一販売なくして利益なし
一多角化の技術なくして成長なし
一シェアなくして売り上げの保証なし
一人なくして経営なし
一情報なくして戦略なし
田岡信夫
章序シンプルなのに効果が大きい経営戦略
①日本で花開いた〝勝ち続ける〟ための戦略
ランチェスター戦略とは、セールスプロモーションビューローに所属していた田岡信夫が、1970年代はじめの不況時に、
- 社会心理学等の深い知識をベースに、
- ランチェスターの法則、クープマンらのランチェスター戦略モデル式をもとにして(どちらも戦争時の戦力とその損害量を定量的に分析したもの)、
- 経営の分野に応用および構築した、
- 市場シェアアップのためのプロセスの体系のことです。
実務の世界で構築した戦略だけに、とても親しみやすい表現で書かれたその体系は、(現場に密着しているとの意味で)「汗のニオイのする戦略」とも呼ばれています。また、シェアアップのプロセスはシンプルでわかりやすく、効果も大きいという特徴があります。
②ランチェスター戦略では「市場シェア」を重視する
前項のような経緯で生み出されたランチェスター戦略では、とくに「市場シェア」を重視しています。
市場シェアの定義は、左図のとおり、ある市場において競争関係にあるすべての会社の販売数量の中で、一つの企業が占める販売数量の割合のことをいいます。
市場シェアを重視する理由は、本書巻頭にもあるように、「販売なくして利益なし」「シェアなくして売り上げの保証なし」という考えに立っているからです。
しかも、シェア1位でなければなりません。とくに不況期や成熟期においては、左図にある「ゲーム型」と呼ばれる推移パターンをとるからです。
③「市場シェアアップ」は目標達成手段の一つ
前項で述べた理由から、市場シェアを高めることは、結果的に利益の増大や財務体質の向上につながることから、経営の目標を達成するための手段の一つといえます。
またシェアは、最終顧客からのブランドロイヤリティーとしての支持の大きさであり、販売店や代理店といった流通段階での店内シェアは取引先との信頼関係の強さをあらわしています。
前項の繰り返しになりますが、これらのようなことが、不況期あるいは商品の成熟期において、とくにシェアが重要視されることとなる、おもな理由となります。
なお、市場シェアと利益率の関係についてもいくつかの研究結果があり、シェアが10%を超えると、正の相関(シェアが上がると利益率も上昇)の傾向が見られます(左図※)。
④ランチェスター戦略のもう一つの目的「組織の活性化」
ランチェスター戦略におけるもう一つの重要な目的として、「組織の活性化」があります。
単なる成果主義や精神主義(根性論)とは異なり、ランチェスター戦略に基づきながら経営の意思決定や顧客訪問計画を立てて実行・管理(PDCA)を行ないます。
このとき、営業マネージャーや経営者は、「報連相」によるOJTや、時には陰で受注支援をすることによって部下の受注獲得の手助けを行なうことが重要で、これにより、着実に受注件数やシェアを向上させることができます。
このように、受注結果のみでなくプロセスも管理することにより、とくに新人営業員のスキルの向上につながりまー戦略においては、ただの1位ではなく、そのセグメントにおいて2位以下を大きく引き離した、圧倒的に強い1位を目指します(一つの目安としては、シェア40%があります)。
⑤シェアは1位でなければならない理由
20ページ〔*こちらを参照〕で説明したように、不況期や成熟期においては、市場シェアが1位の会社のみがシェアを伸ばすことが可能となります。
ただし、ここで大事なことがあります。それは、たとえシェアが1位であったとしても、いつも安定的に1位の地位を維持できるとは限らないということです。
ランチェスター戦略においては、ただの1位ではなく、そのセグメントにおいて2位以下を大きく引き離した、圧倒的に強い1位を目指します(一つの目安としては、シェア40%があります)。これを「ナンバーワン」と呼んでいます。
また、ナンバーワンのセグメントをつくって増やしていくことを「ナンバーワン主義」といい、ランチェスター戦略の中でもっとも重要なキーワードの一つとなっています。
⑥1位になるには、そうなれる市場をつくる
前項まで、ランチェスター戦略の目的や市場シェアを重視していることについて述べてきましたが、ここからは、シェアアップのプロセスについて、基本となる部分を解説しましょう。
さまざまな業界や商品の市場においては、1位の会社は当然1社だけ。国内では、乗用車ではトヨタ、ビールではアサヒ、携帯電話の契約数ではNTTドコモ、同じく家電メーカーではシャープとなっています。
ところで、「わが社は規模が小さいから1位など無理」という言葉を耳にすることがありますが、大丈夫です。多数の会社が1位ひいては「ナンバーワン」になるためには、そうなれる市場を自分で用意すればよいのです。
ナンバーワンになれる大きさまで市場を細分化前述した1位の会社の例は、あくまで日本国内のスパンにおけるものですが、10の地域に細分化すれば、1位の座に10社が立ちます(同じ会社が複数の地域で1位であり10社に満たない場合もあるが)。
このように細分化することを「セグメンテーション」、そして細分化された一つひとつの単位を「セグメント」と呼びますが、これもシェアアップのプロセスにおいてはもっとも重要なキーワードの一つです。
細分化する座標軸は、商品・地域などランチェスター戦略では、細分化する座標軸として、次の4つを用意しています。
- ①商品
- ②地域
- ③販売チャネル
- ④最終消費者
このうち、①の例を見ますと、国内の自動車総販売台数の上位はトヨタ・日産・スズキの順となりますが、軽自動車のセグメントでは、ダイハツ・スズキ・ホンダの順になります(前ページ図)。
また、コラム(事例)にも掲載のいなば食品は、ペットフード事業において、キャットフード全体では国内市場で6位(シェア7%)となっていますが、キャットスナックのカテゴリーでは、5割近い圧倒的なシェア(ナンバーワン)を取っています。
細分化されたセグメントの数はかけ算で大きくなる細分化に際し、ランチェスター戦略では4つの座標軸を用意しましたが、得られるセグメントの数は各座標軸の細分化の数のかけ算になるので、非常に大きな数になります。
たとえば、それぞれの座標を10に細分すれば、10×10×10×10=10000という具合です。こうすることによって、自社がナンバーワンになれるセグメントを見つけるわけです。
⑦細分化された地域で攻めるべき市場とは?
前項のように細分化された市場の中で、まず重点化するセグメントは、もっともナンバーワンにしやすいところです。
具体的には、自社が1位の地域があれば、それらの中で2位との差がもっとも大きいところ。1位の地域がなければ、もっとも1位にしやすいところとなります。
細分化の度合いの目安としては、自社の商圏あるいはテリトリーを10程度に分割します。その際、分割されたそれぞれのセグメント内の市場規模(総需要)が大きくバラつかないように(せいぜい数倍程度に)配慮する必要があります。
選んだ地域の中でナンバーワンにする手順今度は、そのセグメント内の得意先(販売店など)の中で重点化するところを選びます。
その選び方は地域の重点化と同じで、「ナンバーワンにしやすいか?」が基本になります。ただし今度は、「一点集中」を指向する質の面のみでなく、量の面(カバー率)も重要な概念の一つで、これらを合成したシェア(構造シェア)を用いてシェアアップのプロセスを進めていきます。
具体的には、各販売店を売上げ規模で順位付け、累積分布でグループ分けした横軸と自社の市場地位を縦軸にとったマトリックス上で重点化と資源の配分を行ないます。
そのための具体的な計画づくりを示してくれるランチェスター戦略が教えてくれる計画は、「戦略的格付け」に基づき、得意先ごとへの営業員パワーや販促費といった営業資源の配分の仕方についてです。
重要度に応じて得意先をグループ分けし、各グループへの訪問回数と滞在時間を合理的に割り当てていきます。シェアアップと人材・組織の育成に結びつけるためには、作成された訪問計画の実行・管理(PDCAなど)が大事だということは、言うまでもありません。
以上の手順を繰り返すことで、ナンバーワンのセグメントを増やす以上のような手順で当該のセグメントをナンバーワンに育成したら、次に、2番目のセグメントの中で同じ手順を繰り返し、結果としてナンバーワンのセグメントの数を増やしていきます。
この概念もランチェスター戦略では重要なものの一つで、本書では「ステップ・バイ・ステップ」と呼んでいます。
⑧ランチェスター戦略の3つのキーワード
これまで述べてきたことからもわかるように、ランチェスター戦略における手順はじつにシンプルでわかりやすく、しかも効果が大きいという特徴があります。
ここで、その本質を特徴づけている重要な概念(キーワード)を整理してみると、
- ナンバーワン主義
- セグメンテーション
- ステップ・バイ・ステップ
の3つが挙げられます。この組み合わせにより、経営資源が十分でない企業や事業部においても、ランチェスター戦略のプロセスをコツコツと着実に実践することにより、事業の発展や安定化に資することが可能となります。
⑨「三点攻略法」という事例
前項で述べたことの特徴をよくあらわした事例の一つに、「三点攻略法」があります。
その名前のとおり、ある会社が1つの地域でナンバーワンを狙う場合は、最初からその中心を攻めるのではなく、次のように攻略していきます。
- 中心部の周辺地域を細分化する
- その中で戦いやすいセグメントを選んで経営資源を重点的に投入し、ナンバーワンになるまでシェアを高める
- 同じ展開を2番目のセグメントに、続いて3番目のセグメントに対して行なう
- 中心部に向かって3つのセグメントから総攻撃をする
このように、これらのプロセスの中に3つの特徴が十分に織り込まれているのがわかるはずです。
⑩「市場地位」と「シェアパターン」
「市場地位」とは、ある市場やセグメントで、自社がシェアにおいて何番目の地位にいるかということです。ランチェスター戦略では1位の企業を「強者」、2位以下の企業を「弱者」と呼び、それぞれがとるべき戦略は反対になります。
とくに、弱者の基本戦略としての「差別化戦略」は、他社との違いを出すという広い意味で用いており、競争力を高めるためのきわめて効果の高い概念です。
このことは、自社の市場地位を把握すること、そして、それに応じた的確な戦略をとることが非常に大事であることを示しています。
また、単なる順位だけでなく、各社のシェアの大きさから帰結される「シェアパターン」も重要な概念で、第7項でもふれた重点地域や得意先を決める際の判断基準の一つにもなっています。
⑪ランチェスター戦略の効果
これまでに述べてきた、ランチェスター戦略における効果を整理すると、次のような、
- 市場シェアアップのプロセスとして、「三点攻略法」「構造シェア」などを示してくれる
- 市場地位に応じた的確な意思決定について示してくれる
- 経営資源の適切な配分について、どのセグメントに重点的に配分したらよいかを示してくれる
などが挙げられます。そのほかにも、
- 戦略的な投資と戦術的な投資についての適切な配分
- 製品ライフサイクル(PLC)に応じた意思決定(第5章)
についても示してくれます。
⑫戦略の体系は5つのパートで構成される
はじめにでも少し触れましたが、ランチェスター戦略の体系は5つのパートから成り立っています。これをいくつかの視点から、さらにグループ分けをしたものを左図に示しておきます。そして、以下のことは、本文内容を理解する際の一助になるでしょう。
①ランチェスター戦略のエッセンスをまとめた「戦略入門」と、実践編にあたる「地域戦略」~「市場参入戦略」に分けられる
②①の実践編の中を、「弱者の戦略」の典型ではあるが、戦略策定と実行のプロセスとしての「地域戦略」~「営業員戦略」と、もう一つは、時間軸をともなう製品ライフサイクルにおける戦略を扱う「市場参入戦略」とに分けられる
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