第三章フィードバックの技術 実践編
前章で私たちは、部下育成を支える最も基礎的な理論である「経験軸」と「ピープル軸」について学びました。
そのうえで、フィードバックがどのようなプロセスで進行するかについても学びました。
フィードバックは事前の準備から始まり、事後のフォローアップまで続く一連のプロセスです。
さて、本章では、前章の基礎編に続き「実践編」と称して、さらにフィードバックのやり方を具体的に深掘りしていきます。
実践編では、科学知というよりも、フィードバックの「実践知」をお伝えすることをめざします。
フィードバックの特に難しいポイントを重点的におさらいしたり(本章前半)、フィードバックの上手なマネジャーの行っていることを Tips(コツ)として学んでいこうと思います(本章後半)。
フィードバックの理論を知ることと、実際に行うことはどうしても大きく違います。
しかし、知ってさえおけば、抜き差しならないフィードバックの最中に活きてくる「とっさの技術」というものも確かに存在します。
本章ではそうした、フィードバックを実際に行う上で押さえておきたい「心構え」について説明していきます。
前章で見たように、フィードバックは下記のようなプロセスで進行します。
【事前】……情報収集: SBI情報の収集 ↓ 【フィードバック】 信頼感の確保 事実通知:鏡のように情報を通知する 問題行動の腹落とし:対話を通して現状と目標のギャップを意識化させる 振り返り支援:振り返りによる真因探究、未来の行動計画づくり 期待通知:自己効力感を高めて、コミットさせる ↓ 【事後】……フォローアップ この中で、特に気を付けておきたい難しいポイントは下記の通りです。
1 .あなたは、相手としっかりと向き合っているか? 2 .あなたは、ロジカルに事実を通知できているか? 3 .あなたは、部下の反応を見ることができているか? 4 .あなたは、部下の立て直しをサポートできているか? 5 .あなたは、再発予防策をたてているか?
チェックポイント 1.あなたは、相手としっかりと向き合っているか?
まず大切なことは、どのタイミングでフィードバック面談を行い、相手といかに向き合うかです。
通常の「 1 on 1」の日が近づいているなら、そのときまで待ってもいいですが、何かトラブルが起きているときは、待っている余裕などないでしょう。
そんなときは、「リアルタイムフィードバック」が必要です。
すぐに呼び出してしまいましょう。
一般に、トラブルが起きてから時間を空けないようにすればするほど、フィードバックの効果は高まります。
これを「即時フィードバックの原則」といいます。
要するに、間髪を容れず、問題行動が起こったらただちにフィードバックをする方が効果は高いということです。
声をかけるときは、「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」などと軽い感じで呼び出すとよいでしょう。
深刻な顔や怒った顔で呼び出すと、相手が身構えますし、他の部下に見られることで「メンツをつぶされた」と感じる可能性もあります。
前章でも述べましたが、フィードバックは一般にブラックボックスの中で行われることの方が多いと思います。
これは、フィードバックされる側のメンツを潰さないこともあるのですが、いつもとは「コミュニケーションのモードを変える」ためにあえて行っているところもあります。
要するに、通常の仕事モードから、時空間をいったん「区切って」、しっかりと相手に相対するということです。
その際のポイントは、いつもと違うシリアスなモードで話すことです。
普段の話し方から切り替えて、区切りをつけることで、相手も「あれ? いつもと違うぞ」と感じ、緊張感を持ってくれます。
逆に、普段通りの話し方をすると、「またなんか言ってるわ」と、相手がこの指導の機会をあまり重要視しないかもしれません。
また、この段階になったら、大切なことが一つあります。
腹をくくってください。
相手から逃げないでください。
しっかりと相手に向き合ってください。
いったん始まったら、こちらも逃げられないのがフィードバックです。
このとき重要なのは、相手から目をそらさないことです。
これから言いにくいことを言うと考えると、フィードバックするマネジャーの方も挙動不審になり、目をそらしたり、体を横に向けたりしがちですが、そういう振る舞いをしても、相手に軽視されるだけです。
きちんと向き合うことで、相手も「真剣に聞かなくてはならない」という気になります。
私がフィードバックをするときには、最初の段階で、「今日はじっくり話し合いましょう。
そのために時間がいくらかかってもいい」「二時間でも三時間でもかまわない」「この後の予定は全部空けてある」などと言うことがあります。
時間は端的に「上司の覚悟」をディスプレイする効果を持ちます。
実際、フィードバックは想像以上に、時間がかかるものです。
多くのマネジャーが口にするように、厳しいフィードバックをするときは、たいがい、自分が想定していたよりも倍以上の時間がかかります。
一時間で終わると思ったら、二時間はかかると思った方がいいでしょう。
時間切れになって、フィードバックが中途半端になるのは最悪です。
部下は納得しないままモヤモヤした気分で過ごすことになります。
こんな状況では、改善されるはずがありません。
覚悟を決めて、しっかりと向き合うことです。
チェックポイント 2.あなたは、ロジカルに事実を通知できているか?
フィードバックでは「耳の痛いこと」を相手に鏡のように「事実ベース」で伝えます。
繰り返しになりますが、そのためにはデータが必要です。
しっかりと部下を日頃から観察して、データを収集しておきましょう。
特に重要なのは、 SBI情報です。
「どんな状況で( Situation)」「どんな振る舞いをしたことで( Behavior)」「どんな影響があった( Impact)」という「 SBI情報」を複数引き出しに持ち、それらをセットで伝えると、効果的です。
たとえば、いつも締切りに遅れる部下がいたとしましょう。
その場合、「君、いつも締切りに遅れてないか?」と抽象的に言うのではなく、「この仕事の提出が、締切りより三日遅れましたね。
その前にお願いしたこの仕事も、締切りを二日過ぎていました」というように具体的に SBIを述べます。
その上で、「なぜそれが迷惑なのか」「なぜその行動を直さなければならないのか」といった理由を、ロジカルに説明していきます。
このようにフィードバックで何より重要なのはロジカルであること(論理的であること)なのです。
「たかが締切りだと思っているかもしれないが、信頼を失って、契約を打ち切られてしまう可能性がある」などと、厳しいことも包み隠さず言った方が、部下もその深刻さを理解するでしょう。
強く意識したいのは、淡々と客観的なスタンスを崩すことなく、事実を元に話すことです。
「これは残念だと思う」「あなたはまだできると思う」と少し感情を加えるのはかまいませんが、出所があいまいなことを言ったり、一方的に決めつけるような物言いになったりすると、相手は反発します。
既述しましたように、その際に大切になってくるのが「 It seems( ~のように見えるよ)」と伝える話法です。
そして言うべきことを言ったら、「なぜ締切りに遅れてしまうんでしょうね?」と部下が話せる機会をつくってあげましょう。
こちらから一方通行的に情報を通知しただけでは、部下は腹落ちしていません。
現状とめざすゴールには「ギャップ」が存在していることを、しっかり認めてもらうことが次に重要になります。
チェックポイント 3.あなたは、部下の反応を見ることができているか?
通知をしたら、部下がどのような反応をするかを待ちます。
部下の顔、目、手などの動作を観察するのはもちろん、部下が何を言うか、しっかり反応を見極めます。
黙って素直に聞き入れてくれる、なんてありがたいことはほとんどないでしょう。
多くの場合、「そうは言いますけど……」と反論や言い訳をしたり、無言になってしまったりします。
こうした反応に一つひとつ対応していくことが重要です。
ここで大切なのが、腹をくくって相手の話を「聞き」、そのうえで対話を繰り返していくことです。
たとえば、締切りの例なら、「花粉症がひどくて仕事に集中できず、締切りに間に合わなかった」などと言ってくる場合があるかもしれません。
その場合には、「花粉症を持っていて、仕事に差し支えているんだね。
それは気の毒だね。
でもね、仕事人ならば、それにどう対処すればいいんだろう。
放置しておいていいのかな。
この時期に花粉症で苦しくなることが最初からわかっているのなら、病院に行って、薬をもらってくることもできるはずだよね。
最近は眠くならない薬もあるよね」「花粉症がひどくて集中できないんだね。
それは大変だね。
でもね、集中できないとわかっているなら、少しスケジュールに余裕をもたせるべきじゃないの?」などと返します。
ここで大切なのは、相手の言っていることをいったん「リピート」して、受け入れることです。
「花粉症を持っていて、仕事に差し支えているんだね。
それは気の毒だね」「花粉症がひどくて集中できないんだね。
それは大変だね」という部分が、いったん相手を「受容」している部分です。
しかし、フィードバックのときには、決してここでひるんではいけません。
「相手の反応を受けたら」、必ず「返す」ことです。
常に「でもね」と返す刀で「返答」をしていきます。
ここでは「病院に行って、薬をもらってくることもできるはずだよね。
最近は眠くならない薬もあるよね」「集中できないとわかっているなら、少しスケジュールに余裕をもたせるべきじゃないの?」という具合に、「仕事人として相手がなすべきこと」を指摘していきます。
こうしたタイプ別の対処法は次章で詳しく解説しますが、共通するポイントは、感情的にならずに、まずは徹底的に聞いて、受け入れ、そのうえで「返すこと」です。
どんな反論や反発でも、聞いていれば「論理のほころび」が出てきます。
この「論理のほころび」こそが、刀を返すチャンスです。
かくして「対話」が続きます。
マネジャーの中には、このような状況で、部下の話を聞くことは「部下に負けているような気がする」とおっしゃる方がいます。
しかし、それは違います。
フィードバックとは、 受け入れて、攻めること。
負けて、勝つこと。
なのです。
フィードバックにおいて「聞くこと」は、「論理のほころび」を待つことなのです。
チェックポイント 4.あなたは、部下の立て直しをサポートできているか?
部下が納得したら、今度は反転して、一緒に立て直し策を考えます。
「耳の痛いこと」を一方向的に通知することだけがフィードバックではありません。
図表 13でも見ましたが、フィードバックの後半は「成長の支援」なのです。
立て直し策を一方的に押しつけると、部下は納得しません。
最終的に何をするかは必ず部下に選ばせましょう。
たとえば、先ほどの「締切りに遅れる部下」でいえば、「見積もりが甘いからいけないんだ。
三日前に必ず報告しろ」などと押しつけるのではなく、「どうすれば遅れずに済むだろう?」と言って複数の策を考えてもらい、自分で選んでもらうのです。
その際に、「振り返り」が重要であることは、先に述べました。
過去・現在をしっかり振り返ったうえで( What?)、何がよくて何が悪かったのかを考えさせ( So what?)、未来の行動の指針をつくっていきます( Now what?)。
この場合であれば、「 Now what?」の部分では、「ゴールから逆算してスケジュールをきちんと立てる」「スケジュールにバッファを設ける」「スマホのリマインダーを使って、期限を意識する」などといった対策が出てくるでしょう。
しかし、ときに部下は、トンチンカンな対策を出してくることもあります。
たとえば、よくあるのが、トートロジー(同義語反復)です。
どうすれば締切りを守れるか? という質問に対して、「締切りを守ります」と同じ言葉を言い返してくるのです。
これでは対策にも何にもなっていません。
しかし、そこは穏やかに聞くのが、大人の対応です。
「締切りに遅れるに至った行動を分析しないと、改善しないよね?」と論理の矛盾を突きつけ、問題を深掘りしていきましょう。
チェックポイント 5.あなたは、再発予防策をたてているか?
フィードバックのクロージングでは、上司は部下に期待を伝え、その後に、「再発予防策( Relapse prevention)」も考えてもらうとよいと思います。
「再発予防策」は、もともとアルコール依存症やギャンブル依存症など、依存症の治療として発展してきた手法です。
たとえば、アルコール依存症の人に「飲むな」と言っても、病院から出てきて目の前にビールの自動販売機があればどうしてもそれを買いたくなってしまいます。
そこで、再発の原因として考えられることを次々と挙げてもらい、「こうなったらどうするの?」と一つひとつ対応策を考えていきます。
「再発する可能性が決して低くはないこと」を前提に、事前にその対応策を考えてもらうのです。
たとえば、締切りに遅れる原因を部下に挙げてもらうと、「締切り前にできると思っていた」とか「やることがありすぎてパニックになってしまった」というようなことを言ってくるかもしれません。
それらの再発の可能性に対して、「締切り直前に、仮の締切りを設けておく」とか「パニックに陥りそうになったら、上司と仕事の優先順位を話し合う会議を持つ」などと、対策を事前に決めておくわけです。
このように、本人自らにあらかじめ先回りして考えさせることも、トラブルの再発防止に非常に役立ちます。
以上、フィードバックのプロセスの中で、特に難しいところをチェックポイントとして五つ紹介させていただきました。
ちなみに、フィードバックは、通常、すべてのプロセスを丁寧に行うと、一時間から二時間はかかることが多いものです。
互いの「合意解」、「納得解」をつくりあげるには、それぐらいの時間はかかります。
忙しいとは思いますが、フィードバックをするときは、それぐらいの時間を使うことは覚悟してください。
また、フィードバックをした後、部下が反省した姿を見せ、自分で立て直し策を考えたとしても、その後、順調に立て直していけるかというと、なかなかうまくはいきません。
大人になるほど、人はそう簡単に変わらないものです。
そのときに重要になるのが、事後に行うフォローアップです。
具体的には、フィードバック後に、定期的に何度か面談を設定し、フィードバックで約束した内容が履行されているのかどうかをチェックし、また、必要な場合には、部下の立て直しにつきあうことになります。
私は、本書で、フィードバックは「耳の痛いことを伝えるだけでなく、部下を立て直す技術」と言いました。
フィードバックが「いかに立て直すか」だとすれば、その後の観察は「いかに伴走するか」だと言えます。
そこで大切なのは、フィードバック後も「 1 on 1」などの「上司─部下」の面談を定期的に行い、部下をフォローし続けることです。
面談に関しては十五分程度の短時間でかまいませんが、二週間に一回ぐらいはできるとベターです。
フィードバックを無駄にしないためには、こうして根気よくフォローをしていくことが大切です。
さて、以上、前章のおさらいを兼ねて、フィードバックのチェックポイントを五つ述べてきました。
ここから先は、フィードバックにまつわる Tips(コツ)を「実践知」としてお伝えしていきます。
Tips :フィードバック前には必ず「脳内予行演習」
世の中には、フィードバックのうまいマネジャーがいらっしゃいます。
そうした方々に話を伺うと、かなりの確率で、彼らがフィードバックの前に「脳内予行演習」をしていることに気づかされます。
フィードバックは、ブラックボックスの中で一対一で行うのが一般的であり、そうであるがゆえに、平常心を保つのが難しく、ついつい自分の「悪い地」が出てきてしまうものです。
平素からカッとなりやすい人は、フィードバックではさらにカッとなりやすくなります。
日頃から、なかなか部下の話を聞けない人は、強いストレス下では余計に部下の話が聞けなくなります。
部下が反発すれば、動揺することもありますし、変な言い訳ばかりされると、だんだんと頭に血が上ってきます。
しかし、こういうときこそ、「発言」に注意してください。
感情的になってしまっては、フィードバックが「パワハラ化」してしまうのです。
最近は、面談の内容をスマートフォンや ICレコーダーなどで録音する部下もゼロではないようです。
パワハラの証拠として人事に駆け込めるように録っているようですが、その音声をネット上に流す人がいるという噂も複数耳にしました。
あくまで感情的にならず、冷静に行う。
それがフィードバックです。
こうしたトラブルを防ぐために、私がすすめているのはフィードバックの直前に行う「脳内予行演習」です。
「脳内予行練習」とは、部下の問題点をどのようなロジックで伝えるか、(事前に)作戦をたてることです。
観察や「 1 on 1」などで集めた情報を元に、どのようなことを話すか、 A 4サイズの紙一枚に簡単にまとめておけば、頭が整理され、体系立てて話すことができます。
それに加えて、「部下に言い返されたらどのように答えるか」というようなことも脳内で予行演習していくとよいでしょう。
繰り返しになりますが、フィードバックを黙って受け入れる部下は、ほとんどいません。
たいがいは、言い訳や反論をしてくるはずです。
その中には、一理ある言い分もあるでしょう。
そうした反応を可能な限り想定しておき、どう返すかを考えておくわけです。
フィードバックで最も多いケースは、「顧客が悪い」「メンバーが悪い」などと環境や周囲のせいにすることです。
それに対して、「環境や周囲のせいもあるかもしれないけど、あなた個人の行動にも問題があったのでは?」「このような悪い環境の中で結果を出すには、個人としてどう振る舞うのがいいんだろうね?」といった落とし所を考えておけば、堂々巡りになる確率を減らせるでしょう。
プレゼンやスポーツなどと同様に、フィードバックも、このような「イメトレ」が必須です。
必ず準備をして臨みましょう。
Tips :フィードバックの内容も記録する
フィードバックの最中には、部下がさまざまなことを言ってきます。
フィードバックの途中でそれができるかどうかは場面にもよりますが、フィードバック
フィードバックで部下が話した内容、上司と部下間で合意した内容については、きちんと「記録」しておくことをおすすめします。
発言内容をフィードバックの最中あるいは終わった後でもいいので、必ずメモしておきましょう。
すると、その後、「 1 on 1」をしたときに、「こんな行動をすると言っていたけど、その後どうなった?」などと確認できますし、言い訳や反論をされたときに、「論理のほころび」を探す材料になります。
かつて私がお会いした管理職の方の中に、その日の面談で話した内容を、自分だけでなく部下にもまとめてもらい、「提出」してもらっているという方がいらっしゃいました。
そうすると、備忘録になるだけでなく、部下が面談での話をどのように受け取っているかが確認できるそうです。
「自分が熱心に伝えたつもりの肝心なことがぽっかり抜けている。
もっと繰り返し言った方がいいな」「言ったつもりのないことが書かれている。
何か勘違いしているのではないか?」などということがよくあり、日頃の指導に役立っているそうです。
いずれにしても、メモなどで記録してフィードバックを振り返ることは非常に有効でしょう。
Tips :耳の痛いことを言った後で無駄に褒めない
フィードバックをするときに、注意しておきたいのは、せっかく指摘したことを台無しにするようなことを言わないことです。
ついついその場があまりにも厳しい場になったからといって、罪悪の念にかられて、無駄に部下を褒めないでください。
先述したように、最もありがちなのは、「厳しい指摘をした直後に、相手を褒めたりすること」でしょう。
たとえば、取引先に多大な迷惑をかけた部下に対して、「でも、君の行動力は買っている」とか「お前にも良いところがある」と褒めたりします。
厳しいことを言って、相手がしょんぼりしていると、フォローを入れたくなる気持ちもわかりますが、下手に褒めたりねぎらったりすると、ポジティブな発言の方にスポットが当たってしまい、厳しいことを指摘した効果が薄れてしまいます。
特に、なんでも自分の都合のよいように受け取る人にフォローをすると、フィードバックの内容を完全に忘れてしまいかねません。
くどいようですが、フィードバックは、鏡のように、淡々と事実を述べるのが正解です。
フィードバックを聞き入れて、問題行動が改善されたというならば、大いに褒めていいと思いますが、フィードバックの直後は無駄に褒めないことを心がけてください。
ちなみに、フィードバックを台無しにするという意味では、「人事や社長のせいにする」のもやめておいた方がよいと思います。
「人事がそう言うから、仕方なく厳しいことを言うよ。
俺はそうは思っていないけどな」「社長の方針だから、我慢してここは従ってくれ」 自分の責任ではないことをアピールするためなのでしょうが、こんなことを言われたら、部下は素直に自分の行動を改善する気にはなれません。
そもそも、マネジャーの仕事は、経営陣からおりてきた方針を、わかりやすく一般社員に伝えることであり、それができないなら、マネジャーは不要です。
管理職となったら、経営陣の方針を、咀嚼して部下へと落とし込む「代弁者」としての覚悟を決めるしかありません。
フィードバックは 腹をくくってください。
逃げないでください。
Tips :フィードバックは「即時」と「移行期」にこそ行う
先に述べましたように、フィードバックには鉄則があります。
一つ目は「即時フィードバックの原則」です。
「鉄は熱いうちに打て」という言葉がありますが、フィードバックが必要だと感じたら、できるだけすみやかに、その機会を設けることが大切です。
なぜなら、何か問題が起きた後、時間が経ってから指摘しても、部下の心に響かないからです。
また、トラブルの場合は、時間が経てば経つほど、こじれて元に戻しにくくなります。
ただし、ちゃんと事実確認をしないままフィードバックをすると、間違えてしまうこともあるので、急ぎ過ぎない方がいいですが、問題が起きてからなるべく早く指摘したいものです。
第二の原則は、フィードバックは「移行期」にこそ効くということです。
といいますのも、フィードバックが効きにくくなるのは、年齢だけでなく、長く同じ仕事や役割を担当している人にも同じことが言えるからです。
課長に昇進した人にしても、一年目は初々しいのに、三、四年経つと、もうフィードバックが効かなくなることがあります。
仕事における役割が変わることを人材開発の用語で「トランジション (Transition:移行期) 」といいます。
このトランジションがあった直後というのは精神的に不安定になる一方、外からの声を受け入れて変わりやすいときでもあります。
「カチンコチン」にかたまってしまってから厳しいフィードバックで変化させるのは極めて大変なことですから、マネジャーの皆さんは、部下のトランジションの時期を逃すことなく、フィードバックすることが大切です。
Tips :フィードバックで沈黙されたときには時空間を変える
フィードバックをしていると、部下が何も言葉を発さなくなったり、同じことを言い続けて譲らなくなったり、いつまでも泣いていたりといった膠着状態に陥ることがあります。
次章でお話しするような「タイプ別」の対処法もありますが、「こんな状態では前向きな会話ができないな」とマネジャーが感じてしまう瞬間はいくらでもあるでしょう。
専門用語では、こうした状態のことを「 Uncoachable(コーチ不能:アンコーチャブル)」といいます。
部下がそんな「 Uncoachable」な状態になったときには、これ以上、会話を続けても無駄です。
なぜなら、彼らはすでにパニック状態になってしまっているので、こちらの言葉も受け入れることはできないからです。
その日は切り上げて、別の日に改めて面談をしましょう。
すると、ヒートアップしていた部下も冷静になるので、フィードバックを受け入れやすくなります。
「別の日にもう一度面談するほど、時間がない」という場合は、場所を変えるのも一つの手です。
外に行かなくても、会議室を変えるだけでもかまいません。
そうして時間や空間を変えると、互いに気分が一新され、建設的な話し合いができるようになることがあります。
部下も決して何も考えていないわけではないので、時間を与えると、落ち着きを取り戻し、客観的に考えられるようになります。
すると、自分の置かれた状況を自分なりにポジティブに意味づけて、現状を受け止めてくれるのです。
このまま続けてもラチが明かないと感じたら、ぜひ試してみてください。
Tips :フィードバックがもたらす強烈なストレスと向き合うには?
フィードバックは密室の中で行われる厳しい会話なので、それはマネジャー側にも、非常に多くの精神的ダメージをもたらします。
多くのマネジャーは、面談をする準備として、作戦会議をして、 A 4のメモをつくっている時点で、すでに鬱屈とした気分になってきます。
ほとんどの人は大なり小なりストレスを感じることでしょう。
あるマネジャーは「『 1 on 1』やフィードバックには、しっかりと体調を整えて臨みます。
睡眠不足だと、必ずボロが出てしまうし、何よりどっと疲れる」と言っていましたが、私も同感です。
フィードバックを成功させるためにも、自らの体調管理のためにも、万全の体調で臨むようにしましょう。
こうした心的ストレスを軽くするためには、中堅の部下を活用して、自ら担当する「 1 on 1」やフィードバックの数を減らすことも有効です。
先述しましたように、「スパン・オブ・コントロール( Span of control)」という概念があります(注 28)。
「スパン・オブ・コントロール」とは、一人の上司が抱えることのできる部下の人数のことです。
一般的には五 ~七人であることが知られています。
たとえば、あなたが一〇名の部下を抱えている場合、一〇名の部下に対して、「 1 on 1」を行ったり、フィードバックを日常的に行うのは、このスパン・オブ・コントロールを超えている可能性があります。
その場合には、あなたと末端の部下とのあいだにもう二名、中間のリーダークラス
クラスを備え、彼らに「 1 on 1」やフィードバックを担わせることも一計です。
そのようにして、自らのメンタル面を保つことも、マネジャーに求められることの一つです。
Tips :「嫌われるのも仕方がない」という覚悟を持とう
ここまで、フィードバックの基本的な進め方や準備の方法などについてお話ししてきましたが、どんなに準備をしても、フィードバックをすることで、部下から嫌われたり憎まれたりすることはあります。
一般従業員時代に周囲から好かれていた人ほど、ショックを受けるかもしれません。
それにフィードバックの成果はなかなか出ませんから、「本当にこんなことを言って良かったのか?」「ちょっと言い過ぎたのでは?」と自己嫌悪に陥ることもあるでしょう。
しかし、誰かが言わなければ、部下は成長しませんし、あなたの部署の業績も上がりません。
支援できるのは、管理職であるあなたしかいないのです。
そして、業績が高まっていく職場をまとめていくのも、管理職であるあなたしかいません。
パワハラなどは論外ですが、耳の痛いことを言って嫌われるのは、管理職の役割の一つです。
嫌われることも「役割」なのです。
部下に一時的に嫌われることにはなるかもしれませんが、部下には、仕事のあり方を立て直してもらわなくてはならない。
そのようなときに躊躇してはいけません。
そんな覚悟を持ってフィードバックに臨めば、短期的には辛い思いをしても、長期的には必ず部下から感謝される日が来るはずです。
ある企業のマネジャーは、部下に耳の痛いことを指摘するのが嫌で、長いこと、彼らに何も言いませんでした。
しかし、部下の業績や勤務態度は悪くなる一方。
ついには社内でも問題になり、いよいよマネジャーが指摘をしなければならない局面になったそうです。
しかし、そのような段階になっては「もう遅い」のです。
しかも、当の部下からは「もっと早く指摘してほしかった」と言われたそうです。
「鉄は熱いうちに打て」とお話ししましたように、時期が遅くなればなるほど、変わることは難しくなります。
一時的に嫌われることを恐れて、放置しておけば、部下はますます変わるタイミングを逸していきます。
管理職は、嫌われて、感謝されるのです 。
管理職にとって、たとえ嫌われたとしても、耳の痛いことをしっかりと伝えることは、大切な「役割」の一つです。
しかし、中には、それでも、どうしても割り切れない人もいらっしゃるかもしれません。
その場合には、フィードバックをする前に、「自分は、職場を良くするために、管理職という役割を演技しているだけで、本心から言っているわけではない」と考えてはいかがでしょうか。
あるいは、「フィードバックではなく、成長支援をしている」という捉え方をするのもよいでしょう。
たかが捉え方の違いと思うかもしれませんが、それだけでも、精神的には少し楽になるものです。
そうすれば、多少辛辣なことを言うのも仕方がないし、嫌われるのも当たり前と思えてくるでしょう。
また、同じレベルの管理職で集まって、最近、どんなフィードバックをしたのか、情報交換をするのも良い方法です。
強ストレス下で行われるフィードバックは、一時的に「毒性感情」を高めてしまうこともあるのです。
抱えているモヤモヤを、皆ではき出せば、一種の「解毒」になります。
同じ社内の管理職同士であれば、誰がどんな働きぶりなのか、情報を共有することで、「面の育成(管理職全体で「面」をつくり、育成を分散しながら担うこと)」にもつながります。
誰かが悪かったという話だけでなく、良かったという話もできればベストです。
そこで得た情報をうまく活用すると、部下のモチベーションを大きく高められます。
たとえば、この場で、一人のマネジャーの下にいる M君が頑張っているという話が出たとします。
それを聞いた他のマネジャーが、 M君とエレベーターなどで一緒になったとき、「 M君、頑張っているみたいだね」「君の上長が言っていたよ」などと声をかけると、 M君のモチベーションは俄然高まります。
上長に直接言われるより、他の人に言われた方が、白々しい感じがないので、何倍も嬉しいのです。
こうした意味でも、管理職同士の解毒会議はおすすめです。
Tips :どうしてもフィードバックが難しいときもある
こうしたフィードバックの入門書では、あまり語られないことですが、フィードバックについて頭に入れておきたいことがあります。
それは、あなたが、どんなに部下の成長を願い、心を込めてフィードバックをしても、「変わらない部下」というのはいるということです。
残念ながら、フィードバックをどんなにうまく行っても、変わらない人というのはいます。
私たちは、そうした場合がありうることをまずは認めましょう。
そして、そのときには過剰に自分を責めないでください。
相手は「大の大人」として、意志を持って「変わらないこと」を選択しているのです。
さて、そのようなときにはどうすればいいのでしょうか。
時間と精神的余力が無尽蔵にあれば、そうした部下にも時間をかけて成長支援し続けることもありうるのかもしれませんが、現実には時間が足りなくて困っているマネジャーばかりのはずです。
そのようなときに、私はフィードバックで相手が立て直すまでの「期限」を決めることをおすすめしています。
一般的に三回 ~五回くらいでしょうか。
それまでは、相手の成長を信じ、フィードバックをします。
相手にも、「変わるまでには猶予や期限があること」を通知していきます。
しかし、それでも、どうしても、部下が自分を変えようとしないならば、いわば「外科的手術」しか方法はありません。
それは、配置転換、降格、組織からの退出ということになります。
フィードバックは、配置転換、降格、退出などの血生臭い人事施策とセットで考えるのが「鉄則」です。
人材開発の研究者がそんな「血生臭いこと」を言うな、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
一般に人材開発は「青臭い働きかけ =相手の成長を信じ、支援をすること」から始まります。
たいていの場合は、それで何とか奏功すると思いますが、はなから変わる気のない相手もいます。
その場合には「血生臭い働きかけ」を行わざるを得ません。
ただし、ここで重要なことは、安易に「外科的手術」に走らないことです。
まずは部下の成長を期待し、信じることから、私たちは始めたいと思います。
しかし、この世には、手術でしか治らない病もあります。
その際には、自信をもって「決めて」ください。
病巣を放置しておけば、組織や職場そのものが病に冒されてしまうこともあるのですから。
職場全体を健全な状態に保ち、業績を上げる状態をつくりだすことができるのは、管理職であるあなたしかいないのです。
さて、本章では、フィードバックを行ったときに特に難しい点や Tipsについて述べさせていただきました。
次章では、フィードバックを行ったときに実際に起きやすい困った事例をタイプ・シチュエーション別に Q& Aで論じています。
さらに深掘りされたフィードバックの「実践知」をぜひお楽しみください。
なお、本章以降の章末(三章末・四章末・五章末)には、現役マネジャーによるフィードバック体験談も収録しました。
ふだん、なかなか表に出ない現役マネジャーたちのフィードバック経験です。
「賢者は他者の経験から学ぶ」というのは古からある名言ですので、これをよい学びの機会にしてください。
コラム 現役マネジャーが語る匿名「フィードバック」経験談
実際にフィードバックをするようになると、うまくいかないことも出てきます。
そのときに参考になるのが、他社のマネジャーたちの経験です。
フィードバックの多くは「ブラックボックス」に閉じられていますが、ここでは、そのベールをはがし、他者の経験に学ぶことを試みたいと思います。
業種は違っても、行き詰まるポイントは似通っているものです。
今回は商社、外資系企業、シンクタンクと毛色の異なる三社の現役マネジャーに、どのようにフィードバックを行っているのか、話を伺いました。
ぜひあなたのフィードバックの参考にしてみてください。
■フィードバック事例 1大手商社 部長・森岡卓さん(仮名・五十三歳)
大手商社で部長を務める森岡さん。
三年前に異動してきたとき、問題が山積していた部署を立て直すために、フィードバックや、それを支える面談の仕組みを自部門に取り入れました。
その結果、コミュニケーションが円滑になり、大きな問題もなくなったそうです。
五〇人の部下と、年二回の面談を通じて、現状を把握する──森岡さんの部署では、独自にフィードバックや個人面談などの仕組みを取り入れているそうですね。
森岡 はい、もちろん人事とは連携していますが、会社全体の取り組みというのではなく、自主的に行っています。
きっかけは、二〇一四年に、今の部署に異動してきたとき、職場環境が荒れていたことです。
状況を把握しようと思い、部下たちと面談をすると、仕事をまったくしない部下や、部下に暴言を吐きチームワークをぶち壊すマネジャーなど、問題児の話題がこれでもかと出てくる。
一年間で浴びていい限度を超えたネガティブなブローを、ものの三日間ぐらいで浴びてしまいました(笑)。
これは、生半可なことでは修正が効かないぞと思い、フィードバックや面談の仕組みを取り入れようと考えました。
──現在では、どのようにされているのですか?森岡 まずは、すべての部下との個人面談を、年二回行っています。
正社員のうち総合職は一時間、一般職は三十分、正社員ではない契約社員や派遣社員とも十五分ほど時間をとっています。
総合職の方はキャリアプランなどの話もするので、多めに時間をとっていますが、いろいろ忌憚なく話してくれるようでしたら、契約形態に関係なく、時間の許す限り、とことんつきあいます。
さらには、「振り返り会」といって、二カ月おきに、自分の直属の部下にあたる課長やマネジャーに対して、マネジメントに関する振り返りを促す個人面談も行っています。
──それだけやると、かなり大変ではありませんか。
森岡 そうですね。
正規・非正規を問わず考えると、私の部下は五〇人ほどいるので、一人三十分ずつやったとしても、一週間は面談しっぱなしになります。
他の業務もありますから、肉体的にも精神的にもかなりキツくなりますが、個々の部下や職場全体の状況を把握するには、個人面談が一番だと思っています。
これだけの数の人に話を聞くと、職場の人間模様が立体的に浮かび上がってくるんです。
すると、よく働いているように見えていたけど、女性のアシスタントさんからはすごく乱暴だと思われている部下がいたりと、管理職である自分だけでは気づかなかった点が見えてきます。
また、従業員同士のコミュニケーションも停滞していたので、それが活発になるように、さまざまな面談を増やしました。
半年に一回、課長と別の課長で話す機会をつくったり、役職も課も関係なく、ペアになって月一回話すという「ペアインタビュー」という仕組みも導入したりしています。
──それで、コミュニケーションは円滑になりましたか?森岡 当初と比べると、格段に良くなりました。
ほんのちょっとコミュニケーションを取れば済むのに、取らないことで互いに誤解が生じ、うまく進まなくなることってよくあると思うのですが、そうしたトラブルが大幅に減りましたね。
ただ、それでも、問題を起こす部下は出てきます。
そうした部下に対しては、フィードバックを行っていきました。
その成果か、赴任した当初と比べると、部署の業績も上がっているし、アンケートの職場満足度も高くなっている。
改革はまずまずうまくいっていると思います。
実名を挙げてでも、ストレートに指摘する──フィードバックをするときに心がけていることはなんですか?森岡 心がけている、というわけではないのですが、割とストレートに、そのまま、自分の見たものや感じていることを提示してしまいます。
たとえば、 Aさんという課長がいました。
自己承認欲求がけっこう強いタイプではあったのですが、仕事はきっちりしていて、内部管理が得意なタイプ。
私が赴任した当時はそれほど悪い評判ではなかったのですが、ある日個人面談をしたら、 Aさんの課内での評判が著しく悪くなっていたのです。
理由を聞いてみると、しょうもない話なんですが、月に一回、部下たちのためにスイーツを買ってくるらしいんですよ。
──それだけ聞くと、悪い人には聞こえませんけどね。
森岡 そうなんですけどね。
ところが、そのスイーツを買うことがだんだんとルーティンになってきて、周囲からは、恩着せがましい態度に見えるようになっていったらしいんです。
で、その日に休んだ部下のことを「せっかくの俺のスイーツの日なのに、あいつ休みなのか」と言ったり、照れ隠しで「これは、あくまで上司の仕事としてやっているんだ」と部下のいないところで言っているのを折り悪く部下に聞かれたり、最後には同格の課長に「お前も買え」と言い始めたりといったことがありました。
これで、皆に総スカンを食らい始めたんですね。
そこで、 Aさんを呼び出してこう言いました。
「君の買ってくるスイーツ、評判悪いぞ」と。
さらに、「部下の中には、こう言っているものもいるし、ああ言っているものもいる。
よかれと思ってやっていることかもしれないけれど、部下には、別の見方で見られているかもしれないぞ。
そんなつまらないことで信頼を落とすのは、損に見えるけど、どう思う?」と、批判されている内容を具体的に伝えました。
──直球勝負ですね。
森岡 直球勝負は、他の人も同じです。
酒ぐせが悪くて、飲み会で男女にかかわらずやたらと肩を強く叩く Bさんというリーダーがいたのですが、彼にも「君、酒飲むと乱暴になるって、周囲からすごく嫌がられているよ」と言いました。
──それで皆さん、改善できたのでしょうか。
森岡 Bさんはすぐに謝って反省したのであまり問題はなく、今も要職で活躍中です。
Aさんの方は、たまたまその後すぐに転勤になったので、効果があったのかよくわかりません。
もしかしたら恨まれているかもしれませんね。
でも、恨まれようがなんだろうが、言わなければ、大勢が不快な思いをし続けていたでしょうし、何よりも、本人が気づけないままだったでしょう。
そういう内容のフィードバックは、逡巡していてはいけないと思います。
──森岡さんがそれだけ思い切ったことを言えるのは、年二回の全員面談などで、情報を集めていることも大きいでしょうね。
森岡 そうですね。
確信が持てないことは、ここまで強くは言えません。
正確な実態を把握せずに、自分の印象で強く言っているだけでは、間違いなく部下に愛想をつかされると思います。
ストレートに、しかし決めつけない
──その他に、フィードバックで心がけていることはありますか?森岡 ストレートに言うことと少し矛盾するように思えるかもしれませんが、「決めつけない」ことは心がけています。
いくら情報収集をしても、絶対的に正しい事実をつかめるということはありえません。
物事というのはすべて関係性の中で相対的でありますから、真実は一つではないはずです。
だから、自分が何でも知っているとは思わず、「こういうふうに見えるよ」とか「こうなんじゃないのか?」などと、断定しないようにして、できるだけ客観的事実を並べるようにしていますね。
──ストレートに、しかし、決めつけない、というのは名言ですね。
あとは、「なるべく冷静に言うこと」も心がけています。
その方が、相手に響くと思うからです。
というのは、私のマネジメントの師匠が、すごく激昂する人だったんですよ。
そういうタイプの人が、たまに冷静に言うと、すごくこたえた。
たとえば、部下が辞めてしまって私がとても落ち込んでいるときに、飲みに誘ってもらったんです。
なぐさめてくれるのかと思ったら、その上司は冷静にこう言いました。
「あのさ、落ち込んでいるときに悪いけど、部下が辞めたのは君のせいだからね」「君に人間的魅力がないから辞められるんだよ」と。
──ハハハ、それはキツイですね。
森岡 激昂しているときには何を言われても「何を言ってるんだ、このオッサン」くらいにしか思っていなかったのですが、珍しく冷静に言われたのには、ひどくこたえましたね。
ちなみにこの件は、私の心に、よほど深く刻みつけられているらしく、先日、部下の課長に対して、「部下が辞めたのは、君に魅力がないせいだ」と同じことを口走ってしまいました。
フィードバックは連鎖するようです(笑)。
部下に面談の議事録を書いてもらい、その理解度を確認する──面談の内容は、どのようにストックしているのですか。
森岡 面談が終わった後で、部下にまとめてもらったものを、私の元に送ってもらうようにしています。
これは自分で議事録を書いている時間がないというのもありますが、もう一つ狙いがあります。
それは、部下が本当に私の話の内容を理解しているのかどうかを知るためです。
たとえば、先ほど Aさんという課長の話をしましたが、彼にフィードバックをしたとき、その議事録には、四十五分近く話したスイーツの話が、わずか二行しか書かれていませんでした。
頭にきているから書けなかったのでしょう。
まだ消化できていないということがひしひしと伝わってきました。
また、この議事録には、面談の最中に言いそびれたことも書いていいことにしています。
面談の後に「そういえば、あれを言い忘れていた!」と思い出すことは、よくありますからね。
こうすることで、部下の理解をより深められるように努めています。
──これだけ情報収集をされていれば、フィードバックが成功する割合も高いでしょうね。
森岡 素直に受け入れてもらえることも多いですが、さすがに、すべて成功しているわけではありません。
たとえば、マネジャーをしていた Hさんは、どうにもなりませんでした。
四十代半ばで、国際経験がほとんどなかったものの、人事から「ぜひ森岡さんの部署に」と推薦されたので OKしたのですが、遠慮しているのか、なかなか自分から動こうとしない。
そのうち部下の方も敬遠するようになってしまったので、半年くらいの時点で、「さすがに存在感がなさ過ぎないだろうか? 君が、この組織に対して貢献できることは、今のあり方ではないと思うがどうだろう?」とフィードバックしました。
本人も苦しんでいるようでしたが、それでも一向に変わらない。
頑張り過ぎて高圧的になっているとかなら、まだ対処のしようがあるのですが、とにかく沈んでいるだけなので、逆に手に負えない。
結局、一年で異動してもらいました。
正直言って、この人に対しては何をフィードバックすれば変えることができたのか、いまだにわかりません。
そもそもフィードバックでは改善できなかったケースだったのかもしれません。
また、被害者意識が激しかった一般職の女性がいたのですが、この人も変わる雰囲気がなかったので、配置換えをするしかありませんでした。
──言っても変わらない人はいますからね。
ある程度は配置換えもやむを得ないことだと思います。
森岡 そうですね。
ただ、他の部署に異動してもらうのは、自分の部署にとってはプラスに働くのかもしれませんが、会社全体や異動先から見たら、プラスとは言い切れません。
全体的なことを考えれば、自分の部下だったときに、少しでも良い方向に進むようフィードバックをすることが、中間管理職の責務だとは思っています。
──本日はありがとうございました。
解説 森岡さんの事例で最も印象的なのは、「ストレートに伝えるけれど、決めつけない」という森岡さんの姿勢です。
日頃から、「 1 on 1」を繰り返し、情報を収集しているだけに、このようなストレートなフィードバックが可能になるのだと思いますし、その上で森岡さんが「決めつけない」ように配慮しているところも印象的でした。
また、森岡さんは、自分の行ったフィードバックが、部下にどの程度刺さっているかを、部下からの報告書で確認しています。
自分としてはしっかりフィードバックしたつもりでも、案外、相手に響いていないことは、よくあるものです。
その点、このやり方は非常によい方法だと思います。
注 28 Gittell, J. H.( 2001) Supervisory span, relational coordination and flight departure performance: A reassessment of postbureaucracy theory Organization Science, Vol. 12( 4), pp. 468-483
第三章 まとめ
●フィードバック実践 5つのチェックポイント 1.あなたは、相手としっかりと向き合っているか? ⇒「即時フィードバック」、シリアスモードを崩さない 2.あなたは、ロジカルに事実を通知できているか? ⇒「 SBI情報」を淡々と伝える 3.あなたは、部下の反応を見ることができているか? ⇒相手の言っていることを「リピート」して受容する 4.あなたは、部下の立て直しをサポートできているか? ⇒部下に立て直し策を「選ばせる」 5.あなたは、再発予防策をたてているか? ⇒再発するパターンを「先回り」して考える ●フィードバックにまつわる8つの Tips(コツ) Tips :フィードバック前には必ず「脳内予行演習」 Tips :フィードバックの内容も記録する Tips :耳の痛いことを言った後で無駄に褒めない Tips :フィードバックは「即時」と「移行期」にこそ行う Tips :フィードバックの沈黙時には時空間を変える Tips :フィードバックの強烈なストレスと向き合う方法 Tips :「嫌われるのも仕方がない」という覚悟を持とう Tips :どうしてもフィードバックが難しいときもある
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