経営計画書のなかにク資金運用計画クがあるのは当然のことであるが、現実
には、経営計画書のなかにク資金運用計画クを組み込んだものは非常に少ない。
これがないのでは、″画龍点晴´を欠いたことになる。資金運用計画がない
理由は、これを作れる人がきわめて少ないという事情のためである。
さいわいなことに、私が資金運用計画を作ることができる一人なので、本書
を借りて、これの作成法から活用法までを述べることとする。
とはいえ、これはバランスシートや損益計算書のように、簡単な説明でマス
ターできるものではない。ましてや、ク長期資金運用計画クなど、まったくお
それほど資金の動きというのは、ややこしいのである。
資金運用は、バランスシートや損益計算書のように過去の数字ではなく、未
来の数字を扱うものだけに、いままでと勝手が大きく違うのである。その大き
な違いを十分にわきまえて、誤りを起こさないようにしなければならないので
ある。私も、極力やさしく解説させていただき、皆様とともに勉強させていただく
つもりである。どうか、本書で繰り返し検算しながら、資金運用計画を十分に
マスターしていただきたいのである。
資金音痴ではすまされない
第一話
T社は、東京都内に本社工場をもっていた。
東京都の都市計画による区画整理にあって、隣接県に工場を移転した。かねて手狭をかこっ
ていたことでもあり、広い敷地に従来の四〜五倍も大きな工場と倉庫を建てた。それだけで
なく、立派な体育館も建て、さらに三十人も収容できる独身寮まで建てた。その時の入寮者
は五人だった。
これでもとどまらずに、社宅まで数棟建てたのである。そのために、東京都からの補償で
は足りずに、銀行から多額の借金をした。
社長は、引き続いて第二次計画として、空いている工場スペースに新鋭機を入れ、倉庫を
もう一棟追加するつもりである。仕上げとして、冷暖房完備の本館を建て、塀は殺風景なブ
ロックなどでなく、石を二列に積んでその間に土を入れ、花木を植えたいというのである。
経理担当の常務は、「第二次計画など、当分延期してもらいたい」という意見である。
「倉庫は、今のままで当分は大丈夫だし、新鋭機を入れなくとも、外注工場を活用すれば
よい。本館は、現在空いている工場の一部を問仕切りして我慢してもらう。塀は、有刺鉄線
で二年や五年は十分だから」と、常務は言うのである。理由は、言わずと知れた資金難で
ある。
常務は、懸命に社長に説くが、社長は承知しない。しまいには怒りだしてしまい、「常務
は二言目には資金というが、その資金は常務が調達するのではない。社長の私が調達するの
だ」と言いだす始末である。
私はニヤニヤしながら、二人のやりとりを聞いていた。社長が、「一倉さんは、どう思うか」
と、私に意見を求めてきた。
私は社長に、「今年中に社長がやりたい設備を全部書きだし、設備投資額の見積りをして
ください」とお願いした。それができたところで、ク見積資金運用表クを作ってみた。
そこにあらわれた数字― 新たに必要とする長期借入金は、多額なものだった。社長が頭
の中で計算していた数字をはるかに上回るものだったのである。
「社長、塀くらい、いいでしょう」と私が冗談を言うと、
「やめた。当分有刺鉄線で間に合わせる」と、大笑いになってしまった。
第二話
U社は、工作機械メーカーである。そのために、長期の割賦手形を受け取ることが多かった。
U社長の相談は、次のようなものだった。
去年、工場を新築した。その資金は、全額長期借入金で賄った。その返済条件は、事前に
検討の上、月々それほど難しい金額ではないということなので、投資をしたのである。
その返済が最近はじまった。ところが、毎月毎月、予測を上回る不足資金がでる。ここの
ところ、売上げがやや低調なので、多少苦しくなっているのは分かるが、どうもおかしい。
経理では、その都度、「いくら足りません」と社長のところへ言ってくる。足りないもの
は借りなければいたし方がないとして、今年中にいくら足りなくなるのか、さしあたって来
月はいくら必要なのかを聞いてみても、経理担当者は返答ができない。
その時々に言ってくる不足金も、前に聞いた時と額が違う。それを追及すると、「変動要
因が多くて、その時でなければ、額が正確にでない」と言って、逃げられてしまう。売掛金
の回収も、現金比率も、予定通りいかないという説明には、 一応もっともとは思う。社内の
ことは、それでもいいが、困るのは銀行に対してである。
銀行からは、「せめて三カ月くらい前もって、資金状況を知らせてくれ」と言われるが、
それに答えられない。考えてみれば恥かしい話で、社長たるもの、我社の資金について、せ
めて「今期中はこれだけくらい」は、確信をもって銀行に申し入れたいというのである。
今期中の資金くらい、資金運用の知識がなくとも、資金繰表さえ作れば分かることである。
しかし、これが非常にむずかしいという。
その理由として、さきにあげた種々の変動要因の上に、受取手形と割引手形の管理がうま
くできないからだというのである。
売上げ代金は、頭金以外は二十力月から、時には四十力月の割賦手形でもらう。そのために、
常に二千枚ほどの手形をかかえていた。それを市販の手形帳を使って管理しようとしていた
のだ(あとで詳しくふれるけれども、市販の手形帳で手形管理はできないのだ)。そこへもっ
てきて、「計画と実績は合わなければならない」というク計画どおり病´によって、資金繰
りの実態をつかんで、これを管理することよりも、計画と実績を合わせることに腐心して、
修正につぐ修正をしていたのである。
U社長の悩みを一挙に解決したのは、ク資金運用予測表クであった。必要な数字を、社長
と常務にききながら、今期の資金運用予測表をつくるのに、 一時間とはかからなかった。
私は、できあがった表を示しながら、U社長に説明した。U社長は、「これで我社の実態
がよく分かった。あとは、この表の経常利益額の予測と実態との差だけ、必要資金が増減す
るのですね」と納得し、 一件は落着である。
第二話
S社長から、「本社ビルを新築したいが、どうか」と、いるいろな資料を示されて、意見
を求められた。
ここ数年、S社の業績は順調であり、先行きの見通しも明るかった。創業以来の本社は、
すでに手狭であった。この際、思いきって現在の社屋を取りこわし、その跡地に高層ビルを
建て、その三分の一を自社用とし、他はテナントとするという計画だった。
一立地条件がよいから、借り手は心配しなくともよい。いくつかの建築会社に見積らせた
ところ、価格はマチマチであるが、いずれも代金は十年間の割賦返済でいいという好条件を
示された。
銀行の融資では、十年返済は望めない。せいぜい五年である。その上、両建預金をとられ
るのに決まっていることを考えると、銀行よりわずかばかり高い金利も、実際には銀行と同
じであり、先行きの貨幣価値の下落を考えると、建築会社の条件はすごく有利である。
新築するビルは別会社のものとし、その見積損益計算は、収入を内輪に、費用を大目にみ
てやっても十分に引き合う」というような説明である。
私は、「社長は、九分九厘まで決めているな」と感じた。いいことずくめだからムリもない。
しかし、重大な点が検討されていない。それは、″資金運用クである。
損益計算では利益がでても、資金運用が大丈夫だということにはならない場合がある。つ
まり、「勘定合って銭足らず」である。
いくら損益計算で利益がでようと、返済資金、法人税、地方税などは損益勘定ではない。
これらの資金がどうなるか、検討されていないのである。
そこで、十年間の ク資金運用見積表クを教えながら、実際に作ってもらった。
その結果、十年間にわたって毎年毎年、大幅な資金不足を来すことがわかった。さきにあ
げた損益勘定以外の資金(返済資金、法人税、地方税など)を賄うものは、経常利益と減価
償却費の二つしかないのである。その二つでは不足だったのである。
私は社長に、「毎年毎年、十年間にわたって、これだけの資金不足を起こす。これだけの
資金不足を、どうやって補うのか。しかも、その資金にまた金利がついてまわるのですよ」
と説明した。
S社長は、驚いてしまった。こんなに多額の資金が不足するとは、夢にも考えなかったの
である。単に、損益が黒字の点だけを見ていたのである。
S社長は、「ワーッ、これではとてももたない」ということになり、本社ビルの新築を断
念した。
しかし、手狭な現状と将来を考えれば、このままというわけにはいかない。そこで貸ビル
の手頃なのが見つかったので、そこを借りることとした。これで万事OKである。
それから十年間の必死の努力で社業は隆盛し、それによって十年前に計画したよりも広く
て立派な本社ビルをつくることができた。むろん、資金運用計画をつくり、十分な余裕をもっ
てつくることができたのである。十年前には、無計画に、ただ手狭だから広い本社ビルを建
てるとしか考えなかった― うまり、十年前は、身分不相応なビルだったのである。
厄介な″資金″というもの
資金というものは、まことに厄介なものである。
その実態がきわめてつかみにくいもので、まったく処置なしというのが、大方の社長の実
感なのである。
だからといって、敬遠するわけにはいかない。
それどころか、毎日のようにこれと対決してゆかなければならない。これから逃れられな
いどころか、避けようとしても避けることができないものなのだ。しかも、その資金との対
決は、 一歩誤れば会社をピンチに追い込み、場合によっては、会社をつぶしかねないので
ある。
それにもかかわらず、日本中の大部分の会社が資金音痴なのである。資金ショートを起こ
した瞬間に、会社はつぶれるというのに……。
それほど重大なものが分からないとは、笑い事ですませられる問題ではないのだ。それな
ればこそ、資金に関する書物が山のようにあって、それぞれ資金を論じている。
しかし、ドンピシャリ、資金の実態を解明したものはない。なぜかというと、資金を論じ
ている″会計学″そのものが、本質的に過去計算であり、そして、資金運用は未来計算だか
らである。この根本的な違いが明確にされていないのだ。そのために、様々な混乱が生じて
いるのである。
事業は、あくまでも前向きに行うものである。つまり、未来計算なのである。この点を、
まずシッカリと認識しなければならない。
る必要がある。
資金繰りは、資金、すなわち現金に関する時系列計算であって、資金の収支を計算するも
のである。いわば、資金の損益計算である。
これに対して、資金運用は期末における資金構造を計算するものである。資金構造だから、
資金運用はバランスシートの勘定科目で行うものなのである。言いかえれば、資金運用は、
期末において、バランスシートのどの勘定科目に、いくらの資金を配分するかという、資金
構造を計画するものである。つまり、ク資金の断面計画クなのである。
・資金繰りは、資金収支の時系列計算
・資金運用は、期末における資金構造を計画する断面計算― ‐すなわち、期末断面で、
どのような勘定科目に、いくらの資金を配分するかという計画、あるいは計算
である。
「資金の時系列計画が資金繰り計画」であり、「資金の断面計画が資金運用計画」なので
ある。
右の違いを明確にとらえていただいた上で、資金運用計画の説明に入らせていただくこと
とする。
資金運用を知れば
資金とは、とにかくややこしい。だから、社長は資金を敬遠し、経理担当者に任せる(実
は放任)ということになってしまう。
しかし、経理担当者も、事業運営のための資金運用など何も知らない。経理関係のいかな
る文献といえども、事業運営のための資金運用には一言もふれていないのだ。
そのために、日常の資金繰りだけを追うことになり、せいぜい三カ月か六カ月の資金繰り
予測表をつくっては、その都度、その都度の収支のツジツマ合わせのみに終始する。そして、
自分の手におえない不足資金は、社長に報告するということになってしまう。
こと資金繰りについては、その主役は経理担当者であり、社長はク借金係クになってしまっ
ところが、この経理担当者は、 一般に妙なクセをもっている場合が多い。それは、「借金
嫌いの支手(支払手形)好き」である。
誰に教わったのか知らないが、「支手は金利のつかない資金調達法である」という信念の
もとに、支手をジャンジャン発行していながら、短名(短期借入金)は少ししかないという
会社が、かなり見受けられる。これが会社を危険状態にすることを知らないのである。
また、金融緩和時― ‐これは、景気恢復期に起こる現象で、この時には資金状態のアンバ
ランスを解消したり、金利負担を軽減する好機なのだ――に、漫然と過したりする。
もう一つ、経理担当者の嫌いなものがある。それは、過剰在庫である。経理が下手にこれ
に関与すると、ク売上げ減少″を起こす危険がある。
その例として、これは第二章の一〇七貢以下で簡単にふれたことだが、ある靴店で起こっ
たことをここで詳しく紹介しておく。この会社は、六店ほどの支店をもっていたのだが、経
理が、「在庫の回転率が経営指標より悪い。在庫を減らして、もっと金利負担を減らさなけ
ればならない」と、社長に報告し、在庫節減を進言した。社長はこれを受けて、在庫減らし
を指令した。すると、支店のうちで抜群の売上げを誇る店の店頭在庫がなくなって、ガラガ
ラになってしまった。
追加仕入れは、経理の了解をとるように決められているので、店長は経理に対して追加仕
入れを要求した。しかし、経理の了解は得られなかった。在庫総額が、まだ目標に達しない
から、という理由である。怒った店長は社長に直訴したが、社長は経理に任せてあるからと
言って、取り上げなかった。
全社的な在庫過多の中で、 一店だけが売上げ好調による在庫不足を起こしたのである。こ
れが売上げ減少に拍車をかけてしまった。
私がお伺いした時に、その店のフェースは、三分の二が空いていたのである。私は社長に
大目玉を見舞い、在庫管理の正しいやり方を教えなければならなかった。百万都市のナンバー
ワンの靴屋の社長にしてこれである。
ある大手の玩具問屋で、商品のABC分析をし、上位より八〇%までの商品についての在
庫を、調べるまでもないことだったが調べてみたら、どのカテゴリーでも例外なく在庫はゼ
ロ、またはこれに近い有様だった。担当の専務の言では、メーカー在庫がゼロなので、打つ
手がないとのことだった。入荷予定は分かっているのかと聞いてみると、分からないと言う。
メーカーに問合せても、ほとんどすべての商品が、出荷までにニカ月から三カ月はかかると
いう返事である。これが、在庫節減の真の姿である。売上げ増大もなにもあったものではな
い。玩具業界の斜陽化は、出生人口の減少だけが原因ではなかったのである。
最近の大手のかなりの会社が、「売上げ増大よりも在庫減少の方が大切なのだ」と、皮肉
りたくなるのである。
特に、経理という人種は、事業経営などまったく知らず、数字だけ見て、あれこれとトン
チンカンなことを言う人種である。その武器は資金― それで営業、購買、製造などとの間
にトラブルを起こし続けておきながら、他の部門のことなどうるさいとばかりに無視しよう
とする。会社をあげて、資金トラブル集団となっている。
これらのトラブルは、資金運用を知り、目標バランスシートによる月一回のチェックで、
ほとんど解決する性格のものである。
だから、少なくとも管理職以上は、資金運用の常識を知っている必要がある。
一倉式経営計画書のなかには、資金運用計画と、これの見方、使い方などが織りこんであ
るのだ。これで、資金音痴は解消するのである。
資金とは何か
「資金、資金」と言うけれど、資金とはいったい何をさすのだろうか。
資金には、いろいろ難しい学問的な定義づけがあり、狭義の資金とか広義の資金とか、や
やこしくていけない。
事業の経営にはク資本″
、つまリクもとでクが必要である。その資本には、二種類あると
考えればよい。ク非現金資本クと″現金資本クの二つである。
非現金資本は、固定資金がその代表である。そして、現金資本がここでいう資金であると
考えればいい。
事業活動は、ク取引クによってなりたつ。その取引は、最後には現金によって決済される。
決済のための現金が不足し、支払手形を落とせなければ、その瞬間に会社はつぶれてしまう。
その意味では、損益よりも重要なものが現金、つまり資金なのだ。
その大切な資金がどうなっているのか、どうなるのかということになると、のらりくらり
として全くつかみにくいのである。
というのは、資金は現金収支という単純な動きではないからだ。たえず現金以外のものに
姿を変え、現金以外のものから現金に姿を変える。
その、のらりくらりの現金は、損益勘定の現金収支もあれば、損益勘定以外の現金収支も
ある。だから、儲かっているから資金繰りが楽というわけでもなく、赤字でも資金繰りがそ
れほど苦しくない場合もある。実例で考えてみよう。
M社は、二十人ほどの小企業である。ある年にとつぜん業績が好転し、三千五百万円ほど
の経常利益がでることが、概算決算で分かった。
いままでは、せいぜい百万円か二百万円程度の経常利益しかだしていなかったのである。
この好調に大喜びの社長は、いままで我慢に我慢を重ねてきた懸案の設備投資を三千万円
ほど実施した。
儲けの全部に近い金を設備に投じて、来期の大躍進を期待したのである。とたんに資金繰
りが大ピンチに陥った。設備投資の決済は現金三千万円ほどと、残額は五カ月の割賦手形だっ
たのだ。
社長は、「経常利益以内の設備投資で、こんな資金不足が起こるはずがない。損益計算が
間違っているに違いないから、やり直させる。間違った損益計算を信じて、とんでもない目
にあった」と言うのである。
M社長からの相談を受けた私は、逆に社長の思い違いを説明するところからはじめなけれ
ばならなかった。
「経常利益とは、それが現金で残ったということではない。経常利益とは、税法で定義づ
けられた総収入から、総支出を引いた差額であること。その差額のうち、現金は、バランス
シートの現金金額だけである。
それ以外は、借金を返したり、在庫に化けたり、売掛金として未回収であったり、受取手
形という紙片になったりしている。そのほか設備投資や保証金、投資など、様々に形を変え
てしまっている」と、繰り返し説明したけれど、M社長はよく分からないらしい。仕方がな
いので、単純な例で説明した。
「M社長が自分の金を百円もっていた。その百円で商品を現金買いし、それを、ある人に
百三十円で売った。しかし、売上げ代金は給料日に支払ってもらうという約束で、まだもらっっていない
この場合の損益計算は、
訃卜酬― 書>訓= 引」財
〓oコー8oコ= ∞oコ
となる。
たしかに二十円儲かっている。しかし、現金は一文もない。そして、貸金が百三十円であ
る。このように、損益と資金は一致しない。
これが最も普通の状態の一つである。
このような財務の状態を表わすものが、損益計算書と貸借対照表である。それを決算書で
は、次のように表現する。
本当の決算書は、こんな簡単なものではないが、原則はまったく同じなのである― ‐とい
うような私の説明で、社長はやっと利益と資金は一致しないことを理解した。
もっと極端な例がある。ある三十名ほどの小企業で、新考案の遊戯機械が大当りをし、食
うや食わずの会社が一挙に一億五千万円の経常利益をあげた。
この利益を、決算調整で大部分を翌期に繰越してしまった。その翌期がまた好調で、
二億五千万円の経常利益をあげられることが、決算のニカ月ほど前に分かったのである。
前期からの繰越しとの合計で、何と四億円という途方もない黒字なのである。
こんな巨額の利益を、調整で繰越すことなどできない。どうしたらいいか、というのが私
への相談である。冗談じゃない。 一倉は税理士でもなければ、脱税コンサルタントでもない
のだ。
試算表を見ると、銀行との貸借関係は、定期預金二億円、長期借入金一億円である。膨大
なのは棚卸資産である。これはリース業の宿命である。棚卸資産には、稼働中のものと、旧
型品を引き取ったものとある。
四億円の経常利益をだした時の税金は、法人税四〇%、地方税一五%、ほかに予定納税
二〇%の八千万円で、計二億円の資金が必要である。
何とか利益を減らす工夫をしなければならない。ただし、脱税してはならない。
まず第一に、旧型品の処分である。これをバラして使える部品を使うなんてことはやらず
に、全部廃棄処分だ。それも、必ず税務署員の立ち会いのもとに行うこと。
次に、苦労している社員に、決算以前に特別賞与をだす。さらに、本社社屋や工場の要補
修個所の補修も決算前にやる。社長の乗用車はベンツにでもかえる。
その他の車輌も買い替えだ。設備、機械、その他減価償却のきくものは、月割りで減価償
却ができるから、決算期内に買うこと。
あとは税理士と相談して、節税できるものは不良資産などの洗い落しをせよ― ‐というよ
うな勧告をした。しかし、いずれも泥縄式であり、あまりほめられたやり方ではない。利益
の減額は、せいぜい三千万円か四千万円である。
社長は、私の話をきいて半狂乱の状態になってしまった。命を削るような苦労の連続で、
やっと手に入れた利益に対して、こんなにも多額の税金と予定納税が課され、合わせて二億
円の資金が必要だというのだからムリもない。ただし、予定納税は税金の先払いだから、来
期にはそれだけの納税額が減る。しかし、来期に発生した利益には、予定納税を払わなけれ
ば
な
ら
ない
酷税国日本の面目躍如たるものがある。シンガポールは、すべての税金で三三%(一九九六
年)だ。香港などは、もっと低い。
閑話休題。
この結末はどうなったかというと、資金運用計画のお陰で、ピンチを乗りこえたのである。
何といっても、会社自体が高収益というのだから、乗りきれるのは当り前なのである。
資金のややこしさと難かしさは、右の例でもお分かりいただけると思う。といっても、資
金運用表を理解してさえいれば、資金はそれほどややこしいものでもなければ、つかみどこ
ろのないものでもないのである。
資金の実態を知っている限り、その難かしさはク赤字ク以外にはないのである。赤字だけ
は、それがある限度を越してしまえば、どうにもならないものなのである。
それなるがゆえに、資金運用といい、資金繰りといっても、それをうまくこなす大前提は、
ク利益クであることを忘れてはならないのである。
右のような大前提に立った上で、資金の実態の解明に入ることとする。
固定資金と運転資金
資金には二種類ある。固定資金と運転資金である。
固定資金というのは、ク非運転資金クの総称であって、固定されていて動きのとれないも
のではない。動きはあるが循環がないだけである。具体的に何をいうかは、後に説明をさせ
てもらうとして、この段階では ク運転資金でない資金クとだけご記憶しておいていただき
では、ク運転資金″とは何であろうか。たくさんの社長にこの質問をしても、「こういう資
金……」という程度のことは分かっておられるのだが、明確な答えは返ってこない。文献を
見ても、 ハッキリと表現したものはきわめて少ない。ただ何となくク日常の活動に必要な資
金クというように考えている。
私の定義づけも、 一応は右の解釈と大同小異である。それは、「経常活動に繰り返し必要
とする資金」というものである― ‐明確な定義づけは後にしていただきたい、ドンピシャの
説明をいたします。
資金運用とか資金繰りというのは、 一口でいえば「必要な資金を調達する」ということで
ある。
資金運用では、必要な資金をク資金の使途クといい、その資金源を″資金の源泉´という。
● ク使途クというのは、「バランスシートの、どのような勘定科目にいくらの資金がいるか」
という意味であり、
● ク源泉クというのは、「必要な資金を、バランスシートのどんな勘定科目で、いくら
賄うか」という意味である。
金融機関では、使途のことをク運用クといい、源泉のことをク調達クといっている場合が
ある。
さて、ここに、″勘定科ロクという言葉がでてきた。とすると、固定資金も運転資金も、
勘定科目で表現できないか、ということになる。
その通り、固定資金も運転資金も、すべてバランスシートの勘定科目で表わすことができ
るのである。
では、どの勘定科目が固定資金で、どの勘定科目が運転資金なのか、さらにどの勘定科目
が使途で、どの勘定科目が源泉なのだろうか。
勘定科目といえば、バランスシート(貸借対照表)ということになる。ここで話をバラン
スシートに移すこととする。
バランスシート⌒貸借対照表)
バランスシートというのは、ある時点、つまり月末、期末における財務状態を表わしたも
のである。〈第29
表)を参照しながら、読んでいただきたい。
バランスシートは右と左に分かれている。左側が資産(つまり財産)、右側が負債および
資本(借金と元手)である。
左側の資産勘定は、大分類で二つになる。流動資産と固定資産と繰延資産である。
右側の負債および資本勘定は大分類で四つになる。流動負債、固定負債、引当金、資本金
である。
右のことを確認したら、バランスシートを〈第29表〉のAI B線で上下二つに分けるので
ある。上の部分は流動資産と流動負債、下の部分が固定資産、繰延資産、固定負債、引当金、
資本金である。
二つに分けた上の方が運転資金勘定であり、下の方が固定資金勘定である。
ここで、初めて運転資金と固定資金の明確な定義づけができるのである。
つまり、
「運転資金とは、流動資産勘定と流動負債勘定の資金である」ということになる。
「固定資金とは、固定資産勘定、繰延資産勘定、固定負債勘定、引当金勘定、資本金勘定
の資金である」と定義づけできるのである。
運転資金と固定資金の定義づけはできた。では、使途と源泉の定義づけはどうなのかとい
うことになる。これは、きわめて簡単である。
バランスシートの中央を左右に分けるCID線の左側の資産勘定全部が使途であり、右側
の負債および資本が源泉である。
したがって、流動資産は上の部分の左側にあるからク運転資金の使途″であり、右側にあ
る流動負債はク運転資金の源泉クということになる。
売掛金が増えれば、その分の資金が不足する。受取手形をもらえば、その分だけ現金が入
らないから、何かでこれを補わなければならない。棚卸資産が増えれば、その分の在庫資金
が必要であり、前払金や仮払金は、その分の資金を食う。だから、流動資産は資金の使途で
ある。
支払手形を振出せば、その分、資金が助かるから、資金の源泉である。
買掛金は、支払うまでは現金はいらない。短期借入金は、文字通り借金による資金増加だ。
未払金はまだ資金はいらず、前受金や仮受金は借金の一種である。だから、流動負債は、資
金の源泉なのである。
固定資金についても、まったく同じことが言える。つまり、固定資産と繰延資産は、ク固
定資金の使途クであり、固定負債と引当金と資本金は、″固定資金の源泉クである。
たとえば、ベンツを一千万円で買い、これを全額銀行からの長期借入金一千万円で賄った
時は、固定資産の車輌運搬具が一千万円増加し(バランスシートの左側)、固定負債の長期借
入金が一千万円増加する(バランスシートの右側)。こうして、左右がバランスするのである。
つまり、「資金運用とは、バランスシートの左右の金額を同時に同額だけ変えることと見
つけたり」と、表現することができるのである。
言いかえると、バランスシートとは、勘定科目の残高(帳尻)のことである。
以上で、資金に関するひと通りの説明を終ったことになり、次には、いよいよク資金運用
計画″に入ることとする。
資金運用計画をたてる
資金運用表
資金運用とバランスシートとの関係は分
かった。それでは、資金運用表とは、どん
なものであり、バランスシートとどこでど
のように結びついてゆくか、ということに
なる。
〈第30
表〉が資金運用表のブランク(様
式)である。ご覧のように、マトリックス
(ク田クの字)になっていて、四つの区分が
ある。上半分が固定資金、下半分が運転資
金、右半分が使途、左半分が源泉である。
資金運用表とバランスシート〈第29
表〉
を比較すると、上段と下段が互に逆になっていることに気づかれると思う。
なぜこんなことをするのかというと、固定資金は動きが少なく簡単であり、まずこれを片
付けてから運転資金に移る方が、やりやすいためである。
固定資金の使途
資金運用表の記入順序は、固定資金から始める。まず、どんな固定資金がいるか― うま
り、使途である。〈第30
表)の右上の①の部分である。次は、その資金を何で賄うか― う
まり源泉で、②の部分である。
ついで、運転資金の使途=③の部分、最後に源泉=④の部分である。
記入法は後述するとして、その前に資金運用表とバランスシートを見くらべていただきた
〈第31表〉は、バランスシートを資金の区分によって表示したものである。
資金運用表〈第30
表〉の①は、″固定資産の使途クであるが、バランスシート〈第29表〉
の固定資金の使途は、左下の固定資産と繰延資産の部分に当る。そこで、この部分を資金運
用表の資金区分の記号①で表わしてみる。
同様にして、固定資金の源泉は、バランスシートの下の部分で、これに②の記号をつける。
左上の流動資産は運転資金の使途であるから③、右上の流動負債は運転資金の源泉であるか
ら④の記号をつける。
ここで、〈第30
表〉の資金運用表をク逆さクにしてみよう。これと〈第31表〉の資金区分
によるバランスシートを見くら
べて、それぞれの区分記号の位
置を見よう。全く同じ位置にあ
ることに気づかれるであろう。
これを見てお分かりいただけ
たと思う、バランスシートを逆
さにしたものが資金運用表であ
ることが。
この資金運用表を使って、資
金運用計画(第32
表参照)をつ
くるのである。
資金運用計画
まず、固定資金から始める。まっ先に、そして絶対に確保しなければならないのが、固定
資金余裕である。これが資金運用のクイロハのイクであると同時に、ク土台クとなるもので
ある(土台の下にあるク基礎クは利益である)。
もしも、固定資金余裕がク赤クになれば、この分が運転資金に喰い込んで、運転資金を圧
迫し、資金繰りをピンチに追いこむのである。
固定資金余裕を確保する道は、 一つは使途の制限であり、もう一つは源泉の獲得である。
使途の方から見ていこう。
前期利益金処分と当期予定納税で、前期経常利益の実にク四分の三クがもっていかれるこ
とに気づかれるであろう。しかも、経常利益の大部分は、現金以外の何かに形をかえてしまっ
ているのに、前期利益金処分と当期予定納税は全額現金なのである(ただし、前期予定納税
分だけは差し引かれるが……)。だから、もしも利益をほとんどだしていなかった会社が、
とつぜん大幅な経常利益をだすと、予定納税がないために、この資金負担が全額かかってき
て、資金繰りが急に苦しくなるのである。 一見はなはだ不思議なことが起こるのは、こうし
た理由によるものである。
次は、長期借入金返済である。これは、前期までの設備投資の夕尻拭いクである。放漫な
設備投資をすると、それを何年にもわたって返済しなければならず、長期の固定資金の使途
として資金繰りを苦しくすることになるのである。私は、中小企業が設備投資の返済に十年
以上も苦しんでいる例― ‐十年ですぞ― ‐をいくつも見ている。いくら資金運用に暗い社長
であっても、社長は真面目に、しかも懸命になって働いているのだ。社長の苦しい毎日を見
せつけられる私は、この酷税を何ともできない、というよりも、考えてもみない政治家や官
僚の、あまりの無情な仕打ちにハラワタの煮えくり返るような憤りを覚えるのである。
これらの借入金返済は、まったくの統制不能費である。
といって、設備投資を控えれば、競争に敗れてしまう。
ある社長は、私とともに資金運用計画をつくった時に、「何が何でも経常利益目標を実現
しなければなりませんね。資金運用計画で決意を新たにしました」と、語ったのである。
そうは言っても、多くの場合に、経常利益目標は意欲的なものだけに、実績が目標を下回
る公算が大きい。
その備えをするものが、長期借入金である。
だから、たとえ、自己資本で賄える設備投資であっても、それはクッションと考えたほう
がよい。そして、長期借入金で設備投資をすべきである。もしも、長期借入金がダメなら、
外注政策に切り換えるべきである。
外注政策を計画的に行うことによって、資金のユトリを手に入れることができるからであ
る。
外注を円滑に行うための政策については、前述のように、拙著『増収増益戦略篇』を研究
されることをおすすめする次第である。
資金の使途と源泉とは、このような相関関係があるのだ。左側の源泉が足りなければ、そ
れと同額だけ、右側を削らなければならず、右側の設備投資を行いたいなら、その分だけ左
側の源泉を確保しなければならないのである。それが資金運用というものである。この原則
を守らないと、そこには夕破綻クが待ち受けているのである。
ある大手の流し台メーカIS社の倒産が、その実例である。S社のステンレス製の流し台
は、住宅公団などの指定を受けて、急速に売上げを伸ばした。しかし、売上げを伸ばすこと
のみに腐心して、資金運用を無視したのである。
次から次へと工場を建設していった。それは、常識をはるかに越えるスピードで行われた。
土地を獲得し、工場を建て、機械を購入して、シャニムに増産を行った。はじめのうちは
金融機関から資金提供を受けていたが、それでは追いつかなくなり、長期資金の裏づけのな
い設備投資という、まったくの無謀を強行したのである。
長期借入金ならば、五年とか十年とかの返済であり、ある程度返済すれば、新規借入を起
こすこともできる。しかし、長期借入もないのだから、設備支払いは手形に頼るしかない。
まさか五年とか、十年とかの割賦手形というわけにはいかない。せいぜい、二年か三年で
ある。この手形の決済によって、固定資金が大幅に赤字となり、これが運転資金を大きく圧
迫したのである。
その運転資金も、売上げの急増にともなって急増したのだから、たまったものではない。
ついに、資金ショートを起こしてしまったのである。当時のS社長が、もしも資金運用を知っ
ていたならば、あんな無謀は絶対にできなかったはずであるし、外注政策に切り換えて設備
投資を大幅に減少することもできたであろう。
統制不能費
ここで、固定資金の使途について考えてみよう。
① 前期利益金処分(法人税等、配当金、役員賞与)
② 当期予定納税
③ 長期借入金返済
“ 当期設備投資
6 その他
のうち、配当金、役員賞与、当期設備投資は統制可能だが、それ以外の資金は、「当期では
統制できない資金― うまり当期統制不能費」である。
だから、もしも、何らかの理由で、固定資金不足― ‐最も多いのは、当期経常利益である
― ‐の時には、統制可能費を削る以外に方策がない…という厳然たる事実を、よくよく心得
ていなければならない。
S社の場合にも、資金繰りが苦しくなった時、いや資金繰りが苦しくなると判断した時に
は、設備投資を断念するよりほかに方法はなかったのである。
しかし、悲しいかな、S社長はこれを知らなかったために、倒産の悲劇を引き起こしてし
まったのである。
論より証拠、倒産して、その再建の過程で設備投資を中止したら、簡単に黒字転換してし
まったではないか。
資金音痴の恐ろしさを、我々は他山の石として、S社に学ばなければならないのである。
固定資金についての基本的な認識を、結論的に表現すれば、
① 必要な固定資金余裕を、資金運用計画の時点で絶対に確保すること
υ 経常利益目標の不達成に備えて、必ずクッションを設けておくこと
ということになる。
運転資金についての検討は、 一口に言えばク回転率の向上クである。それは、何といって
も使途の回転率の向上であって、これが向上すれば、源泉の方は自然に向上する。
資金運用の計算では、「過去の実績に従えばどうなるか」ということが一般に行われてい
るようである。このままを計画とするのでは、それは計画ではなくて、成行きまかせにしか
すぎない。これを、どう変えて資金効率を高めるかが、計画なのである。そして、それは同
時に、新しい″意思決定クである。
L社は、従業員九百人の自動車販売会社である。例によって、経理と営業で資金に関する
言い合いである。
「お互に、自分に都合のいいことばかり言っていても仕方がない。会社全体で資金がどう
なっているのか、どうしたらいいのか――を検討すべきだ」という私の勧告にしたがって、
資金運用予測表を作ってみた。受取手形と売掛金が大きい。
受取手形の残高が二十一カ月である。その時の業界の平均は十六カ月であった。受手のサ
イトが長いのは、社長の方針として、「受手のサイトは長くともよいから、売上げを伸ばし、
占有率を高める」ということになっているからで、いたし方ないかもしれないが、
「社長の方針にのっとって、その上で二十力月にすることはできないか」との私の設間に
対して、営業所長たちは、
「それはできるかも知れない」という見解を示した。
そこで、もしそうなった時、 一期間(六カ月)でいくらの金利負担が軽くなるかを、経理
担当者に計算してもらったら、約二千万円だという。
「それでは、受手一カ月分と同額の売掛金を減少できるか」と聞いたところ、
「これは、受手よりやさしい」というのが大方の意見だったのである。
これができれば、さらに一週間二千万円が浮く。計四千万円という金利負担の軽減である。
これはは
_」_
ノヽ
き
い
私は、利益というものは、売買だけでなく、資金運用によってもあげられるということ、
そして、それは心掛け次第であることを説明した。
どんな会社でも、右の例のようにいくとは限らない。特にルートセールスでは、相手方の
手形のサイトが決まっている場合がほとんどであるばかりか、ともすれば長くされやすいか
らである。
だからといって、クあなた任せクでは、いつまでたっても運転資金の効率はよくならない。
私も、かつて会社に勤めていた時に、資材課長をやらされたことがある。その時に、支払
い条件をうるさく要求される会社には、どうしてもよい支払いをし、何も言わない会社には、
「あの会社は何も言わないから…」と、うるさい会社でよくした分のシワよせをしたもので
ある。
だから、根気強く支払い条件の改善を、お得意様に要求すべきである。うるさく言って、
きらわれやしないか、営業に差支やしないか、というような弱気ではダメである。たとえ実
現しなくとも、言うべきことは堂々と言ったほうがよいのである。
特に、売掛金の回収については、受手と違って、努力によってよくする余地がある。大き
な会社は銀行振込が多いから、回収費はかからない。小さな会社ほど回収費がかかり、しか
も割高になるのだ。この意味でも、小さな売上げは効率が悪いのである。
それでも、回収されればいいが、集金せずに放置される場合が多い。「忙しい」というの
がその理由である。しかし、本音は「面倒くさい」からである。どんな小さな売上げにも熱
心なセールスマンが、代金回収となると面倒くさいというのだから困る。
売掛金の回収については、厳しくやるほかに、うまい手はないらしいのである。
受取手形、売掛金、棚卸資産の三つについてどのように管理してゆくかは、改めてふれる
こととして、運転資金の源泉に移ろう。
支払手形と買掛金の管理については、それぞれの回転率から計算された数字を検討するこ
とになる。買掛金は、放漫仕入れを別にすれば自然発生的に増減するのであるから、そのま
まの数字を使えばよい。
支払手形については、その回転率が受取手形回転率より低いということは、我社の業績が
振るわず、支払いが悪いということを意味していることを知らなければならない。
割引手形については、割引枠のなかに納まるかどうかを検討する。枠のなかに納まらなけ
れば、枠の増大を銀行に交渉しなければならない。
短期借入金についても、借入れを銀行に交渉しなければならない。
割手、単名借入れ、いずれの場合でも、その見返りが必要である。その見返りの、まず第
一が固定預金である。固定預金は、割手と単名の三分の一以上の額が必要であろう。もしも
三分の一以下であれば、固定預金を増加させる必要がある。私が、「固定預金として毎月一
定額を預金する必要がある」と言うのは、何かの時に銀行から資金を借りやすくするためで
ある。
資金運用計画で、長期借入金や短期借入金がいくら必要であるかは分かる。しからば、い
つごろ必要か、ということになる。
これは、資金運用計画では分からない。資金繰り計画が、これを明らかにしてくれるので
ある。
目標貸借対照表
利益計画と資金運用計画を合わせて目標バランスシート(貸借対照表)〈第33
表〉をつくる。
この目標バランスシートこそ、経営計画のクまとめクである。「我社は、このような利益を上げ、
このように資金を運用し、その結果、このようなバランスシートをつくりあげる」という意
味である。経営計画は、この二つの関係を明らかにすることによって、はじめて完璧なもの
になるのである。
日標バランスシートをつくるには、まず四三二ページの資金運用計画〈第32
表〉の数字を、
すべて誤りなく〈第33
表〉のク期中増減″欄に転記する。
資金運用計画にあげられた数字は、期中に増加または減少する金額である。
だから、期首(前期末)の数字に、期中増減の数字を加えたり引いたりすれば、期末の数
字がでる。これが、ク期末目標バランスシート″である。
この場合に、資金運用計画の数字で、そのまま転記できないものがある。それは、経常利
益である。経常利益という欄はないからだ。
どのようになるかというと、損益計算書の通りに分解するのである。それは次のようにな
る
今、仮に経常利益を百万円とすると、
のようになって、引当金として一万円、法人税引当金として五〇万円、当期利益として
四九万円と二つに分解されて計一〇〇万円となり、バランスシートには、左記の二つの勘定
科目に記載される。
劇一 態 O PO+コ
謙滋劇一鮨や Ooo
+)鵬す」以 お〇
酬十 【〇〇〇
このように、経常利益は二つに分解され、それぞれの科目に記載されるのである。
もう一つは、期首の繰越利益であるが、これは期中に内部留保として繰入れになる。記入
法は、内部留保繰入が仮に一〇〇万円あれば、繰入金一〇〇万円と記入し、繰越利益金は当
期利益金△ 一〇〇万円と記入され、前期繰越利益金はゼロになる。言いかえれば、前期繰越
は当期に繰入れされてゼロとなり、当期利益は繰越金一〇〇万円と当期利益を加えたものに
なる。
これで、期中増減の左右の合計金額は同額になる。同額にならなければ、期中の数字のど
こかに誤りがあるのだから、計算をやり直せばよい。これで、期末目標バランスシートがで
きあがつた。あとは、これの期首と期末の比較財務分析をするのである。
今、世の中にある財務分析はすべて過去の数字の分析である。このような未来の数字― ‐
未来のバランスシートによる未来の財務分析など、多くの人々にとってまさに前代未聞であ
ろう。
すでに述べたように、会計学は過去の数字に関する学問であり、経営学は未来の数字を取
り扱うのである。
期中の総合管理
期中の総合管理には、目標バランスシートのク期中増減´欄を使う。ここは、前項の作業
ですでに用ずみの欄であるから、この欄いっぱいに短冊形に切った白紙を、上部だけノリ付
けし、貼っておく。
毎月、試算表ができたら、日標バランスシートの勘定科目に合わせて試算表の科目を統合
し、統合した数字を白紙に記入する。最上部には日付を書いておく。こうして、試算表の数
字を全部移し終ったら、試算表がバランスシートになってしまう。このバランスシートには、
期首、期中、期末の二つの数字がならんでいる。
判定の仕方はきわめて簡単、期中の数字が期首、期末の中間にあれば正常値、どちらかに
ハミでたら異常値である。その異常値が危険なものか、納得のいくものかということになる。
納得のいかないものは調べればよい。
棚卸資産だけは、実地棚卸をしなければ分からないから空欄にするか、期首数字を記入し
てカッコをつけておく。これは、実地棚卸まで待つのだ。
このチェックによって、異常値は必ず一カ月以内に発見されるというわけだ。
この期中欄には毎月一枚、 一年に十二枚の短冊が貼られることになる。だから、お望みの
月の数字がいつでも見られ、しかも、それがどう変わっているかまで分かるという便利なも
のなのである。
試算表というものは、どこの会社でも毎月つくられて、社長や役員のところへ配布される
が、この試算表から何かつかみとることは、絶対にできないのである。できたら、神様であ
る。誰が見ても、何もつかみとることができない試算表を、毎月配布するという誠に奇妙な
ことが行われている。何もつかみとることができない、その理由は、試算表の数字を計るク物
差し″がないからである。
この、何の役にもたたない、何も分からない試算表が、目標という物差しをつけたとたんに、
明確に事態を浮かびあがらせ、対策や指令を次々と生みだしてくれるようになってしまう。
ハサミと試算表は、使いようでまったく変わってしまうのである。
資金運用で会社の安全をはかる
E社にお伺いした時に、まっ先に社長から資金繰りの苦しさを訴えられた。
「会社は業績が順調で、何年も赤字になったことがないのに、毎月、経理から資金繰りの
苦しさを訴えられる。私は資金繰りのことがよく分からないので、経理の言う通りを信ずる
よりほかないが、どこかおかしいのではないかと思っている。 一倉さん、この点をよく調べ
てください」というお言葉である。
前期の決算書を見せていただくと、むしろ高収益で、しかも固定預金が一億六千万円ある。
それでいて、単名は一千四百万円しかない。長期借人も少額。そして、支払手形が異常に多
い。そのほかの数字はさておき、資金繰りが苦しいとは考えられない。
経理担当者に来ていただいて事情をきいたが、これには唖然とさせられてしまった。
彼は、父親に言われたことを忠実に守っていたのである。それは、「会社をつぶすのは借
入金である。しかも、金利を払わなければならない。だから、金利のつかない支払手形を使
いなさい」と教えられ、それを忠実に守っていたのである。
私は、支手の説明をしなければならなかった――支手で買う場合は、その品物の価格に必
ず金利分が上のせされていること。会社がつぶれるのは、支手が不渡りを起こすことによっ
てであって、支手を振出していなければ、借金だけでは会社はつぶれないということ― ‐を
である。借入金よりはるかに危険なのは、支手なのである。
さらに、E社の資金繰りを楽にするには、固定預金が十分あるのだから、これを担保にし
て借入れを行えば、預担だから金利はきわめて安いこと、支手の発行は極力押さえるのが正
しいことを教えなければならなかった。
資金運用で最も大切なのは、会社の安全を守ることである。
その最大のものは、支手の減少である。支手を減らすには、借入金を必要とする。借入金
を多くするためには、担保が必要である。
昔は、自然に担保が増えるようなシステムがあって、それを銀行が行ってくれた。
長期借入金はク両建クとして、借入金の三割を預金しなければならなかった。手形を割引
くにはク歩積みクとして、五%天引きであった。
このシステムは、自然に預金が増えるようになっていた。それを、どこかの観念論者が、「企
業の自由を束縛する」というようなもっともらしい理論をデッチあげて、このシステムを禁
止するという愚行を犯してしまった。固定預金さえも、同様な理由で禁止するという暴挙を
行って、企業の資本蓄積を阻害してしまった。
昔の三河商人や一般人は、ク天引きクを行っていた。「はじめに引き去らなければ貯まらな
い」ということを知っていた。
観念論をふり回すことしか知らない官僚や学者が、愚かにも支手を増やして健全経営を妨
害しているのである。
歩積み、両建、固定預金こそ、企業の安全を守るものなのだ。役人や学者は引っ込んでも
らいたいのである。
社長たるもの、行政指導など無視して、自らの意志で、長期的、計画的な蓄積を行うのが
正しいのである(銀行も、これを望んでいるのだ)。資本蓄積なくして、会社の繁栄はない
のである。
金利を下げるチャンスを見のがすな
固定資金の管理にもう一つある。金利の引き下げである。このチャンスは、向こうからやっ
て来る。これを提えるのである。そのチャンスがやつて来るのは、不況期の終りに近い頃で
ある。
不況期のはじめ頃は、余分な在庫のための資金の貸出しで金融は逼迫する。その在庫が次
第に整理されて、余った資金は銀行に返済される。銀行は、次第に資金が余ってくる。これ
が、不況期の後半になると資金がダブついてくる原因である。
銀行は、余った金を遊ばせておくわけにはいかないので、株を買う。これが夕不況期の
株高クである。それでも、まだ金が余ると、今度は取引先に貸付けようとする。当然、金
利は低い。
この低い金利の金を借りて、金利の高い時に借りた金を返済するのである。なかには、金
利の高い時に借りた長期借入金を、安い金利で借りた資金で返済し、新たに低い金利で長期
借入金を借りるという豪のものもいる。これに対して、銀行側は損を承知でオーケーするこ
とが多い。それは、ダブついた資金を減らすほうが優先するからである。これをやらないと、
各店は本店から叱られる。
このチャンスを逃してしまう会社は、決して少なくない。そういう融資の話は、多くの場
合に経理担当者のところへもちこまれる。どこも同じ金余りだから、経理担当者は、「うち
も資金が余っていますから」と断わってしまい、社長には、報告しないので、当然のことな
がら社長は何も知らずにいる。
こういうことは、金融緩和時にしか起こらないのだから、早目に経理担当者に、「銀行か
ら融資の話があったら、断わらずに必ず社長に報告せよ」と言っておけばよい。
少しばかりの金利を稼ぐのに、そんなことをしなくとも……と思われるかもしれないが、
金利の多少の問題ではなくて、経営者の姿勢の問題である。極端に手間がかかるのなら話は
別だが、これは、それほど手間がかかることではないのだから、やるべきであろう。
もう一つ、せっかく銀行が頭を下げて来たのだから、これを断わるということは、相手の
立場を考えて、やるべきではない。次にこちらがお願いに行く時のことを考えなければなら
ないのである。
運転資金を管理する
運転資金は、常に社長のク頭痛の種クである。ほとんどの場合に、使途の増加と源泉の減
少という資金不足の方に傾くような気がするからである。
その資金繰りには、社員はまったくの無関心であり、経理担当者も不足額を報告するだけ
という具合になっている。社長の孤軍奮闘というのが一般的に多い。
社長のこの孤軍奮闘を解消し、社員にもそれなりに管理させたいというのが、社長の気持
ちである。それには、どうしたらいいのだろうか。
ここに、バランスシートが登場して、その期末目標を使うのである。運転資金の三羽鳥で
ある受取手形、売掛金、棚卸資産の目標数字を夕運転資金の残高目標クとして、各部門に割
付けるのである。
(第34表〉がそのフォームである。この残高目標を、ク月商対比クで設定する。なぜかとい
うと、月々の売上高が違うからである。売掛金は、売上高に比例して増減するのだから、絶
対額で云々するのは誤りで、回転率という物差しを使えば、売上高の変動に応じた目標が計
算できる。
しかし、回転率では計算がややこしくなるから、これをク売上高目標の何力月分クという
表現に変えれば、誰でも簡単に計算できる。
たとえば、売掛金回転率の目標が、目標バランスシートで八回転ならば、十二カ月で八回
転だから、「月商のT 五カ月分」というように表現するのである。何と簡単なことではない
か。それでいて、その目標は、経営計画書から自然に導きだされた目標である。これで、日
標が飾りものでないことがご理解いただけたと思う。
しかし、これは基本であって、実用的にはもう一歩を考えるべきである。
というのは、得意先によって手形のサイトが違うことである。これは、お分かりいただけ
ると思うが、蛇足を加えれば、得意先の支払い実績を計算しておき、これを使って目標設定
すればよい。面倒くさいようだが、これで一年間使えるのである。
ここでもう一度、資金運用計画を見直していただきたい。固定資金と運転資金を合わせて
三十ほどの勘定科目に分かれているが、社長と経理担当者だけでは絶対に管理できない科目
が三つある。経常利益は別にして、受取手形、売掛金、棚卸資産の二つである。この二つは、
全社員の一挙手一投足によって、時々刻々に変えていくしかない。
それを管理するのが、運転資金残高目標〈第34表〉である。
これは、部課長が管理すればよい。このように、売上高を基準にしておくと、異常値がで
た時にすぐ分かる。ここが大切なところなのである。
異常値というものは、悪い異常値だけではない。好もしい異常値もあるのだ。
好もしい異常値をどうするかということこそ大切である。つまり、異常値をさらに拡大す
る可能性を検討し、意見書をつけて社長に提出させるようにする。悪い異常値の場合には、
対策がとられているか、その対策に危険はないかを検討させるのである。
これが、すべての危機管理の要諦である。危機は、常に社長や部長より、課長、係長のほ
うが早く発見するからである。これは、すべての部門でも同じことが言えるのである。
最後に残ったク与信管理″も例外ではない。それは、〈第35表〉のようなものを使って行
うのである。
まず、与信限度であるが、これは別にク与信限度表クを作っておいて、これに基づいて必
ず社長自ら行わなければならない。あとは、営業の担当者が自らの分について自らが記入し、
評価を行う。評価は、絶対額よりも ク傾向クを重視するのが正しい。要注意は、いうまで
もなくク支払い状況の悪化クである。支払い状況の悪化については、必ずク資金繰りの実態ク
だけでなく、様々な角度から調べる必要がある。
それについての参考として、某鉄工問屋の社長自らの、三十年以上にもわたる血の出るよ
うな経験の集積から生まれた『与信管理マニュアル』(一倉定編『経営マニュアル実例集』の
②番 日本経営合理化協会刊)があるので、これを購入されることをお勧めする次第である。
支払手形をゼロにする
社長の最高最大の責任は、「会社を存続させる」ということである。これこそ、「社会に富
を貢献する」とともに、「社員の生活を守る」ことだからである。
会社を存続させるには、どうしたらよいか――それは、きわめて簡単、「支払手形を発行
しない」ということである。
だいたい、こんなものが堂々と通用するのは、世界広しといえども日本だけである。
支払手形が生まれたのは、日本が島国だからである。先祖代々同じ土地で生まれ、そこで
死んでゆく。逃げ場のないことが、手形なる妙ちきりんなものを生んだのである。
外国のように陸続きであれば、「逃げてしまえばそれまでよ」だから、現金決済である。
手形というものは、日先的にはきわめて便利である。 一片の紙片が、期限付きではあるが、
通貨の役割を代用してくれるからである。この便利さが、実はアダとなって、社長の姿勢を
崩してゆくのである。
その極限の悪は、融通手形である。いったんこの麻薬の味を覚えると、これからぬけだせ
なくなって、ついには会社をつぶしてしまうのである。
どうにもならない窮地に追いこまれたある小企業にお伺いして、試算表を拝見した時に、
ク金融手形クという科目にぶつかった。
念のために確かめてみたところ、ク融手クだという。もう一つ″当座借越クという科目があっ
た。この当時は、当座貸越はすでに禁止されていたのにである。
私が、「融手はやめて、銀行から借りなさい」と申しあげると、「銀行から借りると、返さ
なければならないから……」と言うのである。まったくあきれ返った話である。
この裏には何かあると感じた私は、お手伝いを辞退したのである。後で分かったことは、
この地域には銀行ぐるみの、しかも銀行が中心となった融手のネットワークができていたの
である。融手を発行しなければ、事業資金の調達ができなかった。銀行の身勝手な政策が、
その地域の小企業の多くの社長の魂をメチャメチャにしてしまった罪は大きい。
ク住専´問題が大きく浮び上った時に、私がまっ先に思いだしたのは、この時の経験である。
「住専は悪くない」とは言わないが、その裏にある何物かによって敷設されたレールの上を
走らなければならなかったのではないかと思う。
バブルの狂乱時に、私は、関係している会社全部に対して、「この狂乱に、絶対に乗って
くれるな。もしも、これに乗るようなことがあったら、私は縁を切らしていただく」と、き
つく申しあげた。
私が心配したのは、バブルに乗って大儲けすることであって、深入りして大損を蒙ること
ではなかった。
たしかに、このようなブームに乗れば儲かる。「労せずして大金が儲かる」ことを、私は
恐れたのである。
いったん、この味を知ったら、面倒くさく、苦労が多い夕事業の経営´など、阿呆らしく
てできるものではない。必ず投機に走り、会社をつぶしてしまう。これを私は恐れたので
ある。
さいわいにして(いや、残念と申しあげるべきかもしれない。 一社だけ、小さな会社が数
百億の負債をかかえこんで倒産した)、多くの会社は安泰である。
逆に、バブルに動ぜず、黙々として努力を重ね、高収益をあげながら成長してゆく姿を多
く見せつけられている私である。
話を、支払手形にもどそう。
支払手形なんてのは、世界広しといえども日本だけである……ということは申しあげたが、
いったい支払手形に何のメリットがあるのだろうか。あるのは、ク短期的な資金調達″以外
に何もないではないか。しかも、銀行、取引先の信用を得ることはできないのである。
会社をつぶすただ一つの原因である支払手形を、ただ手軽な資金調達法だとか、便利だか
らといって、その裏にひそむ危険を忘れている。
会社の大ピンチ……それはある日突然起こるク受手の不渡リクである。もしも、それが多
額であった場合には、メインバンクの援助以外に助かる方法はないのだ。その時に、支手の
発行ゼロの会社と、多額な支手を発行している会社と、どちらが好意的な援助を受けられる
だろうか。
どんなことがあっても、会社をつぶしてはいけない社長は、平素から″支手ゼロ″の心構
えをもっていなければならないのだ。
そのことを忘れて、「手形は金利のつかない資金調達法である」と思いこんでいる社長が
じょうだん
いる。冗談じゃない。手形で買う物品には、必ず金利分が含まれているのだ。
だから、現金買いをすると「金利分を差し引かせていただきます」ということになる。
支払手形をなくしたメリットを、まとめ的に列挙してみると次の通りになる。
は 倒産する心配がなくなる。
② 銀行の信用が高まる。
③ 仕入先の絶大な信用をかちとる。
④ 下請工場や下請業者(特に、建築関係など)の協力度が非常に高まり、製品や工事
に対するムリを頼んでも、ビックリするくらいの協力が得られる。これで親会社や施
主に信頼されるようになり、我社の無限の発展の土台となる。
⑤ 支手をなくした会社の社長は、「支手をゼロにすると、こんなにも気が安まり、何
の心配もなく仕事に専念することができるようになる」と、口をそろえて言う。
0 社員は、社長の態度の変化を敏感に感じとり、懸命に仕事をするようになる。
というように、いいことずくめなのである。
といっても、手形をゼロにすることは、まずは不可能に近い― というのは、無為無策の
社長が多いからである。
社長の仕事というものは、それが大切なことであればあるほど難しく、 一見不可能のよう
なことも多い。
支手をなくすこととて同様である。その難しいことを、工夫と計画と努力によって実現す
ることこそ社長の役割なのである。
では、支手ゼロ作戦について述べることとしよう。
まず、「手形のサイトを短くする」という作戦は実現不可能である。サイト四カ月のものを、
三カ月に短縮することを考えただけで、不可能なことはお分かりいただけると思う。
だから、ここに工夫と作戦、そしてメインバンクの存在とその協力が必要となってくる。
私はこの作戦をク裾切り法クと呼んでいる。
これを、モデル的に説明させていただく。
まず、得意先を、その取引高に応じて、A ・B 。Cの三クラスに分ける(むろん、四クラ
スに分けてもよい)。
① Aクラスは、大手または大口取引先で、このクラスになると、″現金払いクで金利分
だけ値下げしてもらおうという話をもっていっても、相手は絶対に納得しない。
現金で値下げを交渉しても、「現金だろうと手形だろうと、そんなことは問題じゃない。
売掛金の回収だけが問題なんだ」と、現金回収によるメリットなど、大手の担当者はまった
く考えてくれない。要は、回収金額にあるので、それが現金であろうと手形であろうと、そ
んなことは担当者にとってはどうでもよいことである。売上高と回収率以外には、たとえそ
れが会社にとって有利なことであっても、自分の手柄にならない限り、まったく関心を示さ
ない。これが大手の社員の態度であることを知っていると、便利なことがあるかも知れない。
まず、裾切り作戦で、Aクラスはその対象からはずすのである。つまり、現状通りという
ことである。したがって、裾切り作戦は、B 。Cクラスのみを対象とするのである。
② B 。Cクラスの支払い先に対しては、すべての支払い先に対して、まず、十万円の裾
切りして、これを現金払いとする(十万円以下の場合は、すべて現金払いの方に入れる)。そ
の残高は、支手払いとする。ニカ月日からは、十万円プラスして計二十万円を裾切りとする。
つまり、すべての支払い先に対して、一社当り十万円ずつ現金支払いが増えてゆくことになる。
この現金支払いは、新たな増加分なので、この計画の中で毎月計算し、銀行からク支払手
形ゼロ計画用´として別枠で借りるわけである。
むろん、″支払手形ゼロ計画クを銀行に予め提出しておき、了解をとっておく必要がある。
この金を借りることにより、支手の振出しが減ってゆくので、この分、資金繰りが楽になる
わけで、この計画終了と同時に支手はゼロとなってしまうのである。
それ以降の資金繰りは、支手決済がなくなり、それと同額だけ現金支払いが増えるという
ことになる。つまり、無事に支手退治ができたのである。
メデタシ、メデタシである。
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