私が入社した当時のスター精密は年商25億円で、社員も100名程度の典型的な中小企業であった。
それから約40年で、国内だけで従業員は800名まで増えた。従業員が200名、300名と増えて会社が大きくなっていくなかで、私が肌で感じたことは、中小企業の強みは、何といっても「経営の和」による社長と社員の一致団結から生まれるということであった。
だから、中小企業の社長は「経営の和を創るヒト」、それも名人でなければならない。経営の和があればこそ、資本力も組織力もない中小企業が大企業に対抗できるような力を発揮することができる。もちろん、ここでいう「経営の和」とは、「人の和」などといった仲良しクラブ的な軟弱な考え方ではなく、はっきりとした目的意識をもって、 一つの方向性を具体的に示す戦力のことだ。
要するに、「社長の夢が社員の夢、社員の夢が社長の夢」というぐらい密に、社長と社員が互いにコミュニケーションを取り合うことで経営の和は強まる。常に社長が「こういう会社にしたい」という青写真を示しながら社員に語りかけ、社員も「そうですね、頑張りましょう」と呼応するからこそ、強力な力が生まれるのだ。
ここで一つ申し上げておきたいのは、経営の和の源泉となるのは「社長への社員の信頼感」である。すなわち、「この社長のもとで働いていれば一生安心だ」という信頼感があるからこそ、社員は人生を掛けて会社の発展に尽力してくれるのであり、この信頼感に、雇用の安定と給与の保障という形で具体的に報いてやることが、社員の力を最大に発揮させる要因となるのだ。
ゆえに、創業まもない頃ならともかく、10年も20年も「いまは十分な給料を払ってやれないが、儲かったらうんと上げてやる、悪いようにはしないからな」と言い続けて、「良くなっていない」とすれば、社長として社員に対する責任を放棄しているのと同じだ。
何年たっても給料は安いまま、労働条件もキツいままでは、「口では調子のいいことばかり言うが、信用できない」ということになる。毎年、社員の生活水準がわずかでも確実に向上していかないと、社長と社員の団結力にヒビが入り、信頼感も失せてしまう。
手前味噌になるが、我が社だってわずか社員6名、掘っ立て小屋の町工場からスタートし、その創業期には隣の息子さえ就職しなかった有様だ。しかし、零細企業がいつの間にか上場し、やがて世界を舞台に活躍できるまでに成長できたのは、社員になんとか報いてやりたいという社長の思いと、それを感じ取ってくれた社員との「経営の和」がもたらす、社員の高いモチベーションがあったからに外ならない。
前にも書いたと思うが、スター精密には労働組合があるが、労働闘争が起こったことは、これまでただの一度もない。労使共通の目標ということで、「企業は永遠に発展する。社員の生活はたゆまず向上する」というスローガンをつくり、「安月給も労働条件の悪さも我慢しよう。社長と夢を共有しよう」と、積極的に協力してくれた。もちろん、このスローガンは創業60年を超えた今でも、我が社の理念の大切な一つとして根付いている。
正直に言って、当時の給与水準は、同一地域でかなり低かった。しかし、「社長として、君たちの生活向上を考え、給与の改善に本気で努力するから、君たちも努力して欲しい」という呼びかけに社員が呼応する形で、業績も給与も共に一歩一歩引き上げてきた。
古い話だが、石油ショックの時に日本の物価は36%も上がった。その時も、スローガン通りに36・5%のベースアップを歯を食いしばって実行した。社員の生活は「たゆまず」向上すると約束したからだ。そして「スローガンを守るかわりに、みんなも一生懸命に頑張って欲しい」と訴えることによって、何度も難局をくぐり抜けてきたのである。改めていうと、労使が共通の夢に向かって一九となり、少ない人数で儲けを多く分配する、
これが中小企業経営の醍醐味であり、社長にとっての理想郷だと思う。とすれば、社長が社長としての役割を果たすことが、会社の永続繁栄のキメ手になる。社員に対して、立派な社長と言われるような役割をきちんと果たすことが、会社の発展の原動力となるということだ。
そして、役割を果たすことで心から尊敬され、尊敬されるから人生をかけて協力してくれる。それが最善の経営であり、自らの社長人生を豊かなものにする、最高の生き方だと私は思うのである。
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