少数の思慮深く献身的な市民たちが世の中を変えられることに疑いの余地はない。実際に世の中を変えてきたのは、そういう人びとにほかならないのだから。──マーガレット・ミード(文化人類学者)
リンクトインのジェフ・ワイナーCEOは、「より少なく、しかしより良く」がリーダーシップの決め手だと考えている。
リンクトインのCEOに就任したとき、彼はシリコンバレーのスタートアップにありがちな「何でもやってやる」という戦略にノーを言った。
数々の魅力的なチャンスに流されず、もっとも重要な仕事だけを追求していった。彼は社員たちに「FCS(フォーカス)」の思想を繰り返し語る。
「少数のことをより良くやれ」「正しい情報を正しい人に正しいタイミングで伝えろ」「意思決定のスピードと質を追求しろ」という3つのセンテンスの頭文字をとったものだ。
これはエッセンシャル思考のリーダーシップを簡潔に、的確に言い表している。
エッセンシャル思考のチームをつくる
エッセンシャル思考は個人にとってだけでなく、チームや会社の運営にとっても非常に重要なものだ。
本書に出てくるアイデアも、経営者たちとマネジメントについて話し合うなかで明確になってきたものが多い。
これまでに私は500人以上の経営者やリーダーにインタビューをおこない、1000を超えるチームのデータを収集した。
まとまりのあるチームと働くのはどんな経験だったか、マネジャーの役割はどのようなものだったか、結果はどうなったか。
一方、まとまりのないチームと働くのはどんな経験だったか、マネジャーの役割はどのようなものだったか、結果はどうなったか。
調査の結果、チームのパフォーマンスは目的の明確さに大きく左右されることがわかった。
目的が明確であれば、チームのメンバーは予想以上の力を発揮してくれる。
一方、チームの目的や個々の役割が明確でない場合、チームは混乱し、ストレスとフラストレーションがたまり、結果は失敗に終わる。
ある会社の副社長は、「明確さがすなわち成功なのです」と言っていた。「より少なく、しかしより良く」がチーム運営にとって重要であることは明らかだ。
現代の企業はめまぐるしい変化の渦中にあり、数えきれないほどの可能性に直面している。
チャンスが多いのは悪いことではないが、チームの目的がきわめて明確になっていないかぎり、本当に重要なチャンスを見つけるのはかなり難しい。
ここで非エッセンシャル思考のマネジャーは、すべてのチャンスを追いかけようとする。その結果、メンバーに過大な負担がかかり、パフォーマンスは停滞する。
エッセンシャル思考のマネジャーは、けっしてすべてをやろうとしない。
明確な目的を持って仕事を精選し、あらゆる業務を「より少なく、しかしより良く」の方針で実行する。その結果、チームの結束は強まり、さらなる高みへとブレイクスルーできる。
エッセンシャル思考のリーダーはいかにチームを率いるか
本書では何度も「非エッセンシャル思考エッセンシャル思考」の比較をしてきた。これは個人にかぎらず、チーム運営にも当てはまる。
2〜3人の小さなチームでも、数百人以上の大企業でも基本は変わらない。パフォーマンスを引き上げるためには、非エッセンシャル思考の考え方を今すぐ捨て、エッセンシャル思考に置き換えることだ。
このように比較すればエッセンシャル思考の有用性は明らかだと思うが、最後に少しだけページを割いて、エッセンシャル思考のリーダーシップについてより具体的に検討しておこう。
◆人材の選別にこだわり抜く
非エッセンシャル思考のリーダーは、これといった基準もないままに人をどんどん雇い入れる。
その結果、駄目な部下の管理や教育に多大な時間をとられてしまう。会社が成長しているなら、手当たり次第に人を増やせばいいと言う人もいる。
しかし現実のコストを考えると、間違った人材を雇うよりは人が足りないほうがずっとましだ。
間違った人材をあまりに多く雇ってしまうと、ガイ・カワサキの言う「無能の連鎖」が起こる(1)。
駄目な社員が駄目な社員を呼び、かつては優秀だった会社がすっかり落ちぶれてしまう。
一方、エッセンシャル思考のリーダーは、人材の選別にこれでもかというほどこだわり抜く。
けっして妥協せず、確固とした基準を持って完璧な人材を選びとる。
そして足手まといとなる人材は容赦なく切り捨てる。
その結果、一流の人材ばかりが集まり、さらにチームの相乗効果で個々の集まり以上の力を発揮できるのだ(人材採用について、より詳しくは第9章を参照)。
◆目的が完全に明確になるまで話し合う
非エッセンシャル思考のリーダーは目的が不明確なので、中途半端にあらゆることに手を出そうとする。
その下で働かされるメンバーは、山ほど仕事を振られてどの方向にも少しずつしか進めない。
どうでもいい作業に時間を費やし、重要な仕事に手がまわらない。目的を完全に明確にすると、チーム全体の結びつきが緊密になる。全員が同じところをめざし、一致団結して進んでいける。
チームがバラバラになるのを防ぐためには、とことん明確な目的が不可欠なのだ(第10章も参照のこと)。
◆メンバーの役割をあいまいにしない
非エッセンシャル思考のリーダーは仕事の振り方があいまいで、役割と責任を明確にしない。
フレキシブルやアジャイルという言葉を使って正当化する人もいるが、そんなのは言葉の濫用だ。
各メンバーの役割と評価基準が明確でなければ、柔軟に助け合うこともできない。
何を達成すべきかがわからないので、ただ忙しいふりをして「できる」と見せかける人も出てくる。
一方、エッセンシャル思考のリーダーは、各メンバーの役割をとことん明確に規定する。あいまいな言葉は使わない。
全員が自分の役割を完全に理解し、さらに自分以外の役割もすべて把握できるように、きちんと話をする。
最近会ったあるCEOは、経営チームの役割分担をあいまいにしたばかりに、組織全体がひどい非効率に落ち込んだと話していた。
このダメージを修復するために、彼は組織の明確化に全力を注いだ。
自分の直属の部下を4人に絞り込み、それぞれの責任範囲を明確に分けて、組織運営を立て直したそうだ。
PayPal(ペイパル)の創業者ピーター・シールは異端児として知られているが、そのエッセンシャル思考の突き詰め方も半端ではない。
彼はペイパルの社員たちに、「最優先の役割をひとつだけ選べ」と言い、それ以外の仕事はするなと指示する。
ペイパル元副社長のキース・ラボワは、そのやり方について次のように語っている。
「ピーターは全社員に、それぞれたったひとつの仕事だけをやらせました。最優先の仕事以外のことで相談に行っても拒否されます。年次評価のシートにも、会社に対してもっとも貢献したことをひとつだけ書くという欄がありました(2)」
こうしたやり方のおかげで、社員は自分のやるべきことを明確に意識し、会社に貢献するために頭を使って自発的に動けるようになったそうだ。
◆正しい情報を正しい人に正しいタイミングで伝える
非エッセンシャル思考のリーダーは、情報を伝えるのが下手だ。抽象的でわかりにくい言葉を使い、言っていることもコロコロ変わる。
結局何が言いたかったのかよくわからない。
一方、エッセンシャル思考のリーダーは、正しい情報を正しい人に正しいタイミングで伝える。
具体的で簡潔な言葉を使い、誤解の余地がないように話す。無意味な流行り言葉は使わないし、つねに言うことが一貫している。
だから部下たちも何が重要かをはっきりと理解し、ノイズを避けて本質を選びとることができる。
◆小さな進歩を重ねているかどうか、適切にチェックする
非エッセンシャル思考のリーダーは、部下の指導が下手だ。そもそも仕事を大量に振るので、誰が何をやっているか把握しきれない。
仕事を振ったら振りっぱなしで、その後の確認はおざなりだ。だから部下のほうも、適当に手を抜くことを覚えてしまう。
まじめにやったところで、どうせ上司はこの仕事を振ったことなど忘れているのだ。だが、エッセンシャル思考のリーダーは違う。
各メンバーのやるべきことを明確にしているから、その後の確認もわかりやすい。
各自が着実に小さな進歩を重ねているかどうかをチェックし、困ったことがあれば力を貸す。
自分のやったことをきちんと見てもらえるので、部下のほうもいっそうがんばろうと思える(小さな進歩については、第17章も参照のこと)。
「より少なく、しかしより良く」の方針でチームを率いれば、チームのパフォーマンスは大きく向上し、本当に意味のあることが達成できる。
社会起業家としてインドの貧しい女性の地位向上に貢献し、名誉あるインディラ・ガンジー賞を受賞したこともあるエラ・バットは、次のように語っている。
私がもっとも大切にしている美徳は、シンプルであることです。シンプルであれば、ほとんどの問題は解決すると思っています。個人の悩みもそうですし、世界の抱える問題もそうです。シンプルな生き方をしていれば、あまり嘘をつかずにすみます。
口論も盗みも、ケンカや嫉妬や怒りや殺人さえも減るでしょう。
誰もが過不足なく豊かになり、蓄財や投機、ギャンブル、憎しみが必要なくなるでしょう。心の美しさはその人を美しくします。それがシンプルであることの良いところです(3)。
まさに、それがエッセンシャル思考の良いところだ。
謝辞
次の方々に感謝を捧げたい。長年この企画と私の成功を信じてくれたアンナ。君は最高の友人であり最良の助言者だ。
すぐれた編集技術で非本質的な部分を削ぎ落とし、本質だけを残してくれたタリア・クローン。
会話と行動を巻き起こしてくれたティナ・コンスタブル、タラ・ギルブライド、アイレット・グルーエンスペクト、ジャンニ・サンドリ。
エッセンシャル思考を世界に連れ出してくれたウェイド・ルーカス、ロビン・ウォルフソン。
エージェントとして最高の仕事をしてくれたレイフ・サガリン。
すべてを与えてくれた父と母。
エッセンシャル思考の生き方を身をもって見せてくれた祖父と祖母。アンナを与えてくれた義父と義母。多くを教えてくれたミセス・スイート。
考える力を鍛えてくれたミスター・フロスト。本当の僕自身を発見させてくれたサム、ジェイムズ、ジョセフ、ルイス、クレイグ。すばらしい道のりにしてくれたエイミー・ヘイズ。
あらゆる部分をあらゆる角度から昼夜問わず読んでくれたジャスティン。
選択のヒントを与えてくれたダニエル、デボラ、エリー、ルイーズ、マックス、スペンサー、ルース。
力強く支援してくれたブリトン、ジェシカ、ジョン、ジョセフ、リンジー、ミーガン、ホイットニー。
忌憚ない意見を聞かせてくれたロブ、ナタリー。
契約の力になってくれたピーター・コンティ・ブラウン。
日々喜びと楽しみを与えてくれたアリソン・ビーボ、ジェニファー・ベイリー、ティム・ブラウン、ボブ・キャロル(親子)、ダグ・クランドール、アリッサ・フリードリック、トム・フリエル、ロッキー・ガーフ、ラリー・ゲルウィクス、ジョナサン・ホイト、リラ・イブラヒム、PK、ジェイド・コイル、リンジー・ラテスタ、ジャレド・ルーカス、ジム・ミークス、ブライアン・ミラー、グレッグ・パル、ジョエル・ポドルニー、ビル・ライリー、アッシュ・ソーラー、アンドリュー・サイプス、ショーン・バンダーホーベン、ジェフ・ワイナー、ジェイク・ホワイト、エリック・ウォン、デイヴ・イック、レイ・ジン、そしてヤング・グローバル・リーダーの仲間たちと、スタンフォードの同期たち。
インスピレーションを与えてくれたスティーブン・コヴィーとスティーブ・ジョブズ。
そして私に大きな志を与えてくれた神へ。
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