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第六章どう行うのか?(5つのスキルセット)

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第六章どう行うのか?(5つのスキルセット)

ネガティブフィードバックは、最初のボタンを掛け違えると暗礁に乗り上げます。また、相手の心理状態に応じたアプローチや、行動変容に繋げるためのクロージングも必要です。それぞれの場面で有効になるスキルセットを5つ紹介します。

61【合意を得る】

ネガティブフィードバックは「言った側の自己満足」で終わっては意味がありません。

※例えば、会議で経営者が「当社は厳しい状況だ、全社員が危機意識と主体性を持とう!」と熱弁をふるっても、社員の行動が変わらなければ経営者の自己満足に過ぎず、双方時間とエネルギーの無駄です。

行動変容に繋げるためには、「置かれている状況」「改善の必要性」「これから話し合いを行うこと」に関して、個別に合意と理解を得ることが重要です。

※ここを飛ばしてしまう経営者や上司は多いです。

合意を得る際には「はい/いいえ」という2択のクローズクエスチョンでなく、「不明点はありますか?」「他に問題点はありますか?」「今はじめても良いですか?」など、本人へ問いを立てて、選択させる・意見を言わせるオープンクエスチョンが有効です。

■合意を得ることは、各プロセスで行うことを推奨します。

「面談の目的」「フィードバックを始めること」「ギャップの事実があること」「改善意欲を確認すること」「改善計画を立てること」「改善期間を決めること」「その後の運用方法を決めること」※後から「私はそんなことを言ってない」「そんなつもりじゃなかった」を防ぎ、シビアですが言い訳や逃げ場を無くす意味もあります。

•フィードバック内容がどう伝わったか相手に説明してもらいます。

そうすると、相手は「言われたことを思い出す」→「言語化する」→「上司に説明する」という活動をするので、伝えた内容が「長期記憶化」「言語化」「コミットメント化」されやすくなります。また、ボタンの掛け違いを早期に発見し軌道修正が可能になります。

62【不協和を創る】

改善を求めるネガティブフィードバックは、「現状」と「期待」に必ずギャップがあります。ギャップの多くは、本人が目を向けたくない事実です。

「本人の感情を害さずに気付いてほしい」「波風を立てずに変化して欲しい」と考える上司は多いです。

しかし脳科学上、人間には「望まない変化を受け入れたくない」正常性バイアス(災害時などに「自分だけは大丈夫」と思いたがる心理)と、「未知の変化を避けたい自己保存本能」があります。変化を嫌うタイプの人が、放っておいて変化する可能性は極めて低いです。

•行動変容を促すには、「今のままでいたい」⇔「今のままではまずい」という矛盾や違和感が最初の一歩になります。

矛盾や違和感があると、その状況に留まることが気持ち悪くなり、何かしら行動や意識が変容し始めます。

心理学では【認知的不協和】と呼ばれます。

伝える側は、不協和を恐れるより、「ちゃんと矛盾や不協和を感じてくれた(フィードバックが伝わり始めた)」ことを喜びましょう。

63【話すより聴く(傾聴)】

フィードバックというと「うまい言い方」を考えがちですが、「うまい聴き方」の方が遥かに重要です。

人間には【一貫性の法則】があり、「自分が言ったこと」と矛盾を生じたくない性質があります。

一方的に言われたことなら否定しやすいですが、「自分の意見を組み込んで言われたこと」は否定しにくいです。まず、本人の言い分をしっかり傾聴(耳と心を傾けて聴く)しましょう。

「これ以上、言うことは無い」「本音をすべて言い切った」という状態まで付き合うと、言語化が出来て本人の頭と感情は整理できていきます。

特に、相手の不安・不満・恐怖・怒り等のネガティブな感情のサインを見つけたら「何か不安があれば教えてください」「お気持ちはこの場で全部吐き出してください」など、吐き出させることを推奨します。ネガティブな感情は、吐き出せず溜め込むと解消されません。

傾聴により、感情を吐き出し精神的に落ち着く【カタルシス効果】と、時間と感情を共有してくれた相手に好意を抱く【単純接触効果(ザイアンスの法則)】の両面で、フィードバックを落ち着いて受容する土台が出来上がります。

•「沈黙を恐れない」「間を使う」企業向けネガティブフィードバック研修では、ロールプレイを行います。そこで上司側がやりがちなエラーが「喋り過ぎる」「沈黙を埋めたがる」です。

上司が過剰に喋り過ぎると、部下は「じっくり内省する」時間が持てません。必要な情報を伝えた後は、相手の反応や内省をじっくり待つ姿勢が有効です。

「誤解があったら申し訳ないんだが……」「こういうこともあって、ああいうこともあって……」「どう思う?こんな風に思うよね……」など、少しの沈黙にも耐えきれず部下の心理を無駄に先読みしてベラベラ話して沈黙を埋めようとする上司もいますが、部下に話す機会を与えない限り、フィードバックのボールは相手に渡りません。

■しばらく沈黙が続くと、部下も色々なことを考えざるを得ません。

「自分から何か意見を言わないと、この面談は終わらない」「真剣に考えないと」「上司は何を期待しているのか」「今回は、いつもと雰囲気が違う」•沈黙と間を恐れない、むしろ上手く沈黙と間を創ることが重要です。

64【行動と事実について話す(ファクトフルネス)】

ネガティブフィードバックは『性格・意識』ではなく『行動・事実』に焦点をあてて行う必要があります。

ただ、実際に管理職・経営者・人事と話すと、『性格・意識』に関する相談(愚痴)が多く出ます。

「もっと責任感を持った仕事をして欲しい」「シニア社員のモチベーションが低い」「あの人は気難しいので、仕事を頼みにくい」「協調性が足りない」等『性格・意識』に焦点を当てるべきでない理由は下記2点です。

1.パワハラのリスクが高くなるパワーハラスメントに関する厚生労働省の定義(抜粋)です。

「職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える行為」特に「人格権の侵害」と受け止められる言動は、相手に精神的苦痛を与えるため、注意が必要です。

■例えば、「もっと責任感を持って仕事をして欲しい」という発言は、本人は「責任がない人間だと言われた」と受け止める可能性があります。「協調性」「主体性」「当事者意識」なども、同様の懸念があります。

※誉める分には問題ない表現ですが、叱る際の使い方には注意が必要です。

2.本人の改善や変化に繋がらない「もっと責任感を持って仕事をして欲しい」と上司が言ったとしても、「責任感を持った仕事とは何か?」は部下には分かりません。

「自分の仕事すべてが無責任なのか?冗談じゃない」と反発を抱く可能性も高くなります。

•フィードバックする際は、『どういう行動や事実を見て、上司である自分がそう判断したのか?』を掘り下げ、その行動・事実に基づいて話し合うことが重要です。

例えば「責任感が足りない」と判断した事実が「プロジェクトの進捗状況を自分から確認しない。その状況が3回連続続いている」なら、その旨を伝えます。そうすれば、次回以降は「進捗状況は自分から確認する」という行動改善に繋がります。

•会社で働くとは「労働提供を前提とした雇用契約」であり、家族や友人のように血縁や情緒を基にした関係ではありません。

極論を言えば、内心や人格は関係なく、期待される行動を取ってくれれば組織運営上の支障はありません。

※最終的にはフィードバック無しで期待を上回る行動や姿勢を取ってくれることが最善ですが、最初の目的は「期待通りの行動をしてくれること」です。

現実的には下記ステップで改善していきます。

■不足している行動・事実を指摘する(ネガティブフィードバック)

■フィードバックされた行動が改善する

■改善に対して承認・賞賛する(ポジティブフィードバック)

■誉められたことで、その行動を繰り返すようになる

■行動が変わり、上司や周囲の評価が変わる(責任感の欠如を感じなくなる)

■周囲の評価に応じて、内心も変化する場合がある『心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる人格が変われば運命が変わる』という有名な格言(ウィリアム・ジェイムズ:心理学者)がありますが、ビジネスの現場では下記の表現になります。

『行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば評価が変わる。評価が変われば心が変わる。心が変われば人格が変わる』

•行動を変えるには「良い点は誉め、悪い点は叱る」ことが必要です。「この人は良い・悪い」ではなく「この行動は良い・悪い」という行動をベースにした観点が必要です。

誉めるのは「繰り返して欲しい行動」「更に伸ばして欲しい行動」叱るのは「繰り返して欲しくない行動」「足りない行動」「ローパフォーマーには常に厳しい」「ハイパフォーマーは常に甘い」など、行動ではなく人による差異が出ると、組織のモラルが低下します。

「ローパフォーマーでも、良い行動は誉める」「ハイパフォーマーでも、悪い行動は叱る」上司が明確で誠実な基準を持っていると、組織のベクトルは合っていきます。

65【諦める(明らかに見極める)】

ネガティブフィードバックを延々と続けると、部下も上司も疲弊します。期間の定めがない改善活動を、ある管理職は「ゴールの無いマラソンを走っているようだ」と言っています。

※パワハラやメンタル不調のリスクも高まります。現実問題として「改善する場合」「改善しない場合」どちらも起こり得ます。

「どこかのタイミングで、お互いに諦める(見極める)」ことも必要です。

•3ヶ月から6ヶ月間、本気で取り組んで改善しなければ、違う道を話し合うことをお勧めします。

ロンドン大学フィリップ・ラリー博士が行った研究では、人が新しい行動を習慣化する平均は66日だったそうです。

3ヶ月(営業日60日前後)で一区切りし、今後に向けた検討を行います。改善が見られない場合の対応は、以下の選択肢があり得ます(第四章参照)。

  • ■「役割の変更(配置転換・異動)」
  • ■「賃金の変更(降格・降給)」
  • ■「所属の変更(出向・転籍)」
  • ■「雇用の解約(退職勧奨・解雇)」

※本人にとって不利益な処遇変更や雇用契約の解約には、法律面での注意と心理面への配慮が求められます。

本人としても「難しい役割や苦手な職務を、背伸びしてやり続けること」が必ずしも幸せとは限りません。

※実際、社内外の違う役割・環境で活き活きと働いている方も多く見受けます。

「改善しなかった場合の可能性」に関しては、改善計画を遂行する最初の段階で言及しておくことを推奨します。

後出しだと、本人からすれば「だったら初めから教えて欲しい」「騙し討ちだ」と不満を持つ原因になります。

補足【オンラインフィードバックの注意点】

最近は、テレワークが一般化してオンライン面談も増えています。ネガティブフィードバックをオンラインで行う場合は、下記に注意が必要です。

■会話の「間」を重視するオンラインでは、会話が重なる・途切れる事態が頻発します。

「本人が言い足りないことがないか」「必要なことが伝わっているか」面談途中でもしっかり間と沈黙を取って、確認しながら進めましょう。

■相手の「表情」と「言葉」で受容度合いを確認する小さなスマホやPCの画面上では、微細な表情や雰囲気は確認しきれないことがあります。

フィードバックを相手がどう受け止めているかが対面より把握しにくい場合があるため、出来る限り「どう理解したか、説明して欲しい」など、相手の口で表現してもらいましょう。

一方、上司側は大げさにならない範囲で、対面時よりもうなずきや反応を大きくしてあげる方が、相手も本音を話しやすくなります。

■雇用や処遇に関するフィードバックは対面を推奨ネガティブフィードバックの一環で、雇用契約の解約や処遇の低下など、より厳しい話をしないといけない場面も起こり得ます。

その際は、出来るだけオンラインより対面を推奨します。

「相手の感情(落胆・不満・怒り・動揺など)を把握しながら話せる」「通信状況の不具合による情報の抜け漏れを防ぐ」「無断録音・録画リスク防止(オンラインだと手元で録音されても分からない)」という効果があります。

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