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定石31:在庫適正は、業種業態にかかわりなく付加価値の4ヵ月分以内に抑えよ

運転資金の重要な定石のもう一つは、棚卸在庫の保有量についてだ。これからは、粗利がどんどん低下していく時代である。粗利が下がってくれば、在庫を減らさない限り、在庫で寝てしまう資金の調達にかかる金利で、少ない粗利を取られてしまう。

したがって、在庫を減らす努力が大切であることは言うまでもないが、その具体的な目安は、月間の付加価値(売上総利益)に対して、4カ月分というのが在庫の定石である。ここでご注意いただきたいのは、売上高ではなく、付加価値を基準に判断すべきということだ。というのも、多くの社長が自社の在庫の保有基準を、「年商の何力月分」とか「仕入高の何力月分」という見方をしているからだ。

これは大きな間違いである。なぜなら、売上の2カ月分、3カ月分までの在庫だったら、持っていても安全だという考えには根拠がない。ましてや、毎月の仕入高の何力月分などという基準など、それこそ説明できる根拠がないではないか。

もちろんこれは、在庫のみならず、人件費とか一般経費などのあらゆる経費についても言えることだ。よく、経営分析の本に「売上高対人件費比率」とか「売上高支払利息率」という用語が広く使われているからであろうか、どうも社長の多くは「自社の売上に対して人件費は何%、一般経費は何%」と、売上高を基準にして経費についてあれこれ考える傾向がある。

しかし、これからの企業経営を考えると、社長にとって、売上高基準は百害あって一利なしと言えるほど、経営の実務では意味を成さないのである。

考えてみていただきたい。今後、付加価値が次第に下がってくるのだから、売上に対する経費を何%とやっていたら、そのうち黒字倒産ということになりかねない。社長が経費を考えるときは、すべて付加価値に対して何%というように頭を切り替えてもらいたいと申し上げたのは、そういう理由からである。

よって、保有在庫についても付加価値を基準にして欲しいのであるが、その具体的指標は、付加価値の4カ月分である。これは業種業態、規模の如何に関わらず守るべき指標だ。学問的に検証されている数字ではないが、私の経験則から、付加価値の4カ月分在庫があれば、商売に支障はないと断言できる。

ただし、建設業だけは例外だ。建設業は「未成工事支出金」という特殊な勘定科目があり、まだ完成していない工事にかかる材料費・労務費・外注費・経費などを在庫として計上する決まりになっているため、4カ月基準の範囲外となる。

しかし、それ以外は製造業も流通業もサービス業もすべて、付加価値の4カ月以上の在庫は過剰だ。そして、この基準に従うと、付加価値率の高いメーカーに比べ、付加価値率の低い商社などは、在庫をたくさん持てなくなる。

ところで、自社の在庫が付加価値の何力月分あるかは、月間の付加価値額を分母に、期末の棚卸在庫を分子にして算出してみればわかる。これを「在庫回転率」と言う。算式は第35表のとおりだ。

何度も繰り返すようだが、経理や会計の解説書で述べられる在庫回転率は年商を基準としているが、これは実務的ではない。在庫回転率についても、第35表のように求めるべきである。

さて、それでは自社の在庫がどのような傾向にあったか、まずは過去3年分の在庫回転率を算出していただきたい。皆さんの会社の在庫はどれくらいだろうか。

ちなみに、在庫額は自社のB/Sに計上されている製品(商品)、仕掛品、原材料、貯蔵品の科目の総額である。建設業で「未成工事支出金」という科目がある会社は、これも棚卸在庫に含むこと。

そして、付加価値の求め方を忘れた方は、「2、会社の方向づけのための定石」に詳述してあるので、そちらをもう一度ご参照願いたい。さて、第36表A社の場合は、直前3期の期末棚卸在庫が3億6,000万円で月間付加価値が6,000万円だから、3億6,000万円■6,000万円で、在庫回転数は6カ月と求められる。同様に、直前2期、直前期も計算してみると、それぞれ付加価値の7。2カ月分、8・5カ月分の在庫を持っていた。つまり、A社は在庫が増加傾向にあるということだ。

月間付加価値が年々下がってきたにも関わらず、在庫を減らさなかったから、回転率が在庫の適正基準を大幅にオーバーしてしまったのである。

無駄な在庫を増やし、その分余計な資金負担があるということだ。社長がこの事実に気づかないでいると、運転資金がいくらあっても足りない。

そこで、定石に沿って3年間で在庫を付加価値の4カ月分に抑えると、どのくらいの資金が捻出できるかを計算してみる。

まず直前2期で5カ月分に減らす。とすると、月間の付加価値は現状実績と変わらず5,900万円、在庫回転率が5カ月なので、5,900万円×5カ月というように逆算すると、期末在庫は2億9,500万円に抑えなければならない。続いて、直前期には在庫を適正額である4カ月分に減らすと、期末の在庫は2億2,800万円となる。

つまり、定石に従って直前期までに在庫を月間付加価値の4力月に減らせば、直前期の在庫は2億2,800万円、現状は4億8,500万円であるから、もし定石に従ったとすれば、これで2億5,700万円分の資金繰りが楽になるということだ。

そこで、皆さんも自社の過去の在庫回転率を算出してみて、もし付加価値の4カ月分をオーバーしているようなら、今後5年の売上利益目標の見通しに合わせて、回転率目標を明確に設定してしっかりと手を打っていただきたい。

ただし現在、回転率が10カ月分も20カ月分もあるような会社が、5年後に4カ月分にまで落とすのははっきり言って不可能だ。だから、そういう会社はとにかく、直前期の回転率の半分を目指して、どうすれば在庫を減らせるかを考えて欲しい。焦ることはない。1年や2年で急激にやっても現場の負担が増えるだけだ。5年のスパンで確実に進めればよい。

しかし、社長の決意があれば、必ず4カ月に収めることは可能である。そもそも、売掛金の回収は相手があってのことだが、在庫の削減は自社だけでできることだ。そう考えれば、在庫を減らす努力が一番簡単だと言える。だから、社内の誰よりも社長が執念をもって、在庫削減に取り組んでもらいたいのだ。

本書の冒頭で申し上げたとおり、我が社が85億円もの大赤字を出しながらも、現預金の減少をわずか6億円に抑えられたのは、在庫の圧縮が大きな要因である。社員が一九となり、1年間で40%、数字でいえば64億円の在庫を圧縮したからこそ、今回の危機も乗り越えることができた。在庫を極限まで減らすということは、やはり経営の一つの定石なのである。

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