以上の二つを前置きにして、いよいよ実証作業に入ることにしよう。
第一の前置きは、償却費を一〜三割上回るくらいの積極的な投資をする、というD社長の
決断である。そこで大体見当をつけ、初年度の一般設備に四〇〇〇万円、工具。金型にも
四〇〇〇万円を配分してみる。計八〇〇〇万円の設備投資をすると、仮に設定してみたわけ
である。
ところで、四〇〇〇万円の一般設備は、年間償却率二〇%だから、八〇〇万円の償却費が
発生すると考えられがちだ。だが、それは期首にすべて投資した場合に八〇〇万円の償却費
が発生するのであって、投資は期の前半で行うかもしれないし、後半で行うかもしれない。
したがって、長期計画では初年度の場合、期の中央で投資したことにするのである。つまり、
期の中央で投資するのだから、八〇〇万円の償却費を二で割らなければならない。そこで計
算すると、四〇〇〇万円×○ 。二十二=四〇〇万円で、四〇〇万円の償却費が発生すること
になるのである。
初年度の工具・金型設備の場合も、四〇〇〇万円に対して六五%の償却率だから、同じよ
うに、四〇〇〇万円×○ ・六五■二= 一三〇〇万円となり、 一三〇〇万円の償却費が発生す
ることになる。
以上の二つの償却費に、既存資産の初年度の償却費、六八〇〇万円を足してみよう。
四〇〇万円+ 一三〇〇万円十六八〇〇万円で、合計八五〇〇万円となる。これが初年度に発
生する償却費の合計金額である。
さて、ここで「おめでとう」と言わなければならない。運営基本計画でD社長が設定した
償却費の初年度の予定額八五〇〇万円と、これがピタリと一致したのである。つまり、 一般
設備と工具。金型設備で計八〇〇〇万円の設備投資をしても、予算の枠からはみ出ないとい
うことが、これで見事に実証されたのだ。
そうすると、二年度目は、売上も増えていくことだし、もう少し設備投資額を増やして
もいいという発想が当然生まれてくる。そこで二年度以降の分として設定した金額が、第
14表の左側に書き入れた数字である。つまり、二年目が一般設備、工具。金型がともに
五〇〇〇万円ずつで、計一億円。三年目がともに六〇〇〇万円ずつで計一億二〇〇〇万円。
四年目が七〇〇〇万円ずつで計一億四〇〇〇万円。そして五年目を計一億六〇〇〇万円とし、
今後五年間の投資総額を計六億円と設定してみたわけである。ここで重要なことは、 一般設
備と工具。金型の投資比率を、各々五〇%ずつと設定したことである。ここに社長としての
ポリシーがある。
ここで、表の右側の欄への数字の記入の仕方を簡単に説明しておかなければならないだろ
う。たとえば、初年度の一般設備の二年度目における償却費は、(卜ol卜)×o。い=『。いで、
四捨五入して七となる。また、初年度の工具・金型の二年度目における償却費は、(卜ol
〓)×o・8 = 葛。いいで、四捨五入して一八となる。同様にして、すべての年度の償却費を
計算し、出た数字を各欄に記入していけばよい。数字の単位はすべて百万円である。
さて、設備投資額を表の左側に書いたような金額に設定した場合、減価償却費は各年度ご
とにどのくらいになり、その合計はどのくらいになるだろうか。第14
表の下の合計欄を見ていただきたい。
合計六億円の投資額に対して、減価償却費は五年間で合計五億一八〇〇万円となり、投資
額が償却費をほぼ三割近く上回っている。これが現在、D社長として考える積極的な設備投
資案の数字による表現ということになろう。
これを実証してみて、これでは生産性が上がらないということが分かれば、再度考え直さ
なければならないが、ともあれ、「設備投資は減価償却の範囲内で」という定石を考慮に入
れつつ、それよりもやや上回る積極的な投資に踏み切ろうというD社長の思いが、こういう
数字となって出てきたわけである。
それでは、先に作成した運営基本計画の償却費の欄と見くらべてみよう。
運営基本計画では五年度の減価償却費に一億四〇〇〇万円の枠を設定している。これに対
して五年度のそれが一億三二〇〇万円になった。どうだろうか。D社長の設定した枠にほぼ
近い。ということは、非常にうまくいったのである。
一億四〇〇〇万円の償却でやるという案をつくり、それを一般設備にこのくらい、工具・
金型設備にこのくらいというように、勘定科目別に枠を設けるところまで社長自らが踏み込
んで計算してみた結果、 一億三二〇〇万円でいけると実証されたのだから、これは一〇〇点
満点に近い。社長として大いに自信をもっていい数字といえよう。
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