「時間割」のある生活は快適
生活をパターン化する、「時間割」をつくるなどと言うと、窮屈でつまらない、そんな堅苦しい発想でいい仕事ができるわけがない、と思う人もいるでしょう。
しかし、それは大きな誤解です。
私が「時間割」をつくって「パターン化」した生活を提案するのは、それがラクで快適なスタイルだからです。
たとえば私は、夏は朝五時、冬は六時に起きます。
長年そうなので、体が慣れてしまい、目覚まし時計がなくても、なんの苦もなく起きることができます。
起きたらまず入浴&読書、次は朝食、次は……と、やることが決まっているので、頭も体も自動的に動いて、ムダな思考や行動が入る余地がありません。
また、夜は人と会ってお酒を飲んでいることが多いのですが、朝が早い分、夜は早々に眠くなります。親しい知人などは、「眠そうだから帰ったら?」と解放してくれます。
ときには楽しくて二次会、三次会とつき合い、深夜に帰宅することもないわけではありませんが、それでも翌朝五時半ごろには目が覚めてしまいます。
そのまま起きてしまうと、さすがにその日は睡眠不足で調子が悪い。
かといって起床時間をずらすと、入浴と読書の時間を削られてしまうので、それがストレスになります。
結局、夜は遅くとも一二時には就寝できる時間に帰宅するのが、自分にとって最も快適なペースだと体で分かっているので、無理をしなくても切り上げることができます。
食事の時間も同様です。
朝食は七時ごろにとらないと力が入らないし、昼は一一時半(なぜ一二時ではないのかは後で触れます)に食べないと気持ちが悪い。
そして夜の会食は七時からです。食事には、単に空腹を満たすだけでなく、リラックスしたり、脳を休ませたりという意味もあります。
それを一日のスケジュールの中でパターン化することで、頭と体のリズムを保つことができます。
逆に毎日毎日「今日は何時に起きよう」「何時に食事をしよう」「何時に家を出よう」などと考えて行動するのでは、それだけで時間のロスです。
また、睡眠や食事の時間が日によってバラバラでは、心身のリズムが狂いやすく、疲労の原因になります。
また、自分をストイックに律することができる人ならともかく、私も含めてそうでない多くの人は、パターンを決めておかないと、急に時間が空いてもすることが思いつかず、結局テレビをダラダラ見て過ごしてしまう、ということになりかねません。
「習慣化」で集中力も高まる
一日の時間割をつくることにはさらに大きなメリットがあります。それは、一つ一つの行動に時間の枠を設けることで、その枠内で完結させようというモチベーションが強く働くことです。
限られた時間の中で一定の成果を上げるために、やる必要のないムダなことが排除されるので、時間密度がぐっと高まります。
また、毎日決まった時間に始め、決まった時間に終わらせるとは、その行動が習慣化されているということですが、習慣化により集中力が高まることは、脳科学でも実証されています。
たとえば、『海馬』(新潮文庫)、『進化しすぎた脳』(講談社ブルーバックス)などのベストセラーを書かれている東京大学大学院講師の池谷裕二さんは、以下のように述べています。
ルーティンワーク化するということは、無意識化するということ。無意識の記憶を司る線条体が関与していると考えられます。繰り返すことで体が覚える。無意識だから苦にならない。そういう状態を一般的には、「集中している」と呼んでいるのです。
(「プレジデント」二〇〇七年四月一六日号)ここで池谷さんは、私が言う「パターン化」「習慣化」とほとんど同じ意味で、「ルーティンワーク化」と言っています。
残業せずに仕事を仕上げる「仕組み」づくり
もっとも大人の「時間割」は、学校時代と違って、そのとおりに動かなくても、誰も注意する人はいません。三日坊主に終わらせないための、何らかの「仕組み」が必要になります。
また、睡眠や食事の時間は自分で体に覚えこませることができても、仕事には、急に資料を揃えなければならなくなったり、打ち合わせが長引いたりするなど、自分でコントロールできない突発的な出来事がつきものです。
決めておいた時間までに終わりそうにないから、ちょっと居残りしてやっていこうかなという誘惑に駆られることもあるでしょう。
時間割を乱すタネには事欠きません。このとき、私の強力な「縛り」になっているのが、夜の会食のアポイントメントなのです。仕事であれプライベートであれ、人との約束は基本的にずらせません。
○時に○○で会うと決まっていれば、それまでに何としてでも、自分の仕事の片をつけなければなりません。
逆に、どんどん約束を入れていけば、イヤでもそのタイムリミットに合わせて動かざるを得ないということになります。
日本にいる間、可能なかぎり夜の会食のアポイントメントを入れるのは、それ自体がビジネスであり自己投資であるとともに、「時間割」を守って時間密度を高めるための「仕組み」でもあるのです。
ジムでのトレーニングも同じです。
私は、トレーニングは、健康づくりやダイエット、心身のリフレッシュにとどまらず、ビジネスパーソンに必要な判断力や発想力を養うのにきわめて効果的な自己投資だと考えています。
そこで、現在の私の「時間割」では、平日の午前中、九時から一一時までを「ジムの時間」として「天引き」してあります。
しかし、前日にタスクを積み残していたり、体がダルかったりすると、「今日はやめておこうか」となりがちです。そこで、パーソナルトレーナーに指導してもらうことにしたのです。
どんなに気持ちが乗らなくても、トレーナーとの約束があれば、行こうかやめようか、迷って時間をムダにする余地はありません。これも、「時間割」を守るための「仕組み」の一つです。
目的は「規則正しい生活」ではない
以上のように、「時間割」をつくって生活を「パターン化」することは、いいこと尽くめなのですが、カン違いしてほしくないのは、「時間割」は、あくまで成果というリターンを得るための時間投資であって、規則正しい生活を送ることそれ自体が目的なのではないということです。
この本で私が提案している「生活のパターン化」は、いわゆる九時―五時的な生活とは違います。
単に、朝は定時にきっちり出勤し、正午になると食事に出かけ、夕方五時になれば帰宅する、というだけでは、なんのリターンも生み出せません。そこには「成果意識」が欠如しているからです。
本書の冒頭でもお話ししましたが、知識労働社会で求められているのは「時間内は真面目に働く」働き方ではなく、「同じ時間で、より効率的に働く」「同じ時間内で、より多くの成果を出す」働き方です。まず「成果」というゴールありき。
それをクリアするために、俯瞰逆算スケジュールによって割り出したタスクを、確実に実行する「仕組み」が「時間割」なのです。
「時間割」をつくるときに、予定と予定の間を、ラインで区切るのではなく、一つ一つの行動をボックスのように枠で囲む形にしているのも、「この時間の枠内で、より多くのことをやる」という意識の表明です。
逆に、そのような意識さえあれば、オフィスに出てくる時間が五分遅れようが一〇分遅れようが、どうでもいいことなのです。
だから、これも、見ていただければ分かりますが、私の「時間割」は、イベントのタイムテーブルなどと違って、きわめてアバウトなものです。
面倒なこと、苦手なことこそパターン化
「時間割」には入れてありませんが、PDAとアウトルックで管理している私のスケジュール表には、「机の上を片づける」「たまった雑誌を整理する」「水やり」「猫の砂を交換」などの、日常のメンテナンス的な作業を「パターン化」して組み込んであります。
たとえば机の上が散らかってしまい、「片づけなければ」と思っていても、「今週は忙しいから、来週にしよう」などと、つい後回しにしている人は多いのではないでしょうか。
雑誌の整理も「せっかくだから、もう少したまってからにしよう」と思っていると、どんどん先延ばしになってしまいます。
そこで「机の上は、毎週金曜日に片づける」「雑誌は月末に整理する」などと、強制的にスケジュールに組み込んでしまうのです。
そうすると、机が片づいていようがいまいが、雑誌がたまっていようがいまいが、深く考えずに自動的にやるようになります。いちいち「備忘リスト」に書き込むまでもない。
やるべきか、やらざるべきか迷って、余計なストレスをためこむこともありません。面倒なこと、苦手なことほどパターン化させてしまうのが、ストレスをためずに処理する方法です。
ほかにも「イヤだな」と思う作業をリストアップし、それぞれについてパターン化してみるといいと思います。
なお、ここでもカン違いされやすいので言っておくと、私が机の上を片づけたり部屋を整理しようと思うのは、「きれいにする」という目的のためではありません。
きれいさの追求には限界がないので、やり出したらキリがありません。私の目的は、あくまで、探し物をしないで済む環境を整えること。
たとえば机の上が散らかっていると、必要な資料や文房具などを探すのにいちいち手間がかかってしまいます。この時間はムダ以外の何ものでもありません。
その点、よく使うものが常に同じ場所に置いてあれば、ストレスもかからないし、「どこに置いたっけ」と記憶を呼び覚ます労力も省ける。
私が整理整頓にかける時間は、そのための時間投資なのです。
時間がありすぎるから、時間がなくなる
ここからは、企業に勤めるビジネスパーソンが、「時間割」をどう活用したらいいか、考えてみたいと思います。
「時間割」はあくまで個人的なもので、組織で仕事をしていれば、当然、チームや取引先の都合を優先しなければならないケースがあります。
どうしても今日中に終えなければならない仕事があれば、いくら仕事は七時までと自分で決めていても、残業もやむを得ません。
でもだからといって、「会社員が時間割なんかつくっても無意味」ということにはなりません。
自分の「時間割」を持つことは、労働時間を自分でコントロールしにくい若いビジネスパーソンにとっても、とても大切です。
お話ししてきたように、制限時間を意識して仕事をするのと、時間感覚を持たずにダラダラと仕事をするのとでは、集中力がまったく違うからです。
先日も、ある知り合いが、新しい提案書を次週までにまとめることになって、「今週はずっと徹夜だ」と語っていました。しかし私に言わせれば、この発想はちょっと違う。
タイムリミットを設けずに、徹夜すればいい、朝までに終わらせればいいと思っていたら、おそらくいいアイディアは浮かんできません。
睡眠不足と長時間労働で疲れ果てるのが関の山です。逆に時間に区切りをつければ、人はその中でできることを真剣に取捨選択して考えるようになります。
その仕事に一日五時間しかあてられないのであれば、五時間を最も効率的に使えるように頭を働かせるはずです。
私たちはよく「時間がない」という言葉を口にしますが、むしろ時間がありすぎるから時間がなくなるのです。たとえば、夏休みの宿題。
休みはまだいくらでもあるから「いつでもできる」とタカをくくって手をつけずにいると、一カ月などあっという間に過ぎてしまいます。
そして八月末になって、今度は時間がないと焦りだして、徹夜して仕上げるか、親に泣きつく羽目になります。
もし夏休みが一週間ぐらいしかなかったら、同じ量の宿題が出ていても、計画的に進めて、もっとラクに終わらせられたのではないでしょうか。
現実には、まだキャリアの浅い段階は、仕事も遅いでしょうし、上司に残業を命じられたら断れないので、残業をまったくするなというのは、無理なことかもしれません。
しかし、そうだとしても、若いうちから、「限られた時間の中で、いかに成果を上げるか」「どう工夫すれば速く終わらせられるか」を常に考えて仕事をすることは、その後の人生で時間資産を築いていくための、格好のトレーニングになります。
日本マクドナルドホールディングスCEOの原田泳幸さんも、以下のように述べています。
残業が多い人は、「仕事が時間を消費する行動に陥っていないか」を検討したほうがいい。
仕事というのは、与えられた作業を終わらせることではなく、与えられた時間のなかで与えられた目的を達成することだからです。
(『とことんやれば、必ずできる』かんき出版)
一〇〇点が必要な仕事、八〇点でいい仕事
仕事では、常に一〇〇点満点を取る必要はありません。「八〇点でスピード勝負」の仕事も少なからずあります。
しかし時間の制限を意識しないと、そういう仕事でも一〇〇点をねらってしまう。受験勉強で言えば、教科書を丸ごと暗記するようなものです。
もちろん、映像や音楽、文学作品を生み出すクリエイティブ系の仕事のように、スピードアップや効率化になじみにくい仕事もあります。
しかし、一般に利益を追求するビジネスにおいては、仕上がりのクオリティは時間効率とセットで考えなければなりません。
そこで重要なのが、やるべき仕事で求められているレベルを見極めるということです。
多少時間がかかっても一〇〇点満点の精度を求められる仕事なのか、それとも八〇点でいいから、スピードを重視すべき仕事なのか。
この判断によって、処理はまったく違ってきます。
私がかつて携わった仕事で言えば、一〇〇点満点を求められたのがIRに関わる業務です。
投資家に対して投資判断に必要となる企業情報を提供するわけですから、間違いは許されません。
数字にミスがあれば、投資家の信用を一気に失ってしまいます。
特に最終的に数字をチェックする段階では、社員三人によるトリプルチェックを経たうえで、最終的に私が確認するようにしていました。
あるいは「顧客情報を絶対に漏らしてはいけない」といったシステムを構築するときも、一〇〇点満点でなければ意味がありません。
締め切りはもちろん重要なのですが、最終ぎりぎりのところでは、スピードよりも精度を優先する判断をすべきです。
一方、八〇点でいい仕事の例としては、新規事業の立ち上げがあります。ここで問われるのは、まずスピードです。
細かいところまで詰めていけば、やることはいくらでもありますが、そんなことをしていたのでは、他社に抜かれてしまいます。
重要なのは、八〇点でいいから、できるだけ早く立ち上げ、いち早く周囲に告知することです。足りない部分や新しいサービスは、後で追加・変更可能なケースがほとんどです。
もっと身近な例として、メールの処理にも二つのスタンスがあります。
たとえば重要な顧客に対する謝罪や、クレームへの回答のメールは、一〇〇点満点が要求されます。内容に間違いがないのはもちろん、誤字脱字も許されません。
すばやい対応が鉄則であるとしても、文面のチェックにあてる時間を省略すべきではありません。
逆に、ふだんからやりとりがある人への、ちょっとした報告や提案なら、少しぐらい誤字脱字があったり、文章がおかしくても、内容さえしっかりしていれば相手は気にしません。
それよりも早くリアクションをとるほうが、相手の要求により的確に応えることになるでしょう。
私の感覚ではありますが、一〇〇点満点を求められる仕事というのは、そう多くありません。一般的な仕事のほとんどは、八〇点の仕上がりで、代わりにスピードが求められるものでしょう。
どんな業界・仕事であれ、この点は共通していると思います。
「あいつは早く帰るヤツ」と思わせる
私は新人の会社員だった時代から、基本的に残業はしない主義でした。
どうしてもやることがある場合、そのほうがより成果が上がると判断した場合は残業しましたが、そうでなければ早々に退社していました。
そうなったのは、私自身、集中力が続かないため、残業しても意味がないことがよく分かっていたからです。
周囲の先輩を見渡しても、遅くまで会社に残ってやっている仕事には、かなりムダが多いように思えました。
また、会社に遅くまで残っていると、一緒に残った先輩や同僚と「じゃあ、一杯行くか」となることがあります。
私は会社の人間同士で飲みに行くこと自体はイヤではなかったのですが、それがモチベーションアップにつながったり、ふだんは聞けない仕事についての話をじっくり聞けたりするのでなければ、意味がないと思っていました。
しかし、残業の後の飲み会で話すことは、とかく会社の愚痴になりがちです。
あるいは最悪なのは、さして仕事があるわけでもないのに、周囲に気兼ねして帰れず、そのままズルズルと飲み会までつき合ってしまうパターンです。
それよりは、早く帰って外部の人と飲むほうが、比べものにならないほど多くのリターンを得られます。実際、私もそうしていました。
とはいえ、誘われていつも断ってばかりでは、人間関係が気まずくなる可能性があります。そうならないためには、誘われるような場自体をつくらなければいい。
そこで、自分の予定を入れて、誘われる前に会社を出てしまうようにしていたのです。究極的には、社内で「あいつは早く帰るヤツ」というイメージを持たれることが、円満定時退社のベストな方法だと思います。
もちろん、そのためには、自分の仕事をきちんと済ませ、常に一定の成果を出していることは大前提です。
セルフコントロールが苦手な人でも
すでに述べたとおり、人とのアポイントメントを入れてしまうことは、仕事に強制的なリミットを設けるという点で最適です。
人と会うことで、会社にいるだけでは得られない、さまざまなメリットがあるのは言うまでもありません。
そこから仕事の幅が広がることもあるし、新しいアイディアが浮かぶこともあります。
ただし、いわゆる異業種交流会とか名刺交換会といったものに出席しても、得られるものは少ないと思います。
私も若いころは何回か出席したことがありますが、目的が明確ではないので、単に覚えのない名刺が増えるだけでした。
人脈づくりもまた投資です。
人から何かを学びたいのであれば、自分のほうからも、その人に何かを提供できることが前提です。
そうでなくて、会に出てみれば何か得るものがあるだろうくらいの受け身の態度では、時間がムダになるだけです。
強制的なリミットという点では、スクールやセミナーも効果的です。
私の場合、サラリーマンになって二年目から、MBAのエッセンスが学べる、グロービスのビジネススクールに通っていました。
当時は自分で時間をコントロールできる立場にありませんでしたが、「通っています」と宣言して、定時退社をしていました。
「いつか時間ができたらやろう」と思っているかぎり、「いつか」は永遠にやってきません。
好きなことを仕事にしているプロ野球の世界でさえ、シーズンが始まる前にはキャンプを張って強制的に練習せざるを得ない環境を整えます。
もちろんチームプレーの練習という面もあるのでしょうが、キャンプがなく、完全に個々の選手のセルフコントロールに任せていたら、シーズンの始まりから十二分の力で活躍
できる選手は少ないでしょう。
ましてや、私のような、意志が弱くてセルフコントロールの苦手な人間だったらなおさらのこと。
そうせざるを得ない、動かないわけにはいかないという環境をつくって、自分で自分を追い込んでいくことが重要になります。
フレックスタイム制も使い方ひとつ
会社員は時間的拘束が大きいとはいっても、最近は、フレックスタイム制の導入により、以前に比べれば自由度はかなり高まっています。
しかし、これまでお話ししてきたように、今日は一一時に出社、明日は九時に、翌々日は午後一時にという生活では、生活のリズムが崩れ、なかなか生産性が上がらないでしょう。
自分では自由な時間が増えたと思っていても、実は時間資産を食いつぶしているだけ。
気づいたら、成果はダウン、収入もダウンということになりかねません。
フレックスタイム制のいいところは、たとえば朝、電車に乗り遅れそうになって必死に走ったり、五分遅刻しただけなのに上司に怒られたり、といったムダなストレスから解放されることにあります。
また、通っている英会話スクールで、水曜日の午前中はいい先生が教えてくれるという場合、「水曜日だけ午後出社」といった自分に合った「時間割」を組めるのも、フレックスタイム制のいいところです。
フレックスタイム制の「自由さ」とは、毎日を好き勝手な時間で過ごしていい自由ではなく、他人と同じパターンで仕事をしなくていい自由。
そのように考えて、個々人のレベルでは、「時間割」に沿った「パターン化」した生活をしていくべきだと思います。
「仕事九〇分、休憩一〇分」で頭を活性化
学校では授業と授業の間に休み時間があるように、大人の「時間割」にも、休み時間が必要です。
頭脳労働は肉体労働と違って、「もう体が動かない」といった、はっきりした疲労のメッセージがないので、自然と長時間労働になりがちです。
しかし、休みなしで頭を働かせつづけていると、自分ではがんばっているつもりでも、集中力が低下し、確実に効率が下がってきます。
限られた時間で大きな成果を上げようとするなら、頭を常にクリアな状態に維持しなければなりません。
休み時間の確保も、重要な「時間投資」なのです。
私は、現在は、九〇分間働いたら一〇分間休憩するというパターンを基本的なサイクルにしています。
一般に大人の集中力は、九〇分が一つの限界のようです。
大学の講義は一コマ九〇分ですし、大学入試も一科目の制限時間はたいてい九〇分です。
もちろん「九〇分ももたない」という人もいるでしょうし、「自分はもっと長くても大丈夫」という人もいるでしょう。
仕事の性質や個々の集中力の限界に合わせて、時間は自由に設定してかまいません。
ただ、ここでも大切なのは、「仕事一コマ+休憩」という「パターン」をつくることです。
仕事と休憩を同じパターンで繰り返していると、頭の働き方もそれになじんできます。
最初は六〇分ぐらいで気が散ってしまうという人でも、「九〇分+休憩一〇分」のパターンでやっているうちに、集中力を保てる時間が次第に伸びてくるものです。
また、パターンに慣れてしまうと、休憩のあとなかなかエンジンがかからないということもなくなり、すぐ次の仕事に集中できるようになります。
ミーティングの時間も「一コマ単位」で
日常の仕事以上に「一コマ単位」で考えたほうがいいのが、会議(ミーティング)です。
三時間も会議をしていたから、なんとなく仕事をした気にはなったものの、冷静に考えたら、何も成果が上がっていなかった、などという経験をした人は少なくないでしょう。
もしその会議に一〇人の出席者がいたなら、費やした時間は延べ三〇時間。
膨大な損失です。
私の場合、会議やスタッフとの打ち合わせも、一回につき最長九〇分(一コマ)で終わらせるようにしています。
時間が来たら、まだ片づいていない案件があっても、いったん打ち切って仕切り直します。
メンバー全員があらかじめ終了時間を意識していれば、議題からそれたり、ムダ話が交ざることがありません。
また議論が散漫になりかけても、「あと〇分しかないから」という暗黙の了解で、軌道修正が働きます。
先日、日本ファイナンシャルアカデミーの五人のメンバーと、経営戦略を練る集中ミーティングのために合宿をした際も、九〇分一コマの時間割をつくりました。
議題の重要度に応じて時間を割り振り、場合によっては二コマかけて議論するものもありました。
トータル一〇時間に及ぶミーティングでしたが、きわめて密度の濃い議論をすることができました。
よい睡眠は日光を浴びて起きることから
生活のパターンをうまくつくれるかどうか、そのための鍵を握るのが「睡眠」です。
私は大学受験のころから、勉強法と同じぐらい、睡眠のとり方にも興味を持ち、さまざまな本を読んでは、いろいろ自分で試してきました。
以下に、そこから学び、現在も実践していることをご紹介します。
上手な睡眠のとり方のポイントは大きく三つあります。
第一は、朝、日光を浴びて起きるということです。
人間の体内には「体内時計」と呼ばれる周期があります。
太陽の光には、それを活性化させる力がある。
光を浴びることで体内時計が「朝」を認識し、一日のスタートに向けて体が目覚めるのです。
一日は二四時間ですが、体内時計は一日二五時間と言われています。
したがって、日光にあたらない生活をしていると、この「時差」によって、「起きて寝る」という周期が一時間ずつズレてきてしまいます。
しかし毎朝、日の光にあたれば、ズレをリセットすることができます。
そこで私は夜、眠るときも寝室の厚いカーテンを閉めず、朝日が差し込むようにしています。
東向きの部屋を寝室にできれば、一層効果的です。
日の出の時間は季節によって変わりますから、起きる時間は、夏は早く、冬は遅くなります。
だいたい夏は朝五時ごろ、冬は六時ごろ、春と秋は五時半ごろと、「一人サマータイム」を実践しています。
私が日の出とともに起きていると言うと、「偉いですね」「よく眠くありませんね」と感心されます。
概して「早起き」には、「苦行」イメージがあるようです。
諺で「早起きは三文の得」とあえて説くのも、裏返せばそれだけ「早起きは辛い」と思われているからかもしれません。
「早寝早起き」から「早起き早寝」へ
私が早起きしても辛くないのは、夏なら午後一一時、冬なら一二時に就寝と、現代的に言えば「早寝」で、睡眠時間を十分に確保しているからです。
夜眠れないという経験はまったくないし、朝寝坊もまずしません。
そう言うと今度は、「そんなに早い時間に寝られない」という反応が返ってくることが多いのですが、そのような人には発想の転換をおすすめします。
たしかに、朝早く起きるために夜は早く寝なければならない、と考えると、プレッシャーになります。
考えすぎて眠れなくなることもあるでしょうし、早寝するために夜の楽しみの時間を犠牲にするなんて……と、ストレスに感じる人もいるかもしれません。
そこでそういうときは、「夜はどうでもいいから朝は早く起きる」ところから始めてみればいいのです。
最初こそ寝不足で少し辛い思いをするかもしれませんが、就寝時間にかかわらず早く起きる生活を続けていると、夜は必然的に早く眠くなります。
それに合わせて就寝時間を早めていけば、自然にリズムが確立します。
早起きに必要なのは、「早寝早起き」ではなく、「早起き早寝」という発想なのです。
目覚まし時計は脳によくない
もちろん、早起きは出張先でも同じです。
私はホテルに泊まる際も、カーテンを開けて眠るようにしています。
おかげで朝になると日の光が差し込み、家にいるときと同様、自然に目覚めることができます。
特にホテルは遮光カーテンなので、完全に閉めると光が入らず、朝になっても気づきません。
外から見えるのが気になる場合は、レースのカーテンだけ閉めたり、遮光カーテンを少しだけ開けて、枕元に光が入るようにするなどの工夫をしています。
これは海外に行ったときも同じで、特に時差のある国で効果的です。
私は時差ボケ対策として、飛行機に乗ると、まず腕時計を現地時間に合わせてしまいます。
そして、機内でも、現地の時間に合わせて寝起きするようにするのです。
現地が深夜なら寝てしまいますし、現地が昼間なら、機内が暗くても起きて、本などを読んだりしています。
こうして十数時間を過ごすと、現地に着いたとき、体は現地の時間になじんでいます。
さらにホテルでカーテンを開けて、日の光で起きるようにしておくと、翌日もまったく時差ボケを感じません。
太陽の光に合わせて起きられる体をつくってあるので、どこに行っても生活のリズムを乱すことなく、活動的に過ごすことができるのです。
また私は、起きるのに目覚まし時計を使いません。
早い時間の飛行機に乗る場合などのように「絶対この時間に起きなければ」という日はリスクヘッジのためにかけますが、その場合でもたいてい、かけた時間より一~二分早く目が覚めてしまいます。
「○時に起きる」と意識して寝ることで、人間の体内時計は思う時間に起きられるようセットされるようです。
そもそも目覚まし時計で起こされるのは、あまり気持ちのいいものではありません。
気持ちがよくないだけではなく、医師の吉田たかよしさんによれば、目覚まし時計の音の刺激で起こされるのは、「脳にとっては望ましい起き方」ではないそうです(『「脳力」をのばす!快適睡眠術』/PHP新書)。
目覚まし時計の音は、コンディションに関係なく脳を急激に覚醒させるので、脳の神経細胞や血管に負担がかかるとのこと。
吉田さんも「朝、日の出とともに明るくなり目が覚める」ことこそ、人間本来の起床方法であると説き、「光の刺激で目覚めること」をすすめています。
「ビフォア9」の使い方で人生が変わる
先日、仕事でアメリカに行って、非常に驚いたことがあります。
朝の五時半に起きてホテルのジムに行ったところ、すでにほぼ満員の状態だったのです。
日本のスポーツジムなら、まだオープンすらしていない時間です。
最近、日本でもようやく「ビフォア9(午前九時前)」の使い方が重要と言われるようになりましたが、アメリカのビジネスパーソンにとっては、早朝の出社前の時間にトレーニングをしたり、あるいはブレックファースト・ミーティングを行ったりすることは、もはや常識のようです。
五時半に満員になっているジムを見て、私はアメリカ人のとてつもないパワーに圧倒される思いでした。
日本ではまだ多くの人が、朝の時間を食事やシャワーや出勤などで慌ただしく過ごしています。
しかし、睡眠をたっぷりとって頭がクリアになった時間帯を、それだけで過ごしてしまうのは本当にもったいない。
「ビフォア9」は、私のように読書の時間にあてるのもいいですし、電話などに邪魔されることもないので、集中が必要な仕事にも向いています。
あるいはトレーニングにあてれば、頭はますます冴えてきて、その日一日をアクティブに過ごすリズムをつくれます。
散歩をして朝の空気を吸うだけでも、相当のリフレッシュになります。
しかも、こうして「ビフォア9」を活用すれば、夜は早めにすっきりと仕事を終えることができます。
そうすれば、人と会ってネットワークを広げるなど、「アフター5」や「アフター7」にしかできないことをして、夜の時間もまた有効に活用することができます。
朝、一~二時間早く起きることは、人生を変えると言ってもけっしておおげさではないほど、大きな資産を生んでくれる「時間投資」なのです。
午後の成果を左右する「一五分昼寝」
よい睡眠の第二のポイントは、昼寝の時間をとるということです。
朝、太陽の力ですっきり目覚めても、フル回転で稼動していれば、午後には次第にパワーダウンして眠くなってきます。
こんなときは無理して起きていないで、昼寝をすべきです。
私自身、午後の活動を充実させるため、毎日の昼寝は欠かせません。
昼寝についても、最近はさまざまなことが分かってきました。
たとえば医師の粂和彦さんは、次のように述べています。
午睡を上手にとることで、午後の仕事の効率を上げて気持ちよく働くことができるようです。
大切なのは、気持ちいいからといって長時間眠らないことで、一五分から長くても三〇分までが良いそうです。
それ以上長く眠ってしまうと、睡眠段階が深くなりすぎて、起きたあと完全に覚醒して作業効率が元通りになるまでに時間がかかってしまいます。
(『時間の分子生物学』講談社現代新書)私も、昼寝の時間は一五分と決めています。
実際、椅子に座ったまま一五分ほど目をつぶるだけで、眠気がとれて頭がすっきりします。
気持ちがいいからといって寝すぎてしまうと体まで眠ってしまう感じがして、次の仕事にすぐ取りかかれなくなるのですが、一五分であればそんなこともありません。
時間帯も重要で、理想は昼食後すぐに寝ることです。
ちょうど胃腸に血液が行って眠くなるころですから、すぐに眠れます。
逆にまずいのは午後三時以降で、これ以降に眠ると体内時計がずれ、夜、眠りにくくなります。
また眠りすぎを防ぐため、私は昼寝の前に必ず、一五分のタイマーをセットするようにしています。
これなら寝過ごす心配はありませんから、安心してぐっすり眠れます。
朝の目覚まし時計は不快ですが、一五分程度の睡眠なら、もともと眠りのレベルが深くないので無理に起きたという感じはなく、目覚めも悪くありません。
さらに言えば、眠る前にコーヒーを一杯飲んでおくのも効果的です。
カフェインの覚醒作用は、体に取り込んで三〇分後ぐらいから効きはじめます。
したがって昼寝の前に飲んでおくと、ちょうど起きるタイミングで効きはじめるので、よりスッキリ感が増します。
昼食を食べたら、コーヒーを一杯飲んで、オフィスの席でも喫茶店でもいいので一五分だけ目をつぶる。
会社勤めの人も、これを毎日の時間割の中に組み込むだけで、午後の時間効率が大きく変わってくるはずです。
週末も平日と同じ時間に起きる
よい睡眠をとる第三のポイントは、週末もパターンを変えない、ということです。
金曜日まで仕事に忙殺されていたら、せめて週末ぐらいはゆっくり寝ていたいという気持ちは分かります。
来週もハードになりそうだから、寝だめをしておきたいという人もいるでしょう。
しかし、人間の体はそもそも寝だめができないので、朝寝坊をしても効果がありません。
効果がないどころか、週末の朝寝坊は、実はデメリットのほうが大きいのです。
最大の問題は、朝寝坊によって体のリズムが壊れてしまうことです。
一度壊れてしまった体のリズムは、すぐには元に戻りません。
当然、月曜日は起きるのが辛くなり、一日中ボーッとしたまま過ごすことになります。
私も会社員になりたてのころは、土日に昼ごろまで寝ていたことがありました。
しかし、どんなに寝ても疲労感が抜けず、気分がスッキリしない。
寝足りないのかと思ってさらに寝ると、ますますだるくなる。
もちろん、そういうときの月曜日は最悪でした。
それならばと、週末もふだんどおりに起きて体を動かしたりしてみたら、なぜか体が軽い。
月曜日の辛さもない。
そこで私は、体にとって重要なのは睡眠時間の長さではなく、リズムであるということに気づいたのです。
前出の吉田さんも、次のように述べています。
朝寝坊は、その場は実に気持ちがいいものですが、すぐにしっぺ返しが数倍になって返ってきます。
週末に朝寝坊をすると体内のリズムがすっかり狂ってしまうため、月曜の朝は地獄のようにつらい通勤通学が待ち構えているのです。
これは、「ブルーマンデー症候群」と呼ばれていますが、実際には月曜日だけでは完全に回復しないことが少なくありません。
週末の二日間にわたり体内時計を大幅にずらしてしまうと、月曜の一日だけでは完全にリズムを戻すのは困難です。
場合によっては、直すのに最大で四日くらいかかることもあります。
この場合は、まともに過ごせるのは金曜日の一日だけという、何とももったいない一週間になってしまいます。
(前掲『「脳力」をのばす!快適睡眠術』)「寝ることが週末の最大の楽しみ」と思っている人も、ぜひ一度、平日同様に起きてみてください。
平日が極度の睡眠不足でよほど疲れているなら別ですが、そうだとしても、プラスするのはせいぜい一時間まで。
それだけで体の調子がかなりよくなって、月曜日を快適に迎えられることに気づくと思います。
暗記作業は寝る前にするのがベスト
睡眠との関連で言うと、記憶作業は寝る前にするのが効果的です。
記憶と睡眠には大変深い関係があります。
脳は睡眠中に、起きている間にインプットされた情報を整理し、残すべき情報を記憶として定着させる作業をしています。
特に寝る直前にインプットされた情報は、脳が重要なものだと判断して、記憶に定着させる働きがより強くなると言われています。
そこで私は、試験などで大量の暗記が必要になったときには、寝る前の一時間を勉強にあてるようにしてきました。
寝る直前に暗記し、翌朝起きたら、どれぐらい覚えているかをチェックし、忘れていたことは、その場でもう一度記憶する。
夜になったら再度復習するとともに、新たな知識をインプットする。
この作業を何日か繰り返せば、ほぼ記憶は完璧になります。
これとは逆に、朝の時間を新しく記憶する作業にあててみたこともあるのですが、昼間はいろいろな情報にさらされるせいか、夜になると忘れてしまっていることが多い。
やはり夜にインプット→睡眠→朝に復習、というパターンが最も効率的でベストだと思います。
寝る前に暗記作業を行うと、暗記した事柄がよく夢に出てきます。
その日に印象的だった出来事が、夢に出てきた経験のある人は多いと思いますが、これも脳が睡眠中に情報の整理をしていることと関係があると言われています。
暗記したことが夢に出てくるというのは、いわば夢の中でも勉強しているということで、「一石二鳥」感があります。
それも私が寝る前に暗記作業をする理由の一つです。
休日は「しないこと」を決めておく
休日も平日と変わらない時間に起きるとは言っても、休日にはやはり休日なりの過ごし方があります。
私の場合、平日は「すること」を決めているのに対し、休日は「しないこと」を決めています。
それを意識するだけでも、一週間にメリハリがつき、よいリフレッシュになります。
休日に「しないこと」とは、「仕事」です。
具体的には、人とのアポイントメント、スタッフとのミーティングなど、自分の都合でスケジュールを変えられない予定は、休日には入れません。
休日は家族と過ごす時間と決めており、一緒に家事をしたり、買い物につきあうなど、家族の都合に合わせて動けるようにしておきたいからです。
だから、休日にオフィスに出かけていくこともしません。
本を読んだり、原稿を書いたりするのは、始めるのも切り上げるのも自分の意志でコントロールできるので、休日でも積極的にやっています。
ビジネスに関係があるという意味では、これらも「仕事」と言えなくもないのですが、私の意識では、これらは「仕事」というよりは、「自己投資」です。
前にもお話ししたように、知識労働は、肉体労働と違って、やりはじめればキリがありません。
残業と同じで、「平日に片がつかなくても、休日出勤すればいいや」と思っていたのでは、労働の時間密度を高めていくことはできません。
休日に「しないこと」を決めておくのは、自分なりのリミットを定めて、平日の生産性を高めるための工夫の一つでもあるのです。
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