将来は過去の延長線上にあると述べたが、読者の皆さんは筆者の真意をくみ取っていただ
いていると思う。
社長が野望を思い切り膨らませることは確かに大事なスタートである。しかし、お祭りの
プランを立てることは大事だが、それをどのように実行していくかという裏づけが必要なの
だ。何か新規の事業に転換するということでもない限り、過去の実績から極端に掛け離れた
ような急激な変化は起きえない。
つまり長期計画のスタートは、気楽に社長の野望を膨らませることであるが、次には、過
去に培ってきた体質との落差を知ることが大事である。そこから漠然とした野望や夢を実現
に近づける「社長の決意」や具体的な「社長の経営方針」が生まれてくるのだ。ここが重要
なところである。
だが、 一般には、現実を無視して夢ばかり膨らませ、そのギャップを埋めるどころか、
逆にその差をどんどん広げている社長が少なくない。なかには「一〇年後にわが社は○○
の販売で日本一となる」と、その文句は勇ましいかぎりだが、肝心の根拠は売上対前年比
一五〇%を続ける売上計画だけ、という構想を実際に見せられたことがある。ところがその
会社の現状は、住宅用資材の一地方代理店であり、薄利のうえに借金体質で儲けを金利に食
われて、総資本利益率が一%あるかどうかの経営なのであった。これでもし一五〇%もの売
上増を実行していったらたちまち運転資金に詰まるはずだ。こういう夢は野望といわず無謀
という。数字が並んでいても、つじつま合わせにもなっていない。なまじ具体的な数字になっ
ているだけに、かえって周囲は自けるだけだ。現状との差を痛いほど認識するならいざ知ら
ず、これでは立ててもあまり意味がない計画といわなければならない。
社長は、現実と夢の間で最大限の可能性を追求していく人でなければならない。
長期計画を立てるときは、社長個人としての夢を描きながら、同時に過去三年間の数字を
横に見て、「具体的な経営ビジョン」につくり上げていく。つまり社長の夢は、数字の約束
ごとによるコントロールが必要なのだ。実践の場で、自分の会社にどういう特徴をもたせ、
どのように生き抜いていくかということを、夢と現実の体質とを見比べながら試行錯誤しつ
つ考えることが、非常に重要な意味をもってくるのである。
何度も書くように、過去の体質の延長上にこれからの経営がある。現実の会社の体質と体
力の実態をつかみ、どう舵取りして修正していくかというのが経営というものだ。過去の数
字を左目で見ながら、右手で将来の数字を書いていく必要がそこにある。そのときに、あま
りに非現実的な数字を記入していけば、あとで必ず実現不可能という答えが出てくるはずだ。
かといって、逆に消極的になるのも問題である。あまり過去の数字にこだわりすぎている
と、消極的なビジョンしか生まれなくなり、結局は何も変わらない旧態依然とした会社になっ
てしまうだろう。それが、経営ビジョンを固める前に、思い切り夢を膨らませる必要がある
ゆえんだ。
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