サイバネティクスという科学理論は、メンタル・イメージが素晴らしい結果をもたらす理由について、大きなヒントを与えてくれる。
その理由を多くの人が理解するようになれば、メンタル・イメージはもっとよく使われるようになるだろう。
自動成功メカニズムは、自動的に目標を追い求める非常に複雑なマシンであり、フィードバック・データと蓄えた情報を利用してターグットに向かい、必要に応じて自動的に軌道修正を行う。
だが、それを働かせるためには、狙うべきターグットがなければならない。
ゴルフのインストラクターとして有名なアレックス・モリソンが言ったように、何事も心のなかで明確にイメージしてこそ、実行できるのである。
物事を成し遂げようと固い意思をもって必死に努力するにしても、だめになりそうなことをあれこれ考えていてはいけない。
必死に「それをしよう」とするのをやめ、リラックスして達成したい目標を思い描き、あとは創造的な成功メカニズムに任せよう。
だからといって努力しなくてよくなるわけではない。努力は有効に目標の達成へと向けられる。つまり何かを成し遂げようとしながら、別の結果をイメージしてしまうという無駄な葛藤をなくせるのである。
失敗の原因は間違った自己イメージ
イマジネーションは、私たちが生きていくうえで、多くの人が考えているよりもずっと重要な役割を果たしている。
私はこのことを、何度も治療の現場で日にして痛感している。とくに印象に残っているのは、家族に力ずくで連れて来られた患者のケースだ。
その患者は四〇歳ぐらいの独身男性で、昼間は仕事をしているが、仕事が終わると自分の部屋にこもり、どこにも出かけず何もしなかった。
男性の悩みは、鼻と耳が人より少しばかり大きいというものだった。自分が「醜く」、「おかしな顔」をしていると思っていたのだ。とても「変な」顔だから、会う人たちは自分のことを陰で笑いものにしていると思っていた。
その想像はだんだん過激になり、仕事に行くのも人と交わるのも怖くなったばかりか、自宅にいても安らぐことができなくなった。
自分が「ほかの人」と違う「妙な顔」をしているせいで、家族まで恥ずかしがっていると思っていたのである。
彼の鼻は典型的なローマ鼻で、耳もいくらか大きいとはいえ、珍しくない程度だった。困り果てた家族は、何とかならないかと私のもとへ連れてきたのだが、彼に外科手術は必要ないと感じた。
必要なのは、イマジネーションによって自己イメージを破綻させ、真実を見失っていることに気づくことだった。男性の不幸の原因は、ひとえに自らのイマジネーションにあらたのである。
彼自身のイマジネーションが自動失敗メカニズムを立ち上げ、それがフル稼動して、不幸の極致にまで追い込んでしまっていた。何度か診療を重ねるうち、家族の助けもあって、自分のイマジネーションが原因だと気づきだした。
そして、破壊的なイマジネーションではなく創造的なイマジネーションを使うことで、正しい自己イメージを築き、自信を取り戻すことができた。
この男性と似たような経験のある人は多いのではないだろうか。あなたもある意味でそうだったりしないだろうか?もちろん、鼻にしろ耳にしろ、とにかく身体的特徴で恥ずかしいと思うところはないかもしれないし、引きこもってもいないかもしれない。
しかし多くの人は、自分には他人に見下されたり、陰で笑われたり、嫌われたりするようなところがあると思っているものだ。
仮想と現実とを区別できない人間の神経系
創造的なイマジネーションというのは、詩人や哲学者や発明家だけのものではない。私たちのあらゆる行動に関係している。
私たちが行動できたりできなかったりするのは、一般的には「意思」にその原因があると思われている。だが、実はイマジネーションに原因があるのである。
人間は常に、自分と自分が置かれた環境について「真実だとイメージしたこと」をもとに行動し、感じ、何かを成し遂げている。
そのイメージから逃れたり、そのイメージを超えたりした行動をしても長くは続かない。それが人間の心の基本法則なのだ。私たちはそのようにできている。
こうした心の法則は、催眠術にかかった人にありありと見てとれる。私たちは催眠術を目にすると、何かオカルトめいた人知を超えた力が働いていると思ったり、単なるマジックだと思い、信じなかったりする。
しかし、実際は人間の脳と神経系の正常な活動といえる。
たとえば、「いまあなたは北極にいる」と言われたら、ガタガタ震えて寒そうな感覚を抱くだけでなく、体も寒さを感じる反応を示して、鳥肌を立てる。同じような現象は、大学生を対象に行った実験でも実証されている。
「片手を氷水のなかに突っ込んでいる」とイメージさせたところ、その手の温度が下がったのだ。
また、「私の指は真っ赤に焼けた火かき棒です」と言って、被験者にその指で触ると、その人は苦痛に顔をしかめ、さらには血管系やリンパ系が本当に灼熱の火かき棒に触れたように反応して、炎症を起こし、ときには皮膚に水ぶくれまでできた。
仲間うちで、誰かをこっそリターグットに決め、そのターグットにひとりずつ、「ボブ、気分が悪いんじゃないの?」「ずいぶん顔色が悪いね」と話しかけていく。
ボブは、やがで洗面所に入って鏡をのぞきこむ。ほどなく気分が悪くなり、体が弱ったような気になる。ついには本当に病気になって寝込んだり、家に帰ったりすることもある。
このように人間の神経系は、「イマジネーション」での体験と「現実」との体験を区別することができないのである。どちらの場合も、与えられた情報によって神経系が自動的に反応する。
人間の神経系というのは、真実だと考えたリイメージしたりしたことに応じて適切に反応するようにできているからだ。一九五〇年代、セオドア・ゼノフォン・バーバー博士は催眠現象に関する大規模な調査を、三度行っている。
最初はワシントンのアメリカン大学心理学部にいたときで、次はハーバード大学社会関係研究所に移ったときだ。その調査結果を『サイエンス・ダイジェスト』誌(一九五八年一月号)で、こう述べている。
催眠術の被験者は、催眠術師の言葉が正しいと信じ込んだとき―催眠術師が被験者を誘導して自分の言葉が正しいと信じ込ませてしまえば――被験者は違った考えや信念を植えつけられ、行動にも変化が現れる。
催眠現象がこれまで常に謎めいて見えたのは、信じるだけでどうしてこれほど異常な行動が生じるのかが、ずらとわからなかったからである。いつも、実際以上の何か計り知れないパワーが作用しているように思われていた。
しかし、実際は被験者は耳が聞こえないと信じ込めばそのように振る舞うし、痛みを感じないと信じ込めば麻酔なしで手術を受けられるというだけのことだ。
謎めいたパワーなどが存在するわけではないのである。
子どもの頃、真っ暗なエレベーターのなかに何時間も閉じ込められて怖い思いをしたことがあれば、その人は四〇年経とうが、怖くてエレベーターには乗れないかもしれない。
いくら統計や事実や実験で安全さを伝えても、また、たくさんの人がエレベーターを使うところを見せても、さらには六階まで階段で上る羽目になるといっても、無理なのである。
そういう人は、四〇年前からずっと催眠術にかかりらぱなしなわけである。
それでも少し考えてみれば、私たちの感覚や行動が、自分で真実と信じたリイメージしたりする事柄に従うという性質には素晴らしい利点があることにも気づかされる。要するに、私たちのイメージを上手に使う方法を身につけさえすればいいのである。
なぜ、人は騙されるのか
人間の脳と神経系は、その環境で生じた問題や課題に対して自動的かつ適切に反応するようにできている。
たとえば、山道でクマと出会ったら、助かるために走って逃げなければならないが、これはいちいち考える問題ではない。恐怖による反応は、自動的で適切なものだ。まず、逃げたくなる。
すると、恐怖をきっかけに筋肉を「パワーアップ」する身体メカニズムが作動して、考えられないぐらい速く走れるようになる。
鼓動が速くなって、筋肉を激しく興奮させるアドレナリンが分泌される。走るために必要のない身体機能はすべて停止する。呼吸も速くなり、筋肉への酸素供給量は何倍にも増加する。こんなことは改めて話すまでもない。すでに学校で教わっていることだろう。
ここで指摘しておきたいのは、環境で生じた問題や課題に対して自動的に反応するのが脳と神経系なら、環境の状態を私たちに教えてくれるのも、やはり脳と神経系だということだ。
クマに遭遇した場合の反応は知識ではなく「情緒」によるものと思われやすいが、本来、外界から受け取った情報を脳が認識した結果、「情緒的反応」を起こすのだ。
つまり人間というのは、自分を取り巻く環境についての知識や信念やイメージに対して反応するのである。
物事の実像に対してではなく、物事について抱くイメージに従って・―感じたり行動したりしているのだ。
先ほどの例でいうと、出くわしたのが、本物のクマではなくクマの格好をした役者だったとしよう。遭遇した人が役者をクマだと思えば、脳や神経系の反応は、本物のクマに出会ったときとまったく変わらないはずだ。
あるいは、大きな毛むくじゃらの大に出くわし、恐怖のあまリクマと勘違いしてしまったとしよう。それでもやはり、自分と環境について真実だと信じることに対して自動的に反応するはずだ。
このことからもわかるように、自分自身に関する知識やメンタル・イメージが歪んでいたり、現実と違っていたりしたら、周囲の環境に対する反応も、やはり不適切なものになってしまう。
イメージ・トレーニングの有効性
私たちの行動や感情が、自らが抱いたイメージや信念の結果であることに気づくと、人格を変えるための必要な心理的手段が開示されたことになる。
新たな技能や成功や幸福といったものを手に入れるための心の扉が開かれるのだ。ここで、イメージ・トレーニングの考え方を全面的に支持する学術文献を紹介しよう。
イメージ・トレーニングには、現実の行為と同じぐらいの力があるということを理解してもらいたいからだ。
心理学者R。A・ヴァンドルによるダーツのイメージ・トレーニングの実験がある。被験者に、毎日一定の時間だけ、的の前に座ってダーツを投げるところをイメージさせたのだ。
するとその結果、実際にダーツを投げた場合と同じ進歩が見られた。
『リサーチ・クオータリー』誌には、バスケットボールのフリースローの技術を向上させるイメージ・トレーニングに関する実験が報告されている。
その実験では、学生を三グループに分け、第一のグループには二〇日間にわたって毎日実際にボールを投げる練習をさせ、最初と最後の日にスコアを記録した。
第二のグループについても最初と最後の日にスコアを記録したが、その間はまったく練習をさせなかった。
第三のグループについては、最初の日にスコアを記録し、その後ボールをゴールに投げるところを毎日二〇分イメージさせた。
このとき、失敗したら狙いを修正するところもイメージさせている。この結果、第一のグループでは、スコアが二四パーセント伸びた。まったく練習しなかった第二のグループでは、一切向上が認められなかった。
一方、イメージ・トレーニングしかしなかった第三のグループが、二三パーセントもスコアを伸ばしたのである。もちろん、細かく見ると効果の現れない結果もあったが、この実験は幅広く報告。引用され、以後長年にわたり多くの大学・研究機関で繰り返されている。
この実験は厳密に科学とは呼べないという意見もあるかもしれないが、イメージ・トレーニングは有効な科学といえるだろう。
技術を向上させたり、心に植えつけられた「真実」の改変を通じて行動を変えたりすることのできる、十分に立証された実践的な手段なのである。
成功した単純な場面をたったひとつ鮮明に思い描く
有史以来、成功を収めてきた人は、方法の違いはあるものの、メンタル・イメージとリハーサル演習を積み重ねてきた。たとえばナポレオン。
ボナパルトは、実際に戦場へ赴くようになる何年も前から、イマジネーションの世界で戦闘の演習を行っていた。
『〓諄F”,①〓o∽一o』くo壕口お(人生を最大限活かそう)』のなかで、著者ウェッブとモーガンはこう言っている。
「ナポレオンがこの勉学に努めた時代に書き留めたメモは、本にすると四〇〇ペ―ジにも及ぶだろう。彼は自分を指揮官と想定し、コルシカ島の地図を描いて、それをもとに数学的に厳密な予測を行っていた」ホテル王といわれるコンラッド・ヒルトンも、最初にホテルを買収するはるか以前に、自分がホテルを経営するところをイメージしていたという。
少年時代のヒルトンは、よくホテルのオーナーになる遊びをした。ヒルトンの成功は、貴族の未亡人のものだった荒廃した物件を購入したときに始まる。
それは彼の手で美しさを取り戻し、一級の物件として生まれ変わった。ヒルトンは言った。
「最初にその物件を見つけたとき、現状として見るのでなく、改装後のホテルとして細部まで鮮明な写真を思い描いた」また、ジェーン・サヴオアは、アメリカでとりわけ高い評価を得ている乗馬コーチだ。
二〇〇〇年のシドニー・オリンピックでは、アメリカ馬術チームのコーチを務めている。彼女は、イマジネーションのパワーが見込みに打ち勝ってしまったケースを次のように語っている。
たとえば、一九八九年の北米選手権の選考試合で、私自身こんな経験をしています。この試合で勝てそうにないと思える事実は山ほどありました。
私が乗るサパテーロはトップクラスの馬でしたが、まず、この馬で試合に臨むのは初めてで、確かな絆を結び十分なコミュニケーションを図る時間がありませんでした。
また、サパテーロはまだ若く、競技に必要な体力も不足していました……。こうした点を考えれば、最高の結果をイメージするのは困難でした。そこで私は、代わりに授賞式のシーンを視覚化しました。
その日までに何度か、静かな場所で目を閉じ、リラックスして、ウイニングランをしている自分を思い描いたのです。
その際、「事実」について考えるのはやめて、疑念や不安が心に忍びこまないようにしました。そして選考試合当日、サパテーロと私は本当にウイニングランをしていました。
信じられないような話ですし、決して準備や努力の必要性を軽んじたわけではありません。
でも、自分の望む結果がもう出ているかのように、それに思いを集中することが最終的に成功を収める大きな要因になったのです。
重要なのは、やや旺盛なイマジネーションに失敗のイメージを呼び起こさせないで、ポジティブな結果を必然と見なし、それだけを考えることでした。
そうしたら、心(サーヴオ機構)が目標を達成する手立てを与えてくれ、上手に馬に乗れたのです。疑り深い人は、これを偶然の一致や幸運な出来事と片付けるだろう。
しかし、ジェーン・サヴォアはサイコ=サイバネティクスの実践者で、自らの確信を裏付ける出来事に数多く出合っている。
というより、一流乗馬選手のインストラクターやコーチとしても長年にわたリサイコ=サイバネティクスを使っており、先述したとおり最近オリンピック・チームのコーチを務めた際にも活用している。
成功した単純な場面をたったひとつでも鮮明に思い描くだけで、このように疑念や不安やおびえがなくなり、成功メカニズムを望むターグットに向けさせられるようになるのである。
メンタル・リハーサルを本格的に実践すれば、はるかに効果的であることは、おわかりだろう。
自己イメージを変える毎日30分のエクササイズ
あなたの宗教的。思想的・哲学的な立場がどうだろうと関係ない。また、この方法をどう表現してもかまわない。イメージ・トレーニングだろうが視覚化だろうが、メンタル・イメージだろうが、好きに呼んでもらってかまわない。
ただ、大切なのは行動することだ。
これを利用する目標を決めて、まじめに取り組めば、十分に満足のいく結果を得られるはずだ。そして、一生使いつづけることで、素晴らしい恩恵にあずかれるだろう。そこで、手始めにすべきエクササイズを挙げよう。
現在のあなたの自己イメージは、かつて自分について描いたイメージをもとに構築されている。それまでの経験による解釈や評価から生まれたものだ。
したがって、ふさわしくない自己イメージを構築したのと同じ方法で、ふさわしい自己イメージを構築することもできるのである。
まず、毎日三〇分、邪魔の入らないところでひとりになろう。リラックスして、できるだけ気を楽にする。それから目を閉じて、イマジネーションを働かせよう。
大きなスクリーンに映された自分自身の映画を観ているとイメージしてみる。大切なのは、その映像をできるだけ鮮明に、しかも詳しくイメージすることである。
あなたのメンタル・イメージを、なるべく現実の経験に近づける必要がある。そのためには、イメージした世界の細部、つまり光景や音やそこにある物に注意を払おう。
このエクササイズでは、何よりもイメージした世界の細部が重要となる。
こうしたイマジネーションが十分に鮮明かつ詳細なものなら、イメージ・トレーニングは、あなたの神経系にとって、現実の経験と変わらないものとなる。
次に、その三〇分間、自分が完璧に適切な行動や反応をしているところを思い描く。
昨日どう行動したかは問題ではないし、明日は完璧な行動をとっていると無理に信じようとする必要もない。
トレーニングを続けさえすれば、そんなことは、いずれ神経系がなんとかしてくれる。希望するとおりに行動し、感じ、生きている自分を思い浮かべよう。
「明日はこんなふうにするぞ」などと自分に言い聞かせないこと。「今日これから30分、自分がこんなふうにしているところをイメージしよう」と思うだけでいい。
すでに自分の望むタイプの人格になっていたとしたら、どう感じるかをイメージする。
もし内気で臆病な性格なら、たくさんの人と気楽に堂々と付き合い、それを心地よく感じている姿を想像しよう。
何らかの状況が怖くて不安なら、沈着冷静に振る舞い、自信と勇気をもって行動し、安心感を覚えている姿を想像しよう。
このエクササイズによって、脳と中枢神経系に新しい「記憶」、すなわち蓄積データが組み込まれる。新しい自己イメージができあがるのである。
しばらく続ければ、やがで意識せずに自動的に「それまでとは違った行動をしている」自分に気づくだろう。
いまの自分がだめだとかふさわしくないとか感じるのに、いちいち意識したり努力したりしないはずだ。その反対の習慣を身につければいいのである。
現時点でのふさわしくない感情や行動は、自らの自動制御メカニズムに組み込まれた現実の記憶やイメージの記憶に基づく自動的なものだ。
同様に、この自動制御メカニズムがネガティブな思考や経験だけでなく、ポジティブな思考や経験にも自動的に働きかけることに気づくだろう。
●注記*1ローマ鼻…わし鼻ほどではないが鼻梁の高い鼻。
*2コンラッド・ヒルトン…一人八七〜一九七九年。アメリカのホテル業者。ヒルトン・コンツェルンを設け、世界最大のホテルを含め、多くのホテルを経営、ホテル王と呼ばれた。第二次大戦後はヨーロッパ、アフリカ、アジアにも事業を拡張した。
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