これまでのまとめとして、絶対に守るべき経営指標を10に厳選し、その理由を挙げてお
皆さんが守るべき指標は、これから挙げる10個で十分である。これ以外に必要ないと言ってもよい。 一般の経営書に出てくるような、ROEやらROIやらのアルファベットで3文字程度の用語など、中小企業にはまったく必要ないのだ。
ただし、この10の指標だけは絶対にクリアして欲しい。これをクリアしない限り、会社は絶対に良くならないからだ。よく、人間の病気のなかで虫歯は自然治癒力ではどうにもならないから、放置していると悪化するばかりだと言われるが、この10の経営指標もいわば虫歯のようなものだ。皮膚が切れて血が出ても、人間のカラダは自然治癒力で治してしまうが、虫歯は治らない。
同様に、たった10であるが、この指標を守らずに売上規模拡大に走っても、会社が伸びることは絶対にない。たとえあったとしても、それは一時の繁栄をもたらすだけである。それが第55表の指標である。
《収益性分析》
①ROA
会社が儲かる体質かどうかの指標である。判定値は20年国債の利回りを超えているかどうかだ。
②総資本回転率
いかに効率よく資本を回転させたかの指標である。ROAを向上させるためには、総資本を圧縮して、回転率を上げるやり方がこれからの低成長時代には向いている。
③健全性分析
不測の事態が起きても潰れない体質にするための指標である。
指標は、流動比率、当座比率、現金比率の3つをクリアするのがベストであるが、合格ラインとしては、この中で最も重要な当座比率を含めて2つが基準値をクリアしていればよい。判定値は、流動比率120〜150%、当座比率70〜100%、現金比率30〜50%である。
《生産性分析》
④労働生産性
少ない人数でいかに生産性を高めていくか、 一人あたりどのくらいの付加価値を生み出しているかという指標である。この労働生産性の向上なくして、企業の発展も社員の待遇改善もありえない。
ところで、なぜ生産性の分析指標が絶対に守らなければならない10の指標に入っているかというと、収益性を上げるためには、生産性の向上が不可欠だからである。言い換えれば、収益性が高い会社ほど、非常に効率の良い生産性の高い会社ともいえる。そういう意味で、生産性の指標を入れてあるのだ。
それと、通常の企業分析では、収益性と健全性の分析のほかに、成長性の分析をやるのが主である。しかし、成長性の分析はあえてこの10の指標からは外してある。なぜなら前にも述べたとおり、現在は第一に健全性、二番目に収益性、成長性は最後だからである。
これはバブルの頃と真逆の順位だ。大体、バブル期までは成長性ありきだった。成長性を高めれば収益性も健全性もカバーできたから、毎年売上が伸び、社員が増える会社が良い会社と評価された。
しかし、今はまず会社を潰さないことを念頭に置くべきだ。これからの時代、企業の突然死は十分にありえる。だから、とにかく倒産の最大要因となる借金を減らして健全度を高めることを、第一に考えて経営して欲しい。するとB/Sがスリムで筋肉質になり、総資本回転率が上がる。このやり方で健全度を高めれば、同時に収益性も上がってくるのだ。
さて、話を生産性の指標に戻すが、労働生産性指標の判定値は、以下の4つである。
・製造業で、臨時社員が全従業員の50%以下の場合、労働生産性は1,000万円以上
・製造業で、臨時社員が全従業員の50%以上の場合、労働生産性は800万円以上
。非製造業で、臨時社員が全従業員の50%以下の場合、労働生産性は800万円以上
・非製造業で、臨時社員が全従業員の50%以上の場合、労働生産性は600万円以上
この指標の意味は、コストの安い臨時社員が少ない会社は、臨時社員の多い会社よりも一人当たりの儲け(付加価値)が大きくないといけないし、設備投資費用の大きい製造業はその設備機械を使用することで、非製造業の会社よりも一人当たりの儲けが大きくないといけないという意味である。したがって、自社の業種や社員構成に合わせて、合格ラインかどうかを判定して欲しい。
⑤設備生産性
設備一円あたり、土地を除く償却資産一円あたり、いくら稼ぐかの指標である。すなわち、100万円の設備投資をして、100万円付加価値が稼げない設備には投資してはいけないということだ。
ここで一つ補足すると、なぜ設備生産性を労働生産性と合わせて10の指標に選んだかといえば、労働生産性の向上は、設備生産性の向上によるものでなければならないからだ。
理由は「設備投資の定石」で詳述しているので簡略するが、要するに労働生産性は「設備生産性」と「労働装備高」との積であると申し上げれば、理解が早いと思う。
労働装備高というのは、社員がどれだけの設備を装備しているかの指標だ。すなわち装備高を高めれば、当然、生産性の向上に役立つことはいうまでもない。つまり、戦争をするのに兵隊が竹やりで戦うのと、ピストルや戦車などで重装備するのとでは、重装備した方が勝つに決まっているということだ。
しかし、労働装備高を年々上げることは、収益性の面からも健全性の面からもあまり望ましいことではない。なぜなら、固定資産がどんどん大きくなると、その分リスクも高くなるからだ。よって、これからの時代はとくに、労働装備高は横ばい、あるいは微減で推移し続けるようにコントロールすべきである。
それよりも、もう一方の設備生産性を高めて労働生産性を上げることの方が望ましい方法だ。そういう理由で、この設備生産性が合格ラインかどうかを、必ずチェックして欲しいのだ。
《資金調達分析》
⑥金融調達
企業の資金調達の健全度を表す指標で、金融調達が30%以上は不合格である。ちなみに、現在の日本の企業の平均も30%である。89年のバブル最盛期は40%だった。しかし、金融調達が40%、50%になると、付加価値の7%も8%も金融費を払わなければならなくなる。
日本の金利はこれ以上は下がらないところまできている。震災からの復興の状況など、いろいろ要因はあるが、今後間違いなく金利は上がっていく。そうなると、金融費が2倍、3倍になるのはあっという間だ。
そう考えると、金融調達が30%ある会社というのは、会社の規模によって若千は変わるが、だいたい営業利益の1割、2割を金融費でもっていかれてしまう。規模が小さな会社ならば、3割以上が利息の支払いになることもあるだろう。
社員が汗水たらして一所懸命稼いでくれた営業利益を3割も4割も銀行に支払うのは、社長として心が痛むだろう。いや、痛まなければ嘘である。社員は銀行に利息を払うために働いているのではない。よって、社長は何としてでも借入依存の体質から脱却しなければならないのだ。
《運転資金分析》
⑦売掛債権の回収率と買掛債務の支払率
日々の決済の回収と支払いに一カ月の差をつけるという指標である。先ほど述べた借金依存からの脱却というのは、この運転資金のコントロールにかかっている。よって、運転資金を効率よく回すには、とにかく運転資金の「入り」を「出」よりも1カ月早めることが重要だ。
最低でも1カ月の資金余裕ができれば、カネ回りは格段にラクになる。つまり、売掛債権の回収を買掛債務の支払いよりも1カ月早める目標を立てればよいのである。いま、短期の借入金で運転資金を賄っている会社はおしなべて、モノを売っても回収にはルーズで、しかも仕入れたものにはしっかり律儀に支払うような、のんきとしか言いようのない商売をしているはずだ。
③在庫回転率
在庫が月間付加価値の何力月分あるかの指標である。
いまのようなデフレの時代はとくに、過剰在庫が経営の命取りになる。しかし、そう言うと「でも先生、在庫がないと販売機会を損失してしまいます」と不安がる社長が未だに多い。しかし、品切れして倒産する会社はない。在庫が多くて運転資金がショートして、倒産する会社は星の数ほどあるが、その逆はない。
したがって、在庫は極限まで減らす。もちろん、理想は在庫ゼロであるが、残念ながら在庫ゼロというのは普通の商売をしていたら有り得ない。そこで現実的な目標として、在庫は付加価値の4カ月以内まで減らしなさいということだ。
それでも、在庫の削減というのは、社長が強い意思をもって全社共通の目標値を掲げて取り組まない限り、なかなかうまくいかない。よくある例だが、たとえばメーカーの場合、営業部門はお客様からの注文が入ったらすぐにでも納品したいから、在庫を持ちたがる。 一方の製造部門も、営業サイドから欠品のクレームをつけられたくないから多く造りたがる。同様に、資材の調達部も現場が欠品になるのを恐れて多く買う。
そうすると、全セクションでそれぞれ在庫過多が起こるから、在庫のコントロールというのは、本当に全社が一九にならないと成功しないのだ。
とくに製造部だ、品質管理部だ、調達部だと組織がやたら分かれている会社、あるいは営業拠点を多くもっている会社ほど在庫過多の悩みが深いと思う。私の問下生のなかにも、静岡の沼津、静岡、藤枝、浜松に合計で物流の拠点を6カ所ももっている商社の社長がいるが、あまりに在庫が適正値をオーバーしているので、私のアドバイスでこれを4カ所まで減らさせた。
商社にとって営業所の数が多いほどステイタスが高いというか、4カ所よりも6カ所の方が立派な会社に見えるという社長の気持ちもわからないではなかったが、立派な東名高速が走っている静岡で、どう考えても営業所は6つも必要ないと説いて、結局4つまで減らさせたのだ。
大手でさえ、営業所の統廃合、あるいは物流センターそのものをなくしてしまって、アウトソーシングに切り替えたりする時代である。中小企業が見栄で5つも6つも拠点をもっていたら、とても生き残ってはいけないのだ。
したがって、在庫の削減というのは、営業所の閉鎖や部署の統廃合など、ドラスティックな改革も辞さないという、社長の強い意思が必要なのである。
《付加価値配分分析》
⑨内部留保比率
⑩営業経費比率
この2つは対になる指標で、内部留保を付加価値の5%は最低でも確保しなければならない。そして、内部留保5%を確保するためには、営業経費を付加価値の87%に抑えなければならない、という指標である。
内部留保とは、売上高から原価以下、様々な経費を差し引いて、最終的に会社に残る利益であり、 一般的なP/Lの税引後利益から、株主への配当や役員賞与など社外流出を除いたものである。そして、毎期の内部留保が「諸積立金」という勘定科目としてB/Sの自己資本の部にどんどん蓄積されていくのだ。
いかなる環境になっても、健全性と収益性を維持しながら経営するためには、少ない原資で確実に利益を出し、その利益を内部留保に回して、しっかりと自己資本を増やす。これが企業経営の本質と述べたが、要するに内部留保というのは個人における貯金と同じで、皆さんが家庭で毎月の収入から将来のために貯金をするように、企業もまた設備投資、あるいは天災や事故など予期せぬ事態に備えた蓄積というものを計画的に行わなければならない。そして、これまで20年近く様々な会社の決算書を見て指導してきた私の経験から、この内部留保を付加価値(売上総利益)のだいたい5%確保できる企業体質であれば、将来の倒産の危険は少ないものと判断している。
そして、内部留保率5%を確保する経費構造には定石があって、だいたい営業経費を付加価値全体の87%未満にとどめる体勢を築けば達成できる。もちろん内部留保の源泉である付加価値を高められればよいが、これからの時代は企業の生み出す付加価値率が上がることはないと、厳しめに見通しておいた方が賢明であろう。
ゆえに、そのなかで確実に内部留保を確保していくには、やはり経費を定石の比率に収めるしかない。すなわち、営業経費比率を常に87%未満にコントロールしていれば、無理な売上拡大に走らずとも、確実に5%、10%の内部留保を確保できるのだということをご理解いただきたいのだ。
さて、いかがであろう。上場企業はIRの関係でいろいろ複雑な指標を発表しなければならないが、非上場の中小企業の社長が押さえるべき経営指標はこの10でよい。これ以外は必要ない。いずれも、足し算、引き算、掛け算、割り算のみで計算できる。難しい横文字も出てこないし、経済の専門知識も必要ない。
本書で定石の一つに「経営を難しくしてはならない」というのを挙げたが、とにかく、この10の指標を自社がクリアしているのかを分析してみていただきたい。もちろん分析は過去3期分するように。1期だけでなく、3期分の過去分析をする理由は、言うまでもなく、自社のトレンドを把握するためである。たとえば、直前期に在庫回転率が合格ラインの付加価値4カ月以内だとしても、過去3年において、数値が上昇しているようなら、それは経営状態が悪化しているということだ。そのまま放置していれば、近い将来、必ず基準値を下回るだろう。
そして、悪い部分を直していくのだ。すなわち、「会社の良いところを伸ばし、悪いところを直す、この繰り返しで会社は必ず良くなる」というのも既に述べた定石の一つだ。ただし、1年や2年で急激に改善しようとしてはならない。たとえば在庫が付加価値の9力月分も10カ月分もある会社が、翌年に半分に減らせるかといえばそれは無理である。現場が混乱して疲弊するだけだ。よって、毎年2日分でも3日分でもという執念をもって、全社で在庫を減らす社風を育んでいけばよい。
ところで、採点の結果、8点以上の会社はおられるだろうか。8つ以上の指標が判定値をクリアしていれば一応の合格ラインであるが、じつはこれら10の指標というのは全て相関関係にあるから、1つの指標が非常に良い会社というのは大抵ほかの指標もクリアしていることが多く、逆に1つがダメな会社は、それが他に悪い影響を与えて、すべての指標をクリアできないことが多い。ということは、別の言い方をすれば1つを直していけば、自然と2つ、3つと良くなるということだ。たとえば、在庫を減らせばその分の資金調達が減るから借金を返せる。すると金融調達が減って金融費が減るから、税引前利益が増える。すなわち、在庫の削減で総資本が減って、金融費の減少で税引前利益が増えれば、ROAが向上する…。
このようにすべて繋がっているのが、10の経営指標なのだ。よって、この10の指標をクリアする財務体質を築く、これを絶対に会社を潰さない定石として必ず実行していただきたい
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