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離婚のステージ別戦略

目次

まえがき ~離婚というアウェイでの戦いを有利に進めるために ~

男にとって、離婚は決して有利な戦いとはいえません。むしろ、お金のこと、子どものことなど、すべての戦いで不利な状況にあるといってもよく、文字通り「アウェイでの戦い」になるでしょう。

離婚の問題に直面し、情報を得ようとして書店に行くと、離婚関連の書籍のコーナーには淡いピンクやグリーンなどパステルカラーの本がたくさん並んでいます。

インターネットを検索してもパステルカラーのサイトばかりが目につきます。

そのため、書店の離婚の本が並ぶコーナーや、インターネットの離婚情報サイトに男がうかつに足を踏み入れると、電車の女性専用車両に駆け込み乗車してしまったときのような居心地の悪さを感じるかもしれません。

離婚問題を扱った書籍もインターネットのサイトも、パステルカラーに象徴されるように、その大半は女性のための情報です。男性がこれらの情報を活用するには、いちいち裏返しに考えなければなりません。

そして、いざ弁護士に相談したり、調停で調停委員と話したりしてみると、男の側の訴えはほとんど通らないことに驚くはずです。

それ以前の問題として、「家事はほとんど妻がしているなどと口にすれば、男女平等に反するとみなされて不利になるのではないか」とか、「そもそも〝オンナ〟などとうかつに言おうものなら、それだけで心証を悪くするのではないか」とか、一事が万事、不安なことだらけで、口を開くのもおっかなびっくりという人もいるようです。

そんな状況は、まるでルールのよくわからない「ゲーム」に参加したものの、納得がいかないまま、離婚という人生の重大事が決められていくようなものです。

私たちの法律事務所、弁護士法人マイタウン法律事務所が、ホームページ内に設けていた離婚問題相談専門のコーナーに「特集! 男の離婚」のページを作ったのは、 2 0 1 0年のこと。

それまで、男性の依頼を受けた離婚案件については、前例にとらわれずさまざまなことに挑戦してきました。

もちろん、妻が断りもなく子どもを実家に連れ帰ったまま、会わせてくれないことの不当性を裁判で訴えても、現状維持を良しとする裁判所の厚い壁にはねかえされることもありました。

その一方で、好き放題にしていた妻に対する夫側からの慰謝料請求が認められるなど、うまくいったケースもあります。

そうやって離婚問題を解決していく中で、多くの男性依頼者が、私たちの事務所に依頼する前に他の事務所に相談し、失望させられていたことも知りました。

本来、訴訟というものは、性別で有利不利が決まることなど、あってはならないはずです。

しかし離婚訴訟に限っては、女性側に有利に働くことが少なくありません。

そのあたりの事情をよく知っている弁護士の中には、男性からの離婚案件の依頼に対して本気で取り組まないか、最悪の場合は断ってしまう人も少なからずいるのが現状です。

私たちは、少しでもこのような状況を改善したいという思いから、「弁護士や裁判の現状は是正すべきではないか」という問題提起や、「前例にとらわれず訴訟に挑戦しますから、一緒にがんばりましょう!」というメッセージを前述のホームページに掲載したところ、驚くほど大きな反響がありました。

離婚をめぐる弁護士や裁判のあり方に愕然とし、打ちのめされてきた男性が、それだけ多くいたということなのでしょう。

多くの人は、もし自分に何らかの問題がふりかかってきたとしても、まっとうに生活している限り、それほど深刻な事態に陥るはずがないという認識のもとに暮らしています。

あなたも、「いまの世の中、理不尽で常識はずれなことなどめったに起こらないだろう。万が一問題が起きたとしても、しかるべきところに相談すれば、容易に解決するはず。日本はそういう社会だ」──そんなふうに信頼しているのではないでしょうか。

ところが、ひとたび離婚の問題が発生するとどうでしょう。あなたが日本に住む男性であるなら、その信頼は一気に覆されることになります。

どう考えても不合理なことが起こり得ますし、それを弁護士に相談しても、「たしかに不合理かもしれませんが、これが裁判の現状です。あきらめてください」と言われるのがせいぜいです。

裁判所に任せておけばおかしなことにはならないだろう、という信頼は見事に裏切られ、どうにもならない状況に追い込まれてしまうかもしれないのです。

こうした現状を踏まえ、本書では男の観点に立って離婚に関する法律制度を解説しています。また、現状の運用について疑問がある場合は、その点を指摘しています。もちろん、運用に疑問があるとしても、実際にはそれを計算に入れて対応しなければなりません。

そのうえで、親権や慰謝料など離婚する際に生じるさまざまな問題について、男がとるべき基本戦略を示しました。

実際の離婚における最良の解決方法というのは、それぞれの事情によって異なってきますので、一概に言えないことは確かです。

しかし、まず基本となる考え方を理解し、そのうえで臨機応変に現実的な対応をしていくことがよりよい解決につながるものと考え、基本戦略を示すことにしました。

また、離婚に関する調停や訴訟で、あるいは裁判官や弁護士の対応によって生じる、明らかに不合理で悲惨な状況を実際の事例をもとに描いた「離婚のリアルストーリー」を随所に配しました。

いずれも、話をわかりやすくするために事例を単純化するなど少しずつ脚色していますが、リアリティのある話ばかりです。

各ストーリーの最後には、「どうすればよかった?」というまとめの解説をつけました。

ここでは、読者が同じようなケースに陥ったとき、どのタイミングでどのように対処すれば悲惨な結末を回避することができるのか、その対策案を示しています。

とにかく男性側にとっての離婚問題は、ごく常識的と思われる解決を望む場合でも、女性側に有利に転んでしまうことが多いのです。

なにしろアウェイでの戦いですので、時にはさまざまな工夫を凝らすことが必要ですし、時間や手間がかかることもあります。

本書は、そうした多くの困難があることを前提にしたうえで、悲惨な状況を回避するための有益な情報を盛り込みました。

離婚問題に直面する多くの男性の一助になるのはもちろんのこと、最終的には、男性側が本来主張すべきことを主張し、日本の離婚司法をよりバランスのとれた状況にしていくことにつながれば何よりです。

なお、本書は法律の専門家でない一般の方のために書いたものです。

法律上正確な表現を心がけると、例外的な場合についても細かく記載したり、「基本的には」「原則として」「一般的に」などの言葉を多用したりしなければならず、文章が煩雑でわかりにくくなることは避けられません。

そのため、わかりやすさを優先し、細かな点はあえて省いて説明しています。

それによって厳密な法律的観点からは不正確になっている可能性があることを、あらかじめお断りしておきます。

目 次まえがき

第 1章 離婚のステージ別戦略

1 第 1ステージ「協議」……その 1・交渉が始まった円満に協議離婚後日の紛争に備えて

2 第 1ステージ「協議」……その 2・妻から公正証書を要求された公正証書とはどんなもの?妻から公正証書作成を求められたら?離婚届と公正証書

3 第 1ステージ「協議」……その 3・妻が弁護士を立ててきた妻の弁護士から手紙がきた弁護士に依頼したくない場合には ◉ column 弁護士への「相談」と「依頼」

4 第 2ステージ「調停」調停は話し合いの場調停のいろいろ調停はこんなふうに進行する調停は妻による嫌がらせ?調停委員はどんな人?調停を〝蹴ったら〟どうなる?調停が成立したら……

5 第 3ステージ「訴訟」訴訟に進んでしまう場合とは?訴訟の流れ

◉ column 「被告」扱いには抵抗がある?弁護士に依頼する? しない?弁護士と依頼者の関係

序章 離婚のイロハ

まずは、離婚に関する基本的な知識と、離婚が成立するまでに経なければならないステップの概略をまとめておきます。

ここで離婚に関する大まかな流れをつかんでおきましょう。

◉離婚するには

離婚とは、結婚して夫婦であるという状況から、他人同士になるということです。

あなたが離婚を望んでいる場合、離婚が成立するためには、 ①夫婦双方が同意する(妻の同意を取りつける)、 ②離婚訴訟を起こして裁判所の判決を受ける(離婚訴訟で勝訴する)のどちらかが必要です。

①の場合を同意による離婚、 ②の場合を判決による離婚(判決離婚)と分けることができます(図 1)。

①については、裁判所を通さず、双方の話し合いによって離婚する「協議離婚」、話し合いがこじれた場合に、家庭裁判所の調停を経て離婚する「調停離婚」、話し合いがこじれて訴訟になった後に、和解が成立して離婚する「和解離婚」の 3つがあります。

一方、 ②の判決離婚については、離婚の判決が下れば、一方が拒否していても離婚は成立します。

ただし、判決で離婚が認められるためには、あなたの主張する離婚理由が法律で認められた「離婚原因」にあてはまることが必要になります。

離婚原因の典型例は、浮気・暴力・長期間の別居の 3つです。

離婚原因については、第 2章で詳しく説明します。

いずれの方法で離婚する場合も、きちんと取り決めておかなければならないことがあります。それは「お金」と「子ども」の問題です。

次にこの 2つをどう解決するかを考えていきましょう。

◉離婚とお金の問題

離婚にともない、お金について取り決めておくべきことは、以下の 3点です。

①慰謝料:離婚の原因を作った側が支払うべき損害賠償金です。「双方の気持ちが冷めた」など、どちらか一方に非があるわけではない場合は、双方とも支払う必要はありません。

②財産分与:結婚期間中に貯めた預貯金や、手に入れた不動産をどう分けるかという問題です。

③養育費:子どもの生活費です。いわゆる「養育費の算定表」(巻末資料)によって決めるのが一般的です。

①~③のいずれも離婚後に決めることは可能ですが、離婚と同時に決めるのが一般的です。また別居した場合は、離婚成立までの期間の婚姻費用の問題があります。婚姻費用とは、妻子の生活費です。

なお、妻の収入が夫の収入を上回る場合、その額によっては妻から夫へ婚姻費用を支払うケースもまれにあります。

離婚とお金の問題については、第 3章で詳しく説明します。

◉離婚と子どもの問題

子どもに関しては、まず親権の問題があります。子どもの面倒をどちらがみるのかということです。未成年の子どもがいる場合、親権者をどちらにするか決めないと、離婚はできません。

親権について夫婦双方で同意ができない場合は、調停または訴訟で決着することが必要です。

さらに、子どもの親権者とならなかった親が、どのような頻度や方法で子どもと会うのかという、面会交流の問題があります。

面会交流の問題は、離婚成立以前の別居の段階でも生じてきます。

離婚と子どもの問題については、第 4章で詳しく説明します。

◉離婚のステージ

離婚のステージは一般に、 ①協議(話し合い) →②調停 →③訴訟 という流れで進みます。

①協議:裁判所が関与することなく、夫婦双方で話し合う段階です。ここで決着がついたら、離婚届を役所に提出し、離婚が成立します。離婚にともなうお金の支払いなどの約束を文書で残したい場合は、離婚協議書という書面を作ります。

さらに、支払いの約束を破った場合にすぐ差押えができるようにするために、公証役場で公正証書にすることもあります。

②調停:家庭裁判所で行う話し合いのことです。ここでの話し合いは調停委員が取り仕切ります。調停で決着がつけば離婚が成立し、合意内容に沿って調停調書が作られます。

調書が作られた時点で法的には離婚となりますが、戸籍に載せてもらうためには役所に離婚届を提出する必要があります。

③訴訟:調停で話し合いがまとまらなかった場合には、家庭裁判所に訴訟を提起します。調停を経ないでいきなり訴訟を起こすことはできません。

この段階になると、個人で対処するにはたいへんな労力がかかるため、たいていは弁護士に依頼します。裁判所が判決を下す以前の段階で話がまとまれば、和解という形で離婚が成立します。

また判決に不服がある場合は、高等裁判所に控訴することができます。

離婚の手続きを進める際の、それぞれのステージに応じた注意事項については、第 1章で詳しく説明します。

第 1章 離婚のステージ別戦略

序章で紹介したように、離婚にいたるまでには協議、調停、訴訟という 3つのステージがあり、それぞれのステージごとに押さえておくべきポイントがあります。

特に協議の段階では、相手の出方によってさまざまな対応が必要になってきます。

ここでは、第 1ステージ「協議」(その 1・交渉が始まった、その 2・妻から公正証書を要求された、その 3・妻が弁護士を立ててきた)、第 2ステージ「調停」、第 3ステージ「訴訟」のそれぞれの手続きの意味と、対応上の注意点について説明します。

1 第 1ステージ「協議」……その 1・交渉が始まった

◉円満に協議離婚

離婚について夫婦で話し合いがまとまり、離婚届を役所に提出すれば、それで離婚となります。実際の離婚の大半は、このような「協議離婚」で成立しています。

離婚届には、親権者をどうするかについても記載することになっており、その内容は戸籍にも反映されます。

ただし、慰謝料や財産分与、養育費といったお金の問題、子どもとの面会交流などについて離婚の際に取り決めたことがあれば、離婚協議書という書面を作成し、その内容を記録しておくことをおすすめします。後日、「言った」「言わない」ということにならないようにするためです。

離婚協議書を作成するにあたり、後になってお金や財産のことでもめないために必ず入れておきたいのが、「清算条項」です。

たとえば「本離婚協議書に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する」といった条項です(図 1‐ 1)。

清算条項が入っていないと、仮に慰謝料として 1 0 0万円支払った後で、まだ別の件があったからもう 1 0 0万円欲しいなどと追加請求される可能性があります。

また、慰謝料などの支払いは、妻が署名捺印した離婚届と引き替えに行うことも大切です。お金を先に支払い、離婚届は後日もらうということにしておくと、お金だけ払って離婚できないという事態になりかねないからです。

◉後日の紛争に備えて

前項で説明したのは、夫婦間で話し合いがまとまり、無事に協議離婚できた場合の話です。

もし、話し合いで円満に解決せず、この先まだまだこじれそうな場合には、子どもとお金の問題について、注意すべきことがあります。

まず一つは、妻が一方的に子どもを連れ去らないようにすることです。妻が子どもを連れて別居を開始してしまうと、その後、あなたが親権を取得することは不可能に近くなるかもしれません。

ただ実際問題として、外で働いている男性には、妻が子どもを連れて家を出ていくのを阻止することは難しいでしょう。

しかし、あなたが子どもの親権者となることを強く望んでいるのであれば、妻の言動からそうした気配を察知した段階で、何らかの対策をとりましょう。

具体的な方法については第 4章で説明します。

また、この先別居が始まった場合の婚姻費用(生活費)の負担についても、「婚姻費用の算定表」(巻末資料)で早めに確認しておくことをおすすめします。

住宅ローンを負担していたりすると、算定表で定められた金額を支払うことが事実上困難な場合もあります。

裁判所での調停や審判(本章 4節)になった際、住宅ローンを考慮し、算定表で定められた額よりも少ない金額に決められることもありますが、必ずしもそうとは限らないのが実情です。

支払い不可能な額に決められてしまうと、住宅ローンを解約して住宅を手放し、場合によっては破産を考えるところまで追い詰められることもあります。

そうした事態を回避するためには、別居を始める前に、住宅ローンを考慮した婚姻費用の額で妻と合意しておく必要があります。

妻側から後になって、「この額は夫が一方的に決めたもので、こちらは合意した覚えはない」などと主張される危険がある場合には、合意内容を書面にしておくことをおすすめします。

まとめ

  • 離婚の際の取り決めがあるときは離婚協議書を作成する
  • 慰謝料の支払いは、離婚届と引き替えに
  • 子どもの連れ去り別居に注意する

2 第 1ステージ「協議」……その 2・妻から公正証書を要求された

◉公正証書とはどんなもの?

離婚の話し合いも大詰めとなり、条件の話もまとまって、妻がようやく離婚を承諾。

この段階で「離婚については受け入れます。ただし、離婚協議書は公正証書にしてください」と言われることがあります。この公正証書とはどんなものでしょうか。

一口で言えば、公正証書とは、公証役場という役所で公証人に作ってもらう公的な文書のことです。公正証書を作る一番の理由は、養育費や慰謝料などの支払いを確実にするためです。公正証書を作っておけば、約束通りの支払いがなされなかった場合に効力を発揮します。

口約束であっても、法律では約束事は強制的に守らせることになっています。ただし、口約束では約束の中身について証明のしようがないため、相手がしらばっくれてしまえば、現実的には約束を守らせることは難しくなります。

離婚協議書を作成した場合は、口約束とは違って証明が容易になります。

とはいえ強制的に支払わせるためには、調停や訴訟をして調停調書や判決をもらい、その上で強制執行を裁判所に申し立てるという手続きが必要で、時間も手間もかかってしまいます。

しかし離婚協議書を公正証書にしておけば、調停や訴訟を経なくても、すぐに強制執行を裁判所に申し立てることができるので、約束事を簡便かつ確実に守らせることができます(図 1‐ 2)。

公正証書で金銭の支払いを約束しておくと、支払う側の勤務先がわかっている場合、強制執行の申し立てをすれば給料を差し押さえることができます。

相手が不動産を持っていれば、不動産を差し押さえて競売にかけることも可能です。

このように、公正証書を作成すると、お金を請求する側にとっては強制執行の手続きが容易になります。

逆に支払う側にとっては、支払いをやめればすぐに強制執行を受けるという強いプレッシャーを感じるため、必然的に支払わざるを得なくなります。

その意味で、公正証書にしておいたほうが、支払いがきちんと行われやすくなります。

その他のメリットとしては、公証役場に原本が保管される(原則 20年)ので、うっかりなくしても、写しを発行してもらえる点が挙げられます。

◉妻から公正証書作成を求められたら?

以上のように、公正証書はお金を請求する側にとっては非常に有効なものです。ということは、お金を支払う側にとっては逆で、公正証書の作成はあまり歓迎できることではありません。

ですから、妻側から公正証書を作ってほしいという話があった場合は、できれば断ったほうがよいでしょう。

あなたが一方的に離婚を望み、何とか妻に離婚に応じてもらいたいといった場合は、妻側の公正証書作成の要求はのまざるを得ないことのほうが多いでしょう。

しかし、妻が離婚を望んでいて、あなたがやむなく応じるような場合は、必ずしも公正証書作成の要求をのむ必要はありません。

特に、必要以上に高額な養育費や慰謝料を約束してしまった場合、後日それが過大であることを主張し修正を求めたいと思っても、ひとたび公正証書を作ってしまうと交渉が難しくなります。

たとえば、こちらから交渉をもちかけた途端に、相手が給料を差し押さえてくる可能性もあります。そうしたリスクを考慮しながら交渉を進めるのは容易なことではありません。

ですから、離婚に際して公正証書を作りたいという提案を受けたときは、法律事務所や弁護士会による法律相談などを利用して、まず慰謝料や養育費の額が過大でないかどうかを確認しておくことが必要です。

なお、公証人の多くは裁判官や検察官の OBなどで、養育費や慰謝料のおおよその相場はわかっています。

しかし、金額についてはあくまで夫婦間の取り決めに基づくことであり、公証人にその点のチェックを期待することはできません。金額の取り決めについても法律相談を利用するなどして、自衛策を講じましょう。

また公正証書を作ることになった場合には、前出の離婚協議書と同様に、「本公正証書に記載したもののほか、何らの財産上の債権債務がないことを相互に確認する」という清算条項(本章 1節)を、必ず入れることをおすすめします。

◉離婚届と公正証書

離婚協議書を公正証書にしても、離婚届を提出するまでは離婚が成立したことにはなりません。

あなたが離婚を望んでいる場合、お金の支払いだけ約束させられて、離婚届は宙ぶらりんにされてしまったということになりかねないため、公正証書を渡すときには、必ず引き替えに妻が署名捺印した離婚届をもらってください。

なお、調停や訴訟など、裁判所の手続きによって離婚し、そこで養育費や慰謝料の支払いについて定めた場合は、すぐに強制執行ができる文書(調停調書・判決)をもらうことができます。そのため、別途公正証書を作る必要はありません。

また、訴訟手続きにより離婚が成立しますので、相手から離婚届をもらう必要もありません(この場合、一方が離婚届を書いて役所に届け出ます)。

まとめ

  • 公正証書の作成を要求されたら、避けられないかどうかを検討する
  • 公正証書を作成する場合は、清算条項を必ず入れる
  • 公正証書と引き替えに、妻が署名捺印した離婚届を必ずもらう

3 第 1ステージ「協議」……その 3・妻が弁護士を立ててきた

◉妻の弁護士から手紙がきた

妻が出て行き、長く別居状態にあった夫にとって、離婚が現実問題として立ちはだかってくる大きなきっかけは、妻が依頼した弁護士から届く「通知書」です(図 1‐ 3)。

内容証明のこともあれば、普通郵便のことも、書留のこともあります。

たいてい、送り主の弁護士が妻の代理人になったことと、弁護士が窓口になるので妻へ直に連絡をしないでほしい旨が書いてあります。場合によっては、家庭裁判所に調停を申し立てるという予告が書いてあるかもしれません。

突然そんな通知書を受け取れば驚くのは当然ですが、できるだけ冷静に対処しましょう。

なかにはそんな通知など無視して放っておきたい人もいるでしょうが、必ずしもそれが上策とはいえません。仮に放っておいた結果、妻に一方的に調停を申し立てられてしまうと、あなたの日常生活に支障をきたします。なぜなら調停の呼び出しは平日の昼間に設定されるからです。

ですから、離婚の条件が同じであれば、調停になる前に離婚が成立したほうが負担は少なくてすみます。

妻の弁護士が、そもそも調停前に交渉をする気がないのであればどうしようもありませんが、できれば交渉で解決したいと考えているのであれば、あなたも応じることによって、負担が少なくなる可能性があるのです。

そこで、調停のステージに進む前に一度、妻の弁護士と接触して妻側の意向を聞き、納得できる範囲であれば話を進めるということも選択肢のひとつとなります。

ただし、妻の弁護士に一方的に押し切られるという事態を避けるために、あなたにもやるべきことがあります。気持ちが急いていても、提案には即答しないことが肝心です。

まずは妻の弁護士の提案を聞き、その提案内容が妥当かどうかを別の弁護士に相談しましょう。あるいは、この段階であなたも弁護士に依頼するという手もあります。そうすると、調停に進んでから弁護士に依頼するより早期に解決する可能性が高まります。

◉弁護士に依頼したくない場合には

弁護士には依頼したくないし、かといって自分だけで妻の弁護士と交渉するのは難しいという場合は、相手の通知書に対して、あえて何の回答もしないという選択肢もあります。あなたから回答がない場合、妻の弁護士は、妻の意向を反映して調停を申し立てることが多いのです。

そして調停になればあなたが直接妻の弁護士とやりとりする必要はなく、話し合いは第三者である調停委員を介することになります。弁護士を相手にひとりで交渉するよりも、気分的にはゆとりができます。

もっとも、妻側に弁護士がつき、夫は弁護士を立てずに調停に進んだ場合、調停委員が夫を一方的に悪者扱いにしたというケースも少なからず耳にします。

あなたの思うように調停が進むとは限りませんので、その点は覚悟する必要があります。

また、妻が「調停はしたくないので交渉してほしい」といって弁護士に依頼した場合は、いくら待っても調停を申し立ててこないこともあります。あなたがそれで構わなければいいのですが、さっさとカタをつけたい場合は、自分から調停を申し立てることが必要になります。

まとめ

  • 妻の弁護士の提案には即答しない
  • 調停が始まるまで無回答という選択肢もある

column弁護士への「相談」と「依頼」

離婚にあたって弁護士に助力を頼む場合には、単に相談するだけの場合と、協議離婚に向けた交渉、調停や訴訟の代理を依頼する場合の 2段階があります。

相談だけの場合、弁護士費用は法律相談料のみの 1万 ~ 2万円程度でしょう。ただし弁護士はアドバイスをするだけで、あなたに代わって妻本人や妻の弁護士と交渉したり、調停や訴訟のために裁判所に出向いたり、裁判所への提出書類を作ったりはしてくれません。つまり、法律相談以外の時間をあなたのために使うことはありません。

弁護士に交渉や訴訟手続きをしてほしい場合は、別途、依頼する必要があります。弁護士費用は数十万円から、場合によっては 100万円以上かかることもあります。

ちなみに離婚を含めた民事事件の場合、弁護士は依頼者の代わりに交渉したり、訴訟をしたりする代理人としての役割を担うのであって、刑事事件のように弁護人の役割を担うわけではありません。

ですから、妻の弁護士からの通知書には、「 ○ ○を代理して」とか「 ○ ○代理人」などの言葉は出てきますが、弁護人という言葉は出てきません。

なお、日本の法律に関する資格の中で、離婚の交渉や訴訟の代理人になれるのは弁護士のみです。

行政書士、司法書士、離婚カウンセラーといった肩書の人は代理人にはなれないため、あなたの代わりに妻と交渉したり、裁判に出廷したりすることはできません。

4 第 2ステージ「調停」

◉調停は話し合いの場

離婚の協議がスムーズにいかないとき、交渉は調停のステージに進みます。調停とは、家庭裁判所で行う話し合いで、夫婦のどちらかが家庭裁判所に申し立て、図 1‐ 4のような流れで進んでいきます。

調停はあくまで話し合いであり、出席することに強制力はありませんし、調停で合意しなければならないということもありません。

調停で合意したことに強制力はありますが、一方が出席しなければそれまでですし、話し合いがつかないまま終わってしまうこともあります。

離婚については、調停を経ないと訴訟を起こすことができない「調停前置主義」がとられています。「家庭のことはできるだけ家庭内の話し合いで解決するほうがよい。だから、訴訟手続きの前に、まずは話し合いをするべきだ」という考え方からです。

たしかに、離婚は性生活や親族関係の問題など非常にプライベートな内容を扱うので、まずは個室でじっくりと話し合える調停のほうが向いているかもしれません。

訴訟になると誰でも裁判を傍聴することができますし、判決では法律に根拠がない判断はできないので、柔軟な解決も困難になります。

また、調停の段階で話をまとめたほうが費用や時間を節約できますので、調停を軽視せず、しっかり話し合ったほうがいいでしょう。

とはいえ、調停の場では妻と対面して直接話し合うことができるわけではありません。双方の言い分は調停委員を介して伝え合うことになります。

「第三者を介しての話し合いでは、本当に話したいことは話せない」というストレスを感じることもあるかもしれません。

ただ、この段階にまできたら、面と向かって妻と話し合う機会を持つことはあまり期待できなくなります。ストレスはあるかと思いますが、調停委員を介して、あなたの考えを伝えられるようにする必要があります。

◉調停のいろいろ

離婚調停は、正式には「夫婦関係調整調停」といいます。夫婦が仲直りするための調停も、離婚するための調停も、どうするか迷っている場合の調停も、すべて夫婦関係調整調停です。

一方、婚姻費用、子どもの監護権(離婚までの間、どちらが子どもの面倒をみるのか、第 4章)、面会交流などについては、夫婦関係調整調停とは別に、婚姻費用分担調停、子どもの監護権者指定調停、面会交流調停などで話し合うことになります。

これはたとえば、「子どもの監護や面会交流、婚姻費用のことは調停で決着したうえで、調停で解決しなかった離婚や慰謝料、財産分与、養育費のことについては訴訟で決める」というように、それぞれ別々に決着させることのできる問題だからです。

ただし、離婚調停や離婚訴訟では、養育費・慰謝料・財産分与についての調停や訴訟を同時に行うケースがほとんどです。

もちろん、離婚調停だけを進めておき、離婚することが決まった後、慰謝料や財産分与などの金銭的な問題はその後の調停で決めるということも可能です。

また、すでに離婚してしまった後に、養育費の増減額や親権の変更などについて、調停で話し合うケースもあります。

◉調停はこんなふうに進行する

調停は通常、男女 2名の調停委員が取り仕切ります。夫婦のどちらかが調停を申し立てると、家庭裁判所から夫婦双方に呼出状が送られ、同じ日時に双方が呼び出されます。

そして、調停委員が夫婦を交互に調停室に呼んで言い分を聞き、話がまとまるように双方を説得していきます。

相手が調停室で話している間は待合室で待ちますが、待合室は個別に用意されていて、待っているときに夫婦が鉢合わせしないように配慮されているのが通常です。

たとえば 10時に調停が始まると、「まず相手方(申立人)の言い分から聞きますので待っていてください」と言われます。10時半ごろまで待っていると調停委員が呼びに来て、こちらの言い分を 11時ごろまで聞いてくれます。

そして、また妻の言い分を 11時 20分ごろまで聞いて……ということを繰り返し、次回の日程を決めて終わります。ほとんどの裁判所では、申し立てた側の言い分から先に聞くことになっています。

ですから妻の言い分が先に聞かれたとしても、そのためにあなたが不利になることはありません。妻の話を聞いている時間ばかり長くて、こちらの話を聞いてもらう時間は短い、というのもよく聞く話ですが、これに関しても、あなたの不利になることはありません。

同じことを話すのに 10分ですむ人もいれば、 30分で半分も話せない人もいるという程度の違いです。もしかしたら、調停委員がこちらの言い分に従って相手を説得しているために時間がかかっているのかもしれません。忙しい中をせっかく出てきたのに、相手にばかり時間を費やされては腹も立ちますが、結果への影響は心配無用です。

なお、たまに話が膠着状況になったときに、調停委員が「評議します」と言ったまま 30分以上呼び出しがないこともあります。

これは、調停委員が「どのように話し合いを進めるべきか」「打ち切ったほうがいいのか」などと悩んだときに、裁判官に相談している時間です。

裁判官は、その時間に行われている多数の調停案件に同時に対応しているため、調停委員からの相談が集中した場合は順番待ちとなり、けっこうな時間がかかってしまうことがあるのです。

◉調停は妻による嫌がらせ?

裁判所によって調停が行われる時間帯はさまざまですが、午前 10時から 12時、午後 1時から 3時、 3時から 5時の 3コマ、もしくは午前と午後の 2コマを用意していることが多いようです。そして困ったことには、調停は平日にしか行われません。

本書の読者のみなさんは、平日の日中は仕事をしている方が大半でしょう。

にもかかわらず平日の日中に何度も呼び出されては、仕事に支障をきたします。

呼び出しが度重なり、「平日の昼間に呼び出されるなんて、妻の嫌がらせに違いない」という人も少なくありませんが、これは裁判所の都合なのでしかたがありません。

あなたができることは、せいぜい事前に裁判所に問い合わせて、どの程度の拘束時間があるのかを確認して仕事の予定を調整する、といった程度です。

ですから、結果的には嫌がらせに近い効果がある場合もあり、それを見越して調停を申し立てている妻もいます。「これが続くのが嫌ならば、私に有利な条件で離婚を認めなさい」という妻からの圧力です。

もちろんあなたには、高い慰謝料を払って離婚するという選択肢もあれば、時間をやりくりして根気強く調停を続けるという選択肢もあります。

調停を早々に打ち切るほうがよいのか、じっくり付き合うほうがよいのかは、あなたの希望と、裁判になった場合の見通し、離婚が長期化することによるあなたの負担などによって変わってくるので、一概にはいえません。

◉調停委員はどんな人?

「調停委員が妻側の言い分ばかりを聞き、自分は一方的に悪者にされている。不公平だ!」というのは、とてもよく聞く話です。実際にそういうことがあるのかもしれません。しかし、私たち弁護士が夫と一緒に調停に出る場合には、そういう印象を受けることはほとんどありません。

先にひとりで調停委員と面談したことのある依頼者の中には、「調停委員が一変した、まるで別人のようだった」と言う人もいます。

私たち弁護士は、調停委員の不公平な対応を見ていないので、なぜそのような対応をするのか、そこには深い意味があるのかどうかを分析できません。

ここでは、参考までに調停委員がどのような人なのかについて説明しておきます。

現在、日本に離婚を担当する家事調停委員は 1万 2 2 2 5人います( 2 0 1 2年 4月現在)。年齢別にみると、約 7割が 60代、 2割が 50代です(表 1‐ 1)。専門的な知識や社会生活上の豊富な経験を持つ人の中から、最高裁判所によって選ばれています。

日本調停協会連合会のホームページによれば、弁護士や医師、大学教授などの専門家のほか、保護司、カウンセラーなどが携わっているそうです(表 1‐ 2)。

その多くは、専門知識をもち人生経験を重ねてきた、信用に足る人物ということになるとは思います。

ただし、人々のもめ事を円満に解決したいという志の高さから、自分で描いたストーリーにそって強引に解決を図ってしまうということはあるかもしれません。なお、調停委員には何の権限もありません。

調停委員から、変な人だとかわがままな人だと思われたとしても、不利益はほとんどありません。相手が裁判官なら、悪い心証を与えることにより不利な判決がなされるリスクを考えなければなりませんが、調停委員についてはこのようなリスクはありません。

ですから、「こんな要求をしたら、身勝手でわがままだと思われないだろうか」「前回、言わなかった要求を付け加えると心証が悪くなるかもしれない」などということは、基本的に気にする必要はありません。どう思われようと、言うべきことはしっかりと伝えたほうがよいでしょう。

もっともこれは、あくまでも離婚調停を有利に運ぶうえでの心構えです。個人の美学としてそんなことはしたくない、ということであれば、あえてその美学に反する振る舞いを推奨するわけではありませんので、念のため。

◉調停を〝蹴ったら〟どうなる?

調停の終わり方には 3つあります(前掲図 1‐ 4)。まず、話し合いがまとまった場合は「成立」です。次に、話し合いがまとまらなかった場合は「不成立」です(「不調」ともいいます)。

また、調停を申し立てた側が申立そのものをやめる場合は「取下げ」となります。調停が煮詰まってきたときに考えておかなければならないのは、「この調停を蹴ったらどうなるか?」ということです。

蹴るというのは、「奥さんがこの条件をのめば離婚すると言っていますが、どうしますか?」といった調停委員の勧告や提案をすべて拒否し、「この調停は不調に終わらせてください」と答えることです。

また、申し立てた妻に調停を取り下げてもらうということも考えられます。まず、離婚そのものについての調停(夫婦関係調整調停)の場合、これを蹴ったら訴訟のステージに進むことを考えなければなりません。

訴訟になった場合のデメリットは、以下の 3つが考えられます。

  • 訴訟になると通常は弁護士に依頼するので、その費用がかかる
  • 控訴により、訴訟が高等裁判所に移行する場合のことまで考えると、 1 ~ 2年はかかる
  • その間に支払う婚姻費用はかなりの額になる もちろん、離婚を求めているのか、求められているのか、親権・慰謝料
  • 財産分与のうち問題はどれか

などといった条件によって、訴訟になった場合の見通しは変わってきますから、具体的に考える必要があります。

なお、慰謝料・親権・養育費についても、調停が不調に終わった場合は離婚の訴訟で決着をつけるという流れが一般的です。

また、婚姻費用についての調停(婚姻費用分担調停)、離婚が決まるまでの子どもの監護権の問題や、離婚後の養育費の増減額、親権の変更については、不調に終わった場合は審判に進みます。

審判とは、調停での話し合いの記録や双方から提出された書類をもとに裁判官が判断し、決定を下す手続きをいいます。

なお、訴訟、審判のいずれに進んだとしても、裁判所での話し合いによって決着する可能性も十分あります。訴訟・審判になったが最後、裁判官の一方的な裁定を待つしかない、というわけではないのです。

以上のケースとは別に、相手が無理な要求を意固地になって続けているような場合、強制力のない調停ではどうすることもできません。訴訟や審判に進めて、強制力をもった裁判官によって強力に相手を説得してもらったほうが早い場合もあります。

◉調停が成立したら……

調停が成立して調停調書が作成された時点で、離婚は成立しています。しかし、それだけでは戸籍に記載されません。裁判所が役所の戸籍係に連絡して手続きをしてくれるわけではないのです。

戸籍に記載してもらうためには、調停成立後 10日以内に、調停を申し立てた本人が「離婚届」と「調停調書の謄本」を役所に提出しなければなりません。

ここで「あれっ?」と思ったあなたは察しがいい人です。

妻が申立人のケースで、思っていたほど慰謝料がとれずに離婚を成立させてしまったのを後悔し、「離婚届を出してもらいたかったら条件を変えなさいよ!」などと言ってきたときは、どうしたらよいのでしょうか? 心配ご無用です。

申立人(妻)が届出期間内に離婚届を提出しなかった場合には、相手方(夫)から提出することもできます。

離婚届の用紙は、協議離婚の場合と同じものを使います。すでに調停が成立しているため、証人の署名捺印は必要ありません。

では、あなたも仕事が忙しくて休みがとれず、提出期限をオーバーしてしまった場合はどうでしょうか。その場合も離婚そのものは無効とはなりません。ただし行政処分として 5万円以下の過料が科されることになっているので、期限は守りましょう。

まとめ

  • 調停にはできる限り出席する
  • 自分の言い分は調停委員にしっかり伝える
  • 調停が不調に終わった場合は、訴訟や審判で決着をつける

では、裁判沙汰にまで進んでしまうのはいったいどんな場合なのでしょうか? よくみられるのは、以下のような 3つのケースです。

①どちらかが「どうしても別れたくない」場合

協議や調停では、双方の合意が得られないと離婚は成立しません。一方が離婚したくない状況で、もう一方がどうしても別れたい場合は、訴訟に進むしかありません。

②親権を争う場合

離婚するには、子どもの親権者を夫か妻のどちらかに決める必要があります。離婚に同意していても、双方が親権を主張し合って譲らない場合は離婚できないので、訴訟に進む可能性が高くなります。

③財産隠しが疑われる場合

調停では預貯金の調査がスムーズにいかないことも多いのですが、訴訟になれば調査嘱託という手続きにより、預貯金の調査がしやすくなります。

そのため、「相手が財産隠しをしている」ことが疑われる場合にも、訴訟に進むことが多いです。

もちろん、この 3つ以外の理由で訴訟に進む場合もありますが、その場合、必ずしも訴訟までする合理性がないケースもあります。

たとえば、慰謝料の額だけが問題になっているような場合がそうです。

慰謝料が 1 0 0万円か 2 0 0万円かという争いの場合、勝訴したとしても、弁護士費用を払ってしまうと手元にはほとんどお金が残らないことも多く、訴訟に進んだ合理性があるとは必ずしもいえません。

◉訴訟の流れ

では訴訟のステージに進んだ場合、裁判はどのような手順で行われるのでしょうか。ここでは妻に訴訟を起こされた場合を例にとって、具体的な流れをみていきましょう(図 1‐ 6)。

まず妻(原告)が裁判所に訴状を提出し、離婚訴訟が始まります。裁判所は原告の都合を聞いたうえで第 1回口頭弁論の日時を決め、これを通知するための「口頭弁論期日呼出状」(略して呼出状)と原告からの訴状を被告に送ります。

被告側は通常、訴訟が始まったことを、この 2つを受け取った段階で知ります。訴状には、基本的には離婚原因となり得る事実が書かれています(離婚原因については、第 2章で詳しく説明します)。

また慰謝料を求める場合は、その理由となる事実(暴力・浮気など)が記され、親権を求める場合は、当人が親権者として適していることを証明する事実が記されています。

「事実」といっても、相手が認めなかったり、証拠がなかったりする場合、それが本当なのかどうか第三者にはわかりません。

「妻が書いた訴状に噓がいっぱい書いてあって腹立たしい」ということもありますが、この段階ではそれほど気にしなくてもいいでしょう。

あなたが呼出状と訴状を受け取ったら、訴状に対する答弁書を提出する必要があります。

答弁書には、相手方の言い分を認めるのか、認めないのかなどを書いていきます。

呼出状には答弁書の提出期限が記載されています。

期限は「口頭弁論」(略して弁論)の期日の 1週間前であることがほとんどですが、それに間に合わなくても、弁論当日までなら受け取ってもらえます。

答弁書が提出してあれば、期日に欠席しても出席したのと同じような扱いになりますので、出席できない場合は必ず提出しましょう。

第 1回口頭弁論の日時は原告側と裁判所で調整して決めるため、実際のところ被告は欠席することも多いです。

なお、原告・被告のいずれも、代理人(弁護士)を立てた場合、弁論には代理人のみの出席でもかまいません。

第 1回口頭弁論では、おもに訴状と答弁書の内容確認を行います。

では、答弁書を提出せず弁論にも欠席したらどうなるのでしょうか。

通常の訴訟では、被告が原告の言い分を認めたものとみなされて、原告の請求通りの判決が下されてしまいます。これを「欠席裁判」といいます。

離婚訴訟の場合はそこまで厳格ではないものの、放置していればいずれは相手の言い分通りになる可能性がきわめて高いといえます。

もし期日までに答弁書を作成する自信がなく、出席もできない場合は、すぐに弁護士に相談し、何らかの対応をとりましょう。

第 1回口頭弁論の後は、おおむね 1ヵ月ごとに「準備書面」を提出し、第 2回以降の口頭弁論を開いていきます。

準備書面はお互いの言い分を主張するための書面で、通常は答弁書への原告の反論 →被告の再反論 →原告の再々反論というように、双方が交互に提出します。

その際、主張を裏づける証拠書類がある場合は、それも一緒に提出します。

口頭弁論では、提出された書面と証拠の内容確認をして終わるのが一般的ですが、記載内容に不明な点があれば、それについて質問することもあります。

たとえば原告側が「被告は平成 19年から不貞関係にあった」と主張したのに対して、被告が「平成 19年から不貞関係にあったという事実は否認する」と反論した場合、不貞の存在自体を否認するのか、不貞の始期を否認するのかを確認するといったことです。

なお、弁論を重ねるうちにお互いに合意することができれば、判決が出る前に「和解」することも可能です。

和解にいたらない場合は、お互いの言い分が出尽くした頃合いをみて「本人尋問」を行います。

これは、本人に直接確認する必要がある事実関係などについて、原告と被告の双方が法廷の証言台に立って事情を述べるものです。

本人尋問は、本人が裁判所に行って裁判官に直接言い分を伝えることができる場ともいえます。

口頭弁論期日に出頭して裁判官に直接言い分を伝えることももちろん可能ですが、弁護士に依頼している場合には、弁護士のみが出廷することがほとんどです。

一方、本人尋問には、弁護士に依頼している場合でも、本人が必ず出廷する必要があります。

そのため、裁判官と会う、最初で最後の機会となることも多いのです。

以上の過程を経て判決が出ます。

本人尋問から判決が出るまでの期間は個々のケースによってまちまちです。

離婚訴訟の場合、法廷に出向いて判決を聞くことはあまりありません。

私たちの事務所の案件の場合には、判決言い渡し当日に裁判所に電話をし、主文の内容(離婚の成否、親権者など)を確認します。

判決が出た数日後に、原告と被告の双方に判決書が郵送されます。判決書には主文と判決理由が記載されています。

column「被告」扱いには抵抗がある?

離婚訴訟は、訴訟を起こしたい人が訴状という書類を家庭裁判所に提出することによって始まります。この場合、訴状を提出した側を原告といい、相手方を被告といいます。

刑事裁判の場合、裁判にかけられている人を被告と呼ぶことが多く(法律上の正確な表現では「被告人」)、この呼称はテレビドラマや小説の法廷の場面にもしばしば登場します。

それもあって、被告という呼称に悪いイメージを持つ人も少なくありません。

そのため、離婚訴訟を起こされただけで被告扱いされてしまうことを、腹立たしく思う人もいるかもしれません。

実際、私たちの事務所に相談に来た人のなかにも、「犯罪者でもないのに、なんで被告呼ばわりされなければいけないんですか!」と言う人もいます。

そのうえ、訴状には「被告側が原因となって婚姻関係が破綻した」など「被告」という語が何度も使われていることも多く、こうした扱いに対して感情的になってしまうのも無理はありません。

しかし少なくとも法律上は、被告という言葉に悪いニュアンスは皆無です。

双方の立場をはっきりさせるための呼び分けにすぎないので、気にする必要はありません。

ちなみに妻から訴訟を起こされ被告になったものの、「非があるのは妻のほうだ。妻が俺に慰謝料を支払うべきだ!」と逆に訴えたい場合は、反訴という方法があります。

こちらから訴え返すのです。

この場合、もとの原告は反訴被告、もとの被告は反訴原告、ということになります。

◉弁護士に依頼する? しない?

あなたが被告側の場合、妻から訴状が届いた段階で、まず弁護士に相談するべきです。相談したからといって、依頼しなければならないわけではないので、とにかく一度、相談だけはしておいたほうがよいでしょう。

そのうえで、訴訟代理を依頼した場合の費用と、依頼しない場合のデメリットをしっかり天秤にかけて考えてみましょう。

ただし私たちの事務所が離婚案件に携わってきた経験から、訴訟に進んだ場合は弁護士に依頼することを強くおすすめします。

その第一の理由は、訴訟の手続きには高度な専門知識が必要となるため、弁護士に依頼せずにひとりで戦う場合は、自分の言い分を裁判所に理解してもらえないリスクがあることです。

第二には、あなたが大都市周辺などの弁護士が十分にいる地域に住み、すぐにも依頼できるにもかかわらず弁護士に依頼せず、ひとりで訴訟対応をすることになった場合、じつは何かを隠しているのではないか、という疑いの目を向けられる可能性があります。

弁護士に訴訟代理を引き受けてもらえない何らかの事情がある、という色眼鏡でみられるリスクもあります。

もっとも、たとえばあなたの側に、暴力を振るったなどという明らかに不利になる事実があり、訴訟で争ってもとうてい勝ち目はないという場合、「慰謝料はどうせ相場通りだから、裁判で決まった金額を払うしかないだろう。そうなると弁護士費用の分だけ無駄になる」という考え方もあるでしょう。

しかし弁護士がつかない状況で、裁判官が相場通りの判決を出してくれるとは限りません。「裁判官なら言わなくてもわかってくれるはずだ」という過信は禁物です。つまり、裁判での相場というのは、あくまで双方に弁護士がついて十分な訴訟活動をした場合の話なのです。

あなたがどうしても弁護士に依頼したくないのであれば、訴訟に進む前の調停段階で話をつけてしまったほうがいいでしょう。

◉弁護士と依頼者の関係

弁護士が離婚訴訟を担当していて、依頼者とのあいだでよく問題になるのは、裁判所に何をどこまで主張し、証拠として何を提出するかということです。

依頼者は、相手方があることないこと主張してきたり、いろいろな証拠を提出してきたら、こちらも対抗して、より多くのことを主張したり、もっとたくさんの証拠を提出したくなったりすることもあります。また、裁判官に事情をわかってほしいという思いもあるでしょう。

しかし、依頼している弁護士が、答弁書にそうした主張を書いたり、証拠書類を裁判所に提出したりすることに消極的なのは、よくあることです。

こういう場合は、弁護士の意見に従うほうがよいでしょう。

裁判官や弁護士の目からみて明らかに必要のない書類がやたらに提出されているという状況を、裁判官は「弁護士が必要ないと説明しているにもかかわらず、依頼者が納得せずに強硬に要求してくるために、やむなく書類を提出しているのだろう。このような状況が生まれるとすれば、弁護士が依頼者との関係で力不足であるか、依頼者が人の意見に耳を傾けない強情な人間であるか、いずれかと推測される」と考えます。

あなたが依頼した弁護士が、裁判官の目からみて力不足に思われてしまうことも、あなた自身が強情な人間にみられることも、離婚訴訟においてよいことではありません。

「そういうデメリットがあってもよいから、この書類だけは出してほしい」という信念があるのなら別ですが、そうでなければ、弁護士が必要ないと言っている書類を無理に提出することは、避けたほうがよいでしょう。

まとめ

  • 訴訟に進む必要があるかどうかをまず考える
  • 訴訟まで進んだら、弁護士に依頼したほうがよい
  • 提出する書類や証拠の取捨選択は、弁護士の判断に委ねる
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