30年書き留めた気づきメモを公開
「心得」というと、「経営者の心得」「仕事の心得」などのように、そのことに関するもっとも大事な、煎じ詰めた要諦のようなものを想像するかもしれない。
有名なものでいえば、武士の心得は「武士道とは、死ぬことと見つけたり」であったり、サントリーでは「やってみなはれ」、リクルートなら「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」、そして、o8∞中①が掲げる10の事実(行動指針)の1番は「ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる」……などなど。
一方、このあとに掲載する「新規事業の心得」は、エッセンスという部分においては共通ではあるものの、それ以外はあらかた違うものだ。
じつはこの心得は、私自身が社会人になってから今日までの30年あまり、ずっと書き溜め続けた「膨大なメモ」である。
やり方は、ひたすらワードでメモを書き綴っているだけ。分類もせず、ただただ、つけ足していくだけ。自分だけのメモなので、自分がわかれば体裁には拘らず、大事なことは、ラクなオペレーションで継続性を確保、気づいたら、とにかく書き足しておく、という感じだ。
初めのころは時々しかとっていなかったが、いまとなってはほぼ毎日メモしていて、溜まりに溜まったコンテンツはトータル70万文字。200ページほどの書籍に換算すると、5〜6冊分くらいの分量になっている。もはや、メモの域を超えて、「自分だけの書籍」となっている。
では、その70万文字、いったい何のメモなのかというと、起業や新規事業の日々の活動の中で、
「こういうことはじちゃいかんのだな…」
「ギリギリセーフ、なんとか切り抜けた〜」
「要は、こういうことか!」
「これ、みんなに知っておいてほしいな」
など、みずからおこなった中で気づくに至り、ハッと心が動いたことを「三度と忘れないように書き留めたメモ」なのである。
以降は、本章の冒頭に書いたとおり、そのメモの中から、本書の補足や理解の助けとなるような一文を選んだ、抜粋転載である。皆さんの新規事業に、何かしらのヒントや参考になれば、と願っている。
「マーケットアウト」の心得メモ
・マーケットアウトな新規事業は事業革新が肝であり、事業革新とは既得権益者では取り組みが難しい事業構造自体の変革により、顧客の利益を最大化するまったく新しい価値を生み出すことである。
・プロダクトアウトな新規事業は技術革新が肝であり、技術革新とは既存の技術の組み合わせ、もしくは新しい技術の開発により、提供する製品にまったく新しい機能や性能を生み出すことである。
。顧客側から自分たちを見ると新しいビジネスが生まれる。
・絞り込んだマーケットに高付加価値をもって参入し、たりながら如何に進化していくのかがマーケットアウトビジネスである。
・顧客視点でビジネスを考えるには、顧客のことを顧客以上に理解しなければならない。そうして初めて、意見や不満の裏側にある本質が見えてくる。
。定性調査(顧客1人の意見)で仮説を創出し、定量調査(たくさんの顧客意見)で仮説を検証する。100の分析データをもってしても見えないことが、1つの顧客インタビユーで見えることがある。
。モノゴトは、ぬずいくつもの性格や側面が存在する。「フロントホックのブラは、どんなブラか?」という質問に対して、95%の男性は、「前で外すブラ」と言い、95%の女性は、「前で着けるブラ」と言う。同じものであっても、みるものによって全く工反対のことをイイ、そしてそのどちらもが正しいことがある、ということである。
oWinlWinは当たり前である。どちらかが得をして、どちらかが損をするようでは、結局全体では付加価値を創っていることにはならない。その意味において真に付加価値を創っているなら、WinlWlnは当たり前のことになる。
。お金儲けで始めたビジネスは、スモールビジネスで終わる場合が多い。逆に、大きな事業を創るためには、大きなビジョン、高い恙が受要である。
。顧客利益の最大化は、値下げによってのみ成立するものではない。手間の削減、時間の節約、保証の提供。顧客の感じる利益は多様であり、価格はその一要素でしかない。価格は、差別化の決め手にはならない。
顧客の要望を表面的に理解してはいけない。要望が挙がっている原因は何か、その原因をつくった要因は何か、どうすればその要因を構造的に解決できるか。問題のボトムを甲く癖をつけなければならない。
・顧客がクレームを発した瞬間にビジネスの種をどれだけ読み取れるかが重要である。クレームを資産として活用するならば、先ずは呼び名をリクエストと変えることである。
「事業計画書」を顧客視点に置き換えると、「顧客価値創造計画書」となる。自分たちにとって都合のいいことは、多くは顧客にとって都合の思いことである。マーケットアウトビジネスは、自己否定の連続のビジネスでもある。
・呼び水がないと、顧客から本当の意見は出てきにくい。だから、試行錯誤は実戦でするほうがいい。この意味でいえば、多少のプロダクトアウトによるスタートはかまわない。
・製品を知っているのは顧客、メーカーは仕様を知っているだけである。
。売れるかどうかわからないプロダクトアウトビジネスにおいて、在庫は在庫リスクでしかないが、顧客のニーズに基づくマーケットアウトビジネスは、調逹できた時点で利益確定であり、在庫の概念をも変えるということである。紙で出来ることをネットに置き換えるだけではいけない。紙で出来ないことをネットでするからバリューが出る。
・供給者の多くがプロダクトアウトであるため、消費者自身もプログクトアウトになっている。何が本当に欲しいのかが、わからなくなっているということであり、その意味するところは、半歩先、一歩先の真のニーズを見極めなければならないということである。
「組織o人材」の心得メモ
。経営とは採用である、というほどに、採用は重要である。
・機能をしていない組織には、5つの共通の症状が見受けられる。①信頼の欠如、②衝突への恐怖、③責任感の不足、④説明責任の口避、⑤結果への無関だ、である。
・リピート率を上げるために事業のすべてを振り返る「リピート率特命担当」というポストを組織の中であまねく時限的に持ち回ると、事業の問題を多面的かつ、マーケットアウトに捉える風土が定着する。停滞している状況を、その組織の常識で分析しても、抜本的解決の糸口は見つからない。
。「0瞬件」人間と「101100」人間は迪性が違う。「011」人間は、011だけをやる場所があってイイ。
。経営者的人材の育成には、小さくても構わないので、「商売をするために始要な組織がワンセットで揃っている環境で経営を実戦させること」が重要である。
。総務や情報システム部を、インフラサービス部とネーミングすると、提供する価値が顧客視点となる。
。会社の都合にあった組織ではなく、マーケットの都合にあった組織を創ることが大切。そして、日々の事業活動自体が、顧客の声が集まる構造になっていることが重要である。
・迪材迪所ではなく、迪時・迪材迪所。改革者は、外部からやってくる。
oリーダーはすべてに関、にをもって目を凝らさなければならない。担当者に丸投げして、イチャモンをつけるのではなく、任せてアドバイスしなければならない。
バスに誰を乗せ、どこに座らせるのかということは、非常に大切である。そして、次のバス停や、その次のバス停の行き先と、最終目的地は変わるかもしれないということの共有が出来ていることも、同じく大切である。
事業に関するアイデアは想像以上に現場に眠っているものであり、その意味において、如何にアイデアを集めるかは、如何にアイデアを出しやすく出来るかが肝となる。
・起業の起は、己が走ると書く。企業の企は、人が止めると書く。
・顧客とともに変化することを進化といい、自社の都合で変化することを退化という。
・失敗をキャリアととる文化と、前科ととる文化がある。
「戦略・ビジネスモデル」の心得メモ
新しいことを始める時に、必ず必要なものは「仮説」である。
。新規事業において、既存事業と根本的な発想の逹いを徹底的に追求することの意味合いは、既存の発想のビジネスでは既存プレイヤーに敲うわけがないという、じつに実務的な意味合いである。
。価格を下げるな、価値を上げろ。
。ブルーオーシャンを発見する基本的な考え方は、「何かを大胆に増やす」「減らす」「付け加える」「削減する」である。大企業は同じことをやっても勝てる戦略をとる。それが強者の戦略であり、肝は組織カである。それに対し、ベンチャーは弱者の戦略をとらなければならない。それは、他社が出来ないことをする戦略であり、肝は付カロ価値である。
。いままでのビジネスは、1人で出来ないことを100人で出来るようにするビジネスであったが、これからのビジネスは、1人のスキルを最大限に発揮できるようにするビジネスである。
。多くの問題の本質は、ビジネスモデル、もしくはマネジメントシステムに起因する。
・参入障壁=真似できないこと×続けること
。ネット取引の強みは、人手である。ネットの利便性に加え、痒いところに手が届くサービスの確立が新しい流通の肝である。
。如何にベイラインに乗せるかではなく、競合が来たときにどうしたら勝てるのかを検討しなければならない。先行者のメリットが蓄積できる構造になければ、確実に、遅行者のメリットに駆逐される。
・市場規模は、既存の価格構造における市場規模だけではなく、新しく構築する価格構造に置き換えて見積もる船妥がある。そして、その差額は、顧客利益のひとつの目安となるのである。
。1千億円のビジネスの創出の意味合いは、「大きい」ではなく、「新しい」である。
「社長」の心得メモ
・問題は、どうやって革新的な思考が出来るかではない。如何にせい思考を取り払うことが出来るか、である。
・顧客に支払ってもらっている価格の内訳の多くは、場所代や人件費、材料費や広告費という、その企業が存続するために踏要な経費によって占められている。顧客が本来、正当と感じる「付カロ価値」に相当する部分は、口ヽいのほか、少ない。
。「失敗を憑れない」はなかなか出来ないものである。だからこそ、「どうなったら失敗なのか」という失敗のラインを引くことが、みずからの不安に打ち勝つ一歩となる。
。経営の不安を取り除くことは不可能である。その不安の中で、如何に成功するかが経営であり、起業である。
・新しい戦略への不安に打ち勝つには、「打つべき手はすべて打った」という腹の括りが始要である。
。無から有を生むには、法則がある。①最初から完璧を求めない。②言葉の裏づけの共有
をする。③需要には爆発点がある。④「のめり込み」は禁物。
。前例のない新しいことを始めるときには、現場の第一線は現実に直面し組織がぐらつくことがある。このとき顧客に強い要望があり挑戦する価値があると思うなら、それは経営者の信念として押し通すことがトップの役割である。
・組織でマーケットアウトするということは、現場の意見を聞く姿勢が経営者にある、ということである。
。事業が成長することによって生まれるメリットをどう説明するかで、その経営者が判る。多くの経営者は、自社の利益の拡大を語るが、マーケットアウトな経営者は、マーケットの利益の拡大を語る。
。新規事業の成功の分かれ日は、煎じ詰めれば、成功するまでなにがなんでも頑張る一人がいるかどうかである。
。経営者がもつべき勇気は、2 つある。言わせる勇氣と聞く勇気である。
。一番の敲は、自分自身の硬直と油断。
・ビジネスにおける最大の問いは、顧客にとっての価値は何であるか、である。
新しい取り組みは、何がどうなるかわからない面がある。だから「やってみよう―」というひと言で取り組めることが、一番大事だったりする。
著者/守屋実(もりやみのる)氏について
新規事業家。30年で50余りの事業開発に関わる、わが国屈指の「新規事業のプロ」。
自ら資金を入れて役員に就き、事業責任を負うスタイルを基本とし、医療、介護、 ヘルスケア、印刷、金融、教育、農業、製造業…と、様々な分野の新規事業に従事。2018年に「ブティックス」「ラクスル」を2カ月連続で上場に導いたほか、参画したスタートアップが毎年のように上場を果たしている。スタートアップの上場は1000社に1社と言われるなかで、その成功確率は驚異的である。
大学卒業後、機械工業系の専門商社ミスミ(現・ミスミグループ本社)に入社。創業社長の田口弘氏より、「新規事業がなかなか成功しないのは、やる人間が常に初心者だから。失敗しても成功しても新規事業をやり続けて、勘所がわかるプロになれ」と命を受け、10年にわたり新規事業に挑み続ける。
その後、田口氏と新規事業の専門会社エムアウトを創業。10年の間に、複数の事業の立ち上げおよび売却を経験する。田口氏の勧めに従い2010年に独立後は、20年にわたる新規事業の″量稽古´で身につけた「型」を駆使して、ベンチャーや大手企業の事業立ち上げ期に参画。ラクスル、ケアプロ、キャディ、シタテル、ガラパゴス、ファンディーノ、日本農業、サウンドファン、セイビー、リベラウェア、フリーランス協会、おうちにかえろう病院、博報堂、JAXA、JR東日本スタートアップなどの取締役、理事、アドバイザーなど、東京医科歯科大学客員教授、内閣府有識者委員などを歴任。一つでも多く、社会に役立つ事業を創造することを使命に、現在も10余社の事業立ち上げに奔走している。
(株)守屋実事務所代表取締役。1969年生まれ。主な著作に、『起業は意志が10割』『新しい一歩を踏み出そう! 』などがある
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