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第六章 契約書のリスク

目次

第六章 契約書のリスク

  • 1.協議のうえ解決
  • 2.受発注書だけでの取引
  • 3.独占販売権の要求
  • 4.販売店契約なき事実上の独占販売権
  • 5.紛争処理条項

第六章 契約書のリスク

契約書は、とっつきにくいものだとか、契約書は、弁護士の専門領域で、特別な意味の言葉が数多く出てくるので、素人には無理だといった誤解をしている人が大勢います。

実は、そうではありません。

契約当事者が、契約書の内容に対して、同じ理解をしていれば、理解違いに起因するトラブルは起きないわけで、そのために、難解な言葉を使う必要はありません。

平易な、お互いに共通した理解のできる、用語を使えば良いのです。

もちろん、国際ビジネスには、国内ビジネスにない契約の条項がありますし、どうしても入れておかなければならない条項もあります。

契約書の基本は、学ぶ必要がありますが、恐れるに足りません。

契約書は、貿易をするのに、不可欠なもので、商談の集大成が契約書です。

ですから、契約書の基本を、知識として身につけておけば、商談を有利に展開することができるのです。

契約書は、営業マンが覚えておかなければならない、貿易の重要な基礎知識の一つです。

1.協議のうえ解決(1)問題輸出の主な取引条件が合意に達したので、契約書の各条項を詰める交渉をしています。

叩き台として使っている契約書(案)では、「船積み後一年以内に、買主が、商品に製造または引渡し以前に生じたと判断する瑕疵を発見した場合、買主は、売主に対してクレームを提起することができる。

クレームが提起されれば、売主と買主の双方は、直ちに協議のうえ解決する」となっています。

非常に、穏当な書き方で、特に問題ないと思いますが、如何でしょうか?(2)ヒント国際取引では、「協議のうえ解決する」は、「解決する方法を決めてない」ことを意味します。

「決めてない」ことを明記する意味は、あるのでしょうか? 「決めてない」などと書いたところで、意味があることとは思えません。

国内取引の契約書では、「当事者間で問題が起これば、速やかに協議のうえ解決する」という文言は、ごく普通に目にします。

それは、国内取引では、お互いに、相手が信頼に沿った行動を期待する「信義則」が、取引の大前提になっているからです。

単に、字面の上だけでなく、問題が起きてもそれを解決するための、民法や商法、裁判所といった、契約当事者に共通のビジネスインフラが整っていて、「信義則」による取引を支えているのです。

ところが、国際取引では、当事者に共通のビジネスインフラは、皆無とは言いませんが、国内ビジネスのインフラと比べれば、まだまだ雲泥の差です。

国際取引は、相手が信頼に背いた行動をするかもしれないことを前提として、その場合は、どうするかを契約書に盛り込む必要があります。

取引の大前提が違うのですから、契約書の書き方も、違って当然です。

それでは、「協議のうえ解決する」の代わりに、どう書けば良いのでしょうか?*参考参照先:『営業マンのための貿易実務』-「第九章 契約書の基礎知識」-「1.契約書とは?」-「(2)良い契約書とは?」-「②契約違反しにくい契約書作り」(POD版P235)(3)回答例

商品の瑕疵が原因で、買主が売主に対して、クレームを提起した場合、もちろんその瑕疵が、製造または引渡し以前に生じたものかどうかは、究明する必要があります。

そのうえで、売主の責に帰すことを確認した場合、「代替品を供給するのか」、「クレーム賠償金の形で金銭解決とするのか」、「当該商品を輸入した際に、買主が負担した関税や流通税は、どちらの負担とするのか」など、想定できる問題点について、それらの具体的な解決方法を、取り決めます。

単に、「協議のうえ解決する」と書くだけであれば、契約書に署名する段階では、お互いに揉めることはないでしょう。

ところが、契約交渉の時に、このように、問題が起きた場合の解決方法を、具体的に決めるとなると、交渉は、大揉めに揉めるかも知れません。

貿易では、先に大喧嘩して契約すれば、契約後は喧嘩の必要はありません。

しかし、「玉虫色で契約すれば、契約してから大喧嘩!」となるのは、約束されています。

交渉の時に、この箇所は双方の意見が一致しないから、どちらの見解にも解釈できるような玉虫色で書くのは、止むを得ないだろうと考えて契約すると、契約してから、必ずその部分で揉め事になります。

「協議のうえ解決する」と書くだけですと、実際には「協議しても解決できない」ことが、まま起こり得ます。

「協議のうえ解決する」で、問題を先送りにしないで、どうせ、喧嘩するなら、契約する前に思う存分やったうえで、契約しましょう。

2.受発注書だけでの取引(1)問題 長年に亘って、東アジアの国向けに、一回300万円程度のロットで、プラスチック原料を輸出してきました。

支払は、80%が前払送金、残額20%が、先方に着荷後、7営業日以内の送金支払条件で、正式の契約書は作らず、発注書と発注請書だけで、取引してきました。

今まで、何の問題も起きなかったのですが、もう船積みして2ヵ月にもなるのに、20%分の送金がありません。

送金を督促しても、「必ず払いますから」と言う返事がくるだけで埒があきません。

こういうことは、今回が初めてです。

どうすれば良いのでしょうか?(2)ヒント問題点の一つ目は、貨物代金の20%とはいえ、「代金回収リスク」を晒しながら、取引してきたことです。

問題点の二つ目は、もちろん、契約書を作っていなかったことです。

代金回収に失敗した場合、挽回策はなさそうですが、今後の貿易のやり方を考える契機にしましょう。

*参考参照先:『営業マンのための貿易実務』-「第九章 契約書の基礎知識」-「6.契約書の種類」-「(1)売買契約書」-「②基本契約書」(POD版P247)および「8.売買契約の一般条項(GeneralTerms&Conditions)」-「(1)個別契約書(IndividualContract)」(POD版P265)(3)回答例一回、300万円程度の取引なので、その20%は約60万円。

この金額では、裁判も商事仲裁も、全くの考慮の対象外です。

相手が払ってくれるように、辛抱強く督促するしか方法はなさそうです。

最悪、「泣き寝入り」も、止むを得ないと思われます。

本来であれば、リスクのある決済方法で取引する時は、㈱日本貿易保険の貿易保険にリスクをヘッジするのですが、保険求償をする際には、契約書のコピーが必要となります。

貿易保険を利用するためにも、契約書は作成しておくべきですし、保険云々の問題があってもなくても、契約書を交わして取引することは、「貿易の常識」です。

国内取引の常識の延長線上で、貿易しないように、しっかりと「貿易の基本」を習得して、取引するようにしてください。

3.独占販売権の要求(1)問題 香港の展示会で初めて出逢った香港企業と、「販売店契約」(DistributorshipAgreement)について商談中です。

その企業は、香港、マカオ、中国大陸とアセアン諸国を販売領域とする独占販売権を要求しています。

その香港企業と、まだ取引実績はありません。

さて、どう対応すれば良いでしょうか?(2)ヒント 独占販売権には、二つの種類の独占販売権があります。

どちらの種類の独占販売権を要求しているのかを確認しておきましょう。

独占販売権は、付与される側にとってみれば、「権利」ですから、ダメモトでも、ともかく要求してみる傾向にあります。

独占販売の権利を付与するのであれば、それに見合うだけの義務を課すべきです。

何を義務として課せば良いのでしょうか、考えてみましょう。

また、販売店契約では、販売領域を決めなければなりませんが、そのための前提条件は、何なのでしょうか? *参考参照先:『営業マンのための貿易実務』-「第十章 契約書の基礎知識」-「9.販売店契約書(DistributorshipAgreement)と代理店契約書(AgencyAgreement)」-「(3)販売権・代理権の種類」-「①販売権」(POD版P301)および「(4)独占権の要求」(POD版P303)(3)回答例独占販売権には、販売権を付与する側の元売・メーカーが、販売領域内で販売活動することができない、「排他的独占販売権」(Exclusive)」と、販売権を付与する側の元売・メーカーも販売領域内で、販売活動を行うこと

ができる非排他的な「独占的販売権」(Sole)の二種類があります。

元売・メーカーが、ネット通販で販売したり、官公庁向けの取引だけは直接行ったりするのであれば、契約書にその旨を明記して、後者の「独占的販売権」を付与します。

その必要がなければ、「排他的独占販売権」でも構いません。

何れにしても、契約交渉の最初の段階で、どちらの独占権を対象として交渉するのかを、はっきりさせておきます。

独占販売権を要求する側は、権利だけを求めがちですが、当然、「権利に見合う義務」を賦課しなければ、公平とは言えません。

独占権に見合う相手方の義務は、元売・メーカーからの最少購入数量や購入金額とします。

それに未達の場合は、未達分について罰金(ペナルティー)を課したり、あるいは元売・メーカー側の一存で、独占販売権を撤回して、通常の販売権とする条件を、契約に盛り込みます。

また、その企業が要求する販売領域については、香港、マカオ、中国大陸とアセアン諸国において、販売力のあることが、大前提となります。

その企業は、要求する販売領域内で、どの程度の「販売力」あるいは、その裏付けとなる「販売の仕組み」を持っているのでしょうか? それを納得させる資料やデータを見て、その販売領域で妥当か否かを判断します。

なお、海外企業は、本「問題」のように、いきなり独占販売権を要求してくることが多いのですが、「権利に見合う義務を賦課する」条件を提示すると、途端に独占販売権の要求を引っ込めるケースが少なくありません。

要は、権利だけ確保しておけば良いという考え方が、突出しているのです。

以上のようなことを考えながら、交渉してみては如何でしょうか?

4.販売店契約なき事実上の独占販売権(1)問題 韓国の企業(K社)が、10数年に亘って、弊社の商品を輸入して販売してくれていますが、通常の売買契約書は、その都度作ってきているものの、販売店契約書は交わしたことがありません。

韓国では、この企業だけに弊社の商品を販売してきました。

今まで、韓国の他の企業から「当社にも販売して欲しい」というアプローチは、何社かからあったのですが、お断りして今に至っています。

他社からのアプローチについては、K社との宴席の場などで、雑談の中の話の一つとして、話したことが何度かありました。

最近になって、K社の販売数量が増えないことから、韓国の他社にも販売する意向であることを、お話ししたら、K社は、「独占販売権」があると主張して、猛反対されました。

弊社としては、K社と「独占販売契約書」などを交わしたことはなく、また、口頭でも、独占販売権を与えると言ったことはありません。

それでも、K社の主張は通るものなのでしょうか?(2)ヒント 契約は、契約書があってもなくても、事実上、その実態があって、それを実行しているという事実があれば、当事者の双方が、それを認め合って合意しているとみなされます。

「契約書があれば契約がある」、逆に言えば「契約書がなければ契約がない」と考えがちですが、そうではありません。

「合意があれば契約がある」、「合意がなければ契約はない」のであって、契約書の存在は、単に「合意があることを念のため文書化したもの」に過ぎません。

ですから、「独占販売契約書」があれば、もちろん独占販売権を付与したことの証左となりますが、「独占販売契約書」がなくても、その実態が存在してきたのであれば、独占販売権を付与してきたと見なされる可能性があるのです。

特に、宴会の席とはいえ、他社からのアプローチがあって、それを断ったことを、K社に説明したことが、幾度もあるのであれば、それを以って、K社が「独占販売権を与えられている」と理解するのは、当然のことかと思われます。

日本側が、実態として独占販売権を与えたと同じ状況を作り出し、それをK社に説明し、K社もそれを受け入れてきた事実は、否定しがたいものです。

以上の前提に立って、今後の善後策を考えると、どうなるでしょうか?契約書を作っていない場合、本「問題」のようなことが、実際に起きます。

「販売店契約」の基本を学んでおきましょう。

*参考参照先:

『営業マンのための貿易実務』-「第十章 契約書の基礎知識」-「9.販売店契約書(DistributorshipAgreement)と代理店契約書(AgencyAgreement)」(POD版P297310)(3)回答例 K社が独占販売権を主張し、日本側がそれを示唆するような発言をしてきたのであれば、K社への販売を止めたり、K社以外の会社に販売したりすることは、当面、できそうにありません。

しかし、将来に亘って、販売店契約書がないまま、流れに任せていくことも、得策ではありません。

そこで、正式に独占販売権を明記した「販売店契約書」を結ぶように、K社に提案して、販売店契約の交渉に入るようにしては、如何でしょうか? 販売店契約書に規定する販売領域は、取引の現状を追認するしかないと思われますが、独占販売権の種類が、「排他的独占販売権」なのか、それとも非排他的な「独占的販売権」なのかは明確にしなければなりません。

できれば、後者の販売権であることをK社に認めさせたいところです。

そのほか、「売主と販売店との関係が、単に売主と販売店の関係に過ぎず、販売店は売主の代理人ではないこと」は、販売店契約書に入れなければなりませんし、商標の使用に関しても決める必要があります。

また、K社に対して、「最低販売数量(金額)や、それに未達の場合の措置を含む、「権利に見合う義務」を認めさせなければなりません。

そして、最も重要なことは、販売店契約書は、有効期限を定め、有効期限満了の3ヵ月前から、契約更改の交渉を行うこと、あるいは、当事者双方が、事前に異議をとなえなければ更新可能という条件を盛り込むことを定めておきます。

有効期間満了前3ヵ月から開始する契約更改交渉は、最初の契約書では、不完全な条項や修正すべき条項が出てくることが多いため、最初の契約書は期限満了で終結させ、更改した契約書から、自動延長条項にする方法が、双方にとって望ましい契約書に近づける方法であるからです。

こうした内容で、販売店契約書を正式に締結することによって、販売店規約書がないにも関わらず、少なくとも、未来永劫に亘って独占販売権を主張される事態は、回避することができるでしょう。

5.紛争処理条項(1)問題中小企業や零細事業者の場合、企業の体力からして、裁判や仲裁で闘えないということであれば、契約交渉の時に、売主の国か、買主の国かで、意見が対立しがちな「紛争処理条項」など、契約書に盛り込む必要がない気がします。

「紛争処理条項」は、契約書に絶対に必要な条項なのでしょうか? どうせ裁判や仲裁に持ち込まないということであれば、「紛争処理条項」は、入れなくても良いのではないでしょうか?(2)ヒント確かに、中小企業や零細事業者の場合、裁判や仲裁で、取引相手と闘うことは、非現実的であることは、間違いありません。

それでは、「紛争処理条項」が契約書にない場合、どのようなことが起きるかを考えてみましょう。

商事仲裁に訴えるには、当事者同士が、どこの仲裁組織に委ねるか、あらかじめ合意していなければなりません。

紛争が起きてからだと、お互いに自国の仲裁組織に裁定を委ねようとします。

ですから、紛争が起きてから、仲裁場所を合意して決めることは、無理なので、契約交渉の時に、「あらかじめ」、どこの仲裁機関で仲裁するかを決めておくのです。

それでは、契約書に、「紛争解決条項」がない場合、相手がこちら側を訴えようとすると、どういうことが考えられるでしょうか?*参考参照先:『営業マンのための貿易実務』-「第十章 契約書の基礎知識」-「1.契約書とは?」-「(2)良い契約書とは?」(POD版P233)および「8.売買契約の一般条項(GeneralTerms&Conditions)」-「(14)紛争処理(DisputeSettlement)」(POD版P285)(3)回答例契約書に、「紛争解決条項」がない場合、相手方が、裁判に訴えることが考えられます。

訴える裁判所は、自国の裁判所のこともあるでしょうし、日本の裁判所である場合もあるでしょう。

日本の裁判所に訴えて勝訴すれば、日本で強制執行できますから、絶対に勝訴すると相手が思えば、日本で裁判を起こすこともあり得ま

す。

相手が自国の裁判所に訴えた場合、日本側がそれを無視すれば、日本側に不利な判断が下されるでしょう。

そして、その国の裁判結果に基づいて、日本が強制執行できることになっていれば、相手が自国で裁判をしても、強制執行されてしまいます。

相手が裁判に訴えられなくするには、「この契約に関わるすべての紛争は、商事仲裁によって解決する」と契約書に記載することです。

これによって、相手が裁判所に、紛争解決の判断を委ねようとしても、裁判所は、契約書には、「すべての紛争は、商事仲裁によって解決する」と書かれているとして、「門前払い」をしてくれます。

つまり、裁判を起こさせないようにするには、紛争解決の手段として、契約書に商事仲裁を書いておくのです。

これによって、裁判所への道は、シャットアウトできます。

従って、「紛争処理条項」として「商事仲裁条項」だけは、裁判を排除するために、入れておかなければなりません。

問題は、どこの仲裁機関で仲裁するかです。

ここで、相手が自国の仲裁機関に訴えることができれば、相手国で、仲裁を闘わざるを得なくなりますから、「仲裁は日本で行う」ことを、商談時の最重要の条項として交渉します。

実際に、仲裁で闘う場合、どの国の法令に依拠して契約を解釈するかを定める「準拠法」の国と、仲裁を行う国は、一致させておく必要があります。

と言うのは、例えば、準拠法の国が相手先の国で、仲裁を行う国が日本であれば、日本で仲裁を行う際に、相手国の民法や商法を、日本語に翻訳するだけで、数百万円の翻訳代が必要となります。

ですから、仲裁で実際に「闘う」のであれば、準拠法の国と仲裁国は同一国にしておく必要があるのです。

しかし、中小企業や零細事業者の場合、「闘う」ことはできませんから、準拠法の国は、相手の国、仲裁国は日本とするといった、「たすき掛け方式」で妥結するように持っていくのが、交渉のテクニックです。

(記載例~日本商事仲裁協会の推奨文言~)「この契約からまたはこの契約に関連して、当事者の間に生ずることがあるすべての紛争、論争または意見の相違は、当事者相互の協議によって解決するものとする。

当事者相互の協議によっても解決することができない場合、日本国の社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って、日本国東京都(または大阪府)において仲裁により解決する。

仲裁裁定は最終的なものであり、各当事者に対して法的拘束力を有する。

 

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