1 商業の計画立案の留意点
神奈川食品機械は、かつて社宅として使用していた空地を有効利用することを検討している。ちょうど、駅から数分、の住宅地に近い道路沿いにあるため、業態としてはコンビニエンス・ストアを、経営は定年近い前総務部長に子会社の形で任せたいと思っている。
そこで、商業にかかわる設備投資の留意事項を列挙するとつぎの通りである。
①種々の事業の検討(代替案の考案)
商業で考えられる事業としては、立地する商業地の性格に応じて、つぎのようなものが考えられる。
イ)近隣型商店(最寄品)
食料品や日用雑貨等は、主として、住居から500m~ 1姉以内、徒歩または自転車で5分以内にある店で買い物をする。例えばミニ・スーパー、総合食料品店、酒店、青果店、鮮魚店、精肉店、菓子店、惣菜店等の食品関係業種。雑貨店、薬局、化粧品店など。クリーニング店、理容店などのサービス業。そば屋、寿司屋、中華料理店などの飲食店などである。
口)地区型商店街
鉄道の駅前商店街など。
衣料品や装身具、靴やハンドバッグなどの買回り品、あるいは大型スーパーでの食料品の購入などの時は、普通、住居から数キロ程度、車で20~30分程度離れた商店街や大型店へ行く。
これに適した業種としては、衣料洋品、寝具、靴、かばん袋物等の買回品店、時計眼鏡店、書籍文具店、カメラ店、家庭電器店、家具店、スーパー、総合衣料品店、ブティック、喫茶店、レストラン、パチンコ店など。
ハ)広域型商店街
ターミナル駅周辺の百貨店、高級専門店などである。
②立地環境の把握
イ)町の特徴
町の特徴を地形、気候、風土などの自然条件、および行政、経済、文化などの社会的条件の両面から調べる。また、工業地区、商業地区、住宅地などの地区の区分や、さらに主要公共施設、例えば学校、病院、官公庁、公園等の存在、場所を調べる。公共施設は消費者を街に吸引する効果を持つので、その種類、規模などを調べることにより商圏の内容を把握する。
口)交通事情
交通手段、交通経路などを調べる。電車、バスの経路、運行本数、所要時間、乗降客数などをチェックする。特に自動車交通については、周辺地域、競合都市を結ぶ道路網について、混雑度、距離、所要時間等についても検討する。ついで駅やバス停から商店街までの距離、道路の歩きやすさ、道路幅、歩道の有無などを見る。一方、自動車での来街者のためには、道路条件(混雑度、路上駐車、一方通行等に関する交通規制など)、特に駐車場を調べる。商店側の車の受け入れ施設の整備状況はきわめて重要な点である。また、駐車場については車を降りてから抵抗なく歩く距離は100~ 200mくらいであるといわれているので、その場所も確認する。
ハ)都市計画
町の変化に大きな影響を与える要因として、都市計画を挙げることができる。主要なものとして、市街地再開発計画、道路建設計画、団地開発計画、地域開発計画などがある。
二)人口
市町村の住民基本台帳や国勢調査による町別人口、世帯数の資料から商圏内世帯数を決定する。また、過去の趨勢と今後の地域開発の状況などから、将来の伸び率を予測する。さらに産業別就業者構造や年齢別人口構成および世帯構成などの人口動態などから、地域の消費の傾向も把握する。
ホ)所得
対象地区の人口を算出した後は、購買力を算定するため地域の消費額について調査する。総理府の『家計調査年報』を資料として使う。全国の消費者世帯を対象とし、実収入、可処分所得、消費支出額、品目別消費支出額などが記載されているので、地区内の購買力が計算できる。
へ)通行量調査
小売業において立地場所での人の動きは、最も購買力に影響する。そのため、方向別、時間帯別、曜日別、月別、天候別に通行量と方向、さらにその性別、年齢、職業の測定を行い、潜在購買力を探ることが大切である。
卜)近隣の商店街、大型店の調査
ショッピング・センターや商店街の特色を調査する。最近は行政当局を含め、種々の機関で調査データが出されているので、手間を惜しまなければ一般的には容易にデータ収集ができる。
チ)競合店調査
競合店の調査は、地図上で競合店の位置の確認、売場面積、従業員数の観察、主な商品と品質の確認、主要品日、プライスゾーン、店員のサービスの質、店舗の雰囲気などを直接に調べ、競合店の特色を把握する。
③商圏調査の実施
イ)商圏とは、その商店の顧客が住んでいて来店の機会のある地域のことである。既に営業を開始していれば、来店客調査により実態の把握ができるが、これから開業を行う場合は推測を交えて検討せざるを得ない。一般的には、小売商店における商圏は最寄品関係では約半径700m(徒歩で約10分)といわれている。しかし、これは個店の属する商業施設全体の集積力によっても当然異なり、また、実際の商圏の形は、いつも円形になるとは限らない。これは道路・線路、人口の分布、地形などの制約条件があるためである。この商圏は第1次、第2次および第3次の各商圏に分けられる。第1次商圏とは、他の商店とはほとんど競合しない独占的な地域であり、第2次商圏とは、他の商店との影響力が交錯する地域、さらに第3次商圏とは、若干の人は来店するがほとんど他商店の勢力圏となっている地域である。この1次、2次、 3次商圏の設定基準としては、市場シェア、売上高貢献度、商圏強度などの基準を用いて検討する。
しかし、まだ開店されていない段階では、店からの距離が徒歩5分、500mまでを第1次商圏(吸引率100%)、さらに、同10分、800mまでを第2次商圏(吸引率50%)などとして計算する方法が用いられる。
口)商圏内市場占拠率の算出
商圏の設定を終えると、ついで商圏内における自社のシェアを算定する作業が行われる。これはつぎの式による。
当該商品の商圏内購買総支出額(潜在需要)
=商圏内世帯数×当該商品の1世帯当たり平均消費支出額
商圏内市場占拠率
当該商品の自店販売額
×100
当該商品の商圏内購買総支出額(潜在需要)
対象地区における消費購買力は、前述の通り総理府統計局発
行の『家計調査年報』を活用して推定する。商品別に1世帯当たり消費支出額が発表されており、これに商圏内世帯数を乗じると当該商品の購買総支出額(潜在需要)が算出でき、これと自店の当該商品の販売額(年間)とを比較すると、商圏内市場占拠率(シェア)が計算できる。市場占拠率の把握は、商店経営における戦略設定の基礎となる。新規開店の場合は、この商圏の中でどの程度の市場シェアを目標にするのか検討する。例えば、第1次商圏内での強い店とはシェア30%以上、第2次で10%以上をいうことがあるので、この数字が1つのメドとなろつ。
④ポランタリー・チェーンやフランチャイズの検討
商業やサービス業へ新しく進出する時に必要なのは、事業のノウハウである。例えば、スーパーであれば生鮮三品(青果・魚・肉)取扱いの鮮度管理技術、陳列の方法、品揃えのための仕入政策、売値の設定、レイアウト、パートの勤務体制、POSの利用方法など限りなく多くの知識。ノウハウが必要となる。
そこで同業者が協力し合って、店作り、売場作り、品揃え、販売促進、計数管理などのノウハウを蓄積し、それを本部からの指導によって全体のレベルアップを図るボランタリー・チェーンか、あるいはセブンーイレブンなどとフランチャイズ契約を結び、店名、店舗設計から販売促進まですべて同じ方式で行うフランチャイズ方式か、いずれかのシステムに加盟して経営を行う方が安全である。ボランタリー・チェーン(以下VC)とは、それぞれ独立した同業者が共同出資等の方法で本部を作り、その本部の指導のもとに営業していく仕組みで、間屋が本部となる間屋主導VCと、小売店同士で本部を運営する小売主導VCとがある。加盟店は法的、資本的には完全に独立しているが、その営業については単独店では得られないグループ経営のメリットを得られる。例えば、商品の仕入、店舗の新設、改装、売場や陳列方法の改善、計数管理の代行などがあり、新規に事業を開始しても、一定のレベルの経営が可能である。ボランタリー・チェーンの主な事業としては、店舗開発の支援(すなわち、店舗の新設の際、市場調査の実施、プランの作成、建築業者選定、見積書のチェック、工事の立ち会い、役所関係の手続き代行等、建築資材、店舗・陳列器具の斡旋、資金援助など)から始まり、店舗・陳列指導(店内レイアウト、商品配置、陳列の方法などを指導、助言)、品揃えの指導(品揃えの充実、定番商品の設定、定番商品の本部による集中仕入等)、販売促進(チラシ、DM、催事など)、経営改善指導、事務代行等多くのものがある。なおVC加盟の条件はまちまちであるが、きわめて大まかにいえば、加盟金が100~300万円、ロイヤリティが売上の2~ 4%というところである。
ついでフランチャイズ・システムを見ていく。フランチャイズ。システム(以下FC)とは、セブンーイレブン、モスバーガーなどのように、中心になる企業と契約し、直営の商号・商標を用いて、直営店と全く同様の営業を行う方式である。契約で定められたサービスは、直営店と同じように商品の供給から運営の方法まで詳細に指示されているので、業界の知識がなくても十分経営はできるが、一方、独自の特色を出すことは難しいし、ロイヤリティも相当高額である。このフランチャイジーとフランチャイザーの契約の内容はフランチャイズ。パッヶ―ジとして定められており、本部の行うサービスの内容、費用、加盟店側の義務などすべて規定している。FC加盟の条件は種々あるが、その一例として、土地・建物を経営者が所有する場合で、契約期間10年間、加盟金300万円、ロイヤリティは粗利の35%、水道光熱費の加盟店負担などが挙げられる。
2.神奈川食品機械の商圏の検討
(1)立地の概要
計画中の立地はつぎの通りである。
①都市の概要
計画予定地があるT市は、現在K県の主要都市であり、また首都圏の核都市としても重要な位置を占めている。東京都心から25km圏内に位置し、K市、O市という40万都市に挟まれているため都市間競合が激化している。市域は東西15km、南北10揃の広がりを持ち、市の中央部を京浜東北線および国道が東西に貫いている。
②出店予定場所の立地条件
出店予定地は、JRのT駅に近い商店街の中央部に位置している。この商店街は、官公庁の施設や金融機関などの事業所を近隣に有しており、また集客力の高いH百貨店、大手スーパーJにも近いため、人通りが多く恵まれた立地条件にあるが、通過客も多い。
③通行量調査結果からみた特性
通行量調査は本来24時間すべきであるが、ここではA.M.7:30~ P.M.4:30にかけて商店街の東西の方向に対して行った。東は大手スーパーJ方向、西は国道方向(官公庁。オフィス街)である。
調査結果はつぎの通りであった。
イ)午前中
年齢別通行量は20代~50代に絞ってみると、国道方向については、
A.M.7:30~ 8:00 316人
A.Mi.8:00~ 9:()0 1,255人
A.M.9:00~ 10:00 406人
と、 2時間半で1,977人通行しており、調査時間帯総数の18.3%を占める。これは同時間帯、大手スーパーJ方向を大きく上回り、県庁・市役所等に勤務する人々を中心に東から西への通行が主流になっていることが分かる。
口)昼食時間
大手スーパーJ方向については、A.M.11:00~ P.M.1:00の2時間で1,432人、国道方向については、A.M■ 2:00~ P,M.2:00の2時間で1,305人と1時間のタイムラグをもって通行量が多くなっている。飲食店、食料品店とも大手スーパーJ方向に集中しており、1時間のタイムラグは往復に際しての時間のずれではないかと推測される。
ハ)午後から夕方
20代以上の女性の通行量をみるとP.M.3:00~ P,M.4:00に国道方向、大手スーパーJ方向とも通行量が増えている。これは主婦の買い物客の流れであり、特に最寄店に集中している。以上のように当立地の所属する商店街は昼時、夕方に買い物客の集う最寄型商店街であるが、朝夕の通勤通学者も多い特色を持つ。
(2)人口構造
①人口・世帯数の推移
T市の人口および世帯数は、それぞれ42万5,000人、15万3,000世帯であり、過去3年の増加率は毎年2%前後伸びており、県全体の伸び率1.9%とほぼ同様であるが、伸び率は鈍化傾向にある。1世帯人員は2.8人と県平均と比べても少なく、核家族化が進んでいる。また、65歳以上の高齢者は3万7,000人で人口の8.8%を占めており、全国平均の10%と比べるとやや若い都市といえる。また出店予定地の所属する地区は人口が減少した時期もあったが、最近は横バイ状態である。
②人口の流出と昼夜間人口
最新の国勢調査によると、T市の通勤。通学による流出人口(12万1,000人)は流入人口(8万1,000人)を大きく上回っている。流出先は東京都内が圧倒的で、全流出人口の約6割を占めている。流入人口は0市からの流入が全流入人口の16%を占める。流出人口が流入人口を上回っているため、昼夜間人口比率(昼間人口/夜間人口)は約9割で、約1割の流出増となっている。
③所得水準
T市は、納税者1人当たりの課税対象所得額は県内1位であり、全国的にも都市順位で約40番目と高い水準にある。
(3)交通機関。道路状況・都市施設
予定地は、JR京浜東北線T駅(1日平均乗車人員7万人)西口より徒歩5分の商店街に位置している。この商店街はJRのT駅を利用する通勤。通学者用歩道として利用され、また大手スーパーJ、H百貨店に通じているためT市内でも人通りの多い方の商店街である。前面道路の幅員は5mで、交通規制は一方通行と時間帯制限(15~ 19時)が行われている。T駅周辺は、市内で最も商業集積の高い地域であり、市内小売業の3分の1近くが集中しているが、京浜東北線によって東西に分断されている。駅西地区がT市商業の中心的な機能を担っており、駅東地区は最寄品店舗や飲食店が多い。両商業地の有機的関連性は弱く、東西のイメージおよび機能格差は著しい。駅西地区には県庁。市役所。市民会館などの公共施設があり、また、H百貨店、Jスーパーと買回り性の高い商業施設や金融機関の支店がある。
(4)地域消費者の購買運動
①市内消費者の諸特性
1世帯当たりの有業人口は1.60人と数年来安定しており、主婦の有業率の高さを示している。職業の内訳では勤め(県内)36.1%、勤め(県外)47.4%、商店経営3.4%、その他自営8.4%、農業1.6%、その他3.7%となっており、勤めで県外へ流出する人口の多さが目立っている。
最寄品においては約9割が市内の商業施設を利用している。買回り品では市内の買い物は約60%から約85%程度であり、O市への流出は約10%から約14%と大きく、東京都内へも約10%から約20%が出かけている。また目的別でみると、家族で買い物を楽しむ場合は、市内約60%であるのに対し、買い物を兼ねたレクリエーションの場合や、新しい流行を知る場合は市内約3割となっており、アミューズメントや最新の情報を求める際の流出が著しい。
(5)経営環境の変化要因
T市における今後の大・中型店の出店計画については今のところない。開発・整備計画についてはT駅西口南地区再開発が計画されている。また当商店街通りについては、カラー舗装整備の計画がある。
(6)競合店
競合店と見られるものは、つぎの通りであった(次頁図表参照)。
(7)商圏
商店街周辺の道路網や競合状況等を総合的に検討して、当地を中心とする同心円状に半径1肺圏内を商圏として設定した。
最寄品の商圏としては、500m程度が一般に目安とされるが、都市施設、来街促進施設の集積度が高い状況等から、商圏としてはやや広範囲にわたるものと推定される。設定された商圏内の人口および世帯数は、 1万2,000人、4,200世帯となっており、商圏内購買力はコンビニエンス・ストア取扱いの食料品、日用雑貨、雑誌等、合計で約15億円と推定される。
3.設備投資計画の具体的内容
①コンセプトの確立
商圏調査の結果、主婦層を中心とした手軽にいつでも買い物ができる場所として、店舗コンセプトを確立することにした。
このため、コンビニエンス・ストアとはいうものの、生鮮食品・酒類を取り扱うややミニ・スーパーに近い形態をとることにする。したがって若者対象の弁当、雑誌、ソフト・ドリンクなどに力点を置く全国展開方式のFC型の店舗開発を行わない。店舗面積としては、幸い土地が100坪近くあるので、業務用駐車場も備えて、コンビニエンス・ストアの標準店舗(売り場30坪、バックヤード等5坪)をゆっくりと建設することができる。とりあえず、設備投資額はできるだけ抑えて早目の回収を図りたい。
②取扱商品
青果業の経験者をスタッフヘ受け入れることができたため、生鮮食品(青果中心)を持つ、食料品にやや重きを置いたコンビニエンス・ストアを目指す。また、酒類免許も取得し、酒類も営業品目にする。
仕入については、個人コンビニエンス。ストア業者等60あまりによる共同仕入組織に加盟し、酒類、日配、菓子、雑貨、雑誌等の仕入を一括で行う。生鮮食品(主に青果)は、店主が直接新鮮なものを仕入れる。
③投資内容
⑤採算計算
イ)回収期間はつぎの通り。
回収期間=設備投資額/年間キャッシュ・フロー
=34/2.2+3=6.5年
長期借入金償還年限
=長期借入金/年間キャッシュ・フロー
=30/2.2+3=5.8年
この計算の結果、回収期間および長期借入金の償還年限ともやや長い数字が出てきたので、設備投資計画上の数字は最低限の目標と考えるべきで、これを下回ることは許されない。
口)ROI
投資利益率はつぎの式で求められる。
ROI=営業利益/〔設備投資額十在庫投資額〕
=4+2.1/40=15.3%
この数字から判断すると、年利15%までの金利負担能力もあり、回収期間はやや長いが、まず一応の収益力があると判断される。ただし、イ)、口)いずれの数字も、もし土地を新規に取得したと仮定するならば、きわめて悪化することになり、この面からも土地保有者以外が新規投資を行っても、まず採算に乗らないことがよく分かる。
食品店開業の事例
(VC加盟による経営)
ここで、食品店経営に転業した農家が、VCへの加盟によって事業を成功させた事例を紹介し、商店において設備投資計画を立てる際の参考に供したい(出所『生活再建対策の手引き』―
商業経営指導用テキスト
ー (財)港北ニュータウン生活対策協会発行)。
①転業のいきさつ
Aさんは、農地約2,000坪、宅地約100坪等を所有している野菜専業農家であったが、昭和40年ごろ、農地等一部が用地買収の対象となったため、思い切って転業した。
Aさんは、住宅団地(約200戸)の近くに100坪ばかりの土地を持っていたので、転業するなら早い方がよいと考え、その場所で食料品店を開業をすることにした。用地買収の土地代金として約4,000万円のうち2,000万円程度を開業資金とした。そこでAさんは、開業日までの約1年間は、新しい土地の駅前の食料品店で見習いをした。
②開店後の状況
新店舗は売場面積約20坪で、店の前には5~ 6台は楽に駐車できるスペースもある。店の扱い商品は、土地柄を考えて、青果物を主力に、一般食品、菓子、雑貨を十分に揃え、乳製品や水ものも冷蔵ケース1台をあてて品揃えした。幸い酒類免許も取れた。開店後3日間は、1日平均60万円以上の売上があり、開店10日目頃になると客足は落ちたが、1日200人前後、1人平均1,000円の買上げで、売上は約20万円という線に落ち着いた。Aさんはつぎのような数字からみても、これでまず成功と自信を強めた。
ところが、その後、売上が落ち続け、1日100人ぐらいのお客しかなく、損益分岐点以下の12~ 13万円の売上しかない日が続いた。Aさんは、これに対処するためには、最も自信がある青果に力を入れる必要があると考えたが、朝早くから市場に出掛けて仕入れてきても、客数が少ないのでどうしても売れ残りが出る。売れ残りが出れば捨てて損をするか、あるいは品が悪くなった物を安売りしなければならないという悪循環が続いた。そこで外販の努力をした結果、どうにか必要売上高は確保できるようになった。しかし、団地を含めて店の周囲300m以内に1戸建住宅330戸、アパート・マンション内に約200戸もあるのに、店に来てくれる人は100人程度と少なく、しかもAさんが店を空けて外売りに力を入れていたため、店内は開店当初とは比べものにならない荒れようであった。
Aさんは、月々35万円程度の生活費は稼げるし、借金もキチンと返済でき、 5~ 6年後にはゼロとなる見込みだから成功した状態かもしれない。しかし、売上の伸びは前年比5~ 6%とにぶく、決して喜べる状態ではないと判断し、何か手を打たなければと考えるようになった。
③VCへの加盟
駅前の食料品店が、県内一円に組織をもつ食料品のVCに加盟し、店舗を改装した結果、見違えるようになり、売上も去年に比べて20%以上も伸びているという話を聞いた。そこで、近所に既加盟店のない、酒系統Sチェーンに加盟を申し込んだ。申し込みを受けたSチェーンは、早速、理事の人が店に来て、Aさんの仕事ぶりを見たり、Aさんの考え方を聞いたりしたが、その上で近く、担当の``スーパーバイザー″をよこすことを約束した。
数日後、今度は30歳代の若いスーパーバイザーが店に来て、2日ほど店の中や品揃えを見たり、Aさんに営業の仕方や、周囲の状況を細かく聞いて帰ったが、半月ほどすると、本部の部長と一緒に店を訪れ、資料を見せて説明してくれた。説明によると、これはあくまで1つの目安であり、チェーンとしての考えにすぎないので、実施される場合は改めて綿密な調査と計画をすると断った上でつぎの指摘が行われた。
イ)現状の商圏内の需要は、ごく内輪に見積って3億4,000万円あり、A店の売上は約6,000万円で、市場占有率は17%程度にすぎない。
口)これはA店の規模が中途半端で、スーパーのような買物先でもないし、八百屋として魅力があるともいえない。したがって、八百屋に徹するか、ミニ・スーパーに徹するか、店の性格を明確にする必要がある。
ハ)チェーンとしては、商圏の実態から判断して、ミニ・スーパーを勧める。この場合、1日来客292人、日商35万円、年商1億1,900万円程度は十分に可能と考える。
二)ただし、それには約1,000万円の投資をして、売場を約2倍の40坪程度にする必要がある。また、商品構成も変更して、精肉と魚を扱う必要がある。このうち精肉は、やりようによっては1日6~ 7万円は売れるので、テナントを入れる方法が適当である。また鮮魚は競合店が強いので、ムリな競争を避け塩干物を中心として、本部から供給する商品を「関連商品」として扱う方向が望ましい。
ホ)以上の対策を講じると、家族の取り分を月50万円程度と
して、パート従業員を2人雇用しても十分にやっていけるし、チェーンのローンを利用して600万円を借り入れても十分に返済が可能と判断される。
へ)なお改装後は、酒の配達はいいが青果の引き売りを中止
し、Aさんは店長として店全体の管理を担当し、長男に青果部門を担当させ、なるべく早い機会に委せるようにする。
その後、AさんはSチェーンに加盟し本部は加入金50万円を徴収して、改めて綿密な市場調査を行い、改装計画を作成し、Aさんの依頼を受けて43日間で店舗を改装してオープンにこぎつけた。
また、この間Aさんと長男は、それぞれ他の加盟店で再教育を受け、奥さんもレジ操作マニュアルに基づき、加盟店で正しいレジの扱い方と接客の仕方を2日間にわたって教育された。新装開店に当たっては、開店特売の計画や商品の手当、チラシの作成、配布はもちろん隣近所への挨拶回り、交通整理の手配、駐車場の借上げ、景品の手配等、すべて本部が段取りをしてくれた。
④VC加盟後
Sチェーン加盟後の大きな違いを示すとつぎのようであった。
イ)本部から「店長マニュアル」というテキストを渡され、半年後に研修を受けたが、このマニュアルには毎日、朝起きてから店を閉めて火の元をチェックするまでの仕事や目のつけどころ、毎週および毎月末にやる仕事の種類と仕事の仕方等が克明に書かれている。Aさんはすぐにそれを完全に実施することはできなかったが、今までいかにムダな仕事ばかりして大事な仕事をしていなかったかと驚いている。
口)生鮮食品について、青果物は長男が毎日市場に仕入れに
行き、Aさんが面倒を見ているが、2週間に1回本部からマーチャンダイザーが店に来て、鮮度保持の仕方、品目づくり、値段の付け方、陳列の方法等を細かに教えてくれる。
精肉は本部の回ききでテナントを入れたが、テナント料、契約書等もすべて本部が面倒を見てくれた。特に助かっていることは、本部の担当者がプロの職人にあれこれ指示してくれることである。また、鮮魚は本部がいうようにさほど強力ではないが、毎日午後8時までにオーダーシート(注文品名のリスト)を見て電話で発注すると、翌日3時にはパック済のものが必ず届き、お客にも結構喜ばれている。
ハ)食品と酒類は、オーダーブックによって週2回本部発注する。また、菓子、雑貨、水もの等はすべて指定問屋に発注すれば、値段の交渉などはすべて本部がやってくれる。特に季節商品とか、利益のある商品、品薄の商品等は、本部から送られてくる商品情報によって仕入れれば、間屋に押しつけられる心配がない。
ただ、Aさんはこのような仕入面が楽になったことよりも、本部の指導によるフェイシング管理(個々の商品をどの位置に、何列ずつ並べるかを決めた表を作って管理する方法)で、店の扱い商品の種類が加盟前の2倍以上(約3,000品目)に増え、品揃えが強化されたことを高く評価している。
二)部門別の販売実績を10日ごとに集計して本部に送ると、細かい分析をして、伸びの悪い部門を見つけ出し、スーパーバイザーが来て、あれこれ改善の方法について相談にのってくれる。加盟2年目からは、毎月の部門別販売目標を示してくれるので、それをもとに目的を持って仕事ができるようになった。
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