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我社の事業を創る

目次

まえがき●

本書は、既刊〈経営戦略・利益戦略)の全面改訂版である。既刊の内容を二冊に分けて一冊を〈社長の姿勢〉、もう一冊を〈経営戦略〉としたものである。それぞれの内容の充実を計るためである。

そのために、この〈経営戦略〉も、新しい事態に対応しての加筆だけでなく、可成りの新しいテーマを載せることができたために、様々な状況に対しての戦略的決定に役立つことができるようになったと自負してもいるのである。

いうまでもなく、戦略とは「戦ずして勝つ」あるいは「戦ずして優位に立つ」ための事業構造の変革であり、それによって自然に高収益を生むことができるような体制を実現することである。

※戦いを選ぶと血みどろの戦が始まってしまい、生き残りの確率が下がる。

経営戦略は常に先手をとることによって大きな効果を発揮する。

※常に市場で先手を取れるように動けるようにする。

しかも、その戦略は、そのごく一部を除いて敵はなかなか気付かないし、気付かれても反撃が難しい場合が多い、という誠に安全度の高いものである。その上、状況の変化に対応することもやさしいのである。だから、戦略のあるなしでは、長期的に大きな差がつくものである。

※敵が気づかないように動く。また気付かれても時すでに遅しの状況を作ること。

その基本的原理と法則をのべたものが本書である。

多くの社長諸兄の御研究と実践を切望するものである。

平成四年十二月

一倉 定

※本書は、 一九七五年に出版し、 一九九二年に実例を大幅書き換え追補した全訂版を復刻した新装版である。

経営戦略とは●

敵を見ずして敵を制するを戦略という(孫子)

孫子の戦略の定義を経営に当てはめてみると、それは「高収益型事業構造」のことである。しかも、「自然に高収益が上がるような」事業構造でなければならない。

※高収益型事業構造を作り出さなければならない。

事業は、永久に存続しなければならないという至上命令を背負っている。そのためには存続に必要な利益を確保しなければならない。

※事業、会社は永続しなければいけないという至上命令を背負っている。そのために必要な利益を確保し続けることが必要だ。

企業の活動は広範で多岐にわたる。それらの活動は、常に市場の変化に対応するための弾力性と機動力を持たなければならず、もしも変化に対応できなければ存続も難しくなる。

※企業の活動は広範で多岐にわたるが、常に市場の変化に対応できるように弾力性と機動力を備えておかなければならない。弾力性?機動力はスピード?

右のような要請に答えられる事業構造とはどんなものであろうか。それは、事業構造それ自体が効率的で、しかも柔軟なものでなければならない。

※また事業構造がそれ自体で効率的で柔軟性を持っている必要がある。効率的?柔軟性?

詳しくは本文の中でのべることとして、どのような構造を持ったものだろうか、それは、

  • 1.どんな市場、又はどんな市場の組合わせにするか
  • 2.どんな商品構成、どんなグレードとするか
  • 3.どんな得意先構成とするか
  • 4.どんな店舗展開をするか
  • 5.どんな供給体勢(内外作区分、仕入体勢)とするか
  • 6.未来事業の推進体勢をどうするか
  • 7.人員構成をどうするか

というようなものが主体となる。

そして、その活動、相互関連などは、必ず客観情勢の変化への対応がその基本認識でなければならない。

※全ては、常に変化する客観情勢への対応が基本認識であること。

社内の都合を優先したならば、お客様の要求を十分に満たすことができなくなり、企業は衰亡してゆくより外に道はないのである。数々の実例がこれを如実に教えてくれている。

※社内の都合は、客観情勢には関係がない。全てはお客様の要求を十分に満たすこと。そうしなければ企業は衰亡していく運命にある。

企業の最高唯一の責任者である社長の「正しい姿勢」こそ企業繁栄の基本であることを忘れてはならないのである。

※そしてその正しい姿勢を社長が持たないといけない。

T社長の苦悩●

T社は、従業員約百名で、アイスクリームの専業メーカーである。

月商の四倍にも相当する累積赤字をかかえて、極度に悪い資金繰りに悩まされながら、必死に頑張っているが、業績回復の見込みは全く立たなかった。

※うちと一緒である。。。

T氏は経営には熱心で、過去数年の間に、経営の近代化に異常なまでの努力を傾けてきたのである。

※経営の近代化、すなわち内部管理に異常なほど注力してしまったらそうなる。経営熱心な経営者が陥る罠。

外部からの指導を受けて、その勧告を矢継早に実施した。まず組織である。次は職務分掌、事務の合理化、モラル・サーベイ、賃金規定の整備、設備の近代化、生産の合理化、コストの逓減などなど……。

※特にコンサルタントと呼ばれる人間のアドバイスには注意が必要。

しかし業績は悪化の一途を辿るばかりである。人材がいないということで、人材を導入し、権限を大幅に委譲した。その結果はその人材と社長との意見対立となり、人材は退社してしまった。

※権限移譲とかない。

その人材が在職中の提案による、コンピューターによる管理(実は単なる計算)も何の効果もなく、経費を喰うだけだったのである。

※コンピューターは経費を食うだけ。お金の無駄。

今はコンピューターを捨て、いままでやってきたいろいろな近代化の手法にも、全く信頼がおけなくなってしまった、というのである。

T氏の説明によると、アイスクリームという季節商品なるが故に、夏場は忙しくて利益がでるが、冬場は売上げが三分の一にも激減し、夏場の利益を全部喰いつぶして、なお足りないというのである。

※通年販売できる商品を準備しなければならない。

そのアイスクリーム製造設備は非常に立派なもので、ある権威者からは激賞を得ているという程のものだという。いくらほめられたって、会社自体が赤字では、どうにもならないのだ。

冬場の落ち込みをカバーするために、過去において、「玉葱の皮むき」が面白いといわれて、わざわざ工場を建て設備をしたけれども、原料相場の変動が激しく、だからといって、その変動を売価にかけられず、これは失敗してしまった。

今は、冬場の仕事として「中華饉頭」をやっているが、売上げは僅かで、とても冬場を支えられるものではない、というのである。

私のセミナー会場に、時間を打合せてきていただいての、セミナー終了後の僅かな時間の相談である。

こういう苦境を訴えられると、私はじっとしていられない。自分で赤字会社の体験があるだけに、何とかしてあげたいが、汽車の時刻はせまっている。

お手伝いの日程は何とかやりくりするから、とりあえず次の手を打ち、その結果を電話で知らせてくれということで我慢をしてもらった。

手を打つに当って、まず社長に自覚をうながしたのは、会社の事業構造の欠陥である。

※まず事業構造の欠陥を見つけなければならない。分析する順番は?サプライチェーン順?

その第一は、大企業との完全な「競合」であるということだ。大企業と競合して勝てる筈がない。こういうものに社運をかけること自体がすでに疑問なのだ。といったところで、今すぐどうにもなるものではない。

※大企業との完全な競合は避ける。

何か突破口があるかも知れないが、それは、お手伝いの時だ。

第二の欠陥は、「単品経営」である。客観情勢は、いつどのように変るか分ったものではない。何かの変化や斜陽化に対して、極めてもろい、「危険な体質」だということだ。

※単品経営は、客観情勢の変化に対して非常に脆い。その単品が斜陽化してしまったら終わり。

第三番目に、「季節商品」ということである。夏場だけで採算のとれる事業など、あるものではない。

※通年で販売でき、安定的に売れる事業を行わなければならない。

以上、三つの大欠陥をよく認識した上で、次のような手を打つこと。まず初めに、過去の合理化・近代化の思想を全部捨てること。

※過度な内部管理は不要。

そんなものは、事業経営に害ではあっても益になることは決してない。このことは、社長自身がよく知っている筈だ。(これはすぐ了解してくれた)

※内部管理は事業経営に害であっても益になることは決してない。

そして、当面、社長として全力を尽さなければならないのは、冬場の売上げをあげることだ。中華餞頭の売上げも、今まで努力してきたことは分るが、営業部長とともに、販売の第一線に立つこと。

次には、中華餞頭の高級化の検討だ。高価でもいいから、うまいものを試作して、数店のモデル店舗で試売してみること。もしも、よく売れるなら、それはお客様の好みに合ったものだから、計画的に高級品の比率を高めること。

※計画的に商品の高級化に努めること。

売れ行きが思わしくないなら、いさぎよくあきらめて、別の道をさがすより外にない。その外に、「社長として、中華餞頭の売上げをのばす手は考えられないか」と質問したところ、「ある大手の食品会社から、中華鰻頭の引合いがある」という返事である。

私は、「その話にすぐ乗れ。多少の収益性の悪さは我慢して話をまとめること。収益性は低くとも、遊んでいるよりいいのだ」と。

※多少の収益性の悪さは我慢して契約すること。収益性が低くとも時間を持て余しているよりいい。

その外に、灯油販売をやりたいというので、それもやった方がよい、と勧告する。この非常事態に、なりふりなどかまっていられないのだ。

※非常事態にはできることは全てやること。

そして、宿題として、T社の設備を使って、製造できる商品は何か、関係会社などから仕入れできる可能性のある商品は何かを、百種類一覧表にすることを依頼して別れた。

※製造できる商品の精査、また仕入れできる商品の精査

しばらくして、T社長より電話があり、中華餞頭の引合いがまとまったし、灯油の販売も始まったということであった。

その後数回の電話があり、高級な中華餞頭は、繁華街では売れるけれども、それ以外のところでは思わしくない、というようなことも知らせてくれた。そして、早く来てくれという催促である。

しまいには、私の仕事先にまで押しかけて、何とか都合がつかないかという。私は、こういう人が好きである。社長は、こうありたいものである。

その熱とねばりに、私は負けてしまった。そして、ついに、予定を繰上げてお手伝いをすることになったのである。こうして、私の休日はつぶれてゆく。

そんなムリをして、身体をこわしたらどうすると、女房に叱られるが、会社が苦境にあるのをどうしても見過せないという、損な性分なのだ。

教 訓

  1. 内部管理の手法を、経営学と思いこんではならない。
  2. 社長は、危険な事業構造は何かをまず知り、これを改めなければならない

商品の品質は顧客の要求に合っているか●

T社に初めてお伺いした日に、事務所を通って会議室に入った。会議室に入ると、いきなり社長に苦言だ。

「事務所が広すぎる。この三分の一もあればたくさんだ。その中に、社長室、応接室、会議室まで全部含めるべきだ。事務所という直接収益を生まない施設に、こんなに金をかけるのは間違いだ。金の使い方を全く知らない」ときめつけたのである。

※事務所は直接収益を生むことがないため、小さくする。お金の使い方を知らなければならない。お金は収益を増やすことに使用する。

会議室に集まった役員に対して、

「あなた方の会社は、いままでまったく見当外れのことをやっていたために、こんな大赤字になってしまったことを知らなければならない。

企業の経営とは、社内の人々の活動を管理することではなくて、お客様の要求を見つけだし、これを満たしてゆくことである。

会社経営の基本は、利益をあげて存続することである。つぶれてしまえば、何もかも終りである。だから、安定的に利益をあげ続けることができるような「事業構造」を考えなければならない。それを、「経営計画」という道具を使って探しだし、実現してゆくのだ」

※内部管理は検討はずれの活動。会社経営の基本は利益を上げて存続すること。潰れたら全ておしまい。そのために安定的に利益を上げ続ける「事業構造」を考えて運営しなければならない。

と前おきをして会議に入った。

私は、お手伝いに際して、いつも「売上年計」と、「得意先別売上高ABC分析」と「商品別売上高ABC分析」の3つの資料をつくってもらうことにしている。

※3点セットを作る。「売上年計」と、「得意先別売上高ABC分析」と「商品別売上高ABC分析」

この三つの資料の外には、決算書と試算表があれば、それ以外の資料は、まず必要ないのだ。(売上年計については後述) 

でき上がった「売上年計グラフ」を見ると、順調に伸びてきた売上げが、二年前から横ばいになっている。ハッキリとした「釘折れ」現象だ。

※年計が徐々に下がっていたり、釘おれ状態になっている時は、何かが起きている時。

これは、普通の状態ではあり得ないことである。この時に、何かが起ったか、方針を変えたかが考えられる。社長に、「何か覚えはないか」と質問したところ、しばらく考えていたが、やがて覚えがあるという。

※特に釘折れ現象は普通の状態ではありえない。何かが起きたか、方針を変更した時に起こる。

どういうことかときいてみたら、この時に指導をうけたコンサルタントに、「あなたの会社は、材料費率が高い。材料費率を売価の三〇%に押えるべきだ」と数字を示されて勧告をうけた。成程と思いそれを実施したというのだ。

※材料費率を売価の30%に抑えるべきという見当違いの施策を行なった。

私はピンときた。材料費率を下げたために、味が落ちてしまったのだ。それが売上げを押えてしまったのである。売上げが落ちては、材料費率も何もあったものではない。

※材料費を下げると商品の品質が下がる。

そこで、社長に私の推測をのべ、

「アイスクリームというものは、喰わなくとも死なないのだ。お客様が、アイスクリームを食べるのは、「味」を楽しむものだ。その味を落して売れなくなるのは当り前である。この推測は、まず外れていないと思うが、念のために実験をしなければならない。二年前に材料費率を落した時にも、まず実験をして様子を見てから決定すべきを、それをやらずに実施したから、こんなことになったのだ。

だから、今度はまず試作をして様子を見る。まず一品……最も売れているものがよい……だけ、材料費率など無視して、うまいものを試作する。これは切換えではない。

従来の処方のものは、そのままにしておきなさい。つまり、この商品に限り処方は二本建てとし、売価は同じにする。試作品はモデル店に売って、従来の売上げと比較するのだ」

その結果は、試売四日目に私がお伺いした時に、もうハッキリと売上げが伸びたのが分ったのである。

これに力を得て、さらに二品種について、高品質化の実験をしてみた。一つは、かつては相当な売上げがあったが、いま売上げが急落しているもの。

もう一つは、大企業と完全に競合していて、売上高も低く、ズッと低空飛行を続けているカップ物であった。そして、その二品種とも、たちまち売上増大である。

こうなれば、何も二本建てにする必要はない。試作品を正規商品として、従来品を捨てることにした。

T社長は、全商品を高品質化したいといいだした。私は、それはいうまでもない。けれども、その前に現在四十種類もある品種を半減することだ。

いままでは、売れ行きが不振のために、あれこれやたらに新品種をつくって、何か当らないか……という期待をもち続けてきた。今はもうその必要はない。

品種を整理しないと、売上増大に対処できなくなる。

※あれこれやたらに新品種を作るのは得策ではない。売上増大に対応できなくなるため。

だから、二十種類に減らしたうえで、そのうち売上高の多い順に上から十品種を今年中に高品質化する。

残りの十品目は、もう少し様子を見たうえで、高品質化か切捨てかをきめることだ、と勧告したのである。

仮に二十種類を高品質化してみても、そのなかで本当に売れるのは四〜五種類で、残りは「枯木も山のにぎわい」程度になることは、私の数多くの経験で分っているからである。

新商品の売れ行きが良好で、生産が間に合わないものができた。そこで、小売店直売二割、間屋卸八割という二本建販売なので、間屋に対する出荷を押えて、小売店直売を増やした。

収益性のよい小売店直売が増えたので、材料費が上がったにもかかわらず、材料費率は逆に下がってしまったのである。

※問屋に対して販売すると、利益率が下がる。小売店直売を増やすこと。

売上高の急増で、月次損益は黒字の連続に変ってしまった。翌年の四月、五月、六月と、対前年同月比五〇%の売上増が続いた。売上年計表は急上昇である。

七月は気象異変による長雨と低温で、すべての夏物が三割から五割もの大打撃をうけたにもかかわらず、対前年売上げは九五%を確保したのである。

T社長は、この事実をみせつけられて、すっかり考え方を変えてしまった。そしてコスト主義がいかに間違っているかを思い知らされた。

コストに目がくらんで、お客様を全く忘れてしまった。「我社の赤字は、お客様を忘れたのが原因だ」というのである。

※コストに目が眩むとお客様を忘れてしまう。赤字はお客様を忘れたのが原因になる。

その上、社長に自信をつけさせたのは、大企業と完全に競合する「カップ物」の売上増大である。いままでは、大企業にはどうしても勝てない、と思いこんでいたからである。

教 訓

  1. 「コスト主義」は顧客の要求が忘れられる危険が大きい。
  2. 新商品は「市場においての実験」が大切である。新商品が成功するか否かは、企業がきめるのではなくて、顧客がきめるものだからである。

商品構成をどうするか●

T社はこうしてアイスクリームで、ハッキリと売上増大、収益向上を実現することができるようになり、大企業と競合する自信もついた。

次に控えるのは、季節変動をカバーする冬季商品の開発である。中華餞頭だけでは、冬季を黒字にもってゆくことはできないのであるから、どうしても新商品を開発しなければならないのだ。

ところで、新商品開発の方向として、当面二つの道が考えられる。一つはアイスクリームの製造設備の一部である冷凍冷蔵設備を利用しての冷凍食品であり、もう一つは、中華餞頭とその設備を使っての菓子類である。

※製造設備から製造できる商品を検討する

まず冷凍食品について、いろいろ検討してみると、数々の難点がある。第一に品種選択の難しさであり、次に開発研究に相当な時間がかかって、急を要するT社の要求に合わない。

そのうえ、材料の入手をどうするか、販路の開拓をどうするかという問題に、第一歩から取組まなくてはならない。さらに赤字会社として最もいましめなければならない設備投資に、相当額が必要だということが分った。

※赤字会社が設備投資してはいけない。

というようなことで、冷凍食品は当面のところ取組むべきでない、という結論がでた。残るのは中華餞頭と菓子類である。都合のよいことに、これはアイスクリームの販路にそのまま乗せることができるという有利さがあるのだ。

まず中華餞頭である。去年下請をした会社から、去年を大幅に上廻る引合いがあるので、社長はこれを受けたいという。しかし私はこれを止めた。

「去年は、あくまでも季節赤字をカバーするためのものであったが、今年は違う。勿論それもあるが、もっと重要なことは、T社の「自主経営」のための商品構成をどうするか、という点からよく検討しなければならないからである。

自主経営を目ざすならば、下請の話にやたらに飛びついてはいけない。

※自主経営を目指すなら、下請けの話を受けてはいけない。

あくまでも我社の意思による我社の計画にもとづいて、いくらの受注をすべきかをきめて、それ以上は生産能力がないという理由で断わるべきだ。さもないと、相手に振廻されることになってしまう。

※我が社の計画に基づき、生産能力を見極めて、受託を判断する。状態がいい時は受託しなくていい。

大切なことは、まず我社の意思をきめることだ」というのがその理由である。

会社の安泰のためには、夏季に匹敵する冬季の収益をあげることが最も望ましいことは論をまたない。

とするならば、冬季に十分な売上げを確保できる「商品群」を開発しなければならない。「単品」ではダメである。

だから、中華餞頭は冬季の商品群のなかの一つと考えるのが正しいのだ。どのような商品群にするかは、これからいろいろ検討するとして、まず第一に中華餞頭の売上増大策をきめることから始めなければならない。

中華餞頭だけでは、自主販売が難しいことは過去の経験からハッキリしている。

といって、新商品群が開発されるまで待っている時間的な余裕はない。何としても単品で売上げを伸ばさなければならないのだ。それには、単品でも売れる強い商品にしなければならない。その道はただ一つ、「うまい中華餞頭」をつくる以外にない。

社長はすぐに賛成した。アイスクリームで、その効果の程を見せつけられているからだ。

この時、営業担当常務から、「十円値上げして、十円材料費をかけたらどうか」という意見が出た。私はハッとした。そこまでは私も考えていなかったからである。これは素晴らしい意見である。私は双手をあげて賛成した。

※10円値上げして、10円材料費を増やして品質を保つ。

「これなら「絶対にうまくて安い」饉頭になること請合いである。これなら単品で売れるだけでなく、T社の「看板商品」となる可能性が非常に大きい。看板商品こそ、会社にとって絶大な強味である。

多少収益性が低いのは、売上増大でカバーできるだろうし、会社の「イメージ・アップ料」と考えたら、恐らく「おつり」がくる」と社長にすすめた。

※多少収益性が低くても売上増大でカバーできる。

社長は、「よし、日本一うまい中華餞頭をつくるぞ」と大張切りである。いいムードになってきた。直ちに発売目標期日が決定された。

ところで、下請の方だが、これは去年と同じ処方のものとして、数を限定して受注することにした。次には新商品の開発である。「何をやるか」を、これから見つけなければならない。

※下請は数を限定して受注。

私は「焼だんご」をまず研究してみてはどうかとすすめた。焼だんごには、日本人の郷愁のようなものがあるからだ。

早速、焼だんごの調査にかかった。しかし、調査しているうちに分ったことは、焼だんごのような「朝生」(朝つくって、その日のうちに売りきってしまう生菓子)は、T社の体質に合わないということである。

アイスクリームは、冷凍庫に入れておけば相当長期間の貯蔵がきく。貯蔵がきく商品になれてしまった会社に、朝生のような、せわしない商品は不向きだというのだ。

ところが、焼だんごを調べているうちに、ある菓子の研究家と偶然に知り合い、その人が開発した「半生」(十日から二週間程度の日持ちがする半生菓子)をつくってみないか、とすすめられた。これなら体質に合う。

見本をあるデパートに持込んでみたら、早速扱ってみたい、という色よい返事が得られた、というのである。もう何もいう事はない。

焼だんごは捨てて、この半生をとりあげることにきまった。私は、この半生もコストを無視して、さらにうまいものはできないか、を研究すべきだと勧告した。社長は無論のこと異存はない。

こうして、とにかく冬場商品が二つきまった。しかも、新たにデパートという新得意先つきである。しかし、これで冬場商品の懸案が解決したのではない。それどころか、これから本格的に冬場の事業に取組むのだ。

事業経営にとって、商品構成はその基本となるものだからである。商品構成は、収益性と安全性を兼ねそなえていること。さらに季節変動が少なく、市場の変化に対応できる弾力性が大きいことが大切である。

※商品構成は収益性と安全性を

右の要件を満たすためには、T社にとって冬場商品の充実が最も大切である。そのためには、冬場商品を二十種類程に増やす必要がある。この程度に品種を増やさなければ、顧客の要求も満たせなければ、変化に対する弾力性もつかないからである。

夏場と冬場に、それぞれ二十種類で計四十種類とすれば、もともとのT社の品種と同数であるが、すべての点から見て、商品構成は格段に優れているのである。

夏冬ともに、それぞれ二十種類のうち、常に売れ行き最低の商品を切って、新商品を加える、という「クスクラップ・アンド・ビルド」(新陳代謝)が顧客の要求の変化に対応する道なのである。

このように商品構成をどのようなものにするかということは、企業がきめるのではなくて、顧客がきめるものであるということを、忘れてはならないのである。

※商品構成は、顧客が決めるものである。

商品構成の方針はきまった。次にはこれの推進である。まず第一には、中華餞頭の高級化である。これには、あまり大きな困難はなかった。

今までの経験が物をいったからである。やがて、日本一かどうか分らないがビックリするような試作品ができ上がった。それにもかかわらず、材料費はごく僅かしか上がらなかったのである。

この商品をひっさげて、社長自ら新規得意先の開拓に当った。意外な程順調に開拓が進んだ。素晴らしい商品力が大きな力となったのである。

そして、その年の十月、前年度の三倍の売上げを記録し、さらに月を追って進む開拓によって、十二月までの売上高累計は、前年の四倍にもなったのである。中華餞頭の好調にひきかえ、半生商品の開発は、なかなかうまくいかなかった。

専任者をおいての研究ではあっても、やはり経験がないということは、どうにもならないものである。

そこで、この開発は、満足なものができるまで、たとえ、日標より遅れようとジックリと取組むことにした。下手なものを売り出したら、アイスクリームの失敗の二の舞になるからである。

このような、ゆとりをもつことができるようになったのも、中華餞頭の成功があればこそである。去年の今頃は、喰うために商品の研究など思いも及ばなかったのであるから、全くの様変りである。

教 訓

  1. 商品構成こそ、会社の収益性と安定性を確保する基本である。社長は、我社の商品構成の欠陥を認識するとともに、これに対して明確な方針を持たなければならない

得意先構成をどのようにするか●

T社の得意先別売上高は、さきにのべたように、卸売八対小売店直売二であった。小売店直売は市内に限り、他は卸売で、県外への売上げもかなりあった。

※小売店直売は市内に限る。

さらに、卸売と小売店直売について、それぞれ「九五%の原理」による売上高の分析をしたところ、卸売では、百二十社のうち、上位八十社で「九五%」、同じく一九十社で「九八%」の売上げをあげている。下位三十社でタッタ「二%」にしかならないのである。

小売店直売では、得意先三百二十店のうち、上位二百六十店で「九五%」、同じく二百九十店で「九八%」である。残りの三十店で「二%」である。

まず卸売は、とりあえず下位二%の部分の二十社を切り、あとは小売店直売の増加につれて切捨てをすすめることとした。

小売店については、下位五%の六十店を切る方針を固めた。こちらを一気に五%としたのは、売上高が少なく、T社もちのストッカーの減価償却費だけの収益さえもあげていなかったからである。

この切捨てさえ、セールスマンは反対したのである。社員の意見などきいていたら、会社の業績など上げられないというのは、こういうことなのである。こうして、得意先のスクラップ化が進められた。

そのための策は、訪問禁止である。次は現金決済と配送中止(とりにきてもらう)ということである。これで大部分カタがついてしまった。

次は新規得意先の開拓(ビルド)である。小さな得意先を開拓しても、まったく意味がない。やがてはスクラップ化しなければならないからだ。

※小さな得意先を開拓しても意味がない。いずれスクラップ化するため。

私は、セールスマンの新規開拓を禁止するように進言した。セールスマンに有力得意先を開拓する能力など、ある筈がないからだ。セールスマンにやらせることは、現在の得意先に対して、さらに優れたサービスを行なうことなのである。

※セールスマンは、有力得意先を開拓する能力はない。セールスマンは、現在の得意先に対して優れたサービスを行うこと。

T社では、開拓は社長と営業担当常務が当ることとし、「一年後に年商百万円以上を見込める」ということを条件にした。

※開拓の条件としては、1年後に年商100万円以上を見込めるということを条件にする。

この開拓に当り、市街地図を買ってきて、得意先の位置に印をつけてみた。売上高のランクをつけて色別にした。さらに、売上げを多く期待される地域……繁華街、商店街、住宅団地等の輪かくを囲ってみた。そのうえに、デパートとスーパーの位置に丸印をつけたのである。

その地図には、住宅団地のそばの一店をのぞき、見事なばかりに、売上げを多く期待される地域も、デパートもスーパーも、T社の得意先にはなかったのである。

しかも、住宅団地のそばの店はT社のAランクの得意先であったのである。これを見て、社長と営業担当常務はうなってしまった。いかに我社の販売網が弱いかを思い知らされたからである。

社長も営業担当常務も自らは得意先の開拓に動こうとはせず、セールスマン任せというよりは、全くの放任がこの情ない状態をつくりだしていたのである。

※セールスマン任せになると、販売網が弱いことにすら気づけない。

しかし、T社長は立派であった。自らの怠慢を反省し、営業担当常務とともに、自らが開拓に体当りすることを決心したのである。といっても、これはなまやさしいことではない。競合相手は全国ブランドをもつ大メーカーばかりである。

勝つための絶対条件は、大メーカーより「うまい」ということである。今でも大メーカーよりはうまいけれども、さらに研究を重ねてゆく必要がある。

※他社に勝つポイントを考える。食品だったらまずどこよりも「うまい」ということになる。

幸いなことに、直売すれば一個当りでは量的にも多くできるという利点をもっている。これらの利点をフルに発揮し、地元の利をこれに加えて根気とねばりの戦いが、永久に続くのである。

社長と営業担当常務の開拓活動の成果は、見るべきものがあった。やはり社員とは違う。

そのうえ、中華餞頭という絶対的な切札をもっていることは強かった。秋になってからは特にそうだった。秋に、アイスクリームで新規開拓など、できるわけがないからだ。

中華餞頭によって、有力な店が次々と面白いように開拓できた。この有力店は、やがて来年の春からは、アイスクリームを売りこめる可能性が大きいのである。

教 訓

  1. 得意先と販売網の分析こそ大切である。成果をあげるための数々の情報がそこから得られるからである。
  2. 開拓営業は、社長の役割であって、他の誰の役割でもないのである。

社員の姿勢が変る●

このようにして、T社は赤字から黒字への転換を実現した。T社長は、正しい経営とは何であるかが分り、社長は何をする人かを知ることができたのである。

T社長が正しい営業を行ない、業績が向上してゆくにつれて社員の態度が変ってきた。

いままでは、適当に仕事をしていた社員が、積極的に社長に協力する姿勢をとるようになった。営業会議では活発な意見交換が行なわれ、工場では文句もいわずに残業に協力する。

冬場には、去年の四倍の中華餞頭をつくらなければならないのであるが、そのための会議の席上で、どうしても三カ月間は夜の九時まで作業しなければならないことが明らかになった時に、全員が進んで残業をするといい出したのである。社長はびっくりしてしまった。十日や二十日のことではない。三カ月間なのである。それをやり通すというのである。

社長は、「皆の気持は嬉しいが、そこまでムリをしてくれなくとも、季節工を雇うから」といっても、社員は、季節工を雇ったら何やかやでわずらわしい。それよりも必要最小限のパートを地元から雇い、あとは我々だけでやろうというのである。

新たに冷蔵庫も必要であった。遊んでいる冷蔵庫があるので、それを機械の傍まで、五十米程移動しなければならない。社長は外部に依頼するつもりでいたのに、社員の中に鳶の経験のある者がいて、その社員が道具を借りてきて移動の指揮をとり、社員の日曜出勤でやってしまった。

さらに、その冷蔵庫をいれる建物である。これも、建築の経験のある社員が、溶接機を買ってくれ、そうしたら私達で建てると申し出た。そして、社員だけで建物をつくりあげてしまったのである。諸費用は、外部に依頼した場合の数分の一で済んでしまった。

社員のこのような姿をみて、社長は社員に対して何もいうことはなくなってしまった。

T社長は、「会社というのは、社長次第でどうにでもなることが、はっきりと分りました。私が正しい経営を行ないだしたら、業績はアッという間に好転し、社員に何もいわないのに、社員の姿勢が全く変ってしまった」と。この項の教訓は、右のT社長の言葉そのものである。

※社長次第でどうにでもなる。正しい経営を行ったら業績はあっという間に好転する。

我社の未来像をもつ●

以上のようにして、T社の経営は軌道にのった。いろいろな困難が行手にあるけれども、正しい軌道にのっている限り、努力によって打開してゆくことができる。こうなれば、もう大した心配はないかというと、そうではない。

今までのところは、間違った路線が正されたということであって、当面の経営が心配ないということにしかすぎないのである。事業経営には終りがない。

ということは、長期の正しい方向づけが必要であることを意味している。それは、過去の引延ばしでもなければ現在の延長でもない。社長の経営理念にもとづく、未来像の設定であり、その実現のための政策である。

五年後あるいは十年後の我社の姿はどんなものであり、そのために、いつまでに何をしなければならないか、ということである。

そのための、T社の基本的な方針をいろいろ検討した結果、次のように決定された。

  1. 商品はアイスクリームと半生とし、それぞれ二十種類以内にとどめて、その中でスクラップ・アンド・ビルドを積極的に行なってゆく。
  2. 販売方式は、小売店直売と卸売の二本建てとし、県内は小売店直売、県外は卸売とする。                         ・
  3. 累積赤字が消えた後、二〜三年で直営店を一店舗もつ。
  4. この直営店を核として、チェーン化を進める。チェーン店は直営とフランチャイズシステムとの二本建てとする。というものである。

※まず累積赤字を消す。二〜三年で直営店を一店舗もつ。その後、直営店を核としてチェーン化する。直営店とフランチャイズの2本建にする。

この方針をみれば、誰でもT社の進む方向を、はっきりと知ることができるだろう。

今、T社ではこの方針に沿って、懸命の努力が続けられているのである。もう、私の手を借りる必要は、直営店開設までないであろう、ということで私のお手伝いは一応のピリオドを打ったのである。

T社の社長、社員とともに、私もその将来に楽しい期待をよせているのである。

我社の事業を創る●

T社の例は、典型的とまではいかないけれども、かなりよく、事業経営で陥りやすい誤りと、正しい事業経営のあり方を、われわれに示してくれる。

初めは失敗した。マネジメント病、過大な設備投資、間違ったコスト意識、不用意な新事業進出などである。そして、それらによって手痛い打撃をうけた。これは、世の多くの社長が陥る内部管理指向にその原因がある。内部管理を経営と思いこんでしまったのである。

※内部管理マネジメントを行うことで、間違った経営をすることになってしまう。

しかし、それらの失敗から得られた貴重な教訓を活かして、正しい姿勢に返り、立派に立直っただけでなく、高収益企業への道を歩み始めたのである。

※正しい姿勢に返ることにより、高収益企業への道を歩み始めることになる。

いったん誤りをおかした後に、その誤りをさとって正しい姿勢に返った社長は強い。もう2度と同じ誤りをおかすおそれは全くないからである。

※一度過ちを悟って、正しい姿勢に返った社長は強い。同じ過ちは2度と繰り返さないから。

T社長は時おり私のところに近況を電話で知らせてくる。ある時の電話で、古い資料を整理していた時に、かつての原価計算の資料が出てきたのを見て、胸くそが悪くなり、メチャメチャに破って足で踏みつけてしまったと話してくれた。

T社の立直りの過程を見ると、内部管理の改善など、何もやっていない。

※立ち直りの過程で全く内部管理の改善は行なっていない。

それどころか、次々に捨てているのである。内部管理を散々試みた末に、そうしたものが単なるムダだけではなく、事業経営にとって、全くの邪魔物であることを、骨身に徹して思い知らされているからである。

※内部管理を捨てていく。内部管理を散々試みた末に、そうしたものが単なる無駄だけでなく、事業経営において全くの邪魔物であることを、骨身に徹して思い知らされているからである。

T社の革新の主体は、事業構造を変えることであった。顧客の要求に焦点を合わせ、我社の体質をふまえての高収益構造への脱皮であった。

※まず事業構造を変えること。それも顧客の欲求に焦点を合わせ、我が社の体質を踏まえて高収益構造へ向かう。

社長が革新の先頭に立った。そして、アッという間の収益向上である。同時に、社員の姿勢が全く変ってしまったのである。

私が、社長次第で会社はどうにでもなるというのは、こういうことなのである。

T社の例に見られるように、事業経営というものは、顧客の要求に焦点を合わせ、社長の意思と責任において、まず事業構造それ自体を高収益型に変革する。次に、この事業構造をふまえて、収益をあげるために必要な活動を展開するものなのである。

※高収益

とはいえ、高収益型事業構造の原理原則は一つでも、業種、業態、規模などによって、そのパターン(型)は千差万別である。

しかも、客観情勢の変化に対応するためには、そのパターン自体の変革を行なってゆかなければならないのである。これにともなって、必要な活動も様々に変ってゆくのである。

※客観情勢の

そのうえ、右のような事を実現するために、社員をいかに動機づけ、社長の意図の通りの行動をさせるには、どうしなければならないか、という難問がある。たくさんの会社の社長の大きな悩みがここにある。

さらに、事業経営に不可欠な「資金」の調達と運用についても、最後には、常に社長が解決しなければならないのである。

このように、事業経営というものは広範で複雑極まりないものであり、極めて流動的なのである。それを、何もかも社長がやろうとすれば何もできなくなる。

とするならば、社長は自らに課せられた困難極まる役割を果すためには、基本的な決定と、方針を示すにとどめ、実施はまかせるべきである。

また、社長の人生観や使命感、性格などによって、進むべき方向がきまってくるのである。社長のもつ哲学や性格に合わない事業は、成功する筈がないからである。

このシリーズは、右のような様々な、しかも基本的な認識のもとに、「社長は何をしなければならないか」という課題に対する総合的な解明を試みたものなのである。

事業の経営とはどういうことなのか。正しい社長の姿勢とは何なのか、を考え、事業を繁栄に導き、社長のもつ社会的責任を果してもらいたいというのが、私の切なる願望なのである。

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