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日常運営の定石

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定石48:中小企業の真の強みは、社長を頂点とした意欲ある「同志的集団」の形成にあるよって、社長は「経営の和」を創る名人となれ

私が入社した当時のスター精密は年商25億円で、社員も100名程度の典型的な中小企業であった。

それから約40年で、国内だけで従業員は800名まで増えた。従業員が200名、300名と増えて会社が大きくなっていくなかで、私が肌で感じたことは、中小企業の強みは、何といっても「経営の和」による社長と社員の一致団結から生まれるということであった。

だから、中小企業の社長は「経営の和を創るヒト」、それも名人でなければならない。経営の和があればこそ、資本力も組織力もない中小企業が大企業に対抗できるような力を発揮することができる。もちろん、ここでいう「経営の和」とは、「人の和」などといった仲良しクラブ的な軟弱な考え方ではなく、はっきりとした目的意識をもって、 一つの方向性を具体的に示す戦力のことだ。

要するに、「社長の夢が社員の夢、社員の夢が社長の夢」というぐらい密に、社長と社員が互いにコミュニケーションを取り合うことで経営の和は強まる。常に社長が「こういう会社にしたい」という青写真を示しながら社員に語りかけ、社員も「そうですね、頑張りましょう」と呼応するからこそ、強力な力が生まれるのだ。

ここで一つ申し上げておきたいのは、経営の和の源泉となるのは「社長への社員の信頼感」である。すなわち、「この社長のもとで働いていれば一生安心だ」という信頼感があるからこそ、社員は人生を掛けて会社の発展に尽力してくれるのであり、この信頼感に、雇用の安定と給与の保障という形で具体的に報いてやることが、社員の力を最大に発揮させる要因となるのだ。

ゆえに、創業まもない頃ならともかく、10年も20年も「いまは十分な給料を払ってやれないが、儲かったらうんと上げてやる、悪いようにはしないからな」と言い続けて、「良くなっていない」とすれば、社長として社員に対する責任を放棄しているのと同じだ。

何年たっても給料は安いまま、労働条件もキツいままでは、「口では調子のいいことばかり言うが、信用できない」ということになる。毎年、社員の生活水準がわずかでも確実に向上していかないと、社長と社員の団結力にヒビが入り、信頼感も失せてしまう。

手前味噌になるが、我が社だってわずか社員6名、掘っ立て小屋の町工場からスタートし、その創業期には隣の息子さえ就職しなかった有様だ。しかし、零細企業がいつの間にか上場し、やがて世界を舞台に活躍できるまでに成長できたのは、社員になんとか報いてやりたいという社長の思いと、それを感じ取ってくれた社員との「経営の和」がもたらす、社員の高いモチベーションがあったからに外ならない。

前にも書いたと思うが、スター精密には労働組合があるが、労働闘争が起こったことは、これまでただの一度もない。労使共通の目標ということで、「企業は永遠に発展する。社員の生活はたゆまず向上する」というスローガンをつくり、「安月給も労働条件の悪さも我慢しよう。社長と夢を共有しよう」と、積極的に協力してくれた。もちろん、このスローガンは創業60年を超えた今でも、我が社の理念の大切な一つとして根付いている。

正直に言って、当時の給与水準は、同一地域でかなり低かった。しかし、「社長として、君たちの生活向上を考え、給与の改善に本気で努力するから、君たちも努力して欲しい」という呼びかけに社員が呼応する形で、業績も給与も共に一歩一歩引き上げてきた。

古い話だが、石油ショックの時に日本の物価は36%も上がった。その時も、スローガン通りに36・5%のベースアップを歯を食いしばって実行した。社員の生活は「たゆまず」向上すると約束したからだ。そして「スローガンを守るかわりに、みんなも一生懸命に頑張って欲しい」と訴えることによって、何度も難局をくぐり抜けてきたのである。改めていうと、労使が共通の夢に向かって一九となり、少ない人数で儲けを多く分配する、

これが中小企業経営の醍醐味であり、社長にとっての理想郷だと思う。とすれば、社長が社長としての役割を果たすことが、会社の永続繁栄のキメ手になる。社員に対して、立派な社長と言われるような役割をきちんと果たすことが、会社の発展の原動力となるということだ。

そして、役割を果たすことで心から尊敬され、尊敬されるから人生をかけて協力してくれる。それが最善の経営であり、自らの社長人生を豊かなものにする、最高の生き方だと私は思うのである。

定石49:達成感こそが人材を育てる そのために社長は、能力向上とより高い目標設定がらせん状に上がっていく「好循環サイクル」をつくれ

中小企業の社長の仕事というのは、本当に多岐に渡るものであるが、部下の育成というのも大事な仕事の一つである。

当たり前のことだが、社長一人で仕事はできない。社長の意図を十分に飲み込んで結果を出してくれる幹部がいて、はじめて仕事ができる。

しかし、現実には世の中の多くの経営者が人の使い方に悩み、苦労している。「どいつもこいつも自分が何をすべきかまるでわかっていない、我が社にはろくな幹部がいない」、「やかましく指示しているのに、俺の思うように動いてくれない」と嘆かれる社長がいかに多いことか。それだけ人の上に立つ人は、部下の「笛吹けど踊らず」という態度に苦労していると思う。

それでは、どうすれば部下が育ち、社長の意図を達成すべく自主的に動くようになるかといえば、社長自らが人材育成の「好循環サイクル」を築くべきなのだ。

「好循環サイクル」とは、目標設定と達成のための必要なチェック、助言・協力によって目標を達成し、その達成感を自信と意欲につなげて、より高い目標に挑戦するという、能力向上のスパイラルである。

第56表をご覧いただきたい。これが人材育成の好循環サイクルを図にしたものだ。

経営の本ではよく「PLAN (企画)DO (実行)CHECK (審査)」が仕事を進める原則とされているが、私に言わせれば、企画したものはどんなことがあっても実行させ達成させる。そして達成させるためには途中でチェックし、助言。協力をし、達成感を味わわせるという工程を、組み込むべきなのだ。

すると、P←D←Cの流れに、達成したことによる能力の向上と、さらに質の高い目標の設定という要素が新たに加わり、らせん状のサイクルが構築されるようになる。つまり、日標設定と達成のためのチェック、助言。協力によって目標を達成し、次のより高い目標に挑戦するという、いわゆる「好循環サイクル」が起こるというわけだ。

人間というものは一つの目標を達成すると、必ず次の目標にチャレンジする意欲が湧いてくる。達成感を味わった部下は、必ず前よりももっと高い目標を目指してくれる。それが必ず会社を大きくしていく確実な原動力となるのだ。

ただし、好循環サイクルの構築のためには、部下への目標設定も実現可能なものでないといけない。いつも未達、未達の連続では、社員は自信を失い、より高い目標に挑戦する意欲も高まるはずがない。これでは、能力の向上どころではなく、「悪循環サイクル」となりかねない。

要するに、過去の実績からみて考えられないような目標を掲げて、部下に実現しそうもない高すぎる目標を設定することは、「社長の出す数値は信用できない」と躾けているに等しいのだ。

ところで、私の門下生の一人に、この好循環サイクルをじつに巧みに構築されている社長がおられる。

A社では、5年先までの経営計画を立てるのだが、これを幹部と一緒につくる。もちろん、社長一人でも計画をつくるのだが、それとは別に、幹部と社長が一緒になって5年計画を立てることが大事だと考えておられる。

なぜなら、長期計画を一緒に作成することによって、日標数字がただの社長のヤマ勘で決められた数字ではなく、様々な角度から検討された実現可能な目標であること、そして何より、その目標数字を達成する真の目的が、自分たちの生活向上を願う社長の強い思いであることを、幹部がきちんと理解するからだ。

じつは、A社の幹部の方々は、私のセミナーにA社長が参加される際に、1人か2人ずつ同伴され、佐藤式経営の定石とその理念を理解した方たちである。私のセミナーは泊り込みの合宿で、まる4日みっちりと勉強するかなリレベルの高い内容なのだが、それでもA社長はこれまでに10名ほどの幹部を連れてこられている。

すると、セミナーで勉強した幹部と勉強していない幹部では、日標達成にかける意欲が自ずと違ってくる。たとえば、あなたが営業部長の立場だったらどうだろうと、考えてみていただきたい。社長に呼ばれ、「営業部長、今後5年で何とか20%増の売上計画をつくってくれ」と指示されたとしよう。毎期、社長の気楽な夢をいきなり売上計画や利益計画にした、水増しの数字に慣れた幹部なら、「どうせあらかじめゲタをはかせた目標だろう」と思うのではないか

そうなれば、はじめから検討もなにもしないで、「社長、20%増はキツイ、主力商品が伸び悩みですし…」と、消極的な返事をするのも当然といえば当然のことだ。

しかし、社長と一緒に長期計画をつくった営業部長には、売上20%増の根拠が、過去の実績と市場性、GDPの推移など様々な数字を踏まえて設定したものだとわかる。加えて、この売上をやらなければ、自分たちの生活向上もすべて狂ってくるという思いもあるから、目標を達成するために「あれは20%いけるが、こっちは5%増がいいとこか」というように、営業品目別あるいは営業拠点別に、売上20%増の具体的な計画を真剣に考え始めるのだ。

製造部長にしても、私の経営の定石を学んでいる人間なら「今期は最低でも付加価値率40%になるように考えて欲しい。今後とにかく付加価値率が0・5%より落ちないように、外注製作、買い入れ部品、生産計画を一つ一つ検討して欲しい」と指示すれば、社長の意図をすぐに理解するだろう。そして、「これからは人を増やして増産する時代ではない。設備投資枠は6億円だから、社員を増やさないでパートでできるような仕組みを考えよう」と具体的施策案を立案してくれる。

経理部長はどうか。「5年後に無借金にするぞ、専門家として俺をしっかリフォローして欲しい」と頼めば、「社長は資金運用をこう考えている。うちにはこれだけ資金が遊んでいるが、当座預金はこれだけにして、残り一日でもいいから金利を稼ぐような体勢をつくろう」となるだろう。

総務部長には、「我が社はこれからパートを増やしていく。パートの待遇、パートの採用が新しいテーマだ」と提示すれば、「当面は新卒1名、パート2名で採用計画を立てよう。なぜなら、5年後の社員の給料、賞与をこれだけ上げたいという社長の意図を達成するためには、この人件費枠におさめなければならないからだ」と考えが及ぶようになる。

このように、幹部が経営の定石をしっかりと理解し、その目標値をもとに社長と一緒に長期計画を立てれば、どの幹部も、なぜその数値でなければならないかを理解した上で、自社の人材、販売力、商圏などを活用して、どうやって社長の出した方向づけを効率的に、無駄なく実現していくか、その具体的な手の打ち方のポイントが掴めてくる。

このように、日標の実現性と具体的施策さえ見えてくれば、人間というのは俄然、意欲的に取り組むものだ。かくして、全社を挙げて、社長の夢の実現へと走り出すことになる。要するに、まずは社長の示す目標数字が、思いつきではなく、練りに練った実現可能なものであることをしっかりと理解させるのだ。

そうしておいて、社長と一緒に立てた5年先までの経営計画を、それぞれの部門でいかに目標達成するか、幹部らに具体策を立案させ、これを月ごとの目標値にして現場に落とし込ませる。

そして、毎月の幹部会議で彼らとひざを突き合わせながら、月間目標の達成度合いを検証し、当初想定した条件との誤差を見つけて新たな対応策を練り、これを実行させるのだ。そしてまた翌月に、前月立てた修正計画通りに行かない場合は再度実行プランを練り直し、実践し…と、毎月毎月、毎年毎年絶え間なくこのサイクルを繰り返していくことで、A社の幹部社員の能力はどんどん向上してきた。

経営の視野が広がり、事業推進の手腕が養われ、部下の指導・育成にも長けてくる。やがて、若手の中から後を継ぐ優秀な幹部候補がいつの間にか育ってくるようになった。

このように、全社を挙げて絶えずらせん型により高い目標へ上昇し続ける過程で、社員の能力はおのずと高まり、同時に社長自身の先見能力や経営手腕も飛躍的に磨かれて、予期しなかった事態への素早い対応や、より次元の高い事業目標に挑戦することが可能になるのだ。

要するに、会社全体の能力を一回り大きくしていくのが、社長の本当の統率力であり、その実現は、好循環サイクルの形成にあるということだ。

定石50:会社は、社長の器以上に大きくはならない 社長の一挙手一投足を社員は真似し、いいてはそれが社風となるのだ

最後に、中小企業というのは、社長の考え如何によって立派な社風ができる、すると、細かい指示はなくても、会社独特の素晴らしい成果が上がるようになるということを、心に留めておいて欲しいのだ。

社長の一挙手一投足が社風を作るということは、疑いもない事実である。部下は社長の一挙手一投足を、驚くほどよく見ているものだ。よその会社に電話して、部下の方が社長と同じような話し方をするのに驚くことがある。皆さんもご経験のはずだ。社長のちょっとしたしぐさや話し方の癖までまねるのが、部下なのである。

同族企業では多い例だが、なにもしない社長の奥さんに、朝から夜遅くまで一所懸命働いてくれる人の何倍もの金額を給料として出したり、個人のお歳暮を会社の費用でとか、子供の車を会社の経費で、という公私混同の例は枚挙にいとまがないほどだ。

極端な例では、社長の家族が契約デパートヘ行って日用品や食料品から衣服、宝飾品に至るまで好きなものをツケで買って、会社が商品券の形でその経費を落とすということが実際にあったのには驚いてしまう。その会社で働く社員は哀れというべきだろう。

これがそのまま社風になったらとんでもないことになる。社長がやるなら私もオレもで、あそこはちょっと問題だね、などと得意先や仕入れ先の噂になるようでは、まさに先行きが思いやられる。こんな会社では、いくら社長が経営ビジョンを発表しても、白けきった社員の本当の協力は得られない。結局、社長のわがまま勝手の面倒見は真っ平ごめんということになりかねない。

もし読者の会社の社風がすばらしいと、外部からの評判であれば、社長は今の行き方を自信をもって、進めていただきたい。しかし、ちょっと気になるような評判を耳にするようなことがあったら、その原因は社長自らがおつくりになっていると自覚してほしいものだ。

すなわち、社長の器、あるいは社長の人格が、社格を決めると言っても過言ではないということである。

ところで生前、親父から、こういう話をされたことがある。

「いいか、音の剣術は、今、剣道として残っている。昔の柔術は、今、柔道として残っている。弓術も弓道として残っている。それではなぜ、忍術というものが忍道として残らずに、廃れていったのかを考えてみるとよい。

剣術も柔道も弓道も、現在に至るまで残っているものはすべて、達人と呼ばれる人たちのたゆまぬ精進によって、人の道に通じるところまで切磋琢磨されたからだ。

一方の忍術だけが、邪の心に支配されて、人の心にまで磨き上げることができなかった。それゆえ、忍術は忍道にまで昇華できず、いま廃れているのだ。

経営も同じである。社長が、経営というものを単なるカネ儲けのツールと捉えていたら、会社を永続させることは到底できない。

経営を術と捉えてテクニックに溺れる、ということなく、人の道に反することのないよう社会のため、従業員のためと、あらゆる人の道に通じるよう、いわば経営道を自らのなかで築くことができれば、会社というのは自ずと良いものになっていく。

だから、スター精密という会社を率いていく以上、我々は常に人格を高め、経営道を極めていく努力を怠ってはならない」ずい分昔に言われた言葉だが、この教えは親父の残してくれた50の定石とともに、いつも私の胸のなかにある。

これまで述べてきたとおり、経営の定石というのはどれも非常に地道で、ある意味平凡なことばかりだ。しかし、この地味で平凡なことを徹底的に実行できるかどうか、愚直に守り抜くことができるかどうかが、これからの厳しい経営環境を勝ち抜く要諦と私は捉えている。

だからこそ、たとえ地味であっても、これが経営道に通じる確かな布石と信じる限り、定石を大事に経営していこうと心に決めているのだ。

著者 佐藤肇(さとうはじめ)氏について

スター精密帥代表取締役会長。

1975年、学習院大学経済学部卒業後、父(故)佐藤誠一が裸一貫で創業したスター精密に入社、父とともに、典型的な中小企業だった同社を、東証一部上場の小型音響部品・工作機械等の世界的トップメーカーに育て上げる。

氏は父から受け継いだ経営ノウハウを、「佐藤式先読み経営」としてさらに進化させ、徹底して実践。その結果、アメリカのサブプライムローン問題に端を発した現在の世界的大不況で、多くの企業が大幅な減収減益にあえぐ中、同社は経常利益率20%、総資本利益率12%、自己資本比率81%という、抜群の収益率と高い健全性を誇っている。

また、激務の傍ら、地元静岡の若手経営者60余名から成る「佐藤塾」をはじめ、日本経営合理化協会主催の「長期経営計画作成ゼミ」「経営数字マスターゼミ」を主宰。第一線で活躍する実務家ならではの実践論に裏付けられた指導で、製造・流通・サービス・建設・小売…と様々な業種業態の中小企業経営者に自らの経営ノウハウを伝授。現役の東証一部上場企業経営者から直接指導を受けられる稀有なセミナーとして、毎回キャンセル待ちが出るほどの人気を博している。2017年、社長を退き会長に就任、現在に至る。

1951年生まれ。著書に『佐藤式先読み経営』『社員の給料は上げるが総人件費は増やさない経営』(ともに日本経営合理化協会刊)など。

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