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戦略あなたの計画は間違っている

目次

戦略あなたの計画は間違っている

市場調査ではなく、技術的アイデアに賭ける組み合わせ型イノベーションの時代〝速い馬〟は要らない成長を最優先せよロナルド・コースと企業の本質特化する初期設定は「クローズ」ではなく「オープン」に「初期設定はオープン」の例外ライバルに追随するなエリックからのアドバイス――戦略会議の要諦

戦略あなたの計画は間違っている

あなたがどんなベンチャーを始めようとしているのか、私たちにはわからない。

どんな業界なのかすら知らない。

だから大きな顔をして事業計画のつくり方を指南するつもりはない。

ただ、あなたに事業計画があれば、それが間違っているということだけは一〇〇%断言できる。

MBAスタイルの事業計画は、どれほど綿密かつ入念に検討したものであっても、必ずある重大な欠陥をはらんでいる。

その欠陥のある事業計画を忠実に実行することは、起業家エリック・リースの言う「失敗の実現」につながる。

ベンチャー・キャピタリストが「事業計画ではなく、人に投資せよ」という原則に忠実なのはこのためだ。

事業計画が間違っている以上、人は正しく選ぶ必要がある。

優れた人材が集まったチームは、計画の欠陥に気づき、軌道修正することができる。

では、新たなベンチャー企業が事業計画もなしに、どうやって最高の人材や重要な資源(資金など)を手に入れるのか。

実際のところ、計画はあってもかまわない。

だが、事業を進めるのにともない判明したプロダクトや市場についての新事実に対処するために、計画を変えることを頭に入れておこう。

この迅速な反復作業は成功に不可欠だが、それと同じくらい重要なのが計画の大元となる「基礎」の部分である。

インターネットの世紀を特徴づけるテクノロジーの引き起こした地殻変動によって、私たちが学校や職場で学んだ従来型の「戦略の基本」はもはや通用しなくなった。

だから計画は変化するかもしれないが、その根底に一定の基礎的な原理が存在することが大切なのだ。

それはこんにちの世の中の仕組みに根差し、計画を修正しながら成功に向かううえで指針となるものでなければならない。

計画は流動的だが、基礎は揺るがない。

計画が流動的と聞いて、仲間に加わるのをやめる者もいるだろう。

たいていの人は不確実性を嫌うからだ。

一方、スマート・クリエイティブは「やっているうちにわかるだろう」という考え方を好む。

ジョナサンがある部下に対する考課に書いたように、スマート・クリエイティブには「こんにちの変わりやすい環境に柔軟に対応しようとするしなやかさ」がある。

むしろ、彼らはすべての答えがそろっていると称する計画は信頼せず、たとえ答えがそろっていなくても、正しい基礎にもとづく計画に飛びつく。

ジョナサンがこれを部下から学んだのは、二〇〇二年にグーグルに入社してまもなくのことだ。

当時のグーグルには、しっかり考え抜かれた戦略的基礎はあったものの、きちんと明文化されていなかった。

というより、一九九八年の創設以来、わざわざグーグルの戦略を文書化しようとした者はいなかった。

ジョナサンはこの〝欠落〟をすぐに埋めようとした。

自分が慣れ親しんできた〝インクが乾くよりも早く陳腐化してしまうような従来型の事業計画〟をまとめようとしたのだ。

だが、直属の部下のマリッサ・メイヤー、サラー・カマンガー、スーザン・ウォジスキに止められた。

グーグルには事業計画を文書化する必要性(というより、そもそも事業計画の必要性)などない。

むしろ新しい人材を採用し、みんなを同じ方向に進ませるために必要なのは、事業計画の「基礎」を明文化することだ。

基礎さえ示せば、あとはグーグラー自身が何をすべきかを見いだすだろう、と三人は主張した。

その結果ジョナサンがまとめたのが、「グーグルの戦略――過去、現在、未来」と題したプレゼンテーションである。

これは二〇〇二年一〇月に取締役会に発表され(それが翌年、マイク・モリッツがさらに包括的な計画を求めるきっかけとなった)、その後も長きにわたってグーグルの戦略を説明するのに使われてきた。

ここで示された原則は、九〇年代後半に跋扈したドットコム企業とはまったく違い、こんにちでは〝インターネットの世紀のサクセスストーリー〟の基本的設計図と目されている。

具体的には、重大な問題を革新的な方法で解決するような技術的アイデアに賭ける、利益ではなく規模を最適化する、最高のプロダクトによって市場自体を拡大させる、といった内容が含まれている。

市場調査ではなく、技術的アイデアに賭ける一九九〇年代半ば、ラリーとセルゲイがグーグルの元となる博士論文の研究プロジェクトに取り組みはじめたころ、有力な検索エンジンはどこもウェブサイトのコンテンツにもとづいて検索結果をランキングしていた。

たとえば「大学」という検索語を入れると、実在する大学ではなく、書店や自転車店のウェブサイトが表示されることも多かった。

ラリーがこうした検索エンジンの運営会社を訪問し、「大学」を検索したときにいかにひどい結果が表示されたか文句を言ったところ、「悪いのはキミだ」と言われた。

もっと的確な検索語を入れればいいじゃないか、と。

そこでラリーとセルゲイはもっと良い方法を編み出した。

どんなウェブページがリンクを張っているかを調べることで、ウェブページの品質、すなわちそのコンテンツとユーザの検索語との適合性を判断できることに気づいたのだ。

たくさんのウェブページが指し示しているページなら、おそらく質が高いということだろう。

グーグル検索が登場したとき、他の検索エンジンよりはるかに優れた性能を発揮できた理由はほかにもあるが(たとえば学術系のウェブサイトから得られた結果を重視するなど)、プロダクトの優位性の核となったのは、ウェブのリンク構造を最高の結果を導き出すロードマップとする、という技術的アイデアだった。

その後に大成功を収めたグーグルのプロダクトも、ほとんどが強力な技術的アイデアにもとづいていた。

逆にあまり成功しなかったプロダクトには、それがなかった。

たとえばグーグルの収益の大半を稼ぎ出す広告エンジンの「アドワーズ」は、広告は広告主がいくら払うかではなく、ユーザにとって情報としてどれだけ価値があるかにもとづいてランキングし、ウェブページに掲載すればいい、というアイデアにもとづいている。

何千というメディアのウェブサイトからニュースのヘッドラインを集めてくる「グーグル・ニュース」は、記事を情報源別ではなく、トピック別にアルゴリズムでグループ化する、という着想にもとづいていた。

グーグルのオープンソース・ブラウザである「クローム」は、ウェブサイトが複雑化し、パワフルになるのにともなって、ブラウザも速度重視の発想に切り替えるべきだというアイデアから生まれた。

革新的で成功しているグーグルのプロダクトには、技術系の学術誌に載るような重要な技術的アイデアが少なくとも一つはある。

グーグル検索に表示される「ナレッジグラフ」は、特定の人物、場所、モノについて、インターネット上に存在する膨大な量の、無秩序な情報を整理し、わかりやすいフォーマットにまとめて表示する機能だ。

「ユーチューブ・コンテンツID」は、すべてのオーディオクリップ、ビデオクリップに固有の識別情報をつくり、それをグローバルな著作権データベースと照合し、著作権所有者がユーチューブ上で自らのコンテンツを見つけられるように(ときにはそれをマネタイズできるように)している。

「グーグル翻訳」は膨大な数のマルチリンガルなユーザベースの力を借りて、翻訳品質を着実に高めている。

「ハングアウト」(ひとりあるいは複数の人とライブビデオチャットを楽しむ機能)はさまざまな動画フォーマットを端末レベルではなく、クラウドレベルで変換し、多様な端末を使ってグローバルなビデオ会議を簡単に開けるようにした。

たいていの企業ではプロダクト計画を立てるのはプロダクト・リーダーだが、彼らの立てる計画には最も重要な要素が欠けていることが(きわめて)多い。

それは、新たな機能、プロダクト、あるいはプラットフォームの出発点となる技術的アイデアは何か、である。

技術的アイデアとは、大幅なコストダウンにつながったり、プロダクトの機能や使い勝手を何倍も高めたりするような、新たな技術の活用法やデザインのことだ。

そこから誕生するプロダクトは、競合品と比べて本質的に優れている。

その差は歴然としていて、マーケティングの努力などしなくても、消費者はすぐにそのプロダクトがほかのどのプロダクトとも違うことに気づく。

ときには技術的アイデアを簡単に生み出せるケースもある。

OXO(オクソー)はキッチン用品のデザインを人間工学にもとづいて見直した結果、急成長を遂げた。

だが、たいていは苦労する。

多くの企業が技術的アイデアを戦略の基礎としないのはそのためかもしれない。

その代わりに、従来型のMBA的発想にもとづいて、自分たちの一番得意なことを考え(マイケル・ポーターの言う「競争優位」)、それを生かしてまわりの市場にも手を広げようとする。

この方法は、市場シェアの拡大が成功の指標となる既存プレイヤーにはとても有効だが、新たにベンチャーを興すときには役に立たない。

競争優位を生かし、まわりの市場を攻略することだけを目標とする戦略では、業界に破壊的変化をもたらしたり、事業を大きく変えたりすることは不可能だ。

最高のスマート・クリエイティブを集め

ることもできないだろう。

巧みな価格設定、マーケティング、流通、販売戦術によって市場シェアや利益を拡大することもできる。

スーパーの食品売場を歩けば、パッケージや宣伝文句を変えただけなのに「新登場」「さらにおいしくなりました!」などとアピールする商品があふれている。

こうした戦術は市場調査の産物であることが多い。

コンサルタントが何人か集まって、会社の想定顧客ベースを狭義のセグメント(ミレニアル世代、ジェネレーションX、トゥイーンズなど)に切り分ける。

その結果、プロダクトデザイナーは三一もの凡庸なフレーバーを開発するはめになる(サーティワンアイスクリームをやり玉に挙げているわけではないので悪しからず)。

市場調査コンサルタントを使う最大のメリットは、アドバイスが間違っていたらさっさと責任を押しつけてクビにできることだ。

ジョナサンが一九九〇年代後半にプロダクトチームの責任者を務めたエキサイト@ホームは、ケーブルテレビ番組を伝送していた同軸ケーブルを、ブロードバンド回線に転換するための技術をベースに誕生した会社だった。

エキサイトが開発したケーブルモデムはまさに革新的なプロダクトだったが、厄介な敵が立ちはだかった。

市場調査である。

ケーブルテレビ会社は、顧客の多くがインテルの「80286」「80386」プロセッサを搭載したパソコンを使っているというデータをもとに、モデムをこうしたパソコンにも対応させるようエキサイトに求めた。

だがエキサイトのエンジニアは、こうした古いプロセッサを使ったパソコンの処理能力ではブロードバンドに接続しても意味がなく、モデムを購入した顧客が不満を持つはずだとわかっていた。

ケーブルテレビ会社は市場調査を盾に、時代後れのパソコンのためにムダなサービスを提供しろ、とエキサイトに迫った。

だがパソコンの性能が「ムーアの法則」に従ってほぼ二年で二倍になっており、速度の遅いパソコンが間もなく市場から消えることを、市場調査は見落としていた。

この問題については最終的に勝利を収めたエキサイト@ホームだったが、同社も市場調査に足をすくわれた経験がないわけではない。

潜在顧客にインターネット接続サービスについて最も重視する点を尋ねたところ、「速度」という答えが返ってきたため、マーケティングでは「速度」を最大の売りにした。

だが、有線ブロードバンドはたしかに速かったが、サービスを使いはじめたユーザが最も評価したのは「常時接続」、すなわち毎回モデムやサーバがダイヤル音や耳障りなシューッという音を立てながらウェブに接続するのを待つ必要がなかったことだ。

ジョナサンたちは顧客の期待に沿うようなマーケティングを展開したつもりだったが、市場調査を見ていても、顧客が問題であることすら認識できない問題を解決することはできない。

大切なのは顧客の要望に応えることより、顧客が思いつかないような、あるいは解決できないと思っていた問題へのソリューションを提供することだ。

プロダクトの地道な改良を続けること、巧妙な戦術を駆使するのは何も悪いことではないが、市場調査を技術的イノベーションより重視するのは本末転倒だ。

既存企業の多くも技術的アイデアから出発したはずだが、途中で道を見失ってしまうのだろう。

スーツ組が白衣組より幅を利かせるようになる。

もちろん問題は服装ではなく、会社の政策にあり、そこに競合がつけ入る隙が生じる。

グーグルは常に技術的アイデアをプロダクトの出発点とすることを基本原則としてきたが、その重要性が改めて明らかになったのは二〇〇九年のことだ。

プロダクトラインの再検討を実施したところ、あるパターンが浮かび上がったのだ。

優れたプロダクトはいずれも事業上の戦術ではなく、技術的要因によって成功を収めていたのに対し、それほどの結果を挙げていないプロダクトはどれも技術的な個性を欠いていた。

グーグルのブランド力が高くなったために、どんなプロダクトでも「グーグルがつくった」というだけでそれなりのユーザを集められるようになった。

ユーザの数だけをもとに成功を測れば、プロダクトは成功していると誤解しかねない(実際、誤解してしまったこともある)。

だが、現実にはそうではないケースも多く、まもなくプロダクトは失速してしまった。

失速したケースは例外なく、技術的アイデアが欠けていたものだった。

たとえば当時グーグルは、ネット広告のノウハウを新聞、ラジオ、テレビなど他の広告市場に応用する実験をしていた。

優秀な社員による、気の利いた思いつきだったが、費用対効果を劇的に改善し、大幅な差別化につながるような本質的な技術的アイデアが欠けていた。

新聞、ラジオ、テレビ広告はいずれも失敗に終わった。

失敗に終わった他のプロダクト(iグーグル、デスクトップ、ノートブック、サイドウィキ、ノル、ヘルス、そしてそこそこ人気のあったリーダー)も、当初から優れた技術的アイデアがなかったか、あったとしてもインターネットの進化によって陳腐化してしまったケースだった。

組み合わせ型イノベーションの時代では、そんな魔法のアイデアはどこで見つかるのか。

インターネットの世紀には、あらゆる会社に技術を活用し、重大な問題をまったく新しい方法で解決するチャンスがある。

グーグルのエコノミスト、ハル・バリアンの言う「組み合わせ型イノベーション」の時代が始まろうとしているのだ。

これは組み合わせ方法を変えることにより画期的な発明が生まれるような、さまざまな構成要素の入手可能性が大きく広がったときに起きる。

たとえば一八〇〇年代には、歯車、滑車、チェーン、カムなどの機械装置のデザインの標準化によって製造業が隆盛した。

一九〇〇年代には、ガソリンエンジンの誕生によって自動車、オートバイ、航空機などで数々のイノベーションが生まれた。

一九五〇年代には集積回路から数えきれないほどのアプリケーションが生まれた。

どの時期にも、相互補完的な構成要素が誕生したことで、発明ラッシュが起きた。

こんにちの重要な構成要素は、情報、ネットへの接続性、そしてコンピューティングだ。

発明を志す人々は、世界中の情報、グローバル・リーチ、そして実質的に無限のコンピューティング能力を手にしている。

オープンソースのソフトウェアやAPIも豊富で、それを使えばお互いの成果を活用できる。

標準化されたプロトコルやコンピュータ言語もある。

トラフィック、気候、経済取引、遺伝子情報、誰と誰が社会的につながっているかなど、さまざまなデータを全体的あるいは(許可があれば)個人レベルで示す、情報プラットフォームにもアクセスできる。

技術的アイデアを生み出す一つの方法は、新たに入手できるようになった技術やデータを活用し、自らの業界にすでに存在する問題に対する新たな解決策を見いだすことだ。

上に挙げた全産業共通の技術的要素に加えて、各産業には固有の技術やデザインに関する専門知識がある。

私たちが身を置いてきたコンピューティング業界では、大元となる専門知識はコンピュータ科学だ。

だが他の業界では、医学、数学、生物学、化学、航空学、地質学、ロボット工学、心理学、ロジスティクスなどがそれに当たる。

エンタテインメント産業はまったく違うタイプの専門知識を土台としている。

ストーリーテリング、パフォーマンス、作曲、創作など。

そして消費財を手がける企業は、技術とデザインを組み合わせて画期的なプロダクトを世に送り出す。

金融業は技術的アイデアを使って、新種の有価証券やトレーディングのプラットフォームを生み出す(そしてバブルが弾けるまで、あるいは訴追されるまで稼ぎまくる!)。

このようにどんな業界でも、その基礎となる専門知識については膨大な蓄積がある。

あなたの会社のオタクは誰か?研究室やスタジオにこもって新しい、おもしろいモノをつくっている連中だろうか?その〝おもしろいモノ〟がなんであれ、それがあなたの会社の「技術」だ。

オタクを探し、彼らの手がける〝おもしろいモノ〟を見つけよう。

成功をつかむのに必要な技術的アイデアはそこにある。

技術的アイデアを見つけるもう一つの方法は、小さな問題の解決策に注目し、その適用範囲を広げる方法を考えることだ。

これはイノベーションの世界で脈々と受け継がれる伝統でもある。

新しい技術は、個別具体的な問題を解決する手段として、かなり原始的な状態で誕生することが多い。

蒸気機関は機関車の推進力という〝天職〟を見いだすはるか以前から、炭鉱から水をくみだす便利な手段として使われていた。

マルコーニが売り出した当初のラジオは船と陸との通信手段であり、娯楽手段ではなかった。

ベル研究所は一九六〇年代に発明したレーザーをあまりにも低く評価していたため、特許すら取得しなかったほどだ。

インターネットですら、当初は科学者など学者が研究成果を共有する手段として構想された。

インターネットを生み出したのはとびきり優秀な人々だったが、それでも写真や動画の共有、友達とのコミュニケーション、ありとあらゆる情報の収集など、こんにちのような多様な用途に使われることなど想像もしていなかった。

グーグルが小さな問題の解決策を大きく活用した例として、私たちがとくに気に入っているのは、常に新しい技術のアーリーアダプターとして活躍する人々、つまりアダルト産業に関するものだ。

グーグル検索が普及しはじめたころ、最も頻繁に使われていた検索語の一部はアダルト絡みだった。

当時のアダルト・コンテンツのフィルターがあまりにもお粗末だったので、社内で数人のエンジニアチームをつくり、最高裁判事ポッター・スチュワートの定義によれば「ググればすぐにそうとわかるもの」をアルゴリズムでとらえるという、厄介な課題に取り組ませた。

チームはいくつかの技術的アイデアを組み合わせて、優れた解決策を生み出した。

まず画像の「コンテンツ」(たとえば、肌の画像など)をかなり正確に把握するとともに、ユーザがその画像にどう反応するかによってその「コンテクスト」も判断できるようになった(たとえば、ポルノ関連の検索語を入力した人に医学の教科書の画像を表示したら、クリックしないか、したとしても表示されたサイトには短時間しかとどまらないだろう)。

まもなく完成したフィルター「セーフサーチ」は、不適切な画像のブロックに比類ない効果を発揮した。

こうして小さな問題(アダルト・コンテンツをフィルタリングする)のための解決策(セーフサーチ)が誕生した。

ただ、ここでやめる必要はない。

それから一~二年のうちにグーグルは、ポルノ問題を解決するために生み出した技術を、もっと広範な用途に活用しはじめた。

セーフサーチを開発する過程で作成した、何百万というコンテンツベースモデル(ユーザが異なる画像にどう反応するかというモデル)を使って、ポルノに限らずあらゆる画像と検索語との適合性をより正確に評価できるようにしたのだ。

次に、検索結果に表示された画像と同じような画像を検索できる機能を追加し

た(「ヨセミテのこういう写真がもっと見たいな。

似たような画像はないかしら?」)。

さらに検索語(たとえば「ヨセミテ、ハーフドーム」)を打ち込まず、画像(ヨセミテのハーフドームの写真など)で検索を始められる機能もつくった。

こうした機能はすべて、アダルト・コンテンツのフィルター「セーフサーチ」をつくるために開発した技術から生まれたものだ。

だから検索画面にあなた好みのヨセミテの写真が次から次へと表示されたら、アダルト産業にちょっぴり感謝してもいい。

彼らのおかげでこうした技術が生まれたのだから。

〝速い馬〟は要らない技術的アイデアをもとにプロダクト戦略を立てれば、顧客の要求を満たすだけの凡庸なプロダクトを生み出さずに済む(ヘンリー・フォードも「顧客の要望を聞いていたら、速い馬を探しに行っていただろう」と語っている)。

そのような漸進的イノベーションは、現状維持と市場シェアを守ることしか頭にない既存企業には役立つかもしれない。

だがまったく新しい事業を立ち上げるとき、あるいは既存の事業を根本的に変えようとしているときには、それでは不十分だ。

技術的アイデアにもとづいてプロダクトをつくる、というのはかなり当たり前のことに思えるが、言うは易く行うは難しだ。

二〇〇九年、プロダクト・レビューによって、この戦略を順守することがどれだけ重要か明らかになった直後、私たちはプロダクト・マネジャーに開発中の主要プロダクトすべてについて、その計画の土台となる技術的アイデアを数行にまとめるよう求めた。

だが、できたマネジャーは数えるほどしかいなかった。

「あなたのプロダクトの技術的アイデアは何か」というのは、聞くのは簡単だが、答えるのはきわめて難しい問いであることがわかった。

だからあなたのプロダクトについても、ぜひこの質問に答えてほしい。

うまい答えが見つからなければ、プロダクトを考え直したほうがいい。

成長を最優先せよかつて企業の成長は時間のかかる、系統的なプロセスだった。

プロダクトを開発し、地域レベルで成功し、それから営業、流通、サービスチャネルを整備しながら一歩ずつ前進し、それに合わせて製造能力を増強していく。

すべてに時間がかかった。

ドングリが何十年という歳月を経てオークの木になるように。

これが従来の「成長」であり、いまでもそれで十分な業界もあるかもしれない。

「今四半期の売上が八%伸びた」と言えば、ボーナスが増え、昇進できたりする。

だが、それも長くは続かないだろう。

大きな成功をつかみたいなら、単に「成長する」だけでは足りない。

「スケールする」必要がある。

英語でスケールというと体重計、あるいは階段などを「登る」という動詞として使われるのが一般的だが、ここではまったく新しい意味で使っている。

何かを猛烈なスピードで、グローバルに成長させることだ。

インターネットの世紀には、そういったグローバルな成長は誰にでも手の届くところにある。

いまや情報、ネットへの接続、コンピューティング、製造、流通、人材など、あらゆるものが〝大衆化〟した。

グローバルな事業領域や影響力を確立するのに、大量の人員や世界的な支店網はいらない。

だからと言って、戦略を立てるうえでスケールする方法を考えなくていいわけではない。

むしろその逆だ。

スケール化は戦略的土台の中核をなす要素だ。

こんにち、競争は一段と激しくなり、競争優位は長続きしない。

だから「速く、大きくなる」ための戦略が必要なのだ。

ここにおいて非常に重要なのが「エコシステム」だ。

インターネットの世紀に大きな成功をつかむリーダーとは、プラットフォームを生み出し、一気に成長させる方法を知っている人物だ。

プラットフォームとは、ユーザやプロバイダの集団を一つにまとめ、多面的市場をつくりだすようなプロダクト群やサービス群だ。

プラットフォームは技術を土台とするものが増えている(そうではないものもあるが)。

たとえばユーチューブは誰にでも動画を作成し、グローバルな視聴者(あるいは家族や知り合い)に届けることを可能にするプラットフォームだ。

古典的な例を挙げれば、電話だ。

電話のプラットフォーム(ワイヤーやスイッチのネットワークで端末を結び、利用者同士が会話をできるようにする)は、最初につながった利用者には無意味なものだった。

電話をかける相手がいなかったからだ。

しかしプラットフォームにつながる電話の数が増えるにつれて、ネットワークの利便性は全員にとって高まった(電話をかけられる相手が増えたからだ)。

固定電話に思いを巡らすと、隔世の感がある。

当時「スケールする」というのは、数百万人に普及させることだった。

世界の固定電話のネットワークが一億五〇〇〇万台に達するまでに八九年かかった。

現代のプラットフォームははるかに短い期間で、数十億単位に広がる。

フェイスブックはアプリケーション・プラットフォームに転換することでほかのソーシャル・ネットワーク・サイトと一線を画し、誕生から八年あまりで一〇億ユーザを抱えるまでになった。

モバイルOS首位のアンドロイドは誕生から五年目で一〇億台の端末で使われるようになった。

アマゾンは金融アナリストにいくら収益性の低さを批判されても、ひたすら成長に注力した。

その結果、こんにちでは少なくとも三つの業界(小売り、メディア、コンピューティング)で最も破壊力を持つ企業となった。

ジョナサンが初めてラリー・ペイジと会ったのは一九九九年のことだ。

その日、ふたりで駐車場のジョナサンの車に向かう道すがら、ラリーは雑談のように「いずれ検索を収益化する方法が必ず見つかると思っているんだ」と話した。

ユーザが何かを検索するたびに、グーグルには彼らが何に興味を持っているのか正確にわかるんだからね、と。

当時、グーグル検索のトラフィックは急拡大していたが、利益はほとんどあがっていなかった。

この日、ラリーとジョナサンはグーグルとエキサイト@ホームとの提携の可能性について話し合っていた。

ケーブルモデム事業のパイオニアであった@ホームと、初期に登場したネット検索エンジンの一つであったエキサイトの合併によって誕生したエキサイト@ホームには資金力があった。

だがエキサイト@ホームがトラフィックから収益を上げるため、ありとあらゆる手を尽くしていたのとは対照的に、グーグルはひたすら成長することに集中した。

お金を稼ぐ機会ならいくらでもあった。

グーグル・ドットコムのトラフィックは急増していたので、ほかの商業ウェブサイトを見本にして、ホームページに広告を載せるという手もあったが、グーグルは見向きもしなかった。

そして検索エンジンを改良することに全力をあげた。

広告プラットフォーム「アドワーズ」にも同じアプローチをとった。

AOLやアスク・ジーブスのようなパブリッシング・パートナーと提携し、それぞれのウェブサイトに広告を掲載するのにアドワーズを使ってもらったのだ。

このような提携で常に問題になるのは、利益配分だ。

グーグルの広告システムによってAOLやアスク・ジーブスのサイトに広告が表示され、ユーザがそれをクリックすると、広告主からグーグルに広告料が支払われる。

それをパブリッシング・パートナーといくらずつ分けるべきだろうか。

グーグルは常に相手方にできるだけ多く渡すようにした。

利益より規模拡大を優先していたからだ。

もちろんパブリッシング・パートナーは大歓迎だ。

各社とも非常に高い売上目標を設定していたが、グーグル検索が普及するなか、達成に苦労するようになっていた。

このためパートナーは目標の未達分を埋め、四半期売上を伸ばすために、グーグルの広告をできるだけたくさん掲載しようとした。

ジョナサンはわざわざAOLの担当者を訪問して、広告を表示しすぎないようアドバイスしたほどだ。

ユーザ・エクスペリエンスが悪くなり、トラフィックに悪影響が出ますよ、と。

だが相手は耳を貸そうとしなかった。

成長より利益を重視していたためだ。

グーグルはまさにその逆を行った。

ただ言うまでもないが、優れた企業の基礎とは、いずれ収益を生み出すためのしっかりとした素地を整えるものでなければならない。

かつてのドットコム企業の「カネを稼ぐ方法なんて知らない!(でもすごいだろ、オレのサービス!)」というやり方はうまくいかなかったし、それが当然だ。

グーグルの創業者たちには、広告で利益をあげられることがわかっていた。

創設当初から具体的な収益化のイメージがあったわけではなく、またプラットフォームをスケールする間は収益化については機が熟すのを待っていたが、全体的な収益モデルについては明確な考えがあった。

プラットフォームにはもう一つ、重要なメリットがある。

プラットフォームが成長し、その価値が高まると、投資が集まってくることだ。

その結果、プラットフォームが支えるプロダクトやサービスの質を高めることができる。

ハイテク業界で「プロダクトよりプラットフォーム」という考え方が一般的なのはこのためだ。

ロナルド・コースと企業の本質あまり認知されていないものの、インターネットの非常に大きな魅力はハイテク業界に限らず、あらゆる業界において、プラットフォームを構築する可能性を

大きく広げたことだ。

企業は昔からネットワークを構築してきたが、従来その多くは社内的なもので、目的はコストを抑えることにあった。

つまりシカゴ大学の経済学者で、ノーベル賞も受賞したロナルド・コースの考えに従ってきたのである。

コースは、ベンダーを探し、条件交渉をし、きちんと業務が遂行されるように監視するコストは高いため、企業にとって業務を外部に任せるより、内製化したほうが合理的な場合が多い、と主張した。

いわく、「企業は、社内で新たな取引を組織するコストが、同じ取引を自由市場での交換のかたちで実行する場合のコスト、あるいは別の会社との間で組織するコストと一致するまで拡大する」。

二〇世紀の優れた会社は試算の結果、必要な取引のほとんどについてはコースの言い分が正しいという判断に達した。

社内の管理コストのほうが、アウトソーシングによる取引コストより低かったのだ。

この結果、取引はなるべく社内にとどめ、どうしても社外で取引をする場合は、相手を厳格に管理できる少数の取引先に絞った。

このように二〇世紀を支配していたのは、巨大なヒエラルキー、あるいは閉鎖的ネットワークを持つ企業だった。

こんにちでもコースの論理は妥当性を失ってはいない。

しかし、それに従った場合の企業の行動は、二〇世紀とはまったく異なるものになった。

できるだけ巨大な閉鎖的ネットワークを構築するのではなく、より多くの機能をアウトソースし、より多くの、多様なパートナー企業とのネットワークを構築するようになった。

なぜか。

その理由をドン・タプスコットが著書『ウィキノミクス』で的確に指摘している。

「インターネットによって取引コストが劇的に低下したため、コースの法則は逆から読んだほうがよくなった。

いまとなっては、企業は社内で取引をするコストが、社外と取引するコストを超えないようになるまで規模を縮小すべきだ」。

多くの企業がオペレーション上の理由、そしてコスト削減のためだけにこの論理に従った。

賃金の低い市場にアウトソースすれば、コストを抑えられる。

ただ、そういう企業は重要な点を見落としている。

インターネットの世紀において、ネットワークを構築する目的はコストを抑え、オペレーションを効率化することだけではない。

本質的に優れたプロダクトをつくるためだ。

コストを下げるためにネットワークを構築する会社は多いが、プロダクトやビジネスモデルを根本から見直すためにそうする会社は少ない。

数えきれないほどの産業で既存企業がこの重大な機会を逸しており、新たな企業が攻め込む隙が生じている。

ツイッターはハイテク企業ではない。

パブリッシング企業だ。

エアビーアンドビーは宿泊業のプラットフォーム、ウーバーは個人に移動手段を提供するプラットフォームだ。

23アンドミーはコンシューマー・サービスの会社であると同時に、プラットフォーム的でもある。

有料で顧客自身の遺伝情報をマッピングするが、そうした情報を収集すれば強力なデータ・プラットフォームを生み出すことができる。

たとえば製薬会社が23アンドミーのデータを使って、新薬研究の協力者を探し、また研究で得られたデータをプラットフォームに加えることもできる。

プラットフォームの例はまだまだある。

スクエアは中小企業向け決済の、ナイキ・フュエルバンドはフィットネスの、キックスターターは資金調達のプラットフォームだ。

マイフィットネス・パルはダイエットの、ネットフリックスは動画鑑賞の、スポティファイは音楽のためのプラットフォームである。

こうした企業は、既存の技術要素をまったく新しい方法で組み合わせ、既存の事業の在り方を根本からつくり変えている。

パートナー企業が顧客と関係を築くためのプラットフォームを整え、そのプラットフォームを使って高度に差異化されたプロダクトやサービスを提供している。

このモデルはどんな産業にも当てはまる。

旅行、自動車、アパレル、レストラン、食品、小売り――。

どんな業界にも、プロダクトの質を高め、より多くの人に使ってもらう方法はある。

これが二〇世紀型経済と、二一世紀型経済の違いだ。

二〇世紀は閉鎖的ネットワークを持つ巨大企業が支配していたが、二一世紀を引っ張るのはグローバルでオープンな企業だ。

プラットフォームをつくる機会は、私たちの身の回りにいくらでもある。

それを発見するのが優れたリーダーだ。

特化するもう一つの勝ちパターンは、特化すべき対象を見つけることだ。

成長の可能性がある専門分野を見つけることが、プラットフォームを生み出す近道になることもある。

グーグルは一九九〇年代末、検索プラットフォームを拡大するため、たった一つのことに集中した。

最高の検索サービスの実現である。

その指標として五つの軸を設けた。

①スピード(遅いより速いほうがいいに決まってる)、②正確性(検索結果の検索語に対する妥当性)、③使いやすさ(おじいちゃんやおばあちゃんもグーグルを使いこなせるか?)、④網羅性(インターネット全体を検索できているか)、⑤鮮度(検索結果には最新の情報が表示されるか)、である。

グーグルはユーザに正しい答えを届けることにとことんこだわっていたため、ユーザが回答に不満があるときはライバルの検索サイトですぐに検索できるように、検索結果のページの一番下にはヤフー、アルタビスタ、アスク・ジーブスなどへのリンクが表示されることもめずらしくなかった。

当時、有力サイトの多くは「ポータル化」を目指していた。

幅広い興味やニーズに対応する、多機能なメディアサイトである。

ネットスケープ、ヤフー、AOLなど、そうした企業には検索に興味がないところもあり、進んでグーグルと提携し、検索機能を任せてくれた。

グーグルは検索こそ急成長するインターネット産業のなかでも最も重要なアプリケーションの一つだと信じていた。

ただ、検索に特化したのは、最終的に検索のほうがポータルより収益性や影響力が高そうだと予知していたためではない。

ほかの誰よりも自分たちが得意なのは検索だと思ったからだ。

こうしてインターネットの草創期、業界の主要企業がポータル化に邁進するのを尻目に、グーグル検索の質は着実に高まっていった。

(検索の質を高めることは、パブリッシャーのサイトへのトラフィックを増やすというプラス効果もあった。

ユーザがサイトの提供するニュース、情報、エンタテインメントを見つけやすくなったためだ。

この結果、より多くのコンテンツがネット上で提供されるようになった)初期設定は「クローズ」ではなく「オープン」にプラットフォームはオープンであるほうが、急速にスケールする。

プラットフォームのプラットフォームである、インターネットを見ればよくわかる。

一九七〇年代初頭、ビント・サーフとロバート・カーンは異種のコンピュータ・ネットワーク(たとえばインターネットの先祖であるARPANETなど)をつなぎ、通信するための通信プロトコル「TCP/IP」を開発していた。

実際にどれほどの規模の、またどれほどの数のネットワークをつなぐことになるか見当もつかなかったため、接続できるネットワークの数に上限を設けず、このプロトコルを使えばあらゆるネットワークがあらゆるネットワークとつながれるようにした。

このインターネットをオープンにする、というたった一つの決断(当時としては自明の選択ではなかった)が、こんにち私たちが使っているすばらしいウェブの世界を生み出すことになった(ハル・バリアンはインターネットを「研究室から逃げ出した実験」と呼ぶ)。

あるいは、再び固定電話の例を見てみよう。

かつてAT&Tの固定電話は音声通信という単一のアプリケーション・プラットフォームと見なされており、アメリカ国内におけるネットワークの成長は頭打ちとなった。

イノベーションは一切生まれず、成長要因は人口増加、あるいはティーンエイジャーになったベビーブーム世代が家に二台目の電話を求めることしかなかった。

だが政府の命令によってAT&Tがネットワークを新たな端末やほかの通信会社に開放した結果、イノベーションが一気に湧き起こった。

新しいタイプの電話、FAX、モデム、安価な長距離電話(いまや長距離電話という概念すらないが)――こうしたイノベーションはすべて、プラットフォームがクローズからオープンに転換したことで生まれた。

もう一つの例が、IBM-PCだ。

一九八一年の誕生以来、ソフトウェア・デベロッパーやメーカーが自由にアプリケーションやアドオン・コンポーネント、さらには独自の互換機まで開発できるようなアーキテクチャを採用していた。

しかもIBMにライセンス料を支払う必要もなしに、である。

この決定によりIBM-PCは誕生したばかりの「マイクロコンピュータ」市場で圧倒的なスタンダードとなり、マイクロソフトとインテルというちっぽけな二つの会社にとっては大きな追い風となった。

このエコシステムには大量のアプリケーション、アクセサリ、ライバルメーカーも加わり、それから四半世紀にわたってコンピューティング市場の支配的なプラットフォームとなった。

IBM-PCが閉鎖的プラットフォームだったら、こうしたことは起こらなかったはずだ。

「オープン」というのは、映画《羅生門》的な言葉だ。

それぞれ異なる思惑を持つ会社によって、解釈のしかたがまったく違ってくる。

だが一般的には、ソフトウェア・コードや研究成果などできるだけ多くの知的財産を共有し、独自のスタンダードをつくらずオープンなスタンダードに従い、顧客にプラットフォームから退出する自由を与えることを意味する。

ライバルに対して持続的に競争優位を確立し、要塞の門を閉ざして断固として守り抜けと説く従来型のMBA流経営から見れば、異端かもしれない。

異端の常として、「オープン」は本流の立場から見るとおそろしい。

居心地のよい、閉ざされた世界に顧客を囲い込んで競争するほうが、オープンな荒野に乗り出し、イノベーションと実力を頼みに勝負するよりずっと楽だ。

オープンな世界では、スケールやイノベーションと引き換えに、

 

コントロール能力を手放さなければならない。

そして自社のスマート・クリエイティブが勝利する方法を導き出してくれると信頼するのだ。

あなたが堅牢な守りを固めた従来型企業に立ち向かおうとしているなら、まさにその堅牢性を突けばいい。

相手が閉ざされた豚舎で餌を貪り食っている間に、破壊的なビジネスモデルと破壊的なプロダクトで攻撃をしかけるのだ。

そこではオープンシステムが大きな力を発揮する。

それはエコシステムにイノベーション(プラットフォームにとっては新たな機能、パートナーには新たなアプリケーション)をもたらし、互換性のあるコンポーネントのコストを押し下げる。

ユーザにより多くの価値をもたらし、新たなエコシステムの成長を加速する。

たいてい犠牲になるのは、従来型企業のクローズド・プラットフォームだ。

教育市場に目を向けると、カーン・アカデミー、コーセラ、ユダシティなどが地盤を固めようとしている。

インターネットの世紀の技術(オンライン動画、インタラクティブでソーシャルなツール)とオープンなビジネスモデル(誰もが無料で受講できる)を組み合わせている。

これは既存勢力(高い固定費をカバーするため学費が高い)とはまったく異なる。

この新たな破壊的勢力が勝利を収めるのか、その場合に勝者となるのはどこか、あるいは既存勢力のなかで目端の利く大学が反撃するのか、まだ見通すことはできない。

少なくとも「インターネット技術+オープンシステム」という組み合わせが、カーン・アカデミーの掲げる「世界水準の教育をどこでも、誰にでも、無償で」という使命を実現するような、より良い教育のエコシステムを生み出すことだけは間違いなさそうだ。

オープンなシステムをつくると、何千人という人材の才能を活用できるようになる。

サン・マイクロシステムズ共同創業者のビル・ジョイが言うように「できる人はたいてい誰かほかの人のために仕事をしている」からだ。

オープンな世界では、すでに他の人が完了した仕事をやり直す必要がなくなり、誰もが新たな発明を生み出してシステム全体を前進させることに集中できるため、イノベーションが大いに促進される。

この手法で成功したのがネットフリックスだ。

二〇〇六年、映画レンタル事業を手掛ける同社は、お薦め作品を表示するアルゴリズムを改良したいと考えたが、社内チームの成果は伸び悩んでいた。

そこで従来は非公開にしていた一億件ものユーザによる作品評価を公開し、それを使って現在のアルゴリズムの正確さを少なくとも一〇%改善する仕組みを最初につくった個人あるいはグループに、一〇〇万ドルの賞金を出す、と発表した。

コンテストの進め方もオープンなものだった。

ネットフリックスはトップクラスの参加チームの進捗と順位を公開したのだ。

こうして三年も経たずにすばらしいソリューションができあがった。

オープンソースを選択することにはもう一つ、それほど知られていないが、同じくらい重要なメリットがある。

すべての情報をオンラインで公開すると、隠れた意図が何もないことを世に示すことができる。

ソフトウェアの場合、ソースコードをオープンにすると、それが特定の企業に利益をもたらしていないか誰もが確かめられるようになり、万一そういう状況があれば是正することができる。

何かをオープンソースにすることは、プラットフォーム、産業、そしてエコシステム全体を成長させることに全力で取り組む、と宣言するのに等しい。

競争環境が公平で、特定のプレイヤーが不当に優遇されていないことが全員にわかる。

誰かが不当な優遇を受けているのではないかという疑念を解消することは、成長の追い風となる。

オープンシステムを選ぶべき根拠として最後に挙げるのは、「ユーザの自由」という考え方だ。

これは顧客の囲い込みのまさに逆である。

顧客が自由にシステムから退出できるようにしよう。

グーグルには、ユーザができるだけ簡単にグーグルのプロダクトから退出できるようにすることを任務とするチームがある。

公平な競争環境で戦い、プロダクトの優位性によってユーザの支持を勝ちとりたいと考えているからだ。

顧客が自由に退出できるようにすると、彼らをつなぎとめるために懸命に努力しなければならなくなる。

「初期設定はオープン」の例外オープンか否かというのは、倫理的選択ではない。

初期設定をオープンにするのは、エコシステムにおいてイノベーションをうながし、コストを下げる最適な方法なので、むしろ戦略的選択と見たほうがいいだろう。

オープン化を実践すれば、スケールや収益性を実現するのに役立つだろうか、と自問してみよう。

オープン化にただよう高潔なオーラに吸い寄せられ、スマート・クリエイティブは集まってくるだろう。

「グローバル・プラットフォームのように世界を変えるモノは何もない」なんて歌もあったじゃないか(ちょっと違うかもしれないが、こんな歌があってもいい)。

グーグルはいくつかの例外を除き、初期設定をオープンにする。

ただ、例外があることについて、偽善的だという批判も受ける。

オープンの価値を説きながら、一部ではそれに反しているじゃないか、と。

ただ、私たちは偽善的ではなく、現実的なだけだ。

一般的にオープンであることが最高の戦略であると考えているものの、特定の状況下ではクローズにしたほうがうまくいくこともある。

どう見てもライバルより優れているプロダクトがあり(おそらく優れた技術的アイデアにもとづいているため)、新しく急成長を遂げる市場で競争しているときは、プラットフォームをオープンにしなくても急速に成長することができる。

創業初期のグーグル検索や広告エンジンはまさにそうした事例だったが、こうした状況はめったにない。

さらにオープンなプラットフォームがユーザやイノベーションにプラスにならないこともある。

従来型企業がプラットフォームをクローズにする根拠としてよく主張するのは、システムをオープンにすると品質が下がる、だからクローズの状態を維持するのは優れた企業市民として顧客の利益を守る行為にほかならない、ということだ。

グーグルも創業初期に経験したように、たしかにこの主張が真実である場合もある。

グーグルが検索や広告のアルゴリズムをオープンにしていたら、品質に重大なダメージが生じていたはずだ。

検索業界には、ユーザ・エクスペリエンスを低下させることで利益を得ようとする輩が多いからだ。

ユーザにとって最も妥当性の高い検索結果や広告を表示し、クリックしてもらうより、自分たちに都合のよい結果や広告を、それがユーザにとって価値があるかどうかはお構いなしに見せようとする。

だから、こと検索というエコシステムにとっては、グーグルがユーザの検索語にふさわしい結果を表示するためのアルゴリズムは秘密しておくのが一番いい、というのが私たちの判断だ。

二〇〇五年に「アンドロイド」という小さなモバイルOSの会社を買収したときも、それをオープンソースにすべきか否かをめぐり、経営陣で議論になった。

アンディ・ルービンをはじめとするアンドロイド出身組は当初、クローズにすべきだと考えていたが、セルゲイはその逆を主張した。

なぜオープンにしないんだ?アンドロイドをオープンにしたほうが、細分化されたモバイルOSの世界で一気にスケールすることができるじゃないか、と。

こうしてアンドロイドはオープンソースと決まった。

一方、アップルはiPhoneのベースであるiOSをクローズとした。

規模よりコントロールを維持することを選択したわけだ。

オープンソースを選択したアンドロイドは驚異的な成長を遂げ、そのおかげでグーグルはパソコンからモバイルへというプラットフォームの変化にスムーズに対応できた。

この新たなプラットフォームは、検索とかなり相性がいい(より多くの人がスマートフォンを使ってネットに接続するようになれば、検索の頻度が高まるからだ)。

iOSはクローズ・システムのまま、すばらしいスケールと収益性を達成した。

新たな事業という観点からいえば、どちらの道も勝利につながっていたわけだ。

ただ、ここで重要なのはiPhoneの成功の根底には、グーグルの検索のケースと同じように、急速に変化する業界において明らかに他を圧倒する優れたプロダクトを生み出すような比類なき技術的アイデアがあったということだ。

クローズ・システムでもこれほど強烈なインパクトを発揮できるプロダクトがあるなら、挑戦してもいいだろう。

だがそうではない場合、初期設定はオープンにしたほうがいい。

ライバルに追随するなライバル企業の動向を気にするビジネスリーダーが多いことには、よく驚かされる。

大企業の幹部が集まる会議では、スマートフォンをチェックしたり、その日の予定を考えたりして上の空になっている人が多いが、そこでライバル企業の話が出れば、すぐに全員が耳をそばだてる。

まるで組織のなかで一定以上の地位に達すると、自分の会社の状況と同じくらいライバル企業の状況を気にしなければならないルールでもあるかのようだ。

強迫観念にとらわれていることが、企業の上層部のデフォルトの心理状態になっているケースがあまりに多い。

ライバルの動向へのこだわりは、凡庸さへの悪循環につながる。

ビジネスリーダーは他社の動きを観察し、真似ばかりしている。

ようやく他社から目をそらしたかと思えば、今度はリスクをとることに慎重になり、インパクトの小さな漸次的変化しか起こさない。

ライバルの近くにいると、安心感が得られる。

ヨットレースでもおなじみの戦略で、先頭を走るヨットは後から来るヨットに合わせて船の向きを変える。

後続船が別の方向に進み、自分より強い風を見つけるのを防ぐためだ。

ライバル企業はダンゴ状態になり、どこか一社が抜け駆けをして別の場所で新たな風を見つけることを許さない。

だがラリー・ペイジが言うように、「同じようなことをしている他社を負かすだけでは、仕事としてちっともおもしろくないじゃないか」。

ライバルばかり見ていては、本当にイノベーティブなモノは絶対に生み出せない。

あなたとライバルが市場シェアの数パーセントをめぐって争っている間に、

そんなものはまったく気にしないほかの誰かが出てきて、新しいプラットフォームをつくり、市場を一変させてしまうだろう。

もう一度ラリーの言葉を引用しよう。

「もちろん、ぼくらもライバルのことを多少は気にするさ。

でもぼくの重要な仕事は、社員にライバルのことを考えさせないようにすることだ。

一般的に、人はすでにあるモノのことを考えがちだ。

ぼくらの仕事は、まだ考えてみたこともないけれど、本当に必要なモノを思いつくことだ。

ライバルがそれを知っていたとしても、当然ぼくらには教えてくれないからね」ライバルを無視しろと言っているわけではない。

競争は企業を強くし、緊張感を与えてくれる。

人間はとかく慢心しやすい生き物で、どれだけ自分に油断するなと言い聞かせても意味がない。

ライバルほどやる気に火をつけてくれる者はいない。

マイクロソフトが二〇〇九年に検索エンジンBingを立ち上げたとき、グーグルは大きな不安に駆られ、全員が総力を挙げて検索の強化に取り組んだ。

そのなかでグーグル・インスタント(検索語を入力している間に検索結果を表示する)、画像検索(画像を検索ボックスにドラッグすると、画像を認識して検索語として使う)などの新機能の種が生まれた。

つまりBingの登場は、これらのすばらしい新機能誕生の直接的きっかけとなったのだ。

ニーチェも『ツァラトゥストラはこう語った』に書いている。

「あなたの敵を誇りに思え。

そうすれば敵の成功はあなたの成功にもなる」。

ライバルを誇りに思おう。

ただ、追随はしないこと。

エリックからのアドバイス――戦略会議の要諦私たちは仲間とともに戦略を検討するのに、数えきれないほどの時間を費やしてきた。

スマート・クリエイティブのチームができ、新しい事業の基本条件を書き出す準備が整うと、この作業はがぜん楽しくなる。

みなさんが最初の戦略ジャム・セッションを開くときが来たら、私たち自身がこれまで経験してきた戦略会議のなかで――ホワイトボード、壁に貼られたポストイット、手書きのメモ、自分自身に宛てたメールのなかから――集めた珠玉の英知(であってほしい)にぜひ目を通してほしい。

正しい戦略にはある種の美しさがある。

多くの人やアイデアが成功のために一つになっている感覚とでも言おうか。

まず、「五年後はどうなっているか」と尋ねるところから始めよう。

そこから現在に戻ってくるのだ。

慎重に検討しよう。

いま、自信を持って断言できることは、すぐに変わってしまう可能性がある。

とくに状況を劇的に変えるのは、技術によって費用曲線が急速に下方シフトしている環境下における生産要素、あるいは新たなプラットフォームなどである。

五年の間には、多くの市場に破壊的要因、そして機会が現れるだろう。

あなたに影響をおよぼす破壊的要因はなんだろう。

いまや完璧な市場情報や潤沢な資本が手に入るようになった。

だからプロダクトとプラットフォームで勝負しなければならない。

戦略会議では時間の大半を、プロダクトとプラットフォームの検討に使おう。

市場で破壊的変化が起きるとき、想定されるシナリオは二つある。

あなたが既存企業である場合、破壊的挑戦者を買収、育成、あるいは無視することができる。

無視する戦略は短期間しか通用しないだろう。

買収あるいは育成することを選択した場合、挑戦者の攻撃の武器となる技術的アイデアをしっかりと理解しなければならない。

一方、あなた自身が挑戦者である場合、そのアイデアを軸にプロダクトを開発し、事業を構築しなければならない。

さらには既存企業があなたを阻止するために使いそうな手段(取引先、規制、訴訟など)を把握しておこう。

あなたとインセンティブが一致しそうな、ほかのプレイヤーを巻き込めないか考えてみよう。

戦略には、既存のビジネスの枠組み(部門、会社、チーム)の外側にいる人々が、内側にいる人々と一緒になってイノベーションを考えるような仕組みを盛り込む必要がある。

何より重要なのは成長だ。

インターネットの世紀で大成功を収めるのは、成長とともに質が高まり、強くなるようなプラットフォームだ。

ざっくりとしたタイムフレームと、達成したい目標を設定しよう。

市場調査や競争分析に頼るのはやめよう。

スライドは活発な議論を封じ込めてしまう。

代わりに会議室に集まった全員にインプットを求めよう。

反復は戦略の最も重要な構成要素だ。

常に学習した結果にもとづいて、とにかく早く反復作業を繰り返そう。

成功している大企業は例外なく、次の点から出発している。

①問題をまったく新しい方法で解決する②その解決法を生かして急速に成長・拡大する③成功の最大の要因はプロダクトである最後に、あなたと一緒に戦略を検討する仲間について。

賢く選ぼう。

在職期間が長いとか、社内の職位が高いといった人ばかりを集めるのではなく、最高のスマート・クリエイティブ、そしてこれから起こり得る変化を見通す能力が高い人材を選ぶべきだ。

 

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