最後に、中小企業というのは、社長の考え如何によって立派な社風ができる、すると、細かい指示はなくても、会社独特の素晴らしい成果が上がるようになるということを、心に留めておいて欲しいのだ。
社長の一挙手一投足が社風を作るということは、疑いもない事実である。部下は社長の一挙手一投足を、驚くほどよく見ているものだ。よその会社に電話して、部下の方が社長と同じような話し方をするのに驚くことがある。皆さんもご経験のはずだ。社長のちょっとしたしぐさや話し方の癖までまねるのが、部下なのである。
同族企業では多い例だが、なにもしない社長の奥さんに、朝から夜遅くまで一所懸命働いてくれる人の何倍もの金額を給料として出したり、個人のお歳暮を会社の費用でとか、子供の車を会社の経費で、という公私混同の例は枚挙にいとまがないほどだ。
極端な例では、社長の家族が契約デパートヘ行って日用品や食料品から衣服、宝飾品に至るまで好きなものをツケで買って、会社が商品券の形でその経費を落とすということが実際にあったのには驚いてしまう。その会社で働く社員は哀れというべきだろう。
これがそのまま社風になったらとんでもないことになる。社長がやるなら私もオレもで、あそこはちょっと問題だね、などと得意先や仕入れ先の噂になるようでは、まさに先行きが思いやられる。こんな会社では、いくら社長が経営ビジョンを発表しても、白けきった社員の本当の協力は得られない。結局、社長のわがまま勝手の面倒見は真っ平ごめんということになりかねない。
もし読者の会社の社風がすばらしいと、外部からの評判であれば、社長は今の行き方を自信をもって、進めていただきたい。しかし、ちょっと気になるような評判を耳にするようなことがあったら、その原因は社長自らがおつくりになっていると自覚してほしいものだ。
すなわち、社長の器、あるいは社長の人格が、社格を決めると言っても過言ではないということである。
ところで生前、親父から、こういう話をされたことがある。
「いいか、音の剣術は、今、剣道として残っている。昔の柔術は、今、柔道として残っている。弓術も弓道として残っている。それではなぜ、忍術というものが忍道として残らずに、廃れていったのかを考えてみるとよい。
剣術も柔道も弓道も、現在に至るまで残っているものはすべて、達人と呼ばれる人たちのたゆまぬ精進によって、人の道に通じるところまで切磋琢磨されたからだ。
一方の忍術だけが、邪の心に支配されて、人の心にまで磨き上げることができなかった。それゆえ、忍術は忍道にまで昇華できず、いま廃れているのだ。
経営も同じである。社長が、経営というものを単なるカネ儲けのツールと捉えていたら、会社を永続させることは到底できない。
経営を術と捉えてテクニックに溺れる、ということなく、人の道に反することのないよう社会のため、従業員のためと、あらゆる人の道に通じるよう、いわば経営道を自らのなかで築くことができれば、会社というのは自ずと良いものになっていく。
だから、スター精密という会社を率いていく以上、我々は常に人格を高め、経営道を極めていく努力を怠ってはならない」ずい分昔に言われた言葉だが、この教えは親父の残してくれた50の定石とともに、いつも私の胸のなかにある。
これまで述べてきたとおり、経営の定石というのはどれも非常に地道で、ある意味平凡なことばかりだ。しかし、この地味で平凡なことを徹底的に実行できるかどうか、愚直に守り抜くことができるかどうかが、これからの厳しい経営環境を勝ち抜く要諦と私は捉えている。
だからこそ、たとえ地味であっても、これが経営道に通じる確かな布石と信じる限り、定石を大事に経営していこうと心に決めているのだ。
著者 佐藤肇(さとうはじめ)氏について
スター精密帥代表取締役会長。
1975年、学習院大学経済学部卒業後、父(故)佐藤誠一が裸一貫で創業したスター精密に入社、父とともに、典型的な中小企業だった同社を、東証一部上場の小型音響部品・工作機械等の世界的トップメーカーに育て上げる。
氏は父から受け継いだ経営ノウハウを、「佐藤式先読み経営」としてさらに進化させ、徹底して実践。その結果、アメリカのサブプライムローン問題に端を発した現在の世界的大不況で、多くの企業が大幅な減収減益にあえぐ中、同社は経常利益率20%、総資本利益率12%、自己資本比率81%という、抜群の収益率と高い健全性を誇っている。
また、激務の傍ら、地元静岡の若手経営者60余名から成る「佐藤塾」をはじめ、日本経営合理化協会主催の「長期経営計画作成ゼミ」「経営数字マスターゼミ」を主宰。第一線で活躍する実務家ならではの実践論に裏付けられた指導で、製造・流通・サービス・建設・小売…と様々な業種業態の中小企業経営者に自らの経営ノウハウを伝授。現役の東証一部上場企業経営者から直接指導を受けられる稀有なセミナーとして、毎回キャンセル待ちが出るほどの人気を博している。2017年、社長を退き会長に就任、現在に至る。
1951年生まれ。著書に『佐藤式先読み経営』『社員の給料は上げるが総人件費は増やさない経営』(ともに日本経営合理化協会刊)など。
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