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第1章 「タテ・ヨコ・算数」の視点

Contentsはじめに新型コロナウイルスについて第1章「タテ・ヨコ・算数」の視点日本は「夫婦別姓」の国ユニコーン企業はわずか3社必要なのは「女性・ダイバーシティ・高学歴」

はじめに

新型コロナウイルスについて皆さん、こんにちは。

今日はリアルとオンラインのハイブリッドで「最後の講義」を行いますので、よろしくお願いします。

はじめに、皆さんも新型コロナウイルスの感染拡大によって学業や仕事で大きな影響を受けていると思いますが、その新型コロナウイルスの問題について話します。

ウイルスというのは少なくとも数十億年もの間、この地球に棲んでいます。

僕たちホモ・サピエンス、人間はたかだか20万年です。

どちらが大先輩かはすぐわかりますよね。

未知のウイルスは普段は森の奥に棲んでいるのですが、人間の活動範囲がどんどん森の奥まで入っていくと、そこに存在していたウイルスと人間が動物などを介して出遭います。

これは、一種の自然現象といえるでしょう。

だから、今回のようなウイルスによるパンデミックは、だいたい100年に1度ぐらいの割合で起こっているのです。

新型コロナウイルスははじめて出遭った未知のウイルスですから、当然、ワクチンも治療薬もありません。

ウイルスと張り合う対抗手段がないわけです。

ウイルスは人間を介して移動しますから、ワクチンや治療薬が開発されるまではステイホームするしかないのです。

例えるなら、新型コロナウイルスは台風のようなもの。

超弩級の台風が全世界を覆っていると想像してください。

そんな巨大な台風が外で荒れ狂っているのですから、誰もが家にとどまるはず。

だから、ワクチンや治療薬が開発されるまでしばらくの間はステイホームするしかないのです。

ステイホームに関して、問題が2つあります。

1つ目は、全世界のリーダーはどうやって皆さんにステイホームへの協力を促すのかということです。

ステイホームしか抜本的な対策がないわけですから、市民をうまく説得し、実行に移さなければなりません。

ただし、職業によってはステイホームができない人たちもいます。

エッセンシャルワーカーと呼ばれている医療従事者やスーパーで働いている人たちです。

エッセンシャルワーカーの献身的な仕事があってはじめて僕たちはステイホームをすることができているわけです。

エッセンシャルワーカーにどうやって感謝の気持ちを表し、支援するか。

リーダーはもちろん、恩恵を受けている僕たちも考える必要があります。

2つ目は、ステイホームは原則「仕事ができない」ということ。

もちろん、この講義のようにテレワークでできることもありますが、介護や、あるいは建物や道路をつくったりという、人が現場に行かなければどうしようもない仕事はテレワークではできません。

だから、ステイホームはマクロで見れば仕事ができないことなので、「ステイホーム=収入減」になります。

そうなると、いちばん困るのはパートタイマーやアルバイトとして働いている社会的弱者です。

そういう人たちに、どうやって所得の再分配政策を設計し、補償を迅速に届け、安心してステイホームをできるようにするか。

この2つの問題に、世界中のリーダーが必死になって取り組んでいるのです。

インターネットが発達したおかげで、皆さんもスマートフォンやパソコンの画面でドナルド・トランプ米大統領(当時)の新型コロナウイルス対策に関する方針演説や、同じアメリカならニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモの演説を聞くことができます。

どちらがしっかりした対策を打ち出しているかを比較したり、考えたりしますよね。

そのように、世界中のリーダーが同じ問題に取り組み、その対応を世界中の人々が固唾をのんで見守っているというのが今の状況だと思います。

次にいわれているのは「ニューノーマル」です。

世界はしばらくは新型コロナウイルスと共生しなければいけません。

いったいいつまで共生することになるのでしょう?何かを議論するときには言葉の定義をしなければいけませんが、新型コロナウイルスに関しては、「ウィズコロナ」と「アフターコロナ」の定義づけが必要です。

一般的には、「ウィズコロナ」とはワクチンや治療薬が開発され、普及するまでの期間のことを指します。

この間は、ステイホームが原則で感染が下火になれば経済活動を復活してもいいのですが、ワクチンも治療薬もないわけですから、感染を防ぐためにマスクを着け、手洗いや消毒を頻繁に行い、ソーシャルディスタンシングを実行することが必要とされます。

一方、「アフターコロナ」の時代はワクチンが開発され、世界中の多くの人々がそれを接種し、感染した人には治療薬を与えることができるようになる段階です。

ワクチンや治療薬ができたら新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスと同じような感染症になるといわれています。

そうなれば、親しい人とハグもたくさんできますね。

アフターコロナの時代は、原則として、ステイホームも狭義でのニューノーマルも必要がなくなるのです。

もっとも、しばらくの間は新型コロナウイルスと共生するニューノーマルの暮らしを実践するしかなさそうですが。

僕が学長を務めているAPU(立命館アジア太平洋大学)でも、2020年度の上期はいつ緊急事態宣言が再び発令されるかどうかわからない状況でしたから、すべての授業はオンラインで実施すると決めました。

ただ、下期はハイブリッドにチャレンジしています。

APUのある大分県内の小学校も中学校も高等学校もリアルの授業にチャレンジしています。

APUも当然チャレンジしなければなりません。

でも、APUは学生の約半数が外国人で、外国からの留学生の約半数は春休みで故郷に帰国しています。

日本に戻ってくるにしても、今は簡単に入国できません。

ということは、リアルの授業だけでは学生の皆さんに均等に教育の機会を提供することができないので、オンラインとリアルの授業を同時に行うハイブリッドが求められているのです。

「ウィズコロナ」の現在、APUではどうすればもっと魅力的な授業がハイブリッドで行えるかを模索しながらチャレンジしています。

テレビや新聞を見ていると、新型コロナウイルスに関して悲観的な論調が多いように感じます。

「これからはずっとマスクを着けて生活しなければいけない」などと。

そうじゃないですよね。

ワクチンや治療薬ができるまでの辛抱です。

人間の物事の考え方は「接線思考」だと僕は考えています。

円をちょっと転がしたら接線の角度は大きく変わるのに、人間の思考は、ついつい現状の延長線上に未来を見ようとしてしまいがちです。

人間は今の状況に影響されやすいのです。

だから、「ずっとマスクを着けなきゃいけない」と考えてしまうのです。

もう1つ、考え方として大事なのは「時間軸」です。

「ウィズコロナ」と「アフターコロナ」もそうですが、何か問題が起こったときには時間軸で分けて考え、行動することが大切です。

いい例は「秋入学」です。

APUは、開学当初から春と秋の入学を実施しているので、僕は秋入学には賛成なのですが、今、それに関していちばん不安に感じているのは高校3年生の皆さんですよね。

18歳のときに受ける入学試験は人生の中で大きな節目になりますから、受験生がピリピリするのもしかたがありません。

そんな受験生に対して僕なら、「来年、21年度から秋入学をやる」と宣言したいです。

「来年は春と秋の2回、受験のチャンスがあるから心配しなくてもいいよ」と。

だから、受験生の皆さんも大学に対して「秋入学を実施して」と声を上げてほしいのです。

大学の秋入学に合わせて、将来的には小学校、中学校、高等学校も秋入学に変更する必要が出てきます。

コロナ禍で学校が大変な状況に陥っているさなかに小学校から大学までいっぺんに変更することは難しいでしょうから、5年間ぐらいかけて調整するように仕組みを考える必要がありそうです。

でも、秋入学を実施するなら小学校から始めてすべてを同時に変更しなければいけないと考えてしまうと、「こりゃ大変だ。

できるわけがない」いう話になり、せっかくの秋入学というアイデアが潰れてしまいます。

そうならないためにも、問題が発生したときは時間軸で考えることが大切なのです。

以上が、僕が考える「コロナ問題」の基本です。

ステイホーム新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、不要不急の外出や都道府県をまたぐ移動を避け、なるべく家の中で過ごすことを推奨するスローガン。

エッセンシャルワーカー生活の維持に欠かせない職業に就いている人たち。

テレワーク「テレ=離れたところ」と「ワーク=働く」を合わせた造語。

パソコンやスマートフォンなど情報通信技術を使って、時間や場所を有効活用した柔軟な働き方。

在宅勤務もその1つ。

所得の再分配政策高所得者には税負担を高く、低所得者には低く(あるいは免税)し、税を社会保障給付などのかたちで再分配することによって、所得や資産の格差の拡大を是正する政策。

ニューノーマル新型コロナウイルスの影響下で、国や社会のあり方、働き方、コミュニケーションの取り方など、さまざまな状況で求められる「新しい標準」「新しい生き方」のこと。

一般には(狭義では)、検温、マスク、ソーシャルディスタンシング、手洗い、消毒などが推奨されている。

APU(立命館アジア太平洋大学)AsiaPacificUniversity。

学校法人立命館が2000年4月に大分県別府市に設立した国際大学。

著者の出口治明さんが第4代学長を務める。

世界各地から集まる国際学生が学生の半数を占め、教員も約半数が外国籍という多文化・多言語のキャンパスが特色。

秋入学9月に入学するシステム。

日本の多くの大学は春に入学(4月)し、卒業(3月)するが、世界的に見ると少数派。

先進国の多くは秋に入学・卒業する。

グローバル化の流れを受け、9月入学を採用する大学が少しずつ増えている。

日本は「夫婦別姓」の国物事を考えるときにいちばん大切なのは、現状を分析することです。

古代共和制ローマの軍人で政治家のユリウス・カエサルが、「人は現実のすべてが見えるわけではなく、多くの人は見たいと思う現実しか見ない」と述べたように、人間は自分が見たいものしか見ない動物ですから、なかなか世界をフラットに見ることができません。

行動経済学の研究でも、人間は自分にとって都合がいい情報を選択したり、都合の悪い現実は都合よくねじ曲げて認知したりする傾向があるといわれています。

ですから、冷静なフラットな目線で現状を分析するよう常に意識することが大切です。

僕はいつも、世界を見るために必要な視点は3つあると話しています。

「タテ・ヨコ・算数」の視点です。

「タテ」は時間軸。

歴史的な視点を持って、昔の人はどう考えていたのかを知ることです。

「今と昔とでは時代が違う。

インターネットのない昔のことを勉強しても、何の役にも立たない」と主張する人もいますが、人間の脳はこの1万年間、まったく進化していないと世界中の脳科学者は結論づけています。

だから、時代が違っても昔の人の成功事例や失敗事例、思考パターンを学ぶことはとても大切です。

「ヨコ」は空間軸です。

グローバルな視点を持って、世界を広く見渡すことです。

人類はホモ・サピエンスという単一種ですから、今を生きる世界の人たちがどう考えているのかを知ることも大切なポイントです。

この「タテ」と「ヨコ」の軸を持って考えると、物事の見え方が変わってきます。

例えば、「夫婦別姓」の問題を「タテ」と「ヨコ」の軸で考えると、夫婦別姓は当たり前だということがわかります。

僕は中学校の歴史の時間に、「源頼朝は平(北条)政子と結婚して、後に鎌倉幕府を開いた」と習いました。

皆さんもそう習ったはずです。

これを素直に受け取ったら、日本は夫婦別姓の国だということがわかります。

政子は嫁いだ先の源とは違う苗字を名乗っているのですから。

それが「タテ」、時間軸の視点です。

次は「ヨコ」、空間軸で現在の世界を見てみます。

37の先進国が加盟する国際機関であるOECD(経済協力開発機構)の国々の中で、法律婚(婚姻届を提出し、法的に認められた結婚)の条件として夫婦同姓を強制している国は日本だけです。

しかも、明治以前は日本も夫婦別姓の国でした。

夫婦同姓になったのは、1898年に明治時代の旧民法で夫婦同氏制が定められてからです。

つまり、長い日本の歴史の中でわずか120年間ほどだけなのです。

にもかかわらず、「夫婦別姓の考え方は日本の伝統とは違う」とか「家族の一体感を壊す」といっているおじさんやおばさんは、単なる不勉強かイデオロギーや思い込みが強い人だということがすぐにわかります。

もっというと、実は日本の今の法律では夫婦どちらの姓を選んでもいいことになっているのに、実際には9割以上が男性の姓になっている現実に対して、国連は暗黙の女性差別だと認定し、3回も是正勧告を行っているのです。

このように、物事を「タテ」「ヨコ」の視点で眺めれば、バイアスやイメージに惑わされることなく正解を導き出すことができるのです。

3つ目の「算数」も大切です。

データにもとづく視点で、どんなデータや事実、すなわちエビデンスがあるのかを理解したうえで物事を考えることです。

算数は、「数字(データ)・ファクト(事実)・ロジック(論理)」と言い換えてもいいでしょう。

少し前の話ですが、「欧米の強欲な資本主義はもう時代遅れだ。

これからは、近江商人の理念である買い手よし、売り手よし、世間よしの『三方よし』を基本にした日本的経営が世界を救う」と話している人がたくさんいました。

それだけを聞いたら、「日本の企業経営のあり方って、昔も今も凄いのかな」と鵜呑みにしそうになりますよね。

そこで「算数」です。

数字を見てみましょう。

平成の30年間を考えると、日本の正社員の平均労働時間は年間2000時間を超えています。

それだけ長時間働いているならさぞ儲かっているだろうと思いきや、平均成長率は1パーセントあるかないかです。

一方、EUは年間1500時間以下の平均労働時間で2・5パーセントの平均成長率を達成しています。

この数字(データ)から何がわかるでしょうか。

日本のように長時間働いてもあまり儲かっていないということはマネジメントができていないということ。

「三方よし」を賛美する前に、生産性を上げる努力をする必要がありそうです。

このように、どんな問題でもデータでチェックしたり、エビデンスベースで考えることは、根拠なき精神論に左右されないためにも欠かせない作業なのです。

ここで皆さんは、「なぜアメリカではなくEUと比べるのですか?」と疑問に思うかもしれません。

「アップルトゥアップル」という言葉を聞いたことがありませんか。

同一条件での比較になっているかというビジネス用語です。

似た者どうしを比べることが大切なのです。

アメリカは先進国なのに人口が増え続け、石油も世界一産出する群を抜いた超大国ですが、日本はそうではありません。

むしろ、ドイツやフランスのように面積も人口の値も比較的近く、高齢化が進み、石油も産出しない国と比べるほうがデータとして正しいと思うのでEUと比べたのです。

もっとも、アメリカと比べても結果はほとんど変わりませんが。

人間はそれぞれ顔が違うように、異なった価値観や人生観を持って生きています。

同時にそれは、異なった価値観や人生観という「色眼鏡」をかけて世界を見ていると考えることもできます。

ですから、世界をフラットに見るための思考の枠組が必要になるのです。

それが、「タテ・ヨコ・算数」なのです。

僕は三重県の旧・美杉村(現・津市)に生まれ、伊賀市で育ちました。

子どもの頃はガキ大将で、しょっちゅう喧嘩をしていました。

最近の子どもは喧嘩をしたら先生や親に叱られるかもしれませんが、僕は今72歳、半世紀以上前の子どもたちはよく喧嘩をしていたのです。

小学生の頃は背が高かったので、喧嘩にはだいたい勝っていました。

でも、喧嘩って一方的には勝てないんですよね。

あんまり上品な話ではないんですが、5発ぐらい殴って勝っても、僕も3発ぐらい殴られるんですよ。

僕はガキ大将だったので、中学1年生の頃はアレクサンドロス大王に憧れていました。

だって、10年間も戦争して勝ち続けるってかっこいいとは思いませんか?だから、図書館でアレクサンドロス関係の本を読みあさりました。

不思議だったのは、10年間ずっと勝ち続けたこと。

これ、変でしょう?子どもの喧嘩でも5発対3発という接戦で勝者もダメージを受けるのに。

「何でやろう?」と考えながら本や事典を読んでいると、インダス川の畔でギリシャから援軍を受け取っていたという記事を見つけ、「なるほど」と合点がいきました。

いつも同じメンバーで殴り合いをしていたら強いほうもかなりなダメージを受けるけれど、新しいメンバーが応援に来たら勝てるよねと。

でも、次に抱いた疑問は、ギリシャとインダス川って、めっちゃ遠いということ。

電話も電報もない時代なのに、なぜアレクサンドロスの居場所がわかったのだろうかと思って調べると、アレクサンドロスが滅ぼしたアカイメネス朝ペルシャという大帝国には「王の道」と呼ばれた道路が通っていて、そこに駅伝制度があったと書いてあり、そこではじめて腹に落ちたのです。

このように、「何で?」「何で?」と疑問を重ねて、その疑問を解くためにエビデンスを調べる癖があったために、「タテ・ヨコ・算数」の視点で物事を見る習慣が身についたんだと思います。

ついでに述べると、アレクサンドロスはペルシャ語やアラビア語では「イスカンダル」です。

皆さんは時代が違うからわからないかもしれませんが、僕は『宇宙戦艦ヤマト』も大好きでした。

アニメの歌詞にも登場した「宇宙の彼方イスカンダル」です。

あれはアレクサンドロスのことを指しているのです。

そう思うと楽しいでしょう?地の果てまで行ったアレクサンドロスをイスカンダルに変え、歌詞にしている。

小さなことでも何かを知るというのは楽しいですね。

アレクサンドロス3世(紀元前356~323年)通称、アレクサンドロス大王。

古代ギリシャのマケドニア国の王。

10年間に及ぶ戦争の末、強大なペルシャ帝国を制圧した。

宇宙戦艦ヤマト松本零士が描いたSF漫画。

子どもたちから絶大な人気を誇り、テレビアニメ化もされた。

ユニコーン企業はわずか3社「算数」の視点が大事だと話しました。

もう1つデータを挙げると、平成の30年間に日本のGDP(国内総生産)の世界シェアは9パーセント弱から4パーセント強に半減しました。

これは購買力平価で計算しているので為替の影響はありません。

半減したといっても日本の人口は世界の1・4パーセント前後ですから、4パーセントのGDPを生み出しているのは凄いことではあるのですが。

現在(2019年)の日本の購買力平価GDPは中国、アメリカ、インドに次いで世界4位でした(名目GDPなら世界3位です)。

ただ、この数字は国全体としての数字なので、人口一人当たりの購買力平価GDPに換算すると日本は33位になってしまいます。

これはG7(アメリカ、連合王国〈イギリス〉、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、日本)の中では最低です。

30年前はG7のトップであったことを思うとちょっと心配です。

同じように、IMD(国際経営開発研究所)というスイスのビジネススクールが調べた国際競争力ランキングでは、官も民も含んだ総合力で競っていますが、日本は1位から34位に落ちました。

また、平成元年(1989年)の時価総額で見た世界のトップ企業20社の中に日本企業は14社も入っていましたが、現在はゼロ。

日本企業の最高はトヨタ自動車の49位です。

これも心配なデータです。

この講義を聴いている皆さんは若い人が多いので、以上のデータを考えたら嬉しくなったはずです。

嬉しくなった人、手を挙げてもらっていいですか?はい。

嬉しいですよね。

だって、30年前は国際競争力で世界1位ですから、後は落ちるだけ。

実際、落ちました。

でも、34位ぐらいなら頑張れますよね。

伸びしろがたくさんあるのですから。

勉強していろんなことにチャレンジして、もっと順位を上げてやろうとか、GDPのシェアを伸ばしてやろうと思えば、人生は楽しいです。

頑張り次第でもっと豊かな生活を実現することができるのですから、皆さんはラッキーな時期に大学生や社会人になろうとしている羨ましい世代です。

問題は、なぜこの30年間にこれほど順位を落としてしまったのかということです。

世界のトップ企業20社の中に14社あった日本企業を追い出したのはどんな企業でしょうか。

皆さんはもう答えを知っていますよね。

「GAFA」と呼ばれる、Google、Apple、Facebook、Amazonのような新興企業群と、その予備軍と目されるユニコーン企業です。

そういった世界を牽引する新しい企業が日本ではあまり生まれなかったことが追い越された原因です。

2019年7月時点でユニコーン企業は世界に380社あるといわれていました。

国別では、アメリカが最多の187社で、中国94社、連合王国19社、インド18社。

日本はわずか3社です。

アメリカの調査・分析会社『CBインサイツ』によると、日本に本社を置くユニコーン企業は、人工知能開発の『プリファード・ネットワークス』、暗号資産(仮想通貨)交換会社を傘下に持つ『リキッドグループ』、ニュースアプリ運営の『スマートニュース』です。

ちょっとまずいと思いませんか?名目GDPが世界3位の経済大国と標榜するなら50社ぐらいはあってほしいものです。

GDP国内総生産。

その国が1年間でどのくらいの価値を生み出しているのかという指標で、その国の経済力の目安に用いられる。

名目GDPや実質GDPなどがよく使われるが、購買力平価GDPも重要な指標とされる。

購買力平価ある国である価格で買える商品が、他国ならいくらで買えるかを示す実質的な為替レート。

コーラがアメリカで1ドル、日本で100円なら1ドル=100円として換算する。

その国の経済力や豊かさを物価から割り出したもの。

ユニコーン企業創業10年以内のスタートアップ企業で、評価額が10億ドルを超える未上場のテクノロジー企業。

伝説の一角獣、ユニコーンのように珍しく、巨額の利益をもたらす可能性があることからそう呼ばれている。

必要なのは「女性・ダイバーシティ・高学歴」では、なぜGAFAやユニコーン企業のような新しい産業が日本に生まれなかったのか?この問いにも学者がすでに答えを出しています。

キーワードは3つ。

「女性・ダイバーシティ・高学歴」です。

まず、「女性」について。

女性の皆さんは「121位ショック」という言葉を聞いたことがありますか?ダボス会議を主催する世界経済フォーラムのジェンダー格差に関する報告書「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数2019」によれば、日本の女性の社会的地位は世界153か国中121位で、G7では最下位。

この順位の低さは日本のユニコーン企業の少なさとも関係しています。

それは、GAFAやユニコーン企業のほとんどはサービス産業ですが、サービス産業のユーザーの6~7割は女性です。

つまり、商品やサービスを供給する側に女性がいなければ、顧客の真のニーズをつかむことはできないのです。

日本経済を支えていると自負している50代、60代のおじさんたちに、女性が本当にほしいものがわかると思う人、手を挙げてもらっていいですか?いませんよね(笑)。

つまり、需要と供給のミスマッチが生じ、それがそのままジェンダー格差の順位にも表れているのです。

供給側にもっと女性が増えないとサービス産業は発展しないし、日本にユニコーン企業は増えないと思います。

女性の活躍を図ろうとすれば、社会構造を変えることが不可欠です。

それは、「男は仕事、女は家庭」という戦後の性分業にインセンティブを与える2つの仕組みを廃止することです。

1つは、38万円以下という配偶者控除の対象となる金額です。

パートタイマーの主婦の場合、給与所得控除の65万円をプラスした103万円が最低ラインになり、103万円以上働いたら不利になるといわれています。

誰だってそれ以上働こうとしませんよね。

もう1つは、社会保険の第3号被保険者制度。

保険料を納めずして年金がもらえるのであれば、先ほどと同様、誰も積極的に社会進出して働こうとは思いません。

日本に定着しているこの2つの悪しき仕組みをなくすべきなのは明らかです。

すでにヨーロッパを中心に世界の130か国以上では、議員や会社役員などに占める女性の割合をあらかじめ定め、積極的に女性を起用する「クオータ制」を導入するなど、女性の社会的地位を引き上げようと力を入れて取り組んでいます。

それは男女同権の精神だけではなく、女性に活躍してもらわなければ成熟社会を引っ張るサービス産業を支え、豊かな生活ができないという現実的な理由からです。

欧州中央銀行のクリスティーヌ・ラガルド総裁が述べたように、日本の衰退を防ぐには女性を積極的に活用して男女差別をなくすことが第一歩で、日本は幅広いクオータ制を導入すべきだと僕は考えています。

ちなみに、日本の男女差別は、著名な家族学者のエマニュエル・トッドが指摘するように、少子化の根本原因でもあるのです。

「ダイバーシティ」についてはもっと簡単です。

イノベーションは、既存知と既存知の新しい組み合わせです。

既存知と既存知の間の距離が遠いほど、面白いアイデアが生まれやすいことは経験則として広く知られています。

この既存知間の距離を遠くするのがダイバーシティです。

多国籍の人やさまざまな個性を持つ人が集まれば、それだけ距離が遠くなるため、いいアイデアが生まれる可能性が高くなります。

2019年は日本で開催されたラグビーワールドカップで大いに盛り上がりました。

大分も盛り上がりましたよね。

僕もスタジアムに観に行きました。

日本代表チームは「OneTeam」を掲げて健闘し、ベスト8に入りましたが、このワンチームが日本人だけで構成されていてもベスト8に入れたと思う人、手を挙げてください。

きっと難しかったはずですよね?混ぜたら強くなる。

多様性が組織を強くするのです。

生物はもともと無性生殖でしたが、それでは滅びてしまうからと、雄と雌に分かれる有性生殖に進化しました。

できるだけ離れたところで育った相手との間に赤ちゃんができると、免疫などが混ざってたくましい子どもになりやすい。

すなわち、生き物は混ぜると強くなりやすいのです。

ビジネスも同じで、GAFAやユニコーン企業は多国籍企業です。

ユニコーン企業が生まれるのは主にアメリカのシリコンバレーです。

シリコンバレーには世界中からオタク、つまり尖った個性を持つ高学歴の人たちが集まってきます。

ダイバーシティあふれる環境で、世界中のユニークな個性が侃々諤々と議論を交わすなかから、世界を動かす新しいアイデアが生まれているのです。

3つ目は、「高学歴」です。

高学歴とは、偏差値の高い大学や大学院に入ることを指すのではなく、学び続けることを意味します。

大学院も含めて、一生、学び続けることが本当の高学歴なのです。

ところが、日本の社会は構造的に低学歴です。

大学進学率は53・7パーセント(文部科学省2019年度「学校基本調査」速報値)。

2017年のデータでは約49パーセント(OECD.Stat)で、OECD対象国の平均より7~8ポイントほど低くなっています。

しかも企業の採用基準に成績が重視されないので、日本の大学生はあまり勉強しません。

大学院進学率はさらに低く11・8パーセントで、OECD37か国中29位。

実は日本は、あまり大学や大学院に行かない国なのです。

さらに、25歳以上で大学に入学する学生の割合はわずか2・5パーセントなのに対して、OECDの平均は16・6パーセントに達しています。

海外では、いったん社会に出てから大学に入り直す人が珍しくありません。

ところが、日本人は学校を卒業して社会人になったら年間2000時間の労働が待っています。

働いて、家に帰ったらくたくたになり、何かを学ぶ時間はありません。

年間1500時間のヨーロッパと500時間以上差があるということは、1年間で仕事をするのはだいたい200日ちょっとですから、毎日2、3時間差があるということ。

つまり、日本人は勉強をするのが嫌いなのではなく、勉強をしたくてもできないのです。

「仕事を辞めてまで大学院に通うのは難しい」という声もありますが、仕事を辞めなくても、土日や夜間だけで卒業できる大学院もあります。

本気で勉強しようと思えばいくらでもできるはず。

問題は長時間労働という社会構造に根ざしているのです。

これからは、理想を述べれば、職場と大学を行ったり来たりできる社会環境をつくっていくことが大切だと思います。

企業のリカレント投資(生涯教育に対する投資)は税額控除するなど税制上の優遇を図ることも必要なのではないでしょうか。

GAFAやユニコーン企業の経営幹部はよく勉強していて、ダブルマスター、ダブルドクターの人も大勢います。

しかも、経営学、統計学や数学だけではなく、文学、美学、哲学などの学位を持ち、幅広い知識を得ようと努めています。

サービス産業はアイデア勝負。

好きなことを徹底的に学んだ人がたくさんいる社会のほうがアイデアは出ますよね。

日本も学びの環境を整え、GAFAやユニコーン企業が生まれやすい社会になってほしいのですが、現状は女性の社会進出は低く、ダイバーシティもなく、長時間労働が温存されていて勉強する時間もない。

この3つが日本の低迷の根本原因になっていると考えざるを得ないのです。

グローバル・ジェンダー・ギャップ指数政治、経済、教育、健康の4分野14項目のデータをもとにして、各分野の男女格差を分析した指数。

配偶者控除配偶者(妻、夫)の年収が103万円以下の場合、納税者の税金が軽減される制度。

例えば夫が正社員で妻がパートの場合、妻は夫の税金が軽減されるためにパートの年収を103万円以下に収めようとする。

これがいわゆる「103万円の壁」だ。

第3号被保険者会社員や公務員など厚生年金保険に加入している扶養者の配偶者。

配偶者は自分で国民年金保険料を納付する必要がないことが大きなメリット。

ダブルマスター、ダブルドクターダブルマスターは2つの大学院の修士号(前期博士課程や修士課程を修了)を持っていること。

ダブルドクターは2つの博士号(後期博士課程や博士課程を修了)を持っていること。

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