ちなみにここで説明されている「企業の中の人たち」の「人」とは、大企業の場合は社長を初めとして取締役や部長クラスのマネジャーのことですが、従業員 100人以下の会社の場合は、社長自身のことを指します。従業員のウエイトはごく低いので、誤解しないようにしてください。 今では、経営書を読むと、差別化についての文章が必ず書かれており、講演会でも差別化の話が必ず出てきます。 しかし日本のコンサルタントが経営の差別化について、ふれるようになったのは、ドラッカーの『創造する経営者』が出版されてからおよそ 10年後の、 1970年代の前半頃になってからのことなのです。 これほど重要なことが日本のコンサルタント業界に広がるのに、なぜ 10年近くもかかったのか。それは、先ほどの短い文章を正しく理解することがなかなかむずかしい上、実際の経営に応用することはもっとむずかしかったからでしょう。 今では、競争条件が不利な会社(業歴が浅い会社、業界でのランクが中以下の会社、後発業者として参入しなければならない会社など)は、経営の大事なところを高いレベルで差別化しなければ、会社を維持することそのものがむずかしくなることは、多くの人々が理解しているはずです。 そして実は、「競争の法則」と呼ばれるランチェスターの法則から考えても、差別化がきわめて重要であることは明らかなのです。 ランチェスターの法則によると、多数の競争相手がいる場合、会社と会社の本当の力関係は「ある局面」に投入される経営力の 2乗に比例するからです。 その事情を簡単に説明しましょう。 大手の A社は、ある商品市場やある地域市場に対して「 1」の経営力を投入しています。 これに対して、経営規模が小さな B社は、同じ商品市場や同じ地域市場に対して、「 0・ 5」と 2分の 1の経営力しか投入できないとします。 この場合の本当の力関係は、この 2乗になるので 1対 0・ 25になってしまいます。 不利なほうの B社は「 0・ 5」の経営力を投入していながら、アウトプットに当たる経済的成果は「 0・ 25」と半分しか出せなくなるので、経営効率は 50%も減少してしまいます。 これでは、経常利益が出たとしてもほんの少しで、たいていは赤字になってしまうでしょう。 では、大手の A社が「 1」の経営力を投入しているとき、小さい C社は「 0・ 33」と、 3分の 1の経営力しか投入できない場合はどうなるでしょうか。 この場合は C社にとってもっと厳しく、本当の力関係はこの 2乗で 1対 0・ 11になってしまいます。 C社は「 0・ 33」の経営力を投入していながら、アウトプットに当たる経済的成果は「 0・ 11」と 3分の 1しか出せなくなり、経営効率は 67%も減少してしまいます。 これではいくら経費の節約に努めても、黒字になるわけがありません。 この状態が数字によりはっきりした形で出てくるのが、デパートやスーパーの売場面積と売上高の関係です。 ある地域で、 2社のスーパーが道をはさんで向かい合って営業しているとします。 A社の売場面積は 1000坪あるのに対して、 B社の売場面積は 500坪とします。 商品の品揃えと営業時間帯はほぼ同じで、駐車場の収容台数も売場面積に比例しているとします。こういう場合の売上高は売場面積の 2乗に比例するので、 A社と B社の売上高は「 1対 0・ 25」になってしまいます。 これに対して 1坪当たりにかかる「経費」は両社ともあまり変わらないので、 B社の損益はとても厳しくなります。
これでは、「働けど働けどわが社の業績はいつまでも良くならず、ジッと資金繰り表を見る」という結果になるのが当たり前です。 つまり、競争条件が不利な会社の業績が思わしくない原因の中で、最もウエイトが高いのが、強い会社から受ける「 2乗作用」の圧迫なのです。「会社と会社の本当の力関係は、ある局面に投入される経営力の 2乗に比例する」 これがランチェスターの法則ですが、多くの中小企業の社長は、この法則をちゃんと研究していません。しかも人の目には「 1対 0・ 5」が「 1対 0・ 25」と映ることはなく、あくまでも「 1対 0・ 5は 1対 0・ 5」に見えるので、強い会社から受ける 2乗作用に、気づかないまま失敗してしまう人がたくさんいます。「競争の原則を知らずに経営すると、失敗する率が高くなる」という教訓がありますが、まさにそのとおりなのです。
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