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戦略的設備投資

1。戦略投資の考え方

前述のように戦略投資(研究開発投資ほか)とは、その採算性を明確に捉えがたいが、企業存続上どうしても欠かせない投資と規定した。まず企業の本源的投資として位置づけられる研究開発投資を、ついでその他の戦略投資を検討しよう。

(1)研究開発投資の考え方

まず研究開発の進め方をタイプ分けし、ついで望ましい研究開発方法を考え、最後に研究開発投資の立て方を検討する。なお、ここでは基礎研究は含めず、主として製品開発に絞る。なぜならば、民間企業では基礎研究を手がけることはきわめてまれだからである。

①研究開発のタイプ

研究開発のあり方としては、つぎの2つがある。

イ)まず自由な研究が成果を上げるという、大学によくある方法論であるが、この方法がうまく機能するためには、その対象が基礎研究で時間に追われていないこと、能力の高い意欲的な研究員が競争していること、コストに対する配慮が不要なことなどの条件が前提となり、民間企業にとっては不適当な方法である。なぜならば、民間企業では、時間的制約のある製品開発がほとんどであり、技術者も限られ、コスト面でもきわめて厳しく(特に人件費が最大のコスト)、この方式は適していない。口)一方、プロセス重視の研究開発型は研究者を納得させるのが大変だが、この方式がよい。

研究者にとっては、単なる管理と映り、自由な発想による自主的な活動に対する制約と理解されがちである。

研究開発は研究者の意欲が不可欠なので、研究者の意欲を阻害するシステムは成功しないが、研究開発といっても、ごく一部に自由研究の必要なところがあるのみで、かなりの部分はプロセス型で対応できる。したがつて、まずこの仕組みをつくりLげれ.ばよい。

ハ)社外への研究委託も一方法であり、最近準公的研究機関が能力活用策として外部からの有料研究受託を行っている。外部委託はコストが明確に分かるために、短期的な企業経営には有用であるが、研究開発は企業の根源的な投資なので、外部にどれだけ委託することが可能か範囲が不明なところに欠点がある。

二)結論としては、研究開発活動については生産性の高い進め方や、生産性を測定する管理方法は十分に確立していないが、プロセス重視型がよいと思われる。有形物の生産では、ベルトコンベアー方式や分業体制など合理的方法が開発されているので、研究開発やソフトなど無体財産についても能率的形成法があるはずである。

②研究開発の能率的な形成方法

技術者が開発を行う方法は、長年の経験とノウハウで確立しており、種々の分野で共通性がある。

例えば、ビルの設計施工は無体財産であるが、設計。施工管理の手法は早くから確立している。

また、コンピュータのソフトウェア開発の手法でも、初期には個人の名人芸であったが、開発システムの信頼性確保のために次第に開発手法の統一化すなわちプロセス化がなされてきた。これと同様に、製品開発においても、開発製品の品質保証の観点から統一的な手順をとるようになってきた。

商品開発の視点から見ると、プロセス方式が、

・漏れ、抜け等が比較的少なくて手戻りが少なく効率的

・クリティカル・ポイント等が明確でスケジュール管理がしやすい

。計画の進捗管理がしやすいために研究員個人の能力測定が比較的容易等の観点から最もすぐれている。

このプロセス化はQC手法に似ているので、それを応用できる。研究開発はすべてクリエイティブな仕事ばかりではなく、商品開発においては80~90%はQC手法がなじむ分野である。このQC手法を用いながら、コンピュータのソフトウェアの開発手法を参考にして研究開発のプロセス化を図る。

ソフトウェアの開発は、基本構想→基本設計→詳細設計→プログラム設計→部分テスト→全体テスト→マニュアル作成のプロセスを踏む。これにならい研究開発も、基本構想→基本設計→詳細設計→商品試作→実験テスト→実機テスト→全面的販売の形をとる。

・基本構想

WHEN いっまでに開発するのか

WHERE どこで開発するのか

WHO 誰が開発するのか

WHAT 何を開発するのか

WHY なぜ開発するのか

HOW どうやって開発するのか

この5WlHが曖昧であると、研究の効率は著しく低下する。開発当初は曖昧な場合が多いが、判明できる限り事前に明らかにすることが大切である。

なお、現実に妥協してこの5WlHを安易に変更すると、開発全体の構想が分裂してしまい、必然的に成果も上がらない。

・基本設計

積み上げ方式でなく、開発目標(販価、コストなど)から戻ってくる逆投影法的な考え方を基本とする。

積み上げ方式では、必ずコストが予定を上回り、採算の悪い商品しか開発できないし、また技術的な突破もなく、従来技術を延長した商品しか開発できない。

設計途中で、ニーズは必ず二律背反する。それを妥協で済まさないことが肝要である。そこに、新しい考え方なり技術が生まれるので、安易に妥協すれば研究開発にならない。

要求性能の実現には、重要度順にプライオリティを明らかにしておく必要がある。なお、優先順位は、研究者に任せず研究管理者が判定する。

・詳細設計

具体的な商品の設計である。

・商品試作

ベンチで実際の試作を行う。

・実験テスト

社内で想定できる製品のテストを行う。要求性能が満たせないときには基本設計・詳細設計・試作のいずれかに戻る。

重要なのは実験テストで妥協しないことである。期限に追われたり、期待した性能が出ないと、現実と妥協して、よいテスト結果の数字を探したくなるが、それは自殺行為である。一般に試験機だけでなく、社内に試験用の実際の機器があり、その機器によリテストした場合は、つぎの実機テストが容易である。

実験テストを行い問題が生じた場合、元のプロセスに戻り、詳細設計・試作の繰り返しを多く行った商品ほど市場での成功率は高い。

数回の繰り返しで完成させた商品ほど大成しない。

そのため、開発スケジュールの中にこの期間を十分にとっておく必要がある。基本構想や基本設計に時間をとられて、この段階の時間をとっておかないと、最終的には商品の開発時期の遅れをもたらし、営業成績に大きく悪影響を残す。また、研究者と研究管理者との間のコミュニケーションも、この時期が最も重要である。開発担当者は、テストの結果を素直に管理者に報告しない傾向があるので、早い段階で大きな問題を潰すためにも、コミュニケーションが最も重要になる。

・実機テスト

すべての試験を社内で行うのは不可能なので、相当数のユーザーに依頼して、現場でテストしてもらう。課題・悩みを抱えている企業は必ず協力してくれる。実機テストでは、この商品の制約条件や使用上の注意が明らかになる。

制約条件があまりにも大きく、そのままでは市場性に乏しい場合には商品を作り直すこともあるが、実機テストが十分に行われていればそうしたケースは少ない。

。全面的販売

営業担当者、代理店の教育訓練を行って、実際に販売する。

③プロセス型商品開発の成果

手順を尽くした商品と、思いつきだけで作り上げた商品とでは、一定期間後の販売実績にはかり知れないほどの差が出てくる。手順を尽くしていない商品は、客先でのクレームを引き起こすために、営業マンの販売意欲を減退させる。

手順を尽くした商品は、得意・不得意な分野が明確であるため、この商品が優位性を保つ客先にのみ売りに行くことができ、営業効率が上がり、営業マンに好まれる。

結果として、手順を尽くしていない商品は2~ 3年で消えるが、手順を尽くした商品は、仮に小さい商晶でも、根幹商品の1つになる。

長期的に見れば、手順を尽くした商品ほど、投入エネルギー当たりの成果が上がる。

④研究開発投資の基本的考え方

以上の考え方に基づくと、研究開発がプロセス管理できるということであるから、研究開発投資の採算計算の実施も十分可能となる。

研究開発投資においても工数管理ができるので、開発開始前に工数を見積っていく。もちろん正しく見積ることはなかなか難しいが、ターゲットをはっきりさせて、P→ D→ Sの形で計画をはっきりさせることによって予測の精度が上がる。最近では、製品開発に先立って、販価、コスト、販売数量、ライフタイムを設定し、十分な採算計算を行うべきであるという考え方が主流となっている。

ファナックの稲葉社長もつぎのように、製品開発の前に価格、スペックが決められていることを示唆している。

「円高の壁を超えるコストダウンは、新しい商品を開発する以外方法はないのです。これは大変難しいことです。一部の研究所は、徹夜、徹夜の連続です。開発期間も、価格も、スペックもすでに決まっている。その中で知恵を出すわけですから、大きなチャレンジです」(『日経ビジネス』92年8月23日号)

(2)その他の戦略投資

福利厚生施設や、公害防止投資などのような戦略投資については、投資採算を計算することはきわめて難しいものだが、企業存続のために実行せざるを得ないものである。これらをどう設備投資の中に取り上げていくかという点について、2つほど留意点を挙げておきたい。

1つの方法としては、中長期経営計画の中で、例えば設備投資総額の少なくとも3割を戦略投資に割り当てるなど、総枠を決めておく方法である。これは企業の体力面からも必要なことである。結局、戦略投資にどれだけ資金を投下できるかという事実によって、企業の力が判定されるであろう。

第2点として、採算性以外の判断基準を作成することも必要である。宮俊一郎著『設備投資の採算判断』の中で、必要性スコアという判断基準を述べている。前頁に必要性スコア計算表を例示したので参照されたい。

2.撤退戦略

(1)ジャスコのスクラップ。アンド・ビルド

設備投資の反対、すなわち撤退戦略(スクラップ)も、時に検討されるべきである。今の事業を継続することより、事業を撤退したり、新事業へ転換する方が、よリキャッシュ・フローの増加に寄与すると考えられる場合は実行すべきである。93年12月3日の『日本経済新聞』に、いくつかの撤退事例が挙げられている。要約すると次の通りである。

①ジャスコは撤退戦略として、店舗のスクラップ・アンド・ビルドを前向きに進めている。88~ 92年度の5年間に29店舗を新たに出店する一方、27店舗を閉店し、今年度も11店舗を新規に出店、 9店舗を閉める。

一般に、閉店をいさぎよじとしない風潮が根強い流通業界のなかでジャスコはスクラップを企業発展のバネにしており、「捨てるルール」を確立している。ジャスコは新規出店にあたり、通常20年の不動産賃借契約を結び契約期間が満了すれば閉店するルールとなっている。

例えば大分店は、JR大分駅前の一等地に店を構えていたが、出店後20年を経過した今年2月、閉店した。市当局の要請によリファッション専門店ビルとして10月に再開店することとはじたが、20歳を迎えた既存店はつぶし、新しい店を出すという方針は貫いている。

そのほか、①消費者が買物をしにくいと感じている店②交通の便が悪かったり、駐車場が不十分な店③損益分岐点比率が高くなっている店などは、比較的新しい店でも閉店を決断する場合がある。これらの判断は、判定規準が明確なため、全国6地域の事業本部長に任されている。

この結果、ジャスコは、93年8月中間決算で、既存店の売上高が前年同期を下回った店舗の割合をみると、流通業界で最も経営体質の改善が進んでいるイトーヨーカ堂の75.4%に対し、46.6%だった。つまり半数以上の店舗がこの不況下で前年同期比プラスの売り上げをあげているのである。

②食品業界ではハウス食品が好業績を維持している。これは、

2年前に、不振だったスープ、カレーなどのチルド(冷蔵)食品分野から撤退し、事業内容を見直してきた撤退戦略によるところが大である。

③三菱商事は現在、子会社・関連会社を含む事業投資先約600社

を収益状況、将来性などによって3グループに分類し、見込みのない事業については清算するなど統廃合に踏み切る方針を明らかにした。体力のあるうちに、将来のために、事業投資先を選別し、資産の優良化を進める。

④ これらの子会社整理や事業撤退には二つの障害がある。一つは整理損の計上などのコストがかかること(例えば設備や店舗を賃借していれば違約金もとられる)、及び社内外では必ず抵抗があることである。しかし、適切な撤退戦略は、一時的なコスト負担を十分に吸収できるメリットがあり、今後の事業展開上無視しえない戦略となる。

(2)撤退戦略の留意点

ここで撤退についていくつかの留意点を検討しよう。

①撤退にもルールが必要

このルールが明確でなければ、誰もきわめて格好の悪い撤退を進んで行おうとするものは出てこない。その結果、意味のない不採算な投資がズルズルと継続されることになる。

②ルールの基本は、より高い採算を生む資産内容の構築経営資源に限りがある以上、少しでも収益性の高い投資を求めて、常に投資の内容をチェックする必要がある。

③表面的には、除却損などの形で撤退により、企業の会計上の利益が減少する

これは、会計上の利益で業績を評価される経営者にとっては面白くない結果である。しかし、企業の本当の力を示すキャッシュ・フローにおいては、除却損は全く影響を与えず、むしろ、税引後で見るとプラスの効果さえある。撤退は経営者の決断がなければできないことであり、その指導力をためす大きな踏み絵ともいえよう。

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