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採算判断と資金計画


設備投資効果の把握

(1)データの収集

設備投資の効果測定は、原則として数字による収支予想を行うことから始まる。まず、設備投資に伴う予測数字の基礎データの収集が必要である。電力使用量、作業分析、修繕費の必要額、設備の経済的耐用年数、営業マンの販売能力など、種々の社内データを蓄積しておく必要がある。これらのデータは、一般に大きな案件の作業時のみ収集され、あとは散逸することが多い。また、社内データだけでなく、できるだけ広範囲に外部からも収集する必要がある。

この投資効果測定の予測数字はあくまでも予測であり、必ずしもその通りになるとは限らない。場合によっては全くはずれることもあるので、この数字を用いての採算計算は意味がないという意見もある。しかしながら、数字を丁寧に考えながら作成していくことは、設備計画を十分に検討することにほかならい。

また、設備投資計画という経営の根幹となるものを、単に勘や思いつきで判断することはきわめて危険である。数字的にも十分に検討することにより、見直しや修正、あるいは中止も可能な判断基準を持てることになる。経営者が意思決定上の計数的根拠を持っているかどうかは、その数字のブンとは全く関係のないことである。

(2)キャッシュ・フロー

設備投資による投資効果は、いわゆるキャッシュ・フローの増加で把握する。キャッシュ・フローとは、企業活動から得られる現金ベースの収益のことであり、会計的にいえば、利益に減価償却費を加えたもの、すなわち減価償却費を費用負担させる前の利益(償却前利益)のことである。

減価償却費とは、設備の取得のため支払った価額を、その耐用年数に応じて会計的に配分した帳簿上の費用である。企業が固定資産を取得する時に要した金額については、資産の取得時点でその期間の費用として全額負担させることは、企業会計上不合理なことは明らかである。なぜならば、設備は長期間使用されるので、設備の取得価額については、その設備が使用される全期間にわたって設備の費用として按分し負担する必要があるからである。したがって、企業会計上から見ると、貸借対照表上の固定資産は、将来の期間費用、すなわち減価償却費のかたまりであるといえる。

減価償却費は、この取得価額を使用される期間(耐用年数)に応じて、一定の方法(定額法、定率法など)で期間配分して算出する。定額法とは毎期同額を、定率法とは、一定の比率を償却対象額に掛けて算出した金額を、減価償却費として計上するものである。

一方、減価償却費を資金の流れ(キャッシュ・フロー)から見ると、資金の流出は設備の取得時に発生するが、以後減価償却費を各期間に計上した段階では起きない。これは前述したように、費用には計上されているが、取得時に要した価額をただ期間配分した会計上の費用だからである。すなわち、減価償却費の金額だけ費用計上されていても、資金の流出という形での費用の支払いがないので、その分、社内に残っている。

では、簡単な例で見てみよう。すべて現金で受け取り、支払いをしている企業を例にとってみる。当社のある決算期の利益がちょうどゼロ、減価償却費が1億円の場合、ほかの要因を捨象すると、この期間にこの企業の現金は1億円増加している。

というのは、利益はゼロで資金の増加(キャッシュ・フロー)はゼロのように思えるが、この利益は減価償却費1億円を負担した後のものであるから、現金ベースで見ると1億円増加しているのである。

繰り返すと、減価償却費は現金の支出のない単なる帳簿上の費用であるから、この1億円は実際には資金の流出がなされていない。

(3)キャッシュ・フローの測定

増産投資の場合に、増加キャッシュ・フローをどう計算するか見てみよう。

まず限界利益分析について説明する。

①限界利益分析

限界利益を使用した設備投資効果の測定は最も利用され、有効なものである。限界利益とは売上高から変動費を差し引いたものだが、ここではまず変動費から説明しよう。

企業の費用は、変動費と固定費に大きく分類できる。変動費とは、企業の操業度の増減に応じて比例的に増減する費用である。仮に操業度がゼロであれば、変動費は全く生じない。メーカーでいえば、主として材料費、買入部品費、外注加工費などである。一方、商業では仕入原価が変動費である。

今操業度の指標に売上高を採用すると、変動費はつぎの式で表示できる。

変動費

変動費=売上高×

蔦吾:正藉

一売上高×変動費率

変動費は売上高の増減に応じて比例的に変動するので、変動費率は一定である。

一方、固定費は操業度に関係なく発生する費用で、人件費、減価償却費、金利などである。この費用は、操業度がゼロでもフル操業時でも、理論的には同額しか発生しない。もちろん費用の中には、この両者の中間的な存在もあるが、各種手法を利用して、固定費と変動費のいずれかに分けるのが普通である。

この結果、費用はつぎの式で表示される。

費用=売上高×変動費率十固定費

費用を固定費と変動費に分けることを費用分解といい、勘定科目で分類する方式が最も多く使われている。

この分析に関して限界利益の考え方も理解しておこう。限界利益とは、売上高から変動費を差し引いたものである。今、1個100円の売値のチョコレートを例にとる。このチョコンートの材料費(変動費)を30円とすると、 1個当たりの限界利益は70円となる。

この限界利益は、売上高の増加に伴って比例的に増えていく。

限界利益を数式で表示するとつぎのようになる。

限界利益=売上高一変動費

=売上高―売上高×変動費率

=売上高× (1-変動費率)

=売上高×限界利益率

前述のように変動費率は一定で、 1-変動費率、すなわち限界利益率も一定である。

限界利益率は、経営者がきわめて重視する数字である。というのは、この比率が高ければ、売上高の増加に伴い付加価値の高い増加が見込まれるからである。材料費を中心とした変動費に、社内の加工費(人件費、減価償却費など)および利益を加えたものが売値で、限界利益と粗付加価値は原則として一致する(粗付加価値=加工費十利益)。

それでは限界利益分析を使って、利益の算出方法を見ることにする。企業の利益はつぎの式で表示できる。

利益=売上高一費用

=売上高―(変動費+固定費)

=(売上高―変動費)一固定費

=限界利益―固定費

これで分かるように、限界利益が固定費より大きくなれば利益が生じ、反対に売上高が十分でなく限界利益が固定費に満たない時は赤字である。限界利益でちょうど固定費をカバーして、利益がトントンとなる売上高が損益分岐点である。利益を増加させるためには、イ)売上高を増す、口)限界利益率(=傾き)を高める、ハ)固定費を下げる、の3つの方法があることが読みとれる。

なお、通常は支払金利負担後の営業利益段階で限界利益分析を行うが、各企業の実態に応じて経常利益段階で行うこともある。

②設備投資効果の限界分析

まず、設備投資に伴う固定費の増加額を計算する。人員増がある場合は、人件費のアップ、減価償却費、固定資産税、火災保険料、金利(借入金に依存した場合)などがそうである。いずれも今次設備投資によって発生する費用である。

ついで限界利益の増加額を算出するために、売上高の増加額と限界利益率を設定する。新製品の場合は、限界利益率の予想には十分な検討が必要であるが、既存製品の場合は、外注部品を内製に取り込むなどのケース以外はあまり変わらない。これらの数字をもとに、設備投資による増加利益をつぎの式で算出する。

利益増加額=予想売上高増加額×限界利益率―固定費増加額

この利益増加額に、今次設備投資により生じた減価償却費を加えて、償却前利益に直す。これは、売上増加額から現金費用増加額を差し引いたものと一致する。

つぎの例で見てみよう。Zベーカリーの改築・改装による設備投資効果を測定してみる。

〈設備投資〉

イ)投資額 50百万円

口)資金計画

・自己資金 10百万円

。長期借入金 40百万円

。期間 4年

。償還方法 年末均等分割弁済

・金利 年10%

(借入金利については、年平均金利で計算)

ハ)耐用年数 10年(残存価額10%)

二)人件費増 年7.5百万円

ホ)新設備維持費 年5百万円(火災保険料・修繕費等)

〈設備投資による売上高の増加額は、100百万円〉

〈売上高(増加額)に対する限界利益率は28%〉

まず、設備投資に伴う固定費の増加額を計算する。

・減価償却費 (50-5)÷ 10=4.5

・新設備維持費 5

0借入金利

40× 0.1-+30× 0.1+20× 0.1-+10× 0.1

=2.5

4

。人件費増

7.5

合計19.5

つぎに限界利益の増加額を計算する。

増加売上高×限界利益率=100× 28%=28

したがって利益増加額は、28-19.5=8.5百万円となる。

(4)税引後のキャッシュ。フロー

税金は、キャッシュ。フローに大きな影響を与えるので、ついで税効果を見てみよう。

普通の企業は、一般に税金を払っているので、投資の成果に税金の影響がからんでくる。法人税などのように、利益にかかるいわゆる収益課税は、キャッシュ・フローに大きな変化を与える。

中小企業の実効税率は一般に40%強なので、ここで仮に40%としてつぎの例で税金の影響を検討しよう。ケースIは、設備投資前の収支であり、設備投資後にケースIIが達成されたとする。(II― I)は投資効果である。

このようにIとIIを比較すると、税金の影響がよく分かる。最初に税引前のキャッシュ。フロー(償却前利益)を見ると、Iの400がIIの600へと200増加している。これを要因別に見ると、売上高増400から現金費用増200を差し引いた金額である。ついで税引後のキャッシュ・フローを見ていく。

① まず、売上高が400増加すると、税引前利益は400増えるが、それに税金が40%かかるので税引後では400の60%の240しかキャッシュ・フローは増加しない

②現金費用が200増加すると、税引前利益は200減少するが、その40%は税金がかからなくなるので、税引後キャッシュ・フローは200の60%の120しか減少しない

③減価償却費が100増加すると、税引前利益は100減少し、税引後では、100の40%の40ほど税金支払いが少なくなる。このため、税引後キャッシュ・フローが40増加する

④以上、240から120控除し、40加えると最終的には160に増加する

これを要約するとつぎの通りとなる。

①現金収入

現金収入が1円増えると、税引後の最終的なキャッシュ・フ

ローは1円×(100%-40%)増える。

②現金支出費用

人件費などの、現金の支出を伴う費用が1円増えると、税引

後の最終的な現金の収支は1円×(100%-40%)減る。

③減価償却費

減価償却費が1円増えると税引後の最終的なキャッシュ・フ

ローは、 1円×40%増える。

このように税引後のキャッシュ・フローでは、減価償却費に税率を掛けた金額がキャッシュ・フローの増加要因として登場する。これは、減価償却費の節税効果(タックス・シールド)というもので、企業財務上、減価償却費が重要視される大きな要因である。

この租税効果の応用例をリースのケースで考える。

A酒店が、POSの利用を検討している。購入する場合は1,800万円だが、リースであれば月40万円のリース料で5年間の支払いとなる。資本コストを8%として、耐用年数5年、残存価額0とする。法人税等の実効税率は45%とする。

①まず、税効果を除いて計算してみる

年間に支払うリース料は480万円(40万円×12カ月)になる。リース料の現在価値を求めるとつぎのようになる。

4,800,000× 〔年金現価係数(8%、5年)〕

=二4,800,000× 3.9927

=二19,164,960

購入価格より、リース料の現在価値の方が高いので、購入の方が有利となる(現在価値法については114頁を参照)。

②ついで税効果を見る

税効果は、取得の場合は減価償却費の節税効果を、リースの場合は現金費用の節税効果を織り込む。

取得の場合、減価償却費(3,600千円)の45%である、1,620千円が節税されキャッシュ・フローの流入となる。リースの場合、リース料(4,800千円)の45%である、2,160千円が節税される。

この現在価値をそれぞれ計算する。購入の場合は、つぎの通り。

1,620千円×年金現価係数(8%、5年)-18,000千円

=6,468千円-18,000=-11,532千円

リースの場合はつぎの通り。

(2,160-4,800)× 年金現価係数=-10,541千円

この結果、税引後ではリースの方が有利となる。

(5)神奈川食品機械の投資効果の算出

〈投資効果の算定〉

以上の説明に沿って、投資効果を算定してみよう。前述の投資計画に加えて、つぎの条件が予測された。

①設備投資により、年間320百万円の受注増を見込める。

②変動費率 68%

③減価償却費(定額法)建物35年、機械装置10年

④新工場操業のため「その他の固定費」(減価償却費、金利、地代を除く)は、14百万円

⑤人員は既存事業から投入し、増やさない。

設備投資効果の算出

設備投資実施により生じる投資効果は次頁の図の通りである。

◎計算方法を考えてみよう。

・変動費

売上高320百万円×変動費率68%=218百万円

。固定費

したがつて、この設備投資により売上高増320百万円、変動費

増218百万円、限界利益増102百万円(売上高320百万円一変動費

218百万円)、固定費増53百万円、経常利益増49百万円と投資効果が予想される。

なお、償却前利益は、税引前では税引前利益49百万円に減価

償却費17百万円を加えた66百万円、税引後では税引後利益27百

万円に減価償却費17百万円を加えた44百万円となるが、前述の通り税引後のキャッシュ・フローが重要であるから、税引後利益に減価償却費を加えた44百万円とする。この償却前利益(税引後)44百万円がこの投資によって得られた年間の投資効果(キヤツシユ・フローの増加分)となる。

〈効果測定の予測期間〉

前述のように、設備投資後の投資効果を算定したが、この投資効果が何年継続するかを検討する必要がある。理論的には、設備の稼働期間を通じて全期間にわたり、毎年の投資効果を算定すべきである。例えば、ホテルや百貨店などのいわゆるハコ物の場合は、プロジェクト期間、例えば30年間の収支予想を計算する必要がある。しかし、通常の場合は、設備投資が正常な操業度に達した時点で年間の投資効果を測定し、それが法定耐用年数の期間継続すると考えることが多い。この場合は、44百万円が約10年(機械耐用年数)にわたり生ずるとしよう。

設備投資計画案の採算判断

設備投資計画の採算を計算する方法としては、回収期間法、投資利益率法、現在価値法に大別される。

(1)回収期間法

①回収期間法とは

これは投資額を、その投資からもたらされる年々のキャッシュ・フローで回収するのに何年かかるかを見るものである。いわゆる収益による回収年限といわれているもので、つぎの式で計算される。

______ 設備投資額

同‖▼甘日闇イ′

=粘ヽ一

口仏知回ヽ十黙ノ

~

予想キャッシュ・フロー(年間)

分母のキャッシュ。フローは、設備投資完了後、安定的に操業できるようになった段階で測定する。また、いうまでもなく、このキャッシユ・フローは設備投資によってもたらされた増加分のことである。この方法は、回収期間の長短によって投資の採用を検討する。

例えば、一般機械工業の場合7年以内で通常回収されるので、仮に回収期間が10年と見込まれると、この案件は見送りということになる。代替案を比較選択する場合は、短い方を採用する。

この方法は、基本的には設備投資を資金繰り、あるいは流動性の面から見たもので、設備に投下された資金が何年で回収されるかという資金計画のメドにも利用される。企業にとっては、設備投資の回収期間は流動性の面でもつぎの投資へとりかかるメドをつけるためにも、きわめて重要な指標である。なお、この考え方は、設備資金を融資する金融機関にとっても基本となる見方であり、投資の収益性そのものより、いかに債権者として与信をスムーズに回収できるかという点に重点を置いている。従来、設備投資資金の調達は銀行に依存することが多かった。

そのため経営者としても、こうした金融機関の考え方にほぼならって、回収期間の長短により危険度の大小、投資の良否をも判断しており、実務上最も多く利用されている。なお、成長志向が強い企業では、早く投資を回収してつぎの設備投資を実施し、このサイクルの中で高成長を遂げてきたわけである。成長すれば連動して利益がついてきた、日本経済の成長期には特に適していた方法である。

キャッシュ・フローとは、前述のように利益(減価償却後)と減価償却費を合計したものだから、結局償却前利益のことである。しかしながら、利益をどの段階で把握するかによって相当の違いがあり、イ)利子支払前。税引前(=営業利益)、口)利子支払後。税引前(=経常利益)、ハ)利子支払後・税引後(=税引後利益)に大きく分けられる。

回収期間は、経営者がその設備投資を実際に何年で回収できるかを知ることを目的としている。したがって、投資回収に実際充当できるキャッシュ・フローとして、つぎの式を用いる。

年間キャッシュ・フロー(回収期間法)

=税引後利益十減価償却費―社外分配金(配当十役員賞与)

社外分配金は、新規設備投資の効果を含めた企業全体の利益から支払われるので、設備投資額に対応した社外分配金が明らかに算定できる場合にのみ計算式に考慮する。なお、算式の設備投資額から残存価額を引くことがある。また、土地や差入保証金など、将来回収されることが確実なものを差し引くべきであるとの主張もある。確かに、キャッシュ。

フローの中心を占める減価償却費は、残存価額を控除して算出しているので、回収すべき投資額から残存価額を控除する方が理論上は正しいと思われる。また、土地などは物件の売却により間違いなく回収されることが多い。しかしながらここでは、投資額は原則として、当初投資額そのもので計算する方法をつぎの理由からとりたい。

・将来の残存価額が現実に回収されるか否かは、きわめて不明確なこと

。土地についても、設備投資用の資産である限り、工場移転、廃業などの場合以外に売却は考えられない

。設備投資へ投下された資本の回収は、企業のゴーイング・コンサーン(半永久的に存続する継続的企業活動)を前提にすれば設備資産の売却ではなく、あくまでキャッシュ・フローによるべきであること

また回収期間法に一貫して流れている安全性を重視する考え方からも、原則として将来の売却などによる回収は含めない方がよい。

回収期間法の1つとして、つぎの償還期間算定方法が、金融機関を中心によく使われている。銀行が長期資金を企業へ貸出を行う時、何年で企業が借入金を返済できるかを見る。

要償還債務

回収期間(償還期限)=‐

~~~~~~~~~~丁II丁:~

予想キャッシュ・フロー(年半均)

長期借入金+社債+設備支払手形

税引後利益―社外分配金+減価償却費

要償還債務としては、当該投資にかかわる長期借入金、設備支払手形、社債等に加え、長期運転資金借入も含める。

なお、設備投資単独の償還年限を計算する時は、予想キャッシュ・フローは設備投資効果のみで計算する。しかし、既存の長期借入金残高をすべて含めた償還年限を計算する場合は、設備投資後の企業全体の予想キャッシュ・フローをもって算定する。

②神奈川食品機械における回収期間の算定

前述の神奈川食品機械の設備投資について、回収期間法で採算計算をしてみよう。

____ 設備投資額

回収期間=

税引後利益―社外分配金+減価償却費

240百万円

= =5.5年

27百万円+17百万円

(注)設備投資のみの回収期間を計算するので、社外分配金は計上しない。この結果、現在の収支予想によれば5.5年で回収することになる。

(2)投資利益率法(ROl)

①投資利益率法とは

この方法は、一般的には投下資本に対する会計的利益(償却後利益)の率を求める方法である。会計的利益とは、設備投資の費用を減価償却費の形で会計上負担した後の利益のことである。

投下資本利益率(

償却後利益としては、一般に利払前利益すなわち営業利益を利用するのが通常であり、投下資本営業利益率を資金調達コスト、例えば借入金の利率と比較して投資の可否を判断する。

この方法は、企業における最重要指標である総資産利益率(ROA)と同じ考え方である。ROAは、企業が現在使用している(あるいは投資している)すべての資産から、どれだけの収益を上げているかを見ている。一方ROIは、現在の総資産に設備投資により追加された資産が、どれだけの収益の増加を招いたかを見るもので、限界ROAとでもいうべきものである。

したがって、ROIは設備投資の採算性の指標として適切なものといえるし、企業会計とのつながりも明らかである。この会計的利益率法は、回収期間法よりも投資の収益性が判定できる。設備投資のコストを、減価償却費の形で利益から控除することによって、年平均の利益率に反映させているからである。

しかしながら、現在の1万円と将来の1万円を同様に扱うことにより、貨幣の時間的価値を織り込んでいないという欠点は克服できない。

②神奈川食品機械における投資利益率法の算定

神奈川食品機械の設備投資について、投資利益率を計算する。

営業利益(償却後・利払前。税引前利益)

投資利益率=

設備投資+増加運転資本

66百万円

240百万円+320百万円×6.5カ月

12カ月

このROIは、まず借入金、ついで現在の企業全体の総資産営業利益率(ROA)と比較して判断する。

まず、借入金利8%は今回のROIであれば十分に負担できる。また、現在の事業全体のROAは13.5%なので、今次投資のROIの方が高く、企業価値の向上に寄与できる。いずれの点からも今回の投資は満足できるものと判断される。

(3)現在価値法

①複利現価係数と年金現価係数

これまで回収期間法と投資利益率法を検討してきたが、両者に共通の欠陥は、貨幣の時間的価値を全く考慮していない点である。つまり、現在のキャッシュ・フロー1,000万円も1年後のそれも全く同価値として扱っている。預金に利息がつくことを知っている人であれば、これが経済的に不合理なことはすぐ分かるであろう。現在の1,000万円は、預金しておけば利息がつき、1年後の1,000万円よりも利息分だけ価値が上回っている。貨幣の時間的価値とはこのことをいう。この概念を考慮に入れて設備投資を見てみよう。

なお、中小企業では現在価値法はあまり普及していないが、「成長さえすればすべてよい」時代から利益重視型経営が大切になっている現状を考えれば、中小企業においても基本だけは一応理解しておきたい。

まず、現在価値法を理解する前提として複利現価係数と年金現価係数を理解しておく。

イ)複利現価係数とは

まず簡単な計算例で複利現価係数を考えてみよう。5年後に100万円の支払いが予定されているので、今から年利7%(年複利)の預金で運用しておきたい。今、いくら預けておけばよいか。

これを考えるために、まず現在100万円を預金して7%複利で回すと、5年後に元利合計でいくらになるか考えてみるとつぎのようになる。

100万円×(1+0.07)=140.3万円

これをいい換えれば、5年後の140.3万円は、(金利7%を前提にすれば)現在の価値に直すと100万円になる。この計算は、いちいち複利計算を行う必要はなく、次頁の複利現価係数を使用すればよい。例えば5年後の資金を現在価値に変換するためには、複利現価表の7%、5年の数字0.7130を掛ければよい。先ほどの140.3万円の現在価値はつぎのように計算できる。

140.3万円×0.7130=100万円

このようにして、1年後の100万円、同じく2年後、3年後、4年後、5年後の100万円を現在価値に変換するとつぎの通りとなる。

口)年金現価係数

設備投資のキャッシュ・フローは、毎年同額が発生することが多い。例えば設備投資後、毎年100万円のキャッシュ・フローが5年間にわたって発生する場合を考えてみよう。前述のように、この5年間のキャッシュ・フロー全体の現在価値を求めるには、1年後から5年後まで毎年発生する100万円をそれぞれ現在価値に変換し、それを合計して410.02万円と計算してもよいが、118~ 119頁の年金現価係数を利用すると簡単に計算できる。この表の7%、5年の数字4.1002を1年当たりの金額(年金)に掛ければよい。

100万円×4.1002=410.02万円

この数字は、前述の数字と一致する。

ハ)現在価値法のあらまし

複利現価係数と年金現価係数の理解を前提にして、現在価値法の説明に移りたい。この方法は、将来のキャッシュ・フローを現在価値に引き直して投資の良否を判別する方法で、時間の考えを入れたものとして理論的に最も望ましいといえる。本来すべての投資計算に利用されるべきものであるが、日本においては実務上、ホテル新設等のプロジェクトの評価に用いられるにとどまっている。実務での利用が比較的限られているため、基準となるべき投資の割引率(最低必要収益率)についても参考指標が得られない状況である。現在価値法の一層の利用を図ることにより、実務上の事例に基づいた業界指標が入手できるような状況に早く持っていきたい。

現在価値法には、正味現在価値法(NPV法)と内部利益率法

(IRR法)の2つがある。

二)正味現在価値法(NPV法)とは

正味現在価値法とは、投資により得られる一連のキャッシュ・フローを、前述の方法で現在価値に直して、その現在価値の合計が設備投資より大きければ投資を実行するという方法である。

つぎの例で考えてみよう。

設備投資5,000万円を実行し、その後5年間にわたって1,200万円のキャッシュ。フローが得られる見込みである。この投資は実行すべきか。金利は8%とする。

まず設備投資額の現在価値は、現在一度に5,000万円支出しているので、そのまま5,000万円となる。一方、設備投資により得られるキャッシュ・フローの合計は、単純に合計すると6,000万円であるが、前述のように現在価値に直す必要がある。年金現価係数(n=5年、i=8%)を用いて計算すると、1,200万円×

3.9927=4,791万円と、5,000万円を下回る。

つぎに、毎年のキャッシユ・フローが仮に1,300万円であれば、5年間のキャッシュ・フローの現在価値合計は、5,191万円となり投資額を191万円上回る。この差額191万円のことを正味現在価値といい、これがゼロ以上であれば、投資をしようとするものである。

したがって、毎年1,200万円のキャッシュ。フローの場合は、投資は見送り、1,300万円見込まれる時は採用する。

なお、現在価値法で使われるキャッシュ・フローは利払前の利益であるから、一般には営業利益(利払前利益)に(1-税率)を掛けて算出した税引後営業利益に減価償却費を加えた額を用いる。

また、税引後のキャッシュ・フローに適用される割引率(資本コスト)は、税引後の割引率を採用しなければならない。

ホ)内部利益率(IRR)

前述のケースで金利が与えられていない場合、この投資がどれだけの利回り(複利)になっているか、まず計算する。

毎年1,200万円のキャッシュ・フローが5年間発生し、その現在価値合計が設備投資額5,000万円に等しくなるわけであるから、5年の年金現価係数が5,000/1,200=4.17になる金利を探すと、6%のところがほぼそうである。したがって、この投資の利回りは約6%ということができる。この利回りを内部利益率(IRR)といい、この企業の金利(最低必要利益率)が6%以下であればこの投資を実行しようとするものである。

②神奈川食品機械の正味現在価値の計算(税引後割引率10%)

前述のように、神奈川食品機械は設備投資240百万円を実行し、その後10年間にわたり61百万円のキャッシュ・フローが得られる見込みなので、正味現在価値はつぎのようになる。設備投資額の現在価値は、240百万円となる。

一方、毎年のキャッシュ・フローの現在価値合計は、年金現価係数(n=10年、 i=10%)から計算すると、61百万円×6.1446=374.8百万円となり、投資額を134.8百万円上回る。したがって、この投資は採算にのることになる。ついでこの投資のIRRを求めてみよう。

10年の年金現価係数が240/61=3.93となる割引率は、約22%と考えられるので、この投資のIRRは約22%である。これらの結果、この投資は採算面では問題ないと結論づけられる。

*(注)この場合のキャシュ。フローは税引後利益27百万円に支払利息17百万円と減価償却費17百万円を加えて算出した。

(4)3つの方法の判断

以上のように当社の場合、3つの方法で採算計算をしてきたが、これらをどのように判断すべきであろうか。まず、設備投資の回収期間が5.5年と機械工業の平均的数字を示しており、この設備投資の主要調達資金である借入金の返済年限が10年と余裕のあるものとなつているので、資金面からはあまり問題はないと判断される。

一方ROIは、約16%と借入金利よりも高く、かなり収益性の高い投資である。さらに、現在価値法でみると、税引後のキャッシュ・フローで約22%というIRRが期待でき、この指標からも収益性の高さが裏付けられる。したがって、収益性からも資金面からも問題は少ない投資といえよう。

3.資金調達計画の作成

(1)資金調達で留意すべき3点

設備投資計画にかかわる資金調達の計画を作成する際に、注意すべき点としてつぎの3点がある。

イ)所要資金として運転資金の算入を忘れないこと

口)所要資金の調達を全額借入金に依存しないこと

ハ)借入金の返済期間の設定に十分に注意すること

それぞれ検討してみよう。

①運転資金の考慮

前述したように、設備資金と運転資金は本来異なったものである。設備資金は原則として、減価償却費を中心とするキャッシュ・フローで長期間にわたって回収されるものであるが、運転資金は日々の営業活動の循環の中で回収される。

しかしながら、設備投資に伴い経営規模のベースが増加する時に、いわゆる増加運転資金が必要となってくる。この資金については、設備投資本来の資金と別個に検討するのではなく、むしろ設備投資と一体で資金調達をすべきである。

例えば、2億円投じて工場の新設を行った結果、工場の原材料在庫、仕掛品、製品などの棚卸資産が5,000万円増加したとすると、この金額は若干の変動はあるにしても、おおむね常時保有されていることになる。この5,000万円については本来運転資金で調達されるべきであるが、この工場が稼働する限り、ベースとして長期間にわたって必要とされ、仮に工場が生産を中止した場合にのみ回収され不要となる。したがつてこの5,000万円については、設備投資資金2億円と合わせて2億5,000万円の長期資金調達の一環として対応した方がよい。

また売上債権についても同様である。2億円の投資により売上高が年間4億8,000万円増加したとする。この結果、売掛金の残高が1億2,000万円増加すると、この売掛残高は通常減少することは考えられず、長期間残高として存続する。このため、売掛金を含めた売上債権の増加額も、棚卸資産同様に設備投資本体と一本化して調達することになる。

このように、長期間運転資金として存続するものを長期運転資金と呼んでいる。この中に含められるものとしては、設備投資に伴う増加運転資金、新事業へ乗り出す時に必要となる開業準備資金(経費。人件費など)、投資が軌道に乗るまでの赤字資金などである。この長期運転資金の調達は、その性格上、長期借入金あるいは自己資金で行う。仮に長期借入金で調達した場合は、前述のキャッシュ・フローを返済原資にすることになる。

それでは設備投資に関して必要とされる長期運転資金は、どのように算定すればよいのか。長期運転資金の流動資金としては、前述の売上債権(売掛金、受取手形)と棚卸資産(原材料、仕掛品、製品など)の2項目を検討すれば十分である。この資産がどの程度必要となるか算定するためには、通常月商(ひと月当たり売上高)比の回転期間を利用する。

例えば設備投資の結果、年間売上高が4億8,000万円増加(月商は4,000万円増加)する時に、売掛金の残高が4,000万円、受取手形の残高が8,000万円増加すると、両者合わせて売上額の3カ月分である。この場合この会社は、月商3カ月分の売上債権残高を保有している(これを売上債権の回転期間が3カ月という。 1回転するのに3カ月要するから、年間で4回転するともいう)。この回転期間は売上条件、例えば20日締め、翌月末受け取り(現金40%、3カ月手形60%)などから大体推測できる。

棚卸資産についても、生産に必要とされる原材料手持ち高、生産工程などから回転期間があらかじめ予測できる。ここでは月商比1カ月とする。そこで、売上債権が月商の3カ月、棚卸資産が1カ月、計4カ月の回転期間として、設備投資に伴い月商4,000万円の増加を前提に計算すると、1億6,000万円の運転資金の調達が必要とされる。その一部については、企業間信用(買掛金・支払手形)に依存可能であるが、大部分は長期借入金などの長期資金で調達する。

このように長期運転資金需要は相当額必要となる。これを資金調達計画に織り込んでおかなかったため、設備投資が行き詰まったケースもある。

②借入金に全面依存しない

固定資金の調達源として最も望ましいものは、内部留保である。そのため毎年の投融資は原則として、年間のキャッシュ・フローの範囲内におさめる方針をとっている企業もある。しかし、自己資本や内部留保だけで設備投資を全額賄うことは通常難しく、一般には借入金に依存せざるを得ない。

今、新規事業を行うため新会社を設立するとしよう。この時、過小資本金でスタートし、設備投資を含む事業資金をほぼ全額借入金に依存した場合は、きわめて不安定な財政状態となる。

新規事業が軌道に乗り、固定費をカバーできる操業状態を達成するまでには通常3年くらいの期間が必要とされ、その間の赤字資金がかさむので、創業時の累積損失をカバーできる程度の資本金は準備したいものである。通常、総事業費の最低2~ 3割は資本金で調達すべきであるといわれている。また、貸出を行う銀行側が新規事業のリスクを全面的に負うことをきらい、株主の負担するリスク、すなわち資本金の増額を要求するケースもある。

③借入金返済期間の適正な設定

前述のように、設備など固定資産に投下された資金は、その事業から生じるキャッシュ・フローによって回収されるので、長期借入金による資金調達を行う時には、そのキャッシュ・フローで無理をせずに返済できるような返済期限を設定すべきである。

ある企業で、設備投資実行後すでに・4年経過しているにもかかわらず、資金繰りがきわめて逼迫しているとの申し出により、調査したことがある。設備投資額は約20億円、建物が設備投資額の大部分を占めるため、減価償却費が約1億円生じる。収益はほぼトントンという状況だったので、設備投資によるキャッシュ・フロー増加額は年間1億円ということになる。設備投資の資金調達はほぼ全額借入金に依存しており、返済期間は10年である。

この場合、年間の借入金返済額は約2億円必要とされるにもかかわらず、返済原資は1億円しかないので、資金繰りが苦しいのは当然である。借入金の返済期間がもともと短すぎたこと、借入金依存度が高すぎたことなどが資金繰り逼迫の主因である。

また、別の企業では、最新鋭の輸入レーザー・プレスを購入した時、同社の社長は技術者ながら、設備稼働後投資による月次利益が、機械をリースにしたと仮定した場合に支払うべきリース料を上回るまで、鋭意受注活動に集中するなど細心の注意を払った。設備の調達は政策金融による長期の低利融資であったから、この返済をメドにする方法では甘めの評価となるので、リース料支払をベースとする考え方は、投資評価の基準としてはすぐれたものであった。

(2)神奈川食品機械の資金調達

① まず当期の売上債権(含む割手)と棚卸資産の回転期間、買

入債務の回転期間をつぎのように計算して所要運転資金の回転期間を求める。

今次、設備投資による年間売上高が320百万円と見込まれるので、その4.1カ月分の111百万円(月商27百万円×4.1カ月)が運転資金として発生する。

当社の場合、多額の運転資金を必要とする財務体質なので、この資金の調達が大きな問題となる。この資金は、設備資金と同時に調達を検討せねばならない。

②今次、設備投資資金の調達は、借入金が224百万円、自己資金が16百万円となっている。基本的に借入金は前述の投資の回収年限をメドとして、返済期間を設定すべきである。この設備借入金の償還年限を、この投資から生ずるキャッシュ・フローで計算するとつぎのようになる。

(全体のキャッシュ・フローについては、後述の利益計画の項を参照されたい)_

設備投資前の長期借入金の残高が、対応するキャッシュ・フローに比べて相対的に少ないため、設備投資後の長期借入金総残高の返済年限が短くなっている。

4.資金調達手段について

金融の自由化により、中小企業も自由に資金調達ができるようになるといわれたが、事実はそうではなく、むしろ状況は悪化している。

まず留意すべきことは、一時中小企業開拓を標榜してきた大銀行が、一転して貸し渋りをしている点である。これは今に始まったことではなく、晴れた日に傘を貸し、雨が降ると取り上げるという金融機関の本質が出たものであろう。中小企業としては、金融機関とはそういうものと十分心得て、まず内部留保、増資を優先させ、外部から借入れる場合は条件的に有利な政策金融をまず検討し、やむを得ず銀行借入をする際は、十分に採算計算、資金計画を検討し、最悪の場合の返済余力も考慮した上で利用すべきである。

金融機関に企業育成の余裕は少なく、企業の業績悪化の場合は債権保全の傾向を強めるので、企業としても決して甘い考えで対応してはならない。また、業績のよい会社へは借入要請が強くなされるが、不必要な資金を借りて質の低い投資を行えば、業績はすぐに低下し、銀行の態度は一変する。本当に賢明な企業は、独立独歩の意識が強く、金融機関に甘い期待は持っていない。

ここではまず、一般的な設備投資資金調達手段を述べ、ついで中小企業に適した借入形式を考える。

(1)一般的な設備資金調達手段

①証書借入

証書借入とは、金銭消費貸借契約書を締結し、長期資金を借り入れることである。担保は通常必要とされる。借入期間は通常5~ 7年であるが、超長期になると20年になることもある。

また、金利は固定金利といって借入期間中金利が変わらない場合と、変動金利といって長期金利水準が変わるたびに変動していくケースの2つがある。長期借入の場合は、借入期間が長い分、貸手側の金融機関のリスクが高くなるので、企業が借入を申し込んだ時点で資金の使途、返済能力、企業の安定性、成長性などその信用力を含めて調査される。

②社債発行

社債発行については、普通社債、転換社債、新株引受権付社債に分けられる。

・普通社債(私募債)

普通社債は、企業が発行した長期の債券を投資家に直接購入してもらうことにより、資金調達を行うものである。従来発行に際し、国内では適債基準や発行調整など制約が多く、これを嫌って外債発行へ向かう傾向が強まっていたが、最近日本においても企業の格付けを重視した機動的、弾力的な発行へと条件が整備されつつある。最近、中小企業でも私募債の形で発行することが増えている。

・転換社債

転換社債とは、社債の保有者が一定の条件(転換価格など)の下で、社債を発行会社の株式に転換できるものである。株式に転換せず社債のまま保有することも自由である。株価が転換価格を上回った場合は、株式に転換した方が有利となるので、買いオプション(コール・オプション)に似た性格を持っている。このため転換社債の利子は普通社債より低い水準で設定される。

発行時点は全額社債であるが、償還期限が近づくにつれ株式へと転換され、償還日には全額株式となっているのが普通である。そのため迂回増資、すなわち社債を迂回してからの増資と呼ばれることがある。中小企業においては、資金調達よりむしろ株式公開のための手段に用いられている。

・新株引受権付社債

新株引受権付社債とは、フラント付社債とも呼ばれ、社債保有者に対して発行会社の新株引受権を与えているものである。

新株引受権とは、あらかじめ決められた株価(行使価格)で一定量の株式を購入する権利のことで、株価が行使価格を上回れば株式を行使価格で購入し、市場において時価で売却すれば売却益を得られる。買いオプションとほぼ同様の性質であるといえる。

新株引受権付社債は、昭和56年の商法改正により、新しく国内企業にその発行が認められたものである。新株引受権部分が社債本体から切り離されて流通する分離型が、現状では大部分である。中小企業においては、前述の転換社債同様、株式公開の準備に使われる。

③株式発行

株式発行については種々の分類があるが、第二者割当増資、中間発行、時価公募増資が主たる発行形態といえる。その中でも時価公募増資が現状では中心となっている。

株式発行は、企業にとっては返済する必要のない安定した資金調達の方法であるが、一方株主側にすると企業の営業リスク(ビジネスリスク)を負担して資金を投じているので、当然ある水準以上の投資利回り(要求利回り)を経営陣が実現することを期待する。特に時価発行増資の場合、資本金に組み入れられない部分(資本準備金)を中心としてコストのかからない資金であるという見方が経営者側に強くあるが、この考え方は正確ではない。投資家としては投資(増資払込金)に対する収益を期待しているのだから、有利な設備投資を企業が実行し、企業収益を上げることにより、株価アップあるいは配当による還元を求めている。そのためには、投資家の期待する利回りが機会コストとしてかかることは自明だと思われる。なお中小企業としては、公開企業は少ないので、時価公募増資は少ない。

④リース

設備資金調達の1つとして、最近リースの利用が多くなってきている。

リースとは、企業が機械設備など設備投資を実施する時に、リース会社が代わって設備を購入し、それを企業に長期間賃貸することをいう。

このリースは、利用企業では中堅・中小企業が多く、またリース物件としては、コンピュータなどのOA機器、産業用ロボットなどのメカトロ機器が主な対象となっている。この理由としては、リースのメリットとしてしばしば挙げられる、

イ)資金の固定化を避けることができる

口)事務的な労力が省ける

ハ)機械の陳腐化に対しリスクヘッジできる

などの特色が、資金力の比較的弱い中堅0中小企業や技術革新の速いコンピュータなどに適しているからだと思われる。ここで取り上げているリースとは、ファイナンス・リースのことを指しており、

イ)賃借人(企業)が希望するリース物件を借りる

口)リース会社はその間保険料・固定資産税をすべて払い、さらに物件の減価償却費・金利・手数料などを加えてリース料としてユーザーより回収する

ハ)原則として中途解約は認められない

二)ただし、物件の修繕・保守管理についてはユーザーの負担となる

などの特色がある。これは企業に設備投資資金を融資することと大差はなく、物を融資するという意味で「物融」ともいわれる。

このリースのメリット、デメリットとしては、つぎのものがある。

イ)リースは購入に比べ、当初の資金負担が小さいので、資金調達力の弱い企業にとっては多大なメリットがある。しかも借入金と異なり、リース物件そのものが100%担保となるので、担保不足に悩む中小企業にとってはメリットが大きい

口)購入の場合、企業は機械設備の法定耐用年数で減価償却

をするが、リースの場合はそれよりも短い経済的耐用年数でリース期間を設定できる。このため、企業はリース料の節税効果を受けられるとともに、設備の陳腐化を防ぐことができる

なおリース期間は、税務当局よリリース物件の法定耐用年数が10年未満の時は、耐用年数の7割を限度とするよう通達が出されている。

ハ)一方、デメリットとして、節税効果の生じない赤字企業ではリース料は高くつくこと、リース期間終了後も物件はリース会社のものとなり、自社保有とならないことなどが挙げられる

(2)中小企業向け資金調達手段

ここでは、中小企業向けに適した資金調達手段を検討する。

①信用金庫

これは主として中小企業者の出資によって設立され、中小企業者向けの地域金融機関であり、営業地域内の人は会員になり、融資を受けることができる。

貸付は普通銀行と同じであり、長期は5年前後である。貸付の限度については、一般的に1取引先に15億円までとなっており、中小企業の設備投資限度額としては十分である。金利は普通銀行より少々高く、一般に1~ 2%アップといわれている。しかし、中小企業のためには有力な金融機関である。

②地方銀行、第二地銀(旧相互銀行)

預金や貸付等の業務は一般市中銀行と全く変わりないが、あまり大企業に対する大口融資は行わないので、中小企業にとっては比較的なじみやすい金融機関である。

一時、都市銀行同様、拡大戦略をとった銀行もあるが、今や地域へ回帰する傾向が強まっているので、長い取引関係を築けば中小企業にとり信頼できる金融機関となる。

③商工組合中央金庫(商工中金)

中小企業者の組織している各種の企業組合を対象とした金融機関で、各種事業協同組合等や、その組合員を対象とする。商工中金に出資している組合に対する貸付を行う。この金庫の資金の使途は、

イ)組合事業に要する運転資金および設備資金

口)組合が組合員の事業資金として貸付ける転貸資金

ハ)組合員が自己の事業に要する運転資金および設備資金(ただし組合の承諾書を要する)などに限定されている。

長期資金は5年~ 7年で固定金利となっている。93年10月現在、貸出限度額は組合150億円、組合員15億円となっている。支店も多く、資金量も豊富である。

④中小企業金融公庫

中小企業向け設備資金や、長期運転資金の融資を目的とする政府系金融機関である。貸付業務は公庫の本支店をはじめ、公庫の代理店となっている各種の民間金融機関で行っている。貸出の対象となる中小企業は、資本金1億円以下の会社(卸売業は3,000万円以下、小売業等は1,000万円以下)、または、常時使用する従業員が、工業の場合300人、卸売業100人、小売・サービス業50人以下の会社である。

貸付金の使途は、設備資金と運転資金に限られている。設備資金については、品質の改善、原価の切下げ、生産能率の向上等企業の合理化に役立つものについて融資する。一般貸付の場合、貸付の限度は1貸出先について原則として4億円以内で、その事業の規模、資金の使途、返済の見通し等を検討して決められる。特定の業種や資金使途に対しては、6億円までの貸付限度が定められている。貸付金利は、93年秋現在、年4.5%程度、期間は設備資金については原則として10年以内、特に必要な場合は15年以内となっている。

貸付の方式には、代理貸付と直接貸付がある。代理貸付とは全国各地の銀行や信用金庫、信用組合等が公庫の代理店となって貸出を行う方法であり、現在の取引金融機関を通して申し込みの手続きを行う方法もある。

⑤国民金融公庫

中小企業や、国民大衆に必要な事業資金の供給を行う政府出資の機関で、中小企業金融公庫より小さな企業を対象とする。

貸付の対象となる会社または個人は、適切な事業計画をもつ中小商工業者で、製造業では資本金1,000万円以下、または従業員100人以下、商業。サービス業では同1,000万円以下、または同50人以下となっている。

貸付の限度は、直接扱い4,000万円以内、代理貸付200万円以内となっており、また、特定の設備資金については6,000万円以内である。

貸付金利は、93年秋現在年4.5%程度で、貸付期間は設備資金の場合は10年以内である(ただし、特定の場合20年以内)。保証人は、 1名以上必要であるが、担保が提供されるときは不要の場合もある。

その他、生鮮食料品等小売業近代化資金貸付、流通近代化資金貸付、製造業省力設備資金貸付、産業公害防止施設等資金貸付、事業転換資金貸付など、中小企業の近代化、経営改善に必要な諸資金の貸付が行われている。

⑥信用保証協会

中小企業は一般に担保余力に乏しく、信用力が劣るので、この点を補完し金融機関が安心して融資できるように、各都道府県および5つの市に信用保証協会が設立され、保証業務を行っている。

企業が金融機関、あるいは国や地方自治体から貸出を受ける場合に、保証協会が保証人となって、その支払いを保証し、万一期限に弁済不能となった場合には、債務者に代わって金融機関に支払う。したがって金融機関では、保証協会の保証さえあれば安心して貸出ができる。各都道府県ごとに信用保証協会が設置され、その業務内容は厳密にいえば、地方によって多少の違いがあるが、大体つぎの通りである。

保証協会の組織は、都道府県が中心となって、これに区域内の普通銀行、信用金庫等の金融機関が参加して作られた財団法人である。

保証の対象となる事業は、区域内の中小企業者およびその協同組合で、つぎの条件を備えているものに限られる。

・同一場所で同一事業を引き続き1年以上営業し、本店が区域内にあるもの

。適切な事業計画と確実な資金計画を持つもの

。事業経営の将来について見通しがほぼ明らかなもの

。各種の税金を完納しているもの

借入金の使途としては、原材料、商品の仕入、経費の支払等の運転資金や営業用の設備資金などである。

保証金額の最高限度は、一般事業資金2億2,000万円となっている。保証期間は原則として金融機関の貸付期間となるが、一般に設備資金は5年~ 7年で、特別の場合は15年まである。信用保証料は、上限を1%とし、一般には0.85%である。

保証借入の手続きとしては、保証による借入を希望する者は、取引金融機関に相談するとよい。また、借入申込みの際に金融機関から信用保証を要求されることがあり、金融機関から信用保証協会宛に、所定の書式によって保証を依頼し、保証協会では、これに基づいて調査を行う。調査では申込人の信用力と、資金の使途、返済の見通しが最も重要視される。

⑦中小企業設備近代化資金

イ)設備近代化資金貸付制度

設備近代化貸付制度は、金融機関からの借入の困難な中小企業者も少なくないことから、中小企業の設備の近代化を促進す中小企業設備近代化資金制度の内容るため設けられた政策金融である。

「中小企業近代化資金等助成法」に基づいて、各都道府県は、特別会計を設置して国からの補助金を受け入れるとともに、一般会計から国の補助金と同額以上の資金を繰り入れ、これらの資金を合わせて原資として、中小企業者に設備近代化のための所要資金の半額以内を無利子で貸し付けている。この設備近代化資金貸付制度の具体的内容は前頁の図表の通りである。

口)設備貸与制度

設備近代化資金貸付制度は、所要資金の2分の1以内を貸付けるものであるが、資金調達力の弱い小規模企業者にとっては十分に利用しがたい面があり、また、設備の選定等についても専門的知識。技術を有しない小規模企業者にとっては、資金的な助成だけではその効果を十分に期待し得ないところがある。設備貸与制度は、このような場合に備え、地方公共団体の全額出資により設立された公益法人である貸与機関が都道府県から所要資金の2分の1について無利子の貸付けを受け(残額の2分の1は中小企業金融公庫または沖縄振興開発公庫からの融資)、小規模企業者の申込みにより機械類の購入を行い、これを申込企業者に貸与することになっている。

③中小企業高度化融資

中小企業事業団は、中小企業が共同ですすめる高度化事業に対し、都道府県と協力して長期・低利の資金助成を行っている。高度化事業に対する資金助成は、通常中小企業事業団が都道府県に必要な資金の一部を貸付け、これに各都道府県が財源を追加して助成する方式により行っている。高度化の例として「テクノ高知」を見てみよう。

工業団地「テクノ高知」は、県内の部品加工業者や、機械メーカー、エンジニアリング会社など14社が集まって作った。約1万7,000平方メートルの敷地に、4棟の工場アパートが建つ。それぞれの建物に、設計、部品加工、組み立てといった協力関係にある企業が集まり、一つひとつの建物が、それぞれ最終製品を作る

企業

としての機能を持つ。

参加企業の多くは、元々、市街地の近くに工場を持ち、騒音や廃水などの公害対策費がかさんだり、操業時間が制限されるといった問題で、頭を痛めていた。また、狭い工場、職場環境の悪さに耐えられずに、若手社員が辞めていくことも悩みの種だった。

しかし、各社が単独で新工場を建設するのはリスクが大きすぎる。そこで行政の力を借りて、共同で工場を建てた。

土地、建物を含めた総工費は約28億5,000万円。そのうち20%は入居企業が負担し、残りは高知県の中小企業公社を通して、中小企業事業団や県から借り入れた。返済方法は、 2年間据え置きで、18年分割。金利は2.7%である。

この共同化の具体的なメリットとしては、人や物の交流が効率化されたこと、および資材などの共同購入によるコスト削減などである(『日経ベンチャー』92年11月号参照)。

⑨ベンチャー0キャピタル

中小企業・中堅企業、なかでも高度の技術を持つ研究開発型の企業(ベンチャー。ビジネス)では、技術はあるものの肝心の資金が乏しく、経営が軌道にのらないケースも多い。

こうした研究開発型の企業は、まだ経営基盤が弱くて、その将来性はきわめて不安定であるが、成功した場合の成長度はきわめて高い。そこでハイリスク・ハイリターン型の投資を目的として、株式を取得したり、あるいは融資する機関として、ベンチャー・キャピタルがある。

このベンチャー。キャピタルは、証券会社や銀行の関連会社によるものが圧倒的に多いが、その狙いは、研究開発型の中堅企業に資本参加し、企業の成長・発展を待って、将来、証券市場上場の際にキャピタルゲインを得ることにある。

このように、株式の値上がりによる利益を得ることを目的とする投資であるので、株式の譲渡や新株式発行に伴う増資に当たっては、企業側もその点を十分に認識しておくことが必要だ。

また、公的なベンチャー・ビジネスのための信用保証制度もある。情報処理振興事業協会(東京、通称IPA)と、研究開発型企業育成センター(同、VEC)の債務保証がそうである。サービス、ソフト産業などの育成を目的に設立され、ともに無担保が原則であり、保証料はIPAが年率0.5%、VECが同1%と、前述の信用保証協会(上限は1%)と同様、担保力の乏しい企業に有利な条件となっている。

しかし、ソフトウェア開発、新サービスなど、不動産担保力に乏しいベンチャー企業に対する信用保証制度の利用は、現実には低調である。景気低迷や、対象企業の新規事業開発意欲が衰えているほか、業績悪化で適用基準を満たすのが難しい企業が増えているのも原因である。

⑩中小企業投資育成会社

中小企業の自己資本の充実を促進し、その健全な成長、発展を図ることを目的とする機関として、中小企業投資育成株式会社法に基づいて、地方公共団体、金融機関等の出資により、昭和38年11月に東京、大阪、名古屋に設立された。

業務の内容は設立新株、増資新株、転換社債およびフラント債の引受けと投資先に対する経営技術指導である。

イ)対象企業としてはつぎの通り

既に設立されている企業の場合、資本金1億円以下の株式会社(なお、追加投資の場合にはこの資本金の制限はない)。業績は、原則として最近2期の1株当たり利益が17.5円(税引前 額面50円換算)以上、または配当実績が1株当たり5円(額面50円換算)以上となっている。

なお、投資後は決算期ごとに公認会計士の監査を受ける必要がある。

業種としては、鉱業、建設業、製造業、電気・ガス・熱供給・水道業、運輸・通信業、卸売・小売業、飲食店、保険媒介代理業、保険サービス業、不動産業、サービス業となっている。新規設立会社の場合は、設立予定の会社の設立登記時の資本金が1億円以下であること(中小企業投資育成から投資を受けた企業は、会社設立後資本金が1億円を超えても引き続き追加投資を受けることができる)、設立予定の会社の経営者が事業の経営に関する知識・経験等を有するなど、その経営力が認められること、設立予定の会社の事業計画に妥当性が認められ、かつ将来成長発展の見込みがあることなどである。投資対象の業種は既設企業と同様。

口)増資新株の引受け

第二者割当による増資新株の引受けの方法である。引受けの限度は、増資後の発行済株式総数の15~ 50%の範囲内となる。

引受けの価格は、 1株当たりの予想利益をもとに、今後の収益力、技術力、成長性等を総合的に判断して評価(中小企業庁と国税庁との間で定められた算定方式による)される。この方式は、中小企業庁独自のもので配当還元が原則である。

配当は、業績に応じた無理のない配当を要求し、株式の保有期間としては、中立安定株主として長期間(20年をメド)の保有を予定する。

その後、保有株式の譲渡をするのは、

・株式を新規上場公開または新規店頭登録する場合、売出株式や値付株式に充当。

・公開後の残余の株式は安定株主工作等に利用。

。長期間保有ののち、上記以外の場合、取引先、金融機関、

生。損保、従業員または既存株主等に譲渡(譲渡価格は上記の引受けの際と同じ算定方式を用いる)などである。

ハ)転換社債の引受け

引受けの限度としては、引受け時に株式に転換したものとして算出した発行済株式総数の15~ 50%の範囲内とする。

転換価格は、株式の引受け価格と同じ方式で、転換期間は、発行日から償還期限の前日まで、償還期限は原則として5年、利率は変動型であり、長期プライムレート+0.5%である。原則として金融機関等の保証が必要である。

また、株式への転換が適当でないと判断される場合を除き、株式に転換する。

二)フラント債の引受け

引受けの限度としては、引受け時に新株引受権を行使したものとして算出した発行済株式総数の15~ 50%の範囲内。行使価格(新株引受権行使により発行される新株の価額)は、株式の引受け価額と同じ方式で決定される。

行使期間は、発行日から償還期限の前日まで。

償還期限は、原則として5年。

付与割合(社債額面に対する新株引受権の金額の割合)は、100%が原則。

利率は変動型であり、長期プライムレート+0.5%となる。また原則として金融機関等の保証を徴求するが、免除できる場合もある。

なお、新株引受権の行使が適当でないと判断される場合を除き、原則として引受権を行使する。新株引受権は、原則として譲渡しない。

ホ)設立新株の引受け

株式会社の新規設立の際、その「設立に際して発行される株式」(設立新株)を引受ける。

例えば起業家が新しい企業を設立する場合、地域経済活性化のため成長性が見込まれる新しい企業を設立する場合、既存企業が新規事業分野へ進出を図るため分社化をする場合などである。

新株引受けの限度は、設立に際し発行される株式総数の15~50%の範囲内、設立時に引受ける株式の価額は、原則として額面価額である。配当、保有期間、譲渡については、増資新株に同じ(なお、事業本格化後は決算期ごとに公認会計士の監査が必要)となる。

へ)ベンチャー・ビジネスヘの投資

資本金は、 1億円以下のベンチャー・ビジネス(なお、追加投資する場合にはこの資本金の制限はなし)を対象。

業績は、原則として最近期の1株当たりの利益が5円(税引前 額面50円換算)以上、業種は、既設企業に同じ。投資の内容としては、株式、転換社債および新株引受権付社債である。なお、投資後3年目以降は原則として公認会計士の監査を課す。

ベンチャー・ビジネスの要件としては、先端的または独創的な技術。ノウハウに裏付けられた製品・サービスの提供の企業化を目指していること、売上高に対する試験研究費の割合が3%以上であること、会社設立後10年以内または新事業進出後10年以内であること、などである。

①株式公開

少数の株主の会社が、事業規模を拡大していく中で、旺盛な資金需要を満たさなければならない時期が到来すると、資金調達方法を多様化させ、良質でしかも低コストの資金を導入するために株式を公開することが必要となる。

株式を公開するには、上場と店頭登録の2つの方法がある。

上場というのは、証券取引所に株券を売買の対象として出すことで、日本には全国8カ所(東京。大阪。名古屋。広島・福岡。

京都・新潟・札幌)の証券取引所がある。証券取引所は、証券取引を行うためのさまざまなルールを定めているが、ある銘柄が上場に適しているかどうかの審査(上場審査)の実施は、重要な仕事の1つである。

一方、店頭登録とは日本証券業協会に店頭売買銘柄として登録することで、証券会社の店頭を概念的に市場と称している。公開会社のメリットとしてはつぎのことが挙げられる。

・資金調達力の増大と財務体質の強化

企業の発展、成長に伴う設備資金、運転資金の需要を、公募による時価発行増資、時価転換社債、新株引受権付社債の発行等の資金調達により充足することが可能となり、その結果財務体質の充実が図られる。

・社会的信用の向上と優秀な人材の確保

優良企業として企業イメージがアップし、社員採用においても有利となる。また、従業員の会社に対する信頼感が深まり、労働意欲の向上が期待できる。加えて内部管理体制の充実と経営体制の強化が図られる。

一方、株主としては、

・創業者利潤の実現

未公開のときは、いくら会社が発展し、会社の価値が増大しても、創業者にとっては未実現の利益であるが、株式を公開すれば、保有株式の売却により、創業者であるオーナー経営者は、いわゆる創業者利潤を得ることができる。

未公開時には株式の売却益の26%が課税されるが、株式公開時に所有期間が3年を超える株式を売却した場合は、税率が13%に軽減される。また、それから1年経てば通常の上場株式と同様に売却代金の1%の源泉分離課税を選択できるので、税負担は大幅に軽減される。

・円滑な事業承継

第二者割当増資などのエクイティ・ファイナンスによる株価引下げにより、相続税の節税につながり、後継者への株式委譲が容易となり、事業承継を計画的に進めることができる。

反対につぎのような負担が大きくなる。

・株主総会の運営対策

総会屋のため、株主総会の運営には、未公開の時よりかなり

の神経を使うことになる。

・株式の買い占め対策

株式を買い占められて、経営権が奪われる恐れがある。

・企業内容の開示義務の増大

株式を公開すれば、企業内容を適時に開示する義務が生じる。

有価証券報告書などにより、ある程度の企業秘密の公表を余儀なくされ、またこれに伴う事務上の負担が増す。ただし、経営数値を公表することは、未公開会社の風通しをよくするメリットがある。

中小企業の公開として最も手軽なものは店頭登録である。株式を店頭市場に登録するためには、日本証券業協会が定める店頭登録基準を充足することが必要である。店頭登録に際しては以下の形式基準と実質基準を満たす必要がある。

イ)形式基準(次頁の図表参照)

口)実質基準

つぎの項目について、日本証券業協会の審査を受ける。

1)企業の成長性はどうか

2)経営管理組織の整備および運用の状況はどうなっているか

。個人的経営体質から脱却しているか

。組織的な企業運営が行われているか

3)企業内容の開示の状況はどうか

。企業内容を適正に開示しているか

。日本証券業協会の適時開示要請に対応できる体制が確立しているか

4)特別利害関係者、人的関係会社および資本的関係会社の状況はどうなっているか

。関係会社との取引を利用した決算操作が行われていないか

。関係会社を利用した大株主、役員等の利得行為が行われていないか

・親会社からの独立性が確保されているか

5)その他の事項

。株主の利益が尊重されない危険性はないか

。株式公開制度の利用目的が健全であるか

。法令違反行為を行っていないか

5。税金面での特別措置の検討

中小企業の設備投資については、税制上多くの特別措置が講じられている。これをうまく活用することは大きなメリットになる。以下主要なものを挙げるが、時限立法が多く、内容の変更も頻繁なので、活用時には事前に十分確認されたい。

(1)中小企業者の機械等の特別償却

この制度は、機械設備等の急速な近代化および合理化を促進することを目的として設けられたものであり、中小企業者等がその製作後事業の用に供されたことのない、いわゆる新規資産を取得し事業の用に供したときは、その事業の用に供した事業年度において、初年度特別償却を行うことができる。

その内容は、昭和47年4月1日から平成7年3月31日までの間に新規の機械および装置のうち1台または1基の取得価額が、200万円以上のものを取得した場合は、当該事業年度において普通償却限度額のほか、その取得価額の100分の14に相当する金額の特別償却ができる。

(2)中小企業新技術体化投資促進税制(メカトロ税制)

この制度は、技術進歩の著しいメカトロニクス機器および電子計算機の導入を促進することにより、中小企業の生産性の向上および経営の近代化を図るため、昭和59年度に設けられたもので、対象設備を取得して指定事業の用に供したり、リース契約により指定事業の用に供した場合に、特別償却または税額控除を行うことができる。

対象設備としては、「電子機器利用設備」、すなわちNC工作機械、産業用ロボット、コンピュータ制御による生産、流通設備等のメカトロニクス機器および電子計算機を取得の場合、単価は原則として160万円以上、リースの場合、リース料の総額が210万円以上のリース契約を対象とする。税金の計算方法はつぎの通りである。

設備取得の場合は初年度に、取得価額の30%の特別償却か7%の税額控除のいずれかを選択する。リースの場合は初年度に、賃借費用の総額の60%について7%の税額控除をする。

なお、税額控除は、当期税額の20%を限度とし、控除限度超過額については、1年間の繰越しができる。なお、リース契約は、つぎの要件すべてに合致することが必要。

① リース契約期間が5年以上かつ法定耐用年数以下

②対象設備ごとに賃借費用の総額が定められている

③ リース料の支払いが均等、定期払いである

この措置の指定期間は昭和59年4月1日から平成6年3月31日まで(延長の見込み)。

(3)中小企業等基盤強化税制

この制度は、円高の急速な進展等の経済情勢を背景に、特定の中小企業者および流通・サービス業の経営基盤の安定・強化を通じて、消費の拡大、ひいては内需の振興、産業の活力の維持および雇用の吸収等に資することを目的として、昭和62年度に設けられたもので、対象設備を取得して指定事業の用に供し、または対象設備をリース契約により指定事業の用に供した場合に、上記(2)と同様の特別償却または税額控除を行うことができる。対象企業としては、労働時間の短縮などを行う認定組合やその構成員、卸売業、小売業、サービス業など多岐にわたる。

(4)中小企業技術基盤強化税制

この制度は、中小企業の技術開発を促進し、その研究開発活動の強化を図るため昭和60年度に設けられたもので、中小企業者の試験研究費について6%の税額控除を行う。

試験研究費の範囲としては、製品の製造または技術の改良、考案もしくは発明にかかわる試験研究のために要する費用で、イ)試験研究にかかわる原材料費、人件費および経費、口)委託試験研究費、ハ)中小企業近代化促進法などに基づく試験研究費賦課金負担金等である。

税額控除としては、当期の所得にかかわる税額の15%を限度とする。

(5)基盤技術研究開発促進税制

この制度は、基盤技術分野の技術開発を促進し、試験研究用の設備の取得を円滑化するため、昭和60年度に創設されたもので、新素材、先端エレクトロニクス技術等の開発研究用資産のうち、一定のものの取得価額の7%の税額控除を認めるもの。対象技術分野としては、新素材、バイオテクノロジー、先端エレクトロニクス技術、高性能ロボット・先端生産加工技術、極限環境技術および革新プロセス技術など。

(6)エネルギー需給構造改革投資促進税制

エネルギー利用の効率化、太陽光等新。再生可能エネルギーの利用促進および石油以外のエネルギー資源の利用促進等の一層の推進のため、平成4年度から実施。

対象設備としては、需要構造の改革に資する設備(省エネルギー設備、需要平準化設備)、供給構造の改革に資する設備(新・再生可能エネルギー利用設備、石油代替エネルギー利用設備、石油資源供給安定化設備等、電気供給利用安定化設備)。初年度に取得価額の30%の特別償却または7%の税額控除。

(7)公害防止施設等の特別償却

公害その他これに準ずる公共の災害防止に資する機械その他の設備のうち、大蔵大臣が指定する新規の機械その他の設備を指定した期間内に取得し、事業の用に供した場合、事業の用に供した事業年度において、普通償却限度額のほか、その取得価額18%に相当する金額の特別償却ができる。

特別償却の対象となる資産は、つぎのような設備等が指定されている。

騒音防止用設備、汚水処理用設備、ばい煙処理用設備、窒素

酸化物抑制設備、特定粉じん処理用設備、特定フロン排出抑制。

回収設備、産業廃棄物処理用設備(高温焼却装置、有害汚泥処理装置、鋳物廃砂処理装置)

(注)設備の新増設および優良な更新投資に限られる。

(8)公害防止施設の耐用年数の短縮

減価償却資産の耐用年数は、大蔵省令により定められているが、汚水処理用およびばい煙処理用の減価償却資産については、他の同種の構築物等の耐用年数より短縮された耐用年数が定められており、早期に償却できる。

6.資金計画と利益計画

設備投資計画を種々検討した後、最終的には設備投資後の資金計画および利益計画を作成する必要がある。この計画は、設備投資単独ベースで作成するものと、投資後の全社ベースで作成するものと2通りある。

(1)キャッシュ・フロー表の作成(資金計画)

設備投資計画の内容が固まり、資金調達の方法が決定されると、キャッシュ。フロー表を作成する。このキャッシュ・フロー表とは、資金運用表の固定資金の部分にほかならない。

資金運用表とは、連続する2期の貸借対照表の増減を計算し、その間資金がどのように投資・運用されたか、またその資金はどこから調達されたかを分析するものである。具体的には、貸借対照表の増減表を2つに区分する。すなわち、運転資金(流動資産と流動負債の増減表)の部分と固定資金(固定資金と固定負債・資本勘定)の部分である。この固定資金の運用と調達を表示したものがキャツシユ・フロー表ということができる。

その一例として次頁に表をあげる。資金の源泉(調達)となっているのは、前述のキャッシユ・フローである。ここでは、税引前利益と減価償却費を資金の源泉側にあげて、社外流出と法人税等支払いを資金の使途(運用)に分けて計上している。このほかに資金の源泉となるのは、増資、長期借入金の借入、保有土地の売却などである。

このキャッシユ・フロー表は当然のことながら、損益計算書、貸借対照表と一体となって作成される。この三者はいわば有機的に結びついており、1つだけ単独で作成しても意味がない。

よく設備投資後の損益計算書だけを作成して、キャッシュ・フロー表や貸借対照表を作らないことがあるが、これでは設備投資が企業に与える効果を一面でしか見ていないことになる。必ず、損益計算書、キャッシュ・フロー表、貸借対照表を三位一体で見るようにする。これは、利益計画(損益計算書)と資金計画(キャッシュ・フロー表)が、その目的は別にしながらも相互に密接に結びつき一体となって策定され、財務計画を構成しているからである。

では、このキャッシュ・フロー表はどの程度の期間作成すればよいのだろうか。一般の合理化投資などは、収支予想と同様に、設備完了後の通常の操業状態となった年度のみで十分である。しかし、10年を超える単独プロジェクトなどの場合は、キャッシュ・フロー予測期間にわたって作成することになる。

(2) 利益計画

①利益計画と設備投資計画のつながり
設備投資計画は、中長期経営計画を構成する最も重要な個別計画である。個別計画であるから、案件ベースで作成される。一方、利益計画は設備投資計画などの個別計画をまとめ上げて、期間計画の形で策定されるので、両者の性格は相当異なる。

しかし、企業の構造を作り上げていく設備投資は、長期の利益計画に売上高、売上原価、減価償却費、金融費用などの形で影響を与えるので、設備計画の作成は最終的には利益計画の作成へと生かされていかなければならないことは明らかである。

このように、設備投資計画を主要な柱とする中長期経営計画のまとめとして、利益計画を考えていく見方が中心である。しかしその一方、利益計画は企業の最終日標を設定するものとして作成されなければならないという意見もある。

この観点からすると、例えば5年後の総資産利益率の目標を5%と設定し、その目標利益を達成するにはどういう設備投資が必要か検討していくという方法がとられるわけである。したがって、利益計画と設備投資計画はこの2つの見方を調整しながら作成していくことになる。

②中長期利益計画と短期利益計画

利益計画には、中長期利益計画と短期利益計画がある。この両者は別々のものとして機能するのではなく、中長期利益計画の1年ごとの実施計画が短期利益計画として捉えられる。中長期利益計画は、常にローリング・プランとして見直しが行われるので、ローリング・プランの1年目が短期利益計画となる。

③ 目標利益の設定

利益計画は、前述のように目標利益を設定することになる。

短期利益計画を例にとって、日標利益の決め方を考えてみよう。

目標利益とは、企業努力により達成すべき数字として挙げられるものだから、まず次期の予想収益を見積り、これから目標利益を控除して、許容費用を算出することになる。目標利益の設定は、過去の自社の実績を勘案しながらつぎの方法で行う。

・使用総資本利益率または売上高利益率から算出

・次期の配当・役員賞与・繰越利益剰余金などを検討し、それに必要な利益額を算出

通常、この両者を併用して目標利益を設定する。なお、この利益率は、使用総資本利益率を用いる方がよい。使用総資本利益率は売上高利益率と使用総資産回転率の積だから、売上高利益率よりは、資産効率も勘案しているという点ですぐれた指標である。

(3)利益計画と資金計画の作成事例

ではつぎのケースで、キャッシュ・フロー表の作成方法および利用の仕方を見てみよう。

C社は新規に貸ビルの建設を検討している。つぎの前提条件でまず25年間の損益計算書(利益計画)、貸借対照表、キャッシュ。フロー表(資金計画)を作成する。

(条件)

イ)初期投資額

土地

償却資産

繰延資産

3,200(1,067坪(300万円/坪の単価計算))

8,000(建物等、6,400坪×125万円)

800(開業準備費他)

合計 12,000百万円

口)資金調達方法

資本金 2,400

長期借入金 9,600

合計 12,000百万円

ハ)売上高の計算

初年度50,000円/月坪×6,400坪×12カ月=3,840百万円

以降毎年5%アップ

100%入居率を常時維持

二)償却前営業利益

対売上高比20%

ホ)減価償却方法

償却資産は30年の定額法(残存価額10%)

繰延資産は5年均等

へ)借入条件

金利8%、随時弁済

不足資金発生の借入金も同様

卜)税率

50%(欠損金の繰延控除は5年まで)

チ)運転資金

考慮しなくてよい

25年間にわたり、損益計算書、貸借対照表、キャッシュ・フロー表を作成する。

作成の方法を順を追って説明すると、まず当初の開始貸借対照表が0期のところに記入される。運転資金は考慮しないので、固定資金の調達と運用の貸借対照表となる。この開始貸借対照表をもとに、第1期目の営業活動が始まる。

営業成績は、損益計算書に表示される。売上高は月坪売上高を年に換算し、それに坪数を掛ける。営業経費率は、償却前営業利益率20%なので、逆算して売上高比80%となる。支払利息については借入金の期首・期末残高の平均金額に8%を掛けて算出する。

法人税については、初期の期間損益が赤字なので、その損失を課税上繰越しできるので課税されないが、第10期より徴収されることになる。第10期の法人税については、第10期の当期利益361百万円から第5期の当期損失205百万円を控除した課税所得156百万円に対して課税される。法人税(等)率が50%なので、法人税等などは78百万円となる。なお、法人税等といっているのは、収益税金である法人税と法人住民税を含むためである。

キャッシュ・フロー表については、税引前利益に減価償却費を加えてキャッシュ。フローの流入とし、流出には法人税等の支払いと長期借入金の返済をあてる。このモデルの場合は、キャッシュ。フローは1期目のプラスマイナスがゼロとなったほかは、すべてプラスとなっている。

その後、貸借対照表を作成する。資産側では、減価償却に伴い資産の簿価が減少する。キャッシュ・フローの余剰により借入金を返済すると借入金が減少する。

(4)神奈川食品機械の利益計画と資金計画

①来期の利益計画をつぎの手順で作成する。

。既存事業の来期収支予想(設備投資効果を含まず)

まず、設備投資を実施する前の既存事業のみで、つぎの前提で来期の利益計画を作成する。

収益・費用計画について

1.生産量および価格については、前期比10%、3%増を見

込む

2.変動費については、つぎの通り

前期比 材料費 1%増

外注加工費 製品売上高の9.2%

運賃 製品売上高の2.8%

3.役員報酬 月額2百万円×12カ月

人件費 前期比5%増かつ4名増員。年額3百万円

4.減価償却費は前期の9掛

5。リース料

コンピュータのリース投資

計画が達成できれば、売上高も利益も大幅増となる。

②ついで、①の利益計画を参考にしながら、来期資金計画も作成する。

これによれば、設備投資資金の借入ができれば、資金計画面では、まず問題なく余裕ある資金繰りとなる。

しかし、当社の場合、運転資金を相当額必要とする体質であるから、この調達には十分留意しておきたい。

③ このケースでは、来期(29期)の利益・資金計画のみを作成したが、できれば3~ 5年間の計画を立てるべきである。

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