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定石33:運転資金の効率化により、自力で資金を捻り出す「現金創出力」を高めよ

運転資金不足の回避は会社の健全性と収益性を高めるのに、極めて重要なことである。これからの経営ではとくに、銀行頼みで資金を調達するのではなく、運転資金をコントロールして自力でカネを生み出せるかどうかが企業の生死を分ける。それもいかに早く、いかに多くのキャッシュを生み出せるかが、世界的な基準で企業の優劣を決める指標にもなっている。

「キャッシュ化速度」という言葉をご存知だろうか。キャッシュ化速度とは、材料調達などの代金を支払ってから、販売して代金を回収するまでの日数を表す指標であり、このキャッシュ化速度が速いほど潤沢なキャッシュを確保している。アップルやIBMなど独自性の高いヒット商品を生み出している企業は、このキャッシュ化速度がマイナス、すなわち材料費の支払いの前にすでに製品の代金回収をしており、運転資金の管理により捻出された潤沢なキャッシュを戦略商品に投資して、激しい競争を勝ち抜いてきている。

つまり、この厳しい時代を生き延び繁栄し続けている企業は、資金管理の効率化を高めてキャッシュを確保している。そしてそのカネを資金として、成長事業へ思い切った投資をして、さらなる発展を遂げているのだ。

要するに、キャッシュ化速度を速めて、現金を自力でつくり出す力をつけることは、企業競争力を高める重要な経営戦略なのである。そのため私は、この経営戦略を幹部以下、社員全員が常に意識して各自の仕事に取り組んでもらうよう、わかりやすい言葉で「現金創出力」と名付け、加えて、「仕入れと支払いのサイクル」、「在庫の削減」に明確な数値目標を掲げた。

そして、世の中の流れを読んで、これから良くなるものを伸ばし、悪くなるものを迷わず捨てる。社長として、会社の方向性を全社に指し示すことによって、全社一丸となって現金創出力の向上に注力してきたのである。

そういう社風が根付いていたからこそ、このたびの世界的不況による大赤字を、わずか一年でV字回復させることができたと、自負する次第である。そこで、これまで述べてきた運転資金の「使途」である売掛債権・棚卸在庫と、「源泉」である買掛債務の全てを一覧にして、運転資金の定石をすべて実行した場合に、資金繰りがどう変わるか、いくらの資金が自力で捻出できるのかを、みなさんにも算出してみて欲しい。

第42表をご覧いただきたい。これが会社の運転資金の流れを一覧にした表である。本書の「5、設備投資の定石」で、設備投資と減価償却の要諦を説明するために会社全体の資金の流れを一覧にして説明したが、要するに、その運転資金の部分だけを抜粋したものが第42表である。表は大まかに上下三つの区分で、上が「所要運転資金」、下が「調達運転資金」となっている。

「所要」は、「必要」とか「使用」などと同意である。要するに、通常の業務で必要となる資金のことで、B/S左側の「流動資産」の主な科日である売掛債権と在庫である。そして、一方の「調達運転資金」、つまり運転資金の源泉は買掛債務である。

さて、第42表をもう一度よくご覧いただきたい。要するに、所要運転資金よりも調達運転資金を多くする、すなわち資金の「出」より「入」が多ければ、運転資金が足りなくなることはないことがおわかりになるだろう。

第42表に照らし合わせて説明すると、売掛債権と棚卸在庫それぞれの期末残高と期首残高の差額が1年間の増減で、これらの総和(増減①)から買掛債務の期末と期首の差額である

1年間の増減(増減②)を引いた「差引所要運転資金」がマイナスならば、所要運転資金が足りている状態、プラスならその金額分の運転資金が不足している状態で、不足分を銀行からの短期借入などで調達しなければならない。調達できなければ、資金がショートする。この表はそういう見方をして欲しい。

以上、表の見方を簡単に説明したところで、A社を例に、これまで計算してきた売掛債権、在庫、買掛債務それぞれの数字を入れて、現状実績と定石に従った場合それぞれの差引所要運転資金を確認してみよう。

第43表のとおり、 現状の実績では、A社の直前3期の所要運転資金の増減は5,400万円、 一方の調達運転資金の増減は2,800万円なので、差引所要運転資金は2,600万円、つまり2,600万円も運転資金が不足しているということだ。

さらに、直前2期、直前期と売掛債権の回収率が下がり、在庫の回転率は上がり続けている一方で、買掛債務の支払率は上がっているので、所要運転資金はどんどん増加し続けて、直前2期は1億7,300万円の不足、直前期に至っては1億9,100万円まで不足額が膨らんでしまっている。先程も述べたように、この運転資金の不足を補うために銀行から借入をすれば金利支払いが増え、貴重な付加価値が減る一方である。

しかし、運転資金の定石どおりに売掛債権の回収率を買掛債務の支払率以上にして、在庫も計画的に減らしていくと、直前3期には運転資金が2,600万円も足りていなかったのに、直前2期には1億6,500万円の資金余裕が生まれ、直前期にはさらに増えて、1億9,400万円も余裕資金が捻出できることとなる。3期分の差引所要運転資金の合計で見ると、現状実績は3億9,000万円も運転資金に不足が出るのに対して、定石に従えば、逆に3億3,300万円も資金繰りに余裕ができるのだ。

考えてみていただきたい。仮に金利2%で計算すると、この差額7億2,300万円分無駄な借金をしたおかげで、1,400万円分の利益が金融費として減ってしまうということだ。反対に、運転資金の定石を守れば、A社はさらに1,400万円の利益が生み出せたのである。

いずれにせよ、こういうシミュレーションをしてみると、運転資金運用の定石の重要性を痛感すると思う。現在は日本の大企業でさえも、何とかキャッシュをひねり出そうと、非常に泥臭い地味な改善を重ね、運転資金の効率化を進めている。それだけ経営環境が厳しいということだ。

そんな中で、資金力の乏しい中小企業がなんの手も講じず、生き延びていけるわけがない。もはや、キャッシュフローを犠牲にして売上を伸ばす経営が通用する時代ではないのである。

だからこそ、銀行頼みの資金調達ではなく、自力でキャッシュを捻出し、健全性と収益性を損なわずに成長拡大していくよう、運転資金の定石を遵守して現金創出力を高める策を早急に講じていただきたいと思う。

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