第五章 物流リスク
- 1.貿易物流におけるさまざまなリスク
- (1)自然災害のリスク
- (2)交通事故、人為的ミス、水濡れ、盗難等のリスク
- (3)船舶の衝突、座礁、船火事、機関故障による航行不能
- 2.運送人の責任限度
- 3.損害保険の種類
- (1)国内の運送保険
- (2)協会貨物約款(InstituteCargoClauses:ICC)
- (3)国内保険と外航貨物海上保険の補償内容
- (4)売主・買主がかけるべき保険
- 4.保険のかけ方
- (1)予定保険
- (2)保険金額の算定
- (3)保険対象とならないケース
- (4)保険料の割増
第五章 物流リスク
国際物流には、さまざまな危険が伴います。
貨物が輸送中に滅失したり破損したりすれば、輸送を請け負った運送人が、本来は責任を負うべきです。
しかし、運送人が負う責任範囲と責任限度が国際条約で定められていて、運送人に貨物の損失のすべてを補償してもらうことは期待できません。
それは、幻想にすぎないと考える方が良いでしょう。
そこで、貿易では早くから損害保険が発達し、物流リスクを保険にヘッジする方法が確立しました。
「第三章 インコタームズ」で、それぞれの定型取引条件ごとに、保険に関しても解説しましたが、ここでは、より包括的に貿易物流におけるリスクと保険のかけ方について説明します。
1.貿易物流におけるさまざまなリスク国際間の貨物の移動では、さまざまな予期し得ないことが起こります。
(1)自然災害のリスク自然災害は、頻度は多くなくても、いつかどこかで必ず起きるものです。
しかも、自然災害の場合の被害は、一網打尽に近い広範囲なものとなり、被害金額は膨大なものになりがちです。
(貿易物流におけるさまざまなリスク)
1995年1月17日の阪神淡路大震災の時には、神戸港で船積み待ちだった貨物が地震で損壊しました。
2011年3月11日の東日本大震災では、多くのコンテナが倒壊したり、波にさらわれたりしました。
この時に被災したコンテナで、釧路の海岸に打ち上げられたものもありました。
2011年には、日本からタイに輸出した貨物が、保税区域で洪水のために水濡れの被害に遭いました。
2018年9月には関西空港の台風被害による輸出貨物の水濡れ事故も起きました。
インコタームズの定型取引条件を選択するうえで、地震や津波などの自然災害による損害を避けることができるかどうかは、重要なポイントです。
しかし、適切な定型取引条件を選んだとしても、他にまだ逃れられないリスクがあります。
それは、港で船積み待ちしていたコンテナが、地震や津波で、横倒しになったり水に浸かったりした後の、貨物の廃棄費用を巡っての問題です。
FCAやCPT条件で輸出契約をしていれば、貨物が被災した時点では、貨物は買主に引き渡し済みですから、インコタームズの定義からすれば、廃棄費用は、廃棄業者が買主に直接請求して支払ってもらうのが筋です。
しかし、それは現実には、不可能です。
フォワーダーが、被災したコンテナのひとつひとつについて、「被災した時点で、危険負担は売主だったのか、買主だったのか」を調べたり、「これは買主の危険負担中の被災だったから、〇〇国の買主に請求」したりするのは、実務的に無理です。
このような場合、フォワーダーは、荷主である売主に対して廃棄費用を支払うように求めます。
買主が負担すべき廃棄費用であっても、売主は、いったんフォワーダーに廃棄費用を立て替えて支払い、それを売主が買主に請求するしかありません。
問題は、その時に、買主が払ってくれるかどうかです。
買主が、インコタームズの定型取引条件を正確に理解していれば、買主が負担する費用であることは理解するでしょう。
しかし、買主が払ってくれなければ、売主が自腹を切るしかありません。
廃棄費用に関しては、輸送業者を対象とする保険はありますが、貿易での売買当事者を対象とする保険は、現状ではありません。
(2)交通事故、人為的ミス、水濡れ、盗難等のリスク輸出港に向かっていたトレーラーが、事故に遭って貨物が損傷。
船積みや荷卸しをする際に貨物がクレーンから落下して海没。
コンテナに穴が開いていて、中の貨物が水濡れ。
貨物をトラックで輸送していた時に、交通事故に遭って貨物が破損。
買主指定の倉庫まで運送中、貨物が盗難に遭って行方不明。
実に、国際物流の貨物には、さまざまな事故や事件のリスクがあります。
(3)船舶の衝突、座礁、船火事、機関故障による航行不能船の衝突や座礁、火災などが起きて、放っておくと船も貨物も滅失してしまう恐れがある場合、船長の判断で貨物の⼀部を投棄して沈没を防ぐことがあります。
一部の貨物を犠牲にすることで、他の貨物は損失を被らないで済みます。
また、船の機関故障で航行不能となり、他の船に曳航してもらうこともあります。
このような場合、生じる貨物の損害を「共同海損犠牲損害」、発生する費用を「共同海損費用」と言い、共同の海上危険から救うために犠牲となった損害は、「共同海損に関する統一的国際規則」(ヨーク・アントワープ規則:Y.A.ルール)によって、損失を被らずに済んだ貨物も含めて、船会社や船舶のチャーター会社、荷主などの関係者が公平に分担することが定められています。
最初のY.A.ルールは1887年に制定されました。
2.運送人の責任限度国内取引では、商品が買⼿に届くまでは売⼿の責任範囲で、配達途上に事故で商品が毀損すれば、第一義的には、売主が責任をもって弁償したり代替品を送ったりし、第二義的には、運送会社や保険会社との交渉となります。
しかし、貿易ではこの常識は通用しません。
運送人の賠償責任限度額は、「船荷証券統一条約」(1924年ヘーグ・ルール)で、過失・天災などは運送人を免責とし、「改正船荷証券条約」(1968年ヘーグ・ヴィスビールルール)では、1梱包(または1単位)当たり666.67SDR(SDRはSpecialDrawingRightsの略で国際通貨基金の通貨単位、666.67SDRは日本円で約10万円程度)か、1kgあたり2SDR(約300円)のいずれか高い方を責任限度としています。
日本もこの条約を批准済みです。
その後、より高い補償限度を定めた条約ができていますが、先進諸国は日本も含め、どこもまだ批准していません。
航空輸送に関しては、日本は、「モントリオール条約」を批准済みで、運送人の責任限度額は19SDR(約3,000円)/kgです。
つまり、輸送途上で事故が起きて損害賠償請求しても、運送人の責任限度が条約で決まっているため、貨物の損失すべてをカバーできることは期待できません。
このことから、ロンドン保険業者協会をはじめ世界の損害保険業界では、国際物流のリスクに対応した損害保険が発達し、現在では、貿易を支える重要なインフラ部分を構成するに至っています。
今では、物流リスクは、損害保険にヘッジすることが常識です。
国際間をモノが移動する際には、さまざまなリスクにさらされますから、こうしたリスクに対応する損害保険制度が、貿易を支える重要なインフラとして整っています。
3.損害保険の種類損害保険は、国内での輸送リスクに対応した「国内の運送保険」と、ロンドン保険業者組合が作成して世界的な標準約款になっている「協会貨物約款」((InstituteCargoClauses:C))に大別されます。
「国内の保険」では、地震・津波・噴火などの自然災害はカバーされませんが、「協会貨物約款」では、自然災害もカバーされる保険が用意されている点が、両者の大きな違いです。
(1)国内の運送保険「国内の運送保険」には、国内での陸送に対応した「国内運送保険」と艀(はしけ)輸送にも対応した「内航貨物海上保険」(輸出FOB保険)があります。
「内航貨物海上保険」は、FOB契約とCFR契約の時に売主がかける保険なので、「輸出FOB保険」とも言われています。
「国内運送保険」と「内航貨物海上保険」は、いずれも「オールリスク担保」とするか、「特定危険担保」とするかを選択できます。
「オールリスク担保」では、貨物の性質・欠陥と遅延などによる損害を除いて、すべての危険を担保します。
「特定危険担保」は、火災、爆発、輸送用具の衝突、転覆、脱線、墜落、不時着、沈没、座礁、座州の海上危険などが担保されます。
(2)協会貨物約款(InstituteCargoClauses:ICC)「協会貨物約款」(InstituteCargoClauses:C)は、ロンドン保険業者協会が定めた保険約款で、世界の標準約款となっています。
(協会貨物約款)には、ICC(1963)、ICC(1982)、ICC(2009)の各バージョンがあり、ICC(2009)を新協会約款、それ以前を旧協会約款と呼んでいます。
日本の損保会社は、新協会約款を「基本約款」として採用し、『外航貨物海上保険』(損保会社によって「貨物海上保険」)の保険名称で、ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)と空輸貨物用のICC(AIR)として商品化しています。
(新旧協会約款対比表)
①外航貨物海上保険
外航貨物海上保険は「基本約款」を構成し、ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)とICC(AIR)の4種類があります。
カバー範囲が最も広い保険はICC(A)とICC(Air)で、次がICC(B)。
ICC(C)は最少のカバー範囲です。
ICC(C)では、「地震、噴火、雷、船や保管場所への浸水、積込・荷卸しの際の水没・落下による梱包の全損」などの貨物の被害は、自然災害の特別約款をつけない限り、カバーされません。
自然災害による損害まで賠償対象としているのは、ICC(A)、ICC(B)とICC(Air)の三種類ですが、ICC(B)は水濡れをカバーしていません。
②特別約款基本約款である「外航貨物海上保険」に対し、必要な場合に追加でかけることができる特別約款があります。
特別約款には、協会戦争約款(InstituteWarClauses)と協会ストライキ約款(InstituteStrikesClauses)の二種類があります。
協会戦争約款は、基本約款で免責とされている戦争、捕獲、抑留などの危険を、貨物が本船上にある間に限って補償することを規定しています。
協会ストライキ約款は、基本約款で免責とされているStrikes(ストライキ)、Riots(暴動)、CivilCommotions(市民騒動)の危険(S.R.C.C.)を補償するものです。
いずれも、平常時にはかける必要はありません。
仕向地の国(地域)で、戦争が勃発しそうになっているとか、政情不安で暴動や港湾ストライキなどが起きそうになった時にかけます。
「ICC(A)+War&S.R.C.C.」が最強の保険のかけ方です。
CIPまたはCIF契約の時に、買主がWar&S.R.C.C.の付保を要求する場合は、「売主は買主の費用負担でそれに応じなければならない」と、「インコタームズ2020」は規定しています。
War&S.R.C.C.は、「外航貨物海上保険」の基本約款よりも保険料が比較的高いので、契約してからWar&S.R.C.C.を付保する必要が生じた際の保険料は、CIPまたはCIF契約以外の場合、どちらが負担するかを、契約書の「増加費用」の条項で決めておくと良いでしょう。
(3)国内保険と外航貨物海上保険の補償内容「外航貨物海上保険」のどの種類の保険が適しているかは、輸送するモノによって違います。
電子製品や家電製品などの製品類であれば、ICC(A)が適しているでしょうし、穀物などのバラ積み貨物であればICC(B)で良いでしょう。
水濡れしても大きな問題にならない木材、鉄鉱石、鉄屑などであれば、ICC(C)で十分かと思われます。
航空貨物の輸送リスクに対応したICC(Air)も、「外航貨物海上保険」の一つです。
貿易での物流リスクを回避するには、インコタームズの定型取引条件を選択する時に、「外航貨物海上保険」を付保する立場に立てるような定型取引条件を選択することがポイントです。
国内の運送保険をかける立場となる定型取引条件での契約をすると、自然災害に見舞われた時のリスクから逃れることができないからです。
どの定型取引条件を選択するかに関わらず、外航貨物海上保険は、貨物の引渡地点を保険の起点とするのではなく、自社工場・倉庫あるいはCFSを起点とすることをお勧めします。
(国内保険と外航貨物海上保険の補償内容)
自社工場・倉庫で輸送車両に貨物を積み込む場合、外航貨物海上保険は、貨物が輸送の目的で初めて動かされた時にスタートします。
外航貨物海上保険がCFSから開始する場合、貨物を積んだ輸送車両がCFSの門をくぐった時から保険がスタートすることになっています。
これは、国内運送保険や内航貨物海上保険(輸出FOB保険)でも同様です。
(4)売主・買主がかけるべき保険貿易貨物は、売主か買主、または両者がインコタームズの定型取引条件で決められている「貨物の引渡地点」を境目として、その前は売主が、その後は買主が保険をかけた状態で国際間を移動します。
FCAまたはCPTでの契約では、売主の工場や倉庫でバンニングしたり、トラックに積んだりする場合、買主が工場・倉庫を起点とする外航貨物海上保険をかけていれば、コンテナに貨物をバンニングする際に、貨物がフォークリフト等から落下して破損しても、買主が付保する外航貨物海上保険でカバーされるため、売主は「無保険」で構わないのですが、FCA・CPT契約では、買主は売主に対して、保険を掛ける義務は負っていないため、買主が保険をかけていなければ、売主も救済されないという問題点があります。
(売主・買主がかけるべき保険)
(貿易物流では売主・買主ともノーリスク)
4.保険のかけ方「予定保険」、「保険金額の算定」、「保険対象とならないケース」「保険料の割増」について解説します。
(1)予定保険損害保険会社に貨物の保険を申し込む場合、輸送がスタートする段階では、貨物の数量、保険金額、積載船名などの詳しい情報がまだ分かっていないことがあります。
特に輸入の場合は、売主からの船積情報は船積み後に来るのが一般的ですから、輸送が始まる前での保険契約ができないことが多いのです。
このような時に、船名が分からないまま、数量と金額を概算金額で保険申込みができるのが「予定保険」です。
予定保険は、取引ごとに申し込む「個別予定保険」(ProvisionalPolicy)と、一定期間内の全貨物を予定保険として扱う「包括予定保険」(OpenPolicy)があります。
取引の頻度次第でどちらかを選択します。
保険会社は、貨物の輸送が始まる前の段階で、保険付保の予約(予定保険)を受けつけ、貨物の輸送が始まってから、保険会社に連絡すると、予定保険を確定保険に切り替えてくれます。
(2)保険金額の算定保険金額とは、保険会社が1回の事故で損害の補償責任を負う最高限度額です。
通常、CIF金額またはCIP金額に10%相当の金額を加算した「CIF価額またはCIP価額」110%。
で保険金額を設定、しなまぜす110%なのかは、商慣習だとしか言いようがないのですが「取引が無事故」想定期待利益できた場合の。
保険金額は、あくまでも「上限」なので、必ずその金額で保険会社が賠償してくれるわけではありません。
(3)保険対象とならないケース保険会社は、次のような場合、保険支払に応じてくれません。
●青果物の腐敗等、貨物の性質や欠陥による損害●航海・輸送の遅延による損害●輸送に絶えきれない強度不足の包装、コンテナ内への積付不良による損害●輸送が開始される前に存在していた原因による損害●通常の輸送過程における水分の蒸発等に起因する重量不足による損害●原子力、放射能汚染危険、生物化学、生物、化学、電磁気兵器による損害
●通常の輸送過程にない保管中等におけるテロ危険による損害●別の貨物が被害に遭い、その影響で生じた危険による間接損害(4)保険料の割増貨物を輸送する船の船種・船齢・トン数・船級等の条件によって、保険料が割増になることがあります。
中でも、船齢16才以上の船舶に積載される貨物に保険が適用される場合、保険会社から老齢船割増料(OverageAdditionalPremium:.)の負担を求められます。
老齢船割増料は、船齢が16歳から20歳、21歳から25歳、26歳以上の順で増えていきます。
航海の安全度は船の加齢によって確実に減少するわけで、船齢と貨物の輸送安全度には、相当程度の関連性があることは明らかですから、保険会社が、船齢による保険上のリスクの大小を、保険料によって調整する老齢船割増は合理的と言えます。
海上輸送を手配する側は、輸送賃の多寡だけで使う船を決めがちですが、老齢船割増によるコスト増は無視できません。
EXW、FCA、CIP、FAS、FOB、CIFやDで始まる到着ベースの定型取引条件での契約であれば、海上輸送を手配する側と保険料を負担する側は同じなので、単にコストが増えた程度の認識で済むかもしれません。
しかし、海上輸送を手配する側と保険料を負担する側が互い違いになってしまうCPTとCFRでの契約では、老齢船割増による保険料の増加が、紛争の原因になる可能性があります。
契約書で、老齢船割増料の扱いについても、「増加費用」の条項で取り決めておくのが良いでしょう。
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