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社長はメンタルが9割:押野 満里子

はじめに悩んでいる社長は、自分ひとりじゃありません  社長というのは、本当に辛いものです。「来年からは、取引を停止したい」  そんなことを、突然、宣言されるのも社長。  もしかしたら、来月は不渡りを出してしまうのでは……と、眠れない日々を過ごすのも社長。  新型コロナでほとんどお店にくるお客様がいないのに、「その日の売上」を毎日、震えながら確認しなければならないのも社長です。  なんと、因果な商売でしょうか!  私の父は、そんな因果な商売、社長をやっていました。  実家であるサファイアガラスの加工会社は、私が小学 3年生のときに、長野県の南西部にある伊那谷(上伊那郡)に帰郷した父が、創業したものです。そして、今は夫が跡を継ぎ、二代目社長として経営しています。  遡れば、祖父も明治時代に一代で建築会社を築いた社長です。  生きていくために、頑張った祖父。  競争に勝つために、頑張った父。  信頼を構築するために、頑張っている夫。  私は、子どもの頃から、身近なところで「苦労する社長の姿」を見ていたのです。  ですから、社長が、いかにたいへんな仕事なのか。痛いほどわかります。  やがて、成長した私は、経理担当役員兼新人として、父の会社に入社しました。  私が入社してからの父の会社は、それこそ苦難の連続。  本当に想定外の事態が続き、私は、資金繰りに追われる日々を過ごしました。  役員の私でさえ、毎日、眠れないほど辛かったのです。  家族だけでなく、社員や、その社員の家族の生活までも両肩に乗せていた父は、いったいどれほど苦悩していたことでしょう……。  社長というのは、本当に辛い。  この本は、そんな、日々「経営者としての重圧」に苦しむ、すべての社長さんのために書きました。  こんにちは。  自己紹介が遅れました。「感情コンサル 」を提供している、押野満里子と申します。  私はこれまでに、上場企業や中小企業の経営者、各業界のリーダー、さらには、会社員や主婦など、さまざまな方々に対して感情コンサルを行い、たくさんの心の悩みを解決してきました。  私のもとに相談にこられた社長さんのなかには、誰でもご存知の超有名企業の社長さんもいらっしゃいます。  悩んでいる社長は、自分ひとりではないのです。  ちなみに、感情コンサルとは、怒り、悲しみ、悔しさなどのマイナス感情を抱えて悩んでいる人の話を聞き、心を整えることを指しています。  その過程では、マイナス感情の奥底にある愛や感謝などの「温かい想い」を一緒になって探り出したり、その感情を抱く原因となった「過去に傷ついて置き去りにされた自分」と向き合って仲直りするお手伝いをします。  結果として悩みが解決したり、マイナス感情が溶けていくため、行動が変わり、実際に結果が出やすくなります。  おかげさまで、私の感情コンサルは口コミで広がっていきました。  特に、経営者の方々にご好評をいただいています。これまでに 500人以上の経営者とお会いし、 1000以上の悩みを解決してきました。  東京や大阪から、遠路はるばる来てくださる方が、多数いらっしゃいます。人生を豊かにするカギは、「感情」  世の中には、「リーダーの悩み」を解決するための手法を紹介する本がたくさん出ています。読者のみなさんも何冊かは手に取られたことがあるのではないでしょうか。  ここで宣言いたします。  本書は、その手の、いわゆるノウハウ本ではありません。  もっと根本的な心のなか、つまり「感情」を整理し、悩みを解決するための本です。  断言します。  悩みを解決し、会社を良い方向へ進め、人生を豊かにするカギは、「感情」です。  経営者の感情が整うと、考え方が変化し、社員に対して感謝が溢れてきます。やがてそれは自然と社員に伝わり、信頼が生まれる。自分も社員も会社も磨かれて、それが良い結果につながる。  今まで、数えきれないほどの実例でこのパターンを目の当たりにしてきた私は、この一連の流れを、「感情と結果の法則」と名づけました。  私の感情コンサルを受けた社長さんの多くが悩みから解放され、それだけでなく、社員の方たちとの関係が良好なものになり、やる気がアップし、業績向上が実現しています。  まさに、「感情と結果の法則」を体現してくださっています。

なぜ、『社長はメンタルが 9割』なのか  本書のタイトルを『社長はメンタルが 9割』としたのは、企業経営で一番大切なことは、社長さんご自身がメンタル、すなわち心を整えることだと考えるからです。  私が今の会社で三十数年役員を務め、父と夫という二人の社長を支えてきた経験と、感情コンサルで出会った社長さんたちのことを思い起こすなかで、このタイトルが降りてきました。  この後のプロローグで詳しく説明しますが、人の心は気分、思考、欲求などさまざまな要素から成り立っています。  そのなかでも一番大事なのが、感情です。  感情が整えば思考が変わります。マイナス思考に陥りがちな社長さんは、その奥にある感情を整えることで、思考が変わります。そして、思考が変われば行動が変わります。行動が変われば、それが結果にあらわれて、会社の業績が向上します。  本書の使命は、このプラスの循環、つまり「感情と結果の法則」を、社長さんが自分自身に落とし込むにはどうしたらいいのか、お伝えすることです。全部で 6章立て、 21の事例をもとに、みなさんと一緒に考えていきます。これからの時代は、「プラスの感情」が支配する?  現在のベテラン社長さんたちが生まれた昭和は、マイナスの感情をバネに頑張った時代でした。そして、昭和はそれで成功できた時代でもありました。  続く平成は、「人同士のつながり」を求めた時代。  そして今、時代は令和。  これからは、感謝や信頼、共存など、プラスの感情に目を向けて強化していく時代です。  マイナスの感情があったら、それから目をそむけるのではなく、あえて向き合う。マイナスの感情を捨て去り、プラスに変換するのではなく、マイナス感情の奥にある大切なものに気づくと、自然とマイナス感情が、愛と感謝に変わっていきます。  それを実現するのが、「感情コンサル」です。  本書は、 500人以上の社長さんからお聞きした実話を下敷きにした、事例を中心に構成しました。  多くの事例で業種や社長さんの年齢などに脚色を加え、どなたであるか特定できないよう、注意を払いました。複数の実話を合体させているものもあります。  事例は全部で 21本。それらを読んでいただきながら、社長さんたちが感情と向き合い、悩みを解決していくプロセスを、ご覧いただければと思います。  改めて、本書全体の構成は次の通りです。 ●プロローグ  感情を変えると、望む結果が最速で手に入る  プロローグとして、「なぜ、感情を変えると、望む結果が最速で手に入るのか?」「なぜ、今、『感情と結果の法則』が求められるのか?」などについてお話をします。 ●第 1章  お金の悩みで眠れない  社員を抱える社長さんにとって、もっとも切実で、夜も眠れないほど辛いのが、この「お金に関する悩み」でしょう。第 1章は、この最大の悩みについて、事例をもとに、どうすれば感情をプラスに向けていけるのか、についてお話をします。 ●第 2章  プレッシャーは重いが弱みは見せられない  社長さんの多くが、「社員には自分の弱みは見せられない」と考え、独りで悩みを抱え込んでしまいます。第 2章は、責任感の強い方ほど陥りやすい落とし穴と、そこから抜け出す方法についてお話をします。 ●第 3章  トラウマやコンプレックスから逃れられない  多くの社長さんが無意識なまま抱える、トラウマやコンプレックス。それは、社長さんが抱える悩みのほとんどの原因と言っても過言ではありません。第 3章は、そうしたトラウマやコンプレックスに起因する社長さんの悩みと、その解決法についてお話しします。 ●第 4章  社員を信用できない  自分で何でもできてしまう社長さんほど、この悩みにぶつかります。しかし、社員を信頼できないままではストレスが溜まるばかり。社員の成長がなければ会社の未来もありません。第 4章は、人を率いるときに大切な、「信頼する勇気」についてお話をします。 ●第 5章  自分の感情をコントロールできない  怒り、不安、迷い……。人間である以上、これらマイナスの感情に支配されてしまうこともあるでしょう。しかし、社長という立場にいると、つい「感情的になったら負け」と考えてしまいがち。第 5章では、マイナス感情とのうまい付き合い方、解消の仕方についてお話をします。 ●第 6章  会社と自分の将来が不安  社長としてガムシャラにやってきた方が、ふと陥るのが「会社の未来に対する不安」です。ベテランの社長さんにとっては、後継者問題も気になるところ。そして、後継者に譲った後、自分はどう生きるのか、という大きな課題も残ります。  第 6章では、未来に対する不安の解消法や、「手放す勇気」についてのお話をします。 *             *              *  ホンダの創業者として知られる本田宗一郎さんが、こんな言葉を残しています。「嫌いなことなんてやっても伸びない。どうせ一度の人生なら、好きなことをとことんやるべきだ。そうすりゃ、それがやがて社会の役に立つ」  まさに、「我が意を得たり」の言葉です。  社長が「努力」と「根性」で苦しんで、会社が成長する時代は終わりました。  これからの時代は、社長が自己犠牲のスパイラルに陥らず、自分の「感情」と向き合い、「感謝」と「信頼」によって経営する会社が成長します。

感情を置き去りにしていては、問題の根本的な解決も、成功もありません。  本書が、 1人でも多くの社長さんの悩みを解決し、その社長さんと社員のみなさんの幸せにつながることを祈っています。   2021年6月押野  満里子

なぜ今、「感情と結果の法則」なのか?「いい社長」を演じていませんか?  社長という重責を担う日々。  会社のこと。社員のこと。そして、社員のご家族のこと。  両肩に責任が乗って、重くて苦しんでいませんでしょうか?  自分の感情を押し殺して、「いい社長」を演じていませんでしょうか?  私はかつて、会社のなかで「いい人」を演じていました。  そして、苦しんでいました。「はじめに」でも触れたように、私は、短大卒業後、父が設立したサファイアの加工会社に入社しました。一応、役員でしたが、経理担当の新入社員でもありました。  なにしろ社長の娘ですから、仕事はできて当たり前。社員の誰よりも働いて当たり前……。  顔では笑っていましたが、内面はボロボロ。心のなかは、いつもイライラでした。  そんなある日。  こんな言葉を目にしました。「あなたは、明日死んでも、後悔しないですか?」  目にした途端、涙が溢れてきました。 「『明日死んでも後悔しないか』ですって?  とんでもない!  後悔しないどころか、後悔しか残らない!」って、そう思ったんです。  なぜなら、そのときの自分は、自分の足で歩いていなかったから。  社長の娘として、他人の目を気にしながら、いろいろなことを我慢して過ごしていた私。  人生においては、我慢ができる人、忍耐力がある人が器の大きい人だ、と思い込んでいました。「歯を食いしばって頑張ることが成功への道!」  そんな時代は、終わってしまったように思います。  今は、我慢して頑張っても、成功できるとは限りません。  いや、たぶん、頑張れば一時的には成功することがあるかもしれません。でも、人間、我慢には、限界があります……。  私がそのことに気づいたのは、それから時を経て参加したセミナーで出会った、ある言葉のおかげでした。突然の取引停止宣言!  父の会社で働いていたある日。  最大の取引先である企業から、こんな宣言をされました。「来年から、サファイアガラスの加工業務はすべて中国にシフトします。ですので、御社とのお取引は 1年後に停止します」  まさに青天の霹靂でした。「何?  どういうこと?」って、正直、そう思いました。  これって、もしかして、 1年後には仕事が無くなるということ?  お恥ずかしい話ですが、真っ先に浮かんだのは、社員たちのことよりも、自分と家族のことでした。  すでに結婚して子どももいるのに、私たちの家族、いったいどうなってしまうの?  長年のお付き合いで築いてきたと思っていた信頼関係が、こんなにもあっさりと蹴飛ばされてしまうほど、軽いものだったということもショックでした。  不安になった私は、藁をもつかむ思いで、いろいろなセミナーに通いました。  セミナーに行けば、この不安を取り除いてくれる「答え」を教えてくれると思ったんです。  数々受けたセミナーの1つで、私は、講師の方からこんな言葉を聞きました。「これからは、好きなことをして信頼関係を構築すれば、お金もついてくる」  聞いた瞬間は「?」って思いました。  なぜって、それまでの私は、「好きなことは趣味。信頼関係は友だち。お金は会社からもらう」と、考えていましたから。「好きなこと」と「信頼関係」と「お金」のベクトルが、まったく重なっていませんでした。  でも、「好きなことをしてお金になる」なんて、夢のような話です。「いったい、私が好きなことで、お金になりそうなことってなんだろう?」  そう考えて、私は慄然としました。  会社で「いい人」を演じ続けていたために、何を好きなのかさえ見失っていたのです!「感情コンサル」を仕事に  道に迷ったとき、成功している人の真似をするという手があります。

 自分はいったい何をしたいのかがわからなかった私は、成功している人を観察して、「これなら成功できるのでは?」という方法をなんとか見つけました。  でも、ここで思ったのです。「この方法でお金が入ってきたとして、自分は本当にうれしいの?」  考えた結果、出てきた答えは……、「 NO!」。  そのとき、私の周りには、額に汗して、眉間にシワを寄せて頑張っている社長さんがたくさんいました。  その姿を見て、正直、自分には無理だと……。  そして、私は自分の感情に問いかけました。  そう、ないがしろにしてきた自分の感情と仲直りするために相談したのです。「あなたは、いったい何がやりたいの?」  すると、こんな答えが返ってきました。「私は、私が本当に温かい気持ちで『これはみんなのためになるよね!』と思えるプロセスを経て結果が出たら、すごくうれしい!」  そして、思ったのです。 「『こうやれば、喜びのプロセスを経て成功できるよ』ということを、私と同じように悩んでいる人に伝えられたら、多くの人たちへ勇気や元気を届けられるのではないか?」  私のなかで、「好きなことをして信頼関係を構築すれば、お金もついてくる」という言葉の答えが、見えた気がしました。  感情と仲直りして素直に問いかけてみたら、おのずと答えが見つかったのです!  そのときに誕生したのが、他人の感情の奥にあるものを探ることで、心の問題を解決するという、「感情コンサル」でした。  今思えば、私はそのことをまず自分に試したわけです。ちなみに、感情コンサルを自分に施すことを、「感情セラピー」と呼んでいます。  おかげさまで、今の私は、感情コンサルを通してたくさんのお役に立つという、やりがいのある日々を過ごしています。  感情コンサルを受けてくださった方のなかから、「私もこの手法を取り入れて、他の人の役に立ちたい」と、そんな声があがりました。私と同じように、他の方に感情コンサルを施す「感情セラピスト」を育てる講座まで展開させていただいています。  私自身が、感情と仲直りして行動を変えることで、結果を手にすることができました。図らずも「感情と結果の法則」の恩恵にあずかったのでは、と感じています。頑張って結果を出すことも素晴らしいけれど……  私は、頑張って結果を出すことを否定するつもりはありません。  それはそれで、素晴らしいことです。  頑張って結果を出すのと、感情にしたがってやりたいことをやって結果を出すのと、どっちがいいとは言いません。ご自身に合っているほうをやればいいと思います。  でも、繰り返しますが、頑張りのなかに「我慢」が入っていたら長続きしませんし、最近は、残念ながら、「頑張れば必ず結果が出る」という世の中ではなくなってしまいました。  今の時代は、自分の感情にしたがって、「やりたいことを楽しんでやっている人」のほうが、苦労せずに成功しています。  そういう人は、やりたいことをやっているから、自然とエネルギーが湧いてくる。  我慢してやっているわけではないので、途中で挫折しない。  たくさんの人の役に立っているから、おのずと結果も出る。  ビジネスは、心から提供したいと思っているものを持っている人と、それを提供してほしい人のニーズがピッタリ合うと、頑張らなくてもうまくいくものですから、成功しやすいのも合点がいきます。  頑張ることで結果を出すのも素晴らしいけれど、これからは、ますます「喜びで結果を出す時代」になっていくのでしょう。  だから、今こそ、「感情と結果の法則」が有効なのです。感情の正体は、ただの「解釈の違い」「感情と結果の法則」を、たったひと言で言いあらわせば、「感情を変えると、望む結果が最速で手に入る」ということです。  なぜ、感情を変えると、望む結果が最速で手に入るのでしょうか?  一見、行動を変えたほうが、手っ取り早く結果に結びつきそうですよね。  ここからは、 3年前に起業した Aさん、 Bさん、 Cさんという 3人の社長さんを例にとり、「感情と結果の法則」や「感情コンサル」について、説明していきましょう。 Aさん →売上が順調に伸びている。  現在の(表面的な)気分 →「うれしい」  内なる感情は喜び、満足感。行動する原動力は『自己肯定』 Bさん →なかなか結果が出ない。  現在の(表面的な)気分 →「つらい」  内なる感情は空虚、悲しみ。行動する原動力は『不安』 Cさん →成功している知人がいるのに自分は結果が出ない。  現在の(表面的な)気分 →「落ち込む」  内なる感情は悔しい、怒り。行動する原動力は『劣等感・自己否定』  人というのは不思議なものです。「ありがたい」「自分はダメだ」「落ち込む」などの(表面的な)気分には目がいくのに、その奥にある「感情」にはなかなか気づかないのです。

この 3人をくらべてみると、目指しているのは、「結果を出したい」と全員同じです。その目標に対して、売上が「上がる」か「上がらない」かという「出来事」があって、その「出来事」に対して解釈が加わることによって、「感情」が発生します。  そもそも「感情」とは、ある「出来事」に対して、その人がどう「解釈」するか(思い込むか)によって生まれるものです。  たとえば、「料理を作る」という「出来事」に対して、「面倒くさい」と解釈する人は、「いやだ」と料理にマイナスの感情を抱きます。これに対して、「料理は楽しい」と解釈する人は、「大好き」と料理に対してプラスの感情を抱きます。「料理を作る」という「出来事」は同じ。でも、その人の解釈によって「感情」が異なるのです。その感情がもとになって、表面にあらわれる「気分」を決めていきます。  そして、感情はそのまま、次の行動を決める「原動力」になるのです。  プラス感情に属する原動力としては、安心、自己肯定、やりがいが代表例で、「行動できる」要因になります。いっぽうで、マイナス感情に属する原動力としては、不安や劣等感、自己否定などが代表例で、「行動できない」要因になります。  もう少し話を続けましょう。  感情の奥を深掘りすると「欲求(過去の自分)」があります。さらに一番奥には「愛、感謝」が存在しています。「欲求」とは、その人の過去の経験(特に幼少期)がもとで、生まれます。「満たされた思い出」を持つ人はポジティブな欲求を持ち、「満たされなかった・置き去りにされた思い出」を持つ人はネガティブな欲求を持つ傾向があります。

感情コンサルでは、ネガティブな欲求の原因になった「満たされなかった・置き去りにされた思い出」をつきとめて、今の自分と仲直りすることで欲求を整え、感情(原動力)を調節し、思考や行動、結果を変えていく、というプロセスを踏むケースが多いです。  というのは、誰でも欲求のさらに奥には、「愛・感謝」という温かい想いを抱えているからです。それが、過去の経験でゆがめられてネガティブな欲求を持ってしまうと、マイナス感情に陥るクセがつき、なかなか抜け出せなくなってしまいます。  ここまでが、私が考える心のメカニズムと感情コンサルのフレームワークです(次の図参照)。

なぜ、感情を変えると、望む結果が最速で手に入るのか?  話を 3人に戻しましょう。   Aさん →売上が順調に伸びている。   Bさん →なかなか結果が出ない。   Cさん →成功している知人がいるのに自分は結果が出ない。  という「出来事」を受けて、 3人は今後、それぞれどんな感情を抱き、次の行動に出るでしょう。   Aさん →引き続き楽しく仕事をする。するとまた、良い結果が出る。原動力が「自己肯定」なので、好循環のスパイラルに入る。   Bさん →自分のどこがダメなのかを探して、そこを埋めようと頑張る。しかし、感情が空虚、悲しみのままで、原動力が「不安」であるために、たとえ少しうまくいっても、また新たに「自分のダメなところ」に目がいってしまい、それを克服しようと頑張り続けてしまう。無理して頑張るエネルギーはそうは続かないので、そのうち、「もう無理……」と限界がきてしまう。   Cさん →人にできて自分にできない理由を探す。感情は悔しい、怒りのままで、原動力が「劣等感・自己否定」であるために、「得意なこと・好きなこと」ではなく、成功している人に勝とうとして、「儲かりそうなこと」を探してしまう。結果にこだわり頑張って、結果が出ないと焦って頑張り続けてしまう。結果が出て、ライバルに勝ったとしても、また、「もっと成功している人」と自分をくらべて新たな競争をはじめて、いつまで経っても終わらないゴールなき競争に、やがて燃え尽きてしまう。

いかがでしょうか?  マイナスの感情(原動力)を持ち続けるかぎり、 Bさんと Cさんの 2人は、いつまで経っても心が落ち着かないのです。  なぜなら、その感情(原動力)が不安や劣等感である限り、いつまでたっても自分に満足できないからです。当然、心は休まりません。  この「マイナスの感情」を変えないかぎり、いくら行動しても、満足の得られる結果は手に入りません。  感情を変えることで、行動パターンが変わり、望む結果が出やすくなるのです。  私がこの話をすると、「不安や劣等感という原動力がなくなると、自分がダメになってしまう気がする」という方がよくいます。本来なら、不安や劣等感が原動力で行動するより、やりがいを原動力に行動するほうが、いいに決まっていますよね。  でも、多くの方が、原動力をやりがいに変換する方法を知らないのです。  そもそもやりがいがない人は、世の中に 1人もいないものです。でも、不安や劣等感の奥に、過去に置き去りにされた自分の「穴」を埋めたい、というネガティブな欲求が存在していると、いつまでたっても自己肯定の感情をもつことができず、穴埋めするために頑張り続けます。これでは、やりがいを感じる回路が切れてしまうのです。  いっぽうで、不安や劣等感に苛まれて頑張り続けた結果、「燃え尽き症候群」になってしまった人を、私はたくさん知っています……。  心がギブアップする前に感情を変えて、一番奥に必ずある大切な想い(愛や感謝)を思い出し、「最速」で結果を手に入れましょう!  思えば、父の会社で働きはじめた頃の私は、感情を押し殺していました。「感情と結果の法則」とは、もっとも遠いところにいたと言っても過言ではありません。毎日が不安まみれだったわけです。もし、あのまま、「感情と結果の法則」に気づくことなく過ごしていたら、いったい、今の私はどうなっていたのでしょう。  考えただけでも、怖くなります。              *              *              *  ここまで、「感情と結果の法則」と「感情コンサル」について、詳しく説明してきました。実際のコンサルの現場では、「これが感情、こちらは気分。社長さんの欲求はこうで、その背後には……」などと、理屈っぽく対話をしているわけではありません。  読者のみなさんには、これから登場する 21名の社長さんたちのメンタル(心)が整う様子をじっくりご覧いただくことで、ご自身の悩みを解決するヒントをつかんでいただけたら幸いです。  ちなみに、第 5章の後半には、社長さんご自身が自分に感情コンサルを施す「感情セラピー」のやり方を、詳しく説明しています。事例ともども参考にしてください。  それでは、そろそろ第 1章にまいりましょう。

社員への罪悪感が消えない  お金というのは魔物です。  人間関係を簡単に壊してしまいます。遺産相続問題で、血のつながりがある者同士の関係がこじれてしまうこともあります。私はそういう実例も見てきました。  多くの社長さんにとって、もっとも切実で現実的な悩みは、このお金に関する悩みではないでしょうか。  順調なときでさえ、「いつ、この売上がなくなるかわからない」と心配している。歯車が1つ狂っただけで利益が減ると、もう、不安で、夜もろくに眠れなくなる。本当に苦しくなると、翌月のお金を回していくために、ここをこうして、あそこをああしてって、資金繰りだけの毎日になってしまう……と、そんなお話をよくうかがいます。  私も、父の会社で経理を担当していたときは、売上が少し下がるだけで、ビクビクし、お金がなくなることが恐怖でした。   1人で事業をしている方なら、ダメなら辞めればいい、と腹をくくれるかもしれません。でも、社長さんには、社員とそのご家族の生活がかかっています。「給料が出せなくなったらどうしよう」「リストラで解雇しなくてはならなくなったらどうしよう」って、心がやさしい社長さんほど苦しんでしまうものだと思います。  さて、東田社長の事例です。製造業で社員の数は 40人くらい。なんとか赤字にはなっていませんでしたが、利益がままならず、一生懸命に働いてくれる社員に対して「ボーナスが払えない、昇給もできない」という状態が続いていました。  東田社長は、感情コンサルの場で、辛い心境を語ってくれました。「自分が至らないばっかりに社員に申し訳ないという罪悪感がずっとあるんですよ。『子どもが生まれました』なんて聞いても、素直に喜べなくて、最初に浮かんでくるのは『ボーナスも出せなくてすまない』っていう思いなんです」  胸に溜めていた思いを吐き出していただき、感情コンサルを進めていくと、東田社長がいかに社員思いの素晴らしい方なのかがわかってきました。「東田さんがこんなに胸を痛めて、苦しい思いをされているのって、全部、社員に対しての温かい想いがあるからですよね。自分のことはさておき、社員にボーナスを出してあげたい、昇給もさせてあげたい、子どもが生まれたらお祝い金だって出してあげたい。そういう想いがあるから、業績が振るわないことをご自分だけのせいにして、苦しんでおられるんですよね」「そうですね。はい」「それって、東田さん。無茶苦茶に『イイ奴』じゃないですか!」「はは、そうですね。たしかにイイ奴ですね」  東田社長の顔に、少しだけ笑顔が戻りました。本音を伝えてみると、社員たちから意外な言葉が  思いを吐き出して、自分の「苦しみの元」になっているものが、実は「社員への愛」なのだと確認してもらったところで、私は提案しました。「東田さん。東田さんは、社員に対して『ボーナスが払えなくて申し訳ないと思っているんだ』という気持ちを、社員のみなさんへ伝えたことはあるのですか?」「ええっ、そんなこと伝えたことないです」「もし、社員のみなさんへ伝える機会があったら、東田さんの申し訳なく思っている気持ちを包み隠さずに伝えてみてはいかがですか?『君たちを愛している』とまでは、恥ずかしいでしょうから言わなくてもいいと思いますが……。お話をうかがっていると、社員のみなさんとの関係は良好のようですので、きっと、社員のみなさんの心に伝わるものがあると思いますよ」「そうですね。わかりました。いつも申し訳ないと思っているということを、今度、伝えてみます」  その後、東田社長は、全社員の前ではありませんでしたが、幹部社員たちの前で、「ボーナスも出せなくてすまない。こんな社長についてきてくれて、本当に感謝している」という自分の苦しい胸の内を伝えたそうです。  そうしたら、幹部社員たちからは意外な言葉が……。「えーっ、社長がそんなに苦しんでいたなんて、思ってもみませんでした!」  社員たちは、東田社長が思うほど、気にしていなかったんです。  社長の苦しみなんて、幹部社員レベルでもわからないもの。社長と幹部では、プレッシャーの重さが天と地ほど違うのですから、当然と言えば当然のことです。社員との関係が、良好でないときは?  感情コンサルにお越しになる社長さんのなかには、東田社長のように、「倒産の危機まではいかないけれど、なかなか利益が出ない。社員に、なんとか給料は出しているけれど、ボーナスは出せない」という社長さんが結構おられます。さらに、 2020年からは、新型コロナウイルスの影響で業績が振るわず、そういうギリギリの線でやっている社長さんが増えています。  中小企業の社長さんの場合、社員の給料を支払うために、自腹を切ってお金を出すこともよくある話です。その場合は、「オレが自腹まで切って頑張っているのに!」って、社員に対して、愛ではなく、怒りの感情を抱いてしまう社長さんもおられます。  あくまで私の印象ですが、東田社長のように、自責型の社長さんは、二代目社長とか、守り型の方に多く、他責型の社長さんは、創業社長でガンガン業績を伸ばしに行く攻め型の方に多い気がします。自分でガンガン仕事を進められるので、社員の動きがスローモーで、何も考えていないように見えるのかもしれませんね。「東田社長は、社員と良好な関係を築いていたので、本音を伝えやすかったのでは?」と思われる方もいると思います。

同じようなケースで、その社長さんと社員の関係があまり良くない場合、私は、「社員に本音を伝えてもいいし、伝えなくてもいい」とお伝えしています。  問題をテーブルに上げて、答えは本人に選んでいただくのですね。「ぜったい、社員に本音を伝えたくない」って思いながら伝えても、うまくいきませんから。  ただ、「ぜったい、社員に本音を伝えたくない」と思う理由が、社長さん特有のプライドによるものなら、まず、そのプライドを外すようにします。「プライドを外す」というステップを踏んでから、「社員に本音を伝えてみては?」と提案をしています。  東田社長の後日談です。  感情コンサルを行って半年くらい経ってからいただいたメールによると、どうやら、幹部たちが、「社長の辛さと感謝の想い」を社員全員に伝えてくれたようで、社員から新しい事業の提案があり、それが少しずつ芽を出しはじめているとのこと。「これも、自分の正直な想いを、社員に伝えることができたおかげです」と、感謝のメッセージをいただきました。  東田社長の想いに社員が応えてくれたのは、「東田社長の社員たちへの愛」に気がついた社員たちが、感動したからだと思います。社長にとって、社員は「写し鏡」のようなもの。とはいえ、どんなに社員のことを気にかけ、愛していても、それを伝えなければ相手にはわかりません。社員のことを考えて、悩んでいる社長さん。社員に「愛の告白」をしてみることをお勧めします。

新型コロナで、売上が限りなくゼロに!  お金に関する社長さんの悩みの事例。2つめは、いきなりディープな話で恐縮ですが、急激な売上の減少によって、会社の清算に踏み切った社長さんの事例です。  地方でカフェを経営する社長だった福本さん。  カフェの売上は 1店舗目から好調で、福本さんは銀行から多額の融資を受けて、店舗数を 5店舗まで増やしていました。  そんな、福本さんの足元をすくったのが、 2020年の新型コロナウイルスの襲来です。「まさに、急坂を転げ落ちるように売上が減りました。最初は、一時的なものだと思っていたんです」  この数字になったら危ない……と考えている数字よりも、はるかに少ない売上が毎日のように報告されてきて、「明細を見るのが恐怖でしかなかった」とか。   1日の来店客が 2組だけなど、見たこともない数字が数週間も続いて、ほとんど眠れない日々だったといいます。「一気にメンタルをやられてしまった」と福本さんは振り返ります。  そして、多くの起業家がそうであるように、ある月の貸借対照表(バランスシート)を見た瞬間、「これはつぶれる」と手に取るように未来がわかったそうです。「ここでやめたら、負け犬」という思い  事態がこれ以上、悪化しないうちに会社を清算しなければ……。  そう思った福本さんの心にブレーキをかけたのが、社長としてのプライドでした。「このまま続けたら大事な社員や取引先にも迷惑がかかる、という状況になった時点で、会社を清算することは覚悟しました。でも、なかなか踏み切れなかったのは、見栄やプライドが邪魔していたからです」「見栄やプライド?」「実は私、短期間で成功したので、地元では、成功者というか、名士みたいな見られ方をしていたんです。そんな自分が、たとえコロナのせいとは言え、資金繰りに追われているなんて、知られたくなかった。『ここでやめたら負け犬だ』って思っていました」「そうですね。プライドが粉々になってしまいますものね」「そうなんです。周りからの尊敬のまなざしがなくなって、もしかしたら侮蔑の視線に変わるかもしれない。私のカフェが多店舗展開し、急成長したことに、よく言う人ばかりではありませんでした。『やっぱりね』っていうエサを与えるのも悔しかった。会社を清算する前は、そんなどうでもいいことに悩んでいました」「どうでもよくないですよ。それがバネになって成功したんですから。それにしても、よく見栄やプライドを捨てて、清算の決断をされましたね」「いったい自分にとって一番大切なものは何か?  それを真剣に考えたら、『社員さんたち』という答えに至ったんです。そこがクリアになったら、やはり、彼らを守るためにも、まだ、お金が残っている今、会社を清算するべきだという結論になりました」「素晴らしい!」  私は、思わず声をあげてしまいました。  福本さんが素晴らしかったのは、「地元の人たちから馬鹿にされるかもしれない」という葛藤を乗り越えて、「自分の弱さ」をさらけ出したことです。他人の目なんて、所詮は他人の目!  社長としてのプライド。  社長である以上、多かれ少なかれ、お持ちのことと思います。  周りから「成功者」として見られていることを意識するあまり、このプライドや見栄が邪魔をして、資金繰りが苦しくなっていたのに、生活のレベルを落とすことができず、傷口を広げてしまうという話を聞くこともあります。  ましてや、会社をたたむなんて「馬鹿にされるのではないか」って思ってしまう。  でも、「馬鹿にされるのが嫌だ」と思ってしまうのは、どうしてなのでしょう?  その元は、「自分を認めてもらいたい」とか「自分を大切にしたい」という思いだったりします。  そういう、目には見えない「自分の価値」が形になったものがお金です。  ですから、お金が入らなくなると、自分の価値が下がったように思えて、「馬鹿にされるのでは?」なんて考えてしまう……。  でもこれ、 100パーセント「自分サイドの問題」なんです。「他人の目が気になる」といっても、他人の目なんて、所詮は他人の目。  自分が思うほど、他人は自分に注目していないものです。「アイツ、会社を作って繁盛してるらしいぜ」「ふーん」「アイツの会社、つぶれたらしいぜ」「ふーん」「アイツ、また会社を興して、復活したらしいぜ」「ふーん」  せいぜい、その程度の反応です。  みんな、自分の人生を生きることに忙しくて、基本的に、他人の人生になんて、たいして興味を持っていません。  大事なのは「他人の目」ではなく、「自分はどうしたいのか」ということです。  見栄やプライドを捨てて、会社を清算する決断をされた福本さんの選択は、実に賢明でした。業績ではなく、素晴らしいのは「社長自身」

会社ひと筋でやってきた社長さんのなかには、会社がつぶれた途端に、自分もつぶれてしまうという方もおられます。「お金を持っていること」がモチベーションの方は、お金がなくなってしまうと、自分までなくなってしまうのでしょうか。  業績が良いときはいいんです。  でも、業績が悪化して資金繰りに追われると、自分がどこかにいってしまう。  私は、業績が悪化して、あるいは、会社が倒産して、自分を見失ってしまった社長さんに、よくこんなことをお伝えしています。「会社をやってきたのは社長さんです。業績とかは関係なく、ここまでやり遂げてきた、ここまで頑張ってきた。辛いことも、悔しいことも、すべてご自身で乗り越えて今がある。だから、社長さん自身が素晴らしいのです」  業績は時代の流れやその会社を取り巻く環境、経済の動向で大きく変わります。誤解を恐れずに言えば、半分は運みたいなものです。もし、コロナがなければ、福本さんのカフェだって、今も盛況だったはず。業績なんて、ただの結果でしかありません。  つまり、業績が悪化したって、社長さんが負け犬になったわけではありません。  たまたま、そういう結果が出ただけのことなんです。業績の悪化くらいで、社長をやってきた方の素晴らしさは揺るぎません。それまで培ってきた経験や、積み重ねてきた実績は、その社長さんに実力がある「証」です。今まで頑張っきたご自身が、何より素晴らしい存在なのです。  自分の弱さをさらけ出し、社員への給与や退職金の支払いを確保できる段階で会社を清算した福本さんの後日談です。資金繰りの不安から解放されて、今は、残ってくれた仲間と「新しいことをはじめよう」とワクワクする日々だとか。 「1度、年商 1億円超えを経験したことがあると、また 1億円稼げるという自信が持てるんですよ」と、力強くおっしゃっていました。  自分の素晴らしさを、自覚されている言葉だと思います。

家族には、「ちゃんとやってるから!」  社長さんにとって、「資金繰りの悩み」は、なかなか相談相手がいないものだと思います。社員に相談すると「ウチの会社、危ないのでは」と思われそうだし、ヘタに銀行に相談したら、逆に資金を引き上げられてしまいそう。そして、家族には心配をかけたくない……。  次に紹介するのは、そんな「やさしさ」から、苦しくなってしまった社長さんの事例です。  社員 50名を抱える製造業のトップである田淵社長が感情コンサルにお越しになったとき、最初は「お金が足りない」ことが問題なのかと思いました。ところが、どうも、お話をうかがううちに、「お金の悩みを誰にも相談できないこと」がストレスの最大の原因だとわかってきたのです。  奥様が経理を担当されていて、「資金繰りはどうするの?」って聞いてくるのが嫌で、イライラしてしまい、「大丈夫だから!  ちゃんとわかってやってるんだから待ってろ!」と、つい声を荒げていたそうです。「奥様は経理を担当されているんですよね?  たぶん、資金繰りが苦しいことはご存知でしょうから、相談されてもよいのではありませんか?」「いや、家庭に仕事を持ち込むと、家のなかが嫌なムードになるし、家族に心配かけたくない。それに、お金の問題くらい、 1人でクリアするのが本物の経営者でしょう」  どうやら、田淵社長には、「経営者は、お金の問題くらいで周りに頼って、心配させてはいけない」という思い込みがあるようでした。  私は、この思い込みから田淵さんを解放できないか、試してみることにしました。「家族や社員にお金の心配をさせたくないって、すごくやさしいですね」「いや、それが経営者としては弱い部分なんです」「経営者としては弱いかもしれませんが、人としてはどうですか?」「まあ、人としてはやさしいほうがいいですけど」「田淵さんは、社長である前に 1人の人間ですよね。人として、そんなやさしさを持ち合わせているなんて素敵じゃないですか」「まあ、そういう見方もできるかもしれません」相談することは、心配させることではない  自分を否定していた田淵社長でしたが、まず、「経営者として弱さはあるけれど、人間としては素敵である」と、そこまでは受け入れてもらえました。  私は続けて言いました。「もし、田淵さんと奥様の立場が逆だったらどうですか?  つまり、奥様がガンガン攻める経営をしていて、田淵さんが経理を担当しているとします。そんなある日、奥様が『ちょっと資金繰りが厳しいんだけど、どうしよう』って相談してきたら、田淵さんはどんな気持ちになりますか?」 「『あっ、自分は信頼してもらっているな』って感じるかな」「なるほど。頼ることはいけないって、さっきはおっしゃいましたが、逆の立場になったとき、自分が頼られるのは嫌な感じがしないんですね」「ああ、そうか……。たしかに、そうですね……」「奥様から、『どうするの?』って言われるのがすごく嫌だっておっしゃっていましたよね。もし、立場が逆転して、田淵さんが経理を担当していて、資金繰りが苦しいことがわかっているのに、社長である奥様から何の相談もなかったらどうですか?」「そうか……、心配で『大丈夫なの?』って声をかけると思います」「ですよね。奥様は、単に田淵さんのことを心配して、『私にも相談してよ』って、おっしゃりたかったのではありませんか?」 「……今まで、 1人で解決できなくてダメな社長だと思っていました、でも、周りを信頼できず、本音が言えないほうがダメな社長なのかもしれませんね。経営者である前に人間なんですものね」  この感情コンサルで、田淵社長はガラリと変わったそうです。  奥様に、「実は今、こんなふうに資金繰りをやっていて、今後はこういうふうに進めようと思うんだけど、どうかな?」って、相談するようになったのです。  たとえ、自分のなかで方針が決まっていても、奥様の、「あっ、それいいじゃない」「それってちょっと辛くない」という言葉を聞くだけで、とても気持ちが楽になったのだとか。  さらに、幹部社員にもいろいろと相談するようにしたら、それまで思ってもいなかったような発言や提案が出てきて、会社としてすごく活気が出たとのことでした。「今までは、資金繰りに困っているのに、『大丈夫だから!』って言っていた。これは、心配をかけまいと思って、困っているのに大丈夫だって言っていたわけで、自分にも周りにもウソをついていたんですね。これからは、ウソをつかずに、本音をさらけ出してやっていくつもりです」  田淵社長からは、そんな言葉をいただきました。とかく、相談しにくいお金の悩み。でも、相談することは、決して悪いことではないのです。

資金繰りに追われていた私  社長さんのお金に関する悩みの事例。4つめは、手前味噌ながら、私自身の過去の事例についてお話をさせてください。  中小企業の社長さんは、運転資金や社員の給料を確保するために、自腹を切ることがあると思います。  私の体験は、そんな社長さんの「資金繰りで、自腹を切るのが耐えられない」という悩みを解決する1つのヒントになると思い、お話をさせていただきます。  すでにお伝えしているとおり、私は父の会社に経理担当役員として入社しました。「会社を運営するうえで、借金をしてはならない!」  それが、父の経営方針です。父の存命中も、そして、今でもずっと守り続けています。  経営をしていると、業績に波はつきもの。そのたびに「運転資金」が必要になりますよね。運転資金とは、売上の入金よりも先に仕入先への支払いをしなければならない場合に必要になる資金のことです。業績が急拡大したときはもちろん、さまざまなケースで運転資金は必要になるものです。  借金をしないというと、聞こえはよいですが、それは「運転資金が足りなくなること」イコール「自分たちがお金を出して、足りない分を補填する」ということ。  実際に、役員報酬を受け取らなかったり、個人預金を取り崩して、会社に貸し付けることもたびたびありました。  形としては、会社が個人からお金を借りているので、決算書に「〇〇円押野満里子から借入金」なんて載ります。でも、いくら記載があっても、運転資金を補填する貸付なんて、なかなか返ってくるものではありません。  もちろん、業績が順調なときは、数か月で資金が回収できて、私の手元に戻ってくることもありました。でも、ひとたび赤字になると、社員の給料とか工場の維持費などの固定費を捻出するために、また、経営者(家族)がお金を貸し付けることになります。しかも、戻ってこないことのほうが多い。  私は、これが本当に嫌でした。  だって、自分たち夫婦が一生懸命に貯金したなかから、生活費とはケタが違う額を出さなければならないのです。  弊社は手形を使わない主義だったので、本当の意味で無借金経営でした。銀行に頭を下げなくて済むので、その点だけは少し気が楽でしたが、貯金がどんどん減って、「ウチの家庭、将来は大丈夫?」って不安になって、正直、ものすごいストレスでした。  繰り返しますが、経営者が資金繰りのために自腹を切るというのは、ウチだけの話ではありません。  言ってしまえば、「中小企業の経営者あるある」。  会社の財布と自分の財布の境目がないという状態です。世の中にある中小企業で、一番給料をもらっていないのは、もしかしたら、社長さんかもしれません。「資金繰りに困らない女になる!」と宣言  資金繰りで自腹を切ることが大嫌いで、強烈なストレスを感じていた私。  さあ、感情セラピー(自分に対する感情コンサル)の出番です。  私は、感情セラピーで、「なぜ、お金がなくなると嫌なのか?」を自分の心に問い、「資金繰りが嫌だ」という思いを外すようにしました。  お金がなくなるのが怖い理由って、極端に言えば、「会社が倒産して、家族が路頭に迷って、食べるのにも困ってしまうのが怖い」というものです。  最後の手段として、自給自足という手がありました。私たちの会社は長野県の伊那谷という、自然が豊かで農業が盛んな地域にあります。家庭菜園をやっていましたから、会社がつぶれたら、食べ物を自分で作る手だってある。何とかなりそうな気もします。  そんな感情セラピーを繰り返して、少し気が楽になっていたある日、私は何の根拠もなく、こう思うことにしたのです。「私は、明日から、資金繰りに困らない女になる!」  不思議なもので、こう思い込むことで、少し気が楽になり、気のせいか資金繰りも少し落ち着いたように感じました。  そんな頃でした。私はある人の話を聞いて衝撃を受けたのです。目からウロコだった、ホームレス経験者の言葉  その、ある人とは、ホームレスの経験を持つ方です。  その方はこうおっしゃったのです。「お金が 1銭もなくなっても、なんとか生きていけるもんですよ」  この方、かつて丸 1週間、無 1文だったこともあったそうです。  でも、食べ物には困らなかった。  ボランティアによる炊き出しもあるし、それこそ、ゴミ箱をあされば、賞味期限が切れたコンビニ弁当が捨てられている時代だったそうです。  この「お金が 1銭もなくなっても、なんとか生きていけるもんですよ」という言葉を聞いて、私は、まさに目からウロコが落ちる思いがしました。「あっ、お金がなくても死なないんだ」  単純に、そう思うことができました。  さらに、時を同じくして、あるセミナーでこんな言葉を聞いたのです「お金っていうのは、『損してもいい』って本気で思えると、入ってくる」  この2つのメッセージに感化された素直な私は、本気で「お金なんて、なくても死なないから、損してもいい」って思うことにしました(「本気で」という部分が重要です!)。

すると、どうでしょう。本当に、あまりお金に困らなくなったんです。「損してもいい」と思うと、逆に得する理由  どうして、そんなことが起こったのでしょうか?  よく聞く「引き寄せの法則」で言えば、「損しないようにしよう、損しないようにしよう、とお金に執着していることで、逆に損を引き寄せてしまう。だから、損してもいいと思うことでそれを避けられる」とそんな説明になると思います。  でも、スピリチュアルでもなんでもなくて、たしかに、「損をしたくない」って考えていたときは不安だったものが、「損してもいい」って思った途端、楽になります。  新しいことをはじめるときも、何かを買うときも、「損していい」のですから、安いものを探す必要がありません。楽しいとか、心地よいという思いのほうを優先させることで、積極的に動けます。  どうも、そういう精神状態で、「お金を追いかけるよりも、お金に執着せず、楽しいことをしよう」と考えていたほうが、いろいろなことが、うまくいくようなのです。「お金に支配される生活」から、「お金に感謝して、自分のために使う生活」ですね。  お金なんて、ただのツールです。  子どもの頃に貧乏したために、それがトラウマとなって、ツールであるお金に支配されるなんて、考えてみればおかしな話です。  私はその頃、すでに感情セラピストの育成講座をはじめていました。  その運営でも、「損してもいいんだから、こうしよう」って直感的にいろいろなことを決めるようにしたら、ストレスはないし、時間短縮にもなりました。  そして、なんと、売上が 1ケタ上がったんです!  この「損してもいい」は、お金に執着して、ストレスを溜めてしまっている人の感情コンサルをするときの、質問定番ワードになりました。「損してもいいって言えますか?」って。  たいがいの方は「損してもいいなんて、とても言えません!」てお答えになりますが……。そのお金の執着の奥には、どうしても譲れない大切な想いとつながっていることがほとんどです。その大切な想いを思い出すことで、お金に振り回されない自分というものを取り戻すことができるのです。

お金の悩みで眠れないとき、やっていただきたい「5つのこと」  第 1章では、「お金の悩みで眠れない」という事例を4つ紹介しました。  この章の最後に、「お金の悩みで眠れず、お金しか見えなくなってしまったとき」に、その「迷いの森」から抜け出すためにやっていただきたいこと、忘れないでほしいこと5つを、おさらいしておきます。お金の悩みで眠れないとき、やっていただきたい「5つのこと」その 1  そもそも、自分は何のためにこの事業をやっているかに立ち返る  資金繰りで夜もおちおち眠れず、頭のなかが「お金、お金、お金」ってなると、会社のことも、自分のことも見失ってしまいます。  そんなときは、ぜひ、頑張っている自分をねぎらったあとで、「自分はいったい、何のためにこの会社をやっているんだっけ?」という原点に立ち返ってください。ビジョンや理念を思い出すのです。  そうすると、残すべきもの、捨てるべきものが見えてきます。「親の会社をそのまま引き継いだので、事業についてはそれほど思い入れがない」という場合は、「自分にとって一番大切なものは何か?」を思い出してください。  会社を清算したカフェ経営者の福本さんの事例では、「いったい自分にとって一番大切なものは何かを真剣に考えたら、『社員さんたち』という答えに至った」という話がありましたよね。その 2  「お金がなくなると何が不安なのか」を正しく認識する  私自身が、お金に対する不安に苦しんだ経験からわかることがあります。  それは、「お金がない」「お金が足りない」って、漠然とした不安が一番やっかいだということです。  漠然とした不安は、不安が不安を呼んで、雪だるま式に増大します。  人間というものは、「自分にとっては、これが不安なんだ」という定義ができれば、「答えを見つけよう」って思考が働くようになります。トンネルに入って真っ暗闇だと不安でも、出口の光が見えると、そこに向かって歩き出しますよね。  不安の正体がわかれば、私のように、「お金に困っても、命までは取られないよね」って、漠然とした不安な思いから解放されます。  あくまで私の感覚ですが、お金の問題に限らず、不安の正体が把握できて、「本当にそうなの?」と、少し引いた目線で見ることができれば、その時点で、感情コンサルを受けにいらした方の半分くらいは、悩みが解決したという印象です。その 3  お金の悩みであっても、人に相談する  お金の悩みは、社長さんにとって、ある意味もっとも周りに相談しにくい悩みだと思います。でも、どうか 1人で背負わないで、誰かに相談してください。  相談相手は、信頼できる会社のナンバー2とか、社外で信頼しているメンターとか、あるいは家族でもよいと思います。  感情コンサルにこられたある社長さんの話です。  資金繰りの悩みから、家庭では奥様に「話しかけるな!オーラ」全開で接していたそうです。それが、いよいよ会社が危ないとなって、思い切って奥様に打ち明けたら、「あなたの好きなようにすればいいわよ」  って言われて、あっけにとられたと聞きました。  実は奥様は、社長さんが 1人で苦しんでいることを心配していて、「やっと話してくれてよかった」と安堵したのですね。  本章の田淵社長が、意を決して奥様に資金繰りの相談をした事例も、そうでした。  弱い心、本音の思いを見せることができると、近くにいる人ほど、そんなあなたに寄り添ってくれるものです。  何も、相談相手から、アドバイスをもらおうと思わなくても良いのです。  誰かに相談するだけで心が軽くなるし、何が問題なのかが整理できます。  相談するうちに、自分が本当はどうしたいのかが見えてくることだってあります。そもそも、誰からどんなアドバイスをもらっても、最終的に決めるのは自分ですよね。「相談できる相手がいる自分はラッキー」って思って、お金の悩みであっても、心に溜め込まず、吐き出してみてください。その 4  お金では悩まないと、自分で決める  私は、この方法で救われました。  自分の話だけでは信じていただけないかもしれないので、もう 1人、私の友人である 50代の女性社長の事例を紹介しましょう。  彼女は、お父さんから会社を引き継いだのですが、「自分はお金の奴隷」が口癖でした。「私はお金の鎖でつながれているのよ」「その鎖、取れるよ」

「無理よ。取れるもんなら取ってみてよ」「じゃあ、ちょっとイメージして。手が鎖でつながれているでしょ」「うん、つながれでる」「今、取ったけど」「えっ?  あれ?  本当に取れた」「そんなもんだよ」「うそ?  誰にも取れないと思ってたのに、どうして取れたんだろう?」「鎖が取れたから、もう自分で主体的にお金を回せるよ」「うれしい!  この鎖さえなければいいって、ずっと思ってたんだよ」  彼女の場合、私と友人関係であるという点も大きかったと思います。彼女のなかで、「満里子さんなら、もしかしたら鎖を取ってくれるかも」という深層心理がうまく作用してくれたのかもしれません。  それまでの彼女は、「お父さんから受け継いだ会社のお金を、自分が自由にしてはいけない」という思い込みが「お金の鎖」になっていたようです。  その思いから自由になった途端、がぜん、お金の運用に目覚めて、海外商品への投資とか新規事業開拓などをはじめて、今では、すっかり羽振りがよくなったと聞きました。  我ながら、お金の鎖から外してあげたのは、すごい効果でした。  お金に対するメンタルブロックって、実は、意外に簡単に外せるんです。  コツは、都合のいいほうへ勘違いし、自分は大丈夫と決めること!  そうすると、いろんなことがうまく回りはじめます。その 5  チャンスが来た、と前向きにとらえる  これまで感情コンサルで出会った社長さんたちを思い起こすと、お金がなくなるときは、「大きな岐路」に立たされているのだろう、と振り返ることができます。  そこから成長軌道に乗った人を、たくさん見てきました。  だから、お金の問題が起きたら、「チャンスが来た」と前向きにとらえることもできるのです。  私自身、「会社が危うい」というお金の悩みがきっかけになって、感情コンサルという仕事をはじめることができました。  プロローグでも触れましたが、弊社が得意先から 1年後の取引停止を宣告されなかったとしたら、私は今頃、平々凡々と、日常を過ごしていたに違いありません。  改めて、感謝の気持ちでいっぱいです。  経営者がお金の問題に出くわしたときは、1つ上のステージに上がるのためのスタートラインに立っているのかもしれません。  取引先のせい、経営環境のせい、などと頭を抱えているのは、もったいないです。  さらに大きくお金を回すためのジャンプ台に立っている、と捉えると、世界が違って見えてきませんか。  ここまで、お金の問題に直面したとき、心がけていただきたいことを、5つに分けてお伝えしました。万一のときこそ、役立てていただければ幸いです。

声が出なくなってしまった!  社長さんは、とかく、「何でも自分の責任」だと考えてしまいがちです。  ですが、その責任感から、言いたいことを抑えて心に溜め込んでしまうのは要注意です。  この相談の主、小森さんと久しぶりに会ったとき、驚きました。  笑顔が消えて顔色も悪く、なんと、思うように声が出せないと言うのです。  彼女は営業代行会社の経営者。いろいろなメンバーとチームを組んで活動を進めており、自らもプレイヤーを兼務しています。自分の提案が 3連敗中で、メンバーからの冷ややかな言葉に何も返すことができず、責任を感じて落ち込んでいるのだとか。「私の責任だから、何か改善策を考えるしかない」  その言葉を聞いて、私は、彼女の声が出なくなった原因はこれだと確信しました。  この「自分の責任だから、周りには何も言えない」という状態は、社長さんにはよくある話。「経営者は孤独だ」とはよく言ったものです。  私は彼女に言いました。「声が出なくなったのは、チームの人たちに言いたいことを言わず、押し殺しているからです。今日、家に帰って 1人になったら、思いっきり文句を言ってください」「えっ?  だって、私が悪いんですよ」「自分が悪いかどうかは、とりあえず棚にあげて、言いたいことを吐き出してください。文句でもいいです。そして、今晩はもう何も考えず、温かいお風呂に入って、『 3連敗中、結果にはならなかったけれど、よく頑張った!』って、胸に手を当てて静かに、自分で自分に言ってあげてください。そして、体をやさしくさすってあげてください」「ダメです、文句なんて言えません。だって、全部、私の責任だから。私がまだまだ未熟なのがいけないんです。だから、頑張るしかないんです!」  そう言うと、彼女はポロポロと涙をこぼして泣きはじめたのでした。  何度やってもうまくいかないときって、つい「自分はダメだ」と思ってしまいます。そして、「自分のせい」だと落ち込み、「もっと頑張らなければ」と考えてしまう。  人間は感情で動いています。心にわだかまりがあると、体に反応があらわれます。声が出なくなるのは、九分九厘、「言いたいことを言っていない」ときにあらわれる症状です。  そして、この「言いたいこと」というのは、多くの場合、「文句」なんです。小森さんは、口では「自分のせいだ」と言っています。でも、深層心理では、「自分だけが悪いわけじゃない」「周りの人だって、もっと協力してくれたっていいのに」などと思っている。  それは口に出せないから、フタをして、おもてに出ないようにしている。そのせいで、声が出なくなってしまったのです。文句は、 1人のときに、思いっきり吐き出す!  解決策は、心の奥に押し込めている本音を解放してあげることです。  それには、文句を口にして、吐き出してあげるのがもっとも効果的なんです。  私の知人で、あるセミナーの講師から、「〇〇さんは結果が出ていないから、まだ、説得力がないですよね」と言われて、それが刷り込みになってしまった人がいました。セミナーの内容について疑問を感じていたのに、そう言われて、「たしかに、そうかも」って思ってしまい、すっかりやる気を無くしてしまったのです。  実績も結果も出ている講師からのその一言によって、「できていない自分は何も言う資格がない」と自分責めに入り、相手に目を向ける意欲がなくなっていました。  私は、その彼女にも、「自信とやる気をなくしたのはわかった。でも、まだ、そのセミナー講師に言いたかったことを口に出していないよね。聞いてあげるから、言いたいだけ文句を言ってみたら」って伝えました。  はじめは遠慮がちだった彼女ですが、だんだん、文句が止まらなくなって、全部吐き出したらすっかり気分がよくなって、「やる気が復活しました」とのことでした。  人って、文句が言えないとどんどん意欲が下がってしまいます。サラリーマンが居酒屋で上司への文句を言うのは、実は理にかなっているんです。まずは、文句を言って、エネルギーを取り戻す。エネルギーを取り戻して元気が出てきたら、そこで、「本当によくやっているよ」と、自分を認めてねぎらってあげる。そういう順番です。  私は、泣いて「文句なんて言えない」と言う小森さんに提案しました。「相手の前で言うのではなくて、 1人のときに言うだけだから大丈夫。思いっきり、相手のせいにして、文句を吐き出してください。そして、文句を言ってスッキリしたら、今度は、『徹夜で提案資料を作ったよね。頑張ったよね』って、『やったという事実』に目を向けて自分をねぎらってください」「わかりました。やってみます」「自分をねぎらったら、自分のなかで、『じゃあ、今度はどんな提案をお客様にしてみようか』って、考えを練り直してみてくださいね」  私からの提案を実際にやってみた小森さんは、気持ちがスッキリして、お客様に対して今までとまったく違う自分の思いが出てきたのだとか。それで、その思いを込めて提案したら、次々に契約が取れたそうです。不満を溜めていて自信がないまま提案しても、相手に響きません。文句を吐き出して、自分をねぎらってエネルギーが復活したから、新たな考えも浮かんで成約につながったのだと思います。

文句は、整理してからテーブルに乗せる  高度成長期の「社長」には、ワンマンというイメージがありました。  言いたいことをガンガン社員に伝えて、グイグイ引っ張る。そういう社長さんが成功する時代でもあったと思います。しかし、今、中小企業の社長さんが同じことをやったら、次々に社員が辞めてしまうでしょう。たとえば、不満を直接伝えようものなら、「うちの社長は小さいやつ」などと言われかねません。  そういう場合は、 1人のときに、遠慮なく文句を言ってくだい。  口に出すだけで足りなければ、新聞紙を丸めて段ボール箱を叩きながら言ってもいい。お金を払って、お茶碗とかを自由に割ってストレスを解消できるお店もあります。私の友人は、そこに行ってお茶碗を割ってみたそうで、「スッキリした!」と言っていました。  自己啓発のセミナーではよく「ネガティブなことは口にしないでください」なんて言っていますが、そんなの無理だと思います。だって人間なんですから!  私に言わせれば、溜め込まずに吐き出すほうが、ずっと、ボジティブです。  同調圧力が強い日本では、事なかれ主義が重要で、「怒り」の感情は悪者になりがち。  でも、「怒り」は、社長さんにとってパワーの源になることもある大切なものでもあります。ですから、怒りは溜め込まずに、口から外に出すことで、心の中を軽くして、怒りの奥にある「意欲」を取り戻せばいい。  感情コンサルにこられた小西社長は、「我慢できない行動をとる社員がいて、どうしても本人に本音を伝えたい」とのことでした。「わかりました。では、社長さんが抱えている不満を、その社員さんに伝えていただいてもよいです。ただし、伝え方に注意が必要です」「伝え方?  不満にも正しい伝え方があるのですか?」「あります。その前に、 1人のときに不満を言うと、スッキリするだけでなく、もう1つ、素晴らしい効果があります。それは、『相手のどこがそんなに嫌なのか』が整理されることです。小西さんは、その社員のどこがそんなに嫌なんですか?」「そうですね。私がミスを注意してもヘラヘラしていて、まったく反省しているように見えないところですかね。昨日もそんな態度をされて腹が立ちました」「その態度が、どうしてそんなに腹立たしいのですか?」「なんだか馬鹿にされているような気がするし、ちゃんと反省しないと、彼だって、次につなげられないじゃないですか」「なるほど。では、その事実だけを伝えるようにしてください。たとえばこんな感じです。『私は昨日、あなたが反省していない態度を見たときに、実はすごく腹が立ったんだ。ちゃんと反省しないと、同じミスをして周りに迷惑をかけて、あなたの立場が悪くなるんじゃないか?  だから、しっかり反省してほしいと思ったから腹が立ったんだ』」「怒るのではなく、事実を伝えるんですね」「そうです!  本音を伝えるときは、感情をぶつけるのではなく、事実をテーブルに乗せるイメージで。感情のボールを投げつけても、相手は反射的によけてしまいますから」「なるほど」「あと、出だしは『私は』です。あくまで『自分は、こう感じたけれど、どうかな?』という事実をテーブルの上に乗せてください。その思いを受けとるかどうかは、相手の自由にさせます。そうしないとコントロールになってしまいますから」「わかりました」本音を伝えると、本音が返ってくる  私とこんな会話をした小西社長は、そのあと、また同じ社員の態度にカチンときたとき、その場ではグッとこらえて、翌日、その社員を会議室に呼び出したそうです。  そして、なんと、その社員に、お茶を入れてあげたのだとか。  そのうえで、「実は昨日、私はすごく腹が立ったんだ。なぜかというと……」と話をしました。怒るのではなく、自分の思いをテーブルの上に乗せてみたのです。  すると、相手の社員は、「いや、自分は、まったくそういう意図はなくて……」って、どうしてそういう態度をとってしまうのかを説明し出したそうです。  それで、お互いに考えていたことがわかって、関係が前に進んだのです。  不満は、お腹に溜め込まずに、 1人になったときに吐き出す。どうしても本人に伝えないと気が済まないときや、相手に伝えたほうがよいときは、相手に伝えるのも、ありです。  ただし、怒りの感情のまま相手に伝えることは、思いっきり相手めがけてボール投げつけるのと同じ行為です。怒りを整理して、「私はこう感じた」と伝えれば、相手も受け取りやすくなるものです。  本人に伝えづらいからと、別の人に伝えると、それが別ルートで本人の耳に入って、人間関係が破綻してしまうこともあります。「伝えるなら、本人へ直接」が原則。そして、小西社長の例のように、自分の気持ちを、テーブルの上に乗せるように伝えてください。「自分はこういうところが傷ついて、こういうところが嫌だったんだよね」って。  さらに、できれば、「早く一人前になってもらいたいから、つい強く言ってしまったんだけど」って、責めてしまった自分の思いをセットで伝える。  そうすれば、相手は受け取りやすくなって、わかってくれるものです。こっちが本音を伝えると、相手からも本音が返ってきます。本音のキャッチボールができると、深く理解しあえるようになります。社長だって人間です。社員に本音を伝えてもいいんです。

テレビ番組を見て、大ショック「もう、社長をやめようと思っているんです」  スーパーマーケットのオーナー社長として、 7店舗を展開する新田社長は、疲れた表情で私にそう言いました。  新田社長の信条は、「社長たるもの、社員に弱いところを見せてはいけない」。  社長は何でも知っていて、何でもできる。そして人格者でなくてはならない、と自分に課して頑張っていました。  ところが、ある日、テレビのビジネス番組を見てショックを受けます。  その番組で紹介されていたある社長は、あっけらかんと、「社員にいろいろなことを教えてもらって、助けてもらっています」と言い放ちました。部下に自分の弱い部分を平気でさらけ出している。それでいて、社員たちから愛され、信頼もされている。  そんな社長の姿を見て、頑張っている自分が馬鹿らしくなってしまったというのです。  たしかに、ひと昔前の社長像は、威厳があるカリスマでした。そして、そういう社長の下で働けることに誇りを持つ社員も、たくさんいたのではないかと思います。  しかし、現代の若者の多くが求めているのは、ピラミッドのはるか上にいる社長ではなく、時には、自分の気持ちを理解してくれる経営者です。たとえば、 IT企業の若い社長さんは、スタッフと一緒になって同じ目標を目指しますよね。  高校教師が、クラスの雰囲気を盛り上げるために、子どもたちのなかに入って行き、まるで、ガキ大将のように接したら、クラスが1つにまとまって、すごく面白いチームになったという実例も聞いたことがあります。  私に相談してきた新田社長は、まさに昭和タイプのカリスマ経営者を目指していました。だから、社員には絶対に弱みを見せない。そして、月に 1回の店長会議では、メンバーのやる気を奮い立たせようと、ミニセミナーまでやっていたそうです。  でも、いくら気合いを入れて会議をやっても、店長たちは、いっときやる気になったように見えて、結局、変化が見られず、「すっかり疲れてしまった」とのことでした。最後の店長会で、本音を話してみたら「みんながガッチリとスクラムを組んで一緒に頑張る、というような組織を作りたかったけれど、絵に描いた餅だったみたいです。ほとほと、疲れてしまって、もう、社長を降りようと思っているんです」「事情はわかりました。もし、そこまで覚悟ができているのなら、社長を降りる前に、店長さんたちに、新田さんの本音をお話ししてみてはいかがですか?」「えっ?  そんなことを言ったら、ドン引きされますよ」「辞めるなら、ドン引きされてもいいじゃありませんか!」  その日の感情コンサルはそんな会話で終わりました。  しばらくして、新田社長は、ついに社長を辞める決心をして、それを伝える最後の店長会議に臨んだそうです。初めて、なんのシナリオも用意せず、自分の本音を伝えるつもりでのぞんだ店長会議。はじまる前は、手が震え、手汗が出て、正直、すごく怖かったとか。  店長会議では、「自分は、がっちりとスクラムを組んで、全員がやる気に満ちた組織を作ろうとしてやってきたけれど、うまくいかなかった。これはあなたたちのせいじゃない。たぶん、私のやり方がまずかったと思う。これまで、みなに迷惑をかけてきたけれど、近いうちに社長を辞めようと思う」と、本音を包み隠さずに伝えました。  すると……。店長たちの目の色が変わって、がぜん、やる気になったというのです。  そして、「そんなこと言わないでください!  僕たち、頑張りますから!」と。今まで、うまくいかなかったのに、本音をさらけ出した途端、ずっと聞きたかった言葉を初めて聞くことができたのです。普段、弱みを見せない社長の本音は、そのギャップが社員に響きます。  自分の欠点をさらけ出せる人ほど、人から愛されるという法則があります。  周りの人たちは自分を写す鏡。本当の自分を隠していたら、周りも本音で付き合ってくれません。それに、できる自分を演じていても、周りにはバレバレです。  等身大の自分をちゃんと自分自身が認めて、弱い自分を見せられる人が、本当の意味での人格者なのかもしれません。社長かどうかなんて、関係ありません。そもそも、何でもできる人は 1人でやればいいのです。  かつて、田中角栄さんが大蔵大臣(現在の財務大臣)になったとき、エリート官僚たちの前で、「自分は高等小学校卒で諸君のような専門家ではないが、経験を積んで、いささか仕事のコツは知っている。これから一緒に国家のために仕事をしていくうえでは、お互いの信頼関係が大切だ。大臣室の扉はいつでも開けておく。何でも言ってほしい。上司の許可を取る必要はない。すべての責任はワシが取る」という内容の演説をして、官僚たちの心を鷲づかみにしたと聞いたことがあります。  手前味噌ですが、私も、感情セラピストの養成講座では、メンバーに本音で接してもらうために、率先してダメな自分を正直にさらけ出すようにしています。そのほうがカッコつけずに等身大の私でいられますし、楽しい時間が過ごせます。  店長さんたちがやる気になった新田社長のスーパーが、その後どうなったか?  なんと、 7店だった店舗が、たった 3年で 37店舗にまで増えたそうです!  新田社長は、この躍進について、「あの日、私が本音を伝えたのが大きかった。みんながやる気になってくれたことで、自分は経営に専念できるようになり、すごく楽になりました。毎日、やりがいのある日々です」と笑顔で語ってくださいました。

「苦しまないと成長できない」という誤解悩みに向き合うときは、まず「安心すること」  第 2章は、「言いたいことが言えない」「自分の弱みを見せられない」という事例を3つ紹介しました。「社員よりもプレッシャーを感じるから経営者だ」というわけではないし、「弱みを見せないことが美学」でもない。社長だって、もっと自分に素直になってやっていくほうが自分らしく過ごせるということ、伝わりましたでしょうか?  この章の最後に、日本人に特有の思い込みである、「苦しまないと成長できない」という誤解について触れたいと思います。  ある社長さんを感情コンサルしたとき、その方がこんなことをおっしゃいました。「今回、こんなたいへんな苦難がありました。だから、変化も大きいと思います」  この言葉を聞いた私が、最初にやったことがあります。  それは、この社長さんの「苦しまないと成長できない」という思い込みを外すことでした。  悩みを解決したいとき、最初にやるべきことは、「安心すること」です。  人は、悩んでいるときって、うつむき加減で呼吸も浅くなります。逆に、安心すると深い呼吸ができて胸も開きます。  これが、問題解決ができる姿勢です。  ある出来事が起こったとき、思い込みによってマイナスの感情が出て安心できないと、人は解決のための行動ができなくなります。  逆に、マイナス感情が出ても、その感情を吐き出したり、時間が経って落ち着いたりして安心すると、心がフラットになって、次の行動に移ることができるのです。  ですから、感情コンサルでは、感情を癒すところからスタートします。  それにしても、なぜ、「成長」と「苦しみ」はセットになってしまったのでしょう?  思うに、トラウマを外すときって、本人にとって苦しかった出来事から思い起こして、心の深い部分に入るから、「トラウマから抜けて成長するためには、苦しまなければいけない」と誤解されてしまったのかもしれません(感情コンサルで、相手の方に、これに似たセッションをするケースがありますが、苦しい作業にはなりません)。  あるいは、ある世代の社長さんには、高度成長期に流行った、『巨人の星』(古くてすみません)に代表されるスポーツ根性漫画の影響もあるのかも、と思います。「苦しまないと成長できない」と思っていると、苦しみを引き寄せる  もちろん、実際には、苦しまなくても成長はできます。  繰り返しになりますが、感情コンサルのプロセスには、「苦しむ」なんていうステップはありません。  もっと言ってしまえば、「苦しまないと成長できない」って思い込んでいると、苦しみを引き寄せてしまいます。  これは、父の会社で七転八倒していた頃の自分がそうでしたから、体験としてよくわかります。  私が入社した当時の父の会社はとにかく忙しく、私も父母と同じように、午前 1時 2時まで働くのが当たり前でした。「社長の娘なんだから、普通に働くだけではダメ、忙しく働いて当たり前」と思い込み、弱音も吐かずに、毎日、頑張っていました。   24歳で4つ年上の夫(現在の二光光学の社長)と結婚しましたが、妊娠後も大きなお腹をかかえて働き続けました。出産の日も、午前中まで仕事をしていて、お昼ごはんも食べて、昼休みに少し体調がおかしいからと病院に行ったら、「もうすぐ生まれますから、すぐ入院してください」と言われて、その日の夜に出産したんです。  それほど忙しくても、社長の娘だから当然と思っていました。今、思えば、自ら苦しみを引き寄せていたと思います。  この異常なほどの忙しさというのは、「中小企業の社長(と家族)あるある」ですよね。  私には、まだ夫がいたので、ただ黙って見守ってくれていただけでも大きな支えでした。もし、夫がいなかったら、育児ノイローゼで本当に危なかったと思います。  身を粉にして働いて、言いたいことも言えず、さらに苦労が苦労を呼び寄せてしまう。  まさに負のスパイラルです。  ですから、まずは、とにもかくにも、自分をねぎらって「安心」しないと、この負のスパイラルから抜けられないんです。「悪いこと」は、ただそれだけの事実でしかない  感情が落ち着いて、冷静に周りの出来事を感じると、実は、良いことも悪いこともだいたい均等に起こっていることがわかります。  実は、心が落ち込んでいると、そのうちの「悪いこと」ばかりに目がいっているだけなんです。  有名な、「目をつぶって部屋のなかにある赤いモノを思い出す」という実験があります。意識していないと見えていなかった赤いモノが、目を開けて意識した瞬間から目につくようになります。あるブランドの商品を買おうと思っていると、街角でそのブランドの商品を持っている人が、やけに目につくようになるのと同じこと。  意識するから目につくだけで、悪いことのほうが多いわけではないのです。  まずは心を落ち着けて、「良いこと」も「悪いこと」も同じように起こっているな、と認識したら、次は、問題解決です。  問題は、ただの事実であって、「苦しみ」と連動していなければ、「あっ、それはこうすれば回避できるね」とか「こういう手を打てばいいよね」って冷静に対処できるものです。  それどころか、「問題が起こったということは、見直せというサインだね」って、前向きにとらえることもできます。

 痛い思いをしなくても変化できるなら、そっちのルートのほうがいいですよね。  今の若者たちは、すでにそのことを知っています。「苦しみを通して成長しよう」「可愛い子には旅をさせろ」なんて、昭和チックなことは考えていません。  それより効率を重視している。  それなのに、社長さんが古い思い込みでコントロールしようとすると、うまくいかなくなってしまうのです。「いや、自分はそれで成功したんだ」という社長さんも、いらっしゃることと思います。かつては、それでよかったのでしょう。  でも、時代は変わっていて、自分のコピーを作っても、未来に通用するとは限りません。  かつて、ご自身が歯を食いしばって頑張ってきたことは、とても尊いことです。  その頑張った奥にある、「会社のため」「社員のため」「ご家族のため」などの気持ちのさらに奥にある、そもそもの「温かい想い」を思い出してください。  次の時代へ伝えることは「やり方」ではなく「あり方」です。  社長さんも、自分に素直になりましょう。  素直な人のもとには、素直な人が集まります。  弱みを見せあって、お互いの強みでカバーし合えば、全体として強い会社になるはずですから。

成果を出しても、自己肯定ができない  社長さんという人種(失礼いたします!  でも、私は社長さんというのは「社長」というちょっと特別な人種だと思っています)の多くは、何かしらのトラウマやコンプレックスを持っていることが多いように思います。  ご本人は忘れていて、普段は意識していなくても、そうしたトラウマやコンプレックスがバネになって成功されていることが多々あります。  いっぽうで、このトラウマやコンプレックスが、社長さんの悩みの原因になっているケースも多いのです。  この相談の主である佐藤社長も、最初は、自分の悩みがトラウマやコンプレックスに起因していることにまったく気づいていませんでした。  佐藤社長はケーキ店を経営されていて、なかなかのやり手です。  コロナ禍でも、「出かけられないからこそ、ステイホームでケーキを楽しんでもらいたい」と考え、ちょっとスペシャルなショートケーキを作ったり、パッケージを工夫したりして、コロナ前よりも倍の売上アップを実現しています。  私から見れば素晴らしいのひと言。にもかかわらず、業績は上がっても、自己評価は上がらない。それどころか、自己否定ばかりでストレスが溜まるいっぽうだといいます。  聞けば、自分としては、これまでやってきたノウハウを社員たちに教えたい、というステージにきていると思うのに、忙しくて、なかなかそれができないとのことです。  私は、「なぜ、時間がないのか」から聞いてみることにしました。すると……。「何か問題が起こっても、社員に任せることができず、つい、自分でフォローしてしまう。それに時間を取られるから、自分の仕事が押せ押せになってしまって、いつも忙しい。結果として、社員を育てている時間がないんです」「どうして、そんなに社員を成長させたいのですか?」「それは、これからの時代、自分だけでも生きていけるようにしてあげないと……。お菓子作りの技術を身につけて、ゆくゆくは私と同じように、ケーキ屋の店主として自立させて、食べていけるようにしてあげるのが社員のためですから」「自立させたいのに、問題が発生すると、つい、自分でフォローしてしまうのですか?」「それは……。たぶん、できない人を見ると、子どもの頃の自分を思い出すのだと……」「子どもの頃の自分?」「私、子どもの頃、不器用で何をやってもうまくいかず、劣等感の塊だったんです」「頑張っている自分」を、ねぎらってあげる  詳しくうかがうと、佐藤社長は子どもの頃から不器用な自分を、「努力、汗、根性」でカバーしてきたとのことでした。  なかなか成長しない社員たちを見ていると、かつての「できなかった自分」を見るような気がして、「助けたい」と思ってしまう。だから、ついフォローしてしまう。でも、いっぽうでは、「あなたたちも、私みたいに努力すれば一人前になれる。自立できるから頑張って!」って思い、エネルギーを持って教えたい自分もいる。  それなのに教育のための時間が取れないし、社員たちも、自分がいつもフォローしてしまっているために、甘えが出ているような気がする。  ついフォローしてしまう自分と、社員を育てて自立させたい自分の板ばさみ。  さらに、やる気が感じられない社員たちに対して、いつもイライラしているという状態に陥っていたのです。  このように、「周りの人間も、自分と同じように努力すればできるはずだ」と考えてしまうのは、努力型の社長さんが陥りやすい落とし穴です。  とくに、コンプレックスをバネにして頑張って成功した社長さんは、「不器用だった自分でもできたのだから、コイツらにできないわけがない」と考えて、愛情を持って、熱心に、時には厳しく指導してしまいがちです。  でも、そもそも、周りの人が自分と同じだと考えることが問題なのです。  能力のことではありません。「誰もが自分と同じように、努力して、成功することを目標にしているわけではない」ということです。  最近の若い人たちは、「出世するよりも、ちゃんと勤めて、そこそこの給料をもらっていれば十分。プライベートな楽しみのほうを優先したい」という人が多いようです。  そのことをちゃんと理解しないで、頑張ってきた自分の価値観を押しつけると、社員との間に、熱量のズレが生じてしまいます。私はまず、「子どもの頃から人一倍努力し続けている」という佐藤社長の「疲れている心」をねぎらうことにしました。そこをクリアにしないと、次のステージに行けないからです。「佐藤さんは子どもの頃、何ごともなかなかうまくできなかったのですね。でも、そういうダメな自分だったからこそ、一生懸命に頑張ってここまでになったのだと思います。ダメだった過去の自分は、今も佐藤さんの心のなかに生き続けています。その自分に対して、『苦しかったね、たいへんだったね』ってねぎらいの言葉をかけてみてください。『ダメだったあなたがいたから、ここまでこられたよ』って」  その時点での佐藤社長は、「まだ努力が足りない、まだ努力が足りない」って、自己否定を続けていました。自分をいっさいねぎらうことなく過ごしてきたわけです。  それが、自分をねぎらうという感情コンサルによって、緊張し続けてきた心がほぐれて、こんなことを言ってくれたんです。「今まで、努力するのは当たり前だと思っていましたけど、考えてみると、相当頑張ってきたんですね」  自己肯定感の芽生えです。こうなれば、次は社員へと目を向けることができます。自分のコンプレックスによるこだわりで、他人をコントロールしない

ここで初めて、私は佐藤社長に、次のように伝えました。「佐藤さんは、お店を続けていきたい、お客様を喜ばせたいって思っていろいろなアイデアを出されていますよね。それと同じ意欲がスタッフさんたちにあると思いますか?」「それが感じられないから、イライラしてしまうんですよね」「そうですよね。でも、考えてみてください。全員が店長になりたいと思っていたら、お店は成り立ちませんよね。美味しいケーキを作りたいだけの人も必要です。一般企業も、営業・開発・企画・広報って、いろいろな役割の人がいて成り立っていますよね」「えっ、ちょっと待ってください。じゃあ、スタッフたちはいずれ独立したいと思っていないということですか?」「はい。思っていないと思います。価値観や幸せというのは、人によって違うものですから……。お店で社員との面談の時間があるとおっしゃっていましたよね。その席で、いつか独立したいと思っているか聞いてみてください」  独立してやっていく力を身につけさせることが、「社員のため」だと思い込んでいた佐藤社長ですが、実際に面談で社員の思いを聞いてみると……。  全員から「社員のままでいい」と言われたそうです。「目からウロコでした」と佐藤社長はしみじみおっしゃっていました。  人を育てるうえで、将来の独立を視野に入れることは、大切な視点です。  ただ、佐藤社長の場合は、自分の経営手法や経験を必要としている人たちが、「別にいた」のですね。ビジネス的に言えば、ターゲットが違っていたとわかったのです。  結局、佐藤社長がやろうとしていたのは、「自分のコンプレックスに起因する思い込みで他人をコントロールしようとしていた」ということだったわけです。  こうしたケースは、親子の関係でもよくあります。親が子どもへの愛情や優しさの裏返しで将来をコントロールしてしまう。大事な相手だからこそ、コントロールしたくなる。  でも、コントロールしたくなるということは、相手を信じていないということ。  コンプレックスからくるコントロールも、相手のことを思いやってのコントロールも、その奥には、「相手は教えてあげないとうまくいかない」という気持ちが隠れています。  そこには、信頼関係が構築されていないのです。  でも、信頼なきコントロールや、コンプレックスに由来する思い込みによるコントロールなら、相手にとっては、ただの迷惑でしかありません。さらに深掘りすると、「自分のことを大丈夫」と信じていないから、他人のことも大丈夫と思えないのです。  前述したように、トラウマやコンプレックスは、社長さんにとって、意欲をかき立てるうえではすごく大事なものです。無理になくす必要はありません。  ただ、たとえば、「絶対に負けてたまるか!  負けることは悪いことだ!」というような「不安をあおるコンプレックス」というのは、持ち続けていると苦しくなってしまうんです。「負けてはいけない」というコンプレックスを持っている社長が経営不振に陥ると、自分で自分を追い詰めてメンタル面をおかしくする原因になってしまいます。  さらに、コンプレックスをバネにした頑張りは、敗戦をバネにした高度成長期とか、ひと昔前までは、たしかによかったと思うのです。でも、何度も言うように、今の時代、頑張ることだけで成果を出すことは限界がきています。  若い人たちは、それを本能的に感じているので、起業する人でも、仕事へのモチベーションが、「頑張り」から「自己実現」「社会貢献」とか「持続可能な社会の実現」などへと変わっているのではないでしょうか。  スタッフに対して、自分の価値観を押しつけていたことに気がついた佐藤社長は、面談以降、スタッフたちに過度な期待をかけることをやめました。   3か月くらいかかりましたが、仕事にいちいち口出しすることもやめたそうです。  ある意味、初めてスタッフの人たちと対等に向き合ったのです。  すると、それまでのイライラがウソのようになくなったといいます。「最近は、スタッフのいいところも見えるようになってきました」  佐藤社長からは、そんな言葉をいただきました。

自分がやりたいことをやると、孤立する?「社員のためを思って、正しいことを伝えているのに、言うことを聞かなかったり、反論したりしてくると頭にくる」  中小企業の社長さんなどから、よく聞く悩みです。  こっちが言っていることが正しいという確信があればあるほど、「わかりもしないくせに、若造が何を言ってやがる!」なんて思ってしまうもの。  そんなときは、どのようにして感情を整えればよいのでしょう。  これからご紹介するのは、子どもの頃に経験したある出来事が一種のトラウマになってしまい、それが元で、トラブルが絶えなかった社長さんの事例です。  その社長、近藤さんは、小学 5年生まではとてもわがままで、自分勝手な少年(本人談)だったそうです。  よく言えばリーダーシップがあったのでしょう。自分が野球をしたくなったら、「野球やるぞ!」って言ってみんなを引き連れて野球をやる。サッカーをやりたくなったら「今度はサッカーやるぞ!」って言って、サッカーをはじめる、とそんな具合に、自分がやりたいことに周りを巻き込んでいました。  でも、小学 5年生くらいになると、友だちにも自我が芽生えてきます。  それまでは、黙って近藤社長の言いなりになっていたものが、「なんだよ、アイツばっかり威張りやがって」とバッシングを受けるようになり、気がつけば仲間外れにされて、ひとりぼっちになってしまったのだとか。  ここで、近藤社長の心のなかに、「楽しいことをやると、ひとりぼっちになる」という刷り込みが生まれました。本当は、「楽しいことをやると」ではなく、「周りのことを考えず、自分勝手なことをやると」だったのですが、勘違いして刷り込まれた……。  これによって、近藤社長はその後、大人になっても、「自分が楽しいことを封じ込めて、周りを楽しませることを優先する」という考えに縛られてしまったのです。「反論されると我慢できない」という心理の正体  成長して大人になった近藤社長は、数年前にオンラインサロンの運営を始めます。  集客も兼ねて発信しているブログは、「読者を楽しませる」という思いから、しっかりと構成を考え、ときには 4時間もかけて執筆するそうです。  ところが、このブログに、「それは違うんじゃないか」とネガティブな書き込みをされることが多々あるとのこと。そのたびに近藤社長は深く傷つき、怒りが湧いてきて、つい反論をして、ネットで言い合いのようになってしまうことがあるのだとか。  そんなことが月に 1回くらい起こってしまう、というのです。近藤社長の事例はブログへの書き込みですが、こういう「反論に対して我慢ができない」という心理は、いったいどこからくるのでしょうか?  その反論に対する怒りの正体は、実は「自己犠牲」である場合が多いのです。  近藤社長は、小学生の頃の体験により、自分が楽しいことをやるのを抑え、周りが喜ぶことを優先するようになりました。そういう構図には、自己犠牲が発生しやすい。  すると、どうなるかというと、「自分は、みんなのために時間をかけて苦労してやってあげているのに、それに対して、反論してくるって、いったい、どういうこと!」と、そんな発想になってしまうのです。  近藤社長の場合は、考え抜いて書いている自分の意見は、正しいことを書いていると思っていますから、余計に腹が立ったのだと思います。  中小企業で、経験豊かな社長さんが「社員のためを思って、指導のつもりで言ったこと」に対して反論されると、カチンとくるのも同じことです。  では、このような怒りの感情は、どのようにして整えればよいのでしょう?  私の知人で、誰からどんな反論されても「いい意見だねぇ」なんて、いつもニコニコ聞いている人がいます。その人に、「自分の意見を否定されても、平気なんですか?」と聞いてみたら、こんな答えが返ってきました。「だって、真実はいつも1つじゃないと思っているから!」  この考え方が、まさに、答えです。  いっぽうが「正論」だと言い張るから、もういっぽうが「間違い」になってしまう。  以前に、私の SNSにも、私の書き込みについて、「こんなことを書くなんて、どうかと思います」というコメントが入ったことがありました。  それに対して、私はお礼の返信をしたんです。たしか、「人の数だけ意見はあると思うので、素敵な意見をありがとうございます」と。  結局、その人は、向こうからフェイドアウトして、それっきりになってしまいましたが、そのときの私の返信は、皮肉でもなんでもなく、本心でした。  誰のどんな意見にも、たいがい正義はあります。ケンカも、戦争も、正義対正義だと、ややこしくなります。「自己犠牲をしてまで正論を伝えているのに」と、自分の正義を振りかざすのではなく、相手の正義も「それもありだね」って認めてあげれば、争いになりません。  近藤社長の場合は、まず、小学生の頃の勘違いによるトラウマを癒すところからはじめました。「近藤さんは、本当は友だちとワイワイやるのが好きなので、ひとりぼっちになるのが嫌だったんですね。ひとりになるのが嫌で、怖くて、それを回避するために、自分が楽しいことをしないで、相手が楽しいことを優先するようになってしまったのですね」「そうですね。そうだと思います」「つまり、自分軸ではなく、他人軸に合わせているということですよね。それって辛くありませんか?」

「辛いです」「ですよね。辛いですよね。今まで本当によく頑張ってきましたよね」「はい。頑張ってきたと思います」「まず相手、ではなくて、まず自分、というように順番を変えないと、ずっと辛いままの状態が続いてしまうと思うんです」「そうですね。私も、そう思います」「そうなんです。ここでよく考えてみてください。よくよく考えると、小学 5年生のとき、近藤さんが楽しいことをやったからひとりぼっちになったのではなくて、自分勝手なことをしたからひとりぼっちになったんです。自分の思いを大切にして、相手の思いも大切にできたら、誰も近藤さんのもとを離れることはないと思います」  子どもの頃の出来事が、ちょっとした解釈のボタンの掛け違いによってトラウマになってしまった近藤社長でしたが、この感情コンサルによって、「自分はどうしたいのかをまず考えながら、周りの人たちも喜ぶことをやればよい」、つまり、まずは自分の思いを大切にすることだと、気づくことができました。  やっと、自分が楽しめることを優先できるようになったのです。  結果として、オンラインサロンの利益もアップしたとか。「今までは、周りにどう合わせればよいかと、そればかり考えていましたが、すごく、ラクになりました」と、近藤社長。  何よりも大きかったのは、反論に対して、必要以上に傷つき、反応してしまっていた原因が読み解けたことだったそうです。

社長は完璧でなくてはならない!「どうして感情セラピストの養成講座に参加されたんですか?」  私からの問いに、坂井社長は開口一番、こう答えました。「完璧になれると思ったからです」  もともと坂井社長は、大きな病院で部長クラスの看護師をされていました。  実家は、介護施設を何軒も経営していて、お父さんから「看護師を辞めて、施設を継げ」と迫られ、父親の経営していた施設を引き継ぐ形で社長になったそうです。  お父さんからの社長教育は強烈でした。  曰く、「社長は隙を見せるな」「社長は誰よりも頑張れ」「社長は誰よりも仕事をしろ」。  坂井社長が、「社長は完璧でなければならない」と思い込むのに、そう時間はかかりませんでした。  坂井社長のように、先代社長(多くの場合、父親)からの教えが一種のトラウマになり、強い思い込みを持ってしまうケースは、多々見られます。  会社を継ぐことはありませんでしたが、私自身が父の会社に入社し、父の経営哲学を引き継いで仕事にあたっていたので、親の影響力の大きさというものがよくわかります。  先代社長である父の教えを受けて、「社長たるもの、完璧でなければならない」と思い込んでしまった坂井社長は、感情セラピスト養成講座を受ければ自分は完璧になれる、と誤解したようなのです。  実のところ、感情セラピストになるにあたっては、「ダメな自分を認めてあげて、ダメな自分でもいいや」と思うことが1つのスタートです。  これは、「完璧であれ」という考えとは真反対のもの。私は、坂井社長に伝えました。「感情セラピストの養成講座を受けても、完璧にはなれないと思います。自信は持てるようになると思いますが、完璧にはなれないと思います」「自分の弱さ」を口にできるという進歩  こうして感情セラピスト養成講座に参加した坂井社長でしたが、「完璧になりたいのに、逆に自分のダメなところを見つけてしまったら、それを埋めるという余計な仕事が増えてしまう」と、そんなふうに思えて、最初は講座が苦痛だったそうです。  でも、あるとき、彼女が講座の参加者を前にして、こう言ったんです。「私、自信がないんです」  それまで人前で弱さを見せることがなかったのに、意外な言葉でした。  発言の真意を聞くと、「この場では、本音を言わないと、はじまらないと思ったので」と……。  この本音がポロリと出たようなひと言が、講座の参加者たちに認められたことがきっかけとなり、坂井社長のなかの「完璧でなければならない」という思い込みのハードルが一気に下がったようでした。  実は、このように、「言葉に出せるようになる」というのは、大きな進歩なんです。  人って、心の奥底に、頑なに握りしめている思い込みは、言葉に出すことすらできません。  売上に執着している人は、「今月は売上が未達でもいいや」って口にできません。「ウソでもいいから、言ってみて」と促しても、口にできないんです。  ですから、「ウソでもいいので口にできる」だけでも、大きな進歩。  もちろん、本気で口にできるようになると、一気に解決なのですが、まずは、口に出せるようになることが第 1段階なのです。  坂井社長は「自信がない」と、人前で口に出して、自分の弱みをさらけ出したことで、「完璧でなければならない自分」から、「弱みがあって、それを認めることができる自分」へと、1つ階段を登ったわけです。  私は坂井社長に伝えました。「お父さんのやり方はお父さんのやり方ですから、完璧主義でオーケーです。でも、今の社長は坂井さんなのですから、やり方は自分で決めることが大事です。お父さんのやり方をリスペクトするなら、そのままコピーしてもいいし、やり方は坂井さんの自由です。ただ、自分が気持ちいい、やりたいと思うやり方をしてください。そうでないと、たぶん、苦しいと思います」社長という重い鎧  そんなアドバイスをしてから、しばらくして、彼女にとって大きな出来事がありました。  社内で「完璧な社長」を演じていた坂井社長には、当然のように、周りからいろいろな相談がまわってきていました。  それこそ、各施設の事務所から、「プリンターが故障してしまったのですが、どうしましょう?」って、そんな相談まで持ちかけられていたのです。  社長に就任以来、そんな細かなことまで、すべて受け入れていたのですが、感情セラピストの養成講座を受けたことによって心境の変化があったのでしょう。ある日、社員の 1人にこう言ったそうなんです。「ごめん、これから私、どうでもいいことを言うから聞き流してね……。『私はプリンター屋さんじゃないっつ ーの!  ネットで調べれば、どうすればいいかわかることを、なんでいちいち聞いてくるかな!』……ごめん、今のは、独り言ね」  ずっと言えなかったことを、思い切って口にしたのでしょう。言われた社員は、さぞかし、驚いたことでしょうね。  この出来事は、坂井社長のなかで、「社長という、重い鎧」が脱ぎ捨てられた瞬間でした。  以来、すっかり、心が軽くなったそうです。  社長というのは、たくさんの鎧を着せられているような仕事です。本当は自分で望んで着ているのですが、まずは自分の思いを大切にする、ここに気づく

ことができません。  自分が鎧をたくさん着ていたことに気づいて、それを脱ぐことができた坂井社長の言葉が、秀逸でした。「実は、ずっと自分のことが大嫌いだったのに、最近、鏡のなかの自分がすごくキレイに見えるんです。そんなふうに思える自分に驚いています」  この言葉には、私も驚きました。そして、感動しました。  感情が整って自由になると、お顔が変わってきます、内面の美しさがおもてに出るのかもしれません。  大ヒットしたディズニー映画、『アナと雪の女王』のなかに、ものを凍らせてしまう秘密の力を持ったエルサが、すべてを解放して「レット・イット・ゴー(ありのままで)」を歌う名シーンがありましたよね。  ずっと辛い思いをしていたエルサが吹っ切れた表情で歌う姿が、多くの人たちの心をつかみました。私は、社長だって、「ありのまま」で良いと思っています。そうでないと、自分を認められません。そして、自分を認められない社長は、社員を認めることもできないのです。

トラウマやコンプレックスだって未来の糧になる過去は変えられないけれど「トラウマやコンプレックスに負けないように頑張っている自分」や「こうあらねばならないと思い込んでいる自分」をねぎらうことで、感情が整理された事例を3つ紹介しました。  事例は、「子どもの頃に不器用だった」「仲間外れにされた経験がある」「先代社長の教えに縛られている」というトラウマやコンプレックスでした。  このほかでは、「子どもの頃に貧乏で、お金に執着してしまう」「許せない相手がいて、いつか見返してやろうと思い続けている」などが、社長さんに多く見られるトラウマやコンプレックスでしょうか。  何度もお伝えしているように、こうしたトラウマやコンプレックスは、社長さんにとっては、頑張りの原動力になることがあるので、一概に悪いものとは言えません。  ただ、それが、苦しみや自己否定の原因になってしまったとき、感情コンサルによって、心をねぎらうことが有効だ、ということがご理解いただけたと思います。  過去に起こってしまったことは変えられません。  その過去が心の傷として残ってしまったら、それはただの辛い過去のままです。  でも、その過去の出来事によって、何かを手放して成長できたり、人生の転機のきっかけになったりしたとしたら、その過去は大切な出来事になります。  過去の出来事が辛いトラウマになるか、貴重な体験になるか、その分かれ目は、実は本人の解釈次第なんです。  たとえば私にも、トラウマと呼べる辛い経験があります。  父が長野で会社を興したために、小学 3年生のときに、東京から転校しました。  今は、そんなことはないと思いますが、当時の長野の山奥というのは本当に田舎で東京からブラウスにスカートをはいて、ハイソックスで転校してきた私は異分子そのものです。  すっかり浮いてしまって、トイレから帰ると廊下に私のカバンのなかのものが全部ばらまかれていたり、植物の栽培実習で、私の鉢に大きなミミズを入れられたり、今、考えると、ずいぶんキツイいじめにあっていました。  思えば、この頃に、のちの私を苦しめることになる、「自分の感情にフタをするクセ」が育っていたのかもしれません……。  これは、過去の出来事がマイナスのトラウマとして残ってしまった例です。  いっぽう、過去の「本来なら辛い出来事」が、解釈次第でプラスに作用することもあります。  子どもの頃の私は要領が悪くて、よく「ノロマ」って呼ばれていました。普通ならこれ、辛い過去です。でも、私のなかでは、「ノロマだと周りの人が手伝ってくれて、愛されていると思える」というプラスのイメージがあったんです。  つまり、過去の辛い出来事は変えられないけれど、解釈次第で、トラウマにもなるし、プラスに作用することもあるということです。過去の辛い出来事に感謝!  辛い過去は、「自分はダメだ」というようにタグ付けしてしまいがちです。  しかし、「今の自分があるのは、あの過去のおかげ」って、感謝することができたら、その過去を糧にして次の人生を切り開いていくことができます。「あの出来事のおかげ」と感謝して、頑張ってきた自分を認めて心を癒すと、過去を「ダメな自分」だけでなく、「良い自分」としてのタグ付けもできるようになるんです。  そうやって、過去のストーリーの書き換えというか、解釈を変えてみると、過去の出来事による心の傷が、実はもう治っていて「かさぶた」になっていることに気づけたりします。  ちなみに、過去の心の傷が、まだ生傷のままなのか、すでに、かさぶたになっているのかを知るための1つの基準は、その出来事について話せるかどうかです。  どうしても手放せない思い込みは、口に出せないってお伝えしましたよね。  心の傷がまだ生傷のままなら、人は辛くて言葉にできません。でも、言葉にできるなら、その時点で、すでに傷は癒えてきているのです。

「自己犠牲の罠」にハマってしまったら日本人は、「自己犠牲」が大好き?  こちらに掲載した近藤社長の事例で、ポイントの1つになった「自己犠牲」について、もう少し触れたいと思います。  私は個人的に、「日本人ほど、自己犠牲が好きな国民はいない」のではないかと思っています。「ああっ、私は今、人のために自己犠牲している」って、ある種の快感を得ている。  欧米人は、「自分の喜びのために動ける人が 8割、他人の喜びのために動ける人が 2割」。これに対して、日本人は「自分の喜びのために動ける人が 2割、他人の喜びのために動ける人が 8割」だという説を聞いたこともあります。  私の実感もそんな感じです。感情コンサルをしていて思うことは、他人のために自分を犠牲にしている人が本当に多いということです。  自己犠牲が好きで、快感を得ているだけならいいのです。でも、感情コンサルにこられた社長さんのなかには、「社長なんだから仕方なくやっているだけで、本当は自由にやりたいし、こんなことも言いたくない。でも、社員のために言っているんです」って、涙を流す方もいる。  はた目には、好きで自己犠牲をしているように見える社長さんでも、実は苦しんでいるんです。  街角で、「何のために働いているのですか?」って聞かれると、多くのサラリーマンが、「家族を養うために」って回答します。「仕事が楽しいから」なんて答える人は、ほぼ、いません。  これって、「家族のために(やりたくない)仕事をしている」というふうに聞こえるのは、私だけではないですよね。  だとしたら、まるで当然のことのように、「自分はやりたくないのに」という部分が抜けてしまっています。  私は、「やりたくないことは、やらなくていい」と言いたいわけではありません。その行動のなかに隠れている、「自分の本音」をちゃんとわかっていますか?  ということが大切だと言いたいのです。  誰かのために動けることは素晴らしいこと。ただ、「誰かのために」の行動の前に、「自分はやりたくない仕事を家族のためにやっている」という自分の本音を、ちゃんとわかっていますか?  ということです。  その「働きたくない」という思いと、「働かない」という行動は別のものです。  自分の思いをちゃんとわかって行動しているなら、自分に嘘をついていないということです。  自分の思いと行動が別のことをしているとき、自分を犠牲にして頑張っているのだと、認識していますか。  逆に言えば、どんなにお客様のために徹夜をしていても、その仕事が「自分が楽しくてやりたいこと」だとしたら、その人は「頑張って」はいません。  歓びの思いで、やりたいことをやっている人ほど、本物であり、人間力の大きい人だと私は思っています。ビジョンや理念に立ち返る  ただし、「自分のために」という思いだけで会社を経営していたら、たぶん、 2、 3年しかもたないのではないでしょうか。なぜなら、そこにはお客様が不在だから。  その本音が見透かされ、お客様や取引先から見放されたり、社員も辞めていくかもしれません。  自分のためだけに仕事をしていても会社が継続しない、自己犠牲でやっていても辛くなる……。では、社長さんはどうすればいいのでしょうか?  いつも、「そもそも、なんで、自分はこの仕事をしているんだっけ?」という初心を忘れないことが大切です。  言葉としては、ビジョンとか理念とか経営方針とか、もっと簡単に「会社にかける思い」とか、なんでもいい。「なんで、自分がこの会社をやっているのか」を忘れないようにしていただきたいのです。  トラウマやコンプレックスだけが原動力になっていたり、業績不振になって、つい、お金、お金、お金になってしまったりして、この初心を忘れると、軸が揺らいで辛くなってしまいます。  それに、軸が揺らいでいる経営者の下にいる社員たちは、「何のために」が共有できないのでまとまりがなく、振り回されている、という思いが強くなりがちです。  いっぽうで、「ビジョンや理念」がはっきりしていれば、自分がやるべきこと、やらなくていいこともはっきりします。  たとえば、「品質を落とさず、約束を守って、周りの信頼に応える」というのがビジョンなら、少しくらい売上が下がっても、「品質は絶対に落とさない」って、すぐに判断できるはずです。  軸がしっかりしていれば、トラウマやコンプレックスによって、「周りから低く見られるんじゃないか」って不安になることもありません。「俺 1人が頑張っているのに、社員たちは気楽すぎる」なんて、自己犠牲の罠にハマらなくて済むに違いありません。

社員のミスが忘れられない  感情コンサルにお越しいただいた、社員約 30名の中小企業の社長、田代さんのエピソードです。社長の身でありながら、ずっと自ら銀行に出向いて送金業務をされているとのことでした。「えっ?  経理担当の方に任せないのですか?」「いや、お金に関わることだし、自分でやったほうが早いから」  頑なに、そうおっしゃる田代社長。  しかし、よくよく聞いてみると、どうやら社員を信じておられないようです。そうなった原因は、数年前にありました。入社したばかりの経理部員に送金を任せていたところ、その部員のポカによって、危うく、たいへんなことになるところだった、という出来事がきっかけになったのだとわかりました。「一歩間違えていたら、命取りになっていた。不渡りを出して、倒産していたかもしれなかったんです」  まさに危機一髪だった田代社長は、その社員を思わず怒鳴りつけたそうです。  しかし、ミスをした社員からは、ひと言の謝罪もなかったというのです。  怒りがおさまらなかった田代社長は、その経理部員の上司に指示をして、その後、彼にアルバイト程度の仕事しか与えないようにしたということでした。「あのときの記憶は、今も鮮明に残っていますよ」「その社員さんは、今も働いているのですか?」「はい。たいした仕事を与えられないので、すっかりモチベーションが下がって、今では周りから『会社のお荷物』というレッテルを貼られています。本来なら、あのときにクビにすべきだったと思っています」  社長さんにとって、「怒り」の感情は、ある意味、とても大事なものです。  なぜなら、「怒り」という激しい感情は、意欲的な行動につながるから。  しかし、怒りの矛先がミスをした社員に向いて、その感情を引きずっているために相手を信頼できなくなってしまったままというのは、お互いのためになりません。  なぜなら、経営者にとって最も大切なことが、社員を信頼することだからです。  多くの社長さんを見てきて、思うことがあります。  社長が社員を信頼していない会社に、未来はありません。「今晩、その経理担当の社員を殺してください」  私は、田代社長の「ミスをした社員に対する怒り」を外すために提案しました。「わかりました。では今晩、その経理担当の社員を殺してください」「ええっ!  殺す?」「もちろん、本当に殺すわけではありません。心のなかでです」  第 2章で、「言いたいことを心に溜めるのはよくない」とお伝えしました。  同じように、不要な怒りの感情も吐き出すのが一番です。  怒りの感情は長年溜め込むと、腐敗して「憎しみ」に変わってしまいます。  ぜひ、溜め込まずに、思いっきり外に出してスッキリしてください。  社員に対して、始終、怒り続けている社長さんもいますが、怒りにまかせてその場で怒ると、意図が正しく伝わらないなど、別の問題が発生することがあります。今どきは、パワハラで訴えられるかもしれません。  ですから、私は怒りの放出方法として、次のようなことをお勧めしています。 「1人のときに思いっきり怒る」お風呂場で怒鳴ってもいい。家で難しければカラオケボックスに行って大声で叫んでもいいと思います。  私から「今晩、心のなかでその社員を殺してください」と提案された田代社長は、さっそくその晩、自宅に帰る前に、会社からだいぶ離れた川べりに立ち寄って、周りに誰もいないことを確認すると、大声で怒りをぶちまけたそうです。「バカヤロー、もし、あの振り込みがうまくいかなかったら、会社がどうなっていたと思ってんだ!!」「あのあと、どうして、ひと言も謝らなかったんだ!!」「誰のおかげで今、給料をもらっていると思っているんだ!  おまえなんか、辞めちまえ!!  死んでしまえ 」「怒り」の奥底にあるものに気がつくと  次の感情コンサルでお会いしたとき、田代社長は開口一番、こうおっしゃいました。「いやー、なんだかスッキリしましたよ」  数年間、溜まり続けていた怒りを放出して、心が穏やかになった様子の田代社長に、私は聞きました。「田代さん、その経理担当の方がポカをしたとき、『一歩間違えていたら、命取りになっていた』っておっしゃいましたよね」「そうそう、ヘタしたら倒産して会社がなくなっていたんです」「どうして、会社がなくなるとダメなんですか?」「ええっ?  どうしてって、社員やその家族が路頭に迷ってしまうじゃありませんか」「なるほど、田代さんは、社員やそのご家族のことをそこまで大切に思って、責任を持って経営をされているんですね。だから、その会社を不注意で危機

にさらしてしまった経理担当の方のことが許せなかったんですね!」  私の言葉を聞いた途端、田代社長は意表をつかれたような表情をして黙り込んでしまいました。そして、しばらくすると、こうおっしゃったのです。「そうか……。今、初めて、『自分はこんなに力を入れて、社員のために頑張ってきたんだ』って気がつきました」  急にいろいろなことを思い出されたのでしょうか。「ここまで、よくやってきたな……」  そうつぶやくと、目頭を熱くされていました。  このとき、田代社長は、経理担当社員への怒りの原因が、「社員たちへの愛」だったことに気づかれたのです。  社長さんに対して感情コンサルをしていると、社長さんの「悩み」や「怒り」の奥底に、大切にされているもの、譲れない想いなど、その方の温かい愛が存在しています。  私が感情コンサルをした社長さんのなかに、愛のなかった方は 1人もいませんでした。ドロドロした見たくない感情の奥にも、必ず愛は存在しています。感情コンサルによって、そのことに気がつくと、多くの社長さんが、田代社長のように感動されるのです。  その後の田代社長は、経理担当者への怒りがすっかり消えたそうです。  冷静になって考えてみれば、まだ入社したばかりだった彼は、銀行への送金がどれほど重要な意味がある仕事なのか、理解していなかっただけです。それを頭ごなしに怒鳴られて、謝るタイミングを逸してしまった、ということだったのです。  田代社長は、怒りが社員への愛に変わったことで、そのまま意欲につながり、改めて、社員に「仕事の意味」を教えていこう、1つひとつの仕事に、社員の生活と命がかかっていることを共有していこう、と決めたとのことでした。「あの社員とのコミュニケーションは劇的によくなりました。業績も上がりましたよ」  そんなうれしい報告を、折に触れていただいています。

にさらしてしまった経理担当の方のことが許せなかったんですね!」  私の言葉を聞いた途端、田代社長は意表をつかれたような表情をして黙り込んでしまいました。そして、しばらくすると、こうおっしゃったのです。「そうか……。今、初めて、『自分はこんなに力を入れて、社員のために頑張ってきたんだ』って気がつきました」  急にいろいろなことを思い出されたのでしょうか。「ここまで、よくやってきたな……」  そうつぶやくと、目頭を熱くされていました。  このとき、田代社長は、経理担当社員への怒りの原因が、「社員たちへの愛」だったことに気づかれたのです。  社長さんに対して感情コンサルをしていると、社長さんの「悩み」や「怒り」の奥底に、大切にされているもの、譲れない想いなど、その方の温かい愛が存在しています。  私が感情コンサルをした社長さんのなかに、愛のなかった方は 1人もいませんでした。ドロドロした見たくない感情の奥にも、必ず愛は存在しています。感情コンサルによって、そのことに気がつくと、多くの社長さんが、田代社長のように感動されるのです。  その後の田代社長は、経理担当者への怒りがすっかり消えたそうです。  冷静になって考えてみれば、まだ入社したばかりだった彼は、銀行への送金がどれほど重要な意味がある仕事なのか、理解していなかっただけです。それを頭ごなしに怒鳴られて、謝るタイミングを逸してしまった、ということだったのです。  田代社長は、怒りが社員への愛に変わったことで、そのまま意欲につながり、改めて、社員に「仕事の意味」を教えていこう、1つひとつの仕事に、社員の生活と命がかかっていることを共有していこう、と決めたとのことでした。「あの社員とのコミュニケーションは劇的によくなりました。業績も上がりましたよ」  そんなうれしい報告を、折に触れていただいています。

は別にして、カチンとくる前に、とりあえず相手の意見を聞いてみるようになったのです。  すると、ウソのような出来事が起こりました。  堀口社長によると、独立前にいたコンサル会社とは、ケンカ別れのような形でスピンアウトしていたそうです。しかし、考え方を変え、その会社の社長と久しぶりに話をしてみたところ、「そういうことだったのか」と理解し合えたのだとか。  そして、なんと今では、その会社がクライアントになってくれて、さらに、「この案件はそちらでコンサルしてもらったほうがいいかも」って、仕事を回してもらえるようになったと聞きました。  器を大きくしたら、ウソのように仕事が広がったというわけです。  自分と合わない人との関係を断ち切るのは、簡単です。  でも、それでは、やがて一匹狼になってしまいます。  社長として社員を率い、会社を成長させるためには、意見や価値観が異なる相手を、白黒をはっきりさせないグレーゾーンに置くことも大切だと思います。  別にグレーゾーンに置くことは、ズルでもなんでもないのですから。  グレーゾーンに置いておいた人と、ちょっとしたきっかけで理解し合い、深いお付き合いになることだって、ないとは言えません。  こんな言葉を聞いたことがあります。「真夜中に困ったことが起きたとき、相談できる相手が 10人いたら、その人は成功できる」  私は、 10人どころか、いつでも親身になって相談に乗ってもらえる人が周りに 5人いるだけでも、その人は、たぶん一生困らないのではないかと思っています。

育たないのは、信頼していないから  十数名のスタッフを抱えて、高級住宅街の一角で歯科医院を経営する中川院長は、スタッフが育たないことに悩んでいました。仕事柄、医療ミスはぜったいに許されません。少しのミスであっても、「あの歯医者はダメだ」という噂になれば、即、命取りです。  そのため、なかなか若いスタッフに仕事を任せられず、結果として人が育たない。人の出入りも激しい状況が続いていました。  スタッフ教育に困り果てて、感情コンサルにお越しになられたのでした。  ミスが許されない業務であるがゆえに、若い社員に仕事を任せられず、なかなか人が育たないということは、多くの社長さんに共通する切実な悩みだと思います。  しかし、いっぽうで、入社 1年目の社員にも、バンバンと責任重大な仕事を任せて、あっという間に一人前にしてしまう会社もあります。 I T企業のなかには、 20代で取締役や子会社の社長になる人をたくさん育てている、というケースもあります。  この違いは何かというと、「若い社員を信頼できるかどうか」という一点に尽きます。  ここで、人の感情が持っている不思議な現象を1つ、ご紹介しましょう。「上の人間が『この人はダメだ』と思って接していると、その人はダメな人間を演じるようになる」  わざとダメな人間を演じるのではありません。上から「本当におまえはダメだな」って言われて、それが潜在意識に刷り込まれると、やる気がなくなるだけでなく、本気で頑張っても失敗するようになってしまうのです。  本当に不思議です。自信を失って、自分で自分を疑いながらやっていると、失敗を引き寄せてしまうのでしょうか。  何を隠そう、父の会社で経理を担当したばかりの頃の私がそうでしたから、それが本当にある現象だと、よくわかります。  自分に自信が持てず、何度も確認して、この金額で間違いないと思っても、ミスを指摘されてしまうんです。「えっ!  うそ?」と思って見直すと、本当に計算ミスをしている。まるで呪われているかのようでした。  そもそも、ミスをしたときは、本人が一番反省しています。ですから、上の人間が「どうして、おまえはいつもそうなんだ」って、傷口に塩を塗る必要はありません。  それに、上から怒鳴られて、奮起して成長したのは、昔の社員の話です。今どき、怒鳴られて奮起するほどの強いメンタルを持っている人は、なかなかいません。「この人にはやる気がない」は、思い込み?  私は、中川院長にお伝えしました。「スタッフが育たないから信頼できない、というのは逆です。まず、中川さんが変わって、スタッフを信頼しなければ、人は育ちませんよ」「そうは思うんですが、安心して任せられるほど、スタッフにやる気を感じないんです」「スタッフさんには、本当にやる気がないんでしょうか?」「えっ?」「やる気がないように見えているだけではありませんか?  スタッフにやる気がないというのは、中川さんの思い込みではありませんか?」 「……」「できない人には、できない人なりの理由が必ずあります。ですから、それを聞いて、やる気にさせてあげてください」  社長で成功する方というのは、少し M気質な人が多いという説があるそうです。  ある年齢以上の社長さんは、上から怒鳴られて、それをはね返えせたから、今、社長をやっている。つまり、打たれ強くて、「なにくそっ!」っていう反骨心がある。  そういう社長さんから見ると、今の一見クールな若者は、やる気がないように見えるかもしれません。  でも、おもてに出ないだけで、みんな、入社して仕事をやっている時点で、やる気は持っているはずです。  それなのに、「おまえはダメだ!」とか、「やる気があるのか!」なんて言われるうちに、「相手が思ったとおりの、ダメでヤル気のない自分」に変わっていってしまう。  マイナスの感情が作用して、そういう人間になってしまいます。私が社長さんの感情コンサルをしていて、よく思うことは、「上の人は下に降りていける。でも、やったことがない下の人は、やったことがある上の人のところには上っていけない」ということです。経験がある人は、その経験がない人の話を聞いて、その人の立場に立ってあげることが、大切だと思うのです。  感情コンサルの後、中川院長は、若いスタッフへの教育体制を、「信頼せずに手を出すサポート」から、「信頼して、見守る姿勢」へとシフトしたそうです。  その後、最初は失敗報告もあったものの、「大丈夫、できるよ!」という先輩の言葉で、若いスタッフが徐々に力をつけてきたのだとか。  退職するスタッフもいなくなり、医院全体の成長を感じているとのことでした。

自分にだけ、歯向かってくる社員「相手のことが、好きか?  嫌いか?」それは、理屈ではありません。  どうしたって、やることなすことが嫌いな相手って、いるのではないでしょうか。  その相手が、ただの知人なら、付き合いをやめればいいだけです。無理に付き合う必要はこれっぽっちもありません。  問題は、その嫌いな相手が社内や取引先にいて、どうしても付き合わなければならない場合です。何度も言うように、社長さんだって人間です。お気に入りの社員もいれば、どうにも鼻持ちならない社員だっていて当然です。  これは、「いつも、自分にだけ感情をあらわにして歯向かってくる社員がいて、こっちもつい感情的になってしまう。そんな自分をどうにかしたい」という、出版社の社長さんからの相談事例です。「具体的には、その社員さんのどんなところが我慢できないんですか?」「いちいち、私の考えに反論してくるんです。しかも感情的に。だから、こっちもつい感情的になって、他の社員の前で言い争いになることもしょっちゅうです。しかも、そいつ、周りの社員にはやたらとイイ顔をして、まるで、社員代表になったような顔で私のことを突き上げてくる。そこがまた腹が立つ」「それで、西尾さんは、どうしたいんですか?」「相手は社員だから、個人的に嫌いになってはいけないと思っているし、ほかの社員たちの前で言い争っていて、感情的な社長だなって思われたくないなと……」「感情的になってしまう自分に苦しんでいると」「そうですね」「わかりました……。では、その社員さんのことを嫌いになってもいいって自分に許可してみてはいかがですか?  嫌いになっちゃダメだと思うから苦しくなるのだと思います」「嫌いになっていいんですか?」「いいも悪いも、感情は抑えられませんから。コントロールはできないんです」「でも、嫌いになったら、これからも言い争いを続けることになりませんか」「そこです。西尾さん、その社員さんが自分の会社にいるということは、『自分を変えるチャンス』だと考えたらいいと思うんです」自分が変わって、ワンステップ高い位置に移動する「ええっ?  社長なのに、社員のために、こっちが変わらなくてはいけないんですか?」「はい。社長なのにではなく、社長だから変わったほうがいいと思います」「あいつのために、自分が変わるなんて、正直、納得できないんですが……」「まず、その考え方を外してください。『あいつのために変わる』のではなくて、『自分のために変わる』んです。自分が変わることで、その社員さんと言い争うことがなくなるなら、自分にとってメリットだと思いませんか?」「うーん」「言い争いというのは、会社の地位は関係なく、同じレベルの人同士がやるものです。西尾さんが変わって、ワンステップ上に行くと、言い争いは成立しなくなります」「なるほど……いっぽうのレベルが変わると言い争いにはならないと」「そうです、そうです。そのうえで、今度は冷静に、『どうしてあいつは自分にばかりつっかかってくるんだろう』って考えてみてください」「どうしてなんだろう?  ほかの社員に対してはイイ顔ばかりしているのに」「もしかしたらですけど、その社員さんは、誰よりも西尾さんのことを信頼しているんじゃありませんか?」「ええっ!」「だって、言ってもわからない相手だと思っていたら、何も言いませんよね。わかってくれると信頼しているから、わざわざエネルギーを使って歯向かってくるのだと思うのですけど」「そうか……。信頼か……。じゃあ、いちいち歯向かってくることをネガティブにとらえなくてもいいんですかね」「だと思います。次は、西尾さんご自身の気持ちを冷静に考えてみてください。どうして、ただの社員から反論されただけで、つい、感情的になってしまうのか?」「えーと。自分以外にはイイ顔をしているくせに、なんで自分にはいつも歯向かってくるんだと、そこですかね」「これも私の想像ですけど、西尾さんは、実は一番わかってもらいたい相手にわかってもらえないことが切ないのではないですか?  本当は、コイツに一番わかってもらいたいのに、どうしてわかってくれないんだって」「あー、なるほど。そうなのかな……」「たぶん。だって、わかってほしいと思う相手でなかったら、わざわざ、社長である西尾さんが時間を使ってぶつかり合いませんよ」  感情コンサルの結果、実は、言い争っていたのは、お互いに認め合っているからで、「わかってほしい、わかってほしい」という思いがぶつかりあっていたのだということが判明しました。西尾社長はとてもスッキリされたようでした。昔から、「仲が良いほど喧嘩する」なんて言います。いつも言い争っている同士が、実は深層心理では認め合っている。感情というのは、本当に面白いと思います。

信用して、信頼して、裏切られたときに信頼が相手を育てる  第 4章では、「社員(や仕事相手)を信用できない」「態度が許せない」という事例を、4つ紹介しました。「相手を信頼できないのは、実は自分が自分を信頼していないから」「自分を信用できる人は、相手も信用することができる」「こっちが信頼すれば、相手は『信頼に足る人』に育ってくれる」  まるで禅問答のようですが、それが感情の不思議です。いずれにしても、社長にとって、「信頼」がいかに大切なものであるか、伝わりましたでしょうか。  もちろん、いくら信用して任せても、仕事ができない人もいます。その場合は、単に、仕事の内容がその人に合わないのかもしれません。  そのケースでは、信用が本人の負担になってしまいますから、配置換えで仕事の内容を変えてあげるのも、1つの手だと思います。  ある製造業の社長に聞いた話ですが、どこの会社に行っても「ダメ社員」と呼ばれていた人が、心機一転、資格を取って司法書士になったら、事務所を構えて大成功しているケースがあるそうです。役員たちのクーデターにあってしまった!  では、信用と信頼についてお話をしたこの章の最後に、「信頼していた人に裏切られた」というリアルな事例を紹介したいと思います。  製造会社の 2代目社長、小野誠さん(仮名)が体験した話です。  社長に就任してから 4、 5年が経ったある日のこと。  自分の会社とまったく同じ業種業態の会社が、隣町で創業しました。  突然のライバル会社の出現です。  そのライバル会社の謄本を見た小野社長は、目を疑いました。  なんと、自分の会社の専務が社長になっているではありませんか!  その専務、ここのところ体調不良を理由に会社を休むことが多かったのですが、実は、会社を休んで、新会社の設立に奔走していたのです。  まさにクーデターです。しかし、それだけではありませんでした。  そのライバル会社の主要幹部の 5人全員が、小野社長の会社の幹部だったのです。  つまり、自分が社長になると思っていた専務が、思いが叶わなかったことに腹を立てて、幹部社員 5人を引き連れて、隣町に新会社を設立した……、というのが真相でした。  しかも、この幹部社員たちは得意先に対して、「小野社長の会社はもうすぐつぶれるから、新会社に取引を移してください」と触れ回っていたのです。  まるでドラマのような話ですが、すべて実話に基づいています。ビジネスの世界では、珍しいことではないのでしょうか。裏切られたときに、救ってくれたもの  突然の出来事に、目の前が真っ暗になった小野社長でしたが、この件を知った社員たちが、こう言ってくれました。「社長、大丈夫です!  幹部たちはいなくなったけど、実務をやってきたのは私たちだから、仕事は全部、わかりますから!」  幹部たちには裏切られたけれど、信頼していた社員たちに救われたのです。  そして、もう1つ。  お得意様のなかでも最大のお客様が、新会社から営業を受けたときに、「ウチは、 ● ●さん(小野社長の会社)と付き合っているから、おたくとは付き合いません」と、キッパリと売り込みを断り、取引を続けてくださったのです。  小野社長の会社はそれまで、高い品質と真面目な商売で、取引先と信頼関係を築いてきました。  とても無理な納期の仕事を頼まれたときも、無下に断ったりせず、誠心誠意、期待に応えてきました。「本当にありがたい!」と取引先の担当者から手を合わせて拝まれたこともあったのです。  先代社長から会社を引き継いだ小野社長は、これまでの会社の方針どおり、信頼を基盤とした商売を続けてきました。  そうやって、培ってきた取引先からの「信頼」が、会社の危機を救ってくれたのでした。  小野社長は、信頼を基盤に商売をしてきたことに感謝しました。  その後、小野社長の会社は、幹部の大量離脱という危機を乗り越え、現在でも事業を継続中。先代社長の創業から数えて、 60年を越える老舗となっています。  いっぽう、元専務が隣町に創業した会社は、顧客が定着せず、その後、倒産してしまったそうです。  渡る世間は、決して、きれい事だけではありません。  信用していた相手から裏切られることだってあります。  でも、信用して、信頼していた相手に裏切られたとき、手を差し伸べてくれるのも、やはり、信用して、信頼してきた人たちなのではないでしょうか。  1つの信頼が裏切られてなくなっても、別の信頼でつながっている人たちが助けてくれる。  信用と信頼を大切にしていれば、必ず拾う神がいる。  小野社長の事例は、そんなことを私に教えてくださいました。

多くの会社の社長さんの感情コンサルをやらせていただき、数々の事例を見てきた私が思うこと。  それは、「信用と信頼は、社員を育て、そして、会社も育ててくれる」ということです。

感情は「スタンプカード」?  私は、感情というものは、「スタンプカード」みたいなものだと考えています。  どういうことかというと、たとえば、 Aさんという人が、 Bさんに対して、「怒るほどではないけれど、少しカチンとくる態度をとった」とします。このとき、 Bさんの心のなかにあるスタンプカードに「怒り」というスタンプが1つ、ポンと押されます。  このスタンプは、 Aさんがカチンとくる態度をとるたびに、 Bさんのスタンプカードに1つずつ押されていきます。  そして、ある日、「 Aさんが、ちゃんと挨拶をしなかった」という怒りのスタンプがポンと押された瞬間に満了を迎え、ついに、 Bさんの怒りが爆発するのです。  でも、周りの人は、それまでの Bさんの心のなかのスタンプカードに積み上げられたスタンプの数を知りませんから、「たかが、挨拶をちゃんとしなかったくらいのことで、あそこまで怒るなんて、 Bさん、ちょっと大人げないよね……」って見られてしまう。  そして、 Bさん自身も、「あんな小さなことに腹を立てるなんて、自分はなんて器が小さいんだ」などと思ってしまう。  スタンプカードの内容を覚えていると、「あのときも」なんて、過去の怒りまで口から出てきて、「今さら?」って、余計に、みっともなく感じてしまいます。  相談にこられた黒川社長は、たとえば、ゴルフのときに、一緒にまわっている相手から、「アプローチ、ヘタですね」って冗談を言われただけでカチンとくるのだとか。言われたときは笑って流しても、ずっと腹が立っていて、だんだん顔に出てしまう。結果として、その日のスコアはボロボロになるのだそうです。「この程度のことで怒るなんて器が小さい。それに、怒りの感情をコントロールできないなんて、社長失格」。そんなふうに考えて自己嫌悪に陥っていました。怒りの感情は、コントロールしないで吐き出す  社長さんのなかには、「社長たるもの、感情的になったら負け」という考えを持っている方が多くいらっしゃいます。  たしかに、今は感情むき出しに叱ろうものなら、社員からパワハラで訴えられかねない時代です。「部下に対しては、ネガティブな感情を持ってはいけない」などと唱えるセミナーもあるほどです。「感情的になったら負け」と考える社長さんが多いのも、よくわかります。  でも、感情なんて、次々と湧いてくるものです。「思っちゃいけない」なんて、生理現象を抑えようとするのと一緒で、無理な話。できっこありません。  私は、感情コンサルでよく言っています。「なんでも、どんなことでも、思っていいから!」  聖人君子じゃあるまいし、感情なんて、簡単にはコントロールできないもの。ヘタにコントロールしようと思うから悩ましくなります。  マイナスの感情を持ってもいい、と自分に許可することが大事です。そもそも感情には、良いも悪いもなくて、湧き上がってきた思いが、常にその人にとっての正解なんです。「じゃあ、怒りの感情が湧き上がってきたら、どうしたらいいんですか?」「怒りで冷静なままでいられないときは、口に出して吐き出すのが一番です。相手に伝えるかは別にして、『ほんとに嫌だ!  腹が立つ!』って、思いっきり吐き出してください」「吐き出していいんですか?」「いいです。どんな感情も吐き出せばスッキリします。でも、吐き出すだけではもったいないので、スッキリして少し冷静になったら、考えてほしいことがあります」「考えてほしいこと?」「はい。『自分は、何がそんなに嫌だったんだろう?』って考えてほしいんです。怒りの正体を知ると……  怒りを口にしてスッキリするだけでは、また、新たなスタンプカードを作りはじめるだけのことです。冷静になったところで、怒りの理由について考えてください。  自分は、どうして相手の態度に腹を立てたのか?  そうすると、「そうか、アイツが挨拶しなかったことに腹が立ったのは、子どもの頃に親から挨拶について厳しく躾けられていたからだ。怒りのもとは、自分の挨拶へのこだわりのせいだったのか」って、怒りの原因がわかってきます。これがわかると、怒りの 8割がたは納得できます。そして、「自分が礼儀に厳しいから、カチンときた」など、怒りの原因が、自分の「こだわり」や「好み」だったとわかると、「わざわざ、相手に伝えるまでもないかな」と思えてきます。  さて、感情コンサルの結果、黒川社長には「感情的になる人は器が小さい」という思い込みがあることがわかりました。「じゃあ、黒川さんは、いっさい感情をおもてに出さない社長が好きなんですか?」「いや、それはちょっと人間味が感じられないかな……」「ですよね。ときには感情的で、弱みを見せてくれる社長って、器が小さい人でしょうか?人間味があって、いいと思いませんか?」「なるほど……。そうですね。そっちの社長のほうが魅力的かもしれないな……」  社長だって怒って当然。そう認識を変えられたことで、黒川社長は、逆に小さなことでは、腹が立たなくなったそうで、とても喜んでいただけました。

良い心配と悪い心配  私のもとに相談にこられた小早川院長は、疲れた表情でおっしゃいました。「今まで、どんなに小さな選択も、最悪のことまで想定して、院長としてすべての責任を負う覚悟をして決断してきました。でも、それがストレスで、いつも心が休まらないんです」  全責任を負っている、経営者という仕事。  そのプレッシャーから、小早川院長のように、常に最悪の事態まで心配してしまう方がよくいらっしゃいます。  とくに、真面目で責任感の強い方が、ハマりやすいようです。  誤解のないようにお伝えしますと、いつも慎重に最悪の事態まで考えておくのは、決して悪いことではありません。  そういう「不安の回避の仕方」で、安心を得るタイプの方もいるからです。  最悪のことまで想定して、それで安心が得られるなら、それは、「その人に合った心配の仕方」だと思います。  しかし、小早川院長のように、最悪の事態まで考えてしまうことが、ストレスの原因になってしまったら、それは「その人にはふさわしくない、ストレスになる心配の仕方」だと言わざるを得ません。  小早川院長に、たとえば、どんなことが心配のタネなのかをうかがうと……。「スタッフに気が強い人が 1人いる」 →「注意しても態度を改めない」 →「院内の雰囲気が悪くなる」 →「患者さんがこなくなる」 →「売上が下がる」 →「経営できなくなる」と、そんな具合。  事実は「スタッフに気が強い人が 1人いる」というだけです。  それなのに「風が吹けば桶屋が儲かる」形式で、連想ゲームのように「経営できなくなる」まで、考えが及んでしまう。  傍から見ると、たいした問題ではないのに、自分のなかでイメージが膨らんで最悪の事態へと発想が飛んでしまうのです。  小早川院長は、自分でも、それがストレスの原因になっているとわかっているのに、どうしようもないと……。  あきらかに、「ストレスになる心配の仕方」です。1つ先のことしか考えないようにする「最悪の事態ではなく、もう少し手前の段階で手を打つことに集中されてはいかがですか?  手前の、まだ問題が軽い段階なら、打つ手のアイデアも簡単に出ると思いますよ」「最悪になる手前の段階ですね」「そうです。『先が見えない未来を予測して悩むより、その未来が起きないように、手前で回避策を打つようにしたほうがよい』と考えるんです」「なるほど」「どうでしょう。これからは、問題が起きたら、1つ先の段階のことまでしか考えないと決めるっていうのはいかがですか?  どうしてもその先を考えそうになったら、『いやいや、1つ先に対処すれば、その先は起こらないんだから、考えても意味がない』って思い込むんです」「思い込む……」「そうです。理屈がどうのというよりも、そう決めてしまう。『1つ先のことしか考えない。そして、そこに手を打つ』って、とにかく決めてしまうんです」「わかりました。やってみます」  感情コンサルでの提案で、「問題が起こっても、1つ先のことしか考えないようにする」と、思い込むことにした小早川院長ですが、実際にやってみると……、効果は絶大でした!  ウソのように、ストレスが激減したとのことです。  もともと、小早川院長の心配事は、取り越し苦労がほとんどでした。  ですから、遠い未来のことを考えて悩むよりも、それが軽いうちに早めに手を打つことで、ほとんどの問題が解決したのです。「最悪の事態まで考えて心配していたのは、自分の『ただの悪いクセ』だったのだと気づくことができました」と、小早川院長はおっしゃいます。  最悪のことまでイメージできる、というのはある意味で才能です。そのイメージを、いい方向に変える癖をつけてください。  その後、小早川院長からは「毎日が楽しくなった」とのご連絡をいただきました。  繰り返しますが、トップが心配性で、慎重なのは、経営的には良いことかもしれません。  しかし、先のことを心配しすぎて、最悪のパターンばかり考え、ストレスになるのでは本末転倒です。  そして、不安を解消しようと、あらゆる事態を想定して、そのすべてに事前に手を打つとなると、実務を担当する社員たちは振り回されてしまって、たいへんです。未来がどうなるか、誰にもわかりません、心配するあまり、社員の時間をいたずらに奪ってしまうのは、最善な経営とは言えません。心配しすぎて、遠い先まで考えるのは、妄想のようなものです。どうせ妄想するなら、楽しいイメージを持って妄想しましょう。

「結果が出ないから、自分はダメだ」という思い込み  セミナーの企画会社社長の明智さんは、なかなか軌道に乗らない経営状態をなんとかしようと、他社が主催するビジネスセミナーを受講したり、ホームページに手を加えたりと、いろいろやってみたものの効果が上がらず、すっかり自信を失ってしまいました。「自分は、経営者として、何もできていないのではないか?」と、精神的に落ち込む日々。  このままではいけないと、感情コンサルを受けてみる気になったそうです。  明智社長のように、ビジネスセミナーなどを受けて、講師の言う通りにやってみたのにうまくいかず、その結果をすべて「自分のせい」だと思って悩んでしまう人がよくいらっしゃいます。落ち込む理由は簡単で、売上が上がらないから。結果が出ないから、「自分はダメだ」って落ち込んでしまう。これ、結構多いパターンです。  そういう方は、結果を求めて、また新たな「結果が出ている人」に依存してしまいます。つまり、別のビジネスセミナーへ行く。いわゆる、セミナージプシーになってしまうんです。私自身、プロローグでお伝えした通り、道に迷い、答えを求めて数々のセミナーを受講しましたから、そのあたりの心理はよくわかります。「結果が出ないから、自分はダメだ」  そう思い込んでいる人が感情コンサルにこられたとき、最初にやるのは、「結果が出ない」 →「結果が出せない自分はダメ」という思い込みを外すことです。「結果が出ない」というのは、ただの「出来事」でしかありません。  同じことをやったって、成功することもあれば失敗することもあります。  結果を出せなかった自分はダメだって否定するのではなく、まず、「やったけれど結果が出なかった自分を肯定してあげる」こと。なんなら、ダメだった自分について、「ダメだっていいじゃん」くらいに認めてあげることがスタートです。「できていること」のほうをクローズアップする  もう1つ考えるべきことは、「本当にできていないの?」という部分の正しい検証です。私は、明智社長に聞きました。「経営者として、何もできていないんじゃないかということですが、本当に何もできていないんですか?  たとえば、 ○ ○はできていませんか?」「あっ、いえ、そこまではできていました」「じゃあ、 ● ●は?」「ああ、それもできていますね」  私が具体的に聞いていくと、明智社長はちゃんと、経営者としていろいろなことをやっておられるんです。  私からの質問で、明智社長の「自分は何もできていない」という思い込みは、だんだんと外れていったようでした。  人って、結果が出ないと、「できていないこと」ばかりをクローズアップして、「できるようにしなきゃ、できるようにならなきゃ」って、そればかり考えるようになってしまいます。結果として、「できていること」がかき消されてしまう。  でも、冷静かつフラットになって見れば、実は、「できていること」だって、たくさんあるものです。  思い込みがひどい人だと、「私は、ここもできていないし、あれもできていないし」って、できていないことだけで、何時間でもしゃべることができます。  私は、そういう人には、「自分が朝から晩までやったことを全部書いてみてください」って言います。  良いか悪いかは関係なく、「顔を洗った」とか「朝、目玉焼きを食べた」とか、全部書き出してもらうんです。  それで、その書き出してもらった紙を一緒に見ながら、「ほら、ここやってますよね、これもできていますよね」って、自分の行動を可視化して確認してもらう。  それくらいやって、初めて、「ああ、自分って、結構いろいろやってるかも」って、やっと「かも」の部分に目が向くようになるのです。  明智社長は、感情コンサルによって、「自分は何もできていない」から、「できていることと、できていないことがある」と冷静に自分の行動を俯瞰して見ることができるようになりました。  そこで、「この施策は、ここまではできていたけど、ここが一歩足りなかった」「この部分は、もう少し押せばよかった」など、これまでの施策を再検証してみると……。  自分の会社のセミナー企画の強みが見えてきて、「ここを伸ばせばよかったんだ」という点が明らかになったのです。  そこに特化して力を注いだところ、口コミでお客様がつくようになって、ビジネスがどんどんうまく展開していくようになったそうです。「経営者として何もできていないのではないか」と悩んだときは、立ち止まって、「本当に何もできていないのか」検証してみてください。フラットな視線で全体を見たら、明智社長のセミナー企画会社のように、「すでにできている得意な部分」を伸ばすだけで、事態が好転するかもしれません。

プレッシャーは身体に出る  不満、不安、心配、プレッシャーなど、感情は身体に症状となってあらわれます。第 2章で、言いたいことを我慢して、声が出なくなった方の事例を紹介しましたよね。  絶えず不安や心配事がある人は、体が硬くなって凝り固まってしまいます。それが慢性的な肩こりや頭痛、人によっては腹痛などの原因になってしまうのです。  感情コンサルにこられた鳥谷社長は、お父さんの経営する会社の飲食店部門で、オーナー社長をされている人です。  オーナー社長と言っても、自分でお店を切り盛りしていて、厨房に立つこともあるとか。出資者が親なので、遠慮なく経営に口を出してくることもあり、それがプレッシャーで、常に緊張と不安を感じる毎日とのことでした。「肩こりがひどくて、頭まで痛くなることがあります。リラックスできないんです。社長になって以来、いくら意識してもリラックスできたことがないんです」「鳥谷さん、リラックスって、意識してするものではありませんよ」「ああっ、言われて見ればそうですね」「そうですよ。リラックスしなきゃ、リラックスしなきゃって自分を責めていたら、リラックスできません。眠らなきゃ、眠らなきゃって意識すると、かえって眠れなくなってしまうのと一緒です。無理に笑おうとして作り笑いをするようなものです」「たしかに……」「鳥谷さんの場合は、まず、安心できる場所に身を置くことが良いと思います。そうですね……。ポカポカのお日様の下、森林浴ができる公園などへ行って、まず、大きく息を吐き切り、ゆっくり吸い込む深呼吸を 5回ほどしてみてください。息は先に吐き切ると、自然にたくさん空気を取り込めますから、先に吐いてくださいね。別にリラックスしようなんて思わなくてよいので、何も考えずにやってみてください」  身も心も凝り固まっていると、猫背になり、呼吸が浅くなっています。そういう方は、深い呼吸をして新鮮な空気を体に取り入れると、胸も開いてリラックスできます。  深い呼吸をするには、コツがあります。  肘を脇にくっつけて、手のひらを体と平行になるように前に向けます。自然と胸が開いて、肩甲骨あたりの筋肉がゆるむのが、わかりますか。  その姿勢で大きく息を吸って、いったん止めたら、大きく吐き出してください。  きっと、深い呼吸ができるはずです。  私からの提案を実行した鳥谷社長からは、後日、「公園で大きく深呼吸してみたら、今まで身体のなかに溜まっていた不安な気持ちが、吐く息と一緒に出ていったような気がして、少し気が軽くなりました」との連絡がありました。自分に効く「リラックス方法」を知っておく  鳥谷社長のケースでは、セーフティゾーンに身を置いた深呼吸が効きましたが、ほかにも効果的なリラックスの方法はいくらでもあります。  味覚からリラックスできる方は、「奮発して美味しいものを食べる」「コーヒーを飲む」「キャンディーをなめる」など。  聴覚からリラックスできる方は、「好きな音楽を聴く」「小鳥のさえずりや小川の流れる音を聞く( CDでもオーケー)」など。  嗅覚からリラックスできる方は、「アロマを楽しむ」など。  見ることで安らぐ人もいれば、香りをかぐことで安らぐ人もいます。人それぞれですから、自分は五感のうち、どこでリラックスできるのか、知っておくと良いでしょう。  可能ならば、仕事から離れて旅行するのも効果があります。今はコロナで控えていらっしゃる方も多いようですが、大きな仕事が終わるたびに旅行に出かける社長さんや、年末年始は毎年、家族とハワイへでかける社長さんも知っています。  旅行が無理なら、ご近所のスーパー銭湯だってリラックスできます。  あとは、すでにお話ししたように、「大声を出す(大声で歌う)」「何かを思いっきり叩く(壊す・蹴飛ばす)」というのもスッキリします。  心が解放される避難場所のような場所を決めておくのもお勧めです。お気に入りのカフェとか、会社の屋上とか。落ち着けるならトイレだって構いません。  私はそういう場所のことを、心がホッとする「ホッとスポット」って呼んでいます。「自分にとって気持ちいいことは何か?」「落ち着ける場所はどこか?」を知っておいて、気持ちが落ちているとか、緊張しているとか、そういうときには、それを使ってリラックスするようにすると、「悪い気」が溜まりにくくなります。  この「悪い気」、言いかえれば「負のエネルギー」は、オフィスにも存在します。  なかに入った途端、「負のエネルギー」に支配されていて、「居るだけで息苦しくなってくる」というオフィスが、本当にあります。  そういうオフィスで働いていると、社員も負のエネルギーに染まってしまいます。そんなオフィスの会社は、業績は良くても、人が次から次へと辞めてしまう。  信じる信じないは別として、そういう「悪い気」とか「負のエネルギー」というものは確実に存在しています。体のなかの「悪い気」を全部、吐き出す!  ここで、この「悪い気」について、もう1つお話をさせてください。  それは、長年にわたって弊社の社長を務めた、私の父のことです。  社長の座を私の夫に譲ったあと、余命宣告をされた父。  私はその父が、まさにこの「悪い気」を吐き出す瞬間に遭遇したことがあります。  それまで、社長としてさまざまな苦難を経験し、時には辛酸をなめ、毎日毎日、夜中過ぎまで働き続けてきた父。その父が余命の宣告をされ、少し経っ

たある日のことです。  その日は、それまで心のなかに溜め続けてきた、「悔しさ」「虚しさ」「怒り」のようなものが、突然、堰を切ったかのようにあふれ出たようでした。  自分の感情を抑えることができなくなり、父は私の前で初めて男泣きしたのです。  嗚咽する父を前に、私は瞬間的に、「これは、溜め込んできた『悪い気』を全部吐き出させなくてはいけない」と思い、父に言いました。「ねえ、ねえ、お父さん!  う ーって言ってみて!  う ーって、声を出してみて!  そして、全部、吐き出して!」  父は、私の言葉を聞いて、「うぉ ーーーっ」って低い唸り声をあげました。  そして、息を全部、吐き出したようでした。「お父さん、もう 1回、できる?」  父は、それから 3、 4回、「うぉ ー」と唸りながら、息を吐き出しました。  息を吐き出すたびに、少しずつ落ち着きを取り戻していく父。  それは、重苦しい悔しさや虚しさがその低い音に乗って、父の口から出ていっているかのような光景でした。  そんなことがあった翌日。  私が会いにいくと、父が穏やかな顔でこんな言葉をかけてくれました。「夕べは、ぐっすり眠れたよ」  父は、長年にわたって心に溜めていた「悪い気」を、なんとか吐き出すことができたようでした。不満、不安、心配、プレッシャーなど、「悪い気」は知らぬ間に、心のなかに、そして、オフィスに溜まっていきます。方法は何でも良いです。ぜひ、定期的に解消することをお勧めします。

自分でできる「感情セラピー」の方法「感情セラピー」の方法は、 2種類  第 5章では、自分の感情がコントロールできないことに悩んでいる社長さんや院長さんの事例を4つご紹介しました。いかがでしたでしょうか?  感情のコントロールについてお話をさせていただいたこの章の最後に、「自分でできる感情コンサル =感情セラピー」の方法をお伝えしたいと思います。  自分自身に対して「感情セラピー」を行って、感情をケアする方法は、次の 2種類です。感情セラピーの方法 1  頭で考えて解決していく「思考型ケア」  たとえば、怒りや悲しみについて、「どうして自分はそう考えたのだろう?」と考えて、感情が起きた原因を明らかにし、問題を解決していく方法です。考えるのが好きな方や、論理的な思考の人に向いています。  この方法で感情をケアすると、スッキリした気分になれます。感情セラピーの方法 2  感情に話しかけて解決していく「感情型ケア」  自分の感情をイメージして対話し、それを「愛」に溶かしていく方法です。論理的な思考が苦手で、感覚的な人に向いています。この方法で感情をケアすると、心が温かくなります。  別名「究極の感情セラピー」。  ちなみに、「思考型ケア」をやったあとで、この「感情型ケア」をすると、リバウンドがなくなります。  ではます、「思考型ケア」のやり方から説明しましょう。「思考型ケア」の5つのステップ「思考型ケア」のステップは、次の5つです。ステップ 1  感情を体の外に出す(感情の見える化)ステップ 2  「誰の問題か」考えるステップ 3  「何が問題か」考えるステップ 4  「どっちでもいい」と言ってみるステップ 5  心の奥にある自分の本音を特定する  各ステップについて説明いたします。ステップ 1  感情を体の外に出す(感情の見える化)  悩んでいることについての感情をすべて外に出します、具体的には、声に出してみて、それをノートなどに書き出します。  たとえば、「なんで、些細なことに腹が立つんだろう」「どうして、社員のくせに腹が立つことを言ってくるんだ、バカ野郎」「言い争っている時間がもったいなかった」「どうしても未来が不安になってしまう」  など、心のなかの声を出し切ってください。誰に見られるわけでもないので、多少、汚い言葉を使っても構いません。ステップ 2  「誰の問題か」考える  可視化された感情を眺めて、1つひとつについて、「その問題は、誰の問題なのか?」を考えます。  たとえば、「なんで、些細なことに腹が立つんだろう」 →私の問題「どうして、社員のくせに腹が立つことを言ってくるんだ、バカ野郎」 →相手の問題「言い争っている時間がもったいなかった」 →私の問題「どうしても未来が不安になってしまう」 →私の問題  このように、誰の問題かを明確にすることで、自分が手をつけるべき問題と、手をつけても仕方ない問題が整理されます。ここで言えば、「腹が立つのは自分の問題、その原因を言ってくるのは相手の問題」と考えればいいのです。  このステップをやると、抱えていた問題が半分くらいになります。  もし、全部が「相手の問題」なら、「私がどうにかできることじゃない。つまり、私が悩む必要はないことだった」と、問題自体を消滅させることができます。

ステップ 3  「何が問題か」考える  残った「私の問題」について、具体的には、何が問題なのかを特定し、細分化していきます。細分化する対象は、「行動」「状況」「言葉」などです。  これは、思い出せるだけリストアップして、それについて自分が「どう感じたか」を、「嫌だった」「どうも思わない」「嫌ではない」という 3段階で評価します。  たとえば、「会議で、自分に歯向かってくる社員に対して腹が立つ」という問題を細分化してみると。・その社員が会議に出席している →嫌ではない・その社員が発言する →嫌ではない・その社員の意見が自分への反対意見である →どうも思わない・その社員の反論の態度が横柄で腹が立つ →嫌だった・その社員の言葉づかいに腹が立つ →嫌だった・その社員と言い争ってしまった →どうも思わない・その社員との言い争いで会議の時間を余計に費やした →嫌だった  と、こんな具合です。  ここでわかることは、たとえ、「嫌だと感じたこと」があっても、そのすべてが嫌だったわけではないということです。  このように整理しないと、「全部が嫌だった」と漠然と思うだけになって、問題解決のターゲットが絞れないのです。ステップ 4「どっちでもいい」と言ってみる  いよいよ核心に迫ってきました。ここで、魔法の言葉、「どっちでもいい」の登場です。  これまでのステップで、「嫌だった」として残った項目について、自分がどれくらい固執しているのかを、この言葉を使って判定します。「嫌だった」と思った項目について、「どっちでもいい」って言ってみて、自分がどう感じるか判定してください。たとえば、こんな感じです。・その社員の反論の態度が横柄でも、どっちでもいい →うーん、横柄じゃないほうがいいけど、そこまでじゃないかな・その社員の言葉づかいが悪くても、どっちでもいい →いや、これは許せない・言い争いで会議の時間を余計に費やしたのは、どっちでもいい →まぁ、こういうときもあるか  ここで「どっちでもいい」と言えないのは、この部分に対して、自分なりの正しい解釈や思い込みがあるものです。  この「どっちでもいい」という言葉を言うことで、自分が何を握りしめているかがわかります。  この例で言えば、一番嫌だったことは「その社員の言葉づかいがどうしても許せない」のだということがわかります。  逆に、このステップで「どっちでもいい」と言えた項目については、手放しているということです。「どっちでもいいけど、今はどっちを選ぶ?」と、自分に言えるかどうかがポイントです。  たとえば、資金繰りに追われて精神的に苦しんでいたら、「お金はあってもなくてもどっちでもいい。どちらかと言えばあったほうがいいかな」と考えることができれば、心が軽くなり、お金の悩みから解放されます。  ポイントは、本当にどっちでもいいのか、自分の本心を聞いてあげること。「どっちでもいい」と無理やり思い込ませるのではなく、静かに心に語りかけて、自分の気持ちを確認することが、何よりも重要なのです。ステップ 5  心の奥にある自分の本音を特定する  ステップ 4で「どっちでもいい」と言えなかった項目について、「どうしてダメなのか?」を深掘りします。・その社員の言葉づかいが悪くても、どっちでもいい →いや、許せない!  今回の例で言えば、この部分について、「自分はどうして、この社員の言葉づかいに我慢ができないのだろう?」ということについて、自分と対話します。「社長である自分に対して、言葉が丁寧じゃない」「社長に対して言葉が丁寧じゃないと、どうして、ダメなの?」「会社のトップだし」「会社のトップじゃなかったらいいの?」「いや、そもそも、年上の相手に対しては言葉づかいをちゃんとするのは当たり前だ」「どうして、年上の相手に対しては言葉づかいをちゃんとするのは当たり前なの?」「なぜって、私は、子どもの頃、親から厳しく、『目上の人には言葉づかいに気をつけなさい』と躾けられたからだ」  こうして対話をしていくと、怒りのなかに隠れていた「本音」が顔を出します。  ここまでわかれば、問題解決の方法も見えてきます。  この例の場合なら、「年上の相手に対しては丁寧な言葉づかいをしなければならない」ことに固執するのは、自分の子ども時代の経験(親から受けた厳しい躾)からくる思い込みだとわかりました。  そうしたら、「厳しい躾のおかげで礼儀正しい自分がいる、そのおかげでいろんな人から可愛がられてきたなぁ ~」と、今までの自分にとって役立っていたことをしみじみ思い出してみてください。  そして、社員への思い込み、たとえば、「礼儀正しくなることで、かわいい社員になってほしかったってことが心のなかにあったのだとしたら、それこそどっちでもいいことだ」と思えれば、この問題は解決します。

そしてその後、その社員に、「会議のときに意見を言ってくれるのはありがたいが、もう少し言葉づかいに気をつかってくれないかな。実は私は言葉づかいについて、子どもの頃にこんな体験があって……」と、自分の内面をさらしてもいい。  そうすると、相手から、「自分の言葉づかいが雑なのは、子どもの頃、外国で過ごしていたせいかもしれません」なんて意外な言葉が出てきて、わかり合えるかもしれないのです。  これはたとえ話ですが、似たようなケースは、本当によくあります。  以上が、「思考型ケア」の5つのステップです。「感情型ケア」の3つのステップ「思考型ケア」をやってみたけれど、マイナス感情をうまくケアできなかったときや、自分の感情を、理屈ではうまく説明できないときは、「感情型ケア」をお勧めします。「感情型ケア」のステップは、次の3つです。ステップ 1  具体的な状況から感情 =体の反応を特定するステップ 2  感情を形にして、それに対して話をするステップ 3  身体に戻して愛を感じる  各ステップについて説明します。ステップ 1  具体的な状況から感情 =体の反応を特定する  感情は、必ず体のどこかに反応として出てきます。  映画を観て感動すれば、胸がジーンとして、目頭が熱くなります。怖いときは、ドキドキするし、ガタガタ震えがきます。これが感情からくる体の反応です。  最初のステップでは、感情が動いたときに、それが自分の身体のどこに反応としてあらわれたかを特定します。  たとえば、社員との間に何かがあったら、そのときの状況を鮮明に思い出してみます。そして、「胸の奥が痛む」など、体の反応を言葉にしてください。ステップ 2  感情を形にして、それに対して話をする  自分の感情の居場所がわかったら、静かに目を閉じて、その場所に意識を集中します。そして、その意識の「形」を感じてみてください。  これは、人によって、たとえば赤い丸など、形が違うと思います。もし、形を感じられなければ、反応のある場所を意識するだけでも大丈夫ですので、次に進んでください。  感情の居場所がわかって、形を意識したら、それに向かって対話をしてください。  たとえば、「会社の利益が出なくて苦しい」という感情の居場所を感じたら、「こんにちは」「そこに居て頑張っていたわけを教えて」などと話しかけてください。  自分の感情に対して、存在を認めて、言い分を聞いてほしいのです。  そして、次は、「何かしてほしいことは?」って、感情からのリクエストに耳を傾けて、その感情が望むことを、すべてやってあげてほしいのです。  回答がなくてもかまいません。その感情の様子や変化を感じてください。  これは、正解も不正解もありません。あえて言えば、感じたままが正解です。ステップ 3  身体に戻して愛を感じる  ひとしきり「感情との対話」が済んだら、その感情を身体に戻して温かさを感じてください。  この感情との対話によって、今まで無視したり、否定していた感情と仲直りした感覚をつかんでほしいのです。  それを身体に戻しながら、「今まで、よく頑張ってくれて、本当にありがとう」「出てきて、話をしてくれてありがとう」と、感謝を伝えてください。  やることはこれだけです。一連のステップは、目を閉じたまま、それこそ、心で感じて、感情と対話をしてください。  ステップ 1 ~ステップ 3が終わったら、試してほしいことがあります。  それは、もともと感情が動いた出来事を、もう 1度思い出すことです。  それが、たとえば、社員との間に何かがあったことであれば、それをもう 1度思い出してください。  思い出してみて、「感情型ケア」をやる前は、「胸の奥が痛む」という反応があったものがなくなり、「まあ、いいか」「なんとかなるか」「どっちでもいいか」などと思うことができたら、「感情型ケア」は大成功です。  そして、「今度同じことがあったらどのように対処しようか?」と新しいアイデアを見つけてください、  これが新しい行動パターンとなり、現実が劇的に変わっていきます。「感情型ケア」は、「思考型ケア」に比べて時間もかからず、しかも、リバウンドしにくいという、究極の感情セラピーです。悩んでいたことに対して、フラットになれるので、未来へ向けたアイデアも出やすくなるのです。  自分で行なう感情コンサル、「感情セラピー」のやり方を紹介しました。  ぜひ、お役に立てていただければ幸いです。

売上がなくなって、自信喪失   2020年に突然、世界を襲った新型コロナウイルス。さまざまな業種の会社が、多かれ少なかれ影響を受けました。  私のところにも、「コロナによって業績が悪化し、会社の将来に対して不安を感じている」という方が、数多く、「感情コンサル」にいらっしゃいます。  業績がよいときは、自信を持っていた社長さんも、業績がダウンすると、一気に自信を喪失してしまうことがあります。それは、自分の「自信の裏付け」がいつの間にか、業績という「目に見える数字」に置き換わってしまっているためです。そのために、売上が落ちると、心のよりどころがなくなってしまうようなのです。  私は、「会社の将来が不安」という青島社長に聞きました。「ひと言で会社の将来が不安と言っても、いろいろありますよね。もう少し具体的に言うと、どんな不安ですか?」「やはり、お金の不安です。コロナで業績が落ちて、今の事業だけでは将来がないのが見えています。それで、新規事業の立ち上げを考えているんですが、それに対する不安です」「するとお金について、なかでも新規事業に対しての不安なんですね」「そうですね」「新規事業の何が不安なんですか?  やったことがないから不安なのか?  相談相手がいないことが不安なのか?  会社にバックボーンがないことが不安なのか?  新規事業のための資金不足が不安なのか?」「そういう意味では、やったことがないことが不安です」「やったことがないから自信が持てないと」「そうです、そうです。自信が持てないんです」目に見えないものに自信を持つ  未知の新規事業に対して、青島社長のように不安を感じる社長さんもいれば、逆にワクワクする社長さんもいらっしゃいます。この違いはどこからくるのでしょう。  感情コンサルをしていて思うのは、「不安がる社長さんは、自分のなかの『ない』部分にフォーカスするタイプ。ワクワクする社長さんは、自分のなかの『ある』部分にフォーカスするタイプ」だということです。  自分のなかの「ない」部分にフォーカスするタイプの社長さんは、「経験や知識がないから不安になる」と言います。なかには、常に自分よりもスゴイ相手と自分を比較して、「あの人に比べて自分は持っていない」と、自信をなくしている社長さんもいます。  アミューズメント業界のある社長さんは、ライブドア時代の堀江貴文さんの売上と自分の会社の売上を比べて、「ホリエモンさんに比べて恥ずかしい」とおっしゃっていました。  すでに持っているものがたくさんあっても、不安になるわけです。  これが、新しいことをはじめるときに、不安になるタイプ。  いっぽう、新しいことにワクワクして挑戦できる社長さんは、「自分はこういうことができる」「自分はこういうことができた」「自分は今まで、こういうことをやってきた」など、すでにできていることに目を向けて自信を持っているように思います。  目に見える「業績の数字」ではなく、「今までずっとやってきた経験値」「社長をやってきた自分に対しての評価」「これまで世の中に生み出してきた価値」など、目に見えないものを「自信のみなもと」にしているのです。「自分の直感や感覚を信じてやってきた、だから大丈夫」という自覚があるから、いっとき、売上が落ちても、新しいことをはじめるときも不安にならないのですね。  青島社長にこの話をしたところ、憑き物が落ちたようでした。「コロナで業績が悪くなって、なにか手を打たなければと漠然と不安になっていました。でも、新規事業を進めていくうえで、今、できていること、できていないこと、わからないこと、整理すべきことなどがクリアになった気がします。心がスッキリして、不安が消えました。そうですよね、今、将来が見えないのは、どこの経営者も同じですよね。自分を信じて、どう手を打つのがいいか、計画を立てて実行していきます」  自分や自社の強みというのは、意外と、自分ではわからないものです。  自分の会社の未来にまったく自信が持てずに悩んでいた、あるシステム開発会社の社長さんは、競合他社に負けないように、懸命に新しいシステム開発に取り組んでいました。しかしながら、なかなか思うように進まず、苦しんでいました。  その会社が作るホームページの素晴らしさを知っていた私が、「依頼してきた企業の強みをうまくアピールして、『売上が上がるホームページ』を制作できるのは、御社のオンリーワンの強みではありませんか」とアドバイスしたところ、「当たり前のことだと思っていました」と、初めて自社の強みを認識されたようでした。  今では、「売上が上がるホームぺージ制作」のパイオニア企業として、他社との差別化に成功されています。今までやってきたことは、大きな宝です。自分にとっての当たり前は、他人にとってはすごいことだったりします。できていないことに取り組むより、すでにできている部分を伸ばすほうが効率的です。  信頼できる相手に「ウチの会社の強みって何?」と聞いてみると、まったく気がついていなかった自社の強みを教えてもらえるかもしれません。

イエスマンばかりを作ってきてしまった  学生時代の卒業式や結婚式で、分厚い記念アルバムをもらったことがあると思います。  感情コンサルに相談にこられた遠井社長は、そういう特別なアルバムを作る会社の社長さん。社員は約 50名、創業から 100年以上の歴史がある老舗です。  遠井社長は、自分で営業から商品開発まで全部できてしまう方で、ずっと社員に頼ることなく、突っ走ってこられたそうです。社員教育については、「自分のコピーを作ればうまくいく」という考えで、社員には、自分で決めたルールを守らせていました。「どんなルールを、決めていらしたのですか?」 「『始業の 3分前には席について、仕事をはじめる準備をする』とか、『仕事は締め切りの 1週間前には 1度、報告ができるレベルにまで仕上げる』などですね」「それを、社員のみなさんに守らせていたのですね」「そうです。すべてマニュアル化して徹底していました」「そうやって、社長さんのコピーを育てようとされていた」「はい。それが一番、効率がよくて、会社がうまくいくと思っていました」  かつて、業績は順調でしたが、世の中のデジタル化の流れのなかで、だんだんと売上が低迷してきます。「分厚いアルバムが、時代に合わなくなってきたんです。それで、私ももう歳で頭が固くなってきたし、それなら、社員から会社の今後について、何か新しい意見を聞こうと思って話をしてみたんです。そうしたら、誰も何も考えていなかった(苦笑)」「分身の術を使ったつもりだったのに、誰ひとり育っていなかったのですね」「そうです。考えてみれば、全部、自分でやってきて、周りにイエスマンを育ててきたのですから当然の結果です。社員にしてみたら、『会社の将来について、今さら聞かれても、今までどおり、社長のお好きにやれば』という気持ちだったと思います」  そんなとき、息子さんから会社を継ぐ気持ちがないことを告げられたそうです。  遠井社長は、いよいよ、自分が辞めたあと、会社をどうするかで悩みました。「息子が継がないなら、会社は売却するか、社員の誰かに継がせるかのどちらかです。そのことで悩んでいたら、なんだか、無性に社員たちに対して腹が立ってきてしまって……。『自分がこれだけ頑張っているのに、なんだよ、お前ら!』って」バックミラーを見ない運転の「ツケ」  感情コンサルをやっているとよくわかるのですが、人というものは、自分が悪いと頭ではわかっていても、感情では被害者になってしまうことがあります。  被害者になった時点で、「あいつのせいだ!」って自動的に加害者が生まれて、遠井社長のように無性に腹が立ってきます。この感情は理屈ではないので、抑えようがありません。  そして、ここでも感情コンサルが効きます。自分の感情を認めて、ねぎらってあげる。そういうプロセスを踏んでフラットな気持ちになってから、現状を俯瞰します。  遠井社長に感情コンサルをしてフラットな状態になっていただき、問題を俯瞰すると、元凶は、遠井社長がバックミラーを見ずに、つまり、社員たちのことを見ずに、突っ走ってきたことでした。そして、マイルールを押しつけて、「自分のコピーを作れば安心」だと勘違いしてしまったツケが、今、まわってきたのです。  そこまでは納得した遠井社長は、自分の歳では新しい事業のアイデア出しは無理だと判断して、改めて、社員たちに新規事業のアイデアを募りました。  すると、カメラ部門や印刷部門などで新たな事業アイデアが出てきたのです。遠井社長は腹をくくって、5つの新規事業を同時に立ち上げることにしました。  もちろん、自分がやるのではなく、それぞれに責任者を任命して。  不安はありましたが、もう、会社が生き残るにはこれしかないという判断です。  任命した責任者からアドバイスを求められると、遠井社長はこう答えたそうです。「自分もやったことがないから、一緒に考えよう」  社長の変化に応えるように、責任者となった社員たちは、みな、実力を発揮しました。感情コンサルを受けてから約 2年。新規事業は、どれも順調だとか。  かつては、自分だけでやっていた採用などの人事業務も、今では担当社員に任せて、精神的にすごく楽になったそうです。遠井社長は、こうおっしゃいました。「やっぱり、任せてみて、それまで抑えつけていた社員たちが、ちゃんと力があったんだということが見えたのが、自分にとって一番大きかった」「最高の指導者ほど、何も言わない」という言葉を聞いたことがあります。  スーパーマン社長ほど、つい、何でも自分でやってしまったり、的確すぎるアドバイスをしてしまったりして、社員の自主性を奪ってしまうようです。アドバイスが悪いのではありません。アドバイスは、あくまで相手が主体になるようにしないと、ただの命令や指示になってしまうということです。  社員の自主性を重視して、良いところを伸ばして、やる気に火をつける。  感情コンサルをしていると、それが伸びる会社の社長さんのあり方だとわかります。  そして、自分の感覚が市場とズレてきたなどの理由で、会社を引き継ぐべきときがきたら、思い切って任せてみる。会社の理念とか、 DNAだけは引き継いでもらって、新規事業は次の世代に任せてみることが、会社を存続させるコツなのではないかと思います。

「これで安心して倒産できる」  感情コンサルにこられた藤田さんは、つい最近まで、年商数十億円を超えるゲーム機販売・アミューズメント施設運営会社の社長でした。  しかし、新型コロナの影響で、すべての歯車が狂ってしまい、 84億円もの負債を抱えて、倒産・破産を余儀なくされたそうです。  会社と自分の将来についての不安に関する第 6章、3つめの事例は、倒産に直面した社長さんのリアルな事例についてです。   2時間近くの感情コンサルのなかでとくに印象に残った、倒産・破産に関する部分をお届けします。「倒産にあたって、一番苦しかったことはなんだったのですか?」「バランスシートから経営状況を読み取って、『これはもう、どうしようもないな』と腹を決めました。その後、弁護士に破産の申し立ての相談をしてから、実際に破産するまでの 1か月間が精神的に一番苦しかったですね。私の会社の規模になると、倒産することを、倒産の当日まで、取引先にも社員にもいっさい話せないんです」「影響が大きいから、隠さないといけないんですね」「そうです。『大丈夫ですか?』って聞かれたら『大丈夫です』ってウソをつかないといけない。それがもう、今までの人生のなかで一番辛くて苦しくて、生きた心地がしませんでした。正直、 1か月の準備期間が終わって、倒産を発表できたときは、会社がなくなる悔しさより、やっと辞められるという安堵の気持ちでいっぱいでした」  倒産すると「ホッとする」。  この感情は、どうも藤田社長だけではないようです。  私の知人に、かつて金融機関で、いわゆる「借金の取り立て」をしていた人がいます。その方から、こんな話を聞いたことがあります。「借金をなかなか返済してくれない社長から、突然、『保証人がついている借金』についての解決策の提案があった。そのときの社長が、やけにすがすがしい笑顔なので、『ほかにもまだ、国から無担保無保証で融資を受けた残債がたくさんあるのに、返す当てでも見つかったのかな』と不思議に思った。しかし、そのあとすぐに、その社長の会社が倒産、社長が破産して、すべての合点がいった」  つまり、知人が見たその社長の笑顔は、保証人に迷惑がかかる借金がなんとか片付いて、「これで安心して倒産できる」という笑顔だったのです。  私も感情コンサルをしていて、「倒産で、やっと楽になった」という社長さんとお目にかかることが、何度かありました。  苦しんで苦しんで、それでもダメで会社をつぶす決意をした社長さんにとっては、倒産・破産は、その重圧から逃れられる、ということなのかもしれません。倒産・破産という名の「ふるい」「倒産・破産して、ある意味、安心を得られたわけですね」「そうです。資金繰りに追われていたときは、家でも毎日ピリピリしていました。でも、裸一貫になって、家族に『ごめんな』って謝ったら温かく迎えてくれて……。家族と過ごす時間が増えて、本音で話せるようになりました。人間らしい生活ができるようになったと思います」「ほかには、何か良かったことはありますか?」「周りから、お金だけでつながっていた人たちがいなくなりましたね。正直、羽振りが良いときは、私のことを利用して儲けようという人たちも周りにいたんです。私のほうもそれをわかったうえで、『こっちも利用してやればいい』なんて思ってつながっていました。そういう人たちが、あっという間に離れていきました。そして、今は、信頼でつながってくれていた人たちだけが、周りに残ってくれました」「倒産・破産が、信頼できる相手とそうでない相手のふるいになってくれた」「そう。私は、昔は人が喜んでくれることが好きだったのに。会社が大きくなるにつれて、それがいつの間にか置き去りになってしまっていました。自分を利用しようとする人たちと付き合ううちに、すべてのベクトルがお金になってしまったんです。そういう人たちがいなくなって、今は、信頼関係で残ってくれた彼らと新しい事業を考えています」「そうなんですね」「いつの間にか売上第一主義になってしまって、自分で何がやりたいのか、わからなくなっていました。倒産・破産して、負けを認めることで、そんな殺伐とした戦場から離脱できた気がしています」「そうです、そうです。自分の弱さを認めてフラットになることが、次のステージへのスタートラインです」「これからは、利益のためではなく、自分が本当にやりたかったことに立ち返って事業をやりたい。人との関係を大切にして、『藤田だから』と、信頼に根ざす商売をしたい。今は、とてもワクワクしている状態なんです。自分が今後、いかにこの経験を活かしながら人の役に立てていけるか、楽しみです」  藤田さんは、晴れ晴れとした顔でそう言っておられました。この倒産・破産は、藤田さんが、お金よりも、「自分が本当にやりたいこと」や「信頼」のほうが大切であると気づき、次のステージへ上がるために必要なものだったのかもしれません。

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