MENU

第六章 取引先を大事にする会社に不況なし

目次

取引上の約束は厳格に守る

商売の取引においては、双方の間できめ細かい契約というか、約束を交わすのが基本です。

たとえば、「 ○ ○商品を百ケース、明日納品します」とか、「請求書の発行は二十日締めで、翌月の十日に現金で支払います」といったことです。

契約書にして交わすにしろ、口頭でするにしろ、双方で取り決めた契約や約束は、どんなことがあっても守らなければならないのはいうまでもありません。

たとえば、いつ代金を支払うと約束しておいて、当日に払わなかったらどうなるでしょう。相手がそのお金をあてにして、社員の給料や外部への支払いを予定していたとしたら、資金計画が大幅に狂います。

その経営者は新たな資金繰りに追われ、場合によっては倒産さえしかねないのです。約束した日に商品を納品できないことも、相手に大変な迷惑をかけます。

先方はその商品の入荷を前提にして売上計画を立てているため、それが狂えば、単に計画が未達になるだけでなく、先方が販売する予定だったお客様にも迷惑をかけるなど、損害は計り知れません。

どちらの場合も、約束を破った会社は取引先の信用を失います。信用をなくせば、誰も相手をしなくなり、商売を続けていけません。

商売を続けていく以上は、どういう事情があっても、取引上の約束を守ることが最低限の原則ですが、現実には守らないケースが多々あります。

値段をいくらと決めているのに、支払いの段階になって値切ってくる。約束の日になってもお金を支払わない。そこまではひどくないけれども、意外に多いのが時間にルーズな人です。

先日も、「近くへ来たから」と、ある知り合いがアポイントなしで会社に来られました。来てくださるのは〝会社に必要な方〟ですから、私も時間が空いていれば、喜んでお会いします。

ただ、「十分だけでいいから」と約束しておいて、長居されると困る場合があります。次の来客があれば、待たせてしまうなど迷惑をかけることになるからです。

また、遅刻してもあまり影響のない会合に、平気で遅刻してくる経営者も少なからずいます。

「いやあ、すまん、すまん」と口では一応詫びながら、平気な顔で遅れてくるのですが、私の知る範囲で、時間にルーズな経営者の会社で業績のよいところは一社もありません。

時間の約束とは、それぐらい大きな意味を持つのです。私は、そういう約束を守れないところとはいっさいつきあわないようにしています。

「時間に少し遅れるぐらいささいなことではないか」という人がいますが、ビジネスの世界では、何度もいうように、小さなことの積み重ねがいちばん肝心です。

とくに中小企業は、どんなささいなこと、小さなことと思われる約束を厳格に守ってこそ、取引先の信用を生み、大きな商売へと発展していけるのです。わが社にとって、メーカーと直接取引をするのが創業時の悲願でした。

一次問屋を通して商品を仕入れていたのでは、それだけ仕入れコストが高くついて利益がなかなか出せないからです。その状況が続くかぎり、競合他社との競争には永遠に勝てません。

メーカーと直接取引をするには、会社の資産状況から決算書まで提出し、売上高や利益率、支払い条件、担保物件など厳しい条件をクリアする必要があります。

とくに明治製菓、森永製菓、グリコ、ロッテなどの最大手に直接取引を認めてもらうには非常に高いハードルがあり、特別契約を結ぶまでには二十年近い年月を要したほどです。

いまでは、最大手を含めて百六十社のメーカーと直接取引をさせていただいていますが、メーカーの信頼を得ることができたのは、業績もさることながら、どこよりも早く決済をする、できるだけ返品を減らす、取り決めた数量は引き取るなど、取引上の約束をきちんと守ってきたからだと思っています。

社員にもよくいいます。

「大きなことをしようと思っても、私にも、君らにもできない。君たちは日常の小さいように見えて大切なことをやってくれたほうがありがたい。それこそが会社にとって重要なことなのだから」

いうだけでなく、清掃や挨拶、笑顔、早起きなど小さいが会社にとって大事なことをやってくれたら、さまざまな報奨を出す仕組みをつくってきました。

約束を守ることもまたその一つで、とくに中小企業では、単に口先だけで唱えるだけでなく、それをすれば自分たちにもメリットがあることを、社員の目に見える形で示す必要があると思います。

業界初の「返品ゼロ」を目指す

私は平成二十年に、「吉寿屋は平成二十二年七月一日を期して、メーカーや仕入れ先への返品をゼロにします」と公約し、現在そのための準備を進めているところです。

お菓子の箱や袋には賞味期限がプリントされており、賞味期限の切れた商品は、小売店から卸売業者に返品されてきます。

箱や袋が破損したり、ビスケットやせんべいなど、商品が割れた場合も同様です。卸売業者はそれらを仕入れ先やメーカーに返品し、代金を返済してもらいます。

菓子業界ではそれが長年の商習慣であり、メーカーも、卸問屋も、小売店も、それにもとづいて商売をしてきました。

長い間に培われてきたその商習慣を変えるのは容易なことではありませんが、それまでの〝常識〟を破ってまで、私が返品ゼロを目指そうと考えたのには、三つの理由があります。

一つは、お菓子に最後まで生きてほしいと思ったことです。お菓子問屋をやらせていただいて半世紀。私はお菓子によってお金儲けをさせてもらい、生活させてもらってきました。

それゆえに、毎朝、商品であるお菓子を大事に扱い、お菓子に対する愛着は人の何倍もあります。

そのお菓子が、「賞味期限が切れた」、あるいは「袋が破れた」「形が割れた」などの理由で返品され、廃棄されていくのは、私にとってつらいことでした。

せっかくお菓子として生まれてきた商品を、できるだけ〝死に商品〟にはしたくない。

何とかできないものかとずっと考えてきたのですが、返品をゼロにすれば、〝死に商品〟をつくらなくてすみます。

二つめは、メーカー、仕入れ先に対して小さな喜びを提供したいということです。メーカーとすれば、返品は、「ある」より「ない」に越したことはありません。

お金の問題だけではなく、社員が頑張ってつくったお菓子が再び戻されてくるのは、どういう事情であれ、あまり歓迎すべきことではないでしょう。

それがゼロになるのですから、きっと喜んでもらえるはずです。

三つめは、食糧資源を大切にしたいということです。

外食産業やコンビニ、スーパーなどでは、賞味期限切れの食料品が毎日のように廃棄されており、一説では、その数は毎日三百万食にものぼるとされています。

もしそれが事実だとすれば、商売の在り方として、はたしてそれでよいのかどうか、疑問に思わざるをえません。

WHO(世界保健機関)によると、世界第一の死亡原因は飢えと栄養不足だそうです。

食べるものがなくて、栄養不足と飢えで亡くなる人が世界で毎日二万五千人もいる(国連食糧農業機関調べ)というのに、まだ食べられる食料品を当たり前のように捨ててしまっている。とても、正常とは思えません。

「賞味期限があるから」というのが理由でしょうが、私にいわせれば、いくらでも工夫する余地があります。

たとえば、お弁当のおかずには、傷みやすい卵の代わりに、干しシイタケなど日持ちのよい食品を使えばよいのです。

それによって賞味期限が一時間でも二時間でも延びたら、三百万食を廃棄していたのが半分の百五十万食に減るかもしれません。

もっと工夫をすれば、さらに日持ちがして、その半分の七十五万食まで減らせるかもしれないのです。日本は食料自給率が四〇%を切り、中国など諸外国から大量の食料を輸入しています。

その一方で、ほとんど何の努力もせずに、日々三百万食もの食料品をゴミ箱へ捨ててしまっている。

そのぶんを飢えと栄養不足で苦しんでいる世界の人たちに回してあげられたら、どれほどの命が救われるでしょう。

現在の日本の食の在り方を反省し、現状を少しでも変えていくためには、口で理想論を述べているだけでは一歩も前へ進みません。

「まず隗より始めよ」で、わが社が先頭を切って返品・廃棄ゼロを実行する。

小売店からわが社への返品はできるかぎり少なくして、わが社からメーカーへの返品はゼロにするもので、どういう方法が最も効率的、かつ取引先も納得していただけるか、さまざまな角度から検討を進めているところです。

理想論でいえば、返品をなくすには、小売店ですべての商品を消費者に買ってもらうのが一番です。

消費者に食べてもらえば、お菓子としては最後まで生きたことになり、メーカーにとっても、わが社のような問屋にとっても、小売店にとっても、最高の喜びです。

そのためには、賞味期限の迫ってきた商品は、小売店で仕入れ値を切った価格で売り出してもらう。袋が破れていたなら、透明のテープで留めて半額で売ってもらう。破損した商品も同様に安く売る。

そうやって消費者に買ってもらう工夫をし、差額をわが社が補填すれば、小売店は損をしません。たとえば、小売店はわが社から八十円でお菓子を仕入れ、それを百円で売って二十円の利益を得ていたとします。

賞味期限切れなどの理由でそれをわが社へ返品した場合は、八十円で引き取るため、小売店の儲けはゼロです。

返品する代わりに半値の五十円で売ってもらって、わが社が仕入れ値を五十円割り引けば、五十円-(八十円-五十円) =二十円で、小売店は二十円の利益になります。消費者も安く買えれば喜びます。

わが社は、その割り引いた五十円の一部をメーカーにも負担してもらう予定ですが、メーカーとしても、これまでの返品にかかるコストよりもはるかに安くすみます。

私の計算では、わが社の補填額は年間百万円ほど発生するだろうと予想していますが、この百万円がまるまる持ち出しになるわけではありません。

現在、わが社は小売店から返品を受け取ると、それを整理して、小売店とメーカー宛てにそれぞれ伝票を切ります。

メーカーもわが社宛てに伝票を切るため、計三通りの伝票が必要になり、それらの事務手続きや配送の手続きなどにかかる労力とコストはけっこうバカになりません。

返品をゼロにすることで、それらの労力とコストは不要になり、百万円の負担は実質的に半額程度ですみます。

その半額の五十万円を損金で落とせば、税金が安くなるぶん、さらに負担は減ります。

往々にして計算通りにはいかないにしても、返品ゼロは社会的意義があり、しかも、消費者から小売店、メーカーまで、みんなが得をするプランですから、十分に実現可能です。

そして、何よりお菓子という商品が喜んでくれるはずです。この制度を五年、十年と続けたら、メーカーは喜んでわが社と取引しようと思ってくれるに違いありません。

また、ビジネスとしてプラスになることを実証できたなら、業種を超えて追従してくる会社が現れてくるでしょう。

ただし、朝起きでも掃除でも、何事も先駆けてやれば強いのです。あとから追従してくる会社が真似ようと考えたときには、わが社はすでに実行していますから、強さが違うのです。

わが社が「返品ゼロ」を打ち出せたのは、もともと業界では日本一返品の少ない会社だからです。菓子業界における返品率は、平均一%。

それに対して、わが社の小売店からの返品率は、その十分の一の〇・一%。年間売上が平成二十年六月末で百十七億円超ですから、年間百十七万円にすぎません。

それだけ返品率が少ないのは、賞味期限切れ間近な商品を安くして売ってしまうからです。

たとえば、期限の切れる日の昼頃には半値で売り出し、それでも残りそうなら、さらに値を下げて売れば、必ず買ってくださるお客様がいます。

そういうこまめな商品管理のできない店とは基本的に取引をしないために、業界平均よりも一〇%も低い返品率の達成が可能になったのです。

それは、在庫回転率からも見てとれます。

日本の菓子業界の在庫回転率は平均約八・四一日であるのに対し、わが社の在庫回転率は三・八日で、半分以下です。

それだけ商品が動いているわけですが、ただし、返品率が限りなくゼロに近いことと、返品をゼロにすることとは、わずかの差のようで、その間にはとてつもなく大きな壁があります。

しかし、すでに宣言もしており、約束した以上は何としてもやり遂げようと思っているところです。

フランチャイズ展開は共存共栄が原則

わが社では、大阪心斎橋店と京都四条河原町店をはじめとした直営店二十七店と、七十店余りのフランチャイズ( F C)店、あわせて百店舗ほどの小売店を展開しています。

私が、「お菓子のデパートよしや」をキャッチフレーズに、 FC一号店を大阪の十三に開店したのは、昭和六十一年、いまから二十年以上も前です。

当時、ケーキ店やパン屋などの FC店はありましたが、キャンディーやチョコレートといったお菓子専門の FC店はなく、わが社が日本で初めて考案したものでした。

私は、お客様が楽しんで買い物をしていただけるような、地域に愛される店づくりを目指せば、 FC店は必ず成功すると思っていました。

実際、 FC店は関西を中心にどんどん増えていったのですが、私の基本的な考えとして、必要以上に FC店を拡大するつもりはありません。

外食産業であれ、コンビニであれ、 FC展開をしている本部の多くは、全国に一軒でも多くの出店を目指そうとします。

店舗数が増えれば、売上がそれだけ上がり、仕入れコストを低く抑えられるほか、加盟金やロイヤリティが入ってくるメリットもあるからです。

私はそうではなく、本部の売上や利益の追求よりも、既存の FC店の利益を守り、そこの経営を安定させるほうを優先すべきであると考えています。

ですから、 FC店をどんどん増やしていけば、わが社に加盟金などが入ってくるのはわかっていますが、無理強いはしません。

新規に加盟を希望されても、販売環境リサーチや損益シミュレーションをして難しいと判断した場合は、「儲かりませんから、やめましょう」とお断りします。

世の中で一番悪いのは、弱い者イジメをすることだと思っています。わが社と FC店の関係では、どうしても本部であるわが社の力が強く、 FC店は弱者です。

私は目標として、夫婦で一生懸命に FC店を経営して、何とか一千万円以上の年収が稼げるようにしてあげたいと思っていますが、現状はスーパーやコンビニを含めてお菓子店はオーバーストア気味です。

長くやっている既存の FC店は、歴史があり、地域に根づいて固定客がついていますが、新規店は、わが社がいくらバックアップしたところで、採算が取れる保証はないのです。

現実に商売として厳しければ、希望に燃えて店を開いたオーナーに迷惑をかける結果になります。

弱い者を泣かせることだけは絶対にしたくありませんから、応募されてきても、思いとどまるようにアドバイスしてきたのです。

おかげで、 FC展開をしていながら、裁判沙汰になったことはほとんどありません。他のフランチャイザー(本部)ではオーナーとの訴訟をかかえているいるところもあり、 FCに詳しい方から、「珍しいですね」と感心されるくらいです。

オーナーが裁判まで起こすのはよくよくのことで、そこまで追い込むのは本部にも責任があると思っています。しかし、オーナーが裁判を起こしても、まず勝てません。

本部側は、訴訟されても絶対に負けないだけの法的武装を契約書に明記したうえで募集しており、泣くのは常にオーナー側です。私は、そんな弱い者イジメをしたくありません。

わが社がそれほどたくさん潤う必要はなく、オーナーともどもみんなが幸せになれたらそれでいいのです。

自分の力で儲けるのはかまいませんが、犠牲者を出してまで儲けたら、いつかしっぺ返しを食らうでしょう。

ところで、わが社では、預託金として五年契約で五百万円をオーナーから預かりますが、月々のロイヤリティはいただいていません。それどころか、預託金に対して利息さえ支払っています。

現在は市中金利が低いために年間一・五%ぐらいですが、高いときには三% ~五%を払っていたこともありました。一・五%でも銀行の利息に比べたらはるかに有利で、また退会時には全額を返却します。

取引先を阿波踊りにご招待

私の出身地の徳島県鳴門市は、徳島市と並ぶ阿波踊りの本場です。

いまも知り合いがたくさんおり、そのご縁を大事にして、私は平成十一年から十年間、社員をはじめ、仕入れ先、お得意先を毎年百名、阿波踊りに招待しています。

私は子どものときから体に叩き込まれてきたので、「チャンカ、チャンカ」というあの独特のリズムを耳にすると自然に手や足が動きだしますが、招待客の多くは初めて踊る方です。

そこで、地元の阿波踊り保存協会「武秀連」にお願いしてステップの手ほどきを受け、本番では武秀連の一員として観衆の前で踊ることになります。

にわか仕込みですから、地元の人のようにはうまく踊れません。それでも、軽快なリズムに乗って手足を動かし、踊りつづけると、気分爽快。みなさん、口々に「いやあ、楽しかった。次回もぜひ参加させてください」と大喜びです。

すでに回を重ねて計画した十年目を迎えましたが、楽しみにしている方も多く、次回からどうしようかとうれしい悩みをかかえています。

FC店を含むお得意先の中には、年間一億円売ってくれる大口のところもあれば、売上が五千万円のところもあります。

私は、取引額が多かろうと少なかろうと、お得意先に対して基本的に差をつけません。阿波踊りに招待するときも、売上高に関係なく一様に招待します。

本部である吉寿屋が利益を出したときは、年間売上総額の〇・四%を〝お礼〟として FC店に渡しますが、これも一律です。

ここ数年間は業績が好調に推移しており、毎年〝お礼〟を還元でき、喜んでもらっています。具体的には、平成二十年六月末の決算期に、すべての FC店の奥様に五万円の〝賞与〟をお渡ししました。

いわば、「奥様賞与および母親賞与」の FC店版です。

FC店の奥様たちにすれば、それぐらいのお金には不自由していないでしょうが、予定外の収入はうれしいものです。

営業担当が一軒一軒回って奥様に直接手渡したところ、たいへん感激していただいたと聞いています。

また、たくさん商品を買ってくれる上位二、三十社のお得意先の経営者とその奥様の誕生日には、社長である弟がみずから蘭の花をお届けしています。年配の奥様になると、花をもらう機会は滅多にないとのことで、これもたいへん好評です。

取引銀行は一行主義

わが社は、創業以来、三井住友銀行(以前は住友銀行)天六支店がメインバンクで、それ以外の銀行とは一行たりとも取引をしていません。取引のきっかけはいたって単純な理由です。

天満市場の店で毎朝五時から働いていた創業まもなくのころ、いろいろな銀行の外回りの人が私のところに「口座を開きませんか」とやってきました。

その中で旧住友銀行天六支店を選んだのは、店の前を出勤していく各行の担当者のうち、住友の行員がいちばん朝が早かったからです。

ただし、普通の会社は長年ビジネスを続けていくうちに、メインバンクのほかに二つや三つの銀行と取引を始めるようになるものです。

預金先・入金先を都銀と地銀に分けたり、借り入れ金利を競わせたりするようですが、私が一行との取引にこだわってきたのには、いくつかの理由があります。

たとえば、三行と取引したとしましょう。それぞれの営業担当がやってくるので、三人と話さないといけません。

融資を受ける際も、「あなたのところはいくらで貸してくれるのか」と各行の営業マンと交渉することになり、その時間がもったいないこと。

通帳が三通になるため、管理も面倒だし、ハンコを押すのもそれだけ多くなります。資金の移動も大変です。

三つの銀行に各一億円ずつ預けていて、一億五千万円の支払いがあったときに、五千万円を A行から B行へ移さないといけなくなります。

いまはインターネットを利用してパソコンでもできるようになりましたが、それでも手間がかかるだけでなく、銀行によっては手数料が必要です。

取引銀行を複数にしたところで、かえって煩雑になり、余分な時間を取られるだけで、少しもいいことがありません。そして何より、一行とだけ取引をしていれば、相手銀行から大事にしてもらえます。

しかし、メガバンクである三井住友銀行に重要視してもらうには、取引金額が大きくないとダメです。わが社の年間売上は百十億円余り。

三井住友銀行の取引先には、それより一桁、二桁も多い大企業、中堅企業がたくさんあり、わが社程度の会社が数行と分散取引していたのでは、ますます存在感を薄くするだけです。

百十億円のお金の動きを一行だけにしぼり、かつ大手の上場企業が多く集まる本店との取引ではなく、それより大きくない支店に集中させれば、それだけ比重が高まります。

わが社でいえば、三井住友銀行の天六支店がそれです。

支店側も、自分のところとだけ取引してくれていて、実績が上位に入る会社をおろそかにしたりはしないでしょう。

結びつきがそれだけ強くなるのは当然の流れです。

小さなことでは、支店の行事の日程を決める際に、前もって出席できるかどうかを聞きにきてくれますし、大きなことでは、わが社のお金の動きを把握してくれていて、たとえばボーナス時期にはいくらの資金がいるかがわかるため、黙っていても段取りしてくれます。

「お菓子のデパートよしや」心斎橋店の土地の話も、天六支店から持ち込まれたものでした。また、お金を借りる場合も、こちらの資金繰りが明確にわかっていますから、返済限度以上を貸す無茶はしません。

東京商工リサーチが毎日発行している倒産情報を目にすると、「よくもこれだけ借りられたものだ。銀行と話をするだけでも大変だったろう」と変に感心するぐらい、倒産した会社はいろいろな金融機関から借りています。

一億円しか借りる力がない会社でも、二十ぐらいの金融機関から一億円ずつ借り入れれば、二十億円に膨れ上がります。

本当は危険水域に入っているにもかかわらず、融資で何とかもたそうとするのでしょうが、うまくいくはずがありません。

結局、銀行や取引先、社員などに迷惑をかけ、経営者も担保に入れている自宅を取られるなどつらい思いをすることになります。

銀行にしても、一般の金融機関から借り入れていた場合は、その会社が帳簿をごまかしていたら、どこでいくら借りているかはなかなかつかめません。倒産して初めて知り、慌てることになります。

一方、一行取引の場合だと、ごまかしが利きません。取引先も、貸借対照表などを見れば業績が一目瞭然なため、安心してくれているようです。

ついでにいえば、「銀行がお金を貸してくれなかったので、会社が倒産しました」と、経営者が言い訳をするのを聞くと信じられない思いがします。そんなバカな話はありません。

お金を返せないから貸してくれないわけで、他人からお金を預かって運用している銀行としては、返済してくれないところに貸せるはずがないのです。

毎月きちんと返済していたら、銀行は黙っていても貸してくれます。それどころか、利子をつけて払ってくれるなら、兄弟でも、親戚でも、他人でも喜んで貸してくれるでしょう。

反対に、返してもらえないのなら、銀行はもちろん、兄弟でも貸してくれません。しごく当たり前の話です。それを銀行のせいにするからおそろしい。

正しくは、「銀行から借りても返していけないから、銀行は貸してくれなかった」というべきです。もう少しましな言い訳をしないと、笑われてしまいます。

大きい会社よりも内容のいい会社が理想

私は、必要以上に売上を伸ばそうとは思いません。社員にすれば、売上をたくさん増やして会社が大きくなり、上場でもしてくれたらという希望はあるかもしません。

気持ちはわからないではないですが、私は上場する気も、会社を大きくする気もないのです。私にはその力もないのですから。

上場しようと思えば、売上をもっと伸ばさないといけません。

しかしながら、菓子専門店はすでにオーバーストア気味で、これ以上、直営店、 FC店を増やしたところで、それほど売上が上がらなくなってきています。

そのうえ、わが社が扱っている商品は、スーパーマーケットやコンビニなど、どこの店にも置いてあるものばかりです。オリジナルの商品は一つもありません。

どこにでもある商品で、直営店や FC店はスーパーマーケット、コンビニなどと戦わなければいけないのですから、ますます厳しくなる一方です。

無理して売上を伸ばそうとすれば、 FC店を中心とする既存のお得意先だけではダメで、大手スーパーとかコンビニなどに卸していかなければなりません。

全国に店を持つ大手スーパーやコンビニと取引すると、確かに売上は急増しますが、経常利益率は逆に下がってしまいます。

最初は何とか値段の合う仕切価格でスタートしても、売上が増えてくれば、それを背景にして値下げを要求され、スーパーによってはリベートも求められるからです。

十年も取引を続ければ、儲けはほとんどなくなるでしょう。

年間一千億円を売り上げて経常利益が一%以下よりは、百十億円の売上で適正利益が二%そこそこあるほうが、社員に対しても、 FC店などお得意先に対しても、たくさんのものを還元できます。

大きな会社よりは内容のいい会社のほうが、社員を幸せにできるのです。私は、適正な利潤がないと、日本の国と社員が一番「かわいそう」と思っています。

全国に二百五十万社ぐらいの法人企業がありますが、そのうちで上場しているのは約四千社、一%にも届きません。

菓子業界でも、上場しているのは森永製菓、明治製菓、グリコなど大手メーカー十社ぐらいで、わが社のような卸売業者で上場している会社は皆無です。

われわれクラスでは、いかに上場が難しいかということでしょう。しかしながら、先行きを悲観的に捉えているわけではありません。

現在の五年計画では、平成二十四年度で売上百五十億円、経常利益四億五千万円を目標においています。

無理して売上を伸ばすつもりはありませんが、それぐらいの数字なら十分にいけるでしょう。売上に対する経常利益率も、まだまだ上がる可能性はあります。

生産性がよくなって、少ない人数で高い売上ができるようになったことに加えて、自社物件の直営店が多くなっているためです。

利益率を高めて、その成果を社員や仕入れ先、お得意先に還元していく。

この利益還元システムが機能してこそ、社員や仕入れ先、お得意先もわが社を支えてくれるわけで、無闇に売上拡大や上場を目指して利益率を下げることは、かえって自壊への道をたどることになると自分に言い聞かせています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次