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社長は「会社の方向づけ」をする人である

最初の輸出ができて三年後の一九六五年に、頼りにしていた鈴木社長が逝去された。

実は鈴木社長がもともとご病弱であったことや、本業として時計の卸業をされていたこと

から、スターの方は非常勤の社長であった。わたしは専務という肩書で、月に一度か三度出

社する社長の指示で会社を動かしていたわけである。

だから、社長が重い病気に伏したとき、いよいよオレが社長をやらなければならないか、

と心中、覚悟するところがあった。

ところがお葬式のときになって、鈴木社長との思い出を走馬灯のように思い出しているう

ちに、はっと気がついた。

「俺が社長の役割を果たすには、まだまだ力足らずだ」と。

この会社を始めるとき、材料がいらない、輸送コストがかからない、人がいらない、とい

う三つの条件をだして、その後の事業の基本方向を決定づけたのは社長であった。零細企業

が事業を始めるときに、これからの日本は、これからの製造業は、地域のハンディは、とい

うような見地から仕事を始めた経営者が何人いただろうか。わたしは社長のこの具体的な方

向づけがあったからこそ、自動旋盤による精密部品加工という事業を見つけることができた

のであった。

その後も、社長が会社にたまに顔を出すと、まだ零細企業の段階から、自社で使う機械は

自社で一番効率よく作れ、これからは脱下請けだ、中小企業の生きる道は専門化だ、輸出化

だと、いち早く会社の進むべき方向を見抜いて、まだ何も気づいていないわたしに、そのつ

ど的確な方針を示してくれた。

確かにわたしは、スターの社員と資金の力を最大有効に結集して、社長の出した方針を実

現することには長けていたと思う。社員も三〇〇人を超え、肩書は専務ながら社長と変わら

ぬ仕事をこなしてきたと、多少の自負もあった。しかし、わたしに鈴木社長のような高い次

元からの事業決定ができるだろうか。鈴木社長は非常勤ではあったが、社長としての一番大

事な役割を決して外さなかった。それは、会社を発展させるための、「会社の方向づけ」を

的確に指示してくれたことである。

結局、先代社長のお葬式の夜まで、わたしは「社長の最大の役割が何か」という肝心なこ

とについて、まるきり考えていなかったことに気がついたのであった。

事業経営にとって、 一番大事なことは、会社の方向づけなのだ。社長の仕事として、会社

の方向づけほど大事なものはない。わたしは、専務の仕事では合格点かもしれないが、社長

の最大の仕事では零点だ、と思い知ったのだ。そうなると、スターにとってわたしが社長に

就くことは間違いだ、よくない、だれか社長にふさわしい人をよそからお迎えしようと決心

した。

そこで、資本の関係もあったシチズン時計の山田社長にご相談したわけである。

「半年に一度でいいから、わが社に来ていただいて、われわれの経営の方向づけが間違っ

ていないかだけをチェックしていただきたいのです。うちの社長を引き受けていただけませ

んでしょうか。お金の心配のようなことは一切ご迷惑をかけませんから」

最初はけんもほろろに断られた。当たり前である。かたや大会社の社長、われわれは、そ

の部品屋にすぎない。三顧の礼、というが十顧も二十顧もして、「いまスターに必要なことは、

将来に対する方向づけだが、わたしにその能力がない。 一言でもよいのでアドバイスいただ

きたい」とお願いした。

とうとう山田社長が根負けされ、「君に自信がつくまで、年二回、中間と本決算の役員会

に出席するだけだよ」という約束で、わが社の社長就任をお受けいただいたのである。

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