対象範囲
高度1000メートルである「プロジェクト」のレベルで考えるべきなのは、「何を終わらせなければならないか」である。
「行動」の1つ上のレベルで把握するのは、私たちがやらなければならない多くの物理的行動を発生させている大元の部分である。私はこれらを「プロジェクト」と呼んでいる。
私の言う「プロジェクト」は一般に使われているのよりはずっと意味が広く、「望むべき結果」のうち、複数の行動が必要で、1年以内に達成すべきもののことだ。
当然ながら、これには「洗濯機を修理する」から「○○会社との契約をまとめる」に至るまで、さまざまなことが該当する。
私たちのこれまでの経験からすると、人生と仕事の全体を見渡せば、ほとんどの人はこのようなプロジェクトを常時30件から100件ほど抱えている。
これらは「小さな目標」と言ってもよいもので、それが完了したら、リストから消していくことができる。
プロジェクトのリストは少なくとも週に1度は見直すべきものであるため、その達成期限を「1年以内」と限定している。
その期間内にやるべきことなら、大きなものも小さなものも、少なくともこの頻度で見直していくべきだろう。
プロジェクトも目標と同じように、そのままでは実行できない。実行できるのは、それらを構成する行動ステップーー具体的で物理的な行動のみである。
適切な行動を積み重ねていけば、一定の結果が達成され、そこではじめてプロジェクトが「完了した」とみなすことができる。
「休暇を取る」や「確定申告をする」といった行動を、文字通りやっているところを見ることはできない。
実際に目にすることができるのは、服をカバンに詰め込んだり、日焼け止めを買ったり、目的地に移動したり、パソコンで申告書を作成したりといった作業である。
だが、一連の行動が終わってしまえば、「休暇を取った」「確定申告をした」と言える状態になるのだ。プロジェクトのキーワードとなる典型的な動詞を挙げてみよう。
- 仕上げる
- 実施する
- 調べる
- 発行する
- 配布する
- 極める
- 学ぶ
- 始める
- 組織する
- 作る
- 設計する
- 導入する
- 直す
- 提出する
- 対応する
- 解決する
自分がどんなプロジェクトをどれだけ抱えているかを知りたい人は、このチェックリストを眺めて、これらの動詞が当てはまるものをすべて洗い出すといい。
今仕上げないといけないことは何か、調べないといけないことは何か、直さないといけないものは何か、と考えてみよう。
管理の仕方
このレベルにあることを管理するには通常、抱えているプロジェクト全体を見渡すリストと、それらをレビューするときに必要な参照情報が必要になる。
プロジェクトをまとめるリストは、1行に1件、もしくは1ページに1件というかたちでまとめるといいだろう。後者はフアイルやバインダーで管理する場合に便利だ。
このリストの中身も人によつてはかなり異なったものになるだろう。
人によっては、小さめのプロジェクトと大きめのプロジェクトをいっしょに管理したり、プライベートのプロジェクトと仕事のプロジェクトをいつしょに管理することに抵抗を覚える人もいる。
ただし、生産性を高めていくためにはどちらも同じように管理し、一定の頻度で同じようにレビューしていく必要がある。
いつ、どのように取り組むか
このレベルでのレビューは、次のように進めていくといいだろう。
- ・週次レビュー毎週1〜2時間かけてすべてのプロジェクトを見直し、それらに対する認識を最新の状態に保つ。
- ・主要なプロジェクトにおいて「次にとるべき行動」があいまいになり、前に進んでいないと感じられたときにレビューする。
- ・短期的なことに関して優先順位の判断に自信が持てなくなったときにレビューする。
私が長年提唱してきた「週次レビュー」は、GTDを実践していくうえで極めて重要なポイントだ。
遅れた部分を取り戻すためのこの手順は、週末にやるのが理想的である(別の日にやりたければもちろんそれでもかまわない)。
週次レビューでは自分が抱えていることのすべてを明らかにし、それらを最新の状態に保つようにしよう。
そうすることで生産性を高め、創造性を発揮していけるようになる。
「すべてを明らかにする」とは、自分の整理システムとその中にあるべきものを把握し、その機能性を維持することだ。
「処理」と「整理」がまだできていない、身の回りや頭の中の「済んでいないこと」を集めるのである。
具体的には、メールをチェックしたり、カバンの中を片付けたり、こまごまとした領収書、メモ、付箋紙などを収集していく。
ポケットやベッドサイドテーブル、パソコンのデスクトップに放置されているようなものも集めていこう。
また、「最新の状態にする」とは、1週間のうちに行動とプロジェクトに関してズレが生じていないかチェックし、必要なら更新していく作業になる。
現代社会においては物事のペースが速く、すべてのプロジェクトの進捗状況と、次にとるべき行動を正確に把握しつづけるのが難しい。
私自身、週次レビューをやると、行動リストの中に、終わったにもかかわらず完了のチェックマークがついていないものが出てくる。
また、ここ数日のうちに対応すべき事態がいくつか生じていて、それらに対する具体的なプロジェクトがまだ見極められていないといったケースもある。
そして、プロジェクトリストが最新の状態になったら、それぞれのプロジエクトについての具体的な行動がシステムの適切な場所にあるかを確認しよう。
それらは通常、カレンダーか「次にとるべき行動」リストに収まっていくはずだ。
私が説明してきた通りのやり方で整理システムの適切な場所に適切なものを入れ、このレベルですべてをレビューすれば、優れたアイデアがたくさん浮かんでくる。
それらの多くは、別のやり方では思いつかないようなことだろう。
カレンダーをレビューしていて妻の誕生日を見つけたとき、その時期にやっている面白そうな演劇やパフオーマンスを調べてみよう、と思いつくかもしれない。
これは当日になってチケツトを探すよりもずっと賢いやり方だ。このレベルの視点で見渡す作業は、少なくとも7日に1度の頻度で行うのがいいようだ。
ただ、プロジェクトによってレビューすべき頻度が違うこともある。
月曜に大きなプロジェクトを引き継ぎ金曜に完了しなければならないようなケースもあるだろうし、「9ヵ月後の連体の予定を立てる」といったプロジエクトのように数週間放置しておいても大丈夫なものもあるかもしれない。
あなたが抱えているプロジェクトに応じて、柔軟にレビューする頻度を変えてもらいたい。
また、このレベルでの「見通し」作業においては、プロジエクトの棚卸しだけではなく、やや上の次元で全体を評価していく作業も必要だ。
これはスポーツで言うなら、タイムを取ってそれからの試合運びを考えるのに似ている。
日常の作業からしばし離れてじっくり考えることで、それらの作業の管理状態を回復することができる。
高度1000メートルより高いレベルのレビューをやると、全体的な安心感が高まって方向性がはっきりしてくる。
一方、より日々の仕事に近いこのレベルでのレビューは、正気を保つのに欠かせない作業だ。ここを見渡すことで、あなたは仕事の忙しさから一時的に距離を置くことができる。
しかも、象牙の塔のように離れすぎることもなく、見張り台の高さから戦術レベルで重要なチェツク作業ができるのだ。
プロジェクトレベルの思考に宿るパワー
プロジェクトとそれに伴なう行動やスケジュールを毎週見直していくと、あなたの意識からあいまいな部分が少なくなり、本来あるべき状態に最適化されていく感覚を覚えることだろう。
この状態を達成できれば、高度な判断力をもって直感的に意思決定を行なっていくことができるようにもなる。
私はよく、冗談まじりに「私が考えるのは週に1度だけ」などと言っているが、これはある意味本当のことだ。
週次レビューでは、それなりに集中して本当に必要な思考を行わなければならない。
これは、何日かおきに必ずやらなければならないことだ。哲学者のホワイトヘッドはこんなことを言っている。
「思考は騎兵隊の突撃に似ている―‐回数に厳しい制約があるうえ、元気な馬を用意して、決定的なタイミングを見極めて行わなければならない」。
実際に行動しているときに、すべての行動がどうあるべきかを考えるのは合理的ではない。そういうことは先に考えておかなければならない。
行動の1つ上のこのレベルに定期的に目を向けて地ならしをしておかないと、周囲のことに高度な判断力をもって対応していくことはできないのだ。
この原則の重要性を改めてまざまざと思い出させてくれた人物がいる。私自身が数力月間指導を受けたビジネスコーチだ。
元々スーパーボウルのチームに在籍していた彼は、GTDがアメフトに似ていると言っていた。アメフトでは、フィールドに出てホイッスルが鳴ると、もう考えているヒマはない。
試合までの6日間で、しっかり考え、戦略を練り、プランを立て、準備を整えて、あとは試合で直感的に正しい動きができることを祈るだけだ。
そう言われると、確かにプロスポーツでは、選手がほとんどの時間を準備に費やしている。
一方、会社や家庭で、1週間のうち1時間でも2時間でもそのように行動を作戦レベルで見直したり考えたりしている人は、ほとんどいないGTDの大フアンで、部下全員に『はじめてのGTD』を配っているという空軍の将校がいる。
彼はその理由について、「状況認識」能力が高まるからだと言っていた。この能力は、戦闘機のパイロットにとつて極めて重要である。
彼らはマッハのスピードで飛行しているときに飛び込んでくる膨大な量の情報を直観的に統合し、生死に関わる判断を瞬時に下していかなければならない。
この将校は、週次レビューの真の威力を知ったあと(それにはしばらく時間がかかつたそうだ)、部下全員に状況報告書を毎週提出させるようにしたという。
そうすることで、彼らは必然的に週次レビューをやることになるからだ。
このような例は枚挙にいとまがない。
毎週の会議の冒頭に1時間、静かに考える時間を設け、現状を徹底的にチエツクして最新の状態に更新し、全員でその情報を共有するようにした部長クラスの人物を、私たちは何人も知っている。
上司が部下たちにプロジエクトリストの管理法を指導し、定期的にレビューさせてお互いのノルマや責任を調整させるようにしたところ、ストレスがぐっと軽減されたというケースも多い。
ある大手小売企業は、私たちのセミナーの終わりに、警察が現場確保に使う黄色いテープを参加者全員に配っている。
私たちはよく「オープンオフィスで働く人たちが週次レビューをするときは、自分のスペースの周りに立ち入り禁止テープを貼ったほうがいい」とふざけて言っているが、この会社はそれを実行しているというわけだ。
この企業においてこの黄色いテープは、レビューのために随時仕事を離れてもよいという同社の方針を伝える、象徴的な存在となっている。
また、このレベルを最適な状態に保っていると、仕事の引き継ぎがスムーズに行えるようにもなる。
フォーチュン50社に名を連ねる企業のある上級幹部のポストが変更になり、それまでの仕事を面識のない人に引き継がせることになった。
ところが会ってみると、お互いにGTDのトレーニングを受けていたことがわかり、すでに2人とも最新のプロジェクトリストと詳細な協議事項のリストを準備してあった。
そのおかげで、引き継ぎは極めてスムーズに完了した。
他の人とこれほど生産的な関わり方をしたのは初めてだったとその2人に教えてもらつた。自分が抱えている「やるべきこと」を1つ上の視点から眺めることは、人生にとつても大いに役立つ。
そのことを教えてくれるもう1つの例が、家族での週次レビューだ。
結婚相手や子どもと1週間の出来事を報告し合い、お互いのやるべきことやプロジェクトの全体像をきちんと把握してみよう。
お互いのカレンダーを見比べて短期的な予定を確認し、いっしょにプランを立て、決断を下していこう。これらを実践していけば、人生が驚くほど変わっていくはずだ。
生産性に関して、仕事とプライベート、個人と会社といつた区別をする必要はまったくない。
人生とは仕事であり、仕事は人生の一部だ。会社でやっていることも個人として関わっていることである。
確かに、夫や妻が仕事に出れば、夫婦は離ればなれになる。
片方が工場で長時間汗水流して働き、片方が家で面倒な家事に追われて1日が終われば、2人ともお互いの状況を確認し、それらに対する認識を最新に保つためのエネルギーはほとんど残つていないだろう。
ほとんどの夫婦は今でもそういう状況にあるはずだ。彼らは週の大半において、1日の大部分を別々の世界で過ごしている。
だが、GTDを使って週末にレビューを行うようにすれば、同じ認識でもって日々の生活を送っていくことができる。
私たちは先日、ラテンアメリカに招かれて実業家限定のセミナーを開いた。ところが、先見の明からか豪胆な性格ゆえか、会場には奥さんたちも招かれていた。
セミナーが終わるころには彼女たちもプロジェクトリストを共有し、今後もいつしょにさまざまなプロジエクトに取り組んでいくというスケジュールを組んでいた。
現実に対する認識が新たになり、大切な人たちとより高度なコミュニケーションが取れるようになった参加者たちは、みな一様に興奮していた。
子どもに「今日は何をしたの」と尋ねてもまともに答えが返ってこないと嘆いている親は、自分たちのことを振り返ってみよう。
たとえ身近な人間であつても、それなりの準備がなければ、自分の世界に起こったことすべてを伝えていくのは簡単なことではないのだ。
行動の1つ上の1000メートルの高さは、目標に比べてより戦術的な側面を持つ作戦レベルの視点だが、ほとんどの人はシステマチツクなやり方でここに注意を向けてはいない。
目標や長期的な展望を考えなくては、という人は多いが、1週間から数ヵ月のうちに起こることを定期的に考え、見通しをクリアにする作業は、なぜか誰もやりたがらないようだ。
このレベルで見直しをする習慣が当たり前になると、仕事というゲームと人生というビジネスにおいて、長期にわたって安心感を持続し、生産的な思考をしていけるようになる。
私の知る限り、そのような目的をこれ以上うまく達成できる習慣は他にはない。
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