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第1章 お金はあとからついてきません

はじめに~世にも奇妙な花屋の物語~案内人田中靖浩(公認会計士)この本は「小さな会社の経営者が、自らの失敗からの教訓をもとに、リアルな会計について語った物語」です。

著者は、花屋の古屋悟司。

世に幾多の会計書があれど、現役の花屋がこの類いの本を書くのは初めてでしょう。

この本の価値はそこにあります。

公認会計士の私が、本書の著者である古屋氏(通称ゲキ)と初めて出会ったのは、今から5年ほど前のことです。

私が講師を務めるセミナーに参加してくれた彼は、スーツ姿のビジネスマンが多いなか、金髪で目立っていたせいもあり、正直なところ「チャラい奴だな」という印象でした。

しかし、彼は見かけによらず勉強熱心でした。

人なつっこく、いつも場を盛り上げてもくれます。

しかし、その明るい笑顔の裏側で、彼はとんでもない地獄を見ていたのです。

彼が経験したのは、「資金繰り」の地獄です。

どんな商売でも一寸先は闇。

しかもその闇は、本人がまったく気づかぬうちに、足音もなく忍び寄ってきます。

そこから抜け出すのは容易ではありません。

もがけばもがくほど泥沼にはまってしまうのです。

彼は花屋を開店した当初、多くの商売人と同じように、1つの過ちを犯しました。

それは「間違った常識を信じてしまう」こと。

彼が脱サラして始めた激安の花屋「ゲキハナ」は、開店当初、かなり好調な売上を記録します。

しかし、なぜかうまくいきません。

売っても売っても生活が楽にならない現実。

ここで彼は、きわめて常識的な決断をします。

「もっと売上を増やせばうまくいくに違いない」しかし、その決断こそが地獄への入り口でした。

彼は一心不乱に売上を追い求めます。

やがて彼の売上は1億円を超えました。

しかし、それでも「安らかな生活」はやってきません。

そうこうするうち、彼はやっと気がつきます。

「もしかして、考え方が間違っているのではないか?」と。

彼はそれまでの「売上重視」をあらためて、管理会計でいう「限界利益」を重視する経営に切り替えました。

これでやっとひとすじの光が差し込みます。

読者のなかには「限界利益」という言葉すら知らない方も多いことでしょう。

これを知っていると知らないとでは、商売のやり方がまったく変わってきます。

ぜひ、この本で「限界利益」という「使える知識」を手にしてください。

会計に詳しくなかった著者だからこそ書けた、生々しい体験にもとづく「限界利益」の話を中心にしたこの本を読めば、きっとそれを商売に活かす方法を見つけられるはずです。

「売上」から「限界利益」重視への転換を成し遂げたストーリー。

それを赤裸々に伝えるこの本は、もちろんすべての商売人やビジネスパーソンに読んでいただきたいと思います。

それだけでなく、助言する立場にある税理士・会計士、銀行マンにも必須の内容だといえるでしょう。

売上を追いかける経営の、どこが間違っているのか?よりよき方向へと舵を取るためには、どうすればいいのか?──本書には、それについての答えがぎゅっと詰まっています。

前置きは、これくらいにしましょう。

売上重視の奇妙な世界に迷い込んだ花屋の物語、どうぞ最後までお楽しみください。

目次はじめに~世にも奇妙な花屋の物語~案内人田中靖浩(公認会計士)

第1章お金はあとからついてきません

売上はあるのに、なぜお金が足りなくなるの?お金が足りなくなったら、銀行に借りればいい!?「税務会計の知識」と「経営の知識」は別決算書が読めなくても、年商1億円に会社のお金は使い放題。

調子に乗ってレクサスまで買う忙しくなったら、もっと人を雇えばいい!?高い授業料を払ってわかったのは「お金はあとからついてこない」第1章を読み終えた読者へ

第2章「数字」が読めると本当に儲かるんですか?

なけなしのお金を払った最後の一手「経費」と「費用」って違うんですか?「儲けるための会計」を学ぶ会社が続くために大切なのは「利益」「限界利益」という「魔法のメガネ」会社の「儲けパワー」決算書で見るところは2つだけ儲けパワーの正体は「限界利益率」第2章を読み終えた読者へ

第3章「儲けパワー」を高めるには、どうしたらいいんですか?

黒字になるか、赤字になるかの分岐点「こうしたら、こうなる」というシミュレーション「値上げ」によって、限界利益率はどう変わる?「値下げ」によって、限界利益率はどう変わる?「商売」とは、誰かに喜んでいただいて、その対価を得ること第3章を読み終えた読者へ

第4章「値上げ」をしたら、天国と地獄を見ました

「値上げ」をしたら、お客さんが来なくなりました会社の利益に貢献する商品、しない商品値上げが、会社の利益に与える影響値上げするかどうかの適切な判断第4章を読み終えた読者へ

第5章「数字」が読めると本当に儲かりました

なぜ、会社にお金が残らないのか?(資金繰り)やっぱり広告を出せば、もっと儲かるんだろうか?(費用対効果)やっぱり忙しくなったら、人を増やしたほうがいいですか?計画は「ほしい利益」から立てる計画が順調かどうかは、どう確認すればいい?利益を出すために、できることできるだけ高く売るか、できるだけ安く仕入れるか?ずっと赤字体質の会社が、なぜ黒字が続くようになれたのか?「数字」に想いを乗せよう第5章を読み終えた読者へおわりに~「自分だけのため」から「人のため」に儲けたい~古屋悟司表紙デザイン杉山健太郎イラスト風間勇人

売上はあるのに、なぜお金が足りなくなるの?暇つぶしがきっかけで始めたネットショップが大人気に僕、古屋悟司は、脱サラをして激安を売りにした花屋「ゲキハナ」を始めました。

住宅街でひっそりとお店を開いたところ、オープン当初は「珍しい激安の花屋が東京の郊外にもやってきた!」ということで、レジは長蛇の列。

「よしよし!この調子なら3年もしないうちに大金持ちだ!成功者だ!」と意気揚々となりました。

しかし、そんな光景も数か月もすれば、何ごともなかったかのように静まり返り、ただの暇な花屋に。

花屋を始めて1年ほど経ったころには、お店には閑古鳥が鳴き続けるようになってしまいました。

「しっかし、誰も来ないなぁ……」暇を持て余していた僕は、自分でも気づかないうちに、そんなひとり言をこぼしていました。

やることもないので、ノートパソコンをお店に持ち込み、お客さんの少ない時間帯は暇つぶしにネットサーフィンをするのが習慣になりつつあります。

たまたま、ヤフオク!(ネットのオークションサイト)を見ていたら、僕のお店で1500円で売っても、誰も見向きもしない観葉植物と同じものが、7000円で落札されているではありませんか!「もしや、これは……」と思い、翌日に同じ観葉植物をヤフオク!に出品すると、数日後、なんと僕の出品したものも同じく7000円で落札されてしまったのです。

「もしや、これは……」という僕の思いは、確信めいたものに変わりました。

お店が暇な時間を利用して、仕入れた花をせっせとヤフオク!に出品していきます。

店頭で激安でも売れない花が、ヤフオク!では高値で売れていくんです。

ただ、ヤフオク!はあくまで副業的な規模で、本業の実店舗での花の激安販売は鳴かず飛ばずのままでしたが。

ヤフオク!の売上が順調に伸びてくると、「もっと売れる場所はないかなあ?」と探し、たどり着いたのがネット上のショッピングモールの楽天市場でした。

楽天市場に出店の申し込みをして、激安の花の販売店としてオープンしました。

いきなり月に90万円もの売上になり、なんと店頭販売での売上を超えてしまったのです。

楽天市場はヤフオク!とは価格帯が違いましたが、翌月には200万円の売上になりました。

その後も、毎月100万円ずつ売上が増えるという、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの成長ぶりです。

「そうか!これか!」確信は揺るぎないものになり、僕は寝食を忘れ、昼夜を問わず、ネットでの販売に打ち込んでいきました。

時代はネット通販の成長期でもあり、「ネットは実店舗で買うよりも安い!」とか、「珍しいものが見つかる!」などという口コミが広がっています。

そして、単純に価格を他店よりも下げるだけで、圧倒的に売れる「場」でもありました。

さらに、価格競争がさほど激しくない花のジャンルでは、ウチみたいな激安店がネットに進出するのは非常に珍しかったようです。

あっという間に口コミで噂が広がり、売上はうなぎのぼりに上がっていきました。

売上は上がっているのにお金が足りなくなる花を仕入れてネット上に出すと、すぐに売れていきます。

花は生物ですから、古くなったら廃棄します。

1週間も保存はできません。

ですから、3日以内にはすべてを売り切りたいんです。

でも、全体の10%程度は売れ残るので廃棄します。

それでも、売上は十分にあり、順調な伸びを見せていました。

ただ、1つ気がかりなことがありました。

仕入れている花市場への支払いが思うようにいかないんです。

早い話が、お金が足りなくて期限通りに支払えないのです。

花市場の経理の方から「お支払いはまだですか?」と催促をされるのですが、「来月末には支払えますので、少し待ってください」とお願いをしていました。

売上は絶好調なので、翌月には余裕を持って支払えるだけのお金が入ってくることはわかっているのですが……、支払いはどんどん滞っていくんです。

最初、その原因が僕にはまったくわかりませんでした。

しかし、よくよく考えてみると、クレジットカードでお買い物をされたお客さんの売上は、カード会社から1か月遅れで入金されてくる仕組みになっていて、このタイムラグに原因があることに気づいたんです。

僕は、花屋を始めたときは、現金だけの商売をしていました。

だから、売上が10万円あれば、レジには10万円の現金がある状態です。

もしも、急に5万円の請求があってもサッと支払えるわけです。

でも、ネットでの販売を始めてからカード払いを導入したので、お客さんがクレジットカードで支払いをすると、その入金は翌月になります。

なぜ手もとにお金がないのかというのは、具体的には次の図にある状況になっていたからです。

たとえば、今、手もとには60万円の現金があるとします、前月の売上の200万円は、現金として僕の会社の口座に振り込まれてくるのは今月末です。

今月の10日、20日、月末の3回、花市場の支払いがあります。

それぞれの日に仕入額の70万円を支払わなくてはなりません。

月末には手もとにある60万円と合わせると260万円になるはずですが、10日と20日の支払いはできず、月末に総額の210万円を一気に支払うことになってしまうというわけです。

理屈はわかるけど、しっくりこないですから、僕には、売上が伸び続けているのに、手もとに現金が足りない状態がずっと続いてしまうというジレンマが常にありました。

毎月100万円ずつ売上が伸びている状態なのに、花市場の方には申し訳ないのですが、待ってもらうしかないんです。

「理屈はわかるけど、しっくりこない不安」みたいなものがずっとあるんです。

僕は日々のお金の計算などはとくに行っておらず、当時は税金を納めるための、年に一度の決算書しか出していませんでした。

というよりも忙し過ぎて、それすらもままならない状態で、「売上があるから、たぶん大丈夫だよね。

だって、こんなに売れているんだから」と思っていたくらいです。

しかし、心のなかでは無理矢理、自分を納得させているようなところも少なからずありました。

今思うと、まるで外の現実世界を見ずに、目隠しをして車(会社)を運転(経営)しているような状況です。

そんな勘が頼りの経営なんて、今ではとてもじゃないけど怖くてできません。

でも、それを、さも当たり前のようにしていました。

数字に弱い僕は、「売上が上がっていれば、いつかはきっとお金が足りている状態になる(かも)」と思いながら、日々忙しく業務をこなしていました。

「専任の経理担当者を雇おう」とも思わなかったので、会計業務はもっぱら税理士さんにおまかせです。

そして、年に一度、税理士さんから上がってくる決算書を、よくわからないながらも目を通して、なんとなく「大丈夫だよね」という感じでスルッと流して、日々の業務に戻っていきました。

そんななか、銀行口座にあまりお金が貯まっていかないことが、だんだん気がかりになってきました。

貯まっていかないというよりは、むしろ、マイナスになっているような感覚のほうが強いんです。

「売上はどんどん上がっているのに、銀行口座のお金は足りなくなっていく」という状態を僕は飲み込めないままでした。

「ほかのネットショップの人も同じ状態なのかな?」と考えたけれど、まあこんなものだろうと思い、とくにお金に関しての悩みを誰かに相談もしませんでした。

それに、当時は僕が知るかぎり、ネットショップという新しい業態の仕事に関して詳しい人もいなかったので、暗闇のなか、手探りで前に進むしかなかったのです。

僕の周りには「月商が3000万円超えた!」などと、どれだけ売上が上がったかを、自慢を交えながら会話しているような社長ばかり。

そんなライバルたちに、「ウチも負けるものか!」と食らいついて売上をどんどん上げていくことに僕は熱中していました。

ただ、そんなふうに売上をどんどん上げていっても、いつまでたっても銀行の口座にお金が貯まっていきません。

お金が足りなくなったら、銀行に借りればいい!?見よう見まねの事業計画書で、銀行から融資をゲット!相変わらず僕は、「いつかお金はなんとかなるだろう」と自分に言い聞かせながら、ガツガツと売上を上げることにのみ集中していました。

けれども、花市場への支払いは、ますます追いつかなくなっていきます。

ついには、200万円ほど支払いが遅延するような状態になってしまう始末です。

もちろん、翌月にしっかり入金されて支払うことはできるのですが、いわゆる資金繰りの面で「さすがにこれはまずいな」と思い、銀行で融資をしてもらうことにしました。

数字に弱い僕は、銀行の人に数字のことを聞かれても、しっかりと答えられません。

だから、事情をお話しするだけで精一杯です。

「売上が伸び続けていて、資金が追いつかないんです。

それで、支払いが滞ってしまう額がそれなりに増えてきてしまいました」そう話すと、銀行の人は決算書を見ながら「運転資金が足りない状態なんですね。

売上も好調なようですし、一度審査してみましょう」と言い、テキパキと話を進めてくれました。

さらに、銀行の人は「事業計画書を提出してほしいので、来週までに作ってもらえますか?」と言います。

しかし、僕は事業計画書など一度も作ったことがありません。

でも、「作ったことがないから、できない」とも言えず、「はい。

わかりました」と強がって返事をしてしまいました。

すぐに自分の会社に戻って、わからないながらも事業計画書を作り始めようとしましたが、やっぱり何を書いていいのかわかりません。

とりあえずインターネットで検索をして、それっぽいものを見つけたものの、細かい数字がザーッと並んでいることしかわからない。

「さすがに、自分にはこういう書類を書くのは無理だなあ」と思い、自己流でアレンジしながら、簡単にA4の用紙3枚程度に、現状と今後の目標を箇条書きにしました。

そんな、子どもが作ったような事業計画書を銀行へ持って行くと、数日後、あっけなく審査結果は「融資OK」。

その当時は、インターネット関連のお店全体が相当な勢いで伸びていて、あちこちの銀行でも盛んに融資が行われていたようです。

だから、事業計画書とは呼べないような、雑な作りの書類でも、簡単に審査に通ってしまったんでしょう。

そうして、200万円の現金が、僕の会社の銀行口座に振り込まれ、すぐさまそのお金を花市場へ振り込むと、とても気分がスッキリしました。

「そうか!これか!」「なるほど。

売上が伸びているときには、こうやってお金を借りながら経営をすればいいんだな」と、なんとなく自分が経営者としてレベルアップしたような錯覚に陥りました。

当たり前のことですが、借りたお金は返さなくてはいけません。

ただ、返済する金額は月に数万円なので、「それほど負担にはならないだろうな」と思っていたわけです。

この考えが、あとから自分の首を絞めることになるとは……。

「銀行にお金を借りられる=認められた」という勘違い当時の僕は、次のようなサイクルをひたすら回し続けていました。

「売上が上がる→資金繰りが悪化する→支払いを滞納しがちになる→銀行から融資を受ける→残債を支払う」経営とはこんなふうに回っていくんだと思った僕は、さらに売上をアップさせることに注力していきます。

何より銀行がお金を貸してくれることで、僕は売上を上げるという自分のやるべきことに専念できるのです。

こんなに心強いことはありません。

「だから、会社の社長さんたちは、銀行の人と仲よくなって、ゴルフとかに行くのか!」と、世の中の仕組みが少しわかってきたような気になりました。

銀行の融資を受けてからは、とりあえず会社の銀行の口座にはお金が残るようになってきました。

でも、肌感覚としてやっぱり儲かっている感じはあまりしないんです。

なぜなら、銀行の口座のお金がちょいちょい足りなくなるので、そのつど銀行からお金を借りてくるという状態だからです。

楽にはなったものの、儲かっているわけではなく、ただ「お金が足りている」だけというのが実感です。

それでも、銀行はすぐにお金を貸してくれるんです。

銀行が貸してくれる額は「その人や会社の信用度」によるといわれます。

たしかに、僕の会社の売上は毎年150%以上伸びていたので、銀行からお金を借りられました。

それで、知らず知らずのうちに「この会社は信用に足る実力を持っている」と認めてもらえていると勘違いしていきました。

だから、心のなかにモヤモヤとしたものがありながらも、「会社は悪い状態ではない」という認識です。

別の言葉で表現するならば、だんだんお金を借りることに抵抗がなくなっていったともいえます。

「お金が足りなければ借りればいい」。

そして、「返済するために売上を上げていけばいい」と。

今考えると、かなり危険な考え方をしていました。

このときの「足りないぶんを借りる」状態は、個人でいえば「お金が足りないので消費者金融から借りている」感覚にとても近いものだからです。

「税務会計の知識」と「経営の知識」は別税理士さんは税金のプロだけど、経営に関しては……決算書を出してくれる、僕の会社を担当してくれていた税理士さんは、180センチを超える身長のすらっとした容姿で、身なりは品がよく、落ち着いた話しぶりで人柄もとてもいい人でした。

少し古いボルボに乗っていて、年末になると決算について話してくれるついでに、僕のお店でよく花を買ってくれました。

決算が終わるとすぐにその税理士さんから、「これ、今月中に払っておいてくださいね」と、なんのためかよくわからない書類を渡されます。

いつも僕は「これはなんの支払いですか?」と聞くと、毎回同じ質問なのにもかかわらず、ニコっと笑顔で「消費税です」と答えてくれます。

決算が終わったあとに、その税理士さんに報酬を支払わなくてはいけないのですが、毎年それも遅れがちでした。

でも、2か月遅れて支払ったときも、税理士さんはイヤな顔ひとつせず、「お振り込み、ありがとうございました」と言ってくれます。

お金に関してわからないことがあると、僕はいつもその税理士さんに聞いていました。

ただ、僕は決算書が読めなかったので、その中身の数字についての質問ではなく、いつも聞いていたのは「どうやったらもっとお金が残るか」といった内容です。

僕の会社は年商6000万円を達成しながらも、相変わらず状況は変わりません。

「どうやったらもっとお金が残りますかねえ?」と税理士さんに聞くと、決算書をしばらく見つめて、「送料のコストがかなりの金額を占めているので、ここを削ることができればいいですね」と教えてくれました。

「そうか!これか!」お金が残るヒントをあっさりゲットです。

「送料」はネットショップで通販をやるうえで、お客さんに商品を発送する際に必ずかかるお金です。

もちろん、その送料はお客さんからいただいている場合も多くあります。

決算書の数字で、送料も含む「荷造り運賃」は600万円だったのですが、そのうちの8割くらいはお客さんからいただいたお金。

残りは会社が負担していたお金です。

税理士さんのアドバイスを、僕は単純に「送料の値下げの交渉をする」と受け取りました。

そこで、すぐさま宅配便のドライバーさんに値下げの交渉をした結果、即答で「無理です!」と断られてしまいました。

それもそのはず、ウチの会社で契約している送料は、「大きさにかかわらず関東へは400円」という、破格の価格で契約していただいていたからです。

出荷する商品である観葉植物などは、冷蔵庫のような大きな荷物ばかりにもかかわらずです。

今ならわかるのですが、「送料を値切る」というのは的外れな方法です。

もしも、送料のコストを下げていく方法を考えるのであれば、「5000円以上お買い上げの方は送料無料」だったところを「1万円以上お買い上げの方は送料無料」にするなど、お客さんに送料の負担をしていただく割合を増やすという方法もあります。

やっぱりたどり着くのは、「売上を上げるしかない」という答え送料を下げることができなかったため、税理士さんに「ほかに方法はないですか?」と再度聞いてみました。

税理士さんは、決算書の数字を眺めて「う~ん……」とうなりながらしばらく考えて出たのは、「売上を上げることですかねえ」という答えです。

「そうか!これか!」僕は単純なので「よし!売上か!よし!やってみよう!」と、1年間必死に売上を上げようとがんばりました。

すると翌年には、年商が9000万円まで上がり、前年比の売上150%達成です。

でも、それでも会社には少しばかりのお金しか残りません。

資金繰りのきつい状態は続き、相変わらず銀行から追加の融資を受けていました。

これはあとから知った話ですが、税理士の資格を取得するうえで勉強する内容は、儲けるための方法はいっさい入っていないとのこと。

いわゆる「税務会計」といわれている内容を勉強して取得する資格だそうです。

そもそも、「税務会計」は、会社が税金を正しく納めるべく、各種の手続きや計算方法を熟知するためのものです。

だから、「会社にお金が残る方法」を税理士さんに聞いても、答えが出てくるはずもなく、そのアドバイスを受け取る僕も未熟でした。

経費を節減するか、売上を上げることしか方法がなかったのは、しかたのない話だと今ならわかります。

とても人のいい、あの税理士さんに罪はなく、むしろ「いろいろと振り回してしまったな」と申し訳なくて合わせる顔がありません。

決算書が読めなくても、年商1億円に「1億円」という大台を突破してお金持ちの仲間入り売上を上げる。

ただ、それだけに注力して3年。

僕は、生きている時間のすべてをそれに捧げていたといっても過言ではないくらい、売上を上げることに集中しました。

その結果、ついに年商は大台の1億円に。

自分の会社を作ったときから、「年商1億円」という数字を目標にしていました。

じつは以前、僕が営業マンとして勤めていた小さな訪問販売の会社が、売上が絶好調のときに、チームで達成した年商が1億円だったんです。

そのとき僕は20代で、給与は年収800万円ほど。

もらった最高額は月収100万円を超えていました。

それもあってか、僕の頭のなかでは「年商1億円=お金持ち」というイメージがありました。

1億円という数字に根拠はないけれど、特別な思い入れがあったのです。

だから、年商1億円を達成できたというのは、僕にとってはある意味、成功者の仲間入りを果たした瞬間ともいえます。

さらに、「決算書などの細かい数字は、税理士さんにまかせておけばいい。

僕は売上のために全力で走り、税務のような雑用は、ほかの誰かにやってもらおう」と思っていました。

「決算書は納税のために作られた表。

だから、あまり見る必要がないものだ」とさえ考えていたくらいです。

そうやって「決算書が読めなくても、売上は上がる!」というのを確信したのが年商1億円です。

今となっては、それは間違いだということは理解しています。

でも、当時は、経営者の仲間たちと飲んでいるときに、「決算書なんて読めなくても問題なし!」と豪語していました。

そして、それを咎める人は誰もいませんでした。

会社のお金は使い放題。

調子に乗ってレクサスまで買う広告を出すと、売上はどんどん上がっていくそんな調子ですから、会社のお金に関してもかなり無頓着で、今となっては笑い話ですが、こんなお金の使い方をしていました。

たとえば、会社の懐事情も確認せず、毎月、けっこうな金額の広告を出しまくっていました。

それは広告を出してセールをすればするほど、売上がどんどん上がっていくからです。

僕が出店している楽天市場では、頻繁にセールのイベントがあり、それにともなう広告も販売されていました。

最初は、月に1枠10万円程度の広告をメインで購入していましたが、効果があまりないため、1枠30万円ぐらいの広告と組み合わせていきました。

すると、広告を30万~40万円ほど購入して、セールのイベントに参加し、値下げをした商品を用意するだけで、月商が20%ほど伸びていったのです。

さらに、1か月の広告費は50万円、100万円と増えていきます。

1年でいちばん忙しい「母の日」がある5月は、広告費を1か月で300万円くらい使っていました。

広告を出して売上を上げるというのは、しだいに僕の常套手段になっていきました。

広告にどんどんお金をつぎ込むのは売上アップのためだけでなく、次のような心理面からもあります。

まず、お客さんからの注文が減ると、ものすごく不安になるんです。

だから、広告枠を買って値下げセールをして、注文をたくさんいただこうとするわけです。

そうやって、セールをすればするほど販売数が伸びていき、売上が伸びれば伸びるほど忙しくなっていきました。

成功者のステイタスを手に入れる花屋を始める前、僕は先述したように訪問販売の営業マンとして全国トップ10に入る結果を出し、20代にして年収800万円を稼いでいました。

車好きであることも手伝って、当時は車を毎年買い替えていましたが、独立してからはお金に余裕がないので、愛車はトラック。

ですが、とうとう独立して「成功者」と思えるような売上を叩き出すようになったのです。

「車の1つでも買おうじゃないか」と思うまでに時間はかかりませんでした。

頭のなかは車のことでいっぱいになって、毎日ネットであれやこれやと車の情報をかき集め、選んだのがレクサスです。

レクサスは、月々8万円のローンで手に入るとのこと。

パッと出せる現金は銀行の口座に100万円ありましたが、それでは足りないのでローンで買うことにしました。

毎月支払う8万円という額は、当時の僕にとってはわずかな出費程度に感じていました。

広告を30万円でポンポン買っているくらいですから、8万円なんて微々たるもの。

「毎月わずか8万円で憧れのレクサスに乗れる!」と、テンションは上がりっぱなしで契約書にハンコを押しました。

ほどなくしてピカピカに輝くレクサスが納車されました。

レクサスの本革のシートに恐る恐る座り、エンジンをかけ、ハンドルを握った瞬間の喜びは、何ものにも代え難い満足感と充実感を僕に与えてくれます。

ドアを閉めた車内の静まり返った雰囲気といったら、僕が毎日乗っているトラックとは比べものになりません。

軽くアクセルを踏み込むだけでスムーズに加速し、無駄のない動きからも高貴な品格が漂います。

高級車に乗って、儲かっている会社の社長さんたちは、こんなにも満たされた気分なのかと思いました。

が、タイムマシンがあるならば、当時の自分に「おまえ、車を買うお金なんて1円もないじゃないか!頭金も出せないのに、そんな高級車を買っている場合じゃないだろ?」と言って、思わず止めに行きたくなります。

忙しくなったら、もっと人を雇えばいい!?忙しくなったので、無計画に人を増やす当時の僕は、たくさん人を雇っている会社は単純にかっこいいと思っていました。

たくさん人を雇う甲斐性のある会社は、売上も大きく儲かっているに違いないと。

当時、IT系のベンチャー企業が借金をしながらも、先行投資として人材を確保し、大きな売上を上げていき、最終的には上場していくような成功のストーリーも、僕をさらに勘違いさせました。

パナソニックの創業者である松下幸之助さんは「事業は人なり」という言葉を残しています。

その言葉を知って、僕はこう思いました。

「そうか!これか!」「人が辞めれば、もっと雇えばいい。

代わりはいくらでもいる。

ガンガン売上を上げていくぞ!」そんなことを考えながら、どんどん人を雇っていきました。

松下幸之助さんの言葉の本当の意味は、人を育て、人を活かしていくことが経営の要ということのようですが、当時の僕は、単純に「人をたくさん集めたほうがいい」と理解していたのです。

それに、僕の場合、マンパワーが足りなくなって、雇わざるを得なかったというのが正直なところで、仕事が増えて人手が足りなくなるたびに、無計画にアルバイトを雇っていきました。

しかも、人件費を出せるか出せないかではなく、仕事が回るか回らないかというのが人を雇う基準です。

気づいたら、引き返せないドツボにはまるアルバイトの給与が月に10万円ちょっと、1人あたり年間120万円以上のお金がかかります。

でも、当時はそんなこともよく考えていませんでした。

出荷が遅れたら、お客さんからお叱りを受けるので、そうならないためには人が必要だと考えたんです。

僕の会社で、売上を生み出す仕事をしている人は1人だけ。

はい、僕1人だけなんです。

注文受付の処理をする人が2人。

梱包作業をする人が5人いました。

総勢、僕を含めて8人です。

僕の商売は、閑散期と繁忙期で、売上の差が月商で10倍は軽く開いてしまうというビジネスモデルでした。

閑散期は月の売上が300万円程度でも、繁忙期には3000万円を超えます。

閑散期と繁忙期で同じ人数で仕事を回していくことは不可能なため、ある程度、繁忙期に合わせた人数を雇っていました。

繁忙期のピークは8人では足りないので、臨時でアルバイトを募集して、総勢13人くらいで仕事を回していたのです。

本音をいえば、もっと少ない人数で常に仕事を回していきたいと思っていましたが、繁忙期は仕事量があまりにも多過ぎて、常にフルスピードでみんなが動いている状態です。

その一方で、閑散期は困ったことに何もすることがなく「暇だねえ」と言いながらただ時間だけが過ぎていきました。

人件費がどんどん垂れ流されていくような状態です。

かといって、一度雇ってしまったからには、忙しいときにだけ出勤を増やして、暇なときはお休みしてもらうなんてこともできないので、「この状況がどうにかならないかなあ……」といつも思っていました。

人件費のコントロールが及ばない状態が続いた結果、しだいに僕の「仕事をしている意味」も変わっていきます。

雇ったスタッフの給与を払うために、売上を上げなければと思うようになりました。

給与を支払うという義務感だけで、売上を上げる努力をし始めていったのです。

本来であれば、「会社をもっと成長させよう」「もっと給料をよくしていこう」「もっとお客さんに喜んでもらおう」などという目的のために、もっとがんばって働こうという気持ちになると思います。

でも、人をどんどん雇っていった結果、雇った人の給与を稼ぎ出さなくちゃいけない、というのが目的に変わっていきました。

最初は会社の成長を願って人を増やしていったのが、自分でも気づかないうちに、人件費を支払うために売上を上げていかなくてはいけなくなるとは。

一緒に働いてくれているスタッフのことは仲間だと思っているし、よりよい社内環境を整えようと思っているし、もっと給料を払ってあげたいと思っているし、やりがいも提供したいと思っているんです。

でも、こういう状況になると現実のほうが自分の心を支配してきて、とても失礼な言い方になってしまいますが、雇いたくて雇っているというよりも、雇わざるを得なくて雇っているという状態になっていきました。

こんなジレンマを、売上が上がっていくたびに、そして、新しいスタッフを迎え入れるたびに感じていました。

どこかで、この負のスパイラルを断ち切って修正したい。

けれども修正できない。

ドツボにハマっていくとは、まさにこのことです。

高い授業料を払ってわかったのは「お金はあとからついてこない」自転車操業から抜け出そうと、間違った道を突き進むドツボにハマればハマるほど、この状況をなんとか抜け出そうと必死でもがきました。

それに、何もしないとお金が回らなくなって会社は潰れてしまいます。

だから、会社を存続させていくために、やることは1つ。

さらに売上を上げて、会社を大きくしていく。

今雇っている人数に見合った売上を作っていくことに集中しました。

そして、月末にお金が足りなくなる状況だけはやっぱり避けたいので、銀行にお金を借りながら、やりくりしていくしかありません。

売上を上げていくと、単純に会社の銀行口座に振り込まれる金額が増えていきます。

楽天市場での販売だと、カード決済をするお客さんが圧倒的に多いので、カード決済した売上は、締め日を挟んで翌月に銀行口座へ振り込まれてきます。

一方、広告費の請求は翌々月となります。

だから、セールで伸びた売上でさまざまな支払いをし、翌月もがんばれば、なんとか翌々月の広告費の支払いも追いつくという皮算用でお金を回していました。

これは、僕なりに当時は苦肉の策で考え出した作戦です。

しかし、考えてみると、単なる自転車操業ですよね。

でも、そのころは会計の知識はこれっぽっちもなかったので、計画的に翌月の資金繰りを計算していくことなんて、できていませんでした。

ただ、もがいているうちに、この自転車操業の状態からどうやって抜け出していけばいいのか、おぼろげながら頭に浮かんできたのです。

最終的に手もとに残るお金が増えていけば、余裕ができて抜け出せる。

でも、そのための計算の方法はわかりません。

税理士さんから「ちゃんと資金繰り表をつけたほうがいいですよ」とご指摘をいただいたこともありましたが、右から左に流れていきました。

あのときの僕は、「何をやったらいいかわからない」、いや「わらかないことがなんなのかさえ、わからない」という状態だったと思います。

ただひたすら売上を上げればなんとかなると信じて、僕はどんどん規模を拡大していくことに夢中になっていき、こう思っていました。

「1億円の売上を上げてダメなら、2億円を売り上げればいいだろう。

最終的には、何十億、何百億と売り上げたら、間違いなく億万長者になれるに違いない」でも、「間違った問い」に対して、「正しい答え」を導いても、それは「間違った答え」しか出てきません。

当時の僕は「間違った問いに対する正しい答え」の先が泥沼に続く道だとは知らずに、脇目も振らず、突っ走っていきました。

「成功本」の通りにやったのに、お金があとからついてこない僕は独立してからずっと一生懸命がんばって仕事をして、本もたくさん読んで、「花で世界を笑顔にしていく」という大きな理念も掲げて、前に進んでいきました。

そして僕は、何十冊と読んだ本に共通する、ある言葉を信じていました。

それは、一流といわれる有名なコンサルタントの先生の本などの、いわゆる「成功本」には必ずといっていいほど書いてあった、「お金はあとからついてきます」という言葉です。

さらに「お客さんが喜ぶことをすれば、お金はあとからついてきます。

だから、お客さんに真摯に向き合い、真面目に取り組みましょう」とも、成功本にはよく書かれてあります。

お客さんにも真摯に向き合い、真面目に取り組んだ結果、「売上」はついてきました。

でも、手もとに残るお金はまったくあとからついてきません。

「なんなんだ!何十冊もの本で同じことが書いてあったけれど、ウソじゃないか!お客さんを喜ばす〝だけ〟で、お客さんに真摯に向き合う〝だけ〟で、お金はあとからついてくるって書いてあったじゃないか!」と心のなかで叫びました。

でも、今思うとそもそもの進む方向が間違っていたのです。

結果、お金が残らなかったのが何よりの証拠です。

なぜお金があとからついてこなかったかという理由を、今なら即答することができます。

「会社の数字のことをしっかりと理解」したうえで、お客さんを喜ばせて、真摯に向き合えば、お金はあとからついてくるのだと。

しかし当時は、「会計って、過去に起こったことを数字にまとめたものでしょ?」くらいにしか思っていなかったのです。

この考え方が間違っていると理解できたのは、それはまた何年かあとの話。

当時は、真冬の早朝に花を出荷するための梱包作業をしながら、「なんで、お金が残らないんだろう……」と、かじかんだ手を見つめて、ため息まじりにひとり言をつぶやいていました。

そんな冬の寒さは、僕にはいっそうこたえました。

第1章を読み終えた読者へ好事魔多し──どうやらそれは商売にもあてはまるようです。

勢いよく売上を上げ続け、年商1億円を突破。

一見すると順風満帆な滑り出しに見えますが、彼はこのときすでに「売上という魔物」に飲み込まれています。

彼は「売上─コスト=利益」で儲けが出ると考えました。

この式、結果論としては正しいのですが、少々単純化し過ぎたきらいがあります。

この式を表面的に見ると、「売上がコストを上回ればうまくいく」ように思えてしまいます。

実際、彼は「売上を増やす」べく一心不乱に努力しました。

しかし、どれだけ売上が増えても資金繰りの苦労はなくなりません。

そこで彼はさらに売上を追い求めます。

「もっと売上を、もっともっと売上を」と。

そこに登場した税理士さんが悪気なく「売上アップ」をあおります。

さらには善意の銀行が資金難の彼に金を貸します。

税理士さんも銀行もまったく悪気はありません。

よかれと思って手を貸しているのです。

そこに不幸がありました。

小さな会社の場合、見かけだけでは儲かっているかどうか判断できません。

「見かけ」というのが売上です。

売上が増えている会社の社長は羽振りよく金を使うので、ハタから見ると儲かっているように見えます。

彼は調子に乗ってレクサスを買いますが、資金繰りを考えると、とても高級車を買えるような状態ではありません。

レクサスを買って商売が火の車になるとは、シャレにもならない状況です。

ただ、「たったひとつの救い」があるとすれば、このとき彼は違和感を感じていたことです。

「でも、肌感覚としてやっぱり儲かっている感じはあまりしないんです」。

残念なことに、これを感じられない経営者もいるんです。

しかし、彼は気づいていました。

「何かおかしいぞ」と。

しかし彼はいまだトンネルの出口を見つけることができません。

売上の呪縛を解くカギはどこにあるのでしょう。

それは「人」なのか、「情報システム」なのか、それとも……?では、続きをどうぞ。

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