はじめに●「武蔵野」が受けた貸し剥がしの実態4億3460万円。この数字は、「株式会社武蔵野」が、ある銀行から受けた貸し剥がしの金額です。銀行はいま、中小企業への貸出に慎重です。新たな融資を断ったり、融資を引き揚げたりしています。銀行の体力によって差はあるにせよ、とくに、都銀における「貸し渋り」、「貸し剥がし」は深刻化しています。「株式会社武蔵野」は、「日本経営品質賞」(2000年度に受賞。2009年度は、受賞組織と同レベルの総合A+評価)をはじめ、さまざまな賞を受賞してきました。ダスキン事業部のシェアはエリア(東京都小金井市)内で約80%。経営サポート事業部の会員は300社以上。増収増益が続いているにもかかわらず、「貸し渋り・貸し剥がし」に直面しています。前ページの表を見てください。2005年6月時点で、X銀行からの借入残高は、4億4300万円ありました。ところが、X銀行から資金の追加貸し出しはなく、回収だけがあり(実態は貸し剥がし)、「武蔵野」は毎月着実に返済した。残債は、2008年12月に5800万円、2009年12月には840万円まで減り、この間に、追加の融資は一切ありません(貸し渋り)。資金供給が十分に受けられなければ、資金繰りが悪化し、倒産に追い込まれる危険性も
ある。4億3460万円も剥がされたら、倒産してもおかしくない。けれど、「武蔵野」の経営は盤石です。毎月の回収に応じても、安定しています。なぜ、「武蔵野」は倒産しなかったのか︱︱それは、私が「お金を貸す側のしくみ」を知っていたからです。そして、いつ、何が起きても会社が倒産しないように、さまざまな策を講じてきた。貸す側のしくみを理解する社長と、理解しない社長とでは、天国と地獄ほど違う。●格付け10の会社を建て直せるのは、小山昇だけ私のもとに、「格付け10」の会社の社長が、資金繰りの相談に来ました。この会社は、かつて「格付け3」でしたが、財務状況が悪化して「格付け10」に急落した。「格付け10」は、溺れる寸前。「鼻まで海水に浸かっている」くらい、危機的な状況です。少し大きな波が押し寄せただけで、一巻の終わりです。優秀な経営コンサルタントでも、「格付け10」の会社を立て直そうとはしないでしょう。リスクが大きすぎる。「格付け10」の会社に手を貸すのは、私のような変わり者だけです。私は剛腕を発揮して、改善を指導した。この会社は現在、2期連続で黒字です。お金を貸す側のしくみを知っているのも、会社を立て直す剛腕を持っているのも、「小山昇が優秀だから」ではありません。私が秀でているとしたら、それは、「失敗の数」だと思う。融通手形に手を出したことも、「このままでは、明日には倒産する」という絶体絶命の状況に追い込まれたこともあります。「もう二度とあの苦しみは味わいたくない」。この強い思いが、いまの私の原動力です。●常に「なぜだろう」と問いかける私が小学生だったころの話です。私には、信用金庫や銀行に勤める親戚がいました。お正月には親戚が集まる。そうすると、大人たちはお酒の勢いも手伝って、手形が落ちるとか落ちないとか、××銀行の支店長が不正を働いたとか、△△会社が倒産しそうだとか、本音で話しはじめます。私はコタツに入りながら会話に耳を傾け、よくわからないながらも、「銀行は、清く正しく美しい場所だとはかぎらない」、「支店長は、聖人君子ばかりではない」ことを知りました。社会に出て、最初に勤めたのは経理事務所です。私はこの事務所で、「裏帳簿」をつくる仕事をしていました。この事務所で経理の基礎を覚えましたが、帳簿のつくり方より勉強になったことがあります。それは「なぜ?」と考える習慣が身についたことです。
計算して数字が「9円違う」ときは、多くの場合、54と45の書き間違いです。ようするに、数字がおかしいときには、その理由が必ずあります。おかしいと思ったら、そのままにしない。「なぜそうなったのか」を考える。私は常に「なぜだろう」と考え、思考を積み重ねてきた。この習慣が、貸す側のしくみを知るうえで、大きく役に立っています。●小山昇に、失敗の歴史あり1977年(昭和52年)、私は29歳で「ベリー」を設立します。貸しおしぼりの業者です。150万円しかお金がなかったので、設立はすべて自分ひとりで行ないました。ベリーの創成期には経理を雇うお金はなく、会計も自分ひとりで行ないました。資金繰りに困り、サラ金からお金を借りたこともあります。融通手形に手を出したこともある。P/L(損益計算書)しか見ていなかった私は、利益が出ればラクになると思っていた。けれど現実はどうだったか。ベリーは増収増益なのに、資金繰りに喘いでいた。当時の私は、無知でした。私が33歳のときです。ベリーは支払手形を発行していましたが、いよいよ私にも「明日、倒産」という日が訪れました。忘れもしない、7月30日です。私は「どうせ明日倒産するのだから、もういいや」と自暴自棄になり、六本木のクラブ「マキシム」で飲んでいました。いつもの女の子を3名指名して、「今月の目標は達成しているの?」と聞くと、口々に「あと2つずつ足りない」と答える。そこで私は一度会計を済ませ、再指名して飲み直した。しばらくして「また明日、来てあげるよ」と伝え、店を出ました。その後、軽く食事をして時間をつぶした私は、午前1時にもう一度クラブに戻った。「本当に来てくれたのね。次の日って!」お客様をだますことにかけては百戦錬磨の彼女たちが、涙を浮かべながら喜んでくれました。私は、彼女たちの涙に気づかされました。「人がこれほど喜んでくれているのに、会社を倒産させてはいけない」。「まだ、なんとかなる」。帰宅して睡眠をとり、私は朝一番で銀行に向かいました。そして担当者と面会するやいなや、聞いた。「今月の予算は達成した?」「まだなら、僕が借りてあげる」こうしてなんとか資金を得て、九死に一生を得たのです。「私は、あと1日しかない」と思い、自暴自棄になっていた。けれど「あと1日ある」
「あと何時間ある」、「あと何分ある」と思えば、前に進める。「まだ、なんとかなる」という強い気持ちが、会社を変えていくのです。会社が倒産し、みずから命を投げ出す社長があとを絶ちません。お金は命の次に大切なものなのに、多くの社長は、あまりにも無策です。なぜ会社が倒産するのか。それは、社長が無知だから。銀行がお金を貸してくれないとしたら、それは、多くの社長が、「お金のことがわかっていない」、「貸す側のしくみがわかっていない」からです。「銀行から定期預金を条件に、信用保証協会付で融資を持ちかけられたのですが……」「何行と取引していいのかわかりません。融資をいただく銀行の数を増やしてもいいのでしょうか?」「○○銀行と××銀行の両方から融資の提案をいただいたのですが、どちらと取引すべきでしょうか」私のもとには、こうした相談が毎日ボイスメールで届いています。多くの社長が迷い、手をこまねいています。本書には、私が積み上げてきた銀行交渉のノウハウを収めています。「銀行はお金を貸してくれない」とあきらめないでください。打つ手はいくらでもあります。本書が資金繰りに困っている中小企業のお役に立てることを願っています。末筆になりましたが、情報をご提供くださった経営サポート企業の社長の皆さん、出版の機会を与えてくださった株式会社あさ出版の田賀井弘毅さん、執筆のお手伝いをしていただいた藤豊さんに、心より御礼申し上げます。2010年4月株式会社武蔵野代表取締役社長小山昇
目次はじめに序章銀行が貸し渋るのは、本業以外で損をしたから①「晴れたら傘を貸し、雨が降ったら傘を取り上げる」は正しい②銀行は、お金を貸すのが仕事なのに、どうして貸さないのか③「武蔵野」は支店長のやきもちで、貸し渋りにあった④銀行は、「業績の良い会社」からしか貸し剥がしをしない⑤自力で戦うから、筋肉質の会社ができる⑥銀行を自社の〝チェック機関〟に活用する第1章無担保で最大16億円借りた「武蔵野」の交渉術①担保も、個人保証もない「武蔵野」は超異常!②目先の金利より、借りられる「額」に目を向ける③基本的に「無借金経営」はあり得ない④「ジッキン」のしくみをわかっていないと、損をする⑤「次は長期で貸したい」と言わせる「武蔵野」の交渉術⑥1円で株式継承するために、長期でめいっぱい借り入れる第2章社長には言えない「銀行の本音」①支店では、支店長が絶対的な存在である②かつて銀行には、「侍」がいた③銀行員の体質を知らない社長は、損をする④「頭取銘柄」に選ばれたら、倒産しない⑤銀行は敵ではない。ビジネスパートナーです⑥「都銀1、地銀1、信金1、政府系1」が取引の基本⑦メインバンクには、決裁権の大きい支店を選ぶ⑧担保をとられるのは、社長が信用されていないから
⑨支払手形は、「待った」がきかない⑩支払手形を発行しなければ、会社は倒産しない第3章定期的な銀行訪問で、融資を引き出す①定期的な銀行訪問こそ、信用を勝ち得る最良手段②銀行訪問では、「数字」を報告する③「同じ話」をすれば、銀行ごとの温度差がわかる④定点観測をして、支店の変化を察知する⑤他行の提案書を銀行交渉に利用する⑥「なんの用事もない」のに、支店長が訪ねて来ることはない⑦銀行は信用しても、銀行のやることは信用しない⑧証書のコピーをとっておくと、銀行から信用される⑨「打つ手がない」と思えるのは、社長の経験値が低いから⑩銀行とは〝ルール〟を守ってつき合うコラム「株式会社武蔵野」の銀行交渉の現場から——滝石洋子が小山から学んだ「交渉の心得」第4章財務体質を改善し、「貸したい会社」に生まれ変わる①「P/L」ベースで計画を立てると、会社が潰れる②比較貸借対照表をつくると、数字に強くなれる③勘定科目のとり方を変えるだけで、格付けが良くなる④無駄な資産を減らすと、格付けが上がる⑤中小企業は「格付け3」が理想的⑥経営は逆算が正しい。最初に経常利益を決める⑦正確さは二の次。経営計画は、速くつくるのが正しい⑧借入金を先行投資して、利益を生み出す⑨リスケジュールをしたければ、「厳しい経営」にシフトする第5章嘘のない「見える化」が、銀行の信用につながる①融資を受けられないのは、経営が不透明だから②経営計画発表会には、金融機関を招待する③金融機関の方々に「社員のまっすぐな姿勢」を見せる
④経営計画発表会は、「武蔵野時間」で進行する付録門外不出!小山昇の〝実践〟銀行交渉用語集著者紹介奥付
銀行が貸し渋るのは、本業以外で損をしたから
①「晴れたら傘を貸し、雨が降ったら傘を取り上げる」は正しい悪いのは銀行ではなく、むしろ無知な社長である銀行は「晴れたら傘を貸し、雨が降ったら傘を取り上げる」とたとえられます。貸し渋りや貸し剥がしをする銀行を皮肉った表現です。会社の業績が良く、融資の必要がないときにお金を貸したがり、一方で、資金繰りがひっ迫したときに貸付を回収する。「銀行の貸出金は減少している」といわれているが、貸出先は大手企業ばかり。中小企業は二の次、三の次。中小企業にとって、「雨が降ったら傘を取り上げる」銀行は、ときに憎々しい存在であり、悪者に映るでしょう。ですが私は、銀行だけが悪者だとは思わない。それどころか、「雨が降ったら傘を取り上げる」のは、正しいと考える。なぜ正しいのか。その理由は、銀行が「お客様のお金を保全する考え方」に立っているからです。銀行はお客様から預かったお金を運用し、利益を上げ、金利を支払う責務を負います。だとすれば、「返って来ないかもしれない会社」よりも、「確実に返してくれる会社」に融資するのは当然のこと。「雨が降っているから」という理由で、すべての会社に傘を貸していては、業務を全うしているとはいえない。倒産するかもしれない会社に、追加融資する銀行などありません。悪いのは銀行ではなく、むしろ無知な社長のほう。経営者は銀行の本質を知るべきであり、傘を借りられる会社、傘を取り上げられない会社に変わるための知識を身につけなければなりません。お金は、「借りるもの」ではなく「買うもの」多くの社長が、お金は「借りるもの」と考えています。ところが、私の考えは違います。お金は、「借りる」のではなく「買う」のが正しい。1000万円借りるのは、「1000万円を借りるサービスを、金利をつけて買っている」と考えるのが基本です。ではなぜ、「借りる」と表現するのか。それは、「返さなかった人、約束を守らなかった人がいる」からです。さかのぼると、金貸し(金融業)にはおよそ4000年の歴史があり、その歴史のなかで「貸したものを、返してくれなかった人」がいた。したがって金貸しは、返してくれそうもない人に「質札」という担保をとった。そして、金額が大きくなるにしたがい、「質
札」が「土地の担保」へと代わった。本来お金は、金利をプラスして買うものだった。けれど、「お金を借りるサービス」を受けていた人が、約束を守らなかった。だから「借りる」という考え方が定着してきたのだと思います。
②銀行は、お金を貸すのが仕事なのに、どうして貸さないのか貸し渋り・貸し剥がしの原因は、銀行が「本業以外」で損をしたから銀行は本来「お金を貸すのが仕事」なのに、どうして貸し渋るのでしょうか。どうして慎重になるのでしょうか。それは、銀行が「本業(預金業務や貸付業務)以外で損をしたから」にほかなりません。とりわけ、アメリカの大手証券会社リーマン・ブラザーズの経営破綻(2008年9月)により、債券を保有する邦銀の多くは、多額の損失を計上しています。中小企業は、銀行が被った「リーマンショックのあおり」を受けているのが実情です。銀行は、お客様から預かったお金を貸付ながら、地道に稼がなければいけない。それなのに、金融商品を大量に保有して、大きな儲けを手に入れようとした。会社組織は、本業以外で儲かると、社員が甘くなります。本業で損をしても、利益が出るからです。本業以外を優先し、甘くなった銀行に、リーマンショックは大きな痛手となりました。「本業以外で損をしたから、お金を貸せない」。中小企業の社長にしてみれば、迷惑な話です。さらに、世界的企業の株価の下落が「中小企業への貸し渋り」に拍車をかけた。リーマンショック以降、トヨタ自動車をはじめとする大企業は、市場から資金を調達しにくい状況です。ですから、銀行融資に頼る傾向が顕在化しています。メガバンクとしてみれば、多数の中小企業にお金を貸すより、信用力の高い大企業に一括で貸すほうが手間もなく、安全です。融資先の社員数が多ければ、給振口座(給与振込)も確保でき、手数料収入にもつながります。冷静に考えれば、「不安定な中小企業より、安定した大企業にお金を貸す」のは、至極もっともなこと。「中小企業にまでお金が回らない」のも、別段驚くことではありません。「お金の流れ」を的確にとらえれば、「中小企業への貸し渋り」は当然のことだとわかる。そして、「当然のこと」だと理解している社長は、適切な対応がとれる。ですが、「当然ではない」と憤慨する社長は、「銀行のしくみ」を理解していない。だから、貸し渋りや貸し剥がしに対処することができない。貸すも親切、貸さぬも親切銀行にとって、「不良なお客様」は、倒産するのが正しい。
不良な会社が倒産すれば、不良資産を償却できて自己資本比率が上がるし(自己資本比率が上がれば、銀行の経営が安定する)、不良な会社がなくなってもマーケットの大きさは変わらないので、結果として「優良な貸付先」が増える。「不良なお客様」を無理に延命させると、社長も社員も、その家族も、立ち直れなくなる。だから、出直しができるうちに倒産させたほうが良心的だといえます。困っている人に手を貸さないのは、道義にもとると思われがちですが、ギリギリまでお金を貸し、自己破産まで追い込んでしまうことのほうが、道義にもとる。貸すも親切、貸さぬも親切です。
③「武蔵野」は支店長のやきもちで、貸し渋りにあった支店長に嫌われたら、その会社はおしまい銀行の支店は、「支店長」で決まります。銀行の融資担当者が「この会社に貸したい」と尽力しても、支店長が「貸さない」と判断すれば、それまでです。「支店長に嫌われたら、その会社はおしまい」。それほど支店長には大きな権限があります(支店長の権限については、第3章で詳述します)。かつては、お金を貸した会社が倒産しても、支店長が責任を追及されることはありませんでした。ところがいまは、違います。万が一「武蔵野」が倒産したら、「誰が貸したのか」を問われる。記録も残っている。だから、貸付に慎重になる。「倒産すれば、決済した自分の出世に響く」と考える支店長がまともです。私の経験上、支店には、融資に積極的な「イケイケどんどんタイプ」の支店長が2期(2人)続くと、次の3期目は、「守りタイプ」がやって来る気がします。「イケイケどんどんタイプ」ばかりではない。「武蔵野」が貸し渋りにあったのも、支店長が交代したからです。新任のA支店長の〝やきもち〟がきっかけでした(1年10カ月の間、追加融資はありませんでした)。前任のB支店長は、「イケイケどんどんタイプ」。「武蔵野」の経営計画に好意を示し、金利も安く、たくさん貸してくれた。けれど新しい支店長は、「守りタイプ」の典型。赴任早々行員を集め、こう詰め寄ったそうです。「誰だ!!『武蔵野』にこんなに安く金を貸したのは!」おそらくこの支店長の実力では、前任者のような「安い金利」で稟議を通すことができなかったのだと思います。だから、B支店長に嫉妬した。やきもちをやいた。そしてA支店長は、明確な方針を打ち出した。「オレは、『武蔵野』には貸さない」この事実は、A支店長が去ったあとに、滝石洋子管理本部本部長が行員の何げない会話の中から聞いた。「自分たちは、貸したかった。でも、支店長が許さなかった」銀行を知り尽くした私でも、「男のやきもち」が原因だとは予想できなかった。だから、対策が打てなかった。さいわい、地銀からの借換えで乗り切ることはできたものの、「武蔵野」は、「支店長に嫌われたら、その会社はおしまい」という事実の一端を、かいま見ることになった。銀行の融資担当者は、サラリーマンです。サラリーマンである以上、支店長や頭取の方
針にしたがわざるを得ない。会社組織は、トップの命令によって動くのだから、トップが「貸し剥がしをしろ」、「貸し渋りをしろ」と言えば、するしかない。現場の担当者に責任はありません。
④銀行は、「業績の良い会社」からしか貸し剥がしをしない業績の悪い会社は、貸し剥がしにあわない銀行は、どのような会社から貸し剥がすのでしょうか。「武蔵野」が4億3460万円もの貸し剥がしにあったのは、業績が良かったからです。多くの社長は、このことがわかっていない。「業績の良くない会社から剥がす」と思っている。業績が悪い会社から剥がすとどうなるか。倒産します。倒産するとどうなるか。負債が残ります。だから、「業績の良い会社から剥がす」のです。いわゆる「老舗」も、貸し剥がしの対象です。本業の業績が少々悪くても「含み資産」を持っているため、剥がすことができる。銀行が老舗に人を送り込むのは、表向きは「会社を再建させるため」ですが、実態は、「資金を回収するため」。とくに地方の老舗は、地価の高い土地を保有していることが多いので、貸し剥がしやすいのです。2代目社長&3代目社長も、貸し渋り、貸し剥がしのターゲットになりやすい。なぜなら2代目、3代目は、初代ほど強かではないから。赤字で返済に苦しみ、銀行から定期預金の解約を勧められ、なんの疑問もなく応じるお人好しが多いです。2代目、3代目はよく勉強をしているし、ITにも詳しい。けれど、コミュニケーションスキルが低く、営業力も不足気味。人にだまされやすい一面もある。つまり、人間的に弱くて、脆い。ですが初代(親)は、自分の息子、娘がかわいいから、そのことに気がつかない。親は、他人を見る目は厳しくても、我が子を見る目は甘くなるのがまともです。銀行からしてみれば、強かさに欠ける2代目、3代目は、狙い目となります。
⑤自力で戦うから、筋肉質の会社ができる「モラトリアム」によって、貸し渋りがさらに増える銀行が貸し渋りや貸し剥がしを行なうと、中小企業は新規融資を断られたり、融資の継続を打ち切られたりして、資金供給が十分に受けられなくなります。その結果、経済活動が停滞すれば、企業の連鎖倒産やデフレを招く。そこで金融庁は、金融機関に注意喚起をうながしていますが、銀行もなかなかしぶとい。あの手この手を使って、貸し渋りに見えないように(実際は貸し渋りに等しい)、ギリギリの報告をしているのです。嘘はつかないけれど、実態をすべて伝えることはしない。某大臣は、一定期間債務の返済を猶予する「モラトリアム」の効果に期待しているようですが、私の考えは違います。あの構想は、中小企業にとって逆効果です。一定期間返済を猶予すると、貸し手である金融機関にとって、猶予期間の収益が悪化します。そうなれば、返済猶予を申請した会社に対して、金融機関は新規の融資を行なわなくなるでしょう。つまり、貸し渋りがさらに増えてしまう。「返してくれない会社には、貸さない」と考えるのがまともです。政府が保護する事業や政策は、「経済の実態」に即していない場合が多い。繊維産業をはじめ、〝糸へん〟や〝木へん〟の産業が衰退していったのは、政府が「経済の実態」を見誤ったからです。一方で、日本の自動車産業が世界に名をはせたのは、「日本政府の保護を受けなかったから」との見方が定説です。保護を受けたからといって、会社が強くなるわけではありません。小山昇がどうして強かなのか。「武蔵野」がどうして強かなのか。それは、政府にも、金融機関にも、創業家にも、ダスキン本社にも、甘えないからです。2000年ごろ、「武蔵野」がライバル会社とのシェア争いにしのぎを削っていたとき、ダスキン本社の3代目社長が「加盟店への援助」を申し出ました。ですが私は、一も二もなく断った。「援軍を出してもらうと、加盟店が弱くなるから」です。他の有力加盟店からは「小山が余計なことを言うから、援軍が来なくなった」と叱られましたが、自力で戦ったから必死になり、筋肉質の会社をつくり上げられた。もしも私が「甘えの構造」を容認していたら、そして、本社から割り振られるお金を受け入れていたら、いまの「武蔵野」はありません。貸し渋りは、会社を改革する絶好のチャンス
貸し渋りや貸し剥がしは、利益体質を抜本的に改善する「千載一遇のチャンス」です。お金を貸してもらえないなら、貸してもらえるように体質を改善する。「甘えの構造」から脱却する。私は常々、「外圧があったときこそ、変革のチャンス」だと考えています。コップの中に半分水があるのを見て、「半分しか入っていない」とするか「半分も入っている」とするか、とらえ方によって会社の結果は変わります。外圧に見まわれるたび、「武蔵野」は変革を遂げてきた。だから小山昇は、強かです。2008年、「武蔵野」は過去最高益でした。過去最高の増収増益でした。でも、冬の賞与の支給額は90%。支払い金額は50%でした。なぜかというと、「武蔵野」が持っていた現金は、過去最低だったから。現金がないのだから、払いたくても払えません。ない袖は振れない。坊主は髪を結えません。社員は、期待していました。だから、こう言いました。「銀行からお金を借りてきた人がいたら、払ってあげる」私は、社員全員を集め、事実を伝えた。貸し渋りにあっているのも事実で、会社の業績が良いのも事実。賞与をたくさん払いたいのも事実で、お金がないのも事実。だから「半分だけ賞与を支払い、残りは、お金を借りられてから支払う」ことを説明した(残りは翌年6月に支払いました)。2008年12月といえば、景気の停滞がいちじるしいときです。どの会社も、一様に厳しかった。世間が厳しいときに、お金を無理して支払ったら、社員は甘くなる。増収増益でもお金が借りられないことがわかれば、社員の考えも変わります。お金がないのを銀行のせいにして、社員を引き締めるのも社長の手腕です。痛みをこわがっていたら、変化は起きない「武蔵野」の経営サポート事業部では、現在、336社にカウンセリングを行なっています。ほとんどの社長は、私がよほど追いつめなければ、抜本的な改革に乗り出しません。2009年の夏、私の勉強会に参加した株式会社小彌太の小瀬川弘樹社長の話です。小瀬川社長の会社は、数年前までは黒字だったものの、やがて4000万円の赤字、6000万円の赤字が出るようになった。そこで「どうしたら財務体質が良くなるのか」を私のもとで学ぼうとした。社長は、資金繰りに困っていました。私はそれを知りつつ、あえて相談を受けつけなかった。それどころか、「これ以上、勉強してはいけない」と出入り禁止にした。なぜ出入り禁止にしたのか。この社長が本当にすべきことは、座学ではなく、「現場に出て、営業をすること」です。「相談」は、「自分にとって、都合のいい答えを言ってほしいとき」にする社長が多い。ですが本当は、「自分にとって、痛みをともなう答えを得る」のが「相談」です。だから
私は、「ダブつく社員を3人辞めさせることができるか。痛みをともなう決定をしたら、そのときは時間をつくってあげる」と提案しました。社長が社員を辞めさせると「可哀想だ」と非難される。でも、社員を辞めさせても会社を潰さない社長は、「良い社長」です。社長の責務は、会社を残し、健全化を図ることです。「辞めさせるのは可哀想だ」と対策を打たないのは、「悪い社長」。あげくに会社を潰し、全員が仕事を失うほうが、よほど卑怯だと私は思う。1割を切り捨てて9割残すか、1割を残して全員で沈むか。卑怯なのは、全員が沈むことです。私は、小瀬川社長に「お客様の現場」に出向くように勧めました。真実は、現場にしかありません。ただし、本当に出向くかどうかは社長次第です。そこで私は、見張りをつけた。我が社の伊藤修二課長が月2回現場に同行。そして、株式会社イワテロジックスの菊池正則社長に声をかけ、「小瀬川社長の会社の前を通ったら、社長のクルマがあるかチェックしてほしい」とお願いした。クルマがあれば、営業に出ていない証拠。クルマがなければ、営業に出ていることになります。社長は、私の言いつけどおり、きちんと現場を回りました。そして、予想もしなかった厳しい現実に直面した。5年前、まだ黒字だったころ、小彌太はシェア80%。ライバルは20%。けれど現在は逆転を許し、自社のシェアは20%にまで落ち込んでいたのです。なぜシェアが落ちたのか。その原因は明白でした。新製品を扱わなかったからです。お客様から「こういう商品ありますか?」と問われたとき、社員はどうするか。該当商品がなければ「ありません」と答えます。では社長はどうか。社長は「ありません」とは答えない。その商品をなんとかして調達するでしょう。社員数を減らし、社長が積極的に営業に出るという変化が、会社の問題点を浮き彫りにした。そして、小彌太の、2009年度の決算は黒字になった。
⑥銀行を自社の〝チェック機関〟に活用する銀行に「ブレーキ」の役割を持たせる銀行に融資を申し込んで、もしも「全行貸してくれない」となったら「会社を変えるチャンス」です。不平不満を言わずに「貸してくれないなら、会社を変えよう」と割り切れるかどうか。割り切れる社長は、立ち直る可能性が高い。ところが、多くの社長は「イケイケどんどんタイプ」。アクセルは踏むけれど、ブレーキを踏みたがりません。社員も社長に対し、「この事業はやめるべきです」とは進言しにくい。ブレーキを踏まないと、いずれ衝突してしまう。だから私は、銀行を「ブレーキの役割」として活用してきました。私は、「どこも貸してくれなかったら、その事業はやめる」と決めています。貸してくれなくても銀行を恨まない。むしろ「自社を変えるチャンス」と建設的に考える。貸してくれなかったら、ギヤを入れ替えたり、ブレーキを踏んだりして、現状路線で行く。だから「武蔵野」は生き残ることができた。銀行は常に「その事業が伸びるか」、「融資しても大丈夫か」を考えている。だから私は、銀行に客観的な判断を仰ぎます。15年ほど前のことです。半期が終わって収支計算をしたところ、売上は118%伸びていたが、人件費や経費がかさみ、赤字になっていた。私は常務の清岡照比古と銀行を訪問し、各行に「武蔵野」の現状を伝えた。「このまま伸びると、125%まで成長します。来期もお金を貸してくれますか?」銀行の答えは、すべて「NO」でした。恨み言のひとつも言いたくなりましたが、私は各行の判断を受け入れた。会社に戻ると、清岡が「どの銀行からも融資を得られなかった」ことを会議で報告。この報告を受け、幹部社員に危機感が芽生えました。そして、一気にブレーキがかかった。新規事業への投資を縮小。さらに営業所の統合閉鎖を行ない、かろうじて黒字にした。翌月、私は役員の斉藤健一とともに銀行を訪問し、斉藤から「拡大路線を中止したこと」を報告させた。その結果、再び融資が行なわれた。銀行は「社長は、ごまかすのがうまい」と考える。だから、「武蔵野」の本気を伝えようと、職責下位の斉藤に「拡大路線の中止」を説明させた。すると銀行は「拡大路線の中止はごまかしではない。武蔵野は本気で対策を講じている」と信用した。私はよく、サポート会員の社長から「新規のプロジェクトに投資したい」と相談を受け
ます。その際、「銀行が一行でも貸してくれるなら、やりなさい。一行も貸してくれないなら、やめなさい」と答えます。銀行は、採算が合わないことにはお金を貸してくれない。一行も貸してくれないのは、その事業に見込みがないからです。社長は「撤退」ができて一人前「お金が借りられない」ことを、銀行のせいにしてはいけない。銀行を「敵」と見ていると、目先のお金にとらわれる。改革する努力が足りません。私は、「困ったときの銀行頼り」をしない。困ったときは、自分で努力する。かつて「武蔵野」は、居酒屋3件と中華ファミリーレストランを経営していた時代があります。藤本寅雄創業社長から、ファミリーレストランの再建を託された私は、店に足を運んで、仰天した。社員がまかない食に、「ふかひれの姿煮」を食べていたからです。「ふかひれの姿煮」は、お客様に食べていただくメニューです。私は、レストランの店長、部長、料理長を呼び、「給料を倍にする」という条件を与え、かわりに「店の立て直しに力を貸してほしい」と頼んだ。ところが、彼らから色よい返事を聞くことはなかった。私がとった対策は、「店の閉鎖」です。当時、入院療養中だった藤本社長は、「もう少しがんばれ」と閉鎖に反対したが、私は無視した。脱兎のごとく閉鎖の手配を進めた。閉鎖をして、毎月250万円の赤字がなくなりました(250万円黒字が増加)。保証金も戻り、資金繰りが良くなった。銀行にお金を借りて、首の皮一枚の状態で赤字事業を続けるよりも、撤退するほうが効果的だった。やることなすことすべてうまくいく会社などありません。社長は撤退ができてこそ、一人前。銀行は、撤退したことのない社長よりも、失敗や撤退を経験した社長を信用します。
①担保も、個人保証もない「武蔵野」は超異常!社長は「いまが最高の状態」と思ったときに、努力を忘れる経営サポート会員の社長は、私が「銀行からお金を借りるときは、担保も、個人保証もしなくていい」と言うと、驚きます。「あり得ない!」と目を見張ります。なぜ驚くのか。どの社長も、無知だからです。人間は「いまが最高の状態だ」、「いまが当り前の状態だ」と満足すると、成長しません。「個人保証するのは当り前」、「担保を提供するのは当り前」、「金利が高いのは当り前」と思ったときから、努力を怠ります。なかには「奥さんの個人保証も当り前」と納得している社長もいる。本来、借りる側と貸す側は、対等であるはずです。むしろ、銀行にとって借り手はお客様ですから、「借りてください」と頭を下げる立場です。けれど、「お金は借りるもの」という意識が強い社長は、自分の立場を下に見て「貸してください」と先に頭を下げる。だから銀行は「貸してあげる」と強気に出る。「武蔵野」は、過去、最高で16億円借りていました。もちろん、無担保です。個人保証は2案のみ(相続対策のため、個人保証でお金を借りた。相続対策の経緯は、『社長!会社を継がせたいならココまでやっておかなくちゃ!』(すばる舎)を参考にしてください)。100%プロパーで、信用保証協会付はゼロ。借入金の内訳は、すべて「長期借入金」。「短期借入金」はゼロ。私が知るかぎり、無担保で16億円借りられた社長は、私以外いない。これは「超異常」なことであり、小山昇と「武蔵野」がいかに銀行交渉に長けているかがわかります。
段階的に「根抵当権」を外した小山昇の戦略1990年、私が「武蔵野」の社長に就任して1年が過ぎたころ、私は創業者・藤本寅雄の息子を呼んで、尋ねました。「オレのあと、『武蔵野』の社長をやるか?」息子は「やらない」と答えた。そこで私が、息子の代わりに「武蔵野」の株を取得することになった。藤本夫人から、株の売却にあたって「借入についている担保を外してほしい」、「今後は保証人にならない」との条件を提示され、私はその条件を受け入れました。当時、「武蔵野」には7億円の借入がありました。創業者の藤本は、本社の土地や自宅を担保として銀行に差し出していて、すべて「根抵当権」がついていた。銀行が設定する抵当権には、「抵当権」と「根抵当権」があります。「抵当権」は、返済が終了すると解除されますが、「根抵当権」は、解除されません。銀行は、「根抵当にしておけば、毎回担保を設定しなくてよい」と説明します。では、1億円の土地に根抵当権をつけて5000万円借入をする。無知な社長は、「まだ5000万円借りられる」と思う。もちろん、業績が良いときは借りられますが、業績が悪ければ、借りられません。私は、運が良かった。ツイていました。ときはバブル。「武蔵野」の業績は上り調子。銀行はイケイケどんどんで貸す時代です。向こうから「借りてください」と頭を下げてきます。私は取引のある全銀行からたくさん借入をして、借入金額のもっとも少なかったA銀行の借入を全額返済した。返済に際して、私はA銀行の支店長に「今後は厳しい経営をやりたい」と伝えた。「武
蔵野」の経営計画に見込みを感じた支店長は「小山社長、いいですね。ぜひ、厳しい経営を期待します」と賛同してくれました。私はすかさず、話を続けた。「ついては、根抵当権を外してください。根抵当権がついていると、経営が甘くなる。借入のときは、その都度、きちっと判子を押したい」。支店長としても、経営計画を評価した手前、「甘い経営でいい」とは言えません。しかたなく根抵当権を外してくれました。銀行は、お金を返済すると、今度はお金を「貸してくれる」ようになります。お金を返せるのは、その会社に返済能力がある証拠です。銀行は、「返してくれない会社」には貸したくないが、「返してくれる会社には貸したい」と考える。だから返済をすると、会社の信用が高まり、再び貸してくれます。5000万円全額返済すると、「5000万円貸していた会社」から「5000万円借りてくれる力のある会社」に変わります。そんな力のある会社を他行に奪われるのはもったいないので、また貸したくなります。そこで私はA銀行から再びお金を借りて、さらに別の銀行から借りたお金と合わせて借入金額を増やし、2番目に借入金額の少ないB銀行の返済を行ないました。そして、A銀行と同じく「厳しい経営をしたいので、根抵当を外してください」とお願いしたのです。このようにして、C銀行、D銀行と一行ずつ交渉し、数年かけて根抵当権をすべて外していった。「当り前」の考えを捨てれば、包括根保証は外せるアドレス株式会社(福島県)の高尾昇社長は、福島県ではじめて「包括根保証」を外した社長です。取引のあった地銀に「根抵当の解除」をお願いしても、「前例がない。借入ごとに印鑑証明を用意したりするのは大変だから、根保証は便利ですよ」と継続を勧められました。それでも高尾社長は、強かに交渉を続け、包括根保証解除の承認を得た。地銀の支店長から「数万件の取引先の中で、根保証の解除を要請してきたのも御社がはじめてだし、解除したのも当行としてははじめてだと思う」と告げられたそうです。包括根保証は、金額や期間に制限がないため、銀行は包括根保証をとりたがります。借りたい気持ちの強い社長は、保証書の内容も精査しないまま、都合よくサインをしてしまう。生命保険の約款に、いちいち目を通さないのと同じです。保証書に記された「貴行に対し現在および将来負担するいっさいの債務」の文言こそ「包括根保証」を示すことに気づかぬまま、サインしてしまう。行員が説明する「包括」の意味を理解できず、それでもサインしてしまう。私もそうでした。次ページに掲載した保証書は、実際に私が取引をしていたときの保証書です。
「包括根保証」なんてどこにも書いていない。でも実態は、「包括根保証」にほかならない。「現在および将来負担する」のは、「会社が倒産するまで」ではありません。小山昇が「死ぬまで」保証しなければいけない。こんなに恐ろしい内容なのに、銀行の説明はあっさりしたものです。「次の借入の手間が省ける」という理由だけで判子を押させようとする。家を借りるとき、不動産会社は「重要事項説明書」の説明義務があり、賃貸契約の詳細を借り主に伝える義務があります。それなのに、何千万円、何億円というお金を貸す銀行に、重要事項説明書がないのはおかしい。明らかに法律の落ち度、金融庁の落ち度です。私もはじめは、無知でした。無知ゆえにたくさんの傷を負い、失敗を重ねながら、「どうすれば、自社に有利な交渉ができるか」を考えてきました。「担保を提供するのが当り前」という考えは、捨てるべきです。「当り前」と思っているかぎり、資金繰りは好転しないでしょう。ですが、無知をあらため、努力を続け、戦略的に交渉を進めれば、「武蔵野」や「アドレス」のように、根抵当権を外すことができる。株式会社ダスキン福山の高橋良太社長も、父親の代から差し入れていた、本社の土地建物の担保を外すことに成功しました。すると、よほど重圧から解放されたのか、高橋社長は、さらに3000万円の無担保・無保証での借入れを実現した。個人保証や抵当権を外せば、事業拡大のスピードが上がっていく。なお、前ページの保証書は、いまは銀行から返してもらって、私の手元にありますが、これは異例中の異例のこと。超異常です。なぜ、返してもらうことができたかは、159ページをご覧ください。「根抵当権」がついていると、他行から借りられない
株式会社青雲ゼミ(兵庫県)の石井久安社長が銀行に融資の申し出をしたら、銀行は「いいですよ。そのかわり担保を提供してください」と言われ、根抵当権がつけられた。担当者は言いました。「抵当権だとその都度、設定しなければいけない。その都度、印紙税もかかります」。社長は、根抵当権と抵当権の違いを知らなかった。そして、手間と印紙税を惜しんだ。1億円の土地に1億円の根抵当権をつけ、A行から2500万円借ります。すると、先ほど述べたように多くの社長が、「A行から、まだ7500万円借りられる」と思うが、それは社長の勘違いです。「2500万円貸したときと同じ利益状況である」という事実がなければ、貸してもらえません。会社の業績が急激に下がっていれば、7500万円の担保価値は認められない。ところが「抵当権」をつけてA行から2500万円借りれば、残りの7500万円の担保価値は残っている。だから、他行の「抵当権」に入れて借りることができます。抵当権を設定するなら、根抵当権ではなく、抵当権で借りるのが正しい。根抵当権がついていると、担保価値が残っていても、他行から借りることができない。銀行が根抵当権を勧めるのは、「他の銀行にとられないため」です。株式会社マキノ祭典(東京都)の牧野昌克社長は「ツキ」を呼ぶセミナーで勉強してから、口ぐせのように「ツイてる」「ツイてる」を連発していた。ある日、五月蝿いので「『付いてる』、『付いてる』、根抵当付いてる」と言ったら、いつの間にか言わなくなった。根抵当権は重い。
②目先の金利より、借りられる「額」に目を向ける事業の目的は、お客様の数を増やすこと多くの社長が、「銀行に支払う金利がもったいない」と考えます。「金利を安くできるなら、担保を提供してもいい」と考えます。ですが、この考えは間違いです。社長は、目先の金利ばかり気にしてはいけない。会社を経営するうえで大切なのは、金利ではなく「金額」です。ここが、多くの社長が間違うところ。私は、「少々金利が高くても、額を借りるほうが大切」だと考えています。経営にとって先決なのは、規模の拡大です。すなわち、お客様の数を増やすこと。そのためには、金額を投入しなければなりません。神戸クリニック(兵庫県)は、レーシック手術で知られています。神戸クリニックは、「金利5%」の超高金利にもかかわらず額を借りた。額を投入してお客様を増やし、やがて、業界3位にまで上り詰めた。その後2年間で収益を上げ、借入金を繰上げ返済しています。神戸クリニックの吉田圭介理事長の判断は正しかった。ようするに、事業の最大の目的は「お客様を増やすこと」であって、目先の金利を低くすることではありません。私は、税理士からこう言われてきました。「小山社長、金利がもったいないです」と。税理士の欠点は、事業をやったことがないことです。経営の実態がわかっていないから、「もったいない」と決めつける。そして無知な社長は、税理士の言葉を鵜呑みにして「金利は安いほうがいい」と信じて疑いません。規模の拡大をするために、設備投資をするために、ライバルに差をつけるために、お客様へのサービスを向上するために、何よりも額を借りなければいけない。「金利が高いから借りない」では、いつまでたっても会社は成長しません。社長は、不測の事態があっても、困らないようにしておくことが大切です。不測の事態に見まわれたとき、「金利が損だから」といってギリギリの資金しか持っていない社長と、私のように、少々金利は高くても資金に余裕のある社長では、どちらが対応できるか。答えは明らかです。金利を払っても、資金に余裕があって、事業に専念するほうが正しい。金利は、会社を強くするための必要経費今日の「武蔵野」があるのは、目先の金利にとらわれなかったから。事実「武蔵野」の金利は、他に比べて1%ほど高い。それでも利益は過去最高(第45期)です。
金利は安いけれど業績が下がるほうがいいか、金利が高くても過去最高益がいいか……。経営サポート会員の中には、金利ばかり気にする社長もいます。そんな社長に私は言います。「そんなことだから、あなたの会社は強くなれないんですよ。強くなることを目的としたほうがいいですよ。だから、低金利よりも額ですよ」金利は、会社を強くするための必要経費と考えるべきです。会社を強くするには人員を増やさなければいけない。新製品を出さなければいけない。設備投資をしなければいけない。そのためにお金を借りたら経費がかかる。だから金利は、会社にとって必要経費です。
③基本的に「無借金経営」はあり得ない借金は罪悪ではない多くの社長は、「借金は罪悪」と考えています。私も親に「銀行から1億円借りた」と話したときは「おまえ、大丈夫か?返せるのか?」と心配されたものです。一般的に、「借金」=「うしろめたいこと」と思われています。では、会社が大きくなることは罪悪ですか?会社の利益を出すためにお金を借りることは、うしろめたいことですか?「罪悪だ」と考えるのであれば、企業経営から足を洗ったほうがいい。上場を目指すとか、業界ナンバーワンを目指すなんて口に出さないほうがいい。お金は、いわば会社の血液です。止まると倒産します。心臓が止まって人間が亡くなるのは、血液が止まるからです。会社も同じです。現金が回らなければ、生きてはいけない。経営は、現金に始まり、現金に終わる。だから借入をしないかぎり、生き残れません。かつては企業の数も少なく、スピードを求められなかった。けれど現在は、時代の変化が速すぎる。お客様のニーズは、刻々と変化しています。変化に対応するには、「利益が出てから設備投資をすればいい」と悠長に構えていてはダメ。のんびりした社長は時代に取り残されてしまう。借入は、罪悪ではない。会社が一定の規模に成長するまでは、借入すべきです。中途半端でやめてしまうと、会社が存亡の危機に陥ります。途中でやめると、そのとたん、ライバル会社にマーケットを奪われます。ライバルとの企業間戦争に打ち克つには、ランチェスターの法則に則って「ライバルとの差が3倍」になるまで、戦力を増強する。そうでないと、いつ逆転されるかわからない。完全に勝負がつくまで気を抜いてはいけません。製造業は設備投資、サービス業であればお客様を増やす。そのための借金は、未来への投資です。ナンバーワンになるにも、現金が必要日本の税法上、無借金経営はあり得ません。もし無借金経営が正しいのであれば、金融機関はたくさん必要ない。金融機関が繁栄するのは、「無借金経営はあり得ない」からです。無借金経営が可能なのは、ひとつは弁護士事務所や会計事務所といった役務の会社。あ
とは、地域ナンバーワン、業界ナンバーワン、オンリーワンの会社。トヨタ自動車のように世界に名をはせる会社になれば、無借金になれるでしょう。その地位を確立すれば、利益が出る。利益が出れば、無借金になりやすい。ですが、ナンバーワンになる過程で、どうしてもお金が必要になる。ナンバーワン、オンリーワンになるためには規模の拡大が必要であり、そのためには、借金をしなければなりません。コンサルタントや税理士は、「無借金経営のほうが財務体質はいいから、いざというときにお金を借りやすい」と勘違いしています。しかし、いままで一度も借入のない会社が、急に融資を申し込んできたら、銀行はどう思いますか?「この会社は、よほど追い込まれている、回収に不安があるかもしれないから、新規の融資は見合わせよう」と警戒する。銀行は保守的で、過去の実績に対してお金を貸します。未来の事業や新規取引には必要以上に慎重です。過去の経営状況、過去の借入・返済実績、そして担保を見て融資を決定しています。現金は明るさの象徴現金がない社長は、1カ月の大半を資金繰りに奔走し、事業に専念できません。「社長、2000万円足りません」と言われたら、シュンと落ち込んでしまう。ですが、どんなに赤字でも、銀行からお金を借りることができれば、「なんとなく裕福な感じ」になるものです。事業にも専念できるから、気持ちも前向きになれる。社員もそう。「賞与を支払うけれど、会社に貸付けておけ」と言われたらみんな暗くなる。たとえ評価がC評価、D評価と芳しくなくても、賞与支給日にみんなニコニコと明るいのは、現金で支払われるからです。現金は、明るさの象徴です。明るくて強い会社をつくりたいなら、現金を持つこと。「額を持つこと」が大切です。
④「ジッキン」のしくみをわかっていないと、損をする定期預金をすると、実質的な金利が高くなる多くの社長は、「金利を安くしたい」と考えるわりに、「実質金利」のしくみを理解していません。実質金利とは「実際に支払うべき金利」のことです。かつて銀行には、「歩積両建」がありました。これは、借入のときに「借りたお金の一部を定期預金にする」しくみです。旧大蔵省によって現在は禁止されていますが、いまだに「社長、安く貸しますから、そのかわり定期預金をしてください」と言われるのは、依然として、この慣行が続いているからです。実質金利は、実質的な金利負担を、実質的な借入残高で割れば計算できます。計算式は、次を参照してください。お金を借りても、一部を定期預金に回さなければいけない。しかも定期預金の年利は、支払金利よりも低い。だとすれば、実際の金利は高くなる。多くの社長は、「安く借りられた」と喜ぶだけで、このカラクリに気づいていません。この計算式から、お金を借りれば借りるほど実質金利は安くなり、定期預金が増えるほど、実質金利が高くなることがわかります。「実質金利が高くなる」=「銀行が儲かる」しくみです。
世の中の金利が、平均2・5〜3%だったころ、「1%台」で長期借入をしている千葉県の社長がいました。まわりから「すごいですね、A社長。1%で借りられるなんて」と持ち上げられていたのですが、A社長の実質金利は、6%でした。なぜか。銀行に、定期預金がごっそり入っていたからです。社長は、実質金利のしくみをわかっておくべきです。そして銀行から「借入の金利を高くしてほしい」と言われたら、「わかりました。そのかわり、定期預金を解約させてください」と交渉する。また、銀行の担当者が変わったときには、こう言えばいい。「次に来るときまでに、ウチのジッキン調べておいて」金融業界では、実質金利のことをジッキンと呼びます。「ジッキン」と聞いただけで、担当者は震え上がり、「この社長は強かだ」と認める。行員が勝手に定期預金を解約?かつて「武蔵野」は、Z銀行の普通預金の残高が不足し、借入金の返済ができないことがありました。するとZ銀行の担当者は、定期預金を無断で解約し、返済に充てた(しかも解約したのは、高金利の定期預金)。銀行員として、してはいけない愚行です。ですが、私は銀行を糾弾しませんでした。定期預金はすでに低金利の時代に入っており、いまさら積み直しても、高金利に戻るわけではなかったからです。そこで私はどうしたか。「得られる金利の損失をなくせばよい」と考えた。そして「この件は不問にするので、そのかわり、見合うだけのお金を貸してください」と申し入れた。「武蔵野」が損をする金利分に相当するお金を借りれば、実質的な金利は下がります。もちろん、Z銀行は、私の申し入れを受け入れました。金利は、売上で決まるのではない。格付けで決まる「会社の売上が上がっていれば、低金利になる」と思われがちですが、そんなことはありません。金利を決めるのは、売上ではなく、その会社の格付けです。格付けは、銀行から見た会社の評価です。では、どのような会社が評価されるのか。
前ページのスコアカードを見てください。銀行は、「100点満点」で会社の実力を評価し、格付けを決めています。もっとも多く点数が割り当てられているのが、「返済能力」です。つまり、「返済能力」が金利を決める。経営サポート会員が「倒産ゼロ」なのは、売上ではなく、「返済能力」に目を向けた指導をしているからです。そして経営サポート会員が銀行から融資を受けられるのは、「格付けを上げるには、どこに手を打ったらいいか」をB/S(貸借対照表)ベースで考えているからです。銀行が、収益性や成長性よりも「返済能力」に着目していることを知らず、「売上が上がれば金利が下がる」と考えているうちは、格付けは上がらない。したがって資金繰りに行き詰まります。
⑤「次は長期で貸したい」と言わせる「武蔵野」の交渉術借りたお金のほとんどを普通預金に残しておく借入は、短期借入よりも長期借入がいい。そのほうが格付けが上がり、同じ額の借入なら、長期間のほうが毎月の返済額が少なくてすみます。けれど、長期借入は、会社の業績が悪いと応じてくれないので、普通は資金運用が安定しません。では、どうすれば長期借入ができるのでしょうか。いまから15年前(平成7年)、三菱銀行(当時)が新規で営業に来ました。「短期で5000万円貸す」というのです。私は「5000万円なら借りない。1億円なら借りる」と答えた。銀行は、「借りたい」と言うと、貸さない。「借りない」と言うと、貸します。ちょうどお金に困っていた時期だったので、私は短期で1億円を借りることにしました。当時、経理部長だった滝石洋子は、「これで資金繰りができる」と大喜びです。しかし私は「使っていいのは、2000万円だけ。残りの8000万円は一度他行に資金移動し、2日後にまた三菱銀行の普通預金に戻すこと。戻した8000万円には、一切手を付けてはいけない」と命じた。意図的に「晴れている状態」をつくるいったん他行に資金移動したのは、そのままにしておくと、銀行側が「使用目的のないお金を貸した」、「銀行が無理やり貸した」と勘ぐられ、金融庁から指導を受けるから。2日後に三菱銀行に8000万円戻したのは、「武蔵野にはお金が余っている」ように思わせるためです。「晴れていれば傘を貸し、雨が降れば傘を取り上げる」のが銀行だから、意図的に「晴れている状態」=「お金に余裕のある状態」をつくった。銀行は、「武蔵野」に8000万円の普通預金があることを知っています。そして、資金に余裕のある武蔵野には、返済能力があると見なす。だから当然、銀行も貸したくなります。1年後、短期借入した1億円を返済したとき、銀行の営業は「また借りてください」と言ってきました。こちらから「貸してください」と申し出たわけではないので、立場は「武蔵野」が上。私は即座に「短期では借りない」と断り、結果的に「金利は短期とほぼ同じで、3年間の長期融資」を受けた。
「武蔵野」の借入が、100%長期借入なのは、このように時間をかけて、短期から長期に切り替えてきたからです。最初の融資は「お見合い」のようなもの一般的にサラリーマンは、収入が安定しています。定年まで勤めるのであれば、それまでは収入が保証されています。だから住宅ローンも、長期で貸付けできる。ところが、企業は安定性がありません。社会変動に影響されやすい。業績が上がったかと思えば、いきなり下がる。リーマンショック以降は、どの会社もヨタヨタしています。だから、信用できない。だから、短期で貸付ける。銀行との最初の取引は、いわば「お見合い」のようなもの。銀行は慎重で、焦げつくのを嫌います。だからはじめは短期で取引をして、「この会社と末長くつき合っていけるか」を見極める。そして「信用できる。返済能力がある。長くつき合っていける」と判断すれば、長期の借入となる。信用してもらうには、滞りなく返済すること。「返済は、絶対に遅れない」。これが鉄則です。お金がなければ、他行から借りてでも返す。借りて返すのは、遅れではありません。
⑥1円で株式継承するために、長期でめいっぱい借り入れる格付けを上げて資金を確保する会社の業績が良くなると、将来、相続で困ります。株価が高くなりすぎると、相続税が増えてしまい、相続人は自社株を手放すことになりかねません。反対に業績が悪くなれば、会社そのものがなくなってしまう。ですから事業継承は、計画的に、段階的に進めなければいけません。私は個人会社として「有限会社小山経営計画研究会」を設立しています。そして、個人会社が、「武蔵野」の自社株の50%を「総額10万円未満」で保有した。「武蔵野」の株主構成が小山昇個人と法人になれば、将来的な株式政策はやりやすくなります。自社株の評価額を下げるためには、まずは格付けを上げなければいけない。評価額が下がり、財務状況が悪くなれば、あとで資金繰りに困る。株式継承が終わるまで資金繰りに困窮しないよう、格付けを上げて借入を増やしておく必要があった。土地などの不良債権を処分したり、キャッシュフローの悪い「あかり事業部」を売却するなどして、格付けを上げた。そのうえ第41期(2004年)は金利が底値だったため、支払い金利額を超えない範囲で、借入金をめいっぱい増やしました。また、配当可能利益(旧商法による自己株式の所得可能額)が少なければ、配当が引き下げられ、自社株の評価額が下がります。そこで、「繰延資産」(支出された費用の効果が将来にも及ぶ場合は、全額を当期の費用とせず、数年度にわたって分割して償却していい)の「開発費」を大きくしました。ダスキン事業の販売促進や新規事業(ホームインステッド事業)を立ち上げるなど、1年目は約1億8000万円を投資。1年以内に成果が出ないものは、繰延資産の開発費として計上します。こうした施策を3年間続けた結果、繰延資産が膨らみ、配当可能利益はマイナスになった。粗利益額は毎年増収、経常利益も増益なのに、配当はゼロ。すると3期目の8カ月経過時に自社株の評価額は「1円」になった。このタイミングで株式継承を行なった(ただしこの方法は、新規事業という実態があり、3年継続しているからこそ適正な処理だと認められます。1、2年だけ会計上の強引な操作をしても、税務署は認めてくれません)。配当可能利益がマイナスになれば、格付けが下がる。格付けが下がれば、借入がむずかしくなる。貸してくれるとしても、金利が上がります。したがって、株式継承の準備段階で格付けを上げ、長期でめいっぱい借りておく必要があります。3年では心もとないので、5年長期で借りておく。開発費と貸し剥がしにあった金額は、ほぼ同額
新規事業のホームインステッド事業部は、3年目に損益分岐点を超える営業所が出ました。利益が出はじめると、開発費の償却がはじまります。開発費は最高で4億5000万円まで達したので、それを数年かけて償却します。この間は、利益と相殺されるため、税金の支払いはありません。つまり、利益が出た分だけ、返済財源に回ります。開発費を4億5000万円積みましたから、4億5000万円まで税金がなくなります。「武蔵野」が貸し剥がしにあった金額はいくらでしたか?4億3460万円です。開発費とほぼ同額です。本来であれば、利益が出ているから税金を納めなければいけない。ところが開発費を償却しているから、お金は出ていかない。だから「武蔵野」は、4億3460万円もの貸し剥がしにも対応できたのです。数字を並べかえると「6340」で「ムサシノ」。詳しくは『社長!儲けたいなら数字はココを見なくっちゃ!』(すばる舎)を参考にしてください。
社長には言えない「銀行の本音」
①支店では、支店長が絶対的な存在である貸す、貸さないの決定権は、支店長が握っているかつて「武蔵野」は「支店長のやきもち」によって、1年10カ月もの間、融資を受けられませんでした(32ページ)。貸し渋りにあうのも、あわないのも、支店長の判断ひとつ。貸すほうにとっても借りるほうにとっても、支店長は絶対的な存在です。銀行の組織体質は、支店長で決まります。お金を貸すのも、貸さないのも、支店長のさじ加減ひとつ。最終的には本店が判断するにせよ、実質的な融資の決定権は支店長にあります。支店長が貸すと決めたら、よほどのことがないかぎり、本店もNOとは言わない。もしも融資を断られ、その理由が「本店に断られた」のだとしたら、それは支店長(担当者)の言い訳です。実態は違う。本店が断ったのではなくて、「支店長が貸さないと決めた」のです。小さな支店は、支店長の決済金額が低いため、本店の決済を求められる場合があります。かつて「武蔵野」が取引をしていたS銀行では、武蔵境支店の決済金額は5000万円。一方で吉祥寺支店は1億円。7000万円借りるとするなら、武蔵境支店よりも、吉祥寺支店とつき合っていたほうが有利だとわかります。では支店長は、融資の可否をどのように判断しているのか。ひとつは会社の業績。会社が赤字で返済能力がないときに、追加融資を決める支店長はいません。それから、会社の返済実績も可否の判断材料です。他行を含めた年間返済金額は、会社の返済能力を示しているため、「その金額までは貸してもいい」とわかります。支店長は、倍倍ゲームで伸びている会社に融資をしない銀行にとって、いちばん儲かるのは、格付け(70ページ)が6〜8の会社。金利が高く貸せるからです。本店の審査部は、安全性を考慮して3〜5の会社に偏りがちですが、3〜5の会社は安定している分、金利が低い。格付け6〜8の会社の中で、これから伸びていきそうな会社に融資すれば、銀行の収益力は上がるでしょう。ましてや、無知な社長は背に腹はかえられないから、担保は提供するわ、個人保証もする。ただし、「格付け7以下の会社が、3年連続125%以上の増収増益になる」と、支店長は、「この会社は危険信号だ」と判断し、融資を控えます。なぜなら、やがて資金繰りが追いつかなくなり、資金ショートするからです。増収増益を手放しで喜ぶ社長は、B/Sを知らない社長です。経常利益が100出る
と、50が税金、25が予定納税。残った25は在庫と売掛金に変わります。つまり、利益が出てもお金が残らない。そのうえ「借入金の返済」が回ってきて、お金が足りなくなる。だから社長は、返済する財源の手当てに苦労する。私がベリーの社長のとき、毎年増収増益でも、いつも資金繰りに追われていました。けれど、「利益が出れば、来年はきっと楽になるなあ〜」なんてトンマなことを考えていた。「会社が大きくなるほど、苦しくなる」ことがわからなかった。一般的に、115%が適正な数字です(役務の会社は除く)。支店長にとって倍倍ゲームで伸びていく会社は、危険そのもの。相当な利益が出ていなければ、貸し渋る支店長がまともです。前任の支店長の決定ではなく、現在の支店長の決定が優先される社長は、前任の支店長が融資を約束したからといって、安心してはいけない。現在の支店長が「やはり貸さない」と一言言えば、それで終わり。融資は下りない。銀行では、現支店長の決定が絶対です。ここも、多くの社長がわかっていないところです。秋田県でスーパーチェーンを展開している、有限会社中央市場の金沢社長は、新店舗出店のための資金の融資を、メインバンクの支店長に相談しました。支店長は内諾をし、金沢社長は土地を購入。出店計画は順風満帆のように見えた。しかし、本店での審査前に支店長が交代し、状況は一変しました。土地の地ならしがはじまったころ、金沢社長はヨーロッパに視察旅行に行くため上京。成田空港に向かおうとしたまさにそのとき、携帯電話が鳴りました。「メインバンクの担当者から『本店の審査が通りませんでした』と会社に連絡が入ったのです。融資が下りることを前提に土地を買っていたので、このままでは資金がショートし倒産。海外気分が一気に吹っ飛びました」と金沢社長。旅行用の服しかなかったので、東京でスーツを買った金沢社長は、急いで着替えて、秋田にとんぼ返り。奥さんだけをスイス行きの飛行機に乗せた。そして、銀行へ向かったが、支店長は「不在」。そこで前支店長にも連絡をとって、一緒に本店の審査部にも駆け込みましたが、「一回下りた決定は、覆らない」。つまり、これは現在の支店長が「貸さない」と決めた証拠です。実はこれも現支店長の「嫉妬」だということが、あとでわかった。どんなに前の支店長が融資に前向きでも、融資の決定を下す時点の支店長が貸さないと決めたら、本店は貸さない。これが銀行の現実です。社長は、こういったリスクがあることも、肝に銘じておかなければなりません。どう頑張っても、メインバンクから借りられないことがわかった金沢社長は、他の取引銀行に泣きついた。すると、支店長が二つ返事で「わかりました。融資します」。金沢社長は九死に一生を得た。なぜ、二つ返事で融資が下りたか。それは、金沢社長が、複数の金融機関と取引をし(101ページ)、定期的に訪問し(第3章)、経営計画発表会に支店長を招待していたから(第5章)。いまでは、二つ返事で貸してくれた支店が、同社のメインバンクになっています。
②かつて銀行には、「侍」がいた小山昇が認めた4人の支店長私はこれまで、さまざまな支店長を見てきましたが、優秀な支店長は、みな同様に「決定のスピードが速い」という共通点があります。また、「お客様をお出迎えする姿勢」が身についています。銀行が開店する朝9時に、お客様を出迎えている支店長は、良い支店長です。私は以前、お客様をお出迎えしない支店長に向かって「お客様に対して、失礼ではありませんか?」と意見したことがあります。その後、私が銀行訪問をするときだけ出迎えるようになりましたが、それ以外はしなかった。ようするに、あぐらをかいていた。この支店長は、やがて銀行を辞めていきました。自ら現場に出向く支店長も、優秀な支店長です。現場に出るのは、部下とのコミュニケーションが良い証拠。いつも銀行にいる支店長は、現場を知らない。現場を知らないから、融資先の実態をつかめない。上辺の情報だけで「格付けが低いから貸すのをやめよう」と貸し渋るタイプといえます。小山昇が認めた支店長ベスト4第4位S銀行O支店長2000年度の日本経営品質賞を受賞したとき、すぐに「武蔵野」の融資状況を調べ、追加融資を支店に指示してくれた本店営業部長です。O支店長が転勤するとき、彼は私にこう言って、背中を押してくれました。「小山社長はいろいろと勉強をされているから、銀行の言いなりにならず、自分の思うとおりにしてください」第3位M銀行O支店長銀行は、実績主義の側面を持っており、提出した目標と実績の差が開きすぎると、不信を抱きます。そのため、達成率よりも額を重視する私の方針は、ときに理解を得にくい。現在の売上が100で、102%の計画を立てたとします。達成率が100%なら、売上は102。無謀にも200%の計画を立てて、60%しか達成できないと、銀行は、達成率の低さに目を向ける。ですが私の考えは違います。達成率は60%でも、売上は120になる。労働率分配率が高くても、原価率が高くても、「額」がなければ経営は成り立ちません。「経営は、率ではなく額」という私の方針に理解を示し、応援してくれたのがO支店長で
す。第2位F銀行I支店長1991年に「クリエイト」という事業を進めていましたが、2億8000万円の投資に対して、売上が3000万円。毎月400万円の赤字だったため、「この事業を撤退したいので、撤退資金を貸してください」とお願いした。するとI支店長は「それは良いことです」と言って、撤退資金を3000万円貸してくれました。また、こんなこともありました。かつて「武蔵野」は、経営計画発表会を「5月5日」に開催していました。メインバンクをはじめ、取引のある銀行の支店長をお招きしていたのですが、この日は国民の休日。I支店長から、こう言われました。「5月5日に経営計画発表会を催すのは問題がありますから、検討してください」そこで私は、翌年から経営計画発表会を5月6日に変更した。I支店長は、お客様に必要なことを、きっちりと言える支店長でした。第1位H銀行H支店長バブルが弾けた1992年の9月上旬、私の妻が「家を買いたい」と言いました。当時私は、荻窪の公会堂のそばに建つ賃貸マンションに住んでおり、引っ越すつもりはなかった。けれど、「買わない」と突き返せば夫婦喧嘩は必至。そこで妻に無理難題を出した。「いまのマンションよりも駅に近いところで、土地つきの家があったら買ってあげる」私は、「駅の近くの商業地域に、土地つきの一戸建てなどあるわけはない」と高をくくっていました。ところが、女性の執念は恐ろしいもの。青梅街道から30メートルほど入った閑静な住宅地に、25坪の家を探してきた。当初2億円で売りに出されていましたが、買い手がつかなかったのか、1億8500万円、1億6000万円、1億4500万円と少しずつ値下がりしており、私はしかたなく、不動産会社の営業担当者と会うことにしました。営業担当者に私が最初に尋ねたのは、「御社の決算はいつですか?」。すると「9月です」という返事。私は内心思いました。「いまからなら、間に合うな」。1年半以上物件を持っていると、儲けが出ません。少々値引きをしてもこの物件を手放して資金化したほうが、会社にとって健全です。「損をしなければ、手放す」。私にはそのことがわかっていました。これは値引きのチャンスだと思い、「1億2500万円なら現金で買う」と言った。
担当者は「それは無理」と反論したので、「決めるのはあなたではありませんよ。会社に戻って報告してください」と伝えた。すると翌日、「売ります」と返事が届きました。とはいえ、1億2500万円の現金を持っていたわけではありません。私はH銀行の新小金井支店に出向いて、H支店長に「家を買いたいので、お金を借りたい」と申し出た。支店長は「わかりました。当行で用意しましょう。ところで頭金はいくら用意されていますか?」と聞く。私が片手を広げて見せると、「5000万円ですか?」。「いいえ」。「500万円ですか?」。「いいえ」。「まさか50万円ですか?」。「ピンポーン!正解」。H支店長は、あきれながらも本店に稟議を上げてくれました。結果は、「ダメ」。けれど私は、それで引き下がるほどお人好しではありません。「では、自分で説明をしたいので、本店審査部にアポを取ってほしい」とお願いした。H支店長は、再び仰天です。そんな要求をした人物は、これまでいなかったから。H支店長は、それでも取りはからってくれました。私は「小山昇が家を買うことは、我が社の取締役全員が承認している」と説明して議事録を提出。無事に融資を受けることができた。それから15年、この支店は、「武蔵野」のメイン銀行になりました。10年後、他行から「安い金利で融資するので、私どもをメインバンクにしてほしい」という申し出がありました。しかし私は断った。H支店長に恩義を感じていたので、家のローンが残っている間は、どれほどの好条件でも、替えるつもりはなかった。H支店長は常務取締役にまで出世した。
③銀行員の体質を知らない社長は、損をする失点を怖れるサラリーマンタイプの支店長が多いかつて銀行には、前述した4人のように、「この会社は伸びるから、力を注いで育てていこう」という気概を持つ「侍」のような支店長がいました。そして「侍」たちに助けられ、指導を受け、いまの「武蔵野」があります。支店長にもいろいろなタイプがいます。保守的な人もいれば、積極的な人もいる。馬があった人も、あわなかった人もいる。調子がいいだけの支店長もいたし、うまくのせられて痛い目にあったこともあります。けれどそれは、のせた支店長が「私よりも一枚上だった」だけのこと。現在の銀行に、「侍」は少なくなりました。本部に言われたことしかやらない、サラリーマン的な支店長が増えたように思います。目先の利益を追うサラリーマンのほうが、出世しやすい。「侍」のままでは出世しにくい構造なのかもしれません。融資先が倒産したら、支店長の失点です。失点しないためには、「返してくれない会社には貸さない」と考える支店長がまともです。支店には、本店から予算が割り当てられています。その予算を達成すれば、支店は、S、A、B、C、Dと評価される。CやDをとった支店長は出世をあきらめるしかない。だから、SやAをとることが仕事の目的になっている。ほとんどの支店長が、定年を迎えることなく、外に出されます。外に出されても、就職先には困らない。なぜかといえば、銀行は「お金を貸している会社」を転職先に斡旋するからです。お金を借りている会社は、再就職の受け入れを断れると思いますか?銀行から「会社を建て直すために、人を送りたい」と言われたら、受け入れるしかない。ところが、送り込まれた元支店長は、経営をやったことがありません。したがって、コスト削減や資金の回収はできても、売上を伸ばすことができない。だからほとんどの場合、会社は立ち直れない。では、受け入れを断るにはどうするか。経営体質を改善するしかない。経営計画をつくり、実行し、利益を出していくしかありません。優秀な担当者は、スピード感がある銀行の担当者も、支店長がそうであったように、優秀な人ほどスピード感があります
見たらすぐ、聞いたらすぐに反応できる。「こういう案件があります」、「こういう資金が必要です」とわかったら、その日のうちに電話をかけてくる担当者は、心強い。メモを取ったり、わからないことはその場で質問してくる担当者であれば、安心です。反対に、反応が遅く、ずっと押し黙っているような担当者は、力がない。借換え、貸出が終わろうという時期に、次の案件を持って来ないようでは、担当者失格です。
④「頭取銘柄」に選ばれたら、倒産しない頭取が訪ねて来る会社は、地域ナンバーワンの証拠銀行は、専務や常務といった各役員がブロックに分かれて、お客様を訪問します。そのとき、数年に一度、頭取がお見えになることがある。頭取が支店に来ると、支店長が「この管轄でナンバーワンの会社」と認めた会社に訪問を勧める。そして、「頭取が訪問した会社は倒産させない」という暗黙のルールがあり、これを「頭取銘柄」といいます。数年前、「武蔵野」にも頭取をお迎えするチャンスがありました。ところが私は、千載一遇のチャンスを逸してしまった。どうしても日程を動かせないセミナーの予定が入っていた。本当に残念なことをしました。頭取が来ることがわかったら、社長はできるかぎりお迎えしたほうがいい。アポロ管財株式会社(橋本真紀夫社長)は2年前「頭取銘柄」となりました。社長からどのように迎えたらよいか聞かれたので、環境整備の行き届いた会社をそのまま見ていただくのが一番と答えた。銀行の人事異動は、政策転換を意味するいままでは積極的に融資をしていたのに、「これからは貸さない」と方針転換するとき、銀行は、支店長(あるいは担当者)を異動させます。異動するから、案件がストップする。新任者は、前任者の責任にして、「その貸出については、報告を受けてないので、これ以上進められない」とか「記録が残っていない。これからは、きっちり引き継ぐように気をつける」と答える。けれど、この答弁は嘘。銀行にはすべて記録が残されているので、「報告を受けていない」はずがありません。ようするに人事異動は、政策を転換するうえで「有効な手立て」です。支店長や担当者を交代させることで、案件を一度分断できる。着任して短い支店長の人事異動は、銀行の政策が変わるとき。社長は、「攻めの体制に変わるのか、それとも守りの体制に変わるのか」に注意を払うべきです。
⑤銀行は敵ではない。ビジネスパートナーです銀行に腹を立てても意味がない銀行は、中小企業にとって「敵」なのでしょうか?「味方」なのでしょうか。「敵」だと考えて喧嘩を売り、「武蔵野」のように支店長に嫌われでもしたら、融資は受けられない。融資を受けられなければ、規模の拡大はままならず、会社は伸びません。かといって「味方」と考え、銀行に頼ってばかりいては、経営が甘くなります。「敵か味方か」というよりも、「ビジネスパートナー」と考えたほうが健全です。金貸しの歴史は4000年。銀行を敵に回したところで、向こうのほうが一枚も二枚も、三枚も四枚も上。勝てるわけがありません。私も過去、銀行に腹を立てたことがある。理不尽な思いをさせられたこともある。けれど担当者だってサラリーマンですから、支店長や頭取の方針にしたがわざるを得ない。だから社長は、理不尽なことがあっても、貸し渋りや貸し剥がしにあっても、困らないように対策を練っておくべきです。銀行に腹を立てるのは筋違い。悪いのは銀行ではなく、むしろ対策を講じなかった社長自身です。もし私が無知・無策のままでいたら、「武蔵野」はとっくに潰れていた。「武蔵野?小山社長は案外いい人だったね」と、過去の人になっていたでしょう。銀行と中小企業は、WINWINであるべき銀行を「敵」と見なしてしまうのは、社長が努力をしていないから。目先のことだけにとらわれているからです。自社を良くしようと思っていない社長に、銀行はお金を貸しません。もちろん、社長はみな「自社を良くしたい」と思っている。でも現実的にはどうか。「痛み」をともなうほど真剣に変革する社長は、少ない。銀行に見放されたら、会社は潰れます。資金調達できなくなり、手形を出している会社は、確実に潰れます。ライバル会社が潰れるまで安売りを続け、最後の最後まで生き残るしかない。でもこの方法は、「どちらが先に潰れるか」を競う体力勝負なので、中小企業にはむずかしい。銀行の支援なくして、経営は成り立ちません。銀行もまた、融資先の成長なくして収益は上がりません。銀行と中小企業はビジネスパートナーですから、WINWINの関係を築くことが大切です。
⑥「都銀1、地銀1、信金1、政府系1」が取引の基本無理して都銀とつき合わなくてもいいいまから20年ほど前、私はA社(大分県)の社長に、次のように注意をしたことがあります。「社長、一行主義はやめたほうがいいですよ。一行だけでなく、いくつかの銀行と取引したほうがいいですよ」当時A社は、□□銀行とだけしか取引をしていませんでした。社長は「□□銀行とはずっと長く取引をしているので、何があっても困ることはない」と耳を貸さなかった。その結果どうなったか。バブル後、A社は資金繰りがショートして倒産しました。A社は、他行との融資・返済実績がなかった。だから他行は、貸してくれなかった。□□銀行から融資を断られたとたん、資金調達ができなくなった。売上が5億円以下の中小企業が、都銀としかつき合っていなかったら、その会社の社長は、無知そのものです。「都銀は金利が安い」という理由で、都銀とつき合う社長もいます。しかし、都銀は、「中小企業を支えていく」という感覚が薄い。大切なのは目先の金利ではなく、借りられる額。都銀は、5億円以下の中小企業をそれなりにしか思っていないのが実態です。経営計画発表会を開催したとき、5億円の会社に支店長は来ない。支店長が出席するとしたら、売上が10億円以上の会社です。H社(長野県)は、長野県では優良な会社です。H社の社長は、「三井銀行(当時)の本店と取引している」と言うので、私は「いくらあなたの会社が地元で優良でも、三井銀行はなんとも思っていない」と忠告した。3年後、私が忠告したとおり、H社と三井銀行の取引はなくなりました。融資を受けるなら、「自分の身の丈にあった銀行」を探したほうがいい。自社の実力に応じて、バランス良く銀行とつき合う銀行との取引は、一行だけに絞ってはいけません。地銀や信金、政府系も含めてバランスよく取引をする。「武蔵野」は11行と取引があったため(8、9行に絞り込む予定)、4億3460万円の貸し剥がしにも耐えることができた。都銀の貸し渋りにあっても、地銀や信金から借りて対応できた。もし一行しか取引がなかったら、「武蔵野」は倒産しています。中小企業の場合「都市銀行1、地方銀行1、信用金庫1、政府系金融機関1」が基本で
す。あとは、自社の規模や地域における金融機関の数に応じて、都銀を増やしたり、地銀を増やしたり、信金を増やしていけばいい。売上が5億円以下の会社なら、都銀は一行でいい。売上が1〜2億円の会社であれば、無理して都銀とつき合わず、地銀がメイン銀行のほうが座りがいい。3行から融資を受けるなら、一行からたくさん借りない。バランス良く借入れる。1億円借りるのに、A銀行9000万円、B銀行500万円、C銀行500万円の割合で借りてしまうと、一行(A銀行)から借りたのと変わりません。メインバンクからの借入を、全体の55%以内に留めるようにします(私の経験上、適正は、35%です)。基本的には、ひとつの案件につき、一行から借りるほうがいい。ただし、会社の業績が悪いと、一行からの借入が、「満額」に満たない場合があります。1億円借りたくても「5000万円しか貸せませんね」と断られる。満額に届かないときは、他行から借りて不足を補う必要があるので、「一行主義」では対応しきれません。マーケットには、お客様とライバルしかいません。市場の変化は、会社の都合を待ってくれない。マーケットの変化に迅速に対応するには、資金を潤沢にして、ライバルより先に投資をする必要がある。そのためには、つき合う銀行は多いほうがいい。
⑦メインバンクには、決裁権の大きい支店を選ぶ支店には「格」があるインターネットがいまほど普及していないとき、メインバンクの条件は「会社の近くにあること」でした。振込や入金などの作業を考えれば、近いほうが便利です。しかしいまは、自社のコンピュータが銀行と接続されている時代。「本社の近く」よりも、「決済権が上の支店」を選ぶべきです(「武蔵野」では、日常の取引はすべてファームバンキング等のオンラインで行ない、支店に行くのは記帳のみ)。銀行は、店舗によって役割が違います。お金を集めることを主とした店舗もあれば、お金を貸すことを主とした店舗もある。支店ごとに決済枠も違う。私は、支店の性格を無視することはありません。5000万円の決済権より、1億円の決済権を持つ支店のほうが資金を調達しやすい。「武蔵野」が最寄り駅にある支店ではなく、駅が離れた支店と取引をしているのも、「格」が違うからです。多くの社長は、「給与振込の口座がある銀行」や「売上入金用の口座のある銀行」をメインバンクととらえがちですが、それは違う。メインバンクの役割は、「大きな投資に対応してくれること」。会社が存続の危機に陥ったときに支えてくれる銀行こそ、メインバンクです。私は各銀行の支店長に、「わが社のメインバンクは、プロパーで一番お金を貸してくださるところです。しかも個人保証をしない。担保をつけないのが条件」と明言しています。では、支店の格は、どうすればわかるのか。方法は簡単です。支店長に「前はどこの支店にいたのか」を聞けばいい。「武蔵野」が取引するS銀行の吉祥寺支店は、他の支店長を経験した人が着任します。一方、本社に近い武蔵境支店は、副支店長から昇進して着任する。吉祥寺支店のほうが、「格が上」だとわかります(絶対にそうだ、と言い切ることはできませんが、その可能性が大きい)。「格上がいい」のであれば、「はじめから、本店と取引すればいい」と思うかもしれませんが、現実的には、それはムリ。本店は、500億円、1000億円の大企業と取引するのが一般的。増収増益を続ける「武蔵野」でさえ、残念ながらゴミのようなものです。なお、一度、支店を選んでしまうと、その銀行の中で支店の変更はききません。もし、格下の支店を選んでしまったら、そこでナンバーワンの取引先になるしか道はない。支店選びは、念には念を入れて行なうべきです。
メインバンクは、頻繁に変えないほうがいいメインバンクは、「頻繁に変えない」のが基本です。もちろん商取引なので、変えても構わない。メインバンクには、金利や手数料など、それなりの対価を払っているから、銀行と会社はフィフティー・フィフティー。いつも蕎麦屋で食事をしていた人が、カレー屋に行ったからといって、蕎麦屋から訴えられることはありません。銀行取引もそれと同じで、自社の規模に応じて、軸足を変える(取引する銀行のバランスを変える)必要があります。ですが、それは長期的な展望に立って行なうべきで、「A銀行が気に入らないからB銀行」、「今日はこの銀行、明日はこの銀行」と、頻繁に変えない。銀行と会社は、「WINWIN」であることを忘れてはいけません。また、社長の個人的な口座は、メインバンクをはじめ、取引のある銀行には置かないほうがいい。私は、「武蔵野」と取引のない銀行に口座があります。なぜか。社長の資産が丸見えになってしまうからです。
⑧担保をとられるのは、社長が信用されていないから担保をとるのは「保全」のため会社は赤字なのに、決算書を粉飾する社長がいる。税務調査が入って会社の実態が明らかになった社長もいる。情報を正しく開示しない社長に対して、銀行は慎重にならざるを得えません。会社の実態を把握しない。数字も知ろうともしない。それなのに「無担保で借りたい」社長は、虫がよすぎる。会社のことがわかっていない社長に銀行が担保をとるのは、「保全のため」であり、当り前です。銀行は、数字を使って話のできる社長を評価する。数字はそれだけで言葉です。数字のことがわかっていない社長にかぎって、「銀行は敵。お金を貸してくれない銀行は、悪者」と主張する。けれど私が裁判官なら、「銀行は無罪」と判決を下します。罰せられるべきは、会社のことを知らない社長です。気心の知れた親友に「10万円貸してほしい」と頼まれたら、気軽に貸す。けれど、名も知らない通りすがりの人に「10万円貸しほしい」と頼まれたら、あなたはお金を貸しますか?貸しませんよね。「どこに住んでいるのか」、「何の仕事をしているのか」、「実家が保証人になってくれるのか」、「本当に返してくれるのか」……、情報を明かしてくれない人に、あるいは嘘をついているかもしれない人に、お金を貸さないのがまともです。担保の価値は、銀行によって変わる土地と建物を合わせて1億5000万円(土地1億円:建物5000万円)で購入したとします。このとき、建物の担保価値は0円です。なぜなら、売れないから。銀行は、減価償却費としての価値は認めても、転売するときの価値としては認めていません。社長は、「建物にも5000万円の価値がある」と考えますが、それはあくまで会社の都合であって、銀行はそうは思っていない。土地は、時価総額で転売できるので、路線価格などから担保価値を計算し、その金額に応じて貸出をします。担保価値は、銀行によって変わります。このことを、多くの社長は知らない。1億円の土地の担保価値は、平均すると、都銀で7000万円(0・7倍)、地銀は1億5000万円(1・5倍)、第二地銀や信金は2億円(2倍)まで貸してくれる。しかし、金利は
高くなる。中小零細企業が、都銀に軸足をおいて経営をすると、担保価値から考えても得策ではない。金利は高くても、額を借りられる銀行を優先すべきです。銀行は「社長の奥さん」にまで個人保証をつけるある会社に1億円融資した。土地の担保価値が8000万円だった。万が一返済してもらえなかったら、銀行は2000万円損してしまう。そこで銀行は社長と社長の奥さんに個人保証をつけて「残りの2000万円」を回収します。では、どうして「社長の奥さん」にまで個人保証をつけるのでしょう?会社が倒産する3日前に社長と奥さんが離婚します。財産の半分は奥さんのものになるので、社長からしか銀行は取り立てできない。ところが奥さんにも個人保証をつけておけば、たとえ離婚しても、双方から取り立てできます。銀行が奥さんにまで個人保証をつけるのは、離婚をしても、貸したお金を回収するためです。定期預金は、何本かに分けておく借入の反対側にあるのが、定期預金です。1億円を定期預金にするとき、「1億円を1本の定期預金」にまとめる社長が多い。しかも長期で預けている。なぜかというと、利息がいいから。でもこの考えは、大きな間違いです。2500万円借りるのに「1億円の定期預金」を担保に差し出した。社長は、「根抵当権」のときと同じ過ちをおかし(53、59ページ)、「あと7500万円借りられる」と考えます。けれど、この1億円は銀行に拘束されているため、業績が悪いときは2500万円の担保価値しかない(7500万円借りることができない)。だから定期預金は、「1億円1本」ではなく、「2500万円×4本」、そして定期預金の期日を、1月、4月、7月、10月とに分けたほうが安全です(それぞれ「1年定期」にしたほうがいい)。1本を担保に差し出しても、残りの3本は拘束されていないので自由に使えるし、追加で資金が必要になったら、残りの定期預金を担保にしてお金を借りることができる。また、2500万円の定期預金担保にすれば、6000万円くらいまで借りることができる。最悪のときは解約して資金として使える。このように、定期預金ひとつとっても、無知な社長は損をします。
⑨支払手形は、「待った」がきかない「手形貸付」よりも「証書貸付」で借り入れる銀行の借入には「手形貸付」と「証書貸付」があります。無知な社長は、「印紙税を安くしたい」との理由で、「手形貸付」にする。ところが約束手形は、期日がきて取り立てに回されると、不渡りになります。手形貸付は、「手形用紙に金額を書いて、判子を押せば資金になる」ため資金調達は容易ですが、そのかわり「待った」がきかない。一方、証書貸付は手形ではないので、支払い期日に現金がなくても会社は潰れない。期日をすぎても返す気持ちがあれば「待った」がきく。支払利子が足りなければ「利子分だけ貸してください!○日には入金があります!」と借りることもできます。そのかわり印紙税は高い。B/Sの負債の部で、もっとも上位にあるのが「支払手形」です。この欄に「0」以外の数字が書かれた会社は、たとえ黒字経営であっても、倒産の危険をはらんでいます。X社の例です。X社は、12月28日から1月6日まで年末年始の休暇です。X社は、12月31日決済の支払手形を発行しましたが、取引先のY社に「ジャンプ」(支払いの期日を延ばしてもらうこと)を依頼した。X社は黒字経営であり、X社とY社は良好な関係が続いています。「年末年始の休暇なら、しかたがない」。Y社の社長は「ジャンプ」を快諾しました。ところがY社の社長は、経理担当者にそのことを伝え忘れた。経理担当者は手形を取り立てに回し、手形は手形交換所(各金融機関が持ち寄った手形を決済する施設)へ。12月31日、X社の当座預金の残高は不足していました。銀行は慌ててX社に連絡を入れましたが、会社は正月休み。誰も電話に出ません。1月4日に社長の自宅に電話しても「海外旅行中」でつながらない。X社は不渡りを出し、倒産です。たった一度のうっかりミスが、黒字の会社を倒産に追い込んだ。会社は赤字でも倒産しませんが、手形を落とさなければ、黒字でも倒産します。「融手」は、連鎖倒産を招く「超劇薬」かつて「武蔵野」には当座預金がありました。いまは、ありません。当座預金を開設していると、苦しいときに手形を振り出したり、先付小切手(実際に振り出す日よりも先の日付を振出日として記載した小切手)を出してしまう。けれど当座預金がなければ、手形や小切手を振り出せない。当座貸越(銀行が当座預金残高を越えて、一定限度内で小切手
の振り出しを認めること)もできません。会社を危機にさらすことは、あらかじめ避けておく。そして、「厳しい経営」に注力するほうが身の安全につながります。支払手形を発行していると、社長は資金繰りに忙殺され、事業に専念できません。マーケットにいるライバルやお客様を置き去りにして、お金のことばかり考える。私も手形を発行して支払いに追われた経験があります。融通手形を切り、崖っぷちに立たされたこともある。私は、ベリーを経営していたとき、「融通手形(融手)」を切りました。融通手形は、資金繰りに困った会社同士が同額の手形を交換し、それぞれ割引して資金化する方法です。資金力の弱い会社が資金繰り操作のために利用するための手形(商業手形と見せかけて振り出される手形)であり、不渡りになる危険性が非常に高い。融通手形を発行した会社は、ほとんど倒産します。私の知るかぎり、融手を切って生き延びたのは、私を含めて2人だけ。交換した会社が倒産すると、自社も連鎖倒産する「超劇薬」です。受取手形は「じっと持っておく」のが正しい「武蔵野」は、支払手形がありません。基本的に受取手形も受け取りません。以前、お客様から「30万円以上は手形で」と要求されたときも、お断りしました。お客様は「わが社の支払手形が信用できないのか」と腹を立て、その場で取引停止です。「会社は信用できても、支払手形が信用できない」が私の持論。取引停止から3年後、その会社は倒産しました。受取手形を受け取ると、銀行で割引をします。割引するには、担保を差し出さなければなりません。そしてもし、手形の振出人が倒産すると、手形を割引いてもらった側が、手形を買い戻さなければいけません。受取手形をもらったときに、いちばん安全なのは、「そのままじっと持っている」ことです。そして期日になったら銀行に回収してもらう。振出人が倒産しても、割引いていなければ買い戻さなくてもいい。また、回し手形(受け取った手形を、自分の仕入先などへの支払に充てるために裏書譲渡する)にもできます。「武蔵野」は、正確には8年前まで1社から受取手形をもらっていましたが、その手形は割引かず、銀行に取り立てを依頼するだけ。割引かないのは、万が一その会社が倒産したときに買い戻す力がないからです。
⑩支払手形を発行しなければ、会社は倒産しない努力次第で手形はゼロになる名古屋眼鏡株式会社(愛知県)の小林成年社長は、5億4000万円あった支払手形をゼロにして、商機を広げた2代目社長です。ライバル会社の倒産を受け、名古屋眼鏡株式会社には、小売店からの注文が殺到した時期があります。小林社長は、メーカーからの仕入を増やすにあたり、支払手形を発行した。売上が増えているときは、支払手形でも決済できます。ですが、小売店が他の会社にも注文を振り分けるようになると、小林社長はしだいに焦りはじめた。売上が下がれば、支払いに回すお金が不足するからです。経常利益は5000万円前後あるのに、期日に支払うお金がない。短期借入を繰り返して切り抜けるしか手立てはなく、銀行からの借入回数は合計38回におよびました(2000年から2003年までの4年間)。「倒産しない会社をつくるには、支払手形の発行をやめること」。小山昇の話を聞いた小林社長は、「手形をやめる」と決心した。そして、「5年間で、支払手形残高(5億4000万円)をゼロにする」方針を打ち立てた。名古屋眼鏡は、銀行から長期借入をし、支払先に金利の割り戻しをして支払手形の発行をやめた。仕入先への支払いは、すべて現金払い。その結果、計画よりも1年早く、支払手形残高はゼロになった。現金取引をすれば、仕入先は「支払値引」にも応じてくれます。支払値引は、年間で2500万円になった。支払手形がゼロになれば、不渡りの恐れもない。そこで小林社長は、赤字部門(コンタクトレンズ事業)の撤退を決断します。コンタクトレンズ事業は、営業利益率は低かったものの、全売上の15%を占めていた。撤退して売上が下がれば、資金繰りができず、不渡りになるかもしれない。支払手形を発行しているかぎり、安易に撤退できない。撤退による売上減は、約4億円。それでも「手形をなくし経営体質が改善され、粗利益額は上がった」と言います。精密板金加工メーカーの株式会社小川製作所(宮城県)は、「有手形無借金」の会社です。業界の慣習で手形を発行していましたが、小川製作所の自己資本比率は92%。手形に依存しなくても、資金繰りに困りません。「手形にするメリットがない」と判断した小川雅之社長は、リーマンショック以降、支払手形の発行をやめています。業界によっては、支払手形による取引慣行がある。その場合は、受取手形に対応する金額だけ発行して、あとは長期借入で対応する。経営を安定させるには、取引慣行に甘んじ
るのではなく、支払手形を「できるかぎりゼロに近づける」努力が必要です。現金払いを認めさせるには、相手のメリットも考える自社にとって、支払手形をやめるメリットは大きい。では、取引先はどうか。手形であれば、回し手形として使える。けれど現金取引では、回収できる保証がありません。現金払いを受け入れてもらうには、取引先のメリットになる条件を提示すべきです。現金払いを受けてもらうには、支払いサイトを短くするのが一般的です。締め後90日の支払手形を「現金払いで30日」にすれば、取引先は売掛金を早く回収できます。ただし、支払サイトを短くすれば、それだけ資金繰りが厳しくなる。できれば、手形と同サイトの現金払いが望ましい。製紙業に携わる鶴見製紙株式会社(里和永一社長)は、約3億5000万円分の支払手形を発行しており(締め後105日と135日が期日の支払手形)、現金払いへの移行にあたって、取引先各社に、次のようなアンケートをとりました。「期日据え置きの現金払いがいいか。それとも、現金で締め後30日払い・支払割引2%のどちらがいいか」もっとも多かったのは「どちらもでもなく、現状の支払手形を望む」という答え。「2%の支払割引は認められない」と言うのです。社長から相談を受けた私は、「支払割引2%にこだわらないこと。アンケートの結果をバカ正直に公表しないこと」と助言した。社長が、各社に「期日据え置きの現金払いがいいという意見が多かった」と伝えたところ、多くの会社が「他の会社がそういうなら、うちもしたがう」、「支払割引2%を受け入れるよりはいい」と言いはじめ、社長の思惑どおりとなった。2005年1月には、鶴見製紙の支払手形はゼロになっています。無手形無借金だと、バイタリティーがなくなるおそれも宮城県にある株式会社アオバヤ(高橋亙社長)は、「無手形無借金」の会社です。この会社は、自己資金を使って設備投資をしています。借入金はありません。アオバヤは、いくつかの県にまたがって複数の会社を持っているため、内部留保がある。ひとつの会社が設備投資をするとなれば、各会社から現金を借りて対応しています。それぞれの会社の利益を一カ所に集めるやり方で「無借金」を実現しています。アオバヤのように、いくつかの会社の内部留保で設備投資できれば「無手形無借金」も可能ですが、一社ではむずかしい。一社で「無借金」に固執すると、大きな設備投資がかないません。また、借金がなくなると、不思議と会社のバイタリティーがなくなります。「借入金が
ないから、我が社は安心だ」という甘えが育ちはじめる。この甘えが会社を弱くします。銀行は、過去の実績を重んじるため、「無手形無借金」でも、「有手形無借金」でも、「有手形有借金」でもなく、「無手形有借金」がもっとも信用を得やすい。
定期的な銀行訪問で、融資を引き出す
①定期的な銀行訪問こそ、信用を勝ち得る最良手段借りたお金の使い道を報告する義務がある会社は、上司が部下に仕事を命令すれば、部下は上司に「その結果を報告する」のが当り前です。同じように、銀行からお金を借りたら、「そのお金がどのように使われたのか」を報告するのが当り前です。だから私は、銀行訪問を続けています。定期的に銀行を訪れ、「武蔵野」の現状(売上・経費・利益・今後の事業展開など)について報告しています。ところが多くの社長は、当り前のことができていません。報告の義務を怠っています。融資を申し込むときだけ「お願いします」と平身低頭して、融資を受けたとたん、「あっかんべ〜」と袖にする。貸してもらうときは三顧の礼をもって迎えるのに、借りたら知らん顔をする。感謝の気持ちのない社長に、銀行は手を差し述べようとは思わない。借りる前も借りたあとも、礼を失した振る舞いは慎むべきです。かつてある社長は、「銀行に報告などしない。自分は○○銀行の支店長と毎月ゴルフをしているので、融資の申し出にもすぐ応えてくれる」と豪語していました。ところが、支店長が別の支店に異動。彼は資金繰りに困窮し、あえなく倒産しました。私は、彼のように「人」とつき合うことはなく、「支店」とつき合うことを心がけている。したがって、定期訪問を怠らない。私は、10年ほど前までは、毎月銀行訪問をしていました。現在は取引銀行の数が多くなったため、3カ月に1度、定期訪問をしています。銀行訪問は、回数が多いほど、銀行から信用されます。回数が多くなるほど、社長は「嘘がつけない」からです。年に1回だと、悪い報告をごまかすこともできる。ですが、1カ月に1回(もしくは3カ月に1回)のペースで訪問すれば、ごまかしがきかない。銀行は、「定期訪問する会社は、嘘がない」ことをわかっています。虚偽の報告はいずれ数字の辻褄が合わなくなり、銀行に見透かされてしまう。「毎月訪問する」と意気込んでも、よほど熱意のある社長でないかぎり、続きません。「小口の融資だからかえって負担になる」、「毎月の訪問は荷が重い」のなら、3、4カ月に1度でもいいので、定期的に銀行訪問することが大切です。そして、嘘をつかず、会社の現状を報告する。定期的な報告こそ、銀行の信頼を得る最良のしくみです。訪問日には、シャッターが上がる前から待つ
銀行訪問は、いつ行くか。一般的に銀行は、月始1日、月末、五十日(5と10のつく日)が忙しい。反対に、16日〜19日は時間にも余裕がある。忙しいときに訪ねても相手にしてもらえませんから、銀行訪問は、銀行が暇なとき(16日〜19日の間)に行ないます。銀行が閉まるのは、午後3時。閉店間際は銀行は忙しくなります。ましてや、支払手形が落ちない会社があると、行員は殺気立ち、さながら戦場の様相です。社長の相手をしている余裕はありません。では、何時に訪問するか。私は毎回、午前中に訪問しています(1日3行程度)。午前中はそれほど慌ただしくないので、銀行も時間をつくりやすい。一行目の訪問は、開店時間の午前9時。私は、開店5分前に銀行に着き、シャッターの前で開店を待ちます。それも、シャッターが上がったときに、「目の前に支店長が立っている位置」で待つように心がける。こうしておけば、まっさきに「小山昇」が支店長の目に留まり、挨拶もできます。支店長の立ち位置がわからないときは、事前に社員を銀行に向かわせ、調べさせる念の入れようです。一行目の訪問は、開店してからでは意味がない。シャッターが上がる前から待っていることが大切です。銀行訪問は、うかがう日時をあらかじめ伝えておくが、必ずしも支店長がいるとはかぎりません。そのときは、副支店長でも、担当者だけでも構わない。定期報告が目的ですから、支店長に会えないからといって訪問を取りやめなくてもいい。おもしろいことに支店長のなかには「お金を貸したい」ときは同席し、都合が悪いときは留守にする支店長もいるようです(会社の規模が小さい場合は、支店長は対応しないことが多い)。経営計画書に、銀行訪問日を明記するいままで銀行訪問をしてこなかった社長は、どのようにして「銀行訪問の口実」をつくればよいでしょうか。口実をつくるには、「経営計画発表会」(経営計画発表会は、期首に今期1年間の方針を発表する会。第5章で詳述)を利用するとスムーズです。経営計画発表会では、来賓(取引先銀行)を招待します。そして会の翌日には、「昨日は、経営計画発表会にお越しいただき、ありがとうございました」と挨拶に行けばいい。それをきっかけに「今後は、定期訪問をさせてください」と切り出すと無理がありません。経営計画発表会では、取引先銀行に、「武蔵野」の経営計画書をお渡しします。経営計画書は、「武蔵野」の方針や利益計画を明文化した「立派な会社をつくるための道具」です。経営計画書には、「事業年度計画」(年間スケジュール)が記されていて、銀行訪問の日程も組み込まれています。詳しくは、『経営計画は1冊の手帳にまとめなさい』(中経出版)をご覧ください。
銀行訪問日を事業年度計画にはじめて明記したとき、それを見たF銀行の支店長に「この手形を落とすのは大変ですよ」と言われました。ようするに、経営計画書に「明記した」ということは、「決めたとおりに銀行を訪問し、嘘偽りなく報告する」という約束手形を発行しているのと同じだからです。そこで私は、「大丈夫です。手形を落とせないときは、前にジャンプします」と答えた。やむを得ず日程の変更をしなければいけないときは、繰り下げないで、繰り上げる。「借りたお金を返すときは、期日よりも遅れない」という意味も込めて、「予定日よりも前の日に行く」と決めた。だから私は、この手形を落とせなかったことがありません。例外的に、銀行側から「この日は、担当者が誰もいないので、予定を変えてほしい」と頼まれたときは、基本的に「その回の訪問はパス」しています。
②銀行訪問では、「数字」を報告する銀行訪問には、幹部社員を同行させる銀行訪問を経理担当者だけに任せてもいいか?ダメです。「武蔵野」の2001年度は、役員と経理部長が銀行訪問を担当しましたが、「情報が正しく伝わらない」、「銀行の対応も違う」とわかり、それ以降、私自身が訪問しています。社長が「耳に痛い情報」を正しく理解しないと、組織の改革が遅くなってしまいます。ただし、社長ひとりで出向いてはいけない。必ず幹部社員をひとり連れて行きます。銀行交渉の内容を「社長が社員に報告したとき」と、「同席した幹部が社員に報告したとき」では、社員はどちらの話を聞き入れるでしょうか。私は「後者」、つまり幹部の話だと思う。社員の心理とはそういうものです。10年前、「武蔵野」が対前年比118%で伸びていながら赤字を抱え(45ページ参照)、全行から融資を断られたとき、その事実を常務取締役の清岡照比古に発表させたのは、社員の危機意識を煽るためです。「会社は成長しているけれど、銀行はお金を貸してくれない」。清岡の報告を受けた社員は、「そりゃ大変だ」と急ブレーキを踏み、組織の改革に乗り出した。銀行の担当者に数字を直接記入してもらう私が社員を同行させているように、銀行側も支店長ひとりではなく担当者を同席させます。銀行訪問の内容を記録するためです。銀行訪問での発言は、すべて記録・保管されている。だから、その場しのぎの報告などせずに、会社の現状を包み隠さず伝えます。銀行訪問をしたら、最初に「数字」を報告します。同行する「武蔵野」の社員(本部長職以上と経理部長が順番に同行)が、実績(損益計画の当月、累計、粗利益年計、人件費年計、支払利子年計)を口頭で読み上げる。銀行の担当者には、お渡しした経営計画書の空欄に数字を記入していただきます(経営計画書には、記入欄が印刷してあります)。銀行の融資担当者が本店に稟議を上げる際、資料として「武蔵野」の経営計画書が審査部に渡ります。このとき、「武蔵野」の経理がエクセルで清書した経営計画書と、銀行の担当者が手書きした経営計画書では、どちらが信用されやすいと思いますか?疑いなく「担当者の手書き」です。定期訪問を積み重ねてでき上がった手書きの資料は、デジタルに置き換えられた資料よりも、説得力があります。
なかには、行員を数人同席させる支店長もいます。そして、全員に経営計画書のコピーを持たせ、数字を記入させる。これは、行員の教育のため。優秀な支店長は、一筋縄ではいかない小山昇の銀行訪問を「教育の場」として利用している。報告は、悪いことが先。良いことはあと数字の報告のあとは、私が今後の事業計画や会社の現況、トピックス、他行の融資状況などを報告します。このとき、「悪いことから先」に報告するのがコツです。社長は、銀行に対して良いことばかり言いたがる。「今月はこんなに売上がありました」、「こんな商品を扱うようになりました」、「取引先からの評判もいい」など。そして「都合の悪いこと」は言いたくないので、あと回しにする。銀行訪問は、「良いことも悪いことも報告する」のが原則ですが、話す順番には気をつけたい。人間は、「最後に聞いたことが印象に残る」ため、「悪いことは先に、良いことはあとに」報告します。報告する内容は同じでも、話の順番を変えるだけで支店長の心証は違います。多くの社長が「赤字だと融資は受けられない」と思い違いをしています。たとえ現状は赤字でも、その原因がはっきりしており、対策がとれるなら、銀行は融資に応じてくれます。「武蔵野」も赤字が続いたことがありました。そんなとき私は、「いまは、○○○○な理由で赤字になっていますが、6カ月後には黒字になる見込みです。なぜなら……」と現状と見込みを説明する。
6カ月後に黒字に転換していなければ、「申し訳ありません。黒字にはなりませんでしたが、対策をとったことで赤字は少なくなっています」。そして黒字になったら「結果が出ました」と報告する。こうしたやりとりを重ねていくことで、信頼関係が醸成されます。会社が拡大路線をとっているときは、「その事業がどのように推移していくのか」を、随時、銀行に公表する。ただし、現状と見通しがあまりにも違いすぎると銀行から警戒されます。計画と実績の「差が少ないほう」が評価は高いので、大風呂敷を広げないこと。見通しを語るときは、少し「辛め」でいいと思います。
③「同じ話」をすれば、銀行ごとの温度差がわかる同じ条件を揃えなければ、違いがわからない私は午前中に、3行ないし4行を訪問します。そしてどの銀行でも「同じ話」をします。なぜ同じ話をするのか。条件を揃えておかないと、銀行ごとの温度差(スタンス)が比較できないからです。キャバクラで春子さんと冬子さんを比較するときは、グロスで見比べるより、髪の長さ、背の高さ、目の大きさ、出身地など、1つひとつ比べていくと違いがわかりやすい。銀行は「どこも同じ」ではなく、それぞれ方針が違います。同じ銀行であっても、支店によって対応が違いますし、同じ支店でも支店長が変われば方針が変わる。違いや変化をつかむためには、同じ話をするのが最善です。同じ話をすると、「おなかがいっぱい」であるとか「腹ぺこ」であるとか、いろいろなことが読み取れる。「都銀は消極的だな。地銀は積極的だな。信金は……」と、反応の違いを知ることで、全体の傾向がわかる。どの銀行も消極的だとしたら、「回収の指示があるかもしれない。回収の指示が出るとすれば、貸し出すわけはない」ということがわかります。資金需要は早めに、平等に公開するあらかじめ借入が必要だとわかっているなら、早めに示唆しておくのが手。4月に借入をしたいなら、2月に情報を公開します。それも一行だけでなく、すべての銀行に平等に公開します。こちらから「借りたい」と声をかけて、条件が悪くなることはありません。金利を決めるのは、その会社の格付けであり、業績です。むしろ私は、「銀行の決算前であれば、資金需要を公にすると条件が良くなる」と思う。銀行の決算は3月と9月です。支店長は、それまでにノルマを達成したい。「どこかに貸せる会社はないか」と見渡し、「小山社長が資金需要の話をしていた」と思い出す。「武蔵野」が借入したいのは4月ですが、銀行側はこの案件をなんとか3月に繰り上げてノルマを達成したい。そこで「金利を少し下げるから、3月に借りてくれないか」と持ちかけてきます。「やきもち支店長」が着任する前、前任者が安い金利で「武蔵野」に貸出してくれたのは、決算時期に「ノルマを達成しよう」としたからです。銀行は、「武蔵野」が平等に情報を公開していることを知っています。あまり無茶な提案をすれば、「ほかの銀行に持っていかれるのでは」と考える(複数の銀行と取引がある
場合にかぎります。一行しか取引がなければ、銀行の言いなりになるしかありません)。借入先が決まったら、各行に報告します。「前回お話した資金需要の件は、各行に説明させていただきました。その後、○○銀行さんが対応してくださり、借入が決まりました」。多くの社長は「借りたことは黙っておこう」と考えがちですが、黙っていてはダメ。私はすべてオープンです。オープンだから、銀行が信用してくれる。他行が貸したことがわかれば、支店長や融資担当者が「損をした」と思います。2行から申し出があったら、両方借りるのが正しい資金需要を示した結果、もしもA行とB行2つの銀行から「貸したい」という申し出があったらどうするか。金利はA行のほうが安いとします。多くの社長はA行から借りますが、これは間違いです。基本的には、「両方から借りる」のが正しい。資金が潤沢にあるほうが経営は安定するので、とくに事業を拡大している過程にあるなら、金利には目をつぶり「額を借りる」ことを優先します。会社は、額がなければ伸びていけません。また、銀行は実績主義であり「過去にいくら貸したか」で融資額を決める。借りられるときは借りて、「自社の融資可能額のキャパシティ」を増やしておくほうが得策です。A行の担当者もB行の担当者も、苦労して本店の稟議を取りつけたわけです。もしA行から借りてB行を断れば、断られた担当者はどう思うか。「まったく!!○○社長には二度と貸さないぞ」と怒らせてしまいます。B行の担当者の苦労をないがしろにしてはいけません。「武蔵野」はすでに経営が安定しており、事業構造を切り替えています。過去に最大16億円あった借入金を減らしている段階ですから、両方から借りることはありません。どちらかに絞ります。絞り方は、「最初に声をかけてくれた銀行」が優先。同じ日に申し出があった場合は、条件の良い銀行を選びます(ただしバランスを考慮し、一行からの借入が借入総額の55%を超えないように気を配る)。
④定点観測をして、支店の変化を察知する支店長の心は、形になって表れる銀行訪問は、会社の「数字」や現状を報告する機会であり、銀行側からあれこれ質問を受けることはほとんどありません。あるとすれば「資金需要」について、でしょうか。支店長も、予算が達成できていれば余裕もありますが、「あとちょっと足りない」、「もう少しで達成できる」となれば、食いつきが違う。「いいカモが来た」とばかりに質問をしてきます。そもそも、支店のノルマ達成度はわかるものか?わかります。定期的に銀行を訪れ、注意深く観察していれば、銀行の状況を察知できるようになります。「前回はそっけなかった支店長が、熱心に話を聞いている」、「いつもは副支店長と担当者が応対していたのに、今回は支店長が同席している」。このような変化は、銀行側の「貸したい」というサイン(ノルマがまだ達成されていないサイン)です。ある都銀の支店長は、「お金を貸したいとき」は、支店の外に出てお見送りをしてくれる。「貸そうかやめようか、迷っているとき」は、店内の入り口付近でお見送りしてくれる。「貸す気がないとき」は、店内の奥でお見送りする。心は形に表れます。本人は気がついていないのかもしれませんが、人間は、「嬉しいときには嬉しさが表れるもの」です。たまに銀行訪問をするくらいでは、こうした変化を見落としてしまいます。定期的な銀行訪問を義務づけ、定点観測を行なうことが大切です。銀行訪問に費やす時間は、一行につき「20分以内」私は午前中に3、4行の銀行を訪問しますが、一行に費やす時間は、「20分以内」と決めています。1時間も2時間も話し込む社長だと、銀行の担当者もその後の予定が立てにくい。ですが、「必ず20分で帰る」ことがわかっていれば「会おうか」という気になる。多くの社長は「長く話せば話すほどいい」と思っていますが、そうではない。銀行にとって「必要最小限のことだけ話して帰る社長」がいちばん好まれます。ちなみに私は腕時計をはめていませんが、応接室の掛け時計や、銀行の担当者の腕統計に目をやりながら時間を計っています。
⑤他行の提案書を銀行交渉に利用する新規の飛び込み営業を追い返してはいけない最終的に「融資するか、しないか」を判断するのは、銀行本店の審査部です。審査部には、支店での実務体験のある行員が配属されますが、「貸しても平気だと思うが、不安が残る」と迷うときがある。「貸すか、貸さないか」のジャッジが微妙な会社の場合は、稟議が通らないこともあります。ところがこのとき、「融資したくなる資料」が添付してあると、かなり高い確率で融資が決まります。では、「融資したくなる資料」とは何か。「武蔵野」では、経営計画書と経営計画資料(人員・資産・資金・情報・時間をどのように活用するかを数字で表した管理資料)、そして「他行の提案書」を利用します。ときおり、取引のない新規の銀行が「御社に融資をしたい」と飛び込み営業に来ることがあります。このとき「うちはすでに○○銀行とつき合いがあるので、新規は考えていません」と追い返してはいけない。電話のアポイントも同じです。にべもなく電話をきってしまうのは無知の極み。飛び込み営業といっても「たまたま飛び込んでくる」わけではありません。銀行には、早期退職した元支店長経験者などで構成された調査セクションがあり、「この会社なら大丈夫そうだ」と調べたうえで飛び込んできています。ですから、必ず面会してください。面会するのは、経理担当者で構いません。ウェルカムの気持ちで、三顧の礼をもって迎え入れ、コーヒーやお茶を出し、もてなします。そしてひととおり話を終えたら、最後に「融資の提案書」をお願いする。提案書には、金融機関名、融資額、期間、金利、担保などの条件、月々の返済額が具体的な数字で書いてあれば十分です。取引のある金融機関に融資を申請する際、この提案書を添付する。「他行が貸す」ということは、「貸しても大丈夫な会社」というお墨付きとなります。したがって審査部員の迷いも晴れる。「貸そう」と決める。他行が貸すつもりなのに自行が貸し渋れば、お客様に逃げられてしまうからです。銀行同士を競わせ、自社に有利な条件を引き出す「提案書」を添付すると、融資が下りるばかりか、「有利な融資条件」が引き出せることがあります。新規の銀行は、「ぜひ取引を開始したい」という思いから金利を下げてくる。それに対
抗するには、「武蔵野をほかに奪われないよう、同じ金利か、下げた金利で融資をしよう」と考えるのが人間心理です。新規の銀行と従来の銀行を競わせることで、自社に有利な取引を引き出せる。「銀行同士を天秤にかけると、かえって不利になるのでは?」、「融資を打ち切られるのでは?」、「心証を悪くするのでは?」と心配する社長がいます。ですが、心配には及びません。銀行の支店にはノルマがあり、成績に応じてS、A、B、C、Dと本店に評価されます。成績を上げるためにも、貸せるものなら貸したい。本店の稟議を通したい。だから「他行の提案書」は、本店の審査部を説得する最良の資料です。「他行の提案書」は、喜ばれることはあっても嫌がられることはありません。銀行員は、基本的には「お金を貸したい」と考えています。貸さなければ、成績は上がりません。したがって社長は、稟議が通りやすくなるように支店長(担当者)を応援する。借入のためにつくった資料は、都合良く「作文」できるため、信用されにくい。ですから、「他行の提案書」や「お客様からの注文書のコピー」など、説得力のある資料を添付する。
⑥「なんの用事もない」のに、支店長が訪ねて来ることはない真実は現場にしかない取引のある支店の支店長が、ふいに来社するときがあります。「宝くじを買っていただこうと思って……」、「カレンダーをお持ちしました」、「新年の挨拶に来ました」、「近くまで来たものですから……」と理由はさまざまですが、鵜呑みにしてはいけません。本意は違います。支店長は、「この会社にお金を貸して大丈夫か」をチェックしに来ているのです。銀行は「現場」を見ないで貸出すことはありません。優秀な支店長ほど「現場」を見ています。優秀な支店長は、「真実は現場にしかない」ことを知っています。現場で働く社員、パート、アルバイトはごまかせない。支店長は、会社が明るいか暗いか。きちんと挨拶ができているか。環境整備が行き届いているか。社長が不在のときの対応はどうかなど、「その会社の真実」を自分の目でたしかめようとします。社長にいちばん近い職責は、経理や総務。不思議とどの会社も、経理部や総務部は、社長室の近くにあります。したがって経理を訪ねれば、社長が不在かどうかもわかる。いつも社長がいる会社は、銀行から信用されません。なぜならその社長は、穴熊社長だからです。私が不在のときに銀行の支店長が来社したときは、課長の曽我公太郎が対応します。曽我もいないときは、経理のパートの塚田加陽子から私の携帯電話にメールが入ります。私はメッセージを受け取ると、すぐに支店に電話を入れます。「武蔵野の小山と申しますが、△△支店長はいらっしゃいますか?」いるわけがありません。支店長はそのとき、「武蔵野」を出たのですから。しかし、それでいい。「では、支店長に小山から連絡があったことをお伝えください」と伝言を頼んでおけば、支店長のデスクの上にメモが残る。「株式会社武蔵野の小山社長から電話がありました」。メモを見た支店長は、「武蔵野は連絡がきちんとしている。大切な連絡が社長にきちんと伝わる会社だ。これだけしっかりしている会社なら、貸しても大丈夫だ」と思うでしょう。支店長に経営計画資料を〝さりげなく〟見せる新規取引の営業に来られた支店長には、「武蔵野」の経営計画書と経営計画資料をお見
せします。長期資金運用計画や長期財務分析、各銀行の借入額や格付け指数が掲載されているので、銀行が融資を検討するうえで、重要な資料です。私は、これらの資料を使って20分ほど説明をしたあと、「別の資料を取ってきます」と言って〝意図的に〟席を外します。テーブルのうえには、返済能力を示す財務格付ワークシート、債務償還年数、キャッシュフロー、インタレスト・カバレッジ・レシオ(金利支払い能力を示す指標。事業で得た利益が支払金利の何倍あるかで測定する)といった、融資の判断材料が広げられている。支店長としては、「しっかり読んでおきたい」と思う。でも私がその場に居続けたら、遠慮して読めません。だから中座する。私がいなければ、気兼ねなく目を通せます。経営計画書の「支払利子年計表」を見れば、「武蔵野」が1年間でいくら金利を払っているかがわかる。すなわち「銀行が、武蔵野からいくら稼げるか」が計算できます。そして支店長は(もちろん本店審査部も)「金利を独り占めしたい」と考える。独り占めするには、どうしたらいいか。「武蔵野」に融資するしかありません。支店長に「これらの資料を貸していただきたい」と頼まれても、貸しません。ここで貸してしまうと、「重要な資料を簡単に貸すなんて、よほど融資がほしいのだな」と勘ぐられる。ですから、貸さない。貸さなければ、「武蔵野の経営は順調」=「武蔵野は優良企業」というアピールにもつながります。ちなみに銀行側から「決算書を3期分見せてください」、「関連会社の決算書も見せてください」と申し出があったら、「貸す気がある」のサイン。「3期分」なのは、2期分だと利益操作(粉飾)しやすいからです。売上、棚卸し、売掛金、減価償却費は、3期分の数字を見比べると、粉飾が見抜けます。なかには、社長の給料を減らして黒字に見せかける社長もいますが、別表に記載された「役員報酬」を3期分連続で見れば、「社長の給料が下がっている=会社の業績が下がっている」ことがわかります。できるだけ「銀行の本音」を引き出しておく決算書を3期分提出し、本店の稟議も通った。あとは「書類に会社の実印を捺せば終わり」というとき、私は「会社の実印をなかなか捺さなかった」ことがあります。なぜか。「稟議が通った理由」を聞き出したかったからです。実印を捺さずにのらりくらりと雑談を続けていると、支店長はいらだちはじめる。支店長のいらだちがピークになったころ、私は質問した。「どうして我が社の稟議が通ったのですか?」。一刻も早く支店に戻りたい支店長は、銀行の本音を明かした。「教育研修費と経常利益が同額だったことが評価された」というのです。支店長のこの発言により、私は「銀行が担保主義ではなくなったこと」、さらに「武蔵野が教育研修をやめれば、経常利益は2倍
になると踏んでいること」を理解しました。融資が認められると、うれしさのあまりすぐに実印を捺してしまいます。ですが、今後の折衝を考えれば、できるだけたくさんの情報(銀行の本音)を聞き出しておくべきです。
⑦銀行は信用しても、銀行のやることは信用しない無知な社長は、銀行の言いなりになる4000年の歴史を持つ銀行に勝てる社長はいません。だから、喧嘩を挑んではいけない。中小企業の社長と銀行では、ノウハウが圧倒的に違いすぎる。喧嘩をして社長が負けた場合、資金調達できずに倒産するかもしれません。お葬式が営まれていると、多くの社長は「あ、ここでお葬式をやっているんだ」と通り過ぎる。けれど優秀な行員は足を止め、葬儀社に「誰が亡くなったんですか?」と尋ねます。なぜだかわかりますか?資金を保全するためです。亡くなったのが社長だとわかったら、財産はどうなるか、個人資産はどうなるか、貸付金はどうなるかを考え、いち早く手を打つ。葬祭場の前を通り過ぎるだけでも、無知な社長と行員では、これほど意識が違うのです。銀行と会社はビジネスパートナーであり、基本的には対等です。そもそも、お互いが決めたことを守っていれば、喧嘩にはなりません。ただし、社長が無知なままでは、対等にはならない。銀行と対等に渡り合うには、勉強が必要です。自分に都合の悪いことを言わないのがまともなサラリーマンです。銀行も同じ。自分の業績が下がることは言わないのがまともな担当者であり、支店長です。昔、こんなことがありました。私がクレジットカードの申し込みをしたとき、居住年数の欄に「3年」と書いたら、審査で落ちた。そこで今度は、「5年以上」に丸をつけて書類を送付したら、審査に通った。これはどういうことか。ようするに、「調べていない」。本当に「5年以上」住んでいるかを調べるには、登記簿謄本を見なければわかりません。ところが登記簿謄本の提出を求められないのは、「カードが欲しい人は、嘘を書かない」という心理が働くからです。銀行に「こういう書類を出してください」と言われれば、借りたい一心で出そうとする。その書類がなければ借りられないと思う。そのうえ、銀行の言われたとおりに担保まで差し出す。個人保証をする。銀行の言いなりになっていたら、それは社長が無知だからです。「資金繰り表」は出さなくていいある社長から、「小山社長、銀行から資金繰り表を出してほしいと言われたのですが、どうやって書けばいいのですか?」と相談を受けたことがあります。
資金繰り表の提出を求められたら、「資金繰り表を出したいのですが、フォーマットがわかりません。資金繰り表のフォーマットをいただけますか」と答えておけばいい。たいがい「では、提出していただかなくても大丈夫です」となる。「どうしても融資を受けたい」と切迫している社長は、何がなんでも資金繰り表をつくります。銀行の言われたとおりにしないと、お金が借りられないと考え、資金繰り表を出す。ところが、「何がなんでも」という姿勢が裏目に出ることもある。なぜなら、心は形に表れるから。銀行は、「それだけ、お金に困っているのか」と判断し、足元につけ込みます。「武蔵野」も、かつて数回「資金繰り表を出してほしい」と求められたことがある。経理課長の高梨昌俊が「小山さん、どうしますか?」と聞いてきたので、「放っとけ」と答えた。放っておいたらどうなったか。それ以上求められることはありませんでした。銀行は、資金繰り表を無視した「武蔵野」に対して、「お金がある」と評価したのです。銀行は信用しても、銀行のやることを信用してはいけません。滝石洋子が経理に配属されたころ、私に言いました。「銀行がお金を貸してくれるそうです。融資すると言ってくれました」と。私は滝石を叱った。「普通預金に印字されるまで、信用してはいけないよ。お金の顔を見てから信用するのが正しいんだよ」。お金は「借りるもの」ではなく、「買うもの」ですから、商品(お金)の顔を見るまでは信用してはいけません。経理の担当者が替わるたび、私は言います。どうして、金融機関の借入証書に自筆(手書き)で名前を書かなければいけないのか。どうしてゴム印ではダメなのか。裁判になったとき、自筆なら負けない。けれどゴム印では負けてしまうからです。
⑧証書のコピーをとっておくと、銀行から信用される定期預金の解約をちらつかせ、証書を返してもらう自動車を買うと、証書の控えをもらえます。けれど銀行からお金を借りても(お金というサービスを購入しても)、証書の控えをもらえません。なぜ控えがないのでしょうか?お客様の手元に証書の控えが残っていると、裁判を起こされかねない。証書の控えを与えないのは、お客様を言いなりにする銀行の手口です。私は経理の担当者に「融資を受けるときは、証書のコピーをとりなさい」と指示します。コピーをとっておかないと、どのような内容でサインをしたのか、わからなくなることがあります。また、コピーをとる会社は「しっかりしている」と、銀行の評価が上がります(コピーをとらない会社は「ずさんな会社」と思われ、次回の金利が高くなることがある)。私は銀行から、証書を返してもらったことがあります。「返してください」と頼み込んでも、普通は返してくれません。では、小山昇はどうしたか。「定期預金」を利用しました。銀行からの借入金額の残りは約2100万円。この時点で定期預金は3500万円ありました。つまり、定期預金を解約すれば債務を返済できる状況です。そこで私は「定期預金は解約しませんから、証書を返してください」と交渉した。そしてもうひとつ。当時、その銀行には「武蔵野」の従業員、620人分の給振口座がありました。銀行が証書を返さなければ、残高の2100万円を払って、その銀行との取引をやめてしまうこともできる。620人分の口座がなくなれば、膨大な額の手数料収入が入らなくなります。これは、銀行にとって大きな痛手です。私はある都銀の元常務に尋ねたことがあります。「借入金をすべて返して、給振口座をすべて引き上げたら、支店長はどうなりますか?」元常務は答えました。「その支店長は、確実にクビになります」。給振口座が「200」なくなると、支店長のクビが飛ぶときもあるそうです。だから銀行は、私に証書を返した。「武蔵野」も以前は、従業員が自由に給振口座を持っていました。現在は、メインバンクに開設しています。「武蔵野」の入社時に、「会社が取引している銀行に、自分で口座を開設してくること」をお願いしている。なかには「叔父が□□銀行に勤めているので、□□銀行に口座を持ちたい」と言う社員がいます。私はいつも、聞き返します。
「万が一キミに困ったことがあったとき、助けてくれるのは叔父さんですか?それとも武蔵野ですか?」「武蔵野です」「ほかに質問は?」「ありません」
⑨「打つ手がない」と思えるのは、社長の経験値が低いから親の七光りを利用して融資を受ける親(初代)は、息子に会社を継いでもらいたい。ところが親と喧嘩をして、家を飛び出す息子がいる。飛び出した息子は、自分で事業をはじめようとして、銀行に融資を申し出た。このとき、「親と喧嘩をした」と正直に明かすと、銀行に信用されません。私は、ビルメンテナンス業を営む、株式会社成和の中嶋健芳社長にこう説明させた。「父親から『外に出て仕事をしてみろ。独立して自分でやってみろ』と勧められた」独立をほのめかすと、銀行はたいがいお金を貸してくれます。まして、父親の会社が優良企業であれば、とりっぱぐれがない。息子の言い分を信用して、1000万円を貸してくれた。実際に、親の七光りを利用して事業資金を調達し、社長になった息子が何人もいます。先代が亡くなったら、死亡診断書より先にお金を下ろすこんな例もあります。先ほどの中嶋健芳社長から、「たったいま、親父(初代)が亡くなったのだけれど、どうしたらいいか」と電話があって、私は即答した。「それは違う。お父さんは、まだ亡くなってない!!」電話口の中嶋社長は、きっと驚いたことでしょう。亡くなったかどうかは「心臓が止まったか」で判断されますが、法律上で解釈すれば、「死亡診断書」が書かれるまでは、亡くなっていない。そこで私は、「家族や親戚は呼んでもいいが、医者を呼ぶのはもう少し待て」と指示し、中嶋社長を銀行に向かわせたのです。お父さんの心臓は止まっていても、法律上はまだ生きています。生きている間は、代理の者でもお金を下ろせる。けれど亡くなると、口座が凍結されてしまう。中嶋社長は、医者が死亡診断書を書く前に父親の口座からお金を下ろし、別口座に移した。打つ手はたくさんあるのに、多くの社長は経験が少ない。だから立場が弱くなる。だから銀行の言いなりになる。だから「夢はかなわない」とあきらめる。夢は逃げません。逃げているのは自分です。「うまくいかない」とあきらめたのは、自分です。打つ手がわからなければ、わかっている人に聞いて、そのとおりに「真似すればいい」のです。
「自分のまわりには『わかっている人』がいない」のなら、私のところに来ればいい。実際、私のもとには、毎日のように、経営サポート会員の方々から、銀行交渉に関する相談が寄せられています。「銀行から社債を使った借入の提案があったのですが、良い提案なのか悪い提案なのか、判断がつきません」「長期借入金2本のうち1本が完済するので、長期1億円の借入をあらためてお願いしたら、はじめて担保を要求されたのですが……」「銀行の副支店長に、『営業利益が出ていないので、プロパーでの融資は無理』と言われてしまい……」「××銀行と○○銀行の土地に対する評価額が半分以上違ったのですが……」私は、アドバイスを送り(ボイスメールを使い、会員が情報を共有できるようにしています)、相談者は、私のアドバイスに基づいて銀行と交渉しています。その結果、多くの会社が自社に有利な融資を引き出している。病床の父親のサインをもらうには株式会社キンキゴム(京都府)の長谷川哲也社長は、個人保証に悩まされていましたが、粘り強く銀行と交渉した結果、会長だった父親と、自分のサインがあれば個人保証を外せるところまで話を進めることができました。ところが、です。そんな矢先に、父親が病気で入院。手を動かすこともままならぬ状態で、病の床に臥してしまったのです。長谷川社長は、焦りました。「会長のサインがなければ、個人保証は外せない」。そこで、長谷川社長は苦肉の策を思いつきます。「父親の字を真似して自分が代筆しても、バレないのではないか」。私は、長谷川社長の揺れる気持ちを知り、次のようにアドバイスしました。「そんなことをしたら、あなたは嘘をつくことになる。嘘をついたら、わだかまりが残る。絶対に後悔する。ならば、父親にペンを持たせ、あなたの手を父親の手に添えてあげて、あなたが手を動かす。そうすれば、父親が書いたサインです」長谷川社長は私の提案に喜び、無事に個人保証を外すことができました。しばらくして会長は亡くなりましたが、長谷川社長は、そのときのことを振り返ります。「会長と社長の、そして父親と息子の〝最後の共同作業〟ができました。おそらく、小山社長はそこまで考えたうえで、『手を添えろ』とアドバイスしてくれたのでしょう。小山社長の深い思いに、とても感謝しています」
⑩銀行とは〝ルール〟を守ってつき合う「接待はしない」、「恩は売らない」が基本私は、基本的に銀行の支店長(担当者)を接待しません。接待をされたときは、行く。でも自分から接待することはない。銀行と会社は、ビジネス上のパートナーです。アフター5までつき合う必要はありません。支店長が別の支店に異動し、直接的な利害関係がなくなったときは、例外的にお会いしたことがあります。私の出張先に、かつてお世話になった支店長が赴任していれば、「一杯行きましょうか」と声をかけることがある(ただし、一対一でしか会わない)。直接的な利害関係がなければ、私も「あのときは、どのように判断したのですか?」と質問できますし、支店長も私から経済の状況を知ることができる。それはお互いにとってメリットです。私は接待をしないし、「銀行に貸しをつくっておこう」とも考えない。いまから25年くらい前までは、銀行に頼まれるまま定期預金に協力したり、クレジットカードに入会したこともありましたが、いまは時代が違う。銀行も、そんなことは求めていません。支店長に「どこかに優良な融資先はないか」と尋ねられれば、融資先を紹介することがあります。私は、経営サポート会員のB/Sに目を通し、財務内容も把握しているので、小山昇の紹介先なら(たとえ現状が赤字でも)安心して貸し出せる。それでも私は、支店長に恩を売ったつもりはありません。「かけた恩は水に流す。受けた恩は石に刻む」。これが私のスタンスです。金融庁に相談するときは、銀行にひと声かける「貸し渋り」や「貸し剥がし」が横行したり、銀行がリスケ(リスケジュール)に応じてくれず、「WINWINの関係」が築けなくなったら、どうするか。打つ手がなくなってしまったらどうするか。金融庁に相談するしかありません。金融庁には、金融サービスの利用者の情報(貸し渋り・貸し剥がしの情報)を受け付ける相談窓口があります。銀行がもっとも怖れるのは、「金融庁から指導が入ること」です。ただし、金融庁に相談する前に、「金融庁に相談していいですか?」とひと言断っておくこと(このひと言で、状況が改善されることがある)。
いきなり金融庁に駆け込むのは、ルール違反。仁義を通さない考え方は、銀行を敵に回すだけです。
「株式会社武蔵野」の銀行交渉の現場から——滝石洋子が小山から学んだ「交渉の心得」滝石洋子(たきいし・ひろこ)株式会社武蔵野管理本部本部長1949年高知県生まれ。1967年に上京、主婦を経て1980年ダスキン武蔵野にパートで入社。1年後にパート150人の統括責任者となる。1995年社員となり、家庭市場部長、経理、総務部長を務め、現在は管理本部本部長。●銀行の提案をそのまま受け入れてはいけない家計簿さえつけたことのない私が経理に異動になり(17年前)、小山から最初に教わったのは、「銀行の言うことを、そのまま聞いてはいけない」ことです。銀行はいろいろな提案を持って来ますが、そのまま受け入れてはいけない。「金利はこれくらいで……、何年で……、この条件でどうですか?」と具体的な提案を受けても、「では、お願いします」とは言わない。本心では借りたくても、「まぁ、小山に聞いておきます」と言って、はじめは保留します。銀行の担当者から「他行の金利はどれくらいですか?」と聞かれても、「わかりません、知りませんと答えるのが正しい」。「B/SやP/L、決算書を見せてほしい」と頼まれたときは、「小山の許可を得てから出させていただきます」と、お断りしました。じつを言うと、当時はパソコンの使い方がわからず、出したくても出せなかっただけですが(笑)、銀行側が「武蔵野さんにはきっちりとした経理担当者がいる」と勝手に勘違いしてくれまして……。●銀行交渉の担当者は、「数字を直接見ていない人」が望ましい基本的に、銀行との細かなやりとりは、経理担当者が行ないます。そして、最終的に「借りるか、借りないか」を決定するのが、小山です。ただし、銀行と交渉する人は、経理の実務をしていない人のほうが望ましい。「数字を直接見ている人」は、武蔵野にお金があるか、ないかを知っているので、どうしても表情に出てしまいます。「来月の資金繰りはどうしようか」と困っているときは、「貸してほしい」という思いが顔に出ちゃうんですね(笑)。それに銀行は、「この会社がどういう会社なのか」を知りたいわけであって、経理上の細かな数字を知りたいわけではありません。ですから、実務をする担当、交渉する担当、決定する担当(トップ)は、それぞれ別の人に決めておくのがいいでしょう。そして交渉の担当者は、トップにすべての内容を正しく報告することが大事です。貸し渋りや貸し剥がしが深刻になっていますが、貸し剥がすにしても、そもそも銀行が
お金を貸していなければ剥がせないわけです。銀行も融資しなければ本業が成り立たないので、貸したいと思っている。けれど、「危ない会社」には貸せません。「安心な会社」にしか貸せない。いくら金融庁が指導したところで、「回収できないかもしれない会社」には、融資しないのが実情です。貸し剥がしにあっても、あわなくても、借りたお金を返すことには変わりない。だから私は、貸し剥がしに対して、それほど心配していません。もし会社が、「危ない会社」だとしたら、銀行に助けを求めるよりも、自社の改革を進めたほうがいいと思います。武蔵野も、リーマンショックの前後(第45期)は「借りないでやってみようか。内部で回してみようか」と決め、引き締めたことがあります。よく考えてみれば、「支払い」だけではなく、入ってくるお金もある。「お金が足りない」と慌てるのは、支払いにばかり気をとられているからです。スリム体質になった第45期は、銀行からも高く評価されました。●銀行からのアポイントは「3回」断る銀行からアポイントが入ったら、「3回くらい」は断ります。のどから手が出るくらいお金が必要でも、「すいません、いまちょっと忙しいので」とか「お客様と約束があるので」と言って断ります。3回断ってもまだ連絡のある銀行は「本気」です。「本気で貸したい」と思っています。ランチェスター戦略では、「訪問回数が多いほど営業力が高まる」、「7回訪問すれば、相手はYESと言う」と考えられています。私は、資金需要がなかったときに、それが本当かどうか、試したことがありました。都銀の新任担当者が飛び込みで来たとき、「小山の著書をご覧になったことありますか?」、次に来たときは「では、あの本の内容をどう解釈しましたか?」、「どのような感想をお持ちになりましたか?」、「○○○○についてご存じないと、小山と会っても話になりませんよ」などと言っては、毎回、帰るときに宿題を与え、次に来られるようにしました。先方は、すぐに小山に会いたい。けれど会えない。普通なら途中であきらめてしまうところですが、この担当は半年間、私を訪ねて来ました。訪問回数を重ねるうちに、「武蔵野がどのような会社か」がわかってきて、「本気で貸したい」と思ったのでしょう。●お金は「貸す」ではなく「お買い上げいただく」もの2009年の暮れのことです。ダスキン事業部が「プラズマクラスターイオン発生機」の販促を進めていたとき、営業から「滝石さん、あと20台なんとかならないかな?」と声
がかかった。私は、「そんなの簡単よ」と返事をし、事実、新規の契約を取りつけたのです。どうやったか。銀行からの融資が決まり、「あとは実印を捺すだけ」のときに、「支店長、こんな商品があるのですが……」と話を切り出したんです。「本気で貸したい」支店長は、「プラズマクラスター」の契約にサインしてくれました。お金を借りてほしい、判子を捺してほしいときの据え膳ですね。銀行交渉の場で「プラズマクラスター」の新規契約を取りつけた私に、小山は「よくやるよ。これじゃあ、サイン大会じゃないか」と笑って、お互いに判子を捺しました。お金を借りる立場の私が、優位に立っているのはおかしいと思われるかもしれませんが、「お金を貸す」という考え方こそおかしい。短期借入金や長期借入金、社債など、銀行が用意したさまざまな商品のなかで、こちらが選んで「買ってあげている」わけですから、「貸す」ではなく「お買い上げいただく」が正しい言い方です。多くの社長(経理)は、「借りる側は立場が弱い」と思いがちですが、むしろ私は「その逆」だと思っています。銀行はよく「晴れたら傘を貸し、雨が降ったら傘を取り上げる」とたとえられますが、ある都銀が4人で武蔵野にいらしたとき、こんなことがありました。金利の折り合いがつかず、その日はお帰りいただくことになったのですが、帰り際に雨が降ってきた。支店長も、副支店長も、だれも傘を持っていない。そこで私は、お客様用の傘を貸して差し上げた。「銀行さんに傘を貸す企業って、あまりないですよね」と言ったら、ズッコケて笑っていましたね。4人いらしたので4本貸そうとしたら、「2本でいいです、いいです」って(笑)。●突然の人事異動で、経理部長にある日突然、小山から「明日から、経理に行け」と言われ、数字の苦手な私が1日で経理部長になりました(笑)。「綿棒は、何費か」もわからないほどの無知でしたから、とんでもないミスをしでかしたこともあります。パソコンで資金移動をはじめたばかりのころでした。「4000万円」移動するところを、パートさんがパソコンの操作を誤り、2回押してしまった。このままでは、倍付けの8000万円が支払われることになります。すぐに銀行から連絡が入りました。「滝石さん、残高が足りません!!」。私が「パートさんが間違えたので、半分の金額ですよ」とお願いしたところ、電話口で、「すでにデータ転送してあるので、あとは相手からお金を戻してもらうしかありません。だからいますぐ8000万円必要です。このままだと、会社が飛びますよ」と言う。それはもう、凄い剣幕でした。よくわからないときは強いですよね。私は怯まず「お宅もおかしい。銀行さんは、金額
」と言い返した。すると銀行の担当者から、こんな提案がありました。「滝石さん、定期預金がちょうど4000万円あります。これを崩しましょう」。私は、「払える分だけ払っちゃえばいいや」と気軽に考え、「ではそうしてください」と口頭で承諾した。事の顛末を知った小山は、「えーっ、おまえ、判子も捺さないで定期を解約したんだって?口頭だけで?それは支店長のクビが飛ぶぞ」と笑っている。小山が笑っているから、私も「たいしたことなかったんだ」と安心していた。ところが……、銀行の支店長が血相を変えて飛んで来たのです。さすがの私も、「とんでもないことをしでかした」と、足がガクガク震えました。●交渉する小山昇は、〝高尚〟な人物である悪いのは、こちらだと思っていました。ところがどういうわけか、支店長は、二段重ねの豪華な菓子折りを持参していました。そして「すみませんね、うちのがまたポカしたみたいで」と恐縮したのです。つまり、定期預金を解約した銀行側に非があった。頃合いを見て、小山が交渉をはじめました。「どうしますか?8000万円貸出すしかありませんよね。じゃあ借りましょうか」。支店長は「ぜひ、そうしていただければ」と言って、低金利での融資を約束してくれました。小山は大蔵省(当時)の監査で困らないようにと念書を差し出し、実質金利が同じになるだけ融資を受けた。小山は、私の性格も、支店長の対応も、すべてわかっていた。だから慌てず、笑っていられた。この小山の交渉を目の当たりにして、私は、交渉ではなく「高尚」の文字が頭に浮かびました。●銀行交渉は、明るく、元気に、図々しく地銀のA銀行からの借入残高が4500万円くらいになったとき、「これ以上の貸出には応じられない」と言われたことがあります。そこで定期預金(4000万円)を解約しようと考えました。武蔵野の定期預金は拘束されていませんから、資金として使おうと考えたのです。ところが銀行は、「それは困る」と難色を示した。「借入残高が残っているので、返済が終わるまでは、崩せない」と。これはおかしな話です。私は地銀の担当者に言いました。「いいですか。定期預金は、何かがあったときのために備えておくものじゃないんですか。子どもの将来のために積み立てておいた学資保険が、必要なときに使えなかったら、あなたはどうしますか?」。地銀はしぶしぶ解約に応じてくれましたが、銀行は、拘束されていない定期預金であっても、あれこれと理由をつけて手元に置いておこうとします。
私は、5人の担当者に囲まれ、「どうして必要なんですか?」と、まるで私が悪いことをしているかのように、問いつめられたことがあります。私は「お宅が貸してくれないから、明日の支払いができないんです」と開き直りましたけど(笑)。銀行と同じスタンスで戦っても、負けてしまいます。理論武装では勝てません。銀行交渉の担当者は、元気があって、パワーがあって、図々しいくらいでちょうどいいかもしれませんね。経営サポート会員の社長から、「滝石さん、担保を外したいのだけど、何か方法はないかな」と相談されたことがあります。その社長は2代目で、お父さん(先代)が亡くなったばかりでした。私にも秘策はなかったので、こうアドバイスしました。「親父は、担保だけは外してほしいと言いながら死んだ。いまも親父が、『あの担保はどうなったか』と夢枕に立つのです」と銀行担当者が来るたびに言ってみたらどうか、と。すると、担保が外れました(笑)。嘘みたいな本当の話です(もちろん、小山が現実的な指導をしていると思います)。だから、銀行交渉はあきらめないこと。いろいろ手を打ってみる価値があります。
財務体質を改善し、「貸したい会社」に生まれ変わる
①「P/L」ベースで計画を立てると、会社が潰れる在庫の整理に踏み切れたのは、B/Sを見ていたから2008年に倒産した上場企業のうち、じつに3分の2が「黒字倒産」でした。「赤字」だから倒産したのではありません。「黒字なら倒産しない」、「赤字だから倒産する」と短絡的に考えるのは、経営をP/L(損益計算書)だけで判断しているから。B/S(貸借対照表)ベースで経営を実践すれば、「現金がなければ倒産する」しくみに気がつくはずです。【P/L(損益計算書)】1年間の業績をまとめて「いくら儲かったか」、「いくら損をしたか」を知るための決算書。いくら売上があって、いくら経費を使って、最終的にいくら利益(損失)が出たかがまとめてあります。P/Lは「見解」です。【B/S(貸借対照表)】決算日現在の会社の財産状況をまとめた表。資本金や利益剰余金(純資産)がいくらあって、いくらお金を借りていて(負債)、どのように運用されているか(資産)を示しています。「資産の部」と「負債および純資産の部」に分かれていて、「資産の部」と「負債および純資産の部」の合計が同じ額で「バランスがとれている構造」になることから、バランスシート(BalanceSheet)と呼ばれています。B/Sは「現実」です。「現実」とはすなわち、「現金」です。命の次に大切なお金のことを知らないで、つまり、B/Sを見ないで経営を行なうのは、鉄砲を持たないで戦争に行くようなもの。勝てっこありません。黒字でも会社が倒産するのは、現金がないからです。銀行から借入ができている間は、血液が回っているので倒産しません。事業経営は、利益を出すことがいちばんではなく、「お金が回ること」がいちばんです。では輸血してくれるところはどこか。銀行しかありません。会社が潰れる最大の原因は、社長が「資金音痴」だからです。それに尽きる。資金音痴の社長は、P/Lベースで経営計画をつくる。したがって、自社の事業構造を変えられない。けれどB/Sを見ていれば、社長の打つ手が決まります。
株式会社アポロン(鏑城正則社長)は、ドラッグストアを5店舗経営していました。経営サポート会員になったとき、アポロンは赤字でした。月末を迎え、資金繰りに困った社長から連絡があった。「700万円不足しています」私は尋ねました。「一店舗あたりの店の在庫はいくらあるの?」「だいたい、700万円です」「赤字の店はあるの?」「あります」「では、その赤字の店を閉鎖させよう」「ちょうどいま、その店の店長が『辞めたい』と言うので、引き止めたところです」「はっはっはっ(笑)。引き止める必要はないよ。その店長が辞めるせいにして、閉鎖しよう」メーカー・問屋には、「店を改装する」という理由で商品をすべて返品します。返品すればマイナス伝票を起こせる。だから資金繰りができた。P/Lしか見ていなかったら、このような対策はできなかったはずです。鏑城社長の「資金音痴」は改善され、会社も黒字に転換して、いまは増収増益を繰り返しています。在庫が減るということは、業務改善できたということです。経営サポート会員のなかで、もっとも在庫を減らした会社は、岐阜県にある株式会社東伸(藤吉繁子社長)の約76%(2億4000万円→5800万円)。2番目は、岡山県のペガサスキャンドル株式会社(井上隆夫社長)の50%(3億円→1億5000万円)です。社長が現場に出ない会社は、倒産しやすい社長が現場に出ない会社は、倒産する確率が高い。現場に出なければ、お金の流れはつかめません。静岡県富士市の飯田工業薬品株式会社の飯田悦郎社長は、朝礼が終わったあと、毎日倉庫に行きます。原料倉庫に行くと、仕入れた在庫がたくさんある。「おっ、ずいぶんあるな」次に製品倉庫に行くと、製品の在庫もたくさんある。「おっ、こっちにもあるな」「在庫がたくさんある」ということは、売れていないからです。会社のお金は、静かに倉庫で「寝ていた」のです。飯田社長は毎日、現場を見て具体的な指示をしている。売れない商品は、値引きしてでも早く資金に変える。在庫は、お金と同じです。商品を
売り損ねてしまったら、お金を捨てることになります。「損をするから」といって値引きをしないと、結果的に、もっと大きな損をします。売上が上がるほど、運転資金が不足することがあるほとんどの社長は、「売上を伸ばせば会社は成長する」と考えます。売上さえ伸びれば、本当に倒産しないのでしょうか?「武蔵野」は、1993年に「あかり事業部」(照明器具を販売する事業)をスタートさせました。売上は堅調に伸びましたが、5年後、手放しでは喜べない状況に陥った。販売価格が下がり、当初は35%だった粗利益率が、25%に落ちたのです。利益率が低くなって、投資資金の回収が遅くなりました。さらに、お客様に大手が多く、回収サイトも長かった。「あかり事業部」は、売れば売るほど売掛金が膨らみ、売れば売るほど資金繰りに苦しくなりました。売れるから仕入れが増えます。けれど、回収サイトが長いため売掛金の現金化が遅れる。支払うばかりでなかなかお金が入ってこない。結果的に運転資金が足りなくなる。商品は売れているのに、運転資金が不足して、経営を圧迫することがあります。「あかり事業部」の売掛金は、しだいに全社の利益を上回るほどになり、私はやむなく「撤退」を決めました。
②比較貸借対照表をつくると、数字に強くなれる短冊に、社長みずから数字を書き込む多くの社長が、「勘定科目や数字の意味がわからない」と言ってB/Sを見ません。経理や会計士に任せっきりです。ですが、社長がB/Sの知識を身につけるだけで、会社の格付けが上がります。次ページの表は「比較貸借対照表」です。この表に、前期の決算時の数字(今期の期首の数字)と、今期の目標の数字(期末の予測数字)を記します。前期と今期の間に「短冊」を貼って、毎月「試算表の期末累計額」を記入していく。経理からもらった数字を「自分の手」で記入していくうちに、勘定科目にも慣れてきます。書き込んだ数字が、期首の数字と期末の数字の間であれば「正常値」。期首よりも減少していたり、期末よりもオーバーしている場合は「異常値」です。異常値を発見したら、経理部や営業部に質問し、すみやかに対策を図ります。中小企業の社長の90%以上が、B/Sが読めません。それどころか、銀行員の半分はB/Sが読めないし、経理事務所の職員も半分は読めません。「B/Sの計算ができる」ことと、「B/Sの数字を読み解く」ことは違います。「武蔵野」の経営サポート会員は現在、336社。倒産した会社はありません。「倒産ゼロ」なのは、私が、P/Lではなく、B/Sベースで指導するからです。現金は現実です。「資金を調達するには何をすべきか」、「格付けを上げるためには何
をすべきか」を現実的に対策しているからこそ、銀行がお金を貸してくれる。
③勘定科目のとり方を変えるだけで、格付けが良くなる資産は上位科目に、負債は下位科目に移動するP/Lは、「いくら売上があって、いくら経費を使って、最終的にいくら利益(損失)が出たか」を示した、いわば「過去の数字」です。過去の結果を変えることはできません。B/Sは、過去ではなく「現時点での状況」を示す数字ですから、社長の意思で決められます。B/Sの「負債および純資産の部」には、「流動負債」として、支払手形、買掛金、経費未払金、手数料未払金など、「資金を、いくら、どこから調達したか」についての勘定科目が並んでいます。この順番は「資金を調達しやすい順番」です。「資産の部」には、「流動資産」として、現金預金、固定預金、受取手形、売掛金、棚卸資産など、「集めたお金や利益が、どんな資産に変わったのか」についての勘定科目が並んでいます。この順番は「現金化しやすい順番」です。資産の額が同じでも、意図的に勘定科目のとり方を変えたり、資産を社長個人や別会社に移行すると、銀行からの財務評価が変わる。格付けを上げるには、「資産や負債の重点を移す」必要があります。資産は、上位の科目(現金化しやすい科目)があるほど、銀行の格付けが上がります。土地や建物よりも、同額の普通預金があったほうが、銀行は回収しやすいからです。反対に負債は、下位の科目(現金を調達しにくい科目)の数字が大きいほど、格付けが上がります。支払手形や買掛金よりも、長期借入金や社債が大きいほど信用力が認められます。
短期借入金が3400万円、長期借入金が3億5000万円のA社の財務分析をすると、流動比率は157・3%でした。流動比率とは、流動資産(現金預金や受取手形など、短期間で現金化できる資産)と流動負債(支払手形や短期借入金など、1年以内に返済すべき負債)の割合を示す比率です。この数字が大きいほど、短期的な資金繰りに余裕があることになります(一般的には130以上)。ところが、短期借入金と長期借入金の数字をひっくり返すと、流動比率が変わります。長期借入金が3400万円、短期借入金が3億5000万円で計算すると、流動比率は64%にまで落ち込む。この数字は、短期借入金の返済に追われる状況を示します。では、どうして新規取引の銀行が「最初は短期で貸す」のか、わかりますか?お客様を「困らせる」ためです。では、困ったお客様はどのような行動をとるか、わかりますか?高い金利でお金を借りたり、土地に抵当権や根抵当権をつけたり、個人保証をつけたりします。最初に短期で貸して会社の財務評価を下げ(流動比率を下げ)、その後、銀行にとって有利な条件で融資をする。これも、銀行の手口です。銀行の手口を知って対応している社長と、そうでない社長では、担保や金利に差が出るのは当然です。
④無駄な資産を減らすと、格付けが上がる自社ビルは持たないほうがトク「資金運用」とは、意図的にB/Sの勘定科目を変えることです。「資金運用」とは、会社を潰さないための社長の方針です。「資金運用」をすれば、会社の格付けが上がります。「武蔵野」は、できるだけ固定資産を持たないようにしています。本社ビルも賃貸です。毎月の家賃は経費です。土地を購入して本社ビルを建てると、「経費」ではなく「資産」になる。資産の返済は、「利益」で行ないます。経常利益4000万円の会社が、自社ビルを買うとします。年間の返済額は1000万円。現在借りているオフィスの賃料も、同じく年間1000万円です。【賃料の場合】経常利益…4000万円(すでに賃料の1000万円は経費として引かれている)税金(50%)…2000万円予定納税(25%)…1000万円(計3000万円)残った現金…4000万円ー3000万円=1000万円【購入した場合】経常利益…5000万円(家賃の経費1000万円がなくなったので5000万円に)税金(50%)…2500万円予定納税(25%)…1250万円(計3750万円)自社ビル購入の返済…1000万円残った現金…5000万円ー3750万円ー1000万円=250万円購入した場合、賃料に比べ、現金が残りません(その差750万円)。自社ビルを購入すると、税金を多く払ううえに、資金繰りも危うくなる。土地は償却できない。建物は減価償却費と経費に変わるのに時間がかかる。固定資産には税金もかかる。けれど家賃なら、利益を圧縮できるので、税金が安くなる。無駄な資産を持たず、総資産を圧縮すると、自動的に負債が減少します。会社の土地は、社長の個人会社に売却して借りる
すでに土地や資産を持っているのなら、社長の個人会社に売却してもいい。会社が3億円の土地を持っています。この3億円の土地を売る。では、どこに売るか。社長が個人会社をつくって、その会社に土地を売ります。この土地を社長個人の所有にして、今度は、会社が土地を借りる。そうすると、資産(B/S)だった土地が経費(P/L)になる(社長には個人資産が残るので、相続のときに有利)。社長の個人会社には借金は残るので、実態は変わりませんが、土地の売却(土地の含み損の償却も一緒にできる)で土地購入の借入金を返済すると、資産と借入金が減り、格付けが良くなります。決算書の内容は変えられない。過去と他人は変えられない。でも、自分と未来は変えられます。社長は、土地や建物を個人会社に売却したり、在庫や売掛金を圧縮して、B/Sの勘定科目を意図的に変えることが大切です。
⑤中小企業は「格付け3」が理想的格付け2だと、会社のバイタリティーがなくなる中小企業は、売上規模が小さいため、「格付け1」にはなりません(格付けについては70ページ)。私が指導したなかで、「格付け2」の会社が2社ありましたが、「格付け2」だと、会社にバイタリティーがなくなるおそれがあります。なぜなら、新しい投資に消極的だからです。「格付け2」は、銀行から見れば良いことですが、企業にとっては、そうとも言い切れません。現時点で利益が出ていても、新しい投資をしなければ、将来に希望が持てない。だから、格付けは「3」か「4」で、ある程度の投資をしながら、継続的な安定を目指すのが理想的です。事業をわかっていない評論家やコンサルタントは、「格付けの数字が良いほど、良い会社」と考えますが、これは勘違い。格付けはあくまでも局面であり、断面にすぎません。断面だけを見て経営を判断してはいけない。会社は、未来永劫にわたって継続するのだから、成長性を考慮すれば、「2」である必要はない。「3」か「4」で十分に融資を受けられます。急成長しているときは、事業構造を変える「格付け7」の会社が、3年間で125%以上成長すると(増収増益すると)、その会社は倒産します。増収増益で得た経常利益より、売掛金や在庫が増える。あるいは設備投資が増える。おまけに借入金の返済が回ってくる。これではキャッシュが回りません。会社が急成長するときは、事業構造を変える必要があります。急成長を遂げた外食産業のC社は、一時期「倒産するのでは」と噂が流れました。そこでC社はどうしたか。土地を大家さんから借りるときに、大家さんに建物までつくってもらい、「借りる」という方法をとった。「借りる」から経費ですみ、資金負担がなくなった。このように、新しい物件は、大家さんに建物まで建ててもらい、保証金なしで、高い家賃で借りる。保証金の金利部分を上乗せしても、購入するより有利です。
⑥経営は逆算が正しい。最初に経常利益を決める経常利益の目標額は、適当に決める何事も「逆算」したほうがうまくいきます。結婚が決まったら、はじめに何を決めますか?結婚式の日にちを決める。日にちを決めて、会場を決めて、仲人を決めて、いつ案内状を出すかを決めて、ウエディングドレスを決めて、席次を決めて……と、最初に「ゴール」を決め、逆算します。大学入試も同じで、試験日から逆算する。試験日がわかれば、いつから、どのように勉強をはじめればいいか決まります。経営計画も「逆算」が基本です。最初に結果(来期の利益目標)を決めてから、結果を得るための手段を決めていく。多くの社長が、経常利益よりも先に「売上」を決めます。今期の対前年比5%増、10%増と売上を設定してから、仕入はいくらで、粗利益はいくらで、給与はいくらで、経費はいくらで……と考え、経常利益は最後。これでは、なかなか利益が出にくい。私は逆です。経常利益をいちばん先に決定しています。では、経常利益はどうやって決めるか。経常利益の数字は、「適当に決める」のが正しい。根拠も、正当性もいりません。社長が「いくらほしい」と決めればいい。とりあえず「数字」を決めて、不都合が生じてから修正すればいいだけのことです。今期の経常利益の10%増でも、倍増でもいい。社長が「これだけの経常利益を出す」と決めれば、それが目標額です。経常利益の目標は、社長の「思い」で決まります。私の思いは「重い」ので、いつも目
標額の半分しかいかない。経常利益の目標額が1億円なら、実績は5000万円。目標額が2億円なら、実績は1億円。私の場合はまさしく「話半分」ですが、経営は、「率」ではなく「額」。話半分でも、前年を超えていることが大切です。赤字の会社であれば、経常利益はゼロでもいい「実践経営塾」に参加する社長から「経常利益をいくらに設定すればいいかわかりません。どのくらいの数字にしたらいいですか」と質問されることがあります。このとき私は、いつも決まってこう答える。「だったら、ゼロにしましょう」すると社長は、「いやいや、ゼロだと困るんです。せめて3000万円はほしい」ほとんどの社長は、すでに答えを持っています。細かな数字までは把握していなくても、大まかな数字を持っている。赤字の会社なら、経常利益はゼロでもいい。赤字が3000万円の会社であれば、「ゼロ=3000万円の純利益」と同じです。
⑦正確さは二の次。経営計画は、速くつくるのが正しい「武蔵野」の経営計画は、いい加減につくられている「武蔵野」の短期計画は、じつにいい加減です。私が「今期は、いくらの利益にする」と決め、その数字を各役員に割り振ります。役員たちから「どうしてこの数字なのですか?」と質問されたら、「根拠はありません」と答える。これが私のいいところです。「根拠はないけど、この数字で計画しなさい」と。すると役員は部長を呼んで「根拠ないけど、この数字で計画をつくってほしい」と数字を割り振り、割り振られた部長は課長を呼んで「オレも、役員も、それどころか社長も根拠はないんだけど、とりあえずこの数字で計画をつくって」と割り振っていく。このようにしてできた計画を合算して、短期計画ができ上がっています。いい加減な計画でも、ある会社とない会社では、天国と地獄ほどの違いがあります。たとえ計画がいい加減でも、「何%できているか、どれくらい達成しているか」がわかれば、次の判断がしやすい。多くの社長が、正確さを求めるあまり、結局は計画が立てられません。私は、正しさよりも速さを大切にしているので、適当に計画を立てています。適当でもいいからスタートしてみて、マーケットの状況に合わなければ、そのときに修正すればいいだけの話です。長期経営計画は、「5年後に倍増」を目指す「経営計画書作成合宿」では、各社長に「5年後に売上を倍増にする長期経営計画」を立てていただきます。「5年後に売上倍増」を掲げるのは、「いままでと同じやり方では会社は成長しない」ことに気づいてもらいたいからです。不採算部門から撤退するとか、IT化を進めるとか、新規事業をはじめるとか、「いままでとは違うやり方」を取り入れることで、会社にバイタリティーが生まれます。私がはじめて「長期事業構想書」をつくり「5年で売上倍増」の長期計画を発表したとき、部長の狐塚富夫は言いました。「本当に達成するんですか?」私が、「達成するはずがないだろう」と答えると、狐塚は「やっぱり」と納得しました。ところが、狐塚の予想を裏切り、5年後に売上は倍増しました。新規事業を立ち上げ、
不足分の売上を補った結果、売上が倍になった。株式会社山崎文栄堂の山崎登社長(東京都)やドクターリセラ株式会社の奥迫哲也社長(大阪府)など、経営サポート会員のほとんどが(5年以上かかることはあっても)「売上倍増」という、とてつもない計画を達成しています。彼らもまた、新しいやり方を模索し、努力し続けたからです。ホッピービバレッジ株式会社(東京都)の石渡美奈社長に至っては、なんと4倍です。詳しくは『社長が変われば、社員は変わる!』(あさ出版)を参考にしてください。
⑧借入金を先行投資して、利益を生み出す新規事業は成功する確率が低い。だから融資を受けにくい賞与資金については、一度融資実績・返済実績をつくれば、それ以降もたいがい借りられます。納税資金は、多くの銀行が喜んで貸してくれます。M&Aは、同業の場合や本業の強化につながる場合は無条件で貸してくれます。ですが、新規事業だと警戒されます。設備投資は、本業強化の設備投資なら貸してくれる。飲食店で新店舗を出すときなどは、貸してくれます。一方で、新規事業をはじめるための設備投資には、融資を受けにくい。なぜなら、新規事業は成功する確率が低いからです。あのイチロー選手でさえ、10回打席に入って、ヒットを打つのは3回程度。事業も同じで、腕のいい経営者でも、新しい事業を10はじめたら、利益を生むのは3つくらい。私もいろいろな事業に関わってきましたが、通算すれば、打率は2割程度です。ですから、新規事業をはじめるときは、「本業が儲かっているとき」でなければいけない。ところが多くの社長は、本業が下り坂のときに新しいことをはじめようとします。本業が安定していなければ、銀行は融資に応じてくれません。「武蔵野」の経営サポート事業部が成果を出しているのは、本業(ダスキン)が安定していたときにスタートさせたからです。経常利益は、新規事業、社員教育、インフラ整備の順に使う経常利益は、「前年より少し多くする」のが基本です(目標額は、適当でいい)。経常利益が倍になるときは、知恵を絞って節税します。では、利益が出そうなときは、どのようにお金を使うのが正しいと思いますか?1番目は、新規事業や新規開拓など、「お客様の数を増やすこと」に使います。最高の節税です。2番目は、社員教育。社員教育をしたからといって、すぐに効果が出るわけではありません。本来は無形固定資産ですが、無形固定資産として計るモノサシがないから、社員教育は全額「経費」。利益が出ている会社が社員教育をすると、節税になります。「武蔵野」は、社員教育に時間とお金を惜しみなく投入します。2002年度は、経常利益と同額をつぎ込みました。サービス業は、人の成長なくして会社の成長はあり得ません。
3番目はインフラの整備。経営サポート会員から「IT化の開発費はどれくらいですか?」と聞かれたとき、私は「聞かないでください」と答えた。利益が出れば、こりずに使ったからです。インフラを整備した結果、最高7500万円だった通信費が3000万円を下回りました。さらに、本社と各営業所間の専用回線をインターネットにしたことで、毎月40万円の経費が削減できています。削減できた費用は純利益です。4番目は経常利益です。そのほか、従業員満足とお客様満足のためにも使います。従業員満足とお客様満足は、B/Sには載らない「含み資産」といいます。含み資産が多いほど、いい会社です。「武蔵野」が増収増益を続けているのは、経常利益を最初に決めているから。「今期はいくら利益を出す」と決め、それ以上の利益が出たら、すべて使います。それどころか、利益が出ることがわかったら、先行投資する。利益が出てから、ではなく、出る前にお金を借入れて、(1番目から3番目のために)お金を使っています。利益が出るのを待っていると、チャンスを逃す。売る時期に売らないと、売り損ないが出てしまう。だから、お金を借入れ、先行投資。「利益が出てから」ではなくて、「利益を出すために」先にお金を使っている。
⑨リスケジュールをしたければ、「厳しい経営」にシフトする会社都合の繰り上げ返済をしてはいけない返済期間は、長ければ長いほどいい。「金利が高くても、返済期間は長く」が借入の基本方針です。ですが多くの社長は「金利は安く、返済期間は短く」しているから、資金繰りが苦しくなる。いちばんいいのは、途中で借換えをさせてもらうこと。ようするに、残債(返済していない借入の残高)の何本かを1本にまとめてもらい、期間の長い追加融資を受ける。このような返済計画(借換え)に応じてくれる銀行は良心的です。返済するときは、会社の都合だけで返済期間を繰り上げてはいけません。繰り上げ返済すれば「銀行の利益が減る」からです。せっかく高い金利で貸しているのに、期限より前に返済されると、銀行は期限の利益を失うことになります。約束したとおりに返済するのがルール。自社の都合だけで返済を決めれば、築き上げた信用をなくすことになります。銀行からの返済要求をプラスにとらえる銀行から「早く返してくれ」と言われた場合は、繰り上げてもいい。おもしろい話があります。政府系の金融機関からお金を借りていた社長の話です。株式会社小田島組(岩手県)の小田島直樹社長は、あるとき金融機関の担当者から「決算書を出してほしい」と言われた。社長が「何に使うんですか?」と問いかけても、明快な返事が戻ってこなかったので社長は、決算書を出しませんでした。担当者は、言いました。「決算書を出さないなら、貸しているお金を返済してほしい」。売り言葉に買い言葉で、社長も言った。「わかりました。返済します」。返済を迫られた小田島社長ですが、内心は「渡りに船」と思った。なぜなら、返済を求められた借入金は20年も前のもので、金利が高かった。そこで社長は、別の金融機関から安い金利で借換えをして、返済に回した。金利が安くなるため、社長にとっては「渡りに船」だったわけです。業務改善の見込みがあれば、リスケは可能になる銀行は、どうすればリスケジュール(リスケ)に応じてくれるのでしょうか。経営サポート会員のC社は、「銀行からの借入総額が5億7000万円、返済金額は毎月1700万円」(取引のある銀行数は、10行以上で23契約)でしたが、現在の返済金額は、「毎月20万円」。リスケによって、1700万円あった月々の返済が、20万円に減額
されました。C社の社長は、「厳しい決算と経営計画によって、リスケが可能になった」と話します。C社は現在、3期連続で黒字です。業務改善が見込めなければ、銀行はリスケに応じません。厳しい経営に踏み出さない会社は、何も変わらない。何も変わらない会社は、遅かれ早かれ倒産します。C社の社長は、「経営計画をつくり、社員教育に注力し、業務改善を図る」と決定した。そして、この決定が銀行に認められ、「返済期間を長く、返済金額を少なく」できたのです。経営計画については『経営計画は1冊の手帳にまとめなさい』(中経出版)を参考にしてください。
嘘のない「見える化」が、銀行の信用につながる
①融資を受けられないのは、経営が不透明だから銀行には、良いことはもちろん、悪いことも報告する銀行交渉における最良かつ最強の方法は、「定期的に銀行を訪れ、良いことも、悪いことも、包み隠さず報告すること」です。良いことは言えても、悪いことは言えない社長がじつに多い。悪いことを言うとしたら、それは「取り返しがつかないほど悪くなったとき」なので、銀行も手の打ちようがない。私は、良いことも悪いことも、すべて本当のことを言っています。2009年、『経営の見える化』(中経出版)という本を出版しましたが、一部の社員からは『経営の丸はだ化』と揶揄されるくらいです。悪いことを報告したからといって、取引がなくなるわけではない。先行きが良くなる見通しがはっきりしていれば、融資を受けられます。会社が赤字だからお金を借りられないのではありません。経営が不透明だから、借りられないのです。「武蔵野」がクリエイト事業の撤退資金を借入れできたのは(89ページ)、「撤退すれば赤字がなくなる」ことがわかっていたからです。株式の相続のときもそう(77ページ)。「武蔵野」の株価を1円にするために、実質4億5000万円の赤字になった。それでも銀行が支援してくれるのは、「武蔵野」の経営が「見える化」されているからです。支店長に、嘘はつけない銀行に、嘘をついてはいけません。嘘をついても、すぐにバレます。前述したように、都銀の支店長は、社長と面会する際、もうひとり行員を同席させて、話した内容をすべて記録させます(134ページ。地銀でも優秀な支店長は、お付きの人がいます)。記録されていることをわかったうえで話をする社長と、わからずに大ボラをふく社長の差は大きい。ベリー時代に、私はある金融機関に700万円の融資をお願いしました。ところが、断られました。多くの社長は、断られた時点であきらめます。けれど私は支店に出向き、どうして私の申請を断ったのか、その理由を聞いたのです。「融資が断られたからといって、その理由を聞きに来た社長は、いままでにいない」と驚かれましたが、それでも支店長は教えてくれた。「保証人をあと2人つければ、2100万円貸せます」。
私は保証人を2人探し、700万円の3倍、2100万円の融資を受けましたが、このときの決め手になったのは、私が「嘘をつかなかった」ことです。私は、支店長から事業について聞かれるたびに、良いことも、悪いことも話した。そして嘘をつかずに、「記録されている内容のとおり、実行していた」。だから、支店長の信頼を得られた。入金銀行と出金銀行を2つに分け、透明性を高める私がベリーを興したのは、29歳のときです(昭和52年)。親の援助をあてにせず、ようやく集めた150万円で会社を設立しました。事業をはじめた当初は、会社に信用がありません。当然、都銀は相手にしてくれない。そこで私は、いちばん小さな信用金庫と取引をした。売上は毎日、信金に入金しましたが、毎週、第二地銀(当時は相互銀行)にお金を移して、買掛金などの支払いは第二地銀で行なっていました。つまり、入金銀行(お金が入る銀行)と出金銀行(お金を支払う銀行)を分けていた。こうすると、入金銀行にも出金銀行にも、同額の売上が通るため、会社が信用されます。入金した金額と会社の売上(決算書で確認できる)が一致していれば、売上をごまかしていない(架空の売上がない)ことがわかります。会社が大きくなれば、小さな信用金庫では資金需要に無理が生じます。そこで次は、出金銀行だった第二地銀を入金銀行に変え、出金銀行を都銀に変える。私はこのように、入金銀行と出金銀行を分け、会社の成長に合わせてメインバンクを変えてきました。この話をすると、「お金を移す手間や振り込み手数料がもったいない」と言われますが、もったいないのは、手間や振り込み手数料ではなく、「信用を失うこと」。細事にこだわるあまり、大事なことを失ってしまう社長が多い。大事なのは、自社の透明性を高めることです。
②経営計画発表会には、金融機関を招待する支店長は、社長の姿勢と社員の姿勢を観察している「武蔵野」は、会社のルール(規定・規則・方針)と目指すべき数字(事業構想・経営目標・利益計画)を明文化した手帳型の「経営計画書」をつくっています。そして、毎年5月(当社の期首)に「経営計画発表会」を実施し、今期1年間の方針を発表する。経営計画発表会には、社員のみならず、金融機関(支店長クラス)を招待するのが我が社の通例です。「経営計画発表会」の所要時間は約3時間。銀行の支店長を3時間拘束できるのは、「手形を出している会社が潰れそうなとき」と「経営計画発表会」だけ。社長が銀行を訪問しても、支店長と話せる時間はせいぜい数十分がいいところです。都銀の場合、「20億円以下の会社」と「赤字の会社」に支店長は来ません。「武蔵野」でも赤字になれば、支店長は来ない。副支店長や次長が来ます。都銀は、非常にわかりやすい。経営計画発表会では、小山昇が、自分の声と自分の言葉で方針を読み上げる。このとき、私は社員に嘘をつけません。もし、読み上げる方針が嘘だとしたら、社員は私の話を真剣に聞くわけがない。「小山は、来賓の前では調子のいいことを言う」と思い、しらけたり、あきれたり、怒ったり、居眠りしたりする。社長の方針説明に耳を傾けず、居眠りしている社員がいたら、金融機関の方々はどう思うでしょう?お金を貸す気にはならないと思う。だから社長は、社員の前で嘘をつかない。嘘をつかないから、社員も真剣に聞く。支店長は、「社員の前で嘘をつかない社長」と、「社長の話を真剣に聞き、メモをとる社員」を見て、「この会社になら貸しても大丈夫だ」と安心します。「武蔵野」が最大16億円も無担保で借りることができたのは、「経営計画書」と「経営計画発表会」と「社長と社員の姿勢」が担保代わりになっているからです。経営計画発表会で挨拶をしていただく支店長には、いつもこうお願いしています。「挨拶の内容は、考えてこないでください」なぜかというと、社会情勢だとか銀行を取り巻く状況をお話いただいても、「武蔵野」の社員にはむずかしすぎて理解できないです。それよりも、経営計画発表会に参加して感じたことを、ストレートにお話いただくほうがいい。あまり褒めると社員がのぼせ上がるので、「できるだけ辛口で」とお願いします。
金融機関に「経営計画書」を配付する金融機関には、経営計画書をお配りします。したがって支店は、稟議を上げる際、あらためて資料を集める必要がない。経営計画書には、「武蔵野」のB/Sや各行の毎月の借り入れ返済実績、定期預金の実績が付いています。経営計画書には、銀行の担当者が直接数字を書き入れているのですから(134ページ)、これに勝る資料はない。「武蔵野」はかつて、「資金繰り表を出してください」とか「○○○表を出してください」と言われたことがほとんどありません。もし、経営計画書や経営計画資料以外の提出を求められても、出すつもりはない。別の資料を要求されたら、「あの銀行は、貸す気がない」と判断するだけです。「どこまでの資料を要求されるか」によって、「本当に貸したい」のか、それとも「貸したくないのか」がわかることがあります。
③金融機関の方々に「社員のまっすぐな姿勢」を見せる社員には入念なリハーサルを課す経営計画発表会に出席する社員(課長職以上と、半期にA評価を得た優秀な社員のみ)は、入念なリハーサルを積んだうえで、本番に臨みます。経営計画発表会の宣誓や経営理念の唱和はもとより、「拍手のしかた」まで徹底して練習します。来賓のみなさまが会場入りした際、会場全員(社員百数十人)の拍手が揃っていたら、どう思いますか?経営計画書を読むとき、全員の手の高さが揃っていたら、どう思いますか?「武蔵野」の社員の一糸乱れぬ動きを見れば、来賓の方々は、「この会社はすごい!」と感心する。拍手もまばらで姿勢も乱れていたら、「この会社はだらしない」と思われる。一度「だらしない」と思われると、そのイメージはなかなか拭えません。けれど「この会社はすごい!」と思っていただければ、支店長は翌日の朝礼で、「武蔵野」を話題にするかもしれない。「武蔵野の経営計画発表会は、こうだった。ああだった」と。すると支店の全員に「武蔵野」の姿勢が伝わります。優秀な支店長は、担当者も同席させる経営計画発表会には、取引のある銀行をすべて招待すべきでしょうか?取引のある銀行が4行程度なら、すべて招待したほうがいい。行数が多い場合は、取引金額に応じて、4、5行に絞ってもいいでしょう。なかには、「私だけでなく、担当者も経営計画発表会に出席させたいのですが……」と願い出る支店長もいます。この支店長は、優秀です。もちろん私は断りません。「どうぞ、お越しください」と歓迎します。融資の稟議を書くのは担当者であり、その人に武蔵野の姿勢をわかってもらう最良の機会だからです。
④経営計画発表会は、「武蔵野時間」で進行する時間どおりに終わるから、参加していただける経営計画発表会は、「武蔵野時間」で進行する。「武蔵野時間」とは「時間どおりにはじまり、時間どおりに終わる」ことを意味しています。「武蔵野時間」なら、時間がおすことはありません。経営計画発表会は、第1部と第2部に分かれています。第1部は、経営計画発表や社員表彰、幹部の決意表明など、厳粛に進めていきます。第2部は、懇親パーティーです。仮装したり、早食い競争をしたりして、大いに盛り上がります。第2部の懇親パーティーは、「1時間で中締めする」と決めています。1時間で帰れることがわかっているからこそ、忙しい支店長にも参加していただける。社員には、「来賓の方がいる前で、料理をガツガツ食べるな。食べたければ、中締めの後で」と教えています。パーティー会場の外を見れば、会社の実態がわかる私も、来賓として、他企業の経営計画発表会に招かれることがあります。第2部の懇親パーティーがはじまって30分たったころ、私は必ず「トイレ」に行く。本当は、トイレに行くのが目的ではありません。「この会社の実態」を把握するのが目的です。第1部でいくら社長が夢を語っても、社員は嘘をつけない。赤字の会社や、P/Lだけで経営をしている会社には、一体感がありません。パーティーの最中に、社員が会場の外でたむろしています。たむろしている人数が多い会社は、社長と、幹部と、社員のコミュニケーションがとれていない会社です。経営計画発表会は、会社を丸見えにします。方針を共有できている会社であれば、経営計画発表会の重要性を理解している。社員がつまらなそうにたむろしているわけがありません。事実だけを丸見えにするから、信頼を得られる数年前、大手都銀が飛び込み営業に来たことがあります。当時は資金的に余裕があったのですが、2億円(5年間の長期借入)の融資を受けました。利率は1・45%。個人保証も担保もなし。初取引としては、申し分のない条件です。一般的に、初取引の場合は短期が多い。なぜなら、多くの会社が情報を開示しないからです。ところが「武蔵野」は、丸見えです。丸見えだから、好条件を引き出せた。
私は、都銀の担当者に「武蔵野」の政策勉強会(経営計画発表会に参加していないパートやアルバイトを含め、全社員を対象にした勉強会)に参加していただきました。参加費の1万円は、担当者の自腹です。のちに担当者は、次のように述べています。「世の中に、こんな会社があったのか。この会社なら、安心だ」開会5分前には、参加者全員(当時は450人)が自主的に着席している。一糸乱れぬ大きな声で経営理念を唱和する。社長は、嘘もつがず、隠しごともせず方針を発表する。政策発表会にあるのは、すべて事実です。事実を丸見えにする「武蔵野」の姿勢が、好条件につながった。
門外不出!小山昇の“実践”銀行交渉用語集
粗利益売上から売上原価を引いた数字。100億円の売上で粗利益額15億円の会社と、30億円の売上で粗利益額20億円の会社では、後者のほうが実力は上。一行主義複数の銀行と取引すべき。都銀、地銀、信金、政府系など、バランスよく取引する。受取手形受取手形をもらったら、そのままじっと持っているのが正しい。そして期日がきたら銀行に回収してもらう。親の七光り1000万円程度は融資を受けられる。格付け銀行から見た会社の評価。「格付け」は銀行によって変わる。金利は、売上ではなく、その会社の格付けによって決まる。格付け7以下の会社が、3年連続125%以上の増収増益になると、資金ショートのおそれがある。貸し渋り貸出に慎重になること。金融機関が「本業以外」で被った損失を補うため、資金の貸出を抑えている。貸し剥がし銀行が、返済の滞ったことのない企業からも資金を強引に回収すること。「武蔵野」は、一行から4億3460万円もの貸し剥がしにあった。銀行訪問
社長の義務。3、4カ月に1度は定期的に銀行訪問する。良いことも、悪いことも包み隠さず報告する。定期的な報告こそ、銀行の信頼を得る最良のしくみである。金融庁中小企業の駆け込み寺。金融庁に相談するときは、あらかじめ銀行に断っておくのが礼儀。金利金利は経費。少々高くても「額を借りる」のが正解。金利を払っても、資金に余裕があり、事業に専念できるほうが正しい。経営計画書立派な会社をつくるための道具。会社のルールと目指すべき数字を明文化。金融機関にも配付し、銀行訪問時には数字を直接記入してもらう。経営計画発表会今期1年間の方針を発表する会。金融機関(支店長クラス)を招待する。社長は、社員の前で嘘をつけない。「経営計画書」「経営計画発表会」「社長と社員の姿勢」が担保代わりになる。経常利益経常利益の目標額は、適当に決めるのが正しい。決算書社長の通信簿。経常利益、収益力、売上高と経費のバランス、内部留保と資金繰りなど、会社の実態が数字で表されている。現金明るさの象徴。明るくて強い会社をつくるには、現金を持つこと。個人保証
社長の奥さんにまで個人保証をつけるのは、社長の離婚に備えて。小山昇飲む、打つ、買う、バンバンで五拍子揃った「株式会社武蔵野」のワンマン社長。キャバクラで遊ぶときは、Cカップ以下の女性しか呼ばない。「小山昇の実践経営塾」では、多くの中小企業を黒字に転換させている。サポート企業336社で倒産はゼロ。「嘘をつかない銀行交渉術」は、金融機関からも高く評価されている。資金運用に関する方針「武蔵野」の経営計画書に明記された、銀行交渉に関する方針。「武蔵野」の全従業員がこの方針を共有している。資金需要あらかじめ借入が必要だとわかっているなら、銀行訪問時に示唆しておく。自己資本比率銀行が自己資本比率を一定以上に保とうとして、中小企業に対する貸し渋り、貸し剥がしを行なうことがある。実質金利実際に支払うべき金利。ジッキン。借入金の金利が安くても、定期預金がごっそり入っていると、実質金利は高くなる。支店長支店長に嫌われたら、中小企業は倒産することも。融資先が倒産すれば「支店長の責任」になるので、業績の悪い会社には目を向けない。支払手形待ったがきかない。支払手形を出さなければ、会社は倒産しない。証書貸付は待ったがきく。信用保証協会付融資
企業の信用力が不足している場合に、銀行融資を信用保証協会が公的に保証してくれる。銀行はリスクのないように信用保証協会付で貸したいが、会社としては、プロパーで借りるのが基本。短期借入金銀行ははじめに「短期」で貸して、「この会社と末長くつき合えるか」を判断する。短期借入金は、賞与資金などに充てる。担保価値担保価値は、銀行によって異なる。都銀0.7倍、地銀1.5倍、第二地銀・信金2倍まで貸してくれる。長期借入金急な変化に対応できるため、経営が安定する。長期経営計画5年後に「売上倍増」を目指す。定期預金借入金の返済に定期預金を解約するのは、ダメな社長。定期預金があれば、一般的にその金額の2.5倍程度まで借りられる。「武蔵野」は最大4.3倍まで借りた。デフレ物価が下がり続けること。物価が下がると企業は減収となり、業績が悪化する。デフレーション。頭取銘柄ゴルフより、頭取に会うほうが100倍重要。頭取銘柄に選ばれると、その会社は「倒産しない」といわれる。飛び込み営業
追い返してはいけない。三顧の礼をもって迎え入れ、コーヒーやお茶をいれ、もてなす。ひととおり話を聞いたら、「提案書」をもらう。根抵当権抵当権と違って、返済が終了しても解除されない。B/S(貸借対照表)B/Sは現実。現実とは現金。B/Sを見ないで経営を行なうのは、鉄砲を持たないで戦争に行くようなもの。B/Sの勘定科目を意図的に変えれば、会社の格付けが上がる。「資産の部」は上位に、「負債および純資産の部」は下位に移動させる。P/L(損益計算書)1年間の業績をまとめて、「いくら儲かったか」、「いくら損をしたか」を知るための決算書。P/Lは見解。包括根保証社長は死ぬまで保証しなければならない。保証書の「現在および将来負担する」という文言が、包括根保証を意味する。無借金経営基本的にあり得ない。会社が一定の規模に成長するまでは、借入をする。メインバンクメインバンクの役割は、大きな投資に対応してくれること。「本社の近く」にある必要はない。メガバンク中小企業のことはそれなりにしか考えていない。モラトリアム債務の支払いを一定期間猶予させること。中小企業等金融円滑化法。猶予期間は銀行の収益が悪化するため、さらなる貸し渋りの原因になりかね
ない。融資担当者支店長や頭取の方針に従うサラリーマン。融通手形資金繰りに困った会社同士が手形を交換する超劇薬。不渡りになる危険性が高い。
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