MENU

斜陽事業は赤字を出す前に捨てる

さて、じつはバランスシートの圧縮については、リーマンショック以前からすでに進めていたものがある。それは、大型プリンター事業からの撤退である。

大型プリンター事業は、もともと2002年に売上高72億円、利益16億円を稼いでいた収益の大きな柱だった事業であるが、マーケットの縮小、テクノロジーの変化、新興国メーカーの台頭が著しく、毎年毎年、売上・利益ともに下がり続け、とうとう2005年度は売上50億円、利益はゼロに近くなった。わずか3年でこんなに急激に落ちる事業は明らかに斜陽化していると判断し、まだ売上が40億円ある2006年時点で捨てることを決めたのだ。

ただし、まだ40億円の売上を出していた事業をすぐにやめることはできないので、お客様に迷惑がかからないように2006年から3年間かけてだんだんと縮小し、2009年に13億円の特別損失を計上して完全撤退を決めていた。この事業撤退の途中にリーマンショックが起こり、前述のとおり売上を大幅に落とした結果、2008年に738億円あった売上はわずか2年後の2010年には291億円と3分の1に急減、経常利益38億円の赤字。最終利益にいたっては、上場企業の会計ルールに則って税効果会計による繰延税金資産の取り崩しによる赤字増大で85億円の大赤字と、損益計算書(P/L)上は惨惰たるものとなった。

しかし、P/L上は85億円の大赤字でも、自己資本比率は81%と、売上高で3倍大きかった2008年の自己資本比率77・1%よりも向上している。もちろんこれは、斜陽事業の撤退と、在庫と売掛金の削減により、バランスシートの総資産を2008年の863億円から、2010年の506億円へと大幅に圧縮したからである。先ほど述べたとおり、とにかく経営の本質というのは少ない原資で多く儲けることである。そのために社長は常に事業の将来を読み、良くなるものを伸ばし悪くなるものを捨てていく。それが社長最大の役割といってよい。

しかも、斜陽事業からの撤退は赤字を出す前に決断しなくてはならない。多くの経営者はこれが非常に苦手であるが、結局、社長が明確な今後の展望を持ってさえいれば、売上の減少はこわくない。もしも斜陽事業の撤退にともない赤字を出したとしても、赤字の理由をしっかりと説明すれば、銀行も「前向きの赤字」と評価してくれる。

我が社の例で言えば、72億円の売上があった大型プリンター事業から撤退する一方で、その分の利益をカバーすべく、2002年にわずか部門利益6億円だった小型プリンター事業を着々と育て、2008年に利益40億円を出すまでの事業にした。

すなわち、斜陽化するものは赤字化する前に捨てる。そして新たな成長産業にいち早く着手し、そこに経営資源を集中させる。この繰り返しでしか、会社の永い繁栄はないのだ。

ただ、正直に申し上げるとリーマンショックが来なければ、ここまでドラスティックな経営をしなかったかもしれない。赤字事業の撤退と新事業の育成をやって、2010年あたりは売上が750億円かあるいは730億円のまま横ばいで、経常利益が少し減るくらいの業績になっただろう。

しかし、リーマンショックが来て売上を一気に落としたためにバランスシートを大幅に圧縮し、結果として、赤字前よりも資本の効率、自己資本比率ともに上げることができた。さらに、売上を抑えて斜陽事業から撤退したことにより、原価率と販売管理費比率も下がり、利益の出やすい体質になったのは冒頭申し上げたとおりである。儲からない事業を捨てたことによって設備も処分して、大連の工場の従業員も削減した。

そうやって固定費を中心に下げたので、売上高は2010年291億円、翌2011年は357億円と増加額そのものはたった60億円であるが、売上高増加分がほぼイコールで営業利益増加になっている。つまり、赤字前の2006年よりむしろ利益の出やすい体質になったということだ。

こうなると、経営は本当に楽になる。我が社の主力市場の景気が上向きになるにしたがって、無理に値引きしたり掛け売りせずとも高い利益を確保できる商売で、売上を伸ばしていけるからだ。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次