秘書を置くか、置かないか……置いた方がいいに決まっている。社長の仕事が倍できるからだ。
お金の清算など、しわくちゃに丸め込んだ領収書をバサッと秘書に渡すだけで十分である。忙しくあちこち飛び回っている身には、当然のことだ。どこからどこまでタクシーに乗ったか、秘書に想像させて書かせればいいことだ。そんなことまで一々やっていたら、本来の創造的な仕事ができなくなる。
社長自ら、事務的な仕事やコピーなどの雑務までやっている姿を目にすることがあるが、狂っているとしか思えない。本気でそう思う。
「もっと創造的な稼ぐ仕事に専念しなさい」と、言ってやりたい。
時間管理やスケジュール管理でも、私は手帳を持たない。アポイントが目白押しで忙しいからこそ、手帳を持たない。アバウトな人間が下手に手帳など持つと、かえってスケジュールがダブって、身動きが取れなくなる。キャンセルするのも非常に面倒だ。そこで、スケジュールは秘書に一元管理させている。
朝の八時、九時から、夜の十時、十一時まで、時間帯ごとに一日のスケジュールを一週間分まとめて、自宅にファックスしてもらう。それを、妻が自宅の壁に張っておく。同時に、拡大コピーした同じものが事務所の私の机の上に置いてある。私の頭の中には、四、五日先のスケジュールしか入っていない。それを、社長が鉛筆なめなめスケジュールのやり繰り算段しているようでは日が暮れてしまう。
秘書は、絶対に必要だ。しかも、優秀な秘書でなければならない。社長によっては、二人、四人、五人と秘書を抱えている。
また、秘書は女性ばかりとは限らない。ただし、男性の秘書には、秘書と称しながらも、単なる秘書業務だけではなく、社長室的なスタッフ業務をさせるようにする。
社長の手元に置きながら、新事業の勘所や、経営のセンスや、見識を鍛えていく。だから、秘書から社長に抜擢された人も相当多い。
阪急電鉄創業者の小林一三さんは、大勢の秘書を置いていたが、その中の一人に前述の清水雅さんがいた。小林さんの跡を継いで、電鉄からデパート、宝塚まで任され、また、東宝の社長を久しく務め、衰退の映画産業にあってひとり気を吐いていたことは夙に有名であるが、その清水さんは秘書出身だった。
西郷隆盛も、島津斉彬のお庭番、今の秘書役であった。斉彬が取り立て、マンツーマンで教育したお陰で、西郷一個の命は一つの藩よりも重いと言われる位の人物にまで成長することができたのだ。
女性秘書を置く場合の注意を、 一言述べておく。とかく、不要な誤解を招かないようにするためだ。
まず、運転ができても、女性に運転をさせ、同乗するということは絶対にしないことだ。火のないところに煙が立ったり、尾鰭がついたりするものだ。用心して欲しい。女性秘書とは別行動をとることが原則である。
もちろん、男性秘書の場合は、この限りではない。また、女性秘書を置くに際しては、妻に面接させ、了解を取っておくほうが無難だ。
秘書の主な業務について、以下に簡単に羅列する。
① スケジュール管理・時間管理
これは、今まで書いてきたことである。
②接遇
多忙で留守がちな社長に代わって、来客に対して粗相なく接待できなければならない。
③電話応対
電話の受け答えは、非常に大切だ。応対次第で、社長や会社のすべてが瞬時に判断、あるいは誤解されてしまう恐れがある。
また、社長が在席の場合の取り次ぎの可否について、あらかじめ判断の基準を設けて、指示しておく必要がある。
④名簿管理
色々な会合に出るたびに、名刺が山のようにたまるものだ。そうした名刺を放置しないで、すぐにキチッと名簿化し、お中元やお歳暮、年賀状や暑中見舞いなどが、必要に応じてタイムリーに送れるようにしておく。こういう些事が信用につながっていくものだ
⑤手紙の代書
ワープロを打てることが、秘書としての最低条件である。社長の手書きならば、本物とすぐに分かるが、ワープロだとだれの文章か分からないことが多いが、これもまた長所の一つでもある。確かに、個性がない、事務的で冷たい、いかにも手抜きだ……と、欠点も多少ある。大切な人や用件については、やはり社長直筆にすべきだ。その辺の判断が間違いなくできるように、意思の疎通を図っておく必要がある。
⑥社長の代理
社長の代理で慶弔に出席させる。
秘書に行かせるべきか、総務部長に行かせるべきか、判断に迷うこともある。失礼にならないようによくよく考えるべきだ。
たとえば、結婚式がダブって一方にどうしても行けないという場合は、総務部長でも秘書でもなく、自分の妻を措いて代理にかなう者はいない。結婚式は非常に個人的なものだから、間違っても秘書や総務部長を行かせてはだめである。身内という意識を中心に考えるべきだ。
病気見舞いなどは、秘書でも、総務部長でもかまわないが、秘書の方がいい場合がどちらかというと多いものだ。みっともないことがないように、ケース、ケースで、社長自ち判断して欲しい。
⑦贈答
贈答品の決定から発注、送り先の選択……の一切を安心して任せられるようにしておく。また、贈答を受けた場合の適切な対応も当然に含まれる。
③年賀状・暑中見舞いの手配
名簿管理のところでも触れたが、時宜を外さずに確実に手配する。社長が練った文案を印刷に回し、納品されたハガキに宛て名書きし、年賀状は元旦に、暑中見舞いは八月七日までに届くようにする。
⑨社長個人の身辺業務の世話
身辺の世話では、かなリプライベートな部分とラップすることがあるので、日が堅いことが秘書の大事な要件だということを知ってさえいればいい。
⑩個人資産の管理
会社の公的な領域と不可分に、社長の個人的な資産運用ということが当然に発生する。もちろん、公私混同は避けなければならないが、自分の妻が知識や経験不足で動きが取れない場合は、秘書に株の売買を研究させたり、有利な土地があれば実際に見に行って買わせたり……といったことが、会社の中でも割りと頻繁に起こるものだ。目端が鋭い、機転が利くということは、秘書業務の全般にとっても重要なことである。
①社長の健康管理
健康管理では、秘書は社長の食事とスポーツに気を配る必要がある。
私は、パーティー食や、移動の新幹線の中での弁当食が多く、栄養バランスが偏ったり、時間が不規則だったり、せわしかったりで、相当に食が乱れがちである。そこで、事務所にいるときの昼食は、家庭料理の店へ行って、玄米菜食をゆったり咀疇して摂ることにしている。店では、私が何も言わなくても、行けば必ず旬の菜が出てくる。そういう管理を、秘書がしていてくれるからだ。
また、 一日中講演で立ち通しだから、身体の筋肉を全然使わないこともしょつちゅうだ。だから、秘書にスケジュールを調整してもらって、意識的にゴルフをやるようにしている。もちろん、メンバーを揃えるのも、ゴルフ場を手配するのも秘書任せである。
⑫社内情報の伝達
秘書にある程度の社内情報は教えてもらうが、それに余り影響されてはいけない。情報の中に、個人的な感情が入っていると判断した場合には、聞き流すようにする。聞いても、割り引いて聞くようにする。
特に、女性には感情移入の性癖が強い。「そんなこと言うな」と、秘書を咎めても仕方ないので、聞き流すか、割り引いて聞くようにすべきだ。
⑬資料の収集
新事業。新商品の情報とか、ライバルの資料、業界全体の動向、官公庁発表の諸々のデータ、新聞・雑誌の切り抜き……必要に応じ、日頃から収集を指示しておけば社長の判断にとって便利である。
以上、事細かに秘書の業務について述べてきたが、こんなことまで一々社長がやってるようでは、いい仕事ができないに決まっている。私には、本当に解せないことだ。有能な秘書を置いて、健康を保ちつつ時間を有効に活用して、社長本来の創造的な稼ぐ仕事に遺憾なく邁進すべきである。
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