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はじめに ゲーム理論を学ぶことで、どんな力が身につくのか。本書を手にとって下さったみなさまにとって、もっとも興味のある問いではないでしょうか。 この本の目的は、ゲーム理論特有の「戦略的思考」を身につけることです。 では、そもそも「ゲーム理論」とは何でしょうか? ゲーム理論とは、「 2人以上のプレイヤーの意思決定・行動を分析する理論」です。ここでいう「プレイヤー」とは、人間だけではありません。企業、国家など、さまざまな「意思決定を行なう主体」を指し、幅広い応用が可能です。 そのため、世界中のビジネスマンがゲーム理論を学び、ビジネスの世界で勝利するための戦略論として活用しています。さらにゲーム理論には、こうした「競争に勝つ」という活用にとどまらず、幅広い意味や目的があります。 そもそも、ゲーム理論では世の中で起きているすべての問題を「ゲーム」ととらえます。上司と部下の人間関係、ライバル社の出現で業績があがらない問題、地球環境問題、好況・不況などの社会状況、家族間のトラブルなど、あらゆる事項を「ゲーム」ととらえるのです。ゲームといっても、「遊び感覚でとらえる」という意味ではありません。 起こっている問題がどのような構造になっていて、どんなルールに支配されているのかを考える際、その全体像を「ゲーム」と呼んでいるだけです。 ゲーム理論には、大きく分けて次の3つの目的があります。 ①ゲームの構造(問題の全体像)を把握する ②起こりうる未来を予測する ③適切な解決策を見つける いま現在、あなたが抱えている問題をイメージしてみてください。 職場での人間関係、クライアントとのつき合い方、部門のマネジメント法、仕事が思うようにはかどらないという悩み、高度な経営戦略など、さまざまな種類、レベルの問題があるでしょう。 その問題を解決するとき、もっとも大切なことは何だかわかりますか。 それは、問題が起こっている状況(ゲーム)を正確に把握することです。 状況を把握していない人に、解決策を見いだすことはできません。 ゲーム理論的にいえば、「ゲームの構造を理解する」ことがもっとも大切なのです。 上司と部下の問題であれ、思うような成果をあげられないという悩みであれ、全体の状況を俯瞰して、ゲームの構造を理解しなければ、真の解決策は見えてきません。
仕事、プライベートの区別なく「どうもうまくいかない」と感じている人のほとんどは、正しい解決策を見いだせていません。 理由は簡単です。ゲームの構造がわかっていないからです。 ゲームの構造を理解しないまま、適当な解決策に着手してみる。その結果、思うような改善が見られない。 じつに残念な状況ですが、こんなサイクルを繰り返している人が驚くほどたくさんいます。ひょっとするとあなたもそのひとりかもしれません。 このような状況を打開するにあたって、大きな助けとなるのが「ゲーム理論」です。 ①ゲーム(問題)をどのようにひも解けば、より正確に状況を理解することができるのか ②このゲーム構造において、将来的にどんな事態が予測されるのか ③ゲームのどの部分を改善すれば、問題が解決されるのか ゲーム理論を学ぶことによって、これらの流れが合理的な形で見えるようになります。結果として、問題解決力がアップするわけです。
こんな言い方をすると、「非常にむずかしい理論を学ばなければならない」と不安を感じるかもしれませんが、まったく心配はいりません。 本書は、ゲーム理論で扱われる代表的なゲームを学びながら、それこそ「ゲーム感覚」で、基礎的な知識とその論理的な考え方を身につけられる構成となっています。 すでに述べた3つの目的( ①ゲームの構造を把握する ②起こりうる未来を予測する ③適切な解決策を見つける)を意識しながら読み進めることで、ゲーム理論の考え方が自然と身についていきます。「この問題はどんなゲーム構造になっているんだろう?」「次はどんな展開になるんだろう?」「どこを変えると、解決するんだろう?」 これらの疑問を常に自分に投げかけながら、本書に登場するいくつもの事例やゲームについて考えてみてください。 本書を読み終えてから、実際の現場で問題に直面すると、以前とはまったく違うアプローチで解決策を導き出せるようになっているはずです。 経済分野の専門家を目指すのでなければ、ゲーム理論に関するむずかしい専門書を読む必要はありません。 まずは、本書を読んで、ゲーム理論の基礎を学ぶと同時に、そのスキルを実生活でどのように生かせばいいのかを理解してください。 ポイントは、ゲーム理論の3つの目的を常に意識することです。それさえ忘れなければ、かなりの能力を身につけることができます。 では、実際にゲーム理論を学んでいきましょう。 ゲーム理論という合理的で、奥深い世界を存分に楽しんでください。 2013年2月川西 諭
ゲーム理論の思考法 ◎目次はじめに序 章 ゲーム理論で「3つの力」を手に入れる あらゆる問題に活用できる 置かれている状況を戦略的に整理する 上司と部下の交渉ごとも、一つの「ゲーム」 ゲーム理論で、「相手の行動」を予測する ゲーム理論をビジネスに生かす方法 戦略的思考で自分の「利益」を守る 敵対か? それとも協調か? 「ゲーム理論の3つの力」と俯瞰思考 「勝てないゲーム」なら、「ルール」を変えよう第 1章 囚人のジレンマ ~ゲーム理論入門 ~ ゲーム理論の基礎となる「囚人のジレンマ」 ゲームの構造を「 2 × 2の表」にする 囚人 Aの視点から考える 「ゲームの構造」を把握する 「ゲーム」のカギをにぎる「ナッシュ均衡」 「合理的なブタ」ゲーム 「ナッシュ均衡」の見つけ方 現実のケースと照らし合わせる 大企業 A社と町工場 B社の「合理的な行動」 「プレイヤーの目線」を離れ、ゲームを俯瞰する 「囚人のジレンマ構造」 ~漁業の乱獲問題 ~ 環境問題をゲーム理論で考える 「神の見えざる手」が届かない領域 「ゲームの構造」は変えられる第 2章 コーディネーション・ゲーム ~「有利な市場」をつくりだす ~ 「みんなが同じ行動をしたくなる」ゲーム構造 ひとたび「決まったこと」は、変えにくい 「 100円パソコン」に見るビジネス戦略 「ゲームの展開」を正しくとらえる ファッション業界の流行色は 2年前に決まっている コーディネーションの失敗とは? 「質問しない学生」もコーディネーションの失敗 好況・不況も一種のコーディネーション 人間は「習慣」に支配される第 3章 3つのゲーム ~利害関係の多様性を知る ~ チキンゲームの構造とは? 「キューバ危機」という危険なゲーム 「誰もやりたがらない仕事」をめぐるチキンゲーム マッチング・ペニーズでは「行動を読まれない」ことが基本 警官とドロボウの果てなき関係 ルールを変えて、ゲームの構造も変える 「個人」ではなく、「ゲームの構造」に注目する ホテリング・ゲームの構造とは? ラーメン店が、駅前に集中する理由 「自民党」と「テレビ番組」には共通点がある第 4章 ダイナミック・ゲーム ~「時間的な視野」を広げよう ~ 「時間の流れ」を考慮する チェスやオセロのような「展開型ゲーム」を学ぶ 「ゲームの木」で時間の流れを見る 「意思決定の順番」が、ゲームを大きく左右する 「バックワード・インダクション」で最適行動を予想する 「ゲームの必勝法」を見つけ出す 「時間不整合性の問題」を考える 日常生活に見られる「カラ脅し」の例 希少価値を守る方法 ~リトグラフの戦略に学ぶ ~ 新技術の開発を支える「仕組み」とは? 長期的なメリットを考える ~格づけ会社 ~ 「繰り返しゲーム」と「トリガー戦略」 有名陶芸家ならではの「ブランド戦略」 短期雇用( 1回きりのゲーム)から長期雇用へ第 5章 人間は「不合理」に動く ~感情 +ゲーム理論 ~ なぜ、人は「合理的」になれないのか? 人は「先読み」できない? ~ムカデゲーム ~ エスカレーション・オークション 資金集めに奔走する選挙戦 バブルはなぜ起きたのか? 人はトレンドに騙される! トレンドを操作し、人を騙す方法 「金銭的価値」だけで、人は行動しない 3Mのイノベーション戦略に学ぶ 社会貢献ファンドが人気を集める理由おわりに
あらゆる問題に活用できる ゲーム理論とは何か? その問いに、端的に答えるならば「複数の主体間に起こっている利害関係をゲームという形で記述する方法」のことです。「主体」というと、とても抽象的ですが、むずかしく考える必要はありません。人間、動物、会社、団体、社会など、自らの利害を求めて行動しているあらゆるものを「主体」と呼んでいるだけです。 たとえば、あなたと会社との間で起こっている問題も、もちろんゲーム理論の対象です。「あなた」と「会社」という複数の主体があり、それぞれが自らの利害を目的に行動しています。あなたは自分(あるいは家族)のために働いているでしょうし、会社だって自分たちの利益向上のために機能しています。 まさに、複数の主体間で起こっている利害関係です。 周囲を見渡してみれば、そんな問題ばかりです。あなたと上司の関係、取引先や顧客との間で発生するトラブルなど、たいていは「複数の主体間で起こる利害関係」に起因しています。 企業同士で起こる問題、個人と地域の間で起こる問題、国家間で起こる国際問題など、すべてがゲーム理論で扱う事柄です。事実、グローバルな環境問題をゲーム理論の見地からアプローチしている学者もいますし、国際紛争の解決に役立てようとしている研究者もいます。 複数の主体が存在する限り、実社会で起こっている問題・課題・現象のほとんどがゲーム理論の対象なのです。置かれている状況を戦略的に整理する ゲーム理論が誕生したのは 1928年。フォン・ノイマンというハンガリー生まれの数学者が提唱し、後に世界中に広まりました。 いまから約 80年前のことですから、とても歴史の浅い学問です。文学、哲学、数学、科学、物理学、経済学などの各分野に存在する多くの学問と比較してみても、ゲーム理論はつい最近始まったばかりといえます。 しかし現代では、欧米の MBA取得に必須とされ、日本でも多くのビジネスマンが学び、仕事に活用しています。私の専門は経済学ですが、世界中の経済学者が今日起こっている経済活動を理解するのにゲーム理論は不可欠だと考えています。もちろん私も同意見です。 誕生して 100年にも満たない若い学問が、なぜこれほどまで急速に普及し、世界中で重要視されるようになったのでしょうか。 その理由の一つは、対象が幅広いという点です。 すでに述べたように、ゲーム理論はあらゆる場面に応用できます。いま、あなたが直面している問題も、まず間違いなくゲーム理論の対象となるはずです。 もう一つの理由は、非常にシンプルな形で記述されるということです。 世の中で起こっている問題の多くはとても複雑です。複雑に見えるだけのものもあれば、実際にさまざまな要素が絡み合い、実態がつかみにくくなっているものもあります。 いずれにしても、状況を整理し、俯瞰することによって、問題の本質がはっきりと浮かびあがってきます。その結果、問題の理解度が深まり、有効な解決策が見つけやすくなります。 あなたが直面している、解決不可能と思われる問題も例外ではありません。 正しいノウハウのもとで状況を整理し、俯瞰すれば、いままで見えなかった問題の構造が見えてきます。
上司と部下の交渉ごとも、一つの「ゲーム」 日本語でゲームというと「遊び」や「スポーツの試合」という印象を受けるかもしれませんが、ゲーム理論ではもう少し広義にとらえます。 物事が起こっている状況そのものをゲームと呼び、その構造を理解することがゲーム理論の重要な目的の一つです。それぞれの主体(たとえば、自分と相手)にとって起こり得る選択肢を整理し、どの行動が選ばれるかを理論的に導き出します。 たとえば、会社の待遇が気に入らず、上司と交渉しようか、それとも現状のまま我慢するかを迷っているとします。 この状況そのものを「ゲーム」ととらえます。 このゲームにおいて、あなたは「自分の利益を高めるために交渉する」のか「現状のまま我慢する」のかを判断しなければなりません。 交渉して待遇が改善されれば、当然あなたの利益となります。 しかし、その交渉がきっかけで上司との関係が悪化し、仕事がしにくくなれば不利益を被ります。使いにくい人材としてさらに待遇の悪い部署へ回されるかもしれません。これでは完全に逆効果です。 たいていの人はこの段階で悩み続けます。「どうしよう……」とただひたすら悲嘆に暮れたり、「やらない後悔より、やった後悔をしよう」という具合に気持ちを盛りあげて行動を起こすかもしれません。 それらの行動の善し悪しを、他人が簡単に判断することはできません。 しかし、本書はゲーム理論の本なので、論理的な見地からこの人の行動を検証してみたいと思います。「それぞれの選択肢を吟味し、ゲーム全体の構造を理解する」というアプローチです。ゲーム理論で、「相手の行動」を予測する 自分の事情だけに注目していては、ゲーム全体の構造を理解することはできません。あなたは「自分の利益を守ろう」と思うでしょうが、上司だって同じことを考えています。 両者の事情を平等に考慮しなければ、ゲームを俯瞰できません。 上司の選択肢について考えてみます。 あなたから待遇の改善要求を受けた上司は、それを「受け入れる」ことも「拒否する」こともできます。受け入れることであなたのモチベーションはあがるでしょうが、それだけ余分なコストが発生します。一方、拒否することでコストアップは回避できますが、あなたのモチベーションを下げ、場合によっては辞めてしまうかもしれません。
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