まず、図表319の景気のサイクルの表を見
ていただきたい。経済企画庁は、この表を業況
判断指数から作成したとしているが、経済企画
庁のグラフには、昭和四五年(一九七〇)以降し
かない。そこでそれ以前は私が書き加えたが、
大きな流れとしては正しいと思う。
なぜ、このようなグラフを書いたかというと、
皆さんにぜひ知っておいてもらいたいことがあ
るからである。それは何か。
ひと目でわかるように、景気というものは、
いつまでも続く不況はないし、またいつまでも
続く好景気もない、ということである。私は昭
和四七年(一九七二)に経営コンサルタントを始めたが、直後の四八年秋に石油ショックが起
こり、四九年、五〇年と大変な目に遭った。そのときに、過去三〇年ほどさかのぼって考え、
いろいろと調べてみたら、景気はつねに循環しているということがわかった。
いいことはいつまでも続かない。だが、悪いこともいつまでも続かない。さらに、私たち
はよい経済環境は短く、悪いことは長く感じるものだということがわかった。これを知って、
当時、 一億総悲観のなかで三〇歳だった私は「それではやってやるか――」と自らを励まし、
赤字でのたうちまわる数社の経営再建に参画した。そうすると数年後には、当時、瀕死状態
だった企業のなかから利益を出す企業が増えてきた。
平成不況期には、書店の店頭には元毎日新聞社外信部長の大森実氏や経済評論家の浅井隆
氏らのク恐慌がくるクなどと題した著書をはじめ、総悲観論の書籍がたくさん並んでいた。そ
の一方では、飛岡健氏、長谷川慶太郎氏などの楽観論を唱えた本も出ていた。経営者にして
みれば、未来がどうなるか不安なだけに読みたくなるのだろう。
しかし、私はつねに「悲観的に考えて、楽観的に行動する」という信条でこれまでも歩んで
きたし、今後もこれは変わらないだろう。この確信を支えているのは、先ほどもお話しした、
景気はつねに循環するという実体験があるからだ。
経済環境というのは山があり、谷がある。好景気が続いているとき、どんな理由から景気
は下り坂に向かっていくのか。その理由は簡単である。 一つには、政府が法律を変え、規制
を加えるからである。昭和四五年から四七年の列島改造ブームのときも、あちこちの企業が
士地をどんどん購入したことから、建設、不動産関係の方はよく覚えておられると思うが、
地価がどんどん上がっていったため、政府は市街化調整区域の設定。見直しという、いわゆ
る線引きを行なった。購入した土地が市街化調整区域になり、建物を勝手に建てられなくなっ
た。バブルのときは地価税を設けた。さらに総量規制もやり、銀行が金を貸さなくなった。
そのうえ、金利も上げ、不動産関連の税率も上げて税金を高くした。空き地にしておくと税
金が高くなるという法律もつくってしまった。
不況期には、実態以上に、輪をかけて悲観的な考え方が増える。だが、これも税制の緩和
や規制の撤廃、さらに、政府が財政投融資の拡大。公共事業の推進などの対策を打つことで、
景気は次第に回復に向かう。経営者として大切なことは、好景気から不景気に変化するとき
に、それまでの経営のやり方、方針を一八〇度転換しなくてはならないことである。トップ
として、それまでの販売方針や政策をドラスティックに変えなければならない。
ところが、日ごろ「和の経営」を重視している日本の企業では、これがなかなかできない。

昨日まで人が足りないからと社員を集めていたの
に、 一夜にして逆に解雇する。あれだけ頭を下げ、
原材料。商品仕入れに駆け回っていたのが、次の日
には一転して発注品をキャンセルし、倉庫の在庫も
叩き売る。こんな手の平を返したような行動が、即
座にダイナミックにとれる経営者が、いったい何人
いるだろうか。
ただ、ここで皆さんに、私はもっと大切なことを
申し上げたい。先ほどからくどいように述べている
ように、景気は必ず循環する。この循環がわかって
いれば、つねに現在の景気情勢、業界事情、さらに
自社の置かれた立場を冷静に判断することができ
る。そして、いま当社として何を最重点とした経営
を行なうべきかを見極めていることこそ最善の道で
ある、ということを認識してほしいのである。
景気が悪くなってくれば値段は下がる、売値は叩かれる。反対に景気がよくなってくると
「やはり、安いばかりではだめだなあ、品質だよ、本物志向だ」となるわけである。いまは、
マスコミでも世間でも価格破壊がもっぱらもてはやされているが、再び価格よりも品質の時
代が来ることは必定で、そして次には好況になり、サービスや納期のスピードの時代になる
(図表3110)。世の中や他の業者、ライバルなどの動きなどに、また好景気や不況の度ごと
に惑わされ、右顧左円した主体性のない経営に陥ることをこそ、戒めるべきである。
好況期のときは、納期(サービス)など目に見えないものを大事にしないといけない。だめ
な経営者は、不景気になってから品質に注意したり納期を間に合わせようとする。ちぐはぐ
な対応をしていて、時代の変化についていっていないのである。
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