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特別付録組織変革のための人間心理を徹底的に考え抜く「源泉」となるもの

目次

特別付録組織変革のための人間心理を徹底的に考え抜く「源泉」となるもの

会社を強くする「仕組み・制度・施策」を考え、実行するうえでもっとも大切なのは、「人の気持ちを考え抜く」ことである。

人の気持ちを大事にしない、人の気持ちを察しようと思わない人に、人はついていくだろうか。

経営者の中には、人の気持ちを感じ取るアンテナの感度が良くない人もいる。

ただ、そういう人は自分の弱点を自覚していて、人の気持ちがわかる右腕を組織に配置して対処しているケースが多い。

人間心理を理解しようとする人が誰もいない会社でも、一時の成功を収めることは可能だろう。

しかし長期的に、大きく、しかも強くなることは、果たして可能だろうか。

人は感情の生き物である。

嫌になると去っていく。

そうなれば、どんなに経験を積んでも、育成しても、社内に知恵やノウハウが蓄積されないのだ。

また、同じ100人でも、モチベーションの高い100人の集団と、モチベーションの低い100人の集団では、同じ人数でもパフォーマンスは、まったく異なる。

どちらが「強い会社」かは、おのずと明白だ。

それゆえ「仕組み・制度・施策」も、人の気持ちを無視して構築したら機能しない。

この「特別付録」では、「人間心理を考え抜いた組織戦略」を生み出す源泉となるものを掘り下げていく。

とくに実践で活用できる汎用性の高いものを、心理学に私の見解を交えて紹介する。

組織変革には「フォロワーシップ」が欠かせない──組織競争力の源泉1

「リーダーシップ」という言葉は、よく使われる。

「リーダー」とは、メンバーを自発的に動かす影響力があり、目的地を示し、メンバーの気持ちをそろえて、同じ方向へ導く役割を担える人だ。

リーダーが「リーダーシップ」を発揮するためには、当然「フォロワー」が必要となる。

この「フォロワー」の存在とその質が、組織がスムーズに動くかどうかのカギになる。

「フォロワーシップ」とは、リーダーを自主的な判断や行動でフォローし、チームの成果を最大化する力のことだ。

これは「リーダーシップ」の一形態である。

この「フォロワーシップ」を意識した組織づくりをすると、組織が円滑に回りやすくなる。

カーネギーメロン大学のロバート・ケリー氏は著書『指導力革命』で、「フォロワーシップ」の重要性を説いている。

その中では、組織の成功に対するリーダーの貢献度は10~20パーセントにすぎず、残りの80~90パーセントは「フォロワーシップ」による人的要因によるものであるとされ、「リーダーシップ」とともに「フォロワーシップ」の重要性を指摘している。

さらにケリー氏はこうも伝えている。

「フォロワー」には、組織への「貢献力(積極的関与)」と上司への「提案力(批判的思考:criticalthinking)」が求められる。

「貢献力」とは、リーダーの指示を受け入れて、組織運営に積極的に関与し貢献しようとする意識や行動のことだ。

「提案力」とは、リーダーの指示を自分なりに検証し、ときには建設的な批判をし、革新的で創造的な意見を、必要な際に上司にきちんと伝えようとする意識や行動のことである。

ここで、ケリー氏による「フォロワー」のタイプ別の特徴を紹介したい。

模範的フォロワー特徴は、「独自のクリティカル・シンキングを持ち、リーダーやグループを見極め、自主的に行動することができる」「知力をふくむ、あらゆる才能を組織やリーダーに捧げ、ときにはリーダーの職務を補い、上司の困難な仕事を引き受けたりすることもできる」人だ。

他人からは、「独立心が旺盛で、独自の考えを持ち、革新的かつ独創的で、建設的な批判ができ、リーダーにものおじせずに接することができる人」「守備範囲以上の仕事をこなす人」と思われている。

「貢献力」も「提案力」も兼ね備え、勇気ある良心も持っている人は、リーダーや組織にとって貴重な人材だ。

リーダーが1人では達成しえないことでも、協力し合って達成に導ける。

実務型フォロワー特徴は、「仕事を遂行するために、組織をどう動かしたらいいか承知している」「バランスのとれた見方をする」「組織が極端に走ることがないよう、中道を行く」という自己イメージを持っていることが多い。

他人からは、「自分自身の利益を最大に活かそうと駆け引きしている」「危険を嫌い、失敗したときの逃げ道を用意している」「まあまあの情熱、月並みな手腕で業務をこなす」「要求された仕事はこなすが、要求以上の冒険を冒すことはしない」人だと思われている。

このような人は、「一貫性のない命令と計画により、不確実かつ不安定な環境」「上司と部下との関係が冷ややかな環境」「規則や基準に従うことが求められている環境」で働いていることが多い。

孤立型フォロワー特徴は、「自立した考えを持つ一匹狼」や「組織の良心である」「弱小派の味方である」といった自己イメージを持っているケースが多い。

他人からは、「問題児・シニカル・ネガティブ」「不満分子(理由なき反抗)」「頑固で判断力に欠ける人」「チームプレイヤー向きではない人」と見られている。

このような人は、リーダーや組織に対して、「才能やアイデアを十分理解してくれないし、利用してもくれない」「自分は何の得もなく、組織、リーダーに利用されている」「自分をふくめ人の扱いが公明正大ではない」のような不満を抱いている。

期待が満たされなかったり、裏切られたと感じる経験などから信頼関係がなくなったことが原因になっているケースが多い。

順応型フォロワー特徴は、「気安く仕事を引き受け、喜んでこなす」「チームプレイヤー」「リーダーや組織を信頼し、身を委ねている」「摩擦を最小限に抑えている」という自己イメージを持っている。

他人からは、「自分の意見に欠ける」「こびへつらい自分を卑下する」「グループともども崖から落ちる危険にさらされているときでも摩擦を嫌う」人と思われており、本当は「ノ─」といいたいのに「イエス」といってしまう人と見られている。

このような人は、「結果よりも、既定の命令に従うことが重要である」「いばり散らすリーダーやそのような社風がまかり通っている」「管理責任者と意見が合わなかったり、波風を立てたりすると罰せられる」というような環境で働いていることが多い。

消極的フォロワー特徴は、「リーダーの判断や考えに頼るべきだ」「上司が指示を出したときだけ行動を起こすべきだ」「面倒な問題は、それなりに報酬をもらっている人にまかせるべきだ」と思っている。

他人からは、「勤務時間に仕事に来ているだけで、何もしていない」「ノルマをこなしていない」「必要以上に仕事に監督が必要だ」と思われている。

「仕事に対する熱意はゼロで、与えられた仕事は指示がなければできないし、自分の分担を超えるような危険は冒さない」人だと思われている。

このような人は、「組織は、あなたのアイデアを必要としていない」「リーダーは、自分たちの意のままにやろうとしている」「努力や貢献をしても、どうなるものでもない」と思い込んでいる場合が多い。

フォロワーをタイプごとに紹介したが、「模範的フォロワー」以外の各タイプは、リーダーとしての役割を担う経営陣や管理職、マネジャーがつくり出す環境が生み出している可能性がある。

もちろん、フォロワーとなる個人のキャラクターによる場合も多いが、たとえば、組織に大きなマイナスの影響を与える「孤立型フォロワー」の場合は、上司や会社と信頼関係が築けていれば、「模範的フォロワー」になっていてもおかしくない。

優秀であればあるほど、上司に対する期待も大きいので、裏切られた感じも大きく抱いてしまい、「孤立型フォロワー」に移行してしまった可能性も高いのだ。

だからこそ、意識的に「模範的フォロワー」であり続けてもらうためのこまめなケアが必要だったのだ。

組織に貢献する側になるか、組織の一体感を阻害する側になるかは、どこかでボタンのかけ違いがあったのかもしれない。

まさに、紙一重の違いだったのかもしれないのだ。

リーダーには、職場の雰囲気や自分とメンバーとの関係に常に気を配り、「模範的フォロワー」を生み出し、維持するための環境をつくっていくことが求められる。

リーダーの役割を担う人は、必ず「模範的フォロワー」をつくったほうが良い。

1人のリーダーに、2人以上の「模範的フォロワー」がいれば、組織運営はかなりやりやすくなる。

たとえば、リーダーが会議で新しい方針を発表した際には、「模範的フォロワー」が、その方針を受けた実行策を自分の言葉で語ってくれる。

その方針に対して、まだ半信半疑のメンバーがいると思えば、「模範的フォロワー」が会議終了後にそのメンバーに近づいて、自分の言葉でリーダーの意図を説明してくれる。

リーダーがメンバーを叱った際には、「模範的フォロワー」が、そのメンバーに対してさりげなくリーダーが叱った意図やそのメンバーへの期待が大きいからこその行動であることを説明してくれる。

このような、阿吽の役割分担ができれば、組織は円滑に回りやすくなる。

リクルートでは、社内の位置付けである等級や、年長者、その職務の経験数などを総合的に判断し、各課のメンバーの中の筆頭の存在を「ゼロ1」、その次を「ゼロ2」と呼んでいた。

この「ゼロ1」「ゼロ2」が、課長であるマネジャーをフォローする役割なのだ。

それが公式なルールのようになっていた。

だから、「ゼロ1」と「ゼロ2」は、必死に「模範的フォロワー」の役割を果たそうと努力するのだ。

マネジャーは、この「ゼロ1」と「ゼロ2」を、組織運営におけるパートナーのように扱うので、この2人にとっても、おのずとマネジメントの勉強になり、マネジャーになるための訓練をしているのと似た効果が生まれる。

一般的な企業では、係長やそれに準ずる役割を担う人がこれにあたるのかもしれない。

非公式にフォロワーをつくっても良いし、公式に任命しても良いので、「模範的フォロワー」を意図してつくることが重要になる。

ただし、個人のキャラクターや能力的に「模範的フォロワー」になりえないこともあるので、よく見極めることが大事だ。

このフォロワーに関する話で大切なのは、「フォロワーシップ」の連鎖こそが組織力の要となるということ。

そして経営トップ以外、どの役職にも、必ずフォロワーとしての役割があるということを強烈に意識させることだ。

各組織を任された人は、マネジメントを行うリーダーの役割と、その上司を支えるフォロワーの役割がある。

必ずその上の組織長の「模範的フォロワー」の役割を果たす。

そうすれば、組織の縦の関係はうまくいく。

多くのマネジメント研修では、管理的要素のマネジメントや、リーダーとしての役割についての内容は盛り込まれているが、上司を「模範的なフォロワー」として支える役割としての意識と行動を教えることは少ない。

リーダーを活かすのは、「模範的フォロワー」であり、「フォロワーシップ」こそ組織運営の中軸なのである。

あなたがリーダー的な役割を担うのであれば、自分を支えてくれる「模範的フォロワー」は誰なのかを認識して組織運営を行うことだ。

また、メンバーと面談する際にも、リーダー的な役割が求められる人には、必ず自分の「模範的フォロワー」は誰かを聞いてみることをお薦めする。

もしも「該当する人がいない」と答えるようであれば、「模範的フォロワー」を誰にするのか、その役割が担えるようにどう育てるのかをきちんと話し合うことだ。

「模範的フォロワー」がおらず、孤軍奮闘では、いいチームプレーなどできはしない。

P・F・ドラッカー氏は著書『プロフェッショナルの条件』の中で、「効果的なリーダーシップの基礎とは何か」を次のように記した。

「組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に定義し、確立することである。

リーダーとは、目標を定め、優先順位を決め、基準を定め、それを維持する者である」「リーダーと似非リーダーとの違いは目標にある。

政治、経済、財政、人事など現実の制約によって妥協せざるをえなくなったとき、その妥協が使命と目標に沿っているか離れているかによって、リーダーであるか否かが決まる。

リーダーが真の信奉者をもつか、日和見的な取り巻きをもつにすぎないかも、自らの行為によって範を示しつつ、いくつかの基本的な基準を守り抜けるか、捨てるかによって決まる」リーダーが、真の「リーダーシップ」を発揮するためには、ただ従うだけのメンバーではなく、リーダーの理解者であり、信奉者として、「模範的フォロワーシップ」を発揮してくれるメンバーの存在が不可欠なのだ。

「個人のモチベーション」を最大化する──組織競争力の源泉2-1

「自己効力感」があると、人は何倍もの力を発揮する「セルフ・エフィカシー(selfefficacy)」という言葉がある。

これは、社会的学習理論で知られるカナダ人の心理学者アルバート・バンデューラ氏が提唱した概念だ。

日本語訳では、「自己効力」とか「自己効力感」と訳される。

「セルフ・エフィカシー」とは、目標を達成するための能力が自分自身にはあるのだという感覚を持つこと。

この感覚こそが自信につながり、一歩を踏み出す勇気になる。

「セルフ・エフィカシー」が高いと、人は実際にその行動を行う可能性が高くなる。

努力を惜しまず、多少の失敗や困難があっても、あきらめず成し遂げようという想いが強くなるのだ。

人が難易度が高い取り組みに対して実際に行動を起こすためには、2つの要素が必要となる。

1つは、「結果予期」。

「結果予期」とは、ある行動がどんな結果を生み出すかを想定できるということ。

たとえば、スキルや知識を身につける行動によって、その結果なりたい職業や職種に就けるという関係を予期できるというように。

この関連性への期待が大きいほど、人は真剣に行動する。

もう1つが、「効力予期」といわれるものだ。

「効力予期」とは、結果を生み出すために必要な行動を、どれだけ自分が上手に行うことができそうかという感覚である。

頭ではやったほうが良いことはわかっていても、上手にできるという感覚がなければ、行動を起こす勇気はわいてこない。

逆に、「自分ならできる」とか「自分にもできそう」という感覚を持つことができれば、難易度が高くても、第一歩を踏み出すことができる。

この「できそう」という感覚こそが、まさに「セルフ・エフィカシー」なのだ。

「セルフ・エフィカシー」を生み出すための基礎となるものが4つある。

成功体験自分自身が何かを達成したり、成功した経験。

小さな成功体験でも良いので、努力によって障害を乗り越え達成した体験があると強い。

代理体験「モデリング」ともいわれる。

他人が何かを達成したり成功したりすることを観察すること。

観察のなかで、自分に置き換え、疑似体験や想像体験をすることが大切になる。

言語的説得能力があることを第三者に言語的に説明されること。

言語的な励ましは、自信と勇気を与える。

生理的状態心身の状態が良好なこと。

体調や心理状態がすぐれないと、前向きに取り組むためのエネルギーが出てこないからだ。

仕事においては、この中でもとくに「成功体験」と「代理体験」が重要になる。

また、上司や周囲との関係においては、「言語的説得」がポイントとなる。

たとえば、私は経営者から「マネジャーがなかなか全社を巻き込んで会社を変えるような動きをしてくれない」という相談をよく受ける。

しかし、マネジャーたちの話を聞いてみると、全社を巻き込んで変えるような取り組みが「将来のためになること(=結果予期)」だときちんと認識されていないことが多い。

下手なことをすると、マイナスになるとさえ思っているケースもある。

また、たとえやる気になったとしても、今までやったことがなければ、「具体的にどうしていいのかわからない(=効力予期)」のが実情だ。

そのような状況で必要なことが2つある。

1つは、「成功体験」を積ませること。

「将来の幹部として期待しているからこそ、全社を巻き込んだ改革をしてほしい」ということをきちんと伝え、まずは「小さな成功体験」ができるようなテーマに取り組んでもらう。

そのような経験ができれば、大きな自信につながる。

2つ目は、「疑似体験」をさせ、成功までの道筋をイメージしてもらうこと。

具体的には、役員や部長たちが今までどうやって会社を変革してきたのか、その方法やプロセスをきちんと理解させ、想像で体験をさせるのだ。

イメージができると、行動する勇気がわいてくる。

また、経営トップや上司からの「言語的説得」も有効だ。

「こんな経験をしてきたのだから、ここまで考え抜いたのだから、きみならできる」という励ましは、本人を大きく勇気づける。

私は、この「セルフ・エフィカシー」という概念をとても大事にしている。

個人の「自己効力感」が高まれば、組織力が劇的にアップするからだ。

また、個人にとっても仕事だけではなく、自らのキャリアや人生に立ち向かう勇気もわいてくるからだ。

今の時代、仕事だけが単独にあるのではなく、個人のキャリアや人生と結びついている。

だから私は、あえて「キャリアセルフ・エフィカシー」という概念に重きを置いている。

新しい役割、社会に影響を与えるような大きな仕事、それらに積極的に取り組み、活き活きと働くための根源となるからだ。

この「自己効力感」を念頭においたマネジメントや「仕組み・制度・施策」の構築によって、まさに「人が自ら動き出す組織」となる。

不満の大半は「承認欲求」が満たされないから──組織競争力の源泉2-2

組織変革のための人間心理を考え抜くうえで、アメリカの心理学者アブラハム・マズロー氏が提唱した「欲求5段階説」の概念はとても参考になる。

マズロー氏は、「人間は自己実現に向かって、たえず成長する生きものである」という考えから、人間の欲求を5段階に整理しピラミッド構造で表現した。

5つの欲求は階層構造になっており、「生理的欲求」や「安全欲求」など低次の欲求が満たされると、一段階上の欲求が高まり、その欲求を満たすための行動を起こすようになるというものだ。

下の階層から順に説明していく。

生理的欲求生命維持に必要な基本的なもので、食べたい、寝たいなど生きていくための基本的・本能的な欲求。

安全の欲求雨風をしのぐ家がほしい、健康な生活を送りたいなど、危機を回避し、最低限の暮らしを確保したいという安心や安全を求める欲求。

所属と愛の欲求孤独を避け、集団に属し、自分の居場所を確保し、分かり合える仲間が欲しいという欲求。

承認の欲求他者から認められたい、尊敬されたいという欲求。

「自尊心の欲求」とも呼ばれている。

満たされないと、焦燥感や劣等感、無力感などの感情が現れる。

自己実現の欲求他人からの承認を求めるよりも、自分の行動や成長に関心が移っていき、「自分はこういうことを実現したい」「こういう世の中にしたい」などのような、自分らしい創造的活動や、自分の能力を活かしたさらなる成長への欲求。

これが5段階の最上階に位置する欲求だ。

「生理的欲求」と「安全の欲求」は物質的欲求であり、「所属と愛の欲求」「承認の欲求」「自己実現の欲求」は精神的欲求である。

また、「動機」という観点でいうと、「生理的欲求」「安全の欲求」「所属と愛の欲求」「承認の欲求」の4つは「欠乏動機」だ。

これは、何かが足りないという欠乏状況を充足させることが、行動を起こす動機になっている。

しかし、「自己実現の欲求」だけは、他とは異なり「成長動機」である。

「欠乏動機」である4つの欲求が満たされると、人が行動を起こす動機は「自分の能力を活かしてさらに成長したい」というところに達するのだ。

では、実際に「強い会社」に変わるための「仕組み・制度・施策」を考えるうえでの活用シーンから考えてみたい。

理想と現状とのギャップとして現れる組織の問題や、それを解決するために取り組むべき課題を考える際には、「所属と愛の欲求」と「承認の欲求」の視点が重要になる。

まず、「所属と愛の欲求」についてだが、会社の中に自分の心地良い居場所があると感じている人は、会社の味方になりやすい。

逆に、感じられない人は会社や上司、同僚に敵対心を持ちやすい。

毎朝起きて、自分が受け入れられていない職場に通うのはつらいものだ。

つらい思いをさせている会社に好意的になれるわけがない。

もし社員にそのような状況が発生していることがわかったら、上司や人事が介入して居場所をつくってあげるべきだ。

その人が阻害されている要因を特定し、改善に向けてすぐに動き出さなければならない。

メンバー間で何らかの確執があったのであれば、話し合う機会を設け、溝を埋める努力をする。

仕事を覚えられずに職場で浮いているのであれば、指導の仕方を変えたり、指導する人を変えたりして、仲間に追いつけるようにする。

個人のキャラクターに依存する理由、つまりタイプが異なることによるストレスでギクシャクしている職場があれば、「行動特性」や「思考特性」を分析できるツールを使って、お互いに悪意はなく、その特性が異なるがゆえに起こっている問題であるということを研修などで共有すべきだ。

タイプが異なるからこそ、相乗効果を発揮できる可能性があることを伝えるのだ。

「行動特性」「思考特性」を測るツールはいくつかある。

代表的なものを2つ紹介すると、1つは、ウィリアム・モルトン・マーストン氏が開発した「DISCモデル」が発展して世界中で活用されている。

もう1つは、キャサリン・ブリッグス氏と彼女の娘イザベル・マイヤーズ氏によって開発された「MBTI(マイヤーズ・ブリッグスタイプ指標)」だ。

「DISC」は、次の図を参照していただきたい。

4象限「①主導型:Dominance」「②感化型:Influence」「③安定型:Steadiness」「④慎重型:Conscientiousness」というタイプに分けたものだ。

「MBTI」は4つの指標で構成され、それぞれに「ものの見方(感覚直観)」「判断のしかた(思考感情)」「興味関心の方向(外向内向)」「外界への接し方(判断的態度知覚的態度)」のどちらかになるので、合計16タイプに分類される。

このようなツールは、個人を分析するだけでなく、その結果をチームで共有し、誰がどのタイプかを分かり合い、「だからあの人は、私とは違う発想や行動をとるのだ」ということを理解し合うことに価値がある。

実際に、ツールを用いた研修を行うとメンバー間のストレスが大きく軽減され、それぞれに居場所があることを共有できることが多い。

さまざまな手法を駆使して、「みんなの居場所がある状態にする」ことが、組織を円滑にするための大前提になる。

次に、「承認の欲求」についてである。

まず、この欲求が満たされるだけで満足する人は多いという現実を理解することだ。

誰もが成長動機である「自己実現欲求」にまで行き着くわけでなはない。

「自己実現欲求」の域にまで達しているのは、創業社長や、「企業理念(社外規範・社内規範)」を本気で実現しようとする企業の幹部、若くても社会的価値を追い求めてやりがいを追求する一部の人たちだ。

会社に属する多くの人は、その少し手前で満足してしまう。

だが、それが悪いわけではない。

みんなから認められ、尊敬される存在であることは十分に素晴らしいことだからである。

このことを理解すれば、上司、同僚、関連部署、顧客から承認されることの重要性に気づくだろう。

この4方向からの承認や称賛は、人のモチベーションを高める。

褒め合う文化が推奨され、ありがとうの気持ちや感謝をカードに書いて渡したり、オンラインのアプリケーション・ソフトウェアを使って伝え合う仕組みが効果を発揮するのも、この構造があるからだ。

すでに紹介したようなナレッジの共有のために仕事の成果を発表する場は、「承認欲求」を満たす機会でもある。

また、専門領域や、得意な知識やノウハウを持っている人が先生役となり、社内でそれを学びたい人向けに勉強会を開くことも、承認や尊敬を実感する場として機能している。

「承認の欲求」を満たすための「仕組み・制度・施策」は多いほうが良い。

この欲求を満たせると、社員の満足度は大きく向上する。

最後に、「物質的欲求(生理的欲求と安全の欲求)」について、覚えておいてほしいことがある。

それは、人は、解雇や、辞めなければならない事態になることが予想され、恐怖に駆られると、解雇にできないように自分がいないと困る状況をつくろうとする、ということだ。

食事や安全な家などの物質的欲求が満たされなくなる恐怖がよぎると、人は無意識に自分の仕事をブラックボックス化したくなる。

業務の本当の核心の部分は誰にも教えず、自分しかわからないようにすることで、自分の居場所を確保しようとするのだ。

実際に、子どもを大学に通わせるために必死に働いていた人が、上司が替わり、その上司の新しい方針について行けず、このままではクビになるかもしれないと考え、その恐怖から、自分の仕事をブラックボックス化してしまったケースがあった。

そこで私は上司に、クビになどするつもりはないこと、きちんとこの部署での仕事があることをその人に伝えて、安心してもらうことを薦めた。

実際に上司は、そのメンバーと何度か面談を行い、信頼関係ができると、ブラックボックスはなくなっていった。

仕事を続けられることが実感できれば、ブラックボックスをつくる必要がなくなり、すべてをオープンにした。

ブラックボックスをつくられると、その人がいないと業務が止まるリスクがある。

上司としてのマネジメントを困難にし、組織としての事業の「継続性(BCP:BusinessContinuityPlan)」にも支障をきたす。

全社的なリスクになってしまうのだ。

とくに経営者や人事担当者は、この心理を理解しておいたほうが良い。

人は、安全で安心な環境を確保できることを実感できない限り、ブラックボックス化のような物理的な方法で自分の立場を確保しようとするからだ。

「マズローの欲求5段階説」は広く知られているが、人間心理を徹底的に考え抜いた「仕組み・制度・施策」をつくっていく際の参考にもなるので、常に念頭に置いて活用したい概念の1つだ。

主体性の源泉となる「内発的モチベーション」に火を点ける──組織競争力の源泉2-3

組織の中で、人が「主体性」を発揮する。

これが「人が自ら動く」を体現する理想的な組織である。

「主体性」とは、自分の意思や判断で行動しようとする態度や性質のことだ。

組織の中で、この「主体性」を発揮してくれるメンバーが多ければ多いほど会社は強くなる。

組織の中で人を動かす方法には、大きく3つある。

1つ目は、「指示や命令で人を動かす方法」。

2つ目は、「交換条件付きの報酬を提示することによって動かす方法」。

報酬とは、報奨金などの金銭だけではなく、昇格・昇進などもふくめてだ。

3つ目は、「主体的に動いてくれる環境をつくり、実際に動いてもらう方法」。

人が自ら動き出す、この状態こそが理想だ。

この3つの関係を知るために押さえておきたい概念が、「外発的動機付け」と「内発的動機付け」である。

「外発的動機付け」とは、動機付けの要因が、金銭、評価、賞罰、名誉など外からの刺激によって与えられる報酬にもとづくものである。

たとえば、報奨金をもらうために目標の達成をめざす、昇給や昇格をめざして仕事を頑張る、昇格試験に合格するために勉強するなどのように、何らかの目的を達成するためのものだ。

一方、「内発的動機付け」とは、お金のためでもなく、怒られないためでもなく、損得とは異なり、内面からわき起こった興味・関心や意欲に動機付けられて行動を起こすものである。

「内発的動機付け」にもとづいた行動は、行動そのものが目的になっている。

わかりやすい例だと、本を読むこと自体を楽しんでいるときには「内発的動機付け」。

勉強のため、試験に合格するために読むのは「外発的動機付け」だ。

企業においては、一般的に「外発的動機付け」が活用されやすい。

交換条件付きの報酬に該当する例だ。

販売キャンペーンで、計画を達成したチームには、高額な報奨金が渡されるようなケースである。

日常的なマネジメントも、これをベースに行われている場合が多い。

「今回頑張って、この目標数字を120%達成したら、賞与額は普通の人の1・5倍だ。

ぜひ頼むよ」「今回、これを達成すると、昇格が見えてくるから、この半年はがむしゃらに頑張ってほしい。

この半年が勝負どころだ。

きみのためにいっているのだよ」あまりにも自然に、無意識のうちに「外発的動機付け」に類する言葉を使っていないだろうか。

会社内には、「外発的動機付け」が蔓延しているのだ。

だが、報酬には依存性があるので、どんどん金額を高くしないと思うように動いてくれなくなる。

リーダー的な立場の人もそのことをどこかでわかっていながらも、それ以外に動いてもらう方法を見つけられず、つい繰り返してしまいがちだ。

だからこそ、「外発的動機付け」の弊害に早く気づき、「内発的動機付け」を増やすのだ。

そのためには、「内発的動機付け」を促進する要素を理解する必要がある。

心理学者のエドワード・L・デシ氏とリチャード・M・ライアン氏は、「自己決定理論(SDT:Selfdeterminationtheory)」の中で、「人には生来、能力を発揮したい(有能感)、自分でやりたい(自律性)、人々と関係を持ちたい(関係性)という3つの心理的欲求が備わっている」と紹介した。

それらが満たされているとき、人は動機付けられ、生産的になり、幸福を感じる。

反対に満たされないと、モチベーションや生産性、幸福感は急落する。

1有能感その仕事を通して、「自分は、〇〇ができる」という有能感や成長感を実感できる。

2自律性誰かの指示や命令ではなく、自分自身で決定して動かしているという感覚になる。

3関係性同じ目標をめざす仲間との交流があり、お互いが刺激し合える。

「内発的動機付け」を高めるためには、この3つを感じられるようにすることが重要なのだ。

また、ダニエル・ピンク氏は、著書『モチベーション3・0』の中で、「自律性(autonomy)」を持たせるために、とりわけ大切なものを4つのTとして紹介している。

「自律性」とは与えられている課題の解決方法を他人任せにするのではなく、「主体的」に行動する性質のことだ。

1課題(Task)何を行うのかを自分で決められること(一部の企業で行われているような、勤務時間の一定割合を活用して自分の好きなテーマに打ち込めるなどもふくむ)。

2時間(Time)いつ行うのか、どこで働くのかを自分で決められる(時間報酬という発想やタイムレコーダーの撤廃等も)。

3方法(Technique)どんなやり方で行うのか、その手段や方法、プロセスを自分で決められる。

4チーム(Team)誰と一緒に行うのかを決められる。

一緒に働きたいと思う仲間と働ける。

つまり、仕事をするなかで、「有能感」や「成長感」を感じられるような機会が重要となる。

そのために、「何に取り組むのか」「いつ」「どこで」「誰と」「どんな方法で行うのか」ということを自己決定できるような仕組みや環境をつくるのだ。

そして、同じ目標をめざす人たちと、刺激し合うことで、モチベーションは高まり、「主体性」が発揮される。

たとえば、メンバーの目標を設定する際も、押しつけるのではなく、自分で考えてもらい、それをもとにマネジャーとすり合わせをすることの重要性が理解できるだろう。

これをやると決めたのが、自分であると思えることが大事なのだ。

実際のゴールへの行き方を決める際にも、どの道(方法)でも行けそうであれば、マネジャーは、本人に任せるべきである。

ゴールへの行き方まですべて自分の思い通りでないと許さないというような上司は、考え方をあらためなければならない。

また、新しいプロジェクトのメンバーも、プロジェクトリーダー自身ができるだけ決めるべきだ。

もちろん、完全には自分の思い通りにならなくても、関与することで、満足度は大きく異なるだろう。

大きな仕掛けや仕組みを導入することだけではなく、この概念を理解したうえでマネジメントすることで、個人の「主体性」を最大化できる。

モチベーションを高めるためには、仕事自体の価値に共感してもらうことも必要である。

そのことは、「社外規範」「社内規範」への共感・共鳴が大事だというところでも説明したようにだ。

自分の「夢」や「ミッション」が、組織の「ミッション」と一体となり、その会社や仕事が自分のキャリアで重要なものであると認識できること。

そのことにプラスして、この「内発的動機付け」の概念と、それを促進するために必要な要素を頭に入れて、「仕組み・制度・施策」づくりに取り組む。

「人が自ら動き出す組織戦略」とは、これらの概念の理解があってはじめて実現する。

組織変革を実現する「チェンジマネジメント」──組織競争力の源泉3

簡単には変わらない「企業文化」を変革するためにいくら人間心理を考え抜いた「仕組み・制度・施策」を取り入れたからといって、会社はそれだけで自動的に変わるわけではない。

4章の「FR社」の事例で紹介したように、さまざまな「仕組み・制度・施策」をやり続けるなかで、徐々に変わっていくものだ。

それぐらい、息の長いことだと覚悟して本気で取り組まなければ、変わらない。

心構えに加えて、組織変革をする際に知っておくべき原理原則を整理したい。

まず、社会心理学者のクルト・レヴィン氏によって提唱された「変革過程の3段階のプロセス」がある。

プロセス1解凍(Unfreezing)組織変革の必要性をメンバーに周知し、従来の組織体制、業務プロセス、関係性、システム、既存の考え方、マインドセットを崩すプロセスである。

つまり、「今までのやり方や企業文化では、今後は通用しない。

変えていかなければ会社に未来はない」といった現状認識と危機感を共有する。

今までの価値観を変えることになるので、変化の「推進力」が大きければ大きいほど、不安も広がり、その「抑止力」も大きくなる。

それに押し戻されないように、組織変革の必要性やビジョンを明確に提示し、メンバーとのコミュニケーションの密度を高め、ときには有力者を巻き込むことも必要になる。

プロセス2変革(Moving)新しい行動基準や考え方、やり方を全員が学習するプロセスである。

変革の段階では、今後のビジョンの共有に加え、実際に現場レベルでの具体的な行動の変化へと結びつけていく。

つまり、新しい考えにもとづいた組織体制の変更や、新しい考えに則った「仕組み・制度・施策」を導入し、その意味や意義を理解したうえで、組織のメンバー全体が新しい価値観で求められる行動をするようにしてゆく。

プロセス3再凍結(Refreezing)変革した内容を組織に定着させ、慣習化してゆくプロセスである。

新しい行動基準や考え方を定着させるために、たえず新しい行動や考え方を強化する必要がある。

たとえば、新しいやり方での成功事例にスポットをあて、手応えを感じてもらうことも重要だ。

それにより社員が納得して行動するようになり、成功事例が増え、「成功の方程式」を組織内に広め定着させる。

ここでは、新たな「企業文化」として定着させることまでが求められる。

また、変革の際の具体的な手順として、ジョン・コッター氏が提唱した「大規模な変革を推進するための8段階プロセス」も理解しておきたい。

プロセス1危機意識を高めるプロセス2変革推進のための連帯チームを築くプロセス3ビジョンと戦略を生み出すプロセス4変革のためのビジョンを周知徹底するプロセス5従業員の自発を促すプロセス6短期的成果を実現するプロセス7成果を活かして、さらなる変革を推進するプロセス8新しい方法を企業文化に定着させるこのコッター氏の「8段階プロセス」は、レヴィン氏による「3段階のプロセス」をさらに細分化したものといえる。

もちろん、実際の組織変革は、これらのステップ通りには進んでいかない。

次のステップに進んだかと思えば、また2つ戻ることもある。

たとえば、「商品に自信を持ってもらう」「組織の壁を低くする」「上意下達の習慣を変え、1人ひとりが情報発信できるようにする」「自分だけの成果から、全社に影響を与え、全社でできるようにする」というように取り組むべき課題が複数あれば、それらを同時に進めていかなければならない。

しかも、それぞれの変えるべき内容ごとに進み具合も違う。

抵抗の圧力もそれぞれで起こり方や現象が異なるからだ。

組織変革とは、複雑に絡み合った糸をほぐしながら、目の前と遠くを同時に見て全力疾走するような骨の折れる取り組みでもある。

だからこそ、組織変革を行う際には、各プロセスの概念は、ことさら意識しなくても、今どのプロセスを行っているのかという現在地と、めざすべきゴールまでの道筋が瞬時にわかるぐらいになっている必要がある。

変わりたがらない人や部署を変えるために組織変革のために、新しい「仕組み・制度・施策」を実施しても、最初はほとんど変化が見られず、落胆しそうになってもあきらめず、改革の手を緩めてはいけない。

組織や職場の雰囲気や空気は、すぐに変わるものではなく、賛同する人たちが一定比率をすぎると急速に変化が加速し、状況が一変するタイミングがあるからだ。

状況が一気に変わる、この変化点のことを「閾値」という。

閾値は変化に必要な蓄積量のことであり、その値を境にして、具体的な行動や判断基準などが変わっていく。

三菱総合研究所経営計画研究室による『クォーター・マネジメント』の中では、組織風土が変わる閾値は25%前後とされている。

異質な文化や価値観、考え方を、25%前後の人々が受け入れると、企業全体が変わりはじめるという。

もちろん企業の現況や、取り組むべき内容によって、閾値には違いがあるが、一定比率をすぎると変化は加速するのだ。

たとえば、わかりやすい例として朝の挨拶で考えてみよう。

職場に入るときに挨拶もしない他人に関心の薄い職場を、お互いに関心を持ち合う職場に変えようと決意したとする。

当然ながら、まずはその決意した当事者から挨拶をはじめる。

朝、職場に入るときに大声でみんなに挨拶をする。

最初は、誰からも挨拶など返ってこない。

それでもあきらめずに挨拶を毎朝続ける。

すると、いつしか誰かが小声だけど挨拶を返してくれるようになる。

たとえ返してくれたのが1人であっても、あきらめずに続ける。

すると、その1人につられて、何人かが挨拶を返してくれるようになる。

みんなひそかに様子をうかがっていたのだ。

複数名が挨拶を返してくれることがわかったら安心して、自分も職場に入るときに挨拶をしてもいいと思う人が現れる。

応答がないことが怖くて、結局、誰も挨拶をしていなかったのだ。

挨拶をするようになった人が20%~25%ぐらいになると、周囲も徐々に挨拶しはじめる。

その頃から職場の雰囲気や空気は変わりはじめるのだ。

エベレット・M・ロジャース氏は、著書『イノベーション普及学』の「イノベーター理論」の中で、新しい概念、習慣、商品などが普及するプロセスを分析し、消費者の商品購入に対する態度を、新しい商品に対する購入の早い順から、5つのタイプに分類した。

1イノベーター:Innovators革新的採用者(2・5%)2アーリー・アダプター:EarlyAdopters初期少数採用者、オピニオン・リーダー(13・5%)3アーリー・マジョリティ:EarlyMajority初期多数採用者(34%)4レイト・マジョリティ:LateMajority後期多数採用者(34%)5ラガード:Laggards伝統主義者、採用遅滞者(16%)

この「イノベーター理論」は、主にマーケティングのために活用されるものだが、概念は組織変革にも応用できる。

何か新しいことをはじめようとすると、往々にして同じように5つのタイプが生まれるからだ。

この理論とさきほどの閾値と私の経験から鑑みて、普及率16%あたりから、ゆらぎのような変化が組織に起き、それが徐々に大きくなり、閾値の目安である25%あたりから変化が一気に起こりはじめるというのが現実的なイメージだろうか。

これは、多くの組織変革に携わってきた私の実感だ。

閾値に達するまでは、短気を起こさず、愚直にやり続け、理解者を少しずつ増やしていくことが組織変革の王道となる。

組織変革、つまり「チェンジマネジメント」のポイントをもう1つだけ紹介したい。

それは、反対者や傍観者が多いなかで、改革や新しいことを行う際に欠かせないことだ。

そもそも、企業の場合には、役職や待遇に関する使用者の決定権限である人事権があるので、新しいことの導入や変革は行いやすい。

だが、たとえば、NPOのような営利を目的とせず社会的活動を行う団体の場合、組織図はあっても、メンバーがその指示命令に従ってくれる保証はない。

もっとわかりやすくすると、商店街や町内会のような組織を想像してほしい。

自らの利害を優先しがちになるので、指示命令には簡単に従わないはずだ。

ボランティア集団や地域活動のように、上下関係や命令権がない中で人を動かすことは、企業よりも相当難しい。

このような合意形成の難しい組織で変革を行う場合には、何に気をつければ良いのか。

このポイントを知っていれば、企業での変革にも応用でき、役立つはずだ。

たとえば、ある衰退している商店街の組合で、再び活気を取り戻すための改革を訴える少数の人がいるとする。

だが、多くの商店主はリスクを取りたくないので反対する。

今の延長では厳しいことは薄々わかっていても、現状を変えるには勇気がいる。

たいていの場合、反対多数になる。

このような場合には、その変革を行う人たちは、まずは自分たちでやってみるのだ。

もちろん、一度でうまくいくことなどまれかもしれない。

だが、何度も「PDCAサイクル」を繰り返しながら、成功のためのヒントを見つければ、やがて、小さな成功を繰り返すようになっていく。

本題は、ここからだ。

反対者や傍観者が多い場合のポイントの1つは、反対者にも情報を提供し続けることである。

なぜ、反対する人に情報を提供しなければならないのか。

そう思う気持ちもわからないわけではない。

だが、反対する人を味方へと変えるファースト・ステップととらえてほしい。

ここはじっと我慢して愚直に反対者に対しても、どんな取り組みをしているのか、その結果はどうなのかという情報を提供し続けるのだ。

すると、成功する可能性があることを知ったことで、最初は反対していた中の数名が、「一緒にやりたい」といってくる。

組織変革のためのポイントの2つ目はここだ。

本音では、「あなたは反対していたではないか」と非難したくなるだろう。

だが、そこをじっと我慢して、快く受け入れるのだ。

すべては組織全体で変革するため。

より大きな規模で成功するためだ。

新たに加わった人が参加して、成功し出したことがわかると、もっと多くの人たちが「一緒にやる」と言い出す。

しかも、「われわれも最初から成功すると思っていたのだ」と言い出す人まで出てくる。

ポイントの3つ目はここだ。

このタイミングでも怒らないこと。

本音をいえば腹立たしいだろう。

「何だよ、昨日まで反対していたのに」とひと言返したくもなる。

しかし、絶対にいってはいけない。

「確かに、そんなこともいわれていましたね。

われわれが最初にはじめただけですから、一緒に頑張っていきましょう」と笑顔でいえるくらいの度量が勝負の分かれ目になる。

大きな目的のために、大人の対応ができなければいけないのだ。

この3つのポイントのどこかで短気を起こせば、成功はない。

組織を変えるには、まず自らが「志」を持ち、「共感する人」から動かす。

当初は協力的ではなく、反対していた人が後から入ってきても、快く受け入れて「理解者」「共感者」を増やしていく。

そこで、後から考えを変えた人を非難し出すと、同じ組織でありながらも、彼らは、またまったく異なることをやりはじめてしまい、全体の一体感は永久に生まれない。

「強い会社」に変わるためには、そうやっって人間心理を徹底的に考え抜いたうえで、効果的な「仕組み・制度・施策」を導入し、それらに魂が入り動き出すまで、推進し続けるのだ。

ここまで「強い会社」に変わるべく、そのためのナレッジを読者のみなさんと共有してきた。

だが、じつはまだ砂上の楼閣や張り子の虎となる可能性をはらんでいる。

最後にお伝えするのは、組織を変えるには、長期的に成功するまでの道筋をイメージできる力が求められるということだ。

私はそれを、シナリオを描く力という意味で「シナリオ力」と名づけている。

ぜひ、この本を参考に「強い会社」へと変わるためのシナリオを自らで描いてほしい。

おわりに──成功までの「シナリオ力」によって成果は決まる

組織変革には、成功するまでの道筋をイメージできる力が求められる。

この力を、シナリオを描く力という意味で、「シナリオ力」と名づけていることを「特別付録」で紹介した。

会社の何を、どの手順で変えてゆくのか、綿密なシナリオを描く必要があるからだ。

だが、会社は簡単には変わらない。

だからこそ、腹をくくって、シナリオを描き、実行し、またシナリオを描き直して実行するということを繰り返して、はじめて会社に変化が現れ出す。

「企業文化」を変えるとは、それぐらい大がかりで根気のいることなのだ。

いわば、組織変革には「シナリオ力」をもとにした「仕組み・制度・施策」と「気概」のようなものの両方が必要となる。

私は「経営コンサルタント」「組織人事コンサルタント」という肩書きを持ち、仕事柄これまでにさまざまなビジネスパーソンに会ってきた。

仕事ができる人のほとんどは「シナリオ力」が高い。

仮にその道筋の途中で、シナリオ通りにならない事態に陥ったとしても、そこから、リカバリーするための新たなシナリオも瞬時に思い浮かべられる。

「シナリオ力」の有無は、これからのビジネスパーソンにとって重要なキーワードになる。

「はじめに」で「人を動かそうとするのではなく、『人が自ら動き出す環境』をつくる」と述べたが、経営サイドにとって都合のいいように社員を動かそうとする会社は、はっきりいうが嫌いだ。

企業は、社員の成長やキャリアデザインにとっても有益でなければならない。

いわば「人と企業の価値の交換」を実現すべく、企業と個人がWinWinの関係となる。

また、そのような関係になれる「仕組み・制度・施策」でなければならない。

私は、企業の「経営コンサルタント」や「組織人事コンサルタント」だけではなく、国家資格1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザーという資格を持ち「キャリアコンサルタント」として、個人のキャリアデザインの支援も行っている。

個人へのキャリアコンサルティングだけでなく、企業と契約し、セルフ・キャリアドックのようなかたちで、企業内での個人のキャリアデザインの支援も行っている。

私にとっては、「経営コンサルタント(組織人事コンサルタントもふくむ)」と「キャリアコンサルタント」は、両輪のイメージである。

そこでも「シナリオ力」は欠かせない。

会社の未来を、個人の未来を、どんなふうに描けるか。

それによって、企業も個人も、進むべき道が決まり、描いたシナリオとたどり着くゴールによって、もたらされる成果も決まるからだ。

「経営コンサルタント」として、企業力を高め、働く人にとっても魅力的な会社に変える。

「キャリアコンサルタント」として、個人の自立と自律を支援し、企業というステージで、伸び伸びと自分の価値を発揮し、やりがいを見出し、自らのキャリアを切り拓いてほしいと願っている。

それが個人の人生にとっても、企業の組織戦略にとってもハッピーになる。

これからの世の中がそういう社会になってほしい。

本書を執筆したのは、このような動機からだ。

そして、ここで主として紹介したFR社の事例は、地方の企業が世界的な企業へと変わってゆく、その初期段階の模様だ。

現代ビジネス史の貴重な1ページを書き記しておきたかった。

なぜなら、「強い会社」へと変わるための壁を乗り越えた、時代を越えて活用できる事例だからだ。

本書を通して、私の想いを多くの方に伝える機会を提供していただいた日本実業出版社のみなさまに感謝している。

最後に、ここまで読んでくださったみなさまに心からの感謝をお伝えしたい。

「強い会社」になるための、「人が自ら動き出す組織」になるための、具体的な「仕組み・制度・施策」を構築する参考書として、本書がお役に立てば幸いである。

そして、本書が組織変革の大きな一歩となることを願ってやまない。

2020年2月吉日松岡保昌

参考図書※これまで著者が読んできた「経営」「組織戦略」「マネジメント」「人事」「心理」などに関する、多くの書籍を参考に執筆しているが、ここではとりわけ「『強い会社』に変わる仕組み」の原理原則となったものを中心に掲載している。

『破天荒!サウスウエスト航空─驚愕の経営』(日経BP社/ケビン・フライバーグ、ジャッキー・フライバーグ著/小幡照雄訳)『ビジョナリー・カンパニー時代を超える生存の原則』(日経BP社/ジェームズ・C・コリンズ、ジェリー・I・ポラス著/山岡洋一訳)『ビジョナリー・カンパニー2飛躍の法則』(日経BP社/ジェームズ・C・コリンズ著/山岡洋一訳)『新・小売業経営の条件』(商業界/川崎進一)『チェーンストア経営の原則と展望チェーンストアの新・政策シリーズ』(実務教育出版/渥美俊一)『チェーンストア能力開発の原則チェーンストアの新・政策シリーズ』(実務教育出版/渥美俊一)『最強組織の法則新時代のチームワークとは何か』(徳間書店/ピーター・M・センゲ著/守部信之訳)『学習する組織システム思考で未来を創造する』(英治出版/ピーター・M・センゲ著/枝廣淳子、小田理一郎、中小路佳代子訳)『「学習する組織」をつくる』(日本能率協会マネジメントセンター/カレン・E・ワトキンス著/ビクトリア・J・マーシック著/神田良、岩崎尚人訳)『経営者の役割』(ダイヤモンド社/C・I・バーナード著/山本安次郎、田杉競、飯野春樹訳)『バーナード経営者の役割』(有斐閣新書/飯野春樹編)『コア・コンピタンス経営大競争時代を勝ち抜く戦略』(日本経済新聞出版社/ゲイリー・ハメル、C・K・プラハラード著/一條和生訳)『コトラーのマーケティング・コンセプト』(東洋経済新報社/フィリップ・コトラー著/恩藏直人監訳/大川修二訳)『マーケティングマネジメント持続的成長の開発と戦略展開』(プレジデント社/フィリップ・コトラー著/小坂恕、三村優美子、疋田聰訳)『競争優位の戦略いかに高業績を持続させるか』(ダイヤモンド社/M・E・ポーター著/土岐坤訳)『競争の戦略』(ダイヤモンド社/M・E・ポーター著/土岐坤、服部照夫、中万治訳)『〔エッセンシャル版〕マイケル・ポーターの競争戦略』(早川書房/ジョアン・マグレッタ著/櫻井祐子訳)『図解ランチェスター法則入門』(ビジネス社/田岡信夫)『プロフェッショナルの条件いかに成果をあげ、成長するか(はじめて読むドラッカー【自己実現編】)』(ダイヤモンド社/P・F・ドラッカー著/上田惇生訳)『ネクスト・ソサエティ歴史が見たことのない未来がはじまる』(ダイヤモンド社/P・F・ドラッカー著/上田惇生訳)『チェンジ・リーダーの条件みずから変化をつくりだせ!(はじめて読むドラッカー【マネジメント編】)』(ダイヤモンド社/P・F・ドラッカー著/上田惇生訳)『明日を支配するもの21世紀のマネジメント革命』(ダイヤモンド社/P・F・ドラッカー著/上田惇生訳)『イノベーションと企業家精神実践と原理』(ダイヤモンド社/P・F・ドラッカー著/小林宏治監訳/上田惇生、佐々木実智男訳)『未来企業生き残る組織の条件』(ダイヤモンド社/P・F・ドラッカー著/上田惇生、田代正美、佐々木実智男訳)『経営者に贈る5つの質問』(ダイヤモンド社/P・F・ドラッカー著/上田惇生訳)『7つの習慣成功には原則があった!』(キングベアー出版/スティーブン・R・コヴィー著/ジェームス・スキナー、川西茂訳)『知識創造企業』(東洋経済新報社/野中郁次郎、竹内弘高著/梅本勝博訳)『知識資本主義ビジネス、就労、学習の意味が根本から変わる』(日本経済新聞社/アランバートン=ジョーンズ著/野中郁次郎監訳/有賀裕子訳)『入門組織開発活き活きと働ける職場をつくる』(光文社/中村和彦)『組織開発の探究理論に学び、実践に活かす』(ダイヤモンド社/中原淳、中村和彦著)『図解戦略人材マネジメント』(東洋経済新報社/ウィリアムマーサー社著)『コンピテンシー・マネジメントの展開導入・構築・活用』(生産性出版/ライル・M・スペンサー、シグネ・M・スペンサー著/梅津祐良、横山哲夫、成田攻訳)『企業変革力』(日経BP社/ジョン・P・コッター著/梅津祐良訳)『ジョン・コッターの企業変革ノート』(日経BP社/ジョン・P・コッター、ダン・S・コーエン著/高遠裕子訳)『組織文化とリーダーシップリーダーは文化をどう変革するか』(白桃書房/エドガー・H・シャイン著/清水紀彦、浜田幸雄訳)『発想法創造性開発のために』(中央公論社/川喜田二郎)『指導力革命リーダーシップからフォロワーシップへ』(プレジデント社/ロバート・ケリー著/牧野昇監訳)『問いかける技術確かな人間関係と優れた組織をつくる』(英治出版/エドガー・H・シャイン著/金井壽宏監修/原賀真紀子訳)『ザ・ドリーム・マネジャーモチベーションがみるみる上がる「夢」のマネジメント』(海と月社/マシュー・ケリー著/橋本夕子訳)『モチベーション3.0持続する「やる気!」をいかに引き出すか』(講談社/ダニエル・ピンク著/大前研一訳)『社会的学習理論人間理解と教育の基礎』(金子書房/A・バンデュラ著/原野広太郎訳)『激動社会の中の自己効力』(金子書房/アルバート・バンデューラ著/本明寛、野口京子監訳/本明寛、春木豊、野口京子、山本多喜司訳)『モデリングの心理学観察学習の理論と方法』(A・バンデュラ編/福島修美、原野広太郎訳)『組織は戦略に従う』(ダイヤモンド社/アルフレッド・D・チャンドラーJr.著/有賀裕子訳)『戦略経営論』(産業能率大学出版部/H・イゴール・アンゾフ著/中村元一訳)『ブルー・オーシャン戦略競争のない世界を創造する(Harvardbusinessschoolpress)』(ランダムハウス講談社/W・チャン・キム、レネ・モボルニュ/入山章栄監訳/有賀裕子訳)『イノベーションのジレンマ増補改訂版(HarvardBusinessSchoolPress)』(翔泳社/クレイトン・クリステンセン著/玉田俊平太監修/伊豆原弓訳)『イノベーション普及学』(E・M・ロジャーズ編/青池慎一、宇野善康監訳)『クォーター・マネジメント』(講談社/三菱総合研究所経営計画研究室)『世界の経営学者はいま何を考えているのか知られざるビジネスの知のフロンティア』(英治出版/入山章栄)『MBTIへの招待C・G・ユングの「タイプ論」の応用と展開』(金子書房/R・R・ペアマン、S・C・アルブリットン著/園田由紀訳)『リーダーシップ行動の源泉DISCとSLIIによるリーダー能力開発法』(ダイヤモンド社/ケン・ブランチャード、ドリア・ジガーミ、マイケル・オコーナー、カール・エデバーン著/HRD株式会社監修/山村宣子、菅田絢子訳)

 

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