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第三話いかにして腕を磨くか/呼吸・着眼・心得

第三話いかにして腕を磨くかでは、どうすれば、この第一の報酬、すなわち、「能力」という報酬を得ることができるのか。

どうすれば、「腕を磨く」ことができるのか。そのことを話すためには、最初に、一つの誤解を解いておかなければなりません。なぜなら、いま、世の中に、多くの人々が信じている誤解があるからです。

それは、「専門資格取得によるスキル・アップ」という誤解です。

すなわち、書籍や学校において「専門知識」を学び、資格試験を受けて「専門資格」を取ることによって、「スキル・アップ」ができるという誤解が、いま、世の中に溢れているのです。

しかし、改めて言うまでもないことですが、単なる「専門知識」を学んだだけでは、「スキル」を身につけることはできず、そのため、それだけでは、プロフェッショナルの仕事は、決してできません。

一つの例を挙げましょう。例えば、弁護士です。

弁護士というのは、極めて高度なプロフェッショナルですが、この職業に就くためには、まず、司法試験という極めて難しい専門資格の試験を受けなければなりません。

従って、この試験に合格するためには、一生懸命に勉強して、専門知識を身につける必要があります。

六法全書をはじめとして、多くの専門書を読み、膨大な専門知識を記憶し、司法試験に合格しなければならないのです。

しかし、これも改めて言うまでもないことですが、弁護士という職業は、こうした専門知識や専門資格を身につけただけでは、決して仕事になりません。

例えば、ある日、依頼人が事務所に来る。その依頼人は、訴訟になりそうな問題を抱えて、慌てている。そのため、あれこれ事情を語るが、頭が混乱している。その慌てふためいて話される依頼人の話。

それをしばらく聴いて、その混乱気味の話の中から、素早く要点をみ取る。

「なるほど。要するに、こういうことですね」と。これは、一つのスキルです。そして、その慌てふためいた依頼人に対して、最初は、静かに話を聴く。そして、タイミング良く、相手の心配を解消することを話す。

すると、依頼人の気持ちも、少しずつ静まってくる。そういった、カウンセラー的なスキルも必要になります。そして、その後、相手方の弁護士との交渉になる。そのときには、高度な交渉のスキルが求められます。

さらに、裁判の準備をする。そのためには、本にも雑誌にもデータベースにも載っていないようなことを実地で調査しなければならないときもある。

このときには、調査のスキルが求められます。そして、実際の裁判になり、法廷闘争が始まる。そのときには、法廷での弁論の力が求められる。

これも、かなり高度なスキルです。

このように、弁護士という職業一つを例にとっても、単なる「専門知識」だけでは仕事になりません。

やはり、プロフェッショナルとしての高度な「スキル」が求められるのです。

従って、我々が、もし本当に、プロフェッショナルとしての「能力」を磨きたいと思うならば、この「専門資格」を取ってからが、勝負です。

そこで身につけた「専門的な知識」という「ナレッジ」の段階から、「職業的な智恵」とでも呼ぶべき高度な「スキル」の段階にまで、いかにしてプロフェッショナルとしての「能力」を高めていくか、それが勝負になってくるわけです。

では、どうすれば、それができるか。

そのためには、いくつかの方法がありますが、ここでは、最も大切な方法を、一つ挙げておきましょう。

それは、何か。「師匠」を見つける。それが、最も大切な方法です。職場において、仕事の「スキル」を学ぶことのできる、優れた「師匠」を見つけること。

それが、プロフェッショナルとして「スキル」を学び、「腕を磨いて」いくために、最も大切な条件になります。

なぜか。「直伝」だからです。

プロフェッショナルの「スキル」というものは、そもそも「言葉で表せない智恵」であるため、参考書や専門書、テキストやマニュアルでは伝えられないものです。

そして、プロフェッショナルの「スキル」というものは、極めて「個性的」なものであるため、学校や研修など、多数を相手にした「マス・エデュケーション」では、やはり、伝えられないものです。

従って、「直伝」。それは、「師匠」から「弟子」に対して、一対一の関係で、直接に伝えていくべきもの、直接にんでいくべきものです。

特に、最も高度な「スキル」は、直接、師匠のそばにいて、呼吸でむ、体でむ。そういう世界です。

実は、皆さんも、仕事の「スキル」については、「師匠」から学んでこられたのではないでしょうか。

例えば、営業の「スキル」。商品を売るときのコツ。売り込みのときの呼吸。お客さまの心の読み方。

例えば、企画の「スキル」。会議を行うときのノウハウ。アイデアをまとめるときのセンス。会議でのメンバーの心の流れのみ方。

そうした最も高度な「スキル」の真髄は、「言葉で表せない智恵」であるため、書物にも書いてありません。学校でも教えてくれません。

従って、それは、やはり、仕事の現場である「職場」において、「師匠」とでも呼ぶべき上司や先輩から、教わらなければならない。

その「師匠」の仕事のスタイル、仕事のスキルを、横でじっと見ながら、その場でみ取っていく。体全体でみ取っていく。

「師匠」と一緒に仕事をしながら、「なるほど、そうか」とみ取っていく。だから、「師匠」を見つける。そのことが、大切なのです。

では、もし職場で「師匠」を見つけたならば、その「師匠」から、いったい何を学ぶか。それについて、最も大切な三つの基本を述べておきましょう。

第一は、「呼吸」です。師匠からは、「呼吸」を学ばなければなりません。では、「呼吸」とは何か。「リズム感」と「バランス感覚」です。実は、「スキル」の本質は、この「リズム感」と「バランス感覚」なのです。

例えば、プレゼンテーションにおいて、見事なスキルは、必ず「リズム感」が良い。ネゴシエーションにおいて、見事なスキルは、必ず「バランス感覚」が良い。

そういう意味で、一流のプロフェッショナルは、必ず、優れた「リズム感」と「バランス感覚」を持っています。

すなわち、一流のプロフェッショナルは、必ず、優れた「呼吸」を身につけているのです。では、いかにして、「師匠」から、この「呼吸」を学ぶか。その方法は、ただ一つです。

同じ部屋の「空気」を吸う。「呼吸」を学ぶには、同じ部屋の「空気」を吸わなければならないのです。すなわち、毎日、同じ部屋で一緒に仕事をする。仕事だけでなく、ときに、食事や生活も共にする。

そして、師匠が身体的に身につけている「リズム感」と「バランス感覚」を、体全体に染み込ませ、み取っていく。

それが、ただ一つの方法です。

例えば、同じ部屋の「空気」を吸いながら、師匠から「リズム感」や「バランス感覚」をみ取る方法に、「電話の傾聴」という方法があります。

優れた上司の近くに自席を持つ。上司に電話が掛かってきたとき、仕事の手は休めず、耳は、その電話に集中する。上司の電話でのやりとりに耳を傾ける。

そのとき、その上司の言葉のリズム感や会話のバランス感覚を、体に深く染み込ませる。それが、「電話の傾聴」という方法です。素朴な方法と思われるかもしれませんが、これは、奥の深い方法です。

そして、実は、こうした素朴な方法によって、師匠から「呼吸」を学んだというプロフェッショナルは、決して少なくないのです。

それが、師匠から学ぶべき基本の第一です。

では、第二の基本は、何か。「着眼」です。師匠からは、「着眼」を学ぶ必要があります。それは、どういう意味か。「反省」をするためです。「スキル」を身につけるためには、それを実際に仕事の中で使ってみる「経験」が大切です。

しかし、その「経験」が、本当に「スキル」を磨くことに役立つためには、「反省」をしなければなりません。

「反省」を通じてこそ、「スキル」を改善していけるからです。

従って、一流のプロフェッショナルは、その高度な「スキル」を磨いていくために、必ず、「経験」の後の「反省」を行っています。

例えば、プロ野球の伝説的投手であった江夏豊投手は、試合が終わった後、必ず、その日のピッチングの一球一球を、すべて記録しながら、徹底的な「反省」を行ったと言われます。

また、例えば、将棋におけるプロ棋士同士の「感想戦」も、そうです。これも、「感想戦」という形で、徹底的な「反省」を行っているのです。

すなわち、プロフェッショナルとして「腕を磨く」ためには、この「反省」ということが、極めて大切なのです。しかし、残念ながら、日本のビジネスマンには、この「反省」という習慣を持たない人が少なくない。

例えば、日本企業でしばしば見かけるマネジャーに、「経験だけが豊かなマネジャー」がいます。経歴を聞くと、実に多彩な「経験」をしている。入社してすぐに工場勤務。その後、本社で経営企画の仕事をした。

海外の支店にも勤めたことがあり、営業にも配属されて販売を手がけた。そうした多彩な「経験」の持ち主がいます。

しかし、その「経験豊かなマネジャー」から話を聞いていると、不思議なことに、「見識」が伝わってこないのです。

一つの仕事を通じて「スキル」を磨いてきたプロフェッショナルが必ず持っているべき「見識」や「智恵」が、伝わってこないのです。

こうしたマネジャーが、なぜ、生まれてくるのか。「反省」をしないからです。

一つの仕事を「経験」したとき、その「経験」からどのような「スキル」をんだか、どうすれば「スキル」をめるか。そうした問題意識を持って、徹底的な「反省」をしていないからです。

すなわち、このマネジャーは、「反省」という行為を通じて、「経験」を「体験」にまで高めていないのです。

では、「反省」をすればよいのか。問題は、それほど簡単ではありません。実は、この「反省」ということが難しい。なぜなら、「反省」には、高度な「技術」があるからです。

その「技術」を身につけていないと、「反省」をしているつもりが、単なる「懺悔」や「後悔」になってしまう。

例えば、仕事で失敗した若手社員の「反省の弁」を聞くと、しばしば、こういう発言を耳にします。

「すみません。私の未熟さがすべてです」「いや、今回の件で、もう懲りました」これは、「反省」をしているのではありません。

「懺悔」や「後悔」をしているだけです。では、「反省」の技術とは何か。

実は、その一つの要諦が、「着眼」なのです。すなわち、一つの「経験」における無数の問題の何に着目し、何を問題とするか。

その「着眼」というものが、ある意味での「見識」であり、「智恵」なのです。

それは、言葉を換えれば、「コツ」や「ツボ」と呼ばれるものでもあります。そして、これは、「師匠」から学ぶべきものです。

例えば、あるマネジャーは、営業の後、必ず、部下を連れて喫茶店に入ります。そこで、部下に、次々と質問をするのです。

「先方の課長の表情は、当社の提案に前向きだったと思うか」「先方の雰囲気からすると、この仕事は、すでに発注先を決めているだろうか」そうした質問を、次々とするのです。

しかし、それは、単に部下の「意見」を聞いているのではありません。実は、そうした質問を通じて「反省」の技術を教えているのです。

例えば、こうした質問をされた部下は、必ず、数分前の営業の場面の「経験」を「追体験」します。そして、その質問に対して言葉で答えようと、その「反省」でんだものを「言語化」しようとします。すなわち、この「追体験」や「言語化」ということが、まさに「反省」の技術にほかなりません。

しかし、そのとき、最も大切なものが、その「経験」における、どの「問題」に着目するか、その「着眼」の智恵なのです。

師匠から学ぶべき第二の基本は、この「着眼」ということです。

では、第三の基本は何か。「心得」です。優れた「師匠」からは、単に「スキル」だけでなく、「心得」をこそ、学ぶべきです。これは、どういう意味か。

プロフェッショナルの優れた「スキル」の奥には、必ず、優れた「心得」がある。そのことです。

例えば、ある優秀な若手社員がいる。優れた上司の下で、顧客へのプレゼンテーションのスキルを学ぶ。上司は、プレゼンの達人。そのスキルは、徹底的に学んだ。そこで、いざ、顧客の前でのプレゼンを行う。上司から直伝のスキルは、見事に発揮できた。プレゼンは、自分でも良い出来だと思う。

しかし、なぜか、顧客は、そのプレゼンに好印象を持っていない。そのため、営業も失敗に終わる。こうしたことが、なぜ起こるのか。「心得」を誤っているからです。

例えば、この若手社員は、「操作主義」に陥っている。心の中で、「このプレゼンで、顧客を説得し、商品を買わせてやろう」そう思っている。そして、無意識に、顧客を自由に操ろうと考えてしまっている。その傲慢な気持ちが、どこかに、ある。

しかし、顧客は敏感に、その若手社員の「操作主義」と、心の奥にある「傲慢さ」を感じ取っている。

だから、そのプレゼンを受け入れ、商品を買う気にならない。これは、優秀な若手社員が、しばしば陥る過ちです。

「スキル」に溺れて、「心得」をみ損なっている。

だから、師匠から学ぶべきことは、この「心得」。それをこそ、学ばなければならない。「スキル」を学ぶ前に、この「心得」「心構え」「心の姿勢」をしっかりと身につけなければならない。

それが、師匠から学ぶべき基本の第三です。

すなわち、「呼吸」「着眼」「心得」。

それが、「スキル」を身につけていくために必要な「三つの基本」であり、それは、「師匠」からでなければ学べないものなのです。

このように、仕事を通じて「腕を磨く」ためには、「師匠」を見つけることが不可欠です。

そして、一流のプロフェッショナルは、若き日に、必ず、素晴らしい「師匠」と巡り会っています。その修行の時代に、必ず、優れた「師匠」との出会いを得ています。

例えば、一流のプロフェッショナルの方の話を伺っていると、しばしば、こうした言葉を口にされる。

「実は、若い頃、凄い上司に巡り会ってね」「この上司が、自分の師匠だったな」「あの人から、ずいぶん多くのことを学ばせてもらったよ」そういう言葉を口にされる。

やはり、現在活躍している一流のプロフェッショナルは、例外なく、その修行の時代に、「師匠」との出会いを得ています。

そして、その「師匠」から「直伝」でんだものを持っています。

そういう意味で、「師匠」とは、我々が「腕を磨く」ために、決して欠かすことのできない存在なのです。

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