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手形のあるのは貧乏国

アメリカの小売業者から品物を購入する場合、会員制の場合でも購入はクレジットカード

で支払う。「日本でも同じだ」という読者の方がおられれば、その方は、日本の実態をご存じ

ないと言っていい。アメリカでは、物品やサービスを購入したら、本人の預金から一瞬のう

ちに引き出して支払うようになっている。日本の、例えば百貨店の場合、外商回しで購入す

ると、この日本とアメリカの違いがよくわかる。外商回しにしたら、購入してから何日目に

請求書が届けられるか。

さらに、請求書がきて支払うのを忘れていたら、いつ催促の連絡が外商の社員から言って

くると思われるだろう。皆さん方が想像もできないほど、実にのんびりとしたものである。

私は、百貨店の経営幹部に質問してみたい。

「御社の外商売上回収期間は平均何日ですか」と。

私はスーパーでブラブラしたいとは思わないが、百貨店をブラブラするのは大好きである。

だが、百貨店がこのようなルーズで、無駄の多い商売をやっている以上、遠からず、外商販

売比率の高い、つまり老舗のほうから順番に倒産してしまうのは間違いなかろう。

アメリカでも、もちろん掛売り(分割払い)はある。ただ日本と違うところは、月次締め日

がない点である。例えば、今日、商品を一四ドルで売ったら、同時に請求書を渡し、三〇日

日には小切手で支払ってもらうか、現金振込をしてもらうのが当然の商習慣となっている(も

ちろん、販売時の契約で三〇日が四〇日になる場合はあるが)。

しかもこの売買で、購入者が期限より一〇日早い二〇日目に送金、支払った場合は、販売

価格の一%引き、二〇日早い一〇日目の場合には二%引きを認めている。これを2 ・NET

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(ツーパーセント・ネットサーティ)と言っているほど、支払日と価格の問題がはっきりし

る。

手形という前時代的な商習慣がまかり通っているのは、先進国では日本だけと私は信じて

いる。戦争に敗れ、資金がまったくないなかで、日本人同士という島国社会、ムラ社会だっ

たからこそ、この「信用手法」が通用し、とられてきたと思うからだ。しかし、戦後五〇年も

たって町中に銀行、証券、保険会社の店舗や看板があふれているような現在にもかかわらず、

手形取引が利用し続けられていることが、まったく目を覆いたくなるような悲劇が世間に発

生している大きな理由の一つである。

例えば建設業界(建築材料の鉄、木材、建材なども)。大手ゼネコンはいまでも、川下の施

主側からは着手金三分の一、中間三分の一、完工時三分の一の割合で一〇〇%現金・小切手

で回収しておきながら、下請や納入業者には、買掛金の八〇%を半分現金、半分手形(一二〇

日)で支払って、二〇%は来月回し。さらに次の月はその期間の買掛金と合計して八〇%を

同じように半分現金、半分手形(同)といった支払方法で繰り返している。その手形も、場合

によっては台風手形(二一〇日)やお産手形(一〇カ月)と言われるほど先の期日にされるこ

ともある。売り手と買い手双方の事務の複雑さは大変なうえ、それに携わる従業員に給与を

支払ってまでなんでこんな面倒な、無駄の多いことをするのか、まったく考えられない前時

代的な業界と言っていいだろうc

このような無駄が、日本の建設費を米国の二・五倍も高くし、癒着や談合、さらに使途不

明金を生み出す悪質、アンフェアーで企業競争の起こらない体質をつくり上げ、儲からない、

儲からないと年中嘆く、五年か一〇年に一度来る春を待ちわびる業界にしている元凶である。

商品やサービスを売るのと同時に代金を回収すれば、売掛業務、回収業務がなくなる。こ

れが事業なり商売としてはベストだと申し上げているのだが、おそらく読者の何人かは、そ

んなことは、私たちの業界では考えられない、もうこれ以上この本を読んでも無駄だと思っ

てしまわれる方もあると思うが、もう少し辛抱して読んでいただきたい。

私は、アメリカ映画に出てくるバーのカウンターの場面が好きである。古くには、ジョン・

ウェイン、チャールズ。ブロンソンらがコイン(代金)を渡してウイスキーのシングルを受け

取り、グイッとグラスを空ける。かっこいい―・日本では先に支払いしなくても水割りがで

てくる。 一気に飲むと、「あら― お強いのね― ‐」。

このように、何の取引にも先払い方式と後払い方式がある。その発祥なり理由は、次のよ

うに解釈できよう。

先払い方式(異民族、よそ者同士、移動国民)

後払い方式(同一言語、土着国民、ムラ社会)

それぞれ、長い、長い歴史が異なるので、このように分かれたのかもしれない。しかし、

日本でも、先払い方式は演劇(観劇、映画)、遊園地(乗り物、食べ物)、家賃・地代、学校、

お稽古とくに予備校、顧問料(弁護士、経営コンサルタント)、講演料、あげればいくらでも

ある。

POT(『oワ弓o『日卿>z∽>o目oz)化時代にあっては、販売時点ではすべての取引を

終わらせる(POSとも言う)。これの典型の自動販売機、あれは先に金を入れないと絶対に

モノは出てこない。コーラがゴロンと一つ出た瞬間に、下の計りが感知して本部へ発信し、

本部はつねに残り在庫を把握しており、工場への生産の発注業務が瞬時にされる。こんな時

代になっているときに、回収をそんなに遅くして企業が強くなれるはずがない。先に代金を

もらって何が悪い。

また、銀行の預金制度のうち、当座預金は何のためにあるのか。あらためて、その存在理

由と利点をあげてみると、①小切手が発行できる、②約束手形など手形が発行できる、③借

り越し(貸し越し)ができる、などに要約されよう。

ところが、企業のなかには、実際に当座預金口座を設けていないところも少なくない。例

えば、京都府に本社のあるY社は年商三二〇億円の規模にもかかわらず、普通預金だけで十

分だとして、当座預金口座は設けていない。その理由は、この会社は次のような考えを持っ

ているからである。

●諸支払いについて― 同社は給与支払いをはじめすべての支払いは銀行振込一本でやっ

ているので、当座預金がなくても何一つ不自由な点はない。出金伝票に押印する手間は

小切手を発行する手間と変わらないので、普通預金口座で十分である。

●約束手形の発行― ‐経営方針として、手形の発行はしない姿勢を貫いているので、当座

預金がなくても少しも苦痛を感じない。倒産するのは、手形を振り出してその手形を期

日どおり落とす金がないからである。だから倒産を避けようと思ったら、金がなくても

手形を発行しなければよいのである。

●当座借り越し― ‐わずかな金額を借り越しするようでは、会社の資金計画を疑われる。

出納管理を確実に実行していれば、借り越しなどは発生しない。また、万一借り越しに

なった場合でも一定期間で一定の金額に限られるし、担保を要求される。当座過振りに

利子を支払っているのは、銀行に奉仕しているだけではないか。

●預金利子― ‐普通預金口座には金利がつくが、当座預金は無利子である。普通預金も当

座預金も出し入れの手間が同じだから、普通預金で結構だ。

以上が、この会社が当座預金を設けていない理由である。しかし、悲しいかな創業間もな

い零細中小事業者の場合、銀行から、当座預金の開設を勧められる。そう勧められると、何

か銀行がわが社を認めてくれたような錯覚に陥って、当座を開設してしまう例がほとんどで

ある。

前述した、前時代的な業界とも言える建設業界のなかでも、手形取引をしていない企業

がある。高知市で建築、建具、金物を卸・小売しているハウジングショッパーズ北条(北條

匡祐社長)である。昭和五九年(一九八四)二月から、手形による売買を見事、敬服するほ

どやめている。この業界にありながら、あるとき、手形取引をいっさいやめようと一念発起

し、実に一九年もの歳月をかけて実現させた。その間の経営者の苦労は筆舌に尽くしがたい

ものがある。

しかし、やろうと決めて努力するか、しないか。大切なのは強い意志と実行力である。こ

の三社の例からもわかるように、真の二枚腰経営は、 一年や二年でできるものではない。

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