目次はじめに第1章「採用ファースト経営」とは1.人財戦略を最重視した経営手法「ヒト・ヒト・ヒト」の時代へ「新卒大量採用」「早期育成」「定着化」が3本柱「採用ファースト経営」に最適な企業とは2.ハイクラスの新卒採用にこだわる理由高止まりしている中途採用コスト「中途採用=即戦力」という固定観念を捨てる20代の層の厚みが競争力を決める「人財」と「人手」は違う理想の人財は「探す」のではなく「育てる」3.実証から生まれた「採用ファースト経営」「採用ファースト経営」で株価は8倍に新人が活躍できる仕組みを用意できるか?第2章「採用ファースト経営」実現のための社内改革1.事業戦略と人財戦略を連動させる加速度的成長へ事業計画やミッションを見直す中期経営計画と人員計画を連動させる「パーヘッド」や「平均年収」にこだわりすぎないなぜプラス15%の新卒採用が必要なのか2.新人が活躍しやすい業務形態に変える「即戦力化=スパルタ」ではない新人は「成果の見える仕事」に専念させるソリューションの標準化を図る3.採用体制を整える20代、30代のトップセールスを採用専任者に抜擢する年50人採用までは社長自身が説明会で語れ〝採用は全社的マター〟を現場に徹底
全社員を巻き込んだ採用活動を人財開発部を立ち上げる4.昇給・昇格のロジックをガラス張りにする「一人前」が定義されていない!キャリアプランを確立しているか?5.若い人が働きたいと思える会社になっているか?企業コンセプトを一新する不人気業種は多角化で本業色を薄める最低でも業界平均の給与を払う低い給与しか払えないビジネスモデルは手直しが必要になる福利厚生を魅力的に見せる創業地に対するこだわりを捨てよ第3章中小企業が「新卒大量採用」を実現する方法1.求める人物像を定める「仕事好き、会社好き、仲間好き」を集める最低限必要なスキルは何か?ペルソナを設定する2.マルチ・チャネルで母集団を形成する通年採用とマルチ・チャネル化ターゲットに合ったチャネルを選定採用計画の具体例【合同説明会】は「回転率」を重視せよ【スカウトメール】で空中戦を仕掛ける採用の主戦場と化した【短期インターンシップ】地方でも活発になる、これから主流の【長期インターン】最先端の採用方法【ダイレクト・リクルーティング】安定供給を狙う【学校訪問】社員全員を人事にする【リファラル採用】【学生コミュニティ・自主イベント】を運営する3.動員力を高める施策「エントリー=入社したい」ではない学生の志望度や目的意識に合わせたイベントを設計するリクルートサイトを用意する
適切なコミュニケーション手段を使って誘導しきる4.人財の見極め方判断基準のばらつきを抑えるデータに基づく適性不適性診断を活用する育成型採用の要となるリクルーター学生とリクルーターのマッチングはAIで決める採用する側の育成5.採用管理の省人化を図るデータドリブン採用6.内定辞退率を抑える内定10人、入社0人を避けるために内定者の短期フォローを徹底する親御さん向けの面談・会社説明会・懇親会第4章「即戦力化」と「定着化」の秘訣1.早期育成が定着化につながるOJTで早期育成はできない早期育成のために必要なこと2.成長度合いを見える化する育成の基準を定める評価制度を形骸化させない3.育成プログラム内定者研修でスタートダッシュをかける!新入社員研修で教えるべきことスキルアップ・トレーニングに時間をかけるスキルマップを用いた職種別内定者研修モデリングを目的としたフォローアップ研修オンデマンド型育成プログラム4.定着率を改善する取り組み経営者が離職率を把握する早期離脱の防止に専念する自社アカデミー船井総合研究所の新人育成
「採用ファースト経営」実践企業にインタビュー──ホンダカーズ佐賀代表取締役岡野晃士氏不人気業種×ローカルエリアからの脱却!「採用ファースト経営」で多角化を加速させる人財戦略想いだけで決めた目標「年商100億円」が学生に響いた!「一緒に事業を立ち上げよう」と幹部候補生にアプローチ「面倒見のいい先輩」の育成が早期離職を防ぐあとがき
はじめに「地方でジリ貧の戦いを強いられている状況をなんとか打破したい」「ビジネスのアイデアは泉のように湧いてくるが、人財が枯渇して着手できない」「事業承継を見据えてギアを上げていきたいが、方法がわからない」人財不足、市場縮小、グローバル化など、中小企業を取り巻く経営環境が年々厳しさを増す中、このような悩みを抱える中小企業経営者は少なくありません。経営者として自社を成長させていきたい気持ちは誰よりも強く持っている。しかし、事業を取り巻く環境の変化が早すぎて、次の最適な一歩の判断がつかないのです。「さてどうしたものか」と経営者がひとりで悶々とする間も、組織や手法を変えることができないまま時間だけが刻々と過ぎていきます。もしくはさっさと行動に移したくても、実行できる人財がいない。その間も先見の明がある一部の社員はいそいそと転職。経営者はますます孤立して悩みが深くなるということが全国の中小企業で起きています。このような状況に終止符を打ち、自社をいま一度成長曲線に乗せる経営手法として、当社(船井総合研究所HRD支援部)が支援先企業に提唱し、実績を挙げているのが、本書で紹介する「採用ファースト経営」です。ひとことで表すなら、採用ファースト経営とは「新卒大量採用」「早期育成」「定着化」を3本柱とした、企業の業績を圧倒的なスピードで上げていくための成長モデルのことです。採用ファースト経営への切り替えに成功した経営者からは、「もっと早くやっていればよかった」「マンネリ化していた経営がまた面白くなってきた」「経営者としての自信が湧いてきた」といった声をいただいています。従来の成長戦略で重視されてきたのは事業戦略、つまり中期経営計画でした。「何年後には年商をここまで持っていきたい。その数字を作るためには何をすればいいか」という逆算発想を経営者が持って戦略的に投資をしていかないと企業が成長することはありません。中小企業で中期経営計画を立てている企業は5%くらいと言われますが、おそらく本書を手に取られた経営者の方はすでに実践されていると思います。しかし、現実的には事業戦略を立て、マーケティングのアイデアを大量にストックしたところで、これだけ人財不足が深刻化してくると、冒頭で書いたように「成長したくても業務を任せられる人財がいない」という歯がゆい思いをする事態がよく起きます。
はじめに「地方でジリ貧の戦いを強いられている状況をなんとか打破したい」「ビジネスのアイデアは泉のように湧いてくるが、人財が枯渇して着手できない」「事業承継を見据えてギアを上げていきたいが、方法がわからない」人財不足、市場縮小、グローバル化など、中小企業を取り巻く経営環境が年々厳しさを増す中、このような悩みを抱える中小企業経営者は少なくありません。経営者として自社を成長させていきたい気持ちは誰よりも強く持っている。しかし、事業を取り巻く環境の変化が早すぎて、次の最適な一歩の判断がつかないのです。「さてどうしたものか」と経営者がひとりで悶々とする間も、組織や手法を変えることができないまま時間だけが刻々と過ぎていきます。もしくはさっさと行動に移したくても、実行できる人財がいない。その間も先見の明がある一部の社員はいそいそと転職。経営者はますます孤立して悩みが深くなるということが全国の中小企業で起きています。このような状況に終止符を打ち、自社をいま一度成長曲線に乗せる経営手法として、当社(船井総合研究所HRD支援部)が支援先企業に提唱し、実績を挙げているのが、本書で紹介する「採用ファースト経営」です。ひとことで表すなら、採用ファースト経営とは「新卒大量採用」「早期育成」「定着化」を3本柱とした、企業の業績を圧倒的なスピードで上げていくための成長モデルのことです。採用ファースト経営への切り替えに成功した経営者からは、「もっと早くやっていればよかった」「マンネリ化していた経営がまた面白くなってきた」「経営者としての自信が湧いてきた」といった声をいただいています。従来の成長戦略で重視されてきたのは事業戦略、つまり中期経営計画でした。「何年後には年商をここまで持っていきたい。その数字を作るためには何をすればいいか」という逆算発想を経営者が持って戦略的に投資をしていかないと企業が成長することはありません。中小企業で中期経営計画を立てている企業は5%くらいと言われますが、おそらく本書を手に取られた経営者の方はすでに実践されていると思います。しかし、現実的には事業戦略を立て、マーケティングのアイデアを大量にストックしたところで、これだけ人財不足が深刻化してくると、冒頭で書いたように「成長したくても業務を任せられる人財がいない」という歯がゆい思いをする事態がよく起きます。
そこで不可欠なのが「人財戦略」なのです。とはいえ、中小企業で採用・育成・定着という人財戦略を最重要課題として取り組まれている企業はめったにありません。課題意識くらいは持たれているものの、どうしても目先の売り上げを達成することが最優先され、具体的なアクションに踏み込めていないのです。しかし、採用も育成も定着も、本来は事業成長の根幹をなすものです。いくらいいビジネスモデルを思いついても、いくら営業マンに高額なセミナーを受けさせても、人財戦略をおろそかにしていては遅かれ早かれ企業の基礎体力は落ち、成長を目指すどころではなくなっていきます。まずは事業戦略で成長の青写真を描く。そしてそれを実現するための人財を、経営資源をしっかりと注入しながら戦略的に採用・育成していく。このように「事業戦略」と「人財戦略」を同列の優先度で扱い、2軸をリンクさせながら同時に走らせていくことが採用ファースト経営の根本的な考え方です。「いやいや、こんな時代に新卒採用?しかも大量?うちでは絶対に無理!」と本を閉じるのはもう少しお待ちください。たしかに中小企業の多くでは新卒採用を最初からあきらめ、業務の大半を中途採用の社員で回しています。しかし、中期的な成長戦略を描きそれを計画的に達成していくためには、事業成長を見越した計画採用が可能な新卒のほうが圧倒的に都合がいいのです。もっと根本的なことを言えば、自社に「いい人財」が増えていけば、いまのビジネスモデルやマーケティング力がどのようなものであっても企業は収益性の高い組織へと成長していくことができます。ビジネスモデルやマーケティング手段は一過性のものにすぎませんが、人財への投資はストックされていくからです。大半の中小企業にとって新卒採用が縁遠いことであるのは承知しています。日本には中小企業が358万社ありますが、そのうち実際に稼働しているのは200万社と言われます(それ以外は節税対策などのペーパーカンパニー)。その200万社のうち定期的に新卒採用をしている企業は当社の試算で約2万社しかありません。つまり、実体のある中小企業の1%にすぎないのです。しかもその1%の中小企業も、超売り手市場となった新卒採用市場でエントリーを集めるだけでも四苦八苦しています。こうした状況は当社の支援先でも同じです。代々事業を営んできた老舗企業などで、たまに縁故入社やアルバイトからの一本釣りで若い社員を雇い入れることはあっても、新卒の定期採用は何年もやっていない企業から経営相談を受けることもあります。そんなときでも本気で事業を拡大させたい熱意が経営者から感じられるなら、当社のコンサルタントは自信を持って採用ファースト経営を勧めます。新卒採用や新人育成のノウハウを持っていなくても「最初は誰でも初心者ですから」といって経営者の背中を後押し
します。その結果、若い社員たちが会社に新しい風を吹き込み、新規事業や新商品を生み出し、売り上げが右肩上がりになっていくという現象が起きています。本書の構成は以下の通りです。まずは第1章で採用ファースト経営の全体像を掴んでいただきつつ、その必要性について解説をします。第2章では、採用ファースト経営の基盤づくりとして、経営者が真っ先に着手すべき社内改革について触れます。一部の経営者の方にとっては当たり前すぎる話と感じられるかもしれませんが、中小企業の実情として、採用がうまくいかないのも社員が育たないのも離職者が絶えないのも、これらの基本的なことが見過ごされているケースがあまりに多いのです。逆に言えば、第2章で触れるような内容を経営者が改善しないまま第3章以降の内容を人事担当者などに丸投げをしたところで、成果は出ません。第3章と第4章は、話を一気に具体的にしていきます。第3章では質の高い新卒を採用するための計画の立て方や具体的な施策を、第4章では新入社員の離職を防ぎながら、いち早く一人前に育て上げていくための極意をさまざまな企業の事例を交えながらお伝えしていきます。巻末では、第3章、第4章のおさらいを兼ねて、当社支援先で実際に採用ファースト経営を導入して業績アップに成功している企業のインタビューを掲載しています。この本がきっかけとなり、皆さまの企業が周囲から羨望の眼差しで見られるような成長を成し遂げられ、日本を代表するグレートカンパニーへと飛躍されることを願ってやみません。2020年1月株式会社船井総合研究所HRD支援部
1.人財戦略を最重視した経営手法「ヒト・ヒト・ヒト」の時代へ採用難の業種かつ地方で、優秀な新卒を毎年10人以上採用する企業。内定辞退率100%の状態からたった1年で承諾率100%に変わった企業。新卒採用をきっかけに事業を転換し、7年で社員数20倍、年商10倍を達成した企業。中小企業経営者にとってはまるで夢のような話ですが、これらはすべて当社の支援先の話です。当社が提唱する「採用ファースト経営」の導入を決断していただき、社内の大改革を行った結果です。採用ファースト経営は、人財戦略を最重視した加速度的な成長を実現するための経営手法です。人財戦略を最重視するというのは、わかりやすく言えば「いい人財の採用と育成、そして定着のために経営資源を惜しみなく投資していく」という意味です。成長速度の理想値としては「既存従業員数の10~20%の新入社員を毎年採用しながら事業を拡大させていく」ことを想定しています。スタートアップ企業並みの成長スピードです。ではなぜ「人財戦略」なのか?
令和の日本では、労働人口は減るばかりです。しかも、日本は移民の受け入れの予定がありません。新卒の有効求人倍率は2012年から増加傾向にあり、2019年卒は1・88倍。平成バブル以来の売り手市場となっています。企業の経営資源は「ヒト・モノ・カネ」から「ヒト・ヒト・ヒト」に変わりました。とくに苦戦を強いられているのが中小企業です。従業員数300人未満の中小企業の2019年3月卒新卒有効求人倍率は9・91倍。「1人の学生に10社が群がる状態」ということです。ちなみに2017年卒は4・16倍。たった2年で2倍以上の難易度になりました。一方で大企業は、企業によっては入社する学生の質が下がったという不満は聞かれますが、数字だけを見ると「2017年卒0・59倍→2019年卒0・37倍」と、むしろ倍率が下がっています(リクルートワークス研究所データ)。こうした人財格差の拡大は業界別でも見られます。たとえば、いつの時代も学生に人気の金融業界の新卒有効求人倍率は0・21倍で、ずっと横ばいです。一方で建設業の求人倍率は9・55倍。5年で2倍になりました。これはつまり、採用市場が超売り手市場になったことで「企業が学生を見極める」のではなく、「学生が企業を見極める」場面が増え、より条件的に有利な企業を志向する学生が増えたと解釈できるのではないでしょうか。「うちの業界厳しくてさ」「うちの地域は悲惨だよ」当社主催のセミナーにご参加いただく中小企業経営者の方々は、口々にそうおっしゃいますが、中小企業の人不足は今後も全商圏で続きます。とくに2021年からは、経団連が「3月1日就活解禁」の新卒ルールを廃止します。それが何を意味するかというと、質の高い学生をめぐる大企業と中小企業のガチンコ勝負がはじまるということです。いままではハンデ戦でした。新卒ルールを遵守する大企業を尻目に、一部の中小企業はインターンシップという形で学生に早期からアプローチをかけ、優秀な学生を惹きつけられるように努力してきました。規模では勝てない代わりに、早さで勝負ができたのです。2021年卒からはそのハンデがなくなります。すでに大企業は一斉に魅力的なインターンシップを仕掛けはじめています。ハンデ戦ですら求人倍率は「0・37倍vs9・91倍」と27倍もの差が開いているわけですから、今後、中小企業にとって「採用」というものが経営の根幹を左右する課題となることは自明です。従来であれば、中小企業も優れた経営者が事業戦略を立てたり新たなビジネスを考えたりしていれば、業績を上げ続けることは可能でした。大企業ほどではないものの、採用についてもそれほど難しくありませんでした。
しかし、これからの時代は「事業戦略は立てたが実行に移す人財がいない!」という悲鳴が全国の企業で続出することになります。企業が持続的成長を実現するために中期的な事業戦略は立てられて当たり前。それを現実化させるための人財戦略がむしろ重要になるのです。「事業戦略の中に人財戦略がある時代」は終わり、「人財戦略そのものが事業戦略となる時代」に突入したのです。「新卒大量採用」「早期育成」「定着化」が3本柱採用ファースト経営を導入するにあたって企業が最終的にクリアすべき目標は3つあります。・質の高い新卒を毎年大量に採用する(既存社員数の10~20%を毎年採用することが理想)・早期育成の仕組みを整え即戦力化を図る(1~3年で黒字社員に変える)・定着率を上げる(最低でも業界平均以下まで離職率を下げる)この「採用」「育成」「定着」の3つの柱はひとつも欠けてはいけません。過不足なく、徹底的にやりきることで業績は伸びつづけ、優秀な若手が中心の活力ある組織へと比較的短期間で生まれ変わることができます。詳細は次章以降で触れるとして、先に各目標の最重要ポイントを押さえておきましょう。「採用」で最も重要なことは、「最強の採用チーム」を作ることと、「通年採用(早期の動き出し)」と「マルチ・チャネル化」を進めることです。要は、従来なら3月1日以降に集中的に行われる合同説明会に人事を兼務する総務課の社員を送り込めば採用できていました。しかし、そのような時代は終わりました。いま採用活動の主戦場は大学3年生のインターンシップへと移行しており、3月に動き出しては遅すぎるのです。またインターンシップ以外にも学生と接触するチャネルは複線化しており、合同説明会に頼らない採用計画を戦略的に立てることが求められています。また、売り手市場になったことで、採用活動はいかに学生を自社のファンにできるかという勝負になっています。若手のエース級を採用責任者に抜擢し、さらに全社的な支援をしながら総力戦で戦ってようやく勝負になるのです。「育成」と「定着」の最重要ポイントは3つあります。ひとつは「早期育成こそが定着につながる」という観点です。新人に雑用ばかりさせるような企業に人は残りません。自分が会社に貢献できている、確実に成長できているとい
う感覚を持ってもらうことで、モチベーションは上がります。ではどうやって早期育成するかですが、ひとつは「業務の標準化と分業化」です。つまり、ある程度誰がやってもすぐに成果が上がる、スキルアップできるような仕組みを社内に整備することです。もうひとつは、当たり前ですが「育成制度の拡充」です。社員育成はOJT頼みという企業も少なくありませんが、成果を出せる人財に最短で育てたいのであれば内定者に向けた研修制度を含む体系立った育成制度をつくる必要があります。早期育成はスパルタで成し遂げるものではなく、仕組みで成し遂げるものであるということをご理解ください。「採用ファースト経営」に最適な企業とは新卒採用を本格的にしてこなかった企業にとって、採用ファースト経営の導入は従来の経営スタイルを抜本的に変えざるを得ない一大改革になります。採用ファースト経営を導入した企業では次のような改革が行われるのが一般的です。・企業理念・ブランディングの一新(ミッション、ビジョンバリュー、行動理念、CI)・人財戦略の一新(採用と教育を担う人財開発部の立ち上げ)・事業戦略の一新(事業の拡充、新規事業の立ち上げ・多角化)・評価制度の一新(業務スキルの言語化、キャリアプランの策定)・生産体制の一新(分業化、チーム化、省人化)・福利厚生の一新(給与アップ、待遇改善)・育成制度の一新(育成プログラムの確立、業務マニュアルの作成)経営者としてはまったく新しい組織に生まれ変わらせるくらいの覚悟が必要です。そして一度、採用ファースト経営に舵を切ったら、新卒社員が活躍できる受け皿を常に仕込んでいかないといけません。つまり、一度走り出したら立ち止まる余裕はないのです。よって採用ファースト経営は決して万人受けする経営手法ではありません。いまの事業規模、もしくはいまの成長速度のままで十分という経営者にはまったくフィットしません。採用ファースト経営があくまでも前提とするのは「加速度的成長」です。そして「加速度的成長」のもっとも確実性の高い方法が、新卒大量採用なのです。とはいえ、単一業態での成長には商圏の上限などがあるため、支援先で採用ファースト経営を導入した企業は、結果的に多角化経営に舵を切るところが大半です。逆に言えば、多角化をしたいと考えている経営者にとっても採用ファースト経営は最適。なぜなら「2
代で事業を任せられる」「社内起業をしてほしい」といったことをアピールすることで経営者志向の優秀層に働きかけができるからです。このように採用ファースト経営は組織の成長のギアを1段、2段と上げていく解決策であるため、事業承継を見据えている企業にとっても最適です。当社の支援先にはオーナー企業が多く、30代くらいのご子息が他社での修業を経て「専務」や「営業本部長」などの肩書で働かれているケースが少なくありません。そのような若い専務などから「親父の会社に入ったはいいけど古参社員だらけで誰も言うことを聞いてくれない。社長になる自信が持てない」という深刻な悩みをよく聞きます。もし、その後継者が事業を本気で拡大したいと思っているなら、採用ファースト経営に切り替えるベストなタイミングであるとお伝えしています。経営者と後継者の二人三脚で社内改革を進めてもらうのです。とくに重要なのが後継者に実際の採用活動の責任者になってもらうことです。次期社長が採用責任者として新卒大量採用を実行していけば、自ずと自分が選考をした社員が社内に急増していくからです。事業承継を終えた経営者に「どのタイミングで自分の会社だと実感したか?」と尋ねると、多くの経営者は「自分が採用に関わった社員が過半数を超えたとき」とおっしゃいます。事業承継を見据えて採用ファースト経営を導入すれば、社長に就任した段階でそれが達成できるのです。後継者が採用責任者としての技量や魅力に欠けていることもありますが、それはそれで採用活動や社内改革というビッグプロジェクトを通して徹底的に鍛えればいいのです。プロジェクトを動かす力も、人間的な魅力も、どのみち経営者になる前に身につけておかないといけないことなのですから。それに自社のビジョンや中期経営計画の見直しといった経営の根幹にあたる領域を、親子で一緒に取り組み、いまの経営者がそれに対してGOサインを出すことでスムーズなバトンタッチが可能となるのです。
2.ハイクラスの新卒採用にこだわる理由高止まりしている中途採用コスト採用ファースト経営が新卒社員にこだわるひとつの理由は、中途採用のコスト効率の悪さです。採用コストは相場が決まっています。たとえば転職サイト経由の中途は30万円。パート・アルバイトは10万円。有資格者の相場もだいたい決まっており、調理師は25万円、看護師は120万円、医師となると1500万円くらいかかります。もちろん新卒採用のコストにも目安があります。現時点で1人当たり50万円。ハイクラスな学生を採用したいなら50万円くらいは最低でもかかるという意味です。このように採用コストには目安があるわけですが、実際にはこうしたコストを把握していない経営者がほとんどです。採用コンサルティングに入る際に「いま新卒は1人頭いくらで採れていますか?」「御社は中途が多いですが、いくらで採れていますか?」と聞いても、社内でデータとして管理していないのです。請求書が会社に届く。経理が支払い処理をする。税理士がP/Lに落とし込む。すると経営者の目には届きません。たしかにハローワークや転職媒体で採用できれば、新卒よりも中途の方が採用コストは低いです。ただし、実態としては事業を少しでも早く成長させたい中小企業経営者ほど、ヘッドハンティング会社経由の「即戦力採用」にこだわります。そしてこのヘッドハンティング市場の価格が、ここ2、3年で暴騰しているのです。いまやヘッドハンティング会社経由で中途を引き抜くと年収の50%くらいを紹介料として支払うのが平均です。年収600万円でベテラン営業を引き抜くためには300万円も紹介会社に支払わないといけません。300万円を支払ってペイできるならそれでも構いませんが、基本的にお金で集めた人財はお金で去っていく傾向が強くなるものです。ヘッドハンティング会社経由で会社にフィットし、長く戦力として働いてくれる社員の割合は、現場を見ている限り20%くらいしかいません。残りの80%は会社にフィットしないか、思い通りの成果を挙げられず、また転職していきます。大金を払って中途を雇った経営者からすればたまったものではありません。事業を拡大すべく積極的に中途を雇って、売り上げを力技で上げたものの、採用コストが足かせとなって減益で終わる企業は珍しくありません。たとえば住宅不動産業界で、売り上げ30億円
くらいの規模で年間1億円を人財紹介会社に払っている企業もあります。当然利益は残りません。そのような企業に対しては、次のように提案をします。「中途採用にそれだけのコストをかけるなら、質の高い新卒の採用・育成・定着に本気になってみて、予算を割いてはどうでしょう。1、2年で即戦力になってもらい、自社の中核人財として活躍しつづけてもらったほうが圧倒的に安上がりですし、会社としても成長できると思いませんか?中途採用中心の補充採用で未来はつくれますか?」と。すると、それまで「新卒採用=非即戦力のために50万円=高い」という発想を持っていた経営者も「たしかにそうかもしれない」と話を聞いていただけることが多いです。「中途採用=即戦力」という固定観念を捨てる新卒採用に乗り気ではない経営者が多い理由は「経験者を採れば売り上げがすぐに立つ」というイメージがあまりに強いからです。そして「新卒社員を即戦力に育てるには時間がかかる。それまでに辞められたら損だ」と感じているからです。しかし、実際には経験者を採っても自社の文化や仕組みにフィットする保証はまったくありません。上司が指導をしなくてもすぐに50万円、100万円と契約を取ってくるかもしれませんが、期待通りのレベルに達することなく止まってしまう可能性もあります。「中途のほうが即戦力になる」という一般常識は、実はかなり危険です。むしろポテンシャルの高そうな新卒を採用して、安定して200万円、300万円の契約を取れる人財に企業が責任を持って育て上げたほうが中期的にはメリットが大きいのです。第4章で詳しく紹介する早期育成と定着の仕組みを企業がしっかりと用意すれば、遅くとも3年、早ければ1年で黒字化社員に育てることは十分可能です。「1、2年も待てないよ」という経営者の方も少なくありませんが、当社の経営コンサルタントが「即時業績アップ」という謳い文句で即効性の高いマーケティングソリューションを提供するとき、スパンとしては1、2年を見てもらっています。さすがに1カ月で業績が劇的に改善することはないので、支援先の経営者にもご納得いただいています。これはつまり、1、2年で成果を出せたら「即時」といえる、という意味です。それにもかかわらず、話が人財になったとたん「1、2年も待てない」という経営者が多いのは、それだけ「中途=即戦力」という固定観念が強い証しでしょう。採用する「社員の質」と、「育成の仕方」にこだわっていけば、新卒社員も立派な即戦力になるのです。しかも、そうやって即戦力になった新卒社員は、お金で釣られてやってきた中途社員と違って自社の経営理念に賛同してくれた人財です。自分が働く会社に対するロイヤリティがまったく違います。定着率も高いのです。世間では「いまの若い人はすぐに会社を辞める」というイメージが強いかもしれません
が、どの業界を見ても新卒社員の離職率は中途社員の半分です。定着率が高いということは、中期的な事業戦略の達成がしやすいということです。ここも重要なポイントで、中途はどうしても量と質にばらつきが出るため、3年先、5年先を見据えた事業戦略との相性はよくありません。中小企業の実態としても「人が足りない!じゃあ中途を急いで採ろう!」という形で、その場しのぎ的に中途を採用しているケースが多いように感じられます。その点、大学の卒業生は毎年、同じ時期に安定して市場に供給されます。採用活動に会社として本気で取り組んでいけば、地方の無名な中小企業でも学生は採れると断言します。たしかに採用競争は激化していますが、少なくとも現時点で採用活動に全社的にコミットしている企業はほとんどありませんから、社内の予算とマンパワーと知恵を結集すれば中小企業でも勝てない勝負ではないのです。20代の層の厚みが競争力を決めるそもそも、これからの時代は20代の層の厚みが企業の競争力を決めると当社は考えています。理由は3つあります。1つ目は、いまの20代はデジタルネイティブ世代だからです。競争力の源泉である最先端テクノロジーに対する親近感や親和性は、40代、50代とは比べものになりません。業務の効率化を図るツールの導入を若手が提案をしても「うーん。よくわからないからダメ」と無下に提案を却下する年配の決裁者は星の数ほどいますが、20代の層が大きな塊となって力を持てば、そうした古臭い慣習を打破できるでしょう。2つ目は、彼らが働き方改革ネイティブ世代だからです。「長時間働くことでパフォーマンスを上げる」というのが従来のビジネスパーソンの常識でしたが、いまの20代は「いかに短い時間でパフォーマンスを上げられるか」という前提に立った考え方が自然とできます。時短の流れやライフワークバランスといった概念を「ジェネレーションギャップ」や「価値観の相違」で片付けようとする経営者はいまだに多いですが、そうではありません。ゲームのルール自体が変わったのです。だとすれば、ゲームのプレイヤーも入れ替えていかないといけません。3つ目は、ダイバーシティ・ネイティブだから。つまり、多様性を受け入れる下地が上の世代よりも高いからです。わかりやすい例が男女の平等でしょう。いまの20代にとっては女性が活躍できる職場というものは当たり前の話です。現実的な話をすれば、中小企業経営者の多くはいまだに自社の中核として女性が活躍している姿をイメージしきれていませんが、20代の社員が増えて下からの突き上げが起きれば、組織も変わらざるを得ないのです。この3つの理由から、〝企業が成長力・競争力を高めたいなら20代の層を厚くしていく
べきである〟。おそらくこれが、大半の日本企業の答えだと思います。「人財」と「人手」は違う当社では企業の採用活動を支援するときに明確に使い分けている言葉があります。「人財」と「人手」です。「人財」とは自社の中核を担う幹部候補クラスを指し、「人手」とはパート・アルバイトを含むオペレーションスタッフを指します。採用ファースト経営が前提としているのは「人財」です。新卒の大量採用といっても、妥協をして質の悪い学生を大量に雇い入れても組織の成長にはつながりません。経営を逼迫させるだけです。このような話を支援先にすると、リアクションは大きく2つに分けられます。ひとつは「それは理想論であって、そんな優秀な人財をうちで採れるわけがない」。それに対して当社のコンサルタントは「社長が本気になれば、決して無理ではありません」と回答します。いかに社長が本気になれるか。ここは強調してもしきれないほど重要なポイントです。新卒採用を諦めている企業は、そもそも人事全般に経営資源を投入していません。その状態のまま採用活動をしても惨敗するのは目に見えています。人財の採用と育成を、片手間や思いつきで行うのではなく、他人任せや運任せで行うものでもなく、経営者が先頭に立ち全社を挙げて戦略的に取り組む。これが採用ファースト経営を成功させる基本です。現実的には地方の中小企業が東大、京大、早慶クラスの学生を獲得するのは難しいかもしれません。しかし、地元の国公立大学の優秀な学生で、成り行きで公務員や地銀に就職するような層を狙っていくことは十分可能であり、支援先でも実績を挙げています。よくあるもうひとつのリアクションは、「新卒をガンガン採用するのが怖い」です。採用ファースト経営は、ある意味でアクセルをベタ踏みする超攻撃的な経営手法のため、覚悟を決めきれない気持ちはよくわかります。それに対して当社は「いい人財を採りすぎて潰れる会社はありません。人財への投資は裏切りません」と回答します。人手を雇いすぎて経営が傾くのは理解できます。いま大企業が加速させているリストラも、対象は「給与に見合った価値を生み出さない人手」です。当社としても、人手は逆に減らすべきだと考えます。誰がやっても同じ作業はコンピューターやロボットにやらせて生産性を上げていかないと、働き方改革が本格化するこれからの時代、企業経営は成り立ちません。しかし、自ら価値を生み出すことができる優秀な人財は、多ければ多いほど組織の競争力が高まり、業績も伸び、社内も活性化します。仮に今後、経営環境が変わって事業転換
をしていかなければならないときでも、「人手」は使い道がなくなりますが、「人財」はどんな仕事でも成果を挙げてくれます。理想の人財は「探す」のではなく「育てる」一般的な選考といえば「この応募者は自社の求める人財か?」を問う「見極め型採用」をイメージされるかもしれません。しかし、応募者の多い大企業の選考ならまだしも、中小企業の選考で理想の人財を求め、ひたすらふるいにかけても、誰も残りません。「この前、合同説明会に参加したんだけど、欲しい学生がひとりもいなかったんだよね」という愚痴はよく聞きます。採用ファースト経営の大きな特徴のひとつは、「見極め型採用」ではなく「育成型採用」というスタイルで採用を行っていることです。会社説明会やリクルーター、面接などを通して「うちではこういう人財が欲しいんです」という人物像と「こんなことをしたいんです」という企業のミッションをわかりやすく言語化して繰り返し伝えていく。その結果、「自分もそんな人財になって、この会社のミッションの実現のために役立ちたい」と思ってもらえるようにマインドを醸成していく。これが育成型採用です。競争の激しい新卒市場で優秀な学生に自社を選んでもらう効果的な戦術として、さらには入社後のミスマッチを防ぐ手段として非常に効果的です。この発想の根底にあるのは「世の中には優秀な学生がたくさんいるが、自社と考え方が完全にマッチするような理想的な人財は最初から存在しない」とする考え方です。存在しない人財を見極めるための面接を繰り返すのは効率的とはいえません。存在しないのなら育ててしまえばいいのです。自社のファンではない学生はファンにすればいいのです。自分なりのこだわりが確立されている中途採用ではそうはいきませんが、社会人経験のない学生であれば十分可能なことなのです。
3.実証から生まれた「採用ファースト経営」「採用ファースト経営」で株価は8倍に以上で採用ファースト経営の全体像をある程度掴んでいただけたかと思いますが、章の最後にこの経営手法が生まれた経緯について補足させてください。当社が採用ファースト経営という成長モデルを世の中に発表したのは2018年秋からです。そこで体系立てられた知見は、実は当社が2011年ごろから進めてきた自社の一大組織改革の集大成です。つまり、当社は採用ファースト経営の実践者です。自社で成功した事例を支援先に提案するコンサルティング手法を当社では「ショールーム経営」と呼んでいます。新卒大量採用、早期育成モデルは、熟練したスキルが求められるコンサル業界では異例のことです。しかしその結果、船井総研ホールディングスはいま7期連続で増収増益を続けています(2012年から2018年)。株式投資をされている方であればご存じかもしれませんが、株価は2012年と比べると8倍になっています。それまで当社の株価は何年も横ばいが続いており、売り上げも上がったり下がったりを繰り返していました。企業にありがちな景気に大きく左右されるビジネスモデルを取っていたからです。しかし、それでは加速度的な成長はできないということで、新生・船井総合研究所として着々と改革を進めてきたのです。そもそも当社の歴史はコンサルティング業界のイノベーションの歴史でもあります。大企業を相手にしたコンサルビジネスが常識だった時代に、当社は中小企業に特化したコンサルティング会社としてスタートしました。コンサルティング会社は非上場が常識だったところに、業界として初めて上場を果たしました。さらに企業の経営課題別に対応するモデルが当たり前だったところに、業種・業界別モデルを導入しました。そしていま、当社が業界の常識を打ち破っているのが、新卒のコンサルタントが即戦力として活躍するモデルです。当社の平均年齢は20代。競合と比べると圧倒的な若さです。支援先の経営者からも「どうやれば入社3年で一人前のコンサルタントになれるの?」と驚かれます。一般的なコンサルティング会社では20代でリーダークラスになることはまずないからです。新人が活躍できる仕組みを用意できるか?
当社の新卒即戦力化を可能にしているのは、手厚い育成制度だけではなく、さまざまな業務改革、ビジネスモデル改革です。たとえば受託型フローモデルの導入。一般的なコンサル会社は営業職が企業に対してガンガン売り込みをかけ仕事を取っていくわけですが、当社は中小企業経営者を対象にした業種・テーマ別の研究会活動を重視しています。2018年度は年間736件のセミナーを開催し、7459社の方に「経営研究会」と呼ばれる経営者向けの勉強会にご入会いただきました。研究会の会員になっていただいた企業が当社の支援に興味を持ち、問い合わせをいただくというパターンを戦略的に増やしているのです。こちらから「買ってください」と頼み込む営業は経験が必要なので、若手にとっては難易度が高いですが、当社のノウハウをある程度知ったうえで、「助けてください」と相談していただける側に回る営業であれば、1年目でも結果を残せるのです。さらに業務も分業化を図り、新入社員にまず各自の得意分野をつくってもらい、そこに専念してもらうスタイルに変えました。ひとりでなんでもできるスーパースターコンサルタント型からチームコンサルティング型に変えたのです。その結果、入社1年目のコンサルタントの実績を2倍にすることができました。社員の離職率も20%超えから10%へと半減させることができました。またコンサルタントが提案するソリューションについても、個々の能力に依存するのではなく、全社的に共有を図りながら船井総合研究所としての〝解答〟を常に蓄積していく仕組みに変えました。たとえば採用で悩む企業の実情を把握して、インターンシップの企画力が不足しているとわかったら、インターンシップの企画を専属で行う1年目のコンサルタントをプロジェクトに投入するのです。このように若手社員でも成果をしっかり出せるように業務を標準化し、分業化していけば、実は新卒社員の即戦力化は難しい話ではありません。通説では「新卒なんて使えない」という認識が強いですが、使えないのは使えるようにする仕組みを用意していないだけです。逆に、使えるようにする仕組みを一度つくれば、どれだけ採用しても黒字化社員にできるので、事業さえ用意できていれば採用数を拡大しても経営者としては怖くありません。それに、新卒が活躍できるという評判は、さらに多くの学生を惹きつけます。ちなみに当社は2020年春には150人の新卒社員が入社予定で、今後もさらに増やしていく計画です。
1.事業戦略と人財戦略を連動させる加速度的成長へ事業計画やミッションを見直すこの章では採用ファースト経営の導入を決めた企業経営者に真っ先に着手していただきたい、以下の6つの経営課題について解説をしていきます。・企業ミッションと中期経営計画の見直し・中期経営計画に基づく人員計画の策定・即戦力化を可能にする業務改革・ビジネスモデル改革・採用体制の整備・評価制度の見直し・自社の魅力を高める改革いずれも採用ファースト経営を実施していくうえでの基盤となるものであり、なおかつ経営者主導でないと実現しないものです。順を追って説明していきます。採用ファースト経営が前提とするのは「加速度的な成長」です。そのためには「加速度的な成長を織り込んだ事業計画」が不可欠です。具体的には、3カ年先までの売り上げ・利益等の数値目標を立てる中期経営計画です。中小企業で中期経営計画を作っている企業は5%と言われます(当社試算)。もし作っていないなら作る。すでに作っているが保守的な成長目標を設定しているなら、見直しをかける必要があります。さらに、加速度的な成長を目標として掲げるなら、必要に応じて企業のミッション、ビジョン、バリューの見直しも検討しないといけません。なぜなら、採用ファースト経営に切り替えると自ずと最終到達地点が高くなり、事業を拡大させるために多角経営に切り替えることが多いからです。自社のビジョンやミッションが新たなゴール設定を反映しているのか見直しをかけ、場合によっては社名変更を含む大規模なブランディング改革を実施しないといけません。
中期経営計画と人員計画を連動させる中期経営計画を立てたら、次に行うことはその売り上げ目標(成長目標)を実現するための人員計画を立てることです。具体例としてここに、当社のコンサルタントが支援先のために作成したエクセルシートを用意しました。岡山県では知らない人はいない株式会社ヘルシーホームという住宅会社のものです。採用ファースト経営の根幹にある「事業戦略と人財戦略の連動」というのは、このようなシートを作ることだと理解していただければと思います。同社は岡山県で10年連続シェアナンバーワンの企業で、非常に生産性が高い優良企業です。2年前に事業承継を実施したタイミングで「地域でナンバーワン」から「地域で断トツのナンバーワン」にギアチェンジをしたいということで、当社の経営コンサルタントと採用コンサルタントがタッグを組み、事業と人事の両面で支援をさせていただいています。まず、エクセルの上段に72億、95億、120億、150億と書いてあるのが、2022年期までの中期経営計画で設定している売り上げ目標です。
パーヘッドの欄はいったん飛ばして、エクセルの中段にあるのが、各年度の職種別の人員計画と期初の延べ従業員(理論人員期初)です。ご覧のように、かなり具体的に計画を立てています。たとえば、同社では2022年までに営業は47人に、設計は21人に増やすといった計画を立て、トータルで見ると「2022年は148人体制で150億円の売り上げを実現する」という計画に着地しました(このあたりの数字は経営者と当社のコンサルタントが協議のうえ、立てた目標値です)。その下が、中小企業が見落とすことが多い「退社計画」です。会社を辞める従業員数がどれくらいの規模になりそうか、もしくは退社率(離職率)を何%くらいに抑えるべきか。こうした数値を織り込んでおかないと「入社計画(採用計画)」の正確な数字はいつまでも見えてこないのです。そもそも経営者でも自社の離職率を把握していない人は意外に多く、過去3年の売り上げ・利益等の経営数値は詳細まで把握していても、過去3年の離職率をすんなり答えられる経営者は2%くらいしかいません。ここは盲点になりがちですので、お気をつけください。株式会社ヘルシーホームの経営幹部の皆さまも過去の退社率まで正確には把握されておらず、人事部に数字を算出してもらいました。その結果、2018年の退社率は15・79%(76人のうち12人が退職)であることが判明。数値としては業界平均値ともいえますが、数値の背景には明確な理由がありました。それは同社では長年、中途採用者をメインで事業を拡大してきたからです。同社は2018年に新卒3人、中途27人の計30人採用していましたが、2018年の退職者12人のうち10人が2018年中途採用組だったのです。同社では中途採用者1人を獲得するために人財紹介会社に約200万円支払っていましたから投資効率が非常に悪かったのです。この数字を見て一番驚いたのは経営者ご自身。中途依存を脱して新卒採用を主体に切り替えていくいい発奮材料になりました。退社率の目標も立てています。16%近かった退社率は新卒入社の割合を増やすことで12%に抑えるという数値目標を立てました。このように退社率を事前に読み込んでおかないと事業計画と人員計画にズレが生じてしまい、事業計画が少しずつ遅れていくという事態が起きるのです。ちなみに12%という数値は経営陣と当社が作った現実的な数字ですが、社内的なKPI(KeyPerformanceIndicator=重要業績評価指標)としては「10%以下に抑えよう」と伝えています。これはどの業界の企業でも有効なノウハウで、生の数値目標をそのまま全社で共有してしまうと「12%までは辞めさせてもいいんだ」と解釈する社員が出てくるため、危機感が生まれません。次に見ていただきたいのが「入社計画」です。つまり、何人社員を採用すればいいか。
これは人員計画と退社計画の数字が出ていれば簡単な引き算で算出できます。同社は2019年に目標通り新卒15人の採用に成功し、2020年以降は20人、25人、30人と数を増やし、最終的には中途を採らなくても人財が確保できるところを目指していくということで、現在も鋭意支援中です。最下段にある新卒人数と新卒比率とは、新卒入社組の総数と、全従業員数に対する割合です。2019年に15人の新卒を採用できたことで新卒人数は19人(新卒比率20・2%)となったわけですが、2022年には従業員の過半数(51・4%)が新卒入社組になるという計画を立てています。優秀な学生を採りたいなら組織の若返りは必須です。「会社訪問をしたら、おじさんとおばさんしかいなかった……」と捉えられる可能性が高く、これでは学生も自分が活躍している姿をイメージできないので、敬遠されて当然です。組織の平均年齢だけでなく、新卒比率は採用ファースト経営では重要なKPIのひとつです。このように、採用目標人数は具体的な売り上げ目標、具体的な人員計画、具体的な退社計画があってこそ根拠のある数字を導き出せるものです。「採用ファースト」という言葉の響きから「採用ありきで、そこに事業を合わせていく」と誤解をされる方がたまにいらっしゃいますが、そうではありません。あくまでも事業計画ありきで、それを実現するための計画を立てるのです。「パーヘッド」や「平均年収」にこだわりすぎない先ほど説明を省略した「パーヘッド」について補足させてください。株式会社ヘルシーホームの採用計画はすんなり決まったわけではありません。当社のコンサルタントが一番苦心したのが「パーヘッドが下がる」という側面を経営者様にご納得いただくことでした。住宅業界における「パーヘッド」とは、「従業員1人当たりの住宅販売数」のことです。同社のパーヘッドは16棟以上あり、業界平均である6棟を大きく上回っていたのです。パーヘッドは生産性を示すわかりやすい指標ですから自社のパーヘッドが高いことは自社の強みの証しであると考え、強いこだわりを持つ経営者は珍しくありません。とくに優秀な経営者の方ほどその傾向があります。しかし、事業を計画的に成長させていくには新卒採用がカギであり、新卒を増やしていくと生産性(パーヘッド)は一時的に下がります。そのため前述したようなエクセルを作って増収増益にできる点を力説したり、もしくは新卒と中途の採用コストの違いや、計画採用のしやすさといった話を丁寧に説明して最終的にご納得いただけました。
なぜパーヘッドを下げても増収増益にできるのか?もしかしたら読者の方の中にも釈然としない方がいらっしゃるかもしれません。一番大きな理由は新卒採用メインに切り替えることで人件費と採用コストが大幅に下がり、利益が残りやすくなるからです。ここで重要なのはP/L上でお金の出入りがイメージできるかどうかです。給与や賞与以外に紹介手数料でいくらくらいかかるのか、新卒採用の採用予算はどれくらいが適正なのか、採用した人員がどれくらいの期間でどれくらいの売り上げをつくれるようになるのかといった全体像を見ながら、こだわるべきKPIを変えていかないといけません(同社の場合は入社率、退社率、新卒比率など)。「パーヘッド」に似た話でいうと「平均給与」に強いこだわりを持つ経営者もいます。実は船井総合研究所も、採用ファースト経営に舵を切るまでは平均年収にこだわる会社でした。しかし、現在の経営陣は平均年収へのこだわりは掲げていません。なぜなら新卒を大量採用し、退社率を抑え、平均年齢を一気に下げていく採用ファースト経営に切り替えると、前提が変わるので従来の平均給与を維持することに意味がなくなるからです。それにリーダー以上の給与水準だけを見れば業界平均以上ですので、学生を集める際に不利になることもありません。単に「平均年収」という指標を使わなければいいだけの話です。パーヘッドに話を戻せば、当社が採用ファースト経営に切り替えはじめたとき、現場レベルでは「新人の面倒を見ながら仕事をこなしていたら生産性が落ちる」という不満や不安の声も上がりました。従来は1社をベテランコンサルタントが1人で担当していたところを、新卒の大量採用をはじめてからチーム制に変えたからです。支援先は地方の企業が多いですから出張費もかかります。指導の手間もかかります。先輩コンサルタントたちからすれば粗利生産性が気になるのは自然なことでした。しかし、そのとき、現場のコンサルタントに欠けていたのは「投資」という観点でした。ベテラン1人でこなせるような案件でもあえて新人を同行させ、資料作りなどを手分けしながら行うことで若手が驚異的なスピードで成長していくのです。しかもベテランはベテランで従来よりも多くの案件がこなせるようになるため、結果的に当社の粗利生産性は下がるどころか上がりました。ですから先ほどの株式会社ヘルシーホームについてもパーヘッドの予測値としては下がっていきますが、チーム体制や育成体制の整備がうまくいって成長スピードが上がれば、現状維持ができる可能性はゼロではありません。ただ、現実的な計画を立てていくときの基本姿勢としては「新卒者の数を増やすと生産性は一時的に落ちるが、中期的には大きなリターンとして返ってくる」ということです。なぜプラス15%の新卒採用が必要なのか
事業戦略と人財戦略を連動させていくという話のもうひとつの補足として、当社の社内でよく使われる図を紹介します。採用ファースト経営では従業員数の10~20%を採用していくということがベースにありますが、なぜその数字が出てくるのかというロジックを解説したものです。
仮に年15%成長(3年で150%成長)を目標とするとしましょう。15%成長の内訳は、計画的な成長(量的な成長)が8%、既存社員が成長することによるベースアップ(質的な成長)が7%と分けることができます。8%の計画的な成長を実現するためには8%の事業拡大が必要です。いわゆるネタ作りのことで、コンサルティング会社であればコンサルテーマの開発であり、多くの企業にとっては販路拡大や新規事業立ち上げが該当します。ただし、事業を拡大してもそこで働く人員が不足していては計画通りにいきません。たとえば「急に仕事が増えたけど、さばく人がいない!中途でなんとかしよう!」という企業は多いかと思います。しかし、その場しのぎの補充採用でうまくいっている企業はめったにありません。離職率が高く、採用コストに見合わないからです。そうした事態を避けるために8%の事業拡大を見越して1年前倒しで人財を8%増員させる。これが計画採用であり、新卒採用が事業の計画的成長に最適である理由です。しかし、そのまま8%という数字を鵜呑みにして採用をしても計画通りにいきません。それが先ほども触れた退社率の存在です。人を8%増やしても、7%減ってはトータルで1%しか増員しません。そこで、退社率を7%に抑えるという前提で増員すべき新卒数を計算すると、8%に7%を足して15%。このようにして「従業員比15%」という数値を算出しています。
2.新人が活躍しやすい業務形態に変える「即戦力化=スパルタ」ではない当社の支援先の飲食店では、新卒社員は2、3年で店長になることを前提に育成計画を立てます。そのために必要なことはスパルタ教育ではなく、仕組み化です。たとえば、回転寿し店の利益を大きく左右するのは、どのタイミングでどの商品をレーンに置くかですが、それができるのは熟練の店長だけ。2、3年でその経験は積めません。しかし、そこで各店舗の状況を本部でリアルタイムに管理しながら「いまイカ入れて」といった指示を飛ばす仕組みを導入すれば、2、3年目の店長でもちゃんとお店を回せて、なおかつ会社全体として業績も上がるのです。このように属人的な力に頼らなくても若手社員の業績が上がるように環境を整備することは、早期育成という観点から見て非常に重要な概念です。右も左もわからない新人に「あれもこれもやれ」といきなり詰め込んでも、そのペースに追いつける人財は限られてきます。「頑張っているけど、できないことばかりだ。自分はこの仕事に向いていないのではないか」と自信を喪失して辞める若手が出てきます。それでは早期育成と定着率アップにつながりません。「早期育成=スパルタ」と勘違いされる方もいますが、そうではありません。「まずはこれやってみようか?」「できたね。じゃあ、次はこれをやってみようか?」と確実に一段ずつ階段を上らせたほうが、安定的かつ効率的に人財を育成することができます。そのためには経験の浅い新人でもできそうな範疇に業務を絞り込むことです。そして、そこで自分の成長度合いや会社への貢献度を、はっきりとした手応えとして実感してもらうことです。すると若手のモチベーションは上がり、仕事に前向きになり、次はこんなことに挑戦したいという気持ちが湧いてきます。最終的に多能工を目指してもらうのがいいのです。ただ、そこに至るまでのルート設定が重要だということです。新人は「成果の見える仕事」に専念させる支援先で実際に行った、わかりやすい業務改革の例があります。名古屋のある医療機器メーカーは介護施設や病院に自社の営業部隊を送り込んでいま
2.新人が活躍しやすい業務形態に変える「即戦力化=スパルタ」ではない当社の支援先の飲食店では、新卒社員は2、3年で店長になることを前提に育成計画を立てます。そのために必要なことはスパルタ教育ではなく、仕組み化です。たとえば、回転寿し店の利益を大きく左右するのは、どのタイミングでどの商品をレーンに置くかですが、それができるのは熟練の店長だけ。2、3年でその経験は積めません。しかし、そこで各店舗の状況を本部でリアルタイムに管理しながら「いまイカ入れて」といった指示を飛ばす仕組みを導入すれば、2、3年目の店長でもちゃんとお店を回せて、なおかつ会社全体として業績も上がるのです。このように属人的な力に頼らなくても若手社員の業績が上がるように環境を整備することは、早期育成という観点から見て非常に重要な概念です。右も左もわからない新人に「あれもこれもやれ」といきなり詰め込んでも、そのペースに追いつける人財は限られてきます。「頑張っているけど、できないことばかりだ。自分はこの仕事に向いていないのではないか」と自信を喪失して辞める若手が出てきます。それでは早期育成と定着率アップにつながりません。「早期育成=スパルタ」と勘違いされる方もいますが、そうではありません。「まずはこれやってみようか?」「できたね。じゃあ、次はこれをやってみようか?」と確実に一段ずつ階段を上らせたほうが、安定的かつ効率的に人財を育成することができます。そのためには経験の浅い新人でもできそうな範疇に業務を絞り込むことです。そして、そこで自分の成長度合いや会社への貢献度を、はっきりとした手応えとして実感してもらうことです。すると若手のモチベーションは上がり、仕事に前向きになり、次はこんなことに挑戦したいという気持ちが湧いてきます。最終的に多能工を目指してもらうのがいいのです。ただ、そこに至るまでのルート設定が重要だということです。新人は「成果の見える仕事」に専念させる支援先で実際に行った、わかりやすい業務改革の例があります。名古屋のある医療機器メーカーは介護施設や病院に自社の営業部隊を送り込んでいま
2.新人が活躍しやすい業務形態に変える「即戦力化=スパルタ」ではない当社の支援先の飲食店では、新卒社員は2、3年で店長になることを前提に育成計画を立てます。そのために必要なことはスパルタ教育ではなく、仕組み化です。たとえば、回転寿し店の利益を大きく左右するのは、どのタイミングでどの商品をレーンに置くかですが、それができるのは熟練の店長だけ。2、3年でその経験は積めません。しかし、そこで各店舗の状況を本部でリアルタイムに管理しながら「いまイカ入れて」といった指示を飛ばす仕組みを導入すれば、2、3年目の店長でもちゃんとお店を回せて、なおかつ会社全体として業績も上がるのです。このように属人的な力に頼らなくても若手社員の業績が上がるように環境を整備することは、早期育成という観点から見て非常に重要な概念です。右も左もわからない新人に「あれもこれもやれ」といきなり詰め込んでも、そのペースに追いつける人財は限られてきます。「頑張っているけど、できないことばかりだ。自分はこの仕事に向いていないのではないか」と自信を喪失して辞める若手が出てきます。それでは早期育成と定着率アップにつながりません。「早期育成=スパルタ」と勘違いされる方もいますが、そうではありません。「まずはこれやってみようか?」「できたね。じゃあ、次はこれをやってみようか?」と確実に一段ずつ階段を上らせたほうが、安定的かつ効率的に人財を育成することができます。そのためには経験の浅い新人でもできそうな範疇に業務を絞り込むことです。そして、そこで自分の成長度合いや会社への貢献度を、はっきりとした手応えとして実感してもらうことです。すると若手のモチベーションは上がり、仕事に前向きになり、次はこんなことに挑戦したいという気持ちが湧いてきます。最終的に多能工を目指してもらうのがいいのです。ただ、そこに至るまでのルート設定が重要だということです。新人は「成果の見える仕事」に専念させる支援先で実際に行った、わかりやすい業務改革の例があります。名古屋のある医療機器メーカーは介護施設や病院に自社の営業部隊を送り込んでいま
す。介護施設の営業であれば1年目でもなんとかなるのですが、病院は業界特有の知見と経験が問われるため、病院の新規開拓は難関です。そこで当社のコンサルタントが提案したのが、1年目の社員は介護施設の営業に専念させることでした。そうすれば新人は病院のことを学ぶ必要がなくなり、介護施設回りにすべての時間を割くことができます。結果的に売り上げも立ちますし、なにより社員に自信がつきます。業界の慣習からすれば、法人営業においてはテリトリーを任せることが一般的で、業界を絞った法人営業というのはあまり事例がありません。この話をしたとたん経営者の方は目からウロコが落ちたような表情をされ、「なんでそれを思いつかなかったんだろう」と言って、翌月から制度を変えられました。さっそく効果が出始めているそうです。単純な例ですが、業界慣習にこだわるがゆえに人財育成が遅れている業界は少なくありません。第1章で触れたように、当社でも採用ファースト経営に切り替えてから、従来の一気通貫型コンサルタントからチーム制のコンサルティングへと移行を進めています。ある部門では、新人Aは営業専門、新人Bはインターンシップの企画専門、新人Cは資料作成専門という形で分業をして、チーム全体としてクライアントの課題を解決していく仕組みを導入しています。その部門は現在社内でも極めて高い生産性を上げており、1年目の社員も大活躍しています。「そうした働き方だと社員が不満を持たないか?」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、当社では採用段階から「うちはチーム制なのでまずは専門性を身につけてほしい」という話を学生にしているので入社後のミスマッチは起きません。もちろん「いずれはなんでもこなせるコンサルタントになりたい」という願望を持っている若手がほとんどなので、そういう社員はひとつの領域で結果が出せるようになったら別の領域にチャレンジしてもらっていますし、「自分はひたすら営業を極めたい」という社員がいたら、その希望をできるだけ叶えるようにしています。人には得手不得手があるため業務を分業化しておくと適材適所を圧倒的に進めやすくなるメリットもあるのです。分業化は受験勉強に例えるとわかりやすいでしょう。受験勉強の目標は総合学力を上げることです。その際、すべての教科を並行して勉強するスタイルが一般的ですが、それだと自分の成長がはっきり自覚できるのは先の話です。自分の成長を早い段階で実感しやすくするには攻略する教科を絞って、ひとつずつ得意科目にしていくことです。受験勉強をはじめて早々に得意科目ができれば、その後の勉強にも身が入りやすいでしょう。また、分業化で重要なことは、単に業務を細分化することではなく「いかにチーム全体として機能させていくか」ということです。たとえば大半のコンサル企業では営業と現場を分けていますが、できもしないことを営業が契約してきては現場もお客様も困惑するということが頻繁に起きています。それはチーム全体として連携できていないからです。チームとして連携の取れていない分業化は、単なる歯車化です。成果を実感しづらいので早期育成と定着にはつながりません。
ソリューションの標準化を図るこちらも先述した通り、当社では分業化を進めると同時にクライアントに提供するソリューションも積極的に標準化を進めています。わかりやすく言えば、誰もが同じ成果を再現できるよう、やるべきことを明文化しておくことです。コンサルタントの世界は「いかに自分のオリジナリティが発揮できるか」という個人商店の色合いが濃く、当社もかつてはそうでした。しかし、そのスタイルだと成果を出す人財と出さない人財のばらつきが大きくなりすぎる欠点があります。そこで顧客の抱える課題に対して「これだけをやればすぐに解決する」というソリューション(当社の広報ではずばりソリューションと表現しています)を社内にストックしておき、コンサルタントがそれをそのまま顧客に提案する形に変えたのです。この仕組みを可能にするのは徹底した情報共有です。当社では成功事例会議と呼ばれる会議を定期的に開催しており、誰かが優れたソリューションを思い付いたり、既存のソリューションの改善策で成果が出たりしたら、積極的に共有するようにしています。そして上長が最適なものを選んで「船井総合研究所のソリューション」として落とし込んでいったほうが、誰でも同じような結果を残すことができ、安定した業績アップが見込めます。大量の新卒社員が即戦力として会社に価値貢献できる組織に変えていくには、若手社員が「すぐに活躍できる環境」「最小の手間で売り上げを立てられる環境」を、経営者が用意しないといけません。それは時に経営者自身や古参社員がやってきた仕事のスタイルを否定することになりますが、そこは「組織を次のステージに上げるため」という割り切りと覚悟が必要なのです。結果、当社では若手社員のチームリーダー昇格までの平均勤続年数が4年2カ月(2018年度)と複数セクターを受け持つ他のコンサルティング会社と比較にならないスピードで、入社後の早期戦力化を可能としています。
3.採用体制を整える20代、30代のトップセールスを採用専任者に抜擢する次の経営課題は採用体制です。「採用に関してやるべきことは一通りやっているが、うまくいかない」という相談をよく受けます。そこで、当社のコンサルタントが「採用の専任者はいますか」と聞くと、「います」と答える企業は年間の相談件数のうち30%くらいしかありません。しかし、採用専任者を置かずに採用活動をすることは、事実上、採用活動をやっていないことと同じです。とくに大半の中小企業では総務部が経理、財務、労務、人事、教育などをすべて兼務しています。地方の優良企業ですら、その総務部を回しているのは地銀を早期退職した50代の男性1人とパートの事務員というパターンが多く、経理・財務は得意ですが人事に明るい人は少ないのが現状です。そもそも既存業務を抱えすぎていて、積極的な採用活動に割く時間がほとんどないという問題があります。いまの採用市場は、片手間で優秀な学生が採れるような市場ではありません。優秀な新卒を集めたいなら、社内の若手、かつエース級の社員を選んで採用専任者に抜擢するよう経営者の方々にはお願いしています。当然渋い顔をされる方もいらっしゃいますが、「それは最初のステップにすぎません」とお伝えしています。目安としては、パート・アルバイトを含む年間採用予定者20人当たり、専任者1人が必要です(40人採用するなら2人、100人採用するなら5人)。もっと現実的なことを言えば、採用ファースト経営は「加速度的成長」というキーワードを掲げるくらいですから、自ずとターゲットになる学生も成長意欲の高い学生たちになります。そのようなキラキラした22歳前後の学生たちの前に地味なおじさんが出ていったところで、年の差と温度差がありすぎて学生の心を掴むのは難しいでしょう。採用担当者は経営者に次ぐ、会社の顔です。ではどのような人財が採用担当に適任か?理想は「20代のトップセールス」です。酷な話ですが、学生からしたら40歳を過ぎた人は「おじさん」「おばさん」です。トップセールスが40代くらいだと適任とはいえないので、その場合は、将来トップセールスになりそうな若手を選んでもらうこともあります。若手のエース級を採用担当にするロジックはシンプルで、採用担当の質が獲得できる学
生の質の上限を決めるからです。いまのような売り手市場では、凡庸な社員がエース級の学生を惹きつけることはほぼ不可能です。経営層と自社の優秀な社員が本気になって取り組んで、はじめて勝負できるようになってくるのです。たとえば若いトップ営業マンを採用担当に抜擢した企業では、従業員280人の規模に対して新卒の学生を60人採用することに成功しています。頭の回転、惹きつけ力、コミュニケーション能力、さらには見た目の印象も申し分なく、文字通り「会社の顔」として男女の分け隔てなく学生の心を掴みました。もちろん採用計画の細部まできっちりと設計して、数値管理をしながらやりきったことも大きいですが、やはり採用担当者の「ビジネスパーソンとしての質」は採用結果を大きく左右する要因なのです。それに、そのようなエース級社員を即座に抜擢した経営者の手腕も特筆すべきです。また、なぜ営業職がいいかというと、そもそも中小企業では最も優秀な社員を営業に充てているということもありますが、もうひとつの理由は採用活動の目的が「学生をふるいにかけること」ではなく「自社のファンになってもらうこと」に変わったからです。つまり、ターゲットが変わっただけで採用活動は営業そのもの。その点、優秀なセールスはコミュニケーション能力も高く、数値目標を達成するための改善サイクルを回す習慣が身についているため、採用を担当させても短期間で学習する傾向が強いのです。会社のトップセールスが現場を抜けてしまう穴は大きいでしょう。しかし、採用活動は10年後を見据えたローリスク・ハイリターンの投資です。毎年3000万円の売り上げを立てられる人財を採用担当にすれば、数年後には3000万円の売り上げを立てられる若手を10人集めることができるかもしれないのです。目先の3000万円を捨て、将来の3億円を取りにいけるか──。この問いに対して「いける」と答えられる経営者だけが、自社を加速度的に成長させることができるのです。もっと基本的なことを言えば、企業競争力は人財の勝負でもあります。「普通の人財」が10人いる会社と「いい人財」が10人いる会社では、どんな事業をやるにせよ、その時点で勝負はとっくに決着しています。その重要な勝負で勝つべく、自社の持ちうる最強の布陣で臨む。これが人財戦略の本質です。仮に社内に適任者がいないなら、最初の数年は社長自らがやればいいのです。ここでたまに「優秀な採用責任者をヘッドハンティングしていいか」と相談されることもありますが、採用ファースト経営にシフトしていく前提であればお勧めしません。なぜなら自社の理想とする人財へと育て上げるという基本コンセンプトと矛盾するため、社内に示しがつかないからです。採用を自社の最重要プロジェクトと位置づけて、経営者自らが時間とお金を投資しながら人財開発に本気を出す。そして短期間で優秀な若手を育て上げることができたら、採用担当者にアサインすればいいのです。当社でも、2011年に「新卒大量採用」のスタイルに切り替えたときは、経営者自ら
チームリーダーとして採用と育成に取り組みました。変革の初期は従来のやり方を破壊する必要がありますので、経営者がプロジェクトを主導しないと社内を巻き込んで推進することができません。そして数年後に人事部とは別に採用と育成を専任で行う人財開発部(HRD)を立ち上げ、その部門長に当時、ライン部門(コンサルタント)のトップだった人物を充てたのです。この人事異動は現場のコンサルタントたちからもかなりの驚きで受け止められましたが、「社長の本気」を社内外に浸透させる効果は抜群でした。年50人採用までは社長自身が説明会で語れ採用専任者をつけたからといって、経営者は採用を丸投げできるわけではありません。当社が支援先の経営者にお願いしているのが、できるだけ採用活動のために時間を割くことです。とくに重要なのが、会社説明会で社長自ら学生たちの前で語ることです。大企業で会社説明会に社長が登壇することはまずありませんが、支援先の経営者には必ずスケジュールをブロックして会社説明会で話をしてほしいと伝えています。進行は採用専任者が仕切ればいいのですが、会社のミッションや会社にかける思いを社長自らが学生たちに語りかけると強い引きとなるのです。その際は「説明会に社長が出てこないような会社は、採用に本気とは思えないからやめたほうがいい。うちは採用ファースト経営だから、君たちのような優秀な学生に来てほしいんだ」とフレーミングをかけるとなおさら効果的です。たまに事業承継を進めている企業で、「いやいや、俺みたいなおじいちゃんが出ていってもしょうがないだろう。息子に任せるよ」と謙遜されるオーナー社長がいらっしゃいますが、少なくとも年間採用人数が50人を超える規模になるまでは、社長は前に出つづけてくださいとお願いしています。50人を超えた以降でも、インターンシップや最優秀層をターゲットにしたイベントなどでは出つづけるべきです。ちなみに当社の代表は、いまだに自らの工数の3割を採用活動に充てています。〝採用は全社的マター〟を現場に徹底営業チームが定期的に営業ミーティングを行っているように、採用に本腰を入れるのであれば役員や採用チームが一堂に会した定期的な採用ミーティングが必要です。このミーティングの目的は、新卒採用に限らず中途、パート・アルバイトを含めた毎月の入社数、退社数、面接数、広告数などを全社的に把握し、改善策を模索していくことです。入社数は採用側の責任、退社数は現場の責任といった話ではなく、会社全体の責任であるという意識を社員に植え付けるためには必須の取り組みだと考えます。
また、採用ミーティングで共有されるような人事のKPIは、現場の責任者レベルのミーティング(店長会議や部長会議)でも定例報告を行うよう勧めています。こちらも目的はやはり採用を全社的なマターであるという意識を現場に持ってもらうためです。全社員を巻き込んだ採用活動を第3章でも触れますが、採用活動で学生を自社に惹きつける重要な役目を担っているのがリクルーターです。エース級の社員を採用専任者におき、経営者自らが前面に立ったとしても、それだけではハイクラス人財をその気にさせることはできません。学生を口説き落とす実質的な「営業マン」となるのはリクルーターなのです。リクルーターは基本的に自社の入社3~5年目あたりの若手の優秀な社員が務めます。リクルーター自体の数の目安は新卒を10人採用したいなら3~5人。1人のリクルーターが担当する学生はだいたい10~15人で、そのうち2、3人を入社まで持っていくイメージです。ちなみに入社した学生と内定を辞退した学生の接触回数のデータを分析してみると、中小企業の場合は「8回」がボーダーラインになっています。つまり、8回接触できた学生は入社に至る確率が非常に高いということです。選考フローは会社説明会、1次、2次、最終の4回が一般的な形なので、それ以外に4回、リクルーター面談で接触するべきだということでもあります。もし10人採用したいなら、その倍の20人に内定を出さないといけません。その20人と選考フロー以外に4回会うということは単純に80工数かかります。それを5月、6月の短期間で集中的に行わないといけないと考えても、やはり5人くらいは必要でしょう。実際にはそこまで人が割けないケースもあるため、その場合は2次選考以降にリクルーターをつけたり、適性試験の上位10人につけたりするなどして、少なくとも最優秀層の学生をしっかりフォロー(育成)してもらうようにしています。ただ、本気で採用に取り組むのであれば、やはり母集団の大きな最初の段階からリクルーターをつけてもらうようにしています。となると、問題はそれだけのマンパワーを採用に投入する覚悟が上層部にあるのかということと、リクルーター本人がどれだけ本気になってくれるのか、という話になってきます。当社では、リクルーターを集めて社長自らが「君たちは僕が選んだ。君たちは、君たちよりも優秀な子を見つけて、惹きつけてほしい」「現場の数字にはならないが、これは未来のための投資なんだ」といった主旨の説明します。すると若手も「社長がこれだけ言うんだから採用に本気なんだ」ということが伝わりますし、社員の中で選ばれている感覚があるので悪い気はしません。
またリクルーターの大きなメリットは、リクルーター本人が「この子は自分が入社させた」という感覚を持つので、学生が入社したあとも自主的に相談に乗るなどしてくれるため、結果的に定着や早期育成にもつながるのです。ちなみに当社では、リクルーターを140人用意しています。20代の社員の3分の1です。もともとは20代のチームリーダークラスのみをリクルーターに抜擢していましたが、それだけでは数が足りなくなってきたため、部長推薦という形で優秀な若手を選んでもらっています。人財開発部を立ち上げるエース級の社員を採用専任者に充てることができたら、次に行うことは育成と定着を目的とする教育チームの新設です。何度も言いますが、採用ファースト経営は採用・育成・定着の3本柱を過不足なくカバーする必要があります。その点、いまや採用活動は通年で行うことが常識ですから、採用専任者に教育チームを兼務させることはお勧めしません。育成と定着の具体的な施策については第4章で触れますが、体制づくりで重要なポイントがひとつあります。それは「採用」と「育成・定着」を担う部門をできるだけ分離させないことです。企業でよくあるのは「今年の新人は出来が悪く、すぐに辞めてしまう。これは採用した人間が悪い」「いや、ちゃんと面倒を見て育てられない上司が悪い」といった形で人事と現場が衝突することです。責任のなすりあいをしたところで若手は育ちません。採用ファースト経営の3つの柱である採用・育成・定着はシームレスに連動していかないと効果を発揮しません。社内の衝突を避け、効率的に新入社員を育てつつ早期離職を防いでいくひとつの解決策は、採用と教育を両方カバーする部門をつくることです。支援先には「HRD(HumanResourceDevelopment)本部」や「人財開発部」などの名称を推奨しています。そして部長が採用責任者と教育責任者の直属の上長となり、経営者の直接的な支援を受けながら改革を進めていくのです。エース級の社員を何人か採用チームに割り振ることからはじめた企業の場合、そのうちの採用責任者をHRD本部長として兼務させるケースがよくあります。それでもまったく問題ありません。ひとつの部門として人財開発を統括することで、採用担当者にありがちな「人は採ったが退社率や成長スピードまで把握していない」という事態を避けられます。もしくは、現場が欲しがっている人財とは真反対の新人を採用チームが採ってくるという非効率さも回避できます。
4.昇給・昇格のロジックをガラス張りにする「一人前」が定義されていない!支援先からよく受ける相談のひとつに「社員の成長が遅く、一人前になる前に辞めてしまう」というものがあります。そんなとき、当社のコンサルタントは決まって「御社で想定されている一人前とはどういう人財でしょうか?」と尋ねますが、多くの企業で回答はバラバラです。つまり、社内で一人前が定義されていないのです。意思統一が図れていないということは、目的地がない状態で走っているようなもの。採用基準や育成方針がブレたり、社員本人が迷ったりするのも仕方がない話です。たとえば当社では、入社後の「目標自立期間」と「自立の基準(一人前の基準)」を入社前から常に意識してもらうようにしています。業種ごとに一人前の定義をはっきりとさせたうえで、そのレベルに何年で到達するのが理想なのかを言語化しているからこそ可能なことです。当社のコンサルタント職では、チームリーダーになることが一人前の基準です。チームリーダーになるために必要な要件もすべて細かく明文化されています。具体的なKPIは「個人粗利」「チームの予算粗利」「成長性」の3つです。そのうえで、3年でチームリーダーになってもらうことを奨励しています。人によって成長速度は異なりますので、3年では厳しいという社員もいます。その場合も「コツコツ頑張っていたらいつかチームリーダーになれるよ」とぼんやり励ますのではなく、「じゃあ、何年で目指そうか?」と常に目標を意識するように仕向けます。社員の成長意欲を高めるのが、自社の成長速度を高める最大の近道です。サービス業なら「○年目で店長」、営業職なら「○年目で売り上げ〇〇〇〇万円」といった具合に、一人前の基準や目標自立期間は業種・職種によってかなり変わります。いずれせよ、一人前の基準と定量的な目標(と現時点でのギャップ)を、社員に日々意識させながら業務に当たってもらうことが重要です。「一人前の定義」は合言葉のように使うのがポイントで、学生を募集するときの資料や入社後の研修、日々の会議などで繰り返し使うことで年次の浅いコンサルタントは何としてもその数字を達成すべく頭を使うようになります。当社では、それは「3年目で個人粗利3000万円」などと決まっています。そもそも先ほどの事業戦略に基づく人員計画を立てるためにも「一人前」の定義が欠か
せません。なぜなら新卒社員に対して1年で1000万円稼いでほしいのか、3000万円稼いでほしいのかによって採用すべき人数が変わってくるからです。当然、入社後の育成計画も立てられません。「採用した人財がどれくらいの期間で、どれくらいの貢献をしてくるのか?」そうした定量的な予測が立っていないと、事業計画も人員計画も絵に描いた餅で終わってしまいます。はじめて新卒採用に取り組む企業の場合、少なくとも入社3年目までの成長曲線を言語化しておくことは必須です。ここで注意点がひとつあります。「一人前の基準」という話を経営者にするときに意外と多いのが、「うちの社員ならだいたいこれくらいはできるよね」と言って、業界平均と比べて極端に高い水準を掲げてしまうことです。たしかに既存社員の水準はそうかもしれませんが、その水準に至らない社員は会社を辞めているだけというケースが多いのです。これは定着率にも深く関係することです。極端にできる人財の基準に全社の基準を合わせてしまうと、本来なら戦力として貢献できる平均値の社員までもが会社に残りづらくなってしまいます。すると、「あの企業は結果を出せないと辞めさせられる」という評判がネットで広がり、学生たちからも敬遠されるようになってしまうのです。そういう意味で、異常値ではない業界平均がどのあたりなのかを経営者自ら把握しておくことは、実は重要なことなのです。キャリアプランを確立しているか?優秀な学生ほど成長意欲が旺盛ですので「頑張ったら報われる」と感じられる企業を好みます。そこで重要になるのがキャリアプランの設計です。キャリアプランは個人が勝手に立てるものというイメージが強いですが、社員がキャリアプランを立てやすいように評価制度等をガラス張りにしておくことは、経営者の大事な仕事です。具体的に着手すべきは役職の定義です。たとえば部長と課長と係長にはそれぞれどのような権限があり、その役職につくにはどのようなスキルが必要なのかといったことを言語化していきましょう。「(職種別・階層別の)従業員に対して会社は何を期待しているか?」「どんな結果を残せば合格なのか?」ということが、社員全員にはっきりと伝わるかどうかがポイントです。逆に言えば、昇格・降格のロジックが曖昧で、理想的なキャリアパスがイメージしづらい企業には優秀な人財が集まりません。また従業員にすれば、キャリアプランがより具体的なほうが「努力すべきこと」に迷いがなくなりますので、同じベクトルを向く人が増え、企業のビジョンに合った人財を高速で育成することが可能になります。
たとえば多角経営を進める企業は経営者マインドを持った人財を多数育てる必要があるわけですから、評価制度においても提案力やマネジメント力のような要素が重視される制度にする必要がありますし、それを従業員に対しても明示しないといけません。「企業のビジョンの実現だけではなく、個人のビジョンの実現も叶えたほうがいいのか?」このような質問も支援先ではよく受けます。これはつまり、会社の定める評価軸に納得いかない社員が出てきたときにどうしたらいいか?個性を活かすべきか?という意味です。それに対して当社は「できる限り個人のビジョンを企業のビジョンに合わせていきましょう」と回答します。採用活動の段階から経営者の思い描いているビジョンや社員に求めるものを明確に打ち出し、それを一緒に実現してくれる仲間を集める、というのが基本スタンスです。
5.若い人が働きたいと思える会社になっているか?企業コンセプトを一新する優秀な人財を集めたい。離職率を下げたい。いずれも会社の魅力を高めないと実現しないことです。採用活動はビジネスにおける集客活動(マーケティング)と根底は同じです。当社が得意とするマーケティング理論の中に「差別化の8要素」というものがあります。そのうち絶対に外してはいけない3大要素は「立地、規模、のれん」です。それ以外の5要素(商品力、販促力、接客力、価格力、固定客化)は「いかに戦うか」の戦術論ですが、最初の3つの要素は「いかに戦わずして競合他社の優位に立つか」の戦略的要素です。このうち「規模」に関しては、中小企業は大企業にかないません。だとすれば、残りの「立地」と「のれん(ブランド・企業としての魅力)」にしっかりテコ入れしないと採用競争で勝つことはできません。「のれん」の代表的なものが、企業コンセプトです。この章の冒頭で企業ミッションの見直しという話をしたように、採用ファースト経営に切り替えることは、一段と未来志向、成長志向の強い組織へと生まれ変わることを意味しますから、このタイミングで自社のビジョンやミッション、バリュー、行動規範などを一斉に新しくする支援先がほとんどです。たとえば当社のコーポレートスローガンは「明日のグレートカンパニーを創る」です。活動の実態は「中小企業の成長実行支援」ですが、コンセプト化することで一段と「社会貢献色」と「未来志向色」が出ますし、対外的にアピールしやすくなります。「社会貢献」と「未来志向」は企業コンセプトを見直す検討をする際のキーワードであり、いまの時代、優秀な人財は社会貢献企業に集中します。そして成長意欲の高い学生は未来志向の企業を好みます。当社の創業者である舩井幸雄は常々「企業は社会性・教育性・収益性のすべてを追求すべきである」と言っていましたが、まさに時代はそのようになっています。また会社の特徴としても老舗感や質実剛健感を出すのではなく、「平均年齢が20代の、コンサル会社としては日本一自由で若手の成長が早いメガベンチャー」という言い方をするようになってから(採用ファースト経営が軌道に乗ってから)は、いままで以上の優秀層を採用できるようになりました。
老舗企業の経営者は若い学生を前にするとどうしても過去の話をしたがるものですが、避けましょう。いい人財は経営者が未来を語りつづける企業を選ぶのです。不人気業種は多角化で本業色を薄める自社の「のれん」の魅力を下げかねない大きな要因が「業界」です。パチンコ業界、物流業界、飲食業界、不動産業界など、昔から学生を集めにくい業種は存在します。ましてや地方の不人気業種で中小企業になると、大卒者を採るだけでも至難の業。学生は乗り気でも親の反対があります。就職市場が売り手市場に変わったことでその傾向はさらに強まっており、このような業界では最初から新卒採用を諦めている企業も少なくありません。しかし、実際には自社を成長路線に乗せる覚悟さえ経営者にあれば、どのような業種・職種であろうと活路は開けます。長年かけて構築してきたビジネスモデルを捨てろという意味ではありません。コアなビジネスは維持したまま事業の多角化を進めることで、コアビジネスの気配を薄めるのです。「人事戦略を踏まえた第二本業としての新規事業」という取り組みは採用ファースト経営の大きな特徴であり、このアプローチこそが、地方で不人気業種を営む企業が加速度的な成長曲線に乗ることができる唯一の解と言っても過言ではありません。具体例を挙げていきましょう。[パチンコ屋→総合エンターテインメント企業]当社の支援先に、愛媛県松山市に本社を置くキスケ株式会社という昭和27年創立の老舗のパチンコ屋さんがあります。地元ではCMも積極的に打っているので知名度は抜群。ただその抜群の知名度を持ってしてもパチンコ業界の採用難易度は高く、直近の新卒採用で19人の学生に内定を出すも全員から内定を辞退され、入社は0人という状況でした。そこで同社が取った戦略は、「採用戦略のリブランディング」と「リクルーターを通じた学生への個別伝達」です。パチンコ事業は収益性が高く、キスケ株式会社も収益の多くはパチンコから上げています。ただ、同社は創業間もないころからエンターテインメント事業を多角的に展開しており、ボウリングやカラオケなどのエンターテインメント領域のブランドを上手に押し出すことで、「総合エンターテインメント企業」としてアピールしていく戦略です。キスケ株式会社はいまパチンコ事業以外に、カラオケボックス、スーパー銭湯、ボウリング場、雀荘、それらを統合した総合アミューズメント施設などを運営されています。とくにブランディングで役に立ったのがスーパー銭湯「喜助の湯」と総合アミューズメント施設「KIT」。これらの事業を本格的に拡張させたことで地元の若年層やシニア層に対
して新たな「KISUKE」ブランドを浸透させることができました。パチンコ市場は右肩下がりではあるものの、その収益性があまりに高いために他業種に手を出せない経営者も多くいます。しかし、そういった企業は常に人手不足に悩まされ、遅かれ早かれ淘汰されていくというのが現状の構図です。採用のメッセージも変えました。従来は「愛媛好き×遊び好き」というフレーズをブランドとして使っていましたが、これではあまり差別化が図れません。そこでキスケ株式会社の企業風土の強みである、「風通しの良い自由な職場環境」、そしてパチンコ事業のメリットでもある高い収益性を活かした「高収入な仕事」という2点を軸に添え、「愛媛で、やりたいことをやれる自由さ×高収入によるプライべート充実」というブランドに切り替えました。さらにそれらのメッセージを学生に伝えきるために、社員からリクルーターを募り、学生ひとりひとりに社員の生の声として伝えるという方法を新たに取り入れました。その結果、同社の新卒採用戦略は1年で結果が出て、18人の内定に対して17人の内定承諾が取れ、〝質感〟も過去最高の感触との声をいただくことができました。[飲食店グループ→ピープルビジネス]飲食店は昔もいまも新卒者にとって不人気業種の代表格で、そもそも飲食に興味がない学生はエントリーすらしない業界です。そのため多くの飲食店経営者は新卒採用に対して非常に後ろ向きで、基本的には学生アルバイトに「うちで正社員として働かないか」と声をかける一本釣りスタイルが主流。十数店舗を構えるような企業の経営者でも「いやぁ、うちに大卒が来るわけないじゃないですか」と、最初から新卒採用を諦めている方もいらっしゃいます。しかし、こちらも発想の転換をすれば優秀な学生を採用することはできます。好例が、「焼肉きんぐ」や「丸源ラーメン」などを全国で498店舗(2019年6月30日現在)展開する、愛知県豊橋市の株式会社物語コーポレーションです。年商は589億円(2019年6月30日現在)、社員だけで1122人、パート・アルバイトの従業員の方は1万2827人(2019年6月30日現在)も在籍し、毎年二桁成長を続けている優良企業です。直近では新入社員を118人も採用しています。これだけの人財を集められる最大の理由は、同社が経営理念として「Smile&Sexy」──素敵で自由に正々堂々、人間味豊かに自立した「個」の集団であろうという考え方を打ち出し、「個としての人財力の向上」を掲げていることにあります。飲食企業に就職するのではなく、人として成長できる環境を持つ企業に就職するというメッセージを打ち出しているのです。実際に、個人の成長を促す会社の文化や、物語アカデミーといった社内育成機関を持ち、新卒社員をいち早く店長へと育成できる仕組みを持っています。「飲食店で働きたい人集まれ!」だけでは118人の採用は難しいですが、「リーダーになりたい人、イキイキとした人生を歩みたい人、自分らしく輝きたい人、プロになりたい
人集まれ!」だと集まる。その結果、外食企業でありながら、IT、教育、銀行、商社、メーカーなど、外食以外の企業への就職を希望している学生が同社の企業理念に惹かれて集まり、結果として自分らしさを大切に成長しつづけたいという視座の高い人財を採用することができています。[住宅・不動産業界→ライフスタイル産業]住宅・不動産関連も伝統的に人財集めに苦労する業界です。とくにリフォーム業界はクレーム産業というイメージが根強く、いくら優れた企業であっても学生の安定採用は厳しい状況です。そこで当社が住宅・不動産業界の支援に入る場合は、「暮らし」という領域に軸足をずらして新しい事業を立ち上げ、「ライフスタイル産業」という言い方に変えてもらうようにしています。最低でも業界平均の給与を払う優秀な新卒エンジニアの年収が1000万円──。大手企業が優秀な新卒者に対して高額な報酬を用意するというニュースが目立っています。大企業も人財集めに本気モードに入ったことと、年功序列制度の崩壊を象徴しています。日本企業の慣習であった年功序列制度では20代の年収は低く抑えられ、在籍年数が増えると「ペイできる」というのが基本的な構造でした。新入社員は最も年収が低いため、大企業と中小企業の入社1年目の賃金格差に致命的といえるほどの差はありませんでした。それが中小企業にとって救いになっていた部分もあるのです。しかし、今後大企業が「実力のある人には若くても高額年収を支払う」という方針に移行していくとなれば、中小企業の人財集めはさらに不利になるということです。よって、採用ファースト経営を導入する企業は最低ラインとして「業種・業界平均」の給与は確保したいところです。とくに優秀な学生を本気で採りたいならこのノルマは必須です。給与水準が周囲と比べて低い企業のことは存在自体も認識しないでしょう。というのも、大半の学生は就職活動をするとき、基本的に大手ナビサイトに登録し、情報収集をしながら会社選びをしていきます。膨大な数のデータを逐一チェックする学生はほぼいませんので、ほとんどの学生はまず「給与」でフィルターをかけます。たとえば「初年度で月収25万円もらえる会社ってあるのかな?」というところから始めて、徐々にその金額を下げながら気になる会社を探していくイメージです。つまり「いかに働き甲斐があるか」「いかに仕事を通して社会貢献できるか」といったことをサイト上で雄弁に語ったところで、給与があまりに安いとそもそも学生の目に触れることはないということです。最終的には学生もその企業について情報を仕入れて総合的
に判断をするわけですが、最初のフィルターを通過しない企業は、学生にとっては「存在しない企業」と同じなのです。「地域の中小企業はいくら払っているのだろうか?」「新卒の営業の平均給与はいくらくらいなのだろうか?」「業界の平均はどれくらいなのだろうか?」こうした相場感は、就活中の学生が一番掴んでいます。データはナビサイトなどでいくらでも調べることができますので、経営者自ら相場感を把握し、採用合戦においても「しっかりと給与を払う会社である」という会社の見せ方をしていかないと質の高い学生を呼び寄せることすらままならないでしょう。「給与は安いけれど、それを補うだけの魅力のある会社にしているつもりだ」「現状の給与体系にしているのは自社(経営者)なりのこだわりだ」このようなお考えの経営者は支援先にもたくさんいます。ただ優秀な学生を集めたいのであれば、その思考を変える必要があります。大量採用を成功させるには、「いかに入り口を学生にとって魅力的にするか」なのです。こう書くと、「いやいや。給与を上げられるなら苦労しないよ」と思われる方が多いはずですが、いまのビジネスモデルを抜本的に変えることなく効果を出す方策も存在します。最も簡単な方法は、ナビサイトに登録する月収を「総額表記」に変えることです。たとえば、現状で基本給が17万円で諸手当2万円をつけているなら、それを足してしまうのです(社内の給与規定もそれに準ずる形で合わせます)。細かいテクニックに見えるかもしれませんが、学生の目にとまる確率はグンと上がります。低い給与しか払えないビジネスモデルは手直しが必要になる当社の会員様に採用ファースト経営に成功しているIT企業があります。同社は学生の長期インターンをうまく活用されているのですが、優秀なインターンの学生がそのまま自社に入社してくれるように給与体系は年俸制を取っています。同社の入社1年目の年俸は約400万円。これを月割りにすると月給は約33万8000円になります。実はこれ、採用の競合となる大手のIT企業の年俸をかなり意識したプライシングを取っています。多くのIT企業の初任給は年俸制を取っているために給与が高いように見えますが、実は年2回の賞与を換算して表記している企業も多いのが実態です。しかし「月収24万円+賞与2回」と「月収33万8000円」では学生が受ける印象がまったく異なるため、そこで無駄に損をしないための策なのです。諸手当に関しても家族手当や住宅手当などの福利厚生が厚い企業はありますが、どのみち支払うなら月収と合算して総額支給での見せ方に変えたほうが間口としては有利です。
繰り返しますが、給与は学生にとっての最初のフィルターです。表記されている金額が基本給なのか諸手当込みなのか賞与込みなのかといった細かいことは学生からすれば後回しで、エントリーを増やすうえでは最初のフィルターに引っかかることが至上命題なのです。最近の若い人たちはお金に対するこだわりが弱まっている──。そんな話もよく聞きますし、採用の現場を見ていても感じます。ただ、そうはいっても優秀な学生、とくにホワイトカラーとしてバリバリ働いていきたいと思っている学生は「いつかは年収1000万円」という願望をどこかで持っているものです。それに「経済的な成功」を求める若い人は減っても、「経済的な安定」を求める若い人は増えています。地方に限っていえば経済的な安定性を得やすい就職先として学生(とその親)が真っ先にイメージするのが地方銀行と公務員です。私たちコンサルタントも、地方の中小企業経営者に対して「優秀な学生を採りたいならライバルは地銀です」とはっきり伝えます。銀行と知名度や安定感、ビジネスモデルでの勝負はできませんが、少なくとも「給与が高止まりで安定している」という点については、できるだけ勝負を挑んでいかないといけません。たとえば、地方の大学出身で地銀に就職した人の年収は30歳で500万円台。40歳で600万~800万円くらいです。だとすれば合同説明会などで自社のブースに来てくれた学生に対して「これくらいの給与は十二分に可能ですよ」とアピールできるかどうかで採用できる学生の質は露骨に変わってきます。いまのビジネスモデルのままでは年収の大幅アップができない企業も多いでしょう。この領域になってくると、当社でも経営コンサルタントがビジネスモデル自体の変革を提案することも少なくありません。低い給与水準でしか機能しないビジネスモデルは、遅かれ早かれ手直しをする必要が生じる、ということです。逆に言えば、採用ファースト経営に切り替えて、事業を加速度的に成長させたいのであれば、優秀な人財に払う人件費に見合うだけの収益性の高い事業を経営者が整備していく必要があるということです。地銀並みの給与は出せないけれども優秀な学生をたくさん採りたいのであれば、ひとつの選択肢としてはマネジメント職に興味のある学生たちに対してポストで興味を喚起する方法もあります。金融機関は給与水準が高い代わりに一般的に出世が遅いですから、「若くしてリーダーになれること」を差別化ポイントにするのです。たとえば飲食やサービス業であれば、1年で店長になることができて、3年でエリアマネジャーになる可能性があるという話を全面的に押し出すと、マネジメント志向の強い学生が前のめりになって話を聞いてくれることも少なくありません。多角経営企業の場合はさらに「自分で事業を立ち上げて、そのまま社長になれるよ」と言えるわけですから、向上心の高い学生を集めやすくなります。
福利厚生を魅力的に見せる優秀な新卒を惹きつけるためには給与の話と同様、福利厚生も重要な要素です。さすがに福利厚生だけで就職先を選ぶ学生はいませんが、選択肢が絞られたときに「どうせだったら福利厚生の手厚い会社に行こう」と判断するのはごく自然なことです。旬な話を言えば、働き方改革関連法が成立して2019年から従業員の年次有給休暇が5日に満たない場合は罰則が科せられるようになりました。企業説明会に出られている方であれば、年間休日日数についての質問が増えていることを実感されていることでしょう。皆さまの会社では従業員にしっかり休暇を取らせているでしょうか?欧米のように有給消化率100%が当たり前になる社会が理想ではあるものの、ほとんどの日本企業ではそこまでいっていないのが現実です。支援先の現場でも、「休んでほしいのはやまやまなんだけど……」という経営者が少なくありません。そのような場合、強制的に休みを取らせるくらいなら「バースデー休暇」や「結婚記念日休暇」といった大義名分をつけることで、対外的にも「プライベートを尊重してくれる会社だ」というイメージアップを図りながら休んでもらいましょうと提案をする機会が増えています。「社員に優しい会社」を打ち出していくことが重要なのは、それがいまの若い世代の常識だからです。新卒の大量採用をして彼ら・彼女らを即戦力化した先にあるのは、若手中心の会社です。平成元年生まれの人が30歳ですから、基本的に採用ファースト経営を本格的に進めていくと社内は平成世代ばかりになります。いまだに昭和的な感覚を持っている経営者に対しては、「令和とは言いませんから、せめて平成の価値観の会社に変えませんか」という助言をよくします。では、平成の価値観とは何かというと、「従業員はただの歯車ではない」という感覚です。会社の採用サイトを見ても福利厚生のことがほとんど記載されていないのであれば、「なんか昭和な会社だな。従業員のことを大事にしていないのかな」と勘違いされても仕方ありません。
では、具体的に中小企業が採用している福利厚生にはどういうものがあるのか?支援先の企業が導入している制度を一覧にしたものを用意したので参考にしてください。この一覧は支援先でもそのまま使っており、「この中ですぐに採用できそうなものはありますか?」、もしくは「すでに採用しているものはありますか?」という問いかけをします。意外と効果的なのが後者の問いです。というのも多くの中小企業は大なり小なりの福利厚生があるものの、それが制度として名前がついていなかったり、当たり前のことだと判断して対外的に伝えていなかったりすることが多いのです。たとえば社員が育児や介護のために10時から15時の間しか働けなくなったとしましょう。その社員が社長に会社を辞めるべきか相談する。すると人情派の社長が「辞めるなんて言わないでくれ」と言って、特例として時短を許可することはよくある話です。もしくは年に数回、社長の自宅に従業員を招いてバーベキューを振る舞うようなイベント好きな経営者も多くいます。それらは「時短勤務」「バーベキュー大会」といった名前をつけて制度に昇格させてしまえば、福利厚生のひとつとしてアピール材料になるのです。また、「こんなのは当たり前だろう」と思って対外的に伝えていない企業も非常に多いです。たとえば、育休制度すら福利厚生として挙げていない企業もあります。最近では従業員にスマホやタブレットを支給するのは当たり前ですが、それも「デバイス支給」という名目で福利厚生にカウントすることができます。学生に少しでも好印象を持ってもらうためには、「あって当たり前だから載せない」のではなく「あって当たり前だから載せる」という感覚に変える必要があります。参考までに、当社の支援先で導入してみて経営者と学生に受けのよかった福利厚生の例をいくつか挙げましょう。[充実した研修制度]最近の新卒社員の傾向としては「就職するからにはしっかりと自分のスキルを磨いていきたい」という意識を持った人が増えています。よって福利厚生をアピールするときも、充実した研修制度が確立されていることを目立たせると強い引きになるケースが少なくありません。研修制度について質問されたときに「OJTが中心です」という回答しか用意できないことは、もはや学生にマイナス印象を与える時代になっています。入社直後に新入社員研修を実施する企業は当然多いですが、それ以外にも、通年の研修があったり、オンデマンド型のスキルアップ教材があったり、資格取得のための費用を会社が半分支援してくれたりといった制度が用意されていることをアピールするだけで、学生は自分がその職場で成長している姿をイメージしやすくなるのです。当社でも「採用後の研修制度の確立」という相談を多くの経営者からいただきます。
[グループ単位の表彰制度]支援先で導入を強く勧めているのが表彰制度です。ほとんどコストをかけることなく、すぐに導入でき、なおかつ従業員の士気を高めることが可能です。いまの若い世代は「みんなで頑張って喜びを分かち合いたい」という人が増えていますので、個人のMVPだけではなく、店舗や部署といったグループ単位のMVPを設けるのがポイントです。とくに当社が助言をする採用戦略では個人プレーよりもチームプレーを重視する学生を優先して獲得を目指すので、個人のMVP制度以上にグループ単位のMVPや、バックヤード・スタッフ部門の表彰にも気配りが必要です。[食の支援]当社が提案する福利厚生策で経営者受けがいいのが「食」の支援です。具体的には社員食堂です。企業で社食を持っているのはそれなりの規模の企業に限られると思われるかもしれませんが、実はそうではありません。地方の企業の場合、「敷地だけは余裕がある」というケースが多いので、その一部を改修してキッチンを作り、10~20畳の会議室などを食堂に作り替え、学校給食のようなバランスの取れた昼食を地元の主婦などに作ってもらうのです。原価は大体200円くらいで収まるので、社員の給与を6000円くらい上乗せし、そこから昼食代を支払ってもらう仕組みを提案することがよくあります。最近は企業向けのケータリングサービスも出てきました。バランスの取れた食事を提供することは、従業員の健康管理にも役立ちます。都市圏だと社食の必要性はあまり感じないかもしれませんが、地方の場合、会社の近くに飲食店やコンビニが少ないことはザラです。その場合は家から弁当を持参したり、出社途中にコンビニでお弁当を買ったり、移動に20分かけて食事に行ったりするわけですが、社内に食堂があればその手間もなくなります。働き方改革が叫ばれる中、移動時間も重要視されています。また、最近の若い人たちは朝ごはんを食べない人が多いので、食堂を作らないとしても週に1回朝食を支給する会社もあります。学生に対しては「まかないが出るからお金が溜まるよ」という見せ方をすればわかりやすいメリットですし、親としてもひとり暮らしをはじめる子供の食生活は心配ですので社食の存在は地味ながらもかなりの差別化要因になります。マネジメント層のメリットも大きく、社食を作ったことで社員同士の会話が増え、若い社員のちょっとした変化に気付きやすくなったという声もいただいています。「そこまで会社が面倒を見ないといけないの?」と思われる方も多いでしょう。しかし、実際に新卒の大量採用ができていて、なおかつ離職率が低い企業は、従業員が快適に働けるための努力を惜しみません。このような福利厚生を整備していくことは特別なことではありません。採用のために環
境を整えることはいまの働く社員にとってもプラスになり、結果的に離職率の低下と持続的成長につながるのです。創業地に対するこだわりを捨てよ企業オーナーにとって自社の創業地は思い入れが強くなるものです。しかし、その立地が原因で優秀な人財が確保できないなら、そのこだわりは捨てたほうがいいかもしれません。それくらい本社や勤務先の立地というものは学生にとって大きな判断材料となるのです。支援先のひとつに青森県青森市で住宅建設を営む株式会社大進建設という企業があります。昭和36年創業の老舗で、地元での知名度は高く、毎年10人くらい学生を採用されています。しかも学生の半分は地元の国公立大学出身で、いい人財を確保できていました。これだけ見ると何も問題がないように思えますが、同社が県外進出をしようとしたときに大きな壁に直面します。「青森の企業」というだけでまったく応募者が来なかったのです。そこで当社が提案したのが、知名度の高い駅近のビルへの出店でした。具体的には宮城県の仙台駅から徒歩5分の立地にある、地元の人なら必ず知っている高層ビジネスビルに「株式会社大進建設仙台支店」という形で事務所を構えたのです。ビルの写真を採用媒体にしっかり載せ、説明会もこのオフィスで開催することで、「あそこにある会社なら」というイメージが宮城の学生たちの間にもジワジワと浸透していきました。結果的に応募も増え、直近では仙台エリアだけで15人の採用に成功しています。採用活動ではもはや常識となっている親対策についても、「仙台の駅前にある会社だよ」と言うだけで、親の反応がガラッと変わるのです。当然ながら家賃は高いです。青森と比べるとだいたい20倍。自社の売り上げに対する店舗コスト(家賃や減価償却費)の割合は、住宅業界だとだいたい3~5%と言われますが、株式会社大進建設は仙台に出店したことでそれが6%まで上がりました。業界平均からすれば「かけすぎ」なのです。しかし、それは計算済みです。家賃は高いものの立地がいいので採用コストは下がりました。また採用する社員のレベル感も高くなったので、結果的には収益が出る形になりました。さらに仙台支店では本業である請負型の住宅建設事業ではなく、不動産を仕入れて売る、より収益性の高い不動産事業をメインで行うようにしたのです。立地に合わせてビジネスモデルを変えたことがミソです。支援先に都市部への移転や出店を提案しても、経営者にご納得いただける割合はだいたい1割。残りの9割は「コストに見合わない」という理由で断られます。1割の経営者は、「コストに見合わないなら、コストに見合う事業を考えよう」という思考ができる方
です。これぞまさに採用ファースト経営そのもので、「新卒採用を拡充させるための施策」と「事業を拡大させていくための施策」が両輪で回った結果生まれたのが仙台支店です。株式会社大進建設は支店の出店という形でしたが、本社が僻地にある場合は本社ごと都市部への移転を提案することもよくあります。実は船井総合研究所も本社移転で成功しています。当社は2005年に東京本社を五反田から東京の玄関である丸の内(日本生命丸の内ビル)に移転し、従来であれば外資大手に採られていたような質の高い学生を採用できるようになりました。支援先の経営者は勉強会などで当社のセミナールームに来社される機会が多いので、生きた事例を見ているのです。似たような事例では、北海道の苫小牧市(人口17万人)に本社があったあるカーディーラーは、札幌市から80㎞、車で1時間20分という立地がネックとなり、札幌市内の学生をなかなか採用できませんでした。そこで採用拠点を支店のある札幌市内に移管したところ、市内在住の優秀な学生の採用に成功しています。このように、本当に優秀な人財が欲しいなら「あの手この手を打って遠方の自社まで来てもらう」という一般的な考え方を捨て、「立地は販促費だと考える」「人財が集まっている場所に移動する」という柔軟な発想に切り替えることが重要です。「給与水準を高めよ」「福利厚生を厚くせよ」「より人が集まる場所でビジネスをしろ」ここで紹介したような話は、多くの経営者からすれば当たり前の話すぎて拍子抜けするかもしれません。ただ、自社の取り組みを魅力的な「コンテンツ」に仕上げるべく、社内で定期的な見直しをする会社はどれだけあるでしょうか?中小企業で優秀な人財を毎年獲得できている企業は、こうした当たり前のことをひたすら徹底したうえで、さらに次章で解説するような細かい戦術論にこだわって採用競争を戦っている、ということをご理解いただければと思います。
1.求める人物像を定める「仕事好き、会社好き、仲間好き」を集める新卒の大量採用を実践するにあたって、準備段階として大事なことは採用コンセプトの明確化。つまり、求める人物像を社内で言語化し、共有しておくことです。ここが定まっていないと選考基準がブレます。たとえば当社では求める人物像として「仕事好き、会社好き、仲間好き」を掲げており、採用活動においてもはっきり学生に伝えています。「求める人物像」とはマーケティングでいえば顧客ターゲットの設定であり、どんな人に買ってほしいかが社内で決まっていないと効果的なマーケティングプランが打てません。求める人物像は、自社のミッションやビジョン、バリュー、行動指針などから逆算で抽出することができます。「ただでさえ学生を集めることに四苦八苦しているのに、求める人物像をはっきり打ち出してしまったら余計に人が集まらないのでは?」このような心配をされる経営者も多くいらっしゃいます。気持ちはよくわかります。ただ、ここで新卒採用における重要な考え方を2つ挙げておきます。・価値観が最初からマッチする学生は新卒市場にいない・採用活動を通して学生たちを自分たちが求める人物像に育てることはできる中途の場合はこのようにいきませんが、社会人経験のない22歳前後の学生を採っていくわけですから、説明会やリクルーター面談などを通じて会社のビジョンや求める人物像を繰り返し語ることで、学生たちの価値観を会社の価値観に合うように「仕上げていく」ことはできます。しかも、それが入社後のミスマッチを防ぎ、高い定着率につながります。船井総合研究所の場合は「同根異才」というキーワードを掲げて人財活用を行っています。経営理念や仕事の型のような「船井総合研究所の社員なら最低限これはできてほしい」というベースとなる3割は社内統一を図り、残りの7割で個々の才能を発揮してもらうという考え方です。その点、新入社員は3割のベースができていない状態ですから、いかに早く「同根」を根付かせるかに注力しているのです。やはり経営理念や仕事の「型」の部分については歩
調を合わせないと、チームとしての力は発揮しづらいと思います。それに「自社が理想とするような学生は最初からいない」という前提に立てば、採用活動において重要なことは学生をふるいにかけることよりも、限られた接点の中で「いかに自社の色に染め、ファンになってもらえるか」であることがご理解いただけるかと思います。採用活動を通じて自社に合った人物像を植え付ける採用スタイルのことを当社では「育成型採用」と呼んでおり、採用ファースト経営を特徴づける大きな要素のひとつです。新卒採用に苦戦している中小企業でよく起きるのは、選考プロセスで悩みに悩んで学生を絞っても、最後の最後で内定者に辞退されることです。それを防ぐためにも、当社が支援に入る際は、「内定を出すまでにいかに価値観を仕上げるかが勝負です」「説明会の段階から人財育成は始まっています」と伝えています。当社が求める人物像である「仕事好き、会社好き、仲間好き」という3要素は、表現をアレンジすることはありますが、支援先企業でもそのまま使ってもらうことが多いです。「仕事好き」については異論がある経営者はいないかと思います。オペレーション人財ならともかく、自社の中核を担う人財を採用したいわけですから、さすがに「仕事嫌い」では話になりません。最近の若い人はプライベートを重視するようになったという話をよく耳にしますが、それは程度の問題であって、仕事に対して情熱的に取り組みたいと思っている学生はいくらでもいます。ポイントは「会社好き」と「仲間好き」です。実は当社も採用ファースト経営に切り替えるまでは採用時においてこの2つの要素は学生に要求してきませんでした。「仕事好き」を前面に押し出して、「ガンガン働き、ガンガン稼いで、3年で独立したい人集まれ!」という社風だったのです。すると上昇志向の高い、非常に高いポテンシャルを持った学生は採れます。しかし、当然ながら定着はしてくれません。会社好きでも仲間好きでもない人は働く場所にこだわりがないので、当然の帰結です。そこで当社では、「仕事好き」という括りだけで採用活用をすることをやめました。「船井総合研究所のことを気に入ってくれて、なおかつチームで協働して働くことが好きな人」を集めるように変えたのです。それは面談時の選考基準としても重視され、たとえ優秀な学生でも当社への関心が薄い学生は採用しません。その結果、当社の退社率は2015年9・8%、、16年8・7%、17年11・8%、18年10・5%とコンサル業界の中では非常に低い数値に改善させることができ、それに伴い社員の平均年齢も下がり、ついには20代まで下がりました。当社のオフィスをご覧になった経営者の多くは、若い社員たちが主体となってイキイキと働く光景を見て「まるでベンチャー企業みたいだね」と言われます。
最低限必要なスキルは何か?採用した人が思ったほどの活躍をしない──。採用してもすぐに離職してしまう──。このような課題を抱える中小企業は非常に多いです。それは本を正せば、求める人物像が明確になっていないために選考フローがチェック機能を果たすことができず、ミスマッチが多発していることが理由です。極端な例を挙げれば、大きな声で数字を読み上げるだけという仕事があったとしたら、求める人物像として「声の大きな人」ということを明文化しないといけません。そして募集の段階でも「声が大きい人求む!」とアピールして、面接でも声が大きいかを見極める。そして身体的に大きな声を出せない人や、大きな声を出すことが嫌いな人は除外する。このような選考フローにしないと入社後のミスマッチが起きて当たり前です。しかし、多くの企業では人事担当が声の小さな学生を採用し、現場が「今年の新人は声が小さい」と不満を漏らすような事態が起きています。たとえば営業職が欲しいなら、「営業に向いていそうな学生を採ろうか」というレベルで話は止まり、あとは人事任せにしてしまうのです。すると人事は総合的に見て無難そうな学生を手当たり次第集めることになり、ミスマッチが起きる確率が上がるのです。自社の各職種に求められる価値観やスキルは何か?そうしたことを各職種のリーダークラスと協議の上リストアップし、さらにその要素のうちどれが必須なのかという優先順位づけまで行っておくことが肝心です。もちろん多くのことを学生に期待したところで夢のような応募者はいませんし、細かい条件を設定しすぎると頭数が確保できません。実際には細かい要素については「入社後に身につけてほしいスキル」として整理して、育成計画や評価制度の設計で活用すればいいのです。ただし、価値観や、先ほどの「大きな声が出せるか」といった大前提の能力については、選考フローの段階でしっかり見極める必要があるということです。ペルソナを設定する求める人物像のマインドセットや最低限のスキルは決めてあったとしても、実際にアプローチをかけるときはターゲットの姿がより具体的に見えているほうが効率的です。そこで支援先には簡易的なペルソナを設定してもらっています。といっても「○○大学でチームスポーツをやっている学生」といったレベルで構いません。自社の活躍人財を洗い出すと見えてくることもあります。注意したいのは、ペルソナはターゲットとなる学生の輪郭を掴むための目安であって、
選考基準ではないということです。営業系の企業ではまだまだ体育会出身者にこだわりつづける経営者が多いですが、ある程度の規模になってくると組織に多様性を注入していかないと物理的に人が増やせないことが起きるのです。たとえば、多角化経営で有名な北海道のヤマチユナイテッド。同社の山地章夫社長が採用活動で一貫して伝えているのが「100VISION」で、「100の事業を立ち上げて、100人の経営者をつくる」ことを目指しておられます。その中で会社の社風として「社員それぞれが考えて行動する全員参加型経営」というコンセプトを伝えておられます。「画一的な社員構成では事業の多角化はかないません。仲間をぐいぐい引っ張るリーダータイプ、冷静沈着な理論派、その場にいてくれるだけでうれしい平和主義タイプなど、それぞれのキャラクターに能力と資質を発揮できる場所があるはず」と、誰もが自分のスタイルで仕事に取り組める環境だということをPRし、結果的に自社のビジョンに合致した学生を多数採用することに成功しています。採用人数や会社の目指すべき事業形態によって求める人物像は異なりますが、自社のハイパフォーマンス社員を冷静に見極めながら欲しい人物像を明確化させることが、採用活動をより効率的なものとするのです。
2.マルチ・チャネルで母集団を形成する通年採用とマルチ・チャネル化人事の世界では、選考に進んでもらう応募者のリストを作ることを「母集団形成」と言います。知名度の低い中小企業が最初に直面するハードルです。経営者の思いつきで新卒を採ろうと思い立った。3月1日以降の合同会社説明会にブースを出し、人事担当を送り込んだ。しかし、想定した4分の1くらいのリストしか集められず、自社で開催した会社説明会も閑古鳥が鳴き、結局、入社はゼロ。このような企業は本当にたくさんあります。こうした企業が犯している致命的な間違いは、合同説明会だけに頼っていることです。第1章で触れたように新卒採用市場ではどんどん前倒しが起きており、合同説明会に来場する学生の数は年々低下しています。当社の支援先が2019年春に出展した全国の合同説明会の来場データを独自に集計したところ、3月第1週目だけは前年比で増加しましたが、第2週目以降は学生数が激減しています。前年比で3、4割減。量だけならまだしも、学生の質も顕著に低下していきます。これはつまり、合同説明会だけに頼り、3月1週目でうまく学生が集められなかったら、2週目以降は事態が好転することはないということです。採用力の高い企業はあらゆる接触チャネルを使って学生にアプローチをかけています。具体的には、・ナビサイトからの直接オファー・インターンシップ合同説明会・通常の合同説明会・長期インターンシップ・短期インターンシップ・学校訪問・ダイレクト・リクルーティング(OfferBoxなど)・リファラル採用・自社イベント
などがあります。このように早期から動き出しをする「通年採用」と、複数のチャネルを組み合わせながら母集団を形成する「マルチ・チャネル化」が、新卒採用の常識です。このうちとくに重要なのが短期インターンシップで、当社も新卒社員の8割は3年生の夏と秋の短期インターンシップで確保しています。よって、第2章で解説した入社計画で採用予定人数が決まっているとしたら、その目標を達成するための採用計画を年間スケジュールという形で落とし込まないといけません。たとえばインターンシップ合同説明会では母集団を何人、ダイレクト・リクルーティングでは何人と目標値を決め、さらにそこから短期インターンシップに何人の学生を誘引し、さらにそのうちの何人に会社説明会や1次選考に進んでもらうかといったことを、あらかじめ数字でシミュレーションをしておくのです。各プロセスの目標数値は、採用したい人数から逆算できます。仮に新卒を10人採用したいのであれば、2倍の20人には内定を出すというのがひとつの目安です。これは内定辞退率50%というリアルな数字に基づく数です。2021年卒以降は内定辞退率60%という前提で計画する必要があるかもしれません(その場合は25人に内定を出す)。では20人の内定者を確保するためにはどうしたらいいか?次に大事な数値目標となるのが(自社開催の)会社説明会の参加人数です。内定者を20人確保したいなら、その5倍にあたる100人(採用目標人数の10倍)に自社説明会に参加してもらえるか。これが、採用活動が順調にいっているか否かのわかりやすい指標になります。では自社説明会に100人学生を集めるにはどうしたらいいかというと、その3倍にあたる300人の名簿を作らないといけません。これが母集団形成の目安となります。採用目標人数の「30倍」です。そしてその300人を集めるためにナビサイトを使うのか、地元の大学のゼミで会社説明会を実施するのかといったチャネルを検討していく、というのが採用計画の流れです。
ターゲットに合ったチャネルを選定当社が採用支援をするときは、「どんな学生を採りたいですか?」というヒアリングから始まります。これは釣りをしたい人に対して「どんな魚を釣りたいですか?」と尋ねて、最適な釣り場と釣り方を助言するのとまったく同じです。マグロが釣りたいなら船で沖合に出ないといけませんし、アオリイカが釣りたい人なら岩場の浅瀬で、イカならではの釣り方を教えないといけません。体育会系の人が欲しかったら体育会系が集まる媒体があります。最優秀層を採りたいならそういう学生が好んで閲覧するナビサイトがあります。欲しい人財を効率的に集めたいなら、ターゲットに合ったインターンシップを企画すればいいのです。なお、先ほど書いた母集団(応募者リスト)から会社説明会に誘引できる割合は、使うチャネルによってかなり変わるため、「3倍」という数値はチャネル選定に合わせて調整する必要があります。たとえばナビサイトからのエントリーは学生の本気度が見えませんので、採用チーム総出で電話攻勢などをかけて、ようやく「10倍」くらいになるイメージです。逆にインターンシップ合同説明会や自主開催の就活イベントなどで学生とリアルに接点を持ってからエントリーしてもらう場合は「2倍」くらいでも構わないケースもあります。いずれにせよ「自社説明会に100人の学生を呼ぶ」という目標を達成することが重要です。上記の流れは企業が普段行っているマーケティング活動と考え方は一緒です。採用プロセスを分解し、数値目標を事前に立て、それをひとつひとつ確実に達成していくことで初めて目標の10人の学生を採ることができます。「今年は何人採れるかな?」ではなく「今年は何人、絶対に採るぞ」という姿勢で挑まないと競合を出し抜くことはできません。採用計画の具体例具体例をお見せしましょう。これは2019年夏現在、まさに支援の真っ最中である四国の不動産会社の例です。先に述べたような採用プロセスの数値目標と実績値を常に管理しながら採用活動を進めています。同社の採用目標数は14人です。それを実現するには28人の学生に内定を出す必要があります。そこで当社が当初目標とした自社説明会の参加人数は153人(前年度は130人
が参加)。153人を目標にしながら母集団形成を行った結果、自社説明会には229人から申し込みがありました。実際にはドタキャン率が2割くらいですから最終的には180人くらいが自社説明会に来るだろう、という読みが立てられます。この229人という申し込み者を獲得するために、同社は合同説明会の前からインターンシップ合同説明会やダイレクト・リクルーティングなど積極的に活動を続けて、エントリー数を増やしてきました。たとえば8月10日のインターンシップ合同説明会では141人の学生がイベント自体に来場し、そのうち56人が同社のブースに来てくれました(ブース誘導率)。その56人のうち48人がエントリーをしてくれました(エントリー率)。ちなみに同社の「56人中48人」というエントリー率は非常に高い数値です。たとえば2月14日のインターンシップ合同説明会では80人の学生がブースに来てくれましたが、エントリーしてくれたのはわずか23人。このばらつきの原因は、ズバリ、担当者のプレゼンの質です。合同説明会は実質的にアピール合戦ですから、担当者全員にロール・プレイングを行い、プレゼンの質を高められるかで母集団形成は如実に差が出ます。もうひとつ重要なポイントを挙げるならば、同社は3月1週目の合同説明会(3月3日のリクナビ合同説明会)を最後に説明会への出展を終えている点です。採用活動が目標通りに推移しており、内定承諾者も10人も確保していたため(実際に採用できたのは4人)、それ以上参加する必要はないと判断したのです。同社が内定者を確保できたのは主に「インターンシップ合同説明会→自社説明会を兼ねたインターンシップ参加」というルートです。たとえば8月10日に開催されたインターンシップ合同説明会からは、8月20日のインターンに11人、9月3日のインターンに12人集めることができています(秋のインターンでは7人参加)。インターンシップ合同説明会からインターンイベントへの誘引がオススメな理由は、エントリー総数に対する自社説明会誘導率が高いことです。実際、同社が最終的に集めたエントリー数は、あらゆるチャネルを足すと293人です。そのうち229人が自社説明会に申し込みをしてくれたわけですから、誘導率でいうと80%を超えます。
なぜこれだけ高水準かといえば、エントリーの大半は合同説明会(インターンシップと通常のもの)で出会った学生によるものなので、自社の魅力を一通りアピールできているからです。合同説明会に何回も出展していくことは地方だからこそ可能な戦略ともいえます。大阪や東京では合同説明会の出展費用が1回100万~200万円かかるため、中小企業では年に何度も出店できない事情がありますが、地方開催だと30万~60万円くらいで済むので、繰り返し出展できるのです。また、都心部の学生ほど合同説明会離れが進んでいますが、地方はまだそれほどではないという事情もあります。結局のところ、地域によって採用マーケティングの設計図が変わってくるということです。当社が採用コンサルティングを行うときも担当コンサルタントと経営者と採用担当者が3人で採用計画表とにらめっこしながら、「どこからどうやって引っ張ってくるか」と思案して対策を打っていくというのがリアルな現場です。どのチャネルが地域や自社の特性に合っているのかはケースバイケースのところもありますが、採用活動の経験値を積んでいくと自社の得意とするチャネルが見えてくるものです。そこまでいけば採用活動に強弱をつけていけばいいのです。もちろん時流に応じて特定のチャネルは衰退してきますから、その変化に合わせられるだけの選択肢を持っているかも母集団形成で重要です。では以下に、主だったチャネルで母集団を集めるためのコツをお伝えしていきます。【合同説明会】は「回転率」を重視せよ通常の合同説明会は、「自社」のPRをして「エントリー」を集め、自社説明会に誘導することが目的。一方のインターンシップ合同説明会は、「自社とイベント」のPRをして「インターン参加者」を集めることが目的です。訴求する内容と目的は変わりますがブース運営において行うことは同じです。とくにこれから採用の主戦場となるインターンシップに参加する学生の8割くらいは、3年生の6月から開催されるインターンシップ合同説明会から引っ張ってくるのが現状のため、採用専任者にとってインターンシップ合同説明会攻略は必須です。運営にあたってとくに重要なポイントをまとめました。[回転率を重視する]先ほどの不動産会社の事例にあった「ブース誘導率」を高めるベーシックな方法は、回転率を上げることです。
合同説明会は大体午前10時から午後4時まで開催することが多いですが、採用に本気の企業は会場に社員を3人くらい送り込み、休憩のローテーションを取りながら20分で1回転、1日18回転といったことを普通にやっています。担当者が昼食休憩でブースを不在にするようなことはあってはいけません。採用がうまくいっていない企業でよくあるのは、合同説明会を「自社の魅力を知ってもらう商談の場」だと思って1回1回のプレゼンに30分、40分と時間をかけすぎてしまうことです。学生からすれば「とりあえず話を聞いておくか」という感覚であり、限られた時間でいろいろなブースを見て回りたいと思っているので長いプレゼンはむしろ迷惑です。合同説明会の目的はあくまでも母集団形成であり、応募者のリストを集めることです。熱弁を振るうのは自社で開催する会社説明会のときからでいいのです。ここは採用が不慣れな企業が見落としがちなことなので、ご注意ください。[自社の特徴が一目で伝わる装飾をする]採用熱の高まりとともに合同説明会の企業ブースは年々豪華になっています。出展料を支払うと標準で装備されている、いわゆる「基礎小間」のブースのまま参加するのは絶対にお勧めしません。「採用に本気ではない」ということが露骨に学生に伝わるからです。当社が支援先に最低限確保していただいている備品としては、・メインビジュアル・プレゼン用のスクリーン・タペストリー・パイプチェアの背面に取り付けられる自社のロゴ入りカバーなどがあります。こうした合同説明会用の装飾品をパッケージで提供している展示会装飾業者もおり、当社でも支援先に活用していただいています。とくに重要なのがメインビジュアル(とキャッチコピー)です。「業界」「社風」「どんな学生を求めているか」といった基本的な情報が一発で伝わるようにデザインをしないと通路を横切る学生に短時間で興味を喚起することはできません。またここ数年はブースの装飾に加えて各社の社員が通路に立って、学生たちに直接声をかける呼び込み合戦が過熱しています。この日のためにイベントコンパニオンを雇う企業もあります。まさに売り手市場を象徴する光景であり、当社が実行支援をするときも声がけのロール・プレイングにかなりの時間を割いています。ただし「こんなに面白い企業があるよ」と言っても学生はピンときません。「AI適職診断やりませんか?」といった、いまの学生トレンドを押さえたインターン提案を含めた学生への声がけが重要です。
[プレゼンの流れ]ブース内で行うプレゼンは、基本的にパワーポイントとマイクで行います。たまに「動画を流しっぱなしでもいいですか?」と質問されますが、ダメです。やはり「こんな先輩と一緒に仕事がしたい」「こんな魅力的な社員がいる会社ってどんな会社なんだろう」と、社員自体に興味を持ってもらわないと学生の関心は高まらないからです。インターンシップ合同説明会のプレゼンの流れとしては、会社の特徴(差別化ポイント)を端的に説明し、次に仕事の内容を説明し、最後にインターンシップの紹介をするというのが基本の型です。他社もあの手この手でのインターンシップの企画を練っているため、「1日職業体験」といった一般的なものでは学生の関心を引くことが難しくなっています。支援先へのご提案として、総合職向けには「AI適職診断」、「企画・マーケティングインターンシップ」・営業職向けには「営業コンテスト」、ハイレベル層には「事業計画立案」、スタッフ職には「グランピング(手ぶらで行うキャンプのこと)でキャリアプラン作成」など、業種・職種に合った企業らしさを活かしたインターンの企画を実践していただいています。【スカウトメール】で空中戦を仕掛ける高い出展料がネックで合同説明会に何度も参加できない都市部の中小企業によく提案するのがスカウトメールです。ナビサイトに備わっているスカウト機能を使って気になる学生に直接メールを送り、インターンシップや会社説明会への参加を呼びかける方法です。合同説明会が地上戦だとしたら、スカウトメールは空中戦です。このスカウトメールのハードルはとにかく手間がかかることです。対面営業とダイレクトメールの反応率が異なるように、スカウトメールも文面に相当こだわらないと知名度の低い中小企業は相手にしてもらえないからです。スカウトメールを代行するサービスも存在しますが、そのようなサービスが送っているのは基本的にコピペの一斉メールです。しかし、それでは100人に送って1人がエントリーしてくれるくらいのレベル(エントリー率1%)に止まってしまいます。当社がアドバイスしているのは学生のプロフィールを読んだうえで個別メッセージを書くこと。たとえばラグビー部に所属する学生に対しては「一緒にスクラムを組みましょう」といった一文を雛形の文章に付け足す。「学生時代はこんなことにチャレンジした」といったことが書いてあれば「チャレンジ精神旺盛な人財を求めています」と書く。たったこれだけでも読み手の印象は変わります。非常に地味な作業ではありますが、徹底すればスカウトメールからのエントリー率は5、6倍まで引き上げることができます。
この作業は採用担当者ひとりでこなせません。採用担当者が雛形の文章と、理想を言えば「こんな学生に対してはこういう表現を使う」といったマニュアルを事前に用意して、内定者や若手社員を10日間くらい駆り出し、ようやく母集団形成の1チャネルとして存在感が出てきます。そのためスカウトメールを機能させるためには、経営者の全面的なバックアップが必要です。そしてメールを開封し、エントリーしてくれた学生には、すぐにリクルートブック(採用パンフレット)を送り、学生にメール、LINE、SMS、電話とあらゆる通信手段を使ってインターンシップや説明会に誘導します。採用の主戦場と化した【短期インターンシップ】インターンシップを使った母集団形成は、現在の新卒採用市場における主戦場です。とはいえ、インターンシップを実施した経験のない企業からすると、具体的なイメージが湧かないかもしれません。前提の話をすると、インターンシップは「学生アルバイト系」と「単発イベント系」の2種類に大別できます。前者のことを「長期インターン」、後者のことを「短期インターン」とも呼びます(1日限定開催のインターンを「1dayインターン」と呼ぶこともあります)。これから採用活動をはじめる中小企業がまず力を入れたいのは、3年生の夏休みを中心に実施される「短期インターン」です。そこでいかに魅力的な単発イベントを用意して、その後の選考につなげていくか。ここがいま採用担当者の知恵の見せどころとなっています。短期インターンシップに学生を集めるコツに関してはあとで別途触れますが、実際に短期インターンが採用プロセスにおいてどう使われているのかご理解いただくために、当社の取り組みについて紹介させていただきます。当社の内定者のうち8割はインターンから採用しています。当然、夏のインターン活動にはかなりの資源を投入しています。実際に行っているのは「認知目的のための1Dayインターン」と「選考直結型の2Daysインターン」の2種類。前者はコンサル業界に関心の高い優秀層に対して、外資系と比べると知名度の低い当社の独自性・差別化ポイントを伝えることが目的であり、1Dayに参加した学生を2Daysに引っ張り、早期選考と早期内定出しにつなげるようにしています。1Dayのコンテンツは業界理解セミナー+ワークといった形を取っており、当社への関心が低い学生でも集められる企画にしています。当日は「企業の売り上げを当ててみよう」といったワークをしつつ、さりげなく当社の
コンサル業界での位置づけを「教育」していくのがミソです。具体的には当社が「中小企業に特化している」ということ、「(机上の理論ではなく)実行支援をしている」ということ、「日本型経営を根幹としている」ということ、「入社してすぐに経営者と直接仕事ができる」ということなどを伝えることで、有名どころの外資系コンサル会社との違いを際立たせ、そこに興味が湧いた学生を拾っていくというのが基本的な戦略です。2018年は6月から9月ぐらいまでの間に1Dayインターンを11回行いましたが、2019年はそれを倍増して22回実施。676人に参加してもらいました。コンサル志望の学生数は6000人くらいと試算されるため、そのうちの10%と直接接点を持てたことになります。インターンへの呼び込みはナビサイト上での告知やスカウトメール以外に、高学歴者向けの媒体や外資系向けの媒体を活用したり、内定者や1年目社員の後輩を誘ったりと、あらゆる手を使っています。2Daysインターンもかなり力を入れます。このインターンでは参加者たちに中小企業の経営改善策を考えてもらうワークショップを実施しており、こちらの期待以上に根を詰めて資料を作ってくる学生もいるなど反響は上々です。当日は部長、課長クラスのトップコンサルタントを駆り出して、学生たちに具体的なアドバイスをするファシリテーターとして動いてもらいます。そして、プレゼンの審査員をするのは当社の社長を含む役員陣。ワークショップという名目でありながら、当社のコア社員と接することができる、事実上のミニ職場体験のような形になるように設計してあるということです。オールスター陣営で頻繁にインターンシップを開催している上場企業は、当社以外にないかもしれません。そして一連のワークが終わったら、フィードバック面談という名目で個別面談に入り、動機づけをしていきます。2019年は夏・秋のインターンに参加した676人中、137人に内定を出しました。参考までに2Daysの進行表を掲載しておきます。
さらに来期は1Dayも2Daysも回数を倍増させる予定です。なぜなら3年生の夏・秋のインターンシップでリーチできる学生(=動き出しの早い学生)のほうが、年明け以降の通常選考に乗ってくる学生と比べて圧倒的に質感がいいことが確信に変わったからです。通常選考も残す予定ですが当社からすればバックアップにすぎない位置づけであり、将来的にはやめてしまう可能性もゼロではありません。早期に内定を出すほど(当社では年明けの1月から)内定辞退率が高くなることはデータとして明らかですが、そのデメリットを上回るだけの優秀層を獲得できるのです。ここでは当社の短期インターンシップの事例を紹介しましたが、ここでお伝えしたかったのは、コンテンツもさることながら、単発のイベントで終わりかねないインターンシップを採用プロセス全体の中で効果的に機能させるには、前後の設計が欠かせないということです。母集団形成の目的はあくまでもリスト集めであり、「どこに着地させるか」ということのほうが重要で闇雲にリストを集めても効果はありません。インターンシップの企画も、その後の選考につなげることが目的であり、学生を集めて喜んで帰ってもらうことが目的ではありません。地方でも活発になる、これから主流の【長期インターン】「インターン」と聞くと、学生アルバイト系の長期インターンをイメージされる方が多いかもしれません。たとえばインターン生(学生アルバイト)を積極的に登用している株式会社キュービックというITベンチャー企業があります。長期インターンで働く学生に階層を設けており、さらにインターン生が知人の学生を紹介することを奨励しています。インターン生自身がインターン生を採用する仕組みを構築しています。その結果、首都圏の一流大学の学生を長期有料インターンとして雇い入れることに成功しています。もちろん、インターン生全員がそのまま入社するわけではありません。その多くは大手のIT企業に就職してしまう現実はありますが、優秀な学生と早くから強い接点が持てることは間違いなくメリットです。そのメリットを活かすべく、上層部が目をつけた優秀な学生に関してはできるだけ経営者直下のプロジェクトに入れるようにして接点を増やし、在職期間中に自社のファンになってもらうよう日々努力をされています。いまでは大企業も長期インターンを全面的に打ち出す企業が増えています。長期インターンシップは船井総研ホールディングスの事業会社、HRForceでも活用しており、成果を挙げています。2018年4月から「時給1200円、週3回勤務で
OK」という形でインターン生の募集をかけはじめ、延べ100人のインターン生を確保。4年生のうち初年度3人、2年目は10人が正社員として入社しました。海外大学出身者や採用学ゼミ出身者など、こちらの想定以上の質感です。入社後の最初の主な業務は広告営業で、入社月からいきなり受注を取ってくるなど早速戦力として活躍してもらっています。このような実績が出せたことで、今後はグループ全体にもこの流れを拡大させていくべく、インターン生の採用と管理の仕組みの最適な方法を模索している最中です。ただし、現時点で長期インターンシップの募集サイトの企業情報を見ると都市部の企業が中心です。地方に行くと、企業も学生も「長期インターンって何?」という人が少なくありません。このように長期インターンシップは地方にはまだ浸透しきっていませんが、近い将来採用活動の主流になっていくことは現場のコンサルタントたちも実感しています。なぜなら、長期インターンシップは人財不足に悩む地方企業と相性がいいからです。たとえば当社が得意とする飲食業界の経営者などに採用ファースト経営の話をすると、大半の方は「飲食は不人気業種だから新卒採用なんて無理だよ」とおっしゃいます。しかし、そこで当社のコンサルタントが「では御社の社員は全員中途ですか?」と尋ねると、「うーん。言われてみるとそうじゃない」とおっしゃいます。単位を落として大学を卒業できなかった、もしくはバイト三昧で就職活動を早期から行っていなかった学生アルバイトをそのまま正社員化するケースがよくあるからです。つまり、実質的に飲食業界では「長期インターンシップによる新卒採用」を昔から行っているのです。それを戦略的に行っているかどうかの違いでしかありません。長期インターンシップの大きな利点は、大学1年生の段階でリーチをかけられることです。もちろん本当に優秀な学生は、いずれ有名どころの企業に採用されてしまうかもしれません。しかし時間的な猶予があるわけですからインターン生が就職活動の時期を迎えるまでに、自社の魅力を高める努力をすればいい、という考え方もできます。では現状で地方の中小企業が長期インターンを集めるためには、具体的に何をすればいいか。それはあえてインターンという言葉を使わないことです。大学1年生が「インターン」という言葉でバイト先を検索することはないからです。支援先には「長期学生アルバイト」というポジションをつくることを勧めています。そしてアルバイト雑誌や地元の求人媒体などに「高額時給で企業の仕事ができる!学生のうちからスキルアップができる!」という打ち出し方をするのです。高額時給というと渋い顔をされる経営者がほとんどですが、優秀な学生にリーチしていきたいなら一般的なアルバイトの時給の1・3倍くらいの時給を用意しないと人は集められません。もちろん、高い時給を払うわけですから、企業としても学生に質の高いアウトプットを求めていいのです。「時給を上げたら、他のフリーターから不満が出ないか?」という質問もよくいただきます。結論を言えば、長期学生アルバイトという職種をつくった時点で単なるアルバイトの
重要度は下げることができます。離職率の高い層のパート職も少しずつ減らしていき、派遣会社に外注している社内スタッフや一般的なアルバイト職に関しては思い切ってなくしてしまうのです。インターン合同説明会に出たり、つなぎのイベントを設計したり、採用活動を広範囲に戦略的に行うことは今後も必要です。しかし、激化していく採用合戦を勝ち抜くための次の動きとしては、長期学生アルバイトをうまく使える組織に会社を変えていくこと。これができないと本当に優秀な学生が集まる会社にはならないでしょう。私たちが長期インターンシップサポートでお手伝いする際には、「条件面の整備」以上に「インターン生にさせる業務設計とサポート体制」をセットで提案しています。これにより、インターン生でもしっかり利益を生み出し、結果的に高収益企業に変革させることが可能になります。長期インターンを「採用のための1ツール」と捉えてしまうのではなく「長期インターン生でも売り上げをつくり、活躍できるように業務設計をし、ビジネスモデルを変革していく」という思想を持つことができる会社は、これからますます成長することになるでしょう。最先端の採用方法【ダイレクト・リクルーティング】最先端の新卒採用チャネルとして当社が推奨するケースが増えているのが、OfferBox(offerbox.jp)というダイレクト・リクルーティングのサービスです。学生がこのサイトに自分の情報を登録しておけば、それを見て興味を持った企業からオファーが届き、いきなり1対1でコミュニケーションが取れる逆求人型就活サイトです。OfferBoxの登録学生数は12万3000人(2020年卒)。大学生の7人に1人は登録している大きなチャネルへと成長しており、登録企業数も5000社を超えています。ちなみにコストは成功報酬型。内定承諾が取れたら1人当たり25万~38万円をOfferBoxに支払うという仕組みです。
学生からすればスマホでサクサク情報を入力するだけで企業から続々と声がかかるわけですから、足を棒にして合同説明会でブースを見て回るより圧倒的に効率的です。口コミで徐々に地方の学生の登録者も増えている状況ですので、近い将来、類似のサービスも増えていくことでしょう。企業にとってもメリットは大きく、学生は登録にあたって自己分析のアンケートを行います。企業側はその結果を閲覧でき、AIを用いたマッチングも行ってくれるのです。また、全学生を対象としたプラットフォーム以外に、留学生、体育会、クリエイティブ、博士・ポスドクなど専門性で分けられたプラットフォームもあるため検索効率が上がります。「企業が学生を検索して一本釣りをする」というダイレクト・リクルーティングは、いまはまだ黎明期であるものの、近い将来、採用のメインチャネルのひとつになることは容易に想像できます。支援先がOfferBoxを活用できているケースは2種類あります。ひとつは、インターンシップや合同説明会など、マルチ・チャネルで母集団形成を行いながらそのひとつのチャネルとしてOfferBoxを使うケース。採用したい学生が数十人規模になる場合は、そのうちの5人くらいはOfferBox経由で採りましょう、といった提案をよくさせていただきます。もうひとつ、現実的に多いのは新卒採用のチャネルをOfferBoxだけに絞るスタイルです。とくに新卒採用をいままでしてこなかった企業にとっては、合同説明会に出展するだけでも重荷に感じてしまうことが珍しくありません。「できるだけマンパワーと予算をかけずに2、3人の学生を採用するにはどうしたらいいか?」という経営者に対して当社が勧めるのがOfferBoxなのです。もちろんOfferBoxを使うからといって、学生が採れる保証はありません。先ほどのスカウトメールの話と同様、知名度のない中小企業の場合、オファーメールの内容次第で返信率はまったく変わるのです。そこで当社が支援先に勧めているのは、いきなり経営者と1on1で面談ができるとオファーメールでアピールすることです。一般的にOfferBoxを使っている企業は会社説明会に勧誘することが多いですが、会社説明会に勧誘した場合の返信率はよくて10%。「社長から直接話が聞けます」と書くと返信率は25%くらいまで上がります。経営者本人にしてみれば手間はかかりますが、それくらい思い切った対策を打てばピンポイントの人財に高確率で出会えるため、逆にトータルの工数は減るのです。学生を一本釣りしていくダイレクト・リクルーティングにはデメリットもあります。スカウトメールも含めてですが、企業側から直接オファーを出す形を取ると、普通の誘導メールとは違うラブコールに近いメッセージを送ることになります。結果的に自社イベント
や会社説明会に「上から目線」で参加する学生の比重が一定数存在してしまうのです。ナビサイト経由でエントリーをしてくれた学生や、合同説明会でブースに足を運んでくれた学生と比べると、その温度差ははっきりと感じます。採用活動はファン化のためのマーケティング活動ですから、学生を客人として丁重に扱うことには変わりありません。ただし、採用プロセスを通じて「この会社で働きたい!」という気持ちを醸成できないとおそらく内定を出しても辞退されます。入社したとしてもすぐに辞めてしまいます。そこで重要になるのが学生の志望動機を上げていく育成型採用であり、ダイレクト・リクルーティングの比重を高めるなら、自社のリクルーターの質も上げていかないといけません。安定供給を狙う【学校訪問】母集団形成のチャネルとして地元の学校と直接パイプを持つことも非常に有効な手段です。学校訪問というと大学の就職課を回って求人のチラシを貼らせてもられば十分だと思っている方が多いですが、それだけでは正直、効果は期待できません。学校訪問を母集団形成のチャネルとして機能させるには、3段構えで考えましょう。1段目は大学主催の会社説明会に参加させてもらうことです。これは就職課と直接交渉することで可能です。2段目は、内定者や新入社員のツテを使って大学時代のゼミの先生に直接お願いをし、ゼミ内会社説明会やセミナーを開催させてもらうことです。毎年採用がうまくいっている中小企業では採用担当者が「この教授は何人ゼミ生を抱えている」といった情報を逐次管理されている方までいらっしゃいます。そうやってゼミの先生と直接パイプを持てたら、3段目としてゼミの推薦枠を設けてもらうのです。理系職では企業の推薦枠は一般的ですが、文系ではそこまで一般的ではありません。中小企業が入り込む余地はまだあります。学校との関係を深めていく手段としては、大学への寄付や、企業寄付講座を実施するケースもあります。社員全員を人事にする【リファラル採用】自社の社員を介した紹介型採用のことをリファラル採用と言います。カタカナなのでなんとなく新しい響きがありますが、要は「縁故採用」のこと。昔からあることですが採用に至るプロセスがはっきりと制度化されたものがリファラル採用のことだと思ってください。
地方で元気のある中小企業は積極的にリファラル採用を活用しており、当社も支援先に強く奨励しています。具体的に言うと全従業員に人事部の名刺をもたせ、スカウトの権限を与えるということです。まだ他社に勤務中でも、転職相談を受けたら食事代は会社として採用活動費として与える企業もあります。とくに優秀な若手を知っている可能性が高いのは25歳前後の社員です。この世代は入社2、3年目に該当するため、一度は転職で悩む世代。大学の友人同士、転職の相談に乗ったりすることも多いため、名刺を渡しておけば「俺も一応人事部も兼ねているから、第2新卒枠で受けてみたら?」という会話に自然とつなげることができます。自分の職場が大好きな人が、自分の兄弟や子息、後輩、友人などを誘ってくれる。紹介された人も紹介者の立場があるので簡単には辞めませんし、結果を出そうと頑張る。これがリファラル採用のメリットです。ただし、リファラル採用が機能するのは自社が社内外に対して「いい会社」だと認識されている場合に限ります。「うちの会社はブラックできつい」と社員が感じているなら、自分にとって大切な人を誘い入れる気になれないでしょう。逆に言えば「いい会社」を目指して地道に改善を続けている企業であれば、縁故採用を導入しないのは損です。当社が支援先に提案しているのは、主に内定者や入社1年目に対して後輩を紹介してもらうスタイルです。ただし、リファラル採用が対象とするのは、自社の社員の知り合いだけではありません。クライアントやエンドユーザーも対象です。ここは意外と盲点かもしれません。実は当社も縁故採用をかなり活用しており、業界平均と比べると多いほうだと思います。主な対象は支援先企業の経営者のご子息です。中小企業経営者の多くは将来的な事業承継を見据えて、息子や娘を武者修行に出したいと思っていらっしゃいます。また、親の会社で働く前に外の世界で揉まれて経験値を上げたいと考えるご子息がたくさんいます。その点、支援先の経営者は当社のコンサルタントの仕事ぶりや当社の人財育成の仕方などを間近で見ていますので、ご子息に対して「船井総合研究所で経営を学んできなさい」と力説していただけることが多いのです。もちろん当社としても「一流の経営者になりたい」「○○業界の専門家になりたい」といった課題意識を持った学生は、集めようと思っても集めることができない魅力的な人財です。いずれ家業を継ぐために退社するという前提があるとはいえ、「一人前になるまで帰ってくるな」と送り出されるご子息が多いため、定着率も悪くありません。【学生コミュニティ・自主イベント】を運営する
自社の採用力を磨いていくと、ナビサイトや合同説明会に頼らなくても、単独で集客できるようになります。当社の支援先で、岡山と香川で中古車販売を手がける株式会社ハヤシという会社があります。創業47年で従業員数は200人ほど。採用ファースト経営に切り替えた結果、5年で年商を倍増させています(52億円から105億円)。岡山の人気企業ランキングでも6位に食い込んでいます。同社は、地元の国公立大をメインターゲットにしています。想定している競合は地元では知らない人がいない代表的な上場企業と地方銀行。その2社に行くような学生をどれだけ入社させられるかをひとつの目標として採用活動を行っています。その秘策として導入したのがコミュニティ運営です。同社は「就勝応援団」という学生団体を主宰されており、「就勝応援セミナー」というイベントを開催しています。就職活動を迎えるにあたり不安の多い学生たちに、どうやったら自分を高く評価してもらえるのかといった必勝法を採用のプロ(当社のコンサルタント)がレクチャーをするという内容です。「地方都市でも最先端の情報が手に入る場」ということが、意識の高い学生に対して売りになっています。「意識の高い学生」というのは地方の企業にとって重要なポイントです。基本的に地方に行くほど学生はのんびりする傾向にあるため、都市圏でうまくいっている就職活動系のイベントをそのまま地方で大々的に実施しても閑古鳥が鳴くことはよくあります。そうはいっても、地方に意識の高い学生がいないわけではありません。単にそのような学生同士が交流を持てる場が少ないのです。だったらその交流の場を企業が用意してしまおう、というのが「就勝応援団」設立の背景にあります。同社ではこの学生団体とイベントを母集団形成のひとつと考えています。一度コミュニティをつくることができたら、あとはひたすらバイト先やゼミの友人を誘ってもらうのです。とくにイベントに関しては、公的なイベント色が強いほど学生は友人を誘って参加する傾向があるため、イベントだけで毎年200人くらいの学生を集めることに成功しています。そして別途3daysの短期インターンを複数用意されており、コミュニティやイベントから誘引を図っています。直近ですと、イベント参加者400人に対して150人がエントリーをし、そのうち15人の学生の入社が決まりました。いきなりのコミュニティ運営や自主集客は難しいかもしれませんが、まずは短期インターンという形でイベントの企画と運営の経験値を積み、いずれは自主集客を目指すというのがお勧めです。
3.動員力を高める施策「エントリー=入社したい」ではない新卒採用に不慣れな経営者や担当者によく見受けられるのが応募者の温度感の読み違えです。ある学生がナビサイトから自社にエントリーしてくれたら「この子は自社に入社したがっている」と勘違いしてしまうのです。いまのナビサイトはECサイトのようにレコメンド機能がついており、ある企業にエントリーすると「この企業にエントリーした学生はこのような企業も志望しています」と属性の似た企業がリストで表示されるようになっています。そのリストを見て「ついでに」という感覚でエントリーするケースが非常に多いのです。ですからいまの時代、エントリーというものは「気軽に」できてしまうのです。ご多分に洩れず当社のことをレコメンド機能ではじめて知る学生も多くいます。有名な外資系コンサルティング会社にエントリーしたら「船井総合研究所」という企業もレコメンドされた。少し気になってクリックしてみたら企業紹介ページに「平均年齢20代」「コンサルティングファーム初の上場企業」「中小企業を得意とする」といったセールスポイントが端的に書いてある。「へえ、こんな会社もあるんだ。ついでにエントリーしておくか」といってエントリーをする──。このような低い温度感の学生に対して自社の魅力をいかに伝えられるか。そして、さまざまツールを駆使してアプローチをかけ、次のプロセスに動員できるか。ライバルとの実質的な採用合戦はそこからはじまるのです。新卒採用がうまくいっている中小企業は動員力を上げるために次の3つのことを徹底的にやりきっています。1.学生の志望度や目的意識に合わせたイベントを設計する2.自社紹介のツール(採用サイト、採用動画、会社説明会など)を準備する3.誘導率を管理し、応募者に対して適切なコミュニケーション手段を使って誘導しきるそれぞれ説明していきます。
学生の志望度や目的意識に合わせたイベントを設計する母集団から短期インターンなどのイベントにどれだけ学生を引っ張ってこれるかは、企画力勝負です。どのタイミングでどのようなイベントを打ち出すかで誘導率はまったく変わってきます。それにもかかわらず、短期インターンと称して自社説明会を実施するだけの企業が目立ちます。しかし、それでは6月のインターン合同説明会で仮に100人のリストを集めても当日来てくれる学生はせいぜい5人から10人くらいでしょう。せっかくの母集団が活かせていないのです。誘導率が低いのは学生の就活に対する意識が6月の段階ではあまり高まっていないからです。人気企業ならまだしも、「わざわざ中小企業の説明会に行くためにバイトを休むのもな……」と思う学生がほとんどなのです。ではどのようなイベントが学生にとって魅力的なのでしょうか?当社では学生の層を4つに分けて、各層に響きやすいイベントをタイミングよく企画することを推奨しています。①自社に興味がある層学生から指名買いされるケースです。中小企業に限っていえばここに該当する学生はほぼいないため、この層に対するアプローチは考える必要はないでしょう。②業界や職種に興味がある層自社のことはよく知らないが業界や職種をある程度絞って就職活動をしている学生たちです。この層については職務体験系のイベントが鉄板です。集められる学生の数は限定されてきますが、後の選考プロセスへのつなぎとしてイベント設計をしやすい特徴があります。当社が力を入れているのはこの層です。③スキルアップをしたい層業界や職種は絞れていないものの、学生のうちから自分を成長させたいと考える向上心の高い学生たちです。とくに優秀な学生はこの層に多く存在します。この層に対しては「コミュニケーションスキルの習得」「チームビルディングのスキル習得」など、就職活動で役に立つスキルアップ・イベントを立て動員を図ることを推奨しています。④お得なイベントに参加してみたい層
ナビサイトに登録はしているものの就職活動にあまり本気になれていない層です。やりたいことも決まっておらず、どんな能力を身につけたいかという意識も湧いていません。就職活動で動き出す大学3年生の初夏時点では大半の学生はこの層です。この層にいきなり自社や業界の説明をしても興味を持ってくれないため、高給の超短期アルバイトや就活必勝法セミナーなど、学生にとってわかりやすいメリットが感じられるイベントを打ち出すといいでしょう。ユニークな例を挙げると、地元の人気企業の人事担当者が一堂に会して行うパネルディスカッションを主催している企業もあります。言うなれば、自社主催のミニ合同説明会。就活に乗り気ではない学生でも、さすがに人気企業が集まっているとなると効率的に接点が持てるのでメリットが大きいですし、企業側にしても塊になることで多くの学生と接点が持つことができる利点があります。1社単独では引きが弱いなら、束になればいい──。この発想はとくに地方で集客に苦戦する企業は参考になるのではないかと思います。バッティングしないように業界をうまく分けてもいいですし、そこそこ人気のある業界であればあえて競合他社と手を組むのも一手でしょう。リクルートサイトを用意する中小企業では、自社のホームページはあるものの、採用のためのホームページは作っていない企業が少なくありません。あったとしても自社のホームページの片隅に「採用情報」という欄を設けて、エクセルを貼り付けたかのように給与や勤務時間、福利厚生などの最低限の情報を載せているだけの企業がほとんどです。新卒大量採用を実現するなら、自社のホームページとは別に、学生向けに専用のホームページ(リクルートサイト)を開設すべきです。採用ホームページがないと確実に不利だからです。新卒を対象にしたリクルートサイトの主な用途は、ナビサイトに掲載する情報の補完です。中途採用の場合はリクルートサイトから直接エントリーするケースが多いですが、学生に関してはリクルートサイトを見てもエントリーはナビサイトから行うケースが圧倒的に多いです。ナビサイトの弱点はすべてフォーマットが決まっていることです。基本プランでついてくるのは会社概要と説明会・セミナーというページだけで、オプション料金を支払うと仕事紹介などができますが、それもフォーマットは固定です。実際に学生も、会社概要や募集要項をササッと眺めて、とりあえずエントリーしておくというパターンがほとんどです。よって順序としてはナビサイトに掲載する情報を精査し、充実させること。これが最初
jp)を参考にしてウェブ制作会社に依頼していただくパターンがほとんどです。当社のリクルートサイトをリニューアルしたのは2018年。それ以前と以後と比べると、明らかに学生の自社理解度が高まっていることを実感しています。また、BtoCの企業の場合、リクルートサイトだけではなくコーポレートサイトを磨き上げることもお勧めしています。ここに紹介するのは当社の支援先である香川の株式会社ウエストフードプランニングのコーポレートサイトです。ロゴもホームページのデザインも非常にミニマルで現代的な印象を受けますが、事業はうどん屋さんです。地元香川では有名な「こだわり麺や」といううどん屋を運営されています。エンドユーザー向けの「こだわり麺や」のサイトは別にあるため、同社ではコーポレートサイトを学生向けにチューニングしてあります。掲載されている情報は厳選されており、ページを上からスクロールしていったときに閲覧者の印象に残るのは、スタイリッシュなサイトのデザインと、「アグリビジネス」「経営企画」「クアラルンプールにも出店」「独立開業支援」といったフレーズです。普通の人が想像するうどん屋さんのイメージとはほど遠いと思います。それがまさにこのサイトの狙いです。同社は年度ごとに採用コンセプトを決め、ターゲットを明確にした後で、ホームページ等の各採用ツールをカスタマイズしています。採用ターゲットは主に香川県内在住の大学生であり、経営企画や海外業務、農業などに関心のある学生にアピールできる内容に調整してあるのです。ページの最後に目に入る独立開業支援というのも、飲食店が優秀な学生を採用したいときの必須条件のようなものです。同社はリクルートサイトも別に用意しており、コーポレートサイトから飛べるようになっています。業務内容、働く人、教育制度、待遇など、学生が知りたい情報はすべて網羅されていますが、「詳しく知りたい」と思ってもらうには、まず会社自体に興味を持って
もらわないといけません。その際の入り口となるのはナビサイトですから、まずはナビサイトに載せる情報を拡充させる。しかしそれだけでは情報は伝えきれないため、コーポレートサイトで自社の魅力を端的に伝え、リクルートサイトに誘引する。このような3段構えでもいいのです。
適切なコミュニケーション手段を使って誘導しきる動員力として最後に紹介するのは、メールと電話攻勢です。当たり前すぎる話で恐縮ですが、ここに人的リソースをかけている会社はまだまだ少ないのが現状です。具体的には短期インターンや会社説明会に申し込んでくれた学生に対して、1、2週間前のタイミングで参加の確約をメール、電話、SMS、LINEのすべてで取ります。そのうえで、会期前日くらいのタイミングでいま一度「明日は会えるのを楽しみにしていますね。場所がわからなかったら電話ください」といった形でリマインドをする。どのようなイベントを開催しても、放っておくと決まって2割くらいの学生はドタキャンをしますが、こうした手間をかけるだけで単純に動員率は1割くらい改善できます。単に「誘導する」のではなく、「最後まで誘導しきる」ということがポイントです。
4.人財の見極め方判断基準のばらつきを抑える採用面接を経験されたことがある方ならご存じでしょうが、明確な判断基準を持たないまま面接に挑むと、日によって判断が大きくブレることがあります。所詮、人間は感情の動物ですから、その日の気分で主観というものは平気でぐらつくものです。ムシャクシャしていて判断基準が厳しいほうに振れた場合の実害は感じることはありませんが、問題は判断基準が緩いほうに振れた場合です。「なんでこんな学生に合格を出したんだろう?」と後悔しても後の祭りです。そうした主観によるブレを大幅に抑えることができるのが、前述した「求める人物像」の言語化です。求める人物像かどうかを確認するという前提で質問リストを作っておけば、感情が入り込むことを和らげることができます。また、求める人物像が明文化されていたとしても、面接担当者やリクルーターが複数人いると感覚値のズレも生じてきます。たとえば「明るく元気な学生が欲しい」という経営者は非常に多いですが、「明るく元気な人」の基準は人によってマチマチです。このような定性的な基準を統一化する簡単な方法として勧めているのが、社内の具体的な人物像に紐づけることです。もし明るく元気な人が欲しいのであれば、「最低でも総務部の○○さんくらいの明るさ」というラインを事前に決めておき、面接担当者全員で共有するだけ。すぐに導入でき、効果もてきめんですからぜひお試しください。データに基づく適性不適性診断を活用するいまAIや統計データを用いた適性診断のツールの精度は年々上昇しており、アナログな面談では見抜きづらい応募者の適性がどんどん可視化されるようになっています。優秀な学生を効率よく採用していきたいなら、こうした最先端のデジタルツールを補助的に使っていきましょう。当社では新卒社員の選考プロセスで、適性診断と不適性診断の2つの診断サービスを使っています。いずれも学生がアンケートを答えていくことでその学生の適性・不適性がわかるというものです。
前者の適性診断は自社の社員との性格的な相性を数値化してくれるサービスで、後者の不適性診断は特定の職種にふさわしくない人財を弾くために使われます。のちほど触れますが適性診断はリクルーターと学生のマッチングでも大活躍しています。不適性診断は、いまあらゆる産業で注目されている選考プロセスです。たとえばこの診断で「コンプライアンスリスクがある」という結果が出た学生は、次の選考には進めません。たったひとりの社員の不祥事が企業ブランドを大きく傷つけるいまの時代、リスクのある人財をいかに門戸で除外するかは死活問題です。一部の支援先企業にも選考プロセスに不適性診断を導入していただいていますが、導入をした経営者は口を揃えて「いまの社員全員に受けさせて、適材適所の精度を上げていきたい」とおっしゃっています。ここでのポイントは、所詮短時間で終わる面談では相手の裏の顔は絶対にわからないということです。いざ正社員として迎え入れて試用期間後に本性を見せはじめたとしても、解雇することがいかに大変かは経営者の方であれば痛いほどおわかりでしょう。直感に頼る選考が必ずしも悪いというわけではありません。ただ、人の特性を統計データからあぶり出せる時代になったのであれば、積極的に活用して人選の精度を高めていくことは重要な姿勢だと思います。どんな適性を見極めるのが得意なのかはツールによって異なりますので、自社の求める人物像と見比べながら、いくつかのサービスを使ってみて、自社と最も相性のいい診断ツールを絞り込んでいくといいでしょう。ちなみに当社では応募者の「地頭」を測る手段としてCABと呼ばれる適性テストを実施しています。学力を測る試験とは異なり論理的思考力や情報の処理速度を測るのに適したテストであり、コンサルタント職に求められる頭の回転の速さのひとつの指標になります。適性診断の重要性については、前述したようなメリットを説明することで支援先の経営者の多くも理解を示してくれます。しかし、診断を受けてもらうにしても学生1人当たりにコストがかかるのもまた事実。そこで経費を抑えるために診断のタイミングを選考プロセスの最終盤に設定したがる経営者がいますが、お勧めしません。その段階までくると学生に対して情が移るからです。求める人物像を社内でさんざん話し合い、「適性診断でこの基準に満たない学生は採らない」と厳格に決めていたにもかかわらず、「この学生はどうしても欲しいから特別に……」という感情が湧いて基準がブレたり、足切りをするときに、必要以上に採用担当者にストレスがかかることは珍しくありません。適性診断の場合は基準に多少の遊びはあってもいいでしょうが、不適性診断となるとそうはいきません。多少コストはかかりますが、選考プロセスのできるだけ早い段階(1次選考時など)で実施するのがコツです。
前者の適性診断は自社の社員との性格的な相性を数値化してくれるサービスで、後者の不適性診断は特定の職種にふさわしくない人財を弾くために使われます。のちほど触れますが適性診断はリクルーターと学生のマッチングでも大活躍しています。不適性診断は、いまあらゆる産業で注目されている選考プロセスです。たとえばこの診断で「コンプライアンスリスクがある」という結果が出た学生は、次の選考には進めません。たったひとりの社員の不祥事が企業ブランドを大きく傷つけるいまの時代、リスクのある人財をいかに門戸で除外するかは死活問題です。一部の支援先企業にも選考プロセスに不適性診断を導入していただいていますが、導入をした経営者は口を揃えて「いまの社員全員に受けさせて、適材適所の精度を上げていきたい」とおっしゃっています。ここでのポイントは、所詮短時間で終わる面談では相手の裏の顔は絶対にわからないということです。いざ正社員として迎え入れて試用期間後に本性を見せはじめたとしても、解雇することがいかに大変かは経営者の方であれば痛いほどおわかりでしょう。直感に頼る選考が必ずしも悪いというわけではありません。ただ、人の特性を統計データからあぶり出せる時代になったのであれば、積極的に活用して人選の精度を高めていくことは重要な姿勢だと思います。どんな適性を見極めるのが得意なのかはツールによって異なりますので、自社の求める人物像と見比べながら、いくつかのサービスを使ってみて、自社と最も相性のいい診断ツールを絞り込んでいくといいでしょう。ちなみに当社では応募者の「地頭」を測る手段としてCABと呼ばれる適性テストを実施しています。学力を測る試験とは異なり論理的思考力や情報の処理速度を測るのに適したテストであり、コンサルタント職に求められる頭の回転の速さのひとつの指標になります。適性診断の重要性については、前述したようなメリットを説明することで支援先の経営者の多くも理解を示してくれます。しかし、診断を受けてもらうにしても学生1人当たりにコストがかかるのもまた事実。そこで経費を抑えるために診断のタイミングを選考プロセスの最終盤に設定したがる経営者がいますが、お勧めしません。その段階までくると学生に対して情が移るからです。求める人物像を社内でさんざん話し合い、「適性診断でこの基準に満たない学生は採らない」と厳格に決めていたにもかかわらず、「この学生はどうしても欲しいから特別に……」という感情が湧いて基準がブレたり、足切りをするときに、必要以上に採用担当者にストレスがかかることは珍しくありません。適性診断の場合は基準に多少の遊びはあってもいいでしょうが、不適性診断となるとそうはいきません。多少コストはかかりますが、選考プロセスのできるだけ早い段階(1次選考時など)で実施するのがコツです。
育成型採用の要となるリクルーター経歴として申し分なさそうな学生が面接に来てくれる。志望動機や会社を選ぶ基準などを聞く。しかし回答が的外れだったり、熱量が感じられなかったりして、採用は見送ることに──。これがいわゆる一般的な「見極め型採用」です。しかし、応募者を集めるだけでも苦労するいまの採用市場で、このようなスタイルで選考を進めるのはあまりにもったいない話です。当社が奨励するのは「育成型採用」です。学生の志望動機や社会人として目指していきたい姿などを、採用過程においてジワジワと「教育」していくことで、少なくともマインド面では自社が求める人財になってもらうことを目的としています。その育成の重要な役割を担うのがリクルーターです。リクルーター面談の本質は、入社するしないは別として、採用活動を通じて自社のファンを増やしていけるということです。ここはリクルーターを導入するときに経営者に力説するポイントです。学生にとってリクルーターは、会社に直接聞きづらいことを質問できる兄貴分や姉貴分のよき相談相手です。その近い距離感をうまく使って学生の相談に親身になって対応しながらも、「この会社に入りたい」と本気で思ってもらえるように思考を啓蒙・教育していくのです。たとえばリクルーター面談で学生の近況を尋ねたら、他のコンサルティング会社の選考も進めていることがわかったとします。そんなときはリクルーターに「その会社とうちの会社の違いってなんだと思う?」と質問してもらいます。露骨に他社の悪口を言ったら逆効果ですので、それは絶対にしません。明らかなセールストークをしても見抜かれます。一見なにげない会話として進めていきますが当社の場合は「20代の成長環境」「クライアントとの距離感」「社風」の3つの評価軸で他社との比較をしてもらうように啓蒙しています。なぜならここに共感してもらえる学生であれば、船井総合研究所で働くことがその学生にとってベストな環境だと自信を持って言えるからです。つまり、自社の優位性を発揮できる評価軸自体を学生に教育することで、志望動機の言語化を手助けする。そうすることで面接でも理想的な回答ができるようになり、本人もその気になっていく、ということです。優秀層に関しては、最低でも4回リクルーター面談を実施してもらうように支援先にはアドバイスしていますが(内定出し直後の面談を含む)、会社説明会、1次面接、2次面接、最終面接と、選考を進めるたびに学生の志望動機が高まることが育成型採用の理想形です。逆に言うと、志望度を高める工夫を何もしないまま選考を進めても、内定を出したとこ
ろで辞退されるだけです(志望度が高まっているかどうかを確認するのもリクルーターの役目です)。もちろん、リクルーター面談も見極めの材料になることもあります。たとえば部長面接を控えた学生に対して「次回はたぶん会社の理解度をチェックするためにこんな質問が出るから、この本を読んでおくといいかもしれない」とリクルーターがアドバイスします。そして面接当日にその本を読んでいないことがわかったら、当社への関心は低いということで採用を見送ります。「仕事好き、会社好き、仲間好き」の社員が欲しいということは会社説明会でもリクルーター面談でもあらゆる採用媒体でも伝えているので、それでも会社に興味がないのであれば当社とのミスマッチと判断するのです。学生とリクルーターのマッチングはAIで決める「リクルーターが重要なことはわかったが、学生との相性が悪かったらどうするんだ」という鋭いご質問もいただきます。たしかに学生とリクルーターの相性は非常に重要です。大半の企業では出身校でマッチングさせているだけなので、最初の5分だけ学部の話やゼミの話で少し盛り上がって、あとは会話が弾まないといったことが散見されます。そこで当社が活用しているのが先述したAIマッチングです。エントリーしてくれた学生全員に受けてもらう一方でリクルーターにも受けてもらい、考え方ができるだけ似たペアを組むようにしているのです。採用活動が事実上のファン化の競争であることを考えると、惹きつけ役を担当するリクルーターを最適化していくことがいかに画期的で効果的なことか、おわかりいただけると思います。採用する側の育成リクルーターは事実上の営業マンとして機能すると書きましたが、採用専任者と違っていきなり通常業務から採用の現場に駆り出されることになるので、学生との接し方でばらつきがあってはいけません。通常業務と採用業務の勘所はまったく違いますので、形だけを真似してもまず機能しません。そこで当社ではリクルーター研修というものを行っており、支援先にも実施してもらっています。「リクルーター虎の巻」という教材まで用意しています。面接官の研修はよくある話ですし、もちろん当社でも実施していますが(出生地・思想などパーソナルな情報を聞かない、セクハラに該当する質問の事例を共有・教育するなど)、中小企業でリクルーターを鍛える企業はまだ多くありません。しかし、自社の採用
力を上げていくためには、採用する側の育成も欠かせません。面接官の研修も含め、採用する側の育成で最も強調しているのは、「あなたたちは学生を見極める立場ではあるが、それ以上に学生に見極められていることを忘れてほしくない」ということです。学生の発言に対して「その考えは甘いよ」と説教をするリクルーターや、学生の話を腕組みしながら聞く面接官は世の中にたくさんいます。しかし、これでは学生を惹きつけることはできません。上から目線でもなく、露骨な下から目線でもない、ほぼ真横にいるお兄さん、お姉さんくらいの感覚で接してくださいと、リクルーターにはお願いしています。
5.採用管理の省人化を図るデータドリブン採用通年採用とマルチ・チャネルで大量採用を進めていくと、必ず直面する課題が採用管理の煩雑さです。たとえば、・各チャネル・各選考プロセスごとの目標値と実測値の管理・連絡を取るべき学生のリスト化・面談の日程調整・イベント1週間前のリマインダーメールの送信など、採用担当者が管理すべきデータは膨大になります。こうしたデータの管理を大半の中小企業ではエクセルで無理やり集計しながら行っていますが、それがあまりに大きな負担となって、当社が「来年は採用人数を倍にしますか?」と提案しても、「さすがにこれ以上採用に人を回したら本業が傾くので、絶対に無理です」と断られることもあります。そこで当社が常々提案しているのが採用管理システムの導入です。優れたツールがいろいろありますが、現時点で当社は新卒採用、中途採用を分けて、特性の違うクラウドサービスを利用しています。これは、採用工程と押さえたいKPIが違うためです。たとえば当社では採用の年間スケジュールを組むときに、説明会Aに来てくれた学生にはメールBをこのタイミングで送って、イベントCに誘引するといったことを採用管理システム上に事前にシナリオ化して組み込んでいます。それをしておくと、「説明会Aに参加した学生」ということで学生データを作ると、その学生の登録アドレスに自動的にメールBが送られるように設定できるのです。もちろん説明会AからイベントCへの誘導率といった数値も可視化されるので、来年度の活動に活かすこともできます。こうしたクラウドのシステムを導入した結果、当社の採用工数を半減させることができました。2020年入社は200人を計画しているため、なおさらこうしたシステムを使わないと絶対に人的ミスが起きますし、物理的な工数もかかりすぎてしまいます。せっかく優秀な人財を採用チームに集めても、データ管理や日程調整といった事務作業
で工数を取られすぎてしまうのはあまりに非生産的です。採用プロセスに限った話ではありませんが、自社の人財の能力を最大限に活かしきるためには、コンピューターに任せられることは率先して任し、業務の省人化を推し進めること。これは採用人数が少ない企業でも絶対に持つべき考え方だと思っています。また、デジタル化が企業にとって不可欠だと思う理由はデータ分析が容易になるからです。各チャネルで集めることができた母集団の数、そのチャネルから選考フローに誘引できた率、経年との比較など、システムを導入すればこうした数値が一目でわかります。一目でわかるからこそ「今年はダイレクト・リクルーティングが思いの外いい結果を出したから、今年はここに予算をかけてみよう」といった具体的な対策を立てられるのです。「自力では学生が採れない」と当社に相談をいただく中小企業で、イベントの誘導率などをきっちり管理されている企業はほぼ皆無です。たしかにシステムを導入するとなるとコストはかかります。しかし、そうはいっても月10万円くらいのコストです。正確無比のアシスタントを雇い入れる、採用チームの残業代を支払う、もしくはデータ分析を外注すると考えれば圧倒的に割安です。それに採用ファースト経営では理論的には毎年採用人数が増えていくものですが、「人手」を減らし、会社の未来を担ってくれる「人財」を大量に増やしていこうという考え方に立っています。いずれどこかのタイミングで「採用専任者を増やすべきか、採用管理システムを導入すべきか」の議論が起きます。マンパワーのある大企業ならまだしも、中小企業はおそらく前者の選択肢を取ることはないでしょう。システムの機能を完璧に使いこなすためには多少の慣れが必要ですから、採用人数が少ないときから慣れておくことは決して悪いことではないと思うのです。
6.内定辞退率を抑える内定10人、入社0人を避けるために都市部の優秀な学生になると、大手企業5、6社から内定をもらうことは当たり前です。かつては学生がこぞって入社したがった有名な企業でも、内定辞退率が5割を超えることも珍しくありません。最初は温度感の低かった学生をなんとかして口説き落とし、内定出しまでこぎつけたとしても、内定辞退をされたらそれまでの苦労が水の泡です。よって、採用担当者にとって最後まで気の抜けない大事な仕事が内定者フォローです。このプロセスにかける手間次第で、いくら母集団を多く集めていたとしても、入社する学生の数が10人になるのか、0人になるのかという大きな差として表れます。内定者フォローには2種類あります。入社に至るまでの「中期的なフォロー」と、内定を出した直後に行う「短期的なフォロー」です。[中期的フォロー]中期的フォローとは、内定を出した5月、6月ごろから内定式のある10月、さらに翌年春の入社日までの間、内定者と定期的に接点を持ち続けることを指します。最低でも月に1回は接点を持ち続けることが基本です。目的は大きく分けて2つあり、ひとつは心変わりをさせないためのさまざまな対策です。内定式や懇親会、社内行事への参加といった形で自社のメンバーとなった感覚と、内定者同士の絆をいかに強められるか。また、地方の場合は公務員試験(試験は8月、合否発表は10月)に合格して親に説得されて内定を辞退する学生が多いため、親御さんを味方につけることも大事な仕事です。中期的フォローのもうひとつ重要な目的が、早期育成です。新卒の即戦力化に成功している中小企業の多くは、内定式を終えたあとから入社までの期間を無駄にせず、プロジェクト型の研修などを実施して社会人として準備をさせています。内定者研修については次章で説明します。[短期的フォロー]内定者の短期的フォローとは、具体的には内定出し直後に行う内定者面談と、入社動機を高めてもらうための最後の追い込みを指します。
前述した月1回の中期的フォローができている企業は珍しくありませんが、意外なことに多くの中小企業はこの短期的フォローがやりきれていません。とくに内定を出す5月、6月にはゴールデンウィークがあるため、連休直前に内定を出して、連休中は学生を放置し、連休明けに内定辞退のメッセージが届くケースが非常に目立ちます。
内定者の短期フォローを徹底する短期的フォローの目的は、内定者が抱く不安や疑問をすべて洗い出して早々にクリアな状態にすることです。そうした不安や疑問を洗い出すために必須なのが内定者面談(オファー面談とも言います)で、これは内定を出してから遅くとも1週間以内に実施するのがポイント。遠方の学生の場合は、ビデオ会議でも構いません。理想形としては、そのときに内定通知書を手渡すことです。その際、当社のコンサルタントが支援先の経営者に「マストで」とお願いをしているのが内定通知書を経営者の直筆で書いてもらうこと。いまの学生たちがデジタルネイティブだからこそ、その一手間が学生の心を掴むのです。「字が汚いのがコンプレックスで」という経営者の方も多いですが、字のうまい下手は関係ありません。当社でも採用活動で直筆の手紙を伝統的に続けていますが、外資を含む大手企業から複数内定を得るような学生が「あの手紙が決め手になって入社を決めた」「俺も俺も」と、内定式で話し合う光景が毎年見られます。内定者面談を申し込んで、学生側から「都合がつきません」という返答が返ってきたら要注意です。本当に入社したい企業だったら、1週間以内に1時間くらいの時間はつくれるはずです。ですからまずは面談のアポを取ることが先決。そして実際に面談をするときは、単なる一方的な営業トーク(クロージングトーク)で終わらせないで、入社に至るまでの不安チェックシートのようなものを作って、学生が抱える不安や疑問点をヒアリングしましょう。そして、その不安を解消するために自社ができることをすべて行うのです。・人間関係に対する不安→懇親会を主催する、人事面談を実施する、など・仕事内容に対する不安→職務体験ができる機会を設け、先輩社員から話を聞ける場を設ける、など・育成環境に対する不安→社内研修を見学してもらう、育成プログラムを体験してもらう、など・会社の将来性に対する不安→経営者面談を実施する、などこれらのことを学生が最終的に入社先を絞り込む6月中に迅速に行う必要があります。当然、不安要素の強いものから優先的に解消していくといいですが、できる限り、すべてを潰しましょう。当社で中小企業経営者を対象にした採用力アップセミナーを実施しても、いま挙げたよ
うな内定出し直後の施策をやりきっている企業はいまのところ1社もありませんが、ここまで徹底的にやりきってようやく内定承諾率を50%にすることができます。おそらくこの傾向は通年採用に入るとさらに強まってくるため、採用活動の中の、「内定者フォロー」という重要度がますます高まると考えています。親御さん向けの面談・会社説明会・懇親会いまの時代、内定者の親対策は必須です(内定者の親御さんを味方につける活動のことを「親確」(オヤカク)と言います)。いまの若者の多くは親子の距離が非常に近いため、就職や転職にあたって親の意見を参考にするケースが増えているからです。仮に内定者が入社に前向きでも優秀な学生の親ほど「名前も聞いたことがない中小企業に行くなんて言わないで、上場企業か公務員になりなさい」と猛反発し、内定を辞退するケースが頻発しています。とくに地方はこの傾向が強いです。そのため、会社のビジョンを語ったり、仕事を始めてからの不安をできるだけ取り除いたり、お子さんが入社後どのような成長をしていくのかイメージをさせたりと、学生に対するアピールと同じ熱量をかけて親御さんを「その気」にさせないといけないのです。そこで支援先には内定者フォローの一環として、親御さんとの個別面談、もしくは会社説明会を兼ねた懇親会のようなイベントを、遅くとも内定式のある10月までに開催してもらうようにしています。支援先では、採用目標人数が10人くらいまでの規模では大半の企業が面談を実施しており、それ以上の規模の場合は説明会兼懇親会を開きつつ、Sランクの学生に限って経営者自ら親御さんと個別面談をするケースが多いです。なお、一昔前は家庭訪問を奨励していましたが、近年は「家庭の事情で実家に来てほしくない」という学生もいることに考慮して、親御さんを自社に招く形が増えています。たしかに手間はかかります。しかし、そこで親御さんをしっかりと自社の味方にしておけば、入社を後押ししてくれるだけではなく、入社後にお子さんが仕事で悩んだり、つらい思いをしたときに親御さんが「もう少し頑張ってみなよ。こんないい会社はなかなかないよ」と応援団になってくれるのです。定着率アップが課題の企業もあるかと思いますが、社員の家族を味方につけるというのも非常に効果的な打ち手のひとつです。
1.早期育成が定着化につながるOJTで早期育成はできないプロ野球の世界では、「あの球団は質の高い選手を集めるのは得意だが、育成が苦手だ」といった話題がよく出ます。ポテンシャルの高い学生をスカウトして入団させる。しかし、ろくな育成もせずにいきなり打席に立たせても、ホームランどころかヒットも打てません。そんな新人を見て「今年の新人はハズレだね。まったくスカウトは何をやっているんだ」と不満を言う首脳陣……。一見するとありえない光景ですが、これとまったく同じようなことを多くの中小企業が行っています。「育成は現場の仕事だろう」と言ってすべてOJT任せにしてしまうのです。「育成が苦手だ」という認識を経営者が持っているならまだいいですが、そもそも「企業主導で人財を育てる」という発想がない企業があまりに多いのです。「新卒を大量に採用できるようになれば、そのうち本当に優秀な人財だけ残ってもらえば業績アップにつながるのでは」と考える経営者もいらっしゃいますが、それは採用ファースト経営ではありません。新卒を大量に採用して「全員を即戦力に育て上げること」を前提とするのが採用ファースト経営なのです。早期育成のために必要なことでは新入社員の早期育成のためにすべきことは何か?前提となるのは第2章で説明したように、新人でも成果が出やすいように業務のオペレーションを変え、ビジネスモデルを変えることです。本章で取り上げるのは、それ以外の具体的なソリューションです。・能力・スキルの見える化評価制度と連動したスキルマップ(一人前の基準づくり)業務フローのマニュアル化・体系立った育成プログラムの設計内定者向け研修
新人研修・導入研修自社アカデミー学習環境のオンデマンド化・定着化の取り組み定期面談上記のすべてをやりきれば、競合他社が驚くようなスピードで新卒社員が育つ企業へと進化できるはずです。
2.成長度合いを見える化する育成の基準を定めるどのような育成制度を用意すべきか検討する以前の問題として、企業が必ず行わないといけないことがあります。それが社員の成長の度合いを客観的に測るための「育成の基準」を社内で明確にし、共有することです。たとえば、新入社員を3年で店長に育てたいのであれば、いつまでにどのようなことができるようになっていないといけないか。こうしたことを定性的ではなく定量的に把握できるようにしておかないと、評価する側も学習する側も軸がブレます。軸がブレるということは成長に無駄やばらつきが生まれやすいということです。向上心の強い若手社員が「自分はすでに店長レベルなのに、なぜ昇進させてくれないんだ」と不満を募らせて離職してしまうことは、サービス業ではよくあることです。そのとき「たしかに実力は認めるけど、後輩への思いやりがちょっと物足りないんだよね」と上司が抽象論を語ったところで、社員が発奮するわけがありません。「育成の基準」の確立とは、すなわち評価制度の項目をできるだけ定量的に捉えられるようにKPI化していくことです。たとえば、中小企業が使っている評価制度は人事コンサルティング会社や地元の社会保険労務士が作ったものを長年使い続けているというケースが多く、定性的な項目が目立ちます。たとえば「思いやりがある」という項目が5段階評価になっていたとしても、基準があまりに曖昧ですし、そもそもその課題をクリアしたところで、会社への価値貢献にどれだけつながるのかという不信感も生まれます。本来、評価制度は会社の事業戦略(業績アップにつながる課題)と密接に連動するものでなければいけません。たとえば当社では、事業成長の課題として粗利をひとつの重要な経営指標と捉えていますので、チームリーダーの評価項目でも個人粗利というKPIを重視しています。重視しているからこそ、若手の能力開発をしていくときもKPIのアップにつながるスキルを重点的に教育していきます。あと忘れてはいけないのが、評価制度と賃金制度の連動です。そこもしっかり整合性が取れていれば、社員としては会社から与えられた課題をひとつずつクリアしていけば評価と賃金が上がり、会社に価値貢献ができます。会社としては効率的に業績アップにつなげていくことができます。
要は、入社前に経営者が学生に対して「うちはこんな目標を掲げているから、君たちはこんな人財に育ってほしい」と語っていた話と、社内の実際の評価の仕組み(や育成制度、賃金制度)が一致しているかどうかが重要なのです。採用という大仕事が終わったら次に行うことは評価制度の見直しであり、具体的な研修制度の検討はそのあとです。評価制度は「給与の基準」を決めるためだけではなく、「育成の基準」の言語化こそが重要なことなのです。評価基準の見直しに当たっておそらく多くの経営者が直面する悩みは、従来の評価基準と新しい評価基準との間のギャップです。評価基準をガラッと変えると、それまでAランクだった社員がBランクに落ち、逆にBランクだった社員がAランクに上がるなど、社内にいろいろな風波が立ちます。しかし、自社を次の成長フェーズに乗せるためには会社が乗り越えるべき課題が変わっていくことは当然のことであり、そこは経営者が強い意志を持ち、明確なビジョンを打ち出しながら社内の納得感を高めていくしかありせん。評価制度とは、経営者の思想と会社の事業戦略がそのまま表れたものなのです。評価制度を形骸化させない評価制度でよくある失敗が、制度の構築に手間をかけたことに満足して、実際の運用の手間をかけていないことです。評価制度は「構築と運用」の2段構えで考えることが基本であり、運用がなされていないと意味がありません。評価制度の運用というと構築のあとに説明会を開催し、半期ごとに評価スコアをつけて共有というのが一般的ですが、本当に重要なことは社員に対するフィードバックです。人事評価のフィードバックは、年に1回、上司と部下が1on1で話し合いをする席を設けるだけで終わっていませんか?しかもそれが、来期の給与の根拠を説明する場という位置づけになっていたり、部下の悩みを聞き出すような別の目的として使われたりといったことが少なくありません。評価制度が形骸化している組織の典型的な例です。評価項目を定量的に定めたということは、従業員にとっての課題がはっきりしているということです。上司もより具体的で適切なフィードバックがしやすいわけですから、できるだけ質の高いフィードバックをして、社員各自が常日頃からその課題を意識して、自主的にブラッシュアップしていくように仕向けるようにしないといけません。仮に適切なフィードバックをしていたとしても、そもそも年に1回では育成にはつながりません。育成はPDCAサイクルそのものですから、年に1回チェックが入るサイクルではあまりに回転が遅すぎるのです。評価制度の運用で大事なことは、フィードバックの質と頻度です。当社が支援先に評価
制度を提案する際は、少なくとも年2回、できれば年4回は1on1の機会を設けるように勧めています。もちろん、そのような時間的余裕がないケースもあるでしょう。その場合でも、評価やフィードバックをする項目を絞ったり、その職種・階層別の最重要項目を選んで、少なくともその項目については年4回フィードバックをするといった形で提案させていただくことが多いです。たとえば販売系の会社であれば、毎月・毎週の会議で、「契約率」や「アポイント取得率」といったKPIを定点観測していると思います。このKPIをそのまま評価項目とし、KPI達成のためのプロセス指標となる「行動量」を評価制度・賃金制度と連動させることが最も重要なポイントになります。評価制度を正しく運用させること自体が、育成スピードにつながると理解していただければと思います。
3.育成プログラム内定者研修でスタートダッシュをかける!早期育成と定着率アップを効率的に図るために、当社が支援先に奨励している制度のひとつが、内定者研修です。通常、内定式は10月に行うのが一般的ですが、4月の入社までに半年間もあります。その期間をうまく使って体系立った研修を行い、入社後の導入研修を経て一気にロケットスタートを切れる状態にしておくのです。会社との距離も縮まりますので、入社直後に新人が辞めるような事態も防ぐことができます。大まかな設計としては、最初の3カ月は学生も卒論がありますので緩やかに進め、残りの3カ月は内定者たちに重めの課題を与え、目標設定や課題解決の仕方など、自律的な社会人として必要なフレームワークやマインドセットを学んでもらいます。支援先で実施している内定者研修の一例を挙げましょう。関西にある老舗企業です。人事全般を統括されたのは次期社長です。事業承継をにらみ、同社としてははじめて新卒採用をすることになり、次期社長と当社のコンサルタントが二人三脚で取り組み初年度で7人の学生を確保することができました。10月の内定式後に内定者たちが与えられた課題は地元のイベント向けに新商品を開発して売るというものでした。大きな目標だけ与えて、やり方は内定者たちに考えさせるのが、プロジェクト型研修の基本です。ノリとしては文化祭ですが、むしろ多少遊びの要素が入っていたほうが学生も頑張りますし、内定者同士の連携も強まります。ただし、そのイベントが打ち上げ花火のように終わってしまってはあまり教育的効果がありません。この研修ではイベント終了後、2カ月くらいかけて内定者たちにイベントマニュアル兼報告書を作成してもらいました。イベントの目的、数値目標の設定、課題と対策、具体的なアクションプラン、当日の業務マニュアル、会計データ、反省点など、まとめる項目は多岐にわたります。月に1回、当社のコンサルタントが訪問する際に専務同席のもとレビューをして修正してもらい、年末に前半戦の研修の締めとして役員の前でプレゼンをしてもらいました。一般的なビジネスパーソンがひとつのプロジェクトを通して行うようなことを、マニュアル作りを含めて一通り体験してもらったのです。
とくにこの会社の場合は新卒社員にマニュアル作りというスキル自体を習得してもらうことも大きな狙いでした。というのも、大半の老舗企業ではあらゆる業務が口頭レベルで回っており、明文化されたマニュアルが存在しません。よって育成スピードが遅くなるという課題があったのです。その点、内定者にマニュアル作りを教えておけば、入社後に先輩から教わったことを定文化して社内にストックしていくことができ、今後続く新卒採用組がスムーズに業務に入ることが可能になります。1月から3月にかけて行われた後半戦の研修は、ギアを一気に上げて遊び的な要素は入れていません。最初に行うことは「入社1年後の自分のあるべき姿」をイメージしてもらうことです。それをもとに定量的な目標と定性的な目標を設定してもらい、目標を実現するための課題と解決策をすべて言語化。最終的なアウトプットとして具体的な計画に落とし込み、入社式のあとに各自プレゼンをしてもらいました。社員の目標設定は4月の入社後に行う企業が多いですが、入社することがわかっているなら前倒しをしない理由はありません。もちろん業務を経験していないので、数値目標を立てたり、課題を洗い出したり、解決策を探したりするといっても自分ひとりではできません。そこでこの研修では、内定者たちに先輩社員にヒアリングをするよう誘導しました。ヒアリングをしなさいと命令しては自発性が育たないので、あくまでも本人たちに気づいてもらうようにしたのです。たとえば計画の中に的外れなことや抽象的なことが書いてあったら、「これってどこから得た情報?」「この数字の根拠は何?」と尋ねるのです。「想像で書きました」と答えたら、「想像で計画立てていいのかな?精度を上げる方法ってないかな?」とさらに質問して、最終的に「じゃあ、先輩に聞いてもいいですか?」と言い出すのを待つのです。ある営業職の内定者は、実際に第一線で活躍している先輩社員のところに出向いて、「1社当たりの平均的な売り上げはいくらか?」「新規を開拓する際にどういうプロセスを経るのか?」「アポイントが取れる率はどれくらいか?」「クロージングで気をつけていることは何か?」といった具体的な質問を投げかけていました。このような研修を毎年続けていれば、新入社員の質が年々上がっていくことは容易に想像できるでしょう。採用ファースト経営は単に頭数を増やして売り上げを伸ばす戦略ではありません。伸びしろのある学生を大量に採用し、早い段階から自社が理想とする質の高い人財に育て上げていくことで、中長期的に従業員の質を底上げしていく狙いがあるのです。新入社員研修で教えるべきこと当社が業種・業界を問わず支援先でいつも行っていることは、「マナールールブック」
と呼ばれる、大掛かりな冊子(パワーポイント資料)を作成し、入社後の新入社員研修や導入研修で使ってもらうことです。コンテンツは以下の通りです。・社内のあらゆる業務を説明するマニュアル(冊子もしくは動画)・会社のミッション、ビジョン、バリュー、行動規範と、その根拠・社内に存在するさまざまなルール(朝礼や日報など)の詳細と、その根拠・社会人として最低限押さえておくべきマナーとくに重要なのが業務マニュアルです。業務マニュアルや社内ルールは、右も左もわからない新入社員がスムーズに業務に入っていく際に、無駄なストレスを軽減する重要な役割を果たします。本来、仕事で労力を割くべきはマニュアルではカバーできない思考領域のはず。「覚えているかいないか」を問う業務フローや社内ルールは積極的に明文化を図り、「わからなかったら参照できる状態」にしておくことで、不必要なミスや手間を防ぐことができます。ちなみに「マナールールブック」は中途採用組の導入研修でもお勧めです。中小企業でよくあるのは、経験豊富な中途採用者が入ってくると、社内ルールを教えるのではなく、むしろ生え抜き社員が「前の会社ではどうやっていたんですか?」と質問をして序列が逆転してしまうことがよく起きます。これは会社にフィットしてもらうという観点から言うといいことではありません。中途社員の定着率は、ほぼ最初の3カ月の間に会社にフィットできるかどうかで決まってきます。これは支援先のどの職種・業界を見てもだいたい同じ。むしろ最初の3カ月を乗り越えれば何とかなるケースが多いため、業務フローや社内ルールに関しては逐次現場で覚えていくというスタイルではなく、体系立てた研修として実施することを推奨しています。ただし、中小企業の場合は新入社員研修を実施したくてもマンパワーや知見が足りず、自社で実施することができない企業が少なくありません。そのような悩みを抱える企業のために、当社も毎年4月に大掛かりな新入社員研修を実施しています。毎年支援先の新入社員が全国から1000人ほど集まり、業界ごとに異なる企業の新入社員が一緒に学ぶのです。この研修では業界固有の知識の習得と、ビジネスパーソンとして必要なマインドセットの植え付けに注力しています。具体的に言うと「稼ぎ癖」のある人財になってもらうことです。当社が実施している新入社員研修を踏襲したもので、当社では「給料の3倍粗利を稼がないと赤字社員である」ということは初日からしつこく教わります。給与の3倍、粗利を
稼がないと組織が回らないという話はどの業種・業界にも共通していえることです。ただ、実際には製造業や飲食業など、業界によっては自分がいくら稼いでいるのか見えづらい、もしくは社員にあまり意識させていないケースが多いのです。仮に営業職ではなくても、店舗や工場ごとの粗利を頭数で割ればパーヘッドは算出できますから、そうした数字を常に意識してもらえるようにレクチャーを行います。スキルアップ・トレーニングに時間をかける導入研修を一通り実施したあとも、社員教育は継続的に実施していく必要があります。その際に当社が推奨しているのは、確実なスキルアップにつながる「トレーニング」です。野球に例えるなら「研修」はモチベーションの上げ方を学び、最先端の戦術の勉強をするようなもの。一方の「トレーニング」とはコーチがつきっきりで打撃練習をすることです。いずれも重要なことではありますが、いかに早く結果を出せる人財に育てるかという観点に立てば、優先すべきは「トレーニング」であることは自明です。スキルにフォーカスした教育の理想形は、自動車免許の教習所です。入所してくる人の質は千差万別。でも、教習所の設計したカリキュラムをひとつひとつこなしていたら、ほとんどの人が約2カ月で自動車を運転できるようになります。第1段階で車や交通ルールの基礎知識を学びつつ車に慣れていき、第2段階は運転の基礎技術を身につけるべくS字などを走り、第3段階では応用として、坂道発進や縦列駐車といった少し高度なスキルを学ぶ。このようにそれぞれのフェーズに明確な到達目標があり、それを達成するために勉強をしたり、トレーニングをしたりするのが「成果直結型」の教育です。「社員を一人前に育て上げる教育とはなんだろうか?」と迷ったら、ぜひ教習所のことを思い出してみてください。徹底的に社員のスキルアップにフォーカスして、仕事の成果に直結する指導を行えば、社員は自分の成長をありありと実感でき、仕事が楽しくなってきます。わざわざ外部のコーチからモチベーションアップの方法を学ばなくても、若手でも成果が出せる仕組みを会社が用意すれば、勝手にモチベーションは上がるのです。職務に必要な知識を教材という形でまとめておく利点は、社員が必要に応じて繰り返し勉強できることです。そもそもスキルアップは反復練習で身につくものですから、月に1回の座学の研修だけで教え切れる保証はありません。当社も自社のコンサルタント向けの動画教材を増やしている最中です。コンサルタントとして求められる知識を階層別に項目化し、それぞれのテーマについてテキストベースの
教材を作成。さらに教材に基づいて当社役員がレクチャーを行う動画を作成し、社員はいつでもそれを閲覧できる状態にしています。たとえばチームリーダー向けには「中期経営計画の作り方」というテーマで、役員が20~30分で講義を行うのです。自社で教材を作るのは荷が重いと感じる経営者の方も多いでしょう。実際問題、分厚い紙のマニュアルを座学で教えるような研修を増やすことは現実的ではありません。しかし、いまの時代、教材の作成を支援するサービスは増えています。スマホで閲覧しやすい写真入りのマニュアルを簡単に作成できるサービスも出てきていますし、動画コンテンツの作成も簡単にできるようになってきています。動画ですとモデルケースと悪いケースを明確に伝えやすいため、営業職や接客業に人気です。また、テキストは苦手でも動画コンテンツなら自主的に見る新人が多い印象を受けます。スキルマップを用いた職種別内定者研修スキルアップに専念させたいなら、業務に必要なスキルをすべて書き出したスキルマップを活用していくと効果的です。一例を挙げます。第3章で紹介した株式会社ハヤシでは整備士が身につけるべきスキルを事細かにリスト化しており、さらに、それぞれのスキルの難易度を星1つから3つのレベルに分類しています。スキルマップと星の重みづけに関しては自動車業界を熟知した当社のコンサルタントが作成支援を行い、現場での難易度のヒアリングなどを経て、最後に支援先企業が微調整をかける流れを取っています。
このスキルマップや星取表は「整備士としての成長度合い」を測る基準として使われており、習得したスキルからひとつひとつ潰していきます。どのレベルまでいけば「一人前」かも明記されており、スキルマップ自体が評価項目になっているのです。同社ではこのスキルマップを内定者研修にもうまく使っています。整備士として入社予定の内定者には早々にそのスキルマップが配布され、週に数回、「内定者アルバイト」という名目で整備工場に来てもらいながら「何月までにこのカテゴリーの星1つのスキルは習得をしましょう」といった形でスキルアップを目指してもらうのです。あくまでも立場はアルバイトですから強制力はありません。ただ、実際には熱心な学生は週に3、4回工場にやってきますし、またたく間に星取表を埋めていくような内定者もいます。すると内定者の成長具合にばらつきが目立つようになってきますが、むしろそのほうがいいのです。星取表は内定者全員のデータが閲覧できる形に作られているため、ひとりでもペースの早い学生がいると同期も焦りだし、普段やっているアルバイトを完全に辞めたり、回数を減らしたりして、内定者アルバイトを優先するようになる、ということがよく起きます。「わざわざスキルマップや星取表を作らなくても、市販の教材で事足りるのではないか?」というご質問もよく頂戴します。整備士のような資格を有する職種の場合、書店に行けば教材がいくらでも売っているのは確かです。しかし、内定者に本を1冊渡して「入社までに勉強しておいてね」と言っても、真剣に読んでくる学生はあまり多くありません。なぜなら自分が社会人として働き出すことにリアリティがなく、差し迫った必要性を感じないからです。その点、習得すべきスキルが明確に打ち出されていて、しかもそれが入社後の人事評価に直結していることがわかっているのであれば、いくら入社前とはいえほとんどの内定者は真剣に取り組んでくれます。マニュアルにせよ、スキルマップにせよ、こうした教材を設計する大前提として必要なのは業務に必要なスキルの棚卸と的確な選別です。つまり、成果を挙げるための最短ルート。それが社内で言語化できていなければ教材が作れません。たとえば、速く走るためのマニュアルを作るとしたら、まずは速く走るためのポイントを押さえておかないといけません。仮にそのポイントが「いいスタートダッシュを切る」「前傾姿勢で走る」「手を早く振る」という3つだと仮説を立てたら、それぞれの課題をクリアするための練習方法やナレッジを教材に盛り込まないといけないわけです。しかし、実際のところ中小企業でそこまで言語化できている企業はほとんどありません。「成果の出し方も成長の仕方も人それぞれ……」というもっともらしい言葉で濁してしまうのです。
「やることなすこと手引書としてまとめていたら、社員が自発的にPDCAを回したり、個性を発揮したりする機会を奪ってしまうのではないか?」という反論を頂戴することもあります。たしかにいま時代が求めているのは自分で課題を見つけてアクションが起こせる人財ですから、そのような意見が出るのも納得できます。ただ、これらのマニュアルに記載する内容はあくまでも仕事の基本です。守破離という言葉があるように、どんな達人も最初は型を学ぶことから入ります。型を何も教えず「付加価値の高い人財に育ってくれ」というのは少し無責任な話です。型を学んで成果が出せる人財になってから、次のステージに上がってもらうことを期待するのが正しい順番だと考えています。モデリングを目的としたフォローアップ研修当社が主催する新入社員向け研修は4月だけでは終わりません。たとえば自動車業界では1月から繁忙期を迎えるため、春の研修に参加した新入社員を例年11月に再度、船井総合研究所に集めるか、もしくは当社のコンサルタントが支援先に出向く形でフォローアップ研修を行っています。フォローアップ研修のメインコンテンツは、支援先企業の中から入社3年目くらいのエース級社員にご協力いただいて、ゲスト講師として登壇してもらうことです。そして当社のコンサルタントとパネルディスカッションを行い、その後、参加者からの質疑を受け付ける形を取っています。自分にとって理想的な働き方をしている人のことを知ることで、自分とのギャップに気づき、それをきっかけに成長速度を高めることを「モデリング」と言います。人財育成において非常に重要な概念です。とくに11月くらいになると、新入社員もある程度業務に慣れてきます。それと同時に、自分の弱みというものもおぼろげながら見えてくるものです。そのタイミングで、あえて3年目という絶妙な距離にいるロールモデルに出合ってもらうのです。大企業は社内にモデリングの対象となるスター社員は山ほどいますから、わざわざこのような研修をする必要はないかもしれません。しかし、100人ぐらいの中小企業だと、程よい年次に都合よくスター社員がいることは稀です。そこで当社の支援先企業やフォーラムの会員企業のネットワークをフルに駆使して、ずば抜けた人財を探して講師のお願いをしているのです。若手社員を対象にした研修にもかかわらず、研修の視察に来られた支援先の経営者が「他社さんにはこんな優秀な社員もいるんだね」と感心されることも珍しくありません。「いかに井の中の蛙にさせないか」ということは、中小企業の人財育成における重要なキーワードです。ちなみに当社では同様のモデリングを使った研修を、入社数年後の先輩社員、チームリ
ーダー、店長などの階層に応じても実施しています。いずれの場合もゲスト講師として協力していただくのは、研修対象者が「数年後に自分がいたいポジション」で圧倒的な成果を出されているスター社員の方々です。オンデマンド型育成プログラム支援先の育成体制を強化していく際に当社が注力しているのが、デジタルプラットフォームを用いた学習環境です。テキスト、動画、ホワイトボード、進捗管理システムなどがすべてひとつのプラットフォーム上に実装されたもので、教わる側、教える側双方の効率を飛躍的に上げることができます。まずは歯科の例です。医療機関の生産性や業績といったことは一般の人にはイメージが湧きづらいかもしれませんが、普通の企業とまったく同じです。業績を伸ばしている歯科はドクター、歯科衛生士、事務、アルバイトスタッフなどの役割分担がしっかりとできていて、それぞれの業務に必要なスキルが言語化されており、人員を補充してもすぐに一人前として活躍できる仕組みが用意されています。その育成の仕組みとして同社に導入していただいているのが、当社が開発したオンデマンドの教材です。たとえば、初診のカウンセリングはどういう流れで行い、どういう質問をすればいいかといったことが、すべて動画の教材になっています。もしわからないことがあったら、新入社員と上司と当社のコンサルタントがビデオ会議でつながって三者面談を行うことができます。また、最近では前述したeラーニング環境に「リモート支援」という機能をプラスした「営業スイッチ」と呼ばれるオンライントレーニングを実施しています。先ほど歯科の場合は、オンライン上に学習環境(教材)一式を用意することにフォーカスしたものですが、営業スイッチは教材を提供したうえで、さらに「ちゃんとできているか?」ということを遠隔にいるコーチ(当社コンサルタント)がマンツーマンでチェックし、指導を行う仕組みです。その設計の際に参考にさせていただいたのはあのCMで有名な減量ジムです。当社で法人契約を結び、トレーナーに10回来社していただいて、主要コンサルタントにダイエットに挑戦してもらいました。トレーニングを実際に受けてみて当社のコンサルタントが最も感心したのは、体系立ったメソッドもさることながら、遠隔のトレーナーと密にコミュニケーションを図ることができるデジタルプラットフォームでした。直接対面するときだけ叱咤激励やアドバイスをするというのが常識的な「トレーナー」の役割ですが、そのダイエットプログラムではかなりの頻度で「ちゃんと行っていますか?」と発破をかけてくるのです。当社のコンサルタントも毎月支援先の企業を回りなが
ら「先週出した課題はクリアできましたか?」といった形で経営者の背中を押すコンサルティングを得意としています。しかし、実際にプログラムを体感してみて人を全力で走らせ続けるためには定期的に刺激を与えるだけではなく、密なフォローアップがいかに重要かを理解したのです。自習用の教材一式はオンライン上に用意されており、来店率や着座率、クロージング率を上げるために必要な知識や解決策がすべて言語化されています。KPI管理もそこで行いますので、社員の課題に応じてロール・プレイングも行います。当社の営業コンサルタントが細部にわたるまでフィードバックをしていきます。ゴルフのスイング理論を頭に入れたりプロのスイングを何度見たりしてもすぐにはスコアアップにはつながらないのと同じで、営業スキルやプレゼンスキルなど、実際にやってみてコーチがフィードバックをしたほうが上達が圧倒的に早いスキルに関しては、このリモート支援が大きな効果を発揮します。これはもはや「月1回の営業研修」という次元の話ではありません。個々の社員に対して、成果に直結する実用的なノウハウの提供とフォローを徹底的に行う。これが、当社が理想とする「成果直結型の人財育成」のスタイルです。チャット、ビデオ会議、eラーニング、動画といったように、ITを組み合わせながら社員の成長を支援する。単発で学ぶのではなく常時接続型で学ぶ。こうした育成スタイルが今後の人財育成の標準になっていくことは間違いありません。社員の学習意欲や向上心がどうこうという話だけはなく、コンテンツだけでもない、徹底的な効率化とシステム化を意識しながら育成の仕組みをつくっていくことが求められているのです。採用プロセスにしても、育成の仕組みにしても、そしてもちろん新入社員に与える業務にしても、マンパワーが限られる中小企業が効率よくこれらをこなしていくためには、ITの力が欠かせません。一方で、中小企業経営者で「デジタル音痴」という方は珍しくありません。たとえば採用過程で遠隔の学生と会いたいとなったときに、「iPhoneに標準でインストールされているFaceTimeを使えばいいのではないですか」と当社のコンサルタントが提案して実際に使ってみたところ、あまりの便利さに驚くような方もいます。デジタルネイティブの方からすると当たり前のコンテンツを「経営者が知らない」ために使われていないというケースは少なくないのが実態です。当社のコンサルティング・スタイルも、ここ数年でオンラインのビデオ会議を行う場面が増えています。全国にクライアントを持っているため、移動時間も交通費も宿泊費もかからず、クライアントの負担も減ります。結果的に社員の生産性は飛躍的に上がっています。当社のひとつの重要な役割として中小企業のICTコンサルティング・デジタル化支援という側面もありますので、活きた事例として経営者を刺激したいという意図もあります。「デジタルとかITとか言われてもよくわからないから、そのあたりは若い人に任せる」
という経営者ならまだいいのです。採用ファースト経営に切り替えて若い人財が増えれば、自ずと突き上げが起きるはずだからです。厄介なのが「俺にはよくわからないから、やらない」という経営者です。これでは企業の生産性は一向に上がりません。
4.定着率を改善する取り組み経営者が離職率を把握する当社では、全国の中小企業経営者を対象に人財ファースト経営フォーラムを実施しています。初参加の経営者の方には初回に40項目からなる「組織開発クラウド」という診断サービスに答えていただくのですが、その質問項目とは別に、企業の基本情報として「定着率(=100%離職率)」を記入していただく欄があります。しかし、いざ蓋を開けてみると「不明」「わからない」という回答がほとんどです。つまり、自社で定着率も離職率も算出していない、もしくは経営者が把握していないのです。ひとりでも社員が辞めたら大ごとになる零細企業ならまだしも、従業員数300人くらいの規模でも数値を把握されていない企業がほとんどです。それはつまり、大半の中小企業経営者にとって定着率や離職率が経営上の重要な指標として見なされていない証しでもあります。当社では全社的な数値だけではなく、年次別、職種別の離職率・定着率も管理し、数値目標を立てながら対策を打つということを実践しているため、前述した診断のフォーマットを作る際に「定着率くらいは把握しているだろう」と甘く考え、定着率を基本情報の欄に入れてしまいました。定着率を改善させる最初の一歩は、定着率を管理すること。これが答えです。どのような対策を講じるにしても定着率を定量的に把握していかなければ目標も立てられず、PDCAサイクルを回すことはできません。定着率・離職率の算出はエクセルを2分いじればできてしまう簡単なことです。それを人事部が常に管理し、経営者も重要なKPIとして意識を向けていくことが、なによりも重要なのです。とはいえ、「定着率100%、離職率0%を目指そう!」と言いたいわけではありません。離職者が少ない企業は世間的にはホワイト企業と認定される風潮がありますが、どのような組織でも文化にフィットできない人はゼロではありません。ましてや中小企業が採用ファースト経営に舵を切って成長フェーズに移行していくと、従来のやり方に慣れ親しんだ社員が反発をすることもよくあります。大量離脱はもちろん避けたいですが、適切な「血」の入れ替えが時に必要であることは否定しません。会社のギアチェンジを行う際に、方向感にズレてくる社員を無理に残そうとすることはお互いにとって不幸です、よって支援先の経営者にも定着率100%を目指しましょうとは言いま
せん。目安としたいのは業界平均です。業種ごとに管理されるなら業種平均。まずはそれを調べて、自社が平均よりいいのか悪いのかを把握し、現実的な数値目標を立て、それを達成するための施策に知恵を絞っていくというのが、定着率アップの大きな流れです。ちなみに離職率のデータをネットで検索すると、厚生労働省の「雇用動向調査結果の概況」がヒットしますが、当社では中小企業における業界別の離職率はこの数値と相当乖離があると考えています。
早期離脱の防止に専念する採用ファースト経営の理想は、若手主体の組織に少しずつ変革していき、企業の中長期的な成長に直結させていくことですから、定着率アップの施策を検討する際は既存社員の大量離脱に目を光らせつつも、やはり若手社員の早期離脱を防ぐことを優先しましょう。「地元の国立大学からはじめて学生が採れたが、3カ月で辞めてしまった」「早期育成には成功したが、3年で競合大手に引き抜かれてしまった」という事態が常態化してしまっては、組織の加速度的成長は実現しません。若手社員の早期離脱を防ぐ方法は、とにかく先手、先手で動くことです。社員の不満が顕在化した時点で、本人の気持ちは固まっていることが多いからです。社員の小さな不満を火種の段階で察知する仕組みは必ず用意しましょう。よって、若手社員に限っては上長とのマメな面談は不可欠です。ただし、自社のマネジャークラスが年配者ばかりで若手社員との距離が遠いと感じる場合は、採用ファースト経営(自社改革)に理解を示す先輩社員をメンターとしてアサインしたほうが得策です。その際は、採用プロセスの章で紹介したAIによる性格マッチング診断サービスなどを使うと効果てきめんです。実際、流行りのメンター制度を導入したものの、メンターとの相性が悪くて若手が辞めてしまったという例は珍しくありません。若手社員とのコミュニケーション密度を増していくことと同時に重要なのが、組織としての柔軟性です。離職をする社員は「上司とウマが合わない」「いまの仕事が自分に合っていない」「いまの職場では自分の夢が叶えられない」といった不満をすぐに解決できる場所が見当たらないから他の会社に「逃げよう」とするのです。転職に際して「攻めの転職」「逃げの転職」という言葉がありますが、いずれのケースでも「不満を解消するための転職」であることには変わりません。よって、早期離脱を防ぐためには、社内のさまざまな制度をできるだけ柔軟に考えて、「逃げ場」をできるだけ用意してあげることが重要です。たとえば、半期に1回、配置転換の希望を叶えるとか、親の介護が必要な社員は時短を認めるなどです。もちろん、どこまで柔軟にするかというバランスもありますが、少なくとも社内制度が官僚組織のようにガチガチに硬直化している組織は、若い人から見てあまり魅力的ではないでしょう。中小企業であれば制度変更は経営者のトップダウンでできるわけですから、最後は経営者の心持ち次第なのです。自社アカデミー
「せっかく優秀な学生を採るならできるだけ早く成長してもらって、20代のうちに自社の中核人財として活躍してほしい」ということは、どの経営者でも考えます。業務手順を緻密に分解してマニュアル化し、ひたすらスキルアップのトレーニングを積ませることで成果は出ます。ただし、そこから先、社員がどれだけ成長していくかは話が別です。社員の成長速度を上げたいなら、成長を促すマインドセットや目標達成のフレームワーク自体を「成長スキル」として習得してもらわなければいけません。一般的なビジネスパーソンの場合は、先輩の仕事の仕方を学んだり、ビジネス書やセミナーを通して成長スキルを少しずつ身につけていくわけですが、本気で社員の早期育成をしたいなら、企業が責任を持って早い段階で成長スキルを教えていくことが必要です。そこで当社では、導入研修やスキルアップ・トレーニング以外に、入社1年目の社員に対して「成長スキル」を学ぶための教育プログラムを、月に1回ペースで1年を通して実施してもらうことを推奨しています。
とはいえ、年間を通したプログラムを自社で体系立てることはなかなか難しいため(教材が作れない、指導できる人財がいないなど)、当社では「フレッシャーズアカデミー」という名称でカリキュラムを体系立てており、教材込みで支援先に導入していただいています。まずは全体像のイメージを掴んでいただくために、全9回で新入社員が学んでいくカリキュラムをすべて記載しました。アカデミーの目的は、業務以外の「自力」を養うビジネススキルの習得とマインドの醸成にフォーカスされています。長く活躍する人財、稼げる人財の基礎づくりに直結する内容で、ひいては将来の幹部候補生の見極めや育成につながります。また実際の研修はディスカッションと発表が主体になるため、発信力の鍛錬にもなります。フレッシャーズアカデミーの大きな特徴は、経営者が直々に新入社員の指導に当たる点です(当社のコンサルタントがサポートするサービスもあります)。経営者が定期的に講話を行うことで新卒社員との距離感を埋めることができ、経営者の価値観をダイレクトに伝えることができます。当然これは若手社員の早期離脱防止にも役立ちます。また、経営者自ら年間を通して新人を育てる中小企業はほとんどないため、「社員の採用と育成に本気である」ということを社内外に浸透させる大きなメリットもあります(実際、学生に対して採用時のアピール材料にもなります)。教本は200ページを超えるものなので、すべてを説明するには紙面が足りませんが、一例を挙げましょう。たとえば初回の授業では、新入社員1人当たりの採用コストや自分がいま受けているアカデミーの費用を尋ねます。その費用を開示したうえで「なぜ会社はここまで経費をかけて新入社員を育成するのか?」と考えてもらうのです。コスト意識や投資の概念を理解してもらうだけではなく、自分たちに課せられた期待を実際の数値として体感することで、モチベーションアップにもつながります。8回目の研修では、「目標を達成できる人になる」という課題を入れています。目標を紙に書き出し、定量化をし、そこから逆算して大目標、中目標、小目標を立て課題と解決策を考えていくという、PDCAサイクルのP(計画)の練習です。成果物としては3年後の自分に向けた手紙を書いてもらっています。それぞれのテーマは単独で見ると、真新しいことはありません。外部の単発のセミナーでもカバーできるものが多いです。そのため経営者の中には「研修合宿のような形で短期間で終わらすことはできないか?」という相談を受けることもあります。わざわざ年間カリキュラムにしているのは訳があります。入社1年目の社員が直面しやすい悩みや不安を、タイムリーに解消できるコンテンツになっているからです。
たとえば、8回目の研修が行われるのはだいたい1月です。「あと数カ月したら次の代の新入社員が入ってくる」と社内で少しずつ話題になる時期でもあります。そのとき「自分はちゃんと理想の先輩になれているのだろうか?」と、必要以上に不安になる1年目の社員は少なくありません。そこで改めて目標を整理させて、気持ちをリフレッシュさせていくのです。もしくは、新入社員が上司から理不尽なことを言われ出すのは、だいたい6月です(それまでは客人扱い)。それをきっかけに離職する人も多いため、アカデミーではこのタイミングで「自責と他責」という考え方を教え、「他人のせいにせず、自分で課題を解決できる人財になっていこう」という話をします。また、月1回の頻度で同期が揃う機会を設けることで、同期同士が絆を深め、互いを励まし合う関係を自然と構築することができます。成長スキルの会得(戦力化)だけではなく、足腰の強い社会人に育ってもらうためのメンタル面のケア(定着)という意味でも、通年型の教育プログラムは非常に効果的な手段なのです。船井総合研究所の新人育成船井総合研究所でも、随時チューニングをかけながらではありますが、さまざまな育成コンテンツを導入しています。ツールとしては、・動画による教材の提供・昇進に必要なスキルが一覧になっているスキルマップ・育成計画書・育成カルテ(配置替えの際の引き継ぎ用)・日報制度としては、・自社アカデミー(船井コンサルティングアカデミー)・ジョブローテーション制度・定期的な1on1面談・育成責任者制度(上長が責任者となり育成計画書を作成・管理する)・成功事例会議(支援先でうまくいった成功事例のナレッジシェア)・R&D・テーマ別勉強会
などがあります。少なくともコンサルティング業界で、ここまで育成制度が充実している企業はないと自負しています。具体的にどのような手段をどの順番でどのレベルまで講じるのかは、ケースバイケースであってもいいのです。ここでのポイントは、一過性の研修をたまに受けさせるくらいでは早期育成、即戦力化はできない、ということです。あくまでも自社と社員の業績アップに連動する形で、あらゆる手段を講じながら体系的に育成制度を設計していくことが重要です。もちろんそれは手間がかかりますから、採用専任者とは別に教育の専任者を置いていただきたいのです。
不人気業種×ローカルエリアからの脱却!「採用ファースト経営」で多角化を加速させる人財戦略インタビュアー:藤木晋丈(HRD支援部上席コンサルタント)佐賀県の自動車販売ディーラー、ホンダカーズ佐賀様。地方の中小企業、しかも学生の不人気業種というハンデを背負いながらも、事業承継を見据えて採用ファースト経営を導入し、急成長している当社の支援先企業です。10年で売り上げは2倍、従業員数は2・5倍。その秘訣を探るべく、岡野晃士社長にインタビューさせていただきました。(本インタビューは2019年7月に当社で開催された「人財ファースト経営フォーラム」のパネルディスカッションを再編集したものです)想いだけで決めた目標「年商100億円」が学生に響いた!──岡野社長は2代目でいらっしゃいますね?岡野はい。僕は次男なので当初、会社を継ぐことは考えておらず、地元の銀行で働いていました。ところが25歳のときに兄が後を継がないことになって父の会社に入社しました。ちょうどそのときに経理担当だった女性が産休に入ることになり、「お前、数字得意だろうから手伝え」と言われて総務・経理を担当することになりました。そのまま営業現場を経験せずに、29歳で専務に。37歳になった2018年から社長を務めています。──お父様の会社に入社後、採用ファースト経営の導入を決断され、新卒採用と多角化への切り替えを主導されました。岡野そうですね。それも結局、僕が現場を経験していないため、自動車販売会社の社長にもかかわらず車のことがよくわからない。そうかといって「プロ経営者」を名乗る実績もない。だったら自分で事業を仕掛けていくしかないと思って、フィットネスクラブのカーブスのフランチャイズ店4店舗をオープンしたり、企業主導型保育所を開設したり、建築会社を買収したりと、多角化を進めてきました。──ディーラーならではの制約もありましたよね。
岡野はい。ディーラーとして店舗を増やしていけるのであれば、おそらくその路線を取っていたと思います。しかし、自動車事業の拡張計画は自社だけでは計画しづらい状況でしたので、会社を成長させたいなら多角化を推進していくしかなかったという状況もありました。──単一業態で伸び悩んでいる経営者は多いでしょうからね。岡野ええ。そこで「本業とシナジーが高そうな事業はなんだろう」と悩む方もいらっしゃるかもしれませんが、「人に喜んでもらえることだったら何だっていいじゃん」と割り切ってしまうと楽でした(笑)。──御社では中期ビジョンとして「年商100億円」を目標とされてきて、2018年に見事達成されました。これはどのタイミングで意識された目標ですか?岡野約10年前、年商50億円くらいのときですね。当初は具体的な数値目標は意識しておらず、社内でも掲げていませんでした。ただ、会社説明会のスライドを作っているときに「学生は中期ビジョンに反応しますよ」とアドバイスをいただいて、「じゃあうちの中期ビジョンって何かな?倍の100億円かな」という根拠はなく想いだけで決めて、ナビサイトの会社説明欄にも書いてみたら、想像以上の反応の良さで驚いた、というのが実態です。──既存社員より学生が先に御社の中期ビジョンを知ったかもしれないわけですね(笑)。岡野まさしく、その通りです(笑)。──当社にご相談をいただいた2007年ごろから比べると、社員数は58人から251人まで増えました。新卒社員比率も5割まで上昇。新卒大量採用の本気スイッチが入ったきっかけはありますか?岡野私が会社に入った翌年に、メーカーの子会社(店舗)を4店舗、M&Aしたんですね。ただし、M&A先で働く55人の社員の方たちのほとんどは2年以内にメーカーに戻る条件付き。つまり2年以内に55人に相当する社員を揃えないといけないわけですから、「とにかく誰でもいいから集めろ!」といった感じで中途をかき集めました。その結果、素行不良の社員が混じったり、定着率が悪かったりといろいろ問題が起こりまして、それではいけないということで、2010年あたりから完全に新卒メインに切り替えました。
僕が若かったので自分より年下のほうがマネジメントしやすいという動機も強かったですけどね。──新卒を増やすことで、どういうメリットがありましたか?岡野経営者として一番うれしい変化でいえば、「店長になりたい」という向上心のある社員が増えたことです。昔だと「店長になりたくない」という新卒ばかりだったので。──いまでは中途採用を続けているのは整備士の方くらいですよね?岡野はい。あとは多角化に必要な幹部候補のプロフェッショナル採用くらいですかね。知り合いの銀行員に「いい会社があったら買収するから社長やってよ」と言っていたのがきっかけで、その後本当に自社で働いてくれることになりました(笑)。定期採用はあくまでも新卒がメインで、最近は入社する学生の質もかなり上がっています。とはいえ、いきなりうまくいったわけではなくて、船井総合研究所さんと10年近く地道に改革を続けてきた賜物です。──「採用商圏の拡大」「多角化」「社風・働き方改革」「採用体制の整備」、さらに「インターンシップの企画」「リクルートページの新設」「OfferBoxの活用」など、ありとあらゆることを一緒にやらせていただきましたね。岡野そうですね。むしろそれまでは「新卒を採用する」と口で言うだけで、やるべきことを何もしてこなかったんだということを痛感させられました。「一緒に事業を立ち上げよう」と幹部候補生にアプローチ──では、どのようにして学生の人気企業になったのか、その秘訣を探っていこうと思いますが、おそらく一番効果があったのが「採用商圏の拡大」かと思います。御社は採用拠点を福岡に移されましたよね?岡野はい。最近は学生を集められるようになってきたので、少しずつ地元回帰もしていますが、基本的に説明会はすべて福岡で開き、県外の学生を積極的に採用してきました。そもそも佐賀県人は地元で就職しない傾向が非常に強く、ほとんどの人が福岡で就職します。就職活動も多くの学生が福岡を活動の拠点としています。なので、佐賀の学生を福岡に採用しに行ったというのが始まりで、採用活動の中心を福岡に置くようになりました。
拠点を福岡に移すことで新たな気付きは意外にも、福岡や長崎では佐賀で働くことに抵抗が少ない学生もいるということです。だったら県外で人を集めたほうが効率的だということで、いまも採用の拠点は佐賀ではなく福岡に置いています。──さらに岡野社長は、先ほどの銀行員さんの話のように、ピンポイントの狩猟型新卒採用にも取り組まれていますよね?岡野そうですね。3年くらい前までは、本当にいい学生がいれば山口県あたりまで直接会いに行くというようなことはよくしていました。最近は社員に採用を任せていますけど、「いい人財がいるならどこに行ってもいいよ」と伝えています。社員から「最後の一押しお願いします!」と言われたら、私が出向いてお酒を飲みながら口説き落とすと。──御社では業種・職種によって抜本的に採用戦略を変える、ターゲット別採用戦略を徹底されています。岡野単純な話で、女性事務員と整備士と幹部候補では、訴求ポイントも採用チャネルも変わって当然です。たとえば事務員ならあまり高い給与は出せないので、実家の住所が近くの人をOfferBoxで探して直接オファーを出す。整備士なら整備士で、採用に向けた年間スケジュールを組んで高専や専門学校に出向く。幹部候補なら車でアピールしても来ないので、経営に関するワークセミナー型インターンシップを企画してOfferBoxで招待する、といったやり方ですね。──いま整備専門学校の生徒数は激減していて、20人、30人の生徒に200社、300社の求人が来る状態です。そんな中、御社には整備士さんが集まってくる。岡野毎年30人、40人が見学に来て、そのうち10人くらいが応募してくれます。──その秘策は?岡野生徒は何を基準に選ぶかというと、やはり先輩や先生の口コミがかなり強いんです。だからまずは学校の先生と仲良くなることが大事で、僕もよく学校訪問をしていました。ただ、一時期仕事が忙しくなって時間が割けなくなり、採用もうまくいかなくなった時期があったんです。そのとき試しに愛嬌と笑顔が素敵な女性社員を学校に送り込んだら、採用がめちゃくちゃ増えました(笑)。──紐付き奨学金制度も用意されていますね。
岡野高校生対象ですね。整備士専門学校に行きたいという学生に毎月10万円を渡して、卒業後当社に入社して、3年勤めてくれたら半額は返済不要になるという制度を導入しています。──幹部候補採用についてお聞きします。優秀な学生を採用していこうと意思決定をされた理由を教えてください。岡野やはり多角化ですね。採用のメインのターゲットはあくまでも「営業ができます」「整備ができます」という学生になるわけですが、そういう社員がどれだけ成長して出世したとしても、ほかの事業部に移り、なおかつ経営に興味関心を持ち、そのスキルを習得するところまでいくのは相当時間がかかりますよね。だったら最初から事業の立ち上げや経営に興味がある学生を別途採用して、早くから経験を積んでもらったほうが早いと判断しました。たとえばカーブスを立ち上げたときも、ビジネスや経営に興味のある若い社員を「一緒に立ち上げようよ」と抜擢して、実経験を積ませながら多角化を進めてきました。──経営志向の強い学生はどのように採用されていますか?岡野優秀層はOfferBoxですね。目ぼしい学生に声をかけ、個別面談とインターンにつなげ、あとはひたすらリクルーターを含め接触頻度を増やす作戦です。まずもって、この層で車に興味のある学生はいません。だから肝心なのが企画です。短期インターンのプログラムを作るときに、新規事業立案インターンをしますとか、人事体験のワークをしますとか、車とはまったく関係のない企画を立てて学生の興味を引こうとしています。──そうやって接点をつくった優秀な学生に対し、ホンダカーズ佐賀はどのような会社だと説明されていますか?岡野ディーラーはディーラーなんですけれど、いろいろなことをやっていきたい会社であるということ。人に喜んでもらえれば何をやってもいいんだから、とにかく地域に密着しながら100年以上続く会社にしたいねと。あと、僕自身は長く社長を務めることにこだわりがないので、この会社で社長になりたい人がいたらぜひ来てほしい。新しいことをやりたい人がいたら一緒にやろう。そんな説明をしていますね。ただ、1回説明するだけでは効果は薄く、いまのような話を繰り返ししていくことで、やがて「僕もやりたいです」と言って来てくれるようになるんですね。船井総合研究所さんに教わった育成型採用です。
──実績値は?岡野優秀層に関してはOfferBoxで80人に声をかけて、20人が個別面談に進み、10人がインターンに参加し、2、3人が入社するという感じです。──内定承諾まで何回くらい会われますか。岡野うちは多いかもしれません。1人当たり10回以上は会います。インターン、選考プロセス、リクルーター面談以外に、実際にお店に来てもらって現場の人たちと会ってもらうようなこともします。「面倒見のいい先輩」の育成が早期離職を防ぐ──キャリアプランはどのような見せ方をされていますか?採用でも使うでしょうし、入社後の面談でも使うと思うのですが。岡野若い人はすぐに給与が上がるわけではないので迷いが出たりすると思うんですが、頑張った人は何年くらいでこういう役職に上がれて、そこにいくと給与はいくらで、ということをちゃんと開示する。中小企業でも年収1000万円を目指せるんだということをしっかり伝える。これが重要だと思いますね。生涯働けるイメージを持ってもらわないと、人は定着しませんから。──多角化経営ということで、他の業界にチャレンジしたいという社員さんがいたらどうされていますか?岡野もちろん応援します。実際には「いまの部署でいいです」という社員がほとんどなんですが、たまにいます。たとえば整備士で2018年に宅建を取った社員がいまして、「不動産をやりたい」というので、現在はディーラー店舗の片隅で不動産をやっているんですが、どうせやるならちゃんとやろうということで、その社員を大手不動産会社に出向させました。2020年に戻ってきたら店舗を構えて事業として強化していこうと考えています。──御社は内定者フォローもかなり丁寧にやられていますが、入社率アップに向けてどういった活動をされているかお話しいただけますか。
岡野ここ2、3年は内定承諾率100%ですが、これは数字のマジックです。当社では「絶対に入ります」という確約を得た段階でしか内定を出さないようにしているだけです。辞退を考慮して多めに出すということもしません。では、確約を得るために実際に何をしているかというと、とにかく対話です。最終選考を通ったあとも、学生と一番仲が良くなった社員にLINEなどでフォローしてもらったり、月に1回は来社してもらうか会いにいくかして、フォローをしています。──御社も、いまほどの人気企業になるまでは親御さん対策もかなりされていましたね。岡野はい。優秀な学生ほど親御さんから「なんで自動車?」「なんで佐賀?」と反対されて内定を辞退されることが結構ありまして、少しでも状況をよくしようと思って親御さん向けの冊子を作りました。内定を出すタイミングで学生に渡して、「親御さんに説明してください」とお願いする。それでも反対されたら、僕たちが直接会いにいって説得していました。それでだいぶ状況は改善しましたね。──冊子には社内で活躍されている新卒社員さんと、その親御さんのインタビューなども載っています。岡野実はこれ、内定者研修の一環として学生に作ってもらったものです。内定者をいくつかのグループに分けて、1グループで1記事を作ってもらいました。先輩社員の職場や実家を訪ねてもらってインタビューをしたものですから、取材を通して内定者本人たちも「この会社いいな」と強く感じる。これはかなりお勧めです。──親対策で最も重要なことは何だと思いますか?岡野「行き着くところは本人の気持ちである」という本質を忘れないことではないでしょうか。「絶対にホンダカーズ佐賀で働きたい」という気持ちが強ければ、親が反対しようが入社しますから、そこまでどうやって気持ちを上げられるかというほうが重要です。迷っているときは、親御さんの一言であっさり他の会社に行かれてしまうことが多いので、迷いを消すまで会い続ける。迷っていそうだったらすぐに会いに行く、飲みに行く。とにかくあらゆる手段を用いて対話をし、関係を深めていくと、「どうやれば親を説得できますかね」と逆に相談されるようになります。これが僕の必勝パターンです。──離職率についてですが、一時期は20%近くあったのが、2018年は3・8%です。岡野会社がしっかりフォローしていけば新卒社員は辞めないというのは真実です。た
だ、組織改革の初期は、優秀な学生を採用しても環境が整っておらず辞めてしまい、次のステージでは新しいやり方にフィットしない社員が辞めるということが起きて……。最近ようやく落ち着いたといった感じです。──早期離職を防ぐために取り組んできたことは?岡野「面倒見のいい先輩」の育成ですね。昔は僕が直接、新卒社員を飲みに連れていったり話を聞いたりしていたんですけれど、社員が100人を超えてくるあたりから限界を感じはじめたので、同じようなことができる先輩社員を育てることを意識しています。20代後半くらいの社員を集めて話の聞き方の研修をやったり、事あるごとに「下は育てるものだよ」と啓蒙したり、それこそ先輩社員を飲みに連れていって「こんな感じのことを下に対してもやってね」とお願いしたり。それを繰り返しやっていたら、できる子が1人、2人と増えてきたという感じになっています。──御社ではスキルアップ研修とは別に、階層別研修という形で社員を年次別で集めて年に数回、研修をされています。研修のポイントをお話しいただけますか。岡野新卒採用を増やした当初は、上の世代と下の世代の乖離が大きかったので、若手に対して「上を見てもしょうがない。自分たちがどうしたいかだよ」とか、どちらかというとモチベーションを上げる研修に重きを置いていました。いまはそれプラス、人をどう育てていくのかという一段上の研修も取り組むようになりました。毎年夏には合宿もしています。──最後に、今後の組織戦略についてお聞かせください。岡野すでに形としてはホールディングス化しているのですが、それをもっと明確に打ち出していこうと考えています。いくら採用のチャネルを分けても、ホンダカーズ佐賀という冠で多角化に向けた採用するのは少し無理がありますので。人財開発室もようやく立ち上げまして、それまでも優秀な女性採用担当者は配置できていたのですが、2019年の4月から若手で出世頭の20代男性役職者に人財開発に回ってもらって、より組織立った形で人事KPIを管理していく仕組みづくりをしている最中です。──ありがとうございました。
あとがき採用ファースト経営を導入して5年で売り上げを10倍にした企業があります。10年前と比べると年商は20倍。社員数は5人から120人になりました。ある日、その企業の経営者様が自社の決算書を眺めながら、当社のコンサルタントに「こんな奇跡が起きるんだね」とポツリと語ったことがあります。そのときコンサルタントはこう答えました。「奇跡ではないですよ。やるべきことを洗い出してすべて徹底的にやりきれば、狙い通りの結果はついてくるというだけの話です。大半の企業にとって『徹底的にやりきる』というところがネックなんですが、御社は一貫して社長が旗振りとして社内改革を主導してこられたのでスムーズにいったのです」と。当社が伝統的に得意とするのは、業績アップにコミットした成果直結型のコンサンルティングです。そのため本書でお伝えした内容も、すべてシンプルな原理原則に基づいたものばかりです。ただし、シンプルではあるものの、カバーすべき領域は多岐にわたり、それぞれの領域はかなりの高解像度で取り組まないといけないことはご理解いただけたかと思います。採用・育成・定着の3つのプロセスを細部にわたるまで徹底的にやりきる。これが採用ファースト経営の難しさでもあるのですが、これらをすべてやりきらないとこれからの時代、中小企業が成長戦略を描くことは正直難しいでしょう。成長できないということはジリ貧に追い込まれる可能性が高いということです。とはいえ、本書で紹介したソリューションのすべてをやりきっている中小企業はいまの時点ではほとんどありません。ほとんどないということは、いまから動き出してもまだ間に合うということです。当社が主催する人財ファースト経営フォーラムでは、この採用ファースト経営の「採用・育成・定着」を中心とした組織戦略についての勉強会があります。全国から向上心の高い中小企業経営者が定期的に集まり、成功事例を勉強したり、情報交換をしたり、時に熱い議論を交わしています。参加していただく経営者は、すでに業績を上げ続けている会社が多いのですが、共通するのは「より会社の成長のギアを上げたい。社員がもっと成長できるいい会社にしたい」という強い信念です。その熱量に負けないように、私たちコンサルタントも日夜、勉強を続けています。船井総合研究所のコーポレートスローガンは「明日のグレートカンパニーを創る」です。グレートカンパニーに必要な条件は次のように定義しています。
1.持続的成長企業であること2.熱狂的ファンを持つ、ロイヤリティの高い企業であること3.社員と、その家族が誇れる、社員満足の高い企業であること4.自社らしさを大切にしていると思われる、個性的な企業であること5.地域や社会からなくてはならないと思われている、社会的貢献企業であることつまりグレートカンパニーとは、社会的価値の高い「理念」のもと、その「企業らしさ」を感じさせる独特のビジネスモデルを磨き上げ、その結果、持続的成長を続ける会社のことです。そして、社員も顧客も誇りを持つような独特のカルチャーが形成されている企業を、グレートカンパニーと定義しています。皆さまの企業が人財開発・組織開発を通じて日本を代表するグレートカンパニーへと飛躍されるときの足がかりとしてこの本がお役に立てたら、これ以上の喜びはありません。
株式会社船井総合研究所HRD支援部FunaiConsultingIncorporatedお客様の業績を向上させ、社会的に地位の高い「グレートカンパニー」を多く創造することをミッションとする。中堅・中小企業を対象に、日本最大級の専門家を擁し、業種・テーマ別に「月次支援」「経営研究会」を両輪で実施する独自の支援スタイルをとる。その現場に密着し、経営者に寄り添った実践的コンサルティング活動はさまざまな業種・業界の経営者から高い評価を得ている。HDR支援部は「組織のイノベーションをサポートする」をビジョンとし、企業の持続的成長を実現するための人事・組織の専門コンサルティング部門。採用→育成→定着分野において、企業成長に合わせた持続的で計画性のある一気通貫の人づくり・組織づくりをサポートしている。
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