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第四章「DoingMoreWithLess」の哲学

目次

モットーは「DoingMoreWithLess」

私には、「DoingMoreWithLess」というモットーがあります。

日本語に訳せば「少ない労力でより多くの成果を」という意味です。

この本のテーマである「時間にレバレッジをかける」という発想の根本にあるのも、この「DoingMoreWithLess」の精神です。

私はこれを、単に自分に言い聞かせるだけではなく、シールにしていろいろなところに貼っています。

パソコンや家のデスクにも貼っているし、名刺の裏にも入っています。

著書の裏表紙にも入れました。

そして、この言葉を目にするたびに、「時間を有効に使っているか」「どこかにムダはないか」と自分自身に問いかけています。

どんなに立派な目標を設定しても、絶えず目で確認し、意識づけしていかなければ、人間はすぐに忘れてしまうからです。

こういうことをしているのは、私だけではありません。

たとえばワタミフードサービスの渡邉美樹社長も、次のように述べています。

私がいつも手帳と一緒に持ち歩いているカードには、「二〇二〇年に三〇〇〇店舗達成」「農業で売上一〇〇〇億円」などと目標がずらりと書いてあります。

私はこれを毎日二回は見返します。

(前掲『時間とムダの科学』)

一〇分の一の時間で仕上げる方法を考えよ

「DoingMoreWithLess」を実践するために必要なのは、ドラスティックな発想です。

たとえば、今抱えている仕事にかかる時間を半分にできないか、いっそ一〇分の一に短縮する方法はないか、と考えるのです。

もちろん小さな改善を積み重ねて、五分、一〇分を節約していくコツコツ型の発想も大事です。

しかし、そこからは、現状の延長線上にある工夫しか生まれません。

これに対し、「一〇分の一に短縮する」のは、やり方を根本的に改めないかぎり、もっと言えば、何かをバッサリと切り捨てないかぎり不可能です。

それには、これまで続けてきた何をやめるべきなのかを見極める、強靭な選択力と決断力が要求されます。

そしてギリギリのところまで追い詰められ、その力が発揮されるとき、ドラスティックな変化が起こって、飛躍的に成果が上がるようになるものなのです。

経営学の巨人P・F・ドラッカーも、「やめること」の重要性について、以下のように述べています。

する必要のまったくない仕事、時間の浪費である仕事を見つけ、捨てなければならない。

すべての仕事について、まったくしなかったならば何が起こるかを考えればよい。

何も起こらないが答えであるならば、その仕事はただちにやめるべきである。

(『仕事の哲学』ダイヤモンド社)

「人に任せる」は究極の効率化

時間を一〇分の一に縮め、同じ、もしくはそれ以上の成果を上げる……そんなおいしい話があるはずがないと思う人もいるでしょう。

しかしこれは、実は多くの人が経験していることです。

会社員の場合、経験を積めばポストが上がって、部下がつきます。

そうしたら、あなたがこれまで抱えていた仕事を部下に任せられるので、あなたはマネジメントをするだけで、それまでと同じ成果を上げられることになります。

ポストが上がれば、当然、収入もアップします。

さらに部下が優秀なら、あなたが何もしなくても、もっと成果が上がり、またポストが上がって、収入もアップということになります。

経営者も同じです。

社長一人で企画も営業も経理もすべてやっている会社が、従業員一〇人の規模にまで大きくなれば、社長のいわゆる「実務」の時間は一〇分の一以下になる一方で、成果は数十倍、数百倍も上がっているはずです。

ここでの鍵は「人に任せる」ということです。

「ムダなことをしない」に加えて、「自分でやらない」ことは、時間を縮めて成果を上げるための、きわめて重要なポイントです。

優秀な人の成果が頭打ちになる理由

ここで意外につまずいてしまうのが、いわゆる優秀な人、能力の高い人です。

こういう人は、なんでも自分でできるので、他人には任せられないと思いこんでしまう。

能力が高いことそれ自体はすばらしいのですが、一人で仕事を抱え込んでいると、どうしても効率は低下します。

成果も収入もある程度は上がるけれど、やがて頭打ち、なのに労働時間は永遠に減らないという事態に陥ってしまうのです。

優秀な人ほど、「自分でやらないこと」を見つけ出す勇気が必要と言えます。

特に経営者の中には、「自分がすべてやらなければ」と考えている人が少なくありません。

部下に任せるのが不安で、常に現場にいて細かい指示を出さなければ気が済まない。

しかし、実際には、社長が一週間ぐらいいなくても、会社はふつうに回っていくものです。

一方、私の周囲で「この人はうまくやっているな」と思える人というのは、必ずしも、ものすごく能力が高いというわけではなかったりします。

私自身もそうなのですが、自分ができないことや不得意なことがよく分かっている分、それを人に任せることができる。

あるいは、人に任せざるを得ない。

代わりに自分が得意なことは一生懸命やる。

それが結果として「選択と集中」のよい効果をもたらすのです。

自分のKSFを見つけているか

経営戦略の用語で、事業や業界においてカギとなる成功要因のことをKSF(KeySuccessFactor)と言います。

「やらないこと」を選択する力とは、「KSFを見つける力」と言い換えることができます。

働いた時間ではなく成果が評価される知識労働の時代においては、個人レベルの仕事においても、KSFを見つける力が強く求められています。

たとえば大学受験で、真面目で学校の成績のいい「秀才」が不合格になる一方で、大して勉強もしていない生徒があっさり合格してしまうことがあります。

これは、KSFを見つけているか否かの差です。

受験のKSFとは、まず「過去問」です。

ワインアドバイザー試験のところでもお話ししたように、受験においては、過去問を分析し、勉強する範囲を絞り込むのが合格の鉄則です。

それを、真面目な人は、教科書を全部覚えようとしたり、また、「自分は文系だけれど、いつか必要になるかもしれないから、物理の勉強もしておこう」などと、合格に関係のないところまで手を広げたりするので、結局、どれも中途半端になって失敗してしまいます。

受験のもう一つのKSFは、「合格最低点ねらい」です。

合格には一〇〇点満点は必要ありません。

六割なり七割なり、最低ラインさえクリアできれば合格はできます。

過去問の中には、たまたまその年だけ出題された、重箱の隅をつつくような難問もあります。

また出題されるかもしれないと不安になって、ついそういう問題ばかりを見つけて、時間をかけて勉強してしまいがちですが、それは一〇〇点をねらう勉強。

合格には必要ありません。

本番の試験でも、見たこともない難問は、当然出てきます。

そのような問題は「捨て問」と割り切って、できる問題だけを確実に解くのが、合格の鉄則です。

それを、完璧主義の人は何とかして解かなければと焦ってしまうので、失敗してしまうのです。

ビジネスも「過去問」と「合格最低点ねらい」で

「過去問」と「合格最低点ねらい」は、そのままビジネスのKSFでもあります。

ビジネスの過去問とは、たとえば過去の事業の成功例や失敗例、あるいは上司や先輩の仕事のやり方です。

これらを参考にすると、自分でゼロから考えるよりもずっと短時間で、成功のヒントを得ることができます。

また、仕事は、必ずしも一〇〇点が必要なものばかりではありません。

実際にはむしろ、八〇点で合格の仕事のほうが多いでしょう。

だとすれば、一〇〇点満点をねらうことに時間をかけるより、八〇点の仕事をより多くこなすことに時間を割くべきです。

ビジネスの過去問を学ぶのに格好のテキストが、書店に並ぶ「ビジネス書」です。

私の前著『レバレッジ・リーディング』は、ビジネス書の読み方のKSFを解説した本です。

本の中では、どのようなビジネス書を読んだらいいのか、一冊の本のどこを読んだらいいのかを、私自身の経験を踏まえて解説しました。

そもそも扱う対象をビジネス書に絞っている点、「読書」ではなく「投資」という観点のみに絞った本の読み方である点など、本づくりそれ自体が、KSFを意識したものになっています。

ぜひ本書とあわせてお読みいただければと思います。

なぜ意思決定は即座でなければいけないか

ムダなことを切り捨て、自分でなくてもできることは人に任せ、最後に残る重要な仕事は「意思決定」です。

とりわけ経営者にとっては、意思決定こそが唯一にして最大の仕事と言ってもいいでしょう。

私の場合、取引先からの打診であれ、部下からの相談であれ、「返答は即座に」がモットーです。

どんな場合であっても、意思決定は速くなければ意味がありません。

判断を求められてすぐに答えを出さないことは、答えの内容にかかわらず、状況を悪化させるだけです。

周囲の経営者を見ても、重要な局面においては、みな、非常に速いスピードで判断しています。

それは、リスクが高く、下手をすれば大失敗するようなケースでも変わりません。

悩むことによる時間の損失のほうが大きいと分かっているからです。

ただし、速やかに意思決定したからと言って、行動もすぐに始めなければならないわけではありません。

もちろん、やると決めながら、単にずるずると行動を引き延ばしているのは問題外。

これはまったく時間のムダです。

しかし、行動には段取りが必要です。

意思決定によってゴールを定めたら、そこに到達するための最短ルートを探すことに、必要なだけの時間をかけるべきです。

それは将来のリターンにつながる時間投資であって、けっしてムダな時間ではありません。

成功している経営者を見ても、意思決定は非常に速く、行動はじっくり段取りを組んでから、という人が多いように思います。

なかには「とにかく動く」というタイプの人もいますが、段取りなしに始めるとは、後になって一からやり直すリスクを負うということです。

最悪なのは情報不足のまま迷い続けること

成功している経営者が意思決定を速く行えるのは、事前にさまざまな情報をインプットしているからです。

経営的な知識もそうですし、具体的な数字や取引先の社内情報などもそうです。

裏返せば、常に重要な情報をインプットし、いつでも即、決断できるようなレベルに自分を維持できるからこそ、経営者として成功しているとも言えます。

もし意思決定を求められた場面で即座に判断ができないなら、それは情報が不足しているからだと自覚して、「その場で判断をしない」という意思決定をすべきです。

それをせずに、情報不足のまま迷い続けて、よい結論が出ることはありえません。

たとえばある会社から、突然ヘッドハンティングの声がかかったとします。

「私の会社に来れば、年収がこれだけ上がります」と言われても、その会社、その業界についての情報を持っていなければ、意思決定は無理です。

それならば、その場では答えを出さないと決め、情報収集をすればよいのです。

まったく別の業界の場合ならば、その業界が有望かどうか、誘ってくれた会社が業界の中でどのような位置にいるのかといった情報は不可欠でしょう。

そして情報が十分集まったら、それをもとに即座に判断する。

判断にかける時間は一日あれば十分で、一週間も悩むのは時間のムダです。

一週間悩んだからといって、状況が変わるわけではありません。

これは物を買うときも同じです。

たとえば会社で新しいソフトを購入しようというとき、いくつもの製品の情報を集め、比較検討する必要はあります。

比較に時間をかけることは重要ですが、最後に決めるときに時間をかけるのはムダです。

なぜ判断に時間がかかるのか分析を

本来、情報さえ十分集まっていれば、決断は速やかにできるものです。

もしそれができないとすれば、それは、根本的なところでゴールが明確になっていないからです。

ヘッドハンティングの例で言えば、「自分の人生は、このようでありたい」というゴールが定まっていなければ、どんなに情報を集めても判断はつきません。

ソフトの購入にしても、何のために新しいソフトが必要なのか分かっていなければ、市販されているすべてのソフトの情報を集めたとしても、買うべきソフトは見つかりません。

あるいは、失敗が「怖い」という感情の問題が原因になっているケースもあるかもしれません。

いずれにせよ、意思決定に時間がかかるという人は、ぐずぐずと判断を先延ばししたままにするのでなく、自分がなぜ決断できないのか、その原因を分析する必要があります。

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