第四章タイプ&シチュエーション別フィードバック Q& A
フィードバックの基本的なノウハウは第二章、第三章で述べましたが、実際には、これを知っているだけでは、まだ十分ではありません。
フィードバックでは、かなり耳の痛いことを言いますから、全員が全員、素直に受け入れてくれるとは限りません。
突然キレる人、ああだこうだと言い訳する人、黙り込んでしまう人、話題を変えようとする人……などなど、さまざまな反応をする人が出てきます。
そうした反応をされれば、言葉に詰まってしまい、これ以上話すのをやめてしまう……というマネジャーもいることでしょう。
とはいえ、部下に今の行動を改めてもらいたいなら、フィードバックをしないわけにはいきません。
聞く耳を持ってもらうためにも、話を上手に持っていく必要があるでしょう。
そこで、本章では、部下のタイプ&フィードバックのシチュエーション別に、上司がどのように対処すべきかを、 Q& A形式でお話ししていきたいと思います。
さまざまな対処法を頭に入れておけば、あの手この手を繰り出せるようになり、フィードバックによって部下が成長する確率が高まるはずです。
すぐに激昂してしまう「逆ギレ」タイプ
▼「〇〇さんはどうすればいいと思う?」と改善策を聞く おそらく、フィードバックをしたときに、最も多いトラブルのパターンは、「フィードバックした相手がキレること」ではないでしょうか。
「課長は何もわかっていません!」「それは課長の問題認識が間違っています」 などと、フィードバックの内容にかみついてくるといった事態はよく起こります。
こんなとき、部下をなだめすかして、怒りを鎮めようとする人は多いでしょう。
たとえば、「君が頑張っているのはわかっている」とねぎらったり、「たしかに、君のこういうところは良いところだ」と褒めたりする。
また、「私はそう思っていないけど、人事(または自分の上司)がそう言っているから仕方ないんだ」と他人のせいにする、といったところです。
しかし、以上の方法はどれも逆効果になることが多いものです。
ねぎらったり、褒められたりしても「白々しい」と思われるし、人のせいにしたら、「責任逃れをして、卑怯だ」と思われます。
いずれにしても、その後の仕事に、悪影響を及ぼすことは確実です。
では、どうすれば、相手の怒りを鎮めつつ、こちらの話を受け入れてもらって、成長につなげられるのでしょうか。
方法の一つは、相手に「改善策を聞くこと」です。
「そんなに怒るということは、『こうした方がいい』という強い思いがあるんだよね? それを聞かせてくれないかな」などと言うのです。
すると、本当に改善策を持っている人なら、高ぶったネガティブ感情をポジティブ感情へと変えることができます。
「よくぞ聞いてくれました」とばかりに、とくとくと持論を述べることでしょう。
そのとき、あなたは多少暴論があったとしても、最後まで聞ききってください。
そうすれば、相手は自分の言いたいことが言えて、スッキリします。
その上で、「この意見は一理あるから早速取り入れよう。
でも、こういうところは改善した方がいいと思うよ」というように話を持っていけば、相手も聞く耳を持ってくれるはずです。
もっとも、多くの場合、こうしたタイプは改善策など持っておらず、単に自尊心を守るために、人のせいにしたり、反論したりしているだけです。
改善策を尋ねれば、「そ、それは……」と言葉に詰まってしまうでしょう。
そうした場合には、「 ◯◯さんはせっかく強い思いを持っているんだから、それを数字や成果に結びつけることができたらいいんじゃないかな」と言い、一緒に改善策を考えることができるでしょう。
くわえて、いきなり部下にキレられると、びっくりして、頭が真っ白になることがあります。
そうした場合も、無理に話そうとしないで、相手にしゃべらせておきましょう。
言いたいことをすべて話せば、怒っていた相手も落ち着きを取り戻すものです。
何を言っても黙り込む「お地蔵さん」タイプ
▼変にフォローすると刺さらなくなる。
こちらも負けじと黙り込む 人によっては、キレると沈黙する人もいます。
「君はどう思う?」と話を振っても、黙ることで不満を表すタイプです。
「怒ってるのかな?」「このままじゃ人間関係がやばいんじゃないか?」……。
その沈黙に耐えられなくなり、褒めるなどのフォローを入れる人がいますが、これこそ相手の思うツボ。
相手の有利な展開にされてしまい、フィードバックを聞き入れてもらえなくなります。
もし相手が沈黙してきたら、こちらも黙って待つのが正解であることが多いものです。
くどいようですが、「一時間でも二時間でも待つ」という覚悟を持ちましょう。
そうしてこちらの本気度を示せば、相手が根負けして口を開いてくれるものです。
そこまで待っている時間の余裕がない場合は、思い切って日を改めてしまいましょう。
相手が「 Uncoachable」な状態になっている可能性があります。
時間と場所を改めて、新たな気持ちで相手に向き合いましょう。
上から目線で返される「逆フィードバック」タイプ
▼「もし君が上司だったら、この職場をどう変えるの?」と意見を求める「では、言わせてもらいますが、私は、 ○ ○課長のやり方にも問題があると思います」 フィードバックをしていると、逆に、部下の方から、上司であるこちらのマネジメントを批判されることがあります。
批判をされると、「自分のことを棚に上げて、俺の批判!?」とムッとするかもしれませんが、そこで怒っては、ますます険悪な雰囲気になります。
こういうときこそ、冷静に切り返しましょう。
まずは「聞ききること」です。
相手に話をさせれば「矛盾」や「つっこみどころ」が必ず生まれます。
おすすめなのは、「もし君が私の立場だったら、この職場をどう変えるの?」と「仮定法的な質問」を投げかけることです。
「もしあなたが ◯◯だとしたら、どう思いますか?」というようなことは、普段、人は考えません。
私たちは、前のめりに日常生活を生きているので、仮定法的な質問に弱いのです。
ですから、もし視点を変えたいと思ったら、「仮定法的質問」を繰り出すことで事態を乗り越えることもできます。
そして、「こう変える」という部下の意見を聞くと、多くの場合、矛盾が出てきます。
その矛盾を指摘すれば、部下は口をつぐんでしまうはずです。
時には、部下の意見が一理あることもありますが、そんなときは「確かに一理あるね」と認めつつ、「でも、君もこのように変えないとヤバイと思うよ」と話を戻しましょう。
そうやって、自分の主張をとことん貫き通せば、部下も聞かざるを得ないと思い始めるはずです。
言い訳ばかりしてくる「とは言いますけどね」タイプ
▼「他に原因はありますか?」とどんどんしゃべらせれば、必ず矛盾が出てくる こちらがフィードバックした内容に対して、もれなく「いやいやいや、とは言いますけどね……」と言い返してくる人がいます。
「とは言いますけどね」病とでもいえる症状で、年配者に多い印象があります。
「景気が悪い」などと環境のせいにしたり、「取引先の社長と部長の仲が険悪で、話が一向に進まない」とクライアントのせいにしたり。
社歴の長い中年ほど、のらりくらりと言い訳をしながら、こちらのフィードバックを巧みにかわしてきます。
こんなタイプの人と対するときには、どうすればよいか。
私がおすすめするのは、「他に何か原因はありますか?」と言い訳をたくさん言ってもらうことです。
あいづちをうちながら、好き放題言って
もらいましょう。
なぜかというと、言い訳が多いほど、必ず「論理のほころび」が出てくるからです。
そこをつくと、相手は自分の過ちに気づき、何も言えなくなります。
まったくの余談ですが、私は合気道をやっています。
その中で、フィードバックは合気道に似ているなと思うことがあります。
合気道では、相手の力を受け止め、それをうまく利用したうえで相手に攻撃をつなげます。
この意味で、フィードバックは合気道の技に類似していると思います。
また、言い訳したことを「オウム返し」するだけでも、相手はハッとすることがあります。
たとえば、「私は、以前、先輩に指摘された通りにやっています。
主体的にこれ以上動けって言われても無理ですよ」などと言われたとしましょう。
そうしたら、「先輩に言われた通りやっているんだ。
主体的にやっているんだよね……。
言われた通りにやって、もうこれ以上できないんだよね」 などとオウム返しをするのです。
すると、相手は、「先輩の方法じゃなくて、自分でもう少し工夫できた部分もあったかもしれませんね」 などと、自分から言ってくることがあります。
これは、私がオウム返しをすることで、自分の言っていたことの矛盾(「言われた通り」に「主体的」にやっている)に途中から気づいたわけです。
フィードバックのコツは、「鏡のように話す」ことだと話しましたが、オウム返しもまた、「鏡のように話すこと」の一つの形といえるでしょう。
オウム返しをするときのポイントは、「しかし」や「でも」といった逆接の接続詞を使わないことです。
そうした言葉を使うと、相手は「自分のことを否定しようとしている」と捉え、こちらの言うことを素直に聞こうとしなくなります。
相手を肯定しているように見せることで、相手も反省する気になるのです。
全然なんとかならない「根拠なきポジティブ」タイプまったく大丈夫ではない「大丈夫です!」タイプ
▼「なぜなんとかなると思うのか?」その理由を挙げてもらう フィードバックでキレることはないけれども、その後の改善がまったく見られない人がいます。
なぜ改善できないかといえば、そういう人の多くは、フィードバックの内容を聞いていないか、自分の都合のよい内容に変換しているからです。
たとえば、「納期が大幅に遅れていて、クライアントが激怒している」といった深刻な状況に置かれていて、改善するよう指示しているのに、「悲観的過ぎますよ。
何とかなりますよ」と根拠なくポジティブな返答をするような人です。
「根拠なきポジティブ病」とでもいえる症状で、年配者に多い印象があります。
また、どんなフィードバックをしても、「ありがとうございます! 大丈夫です!」と答える人がいます。
特に問題なさそうに見えますが、実は、「大丈夫です」と言うことで、これ以上言われないようにしています。
つまり、フィードバックそのものを「拒絶」しているのです。
怒られ慣れていない若い人にありがちな「すぐに大丈夫病」です。
これらのタイプの人に、刺さるフィードバックをするためには、「なぜなんとかなると思うのか」「なぜ大丈夫と思うのか」、一歩踏み込んで、その具体的な理由を挙げてもらうといいでしょう。
いくつか挙げてもらえば、矛盾点が必ず出てきます。
そもそも、具体的な理由が出てこない可能性も大いにあります。
そこをつけば、相手も聞く耳を持たざるを得なくなります。
このようにフィードバックでは、相手になるべく言葉にさせることを通して、それらの矛盾を探しつつ、攻撃につなげます。
その間、上司は相手から寄せられるさまざまな情報を冷静にロジカルに考え、分析していくことが求められます。
隙あらば別の話題にすり替える「現実逃避」タイプ
▼根気よく話を元に戻して、何度でも同じことを述べる フィードバックを受け慣れている海千山千の人の中には、ちゃんと聞いていると見せかけて、「すみませんでした。
ところで……」といつの間にか別の話題にすり替える人がいます。
自分が責められている状況から早く逃げ出したいという思いから、そうしたすり替えに入るわけですね。
すり替えに関して、匠の技を見せるベテラン社員が、あなたの周りにもいるのではないかと思います。
しかし、このように話題をすり替えようとする人は、まず、フィードバックの内容を覚えていません。
現実逃避をしたいわけですから、真正面から課題に向き合うはずがないのです。
こうした人にフィードバックが刺さるようにするためには、「私の言いたいことはそのことじゃないんです」と話を何度も元に戻し、何回でも同じことを述べるしかありません。
場合によっては、ホワイトボードや白紙に論理の展開を図示することも一計です。
相手をロジカルにおいつめ、「論理」を「すり替えていること」を意識させなければなりません。
また、「さっきから厳しいことばかり言って、そんなに私のこと、嫌いですか?」と感情論を持ち出す人もいますが、これも一種の話題のすり替えです。
ロジックでは勝てないと察した相手は、今度は感情論に話をすり替えようとしているのです。
くれぐれも、相手の土俵に乗ってしまうことだけは避けねばなりません。
「人としては好きだけどさぁ」などと余計なことを言ってしまうと、発言に尾ひれがつき、他の部下から「課長は ○ ○さんのことがお気に入りですからね」「私には用がないと全然話しかけてくれないのに」などと、どんどん話がこじれてきます。
「部下を観察することが大切だ」と言いましたが、部下は予想以上に上司のことを観察しているものです。
窮屈ではありますが、そのことをいつも念頭に置いて、行動することが、マネジャーには求められます。
上司のお前が間違っている! 「思い込み」タイプ
▼部下の日頃の行動を記録して、それを元に具体的に指摘する「そもそも上司が私の状態を解釈するところから間違っている。
それを踏まえたフィードバックなど、聞くに値しない」 そう思い込んでいるタイプには、何を言っても響きません。
上から目線の発言などをする人にありがちな病ですが、言動や態度にその兆候が出ない人もいます。
すべてのタイプに言えることですが、特にこのタイプの部下に関しては、日頃の行動を観察して、気づいたことを詳細にメモすることが大切です。
その上で、「先週のこの仕事のときに、こんなことをしていたけど……」とメモを元に、具体的に指摘すれば、部下も「上司が間違っている」とは考えにくくなります。
徹底的なデータ勝負です。
図表 14でみたように、 SBI情報を収集しましょう。
また、なぜそういう指摘に至ったのか、上司目線の話を事細かく話すことも、効果的です。
たとえば、部下を何かのチームリーダーから外すという決断をしたとしたら、その理由を上司の目線からいくつも並べることです。
単に「成果があがらなかったから」だけでなく、「 B君を新リーダーにすることで、これまでと異なる客層が開拓できると考えた」「君は Cさんと組ませた方が、力を発揮するのではないかと考えた」「 D君が伸び悩んでいるので、リーダーに昇格させて、刺激を与えたかった」などと、上司目線の話をするわけです。
実は一般社員は、意外なほど、上司目線の話がわかっていないものです。
それを教えてあげることで、「上司はそんなことを考えていたのか」「自分より一枚も二枚も上手だな」と部下が納得し、話を聞いてくれることがあります。
なんでも他人のせいにする「傍観者」タイプ
▼「傍観者に見えるよ」とそのまま指摘する「やり方を教わっていなかった」 「○ ○さんに、こうやれと言われたから」「ルールがないから」 などと、何を言っても、他人のせいにする人がいます。
このタイプの人は、「自分にも責任がある」ということを自覚させないと、いつまで経っても変わりません。
正確に言えば、うすうす自分にも責任があるということはわかっているけれども、それを認めたくなくて、逃げ回っているといえます。
だから、逃げ場をなくすことが重要です。
たとえば、このように返すことも一計です。
「これはうちの職場で起こったので、みんなが問題に向き合うことが求められているのです。
あなたも、その一人です。
あなたも『傍観者』ではなく、当事者として問題に向き合ってください。
さっきの君の発言は『傍観者』のものに聞こえます」 こう言えば、相手は「はい、傍観者ですから」とは言えません。
さらに、「もし仮にこの事態を引き起こしている原因が、自分にもあるとしたら、それは何? 君にできることは何一つなかったの?」「君も職場のメンバーなら、何で貢献できるの? 何を返してくれるの?」 と言えば、当事者として問題と向き合わざるを得なくなります。
この質問によって、「こうしたことができた」という発言を引き出せれば OKです。
あとは、それをしているかどうかを「 1 on 1」でチェックすれば、成長に結びつけることができます。
自分に都合よく解釈してしまう「まるっとまるめちゃう」タイプ
▼「私の言いたいことはそうではない」とはっきり言う「なるほど。
要は、やる気を持てばいいんですね」「そうか。
つまり、自分らしさをもっと前面に出せばいいんですかね」 フィードバックをしたとき、安易にその内容をまるっとまとめてしまう人がいます。
そのまとめ方が正しければいいのですが、九割以上は、都合のよいところだけ取り出して、フィードバックの趣旨や内容、精度を故意に薄めているだけです。
キツイことを言われた精神的ショックを和らげたいのか、単に理解力がないのかは、よくわかりませんが……。
こちらも、どちらかといえば、ベテラン社員に多い病です。
これと似たようなタイプに、「言われたことを矮小化する人」もいます。
「絶対に直さなくてはいけない」と言ったことを、「直せるようなら直した方がいいけど、今のままでもいい」ぐらいに矮小化してしまうのです。
このような人は、そのまま放置してはいては、永遠にフィードバックが刺さりません。
「いや、私の言いたいことはそうじゃない」と言ってはっきりと否定して、もう一度フィードバックをしましょう。
根気よく、何度も言うしか、その人を改善する手はありません。
あるいは「あなたは、私の指摘している内容を、薄めて理解する傾向があります」「あなたは、私の指摘している内容を、都合のよい部分だけ抜き出して理解されているように見えます」とストレートに返すことも一計です。
一時的には言い合いになるかもしれませんが、衝突を恐れてはいけません。
放置しておけばおくほど、あとから、物事を変えるのは大変になってしまうのです。
どれだけお膳立てしても挑戦しない「ノーリスク」タイプ
▼「挑戦しなくてもいいけど、現状維持はできないよ。
このままだとこうなるよ」と伝える 管理職や新しいプロジェクトの責任者など、責任のある仕事に抜擢しようとすると、かたくなに拒否する部下がいます。
出世欲もないし、今のままの状況でも十分幸せだから、そんな仕事はしたくないというわけです。
また「制作の現場が好きだから」「営業の現場が好きだから」と言って、このままの状況でいたがる人もいます。
しかし、これらは単に挑戦したくない言い訳に過ぎないことが大部分です。
こういう部下を奮起させるにはどうしたらよいでしょうか。
その一つの方法は、「このままの仕事を続けても、現状維持できるわけではない。
さらには、このままだと君のキャリアはこうなるよ」と将来の見通しを伝えることです。
新しい仕事を避けようとするのは、今のままでも、自分の地位が安泰だと思っているからです。
しかし、そんなことはありえません。
自分では「年を取っても今の仕事が務まる」と思っても、周囲からはそう思われなくなっていくことが多いからです。
たとえば、営業などの仕事によっては、取引先から見ると、業務知識の豊富なベテランよりも、知識は少ないがフットワークが軽い、若い人が求められることがあります。
また、取引先担当者が若ければ、年齢の近い人の方がやりやすいと考えるものです。
挑戦を嫌がる部下には、そのことをはっきりと認識してもらうことが大切です。
しかも、このままの状態でいた場合の「今後の見通し」をはっきりと伝えましょう。
そのうえで、現在の自分といかにギャップがあるのかを認識してもらうのです。
昔取った杵柄を振りかざす「元〇〇の神様」タイプ
▼「立場上、私はこう言わざるを得ないのですが」と前置きしてから、率直に述べる 特に、 IT系の企業のマネジャーから「対処に困る」と言われるのが、「元〇〇の神様」です。
たとえば、一昔前に一世を風靡したプログラミング言語に関しては社内の誰よりも詳しく、「神様」として崇められていたけれども、今は使わなくなってしまったため、給与が高い割に、成果をあげられていない。
しかし、いまだに社外では「神様」と褒め称えられている……。
そんな人に対するフィードバックは難航するといいます。
こうした「元 ○ ○の神様」が部下についてしまい、しかも自分の方が年下だと、頭を抱えてしまうマネジャーは、少なくありません。
「元 ○ ○の神様」には「昔は素晴らしかったかもしれないけれど、今は成果を出せていない。
そして、評価の対象になるのは、過去のあなたではなく、今のあなたに対してである」ということを率直に伝えます。
そのうえで、「成果を出すためには、今必要な技術を新たに学び直さないといけない」と、今の位置をはっきりとフィードバックして、過去の自己像をアンラーニング( Unlearning :学習棄却)してもらう必要があります。
相手は、強烈な成功体験を持っていて、それなりにプライドもありますから、耳の痛いことをストレートに言えば、「お前みたいな若造が何をえらそうに」と反発してくる可能性もあります。
今は自分の方が上司なのですから、遠慮をしていてはいけませんが、なんとなく恐れ多いなという気分になってしまうのはよく理解できます。
そこでおすすめなのは、どうしても言いにくい場合には「立場上、私はこう言わざるを得ないのですが」と言うことです。
こう言っても、元 ○ ○の神様が納得してくれるかどうかはわかりませんが、「あなたのことをリスペクトしているが、役割を遂行するために言っているんだ」という意味づけができ、言うべきことを言えるようになります。
一種のおまじないみたいな言葉です。
相手は酸いも甘いも知り尽くしたベテランです。
こういう場合は、礼儀を忘れずにしっかりとこちらの立場と誠意を伝えることで、意外と話を聞いてくれます。
今まで改善できていなかったのは、単に皆から崇めたてられていて、誰もフィードバックしてくれなかったから、という可能性もあるからです。
先述した通り、フィードバックをすると、逆に、「何でもっと早く言ってくれなかったんだ」と言われることだってあるほどです。
前評判と働きが違う「他では優秀」タイプ
▼「郷に入れば郷に従え」とはっきり伝える 以前いた同業他社では優秀だったはずなのに、うちの会社ではまったく成果が出せていない。
そんな中途入社の部下を抱えた経験のあるマネジャーは、少なくないでしょう。
「そもそも前の会社でも優秀ではなかった。
ウソをついていただけ」というケースもありますが、本当に優秀だったというケースもあります。
後者の場合、よくある原因は、「会社の文化の違いに、うまくなじめていない」ことです。
たとえば、製薬会社の MR(いわゆる営業職)を例にとると、会社によって、医師とつかず離れず、スマートに情報提供をして営業するスタイルを貫いてきた会社と、泥臭く医師にくらいついて、ガツガツと営業することで成果をあげている会社があります。
仮に、スマートな方の会社にいた MRが、ガツガツした営業方法をとる会社に転職して、前職で培ったスマートな営業スタイルを貫いても、まず、うまくいきません。
ガツガツとした営業方法をとっているのはそれなりに理由があるわけで、好きでガツガツしているわけではないからです。
しかし、下手に前職で成功体験があると、そのやり方を認められないわけです。
このような中途入社の部下に対しては、「郷に入れば郷に従え。
そのままのやり方では、今の職場では生きていけない。
あなたの過去のやり方は、ここでは通用しない。
自分のやり方を変える必要がある。
このままだとあなたのキャリアは……のようになると思う」とはっきりとフィードバックをすることが大切です。
このタイプの人は、過去のイメージを解除しない限りは、これから先も通用しないからです。
言い方には細心の注意を払い、鏡のように事実を淡々と伝えても、反発される可能性は高いですが、それは覚悟の上で臨みましょう。
大人の学びでは、ときに激しい痛みをともないます。
これと同じように、異業種から転職してきた人員も、文化の違いで苦しむことがよくあります。
たとえば、ちょっと特殊な事例かもしれませんが、 OLから看護師に転職すると、こういった例がよくあるそうです。
看護師は給与が高くて、現在は、空前絶後の「売り手市場」ですので、企業で OLをしていた人が新たに看護系の学校に入り直して、免許を取るというケースが少なくありません。
そこまではよいのですが、問題は看護師になってから。
患者との信頼関係を築けないケースがあるのだそうです。
患者さんから「もうあの人に看護されたくない」と言われてしまったりするわけです。
そうした人に対しても、同様に、「過去をひきずったままだと、いつまで経ってもうまくいかないよ」とはっきりと通知することが必要になります。
コラム 現役マネジャーが語る匿名「フィードバック」経験談■フィードバック事例 2外資系企業 人事部長・河原英祐さん(仮名・四十五歳)
外資系企業で人事部長を務める河原さん。
リーダークラスにあたる部下たちに個人面談を行う一方で、リーダーたちに、いかにフィードバックを行うかも指導しています。
隔週一回十五分の「個人面談」でわかること──御社では十年以上前から、個人面談を頻繁に行っているそうですね。
河原 はい。
隔週一回、十五分間、上司と部下の間で「個人面談」を行うことになっています。
──個人面談では、どのようなことを話されるのでしょうか。
河原 仕事の進捗報告に加えて、ここ一 ~二週間の仕事を振り返ってもらい、うまくいったこと・いかなかったことを言葉にしてもらっています。
うまくいった、あるいはうまくいかなかった理由を部下自身に考えてもらい、「事前の打ち合わせが足りていなかった」などの具体的な理由が出てきたら、次は改善策を考えてもらいます。
モヤモヤとして言語化されていないことを自分の力で言語化することで、「あ、そうか。
自分なりのスタイルってコレか」「今回の勝ちパターンって、こういうことかな」ということに気づき、次の行動につながる武器になる。
こうしたループを隔週一回でも回せば、年間で二六個の武器が生まれ、成長につながると考えています。
──それでもうまくいかないときに、フィードバックを行うのでしょうか。
河原 そうですね。
通常の個人面談のときにも、部下が考えるのをジャマしない程度に、「こうした方が良かったんじゃないの?」とは指摘しますが、それよりも、ある一定の役職以上にクォーターごとに行われる三六〇度評価の結果が低かったときに、強めのフィードバックをします。
三六〇度評価では、けっこう辛辣なコメントが寄せられるのですが、それを元に、「なぜ評価が低かったのか」「評価を上げるためにはどうしたらよいか」と話し合うわけですね。
良いことも悪いことも具体的に伝えるのがフィードバック──河原さんがフィードバックをするときに、心がけていることを、教えてください。
河原 「できるだけ具体的に指摘する」ことです。
あいまいな指摘の仕方をすると、部下もどうやって改善すればいいかわかりませんし、「いい加減なことを言わないでください」と部下に詰められることもあります。
何より、具体的な事例を挙げて説明すれば、部下も納得せざるを得ません。
たとえば、「七月のプロジェクトのとき、本当は三日間で仕上げなければいけない仕事を、三週間ぐらい引っ張ってしまったことがあったよね」「そのときの個人面談でも、うまく回らないみたいな悩みを話していたと思うけど」「努力はしていたと思うけど、三週間遅れてしまったことで、後工程に迷惑をかけてしまった。
君の職務グレードを考えると、期待されたアウトプットとは言えないから、評価が低くなるのは仕方ないよね」くらいのことは言います。
──本当に具体的ですね。
河原 このように指摘するためには、個人面談の報告を聞くだけでなく、日頃から部下の行動を観察して、記録しておくことが不可欠です。
観察していなければ、ここまで具体的なフィードバックなんて絶対できません。
私自身は観察した内容を、エクセルに打ち込んで管理していますし、部下のリーダーたちにも、観察して記録しておくことをすすめています。
また、その際、「部下のダメなところだけでなく、良いところも記録しておくこと」をすすめていますね。
通常の個人面談のときもそうですが、どんな仕事でも、改善すべき点ばかりということはほとんどなく、実際には良かった点もあるはずです。
そうしたところを、「こういうところは良かったと思うけどな」と表面的ではなく、具体的に指摘することは大切だと思うんですね。
ネガティブなことを言うばかりが、フィードバックじゃない。
良いことも悪いことも含めて、本人が気づいていないところに気づかせてあげるのが、フィードバックだと考えています。
どれだけ部下に非があっても、まずは「何か理由があるんだろう?」──その他に、心がけていることはありますか?河原 どんなときでも、「部下の言い分を聞くこと」です。
たとえ部下に大きな非があるように見えたとしても、一方的に言うのではなく、「君なりにいろいろ考えたことがあったんでしょ? あのとき、何を考えていたの?」というふうに、言い分を聞くのです。
いくら正論でも一方的に言われたら腹が立つし、部下だって何の考えもなしに行動していることはほとんどありません。
「実はこんなことを考えていたのですが……」という言い分を言った上で注意されるのであれば、部下も納得がいき、「でも、こうした方が良かったかもしれない」などと振り返って、改善策につなげてくれます。
──上司が聞く耳を持つ、ということは、重要ですね。
河原 あとは、上司と部下の間で、最初に目標をきちんと共有しておくことも、けっこう重要だなと思います。
この目標がズレていると、適切なフィードバックができなくなります。
そして目標を共有できたら、それを達成するために、一緒に寄り添っていくことですね。
自分で考えた対策を行っているかどうかをチェックし、地道に取り組んでいるなら、その努力をその都度、はっきりと認めてあげます。
たとえば、「二十四時間以内にすべてのメールの返信をする」という対策をたて、一週間後に確認すると、「八割しかできなかった」と部下から返答があった場合です。
こんなときは「なんで八割しかできてないんだ」などと言わずに、「八割もできたなら、今までの自分に比べたら、ずいぶん努力したんじゃないの?」と言った方がよいと私は考えています。
少しでも前に進んでいるなら、それを認めた方が、建設的な議論につながるからです。
そのあとで「じゃあ、残り二割のメールをさばくにはどうしたらよいと思う?」などと聞けば、「次はこの時間を節約して、メールの返信にあてます」などと前向きな返答が返ってきて、部下も気分良く仕事ができるはずです。
部下を突き放すのではなく、部下とともに並走していくことが、フィードバックでは大事なのではないかと思います。
時にはフィードバックが効かないこともある──逆に、フィードバックや個人面談について、苦労されている点はありますか。
河原 部下に費やす時間が増えることですね。
私は部下が一〇人いるのですが、通常の個人面談だけでも、隔週で数時間は確実に時間をとられます。
さらに、相手の欠点を指摘するフィードバックをすると、部下の言い分をあれこれ聞く時間が必要になるので、もっと時間がかかります。
「納得がいかない」と言われ、三時間拘束されたこともありました。
もちろん、フィードバックをするには、観察などの準備もしなくてはいけませんから、その時間もかかる。
あくまで肌感覚ですが、一人が担当できる人数は五人が限界かなと感じますね。
──私も中間管理職なので、その辛さがよくわかります。
河原 あと、フィードバックをしても、ほとんど効果がない人はいます。
たとえば、降格対象になった人。
時代の変化に適応できず、成果を出せなくなるベテランがけっこういるのですが、こうした人に対して「このままでは降格対象になるから、新しいやり方に対応してほしい」とフィードバックをしても、その人にもプライドがありますから、なかなか行動を変えようとはしません。
成功体験がある人ほど、その傾向がありますね。
三六〇度評価で悪い評価をつけた人たちが周囲にいるわけですから、どうしても「こいつらが低く評価したせいで」と他責にもなる。
さらに、年下の上司に厳しいことを言われると、「お前みたいな若造に、俺の考えを言っても仕方ない」などと思ってしまい、なおさら怒りや不満が増幅します。
かといって、「頑張って挽回しましょう!」などと言われても、白々しいと思うでしょうね。
私も、このようなフィードバックをする機会が過去三回あったのですが、いずれも年上の部下だったので、かなりムカつかれていたと思います。
──なかなかの強敵ですね。
河原 このタイプは、同じ部署に居続けても、なかなか変わらない人もいます。
その場合には、すばやく配置転換をした方がいいというのが、私の結論です。
そうした人が、異動した部署で再び活躍し始めたという事例はいくつもありますし。
重要なのは、配置転換は早く決断すること。
一度、配置転換をしないで、半年間、様子見をしてから異動してもらったことがあったのですが、そのときは「なぜ、半年前に異動させてくれなかったんだ?」と部下に文句を言われました。
そうやって怒りを増幅させた状態で異動したら、新天地でもうまくいきませんよね。
確かに半年遅かった、とは思いました。
相手と粘り強く向き合い、「強み」を見つけ出す──フィードバックも万能ではないというわけですね。
河原 ただ、相手の行動が変化しないのは、上司のフィードバックの仕方に非がある場合もあると思います。
たとえば、私がリーダーを指導しているときによく見られるのが、ちゃんと部下と向き合っていないこと。
厳しいフィードバックをしなければならないとなると、「一対一で話す時間を早く終わらせたい」という意識が働き、逃げ腰になりがちです。
しかし、そんな上司のフィードバックなんて、部下は聞くはずがありません。
しかも、その場の空気を取り繕うような、当たりさわりのない言葉でお茶を濁していると、逆に相手の逆鱗に触れることがあります。
「なんだかよくわからないけど、評価制度でこうなっちゃったね」とか「俺はそうでもないと思ったけど、三六〇度評価では C評価になっちゃったね」などと責任逃れをするのは、もう完全アウトですね。
また、「復活できますよ!」というのも、相手をムカつかせる言葉。
今は死んでいるみたいに言うんじゃないと(笑)。
──上司の心の動きを、部下は見抜きますからね。
河原 たとえキレられようが、伝えるべきことはしっかり伝える。
これもよく言っているのですが、個人面談はあくまで部下のための時間であり、上司が話したいことを話す時間ではありません。
そういう認識を持っていれば、自然と逃げようなどとは思わなくなるはずです。
このことは、個人面談やフィードバックの指導をするときに、繰り返し言っています。
マネジャーには、その覚悟が必要ですよね。
また、先ほど「長所を見ることも大切」と言いましたが、問題がある部下に対しては特に強く意識した方がいいと思います。
気がつくと、自然と欠点ばかり見ていることは少なくありませんから。
部下の長所を把握していれば、「仕事の速さの問題で今回悪い評価がついてしまいましたが、丁寧さに関しては定評があるので、そこを生かすことが、今後の評価を上げるカギになると思います。
その点を踏まえて、半年間改善してみませんか?」などと相手を前向きにできるようなことが言える。
そうすれば、部下も聞く耳を持つと思うのです。
──良いところも悪いところも含めて、相手と真正面から向き合うことが大切ですね。
河原 フィードバックをするのは大変なこともありますが、相手の成長のきっかけになれる喜びもある。
私とやり取りしたことで、自分で見えていない部分に気づいてもらえた感じがあると、やってよかったと思います。
たとえば、フィードバックの最中にこっちが発した言葉で「ハッ」と顔色が変わったり、表情が明るくなっていきなり饒舌になったり、相手が変わる瞬間が見えるんですよね。
そういうときに、部下と真剣に向き合った先にある喜びが味わえたな、と感じています。
──本日はありがとうございました。
解説 河原さんのフィードバックで印象的なのは、徹底的に部下に寄り添う姿です。
部下には部下なりの理由があることを認め、「君なりにいろいろ考えたことがあったんでしょ? あのとき、何を考えていたの?」という問いかけをすることは、なかなかできません。
他にも「部下を突き放すのではなく、部下とともに並走していくこと」という言葉も印象的です。
一方、どんなに河原さんが懇切丁寧にフィードバックをしていても、変わらない部下がいることも、また事実です。
それは河原さんのせいではありません。
そうした場合は、「本人が変わらない」のであれば、「環境を変える」です。
異動や配置転換などを通して、強制的にリセットボタンを押してしまうことも、また一計です。
私たちは「職場」というハコの中で仕事をしており、その仕事の質は、環境からの影響を強く受けています。
環境(職場)を変えることで、本人の仕事の質が変わることは、よくあるものです。
第四章 まとめ
●タイプ&状況別フィードバック Q& A ・すぐに激昂してしまう「逆ギレ」タイプ ⇒こちらから具体的に改善策を聞く ・何を言っても黙り込む「お地蔵さん」タイプ ⇒こちらも負けじと黙り込む ・上から目線で返される「逆フィードバック」タイプ ⇒「もし君が上司だったら ~」と仮定法で意見を求める ・言い訳ばかりしてくる「とは言いますけどね」タイプ ⇒どんどんしゃべらせて、矛盾を炙り出す ・「根拠なきポジティブ」タイプ/すぐに「大丈夫です!」タイプ ⇒なんとかなると思う理由を具体的に聞く ・別の話題にすり替える「現実逃避」タイプ ⇒根気よく話を元に戻して、何度でも同じことを述べる ・上司のお前が間違っている! 「思い込み」タイプ ⇒部下の日頃の行動を元に具体的に指摘する ・なんでも他人のせいにする「傍観者」タイプ ⇒「傍観者に見えるよ」とそのまま指摘する ・都合よく解釈する「まるっとまるめちゃう」タイプ ⇒「私の言いたいことはそうではない」とはっきり言う ・お膳立てしても挑戦しない「ノーリスク」タイプ ⇒「挑戦しなくてもいいけど、現状維持はできないよ。
このままだとこうなるよ」と伝える ・昔取った杵柄を振りかざす「元〇〇の神様」タイプ ⇒「立場上、私はこう言わざるを得ないのですが」と前置きしてから、率直に述べる ・前評判と働きが違う「他では優秀」タイプ ⇒「郷に入れば郷に従え」とはっきり伝える
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