四章●お詫びから頼みごと、断り方まで──言いにくいことを巧みに伝える「説得上手」な言葉づかい
言いにくい話を切り出すとき●この〝ひと言〟で相手に心の準備をさせる苦情を言う、抗議をする、催促する……切り出しにくい話といっても、内容はさまざまですから、ときには単刀直入な言い方をするのも効果的ではあります。しかし、これから話そうとする内容が相手にとって歓迎すべきものではないことを考えると、やはり先方が話を受ける心の準備をするための〝ひと言〟は重要です。一般的に言いにくい話を切り出すにあたっては、「まことに申し上げにくいことですが……」という言い方をするといいでしょう。ただし、謝罪をしなければならない場合は、もちろんそのかぎりではありません。こちらの失態を伝えるのも、たしかに言いにくい話ですが、その際は何をおいても謝意を伝えることが肝要。言いにくくても、よけいな切り出し文句をつけてはいけません。相手が、こちらの言おうとしていることをうすうす感じているような場合には、「すでにお聞き及びのことと存じますが……」と言います。また、相手の事情への配慮の言葉を加えることで、こちらの誠意を示すのなら、「そちらさまのご事情はよく理解しているつもりですが……」という言い方をします。ところで、先方への配慮からというよりも、こちらの立場の問題として切り出しにくい話もあります。その最たるものが借金の申し込みでしょう。そんなときは、「少々ご用立ていただけませんでしょうか」「少しご融通いただくわけにはまいりませんでしょうか」というように、「用立て」「融通」といった言葉を使えば、露骨に「お金」というフレーズを出さずにすみます。また、借金の返済期限を延長してほしいときには、「まことに申し上げにくいことですが、来月までご猶予いただくわけにはまいりませんでしょうか……」と丁重に切り出し、返済の意思を誠意ある態度で示すことです。
人に謝るときの言い方●「すみません」では軽率に聞こえる「すみませんでした」「ごめんなさい」「申し訳ありません」など、謝る言葉にもいろいろありますが、ビジネスの場で詫びるとき、あなたはどんな言い方をしているでしょうか?「すみません」や「すみませんでした」などと言ってはいませんか?「すまない」という言葉は、本来「自分の気持ちがすまない」という意味で、もともとはお詫びの際にだけ使われていましたが、最近では、人にものを尋ねたり、頼んだりするときにまで乱用されるようになりました。そうなると、お詫びの言葉として「すみません」と言うと、どうしても軽く聞こえてしまうもの。相手にけっしていい印象は与えませんから、ビジネスの場面で使うのは避けるべきです。女性がよく使う「ごめんなさい」も、子どもっぽい言い方です。ビジネスにおいては、軽いお詫びでも、「失礼しました」を用いるようにしましょう。もっと丁寧に言いたければ、「失礼いたしました」とします。だれしも過ちはあります。細心の注意をはらっても避けられないこともあり、それは仕方のないことです。問題はその後の対応。自分の非を素直に認め、大人として、きちんとした謝意の表し方ができるかどうか、それが大事なのです。自分に不注意や気づかない至らなさがあったなら、「私の不注意でした。申し訳ございません」「私のミスでご迷惑をおかけしまして、申し訳ございませんでした」と言い、失敗の程度が大きかったときは、「深くお詫び申し上げます」というお詫びの言葉だけでなく、「私の不行き届きでした。以後、注意いたします」「なんとお詫び申し上げてよいものか、これから十分気をつけます」のように、ふたたび同じ失敗をしないように誓う言葉も付け加えましょう。お詫びの相手や過ちの内容によっても、謝罪の言葉は違いますが、このくらいのお詫びの基本は、頭に入れておきたいもの。お詫びをするときこそ、あらたまった言葉であらたまった態度を示すことが必要なのですから。
人に質問したいとき●相手が負担に感じないソフトな「聞き方」とは仕事を進めていくなかで、あるいはだれかと会話していて、相手に質問しなければならない場面は日常的にあります。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」ということわざにもあるように、わからないことや知らないことは、「わたくし、存じませんで、お恥ずかしいのですが……」と、尋ねるにかぎります。「存じません」は「知る」「思う」の謙譲語。つまらない見栄を張って、知ったかぶりをするのは見苦しいもの。知らないことは質問して教えを請いましょう。とくに仕事においては、お互いの認識が異なっていると、ムダな仕事や失敗の原因になってしまいます。意味がつかめないときは、きちんと質問して確認をすることが大切です。自分もしくは相手が勘違いしているかもしれない、お互いの理解の仕方に食い違いがありそうだ、と思ったときは、「念のため、教えていただきたいのですが……」と質問をして、コンセンサスをとるようにするといいでしょう。このように確認のために質問する際は、尋ね方によっては、相手を問いただすようなニュアンスで受け取られてしまう危険もあります。あくまでも、「教えてください」という気持ちを伝える品のいい言葉づかいを心がけなければいけません。また、ときには、相手が負担に感じたり迷惑に思ったりするようなことを質問しなければならない場面もあります。立ち入ったことを尋ねるときは、「ぶしつけなことをお伺いしますが……」プライベートな問題にふれるようなときは、「立ち入ったことをお伺いするようですが……」尋ねられて迷惑な様子なら、少し譲歩して、「さしつかえのない範囲でお話しいただければ結構ですので……」話の途中で話題を変えて何かを尋ねるときは、「つかぬことをお伺いしますが……」などと、詰問調にせず、やわらかな表現を使います。どのような場合でも、こうした相手の気持ちを察した丁寧な言い方をしたいものです。
人に依頼したいとき●ぶしつけな行為だからこそ言葉を選ぼう人に何かを依頼するというのは、あくまでもこちらの都合によるもの。依頼内容がどんなものであっても、依頼するという行為自体がぶしつけなことです。ですから、まず、お願いをするにあたっては、恐縮した気持ちを丁寧に表すことが必要になります。「突然のお願いで恐縮でございますが……」「はなはだ、ぶしつけではございますが……」「まことに失礼かと存じますが……」などと、まず「お忙しいところ申し訳ありません」「突然で驚かれたでしょう」といったニュアンスのこもった言い回しで前置きをする。そして、お願い事がある旨を告げ、それからどのようなことを依頼したいのかを丁寧に話します。「折り入ってお願いがございます」という言い方もよく使われますが、これも丁重な言い回しです。ただ、この言い方は、「折り入ってお願いがございます。じつはわたくし、このたび結婚することになりまして、つきましては部長に仲人を……」のように、主にプライベートな件で依頼をもちかけるときに使う前置き。仕事上では多少奇異に聞こえてしまいますから、「折り入って」は個人的な依頼の際や、後述するような相談の際に使うものと覚えておくといいでしょう。また、「ご迷惑とは存じますが……」というのも間違いではありませんが、相手にとって本当に迷惑な依頼の場合は使ってはいけません。「お忙しいところご迷惑とは存じますが、お話を伺いたいのですが……」といった程度の依頼の際に使います。いずれにしても、丁重にお願いしようと思えば、こうしたフレーズを会話の前後にさしはさんで依頼するのがマナー。そんなことは当たり前だと思うかもしれませんが、ついうっかり忘れてしまうことがあるのです。品のいい言葉づかいというのは、言われるほうからすれば当然の話法。きちんと使いこなしたいものです。
人に用事を頼みたいとき●相手の都合に気を配った言い回しを前項では、依頼するときの一般的な言い回しを紹介しました。しかし、たとえば同僚に簡単な用件を頼むときに、「はなはだ、ぶしつけではございますが……」と切り出したら、相手は面食らってしまいます。お願いする内容の軽重や相手がだれかを考えて、状況に応じたふさわしい言い方をしなければ、それこそぶしつけになることを肝に銘じておきましょう。一般的に、おおごとではない用事を頼むときは、「お使い立てして申し訳ありませんが……」「ご面倒をおかけいたしますが……」と切り出します。この言い方なら、相手の都合や相手の意思を確認するような気配りを感じさせ、簡単な用事をお願いするときにもしっくりきます。ほかにも、「お手をわずらわせて恐縮ですが……」「お手数をおかけして申し訳ありませんが……」「恐れ入りますが、手を貸していただけませんか」など、「手」というフレーズを使った頼み方もあります。また、来社してもらうなど、相手が足を使うような用件の場合には、「ご足労いただけませんでしょうか」のように言います。具体的な用事をお願いするときは、漠然と「恐縮ですが」「申し訳ありませんが」というよりも、こうした言い回しをするほうが「実際に何かをしてほしい」ということがはっきりしていてベターでしょう。さらに、用件を話したあとで確認するときには、「お聞き届けいただけますでしょうか」「ご無理を申し上げてまことに恐縮でございますが、いかがでしょうか」と言えば、好感をもたれます。なお、目上の人に大変なお願いをする場合には、「このたびは、無理を承知でお願いに上がりました」「あなたさまのお力添えがなくては、成功はおぼつきません」といった言い方をするといいでしょう。本来、目上の人にものを頼むことは失礼なこと。それをあえてお願いするのですから、目上の人に協力を求める際には、だれに頼んでもいいようなたんなる力添えではなく、絶対不可欠な条件になっていることをアピールして、相手を尊重した言い回しが必要です。
目上の人に相談したいとき●敬意のこもった切り出し方とは「じつは相談したいことがあって……」。友人にちょっとした相談をもちかけるときは、こんな調子で話し出すのが一般的でしょう。一人であれこれ思い悩んでいても、堂々巡りになってしまうことはよくあること。自分だけで抱え込まずに友人に相談するのは、気持ちの整理にもなって悪いことではありません。しかし、目上の人に相談するという場合は、気軽に友人に相談するようなわけにはいきません。「お知恵をお借りしたいのですが……」と、敬意のこもった品のいい言い回しをしたいものです。それに、見識や経験豊富な年長者や先輩にあえて相談したり、仕事で上司に相談したりするというときには、そもそも面倒な話が多いもの。相談内容もそれなりの重さをもっているはずですから、そうした場合にはとくに、あらたまった言葉づかいで話を切り出さなければなりません。そんなときに便利なのが、「折り入ってご相談したいことがあるのですが……」という言い方。こう切り出せば、深刻な話をするという予告にもなりますし、「切に」という気持ちも伝えられます。相手にしてみても、「面倒な話が始まる」という心づもりをすることができます。「わたくしの手には負えませんので……」というひと言を添えれば、「本来なら自分の手で解決すべき問題なのは承知しているのですが……」というニュアンスになります。また、面倒な相談事の場合には、「○○のことで頭を痛めておりまして……」などと、まず要旨を告げてから具体的な内容に入るようにするといいでしょう。相談の内容によっては、時間がかかることもあります。多忙な立場の人に相談する際には、何の件について相談したいのかをしっかり伝えることで、「それなら、いま聞こう」とか、「では今夜、時間をとろう」といった判断の材料になります。相談をもちかける側としては、相手の都合への配慮を忘れないことです。
相手の依頼に応じるときは●「承知した」ことをはっきり伝えるのが礼儀「急な仕事で申し訳ないが、この書類を今日中にまとめてもらいたいんだが……」と、上司に指示されたとしましょう。こんなとき、いちばんいけないのは、「YES」「NO」がはっきりしないこと。急な依頼なら、ほかの仕事との兼ね合いもあり、無理な場合もあります。だからこそ、可能かどうかを尋ねているのに、「はあ」などという煮え切らない返事では、頼んだほうは不安になってしまいます。上司にかぎらず、だれかから依頼を受けた場合、引き受けるのなら、きちんと「引き受けます」ということを明言することが大切です。「かしこまりました」「承りました」「承知いたしました」こんな言葉づかいで気持ちよく引き受ければ、依頼したほうは安心して信頼を寄せることができます。仕事の指示であれば、「○時までにはできると思いますので……」と見通しを伝えたり、「新プロジェクトの打ち合わせの件で○○様の来週のご予定を伺って、アポイントメントをおとりすればよろしいですね」などと、指示された内容を復唱して確認することも大切です。引き受けたからには、責任をもってやりとげ、結果を出すべく努力するのは当然ですが、依頼する側としては、依頼に応じる言葉づかいからもあなたの仕事ぶりを判断するもの。信頼感をいだかせる対応を心がけましょう。また、仕事ではなく個人的な依頼もあります。そんな際には、「困ったときはお互いさまです」「わたくしでお役に立つことでしたら……」「わたくしでよろしければ、喜んでお手伝いをいたします」などの言い回しで気持ちよく引き受ければ、品のいい人柄がしのばれます。言葉だけでなく、実際に困ったときはお互いさまなのですから、自分ができることは気持ちよく引き受ける。そうした思いやりを示すのが友情というものであり、よい人間関係を維持していく秘訣でもあるのです。
相手の依頼を断りたいときは●相手の気分を害さない気配りとは依頼に対しては、基本的に気持ちよく応じたいものですが、引き受けられる依頼ばかりとはかぎりません。こちらにも事情というものがあり、その意向に応えられないときも当然出てきます。それは先方も十分承知はしていますが、だからといって、「嫌です」「ダメです」「できません」などと、すげなく断られてはいい気分はしないもの。面倒をかけて申し訳ないという気持ちで頼んでいるのに、けんもほろろに断られては、恐縮していた気持ちはすっかりなくなってしまうどころか、あの態度は何だ、という腹立たしささえ覚えてしまう人もいるはずです。断るという行為は、相手の自尊心を傷つけやすいものです。頼みたいと思って依頼した人の意向に応えられないときは、ピシャリと断る印象にならないよう、「お力になれなくて申し訳ございませんが……」「お役に立てず申し訳ありません」と、まずはお詫びをすることです。どうしても嫌だという場合でも、慎み深く「遠慮」「辞退」するのが礼儀です。「ご遠慮させていただきます」「ご辞退申し上げます」のふたつは、「申し訳ございませんが」に続けて使います。もう少し返事を曖昧にしたいときには、「お約束はいたしかねます」「考えさせてください」と言えば、はっきり断ってはいないのですが、後ろ向きの印象ですので、遠回しの断り方になります。相手がその後何も言ってこなければ、そのまま断ったことになりますし、もし催促されたら、その段階で白黒をはっきりさせればよいでしょう。また、断る理由をはっきりさせたくないときは、「よんどころない事情で」と言えば、それ以上言い訳をしなくてすみます。
相手の依頼をはっきり断るなら●「力になれず残念」という気持ちを言葉にする依頼に対して、はっきりと断りの意思を伝えたいときもあります。しかし、はっきり断ったあとも人間関係を断ち切りたくないのなら、やはり相手の心証を害さないような言い方を意識しなければいけません。そんな場合は、「お役に立てず残念です」「せっかくでございますが、お引き受けいたしかねます」「失礼ではございますが、それだけはどうぞご勘弁くださいませ」といった断り方をするといいでしょう。いずれも、相手に配慮した言い回しになっていますが、実質的にはかなりはっきりした拒否の表現です。前項で紹介した言い方に比べると、依頼した側が「そこをなんとか……」とは言いにくい雰囲気があります。断るならはっきりと、しかし、さしさわりのない言葉づかいで断りたいケースの筆頭に挙げられるのが、借金や保証人の依頼です。「お役に立ちたいのは、やまやまですが……」「ご事情はお察しいたしますが……」などの言葉で切り出し、「あいにく……」とこちらの事情を説明して、最後に「お力になれなくて申し訳ありません」と謝ります。お金を貸せない理由を話すときの前置きとしては、「頼られがいのないことで、大変お恥ずかしいのですが……」という言い方もします。借金を頼んでくるほうは、精神的に負い目を感じ、恥をしのんでという気持ちでいるもの。「大変お恥ずかしいのですが、家のローンに追われていまして……」といった具合に、「むしろ貸せないこちらのほうが恥ずかしい思いをしています」というニュアンスで断れば、借金を頼む側の恥ずかしさをやわらげ、気持ちの負担を軽くすることができるはずです。保証人を断りたいときは、「安請け合いして、かえってご迷惑をおかけしてはと……」「まだ若輩のわたくしでは、とてもその任ではございません」と、丁寧な言い回しを。若いうちしか使えませんが、「保証人の能力はまだありませんので」という理由で断るのが賢明でしょう。
贈り物を断りたいとき●相手の厚意に感謝しつつも断るには贈り物を断るというのも、難しいものです。親しくないからもらえない、趣味が違うからいらない、もらっても不要なものだから困る、などと思っても、せっかくの相手の気持ちを考えると、「いりません」とは言いにくい。そんなとき、品よく遠慮する言い方としておすすめなのが、次の言い方です。「お気持ちだけ頂戴いたします」は、「いただくわけにはまいりません」という断りを婉曲に表現する言い方です。たんに「いりません」と言ったのでは、角が立つもの。そこで、「気持ちはありがたく、十分わかっています」という表現でお断りするのです。品物が高価すぎてとてももらうわけにはいかないとき、またお金や物を受け取りたくないときなどに断る言い方として、覚えておきたいフレーズです。とはいえ、あらかじめ手みやげなどを用意してきたようなケースでは、相手にしてみれば、そう言われたからといって、「そうですか。では」とさっさとしまうわけにもいきません。かといって、「そうおっしゃらずに、どうぞご遠慮なく」「いえ、そういうわけには……」などと、押しつ戻しつするのも見苦しい。はっきりとお断りできればいいのですが、このようにせっかくのご厚意をきっぱりと断るわけにもいかないときは、「せっかくですから、今回だけは頂戴しますが……」という言い方で、今回は相手の気持ちをありがたく受け、次回のお断りをはっきり言うようにするのも、ひとつの手です。「頂戴するわけにはまいりませんので、どうぞお納めくださいませ」という言い方が一般的な断り方ですが、立場上の問題や高額品ゆえに、どうしても受け取ることができないというときには、次のような断り方がいいでしょう。「立場上、いただくわけにはまいりません」「このような高価なものをいただくわけにはまいりません」このように、控えめに遠慮するより、むしろ、受け取れない理由をはっきりと伝えてお断りするほうが得策です。
相手に恨まれない忠告の仕方●この穏便な言い回しなら相手も受け入れやすい忠告というのは、なかなかしにくいものです。しかし、相手のことを思えば、見て見ぬふりをしているのもどうかという場合もあり、ここは、あえて言ってあげたほうがいいというときもあるでしょう。ただ、相手のことを思えばこその忠告ではあっても、そう思うのはあくまでも、こちらの考え。相手は違った考え方をしているかもしれません。親切心からの忠告であっても、断定するような言い方だけは避けることです。たとえば、友人がやめたほうがいい行動をとっているとします。それに対して、ストレートに「そんなことはみっともないからやめたほうがいい」と言ってしまうと、言われたほうはカチンときて、「よけいなお世話」と感じてしまうもの。親切心がアダになって、逆に意地になられてしまったり、疎んじられたりすることもあります。それでは、忠告した意味がありません。「誤解されやすい」「あなたに不利」といった具合に、相手に恥をかかせないような言い方に言い換えたほうが、聞く気にもなるはずです。また、相手が「言わないほうがいいこと」を口にしてしまっているなと思ったら、「あの方、それを気にしていらっしゃるみたい。いまはおっしゃらないほうがいいと思うわ」などと、内容については云々せずに、「いまは」言わないほうがいいと、やんわりと忠告するのもいいでしょう。ほかにも、近づかないほうがいい人のことは、「ちょっとクセのある方」買わないほうがいいと言いたければ、「役に立たないかもしれない」行かないほうがいいと言いたいなら、「あまり楽しいところではない」などなど、相手が受け入れやすいような言い回しを工夫したいものです。忠告というのは、相手にプラスになってこそ意味のあるもの。忠告をする際には押しつけがましくない、やんわりとした言葉づかいをする配慮が必要です。
相手の間違いを指摘するなら●恥をかかせぬように「前置き」を新商品の企画会議中に、ある若手社員から反対の意見が飛び出した。経験は浅いがよく勉強しているのがうかがえる内容に、居並ぶ担当者も熱心に耳を傾けている。そして若手社員が発言を終了したのちに、隣に座っていた同僚が、あなたの耳元でひと言。「いまのは的を得た意見だな」えっ、的を得た意見?それは「的を射た意見」の間違いなのでは?と、気がついたとしたら、あなたはどうしますか。たしかに、弓の的は「射る」ものであって、「得る」ものではない。「射る」と「得る」は発音が似ているので混同しやすいのですが、これは明らかな間違いです。あなたは正しい。けれども、その場で、「それを言うなら『的を射た』でしょう」などと指摘したら、相手は教養のなさをさらしたようで、恥をかいてしまいます。相手の間違いに気づいたときは、シビアに間違いをあげつらうのは厳禁。鬼の首でもとったように訂正したりしないで、相手のプライドを傷つけないように、思いやりのある言葉づかいをしなければいけません。前項の忠告のみならず、相手の間違いを正すときも、相手が素直に受け入れられるよう、慎重に言葉を選ぶ必要があります。よそでも同じことを言ってしまわないように、教えてあげようという好意からであっても、間違いを指摘するときには、「間違っていたら、ごめんなさい」「わたしの勘違いだったら、ごめんなさい」と、ひと言前置きする配慮は大切です。また、「わたしもよく間違えてしまうのだけど……」「わたしもこの間、はじめて知ってびっくりしたのだけど……」などと付け加えるのもいいでしょう。相手に恥ずかしい思いをさせないような、スマートな言い回しを選びたいものです。
反対意見を言うとき●真っ向から否定すれば、よい意見も通らない自分の意見をもっているのは大切なことです。とくに仕事の場面では、自分の意見をはっきりとさせるべき。当然、だれかの意見とは反対だということもあるでしょう。しかし、そんなとき、ただ反対意見を表明すればいいかというと、そうではありません。「それはおかしい」とか、「その考え方は違う」などと相手の意見を真っ向から否定する言い方をしてしまうと、言われたほうは気分のいいものではありません。頭ごなしに否定されると相手に反発感情が出てきて、たとえあなたの意見が正しくとも受け入れてもらえなくなってしまいます。「おっしゃることはよくわかります」「お気持ちはよくわかります」反対意見を言うときは、このように肯定的な表現で切り出して、相手の意見や気持ちをひとまず認めてから、自分の考えを話し始めることです。相手が上司の場合は、なおさら反対意見を言うのは難しいものですし、勇気がいることです。そういう場面では、「生意気なことを申しますが……」「口はばったいことを申すようですが……」という言い方をし、まず上司に反対することへのお詫びの気持ちを表します。このちょっとした配慮が、こちらの意見を聞き入れてもらえる下地にもなるのです。また、相手の意見を全面的に否定するのではなく、「いまのご意見とは、部分的に少し違うのですが……」「おっしゃることはそのとおりかもしれませんが、この点だけは……」といった具合に、どこがどのように反対なのかをしぼって意見を述べるようにするのも、よい方法です。「たしかにそのような見方もあると思いますが……」「その点は、このようにも考えられるのではないでしょうか」などと、別の角度から見た意見として言うのもいいでしょう。いずれにしても、高圧的な物言いは禁物。相手を傷つけたり、反感を買ったりしないよう、やわらかな言い方を心がけることです。それが結果的には、相手の支持をとりつける好結果にもつながるのですから、細心の注意をはらいましょう。
強く否定したいとき●感情を抑えたこんな言葉づかいが効果的もしも、あなたにまったく身に覚えがないことで、非難されたり苦情を言われたりしたらどうしますか?たとえば、預かった覚えのない品物を返してくれ、と言われたとします。しかし、あなたはそのような物は見たこともない。だいいち、その相手とは物の貸し借りをするような間柄ではない。にもかかわらず、相手は「いや、たしかに君に預けたはずだ!」と、頑強に言い張って引き下がらない。そんなとき、どのような言い方で返したらいいのでしょうか。相手が熱くなっているようなときにはとくに、感情的な言葉の報復になりがちですが、こちらも感情にまかせた言い方をしてしまうと、事態がこじれてとんでもないことになってしまいます。できるだけ直接的な物言いは避けて、クールに対応しなければなりません。こんなときは、「何かお間違いになっていらっしゃいませんか?」などと、相手の記憶違いを指摘し、再考を静かにせまる言い方をすることです。また、自分のかかわっていないものや人の消息、有無を尋ねられたときには、「いっこうに存じません」と丁寧に、しかし強く否定する言い方として覚えておくといいでしょう。上品ですが、毅然とした響きがあります。いくら事を分けて説明しても、いっこうにこちらの言い分を聞き入れてくれないときや、しつこく反論してきたときは、「ご冗談をおっしゃらないでください」「お言葉を返すようですが……」などという言い方もします。これだけは言っておかないと腹の虫が治まらない、というときもあるでしょう。しかし、そんなときでも、心のなかに静かな怒りを秘めつつ、場所柄や立場を考えて下手に出る格好だけは示したほうが賢明です。「本当は、こんなことを言いたくないのですが……」これは、どんなに穏やかに言ってもかなり威嚇のニュアンスをもっていて、むしろ、穏やかに言うほうがある種の凄みが出ます。感情をあえてセーブして、品のある言い回しをするほうが効果的なときもあるのです。
借金の返済をせまるとき●相手に弁解の余地を残す気配りをこちらはちっとも悪いことはしていないのに、何かと気を使うのが借金返済の催促です。もっとも、友人に貸したお小遣い程度の額のお金なら、相手はうっかり忘れてしまっているかもしれません。あれこれ切り出し方に悩んで遠回しに言うより、「この間貸したお金、まだですよね?」などと明るい調子でストレートに尋ねるほうが、むしろ相手に気まずい思いをさせないですみます。問題は、まとまった額のお金の返済を求めるとき。月末には返すと言っていたけれど、それも過ぎてしまっている。苦しい台所事情を想像すると催促するのも気が引けるし、信用していないように思われるのも角が立つ。かといって、このままにしておくわけにもいかない……。言いにくいこと甚だしいのが借金返済の催促ですが、基本的には、徹底的に善意に解釈してから、ものを言うことが大切でしょう。たとえば、「催促がましいことを言いまして……」という言い方があります。まさしく催促しているわけですが、それを自ら「催促がましい」と弁解することで相手の気持ちをやわらげたり、「いつぞやご用立てした件ですが、ご都合はいかがでしょうか?」などと、できるかぎり間接的な言い方を心がけたりすることです。物事を穏便にすますには、このようなまわりくどい表現も必要なのです。また、「じつは、こちらも急に入り用ができまして」「この時期、何かと物入りなものですから」「都合がついた分だけでも」などというように、自分も困っていることをアピールする催促の仕方もあります。「入り用」とか、「物入り」というのは、借金の返済をせまるときの口実。もし、こちらにも返してもらわないと本当に困る、という現実的に押しせまった事情があるなら、きちんとその理由を説明したほうがいいでしょう。いずれにしても、こうした催促は、相手を追い詰めないで弁解の余地を残す気くばりをしたほうが、相手の感情をいたずらに刺激しないですみます。
けなし言葉のうまい言い換え方●いくら嫌いでも汚い言葉は使うべからず品のある言葉づかいをしようと思うのなら、まず大前提として、人の悪口や物事の悪い面はとりたてて言わないことです。とはいえ、そういう話題を口にする人は多いもの。たとえ自分からは言い出さなくても、話の流れによっては同意を求められたり、意見を聞かれたりすることもあるでしょう。しかし、そんなときでも、うっかり同調してあからさまな悪口を言わないこと。とくに、相手に嫌悪感をいだいているときは、ついつい汚い表現をしがちですが、そういうときこそ抑制のきいた言い方をしたいものです。そこで、そんな場面で役立つ、けなし言葉を言い換える表現をいくつか紹介しておきましょう。*仲が悪い──価値観が違うようです、いまひとつソリが合いません*(服の)趣味が悪い──個性的な装いをなさる*太っている──ふくよかでいらっしゃる*鈍い──おっとりしていらっしゃる*うるさい──いつもお元気そう*嫌いな人──ちょっと苦手な方*老け顔──大人っぽいお顔立ち*地味な人──控えめな方また、物は言いよう。短所を長所に見立てる言い方をするのもいいでしょう。*気が小さい──たいそう謙虚でいらっしゃる*臆病、優柔不断──物事に慎重でいらっしゃる*せっかち──大変頭の回転が速くていらっしゃる*怒りっぽい──熱意にあふれていらっしゃる*自己中心的──ご自分の意見をもっていらっしゃるこんな具合に言い換えれば、汚い言葉を使わずに感想を言うことができます。婉曲に言い換えたけなし言葉は、いわば暗号のようなもの。正面からけなしていない分、かえって痛烈な皮肉になることもある一方、真に受けて、ほめ言葉と勘違いしてしまう人もいそうですが……。
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