばない。
現場で働く人たちが話し合いを重ねても、事態を打開するアイデアが出てこない。
もちろん、私が在籍していた頃のソフトバンクでも、社内のあちこちでそんな状況が発生しました。
するとなぜか、孫社長から私にこう声がかかるのです。
「三木、お前が行って何とかしてこい」どうやら私は、〝問題解決屋〟という「おそうじ係」の役割を期待されていたようです。
それはソフトバンクを退社し、独立した後も同じでした。
必死に知恵を絞ったものの、一向に問題の解決策が見つからず途方に暮れている企業や組織から助けを求められ、私は社外取締役やアドバイザーとして、数々の難題を解決してきました。
その中には、成長が伸び悩んで困っているベンチャー企業もあれば、当時「消えた年金問題」で窮地に立たされていた旧社会保険庁のような政府系機関もありました。
しかしどんな依頼でも、私がやることはいつも同じです。
それは「問題を数値化してみる」ということ。
数値化すれば、何が問題かが明確になります。
そうなれば、問題は半分解決したも同然です。
第1章では、「なぜ数値化すると、超高速で問題が解決するのか」をまず解説し、その後で数値化仕事術の「七つのポイント」を紹介します。
孫社長が「数値化」に徹底的にこだわる理由ビジネスパーソンであれば、誰もが多かれ少なかれ、数字を意識しながら仕事をしています。
営業であれば、今月の売上が気になる。
WEBマーケティングの担当者ならサイトへの訪問数やコンバージョン数が気になる。
人事であれば、新卒学生の応募者数や社員の離職率が気になる。
むしろ、数字をまったく意識しない人のほうが少ないでしょう。
これが経営者や管理職になれば、なおさらです。
中長期的な経営計画から日々の予算管理やコスト管理まで、組織を運営するのに必要な物事はすべて数字をもとに動いているからです。
ただし実際に、どれだけの人が数字の本当の威力を理解し、それを仕事に活かせているか。
そう問われたら、たちまち疑問符がつく人が大半ではないでしょうか。
そんな中、孫社長の数字へのこだわりは、他の経営者と比べても飛び抜けていました。
私も、米国ヤフーの幹部たちをはじめ、数々のグローバルリーダーの仕事を間近で見てきましたが、孫社長の数字への執着ぶりは間違いなく世界トップクラスだと確信しています。
そんな経営者のもとで働くのですから、ソフトバンクの社員たちも、当然ながら「数字で考え、数字で語ること」を求められます。
役員や管理職クラスはもちろん、現場の一般社員に至るまで、その方針は徹底されました。
日常の報連相でも、数字にもとづいて話さなければ相手にされない。
それがソフトバンクのカルチャーです。
孫社長とのミーティングに呼ばれ、「これはなぜ前月比一一〇%なんだ?」「一三〇%に上げるにはどうすればいい?」「一三〇%は難しい!?その根拠は?」と矢継ぎ早に問いつめられ、何も答えられずに退散していく幹部たちの姿を何度も目にしたことがあります。
とりわけ、社長室長として常に孫社長のそばにいた私には、情け容赦がありませんでした。
だからこそ私は、「何事も数字で考える」というビジネスの基本を、自分のものにすることができたのです。
目標を数値化することで、初めて人は動き出せる孫社長は、なぜそれほどまで数字にこだわるのか。
それは、数値化することのメリットを、誰よりも知っているからです。
数値化する大きなメリットの一つは、「目標達成までに何をすべきか」という具体的なアクションが見えてくることです。
これは皆さんも、経験から何となく理解しているのではないでしょうか。
例えば「体重を減らしたい」と思っているだけでは、たいていダイエットは始められません。
では、数値化するとどうでしょうか。
「三ヶ月後までに、六kgやせる」こうして数字に置き換えると、「一ヶ月ごとに二kg、一週間ごとに五〇〇g減らせばいい」と即座にわかります。
すると、「一週間で五〇〇gなら、夕食の量を少し控えるだけで達成できそうだ」などと、〝やるべきこと〟が具体化します。
こうして「次にとるべき具体的な行動」がわかれば、人は目標へ向かってスタートを切りやすくなります。
つまり、数値化することで、初めて人は動き出せるのです。
同時に、数値化にはモチベーションを高める効果もあります。
ダイエット中も、毎日体重を測定して記録するだけで、「目標まであと三kgだから頑張ろう!」と思えるもの。
数値化すれば、ゴールまでの達成度や自分が努力した結果が目に見えてわかるので、さらにやる気がアップします。
売上が伸びない理由を、数値化で分析したら?仕事やビジネスの問題解決においても、数値化は同様の効果を発揮します。
問題を数値化すれば、次にとるべきアクションが具体化し、解決に向けて動き出せます。
問題を数字に置き換えれば、現状を正しく把握し、問題の根本的な要因を明確にできるからです。
一見すると何が何やらわからないほどの大混乱に思える状況も、数値化すればその正体を明らかにし、必ず解決の道筋を見出すことができます。
ある企業の営業部では、売上がまったく伸びず悩んでいました。
アポを取るために人手を増やし、必死に電話をかけまくり、営業マンたちは夜遅くまで残業して外をかけ回りましたが、事態は好転しません。
相談を受けた私は、問題を数値化することにしました。
全体の売上や受注件数だけでなく、「新規顧客獲得数」や「受注継続率」の数字を出し、さらにこれらの数字を「エリア別」や「業種別」でも調べるよう指示したのです。
その結果、わかったのは次の二点でした。
・新規顧客の獲得数は伸びているが、二回目以降の受注継続率が低い・美容業界の継続率が断トツで高く、その他の業界は総じて低いこれにより「現状」が正確に把握されたと同時に、「根本的な問題の要因」も明らかになりました。
問題の要因は、「せっかく獲得した新規顧客の多くに契約をすぐ打ち切られてしまうこと」と「受注を継続する見込みのない相手にまで営業をかけていること」にあるのは明らかです。
ここまでわかれば、次にやるべきこともわかります。
答えは「美容業界への営業に集中する」です。
そこで営業担当者たちは、手当たり次第に電話をかけるのをやめ、見込みリストの中から美容業界だけに絞って営業をかけました。
すると新規顧客の大半がそれ以降も契約を継続してくれたため、累積の受注件数も順調に伸びて、全体の売上もアップしたのです。
このように、どれほど困難に思える問題も、数値化すれば解決の糸口がつかめます。
しかも、解決までの時間を一気に短縮できます。
だから孫社長はあれほど数字にこだわり、数値化の威力を存分に活用してきたのです。
ソフトバンクは創業以来、新たな分野に次々と進出してきました。
ソフトウエア販売に始まり、インターネット検索ポータル「Yahoo!JAPAN」を立ち上げ、ADSL事業に参入し、携帯電話事業を始めてiPhoneを独占販売し、Pepperの開発でロボット事業に乗り出す。
10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を立ち上げ、世界中の有望ベンチャー企業に投資──。
しかもこれらを、わずかな期間でやり遂げてきたのです。
経験もノウハウもない未知の分野に乗り出すのですから、当然あらゆる問題が発生します。
それでも急成長を続けてこられたのは、孫社長と社員たちが「問題の数値化」という技術を駆使して、他社の何倍、何十倍もスピーディーに解決してきたからに他なりません。
だからこそ、ゼロから創業した小さなベンチャー企業が、わずか三十五年ほどで時価総額一〇兆円規模の巨大企業へと進化できたのです。
数値化すると、「どの問題から手をつけるべきか」がわかるビジネスや仕事がうまくいっていない時は、たいていの場合いくつもの問題が同時に発生するものです。
売上は伸びないし、顧客からのクレームは増えるし、それに対応するために社員たちの残業は増えるし、そんな仕事に疲れて辞める人も続出する。
まるで負が連鎖するように、あちこちで問題が火を噴く。
そんな状況を経験したことがある人は少なくないでしょう。
しかし、すべての問題を一度に解決するのは現実的に不可能です。
問題解決のために使える人、時間、お金などのリソースには限りがあります。
よって、何から優先して着手するか決めなくてはいけません。
ところが、会議で解決策を議論しても、すんなりと意見が一つにまとまることはめったにありません。
ある人は「営業の人員を増やすべきだ」と主張し、ある人は「販促キャンペーンに力を入れたほうがいい」と譲らず、ある人は「クレーム対応の専門家を雇ったら?」と提案する。
全員がそれぞれの立場でものを言うので、結局話し合いは堂々巡りになりがちです。
あるいは、あまりに問題が多すぎて、どこから手をつけていいかわからず途方に暮れるしかないというケースもあるでしょう。
そんな時も、数値化が強い味方になります。
数値化すれば、「どの問題から着手すればいいか」という優先順位が明確になるからです。
私はソフトバンク時代、ADSL事業「Yahoo!BB」のコールセンターを統括する責任者を任されました。
このうち、業務案内を担当するコールセンターには、当時お客様から毎月一〇〇万件以上の電話がかかってきました。
サービスに関する問い合わせから、ソフトバンクへのご意見やクレームまで内容は様々でしたが、いずれにしても数が多すぎます。
このままでは、業務コストやオペレーターの人件費はかさむ一方です。
またそれ以上に問題だったのは、問い合わせの電話にきちんと対応できないことで、せっかく苦労して獲得した顧客が流出してしまう恐れがあることでした。
私は早急に解決策を見つける必要に迫られました。
二割の問題を解決すれば、全体の八割は解決するしかし、現場のスタッフにヒアリングをすると、人によって意見はバラバラでした。
「お客様がいちいちコールセンターに問い合わせなくてもわかるように、WEBサイトの『よくある質問』を充実させてほしい」「申し込みを受け付ける代理店の営業が、もっと詳しく商品説明をすべきです」「オペレーターの対応スキルを上げるため、研修に力を入れたらいいのでは?」「いっそのこと、コールセンターの営業時間を短縮すればいいじゃないですか」これではいくら意見を集めても、「何から着手すべきか?」の優先順位がつけられません。
そこで私は、コールセンターに寄せられた問い合わせやクレームの記録をすべてプリントアウトしてもらいました。
そしてスタッフにも手伝ってもらい、内容の種類別に分けてみたのです。
といっても、厳密に基準を作ったわけではなく、あくまでざっくりとした分類です。
ざっと目を通しながら、「これは『モデムの品質』に関することだな」「これは『操作方法』がわかりにくいってことかな」「これは『営業への苦情』だろう」といったように、大まかに分けていくだけで十分です。
「だいたい七種類くらいに分けてほしい」と頼んだので、最終的に私たちの目の前には七つの紙の山ができました。
そのうち二つは、他に比べて圧倒的に大きな山になりました。
パッと見ただけでも、この二つだけで全体の八割ほどを占めているのがわかります。
つまり、二つの問題を解決すれば、問題の八割は解決するということです。
これで、何から着手すべきかが明らかになりました。
優先順位をつける基準は、「解決すると効果が大きいものからやる」です。
この場合、大きな山になった二つの問題を解決することが何よりも優先されます。
それが「モデムの品質」なら、品質管理部門やモデムのメーカーに対応を依頼する。
「操作方法」なら、取り扱い説明書やWEBサイトのFAQを改善する。
「営業への苦情」なら、営業マニュアルを改善したり、代理店への指導体制を見直す。
このように、優先順位さえわかれば、具体的にやるべきことも決まってきます。
あとはスピード感を持って、解決策を実行すればいいだけです。
皆さんも「二:八の法則(パレートの法則)」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
これは「全体の八割は、二割の要素によって決まる」という法則で、問題解決に当てはめると「二割の問題を解決すれば、全体の八割は解決する」と言えます。
コールセンターのケースは、この法則がまさに該当します。
数値化したことで、「これを解決すれば効果が大きい」という二割をあぶり出すことが可能になりました。
これにより、問題解決のスピードは一気に加速します。
どれから手をつけていいかわからないほど多種多様な問題が起こっている状況でも、最短最速で状況を改善し、成果を出すことができるのです。
声が大きい人の的外れな提案や意見を通さない!数値化しなければ、「解決すると効果が大きい問題」を客観的に知ることは困難です。
私がコールセンターでヒアリングをした時の様子を見てもわかるように、人の意見というのは、どうしても主観的になるからです。
過去の成功体験からくる思い込みもあれば、部門間のしがらみもあるし、無意識のうちに自分の保身に走ってしまうこともあります。
人間の思考には、様々なバイアスがかかるものだということです。
だから数値化して客観的な事実を明らかにすると、「思いもよらなかったことが一番大きな問題だった」と判明することが少なくありません。
特に危険なのは、立場が上の人や声が大きい人の意見ばかりが通ってしまうことです。
先ほどの事例のように、「売上が伸びない」という問題が起こった時に、客観的な事実を誰も示せなかったらどうなるでしょうか。
長々と会議をした挙げ句、最後は組織のトップが「結局はやる気が足りないんだ。
営業部はもっと気合いを入れて、足で稼いで来い!」と怒鳴って終わり、ということになりかねません。
そうなれば、もはや周囲は何も言えません。
それまでの議論もすべてムダになります。
どんなに的外れな提案や意見でも、従うしかありません。
しかも永遠に問題は解決しないのです。
これほど非生産的なことはないでしょう。
こんな組織は、遅かれ早かれ、存続できなくなります。
一方、数字は誰にとっても絶対的な事実です。
それを示すのが社長だろうが、新入社員だろうが、関係ありません。
数字の「1」は、すべての人にとって「1」です。
どんなに偉くて声が大きい人でも、その事実を変えることはできません。
孫社長が数字にこだわるのも、これが理由です。
世間の人たちは、孫社長が何でも自分の意見を通すワンマン経営者だと思っているかもしれません。
でも、実際はむしろ逆です。
相手が部下や若手社員だろうと、初めて会う取引先の人間だろうと、それが正しい考えだと思えば、自分の意見と違っていても受け入れます。
相手のポジションや立場はまったく関係ありません。
では、何をもって正しいと判断するか。
それが「数字」なのです。
孫社長は、人の意見やアイデアを「良い悪い」「好き嫌い」などの主観では判断しません。
「これなら結果が出る」と数字で客観的に示せるならOK、示せないなら却下するまでです。
これほど思考がフラットだからこそ、どんなに大きな問題が目の前にあっても、最良の解決策を選択し、最速で実行できるのです。
一方、日本企業の多くは、上の人が言えば、「白いものも黒くなる」という文化です。
だから「上の人がそう言っているから」というだけで、思考停止してしまうのです。
しかしそれでは、現在の日本企業が抱えている様々な問題は解決できないし、変化の時代を生き抜くだけの競争力をつけることもできません。
この低成長から脱却するためには、誰もが当たり前のように数字で思考し、数字で語ることが求められているのです。
「上司が動いてくれない」のは数字で示していないから数値化すれば、根拠もなしに立場が上の人や声が大きい人の意見は通せなくなる。
これは裏を返せば、今まで声を上げられなかった現場の人や若手社員が自分の意見を通し、上の人間を動かせるということです。
前述した「Yahoo!BB」のコールセンターのケースでも、数字がものを言いました。
コールセンターに寄せられた問い合わせを分類した結果、モデムの品質に関するクレームが多いと判明したため、私はさらに深く原因を探ってみたのです。
分析の結果、モデムに関するクレームを減らせば、コールセンターへのコール発生率は五%から四%に減らせるとわかりました。
一コールあたりのコストから換算すると、コール発生率が一%減れば、毎月四〇〇〇万円のコストを削減できます。
私はこれらの数字を盛り込んだレポートを経営陣に提出し、解決策としてモデムのメーカーに改良を要請するよう求めたところ、すぐに実行してもらうことができました。
これが「モデムに関するクレームが多いので、何とかしてほしい」と頼んだだけだったら、上は動いてくれなかったでしょう。
しかし、数字という客観的な事実をもとに、「この問題を解決すれば、会社の経営にとってこれだけ大きなメリットがある」と示すことができれば、上の立場の人間も納得し、自ら動いてくれます。
要するに、「数字=お金に換算しなければ、上は自分たちの問題として認識してくれない」のです。
現場で起こっている問題をそのまま持っていっても、「それは現場で解決しろ」と言われるだけ。
上に当事者意識を持たせ、重い腰を上げさせるには、「うちの会社はこんなにお金を損していますよ」と事実を突きつけるしかありません。
そうしなければ、いつまで経っても根本的な問題は解決されず、問題の矢面に立たされる現場の社員ばかりが苦労し、疲弊することになります。
現場で問題に直面している一般社員や若手社員こそ、数値化のテクニックを駆使するべきなのです。
「この問題解決のために投資すれば、これだけ利益が上がる」と数字を示すのが上を説得する最も効果的な方法であり、下が上を動かす大きな武器になることを知っておきましょう。
「数値化仕事術」を実践するための七つのポイントここまでで、問題を数値化する重要性はわかってもらえたと思います。
とはいえ、「数字が大事なのは理解できたが、何をどうすればいいのか?」と戸惑う人も多いかもしれません。
「毎月の営業会議で数字は報告している。
これ以上やるべきことがあるのか」「上からの指示で、データ収集は散々やらされている。
もう十分ではないか」そう思う人もいるでしょう。
しかし、本書で扱う「数値化」は、むやみやたらと数字を集めたり、過去の実績を確認したりするだけのものではありません。
数字を使うのは、目の前にある問題を解決し、目指す目標を最短最速で達成するためです。
そのためには、「数字をどう扱うか」のコツをつかむことが不可欠となります。
そこで、「数値化仕事術」の基本となる七つのポイントを解説しましょう。
ポイント❶数字は、「与えられるもの」ではなく、自分で「取りにいくもの」私がビジネスパーソンに「問題を数値化することが大切ですよ」と言うと、よくこんな答えが返ってきます。
「数値化なら、すでにやっています。
何しろ会議のたびに、会社から膨大なデータを渡されますからね」しかしその数字は、あくまで他人から与えられたものです。
データを集めて数値化したのは、自分ではなく、上司や他部署の人間です。
では、他人が集めた数字を使って、自分の目の前にある問題を解決できるでしょうか。
もちろん、問題に対する認識が会社と個人で完璧に一致していれば、会社から与えられた数字がそのまま自分の仕事に活用できることもあるでしょう。
でもたいていの場合、会議でもらった資料は結局役に立たず、放置されているのではありませんか?会社から与えられた数字で、自分の問題が解決しないなら、それは取るべき数字が間違っているということです。
個人が直面している問題を、上司や他部署の人が正確に把握できることはまずありません。
もしあなたが現場を駆け回っている営業なら、毎日のように顧客と直接会話したり、店頭で商品の売れ行きや消費者の動向を目にしたりする中で、「これは何かおかしい」「ここは改善すべきではないか」と気づくことが出てくるでしょう。
しかし、社内でマネジメントに徹している上司や、現場に出ない他部署の人間は、その現状を把握する機会がありません。
現状を把握できなければ、正しい問題設定もできないので、それを解決するために役立つ数字を集めることもできません。
だとしたら、誰がそれをやるのか。
そう、あなたです。
〝自分の問題〟を解決するためには、本当に必要な数字を計測し、分析して、「数値」という道具に仕立て上げなくてはいけません。
つまり、自分にとって役立つ数字は、自分の手で作り上げるべきだということです。
仕事に役立つ情報は、最初から数字として存在しているわけではありません。
はじめのうちは、仕事をする中でのささいな気づきやちょっとした違和感でしかないことがほとんどです。
それを放置せず、「この事象を裏づける数字はないか」と考え、問題意識を持った現場の人間が必要な数字を取りにいって初めて、本当に意味のある「数値化」が可能になるのです。
よって、まずは「自分で数値化するんだ」という強い意志を持つこと。
それが数値化仕事術を実践する第一歩です。
ポイント❷数値化の目的は、「どうだったか」ではなく「どうするか」ソフトバンクでは、単なる結果報告は許されませんでした。
「今週の新規顧客獲得数と獲得コストは、こうなりました」孫社長への報告がそれで終わったら、たちまちカミナリが落ちます。
「『どうだったか』はいい。
『どうするか』を話せ」要するに、過去ではなく、未来の話をしろということです。
数値化をする目的は、次のアクションにつなげることです。
もちろん過去の分析は必要ですが、それはあくまで「次はどうするか」の意思決定をするための材料でしかありません。
言い換えれば、「未来=次のアクション」につながらない数値化は、意味がないということです。
これは仕事をするすべての個人が意識すべきであると同時に、上司やマネジメントの立場にいる人は、特に忘れてはならないポイントです。
多くの日本企業では、個人の成果や実績については、こと細かに目標を数値化します。
しかし、数値目標を与えるだけで、「あとは自分で何とかしろ」と個人に放り投げている会社が大半ではないでしょうか。
ひどい場合は、「その人がいかにダメか」を非難したり、部下に自分自身の至らなさを自覚させるために、数字を使っているのではないかと思うような上司までいます。
上司としては、部下に危機感を持ってほしいと考えているのかもしれませんが、数字を出すことが個人を追いつめ、モチベーションを低下させるだけで終わってしまったら、それこそ意味がありません。
あなたが上司の立場なら、「この数値化は、部下が次のアクションをとるために役立つか」という視点もぜひ持ってください。
孫社長は言い方こそ厳しいですが、その点でもやはりフラットです。
たとえ現時点での数字が悪くても、その数字にもとづいて「次はどうするか」を考え、適切なアクションをとって修正できる部下は、きちんと評価します。
むしろ報告した数字が順調でも、「次はどうするか」を問われてすぐに答えられず、「検討します」などとお茶を濁そうとする部下は、容赦なく切って捨てます。
数値化は、過去を振り返って満足するためでも、誰かを悪者にするためでもなく、未来を作るためのものである。
そのことを、ぜひ肝に銘じてください。
ポイント❸数値化のファーストステップは「分ける」。
数える前にまず分けろ!「問題解決につながる数字を自分から取りにいき、未来のアクションにつなげることが重要なのはわかった。
でも、具体的にどの数字を取ればいいんだ?」その疑問はもっともです。
どんな事象も、数値化しようとすればできてしまいます。
目の前にある「リンゴ」でさえ、数値化しろと言われれば、重さ、高さ、色の濃度、糖度、日本での収穫量、品種ごとの収穫量、都道府県ごとの収穫量、輸出量……と、いくらでも数字を拾うことができます。
「数字を取りにいく」と言っても、何をとっかかりとして「これは問題解決につながりそうだ」と判断すればいいのか見当もつかない。
そう戸惑う人がいるのも無理はないでしょう。
でも実は、最初にやるべきことは決まっています。
それは、「分ける」ことです。
前記で紹介した営業部のケースも、新規顧客を業種別に分けて継続率を出したから、「美容業界に集中して営業をかける」という有効な解決策を見出すことができました。
私がソフトバンク時代にコールセンターの業務改革に成功したのも、問い合わせの内容を紙の山に分けて、問題に優先順位をつけたからです。
もし「分ける」という作業をせず、全体の売上や利益、クレームの総数ばかりを眺めていたら、問題は永遠に解決しなかったでしょう。
分けなければ、必要な数字を計測することもできません。
「数える前に、分けろ」これが数値化仕事術の鉄則です。
分け方は、種類別やジャンル別だけではありません。
「プロセスで分ける」のも、問題解決につながる有効な手段です。
仕事には、必ず始点(インプット)と終点(アウトプット)があります。
その間の工程を分けて、それぞれの数字を出してみるのです。
例えば、あなたが不動産仲介の営業で、毎月の契約が目標に達成しないという問題を抱えているとします。
この場合、「始点」は初めてお客様と接するところです。
具体的には、相手が店舗を訪問したり、メールで問い合わせをしてきた時点となります。
そして「終点」は、契約を結ぶことです。
始点と終点を定めたら、その間をいくつかのプロセスに分けます。
不動産仲介業なら、「お客様へのヒアリング・物件情報の提供」「物件案内」「契約条件の交渉」「ローン審査」「契約」といったプロセスに分けられるでしょう。
こうして分ければ、それぞれのステップに進んだ人数や歩留まりを計測できます。
「情報提供したお客様の七〇%は物件案内に進んでいるが、契約条件の交渉に入れるのは、そのうち五%だけ」とわかれば、「物件案内」から「契約条件の交渉」へ移る工程に何らかの問題があると推測できるはずです。
ホワイトカラーの生産性が低いのは、「プロセス分け」をしていないからこうして説明すると、ごく当たり前の検証をしているだけに思えるかもしれません。
しかし実際は、「毎月の目標を達成できない」という最終結果だけを見て、「どうすればいいのか」と頭を悩ませている人がほとんどです。
自分の仕事をプロセスに分け、結果が出るまでの過程を数値化するという作業をする人は、かなり少ないでしょう。
「プロセスに分ける」という数値化の基本は、メーカーの製造現場であれば、当たり前のように徹底されています。
自動車であれば、「プレス」「溶接」「塗装」「成形」「組み立て」「検査」などと、製造工程が明確に分かれています。
さらに、それぞれの工程で歩留まりを計測し、不良品の発生率を厳しくチェックしています。
また、プロセスごとに時間も厳密に管理され、場合によっては一つの部品ごとに秒単位で目標時間を設定されることもあります。
だから「今日は『溶接』→『塗装』の間に発生した不良品率が目標より〇・一%多い」といった数字が即座に計測され、「明日こそ目標値以内に収めるにはどうするか」という次のアクションを考え、実行できるのです。
一方、ホワイトカラーの仕事は、ものづくりほど明確なプロセス管理はされません。
よって、プロセスごとに数値化されることもなく、数字で分析や検証を行うことも十分になされていません。
日本の製造現場の生産性はいまでも世界トップクラスであるにもかかわらず、ホワイトカラーの生産性が低いのは、「プロセスを分ける」という作業を徹底していないことも大きな原因だと考えられます。
だからこそ、ビジネスパーソンが成果を出したいなら、自発的に仕事をプロセスに分けて、数値化することが重要なのです。
最初は「ざっくりとした分け方」で構わないこのように、「ジャンルごと」「業界ごと」「プロセスごと」など、〝分ける基準〟には様々なパターンが想定されます。
ただし、「この場合は、こう分けるのが正しい」というルールやセオリーは存在しません。
問題の性質や発生している環境によって、適切な分け方は違ってくるからです。
「明確なルールがなければ、分けたくても分けられない」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。
ルールがないなら、分け方は自分で決めればいいのです。
「Yahoo!BB」のコールセンターの改善策を考えた時も、プリントアウトした問い合わせ内容をどう分けるかは、最初から決めていたわけではありません。
スタッフと手分けして、それぞれが何十枚も読んでいるうちに、「これとこれは同じグループかな」といった基準が何となく見えてきて、自然と紙の山ができ
ていきました。
それが結果的に、「モデムの品質」「営業への苦情」といったグループ分けになっただけです。
ですから、最初から分け方の基準をはっきり決める必要はありません。
わけがわからないなりに、とりあえず手を動かして分ける作業を始めれば、そのうち基準も見えてきます。
チームで問題解決に当たる場合は、ぜひメンバー全員でグループ分けの作業をすることをお勧めします。
私がよくやるのは、チームのメンバーを一堂に集めて、ポスト・イットに「何が問題の要因だと思うか」を書いてもらうことです。
例えば、英会話教室の事業で「退会する受講生を減らしたい」と考えたとします。
その場合は、各教室の運営者を集めて、一人につき五枚ずつポスト・イットを配り、「皆さんが思いつく受講生の退会理由を書いてください」とお願いします。
それをホワイトボードに貼り出して、グループ分けしてみるのです。
「このあたりは『お金』が理由だね」「〝会社の残業〟や〝子育て〟は、『忙しさ』でまとめられるかな」こうやって、ポスト・イットをあちこち移動させていると、次第にいくつかのグループが出来上がっていきます。
はっきりした基準がなくても、現場で実際に起こっている状況に即した適切な分け方ができるのです。
この作業は、一人でやるのではなく、「複数で集まってやる」という点がポイントです。
その問題についてよく知る人を全員集めて、数値化するための材料をできるだけ多く集める。
しかもその場で一気に意見を出し合うことで、スピーディーに現状を分析できる。
問題解決の質と速さを同時にアップすることができるわけです。
このように、「まずは分ける」を実践すれば、数値化のヒントが見えてきます。
とりあえずはざっくりした分け方で構わないので、目の前の事象を分ける作業に取りかかりましょう。
ポイント❹問題のありかが見えてきたら、さらに細かく分けて計測してみるざっくりと分ける作業をして、問題のありかが見えてきたら、さらに細かく分けて数字を計測してみましょう。
これもルールはありませんが、知っておくと役立つ「計測ポイント」はいくつかあります。
例えば、「一日ごと」に数字を計測するのは、最も初歩的な数値化の方法です。
「社員の総残業時間」を一日ごとに出してみると、「月・金は残業が少ないが、水・木は目標値をオーバーしている」などの傾向が見えてきます。
また、「場所ごと」に数字を計測するのも、よく使われる数値化の手法です。
例えばチェーン展開している企業が、店舗ごとの売上を比較する時には、「ビジネス街」「住宅街」「商業施設内」といった立地特性別に分けて比較することが必須でしょう。
あるいは、「人ごと」に計測するのが有効なケースもあります。
例えば、ある代理店にコールセンター業務を発注した時、担当者Aが責任者を務めるチームはクレームが少ないのに、担当者Bが責任者を務めるチームはクレームが多い、ということもありえます。
これは業者ごとに数値を計測しているだけでは、気づくことができません。
担当者という「人」ごとに数字を出してみて初めてわかる問題です。
このように、さらに小さく分けて数字を計測すれば、問題解決にまた一歩近づくことが多いのです。
「どの数字を計測しようか」と迷っている暇があったら、とにかく手を動かしてみることが大事です。
仕事の始点から終点までの間で、「ここに原因がありそうだ」と思うポイントを計測してみれば、必ず何らかの事実が見えてきます。
始点で一〇〇リットルの水を投入したのに終点で三〇リットルしか出てこないのであれば、その間のどこかで目詰まりがあるということです。
だったら、途中をいくつかに区切って、それぞれに水の出入りを計測すれば、「ここが詰まっている」という原因を必ず特定できます。
どんなに大きな問題も、始点と終点の間を小さくブレイクダウンして計測すれば、ボトルネックが発見できるということです。
ポイント❺数値化のゴールは、現実の問題を「数式で表す」こと繰り返しになりますが、数字はただ集めただけでは意味をなしません。
誤解が多いのですが、「データ」とはそれ自体は意味のない数字のことです。
例えば、「日本の総人口は一億二五〇〇万人である」という数字が発表されたとします。
この数字は事実ではありますが、それ以上でも以下でもありません。
単に「日本には一億二五〇〇万人が住んでいるんだな」という確認に過ぎません。
よって、データのままでは役に立たないのです。
大事なのは、データを「構造化」して、「インフォメーション(情報)」や「ナレッジ(知識)」にすることです。
これらの言葉も日本では曖昧に使われていますが、海外では明確に定義されています。
インフォメーションとは、「データを整理し、解釈や意味を持たせたもの」です。
つまり、「どういう意味か?」に答えられるのが、インフォメーションということです。
「日本の総人口は一億二五〇〇万人である。
この数字は近年右肩下がりであり、日本は人口減少の局面を迎えている」と言えて初めて、この数字は「インフォメーション」になります。
ナレッジとは、「インフォメーションを体系化し、まとめたもの」であり、「これからどう展開すべきか?」に答えられるものです。
「このまま人口減少が続けば、二〇六〇年には総人口が九〇〇〇万人を割り込み、高齢化率はおよそ四〇%に達する。
よって、少数の現役世代が多数のリタイヤ世代を支えることが可能な社会保障制度を新たに作らなくてはいけない」と言えれば、これらの数字は「ナレッジ」と呼ぶことができます。
日本では何となく、「データなら役に立ちそう」と思われていますが、素のままの数字には意味がないということです。
単なる「データ」を「インフォメーション」や「ナレッジ」にブラッシュアップし、現実のモヤモヤした事象を意味のある数値に置き換え、次のアクションにつなげて目標を達成する。
そこまでやってこそ、数値化と言えるのです。
ビジネスの世界のことは、すべて数式で表せるただの「データ」を、意味のある「インフォメーション」や「ナレッジ」に転換する。
これは要するに、「モデル化」です。
わかりやすく言えば、「現実のモヤモヤした問題や現象を、数式に置き換えて構造化すること」です。
唐突ですが、皆さんも「ニュートンの万有引力の法則」はご存じだと思います。
これは「すべての物体は互いに引き合う。
その力の大きさは引き合う物体の質量の積に比例し、距離の二乗に反比例する」というものですが、数式で表すと「」となります。
「リンゴが木から落ちる」という単純な現象も、数式を使ってモデル化するとこうなるわけです。
これと同じように、ビジネスの世界で起こる様々な事象は、すべて数式で表すことができます。
そして、数式は必ず解くことができる。
だから数値化すれば、問題を解決できるのです。
ニュートンを例に出したので、モデル化がとても難しいものに思えるかもしれません。
でも実は、私たちにとって非常に身近なものです。
ビジネスの世界で起こることは、すべて数字で構成されています。
だから数式で表すことができるのです。
例えば、小売業の売上ならこうなります。
「一平方メートルあたりの売上×店舗面積×営業日数」ある営業部の売上ならこうなるでしょう。
「営業マン一人あたりの一日の売上×営業の人数×営業日数」どうでしょうか。
それほど難しくはないはずです。
孫社長が「数字で考えろ」というのは、まさにこのことです。
「数式」と聞くと、「自分は数学が苦手だから」と尻込みする人もいるかもしれません。
しかし、ビジネスで使うのは、ほとんどが掛け算。
補足で使うにしても、足し算や引き算くらいで、小学校の算数が理解できる人なら問題なく実践できます。
むしろ重要なのは、数学の知識やセンスより、ポイント①で話した「自分で数値化する」という意志を持てるかどうかです。
数式化できると、当てずっぽうではない予測値が出せるビジネスの現象をモデル化するメリットは、「予測値が出せる」ということです。
未来を予測できれば、「次にどうすればいいか」が瞬時にわかる。
だから高速で次のアクションに移れるし、ライバルより速く物事を改善して、大きな成功を収めることができる。
ビジネスで勝っていく上で、これほど有利な状況はないでしょう。
「Yahoo!BB」のサービス開始当初、ソフトバンクは「パラソル」という販促を行いました。
街頭にパラソルを立てて簡易的な販売所を作り、その近辺でモデムの入った紙袋をどんどん配るというものです。
この時も、私たちは予測値を出し、それをもとに売上計画を立てました。
一日にどれくらいモデムを配れるかは、「立地」や「アルバイトの習熟度」などの要素を掛け算すれば、簡単に算出できます。
立地は「一時間あたりの通行量」に置き換えれば数値化できます。
アルバイトの習熟度については、勤続月数を参考に「熟練=3」「普通=2」「未熟練=1」として計算しました。
人間のスキルや経験といった質的な要素も、こうして数値化すれば、数式にあてはめることが可能です。
あらかじめ予測値を出し、それをもとに目標を設定すれば、もし達成できないパラソルがあったとしても迅速に対処できます。
「目標に届かないのは、アルバイトの習熟度が低めのパラソルだな。
だったら、経験の長いアルバイトを他から回してもらおう」このように、次の一手をすぐに打つことができるのです。
「未来を予測できる」というのは、ビジネスにおいて最強の武器になります。
それを手に入れるためにも、「数式で表す」という習慣を身につけることが重要です。
ポイント❻数値化したら、あとはPDCAを高速で回し続ける繰り返し話してきたように、数値化する目的は、次のアクションにつなげることです。
ビジネスは、「実行ありき」なのです。
いくら数字を使って分析しても、行動に移さなければ何の成果も出ません。
数字を使えば、現状を分析して予測値が出せますし、それをもとに計画を立てることもできますが、その通りになるかどうかは実際にやってみなければわかりません。
「綿密なマーケティング調査をして、消費者のニーズに合った新商品を開発したはずなのに、実際に発売したらまったく売れなかった」というのはよくある話です。
何より重要なのは、数値化して目標や計画を立てたら、まず実行してみること。
そして実行の結果を数値で計測し、検証して、問題が解決しなければ、さらに別の解決策を実行する。
このPDCAサイクルを高速で回し続けることが、目指すゴールに最短で到達する方法です。
「数値化仕事術」をPDCAに当てはめると、次のようになります。
P(計画):問題を数式で構造化し、それぞれの数字の関係を理解し、計画を立案する。
D(実行):計画を実行する。
C(検証):計画と実行の差異を分析し、何が問題なのかを優先順位をつけて把握する。
A(改善):改善策を実行する。
わかりやすくPDCAサイクルに当てはめましたが、ソフトバンクでは「D」が「P」より先に来たり、あるいは「P」と「D」をほぼ同時に進行することもよくあります。
いずれにしても、「計画」で止まってしまったり、ムダな時間をかけたりせず、とにかく一刻も早く「実行」に移すことが求められます。
ソフトバンクでは「早く失敗したほうがいい」と考えるもちろん、実行に移したら失敗することもあります。
というより、ソフトバンクでは失敗を織り込み済みで実行します。
大事なのは、結果が成功か失敗かではなく、「できるだけ早く計画との差異を知ること」だからです。
実行した結果、得られる数値ほど正確なものはありません。
計画段階で出す数値はあくまで「予測値」ですが、実行すれば「実測値」が手に入ります。
これこそ、計画段階で机上のデータをこねくり回しているだけでは、決して得られない貴重な宝物です。
だからソフトバンクでは、「むしろ早く失敗したほうがいい」とされるのです。
予測値と実測値の差異を計測し、分析すれば、「なぜこの差が生じたのか」がわかるので、より精度の高い改善策を導き出すことができます。
それをまた実行すれば、確実に状況は改善し、ゴールへと近づけます。
このサイクルを高速で回していくことが、問題解決の正解に辿り着く一番の近道です。
先が不透明な今の時代に、「計画」にいくら時間をかけても確実性は高まらないというのが、孫社長率いるソフトバンクの考え方なのです。
失敗を恐れて、計画に時間をかけすぎている日本企業一方で、多くの日本企業は、計画に時間をかけすぎる傾向があります。
なぜなら、失敗が怖いからです。
失敗を恐れるあまり、念には念を入れてあらゆる情報を収集し、社内で議論を重ねて「全員が納得したら実行に移そう」と考えるわけです。
しかし、そんなことをしている間に、ビジネスや業界の環境はどんどん変化します。
どんなに画期的なアイデアでも、タイミングを逃せばライバルに先を越されることもあるし、消費者の嗜好が変わってしまうこともあります。
それに計画に時間をかければかけるほど、社内は疲弊してモチベーションは下がるもの。
いくら計画を練っても、実行に移さなければ「やった、成功した!」という達成感や充実感を得られないのだから当然です。
ようやく実行に移しても、迅速な「検証」や「改善」が行われることは多くありません。
「せっかく時間をかけて決めた計画だから」と考え、しばらく様子を見ようとする。
それも、多くの日本企業に見られる傾向です。
そもそも日本では、「目標や方針を見直すのは半期や四半期ごと」という企業が大半です。
どんなに短くても、せいぜいひと月ごとでしょう。
これに対し、ソフトバンクの「検証」や「改善」のサイクルはどれくらいか。
答えは「リアルタイム」です。
月次や週次、日次どころではなく、その瞬間ごとに現時点での数値を確認し、常に次の一手を考えることが求められます。
それができるのは、リアルタイムであらゆる数値を把握するシステムが出来上がっているからです。
半年や三ヶ月に一度だけ役員たちが集まって、のんびりと過去の数字を報告し合っているだけの企業と比べれば、どちらがビジネスで勝つかは明白でしょう。
数値化を数値化で終わらせず、必ず迅速な実行とセットにし、あとは高速でPDCAを回していく。
これがソフトバンクの強さの秘密なのです。
ポイント❼問題解決後も数字でチェックを続け、環境変化にいち早く気づく数値化によって問題を解決しても、そこが最終のゴールではありません。
仕事をしていれば新たな問題は毎日のように発生しますし、いったん目標を達成しても、次はさらに高い目標を達成することが求められます。
また、ビジネス環境は刻々と変化するので、いったん成功した数字の分け方や数式も、時間が過ぎれば現状とかけ離れたものになっていきます。
ですから、過去と似たような場面で同じような仕事をする時でも、今の状況に合った分け方を定義し、数式も時代に即した新たなものに変えていかなくてはいけません。
そうしなければ、重要な数字を見落としたり、誤った数値をはじき出したりする恐れがあるからです。
少し前の話になりますが、スマートフォンが登場した頃、ジャンル分けを見直さなかったために、ビジネスで後れをとるIT企業が続出したことがあります。
WEB上のサービスは、それまでパソコンから利用されていました。
だからスマートフォンが市場に出回り始めても、「パソコンからの利用」と「スマートフォンからの利用」を分けずに、サイトの閲覧数やサービスの利用者数を計測していた企業も少なくなかったのです。
その結果、スマートフォンからの利用が急増している事実を把握できず、いつまでもパソコン向けのサービスだけに注力するという致命的なミスを犯すことになりました。
今考えると信じられないかもしれませんが、環境が変化する過渡期には、時代に取り残される企業が必ず出てくるということです。
こうした環境の変化にいち早く気づくことができるのも、数値化仕事術のメリットです。
数字を日々チェックしていれば、「今までほぼ一致していた予測値と実測値の間が、急にズレるようになった」といった変化も発見できます。
その場合、何らかの環境変化が起こっている可能性はかなり高くなります。
それに気づけば、しめたもの。
これまで説明した数値化のポイントに沿って、ズレの要因をあぶり出せば、他社に先駆けて手を打つことができます。
数値化を一時の問題解決だけに使うのではなく、日々の習慣にすること。
これがビジネスで勝ち続けるための唯一の方法と言っていいでしょう。
現代のビジネスにおいて最も重要な「五つの数字」現場の社員一人ひとりが扱う数字は、その人が担当するサービスや業務によって様々ですが、いずれの数字も最終的には会社の経営につながっていきます。
よって、現場で働く社員であっても、経営の目線から数字を理解する必要があります。
といっても、難しいことではありません。
会社の経営は、次の「五つの数字」でシンプルに構造化できるからです。
・顧客数・顧客単価・残存期間(顧客でいてくれる期間)・顧客獲得コスト・顧客維持コスト会社の経営は、この五つの数字をコントロールすることで成り立っています。
経営にとって最も重要なのは、利益を上げることです。
営業利益は次の数式で表すことができます。
「(顧客数×顧客単価×残存期間)−(顧客獲得コスト+顧客維持コスト)」よって会社の利益を最大化するには、数字をこのようにコントロールします。
・「顧客数」「顧客単価」→上げる・「残存期間」→長くする・「顧客獲得コスト」「顧客維持コスト」→下げるこうして五つの数字を上げたり下げたりしながら、利益を最大化することが、会社経営の究極の目的と言えます。
これは同時に、数値化の目的でもあります。
分けて数字を出したり、数式化したり、予測値を出したりするのも、すべては「五つの数字をコントロールする」という目的のためだと理解してください。
この本質を理解しておかないと、いくら「数値化が大事だ」と言われても結局は腹落ちせず、単に「言われたからやる」というだけに留まってしまいます。
会社が経営を続けられなくなれば、そこで働く個人にも多大な影響が及びます。
だから「現場の人間には、経営なんてわからない」と決めつけず、自分たちも五つの数字のコントロールに参加しているという自覚を持ってほしいのです。
ソフトバンクは、この五つの数字を基本とした経営で成長を遂げてきました。
現在のビジネスでは、特に「残存期間」を意識することが重要となっています。
つまり、「ライフタイムバリュー(LTV)」を重視せよということです。
これは「一人の顧客が一生のうちにもたらしてくれる価値や利益」を指す言葉です。
商品やサービスを一回売ったら終わりではなく、いかに継続して利益を獲得できるか。
特に人口=消費者の数が減っている日本では、この発想が企業の経営を大きく左右します。
ライフタイムバリューの発想で成功したビジネスモデルの代表例が、プリンターです。
プリンターは本体を売っただけではたいして利益が出ませんが、その後もインクを購入し続けてもらうことでビジネスを成立させています。
IoTが普及すれば、こうしたビジネスモデルはさらに普及すると予想されます。
これまでは、製品や部品を一回売ってしまえば、基本的に顧客との関係はそこで途切れました。
しかし、ものを売った後もインターネットで顧客とつながるようになれば、新たなサービスを継続的に提供しながら、長期的な関係を維持しやすくなります。
今後はあらゆる製品において、購入後の保守やメンテナンスで稼いだり、リピートや追加の購入を促進したりしながら、「一人の顧客からできるだけ長く利益を獲得する」という方向を目指すことになるでしょう。
もちろんソフトバンクも、初期の頃からライフタイムバリューを意識してきました。
孫社長はよく「牛のよだれのようなビジネスが一番いい」と言っていました。
要するに、牛のよだれのように、ダラーッと儲かり続けるビジネスが会社にとってベストだということです。
ソフトバンクの経営を数値化の視点から見てみると、先ほどの五つの数字を重視してきたことがよくわかります。
五つの数字を軸としたこの経営手法を、私はソフトバンクの「3次元経営モデル」と名づけました。
その詳細は第5章で解説します。
数字をどう活用するかで、致命的な差がついてしまう時代本章の最後に、「なぜ今、数値化なのか」について改めて触れておきたいと思います。
昔から数字はビジネスに必須のものでしたが、様々なITツールの進化により、データ収集や分析は、以前とは比べものにならないほど低コストかつ簡単にできるようになりました。
例えば、「膨大なテキストの中から関連性のある言葉を抽出し、分析する」という作業は、少し前まで一般の人には不可能でした。
「ユーザーから集めたアンケート調査を分析したい」と思ったら、専門のコンサルタントに依頼して、何百万円もの料金を払わなければいけなかったのです。
ところが今は、「UserLocalテキストマイニングツール」というツールを使えば、誰でも簡単にこの分析ができます。
しかもこのツールは無償で提供されているので、お金もかかりません(ただし、解析可能なのは一〇万字まで)。
数字を取りにいったり数値化したりする作業が、これほど手軽にできるようになったことで、何が起きているか。
数字をうまく活用している人・企業と、相変わらず勘や経験則に頼っている人・企業とで、致命的と言っていいほどの差がついてしまっているのです。
コストをかけなくても数字を集められるので、予算や人手が少ないベンチャーや中小企業でも、経営陣や社員たちに数値化のスキルさえあれば、世間が驚くようなイノベーションを生み出すことは不可能ではありません。
反対に、予算や人手がある大企業でも、数字を使いこなせなければ、ライバルや新興勢力にたちまち追い抜かれ、衰退していくことになります。
一方で、注意すべき点もあります。
それは、数値化が手軽になったために、「ムダな数値化」が発生しやすくなっていることです。
私の周囲でも、「会社からは散々数字を出すよう言われている。
なのに問題は解決しないし、会社の業績も上がらない。
結局、時間をムダにしているだけですよ」といった声をよく聞きます。
このように、ムダがムダを呼ぶ「数値化メタボ」に陥っている企業は少なくありません。
お金がかからないからといって、「とりあえず数字を集めておけ」というのでは時間がいくらあっても足りません。
お金がかからなくても時間はかかる。
そして、時間も立派なコストです。
目的の達成につながらない数値化にコストを費やし、生産性が下がってしまったらそれこそ本末転倒です。
確かに数値化は万能なツールですが、それは正しい使い方をしてこそなのです。
(第3章では、数値化の際に勘違いしがちな「数値化のワナ」を解説しながら、「問題解決につながる数値化と、時間の無駄遣いに終わる数値化の違い」について解説します)
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