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定石44:総資本収益率は国債利回り以上、総資本回転率は一回転以上、この2つの基準を満たす経営がこれからの中小企業にとって最善の方法である

会社の収益向上について、B/Sのどこに注目すれば経営の方向性がみえてくるか、これについて述べたい。会社の収益性・事業の効率は、B/Sの総資本の合計額で、税引前利益を割ってみればいい。

これは、「自社の元手を使って、どれだけの利益を生み出したか」という収益性を判断する指標であり、「総資本利益率」(ROA=”①言ヨo●>∽∽①一)と呼ばれている。そもそも、何のために会社を経営するのか、何を目的に利益を上げるのか、などといったことを抜きにすれば、これが最もシンプルにとらえた経営の姿であり、経営の原点とも言える。当然、少ない元手で多く儲けられる方が経営者として優秀である。

ちなみに、ROAについては本書の序で、我が社のV字回復の軌跡を述べたときに簡単に触れたが、ROAの向上というのが、佐藤式経営の定石における「会社の体質を儲かる体質に方向づけ、同時に絶対に潰れない体質に育てる」という収益性と健全性の2大テーマの一つであるため、説明を割愛することなく、さらに詳述していく。

まずは読者の皆さんも過去5年分の自社のROAを算出し、自社の儲ける実力の程をチェックしていただきたい。そして、計算の結果、自社のROAが日本の長期国債の利回りを下回っていたら、言い方は悪いが、社長の経営能力は家庭の主婦以下だと大いに反省すべきである。

なぜなら、国債といえば、日本が破綻しない限り元本と利回りが保証されている、いわば日本で一番安全な金融商品である。たとえは悪いが、家庭の主婦でもヘソクリで20年国債を買えば、確実に2%の金利は稼げる。

まして、事業というものは、会社という看板を背負い、土地や工場を使い、大勢の人を使い、資本家や銀行など多くの協力を得て行うものである。その結果が「ROAが国債金利以下」だとすれば、その社長の経営能力は家庭の主婦以下といっても過言ではなく、経営者として恥ずかしいことである。事業を展開する意味があると言えるだろうか。

もし、自社のROAが国債の利回り以下だったら、会社を処分して残ったお金で20年国債を買えばよろしい。そうすれば、何もしないで寝ていても今より儲かるのだから、その方がよっぽどマシであろう。したがって、ROAは、せめて長期国債の利回り以上、これは業種。業界に関わりなく、どの企業にも共通する経営の最低合格ラインと心得て欲しい。経営に逃げ道はない。不況だ、好況だ、儲かる、儲からないと抽象的なことを言っている

暇に、まず自社のB/SからROAを弾き出してみることだ。もしもそれが銀行金利に満たなければ社長業をやめて、銀行に資金を預けた方がいい。簡単といえばこれが最も簡単な経営の原則ではないだろうか。

すなわち、ROAというのは、企業としての存在価値と、社長の経営力が問われるひとつの大事なチェックポイントなのである。

ところで、ROAを上げるにはどうすればよいのか。自社の何が、経営効率を悪くしているのかを見るために、ROAを分解してみる。するとROAは、税引前利益を売上高で割った「売上高利益率」と売上高を総資本で割った「総資本回転率」の積だということがわかる。前にも載せた図であるが、もう一度、第50表をご覧いただきたい。

ROAを上げるためには、税引前利益を上げて売上高利益率を高めるか、総資本一単位あたりの売上を多くして総資本回転率を高めるか、あるいは両方高めるかの3パターンということになる。

なにやら難しげな専門用語ばかりだか、要するに、経営とは「利幅を増やすか、または調達した資金を効率よく使うか、あるいはその両方をすれば儲かる」ということである。

そして方法論でいけば、売上高利益率を高めるよりも、総資本回転率を高める努力の方がはるかに楽だということに気づかれるはずだ。

もちろん、利幅を増やして売上高利益率を上げる努力は重要だ。これまで何度も強調してきたことだが、高付加価値を目指して将来の方向づけをすることが大事なのは言うまでもない。時の流れを読んで良くなるものを増やし、悪くなるものを除く。この当たり前のことが最も重要である。

もちろん多くの読者にとって、このことは十分に心得ているはずだ。

商品、サービス、マーケットの絶え間ない強化によって、次の主力となる事業や商品を追加し、新たな成長マーケットヘ進出することは、事業のまさに原点だ。高付加価値のとれるものを求めて、あらゆるツテを使い、試行錯誤を重ね、何としてでも売上を伸ばす策を講じ、利幅を広げる商品やマーケットを開拓しなければ、会社の将来はない。

しかし、そうそう簡単にうまくいくことではないこともまた事実である。したがって、利幅のとれるものが容易に見つかることを前提に、3年先、5年先の経営計画を立てるわけにすなわち、新たな方向づけが功を奏して大幅な利益率の改善を実際に見るまでは、利幅、すなわち付加価値率は年々減っていくものと考えるべきである。そして、もしも予想よりも早く利幅のとれる商品やマーケットが手に入れば、そのときに改めて、さらにその分大きく儲かるような計画を立て直すべきである。それが現実的な考え方であり、社長としての取るべき姿勢だ。

そうなると、総資本の回転率を上げることが、儲かる体質づくりの重要な実務着眼点ということになる。というのも、総資本回転率を高めるには、分子の売上高を伸ばさなくても、分母の総資本を小さくすればいいからだ。

売上を上げる努力は取引相手あってのことだが、自社の資産を減らす努力は、社長が自らコントロールできる要素が多く、無駄な在庫、設備、土地、建物、売掛金、これらを減らせば、回転率は向上する。分母の総資本が大きくなれば効率は悪くなり、分母が小さくなれば良くなる。経営とは、たったこれだけの単純な仕組みで、良くも悪くも決定してしまうのである。

ところで、総資本回転率の合格ラインは1回転以上とみて欲しい。つまり、総資本よりも売上高が多くなければいけない。現在、日本の企業の平均は0・88である。これは上場企業を含む数値であるが、上場企業は1回転することがなかなか難しい。なぜなら、売上高の大きい会社というのは、在庫も、従業員も、設備や土地・建物も多く抱えなければならないから、総資本が必然的に膨張するのである。

じつは、我が社も総資本回転率は1回転していない。ただ、スター精密の場合は、当期利益がどんどん溜まって、それがB/Sを大きくしてしまっているからだ。私は売上規模を拡大して利益を増やすという発想は持たないから、総資本回転率の分子である売上高はそのままで、利益が増える分、左側の現預金がどんどん増えてしまうために、分母の総資本が大きくなりすぎて、比率が下がってしまうのである。

正直、投資家からは「もっと回転率を上げてくれよ」とリクエストをもらうこともあるが、スター精密がこれまで幾度の好不況の波を乗り越えてここまでこれたのも、景気が良かろうが悪かろうが、ROAは国債の利回り以上、総資本回転率は1回転以上という指標を守り、B/Sを重視した経営に徹してきたからに他ならない。

前述したと思うが、そもそもスター精密の創業の原点は、「小資源、少人数、省輸送」、すなわち、ヒト・モノ・カネのない一介の町工場が繁栄していくには、少ない元手で多く稼ぐしか手はないというやり方である。

日本は資源がないために戦争に負けたのだから、これからは材料の要らないような仕事をやるべきだということから、「材料をたくさん使う仕事はだめ」。

静岡という田舎の中都市で事業を行う以上、東京、名古屋、大阪といった大都市に取引先を求めるしかないから、「輸送コストのかからない事業を選ぶ」。

そして、戦後の復興に伴って必ずや賃金も飛躍的に高騰するだろうから、「人を大勢使う仕事はダメ」。

それから現在まで、創業の原則に外れるもの、つまり「小資本で高い付加価値を生む事業」以外のものには、たとえ儲かりそうなものでも一切手を出してこなかった。現在、4つある事業はすべて、この精密加工技術をコアとして展開してきたものである。

創業からこれまで60数年間、常に時の流れを読んで良くなるものを増やし、同時に悪くなるものを除く。とくに、不況時は売上高利益率を上げることが難しくなるので、B/Sを徹底的にスリムに保ち、総資本の回転率を高めることに注力する。こうすることで確実に利益を増やしてきたのである。

経営では、この「確実に」というところが肝心であり、売上という極めて不確実なものをあてに成長拡大を追ってはいけないのだ。結局、経営の原則を外れた成長拡大は長くは続か

だから、もしも本書の読者の二代日、三代目の経営者で、自社の創業の理由、つまり、なぜその商売を選んだかという理由をご存知ない方がいらっしゃったら、 一度きちんと調べておくことをお勧めする。というのも、創業の精神とは不変であり、この経営の原点を忘れたときに、会社はおかしくなっていくからだ。

とくに、世界的不況となったこの時代、中小企業こそ、少ないヒト・モノ・カネでいかに効率よく儲けるかという経営の原点に徹していくことが非常に重要といえる。

中小企業は、資本金が少なくて、ヒトが少ない。ヒトが少なくてカネがないからモノがない。要するに、ヒト・モノ・カネが少ないから中小企業なのであり、言い方を変えれば、ヒ卜・モノ・カネの集まりであるB/Sの総資本を小さくすることが、中小企業の良さを活かす経営なのである。

すなわち、皆が一致団結、社長と心を合わせながら少ない原資で多く儲け、少ない人数で多く分けるのが中小企業の良さであり、強みといえる。

この中小企業の良さを忘れて、大企業と同じやり方で規模の拡大を図っていけば、とても生き残ることはできないと肝に銘じるべきなのだ。

スター精密には、常にこの危機感があった。現在だって、東証一部上場とは名ばかりの規模であり、こんな規模の小さな会社が赤字部門を抱えていたら、とてもではないが利益は残らない。規模が小さな会社が利益率が悪ければ、本当に潰れてしまう。そういう危機感を常に持ちつづけていたからこそ、道を誤らずにこれまでやってこれたと自負している。

ゆえに、くどいようだが「ROAは国債の利回り以上」「総資本回転率は1回転以上」、これが売上の伸びない時代に、中小企業が中小企業の良さを活かして、しっかりと利益を出していくための守るべき経営指標と心得ていただきたいのだ。

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