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第五章 マネジャー自身も成長する!自己フィードバック・トレーニング

五章マネジャー自身も成長する!自己フィードバック・トレーニング

フィードバックの実力をつける二つのポイント

ここまで、フィードバックについて、さまざまなノウハウをお話ししてきました。

あとは、実践あるのみです! フィードバックは、「フィードバックする経験を重ねること」でしか上達しません。

フィードバックは「場数」です。

場数を踏んでいけば、説得力のあるフィードバックができるようになったり、急に激昂し始めた部下に対しても冷静に対応できるようになります。

部下の巧妙な言い訳や論理のすり替えにも翻弄されず、本質をついた鋭い切り返しができるようにもなるでしょう。

しかし、新人マネジャーやその予備軍の人の中には、いきなり実戦でフィードバックするのはちょっと不安……という人もいるかもしれません。

また、第一章でもお話ししたように、今のマネジャー層の中心である四十代は、そもそもあまり先輩や上司からかまわれずに仕事をしてきた世代です。

いきなりフィードバックしてみよう、と言われても、不安を覚えるのは当たり前です。

そういった人のために、本章では、自らのマネジャーとしてのフィードバック力を上げるトレーニング方法をお話ししていきます。

これから紹介する方法を、実際のフィードバックとセットで行えば、あなたのフィードバックの精度は格段に上がっていくはずです。

そのポイントは、大きく分けて二つあります。

「自分のフィードバックを観察する」ことと「自分自身もフィードバックされる機会を持つ」ことです。

「模擬フィードバック」で、自分のフィードバックを客観的に観察

フィードバックの力を磨くために必要なことのまず一つ目は、「自分のフィードバックを観察する」ことです。

私は、これまでいくつかの企業でフィードバックに関する研修をお手伝いしてきましたが、そこでも、自分のフィードバックを観察する、というエクササイズをいれています。

一般に、フィードバックは、一対一のブラックボックスな環境で行いますから、その様子を客観的に見てくれる人はいません。

ということは、あなたがどれだけ下手なフィードバックをしていたとしても、それを冷静に指摘してくれる人はいないというわけです。

プレゼンテーションでも営業でもそうですが、伝え方の腕を磨くためには、誰かに見てもらって指摘してもらうことが欠かせません。

そこでおすすめしたいのが、「模擬フィードバック」をすることです。

メンバーは、上司でも同期でもかまいません。

最低でも、自分ともう一人いれば OKです。

具体的には、上司役と部下役に分かれて、仮のフィードバックをします。

設定は、実際にありそうな話がよいでしょう。

そのとき、部下役の人は、わざと怒ったり、言い訳をしたりして、なるべく上司役を困らせてください。

そして、その様子をビデオカメラやタブレットなどで撮影するのです。

そして、勇気を振り絞って、その動画を見ましょう。

すると、上司役の人は、「なんかものすごく高圧的だな」とか、「早口で何を言っているのかわからない」とか、「目がキョロキョロしているし、手もせわしなく動いている……。

俺って、こんなに挙動不審なのか」と今まで気づかなかった自分の姿に気づくはずです。

それを踏まえて、自分の短所を改善していけば、部下の前でも堂々とフィードバックができるようになるでしょう。

フィードバックは、管理職にならないとやらないことなので、その一歩手前の人にこうした模擬フィードバックをしてもらうと、多くの場合、皆、口を揃えて「やって良かった」と言います。

ぜひ皆さんも、実践してみてください。

フィードバックを受けたことがない人に、フィードバックはできない

フィードバックの力を磨くために、もう一つ大切なことがあります。

それは「自分自身もフィードバックされる機会を持つ」ことです。

本章の冒頭でも少し触れましたが、今の三十 ~四十代に意外と多いのが、耳の痛いフィードバックをあまり受けずに、中間管理職クラスに上った人です。

それはそれで順調に出世してきたということで、喜ばしいことなのかもしれません。

しかし、それは、部下にフィードバックをするという観点から見ると、マイナス要素でしかない、と私は思います。

なぜかというと、フィードバックをあまり受けていない人には、フィードバックを受ける人の気持ちがわからないからです。

フィードバックされるときに、どんな言葉をかけられると、納得できるか。

どんなふうに言われると、カチンと来るのか。

地雷となるキーワードは何か。

フォローの言葉はかけられたいか……。

こうしたことは、自ら何度もフィードバックを受けていれば、ことさら意識しなくてもわかるものです。

しかし、その経験が少ないと、その勘所がわからず、相手の気持ちを逆なでするようなことを言ってしまいがちです。

もし、自分がフィードバックを受けた経験が少ないと感じているのならば、何らかの形で、フィードバックを受ける経験を積むことをおすすめします。

前述した「模擬フィードバック」でも、フィードバックを受けられる経験が積めるのですが、よりリアルな自分の日常的な行動に対するフィードバックを受ける方法もあります。

「アシミレーション」で、部下からのリアルな意見を引き出す

もしすでに部下がいるという人が、フィードバックを受ける経験を積むには、自分の部署で「アシミレーション」を行うのも、一つの手です(図表 20)。

アシミレーションは、もともと外資系企業で行われているフィードバックの手法ですが、最近では、日本企業でも取り入れるところが出てきました。

たとえば、インターネット大手のヤフー株式会社などでは「ななめ会議」という名称で実施されています(注 29)。

まず、管理職と、その部下全員、それにその場の進行を務めるファシリテーターを集めます。

ファシリテーターは、利害関係がなく、マネジャーと同格以上の役職にある、他部署のマネジャーに協力してもらうのがよいでしょう。

部下から厳しいフィードバックを受けたとき、マネジャーの気持ちを理解できる人がファシリテーターを務めた方が、精神的なフォローをしやすいからです。

その後は、次のような順序で進行します。

1.アシミレーション実施を伝え、上司は席を外します。

2.ファシリテーターは、その場にいる部下から、その上司に関する次のような意見を引き出して、ホワイトボードに書き出します。

・上司について知っていること ・上司に続けてほしいこと ・上司にやってほしいこと ・上司にやめてほしいこと 3.部下は退出し、ファシリテーターだけが残ります。

それと入れ替わる形で、上司が部屋に入室します。

4.上司はファシリテーターから、ホワイトボードに書かれた内容について、説明してもらいます。

5.最後に、全員が集まり、上司が部下全員の前で、出てきた意見を踏まえて、今後の行動をいかに変えていくか、コメントします。

以上のような方法なのですが、聞くだけでも、「これは厳しいフィードバックを受けることになるだろうな……」ということが、十分予想できるでしょう。

自分は大丈夫だと思っている人でも、「 ◯◯さんはすぐに人を否定する」などと思ってもいなかったことを指摘され、「えっ!?」となることは、よくあることです。

職位が上がるほど、人は周囲からあまり注意を受けなくなるので、自分がどう見えているのか、わからなくなるものです。

おそらく誰でもショックを受けると思いますが、それだけ、やってみる価値がある方法です。

スパイシーなフィードバックを受けたければ、マネジャー達よ、社外へ出よ

さらに、社内だけでなく、社外からもフィードバックを受ける機会があれば、それに越したことはありません。

社外の人の方が、普段接しない分、よりスパイシーなフィードバックをしてくれるからです。

あと腐れのない関係の人ほど、強烈なパンチをお見舞いしてくれるでしょう。

私が携わっている、北海道・美瑛町の「地域課題解決研修」は、まさに、社外の人から強烈なフィードバックが受けられる異業種連携型の合同研修です(図表 21)。

これは、三年前から、ヤフー、アサヒビール、日本郵政、テンプスタッフグループの四社が共同で行っている研修で、各社から、三十五 ~四十五歳の次期部長クラスの若手マネジャーが参加します。

研修の中では、彼らをシャッフルして、四 ~五人のチームを編成します。

そして、六カ月間で六回、旭川市の南にある美瑛町に集まり、この町が抱える、農業や教育、医療などの地域の課題について議論してもらいます。

その問題を解決する新規事業を考えて、美瑛町長・町民に提案します。

このように、地域の課題解決が目的のプロジェクトではありますが、もう一つ、リーダーシップ開発も目的としています。

その一環として行われるのが、チーム内の相互フィードバックです。

リーダーシップ開発で最も効果を持つといわれるのがフィードバックであるからです(注 30 )。

チームの中には、プロジェクトを推進していく途中で、さまざまなコンフリクトが起こっています。

地域課題解決というプロジェクトを舞台として、そこでどのようなコンフリクトがチームで生じるのかを振り返ったり、相互がリーダーとして発達するためのフィードバックを行ったりします。

六回集まるうちの、三回目と六回目に、一日かけて、チーム内のメンバーが相互にフィードバックを行います。

ここでのフィードバックはかなりスパイシーです。

チームメンバー同士、歯に衣着せぬフィードバックの応酬が始まります。

最も厳しいフィードバックは、プロジェクト終了時に、それぞれのメンバーから、各自への課題を一人ずつ書いてもらい、渡してもらうことです。

リーダーシップやフォロワーシップ、役割分担などについて、フィードバックをするのですが、次のような指摘が容赦なく飛び交います。

「やたらカタカナ言葉を並べて、相手をねじ伏せようとしますけど、あれじゃ伝わらないですよ」「何度も同じことを注意しているけれど、全然改善されない。

人の話を聞く耳を持っていますか?」「〇〇さんが出すアイデアって、どれも小粒ですよね。

すぐにまとめようとするからですよ」 ちなみに、最後の一言は二十代の女性リーダーが、四十代の男性リーダーに指摘したセリフです。

相互フィードバックを終えた後には、「星空タイム」といって、強制的に一人にさせられる時間があります。

辛辣なフィードバックの後には、個人での内省の時間もしっかりとるのです。

最終的には、個々人が、自分へのフィードバックを自分自身で読み上げながら、どうやって今後の行動を改善するかを宣言してもらいます。

このように、徹底的にフィードバックを行うので、終わる頃には、皆、自分の改善点について深く認識するようになります。

しかし、これが非常に良い経験になります。

参加するマネジャークラスは、基本的に会社で優秀とされている人たちなので、社内ではこんなフィードバックを受ける機会がありません。

だから、ここで受けたフィードバックによって、自分の欠点に初めて気づくことができ、仕事への取り組み方も大きく変わってくるのです。

卒業生の中には、今は一五〇名の部下を率いて、新たなプロジェクトに取り組み、革新的なサービスを開発している人もいます。

二五〇名の拠点を任されて、マネジメントに奮闘している若いメンバーもいます。

そうした人々の中には、このときの経験を「しんどかったけれども、あとあとじわじわと効果を感じた」と言ってくれる人もいます。

このように、あと腐れのない他人同士が、ともに何かに取り組んだ上で、相互にフィードバックをすると、大きな刺激につながります。

最近では、その有用性に着目し、サントリーも、他社を巻き込み、同様の試みを行っています。

個人の力ではこのような取り組みを立ち上げるのは難しいと思いますが、人材開発の業界では、異業種研修の機会はずいぶんと増えています。

もし何か同じような企画に参加できるチャンスがあれば、覚悟を決めて、参加することをおすすめします。

人は無能になるまで出世する──自分をフィードバックし続けるために

もっとも、美瑛のようなプロジェクトに参加しなくても、自分からフィードバックを受けられるような環境はいくらでもつくれると思います。

たとえば、私は、他の大学に勤めている同年代の共同研究者たちと年二回程度合宿をしているのですが、そのときに、彼らに自分の抱えている研究のことを話すことがあります。

そのときに、「この五年で何をやりたいか」を自ら話した後で、「私が五年後、どんなことをやっていると思うか」を同年代の研究者からフィードバックしてもらうのです。

すると、自分と相手が考える「五年後」にギャップが生じます。

これと同じように、自分に意見してくれるような集まりに行き、「自分はどんな人に見えるのか」「自分は数年後、どんなことをやっているように見えるのか」などを聞いてみれば、思っているのとはまったく違う自分の姿を、フィードバックしてくれるでしょう。

このようなフィードバックを受ける機会をつくることは、フィードバックを受ける経験を増やすだけでなく、自分を成長させ続ける上でも非常に重要なことです。

専門用語では、こうした行動のことを、「フィードバック探索行動」と言います。

あなたが自ら成長を願う仕事人でありたいと思うならば、「フィードバックを他者から与えられる存在」ではなく、「自らフィードバックを求めにいく人材」になりたいものです。

組織論でよく言われる言葉に、「人は無能になるまで出世する」という「ピーターの法則」があります。

会社組織に入ると出世していきますが、どこかの段階で「無能」と判断されてしまうと、そこで出世は止まります。

会社組織の中では、自分が無能とされる地位まで上がって、頭打ちになる。

つまり、若い頃はどんなに有能だった人でも、最終的には無能扱いされて終わるというわけです。

私は、自分が「無能」な状態になって止まってしまうことを恐れています。

無能とされる地位まで行くと、「ダメなら外して、別の人に置き換えよう」という「置換対象」へと変わっていきますが、それに甘んじたくはありません。

だから、成長し続けられるよう、自分でフィードバックを受けられる環境にわざわざ身を投じるわけです。

フィードバックを受けると、ショックなことを言われることもあります。

しかし、そうやって他の人から指摘される痛みを味わわないと、「なかなか自分を変えよう」という気にはなりません。

もし「そういう痛みを最近味わっていないな」という人がいたら、それは自分の実力がついたからというより、「成長が止まりつつある」危険信号だと思います。

私は、よく「緊張屋」と「安心屋」という話をします。

「緊張屋」とは、自分に厳しいフィードバックをしてくれる人のことで、一方、「安心屋」とは、「大丈夫だよ」と言ってくれる人のことです。

もし、自分の周囲にいる人の八割が「緊張屋」だったとしたら、しんどくてやっていられません。

四六時中、フィードバックをされっぱなしになってしまいます。

しかし、「安心屋」が八割というのも、非常に危険なことです。

皆に「このままでいいんだよ」と言われ続けるような「ぬるま湯の環境」にいたら、人間、必ずダメになります。

皆さんは、「緊張屋」と「安心屋」、どちらが多い環境にいるでしょうか。

もし「緊張屋」が少ないならば、苦労してでも、「緊張屋」を求めに行きましょう。

それが自分のフィードバックの質を高めるだけでなく、自分を成長させ続けるエンジンにもなるのです。

コラム 現役マネジャーが語る匿名「フィードバック」経験談 ■フィードバック事例 3大手シンクタンク 本部長・鈴木大輔さん(仮名・五十二歳)

大手シンクタンクで研究部門を統括している鈴木さん。

同社では、隔週一回程度の個人面談が徐々に浸透しており、鈴木さんも活発に行っているそうです。

その中でフィードバックを行い、部下のベクトルを正しています。

隔週一回、三十分程度の個人面談を実施──御社では、比較的早い段階から個人面談を取り入れてきたそうですね。

鈴木 はい。

十年以上前から、週一回から隔週一回の個人面談が、一般化しています。

私は、研究部門を見ているのですが、直属の部長や課長とは週一回 ~隔週に一回、三十分程度の個人面談を行っています。

また、彼らの部下にあたるメンバーたちとも、最低でも年一回は個人面談をして、コミュニケーションをとっています。

個人面談では、普段は、最近の仕事の状況について報告してもらう程度ですが、何か問題があればフィードバックをしています。

メンバーに直接フィードバックをすることもありますね。

「組織と部下、両方が良くなる」ことを第一に考える──耳の痛いフィードバックをするときには、どのようなことを心がけているのでしょうか。

鈴木 最も強く意識していることは、「組織と部下、両方が良くなることを考える」ということです。

私のような組織の中枢にいる人間は、どうしても組織のことを優先して考えてしまうきらいがあります。

それは組織人として当然のことなのですが、それをフィードバックに持ち出すと、部下は「組織の都合ばかりで、自分のことは置き去りじゃないか」と考えるでしょう。

そう思われたら、部下は話を聞いてくれなくなってしまいます。

だから、個人 =部下も良い方向に導くには、どんなフィードバックをすればよいか。

それを強く意識するようにしています。

──組織と部下の両方が良くなる落とし所を見つけるのは、意外と難しいこともありますよね。

鈴木 おっしゃる通りです。

そこで、私は、耳の痛いフィードバックをする前には、必ず部下の情報をもう一度確認するようにしています。

最も重要視しているのは、「部下が将来、どんなビジョンを描いているのか」です。

この会社で何を実現したいのか。

社長をめざしているのか。

実は他の部署に異動したがっているのか。

はたまた当社で学んだことを生かして、独立開業をしたいのか──。

こうしたことを明確にして、初めて、部下の将来を考えたフィードバックができます。

普段の個人面談でも聞いている内容ではありますが、フィードバックをするときには、改めて確認するようにしています。

──実際に、そのようなやり取りをした例はありますか。

鈴木 たとえば、実力はあるのだけれども、組織に対して斜に構えちゃうような部下がいたんですよ。

「なんでこんなことやるんだろうね?」とか「やってられないよね」みたいなことを若い人に言って、煽動するような人ですね。

いくら実力があったとしても、マネジャーになった後も組織に反するような言動をするようなら、昇格させるわけにはいきません。

だから、そういう言動をやめさせる必要があった。

しかし、そもそもマネジャーになりたくないなら、忠告しても聞いてくれない可能性は高いですよね。

そこで、彼には、「そろそろマネジャーになってほしいと思っているんだけど、君は、どう思っているの?」ということを最初に聞いたのです。

すると、「なりたいと思っている」という答えが返ってきました。

それを聞いた上で、「マネジャーというのは組織側の感覚で動かなければいけない仕事だけど、今の君は、反組織側の人に見えるよ。

このままの感覚で仕事をしていたら、昇格させるわけにはいかない」と言いました。

──その結果、どうなったのですか?鈴木 余計な煽りをいれるような言動は一切なくなりましたね。

マネジャーとして昇格した後も順調にやっている。

そんな事例はうれしいものです。

降格必至の部下には、どうフィードバックすべき?──しかし、組織のメリットを考えれば、どうしても部下のメリットまで考えられないこともありませんか?鈴木 そうかもしれませんが、可能な限り、部下のメリットを考えることが大切だと思っています。

たとえば、以前、研究部門の部長職を務めていた人がいたのですが、その人は、研究職としては、致命的な欠陥がありました。

研究部門のヘッドなのに、意思決定にロジックがないのです。

ふだんのレポーティングも、自分で考えたのではなく、部下から聞いた内容を書いて文章にしているだけ。

部長職まで出世はしていたのですが、その部門のトップを張るには、あまりに中身が伴っていませんでした。

私は、着任後、ただちにこの部下の欠点に気づきました。

「これは早めに手を打った方がいいな」と感じました。

そこで、「意思決定にロジックがない場面が多い」という内容のフィードバックをしたのですが、やはり無理でした。

このままでは降格は必至であり、異動してもらうことも考えなくてはいけない状況でした。

そのときに意識したのが、「この人は将来、何をやりたいのか」ということです。

すべてのフィードバックの起点は、「本人がどうなりたいか」にあるからです。

今後どうしたいのかを聞いてみると、「実は将来、起業したいと考えている」といった答えが返ってきました。

当社としては、辞めてほしいわけではありませんでしたが、降格するぐらいなら、早く独立した方が、この人のためになるかもしれないと感じました。

そこで、半年ほど様子を見た後に、「このままでは降格させざるを得ない。

それなら、その前に、独立するという選択肢も考えてはいかがですか」という話をしました。

すると、次の個人面談のときに「独立します」という返事が返ってきました。

結局、彼は独立し、今はコンサルタントとして活動しているようです。

──結果的には、円満に事が運んだわけですね。

鈴木 ちなみに、私が「独立」という選択肢を出したのは、その部長が共働きだったからです。

奥様が専業主婦で働き手が一人しかいなかったら、「もう少しこの会社で頑張った方がいいかもしれない」と言っていたかもしれません。

部下に対するフィードバックを考えるときには、将来のビジョンだけでなく、年齢や家族構成など、さまざまな要素を考慮すれば、最終的には落とし所が見えてくるのではないかと思います。

人は忘れるもの。

何度でも根気よく告げる──他に、フィードバックで心がけていることはありますか?鈴木 「何度でも根気よく言う」ことでしょうか。

フィードバックしてもなかなか改善されない人は、どの会社にも多いと思いますが、これって仕方のないことだと思うんです。

たいがいの人は、自分に都合のよいことしか記憶しませんからね。

耳の痛いフィードバックほど、「そんな記憶ありません」となる。

それにいちいち腹を立てていたら、改善なんてできないと思うんですね。

最近でも、部下に、興味のあることはすごく頑張るんだけれども、興味のないことは言われたことしかやらない、という問題児がいまして。

スキルは申し分ないんですが、組織に所属する上で大前提となるマインドがなっていないタイプですね。

彼には四月に「その姿勢はイエローカード。

直さないとレッドカードを出すよ」という話をしたのですが、自分の都合のよいようにしか受け止めないので、九月に聞いたら完全に忘れていた。

そこで、「四月にイエローカードを出したよね? 本当は今回もう一枚出したいところだけど、一・五枚目を出すことにする。

次は本当にレッドカードを出すよ」と言いました。

これで変わらなければ、もう仕方がありませんが、上司が簡単にあきらめてはいけないと思います。

フィードバックに私情をはさむような人はマネジャーにしてはいけない──ここまで聞いていると、部下に対しては、ガマン強く接している印象がありますね。

鈴木 でも、どう考えても良くないことは、ブスッと釘を刺しますよ。

以前いた部下に、ダークサイドで徒党を組むような部下がいたんですよ。

上層部にやたら批判的な言動をするタイプで、飲みの席に行くと組織の悪口ばかり言って、他の部下を巻き込もうとする。

私は、その部門に異動する前から、彼の噂を聞いていたので、異動した最初のミーティングで、こう釘を刺しました。

「事実かどうか知らないけど、あなたがこういう人だということは何人かから聞いている。

私はその場にいたわけじゃないけど、何人かが言っていたという事実がある。

これは私が許さないよ。

耳に入ったら一発退場してもらうから」と。

──かなり強く言いましたね。

鈴木 こういうタイプは、それぐらい言わないとわかりませんからね。

でも、感情的にフィードバックをするようなことは、まずありません。

たとえば、性格的に問題のある部下や、なんとなく虫が好かない部下が、仕事の成果があがらなかったからといって、強い口調でフィードバックするかというと、決してそれはない。

管理職のミッションは、あくまで組織と個人を良くすること。

私情をはさんで、その権力を振りかざして、相手をギャフンと言わせようなどというのは、明らかにミッションから外れた行為です。

もしそんなことを思うような人がいるならば、その人は、初めから、管理職にはしてはいけないんじゃないかと思います。

私情をはさまず、会社と部下のメリットを考え抜き、何度でも伝える。

たしかに根気は必要ですが、その分、シンプルに組織と個人が良くなった瞬間は、フィードバックをやっていてよかったと思いますね。

──本日はありがとうございました。

解説 鈴木さんの事例で最も印象的なのは「すべてのフィードバックの起点は、本人がどうなりたいかにある」という言葉です。

ついつい、私たちはフィードバックをする際、「ああなってほしい」「こうなってもらわなければならない」という風に、自分の「なってほしい像」を部下に提示することにやっきになります。

そして、そんなとき、ともすれば「部下自身が、どのように思っているのか」を忘れがちです。

鈴木さんは、そこに「部下のなりたい姿」という「媒介項」をさしはさむことで、部下との円滑な対話を可能にしていると感じました。

部下自身に「自分のなりたい姿」を、あらかじめ言わせることで、それに近づくための方法を一緒に考えているのです。

すべてのフィードバックが部下に刺さるとは限りません。

しかし、鈴木さんがおっしゃるように、管理職の責務は「組織と個人を良くすること」です。

組織と個人が良くなることを信じて、私たちは、日々を邁進する必要があるのだと思います。

注 29 本間浩輔・中原淳( 2016)『会社の中はジレンマだらけ─現場マネジャー「決断」のトレーニング』 光文社注 30 リーダーシップ開発については、この二十年で多くの研究が登場してきました。

さまざまなリーダーシップ開発手法の中で、最も効果が高いと考えられているのが、フィードバックです。

Day, D. V.( 2000) Leadership development: A review in context The Leadership Quarterly, Vol. 11( 4), pp. 581-613 Day, D. V., Fleenor, J. W., Atwater, L. E., Sturm, R. E., and McKee, R. A.( 2014) Advances in leader and leadership development: A review of 25 years of research and theory The Leadership Quarterly, Vol. 25( 1), pp. 63-82

第五章 まとめ

●フィードバック力をつけるための2つのポイント ・自分のフィードバックを客観的に観察する ・自分自身もフィードバックされる機会を持つ ●フィードバック力をつけるトレーニング方法 ・模擬フィードバック……自分のフィードバックの観察 ・アシミレーション……部下による上司へのフィードバック方法 ・社外でのフィードバック……社内の人間関係では得られないスパイシーなフィードバックを受ける ●自分自身をフィードバックし続けるコツ ・ピーターの法則……「人は無能になるまで出世する」 ・「緊張屋」と「安心屋」 「緊張屋」……厳しいフィードバックをしてくれる人 「安心屋」……精神的支援をしてくれる人 ⇒両者のバランスが大切

おわりに 本書は、フィードバックに関する入門書でした。

部下育成の基礎理論から始まり、耳の痛いことをしっかり通知して立て直すためのフィードバックの具体的なテクニック、フィードバックのときに陥りやすい罠、また三人のマネジャーの方の事例について紹介してきました。

私にとっても、これまでフィードバックについてこれほど体系的にまとめたことはなく、よい学びの機会になりました。

ここでは、最後に一言だけ、本文では述べられなかった思いを形にしたいと思います。

それは、フィードバックは「個人の問題」でもあるけれども、「組織の問題」でもあるということです。

本書では、フィードバックを行う側、あるいはフィードバックを受ける側の個人の視点からさまざまな理論やノウハウをお伝えしてきましたが、昨今の研究では、フィードバックは組織によって推進できるかそうでないかが決まってしまうということがわかっています。

要するに、フィードバックは「個人の問題」以上に「組織の問題」であるということです。

「組織の問題」であるとは、この世には、ごくごく自然にフィードバックがなされる組織と、そうでない組織があるということです。

フィードバックがなされるか否か、はたまたそれが奏功するかどうかは、個人レベルではなく組織レベルで強く規定されているということです。

学術研究の知見によると、フィードバックをするためには、組織が受け入れなければいけない三つのコストがあると言われています(注 31 )。

一つは、「エフォートコスト( Effort cost)」です。

そもそも、フィードバックを受けるためには、誰かがフィードバックを行わなければなりませんが、たいがいは耳の痛いことを言う必要がありますから、好き好んでやる人はほとんどいません。

耳の痛いことでもしっかり言ってくれる人が、その組織にいるのかどうかで、フィードバックの有無が決まってきます。

そうした貴重な人材を組織の中に確保するために、組織は一定のコストを支払う必要があります。

また、組織が支払うべき第二のコストとして「フェイスコスト( Face cost)」の問題もあります。

フィードバックは生身の二人以上が相対して、耳の痛いことを伝えなければならないので、それなりの時間をかけて話し合わなければなりません。

このような、フィードバックのために、実際に他者と対面するコストを積極的に払ってくれるかどうかは、組織によって大きく差があります。

そして、第三のコストは、「インファランスコスト( Inference cost)」です。

「大人の学び」には痛みが伴うものであり、せっかく得られたフィードバックを解釈し、実行するためには、それなりの負荷がかかります。

しかし、時間的・精神的余裕がなければ、フィードバックを正しく受け止め、実行するのは困難です。

個々人がその余裕をどの程度持てるかは、個人よりも、組織がそのコストを払うかどうかという問題になります。

たとえば、超官僚主義的で、超多忙で、かつ隣り合って仕事をしている人に一ミリも興味・関心のないような組織では、もともとフィードバックは得られません。

得られたとしても、じっくり話せるような時間は取れないでしょうし、解釈する余裕を持つこともなかなか難しいでしょう。

くどいようですが、フィードバックは「個人の問題」でもありますが、同時に「組織の問題」でもあります。

上司と部下の間のフィードバックを高めていくことは、「個人だけが努力しなければならない問題」ではなく、「組織が本気で取り組んでいかねばならない課題」であると私は思っています。

経営者や人事責任者は、フィードバックを「現場のマネジャー」まかせにするのではなく、自らも立ち上がり、自らの組織を「フィードバックに満ちあふれた組織」にする責務があります。

あなたの組織は、フィードバックが正しくなされている組織ですか? はじめにでも述べましたが、この国では、人という資源を大切に使っていくことが求められています。

そのためには、組織全体でフィードバックの問題に取り組んでいかなければなりません。

その一歩として、本書を職場や組織のメンバーで読み、自社の部下育成のあり方を議論してみてもよいかもしれません。

本書が「フィードバックに満ちた組織」を増やすことに貢献できたとしたら、非常に嬉しいことだと考えています。

最後になりますが、本書はPHP研究所の月刊『 THE 21』の連載を書籍化したものです。

連載時には、編集者の岸正一郎さんに大変お世話になり、かつ貴重な機会を与えていただきました。

また、書籍化に関して大幅な加筆修正をいたしましたが、その過程では、PHP研究所ビジネス出版部の宮脇崇広さん、オフィス解体新書の杉山直隆さんに大変お世話になりました。

宮脇さんの上司でもある、中村康教さんにも大変お世話になりました。

本当にありがとうございました。

▼ 私は、今の立場上フィードバックをすることが多いのですが、同時に自分も正しくフィードバックを受けられる人間でありたいと思っています。

年齢を重ねつつある今だからこそ、そのことを痛感しているのかもしれません。

フィードバックのことを語る私自身が、フィードバックレスな状態に甘んじることは、あってはなりません。

皆さんと同様に、フィードバックの良い受け手であり、かつ与え手でありたいと願っています。

同時代を生きるマネジャー、そして、リーダーの皆さん。

よきフィードバックの中にあれ! そして人生は続く。

二〇一六年十二月三十一日 故郷、北海道にて中原 淳 注 31 Sully de Luque, M. F. and Sommer, S. M.( 2000) The impact of culture on feedback-seeking behavior: An integrated model and propositions The Academy of Management Review, Vol. 25( 4), pp. 829-849

著者紹介中原 淳(なかはら・じゅん)東京大学大学総合教育研究センター准教授。

1975年、北海道旭川市生まれ。

東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員等をへて、 2006年より現職。

「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材育成・リーダーシップ開発について研究している。

専門は経営学習論・人的資源開発論。

著書に『職場学習論』『経営学習論』(ともに東京大学出版会)、『駆け出しマネジャーの成長論』(中公新書ラクレ)、『会社の中はジレンマだらけ』(本間浩輔氏との共著、光文社新書)など多数。

Blog: NAKAHARA-LAB. NET (http:// www. nakahara-lab. net/) Twitter ID : nakaharajun

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