MENU

短期間で組織が変わる 行動科学マネジメント

はじめに

人間は、どんな人であっても本人が望むものを得ようと行動し、自分が望まないものを避けようと行動している。

たとえそれが、生まれたての乳児であっても、すでに一人前の大人であっても、生まれた家柄、職業、趣味、年齢、老若男女、国籍に関係なく、行動表現の差こそあれ、本人が望むものを求めて行動し、本人が望まないものを避けて行動しているのである。

さらにそれは個人の些細な出来事から、歴史を左右する国家の重大な出来事にいたるまで等しく、当事者の望むものを得ようとする行動と望まないものを避けようとする行動の表れに他ならない。

そもそも、ビジネスに携わるパフォーマーたちの望むものは一体何か?望まないものは何か?人間の行動に焦点を当て、行動を分析することにより、望む行動を自発的に行うマネジメントノウハウとして体系化されたのが行動分析を応用したマネジメントである。

日本向けにアレンジして導入するまで約五年の歳月を費やし、このたび書籍の形で広く公開する運びとなった。

アメリカで誕生したメソッドだけに、日本の国民性になじまない点が多々あり、その修正作業はきわめて困難であった。

オリジナル開発者である米ADI社の理解と全面協力、さらには日本で活躍中の研究者各位からのアドバイスをもとに試行錯誤を重ね、ようやく日本版の完成にこぎつけた。

アレンジの過程では実践を通じて慎重に効果を確認し、これによってオリジナルメソッドに勝るとも劣らない実用的メソッドを作り上げることができたと自負している。

行動分析は人間の行動原理に基づいた科学的手法である。企業規模の大小にかかわらず、あらゆる業種業態に応用が可能だ。

日本初の一般向け解説書となる本書ではその全貌を明らかにしていく。今後、わが国の人材マネジメントは大きく様変わりするに違いない。

行動分析は今までにないメソッドとしてビジネス界で脚光を浴びつつある。あなたの職場においてもこの新しい手法をぜひ取り入れていただきたい。

すべての社員が企業が望む行動を自発的に行動し始めることをお約束する。特別な知識や技術は必要ない。いつ・どこで・誰が実践しても同等の効果が得られるはずだ。

それは、このメソッドが科学そのものだからである。

まだまだ発展途上のノウハウではあるが、すでに数多くの先進的な企業が導入し、マネジメント上の問題を解決してきた。その挑戦はこれからも続くだろう。

あなたも分析を身につけ、驚くべき効果を手にしてほしいと切に願う次第である。

ウィルPMインターナショナル代表石田淳

目次

序章日本の経営システムを変える

二〇〇六年三月、アメリカのADI社を訪問した。ここは私の提唱している行動分析に基づくマネジメントの母体となったメソッドを開発した会社である。

経営陣と話しているとき、日本におけるマネジメントの話題が出た。

多くの企業が成果主義や雇用の流動性といったアメリカ型の手法を取り入れている現状を説明すると、案の定、彼らは大笑いした。

「どうして日本人はいいものを捨てたんだ?」説明しなければお分かりいただけないかもしれない。

話は一九七〇年代にさかのぼる。当時、アメリカ企業は日本企業に押しまくられていた。自動車、鉄鋼、機械をはじめとするさまざまな分野で日本企業が躍進し、シェアをごっそり奪われたのである。

メーカーは次々と倒産し、町には失業者があふれ、貿易不均衡によって反日感情が高まっていた。

経営者たちはなぜ日本に負けたのかを考え、その力の源が強固なチームワークにあることを見抜いた。そこで日本型マネジメントを徹底的に研究したのである。

個人主義の国であるアメリカでは、極論すれば「自分さえよければいい」という風潮が強い。

ところが日本人は違う。会社に忠誠を誓い、上司に尽くし、部下をかわいがり、同僚を大切にする。周囲との衝突を避けるためなら自分の利益を捨てることさえいとわない。

日本人のチームワークの基盤にあるものは人間関係だ。当然、マネジメントもこの人間関係の上に成り立っていた。アメリカとは正反対である。

当時のアメリカ企業は、上から押しつけることがマネジメントだと考えていた。「Doit.(やれ)」「Yes,sir.(承知しました)」こんなやりとりに象徴される軍隊型マネジメントである。

部下が意見を言おうとしても決して耳を貸さない。

貸す必要もないと考えられていた。歴史的に移民が多い上、個人主義が浸透している社会だから、そうせざるを得なかったのかもしれない。

とにかくやれ。それがお前の仕事だ。上司は命令することで部下たちを統率していた。

「Dotherightthing.(正しいことをやれ)」というのも上司の決まり文句であった。具体的な説明もせず、とにかくやれと尻を叩くばかりだ。

これではやる気を出すほうがどうかしている。日本企業とのあまりの違いに、経営者の多くがショックを受けた。こうした反省から生まれたのが行動分析の考え方である。

日本型マネジメントのいいところを取り入れ、人間関係を構築し、社員が進んで働こうとする環境を整えた。およそ十年をかけてアメリカ企業は一変した。上司は真正面から部下と向き合うようになり、真剣に話を聞いてやる。

部下は上司に親しみを抱き、同僚は認め合い、協力し合い、誰もが自発的に働き始めた。

ついに日本型のチームワークを作り上げてしまったのである。そのころ、日本企業が「アメリカ型マネジメントがいい」と言い始めた。

バブル崩壊と長期不況によって経営に行き詰まった各社は、いわゆる成果主義、能力主義を取り入れたのだ。

それは、かつてアメリカ企業で一般的だった個人主義的マネジメントと同じものである。

日本企業に敗れた原因として彼らが捨て去ったものを、われわれは必死になって学ぼうとしている。ADI社の幹部が笑ったのも無理はない。

彼らは日本型マネジメントを心から尊敬しているのである。近年、日本企業は目先の利益ばかり追求するようになった。それは明らかに、古いタイプのアメリカ型マネジメントを導入した結果である。

長期不況に苦しめられたせいもあって自信を喪失し、これぞ救世主とばかりにこぞって成果主義を取り入れた。その結果が現在の日米格差なのである。

アメリカ企業が人間関係を重視するようになった一方、日本人は人間関係を断ち切るマネジメントを取り入れてしまった。

古いアメリカ型マネジメントに目を奪われ、物事の本質が見えなくなっている。

日本型マネジメントにもいいところがたくさんあった。

代表的な例が人間関係の醸成である。前述したように、上下関係もヨコの関係も良好だった。

目標が示されると、この人間関係がものを言って有機的なチームワークを発揮し、目標達成に向かってがむしゃらに邁進した。この強みを自ら捨て去った日本企業に、昔日の勢いはない。

アメリカ社会は個人主義、利益追求といったイメージで語られることが多いが、今やビジネスの現場では必ずしもそうではない。

業績を伸ばしている企業を訪れると、まず例外なく職場の人間関係を重視している。そしてそれが理想的なチームワークを生み出している。まるで以前の日本企業のように。

私がこのメソッドに着目したのは、自社のマネジメントに失敗したことがきっかけだった。

会社が急成長を遂げ、まとまった数の新人を採用したまではよかったが、彼らを十分に活用するマネジメントができなかったのである。

私は、会社を複数経営しているが、1社目を立ち上げたとき人材育成の壁にぶつかった。集客には以前から実績があり、それなりに自信を持っていた。問題は、教室を任せる人材の育成が追いつかないことだった。

これはかなり深刻な問題で、マネジメント戦略を根本から考え直さざるを得なかった。さまざまなマネジメント手法を勉強した。

高価なセミナーも受講したし、マネジメント本も手当たり次第に読んだ。しかしどれ一つとして私の抱える問題を解決してくれず、ことごとく失敗に終わった。

新人たちはいっせいに社を去ってしまった。大規模なシステム構築を検討したこともあるが、莫大な費用を要するため、当時の体力では支払いが困難だった。

今思うと、やらなくて正解だったのだが。米ADI社の理論に出会ったのはそんなときである。

廃業を考えるほど追い詰められていた私は、最後のチャンスのつもりでこのメソッドを学んだ。「行動に焦点を当てる」という明確な理論に触れ、目からうろこが落ちる思いがしたものである。

帰国と同時に自社のマネジメントとして導入し、残った社員たちとともに一から出直した。行動分析によるマネジメントは期待以上の効果をもたらしてくれた。

行動の分解、チェックリストの作成、ポイントカードによる評価システムなどによって社員たちは再び一丸となり、やる気を出し始めた。

ただ、改革を進めていくにつれてうまくいかない部分が出てきたのも事実だ。アメリカ人の手で体系化されたメソッドだから、日本人の感覚に合わない部分も多々ある。

私は独自の手法を並行して取り入れることにした。「合宿」や「個別分析シート」などである。結論を言うと、日本型の手法を併用したことが社員の企業活動やチームワークを高めるのに非常に役立った。

これらに自社で実践を続けながら改良を重ね、ついに決定版と呼べるものを確立した。

米国の理論の基本を踏まえつつ、同時に日本向けの手法を実践することで、わが社のマネジメントは日本一のレベルに達したと自負している。

これによって五年間で事業規模を十倍に拡大することができた。私が日本型マネジメントを融合させたように、どのようなメソッドも行動分析と両立させることができる。

たとえば心理学系、叱る、褒めるなどといったコーチング、日本型の飲みニケーションなど、ありとあらゆるマネジメントメソッドとの融合が可能だ。

私自身、飲みニケーションを取り入れているが、違和感を覚えたことは一度もない。これが何を意味するかといえば、導入企業に負担をかけないで済むのである。

通常、新しいマネジメント手法を導入するときには以前のメソッドを切り捨てる必要がある。社員は新しいメソッドに合わせることを強要され、従来の方法を否定しなければならない。

それは社員にストレスと不信感を与え、企業文化を破壊してしまう。行動分析を導入するときにそうした心配は不要だ。

いかなるメソッドもカスタマイズされるため、自社に合った形でそのまま使うことができる。もう一つの特徴として、人間の行動に焦点を当てていることが挙げられる。

一般的なマネジメント手法においては、結果だけを見ようとする。これは一見すると正しいように思えるが、大きな間違いである。

結果は行動の連続によって生まれるものだからだ。結果を変えるには、そこに至る行動を変えなければならない。行動分析は結果だけでなく、結果を生むプロセス、すなわち行動にも目を向ける。

行動を分解し、結果に直結するピンポイントとなる行動を見つけて重点的に繰り返す。

その効果を測定し、自発的に繰り返すようにリインフォース(強化)し、測定した行動数値を自分にフィードバックして実行率を維持する。

一連の流れを見ると、人間の行動原理に基づいた理想的なメソッドであることがよく分かる。

従来のマネジメント手法になかった「行動に焦点を当て効果を測定できる」という考え方が、いかなる人に対しても成長と継続をもたらすだろう。

トップ社員からアベレージ以下の社員まで、あらゆるレベルの人々に対応する究極のマネジメント手法である。行動分析は、人材マネジメントだけでなくセルフマネジメントにも使える。

自己管理を苦手とする人は多いが、なぜうまくいかないかを説明できる人は少ないと思う。

「意志が弱い」の一言で片付ける前に、長続きしない理由を考えてみよう。行動分析で考えると、セルフマネジメントが続かない理由はきわめて明快だ。続けるべき行動をリインフォースしていないからである。

リインフォースの概念については本文で詳しく述べるが、人間は行動をリインフォースされると、その行動を繰り返すようになるという法則がある。リインフォースされないと、じきにその行動をしなくなる。

行動心理学の一分野である行動分析学の実験データから明らかになったこの法則に例外はないに等しい。

リインフォースの中で最も簡単なのは、言葉や態度によって褒めることだ。

そのほかさまざまな手法が用意されている。セルフマネジメントに応用する場合、自分へのごほうびを設定してリインフォースするとよい。

時間管理や行動管理はもちろん、ダイエット、英語の学習、禁煙など、あらゆるセルフマネジメントが実現・継続できるようになるだろう。

三日坊主で終わるのは意志が弱いせいではない。リインフォースされるかどうかが鍵になる。

禁煙のしかたは誰でも知っている。タバコを吸わなければいい。ダイエットの方法も分かりきっている。摂取カロリーを減らし、運動すればいい。

こんな簡単なことがどうして続かないかというと、それはリインフォースする仕組みがないからなのである。

日本の労働力人口は減少へと向かっている。少子高齢化が進み、日本人の数はついに減少に転じた。

また、ニート人口は約六十四万人(〇五年版労働白書による)に達しており、一五年には百万人の大台を突破するとの試算もある。

一方、〇七年からは団塊の世代の大量退職が始まる。労働力人口の八%を占める彼らが数年のうちに一斉退職すると、日本の国力は確実に落ちる。今後もこの傾向が続くとすれば、必然的に労働市場を海外に開放せざるを得なくなるだろう。

外国人労働者を大量に受け入れたとき、今のようなマネジメントを続けていたらどうなるか。国籍や文化が違えば人間関係はますます希薄になる。今までのように阿吽の呼吸は通用しなくなる。下手をすると、かつての八〇年代のアメリカ企業と同じ過ちを繰り返すことになりかねない。

日本企業は今こそ人間関係重視に回帰するべきなのである。

しかし、すでに若い人たちの意識が大きく変化しているから、もはやこれまでの日本型マネジメントは通用しないであろう。

いわゆる「飲みニケーション」だけでは部下との人間関係を作れない。

以心伝心、滅私奉公といった日本人のお家芸も急速に失われつつある。

こんな時代に職場の人間関係を作るには、人間の行動原理に合致した科学的メソッドを導入する必要性があると考える。

そのようなマネジメントシステムを確立し、国際競争力を回復することが日本社会の急務である。

行動分析は人間の行動に焦点を当てているため、ビジネスの分野はもちろん、教育現場や一般家庭においてもめざましい効果を表す。労働意欲とともに学習意欲をも高めるからである。

民間企業だけでなく、セルフマネジメントや家族のコミュニケーションにも応用できる。人間のあらゆる行動を変え、望ましい結果を得られる驚異のマネジメント手法なのである。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次