会社をつぶさずに、安定した経営ができる社長は 会社の基本的な数字をつかんでじる。
経営とはせんじ詰めればお金のやりくりです。お金をどう回していくか。それがうま くいっている企業は安定、成長していきますが、お金の循環が滞ってしまえば、それで 終わり。どんなに輝かしい理念があろうと、画期的な商品があろうと、お金が回らなけ ればそこで経営破たん、倒産です。 そうならないために必要なのは経営者が常に会社の数字をチェックし、把握している ことです。 「それは当然でしょう。もちろん私も売上をチェックしていますよ」 経営者はそういいます。でも、会社経営にはいろいろな数字がからんでいるもの。そ れらの数字のすべてを把握しているか。それぞれの数字の裏に何が隠されているか。それをちゃんと理解しているか。 それらをちゃんと理解している経営者は、順調にビジネスを発展させていきます。 ところが実際は、数字はちゃんとつかんでいると豪語する経営者のほとんどが、数字 は知っていても、その本当の意味を理解していないのです。 数字の中身を理解できていないのでは、暗闇のなかを進んでいるのと同じです。よく こんな状態で進んでいけるものだ、とかえって心配になってしまいます。 実際に、その多くは黒字倒産という憂き目にあうのです。売上から経費を引けば利益 は出ている。だから安心だと思っていても、キャッシュフローが足りない。帳簿上では 利益があっても現実に回すキャッシュがない。そして倒産してしまうわけです。 倒産の54 %は、数字上は黒字だという調査結果があるくらいです。 特に、負債状況はどうなつているのか、会社の返済能力はいくらなのか、いつ、いく ら返済しなければならないのか、つまり、出ていくお金を正確に把握し、その意味を理 解していなければなりません。 回転率や労働分配率や自己資本率など、むずかしい数字は知らなくてかまいません。また、数字は日々変わるもの。頻繁にチエツクしていなければ意味がありません。 私の相談者でも、PL/BSを毎月分析できていない企業が少なくないのです。前月、 いくら儲かったかがわかっていない。それで翌月の経営が不安にならないのでしょうか。 前月の在庫状態がわかつていないことも驚きです。私には理解できないぬるさです。 私は、相談者には毎月5日までにPL/BSを作成し、中身を十分理解するように、 といっています。これを実施することは資金管理、在庫管理を徹底することにつながり ます。 実際、服飾販売業のある会社はPL/BSを毎月作成し、その数字の示すところを十 分チェックするようにしたところ、経営状態がみるみる改善していきました。経営者の 勘だけで経営していたのが間違いだと気づいたようです。 基本的な数字をしっかり読み、把握することは経営の基本のキ、だということです。 ▼経営とは、数字の動きがすべて。
会社をつぶさずに、安定した経営ができる社長は リスタ分散をしている。
経営者はふだんから、常にリスクを意識していなければいけません。 私のところには、多くの起業志望者が相談にこられますが、誰1人例外なく、開業前 の青写真は立派で輝いていて、当人も希望に満ちあふれています。 「私は接待で数えきれないほどの店に行き、いろんな繁盛店を見てきています。だから 成功する自信があるんです」とか「ずっとマーケテイング部にいましたから、売ること に関してはプロだという自負があります」などといって胸を張っていた方が、1、2年 後には虎の子の退職金を使い呆たし、閉店、閉業に追い込まれていきます。 特に脱サラの人は予測もリスクヘッジも甘く、自分目線で商売されている人が多いの です。大企業にももちろんさまざまなリスクは押し寄せるのですが、1人ひとりの社員のと ころまでそのリスクは実感をもって伝わってきません。したがって、どうしてもリスク 意識、リスク管理が甘くなってしまうのでしょう。 ある花屋の経営者のケースをお話ししましょう。そこの経営者は危機意識が非常に強 く、ちょっとした心配ごとがあると、すぐに私のところにかけつけて、このリスクが現 実化したときにはどう対処したらいいかを相談されます。 いつも感心するのは、相談に見えたとき、たいてい彼なりの解答をもっていることで す。常日ごろからリスク対策をいろいろ考えているので、どんなリスクに対しても前向 きに取り組む姿勢も確立しています。 そんな彼がいつも以上にシリアスな表情で相談に見えたことがあります。駅ナカなど に積極的に出店、全国展開をしているフラワーチェーンが彼の地盤である地域にも進出 してくるという情報をキャッチしたからです。 彼の高校時代に小さな花屋を営んでいた父親が借金だけを残して他界。そこから歯を 食いしばって借金を返し、規模も大きく広げてきた矢先です。ライバルがブーケやギフト用のフラワーボックスを中心にした展開で勝負に出てきた ら、デザインカのない彼の店では太刀打ちできない。結果は火を見るより明らかだ。そ う考えた彼は「いままで以上に地元に密着して、名実ともに、地を這うような戦略で攻 める」と私に決意を伝えました。 具体的にいえば、地域のレストラン、料亭など週に1、2回は花を総入れ替えするお 得意先をさらに増やす、生け花教室やフラワーアレンジメント教室などに食い込み、 レツスン用の花を届ける……など。 レツスン用の花材を確保すると収入の安定につながることはいうまでもなく、さらに、 花屋の経営の泣きどころである残花を最小限度にとどめることができるので、経営効率 が飛躍的に上がります。 この地を這う作戦が当たり、大手の進出にもかかわらず、彼の花屋はいまも地域ナン バ11の地位を守り抜いています。 いまや国内約3000店舗、海外1500店舗を展開し、年商4200億円という大 企業に成長した100円ショップのダイソー。運営する大創産業の創業者である矢野博丈社長は、それまで何度も失敗、挫折を繰り返し、追い込まれるような形で売れ残り 品を安値で売る店を始めたところ、これがヒット。 当初は最低限の人数でビジネスをしていたため、値札を張る手間を惜しんで均一 ショップを考えついたということからも創業時の苦労がしのばれます。 年商1億円の企業にするのが夢だといつていた矢野社長はその4000倍以上もの企 業に育て上げながら、つい最近まで、「週に2、3日は眠れない」ほどダイソーのさまざ まなリスクが頭を離れなかったそうです。 社員にも「大創産業は必ずいつかつぶれます。そんな会社をなんとか生きながらえさ せるためにも社員1人ひとりががんばってほしい」と繰り返し、いっていたそうです。 こうして常にリスクを忘れない経営によって、ダイソーは2位以下の競合を寄せつけ ず、最近では海外出店を加速するなど、勢いのある経営を続けています。 目まぐるしく市場環境が変わる時代、事業の多角化は場合によっては最大のリスク ヘツジになることがあります。いままで本業でやっていた市場が細り、反対に、副業だと考えて、とりあえず手をつ けた新ビジネスが予想以上に大きく成長して、いまや本業以上に伸びている。そんな例 はいくらでもあります。 ただし、新ビジネスを始める場合は、絶対に既存会社でやってはダメですよ。新たに 別会社を立ち上げてやりなさい。私は口を酸っぱくしてこういっています。 ある相談者の例です。時代の流れとともに本業が思わしくなくなつてきました。そこ で新たに借入をして海外展開を図ったのですがこれもうまくいかず、結局、借入がふく らみ、赤字経営に転落。そこで新規事業を2つ立ち上げました。 1つは飲食業のFC、もう1つは海外からの食品輸入です。この2つはどちらも非常 にうまく進み、堅実に利益を生むようになってきました。 しかし、本体の借入金の返済がきついため、いまも赤字経営から抜け出せません。本 体事業と同じ会社で新規事業を立ち上げたため、新規事業の利益も本体事業の不振に飲 み込まれてしまっている状態です。 もし、完全別会社で新規事業を立ち上げていたなら、本業を見切って新規会社で新たな再出発を図ることができ、旧事業の会社は整理することになるでしようが、ビジネス そのものの流れは先へ先へと成長させていくことができたはずです。 リスク分散がいかに大事かを物語るケースです。 ▼危機意識、リスクヘッジが強すぎてつぶれた会社はない。
会社をつぶさずに、安定した経営ができる社長は 営業力以上に経営力が大事だと 認識してじる。
独立、起業した人で最も心配なのは意外にも、営業力に自信があるタイプです。営業 力があるので独立早々から仕事は順調に広がり、売上もきっちり確保。確実な入金があ るので経営にも不安がなく、自信満々、絶好調だと考えがちだからです。 営業1本でやってきた人は売ることには長けているのですが、経営についての知識は 希薄で、素人同然の方が多いのです。「経営とは何をどうすることなのか」さえわからず、 周囲にそれを教えてくれる人もいないので、ただただ売上を伸ばすことにいっそうエネ ルギーを注ぐだけになってしまいがちです。 このタイプの経営者にとって一番怖いのは、営業力がマツクスに達し、売上の伸びが止まり、さらには売上低下が始まったときです。営業力で売上を伸ばすことしか知らな いので、攻めから守りに転じたときの切り替えができないのです。 どうしていいかわからず、不安を抱えたまま、それまでどおり、営業拡大1本の経営 を続けていても下降カーブを止めることはできません。 こういう事態を予測して、絶好調のときから、経営についてイチから勉強する努力を 怠らないことが肝心です。 きっかけは1冊の本でもいいのです。私も膨大な借金で苦しんでいたとき、なんとな く書店に足を踏み入れ、偶然、1冊の本に出会ったことで再生への勇気をもらい、そこ から本格的に、再生への道を歩み出しました。 経営セミナーを受講したり、コンサルタントに相談に行くことも経営について勉強す る1つのチャンスです。私自身、現在、それを仕事にしているのにこんないい方はなん ですが、セミナーもコンサルタントも玉石混交。うわべだけの話をされ、実践にそぐわ ないところも少なくないのが実情。しかし、それを経験し、″石のなかから玉を見つけ 出す″ことも貴重な勉強になります。こうして「経営とは何ぞや」と関心を抱き、知識を深めていくと、しだいに売上を伸 ばすことだけが経営ではないことがわかってくるはずです。 私の相談者のなかにも、「売上を伸ばすのはもう限界だ」というので、とことんヒア リングしてみると、まだ、こんな方法があったんだと見逃している余地が見つかること がよくあります。 経営はパランスですから、その一方で、ロスをしている部分はないか、採算効率を引 き下げる穴がどこかにあいてないか、をチェックすることも大事です。 私の相談者に、こんなケースがありました。 ある紳士靴販売をされている経営者は、売上を伸ばすことばかり考えていました。銀 行借入方法も未熟で、資金調達がうまくできず仕入資金にも悩んでいました。ですが、 経営とはなんぞやを理解し始めてからは、商品も海外高級ブランドから自社ブランドに 比重を変え、その結果利益率も大きく改善し、いまや売上も利益も絶好調になっています。 別の例では、大手通販会社に商品納入と物流も行っていた会社は、取引のほとんどを占める通販会社に振り回されてきた経営から、自立した経営に転換を図っています。い ままでのサービスで行っていた物流ノウハウを生かし、物流会社に大きく転換し、将来 性バツグンの会社に変身しようとしています。 こうした例が物語るように、営業数字だけを見るのではなく、事業全体のバランス構 造を眺め、全体的に見直す。こうした視野がなければ経営は成り立たず、持続していく こともむずかしいことを、いつも脳裏に刻んでおくことです。 ▼営業力と経営力の違いがわかっているか。 自分に問いかけてみよう。
会社をつぶさずに、安定した経営ができる社長は キャッシュフローを健全に保っている。
経営とはお金のやりくりだといいましたが、もっと正確にいえば、キャッシュフロー を健全に保っていくこと。キャッシュフローが健全でないと、帳簿上は利益があること になっていても、実際は現金不足で支払いができず、経営が行き詰まることがよく起こ るのです。 キャッシユフローとは具体的にいえば現金の流れのこと。企業活動では、ビジネス取 引をして売上をあげても、売上を実際に手にするまでに、時間差があるのが普通です。 どんなに大きな売上をあげても回収がうまくいかず、キャッシュフローが正常に保たれ ていない場合は、帳簿上儲けは出ているのにお金が回らなくなり、黒字倒産に追い込ま れてしまうのです。自社のキャッシュフローがどうなっているかを示すのが「キャツシュフロー計算書」 です。具体的には、「営業キャッシュフロー計算書」「投資キャッシュフロー計算書」「財 務キャッシュフロー計算書」の3種を作成するのが一般的です。 「営業キャッシュフロー計算書」は商品の販売やサービスの提供など、日々のビジネス 活動から得たキャッシュを示すもので、その会社の本業が実際に稼いだお金を知るため のもの。 「投資キャッシュフロー計算書」は固定資産の取得や売却など、事業を維持するために 必要な資金を表すもの。 「財務キャッシュフロー計算書」はビジネス活動を続けていくための資金が不足したと きにどのように資金調達を行い、また、返済したかが示されています。 「キャッシュフロー計算書」を見ていると、売掛金とは正体不明、ゴーストといいたい ような数字であることに気づきます。 懸命に営業努力をし、売上を獲得したのに、実際はお金になっていない。売上数字が いくらあっても、回収できていない売掛金はなんの役にも立ちません。売掛金は放っておかないで、断固、取り立てなければいけないのです。 売掛金が回収できないといって相談に見える経営者のなかには、1年以上も放置して いる例もあって、これにはあきれるほかはありません。本気で回収しようとするなら、 支払い期限が過ぎたらすぐ、間髪を入れずにたたみかけないとダメです。 1年以上も支払わないなんていう相手はそうとうにしたたかです。作為的に支払わな い、つまり、できるだけ支払いを延ばそうとしており、不払いの場合のこちらの出方を じつとうかがっている可能性は十分あります。 「初動がすべてを決める!」 神戸。三宮一帯でかなりのシェアを占める貸しビル業や飲食業を営んでいたころ、家 賃の滞納は日常茶飯事。ビジネス展開を図るというより、不払いの家賃回収や飲食業の 売掛金の回収のほうが仕事の多くを占めていたといってもいいくらいでした。 このとき、得た実感が初動の重要性です。 相手はじっとこちらの動きを見ているのです。初動でナメられたら回収できるものも できなくなると考えて、断固、強硬な態度を貫く覚悟で取り立てなければなりません。次に大事なのは「しつこさ」です。毎日でも取り立てに行くこと。私はとにかく毎日 顔を出し、1万円でもいいから取り立てたものです。 債務の確定ができたら、相手の取引銀行支店を調べて、片っ端から差し押さえをする ことも欠かせません。 ここで回収できなかったら、会社がつぶれる! その気持ちを前面に押し出し、何と してでも回収し、キャッシュフローを改善することに全エネルギーを注ぐ。 これが経営者の仕事なのだと割り切って、何よりも真剣に、不退転の決意で売掛金の 回収に全力を注いでください。 ▼売掛金を放っておく経営者なら、会社はつぶれて当然。
会社をつぶさずに、安定した経営ができる社長は 支払いの原理原則を守っている
「私のところは無借金経営で、すべて自己資金でまかなっているんです」と胸を張る経 営者も少なくありません。自己資金が豊かにあって、滞りなく回っている。新たな投資 に回す資金もそれなりにある……。無借金経営という言葉から想像するのは理想的な経 営の姿だといっても過言ではない、と思い込んでいるのでしょう。 これは大きな間違い。私の答えは「借りられるものなら借りておけ!」です。 経営とはお金のやりくりだと述べてきました。そのお金は、はっきりいえば、どんな お金でもいいのです。通常、開業資金や運転資金は銀行など金融機関から融資を受けて まかないます。同じプロジェクトのために複数の銀行から借りてでも、投入資金が大きければ大きいほど大きな勝負ができますし、それだけ大きな成果も見込めます。 次章でふれるように、銀行とのつき合いはなかなかむずかしいところがあります。特 にバブル経済の崩壊後、さらに近年の低金利政策で収益源が細っている銀行業界自身、 経営維持に苦しんでいる事情もあるのか、気概を失い、サラリーマン化した銀行マンが 増えているようにも感じます。 それでも彼らは金融のプロ。経営ノウハウの蓄積や多種多様なビジネスモデルを知っ ているという利点もあります。 しかも、現在は一般的にク金あまり″時代。おまけに金利も最低水準といっていいく らいです。そのため、ここは有望だという会社には必要以上にどんどん貸し付けようと する傾向も見られますが、融資話を受けるか受けないかは、最終的には経営者自身が判 断すればいいのです。 経営状態がよく、無借金なのだから、銀行に融資を申し込めば二つ返事で貸してくれ るだろう。無借金経営者はついこう考えがちです。 実は、銀行は、融資実績のない企業にはめったにお金を貸しません。銀行は、借りて 返した実績を評価するのです。そうした実績がない無借金経営の会社は、財務状態が優良であってもお金は借りられない。 たとえば自然災害で工場が被害を受けたとしましよう。 保険金で工場の再建資金はまかなえますが、営業再開までのつなぎ資金はどうするの でしょう。あわてて銀行に駆け込んでも、銀行はそれまでつき合いがある企業を優先し、 一見さんなど相手にしません。 資金力に乏しい中小企業であればいっそう、無借金経営より借金経営で、銀行と積極 的に、戦略的につき合う。これが中小企業の正しい経営のあり方です。 私の印象では、多くの経営者が銀行とタヘっびり腰″でつき合っている傾向があると 感じています。 融資を上められたらたちまち事業が行き詰まる。だから銀行は怖い。そう思い込み、 多少、手元事情が苦しくなつても、銀行の返済だけは滞らせてはいけないと、ほかの支 払いをストップしても銀行には律儀に返済を最優先するのです。 その結果、どうなるか。ある飲食店チエーンのお話をしましょう。チェーン店を30 店舗ほどにまで広げ、かなりの知名度もあったある飲食店チェーンの ケースです。10年ほど前に創業し、順調に売上が伸びたことから銀行の積極的な支援を 受け、特にここ数年は急ピッチで出店攻勢をかけ、好調な業績でした。 飲食業界は競合店が多いうえに顧客は必ず飽きるのです。行列ができる店と評判だっ たところにその後行ってみると結構すいていたという例は枚挙に暇がありません。 この店も例外ではなく、徐々に客足が落ちてきて、ついに資金繰りが苦しくなってき てしまいました。このとき、経営者は銀行への返済を最優先し、取引先の支払い、さら には税金や従業員の社会保険費用などを滞納するようになつていつたのです。 取引先の支払いが遅れれば、当然、仕入れに支障が出るようになり、毎日の商売に即、 影響が出てきます。税金や社会保険料は滞納すると驚くような高い延滞金が課せられま す。さらに、こうした延滞金があると銀行から新たに融資を受けることはほぼできなく なってしまいます。 税金の滞納には、差し押さえという伝家の宝刀があることも忘れてはいけません。 つまり、支払いにも優先順位があるH¨ 取引先への支払いや税金。社会保険料などがファースト。銀行への支払いは一時的に「ちよっと待ってください」で切り抜ける。 このことを脳裏に刻み込んでおいてください。 先にあげた飲食店は取引先や税金などを滞納してしまった結果、追加融資を断られ、 八方ふさがりになつてしまいました。現在は、まず優先順位の高いところの滞納をクリ アにしたうえで銀行にも理解を求め、経営再建の道を模索中です。 ▼支払いにも優先順位があることを知る。
会社をつぶさずに、安定した経営ができる社長は 人に頭を下げられる。
お金を回す、特に手元資金が足りないときには、 。支払いや返済を待つてほしいと頼む 。お金を貸してほしいと頼む いずれにしても、人にかなりのムリを頼まなければならない状況に追いやられます。 ほかにも、日々、経営にあたっていれば、ちょっとした手違いがあったり、ミスをし たり……。お詫びをしなければならないこともよく起こります。 こうした機会に、誠心誠意のお願いやお詫びであることを態度で示さなければなりま せん。そのために、頭を深々と下げることは当然のことです。
ところが、経営者のなかには、この当然のことができない人が多いのです。 企業規模の大小にかかわらず、経営者はその企業のトップです。ふだんは、あまり人 に頭を下げる立場ではないのでしょう。なかには、「ペコペコ人に頭を下げるのがイヤ だから、起業したのに」という人もいるかもしれません。 もしそうなら、その思惑は完全にハズレです。責任ある立場であればあるほど、真剣 に人に自分の思いを伝えるべきシチュエーションがあるのです。部下のミスも経営トッ プのミスですから、とにかく人に頭を下げることが多い。経営者とはそういう立場であ ることを認識しておくべきでしょう。 私は、本当に、どうしてもそうしてほしいことならば、頭を下げることに抵抗感はな く、自然に頭が下がるものだと思っています。 周囲を見ても、真摯にやりたいことを見つめ、それなりの結果をきちんと出している 人ほど腰が低く、しかるべき状況では礼儀正しく頭を下げています。 頭を下げるというと、土下座を連想する人もいるでしょう。だとしたら、それはテレ ビドラマの見すぎだといいたくなります。土下座シーンなど、選挙運動で劣勢にある候補者や、不祥事を起こした企業の経営者がするパフォーマンス程度で、普通の日々で土 下座をするシーンはまずありません。 最近では、土下座は、謝罪というより、なりふりかまわぬ自己保身のための演技とい うイメージさぇあり、よほど状況が整つていないかぎり、かえって逆効果になってしま う可能性さえあると考えられています。 頭を下げることと並んで、有能な経営者かそうでないかを分けるのは、ダメもとで交 渉できるかどうか、です。 ダメもととは、あまり実現性がないとわかっている依頼ごとでも懸命に交渉し、予想 外の結果を引き出し、ムリを現実に変えてしまうこと。 交渉してみないうちから「いくらなんでもムリだろう」とか「そうできればいいんで すが、できっこないですよね」といい、ダメだと決めつけて何もしない経営者によく出 会います。 しかし、ものごとは実際にやってみなければわかりません。 私が140億円の借金から脱出するときも、思いどおりにいかないことが続出しました。普通ならそこでもうお手上げでしょう。私はそういうときほどダメもとで交渉し、 深々と頭を下げて、誠心誠意お願いし、その結果、窮地を脱出できた。そんなことが何 度もあったものです。 状況から見たらムリだろうと思うようなことでも、あきらめずにダメもとで交渉し、 何度も頭を下げて、ムリを覆して結果を引き出す。こうした底力がある経営者は、どん な状況からでも必ず復活し、最終的には成功に向かっていきます。 ▼人に頭を下げることは誠意を示す行動。 けっして屈辱ではない。
会社をつぶさずに、安定した経営ができる社長は 取引先と ウイン・ウインの関係づくりをする。
法人という言葉がありますが、企業も人も、生きていく原則に大きな違いはありませ ん。人は1人では生きていけません。企業も同じです。 本来、ビジネスは相手がいなければ成り立たないもの。取引先がなければビジネスは 成立しない。この当たり前のことをしっかり理解している経営者は、なぜかあまり多く はありません。 取引先と混同じやすいのが得意先です。取引先と得意先、この2つは広い意味では同 じですが、 一般的には得意先は顧客をさし、収益のもとになる大事な存在です。得意先 を失うことはその企業にとっては致命的なダメージになるため、どの経営者も得意先は非常に大事にしています。 一方、取引先は仕入れ先、製造の依頼先などビジネス・パートナーというべき存在を さしています。販売業なら、取引先からものを仕入れなければ売るべき商品がなく、ビ ジネスができません。製造業や飲食業では、材料の仕入れ先との関係がうまくいかなく なれば、その日から仕事にさしさわりが生じてしまいます。 取引先との関係性を良好に保つことも、経営にとっては営業活動と同じく、非常に大 事なことだと認識していなければなりません。 少し前まで、取引先は下請けと呼ばれたりして、発注企業から高圧的な態度をとられ ることも少なくなかったものです。そのマイナスイメージを嫌うためか、最近は協力企 業というところも増えています。しかし、関係性はあまり変わっていないようです。 協力企業は親会社(発注企業)から、たとえば機械部品などの製作を依頼され、 一定 数を納期までに納入する。発注企業はそうした部品を使って完成品にして市場で販売し たり、より最終工程の企業に納品したりします。 仕事を発注する← 仕事をもらつて製品をつくるなどして納品する、それでお金をもらうという関係からか、往々にして、発注企業が上、取引先は下という力関係だと考え がちなのでしょう。発注企業が強い態度をとり、 一方的に契約条件の改変をもちかけ、 強引により厳しい条件を飲ませる。いまも、取引先とそんなつき合い方をする企業があ るのです。 私が顧間を引き受けている企業のなかにも、大手企業と取引ルートがやっと開けたと 喜んでいたところ、1年ほどたったころから大幅な値引きを要求され、その取引は赤字 に転じてしまった例があります。 それでも、従業員の雇用を守るために、仕事はあるほうがいい、また、次は採算のと れる新規の発注があるかもしれないと期待をもち、下請け企業はその要望を飲み、仕事 を続けていくのです。 しかし、こうした取引を続けていると、下請け企業はやむなく、安い素材を使ったり、 職人を減らしたりするようになり、製品のクオリティは落ち、発注企業の完成品のクオ リティにも影響が出てきます。 下請け企業も適正な利潤が得られる範囲を守つてつき合っていかなければ、結果的に 発注企業も、自らの顧客の信用を失うことになり、共倒れになる。こういうケースはけっして少なくないことを肝に銘じておくべきです。 私は父の興した会社の経営を手伝うようになり、ビジネス社会に足を踏み入れたので、 初めは父の命令に従って仕事をするしかありませんでした。 父は戦後の混乱期にビジネスを興し、 一代で地域ナンバ11に成り上がったこともあ り、ものすごいワンマンでした。自分にも厳しい人でしたが、息子の私にも、さらには 取引相手にも厳しく、強引に値引きをさせることなどよくあったものです。 それを見ていた私は、父を反面教師にして、取引先にも利益が出る、当然、こちらも 利益を得るというウイン・ウインの関係づくりを目指しました。 ウイン・ウインの関係からはお互いの信頼関係、親密な関係が生まれ、共に繁栄に向 かつていけるのです。 真のビジネス・パートナーとは、共に喜びあえる関係、ウイン・ウインの関係でなけ ればなりません。 ▼取引先も自社もどちらも適正な利益が得られる関係性をつくる。
会社をつぶさずに、安定した経営ができる社長は 捨てる勇気をもつ。
1人で、あるいはごく少人数で立ち上げた会社をここまで大きくした……。その達成 感、満足感ははかりしれないものでしょう。あるいは、何代にもわたつて受け継いでき た会社。こうした会社を率いているという誇りも、他人には想像もできないほど大きい ものだと思います。 ところが相談者のなかには、そういう会社でありながら、いえ、そういう会社だから こそ身動きがとれなくなってしまい、どうしたらよいかわからなくなって、私のところ に助けを求めてこられる、そんな方が少なくないのです。 事情を聞かなくても、その理由はわかります。しかし、私は、展開している事業の1つひとつについて、じっくり腰を据えてヒアリングしていきます。人に話すことによっ て、自分が抱えている問題をあらためて整理できることが多いからです。 このヒアリングの結果、ほとんどのケースで、かつては繁栄の基盤であり、その企業 の誇りであったものの、いまでは利益は生んでいない、あるいは赤字をたれ流している ……。つまり、現在ではただの″お荷物クになっており、経営の足を引っ張っているだ けの事業や資産を抱え込んでいることが明るみに出てきます。 経営が順調で、そうしたクお荷物クを背負い続ける余力があるならいいのです。でも、 現状は、身動きがとれなくなるほど追い詰められている。 こうした場合は、なんとしてでもクお荷物クを切っていかなければいけません。 長年、その企業を支えてくれた事業や資産であれば、こだわりがあることもわかりま す。プライドが許さないという気持ち、周囲に対する意地もあるでしょう。 しかし、赤字事業はどんどん切り捨てて会社を健康体に戻し、維持。発展させていく ことが経営者の責務なのだと腹をくくらなければいけません。 事業にもク旬″があり、賞味期限もあります。それが過ぎたものは潔く、ばっさり処分しなければいけないのです。 事業を続けていくためには、賞味期限が過ぎる前に手を打ち、変革・革新を続けてい くことが求められるのです。賞味期限が過ぎた事業を捨てる覚悟と度胸がないようでは 経営者失格です。 私が大きく展開していた不動産賃貸業にヒビが入ったのは、阪神・淡路大震災で40 億 円の損害をこうむったことからでした。経営に問題があったわけではない自然災害。し かし、嘆いているヒマはありません。すぐにでも再生を始めなければ、家族や従業員が 暮らしていくその日のお金にも困ります。 国や自治体もそれなりの優遇措置を講じるなどの手はさしのべるものの、損害からの 再生は最終的にはすべて経営者の肩にかかつてきます。企業を経営していれば、こうし たことも起こり得るのだと痛いほどに思い知らされました。 その再生の過程で私が取った策も″大手術をする″ことでした。事業再生のためにあ らためてチェックしてみると、創業者である父の思い入れや意地で保有していた事業や いまとなつては不要となつた事業もたくさん抱えていることがわかつたのです。
しかし、父は、どれ1つ手放したくない、やめたくないといい張ります。手塩にかけ て育ててきた事業ですから、その気持ちも十分すぎるほどわかります。 でも、そのまま放置していたら、健全経営が成り立っている部門まで不採算部門が侵 食し、最終的には倒産することが目に見えていました。そうなれば一家は破滅です。 そこで、私のやり方に邪魔をするなら「破産申請」を出すといって父を納得させ、思 いきって大ナタをふるいました。そのおかげで、なんとか家族のその後の生活まで破た んするような事態を防ぐことができたのです。 船井総研の小山政彦前会長は「社長の決断で最もむずかしいことは捨てることだ」 といっておられます。逆にいえば、捨てることができて初めて、本物の社長だといえる ということです。 ▼賞味期限切れの事業や資産を捨てるタイミングを見失わない。
会社をつぶさずに、安定した経営ができる社長は借りをつくらない。
「どこかいい取引先を紹介してくださいよ」とか「A社とは懇意にしておられるので しょう。ぜひ、今度、A社の社長にお引き合わせください」というように、人の人脈や 人の得意先に便乗しようとする人は少なくありません。 でも、こうした他力本願的な発想でビジネスを進めていっても成功は望めないと頭に 叩き込んでおいてください。 こうしたやり方は、仮に紹介してもらつたとしても、必ず、″借り″が残ってしまう からです。自分の道は自分で切り拓く。ビジネスでもそれが基本です。 人 生 は 相ネ 見み 互ふ い 紹 介 し た り 紹 介 さ れ た り い わ ば ギ ブ ア ン ド ア イ ク で 成 り立っているといってもよいと思います。 しかし、これまでの経験からいうと、ギブ・アンド・テイクという関係はあんがい成 立しないもの。人には気性や、あるいはその人なりの生き方があるからでしょう。ギブ する人はどんな場合もギブし続けることが多く、反対にテイクする人はテイクばかりを 続けることが多いのです。 「〜してくださいよ」と人を頼る人はテイクの連続。「借りをつくりっぱなし」という ことなのです。社会にはそうした借りにつけ込む人もあり、小さな借りを重ねていくう ちに泥沼にはまって抜け出せなくなり、さらに借りに走った結果、ビルを取られてし まったというような例もいくつも見てきました。 人から何かを頼まれたとき、気軽に動いてくれる人のなかには、相手のためを思って 動いているのではなく、自分の利を計算して動いている人も少なくないことも知ってお きましよう。 すぐに人を頼る相手に対しては、そうした甘い考えにつけいってくるのです。 私の母は「人に借りをつくるんじゃないよ」。「もし、借りをつくったなら、必ず、返すんだよ」と口ぐせのようにいっていました。さらに、「同じつくるなら、貸しをつく る側の人間になるんだよ」とも。 ビジネスのことなど何も知らない母でしたが、母なりの人としての真実を伝える人生 観は、ビジネスにも通じるものだったのです。 これまで多くの経営者と出会ってきましたが、借りをつくって成功した経営者は見た ことがありません。 反対に、貸しをつくっておきながら、相手に何かを要求することもなく、淡々として いる……。そういう経営者はほとんどがビジネスを成功させています。同じつくるなら、 貸しをつくる人になる。それも、何かを要求するわけではなく、相手のために役立つこ とに喜びを感じる。そういう経営者の前には、自ずと成功への道が拓けていくものです。 ▼借りはつくるな。 つくるなら貸しをつくれ!
会社をつぶさずに、安定した経営ができる社長は 個人資金を会社の経営に注ぎ込まな観
「私の会社は……」「私の会社の場合ではですね……」という言葉が口ぐせになってい る方がよくいます。自分が起業し、ここまで苦労して育てた会社はわが子同然。「私が ……」「私が……」と連発したくなる気持ちもよくわかります。 そうした経営者がよくやりがちなのが、経営が苦しくなると、自分の個人的な資金を 会社の資金不足の穴埋めに使い、当面の帳尻を合わせることです。 企業経営を志すならば、これは絶対にやってはいけないことだということを、まず、 しっかり頭に入れておいてください。 いわゆるパパママストアならば、経営者の家の買い物のお金をちょっと借りるだけだ とレジからもち出したり、反対に、取引先が集金に来たようなとき、足りない分を経営者の個人的な財布から支払ったりすることもあるかもしれません。しかし、仮にも会社 を経営している以上、こうした公私混同は絶対に避けなければいけません。 会社の経営はあくまでも会社のお金でまかなうものです。資金繰りがショートし、支 払いに困るときは、しかるべきステップを踏んで金融機関から融資を受けて支払いをす るのが妥当です。 そんなことくらいわかっている。でも、銀行から融資を受けるまでには時間がかかる。 窮余の一策で今回だけ、つなぎ資金に個人資産を切り崩したのだ。たいていの経営者は こう釈明します。 ところが、ものごとはたいてい、1度が2度になり、2度が3度になり、気がつくと それが常態化してしまっている……、ということになっていくものです。 最初の一歩を踏みとどまれるかどうか。ここで勝負が決まります。 銀行の返済に困って、これまで懸命に仕事をし、蓄えてきた預貯金や先祖代々の資産 を売却して、懸命に返済していく。気がついたら、預貯金は底をつき、代々の資産も人 手に渡ってしまった……。こうなるともう後の手はありません。担保にするものがなくなつてしまったのですか ら銀行もあっさり見限り、去っていくでしょう。再生しようにももはや、どこからも資 金調達ができません。 私が莫大な負債を抱えてしまったとき、最初にしたことは家族を集め、何がなんでも 会社を再生する、といい渡したことでした。三條コーポレーションは売上規模30 億円程 度でした。実態は父が社長、息子である私などが役員に顔を並べる典型的な家族経営企 業でした。ですから、何よりも家族の結束が大事だったのです。 同時に、家族のお金を差し出すことの愚を説き、そうした資金があれば、返済を終え て、再生への一歩を踏み出すときに使おうと話し合いました。 個人資金を会社に投入することは自爆テ回、いや、特攻隊と同じだと私はよくお話し しています。突っ込んでいった結果、経営者の家庭も会社も、皆、なくなってしまって、 それで終わり。 そこまで覚悟ができているなら、事業を縮小したり、会社の不採算部門を切り売りし たりするなど、延命策はまだきっとあるはずです。個人の資産は、万一、会社が倒れてしまった場合を想定し、その再生資金に使うよう にすべきです。 同様の意味で、社長が経理部長を兼ねることも企業発展を妨げる大きなネックになる ものです。社長と経理部長ではおのずとなすべき仕事が異なります。 中小企業の生命線は資金繰りです。しかし、日々の資金繰りや経理処理を社長自らが やっているようでは、会社の発展は望めません。 社長が会社の数字をチェックすることが大事だと前述しましたが、社長には社長の仕 事があることをもっとシビアに自覚してほしいのです。 社長は、会社全体を見回すこと。さらには3年後、5年後という将来の発展計画をつ くること。それを実現するための資金調達など、未来形の仕事に力を注ぎ、会社全体を 引っ張つていくことに全力を注いでください。 ▼経営資金に個人の資金投入を、という思いがちらついたら赤信号。
会社をつぶさずに、安定した経営ができる社長は 子どもに会社を残すことにこだわらなL
自分が立ち上げた企業を息子など次代に継承させ、何代も続けていく。これは創業社 長なら誰でも見る夢でしょう。 世界的に見ても、日本の老舗企業の数の多さは圧倒的です。2008年に韓国銀行 がまとめた報告書によると、創業200年以上の歴史をもつ世界の5586社のうち 3146社は日本の企業で、実に全体の56%を占めています。うち、上場企業は469 社。東証1部にかぎつても322社もあるそうです(″8ao〓3 2012年)。 残念ながら2005年に破産してしまいましたが、それまで日本最古だったのは寺社 建築を手がける「金剛組」。578年、聖徳太子によって百済から招かれた宮大工によっ て始められた企業だというのですから、絶句してしまいます。ちなみに、現在、日本最古の企業は705年創業の山梨・西山温泉の旅館「慶雲館」です。 なぜ、日本企業には老舗企業が多いのでしょうか。日本の企業は家族的経営が多く、 血縁を大事にして次代に継承していく傾向が強いからだと、私は考えています。 最近は、事業を継承していくことそれ自体が非常にむずかしい時代になっているとつ くづく感じます。少子高齢化の影響がじわじわと日本の経済基盤そのものにおよんでき て、あらゆる業界のパイが急激に縮小してきているからです。 私のところにも、売上が減少し、利益も圧縮されてきている。将来に明るい希望はも ちにくいが、それでも息子や娘に事業を継いでもらいたい。でも、苦しいことがわかっ ていて継がせていいものかどうかと苦慮している経営者が次々、相談にこられます。 こうしたとき、私が出す答えは「NO」です。 だからといって全否定ではありません。企業は継承しないが、事業は引き継いでいく。 そういう方向を探ったらどうでしょう、と提案しています。 古きよき時代の置き土産のような、借金つきの企業を継いでくれ、といわれれば、子どもも戸惑うばかりでしょう。苦しい経営を引き継げば、ほとんどの場合、継承した子 どもはさらに苦しい経営を強いられることになります。 こうした場合には、思いきりよく企業継承はあきらめたほうがいい、いや、あきらめ るべきだと私は断言しています。 すると、多くの経営者は、「○○地方では古くからの名門として名前を知られている のに、そんなことはみっともなくてできない」とか「代々の経営者に顔が立たない」な どと見栄や体裁をもち出してくるのです。 代々続いてきた会社だから見栄がある、体裁が悪い、だからやめられないという理屈 は通りません。すでに行き詰まり感が出て、赤字に転落しているようなら、代替わりを 考えるタイミングに、企業を収束する方向に向けて検討を始めるべきでしょう。 そのかわり、それまでの企業経営の核になっていた事業、コアコンピタンス(競合他 社を圧倒的に上回る事業)をしっかり残し、それをさらに磨き上げていくのです。つま り、将来性が見込める事業に経営資源を集約し、次世代に継承させていく方向を選択す るということです。
「息子が後を継ごうとしない」「後継者がいない」と泣き言をいう経営者が増えていま すが、こうして見込みのある事業を核に新会社をつくれば、新会社は借金ゼロからのス タート。身軽な状態でスタートを切ればフットワークも軽く、有望市場で先頭をきつて 進んでいけるのです。息子さんなど後継者も将来に希望を感じて、考えを変える可能性 はけっして小さくないでしよう。 その一方で、負債を抱えた企業のほうは、思いきって清算します。ウミを出し、血を 流すこともあるでしょうが、少なくとも現在以上に状態が悪化し、すべてを失うよりは ずっとよい結果が得られるはずです。 何よりも、事業を継承した次世代は明るい希望をもって、新たな事業に挑んでいくこ とができるのです。次の世代を思うなら、こうした道を用意し、新たな挑戦に送り出し てあげるのが親心。先代社長のやるべきことではないでしょうか。 ▼企業を継承させるのではなく、事業を継承させる。 L
会社をつぶさずに、安定した経営ができる社長は 会社のやめどきを視野に入れてじる
なんでも始めることよりも、やめることのほうがむずかしいものです。始めるときに は永遠に発展していき、次代、次々代へと引き継いで、自分がつくった企業は永遠に光 り輝いていくのだと、果てしない夢を描いています。 しかし、世の中、そううまくはいかないものですし、時代の変遷という、どうにもな らない要素もあります。 夢ばかり見て現実を見ようとしないまま、突っ走っていってしまうと、気がついたと きには進むこともできず、引き返すこともできない。にっちもさっちも行かずただおろ おろしているうちに、何もかも失ってしまうという最悪の事態を迎える経営者が少なく ないのです。
繁栄、発展を目指してがんばるのが経営のすべてだと考えている人は多いでしようが、 同時に、どういう状態になったらやめるかを考えておく。これも経営の要諦であること を頭に入れておくべきです。 私は、これから起業するといって相談にこられた方にも、やめるときのことも視野に 入れておくように、とアドバイスすることを忘れません。 「鹿を追うものは山を見ず」という言葉があるように、日先の利益だけを見つめて経営 にあたつていると、それ以外のことが見えなくなってしまい、はっと気がついたときに はとんでもない事態になっていることがあります。 たとえば、バブル経済の華やかな時代を経験しており、苦労らしい苦労をしなくても 事業が発展していき、大いに儲かる時代を経験してきた経営者のなかには、すでに20 年 以上も景気の低迷が続いているというのに、まだ、夢の名残りのなかを漂っている人が いるのです。 すでに赤字経営に転落してから数年たつというのに、バブル時代に蓄えた資金や資産 を切り崩しながら、ただ月々、しのいでいるだけ。この先、どうしたらいいのか、展望を立てようとさえしないのです。 いよいよ行き詰まってから、「なんとかできないか」と駆け込んできても、できないも のはできないとしかお答えできません。経営アドバイザーは魔法使いではないのです。 それでも、たとえば、業種を変えては?・業態を変えてみては?・と助言すると、「も ういい年なので、いまさら商売を変えることなんかできません」とはねつける。 現状では赤字が累積していくだけなので、いっそ会社をたたんで、人生の残りの日々 を静かに暮らしたらというと、すでに蓄えは使い果たし、借金を返すあてもない。自宅 も担保に入っていて、会社をやめたら、住む家までなくなってしまう、とこれもダメ、 あれもダメとただ泣きつくだけ。 せめてもう1〜2年前なら自己資金に多少の余裕もあり、会社をやめても自宅までな くなることはなかったでしょう。 こうしたケースを見るたびに、やめどきがいかに大事であるか、を痛感します。 事業不振の兆しがひたひたと感じられるようになり、銀行の態度も微妙に冷ややかに なつてきた。そこでついに虎の子の自己資金を投入せざるを得なくなった……。こうなったら、キリのつけどきを考えなければいけないと覚悟すべきです。 赤字経営におちいってしまったのに、そのうちなんとかなるとタカをくくっているの が一番怖く、 一番愚かな選択です。事業が傾いたら深追いしないで、なんとしてもその 後の家族の暮らしを守る。これを第一に、やめどきを考えるべきです。 経営者もまた1人の人間です。自分の残りの人生、家族の人生を守る、その余力が残っ ている間に撤退すれば、必ず、新たな生き方へ導かれるはずです。 相談者の多くの事例から、撤退後の資金はなんらかの形で再起できる最低限の資金を 残しておきたいと私は考えています。逆にいえば、留保金がそれ以下になる前に手じま いすべきだということです。再スタートするにも資金が必要だからです。 ちなみに、三菱商事では、各事業について「3期連続で赤字になったら撤退候補とし、 続行かどうかの審議を始める」、これを明確な基準にしているそうです。天下の三菱商事 でさえも、赤字のたれ流しを続けることは事業としての死に通じる、と考えているのです。 ▼致命傷を負いたくないなら、初めからやめどきを決めておく。
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